特許第6834678号(P6834678)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6834678-ポリアミド樹脂の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834678
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/46 20060101AFI20210215BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C08G69/46
   C08G69/26
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-62688(P2017-62688)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-165298(P2018-165298A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/132775(WO,A1)
【文献】 特開平11−343341(JP,A)
【文献】 特開昭55−128014(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/039242(WO,A1)
【文献】 特開2014−037642(JP,A)
【文献】 特開平02−091123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/46
C08G 69/26
D06B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、かつ、繊維状の原料ポリアミド樹脂を、該原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水で前記繊維状の原料ポリアミド樹脂に摩擦を付加しながら洗浄することを含み、
前記ジアミンの一分子と前記ジカルボン酸の一分子から形成される環状化合物の割合が0.1〜0.6質量%であり、前記ジアミンの二分子と前記ジカルボン酸の二分子から形成される環状化合物の割合が0.3〜0.6質量%であるポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上が、キシリレンジアミンに由来し、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数4〜20の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、請求項1に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄の際に、水槽に前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水を貯めて洗浄し、かつ、前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水を撹拌することを含む、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄の際に、水槽に前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水を貯めて洗浄し、かつ、1回以上前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水を変えて洗浄することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記繊維状の原料ポリアミド樹脂に油剤を適用した後、前記洗浄を行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記繊維状の原料ポリアミド樹脂の洗浄時の単糸の平均繊度が1〜20dtexである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄前に、前記繊維状の原料ポリアミド樹脂をカットすることを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記洗浄時の原料ポリアミド樹脂の数平均繊維長が1〜200mmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記洗浄後のポリアミド樹脂をペレット化することを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記洗浄後のポリアミド樹脂における、前記ジアミンの一分子と前記ジカルボン酸の一分子から形成される環状化合物の割合と、前記ジアミンの二分子と前記ジカルボン酸の二分子から形成される環状化合物の割合の差が、0.3質量%以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂の原料モノマーに由来する低分子成分が効果に寄与しうる場合があることが知られている。
例えば、特許文献1には、ジアミン構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂であって、数平均分子量(Mn)が6,000〜30,000であり、分子量が1,000以下の成分を0.5〜5質量%含有するポリアミド樹脂(A)を、繊維材料(B)に含浸してなることを特徴とするポリアミド樹脂系複合材が開示されている。そして、かかる分子量が1,000以下の成分を含むことにより、弾性率に優れ、高温高湿度下での物性低下が少なく、低そり性であり、熱硬化性樹脂に比べて、リサイクル特性、成形性、生産性にも優れたキシリレン系ポリアミド樹脂複合材を容易に製造可能であることが記載されている。また、特許文献1には、「溶融重合により製造されたポリアミド樹脂(A)中には、環状化合物が相当量含まれている場合が多く、通常、熱水抽出等を行ってこれらは除去されている。この熱水抽出の程度を調整することにより、環状化合物量を調整することができる。また、溶融重合時の圧力を調整することでも可能である。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/140785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ポリアミド樹脂に含まれる環状化合物としては、一分子のジアミンと一分子のジカルボン酸から形成される環状化合物(以下、「CM1化合物」ということがある)や、二分子のジアミンと二分子のジカルボン酸から形成される環状化合物(以下、「CM2化合物」ということがある)などが含まれる。ポリアミド樹脂において、上記CM2化合物は、熱的に安定であり、かつ、ポリアミド樹脂の可塑剤として働くため、ポリアミド樹脂中に一定量含まれることが好ましい。一方、CM1化合物もポリアミド樹脂の可塑剤として働くが、熱的安定性に欠ける。そのため、ポリアミド樹脂中から、CM2化合物よりも、CM1化合物を選択的により多く除去できれば有益である。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、原料ポリアミド樹脂において、CM2化合物を一定量含みつつ、CM1化合物の含有量を選択的に低減したポリアミド樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、繊維状の原料ポリアミド樹脂に摩擦を付加しながら、原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の水で洗浄することにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>〜<10>により、上記課題は解決された。
<1>ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、かつ、繊維状の原料ポリアミド樹脂を、前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水で前記繊維状の原料ポリアミド樹脂に摩擦を付加しながら洗浄することを含み、前記ジアミンの一分子と前記ジカルボン酸の一分子から形成される環状化合物の割合が0.1〜0.6質量%であり、前記ジアミンの二分子と前記ジカルボン酸の二分子から形成される環状化合物の割合が0.3〜0.6質量%であるポリアミド樹脂の製造方法。
<2>前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上が、キシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数4〜20の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、<1>に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
<3>前記洗浄の際に、水槽に前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水を貯めて洗浄し、かつ、前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水を撹拌することを含む、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
<4>前記洗浄の際に、水槽に前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水を貯めて洗浄し、かつ、1回以上前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水を変えて洗浄することを含む、<1>〜<3>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
<5>前記繊維状の原料ポリアミド樹脂に油剤を適用した後、前記洗浄を行う、<1>〜<4>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
<6>前記繊維状の原料ポリアミド樹脂の洗浄時の単糸の平均繊度が1〜20dtexである、<1>〜<5>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
<7>前記洗浄前に、前記繊維状の原料ポリアミド樹脂をカットすることを含む、<1>〜<6>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
<8>前記洗浄時の原料ポリアミド樹脂の数平均繊維長が1〜200mmである、<1>〜<7>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
<9>前記洗浄後のポリアミド樹脂をペレット化することを含む、<1>〜<8>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
<10>前記洗浄後のポリアミド樹脂における、前記ジアミンの一分子と前記ジカルボン酸の一分子から形成される環状化合物の割合と、前記ジアミンの二分子と前記ジカルボン酸の二分子から形成される環状化合物の割合の差が、0.3質量%以下である、<1>〜<9>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、原料ポリアミド樹脂において、二分子のジアミンと二分子のジカルボン酸から形成される環状化合物を一定量含みつつ、一分子のジアミンと一分子のジカルボン酸から形成される環状化合物の含有量を選択的に低減したポリアミド樹脂の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施例6で用いたローラーの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明のポリアミド樹脂の製造方法は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、かつ、繊維状の原料ポリアミド樹脂を、前記原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水で前記繊維状の原料ポリアミド樹脂に摩擦を付加しながら洗浄することを含み、前記ジアミンの一分子と前記ジカルボン酸の一分子から形成される環状化合物の割合が0.1〜0.6質量%であり、前記ジアミンの二分子と前記ジカルボン酸の二分子から形成される環状化合物の割合が0.3〜0.6質量%であることを特徴とする。繊維状の原料ポリアミド樹脂に摩擦を付加しながら、原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の水で洗浄することにより、ポリアミド樹脂中のCM2化合物を一定量(0.3〜0.6質量%)含みつつ、CM1化合物の量を選択的に減らすことが可能になる。CM1化合物およびCM2化合物はいずれもポリアミド樹脂の可塑剤として働くが、CM1化合物は、CM2化合物に比べ、分子量が小さい分、熱的に不安定な傾向にある。そのため、本発明の製造方法のように、原料ポリアミド樹脂からCM1化合物を選択的に減らすことができると極めて有益である。
また、本発明の製造方法では、得られるポリアミド樹脂中のCM1化合物を0.1質量%以上含む構成とすることにより、成形の際に結晶化しやすくすることが可能になる。
【0010】
ここで、ジアミンとジカルボン酸から形成される環状化合物とは、ジアミンのアミノ基とジカルボン酸とカルボキシル基とがアミド結合によって連結し、環状構造を形成している化合物をいう。例えば、一分子のメタキシリレンジアミンと一分子のセバシン酸によって形成される環状化合物は、下記構造となる。
【化1】
【0011】
本発明では、原料ポリアミド樹脂として繊維状のものを用いる。繊維状とは、細長いもの、すなわち、幅(太さ)に対して、長さが長いものである。繊維状の原料ポリアミド樹脂を用いることにより、原料ポリアミド樹脂繊維に摩擦を付加しやすく、また、熱水で表面にCM1化合物が析出されやすくなる。また、原料ポリアミド樹脂を繊維状にせずに、砕くなどの手段も考えられるが、繊維幅と同程度の粒径まで砕くためには特別な処理を必要とし、コスト高になってしまう。
本発明では、洗浄時の原料ポリアミド樹脂繊維の単糸の平均繊度が1〜20dtexであることが好ましく、1.5〜15dtexであることがより好ましく、2〜10dtexであることがさらに好ましく、2〜9dtexであることが一層好ましく、2〜8dtexであることがより一層好ましい。また、洗浄時の原料ポリアミド樹脂繊維の数平均繊維長は、操作性の観点から、1〜200mmであることが好ましく、2〜150mmであることがより好ましく、5〜100mmであることがさらに好ましく、8〜80mmであることが一層好ましく、10〜60mmであることがより一層好ましい。
また、洗浄時の原料ポリアミド樹脂繊維は、数平均繊維長(mm)/単糸平均繊度(dtex)が0.05〜150であることが好ましく、0.1〜100であることがより好ましく、1〜75であることがさらに好ましく、3〜50であることが一層好ましく、5〜25であることがより一層好ましい。
【0012】
本発明で用いる原料ポリアミド樹脂繊維は、連続繊維であってもよい。本発明の製造方法は、連続繊維など、繊維長が長い時は、前記洗浄前に、原料ポリアミド樹脂繊維をカットすることを含むことが好ましい。連続繊維であっても、洗浄は可能であるが、カットすることにより操作性を向上させることができる。従って、本発明の製造方法は、洗浄前に、前記繊維状の原料ポリアミド樹脂をカットすることを含んでいてもよい。
【0013】
本発明で用いる原料ポリアミド樹脂繊維は、繊維束であってもよく、繊維束の場合、1本の束における繊維の本数は1000〜10000であることが好ましい。本発明では、繊維束を1〜20束を同時に洗浄することが好ましい。
本発明で用いる原料ポリアミド樹脂繊維は、延伸した繊維であることが好ましい。延伸することにより、繊維の表面積を大きくできる。延伸倍率は特に定めるものではないが、例えば、2〜5倍である。
また、本発明で用いる原料ポリアミド樹脂は、捲縮した繊維であることも好ましい。捲縮することにより、洗浄液が均一に流れやすくなり、より均一に低分子成分の分子量を調整することが可能になる。
【0014】
本発明の製造方法は、さらに、原料ポリアミド樹脂繊維に油剤を適用した後、洗浄を行うことも好ましい。例えば、ペレット状の原料ポリアミド樹脂を用いて繊維状にし、さらに、油剤を塗布した後、前記洗浄を行うことができる。
具体的には、ペレット状の原料ポリアミド樹脂を溶融紡糸し、油剤を適用することによって、繊維の引き取りの際に切れない様にでき、操作性を向上させることができる。また、捲縮に際し捲縮用の油剤を適用することも好ましい。油剤は熱水での洗浄の際に一緒に洗浄されるため、何ら問題ない。また、熱水での洗浄前に、常温(例えば、5〜45℃)の水で洗浄してもよい。
【0015】
本発明の製造方法の一実施形態として、ペレット状の原料ポリアミド樹脂を用いて繊維状にし、さらに、第一の油剤を適用した後、延伸し、5〜45℃の水で洗浄した後、第二の油剤を適用した後、捲縮し、その後、熱水で洗浄する形態が例示される。
油剤としては、エステル結合やエーテル結合、アミド結合や酸などの極性官能基を有し、ポリアミド樹脂のアミド結合と相互作用する化合物が挙げられる。エステル系化合物、アルキレングリコール系化合物、ポリオレフィン系化合物、フェニルエーテル系化合物を例示でき、より具体的には、不飽和脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル/不飽和脂肪酸エステルの混合物、グリセリンエステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましい。
原料ポリアミド樹脂繊維に適用する油剤の量は、延伸前の油剤および捲縮用の油剤について、それぞれ、原料ポリアミド樹脂繊維の0.1〜2.0質量%であることが好ましく、0.5〜1.5質量%であることがより好ましい。
【0016】
本発明の製造方法は、原料ポリアミド樹脂繊維を、原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度以上の温度の水で洗浄する。ガラス転移温度以上の温度の水で洗浄することにより、原料ポリアミド樹脂繊維の内部に含まれるCM1化合物や低分子成分を効果的に表面に析出することが可能になる。尚、低分子成分とは、ジアミンとジカルボン酸から形成されるアミド化合物であって、分子量1000以下の成分をいう。従って、CM1化合物やCM2化合物のほか、環状構造を形成していない、ジアミンとジカルボン酸から形成されるアミド化合物の二量体、三量体なども含まれる。
また、析出性だけを求める場合、メタノールなどの有機溶剤を用いることも考えられるが、環境的な条件が課せられる場合には、熱水洗浄できることが望ましい。
熱水は、原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)以上の温度であれば、特に定めるものではないが、Tg+10℃以上の温度であることが好ましく、Tg+20℃以上の温度であることがより好ましく、Tg+25℃以上の温度であることがさらに好ましい。また、前記熱水の温度の上限は、Tg+100℃以下の温度であることが好ましく、Tg+90℃以下の温度であることがより好ましく、Tg+80℃以下の温度であることがさらに好ましく、Tg+50℃以下の温度であることが一層好ましい。また、好ましい熱水の温度が沸点を超える場合は圧力釜を用いて熱水を所望の温度とすることが好ましい。
尚、本発明では、洗浄時の熱水の温度がガラス転移温度以上であればよい。従って、原料ポリアミド樹脂繊維をガラス転移温度未満の温度の水に添加し、その後、加熱して水の温度をガラス転移温度以上の温度にする場合も、本発明の製造方法の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0017】
熱水は、純水(超純水を含む)が好ましいが、天然水、水道水(日本、米国、中国、欧州、韓国、台湾その他の国の水道水)、硬水、軟水、アルカリイオン水、バナジウム水、水素水、温泉水、海洋深層水、酸素水、炭酸水、ミネラルウオーター、ナチュラルウオーター、RO(逆浸透)膜水なども好ましく用いることができる。さらに、熱水には添加剤を配合してもよい。添加剤としては、有機溶剤、界面活性剤、不凍液、着色剤、抗菌剤、漂白剤などが例示される。本発明における洗浄に用いる熱水は、水が全体の90質量%を占めるものであり、95質量%以上を占めることが好ましく、99質量%以上を占めることがより好ましい。
【0018】
洗浄は、水槽中に熱水を貯めて行ってもよいし、熱水を注水しながら行ってもよい。本発明では、熱水を貯めた状態で洗浄することが好ましい。本発明は特に、水槽に熱水を貯めて洗浄し、かつ、1回以上熱水を変えて洗浄することが好ましく、2回以上熱水を変えて洗浄することがより好ましく、2〜5回熱水を変えて洗浄することがさらに好ましい。熱水を貯めて、かつ、熱水を変えて洗浄することにより、少ない熱水の量で効果的に洗浄することが可能になる。さらに、熱水を変えて洗浄することにより、原料ポリアミド樹脂繊維から除去したCM1化合物が再度ポリアミド樹脂繊維の表面に吸着することを効果的に抑制できる。
【0019】
また、1回以上熱水を変えて洗浄する場合、1回目の熱水と、2回目以降の熱水は同じ温度であっても異なる温度であってもよい。
洗浄に際し、原料ポリアミド樹脂繊維と熱水(総量)の質量比率は、1:1〜1000であることが好ましく、1:5〜100であることがより好ましく、1:7〜50であることがさらに好ましい。
特に、水槽に熱水を貯めて洗浄する場合、原料ポリアミド樹脂繊維と熱水(1回の水槽に貯める量)の質量比率は、1:1〜100であることが好ましく、1:5〜50であることがより好ましく、1:7〜20であることがさらに好ましい。このような量比とすることにより、原料ポリアミド樹脂繊維から除去したCM1化合物が再度繊維の表面に付着することを効果的に抑制することができる。特に、2回以上熱水を変えて洗浄する場合の原料ポリアミド樹脂繊維と熱水の質量比率は、1:5〜50であることが好ましく、1:7〜20であることがより好ましく、1:7〜15であることがさらに好ましい。
水槽の容積は、例えば、工業的に行う場合、1〜5000Lとすることができる。
【0020】
洗浄時間は、熱水の量等に応じて適宜定めることができる。例えば、水槽に熱水を貯めて行う場合、5〜60分であることが好ましく、10〜30分であることがより好ましい。特に、2回以上熱水を変えて洗浄する場合、1回ごとの洗浄が、5分以上であることが好ましく、8分以上であることがより好ましく、また、30分以下であることが好ましく、20分以下であることがより好ましく、15分以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の製造方法は、原料ポリアミド樹脂繊維に摩擦を付加しながら洗浄することを含む。摩擦を付加することにより、原料ポリアミド樹脂繊維の表面に付着したCM1化合物や低分子成分をより効果的に除去することが可能になる。
摩擦を付加する方法としては、特に、定めるものではない。
摩擦を付加する方法の第一の実施形態としては、繊維同士で摩擦を付加する方法が例示される。例えば、洗浄の際に、水槽に熱水を貯めて洗浄し、かつ、熱水を撹拌することが挙げられる。撹拌速度は、例えば、10〜100rpmとすることができる。撹拌翼式洗濯機などもこの実施形態に含まれる。
摩擦を付加する方法の第二の実施形態は、繊維以外のものによって、繊維に摩擦を付加する方法が挙げられる。具体的には、熱水の水流によって摩擦を付加する方法が例示される。例えば、超音波洗浄などが例示される。また、繊維に直接に摩擦を付加する方法も例示される。例えば、開繊した繊維を、ロールガイドを通過させることによって摩擦を付加する方法、ドラム式洗浄機の縦回転により繊維を水面に叩きつけることで摩擦を付与する方法が例示される。
また、原料ポリアミド樹脂繊維の洗浄に際し、原料ポリアミド樹脂繊維を網などに入れて洗浄してもよい。
【0022】
本発明の製造方法は、上記洗浄後、乾燥する工程を含んでいてもよい。乾燥は、空気中で、原料ポリアミド樹脂のTg−40〜Tg+100℃で行うことが好ましく、Tg−30〜Tg+50℃で行うことがより好ましく、Tg−20〜Tg+30℃で行うことがさらに好ましい。乾燥は、洗浄前の原料ポリアミド樹脂と洗浄後のポリアミド樹脂の質量の差が、洗浄前の原料ポリアミド樹脂の質量の1質量%以下になるまで行うことが例示される。
【0023】
上記洗浄および乾燥後のポリアミド樹脂は繊維状のものをそのまま用いてもよいし、さらに加工してもよい。本発明の製造方法は、前記洗浄後のポリアミド樹脂をペレット化することを含んでいてもよい。
【0024】
<原料ポリアミド樹脂>
本発明で用いる原料ポリアミド樹脂は、公知の方法で合成されたポリアミド樹脂や、リサイクル品のポリアミド樹脂などが例示される。本発明で用いる原料ポリアミド樹脂におけるCM1化合物の含有量は、得られるポリアミド樹脂中のCM1化合物の質量よりも多い限り、特に定めるものでは無いが、得られるポリアミド樹脂中のCM1化合物の質量の、例えば1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上の量である。
原料ポリアミド樹脂におけるCM1化合物の含有量は、具体的には、例えば、0.8質量%を超える量が挙げられ、さらには1.0質量%以上であり、また、例えば、3質量%以下であり、さらには2.5質量%以下、2質量%以下、1.7質量%以下等であってもよい。
本発明で用いる原料ポリアミド樹脂は、CM2化合物の割合が、例えば、0.3〜0.7質量%であり、さらには0.3〜0.6質量%、特には0.3〜0.5質量%であってもよい。
また、本発明で用いる原料ポリアミド樹脂は、低分子成分の割合が、例えば、1〜5質量%であり、さらには1.1〜4質量%、1.2〜3質量%、1.3〜2質量%等であってもよい。
【0025】
本発明で用いる原料ポリアミド樹脂のガラス転移温度は、40〜130℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましい。
本発明で用いる原料ポリアミド樹脂の融点は、170〜310℃であることが好ましく、180〜290℃であることがより好ましい。本発明で用いる原料ポリアミド樹脂の冷却時結晶化温度は、100〜280℃であることが好ましく、130〜250℃であることがより好ましい。
本発明におけるガラス転移温度、融点および冷却時結晶化温度は、後述する実施例の記載に従って測定される。実施例で使用する機器が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を使用することができる。以下、他の測定方法についても同様である。
ポリアミド樹脂が2種以上のポリアミド樹脂からなる場合、ガラス転移温度が高い方のポリアミド樹脂のガラス転移温度を本発明におけるポリアミド樹脂のガラス転移温度とする。
ポリアミド樹脂が2種以上のポリアミド樹脂からなる場合、融点が低い方のポリアミド樹脂の融点を本発明におけるポリアミド樹脂の融点とする。
ポリアミド樹脂が融点を2点以上有する場合、最も低い融点を本発明におけるポリアミド樹脂の融点とする。
ポリアミド樹脂が2種以上のポリアミド樹脂からなる場合、冷却時結晶化温度が高い方のポリアミド樹脂の冷却時結晶化温度を本発明におけるポリアミド樹脂の冷却時結晶化温度とする。
【0026】
本発明で用いる原料ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成される。原料ポリアミド樹脂は、ジアミンとジカルボン酸を重縮合して合成するため、CM1化合物、CM2化合物および低分子成分が生成する。
本発明におけるジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、キシリレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0027】
本発明におけるジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0028】
本発明では特に、原料ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上(好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上)が、キシリレンジアミンおよびビス(アミノメチル)シクロヘキサンから選択される少なくとも1種(好ましくはキシリレンジアミン)に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上(好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上)が炭素数4〜20の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来することが好ましい。
キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンおよびメタキシリレンジアミンの少なくとも1種であることが好ましく、0〜70モル%のパラキシリレンジアミンと、100〜30モル%のメタキシリレンジアミンからなることがより好ましい。
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの少なくとも1種であることが好ましい。特に、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、トランス体とシス体があるが、トランス体:シス体(モル比率)が100〜30:0〜70であることが好ましく、100〜51:0〜49であることがより好ましく、100〜60:0〜40であることがさらに好ましい。
本発明の製造方法は、炭素数4〜20の直鎖脂肪族ジカルボン酸として、炭素数8〜20の直鎖脂肪族ジカルボン酸(特に、セバシン酸)を用いるポリアミド樹脂に有益である。これは、このようなジカルボン酸から構成される原料ポリアミド樹脂は、CM1化合物の量がCM2化合物の量よりも多くなる傾向にあるためである。
炭素数4〜20の直鎖脂肪族ジカルボン酸は、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。
上記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上が、キシリレンジアミンおよびビス(アミノメチル)シクロヘキサンから選択される少なくとも1種に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数4〜20の直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂は他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位は、上記ジアミンおよびジカルボン酸の例示から適宜選択される。
【0029】
尚、原料ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位とジアミン由来の構成単位から構成されるが、ジカルボン酸由来の構成単位およびジアミン由来の構成単位以外の構成単位や、末端基等の他の部位を含みうる。他の構成単位としては、ε−カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタム、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸等由来の構成単位が例示できるが、これらに限定されるものではない。本発明で用いる原料ポリアミド樹脂は、通常、95質量%以上、好ましくは98質量%以上が、より好ましくは99質量%以上が、ジカルボン酸由来の構成単位またはジアミン由来の構成単位である。
【0030】
本発明で好ましく用いられる原料ポリアミド樹脂としては、メタキシリレンジアミンとアジピン酸から合成されるポリアミド樹脂、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとアジピン酸から合成されるポリアミド樹脂、メタキシリレンジアミンとセバシン酸から合成されるポリアミド樹脂、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンとセバシン酸から合成されるポリアミド樹脂、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとアジピン酸から合成されるポリアミド樹脂、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとセバシン酸から合成されるポリアミド樹脂、ならびに、これらの原料モノマーであるジアミンおよびジカルボン酸の10質量%以下が他のジアミンまたはジカルボン酸に置き換わったポリアミド樹脂である。
【0031】
本発明では、原料ポリアミド樹脂を1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0032】
<得られるポリアミド樹脂>
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂(洗浄後のポリアミド樹脂)は、原料ポリアミド樹脂と同じジアミン由来の構成単位と原料ポリアミド樹脂と同じジカルボン酸由来の構成単位から構成されるポリアミド樹脂であって、前記ジアミンの一分子と前記ジカルボン酸の一分子から形成される環状化合物(CM1化合物)の割合が0.1〜0.6質量%であり、前記ジアミンの二分子と前記ジカルボン酸の二分子から形成される環状化合物(CM2化合物)の割合が0.3〜0.6質量%である。
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂中のCM1化合物の量は、0.55質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.45質量%以下がさらに好ましく、0.4質量%以下がさらに好ましい。CM1化合物の量の下限値は、0.15質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.25質量%以上であってもよい。CM1化合物の量を上記下限値以上とすることにより、より結晶化しやすくなり、より成形性に優れる。
【0033】
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂中のCM2化合物の量は、0.3〜0.55質量%であることが好ましく、0.3〜0.5質量%であることがより好ましく、0.3〜0.45質量%であることがさらに好ましく、0.3〜0.4質量%であることが一層好ましい。
原料ポリアミド樹脂を2種以上用いた場合、CM1化合物およびCM2化合物をそれぞれ複数種含みうるが、この場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂(すなわち、上記洗浄後のポリアミド樹脂)における、前記ジアミンの一分子と前記ジカルボン酸の一分子から形成される環状化合物の割合と、前記ジアミンの二分子と前記ジカルボン酸の二分子から形成される環状化合物の割合の差が、0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、CM1化合物およびCM2化合物の可塑剤としての効果がより効果的に発揮される。
【0035】
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂中のCM1化合物の量は、原料ポリアミド樹脂中のCM1化合物の量の70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。また、前記CM1化合物の量の下限値は、例えば、10質量%以上とすることができる。このような範囲とすることにより、得られるポリアミド樹脂がより耐熱性に優れ、かつ、CM1化合物およびCM2化合物の可塑剤としての効果がより効果的に発揮される。
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂中のCM2化合物の量は、原料ポリアミド樹脂中のCM1化合物の量の35質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。前記CM2化合物の量の上限値は、100質量%以下とすることができる。このような範囲とすることにより、得られるポリアミド樹脂がより耐熱性に優れる傾向にある。
また、本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂における、分子量1000以下の成分の割合は、0.2〜1.5質量%であることが好ましく、0.3〜1.3質量%であることがより好ましく、0.4〜1.2質量%であることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、可塑剤としての効果がより効果的に発揮される。
【0036】
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂のガラス転移温度は、40〜130℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましい。さらに、原料ポリアミド樹脂と、本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂のガラス転移温度の差は、10℃以下であることが好ましく、5℃以下であることがより好ましい。
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂の融点は、170〜310℃であることが好ましく、180〜290℃であることがより好ましい。さらに、原料ポリアミド樹脂と、本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂の融点の差は、10℃以下であることが好ましく、5℃以下であることがより好ましい。
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂の冷却時結晶化温度(Tcc)は、115〜295℃であることが好ましく、145〜265℃であることがより好ましい。さらに、原料ポリアミド樹脂と、本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂の冷却時結晶化温度の差は、5℃以上とすることができ、さらには、10℃以上とすることができ、特には、12℃以上、13℃以上等とすることができる。前記冷却時結晶化温度の差の上限値は特に定めるものではないが、例えば50℃以下であり、さらには40℃以下であり、特には30℃以下、25℃以下、20℃以下等でも本発明の要求性能を満たすものである。
【0037】
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂は、重量平均分子量(Mw)が6,000〜60,000であることが好ましく、より好ましくは8,000〜55,000であり、さらに好ましくは9,000〜50,000であり、一層好ましくは10,000〜45,000であり、より一層好ましくは11,000〜43,000である。
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂の重量平均分子量は、原料ポリアミド樹脂の重量平均分子量との差が、10000以下であることが好ましく、7500以下であることがより好ましく、5000以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)が6,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは8,000〜28,000であり、さらに好ましくは9,000〜26,000であり、一層好ましくは10,000〜25,000であり、より一層好ましくは11,000〜24,000である。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂の数平均分子量は、原料ポリアミド樹脂の数平均分子量との差が、5000以下であることが好ましく、4000以下であることがより好ましく、3000以下であることがさらに好ましい。
重量平均分子量および数平均分子量は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0039】
<用途>
本発明の製造方法により得られたポリアミド樹脂は、上記特許文献1に記載のポリアミド樹脂系複合材等に好ましく用いられる。その他、繊維、糸、ロープ、チューブ、ホース、フィルム、シート、各種成形材料、各種部品、完成品に広く用いられる。
本発明の製造方法により得られたポリアミド樹脂の成形方法としては、従来公知の成形方法が各種採用できる。具体的には、射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、真空成形、プレス成形、ダイレクトブロー成形、回転成形、サンドイッチ成形および二色成形等の成形方法を例示することができる。
利用分野については特に定めるものではなく、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0041】
<ポリアミド樹脂MP10の合成例>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油(株)製、TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol、三菱ガス化学社製)を、溶融したセバシン酸に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂MP10を得た。
得られた原料ポリアミド樹脂について、ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、冷却時結晶化温度(Tcc)、CM1化合物の量、CM2化合物の量、および低分子成分の量について測定した。
【0042】
<<ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)および冷却時結晶化温度(Tcc)の測定方法>>
示差走査熱量の測定はJIS K7121およびK7122に準じて行った。示差走査熱量計を用い、上記ポリアミド樹脂ペレットを砕いて示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で280℃まで昇温し、急冷する前処理を行った後に測定を行った。測定条件は、昇温速度10℃/分で、280℃で5分保持した後、降温速度−5℃/分で100℃まで測定を行い、ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)および冷却時結晶化温度(Tcc)を求めた。
示差走査熱量計としては、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC−60」を用いた。
【0043】
<<ポリアミド樹脂のCM1化合物の量、CM2化合物の量および低分子成分の量>>
ポリアミド樹脂のCM1化合物の量、CM2化合物の量および低分子成分の量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めた。カラムとしては、充填剤として、スチレン系ポリマーを充填したものを2本用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウム濃度2mmol/Lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度は40℃、流速0.3mL/分、屈折率検出器(RI)にて測定した。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定した。
CM1化合物、CM2化合物および低分子成分の量は、分子量1000より大きいポリアミド樹脂の全量に対する量(質量%)として示した。ここで、GPCで得られる各成分は面積%として得られるが、面積%は質量%と同等とみなすことができるため、かかる値を質量%として記載する。
本実施例で用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置は、東ソー社(TOSOH CORPORATION)製「HLC−8320GPC」であり、測定用カラムは「TSKgel SuperHM−H」である。
【0044】
<原料ポリアミド樹脂>
MP10:上記合成例で得られた樹脂
MP10−2:上記MP10の合成例において、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比を60/40に変更した他は同様に合成して得た。
【0045】
<実施例1>
ポリアミド樹脂を単軸押出機にて、ポリアミド樹脂の融点+30℃で溶融押出しし、600穴のダイから押出し、油剤(花王社製、エマノーン1112)をポリアミド樹脂の1.3質量%の割合となる様に塗布し、3倍に延伸した後、引き取り、ポリアミド樹脂繊維束を得た。得られたポリアミド樹脂の単糸の平均繊度は3.3dtex、繊維数は600fであった。前記油剤を25℃の神奈川県平塚市の水道水を含む水槽にて落とし、捲縮用の油剤(竹本油脂社製、デリオン6033)をポリアミド樹脂の1.3質量%の割合となる様に塗布した。その後、表1に示す数平均繊維長となるように切断し、180℃の加熱スチーム処理によりスパイラル状に捲縮発現させ、150℃の温度で5分熱セットして捲縮した。
【0046】
次いで、内径5cm、高さ20cmの円筒状の水槽であって、中央に撹拌用の芯部を有する水槽に表1に示す温度の超純水10mLを入れ、ポリアミド樹脂繊維1gを入れた後、撹拌用の芯部を50rpmの速度で、10分間回転させることにより、超純水を撹拌して洗浄した。10分洗浄後、超純水を入れ替えることを2回繰り返し洗浄した。その後、80℃空気中で、洗浄前の質量になるまで乾燥させた。
乾燥後、ポリアミド樹脂を単軸押出機にて、ポリアミド樹脂の融点+30℃で溶融押出しペレット化した。
洗浄後のポリアミド樹脂について、ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)、冷却時結晶化温度(Tcc)、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、CM1化合物の量、および低分子成分の量について測定した。
【0047】
<<ポリアミド樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)>>
ポリアミド樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めた。カラムとしては、充填剤として、スチレン系ポリマーを充填したものを2本用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウム濃度2mmol/Lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度は40℃、流速0.3mL/分、屈折率検出器(RI)にて測定した。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定した。
【0048】
<<平均繊度および数平均繊維長の測定方法>>
平均繊度をL 1013 B法にて、数平均繊維長をJIS P8226にて測定した。数平均繊維長は、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK−9500(コントローラー部)/VK−9510(測定部)(キーエンス社製)を使用した。平均繊度の単位はdtex、数平均繊維長の単位はmmで示した。
【0049】
<実施例2>
実施例1において、繊維長を5mmに変更し、他は同様に行った。
【0050】
<実施例3>
実施例1において、超純水の温度を120℃に変更し、他は同様に行った。
【0051】
<実施例4>
実施例1において、超純水の入れ替えを行わず30分間洗浄し、他は同様に行った。
【0052】
<実施例5>
実施例1において、超純水に代え、神奈川県平塚市の水道水を用い、他は同様に行った。
【0053】
<実施例6>
実施例1において、繊維をカットせずに連続繊維を用い、撹拌による洗浄の代わりに、90℃の超純水中で、図1に示すような1本のガイドローラー(固定ローラー)1と、一本の回転ローラー2に対してポリアミド樹脂繊維3を巻きつけ、10分間、回転ローラーを回転させることによりガイドローラー1とポリアミド樹脂繊維3間に摩擦を与えた。使用したポリアミド樹脂繊維は100g、使用した超純水の総量は、5000mLである。
【0054】
<実施例7>
実施例1において、撹拌による洗浄の代わりに、繊維を金網に挾み、10L/分の水流で90℃の超純水を循環させることで繊維に摩擦を与えた他は同様に行った。使用したポリアミド樹脂繊維は100g、使用した超純水の総量は、1000mLである。
【0055】
<実施例8>
実施例1において、ポリアミド樹脂繊維にMP10−2を用い、他は同様に行った。
【0056】
<比較例1>
実施例1において、超純水の温度を40℃に変更し、他は同様に行った。
【0057】
<比較例2>
実施例1において、原料ポリアミド樹脂を繊維状にせず、ペレットを粉砕した。粉砕した粉砕品を孔径710μmのメッシュを通過させ、通過したものを原料ポリアミド樹脂として用いた。他は実施例1と同様に行った。
【0058】
<比較例3>
実施例1において、撹拌せずに、他は同様に行った。すなわち、摩擦をかけずにポリアミド樹脂繊維を洗浄した。
【0059】
<比較例4>
実施例1において、繊維の洗浄に際し、超純水の代わりに65℃のメタノール還流条件下で実施した他は同様に行った。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
上記結果から明らかなとおり、本発明の製造方法によれば、CM1化合物を選択的に減らし、適量のCM2化合物を含むポリアミド樹脂を製造することが可能になった(実施例1〜8)。特に、CM1化合物の量をCM2化合物の量と同程度まで減らすことが可能になった(実施例1〜8)。
さらに、水を変えて洗浄することにより、CM1化合物の量をより効果的に減らすことが可能になった。
一方、洗浄する水が原料ポリアミド樹脂のTg未満の温度である場合(比較例1)、原料ポリアミド樹脂として、繊維状以外のものを用いた場合(比較例2)、摩擦を付加していない場合(比較例3)、いずれも、CM1化合物の量を十分に低減させることができなかった。
また、水ではなく、メタノールで洗浄した場合(比較例4)、CM1化合物もCM2化合物も格段に低減してしまった。
【符号の説明】
【0063】
1 ガイドローラー
2 回転ローラー
3 ポリアミド樹脂繊維
図1