特許第6834574号(P6834574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許6834574-着火装置 図000002
  • 特許6834574-着火装置 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834574
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】着火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/01 20060101AFI20210215BHJP
【FI】
   F02P3/01 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-29622(P2017-29622)
(22)【出願日】2017年2月21日
(65)【公開番号】特開2018-135774(P2018-135774A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 洋一
【審査官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−332399(JP,A)
【文献】 特開2012−089289(JP,A)
【文献】 特開2014−084836(JP,A)
【文献】 実開昭56−086365(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0100322(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に連通し、燃料またはエンジンオイルが混入した凝縮水が通過する流体供給管と、
前記流体供給管内に設けられた第1電極と、前記第1電極と離隔して設けられた第2電極と、前記第1電極および前記第2電極のいずれか一方に電力を供給する高周波電源とを有するプラズマ発生部と、
前記流体供給管における前記プラズマ発生部の上流側に設けられた開閉弁と、
を備える着火装置。
【請求項2】
前記流体供給管は、
所定の離隔間隔を維持して前記第1電極を囲繞する囲繞部と、
前記囲繞部に連続して設けられ、前記燃焼室に開口する開口部を有する、前記囲繞部より流路断面積が小さい縮径部と、
を有する請求項1に記載の着火装置。
【請求項3】
前記流体供給管のうち、前記第1電極の少なくとも一部を囲繞する部分、および、前記第1電極のいずれか一方または両方を冷却する冷却部を備える請求項1または2に記載の着火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃焼室に供給された燃料を着火させる着火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを構成するシリンダ(燃焼室)内に予混合気を供給して燃焼させることで、排気ガス中のNOxを低減したり、燃費を向上させたりする技術が開発されている。予混合気を着火させる技術として、水蒸気プラズマを生成してシリンダ内に噴出するプラズマ発生装置が開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術では、予混合気の着火時に合わせてプラズマをシリンダ内に噴出している。
【0003】
一般的に、シリンダ内に流体を供給したり、供給を停止したりするバルブは、シリンダ近傍に設けられる。したがって、上記プラズマ発生装置を備えたエンジンでは、プラズマ発生装置の出口にバルブが設けられることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−299440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、プラズマ発生装置の出口に開閉弁を備える構成では、プラズマの発生源からシリンダまでの距離が遠くなるため、シリンダに到達するまでにプラズマが減衰し、着火性能が低下してしまうという問題がある。
【0006】
そこで、プラズマ発生装置を構成する電極棒(金属芯)にコイルを巻きまわして、プラズマ発生装置自体をニードル弁として機能させることが考えられる。しかし、流路を開閉するためにコイルに印加される電圧が、プラズマを発生させるために電極棒に印加される電圧のノイズとなり、プラズマを安定して発生させることができなくなってしまう。もしくは、プラズマを発生させるために電極棒に印加される電圧が、流路を開閉するためにコイルに印加される電圧のノイズとなり、流路の開閉に不具合が生じてしまう。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑み、プラズマを効率よく燃焼室に供給することが可能な着火装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る着火装置は、燃焼室に連通し、燃料またはエンジンオイルが混入した凝縮水が通過する流体供給管と、前記流体供給管内に設けられた第1電極と、前記第1電極と離隔して設けられた第2電極と、前記第1電極および前記第2電極のいずれか一方に電力を供給する高周波電源とを有するプラズマ発生部と、前記流体供給管における前記プラズマ発生部の上流側に設けられた開閉弁と、を備える。
【0010】
また、前記流体供給管は、所定の離隔間隔を維持して前記第1電極を囲繞する囲繞部と、前記囲繞部に連続して設けられ、前記燃焼室に開口する開口部を有する、前記囲繞部より流路断面積が小さい縮径部と、を有してもよい。
【0011】
また、前記流体供給管のうち、前記第1電極の少なくとも一部を囲繞する部分、および、前記第1電極のいずれか一方または両方を冷却する冷却部を備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の着火装置は、プラズマを効率よく燃焼室に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態にかかる着火装置を説明する図である。
図2】プラズマ発生部の具体的な構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態にかかる着火装置100を説明する図である。なお、図1中、信号の流れを破線で示す。着火装置100は、エンジンを構成する燃焼室102に供給された燃料(例えば、予混合気)を着火させる。エンジンは、例えば、ユニフロー掃気式2サイクルエンジンである。
【0016】
着火装置100は、タンク110と、流体供給管120と、プラズマ発生部130と、冷却部140と、開閉弁150と、ポンプ160と、制御部170とを含んで構成される。
【0017】
タンク110は、水を含む液体を貯留する。水を含む液体は、例えば、EGR配管や、排気管内で生じた排水ドレン(燃料やエンジンオイルが混入した凝縮水)である。
【0018】
流体供給管120は、タンク110と燃焼室102とを連通させる配管であり、液体が通過する。
【0019】
プラズマ発生部130は、流体供給管120を通過する液体中にプラズマを発生させる。図2は、プラズマ発生部130の具体的な構成を説明する図である。図2に示すように、プラズマ発生部130は、第1電極132と、第2電極134と、高周波電源136とを含んで構成される。
【0020】
第1電極132は、金属で構成され、本体132aと、尖端部132bとを含んで構成される。本体132aは、円柱形状である。尖端部132bは、基端が本体132aから連続し、基端から先端に向かうに従って径が漸減する。
【0021】
第1電極132は、流体供給管120内に設けられる。具体的に説明すると、第1電極132のうち、本体132aを囲繞する流体供給管120aは、絶縁体で構成される。また、尖端部132bは、第2電極134として機能する、金属で構成された流体供給管120bに囲繞される。
【0022】
第2電極134は、接地された電極である。本実施形態において、第2電極134は、燃焼室102を構成する壁部102aに設けられる。また、上記したように第2電極134は、流体供給管120bとしても機能し、所定の離隔間隔を維持して尖端部132bを囲繞する。
【0023】
具体的に説明すると、第2電極134は、囲繞部134aと、縮径部134bと、を有する。囲繞部134aは、所定の離隔間隔を維持して、尖端部132bを囲繞する。つまり、囲繞部134aには、第1孔134aaが形成されており、第1孔134aa内に尖端部132bが配置される。第1孔134aaは、流体供給管120aと連通する端部から第2孔134baと連通する端部に向かうに従って径が漸減する。
【0024】
縮径部134bは、囲繞部134aに連続して設けられ、燃焼室102に開口する開口部134bbを有する。換言すれば、縮径部134bには、第1孔134aaから開口部134bbまで連続する第2孔134baが形成されている。第2孔134baは、流路断面積が一定であり、また、第1孔134aaより流路断面積が小さい。
【0025】
高周波電源136は、後述する制御部170による制御指令に基づいて、第1電極132に電力を供給し、パルス電圧を印加する。高周波電源136が第1電極132にパルス電圧を印加することにより、尖端部132bと、囲繞部134aとの間、つまり、第1孔134aaにおいて水(液体)のプラズマが形成される。こうして形成された水のプラズマは、縮径部134bを介して燃焼室102に供給される。これにより、燃焼室102中の燃料を着火させることが可能となる。
【0026】
また、液体のプラズマは、気体のプラズマと比較して、プラズマの維持時間が長い。したがって、プラズマを減衰させずに燃焼室102に到達させることが可能となる。
【0027】
また、縮径部134bに形成された第2孔134baが、囲繞部134aに形成された第1孔134aaより流路断面積が小さいことにより、プラズマの流速を上昇させることができる。これにより、燃焼室102において、プラズマを広範囲に拡散させることができ、着火効率を向上させることが可能となる。
【0028】
冷却部140は、例えば、水冷装置で構成され、第1冷媒流路142と、第2冷媒流路144とを含んで構成される。第1冷媒流路142は、導入口および排出口を有し、流体供給管120aの壁部内に形成される。第2冷媒流路144は、導入口144aおよび排出口144bを有し、第1電極132の内部に形成される。第1冷媒流路142の導入口、第2冷媒流路144の導入口144aには、不図示の冷媒供給部から冷媒が供給される。そうすると、冷媒は、第1冷媒流路142を通過した後、排出口から排出され、第2冷媒流路144を通過した後、排出口144bから排出される。これにより、流体供給管120aおよび第1電極132を冷却することができる。したがって、第1電極132への電圧の印加で生じる熱によって、水が蒸発してしまう事態を回避することが可能となる。
【0029】
図1に戻って説明すると、開閉弁150は、流体供給管120におけるタンク110と、プラズマ発生部130との間(プラズマ発生部130の上流側)に設けられる。かかる構成により、プラズマ発生部130の出口に開閉弁を備える従来技術と比較して、プラズマの発生源から燃焼室102までの距離を短くすることができる。したがって、プラズマの減衰を抑制することができ、着火性能の低下を抑制することが可能となる。
【0030】
また、プラズマ発生部130自体をニードル弁として機能させる構成とは異なり、プラズマを発生させるための電圧以外の不要な電圧を第1電極132や第2電極134に印加させずとも、プラズマ発生部130への液体の供給や供給停止を行うことができる。したがって、第1電極132に印加される電圧にノイズが生じる事態を回避することができ、安定してプラズマを発生させることが可能となる。
【0031】
ポンプ160は、流体供給管120における、タンク110と開閉弁150との間に設けられる。ポンプ160は、タンク110に貯留された液体を流体供給管120に圧送する。
【0032】
制御部170は、例えば、ECU(Engine Control Unit)であり、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。制御部170は、ROMからCPU自体を動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出し、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して着火装置100全体を管理および制御する。
【0033】
本実施形態において、制御部170は、高周波電源136、開閉弁150、ポンプ160を制御する。具体的に説明すると、制御部170は、エンジンのクランク角に基づく燃料の着火タイミングに水プラズマが燃焼室102に供給されるように、高周波電源136、開閉弁150、ポンプ160を制御する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態にかかる着火装置100によれば、プラズマを効率よく燃焼室に供給することが可能となる。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に技術的範囲に属するものと了解される。
【0036】
例えば、上記実施形態において、流体供給管120を通過する流体として、水を含む液体を例に挙げて説明した。しかし、流体は気体(例えば、水蒸気)であってもよい。
【0037】
また、上記実施形態において、第2電極134が縮径部134bを備える構成を例に挙げて説明した。しかし、縮径部134bは必須の構成ではない。
【0038】
また、上記実施形態において、第1電極132が尖端部132bを備える構成を例に挙げて説明した。しかし、尖端部132bは必須の構成ではない。つまり、第1電極132は、同径の円柱で構成されてもよい。
【0039】
また、上記実施形態において、第2電極134が流体供給管120としても機能する構成を例に挙げて説明した。しかし、第2電極134は、流体供給管120と別体で構成されてもよい。
【0040】
また、上記実施形態において、冷却部140が、流体供給管120aおよび第1電極132を冷却する構成を例に挙げて説明した。しかし、冷却部140は、流体供給管120のうち、第1電極132の少なくとも一部を囲繞する部分、および、第1電極132のうち、いずれか一方または両方を冷却することができればよい。例えば、冷却部140は、第2電極134を冷却してもよい。
【0041】
また、冷却部140が、水冷装置で構成される場合を例に挙げて説明した。しかし、冷却部140は、第1電極132、および、流体供給管120のうち、第1電極132の少なくとも一部を囲繞する部分のうち、いずれか一方または両方を冷却することができれば構成に限定はない。例えば、冷却部140を空冷装置やペルチェ素子で構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示は、燃焼室に供給された燃料を着火させる着火装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
100 着火装置
120 流体供給管
120a 流体供給管
120b 流体供給管
130 プラズマ発生部
132 第1電極
134 第2電極
134a 囲繞部
134b 縮径部
136 高周波電源
140 冷却部
150 開閉弁
図1
図2