(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1に示されたゴルフボール2は、球状のコア4と、このコア4の外側に位置するカバー6とを備えている。この実施形態では、カバー6はコア4に直接に接合されている。このゴルフボール2は、いわゆるツーピースボールである。このゴルフボール2は、その表面に複数のディンプル8を有している。ゴルフボール2の表面のうちディンプル8以外の部分は、ランド10である。このゴルフボール2は、カバー6の外側にペイント層及びマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
【0019】
このゴルフボール2の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0020】
コア4は、ゴム組成物が架橋されることで形成されている。好ましい基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましい。ポリブタジエンと他のゴムとが併用される場合、ポリブタジエンが主成分であることが好ましい。具体的には、全基材ゴムに対するポリブタジエンの比率は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上が特に好ましい。シス−1,4結合の比率が80%以上であるポリブタジエンが、特に好ましい。
【0021】
コア4のゴム組成物は、好ましくは、共架橋剤を含む。ゴルフボール2の反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、炭素数が2から8であるα,β−不飽和カルボン酸の、1価又は2価の金属塩である。好ましい共架橋剤として、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムが例示される。ゴルフボール2の反発性能の観点から、アクリル酸亜鉛及びメタクリル酸亜鉛が特に好ましい。
【0022】
ゴム組成物が、炭素数が2から8であるα,β−不飽和カルボン酸と、酸化金属とを含んでもよい。両者はゴム組成物中で反応し、塩が得られる。この塩が、共架橋剤として機能する。好ましいα,β−不飽和カルボン酸として、アクリル酸及びメタクリル酸が挙げられる。好ましい酸化金属として、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムが挙げられる。
【0023】
共架橋剤の量は、基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上が好ましい。この量が10質量部以上であるコア4を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、この量は、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。
【0024】
共架橋剤の量は、基材ゴム100質量部に対して、45質量部以下が好ましい。この量が45質量部以下であるコア4を有するゴルフボール2では、パッティング時の打球感がソフトである。この観点から、この量は、40質量部以下がより好ましく、35質量部以下が特に好ましい。
【0025】
好ましくは、コア4のゴム組成物は、有機過酸化物を含む。有機過酸化物は、架橋開始剤として機能する。有機過酸化物は、ゴルフボール2の反発性能に寄与する。好適な有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ−t−ブチルパーオキサイドが例示される。特に汎用性の高い有機過酸化物は、ジクミルパーオキサイドである。
【0026】
有機過酸化物の量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましい。この量が0.1質量部以上であるコア4を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、この量は、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。
【0027】
有機過酸化物の量は、基材ゴム100質量部に対して、3.0質量部以下が好ましい。この量が3.0質量部以下であるコア4を有するゴルフボール2では、パッティング時の打球感がソフトである。この観点から、この量は、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下が特に好ましい。
【0028】
コア4のゴム組成物は、有機硫黄化合物を含む。有機硫黄化合物には、ナフタレンチオール系化合物、ベンゼンチオール系化合物及びジスルフィド系化合物が含まれる。
【0029】
ナフタレンチオール系化合物として、1−ナフタレンチオール、2−ナフタレンチオール、4−クロロ−1−ナフタレンチオール、4−ブロモ−1−ナフタレンチオール、1−クロロ−2−ナフタレンチオール、1−ブロモ−2−ナフタレンチオール、1−フルオロ−2−ナフタレンチオール、1−シアノ−2−ナフタレンチオール及び1−アセチル−2−ナフタレンチオールが例示される。
【0030】
ベンゼンチオール系化合物として、ベンゼンチオール、4−クロロベンゼンチオール、3−クロロベンゼンチオール、4−ブロモベンゼンチオール、3−ブロモベンゼンチオール、4−フルオロベンゼンチオール、4−ヨードベンゼンチオール、2,5−ジクロロベンゼンチオール、3,5−ジクロロベンゼンチオール、2,6−ジクロロベンゼンチオール、2,5−ジブロモベンゼンチオール、3,5−ジブロモベンゼンチオール、2−クロロ−5−ブロモベンゼンチオール、2,4,6−トリクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6−ペンタクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゼンチオール、4−シアノベンゼンチオール、2−シアノベンゼンチオール、4−ニトロベンゼンチオール及び2−ニトロベンゼンチオールが例示される。
【0031】
ジスルフィド系化合物として、ジフェニルジスルフィド、ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド及びビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィドが例示される。
【0032】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、有機硫黄化合物の量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上が特に好ましい。パッティング時の打球感の観点から、この量は、1.5質量部以下が好ましく、1.0質量部以下がより好ましく、0.8質量部以下が特に好ましい。2以上の有機硫黄化合物が、併用されてもよい。
【0033】
コア4のゴム組成物が、比重調整等を目的とした充填剤を含んでもよい。好適な充填剤として、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤の量は、コア4の意図した比重が達成されるように適宜決定される。
【0034】
このゴム組成物が、硫黄、カルボン酸、カルボン酸塩、老化防止剤、着色剤、可塑剤、分散剤等の各種添加剤を適量含んでもよい。このゴム組成物が、架橋ゴム粉末又は合成樹脂粉末を含んでもよい。
【0035】
コア4の直径は、38.5mm以上が好ましい。直径が38.5mm以上であるコア4を有するゴルフボール2では、カバー6が薄い。従ってこのゴルフボール2では、パッティング時の打球感がソフトである。さらにこのゴルフボール2は、反発性能に優れる。これらの観点から、この直径は、38.8mm以上がより好ましく、39.0mm以上が特に好ましい。ゴルフボール2の耐久性の観点から、この直径は、41.5mm以下が好ましく、41.0mm以下がより好ましく、40.5mm以下が特に好ましい。
【0036】
コア4の圧縮変形量Dcは、2.30mm以上が好ましい。圧縮変形量Dcが2.30mm以上であるコア4では、パッティング時の打球感がソフトである。この観点から、圧縮変形量Dcは2.40mm以上がより好ましく、2.50mm以上が特に好ましい。ゴルフボール2の反発性能の観点から、圧縮変形量Dcは3.90mm以下が好ましく、3.80mm以下がより好ましく、3.70mm以下が特に好ましい。
【0037】
圧縮変形量の測定には、YAMADA式コンプレッションテスターが用いられる。このテスターでは、球(コア4又はゴルフボール2)が金属製の剛板の上に置かれる。この球に向かって金属製の円柱が徐々に降下する。この円柱の底面と剛板との間に挟まれた球は、変形する。球に98Nの初荷重がかかった状態から1274Nの終荷重がかかった状態までの円柱の移動距離が、測定される。初荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、0.83mm/sである。初荷重がかかってから終荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、1.67mm/sである。
【0038】
コア4における、表面のショアC硬度Hsと、中心のショアC硬度Hoとの差(Hs−Ho)は、15以上が好ましい。差(Hs−Ho)が15以上であるコア4は、いわゆる外剛内柔構造を有する。このコア4を有するゴルフボール2がドライバーで打撃されたとき、スピンが抑制される。このコア4を有するゴルフボール2がドライバーで打撃されたとき、大きな打ち出し角度が得られる。
【0039】
ドライバーショットでは、適度な弾道高さ及び適度な滞空時間が必要である。大きなスピン速度で弾道高さ及び滞空時間を達成するゴルフボール2では、落下後のランが小さい。大きな打ち出し角度で弾道高さ及び滞空時間を達成するゴルフボール2では、落下後のランが大きい。飛距離の観点から、大きな打ち出し角度で弾道高さ及び滞空時間を達成するゴルフボール2が好ましい。外剛内柔構造を有するコア4は、前述の通り、大きな打ち出し角度及び小さなスピン速度に寄与しうる。圧縮変形量Dcが小さいにもかかわらず、このコア4は、ゴルフボール2の飛行性能に寄与しうる。
【0040】
飛行性能の観点から、差(Hs−Ho)は、16以上がより好ましく、17以上が特に好ましい。ゴルフボール2の耐久性の観点から、差(Hs−Ho)は、35以下が好ましく、33以下がより好ましく、30以下が特に好ましい。
【0041】
耐久性及び反発性能の観点から、中心硬度Hoは、55以上が好ましく、58以上がより好ましく、60以上が特に好ましい。スピン抑制の観点から、硬度Hoは、80以下が好ましく、75以下がより好ましく、70以下が特に好ましい。
【0042】
硬度Hoは、自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアC型硬度計によって測定される。この硬度計が、ゴルフボール2が切断されて得られる半球の断面中心に押しつけられる。測定は、23℃の環境下でなされる。
【0043】
スピン抑制の観点から、表面硬度Hsは、75以上が好ましく、78以上がより好ましく、80以上が特に好ましい。ゴルフボール2の耐久性の観点から、硬度Hsは、97以下が好ましく、95以下がより好ましく、93以下が特に好ましい。
【0044】
硬度Hsは、自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアC型硬度計によって測定される。この硬度計が、コア4の表面に押しつけられる。測定は、23℃の環境下でなされる。
【0045】
コア4の質量は、10g以上42g以下が好ましい。コア4の架橋温度は、140℃以上180℃以下である。コア4の架橋時間は、10分以上60分以下である。
【0046】
カバー6は、コア4の外側に位置している。カバー6は、マーク層及びペイント層を除けば、最も外側の層である。カバー6が、2層以上から構成されてもよい。カバー6とコア4との間に、さらに他の層を備えてもよい。
【0047】
カバー6は、熱可塑性樹脂組成物から成形されている。この樹脂組成物の基材ポリマーとして、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー及び熱可塑性ポリスチレンエラストマーが例示される。アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂は、高弾性である。アイオノマー樹脂を含むカバー6を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。カバー6が、熱硬化性樹脂組成物から成形されてもよい。
【0048】
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材ポリマーの主成分とされる。全基材ポリマーに対するアイオノマー樹脂の比率は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85%以上が特に好ましい。
【0049】
好ましいアイオノマー樹脂として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい二元共重合体は、80質量%以上90質量%以下のα−オレフィンと、10質量%以上20質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸とを含む。この二元共重合体は、反発性能に優れる。好ましい他のアイオノマー樹脂として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。好ましい三元共重合体は、70質量%以上85質量%以下のα−オレフィンと、5質量%以上30質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸と、1質量%以上25質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとを含む。この三元共重合体は、反発性能に優れる。二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα−オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β−不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。特に好ましいアイオノマー樹脂は、エチレンとアクリル酸との共重合体である。特に好ましい他のアイオノマー樹脂は、エチレンとメタクリル酸との共重合体である。
【0050】
二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。中和が、2種以上の金属イオンでなされてもよい。ゴルフボール2の反発性能及び耐久性の観点から特に好適な金属イオンは、ナトリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン及びマグネシウムイオンである。
【0051】
アイオノマー樹脂の具体例として、三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」、「ハイミラン1557」、「ハイミラン1605」、「ハイミラン1706」、「ハイミラン1707」、「ハイミラン1856」、「ハイミラン1855」、「ハイミランAM7311」、「ハイミランAM7315」、「ハイミランAM7317」、「ハイミランAM7329」及び「ハイミランAM7337」;デュポン社の商品名「サーリン6120」、「サーリン6910」、「サーリン7930」、「サーリン7940」、「サーリン8140」、「サーリン8150」、「サーリン8940」、「サーリン8945」、「サーリン9120」、「サーリン9150」、「サーリン9910」、「サーリン9945」、「サーリンAD8546」、「HPF1000」及び「HPF2000」;並びにエクソンモービル化学社の商品名「IOTEK7010」、「IOTEK7030」、「IOTEK7510」、「IOTEK7520」、「IOTEK8000」及び「IOTEK8030」が挙げられる。2種以上のアイオノマー樹脂が併用されてもよい。
【0052】
カバー6の樹脂組成物が、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーを含んでもよい。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックと、ソフトセグメントとを備えている。典型的なソフトセグメントは、ジエンブロックである。ジエンブロックの化合物として、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン及び2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンが例示される。ブタジエン及びイソプレンが好ましい。2以上の化合物が併用されてもよい。
【0053】
スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーには、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、SBSの水添物、SISの水添物及びSIBSの水添物が含まれる。SBSの水添物として、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)が挙げられる。SISの水添物として、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)が挙げられる。SIBSの水添物として、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)が挙げられる。
【0054】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーにおけるスチレン成分の含有率は10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。ゴルフボール2の打球感の観点から、この含有率は50質量%以下が好ましく、47質量%以下がより好ましく、45質量%以下が特に好ましい。
【0055】
本発明において、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーには、SBS、SIS、SIBS、SEBS、SEPS及びSEEPSからなる群から選択された1種又は2種以上と、オレフィンとのアロイが含まれる。このアロイ中のオレフィン成分は、他の基材ポリマーとの相溶性向上に寄与すると推測される。このアロイは、ゴルフボール2の反発性能に寄与しうる。炭素数が2以上10以下のオレフィンが好ましい。好適なオレフィンとして、エチレン、プロピレン、ブテン及びペンテンが例示される。エチレン及びプロピレンが特に好ましい。
【0056】
ポリマーアロイの具体例として、三菱化学社の商品名「ラバロンT3221C」、「ラバロンT3339C」、「ラバロンSJ4400N」、「ラバロンSJ5400N」、「ラバロンSJ6400N」、「ラバロンSJ7400N」、「ラバロンSJ8400N」、「ラバロンSJ9400N」及び「ラバロンSR04」が挙げられる。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーの他の具体例として、ダイセル化学工業社の商品名「エポフレンドA1010」及びクラレ社の商品名「セプトンHG−252」が挙げられる。
【0057】
パッティング時の打球感の観点から、全基材ポリマーに対するスチレンブロック含有熱可塑性エラストマーの比率は、2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、6質量%以上が特に好ましい。スピン抑制の観点から、この比率は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0058】
カバー6の樹脂組成物が、着色剤、充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を適量含んでもよい。ゴルフボール2の色相が白である場合、典型的な着色剤は二酸化チタンである。
【0059】
カバー6の厚みTcは、2.10mm以下が好ましい。厚みTcが2.10mm以下であるカバー6は、パッティング時のソフトな打球感を阻害しない。この観点から、厚みTcは2.00mm以下がより好ましく、1.90mm以下が特に好ましい。カバー6の成形が容易であるとの観点、及びゴルフボール2の耐久性の観点から、厚みTcは0.80mm以上が好ましく、0.90mm以上がより好ましく、1.00mm以上が特に好ましい。厚みTcは、ランド10の直下において測定される。
【0060】
ゴルフボール2が全体として外剛内柔構造を有しうるとの観点から、カバー6のショアD硬度Hcは52以上が好ましく、53以上がより好ましく、54以上が特に好ましい。パッティング時の打球感の観点から、この硬度Hcは65以下が好ましく、64以下がより好ましく、63以下が特に好ましい。
【0061】
カバー6の硬度Hcは、「ASTM−D 2240−68」の規定に準拠して測定される。自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアD型硬度計により、硬度H2が測定される。測定には、熱プレスで成形された、カバー6の材料と同一の材料からなる、厚みが約2mmであるシートが用いられる。測定に先立ち、シートは23℃の温度下に2週間保管される。測定時には、3枚のシートが重ね合わされる。
【0062】
ゴルフボール2の圧縮変形量Dbは、1.80mm以上が好ましい。圧縮変形量Dbが1.80mm以上であるゴルフボール2では、パッティング時の打球感がソフトである。この観点から、圧縮変形量Dbは1.90mm以上がより好ましく、2.00mm以上が特に好ましい。ゴルフボール2の反発性能の観点から、圧縮変形量Dbは3.30mm以下が好ましく、3.20mm以下がより好ましく、3.10mm以下が特に好ましい。
【0063】
図2には、コア4及びゴルフボール2の固有振動数が測定されるための装置が示されている。この装置は、加振機12、プレート14、第一加速度ピックアップ16及び第二加速度ピックアップ18を有している。プレート14は、加振機12に取り付けられている。このプレート14に、球(コア4又はゴルフボール2)が載せられている。第一加速度ピックアップは、プレート14に取り付けられている。第二加速度ピックアップ18は、球に取り付けられている。加振機12により、球に振動が加えられる。第一加速度ピックアップ16から、球に加えられた加速度の信号が出力される。第二加速度ピックアップ18から、球の加速度の信号が出力される。これらの信号が、ダイナミックシグナルアナライザに入力される。このアナライザの演算により、球における、周波数とメカニカルインピーダンスとの関係が示された曲線が得られる。この曲線の極小点における周波数が、固有振動数である。曲線において第一番目に表れる極小点における周波数は、一次固有振動数である。曲線において第二番目に表れる極小点における周波数は、二次固有振動数である。典型的な加振機12は、国際機械振動研究所社の商品名「PET」である。典型的なダイナミックシグナルアナライザは、横河ヒューレットパッカード社の商品名「HP−5420A」である。
【0064】
本発明者らは、鋭意検討の結果、コア4の二次固有振動数FC
2(Hz)とゴルフボール2の二次固有振動数FB
2(Hz)とが所定の関係を満たすときに、飛行性能を維持しつつ、パッティング時に距離感を合わせやすい適度な打球感が得られることを見出した。特に、カップまでの距離が短い場合であっても、打ち残りの発生を回避することができる。
【0065】
図3は、コア4の二次固有振動数FC
2とゴルフボール2の二次固有振動数FB
2との関係が示された、グラフである。このグラフにおいて、横軸はコアの二次固有振動数FC
2であり、縦軸はゴルフボールの二次固有振動数FB
2である。このグラフに示された実線は、下記(式1)で表される。
FB
2 = FC
2 + 420 (式1)
このグラフにおいて(式1)で示される直線よりも下のゾーンでは、ゴルフボール2の二次固有振動数FB
2とコア4の二次固有振動数FC
2との差(FB
2−FC
2)が、420Hz以下である。
【0066】
本発明者が得た知見によれば、差(FB
2−FC
2)が420Hz以下であるゴルフボール2は、パッティング時の打球感が適正である。このゴルフボール2では、パターで打撃したプレーヤーが得る手応えが、比較的小さい。このため、カップまでの距離が短く、打ち過ぎを恐れる初心者であっても、通常より強い力でゴルフボール2を打撃することができるので、打ち残りの発生が回避されうる。パッティング時の距離感を合わせやすいとの観点から、差(FB
2−FC
2)は、400Hz以下がより好ましく、380Hz以下がさらに好ましい。
【0067】
図3のグラフに示された破線は、下記(式2)で表される。
FB
2 = FC
2 + 80 (式2)
このグラフにおいて(式2)で示される破線よりも上のゾーンでは、ゴルフボール2の二次固有振動数FB
2とコア4の二次固有振動数FC
2との差(FB
2−FC
2)が、80Hz以上である。差(FB
2−FC
2)が80Hz以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れている。このゴルフボール2では、ドライバーショットで大きな飛距離が得られる。飛行性能の観点から、差(FB
2−FC
2)は、100Hz以上がより好ましく、120Hz以上がさらに好ましい。
【0068】
ゴルフボール2の二次固有振動数FB
2とコア4の二次固有振動数FC
2との和(FB
2+FC
2)は、4000Hz以上が好ましい。和(FB
2+FC
2)が4000Hz以上であるゴルフボール2では、パッティング時にプレーヤーが距離感を掴める程度に手応えのある打球感が得られる。この観点から、和(FB
2+FC
2)は、4100Hz以上がより好ましく、4200Hz以上がさらに好ましい。打球感が硬すぎないとの観点から、和(FB
2+FC
2)は、5200Hz以下が好ましく、5100Hz以下がより好ましく、5000Hz以下が特に好ましい。
【0069】
必要な差(FB
2−FC
2)が得られるとの観点から、コア4の二次固有振動数FC
2は、1800Hz以上が好ましく、1850Hz以上がより好ましく、1900Hz以上が特に好ましい。FC
2は、2500Hz以下が好ましく、2450Hz以下がより好ましく、2400Hz以下が特に好ましい。
【0070】
必要な差(FB
2−FC
2)が得られるとの観点から、ゴルフボール2の二次固有振動数FB
2は、2000Hz以上が好ましく、2050Hz以上がより好ましく、2100Hz以上が特に好ましい。FB
2は、2800Hz以下が好ましく、2750Hz以下がより好ましく、2700Hz以下が特に好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0072】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR730」)、29.4質量部のアクリル酸亜鉛、5質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム、0.5質量部のジフェニルジスルフィド及び0.9質量部のジクミルパーオキサイドを混練し、ゴム組成物Dを得た。このゴム組成物Dを共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、160℃で20分間加熱して、直径が40.6mmであるコアを得た。ゴルフボールの質量が適正となるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0073】
45.5質量部のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミラン1555」)、44.5質量部の他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミラン1557」)、10質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(前述の「ラバロンT3221C」)、4質量部の二酸化チタン及び0.2質量部の光安定剤(城北化学工業社の商品名「JF−90」)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物bを得た。それぞれが半球状キャビティを備えた上型及び下型からなるファイナル金型に、コアを投入した。このファイナル金型は、キャビティ面に多数のピンプルを有する。射出成形法にて溶融した樹脂組成物bをコアの周りに充填し、カバーを成形した。このカバーの厚みTcは、1.05mmであった。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。
【0074】
このカバーの周りに二液硬化型ポリウレタンを基材とするクリアー塗料を塗装し、直径が約42.7mmであり質量が約45.6gである実施例1のゴルフボールを得た。実施例1について測定されたゴルフボールの二次固有振動数FB
2及びコアの二次固有振動数FC
2が、
図3にE1としてプロットされている。
【0075】
[実施例2−18及び比較例1−4]
コア及びカバーの仕様を下記の表4−8に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−18及び比較例1−4のゴルフボールを得た。コアの仕様の詳細が、下記の表1−2に示されている。カバーの仕様の詳細が、下記の表3に示されている。実施例2−18について測定されたFB
2及びFC
2が、それぞれ、
図3に、E2−E18としてプロットされている。比較例1−4について測定されたFB
2及びFC
2が、それぞれ、
図3に、C1−C4としてプロットされている。
【0076】
[飛行性能:ドライバー(W#1)による打撃]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、ドライバー(ダンロップスポーツ社の商品名「XXIO9」、シャフト:MP900、シャフト硬度:S、ロフト角:10.5度)を装着した。ヘッド速度が45m/sである条件でゴルフボールを打撃して、ゴルフボールの初速(m/s)、スピン速度(rpm)及び飛距離(m)を測定した。飛距離は、打撃地点とゴルフボールが静止した地点との距離である。12回の測定で得られた値の平均値が、下記の表4−8に示されている。
【0077】
[パター評価]
平坦な芝生上で、10名のゴルフ初心者に、打撃目標に向かって、パターにてゴルフボールを打撃させ、打撃地点からゴルフボールが静止した地点までの距離(m)を測定した。打撃地点から打撃目標までの直線距離は、2mであった。各3球ずつ打撃させて平均値を算出し、この平均値から2mを減じた値が、表4−8に、パター評価(m)として示されている。正の値は、ゴルフボールが目標を超えて静止したこと(打ち過ぎ)を意味しており、負の値は、ゴルフボールが目標に到達しなかったこと(打ち残り)を意味している。値の絶対値が小さいゴルフボールが、評価が高い。
【0078】
[打球感]
平坦な芝生上で、10名のゴルフ初心者にパターにてゴルフボールを打撃させて、フィーリングを聞き取った。「フィーリングが良好」と答えたゴルファーの数に基づき、下記の格付けを行った。この結果が、打球感として、下記表4−8に示されている。
A:9−10人
B:7−8人
C:5−6人
D:0−4人
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1−2に記載された化合物の詳細は、以下の通りである。
BR730:JSR社のハイシスポリブタジエン(シス−1,4−結合含有量:96質量%、1,2−ビニル結合含有量:1.3質量%、ムーニー粘度(ML
1+4(100℃)):55、分子量分布(Mw/Mn):3)
アクリル酸亜鉛:三新化学工業社の商品名「サンセラーSR」(10質量%ステアリン酸コーティング品)
酸化亜鉛:東邦亜鉛社の商品名「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社の商品名「硫酸バリウムBD」
ジクミルパーオキサイド:日本油脂社の商品名「パークミルD」
ジフェニルジスルフィド:川口化学工業社のビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
表4−8に示されるように、各実施例のゴルフボールは、パッティング時の打球感が良好である。さらに、各実施例のゴルフボールは、パター評価での数値の絶対値が小さい。これは、初心者にとって距離感を合わせやすいボールであることを意味している。また、各実施例のゴルフボールは、ドライバーショットでの飛距離が大幅には低下してない。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。