(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
スピーカユニットを収容したハウジングに筒状に突出する音筒部を設け、その音筒部に装着したイヤーピースを外耳道内に挿入し耳介に装着して使用するいわゆるカナル型(耳栓型)のイヤホンが知られている。
【0003】
カナル型のイヤホンは、使用時においてイヤーピースと外耳道内の内壁とが実質的に密着状態になる。
そのため、音筒部を含むハウジングの内部におけるスピーカユニットの放音面側の前方の空間を形成する前方気室が、音筒部先端の放音孔のみが開口し、他が密閉されるよう形成されている場合、イヤーピースを外耳道内に挿入すると、前方気室及び外耳道の内部空間が密閉状態となることから、内気が圧縮されて圧力が上昇する。
また、外耳道に挿入したイヤーピースを抜き取る時には、逆の作用により前方気室及び外耳道の内部空間の内気が密閉状態で膨張し圧力が降下する。
【0004】
このような、イヤーピースの挿抜に伴う圧力変動が大きい場合、次のような不具合が生じる虞があった。すなわち、使用者にとっては、鼓膜が内外に押し引きされて違和感を覚える虞があり、イヤホンにおいては、スピーカユニットの振動板が振動方向に押し引きされてスピーカユニットの駆動系に不具合を生じる虞がある。
【0005】
そこで、従来、ハウジングに、その内部の前方気室と外部の空間とを連通する通気路を設け、イヤーピースを外耳道に対し挿抜するときに、外耳道の内部空間及びそれに連通したハウジング内の前方気室の圧力を変動させないようにしたイヤホンが提案されている(特許文献1)。
【0006】
特許文献1に記載されたイヤホンは、さらに通気路を開閉する弁部を備え、使用時には通気路を閉じて前方気室及び外耳道の内部空間を密閉状態とし、外部への音漏れを抑制すると共に良好な再生音響特性を確保するようになっている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係るイヤホンを、実施例のイヤホン51により、まず
図1〜
図3を参照して説明する。
以下の説明において、前後方向を
図1に示した矢印で規定する。前方は、イヤホン51を装着する耳(頭部)側となる。
【0014】
イヤホン51は、イヤーピース4を外耳道内に挿入して耳介に装着し、使用するいわゆるカナル型(耳栓型)イヤホンである。
各図において、スピーカユニットSPから外部に引き出されているコード及びブッシングは、不図示である。
【0015】
イヤホン51は、前後方向を軸とする有底筒状のハウジング1と、ハウジング1の前方の底壁1aからさらに前方に筒状に突出した音筒部2と、を有する。
音筒部2には、柔軟なイヤーピース4が着脱自在に取り付けられている。
【0016】
ハウジング1は、内部をハウジング1の軸線CL1方向である前後方向に分割して前気室Rfと後気室Rbとを並設形成するための区画壁5を有する。
区画壁5には、中央に孔5aが形成されている。孔5aにはスピーカユニットSPが、放音面SPaがハウジング1の前側となる姿勢で密着装着されている。
前気室Rfの内部の前空間Vfは、音筒部2の内部の空間Vtと連通している。
後気室Rbは、ハウジング1とスピーカユニットSPと後述する可動ハウジング6とにより形成されている。
【0017】
イヤホン51において、図示しないコードを介して外部から入来する音声信号に基づく音が、ハウジング1の内部に収容されたスピーカユニットSPの主に放音面SPaから前方に出力される。
スピーカユニットSPから出力された音は、前空間Vf及び空間Vtを通過して音筒部2の先端から外部に放出される。
【0018】
ハウジング1は、前空間Vfと外部空間Vgとを径方向に連通する前通気孔1fと、後空間Vbと外部空間Vgとを径方向に連通する後通気孔1bとを有する。
前通気孔1fと後通気孔1bとは、軸線CL1に平行方向に並べて設けられている。
前通気孔1fと後通気孔1bは、区画壁5を挟み、区画壁5に近い位置に形成されている。
【0019】
ハウジング1の後方開放部には、後方側を底部としハウジング1に対応した断面形状なる有底筒状の可動ハウジング6が、前後方向に移動可能に内嵌して取り付けられている。
可動ハウジング6は、ハウジング1の内面にほぼ密着して摺動する筒状の基部6aと、基部6aに対し小径で後方に延びる連結部6bと、連結部6bの後方に接続し、連結部6bよりも大径(この例では基部6aと同径)の押引部6cとを有する。
【0020】
可動ハウジング6の基部6aは、ハウジング1に内嵌係合した状態で、前通気孔1f及び後通気孔1bに対応する周方向位置に、前方に板状に延びる延出部6dを有する。
区画壁5には、延出部6dの断面形状に対応した形状で貫通孔5bが形成されている。延出部6dは、貫通孔5b内に前後移動可能に挿通されている。
延出部6dと貫通孔5bとの間の隙間は微小とされ、前空間Vfと後空間Vbとは、貫通孔5bを含め、区画壁5及びスピーカユニットSPにより実質的に非連通となっている。
【0021】
基部6aと区画壁5との間には、付勢部材7が介在している。付勢部材7の前後両端は、それぞれ区画壁5と基部6aに連結されている。
従って、可動ハウジング6が前方に移動すると、付勢部材7は圧縮されて可動ハウジング6を後方に付勢し、可動ハウジング6が後方に移動すると、付勢部材7は伸張されて可動ハウジング6を前方に付勢する(引っ張る)。
【0022】
付勢部材7は、例えばコイルばねである。
図1〜
図3に示された可動ハウジング6の基準位置においては、可動ハウジング6を前後に付勢しない自然状態とされている。
【0023】
可動ハウジング6は、ハウジング1に対し、基準位置から付勢部材7の圧縮反発力に抗して前方に押し込んだときに、所定の押し込み位置となる挿入時位置で突き当て感又はクリック感が生じるように構成されている。
また、可動ハウジング6は、ハウジング1に対し、基準位置から付勢部材7の引っ張り反発力に抗して後方に引き出したときに、所定の引き出し位置となる抜去時位置で突き当て感又はクリック感が生じるように構成されている。
【0024】
可動ハウジング6は、基準位置でもクリック感が生じるように構成されていると好ましい。
【0025】
すなわち、可動ハウジング6は、基準位置と、基準位置から押し込まれた挿入時位置と、基準位置から引き出された抜去時位置と、の3つの位置をとり得るように、ハウジング1に対し前後移動可能とされている。
可動ハウジング6の基準位置は、イヤホン51の使用状態での位置である。
【0026】
延出部6dには、前後方向に離隔して前側から前孔6d1,後孔6d2の二つの孔が形成されている。
前孔6d1及び後孔6d2と、前通気孔1f及び後通気孔1bと、の連通・非連通関係を、
図4〜
図6を参照して説明する。
【0027】
図4〜
図6は、イヤホン51の部分断面図であり、それぞれ可動ハウジング6の基準位置,挿入時位置,抜去時位置を示している。
基準位置の
図4は、
図3におけるA部拡大図に相当する。
【0028】
(基準位置)
図4に示されるように、基準位置において、ハウジング1の前通気孔1fは延出部6dにより塞がれ、後通気孔1bは可動ハウジング6の後孔6d2と連通する。
これにより、空間Vt及び空間Vtに連通した前空間Vfは、音筒部2の先端側のみが外部空間Vgに開放され他の部位が閉じた空間となる。
【0029】
また、スピーカユニットSPのバックキャビティとなる後空間Vbは、可動ハウジング6の内面、区画壁5、及びスピーカユニットSPに囲まれて形成され、後通気孔1bのみが外部に連通し、後通気孔1b以外の部分は密閉された状態となっている。
【0030】
基準位置とされる、イヤホン51が、イヤーピース4が外耳道に挿入されて耳介に装着された状態では、可動ハウジング6は、外力及び付勢部材7からの力が付与されずその基準位置で維持される。
従って、後空間Vbは、後孔6d2及び後孔6d2と連通した後通気孔1bがダクトとして機能して、イヤホンとして低音が補強された良好な再生音が得られる。
【0031】
また、スピーカユニットSPの放音側(前側)の空間も、実質的に密閉状態となるので、外部空間Vgへの音漏れが防止されると共に、外部からの音を良好に遮断し、使用者は濁りのない再生音を聴取できる。
【0032】
(挿入時位置)
イヤホン51を耳介に装着する際のイヤーピース4の外耳道への挿入においては、ハウジング1が耳介の奥に位置して指が届きにくいことから、使用者は、
図5に示されるように、イヤホン51の後端部に設けられた押引部6cを指で押してイヤーピース4を挿入する。
この場合、まず、使用者の指によって、基準位置にある可動ハウジング6が、ハウジング1に対し、付勢部材7を圧縮させつつ前方に距離Laだけ押し込まれて挿入時位置に達する。
さらに指での押し込みが継続されると、可動ハウジング6が挿入時位置にある状態でハウジング1が前方に押し込まれてイヤーピース4が外耳道内に挿入され、装着が完了する。
距離Laは、前通気孔1fと後通気孔1bとの間の前後方向ピッチである。
【0033】
可動ハウジング6の挿入時位置では、
図5に示されるように、後孔6d2が前通気孔1fと連通し、前空間Vfと外部空間Vgとが連通する。
これにより、イヤーピース4の外耳道内への挿入で前空間Vfの空気が外部へ逃げることができ、前空間Vf,空間Vt,及び外耳道内空間の圧力が外気圧より高くなることはなく、外気圧と同じ圧力に維持される。
従って、イヤホン51の耳介への装着時に、使用者が鼓膜の違和感を覚えることはなく、スピーカユニットSPの駆動系に不具合を生じる虞はない。
【0034】
(抜去時位置)
耳介に装着したイヤホン51を取り外す際には、ハウジング1が耳介の奥に位置していることから、使用者は、
図6に示されるように、押引部6cを指で摘んで耳介の外部となるハウジング1の後方へ引くようにすると耳介からイヤホン51を抜去しやすい。
これにより、まず、基準位置にある可動ハウジング6が、ハウジング1に対し、付勢部材7を引っ張りつつ距離Lbだけ後方に引き出され、抜去時位置に達する。
さらに、指での引っ張りが継続されると、可動ハウジング6が抜去時位置にある状態でハウジング1が後方に引っ張られることで、イヤーピース4が外耳道から抜き取られイヤホン51の取り外しが完了する。
図4に示されるように、距離Lbは、可動ハウジング6が基準位置にあるときの、前通気孔1fと前孔6d1との間の前後方向のピッチである。
【0035】
可動ハウジング6の抜去時位置では、
図6に示されるように、前通気孔1fが前孔6d1と連通し、後通気孔1bは、延出部6dにより塞がれる。
これにより、前空間Vfと外部空間Vgとが連通する。
イヤーピース4の外耳道内からの抜去中に、外部空間Vgの空気が前空間Vfへ流入することにより、前空間Vf,空間Vt,及び外耳道内空間の圧力が外気圧より低くなることはなく、外気圧と同じ圧力に維持される。
そのため、イヤホン51の耳介からの取り外し時に、使用者が鼓膜の違和感を覚えることはなく、スピーカユニットSPの駆動系に不具合を生じる虞はない。
【0036】
図4〜
図6から明らかなように、延出部6dにおいて、前孔6d1と後孔6d2との前後方向のピッチLcは、Lc=La+Lbで設定されている。
【0037】
図7は、上述の可動ハウジング6の挿入時位置、基準位置、抜去時位置における前気室Rfと後気室Rbの、外部空間Vgとの連通及び非連通を示す表である。
図7及び
図4〜
図6からも明らかなように、イヤホン51においては、ハウジング1及び可動ハウジング6を含んで、前空間Vf及び後空間Vbと、外部空間Vgと、の連通及び非連通を選択する弁構造BKが構成されている。
【0038】
図7に示されるように、イヤホン51は、可動ハウジング6が前後方向に3つの位置を取り得ると共に、前空間Vfを、使用状態での基準位置を除くイヤホン51の装脱時に対応した二つの位置で、外部空間Vgと連通するようになっている。
これにより、イヤホン51の耳介に対する装脱時の、外耳道内の圧力変動が防止される。
【0039】
また、基準位置では、後気室Rbを外部空間Vgに対しダクトに相当する後通気孔1b及び後孔6d2で連通するので、低域音が増強された良好な再生音質が得られる。
また、可動ハウジング6の基準位置から他の二つの位置への移動は、装脱させる際の使用者の押引部6cを押す又は引く装脱動作のみで自然に行われる。これにより、使用者が別途装脱以外の動作を行うことなく容易にかつ確実に外耳道内の圧力変動を防止することができる。これによりイヤホン51の取り扱いは大変容易になっている。
さらに、可動ハウジング6は、イヤホン51において比較的大きい部材であり、イヤホン51の構造は単純なので、製造が容易である。
【0040】
以上詳述した実施例は、上述の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形した変形例としてもよい。
【0041】
付勢部材7はコイルばねに限定されない。エラストマやゴムなどで形成された付勢部材であってもよい。
可動ハウジング6の押引部6cの形状は、平板状でなく傘状であってもよい。
また、押引部6cの外径は、ハウジング1よりも大きく、ハウジング1の側面を覆うように形成されていてもよい。
前通気孔1fと後通気孔1bとは、周方向において同じ位置に形成されていなくてもよい。周方向にずれた位置に形成され、可動ハウジング6に、可動ハウジング6の前後方向位置に応じて連通か非連通かを選択実現する孔を前通気孔1f,後通気孔1bに対応した周方向位置に形成してもよい。
【0042】
実施例は、ハウジング1と可動ハウジング6とで後気室Rbを形成するものを説明したが、これに限定されない。
例えば、ハウジング1自体が、後通気孔1bが連通した後気室Rbを有し、可動ハウジング6は、後気室Rbに対し単に後通気孔1bを開閉するように移動する構成であってもよい。
【0043】
可動ハウジング6の移動位置は、3つの位置すべてを取り得るものでなくてもよい。少なくとも、挿入時位置及び抜去時位置の一方と、基準位置と、の二つの位置を取り得るようになっていれば、イヤホン51を装脱する際の外耳道内空間の少なくとも一方において圧力変動を防ぐ効果を、取り扱い容易かつ製造容易に得ることができる。