(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
永久磁石の磁性を反転させる磁束を発生させるためには、コイルに大きな電流を流す必要がある。
【0005】
本発明は、アーマチャを解放するときの電力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアクチュエータは、ヨークと、ヨークに対して吸着および解放可能なアーマチャと、磁力によってアーマチャをヨークに吸着させる第1永久磁石と、ヨーク、アーマチャおよび第1永久磁石を含む磁気回路に磁束を生じさせるコイルと、アーマチャを、ヨークから解放する方向に付勢する解放ばねと、を有し、第1永久磁石は、アーマチャがヨークから解放されることで磁束密度が不可逆的に低下し、アーマチャの解放状態が維持される、アクチュエータである。
【0007】
アーマチャがヨークに吸着されている状態で、コイルにより、第1永久磁石の磁束とは反対向きの磁束を発生させ、第1永久磁石の磁束の少なくとも一部を相殺し、解放ばねの付勢力が勝るようにする。アーマチャがヨークから解放することで第1永久磁石の磁束密度が不可逆的に低下し、解放ばねの付勢力によってアーマチャの解放状態が維持される。コイルにより発生させる磁束によって第1永久磁石の磁束を反転させる必要がないので、コイルに流す電流を少なくすることができる。
【0008】
前記のアクチュエータにおいて、アーマチャがヨークから解放されることで第1永久磁石の動作点がクニック点を越えるようにすることができる。
【0009】
さらに、前記のアクチュエータにおいて、アーマチャがヨークに吸着された状態のときに、コイルが、第1永久磁石の動作点がクニック点を越えない範囲で、第1永久磁石の磁束とは反対向きの磁束を磁気回路内に発生させ、解放ばねがアーマチャをヨークから解放するようにできる。
【0010】
また、前記のアクチュエータにおいて、ヨーク、アーマチャおよび第1永久磁石を含む磁気回路に第2永久磁石を設けることができる。第2永久磁石は、アーマチャがヨークに吸着された状態においては第1永久磁石と並列状態にあり、第1永久磁石と共に磁力によりアーマチャをヨークに吸着させる。アーマチャがヨークから解放されると、第2永久磁石は、その磁束によって第1永久磁石の極性を反転させ、第1永久磁石と第2永久磁石とが直列状態となり、磁力はアーマチャに作用しない。
【0011】
本発明に係る他の態様の磁気回路は、ヨークと、ヨークに対して吸着および解放可能なアーマチャと、磁力によってアーマチャをヨークに吸着させ、アーマチャがヨークから解放されることで磁束密度が不可逆的に低下する第1永久磁石と、を有する磁気回路である。
【0012】
前記の磁気回路において、アーマチャがヨークから解放されることで第1永久磁石の動作点がクニック点を越えるようにすることができる。
【0013】
さらに、前記の磁気回路において、アーマチャがヨークに吸着された状態のときに、第1永久磁石の動作点がクニック点を越えない範囲の、第1永久磁石の磁束とは反対向きの磁束が当該磁気回路内に発生すると、あらかじめ付与されていた付勢力によってアーマチャがヨークから解放されるようにできる。
【0014】
また、前記の磁気回路は、第2永久磁石を更に有するものとでき、第2永久磁石は、アーマチャがヨークに吸着された状態においては第1永久磁石と並列状態にあり、第1永久磁石と共に磁力によりアーマチャをヨークに吸着させる。アーマチャがヨークから解放されると、第2永久磁石は、その磁束によって第1永久磁石の極性を反転させ、第1永久磁石と直列状態となり、磁力はアーマチャに作用しない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アーマチャをヨークから解放するとき、第1永久磁石の磁性を反転させる必要がなく、コイルに流す電流を少なくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のアクチュエータ10の構成を示す模式図である。(a)はヨーク12にアーマチャ14が吸着されて、接合している状態(以下、「吸着状態」と記す。)を示し、(b)はヨーク12からアーマチャ14が解放されて、離間している状態(以下、「解放状態」と記す。)を示している。
【0018】
ヨーク12は、その中に配置された永久磁石16と共に、略U字形の磁路を形成している。永久磁石16は、保持力が小さく、極性を容易に反転させることができる磁石である。以降、永久磁石16を、可変永久磁石16と記す。可変永久磁石16は、例えばアルニコ磁石とすることができる。アーマチャ14は、ヨーク12に対して吸着および解放可能である。アーマチャ14は、解放ばね18によってヨーク12から離れる方向に付勢されている。この付勢力を「F
E」と記す。アーマチャ14は、ヨーク12に吸着されて接合しているとき、ヨーク12のU字形の両端に接合し、ヨーク12、アーマチャ14、可変永久磁石16により閉じた磁路が形成される。この閉じた磁路の内側を貫通するようにコイル20が配置され、コイル20は、ヨーク12、アーマチャ14、可変永久磁石16により形成された磁気回路に磁束を生じさせることができる。
【0019】
アーマチャ14が吸着状態にあるとき、磁路が閉じているため、可変永久磁石16は磁力を保持している。アーマチャ14をヨーク12に吸着するよう作用する磁力を「F
M」と記す。この磁力F
Mが解放ばね18の付勢力F
Eに勝り、アーマチャ14が吸着状態に維持される。アーマチャ14が吸着状態にあるときに可変永久磁石16により生じる磁束を「Φ」で示す。アーマチャ14が吸着状態にあるとき、コイル20に、可変永久磁石16による磁束Φとは反対向きの磁束を発生させる電流を流し、磁束Φの少なくとも一部を相殺する。つまり、
図1において、コイル20に、紙面を裏側から表側に貫く方向に電流を流してヨーク12およびアーマチャ14により形成される磁路内に磁束を発生させ、可変永久磁石16による磁束Φを減じる。磁束Φが減少することにより、解放ばね18の付勢力F
Eが磁力F
Mを上回り、アーマチャ14がヨーク12から解放される。アーマチャ14が解放されることで、磁路が開放して磁束Φが減少し、可変永久磁石16は自己減磁する。つまり、可変永久磁石16は、磁路が開放したとき自己減磁する特性を有する磁石である。
【0020】
アーマチャ14が解放状態にあるときには磁力F
Mが小さいか、または0であり、解放ばね18の付勢力F
Eが勝った状態にある。このとき、コイル20への通電を止めてもアーマチャ14の解放状態が維持される。また、アーマチャ14が振動など外部からの力によりヨーク12に接近しても、磁力F
Mが小さいために、アーマチャ14のヨーク12への吸着が抑制される。また、鉄粉など磁性体の異物のヨーク12への付着も抑制することができる。
【0021】
アーマチャ14を吸着するにはコイル20に通電する。コイル20に流れる電流により、ヨーク12、アーマチャ14および可変永久磁石16により形成される磁気回路内に磁束が生じ、磁束により生じる磁力F
Mが解放ばね18の付勢力F
Eより大きいとアーマチャ14がヨーク12に吸着される。また、このコイル20に電流を流すことによって生じた磁束により、可変永久磁石16が再び磁化される。アーマチャ14がヨーク12に吸着されると、磁束が維持されるため、可変永久磁石16は自己減磁を起こさず、磁力が維持される。
【0022】
アクチュエータ10は、アーマチャ14を吸着するとき、および解放するときにコイル20に電流を流せば動作し、吸着状態および解放状態を維持するためにコイル20に電流を流す必要がない。また、アーマチャ14を解放する際、可変永久磁石16の磁性を反転させる必要がなく、アーマチャ14を解放するためにコイル20流す電流を抑えることができる。
【0023】
図2は、磁化曲線(BHカーブ)を示す図である。縦軸が永久磁石の磁束密度、横軸が永久磁石に作用する磁界である。
【0024】
永久磁石には自分自身の磁界によって自身の磁力を弱める反磁界が作用しているため、周囲の磁場が0であっても、そのときの永久磁石の動作点はH<0の領域に位置している。このときの動作点を点pで示す。永久磁石の磁束とは逆向きの外部磁界を作用させると、その磁力に応じて動作点は横軸(H軸)の負の向きに移動する。このとき、磁束密度も外部磁界により減少するので、動作点は縦軸(B軸)についても負の向きに移動する。つまり、逆向きの外部磁界を大きくしていくと、動作点は、左下に向けて徐々に下る線上を移動する。
図2中の点qまでの範囲であれば、外部磁界を除去すれば、動作点は、元来た線上を戻って元の点pに戻る。この点qまでの範囲は、可逆減磁領域と呼ばれる。点qを越える外部磁界が作用すると、磁束密度は急激に低下する。例えば、動作点が点rまで移動した状態から、それまでとは逆向きの外部磁界を減少させる(H軸上で正の向き)と、動作点は点rに至った線上を戻らず、点p、点q間の線にほぼ平行な図中の一点鎖線に沿って移動する。動作点は、外部磁界が0になっても点pには戻らず、点pと原点を結んだ線G
1と交差する点p’に至る。点qを越えた領域は不可逆減磁領域と呼ばれ、点p、つまり可逆減磁領域と不可逆減磁領域の境界はクニック点と呼ばれる。
【0025】
外部磁界を与えることに代えて、磁気回路の磁気抵抗を大きくすることによっても、動作点は移動する。磁気抵抗を大きくすることで永久磁石の磁束密度は低下し、動作点は、点pから点q、更に点rへと移動する。例えば、磁気回路中のギャップを大きくすることで磁気抵抗を大きくすることができ
、磁気回路中のギャップを破線G
1の状態から大きくすると、動作点が点pから点qに向けて移動する。動作点が点q(クニック点)に達する前に、ギャップを元に戻せば動作点は点pに復帰する。ギャップを点qを越えて増加させ(例えば線G
2)、動作点が不可逆領域に入ると(例えば点r)、ギャップを元(線G
1)に戻しても動作点は点pには復帰せず、点p’となる。
【0026】
図3は、保持力が異なる永久磁石aと永久磁石bのBHカーブを示す図である。永久磁石aは、永久磁石bに比べ保持力が小さい。保持力の大きい永久磁石bは、可逆減磁領域が広く、例えば、磁気回路中のギャップをG
1の状態からG
2の状態まで広げ、動作点が点b
1から点b
2まで移動しても、クニック点q
bを越えていないので、ギャップを元の状態(G
1)まで戻せば、動作点は点b
1まで戻る。一方で、保持力の小さい永久磁石aは、ギャップを広げると、動作点が点a
2(クニック点q
a)までの範囲であれば元の点a
1に戻る。しかし、動作点が点a
2を越え、例えば点b
2と同じギャップ状態となった点a
3に達すると、ギャップを元に戻しても動作点は点a
4となる。
【0027】
図4は、アクチュエータ10において、解放ばね18の付勢力F
Eに抗してアーマチャ14を動かすため力(以下「アーマチャ必要駆動力F
R」と記す。)と、磁力F
Mの関係を示す図である。アーマチャ必要駆動力F
Rは、摩擦等がない理想的な状態では、解放ばね18の付勢力F
Eと大きさが同じで向きが反対の力(F
R=−F
E)である。説明を簡単にするために、以下、摩擦等がないとした場合について説明する。
【0028】
図4において、アーマチャ必要駆動力F
Rは一点鎖線で示されている。可変永久磁石16の磁力F
Maは実線で示され、破線は可変永久磁石16に代えて保持力の大きい永久磁石を設けた場合の磁力F
Mbを示す。また、
図4中に示す点a
1〜a
4、点b
1〜b
2は、
図3中の点a
1〜a
4、点b
1〜b
2に対応する。
【0029】
保持力が大きい永久磁石b(例えばネオジム磁石)の場合、アーマチャ14が解放され、磁気回路の磁気抵抗が大きくなっても、動作点は可逆減磁領域にあるので、再びアーマチャ14が吸着されると磁力F
Mbは元の点b
1に復帰する。このため、アーマチャ14が振動など外乱により移動されてヨーク12に近づくと、本来の意図とは異なる状況でアーマチャ14が吸着状態となる場合がある。これに対して、保持力が小さい永久磁石aでは、一旦解放されたアーマチャ14をヨーク12に近づけ接合させたときの磁力F
Maは点a
4と小さいため、アーマチャ14がヨーク12に近づいても、アーマチャ14が吸着状態となりにくい。また、
図4に示すように点a
4がアーマチャ必要駆動力F
R未満であれば、解放ばねの付勢力F
Eが磁力F
Maに勝るため、アーマチャ14のヨーク12への意図しない吸着を防止することができる。言い換えれば、アーマチャ14の解離状態を確実に維持することができる。さらに、保持力が小さい永久磁石aにおいては、クニック点q
a(点a
2)を越えると磁力F
Maは、急激に低下するため、解放状態における磁力F
Ma(点a
3)も小さくなる。これにより、アーマチャ14が解放している状態でヨーク12に異物が付着することを抑制できる。
【0030】
アーマチャ14をヨーク12から解放するには、磁力F
Maがアーマチャ必要駆動力F
Rを下回るまでコイル20に通電すればよい。この後、解放ばね18の付勢力F
Eによりアーマチャ14は駆動される。保持力の小さい永久磁石aにおいては、吸着状態の磁力が保持力の大きい永久磁石の磁力と同じであっても(a
1=b
1)、クニック点q
a(点a
2)通過後、磁力F
Maが急激に低下するため、保持力の大きい永久磁石bに比べてコイル20の通電時間を短くすることができる。よって、少ない電力で、アーマチャ14を解放動作させることができる。
【0031】
また、
図4において、点a
2をアーマチャ必要駆動力F
R以下とすることにより、動作点がクニック点を越えないうちにコイル20の通電を停止すること、つまり動作点がクニック点を越えない範囲でコイルに通電を行うようすることができる。その後の磁気抵抗の増加により、可変永久磁石16の磁力が低下し、アーマチャ14が解放される。
【0032】
図5は、他の実施形態のアクチュエータ30の概略構成を示す図である。前述のアクチュエータ10と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図1と同様、(a)はヨーク12にアーマチャ14が吸着された状態を示し、(b)はヨーク12からアーマチャ14が解放された状態を示している。
【0033】
アクチュエータ30には、新たに永久磁石32が設けられている。永久磁石32は、保持力が大きく、アクチュエータ30の動作において極性が固定している磁石であり、以降、固定永久磁石32と記す。固定永久磁石32は、例えばネオジム磁石である。
【0034】
アーマチャ14が吸着状態にあるとき、可変永久磁石16の磁束Φ
1は、ヨーク12の一辺からアーマチャ14を通り、更にヨーク12の他辺と通って可変永久磁石16に戻る。磁路が閉じており、可変永久磁石16の磁力は維持される。固定永久磁石32の磁束Φ
2もヨーク12の一辺からアーマチャ14を通り、更にヨーク12の他辺を通って固定永久磁石32に戻る。可変永久磁石16の磁束Φ
1と固定永久磁石32の磁束Φ
2は、並行しており、可変永久磁石16と固定永久磁石32は並列接続された状態となっている。
【0035】
アーマチャ14が吸着状態にあるとき、コイル20に、可変永久磁石16による磁束Φ
1とは反対向きの磁束を発生させる電流を流し、可変永久磁石16の磁束Φ
1を減じる。このときの磁力が解放ばね18の付勢力F
Eを下回るように、可変永久磁石16および固定永久磁石32の磁気特性を定めておくことにより、付勢力F
Eによりアーマチャ14はヨーク12から解放される。アーマチャ14が解放されることで、磁路が開放して磁束Φ
1が減少し、可変永久磁石16は自己減磁する。
【0036】
さらに、アーマチャ14がヨーク12から解放されることで、固定永久磁石32のアーマチャ14を通る磁路(磁束Φ
2に沿う磁路)の磁気抵抗が大きくなり、固定永久磁石の磁束は、
図5(b)に示す磁束Φ
3のように流れる。磁束が、このように流れるように、アーマチャ14とヨーク12のギャップ、可変永久磁石16および固定永久磁石32などの磁気回路の特性を定めておく。固定永久磁石32の磁束が、可変永久磁石16に作用することで、可変永久磁石16の極性が反転する。これにより、ヨーク12、可変永久磁石16と固定永久磁石32が1つの閉じた磁路を形成し、これら2つの永久磁石16,32により磁束Φ
3が形成され、可変永久磁石16と固定永久磁石32は直列接続された状態となる。
【0037】
アーマチャ14が解放された状態では、磁束Φ
3はアーマチャ14と作用せず、解放ばね18の付勢力F
Eが勝った状態にあり、コイル20への通電を止めてもアーマチャ14の解放状態が維持される。アーマチャ14が外乱によってヨーク12に接近しても、磁力が作用していないためヨーク12に吸着されない。また、ヨーク12の外にでる磁束が少ないため、磁性体の異物の吸着を抑制することができる。
【0038】
アーマチャ14を吸着するには、磁束Φ
3とは反対向きの磁束が発生する向きの電流をコイル20に流す。コイル20による磁束が2つの磁石による磁束Φ
3を上回ると、その磁束がヨーク12を出てアーマチャ14を通るようになり、アーマチャ14に磁力が作用する。この磁力が解放ばね18の付勢力F
Eを上回るとアーマチャ14がヨーク12に吸着される。また、コイル20により生じた磁束は、可変永久磁石16の磁束の向きとは逆向きであり、可変永久磁石16の磁性が反転する。アーマチャ14が吸着されると、(a)に示す状態となる。
【0039】
アクチュエータ30は、アーマチャ14を吸着するとき、および解放するときにコイル20に電流を流せば動作し、吸着状態および解放状態を維持するためにコイル20に電流を流す必要がない。また、アーマチャ14を解放する際、可変永久磁石16の磁性を反転させる必要はなく、アーマチャ14の解放時にコイル20に流す電流を抑えることができる。
【0040】
前述の2つの実施形態において、可変永久磁石16はヨーク12内に配置したが、アーマチャ14内に配置されてもよい。固定永久磁石32は、可変永久磁石16と同じ構成要素(ヨークまたはアーマチャ)に配置される。また、アーマチャ14が吸着された状態における可変永久磁石16の動作点は、不可逆減磁領域にあってもよい。