(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トリチウムの定量後、前記検出素子に収容された前記試料水を前記流出口から排出すると共に、前記流入口から前記流出口へ洗浄液を通液して前記検出体を洗浄する工程と、
洗浄後の前記検出素子に前記試料水を流入させ、再度、前記検出体に前記試料水を含浸させる工程と、を有する請求項6に記載のトリチウムの検出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トリチウムから放出されるβ線(18keV)は、水中での平均自由行程が0.6μmと極めて短い。一方、福島第一原子力発電所においては、1Bq/cm
3という基準を下回る排液については、海洋放出処理を行っている。このような測定要求を満たすため、福島第一原子力発電所においては、まず排液に含まれる核種をできるだけ除去し、さらに、核種を除去した処理水が上記基準を満たすかどうか、処理水に含まれるトリチウムの濃度を測定している。
【0008】
この排液中のトリチウム濃度の測定にあたり、上述の測定方法を採用する場合、次のような課題がある。
【0009】
まず、溶液シンチレータ法では、水中に分散したシンチレータが、効率的にトリチウムから放出されるβ線を吸収し、光子を放出する。そのため、福島第一原子力発電所において求められる低濃度のトリチウム測定が可能である。一方、トリチウムとシンチレータとが混ざった測定試料(廃液)は、有害であり容易に廃棄ができない。そのため、トリチウムの測定を実施するたびに発生する廃液は、長時間保管することとなり、負担が増加している。
【0010】
また、ファイバシンチレータ法でトリチウムを測定しようとすると、ファイバシンチレータ表面に対し0.6μmと近接した位置にあるトリチウムについては、放出されるβ線を検出可能である。しかし、排液に含まれるトリチウムの大半は、ファイバシンチレータまでβ線が届く距離に存在しないこととなるため、検出精度が低いことが問題となる。
【0011】
ファイバシンチレータ法では、低濃度のトリチウムを精度良く測定することが困難であり、上述の福島第一原子力発電所における排液のトリチウム測定には適用できなかった。
【0012】
そのため、測定精度が高く、且つ測定後の測定試料の廃棄が容易であるトリチウムの測定方法が求められていた。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、精度良くトリチウムを検出可能な検出体を提供することを目的とする。また、精度良くトリチウムを検出可能であり、測定後の測定試料の廃棄が容易なトリチウムの検出方法を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、試料水に含まれるトリチウムを検出する検出体であって樹脂材料を形成材料とする多孔質膜と、放射線を吸収し前記放射線を光に変換するシンチレータと、を有し、前記シンチレータは、複数の微粒子であり、前記多孔質膜は、前記シンチレータを担持している検出体を提供する。
【0015】
本発明の一態様においては、前記樹脂材料がポリエチレンである構成としてもよい。
【0016】
また、本発明の一態様は、上記の検出体と、前記検出体を収容し光透過性を有する容器と、を備え、前記容器が、前記検出体を収容すると共に一部が開口した容器本体と、前記容器本体の開口部を液密に閉塞する蓋と、を有する検出素子を用い、前記容器本体に、トリチウムを含む試料水を収容し、前記検出体に前記試料水を含浸させる工程と、前記試料水中の前記トリチウムから放出されるβ線に起因して前記検出体が放出する光を、光電子増倍管で受光する工程と、前記試料水中の前記トリチウムの濃度と、前記光に応じて一定時間内に前記光電子増倍管から取り出されるパルス信号の数と、の対応関係に基づいて、前記容器本体に収容された前記試料水における前記トリチウムの濃度を算出する工程と、を有するトリチウムの検出方法を提供する。
【0017】
本発明の一態様においては、前記受光する工程の後、前記検出素子に収容された前記検出体を洗浄する工程と、洗浄した前記検出体を前記容器本体に収容し前記検出素子を得る工程と、を有する方法としてもよい。
【0018】
また、本発明の一態様は、上記の検出体と、前記検出体を収容し光透過性を有する容器と、を備え、前記容器に、前記試料水を流入させる流入口と、前記試料水を流出させる流出口と、が設けられている検出素子を用い、前記容器に、前記流入口を介してトリチウムを含む試料水を流入させて収容し、前記検出体に前記試料水を含浸させる工程と、前記試料水中の前記トリチウムから放出されるβ線に起因して前記検出体が放出する光を、光電子増倍管で受光する工程と、前記試料水中の前記トリチウムの濃度と、前記光に応じて一定時間内に前記光電子増倍管から取り出されるパルス信号の数と、の対応関係に基づいて、前記容器に収容された前記試料水における前記トリチウムの濃度を算出する工程と、を有するトリチウムの検出方法を提供する。
【0019】
本発明の一態様においては、前記トリチウムの定量後、前記検出素子に収容された前記試料水を前記流出口から排出すると共に、前記流入口から前記流出口へ洗浄液を通液して前記検出体を洗浄する工程と、洗浄後の前記検出素子に前記試料水を流入させ、再度、前記検出体に前記試料水を含浸させる工程と、を有する方法としてもよい。
【0020】
本発明の一態様においては、前記試料水を含浸させる工程においては、前記検出体に連続的に前記試料水を通水させ、前記受光する工程においては、前記検出体に通水させる前記試料水について、前記試料水中の前記トリチウムから放出されるβ線に起因して前記検出体が放出する光を、前記光電子増倍管で受光し、前記算出する工程においては、前記容器に収容された前記試料水における前記トリチウムの濃度を連続的に算出する方法としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、精度良くトリチウムを検出可能な検出体を提供することができる。また、精度良くトリチウムを検出可能であり、測定後の測定試料の廃棄が容易なトリチウムの検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
(検出体)
以下、図を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る検出体について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0024】
図1は、本実施形態の検出体1についての説明図であり、検出体1の断面について一部拡大した断面模式図である。図に示すように、本実施形態の検出体1は、多孔質膜10と、シンチレータ20と、を有する。本実施形態の検出体1は、試料水に含まれるトリチウムの検出に用いられる。
【0025】
多孔質膜10は、光透過性を有し、且つ水に不溶な樹脂材料を形成材料とする。また、多孔質膜10は、後述のシンチレータ20を担持可能な樹脂材料を形成材料とする。このような樹脂材料として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、アクリル樹脂、ポリスチレンを用いることができる。
【0026】
多孔質膜10の材料としては、例えばポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは、耐水性を有すると共に、光透過性を有するため、シンチレータ20から放出される光を減衰させにくく、好適にトリチウムの検出が可能となる。
【0027】
多孔質膜10が有する多数の細孔10aは、多孔質膜10の表面から多孔質膜10の内部にまで連通している。図では、複数の細孔10aについて、同じ大きさ・形状となるように模式的に示しているが、細孔10aの大きさ・形状にはばらつきがあってもよい。
【0028】
細孔10aの孔径(細孔径)は、0.6μm以下が好ましい。細孔10aの孔径が小さくなるほど、多孔質膜10に含浸する試料水中のトリチウムと、多孔質膜10の細孔10aの内壁との距離が近づき、効果的にトリチウムから放出されるβ線が、多孔質膜10の細孔10aの内壁近傍に届きやすくなる。
【0029】
上述したように、トリチウムから放出されるβ線は、水中での平均自由行程が0.6μmと短い。しかし、細孔10aの孔径が0.6μm以下であることにより、細孔10a内のトリチウムから放出されるβ線は、内壁のどこかに届くことになる。細孔10aの孔径が0.6μm以下であると、例えば、細孔10aの壁際に存在するトリチウムから放出されるβ線は、細孔10aの中心方向に放出されたとしても対向側の内壁に到達する。そのため、トリチウムから放出されるβ線を、後述のシンチレータ20に吸収させやすくなる。
【0030】
このような多孔質膜10としては、市販品である高機能メンブレン(miraim(商品名)、帝人株式会社製)を用いることができる。
【0031】
シンチレータ20は、放射線を吸収し放射線を光に変換する。本実施形態の検出体1においては、トリチウムを検出対象としているため、シンチレータ20として、β線を検出可能なものを用いる。
【0032】
シンチレータ20の形成材料としては、水溶性を有さないものが好ましい。このようなシンチレータ20の形成材料としては、例えばユーロピウムを担持したフッ化カルシウム(CaF
2(Eu))が好ましい。
【0033】
シンチレータ20は、複数の微粒子である。シンチレータ20としては、例えば上記形成材料を粉砕・分級して微粒子としたものを用いる。シンチレータ20の粒子径は、用いる(a)多孔質膜10の細孔10aの内部(内壁)および(b)多孔質膜10の基材内部の少なくともいずれか一方において担持可能であればよい。例えば、シンチレータ20の平均粒子径として1μm以下のものを好適に用いることができる。
【0034】
多孔質膜10におけるシンチレータ20の担持量は、検出対象物として想定する試料水に含まれるトリチウム量に応じて設定するとよい。測定においては、予めシンチレータ20の担持量の異なる複数種の検出体1を用意し、検出対象物のトリチウム濃度に応じて適切な検出体1を選択するとよい。
【0035】
検出体1を用いてトリチウムを検出する場合、後述するように、トリチウムから放出されるβ線を検出体1のシンチレータ20に吸収させ、シンチレータ20から放出される光子を光電子増倍管にて検出する。光電子増倍管からは、β線の数に対応した量のパルス信号が出力される。すなわち、パルス信号の数は、β線の数に比例する。
【0036】
ここで、光電子増倍管から出力されるパルス信号の数は、(i)試料水に含まれるトリチウム濃度、(ii)検出体1が担持するシンチレータの合計体積、(iii)検出体1中の試料水の体積、(iv)測定時間、のそれぞれに比例する。
【0037】
上述したように、トリチウムから放出されるβ線は、水中での平均自由行程が0.6μmと短い。そのため、上述のファイバシンチレータ法では、試料水に含まれるトリチウムから放出されるβ線の大半が、シンチレータに届く前に水分子に吸収され、測定精度が低くなり易い。
【0038】
対して、本実施形態の検出体1においては、上述のような大きさの細孔径を有する多孔質膜10の内壁および多孔質膜10の基材内部の少なくともいずれか一方に、微粒子状のシンチレータ20を担持させている。そのため、検出体1にトリチウムを含む試料水を含浸させると、トリチウムから放出されるβ線が、細孔10aの内壁および多孔質膜10の基材内部の少なくともいずれか一方にて担持されているシンチレータ20で効率的に吸収され、シンチレータ20の形成材料に応じた波長の光に変換される。すなわち、試料水に含まれるトリチウムが放出するβ線を効率的にシンチレータで吸収することができるため、高い測定精度が得られやすい。
【0039】
また、従来の液体シンチレータ法では、トリチウムを含む試料水にシンチレータの微粒子を分散させるため、検査後の試料水からシンチレータを分離することが困難であった。対して、本実施形態の検出体1は、シンチレータ20が多孔質膜10に担持されているため、検査後の試料水とシンチレータとの分離が容易である。
【0040】
したがって、本実施形態の検出体1によれば、測定後の試料水からシンチレータを分離しやすく、且つ精度良くトリチウムを検出可能となる。
【0041】
[第2実施形態]
(検出素子)
図2,3は、本実施形態のトリチウムの検出方法で用いる検出素子100を示す説明図である。本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0042】
図2は、検出素子100の概略斜視図である。図に示す検出素子100は、上述した検出体1と、容器110と、を備えている。
【0043】
容器110は、検出体1を収容する。また、容器110は光透過性を有する。このような容器110内に収容された検出体1において、不図示のシンチレータから放出される光は、容器110の壁面を透過して容器110の外部に放出される。
【0044】
容器110は、容器本体111と、蓋112とを有している。容器本体111は、検出体1を収容すると共に、一部に開口部111aを有している。容器本体111は、光透過性を有し耐水性を有する形成材料により形成されている。容器本体111の形成材料としては、例えばポリエチレンが好ましい。
【0045】
図3は、検出素子100における容器本体111の平面図である。容器本体111には、開口部111aを介して内部に検出体1が収容されている。
図2,3に示す検出素子100においては、検出体1は、容器本体111の内部において、例えば平面視放射状に広がるようにひだ折りされ、筒状となっている。
【0046】
なお、検出素子100において、必要量の検出体1を収容できるならば、容器本体111における検出体1の折りたたみ方は問わない。図に示す方法の他、例えば、帯状の検出体1をロール状に巻き上げ、得られる円筒状の検出体1を容器本体111内に収容してもよい。
【0047】
検出素子100における検出体1の収容量については、検出対象物として想定する試料水に含まれるトリチウム量に応じて設定するとよい。測定においては、予め検出体1の収容量の異なる複数種の検出素子100を用意し、検出対象物のトリチウム濃度に応じて適切な検出素子100を選択するとよい。その際、シンチレータ担持量の異なる複数種の検出体1を用意し、必要に応じて収容する検出体1の種類を変更してもよい。
【0048】
蓋112は、容器本体111の開口部111aを液密に閉塞可能となっている。容器本体111および蓋112には、それぞれ不図示の雄ねじ、雌ねじが形成されていてもよい。また、蓋112は、必要に応じて不図示のパッキンを備え、容器110の内部に収容する液体が漏洩しにくい構成となっていてもよい。
【0049】
蓋112は、耐水性を有する形成材料により形成されている。蓋112の形成材料は、容器本体111と同じであってもよく、異なっていてもよい。蓋112の形成材料としては、例えばポリエチレンが好ましい。
【0050】
(トリチウムの検出方法)
図4は、上述した検出素子100を用いたトリチウムの検出方法を示す説明図である。
【0051】
トリチウムの検出に先立って、検出対象物である試料水から、トリチウム以外の放射性核種を除去する前処理を行う。前処理は、トリチウム以外の放射性核種を除去するという目的を達するのであれば、蒸留、濾過、逆浸透、イオン交換等の公知の方法、およびこれらを組み合わせた方法を採用することができる。例えば、産業分野で用いられる「超純水」を作製する方法を適用することができる。
【0052】
また、トリチウムの検出に先立って、用いる検出素子100について較正を行っておく。較正は、使用する検出素子100について後述の測定方法と同じ方法にてトリチウムの標準濃度水を測定することで行う。
【0053】
上述したように、測定結果であるパルス信号の数は、(i)試料水に含まれるトリチウム濃度、(ii)検出体1が担持するシンチレータの合計体積、(iii)検出体1中の試料水の体積、(iv)測定時間、のそれぞれに比例する。(ii)、(iii)は、使用する検出体1の設計により制御可能である。(iv)は、測定条件として設定する値である。
【0054】
較正の過程においては、(i)所定のトリチウム濃度の標準濃度水を、(ii)シンチレータを所定濃度で担持させた検出体1が収容された容器110に入れ、(iii)検出体1に標準濃度水を含浸させ、(iv)一定時間内に光電子増倍管130から取り出されるパルス信号の数を求める。これにより、標準濃度水中のトリチウム濃度と、一定時間内に光電子増倍管130から取り出されるパルス信号の数と、の対応関係を予め求める。「一定時間」については、測定精度に応じて適宜設定することができる。
【0055】
較正後、検出対象物である試料水について、トリチウムの検出を行う。
【0056】
まず、
図4(a)に示すように、検出素子100が有する容器本体111に、開口部111aからトリチウムを含む試料水WSを収容し、検出体1に試料水WSを含浸させる(含浸させる工程)。十分量の試料水WSを容器本体111に収容した後、蓋112を閉める。収容した試料水WSの量については、精秤しておく。
【0057】
次いで、
図4(b)に示すように、検出素子100から発せられる光(光子)を光電子増倍管130にて受光する(受光する工程)。
【0058】
検出素子100においては、容器110内に収容した試料水に含まれるトリチウムからβ線が放出される。放出されたβ線は、検出体1が有する不図示のシンチレータ20(
図1参照)により吸収される。β線を吸収したシンチレータ20は、β線量に応じた量の光(光子)を放出する。
【0059】
その際、検出体1が有する多孔質膜10(
図1参照)および容器110は光透過性を有しているため、シンチレータ20から放出された光は、多孔質膜10および容器110を透過して容器110の外部に放出される。
【0060】
光電子増倍管130を用いた受光に際し、検出素子100を不図示の暗室に配置し、暗室内において光電子増倍管130の受光面を、例えば容器本体111の側面110bに向けて配置する。検出体1から放出される光が微量であること、および検出体1から等方的に光が放出されることから、光電子増倍管130は、容器110を取り囲むように容器110の周囲に複数本(図では2本)配置するとよい。
【0061】
光電子増倍管130においては、検出体1から放出された光を受光する。これら光電子増倍管130の使用方法については、公知の方法を採用する。
【0062】
光電子増倍管130では、受光した光子を電気パルスに変換する。光電子増倍管130からは、変換された電気パルスが信号として取り出される。
【0063】
次いで、試料水WS中のトリチウムの濃度と、光に応じて一定時間内に光電子増倍管130から信号として取り出される電気パルス(パルス信号)の数と、の対応関係に基づいて、容器本体111に収容された試料水WSにおけるトリチウムの濃度を算出する(算出する工程)。参照する対応関係については、上述した較正時に求めたものを用いるとよい。
【0064】
対応関係については、予め光電子増倍管130からのパルス信号を受信する測定装置に保存していてもよい。当該対応関係は、数式の形として保存していてもよく、ルックアップテーブルの形で保存していてもよい。
【0065】
このようにして、試料水のトリチウム濃度を検出・測定することができる。
【0066】
試料水をサンプリングした排液について、試料水に含まれるトリチウム濃度が基準以下であれば、適切に廃棄処理を行う。また、試料水に含まれるトリチウム濃度が基準を超えていれば、適切に保管管理を行う。
【0067】
また、測定後の検出素子100についても、容器110から試料水を取出し、適切に廃棄処理を行う。また、検出素子100から検出体1を取出して、例えば超純水にて洗浄し、洗浄した検出体1を容器本体111に収容することで、検出素子100を再生することができる。
【0068】
測定に使用した検出体1は、検出体1の形成材料に含まれる水素原子が、試料水に含まれるトリチウムと原子置換していることがある。そのため、使用後の検出体1の洗浄においては、検出体1に含まれ得るトリチウムを再度水素原子と置換するまで、十分な量の超純水で洗浄することが好ましい。
【0069】
検出体1の洗浄においては、通水する洗浄液を加圧し、多孔質膜10に通水させてもよい。
【0070】
トリチウムの検出に際しては、検出素子100を複数用意し、検出素子100に試料水WSが収容されたサンプルを複数用意した後に、複数のサンプルを順次交換しながら各サンプルについて放出される光を光電子増倍管130で順次受光するとよい。各サンプルに含まれるトリチウムの濃度は、光電子増倍管130から取り出されるパルス信号に基づいて、順次算出することができる。
【0071】
例えば、容器110として、既存のトリチウム測定装置に用いられるバイアル瓶を用いてもよい。
このようなバイアル瓶を容器110として用いる場合、バイアル瓶に検出体1を収容した検出素子100を複数用い、検出素子100に試料水WSが収容されたサンプルを複数用意して測定することとしてもよい。既存の装置に用いられるバイアル瓶を容器110として用いると、既存の装置が備えているオートチェンジャーに複数のサンプルをセットすることで、自動的に複数サンプルの測定が可能となる。
【0072】
以上のようなトリチウムの検出方法によれば、精度良くトリチウムを検出可能であり、測定後の測定試料の廃棄が容易となる。
【0073】
[第3実施形態]
(検出素子)
図5は、本実施形態のトリチウムの検出方法で用いる検出素子200を示す説明図である。本実施形態において第1,2実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0074】
図5は、検出素子200の概略斜視図である。
図6は、検出素子200を使用する際の検出システム250を説明する説明図である。
【0075】
図5,6に示すように、検出素子200は、上述した検出体1と、容器210と、を備えている。
【0076】
容器210は、検出体1を収容する。図に示す検出素子200においては、検出体1は、容器210の内部において、例えば平面視放射状に広がるようにひだ折りされ、筒状となっている。
【0077】
また、容器210は光透過性を有する。容器210の形成材料としては、耐水性および光透過性を有する材料であればよい。このような容器210内に収容された検出体1において、不図示のシンチレータから放出される光は、容器210の壁面を透過して容器210の外部に放出される。
【0078】
容器210には、試料水WSおよび洗浄水RWを流入させる流入口210aと、試料水WSおよび洗浄水RWを流出させる流出口210bと、が設けられている。流入口210aには配管215、流出口210bには配管216がそれぞれ接続されている。
【0079】
また、
図7に示すように、流入口210aは、容器210の内部に収容された筒状の検出体1の内側に面して開口している。さらに、筒状の検出体1の両端は、容器210の内壁に接続されている。これにより、容器210の内部空間は、流入口210aと接続する「検出体1の内側の空間」と、流出口210bと接続する「検出体1の外側の空間」との2つに分割される。図では、「検出体1の内側の空間」を符号Aで示す。また、「検出体1の外側の空間」を符号Bで示す。
【0080】
仮に、容器210内の空間Aと空間Bとが、検出体1を介することなく接続されると、試料水WSおよび洗浄水RWを通水させようとしても、試料水WSおよび洗浄水RWは、空間Aと空間Bとの接続箇所に集中して流動することとなる。その結果、検出体1の細孔10a内の液体(試料水WSまたは洗浄水RW)が置換されにくい。
【0081】
これに対して、図に示すように、容器210の内部空間が、検出体1により2つに分割されている場合、流入口210aから空間Aに流入する試料水WSおよび洗浄水RWは、不可避的に検出体1の細孔10aを検出体1の厚み方向に通過し、空間Bに漏出することになる。そのため、このような検出素子200においては、検出体1に洗浄水RWや洗浄水RWを効果的に通水可能となる。
【0082】
試料水WSや洗浄水RWの通水時には、流入口210aから容器210に流入する液体(試料水WSまたは洗浄水RW)を加圧するとよい。試料水WSや洗浄水RWを加圧する手段としては、配管に設けられた送液ポンプを用いることができる。また、空気圧により試料水WSや洗浄水RWを加圧する構成を用いることもできる。
【0083】
図6に示す検出システム250は、検出素子200、配管211,212,215,216、三方バルブ213、バルブ217を有している。
【0084】
配管211には、試料水WSが通水する。配管211の経路内には、送液ポンプ218が設けられている。
【0085】
配管212には、洗浄水RWが通水する。配管211の経路内には、送液ポンプ219が設けられている。
【0086】
配管211および配管212は、三方バルブ213を介して配管215と接続されている。三方バルブ213は、配管215に試料水WSまたは洗浄水RWが通水するように切り替える。
【0087】
配管215は、検出素子200の流入口210aに接続されている。
配管216は、検出素子200の流出口210bに接続されている。
【0088】
配管216の経路内には、バルブ217が設けられている。バルブ217は、開閉を切り替えることにより、管内を流動する液体(試料水WSおよび洗浄水RW)の動きを制御することができる。
【0089】
(トリチウムの検出方法)
このような検出システム250においては、例えば、次のようにして排水(試料水WS)に含まれるトリチウムを測定する。なお、上述の第2実施形態と同様に、測定に用いる検出素子200の較正および試料水WSの前処理については、測定前に実施しておく。
【0090】
まず、三方バルブ213により配管212と配管215との接続を遮断し、配管211と配管215とを接続させる。さらに、バルブ217を開き、送液ポンプ218を駆動させることにより、検出素子200の内部に流入口を介してトリチウムを含む試料水WSを流入させる。
【0091】
次いで、三方バルブ213により配管211および配管212と配管215との接続を遮断し、バルブ217を閉じることにより、検出素子200が備える検出体1に試料水WSを含浸させる(含浸させる工程)。三方バルブ213およびバルブ217が閉じられることにより、試料水WSが検出素子200に封じられる。
【0092】
次いで、検出素子200が備える検出体1から放出される光を、光電子増倍管130で受光する(受光する工程)。
【0093】
次いで、試料水WS中のトリチウムの濃度と、光に応じて一定時間内に光電子増倍管130から取り出されるパルス信号の数と、の対応関係に基づいて、容器本体111に収容された試料水WSにおけるトリチウムの濃度を算出する(算出する工程)。
【0094】
測定後、三方バルブ213により配管212と配管215とを接続すると共に、配管211と配管215との接続を遮断し、さらにバルブ217を開く。この状態で、送液ポンプ219を駆動させることにより、検出素子200に収容された試料水WSを流出口210bから排出すると共に、流入口210aから流出口210bへ洗浄水RWを通液して、検出体1を洗浄する。
【0095】
このとき、洗浄時に送液ポンプ219を用いて洗浄水RWを送液することにより、検出体1において、微細な細孔径を有する多孔質膜10内に効率的に洗浄水RWを通水することができる。そのため、効率的に検出体1の洗浄を進めることができる。
【0096】
洗浄後の検出素子200については、再度、配管211,215を介して試料水WSを容器210内に流入させ、検出体1に試料水WSを含浸させる(含浸させる工程)。試料水WSを含浸させた検出体1を有する検出素子200では、再度、受光する工程および算出する工程を行う。これにより、洗浄後の検出素子200をトリチウムの検出に用いることができる。
【0097】
以上のようなトリチウムの検出方法によっても、精度良くトリチウムを検出可能であり、測定後の測定試料の廃棄が容易となる。
【0098】
このような検出システム250では、検出素子200を用いてトリチウムを検出し、測定後の試料水の廃棄および検出体1の洗浄を行い、洗浄後の検出体1(検出素子200)を用いて再度トリチウムを検出することで、排液中のトリチウム濃度を連続的に監視することができる。
【0099】
なお、上記実施形態においては、トリチウムの検出時に、三方バルブ213およびバルブ217を閉じることにより、検出素子200に試料水WSを封じ、封じられた試料水WSにおけるトリチウム濃度を測定することとしたが、これに限らない。
【0100】
例えば、試料水WSを含浸させる工程においては、検出体1に連続的に試料水WSを通水させてもよい。この場合、受光する工程においては、検出体1に通水させる試料水WSについて、試料水WS中のトリチウムから放出されるβ線に起因して検出体1が放出する光を、光電子増倍管130で受光する。また、算出する工程においては、容器210に収容された試料水WSにおけるトリチウムの濃度を連続的に算出する。
【0101】
このような検出システムでは、排水中のトリチウム濃度を連続的に測定することができ、排液のトリチウム濃度管理が簡便になる。
【0102】
また、上記実施形態においては、検出素子200において、筒状の検出体1の両端が容器210の内壁に接続されていることとしたが、これに限らない。容器210内の空間Aと空間Bとが、検出体1を介することなく接続されている部分が無い、すなわち、細孔10aよりも圧力損失が小さい部分が無いならば、他の構成を採用することもできる。
【0103】
例えば、検出体1を一端が開口する袋状とし、開口部が流入口210aに面するように配置することとしてもよい。また、袋状の検出体1は、容器210内において、例えば不図示の治具を介して流入口210aに取り付けられることとしてもよい。
【0104】
このような構成の検出体1を用いることで、容器210内の空間は、流入口210aと接続する「検出体1の内側の空間」と、流出口210bと接続する「検出体1の外側の空間」との2つに分割される。これにより、検出体1が有する細孔内に試料水WSを効果的に通過させることができる。
【0105】
また、検出体1自身が袋状でなくてもよい。例えば、筒状の検出体の他端側を板状部材で閉塞させることで、検出体1と板状部材とを併せて袋状の構成としてもよい。
【0106】
このような構成の検出素子を用いたトリチウムの検出方法であっても、精度良くトリチウムを検出可能であり、測定後の測定試料の廃棄が容易となる。
【0107】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。