(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記滑り判定部は、少なくとも前記状態量としての操舵トルクが規定値以上となるときに、前記ステアリングホイールに対する運転者の手の滑りを判定する請求項1または請求項2に記載の車両用制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ステアリングホイールに対する運転者の手の滑りの予測が運転者に報知され、運転者が認識していたとしても、運転者は、運転状況によってはステアリングホイールを切り続けることにより手がステアリングホイールに対して滑る場合がある。その場合、セルフアライニングトルクにより運転者の意図と関係なくステアリングホイールが操舵中立位置に向けて戻されてしまうおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、ステアリングホイールに対して運転者の手が滑る場合に意図しないステアリングホイールの中立位置への戻りを抑制することができる車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得る車両用制御装置は、車両の走行状態およびステアリングホイールの操作状態を示す状態量に基づきアシスト力を発生させるモータを制御する車両用制御装置を前提としている。前記状態量に基づいて前記モータを駆動させるための制御信号を生成する制御部と、前記ステアリングホイールに搭載されるセンサを通じて検出される運転者の手の接触情報から前記ステアリングホイールに対する運転者の手の滑りを判定する滑り判定部とを有し、前記滑り判定部により運転者の手が前記ステアリングホイールに対して滑ったと判定された場合、前記制御部は、運転者による前記ステアリングホイールに付与したトルクを保持するアシスト力を発生させることを要旨とする。
【0007】
車両走行中に、運転者の手がステアリングホイールに対して滑った場合、ステアリングホイールが自動的に操舵中立位置に向けて戻されてしまうおそれがある。
上記構成によれば、滑り判定部は運転者の手が滑ったと判定した場合、制御部は、運転者によるステアリングホイールに付与したトルクを保持させるようにモータを制御する。したがって、運転者の手がステアリングホイールに対して滑ったとしても運転者の意図しないステアリングホイールの中立位置への戻りを抑制することができる。
【0008】
上記の車両用制御装置において、前記モータは、その回転角度を検出する回転角センサを有し、前記制御部は、前記状態量に基づき前記モータを駆動させるための指令値を演算する指令値演算部を有し、前記滑り判定部は、前記ステアリングホイールに対して運転者の手が滑ったと判定した場合、前記ステアリングホイールに対して運転者の手が滑ったときの前記回転角度で前記ステアリングホイールに付与されたトルクを保持するようにフィードバック制御することで前記指令値を補正する補正値を演算することが好ましい。
【0009】
前記滑り判定部は、少なくとも前記状態量としての操舵トルクが規定値以上となるときに、前記ステアリングホイールに対する運転者の手の滑りを判定することが好ましい。
運転者の手がステアリングホイールに対して滑ってしまうおそれのある状態は、操舵トルクがある程度大きくなってから、すなわち、運転者がステアリングホイールをある程度左右に切り込んでいる状態である。
【0010】
上記構成によれば、操舵トルクが規定値以上となるときにステアリングホイールに対する運転者の手の滑りを判定する。そのため、例えば、運転者が意図的にステアリングホイールに対して手を滑らせている状態等を除き、ステアリングホイールに対して運転者の手が滑り得る状態のときのみステアリングホイールに対する運転者の手の滑りが判定できる。したがって、車両用制御装置のステアリングホイールに対する運転者の手の滑り判定の信頼性が向上する。
【0011】
前記滑り判定部は、前記ステアリングホイールに対して運転者の手が滑ったと判定したときから所定時間経過後、且つ運転者の手が前記ステアリングホイールに触れていると判定した後に、運転者による前記ステアリングホイールに付与したトルクを保持する制御を停止させることが好ましい。
【0012】
上記の車両用制御装置において、ステアリングホイールに対して運転者の手が滑った場合、制御部は、運転者によるステアリングホイールに付与するトルクを保持するようにモータを制御している。しかし、運転者がステアリングホイールを再度操作し直そうとしたとき、運転者の操舵感に違和感が出るおそれがある。
【0013】
上記構成によれば、滑り判定部は、運転者の手がステアリングホイールに対して滑ったとときから所定時間経過後、且つ運転者の手がステアリングホイールに対して接触していると判定したときに運転者によるステアリングホイールに付与するトルクを保持する制御を停止させることで、運転者がステアリングホイールを再び操舵しようとしたとき、運転者の操舵感を円滑にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用制御装置によれば、ステアリングホイールに対して運転者の手が滑る場合に意図しないステアリングホイールの戻りを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施形態>
以下、車両用制御装置をコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」とする。)の制御装置に具体化した一実施の形態を説明する。
【0017】
図1に示すように、EPS1は、操舵機構2、アシスト力付与機構3、制御装置5、および各種センサを備えている。
操舵機構2は、運転者のステアリングホイール20の操作に基づいて転舵輪4,4を転舵させる。操舵機構2は、ステアリングホイール20と一体回転するステアリングシャフト21と、ラックシャフト23とを有している。ステアリングシャフト21は、ステアリングホイール20と連結されるコラムシャフト21aと、コラムシャフト21aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト21bと、インターミディエイトシャフト21bの下端部に連結されたピニオンシャフト21cとを有している。ピニオンシャフト21cの下端部は、ラックアンドピニオン機構22を介してラックシャフト23に連結されている。ラックアンドピニオン機構22は、ピニオンシャフト21cの下端部に設けられているピニオン歯と、ラックシャフト23におけるラック歯とが互いに噛み合うことで形成されている。したがって、ステアリングシャフト21の回転運動は、ラックアンドピニオン機構22を介してラックシャフト23の軸方向(
図1の左右方向)の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラックシャフト23の両端にそれぞれ連結されたタイロッド24,24を介して、左右の転舵輪4,4にそれぞれ伝達されることにより、転舵輪4,4の転舵角が変化する。
【0018】
アシスト力付与機構3は、コラムシャフト21aに接続された減速機構31と、回転軸を有するモータ30と、を有している。モータ30の回転軸の回転力は減速機構31を介してコラムシャフト21aに伝達される。モータ30は、ステアリングホイール20の操作をアシストするアシスト力の発生源として使用される。モータ30としては、例えば、3相ブラシレスモータが採用される。
【0019】
各種センサは、ステアリングホイール20の操作量や車両の状態量を検出する目的で設けられている。例えば、各種センサとしては、トルクセンサ7、車速センサ8、回転角センサ9、およびタッチセンサ65がある。
【0020】
トルクセンサ7は、コラムシャフト21aにおけるステアリングホイール20とアシスト力付与機構3との間に設けられている。トルクセンサ7は、運転者のステアリングホイール20の操作によりステアリングシャフト21に生じる状態量(ステアリングホイール20の操作状態を示す状態量)としての操舵トルクThを周期的に検出する。車速センサ8は、車両の車速Vを検出する。回転角センサ9は、モータ30に設けられている。回転角センサ9は、モータ30の回転軸の回転角度θmを検出する。タッチセンサ65は、ステアリングホイール20の周方向の全周に亘って複数設けられている。タッチセンサ65は、ステアリングホイール20を掴む運転者の手によるステアリングホイール20の接触、および運転者の手のステアリングホイールに対する位置を検知し、ステアリングホイール20に対する手の接触状態に応じた電気信号である接触情報Tatchを生成する。接触情報Tatchとは、運転者の手がステアリングホイール20に対して触れている箇所の数(片手でステアリングホイール20に触れているのであれば一箇所、両手でステアリングホイール20に触れているのであれば二箇所)、およびステアリングホイール20上における運転者の手の位置を示す情報(例えば、両手でステアリングホイール20を握る場合、時計の長針および短針の位置に倣って2時20分の位置等)である。
【0021】
制御装置5は、各種センサからの出力を取り込み、その出力に基づいてモータ30の駆動を制御する。制御装置5は、接触情報Tatchに基づき運転者の手がステアリングホイール20を掴んでからどのように変位しているのかを判定する。例えば、制御装置5は、運転者の手がステアリングホイール20を掴んだり、離したりを繰り返しながらステアリングホイール20上を移動しているのか、または運転者の手がステアリングホイール20に接触している状態でステアリングホイール20上を移動しているのか、を判定する。移動とは、すなわち、運転者がステアリングホイール20を回転操作させるときにおけるステアリングホイール20上の手の位置を変えていることを示している。尚、運転者の手がステアリングホイール20に接触している状態でステアリングホイール20上を移動している状態のことを運転者の手がステアリングホイール20に対して滑っているという。
【0022】
図2に示すように、制御装置5は、車載バッテリ等の電源(電源電圧「+Vb」)から供給される直流電力を三相(U相、V相、W相)の交流電力に変換する駆動回路としてのインバータ回路50と、インバータ回路50をPWM(パルス幅変調)駆動するための制御信号をインバータ回路50に出力するマイコン51と、記憶部としてのメモリ59とを備えている。
【0023】
インバータ回路50は、マイコン51からの制御信号(PWM駆動信号)に基づいて電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。この三相交流電力は給電線WLを介してモータ30に供給される。給電線WLには、モータ30の各相電流値Iを検出する電流センサ52が設けられている。
図2において、便宜上、各相の給電線WLおよび各相の電流センサ52をそれぞれ一つにまとめて図示している。尚、インバータ回路50は、グランドGNDに接続されている。
【0024】
メモリ59には、マイコン51がモータ30を駆動するために実行するプログラムが記憶されている。
マイコン51は、メモリ59に記憶されたプログラムを実行することにより、モータ30の駆動を制御する。マイコン51は、各種センサにより検出される操舵トルクTh、車速V、回転角度θm、各相電流値I、および運転者の手の接触情報Tatchに基づきモータ30を駆動するための制御信号を生成する。マイコン51は、生成した制御信号をインバータ回路50に出力することでインバータ回路50をPWM駆動する。
【0025】
次に、マイコン51について詳述する。
図2に示すように、マイコン51は、電流指令値演算部53と、制御信号生成部54とを備えている。電流指令値演算部53は、操舵トルクTh、車速V、および運転者の手の接触情報Tatchに基づき、電流指令値を演算する。電流指令値は、モータ30に供給すべき電流の目標値であり、d/q座標系におけるd軸上のd軸電流指令値Id*およびq軸上のq軸電流指令値Iq*をそれぞれ示している。このうち、q軸電流指令値Iq*は、モータ30が発生させるアシスト力の目標値である。尚、d軸電流指令値Id*は、「0」に固定されている。
【0026】
電流指令値演算部53は、指令値演算部としての基本電流指令値演算部55と、滑り判定部56と、加算器58とを有している。
基本電流指令値演算部55は、操舵トルクThおよび車速Vに基づいてq軸電流指令値Iq*の基礎成分である基本電流指令値Ias*を演算する。基本電流指令値Ias*は、運転者のステアリングホイール20の操作を補助するアシスト力に対応する基本指令値である。
【0027】
図3のグラフに示すように、基本電流指令値演算部55は、操舵トルクThと、車速Vと、基本電流指令値Ias*との関係を規定したマップを有している。このマップに示されるように、基本電流指令値演算部55は、操舵トルクThの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが遅くなるほど基本電流指令値Ias*の絶対値をより大きい値に設定する。
【0028】
図2に示すように、滑り判定部56は、操舵トルクThと、運転者の手の接触情報Tatchと、回転角度θmとに基づいて補正値Irb*を演算する。補正値Irb*は、ステアリングホイール20に対して運転者の手が滑った場合に、ステアリングホイール20を運転者の手が滑ったときの位置で維持させるように(いわゆる運転者によるステアリングホイール20に付与した操舵トルクThを保持するように)基本電流指令値Ias*を補正する補正値である。より具体的には、補正値Irb*は、モータ30の回転角センサ9により検出される回転角度θmを、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときのモータ30の回転角度θmで維持させるように基本電流指令値Ias*を補正する補正値である。
【0029】
滑り判定部56は、操舵トルクThが規定値以上である場合、接触情報Tatchに基づき運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったか否かを判定する。滑り判定部56は、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったと判定した場合、補正値Irb*を演算する。滑り判定部56は、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑っていないと判定した場合、補正値Irb*を0に設定する。滑り判定部56は、操舵トルクThが規定値以上でない場合は、滑り判定を行うことなく補正値Irb*を0に設定する。ここで、操舵トルクThにおける規定値とは、運転者の手がステアリングホイール20を操作している場合、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑り得る操舵トルクThの値を実験的に検証して設定されるものである。滑り判定部56は、操舵トルクThが規定値以上でない場合、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑らないという観点から操舵トルクThが規定値以上でないと判定した場合に補正値Irb*を0に設定する。
【0030】
滑り判定部56は、タッチセンサ65により検出される接触情報Tatchが入力されない場合は、運転者の手がステアリングホイール20に接触していない、すなわち運転者の手がステアリングホイール20に対して滑っていない(正確には、保持していない)と判定し、補正値Irb*を0に設定する。尚、接触情報Tatchが滑り判定部56に入力されない状態とは、運転者が意図的にステアリングホイール20を掴んでいないことを示している。このことは、例えば、運転者がステアリングホイール20を左右へ切り込む方向へ操作している場合に、運転者にステアリングホイール20を操舵中立位置へ向けて戻す意図があるときを示している。このとき、運転者がステアリングホイール20から手を離すことによりセルフアライニングトルクが生じ、ステアリングホイール20は操舵中立位置へ向けて自動的に切り戻される。そのため、運転者がステアリングホイール20を意図的に掴んでいないと判断する。
【0031】
滑り判定部56は、運転者の手がステアリングホイール20に対して接触していると判定した場合、接触情報Tatchに応じて運転者の手がステアリングホイール20に対して接触している箇所の数を判断する。すなわち、滑り判定部56は、ステアリングホイール20に円周上に複数配置されているタッチセンサ65の出力(接触情報Tatch)から運転者がステアリングホイール20を両手で掴んでいるか、または片手で掴んでいるかを判断する。
【0032】
運転者の手が滑った場合、片手の場合も両手の場合も、複数のタッチセンサ65の出力変化から、運転者の手のステアリングホイール20に対する変位を推定することができる。尚、運転者の手がステアリングホイール20を掴んでいる位置も、複数のタッチセンサ65の出力から推定でき、上記したように運転者が意図的にまたはやむを得ずステアリングホイール20から手を離した場合、複数のタッチセンサ65の出力がゼロとなることから推定できる。
【0033】
ここで、滑り判定部56における滑り判定を具体的にステアリングホイール20に対して運転者の両手が滑った場合と、ステアリングホイール20に対して運転者の片手が滑った場合とに分けて説明する。両手がステアリングホイール20に対して滑った場合と、片手がステアリングホイール20に対して滑った場合とで分けて説明する理由としては、両手がステアリングホイール20に対して滑った場合、両手のうち一方の手だけが滑ってしまったときには滑っていないと判定するためである。詳細な説明については後述する。
【0034】
まずは、滑り判定部56が、運転者がステアリングホイール20を両手で掴んでいると判断したときを考える。
滑り判定部56は、接触情報Tatchに基づき運転者の両手がステアリングホイール20に対して滑っているか、または運転者の両手における一方の手がステアリングホイール20に対して滑り、他方の手が滑っていないかを判定する。滑り判定部56は、運転者の両手がステアリングホイール20に対して滑ったと判定したとき、モータ30の回転角度θmを、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときにおけるモータ30の回転角度θmに維持するようにフィードバック制御することで、補正値Irb*を演算する。滑り判定部56は、運転者の両手がステアリングホイール20に対して滑っていないと判定した場合、補正値Irb*を0に設定する。
【0035】
滑り判定部56は、運転者の両手における一方の手がステアリングホイール20に対して滑り、他方の手が滑っていないと判定した場合、補正値Irb*を0に設定する。これは、運転者の両手における一方の手が滑ったとしても、他方の手がステアリングホイール20を保持している状態であり、運転者の意図しないステアリングホイール20の中立位置への戻りが生じないとの観点から、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑っていないと判定しているためである。
【0036】
次に、滑り判定部56が、運転者がステアリングホイール20を片手で掴んでいると判断したときを考える。
滑り判定部56は、接触情報Tatchに基づき運転者の片手がステアリングホイール20に対して滑っているか否かを判定している。滑り判定部56は、運転者の片手がステアリングホイール20に対して滑っていると判定した場合、モータ30の回転角度θmを、運転者の片手がステアリングホイール20に対して滑ったときのモータ30の回転角度θmに維持するようにフィードバック制御することで、補正値Irb*を演算する。滑り判定部56は、運転者の片手がステアリングホイール20に対して滑っていないと判定した場合、補正値Irb*を0に設定する。
【0037】
上記のステアリングホイール20に対する運転者の両手または片手における滑り判定によれば、滑り判定部56は、運転者がステアリングホイール20と接触している全ての手で滑ったと判定した場合、モータ30の回転角度θmを、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときのモータ30の回転角度θmで維持するようにフィードバック制御することで、補正値Irb*を演算する。
【0038】
尚、滑り判定部56は、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときから、再び操舵トルクThの絶対値の変化量が正になったときに補正値Irb*を0に設定する。いわゆる、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときから再度ステアリングホイール20を保持し直し、操舵トルクThを付与し始めたときに補正値Irb*を0に設定する。操舵トルクThの絶対値の変化量が正とは、トルクセンサ7により周期的に検出されている操舵トルクThにおいて、前回周期の操舵トルクThの絶対値から最新周期の操舵トルクThの絶対値が大きくなっていることである。尚、前回周期とは、最新周期の直前の周期を示している。本実施の形態においては、滑り判定部56が運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったと判定した場合、ステアリングホイール20は、運転者の手が滑ったときの位置で維持される。すなわち、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときには、ステアリングホイール20を介してステアリングシャフト21に生じる操舵トルクThの絶対値の変化量は0または負となる。そのため、運転者がステアリングホイール20を把持し直し、再び操作するとき、ステアリングホイール20を介してステアリングシャフト21に生じる操舵トルクThの絶対値の変化量は正となる。そのため、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときから、再び操舵トルクThの絶対値の変化が正となるときに補正値Irb*を0に設定する。そのため、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときから、運転者がステアリングホイール20を保持持し直して操作を継続しようとしたときの運転者の操舵感に違和感が出ない。
【0039】
加算器58は、基本電流指令値演算部55により演算される基本電流指令値Ias*と、滑り判定部56により演算される補正値Irb*とを加算することによりq軸電流指令値Iq*を演算する。
【0040】
制御信号生成部54は、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*、各相電流値I、および回転角度θmに基づきd/q座標系における電流フィードバック制御を実行することにより制御信号を生成している。詳しくは、制御信号生成部54は、回転角度θmに基づいて各相電流値Iをd/q座標系に写像することにより、d/q座標系におけるモータ30の実電流値であるd軸電流値およびq軸電流値を演算する。制御信号生成部54は、d軸電流値をd軸電流指令値Id*に追従させるべく、また、q軸電流値をq軸電流指令値Iq*に追従させるべくそれぞれ電流フィードバック制御を行うことにより制御信号を生成する。この制御信号がインバータ回路50に出力されることによりモータ30に制御信号に応じた駆動電流が供給される。このため、モータ30は、q軸電流指令値Iq*に応じてアシスト力を発生する。
【0041】
次に、制御装置5の制御フローについて説明する。
図4に示すように、制御装置5は、操舵トルクThおよび接触情報Tatchを取り込み(ステップS101)、操舵トルクThが規定値以上であるか否かを判定する(ステップS102)。制御装置5は、操舵トルクThが規定値以上でないと判定された場合、補正値Irb*を0に設定する(ステップS103)。制御装置5は、操舵トルクThが規定値以上であると判定した場合、接触情報Tatchに基づきステアリングホイール20に対して運転者の手が接触しているか否かを判定する(ステップS104)。制御装置5は、ステアリングホイール20に対して運転者の手が接触していない場合、ステップS103に進む。制御装置5は、ステアリングホイール20に対して運転者の手が接触していると判定した場合、ステアリングホイール20を把持している運転者の手が両手であるのか、片手であるのかを判断し(ステップS105)、運転者の全ての手(両手または片手)がステアリングホイール20に対して滑っているか否かを判定する(ステップS106)。制御装置5は、運転者の全ての手がステアリングホイール20に対して滑っていないと判定した場合、ステップS103に進む。制御装置5は、運転者の全ての手がステアリングホイール20に対して滑っていると判定した場合、補正値Irb*を演算する(ステップS107)。次に、制御装置5は、運転者の手がステアリングホイール20に対して再び操舵トルクThを付与しているか否かを判定する(ステップS108)。制御装置5は、運転者が再び操舵トルクThを付与していないと判定した場合、ステアリングホイール20に対して操舵トルクThが付与されるまでは補正値Irb*の演算を継続する。制御装置5は、ステアリングホイール20に対して操舵トルクThが付与されたと判定した場合、ステップS103に進み補正値Irb*を0に設定する。
【0042】
以上詳述したように、本実施の形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(1)滑り判定部56は、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったと判定した場合、ステアリングホイール20を運転者の手が滑った位置で維持させる。すなわち、滑り判定部56は、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったと判定した時のモータ30の回転角度θmに維持させるように基本電流指令値Ias*に対する補正値Irb*を演算する。このため、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったとしても運転者の意図しないステアリングホイールの中立位置への戻りを抑制することができる。
【0043】
(2)操舵トルクThが規定値以上となるとき、滑り判定部56は、ステアリングホイール20に対する運転者の手の滑りを判定する。そのため、例えば、運転者が意図的にステアリングホイール20に対して手を滑らせている状態等を除き、ステアリングホイール20に対して運転者の手が滑り得る状態のときのみステアリングホイール20に対する運転者の手の滑りが判定できる。したがって、制御装置5のステアリングホイール20に対する運転者の手の滑り判定の信頼性が向上する。
【0044】
<第2の実施形態>
次に、車両用制御装置の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態からの変更点としては、インバータ回路50とモータ30との間で閉ループを形成する相固定制御を実施する点である。尚、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付す。
【0045】
図5に示すように、制御信号生成部54には、インバータ回路50の内部に設けられる各相(U相、V相、W相)に対応するスイッチング素子をインバータ回路50とモータ30との間を閉ループとするように開閉する複数の制御信号(PWM駆動信号)が記憶されている。また、制御信号生成部54は、モータ30の各相のうち通電されている相を各相電流値Iに基づき監視している。
【0046】
滑り判定部56は、接触情報Tatchに基づき運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったと判定した場合、制御信号生成部54に指令信号Sm1を出力する。指令信号Sm1とは、制御信号生成部54が基本電流指令値Ias*(q軸電流指令値Iq*)に基づいた制御信号の生成を一時的に停止させる信号である。制御信号生成部54は、滑り判定部56から出力された指令信号Sm1が入力された(ステアリングホイール20に対して運転者の手が滑った)とき、基本電流指令値演算部55により演算された基本電流指令値Ias*に基づいた制御信号の生成を一時的に停止させる。制御信号生成部54は、その内部に記憶されているインバータ回路50とモータ30との間に閉ループを形成させる制御信号(PWM駆動信号)のうち、指令信号Sm1が入力されたときに通電されている相で通電を固定する制御信号をインバータ回路50に出力する(いわゆる相固定制御)。
【0047】
図7に示すように、インバータ回路50は、3つのスイッチングアーム50U,50V、50Wを並列に接続することにより構成されている。スイッチングアーム50Uは、電源側のスイッチング素子u1と、グランド側のスイッチング素子u2とを直列に接続することで構成されている。スイッチングアーム50Vは、電源側のスイッチング素子v1と、グランド側のスイッチング素子v2とを直列に接続することで構成されている。スイッチングアーム50Wは、電源側のスイッチング素子w1と、グランド側のスイッチング素子w2とを直列に接続することで構成されている。インバータ回路50は、インバータ回路50とモータ30との間に閉ループを形成させる制御信号に基づきスイッチング素子u1,u2,v1,v2,w1,w2を開閉することにより、インバータ回路50とモータ30との間の閉ループが実現される。具体例として、滑り判定部56がステアリングホイール20に対して運転者の手が滑ったと判定したときに、モータ30において通電されている相がU相とV相であった場合、スイッチング素子u1、v1とをオン状態とし、その他のスイッチング素子u2、v2,w1,w2をオフ状態とすることで、モータ30のU相に対応する巻線30uと、V相に対応する巻線30vとにだけ電源から供給された電力が通電し、W相に対応する巻線30wには通電しない。モータ30の通電する相を固定することにより、モータ30内部に搭載されている永久磁石(図示略)との間で強い引力が発生するため、モータ30が回転しない。ここで発生する強い引力とは、運転者が手でステアリングホイールを操作できない程度の制動力である。
【0048】
本実施の形態によれば、次の効果がある。
(3)インバータ回路50とモータ30との間に閉ループが実現されることにより、モータ30に制動力が発生する。運転者の手がステアリングホイール20に対して滑った場合、ステアリングホイール20は、セルフアライニングトルクによりステアリングホイール20の操舵中立位置に向けて自動的に戻されるように働くが、モータ30には制動力が働くため、ステアリングホイール20は戻されにくくなる。したがって、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったとしても運転者の意図しないステアリングホイールの中立位置への戻りを抑制することができる。
【0049】
<第3の実施形態>
次に、車両用制御装置の第3の実施形態を説明する。尚、第1および第2の実施形態と同様の構成については同じ符号を付す。
【0050】
図6に示すように、滑り判定部56は、ステアリングホイール20に対して運転者の手が滑ったと判定した場合、制御信号生成部54における基本電流指令値Ias*に基づく制御信号の生成を一時的に停止させる指令信号Sm2を制御信号生成部54に出力する。同時に、滑り判定部56は、インバータ回路50とモータ30との間に閉ループを形成させる制御信号としての指令信号Sm3を出力する。指令信号Sm3は、例えば、インバータ回路50のスイッチング素子u1,u2,v1,v2,w1,w2(
図7参照)のうち、電源側のスイッチング素子u1,v1,w1を開き(いわゆるオフ状態)、グランドGND側のスイッチング素子u2,v2,w2を閉める(いわゆるオン状態)とする信号である。
【0051】
図7に示すように、インバータ回路50は、指令信号Sm3が入力されたとき、インバータ回路50のスイッチングアーム50U,50V,50Wのスイッチング素子のうち、グランドGND側のスイッチング素子u2,v2,w2を全てオン状態に、電源側のスイッチング素子u1,v1,w1を全てオフ状態にする。そのため、インバータ回路50のグランドGND側の回路とモータ30の各相に対応する巻線30u,30v,30wとの間に閉ループが形成される。
【0052】
本実施の形態によれば、次の効果が得られる。
(4)インバータ回路50のグランドGND側の回路とモータ30の各相に対応する巻線30u,30v,30vとの間に閉ループが実現することにより、セルフアライニングトルク等によりステアリングホイール20が自動的に戻ろうとしても、ステアリングホイール20が戻る方向と反対側(いわゆる本来、運転者が切り込んでいた方向)にモータ30の誘起電力による制動力が働き、ステアリングホイール20が中立位置に向けて戻されにくくなる。
【0053】
尚、本実施の形態は、技術的に矛盾が生じない範囲で以下のように変更してもよい。
・本実施の形態において、滑り判定部56は、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときから再びステアリングホイール20に対して操舵トルクThを付与したとき(操舵トルクThの絶対値の変化量が正であるとき)補正値Irb*を0に設定していたが、これに限らない。例えば、滑り判定部56にて運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときから所定時間経過後、且つ運転者の手がステアリングホイール20に接触していると判定された場合、補正値Irb*を0に設定してもよい。ここで、所定時間とは、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったときから、ステアリングホイール20を保持し直して操作を継続しようとしたときまでの時間を実験的に検証して設定されたものである。所定時間は、運転者がステアリングホイール20を保持し直して操作を継続しようとしたときの操舵感に違和感が出ない程度に設定されている。尚、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ってから所定時間経過後であっても、運転者の手がステアリングホイール20に接触していないときには、補正値Irb*を0に設定しない。これは、ステアリングホイール20に対して運転者の手が滑ったとき、再びステアリングホイール20を保持し直すために、運転者の手がステアリングホイール20から離れるときがある。運転者がステアリングホイール20を保持していない状態で、補正値Irb*を0に設定してしまうと運転者の操舵感に違和感を与えるおそれがあるためである。したがって、「ステアリングホイール20に対して運転者の手が滑ったときから所定時間経過後、且つ運転者の手がステアリングホイール20に対して触れていると判定したとき補正値Irb*を0に設定する」ことで、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑った後、運転者がステアリングホイール20を保持し直して操作を継続しようとしたときの操舵感を円滑にすることができる。また、この変更に伴い、
図4に示す制御装置5の制御フローの中のステップS108の処理を適宜変更する。
【0054】
・また、例えば、滑り判定部56は、運転者の手がステアリングホイール20に触れたまま移動していることが検出されなくなった時点で補正値Irb*を0に設定してもよい。この場合も同様に、
図4に示す制御装置5の制御フローの中のステップS108の処理を適宜変更する。
【0055】
・本実施の形態において、操舵トルクThが規定値以上である場合に、滑り判定部56にて運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったか否かを判定していたが、操舵トルクThが規定値より小さくてもよい。操舵トルクThの規定値は、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑り得る操舵トルクThの値として設定しているが、操舵トルクThが規定値より小さい場合でも、稀に運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ってしまうおそれがある。そのため、滑り判定部56が運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったか否かを判定するための条件である「操舵トルクThが規定値以上である」を割愛してもよい。尚、この変更に伴い、
図4に示す制御装置5に制御フローの中のステップS102を割愛し、ステップS101で操舵トルクThおよび接触情報Tatchを取り込んだ後、ステップS104に進むように変更する。
【0056】
・本実施の形態において、滑り判定部56は、接触情報Tatchに基づき運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったか否かを判定していたが、「操舵トルクThの絶対値の変化が正から負に変化しているか否か」の条件も加えてもよい。操舵トルクThの絶対値の変化が負であるとは、トルクセンサ7により周期的に検出されている操舵トルクThにおいて、前回周期の操舵トルクThの絶対値から最新周期の操舵トルクThの絶対値が小さくなっていることである。尚、前回周期とは、最新周期の直前の周期を示している。運転者の手がステアリングホイール20に対して滑る直前において、運転者はステアリングホイール20を操舵トルクThが大きくなる方向に切り込んでいることが考えられる。この場合、操舵トルクThの絶対値の変化は正である。運転者の手がステアリングホイール20に対して滑った場合、ステアリングホイール20はそれまで切り込んでいた方向と反対側に戻されるため、操舵トルクThの絶対値の変化は負となる。そのため、運転者の手がステアリングホイール20に対して滑ったか否かを判定するにあたって、操舵トルクThの絶対値の変化が正から負に変化しているか否かを考慮することで、滑り判定部56の運転者の手の滑り判定の信頼性を向上させることができる。尚、条件の追加に伴い、
図4に示す制御装置5の制御フロー中のステップS105の後、またはステップS107の前に「操舵トルクThの絶対値の変化が正から負に変化しているか否か」の判定処理を加える。