(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第一実施形態)
【0015】
図1に示すように、第一実施形態に係るプラズマ光源1は、二つの同軸状電極10を対向して配置して構成されており、いわゆる対向型プラズマフォーカス方式のプラズマ光源である。この対向型プラズマフォーカス方式のプラズマ光源1が動作するとき、まず、中心電極11と外部電極12との間に電圧を印加する。そして、何らかのトリガーを入力することにより、中心電極11と外部電極12との間にリング状の初期プラズマを生成させる。初期プラズマは、電磁力によって中心電極11の先端方向に移動する。そして、初期プラズマは、中心電極11の先端部で径方向に収束して高温高密度状態に達する。そして、それぞれの中心電極11の先端部に達したプラズマ同士を衝突させることにより、さらに高温化及び高密度化されたプラズマが形成される。この高温及び高密度状態のプラズマから極端紫外光が発生する。
【0016】
初期プラズマを発生させる方式の一つに、レーザ光によってプラズマ媒質を蒸発(アブレーション)させる方式がある。固体又は液体のプラズマ媒質材にレーザ光を照射することでプラズマ媒質を放出させて媒質蒸気を発生させる。その媒質蒸気を介して、中心電極11と外部電極12との間に放電を生じさせる。また、プラズマ媒質材としては固体、液体、気体のいずれであってもよく、発生させたい光の波長によって選択される。
【0017】
本実施形態に係るプラズマ光源1は、たとえば、半導体素子を製造するための露光装置に適用される。プラズマ光源1は、たとえば波長13.5nmの極端紫外光(EUV)を発生可能に構成されている。プラズマ光源1は、極端紫外光を発生させることにより、微細なパターンを形成するフォトリソグラフィを可能にする。
【0018】
プラズマ光源1は、プラズマを発生させる一対の同軸状電極10、同軸状電極10に電圧を与える電圧印加部20、レーザ照射を行うレーザ照射部30、および、プラズマ媒質を放出するプラズマ媒質材41を備えている。
【0019】
一対の同軸状電極10、10は、チャンバ2内に収容されており、軸線A上において互いに対面するように配置され、互いに先端側を突き合わせるように設けられている。一対の同軸状電極10は、仮想の中央面Pに関して面対称に配置されている。一対の同軸状電極10の間には、一定の間隔(空間)が設けられている。チャンバ2には一又は複数の排気管3が設けられており、排気管3には真空ポンプ(図示せず)が接続される。チャンバ2内は所定の真空度に維持される。チャンバ2は、接地されている。
【0020】
同軸状電極10は、中心電極11の周りに複数の外部電極12を配置して構成される。同軸状電極10は、中心電極11と各外部電極12との間の空間で放電を行う電極ユニットであり、中心電極11及び外部電極12は導電体により構成される。中心電極11及び複数の外部電極12の基端側は絶縁体13に支持されている。中心電極11は棒状体であって、軸線A上に沿って延びている。外部電極12も棒状体であって、中心電極11と同方向に向けて設けられている。
【0021】
一対の同軸状電極10、10において、左側の同軸状電極10の中心電極11は、右側の同軸状電極10に向かって延びている。中心電極11は、高温に対して損傷され難い金属からなることが望ましい。中心電極11は、たとえばタングステン(W)やモリブデン(Mo)等の高融点金属製のものが用いられる。中心電極11の軸線Aは、上記した中央面Pに直交する。
【0022】
左側の同軸状電極10の外部電極12は、右側の同軸状電極10に向かって延びる棒状体である。外部電極12は、軸線Aに対して傾いた方向に延びていてもよい。例えば、中心電極11の側面から外部電極12までの距離が常に一定になるように、外部電極12は側面に対して平行である方向に延びていてもよい。外部電極12は、高温に対して損傷され難い金属からなることが望ましい。外部電極12は、たとえばタングステン(W)やモリブデン(Mo)等の高融点金属製のものが用いられる。
【0023】
図2は中心電極11及び外部電極12の斜視図である。この
図2において、説明の便宜上、プラズマ媒質材41の図示を省略している。
【0024】
図2に示すように、外部電極12は、中心電極11の周囲に配置されている。外部電極12は、中心電極11に対して所定の間隔を有している。複数の外部電極12は、中心電極11の周方向において等間隔又はほぼ等間隔に配置されている。
図2では、中心電極11の周囲に四つの外部電極12が配置される場合を示しているが、外部電極12の本数は四つに限定されず、複数であればそれ以外の数を配置してもよい。また、中心電極11および外部電極12の大きさや形状、これらの間隔などに応じて適宜設定され得る。中心電極11のまわりに複数の外部電極12が配置されることにより、初期放電(たとえば沿面放電)が、中心電極11と外部電極12との間に発生する。この初期放電は、面状となるプラズマを形成する。
【0025】
中心電極11、外部電極12の対峙位置には軸方向へ延びる突部11c、12cが形成されている。たとえば、中心電極11は、断面四角形の角柱体又は角錐体として構成され、四つの角部がそれぞれ突部11cとして機能する。外部電極12は、たとえば断面三角形の角柱体又は角錐体として形成され、中心電極11に対峙する角部が突部12cとして機能する。ここで、中心電極11、外部電極12の対峙位置には、互いにほぼ対峙する位置も含み、突部11c、12cが放電を生じさせる端部として機能すればよい。中心電極11、外部電極12の軸方向とは、中心電極11、外部電極12が棒状体として形成される場合、中心電極11、外部電極12の長手方向を意味する。
【0026】
このように、中心電極11、外部電極12の対峙位置に突部11c、12cが形成されることにより、中心電極11と外部電極12の間で放電が起こる時に、突出する突部11c、12cの間で放電が行われることとなり、中心電極11の周方向における放電位置が安定する。これにより、安定した放電を通じてプラズマ生成の安定化が図れる。
【0027】
中心電極11の突部11c及び外部電極12の突部12cは、いずれか一方のみを形成してもよい。たとえば、外部電極12として円柱体のものを用い、突部12cの形成を省略する場合もある。また、中心電極11として円柱体又は円錐体のものを用い、突部11cの形成を省略する場合もある。これらの場合であっても、一方の突部11c又は突部12cが形成されることで放電位置を安定させることができる。また、中心電極11は、外部電極12の設置数に応じ、断面四角形以外の断面多角形の形状であってもよい。外部電極12は、断面三角形以外の断面多角形の形状であってもよい。中心電極11、外部電極12として断面多角形の部材を用いることにより、単純な形状物でありながら角部を突部11c、12cとして機能させることができ、突部11c、12cの耐久性の向上が図れる。また、単純な形状であるので、中心電極11、外部電極12の製作が容易となる。
【0028】
なお、中心電極11及び外部電極12として断面円形の形状物を用いた場合、突部11c及び突部12cは中心電極11及び外部電極12の表面から突出し軸方向に延びる形状としてもよい。
【0029】
図1において、絶縁体13は、たとえば円板状をなすセラミックス製の板が用いられる。絶縁体13は、中心電極11と外部電極12の基部を支持し、これらの間隔を規定する。絶縁体13は、中心電極11と外部電極12を離して支持することにより中心電極11と外部電極12を電気的に絶縁する。
【0030】
電圧印加部20は、同軸状電極10に放電電圧を印加する。電圧印加部20は、たとえば2台の高圧電源(HV Charging Device)21,22を備える。第1高圧電源21の出力側は、一方の(たとえば図示左側の)同軸状電極10の中心電極11に接続されている。第1高圧電源21のコモン側は、その中心電極11に対応する外部電極12に接続されている。第1高圧電源21は、その中心電極11に対応する外部電極12よりも高い正の放電電圧を印加する。なお、第1高圧電源21は、その中心電極11に対応する外部電極12よりも低い負の放電電圧を印加してもよい。第2高圧電源22の出力側は、他方の(たとえば図示右側の)同軸状電極10の中心電極11に接続されている。第2高圧電源22のコモン側は、その中心電極11に対応する外部電極12に接続されている。第2高圧電源22は、その中心電極11に対応する外部電極12よりも高い正の放電電圧を印加する。なお、第2高圧電源22は、その中心電極11に対応する外部電極12よりも低い負の放電電圧を印加してもよい。いずれの高圧電源のコモン側も接地されていてもよい。以下の説明では、第1高圧電源21を単に電源21という。同様に、第2高圧電源22を単に電源22という。
【0031】
なお、電源21,22のコモン側には、ロゴスキーコイル等を用いて誘導結合された線路が設けられてもよい。これらの線路により、中心電極11を経由した電流(すなわち、すべての放電電流)をオシロスコープ(Oscilloscope)で観察することができる。
【0032】
プラズマ光源1は、さらに、電圧印加部20からの放電電圧を放電エネルギとして外部電極12毎に蓄積するエネルギ蓄積回路26を備えている。エネルギ蓄積回路26は、中心電極11と各外部電極12との間を個別に接続する複数のキャパシタCを含む。放電エネルギを蓄積するキャパシタCが外部電極12ごとに設けられることにより、すべての外部電極12において放電が発生し得る。すなわち、放電の発生タイミングに多少のずれが生じた場合でも、最初に発生した放電によって多くの放電エネルギが消費されることが防止される。エネルギ蓄積回路26を備えることにより、同軸状電極10において、中心電極11の周りに、対称性のある理想的な多重放電が得られる。
【0033】
プラズマ光源1は、さらに、電圧印加部20に放電電流が帰還することを阻止する放電電流阻止回路28を備えている。放電電流阻止回路28は、外部電極12と電圧印加部20(具体的には電源21,22のコモン側)との間を接続するインダクタLを含む。インダクタLは、放電電流に対して十分に高いインピーダンスを有するため、中心電極11及び外部電極12を経由した放電電流は、その発生源であるエネルギ蓄積回路26に戻され得る。これにより、キャパシタCに蓄積された放電エネルギが当該キャパシタCに直結した外部電極12以外の外部電極12に供給されることを防止できる。その結果、中心電極11の周方向における放電の発生分布に偏りが生じることを防止できる。
【0034】
上述した電圧印加部20の動作について説明する。まず、電源21,22によってキャパシタCに電荷を予め蓄積(充電)する。そして、中心電極11と外部電極12との間にプラズマ媒質が供給されることにより、キャパシタCの正極側から負極側へ電流が流れる。この電流は、キャパシタCに蓄積された電荷量に相当する電流が電気回路の時定数に従ってパルス的に流れる。つまり、電荷は、中心電極11、多重放電6、及び外部電極12の順に流れ、最終的にキャパシタCの負極側に戻る。この電流が流れている間に、多重放電6によって形成された面状なプラズマは中心電極11の先端部まで移動して先端部において単一のプラズマとして収束することにより発光する。
【0035】
レーザ照射部30は、レーザ装置31と、ビームスプリッタ(ハーフミラー)34と、ミラー35とを有する。レーザ装置31から出射されたレーザ光32は、ビームスプリッタ34及びミラー35を介してプラズマ媒質材41に照射される。このレーザ光の照射によってアブレーションが発生し、プラズマ媒質の蒸気(媒質蒸気)が発生する。レーザ装置31はたとえばYAGレーザであり、アブレーションを行うために基本波又は基本波の二倍波を短パルスのレーザ光として出力する。
【0036】
レーザ装置31は、レーザ光32を出射する。レーザ光32は、ビームスプリッタ34やミラー35等の光学素子により、少なくとも2本のレーザ光32a,32bに分岐され、プラズマ媒質材41に照射される。レーザ光32a,32bが照射されたプラズマ媒質材41の表面では、アブレーションによってプラズマ媒質材41の一部がプラズマ媒質として放出される。ここで、プラズマ媒質は、プラズマ媒質材41の粒子ないし媒質蒸気であり、プラズマ媒質には中性ガス又はイオンを含む。
【0037】
また、レーザ光32a,32bの照射時には、同軸状電極10の中心電極11と外部電極12に電圧印加部20による放電電圧が既に印加されている。従って、上述のアブレーションが発生すると、中心電極11と外部電極12との間において放電が誘発される。さらに、この放電によって面状なプラズマが形成される。放電の発生箇所は、レーザ光32の照射領域及びその近傍に制限される可能性がある。従って、レーザ光32は軸線Aの周方向に沿って間隔を置いて、複数且つ同時に照射することが好ましい。
【0038】
図3は、中心電極11、外部電極12及びプラズマ媒質材41を中央面P側から見た概要図であり、プラズマ媒質材41へのレーザ照射を示している。
【0039】
プラズマ媒質材41は、中心電極11、外部電極12の近傍位置に配置されている。例えば、プラズマ媒質材41は、外部電極12の配置数に対応して複数配置される。
図3では、四つの外部電極12に対して四つのプラズマ媒質材41が配置されている。具体的には、隣り合う外部電極12、12の間の位置にそれぞれプラズマ媒質材41が配置される。プラズマ媒質材41は、レーザ光32a(32b)の照射面を中心電極11と外部電極12の間の空間に向けて設置されている。これにより、レーザ照射により照射面から法線方向へ放出されるプラズマ媒質43を中心電極11と外部電極12の間の空間へ供給することができる。
【0040】
プラズマ媒質材41としては、たとえば発光させる光の波長に応じた物質が用いられる。波長13.5nmの極端紫外光(EUV)を発生させる場合、プラズマ媒質材41として、たとえばリチウム(Li)が用いられる。プラズマ媒質材41として、キセノン(Xe)、スズ(Sn)などを用いる場合もある。また、6.7nmの極端紫外光が必要な場合は、プラズマ媒質材41として、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)などの少なくとも1つが用いられる。プラズマ媒質材41は、たとえば固体のものが用いられ、絶縁体13に支持されることにより所定の位置に配置される。プラズマ媒質材41は、絶縁体13から中心電極11の軸方向へ延びる支持部材(図示なし)を介して絶縁体13に支持すればよい。プラズマ媒質材41として液体のものを用いる場合、中心電極11と外部電極12の間の空間に向けて開口する管体を用い、その管体を通じてプラズマ媒質材41を供給してもよい。
【0041】
図3に示すように、複数の外部電極12に対応した数のレーザ光32aがプラズマ媒質材41に対して照射される。ここでは、四つの外部電極12に対し四つのレーザ光32aが照射されている。つまり、外部電極12ごとにそれぞれプラズマ媒質材41が配置され、一つのプラズマ媒質材41に対し一つのレーザ光32aが照射されている。レーザ光32aの照射によりプラズマ媒質材41からプラズマ媒質43が放出され、中心電極11と複数の外部電極12のそれぞれの間の空間へ個別にプラズマ媒質43が供給される。このようにレーザ照射を行うことにより、中心電極11と外部電極12の間の空間に供給されるプラズマ媒質の量や供給タイミングを個別に調整することが可能となる。
図3では、中心電極11と各外部電極12の間の四つの空間において、プラズマ媒質の量や供給タイミングを個別に調整することが可能となる。このため、中心電極11と各外部電極12の間に生成されるプラズマの偏りを低減することができ、中心電極11の周りに生成されるプラズマの均等化の向上が図れる。従って、プラズマから放射される極端紫外光を安定して発生させることが可能となる。
【0042】
中心電極11と外部電極12の間の空間に供給されるプラズマ媒質の量を調整するには、プラズマ媒質材41に照射されるレーザ光32aの光量又はエネルギ量を増減すればよい。たとえば、レーザ光32aの光路の途中に減衰器を配置し、レーザ光32aの光量を調整することができる。また、レーザ光32aをプラズマ媒質材41に集光するレンズの位置を変えて焦点位置を調整することによりプラズマ媒質材41に照射されるレーザ光32aのエネルギ量を調整することができる。プラズマ媒質材41に照射されるレーザ光32aの光量又はエネルギ量を増加させることにより、中心電極11と外部電極12の間の空間に供給されるプラズマ媒質の量を増やすことができる。これに対し、プラズマ媒質材41に照射されるレーザ光32aの光量又はエネルギ量を減少させることにより、中心電極11と外部電極12の間の空間に供給されるプラズマ媒質の量を減らすことができる。このように、中心電極11と外部電極12の間の空間に供給されるプラズマ媒質の量を個別に調整することができる。このため、中心電極11と各外部電極12の間に生成されるプラズマの偏りを低減でき、中心電極11の周りに生成されるプラズマの均等化が図れる。
【0043】
中心電極11と外部電極12の間の空間に供給されるプラズマ媒質の供給タイミングを調整するには、プラズマ媒質材41に照射されるレーザ光32aの照射タイミングを変更すればよい。例えば、レーザ光32aがパルスで照射される場合、レーザ光32aの光路長を変えることにより、レーザ光32aの照射タイミングを変更することができる。レーザ光32aの光路長を長くすることにより、レーザ光32aの照射タイミングを遅らせることができる。これに対し、レーザ光32aの光路長を短くすることにより、レーザ光32aの照射タイミングを早めることができる。このように、中心電極11と外部電極12の間の空間に供給されるプラズマ媒質の供給タイミングを個別に調整することができる。このため、中心電極11と各外部電極12の間に生成されるプラズマの偏りを低減でき、中心電極11の周りに生成されるプラズマの均等化が図れる。
【0044】
ここで、動作中のプラズマ光源1における電気的な状態を説明する。
図4は、中心電極11の極性を正にする場合の、同軸状電極10と電圧印加部20とにより形成される電流経路Kを示している。
図4に示されるように、電流経路Kは、キャパシタCの正極側から電気回路を通じて中心電極11に至る。ここで、中心電極11と外部電極12とは物理的に離間しているが、動作時においては、中心電極11と外部電極12との間にプラズマ媒質が存在するので、多重放電6が発生する。従って、電流は、プラズマ媒質を介して中心電極11から外部電極12へ至る。そして、外部電極12から電気回路を通じてキャパシタCの負極側に至る。
【0045】
プラズマ媒質材41は、電圧印加部20と同軸状電極10とにより形成される電流経路Kに組み込まれていない。また、プラズマの発生時に同軸状電極10を流れる電流は、プラズマ媒質材41には流れない。すなわち、プラズマ媒質材41は、この電流経路Kに対して、電気的に絶縁されている。
【0046】
プラズマ媒質材41は、電流経路Kから電気的に切り離されていればよい。電流経路Kから電気的に切り離されたプラズマ媒質材41は、電気的に接地されていてもよい。この電気的構成によれば、プラズマ媒質43の帯電が防止される。また、この電気的構成によれば、中心電極11や外部電極12の高電圧に影響されずプラズマ媒質43の電位を一定にすることが可能となる。
【0047】
また、電流経路Kから電気的に切り離されたプラズマ媒質材41は、所定の電位に接続されてもよい。具体的には、プラズマ媒質材41を保持する保持材を金属などの導電性素材により形成し、保持材に電位を与える。例えば、比較的低い電位に接続された構成によれば、プラズマ媒質材41の電位を積極的に安定化させることができる。また、プラズマ媒質43のイオン化が促進される。このイオン化したプラズマ媒質43は中性ガスよりも放電のトリガーとなりやすい。一例として、プラズマ媒質材41をリチウムとして、当該プラズマ媒質材41に正の電位を印加すると、レーザアブレーションにより一部のリチウムはリチウムイオン(正イオン)として浮遊する。放電空間に到達した正イオンは、中性ガスよりも放電トリガーとなり易い。
【0048】
なお、また、プラズマ媒質材41は、電流経路Kから電気的に切り離されていれば、電気的に浮いた状態であってもよい。
【0049】
続いて、
図5を参照してプラズマ光源1の動作について説明する。
【0050】
図5の(a)部はレーザ光32a,32bの照射時の状態、
図5の(b)部は多重放電6の発生時の状態、
図5の(c)部は多重放電6の移動中の状態、
図5の(d)部は多重放電6の電極先端部到達時の状態、
図5の(e)部は高温・高密度化されたプラズマ7の発生初期時の状態、
図5の(f)部は高温・高密度化されたプラズマ7の状態を示している。
【0051】
まず、チャンバ2内は、プラズマ7の発生に適した温度及び圧力に保持される。放電前の同軸状電極10には、電圧印加部20により放電電圧が印加される。
図5の(a)部に示されるように、放電電圧が印加された状態で、プラズマ媒質材41にレーザ光32a,32bが照射される。その直後、中心電極11及び外部電極12の間で放電が発生する。複数の外部電極12のそれぞれに対して、中心電極11との間で放電が生じる。
図5の(b)部に示されるように、中心電極11の周方向に分布する多重放電6が得られる。
【0052】
このとき、
図3に示すように、外部電極12の設置数、すなわち中心電極11と外部電極12の間の空間の数に応じてプラズマ媒質材41が配置され、中心電極11と外部電極12の間の空間の数に応じてレーザ光32a(32b)が照射される。具体的には、中心電極11と外部電極12の間の4つの空間に対し、それぞれレーザ光32aが照射されてプラズマ媒質43が当該空間に供給される。これにより、中心電極11と各外部電極12の間の複数の空間に対し供給されるプラズマ媒質の量や供給タイミングを個別に調整することで、中心電極11の周りに生ずる多重放電を周方向において均等化することができる。
【0053】
そして、
図5の(c)部に示されるように、多重放電6は、自己磁場によって電極から排出される方向(中央面Pに向かう方向)に移動する。このときの多重放電6の形状は、軸線Aから見て略放射状である。
【0054】
このとき、
図3に示すように、中心電極11に突部11cが形成され外部電極12に突部12cが形成されているため、突部11cと突部12cとの間で放電が行われ、多重放電6は突部11c、12cに沿って移動していく。従って、多重放電6が安定して行われる。
【0055】
ここで、プラズマ光源1はエネルギ蓄積回路26を備えているため、エネルギ蓄積回路26と複数の外部電極12との協働により、多重放電6の発生確率が高められている。間隔をあけて非連続的に配置される複数の外部電極12は、連続した管状(筒状)の外部電極が採用される場合に比して、多重放電6の形成を容易にするという観点で有利である。
【0056】
その後、
図5の(d)部に示されるように、多重放電6は同軸状電極10の先端に達する。多重放電6が中心電極11の先端に達したことで、その放電電流の出発点は中心電極11の側面11bから端面11aに移行する。この電流の移行によって、一対の多重放電6に伴って移動してきたリチウム(Li)を含むプラズマは収束し、高密度かつ高温になる。
【0057】
この現象は中央面Pを挟んだ同軸状電極10で進行するため、初期プラズマは、一方の同軸状電極10から他方の同軸状電極10に向かって押し出される。その結果、初期プラズマは、軸線Aに沿う両方向からの圧力を受けて同軸状電極10が対面する中間位置(すなわち中央面Pの位置)に移動し、プラズマ媒質を成分とする単一のプラズマ7が形成される。
【0058】
そして、
図5の(e)部に示されるように、プラズマ7が形成された後も、多重放電6を通じて電流が流れ続け、プラズマ7を全体的に包囲し、プラズマ7を中心電極11の中間付近に保持する。
【0059】
多重放電6が発生している間は、プラズマ7の高密度化および高温化が進行し、リチウム(Li)を含むイオンの電離が進行する。その結果、
図5の(f)部に示されるように、プラズマ7からは極端紫外光を含むプラズマ光9が放射される。この状態において、多重放電6を通じて電流が流れ続けることにより、長時間に亘って、プラズマ光9が発生し得る。
【0060】
このプラズマ光源1は、動作時において中心電極11と外部電極12との間にプラズマ媒質43が供給される。このプラズマ媒質43は、中心電極11と外部電極12との間に放電を誘発する。中心電極11と外部電極12との間に多重放電6が生じると、中心電極11とプラズマ媒質43と外部電極12とを介する電流経路Kが形成される。ここで、プラズマ媒質材41は、当該電流経路Kから電気的に絶縁されているので、電流経路Kを流れる電流は、プラズマ媒質材41を経由することがない。導体に電流が流れるとジュール熱が生じるが、プラズマ媒質材41には電流が流れないので、ジュール熱が発生することもない。従って、プラズマ媒質材41の温度上昇が抑制されてプラズマ媒質材41の状態が安定化するので、プラズマ媒質材41のアブレーションを安定的に生じさせることが可能となる。従って、中心電極11と外部電極12との間にプラズマ媒質43の蒸気を安定的に供給することができる。
【0061】
以上のように、本実施形態に係るプラズマ光源1によれば、プラズマ媒質材41に対し複数の外部電極12に対応した数のレーザ光32(32a、32b)を照射してプラズマ媒質43を放出させて中心電極11と複数の外部電極12のそれぞれの間の空間へプラズマ媒質43を供給する。これにより、中心電極11と各外部電極12の間の複数の空間に対し供給されるプラズマ媒質43の量や供給タイミングを個別に調整することが可能となる。このため、各外部電極12と中心電極11の間に生成されるプラズマの偏りを低減することができ、中心電極11の周りに生成されるプラズマの均等化が図れる。これにより、プラズマから放射される極端紫外光を安定して発生させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係るプラズマ光源1によれば、プラズマ媒質材41が複数の外部電極12の配置数に対応して複数配置され、レーザ照射部30がプラズマ媒質材41のそれぞれに対しレーザ光32を照射してプラズマ媒質43を放出させる。これにより、中心電極11と外部電極12の間の空間ごとに個別にプラズマ媒質43を供給しやすくなり、中心電極11の周りに生成されるプラズマの均等化の向上を図ることができる。
【0063】
また、本実施形態に係るプラズマ光源1によれば、中心電極11及び外部電極12の対峙位置の少なくとも一方に軸方向へ延びる突部11c又は突部12cが形成される。これにより、中心電極11と外部電極12の間の放電位置が安定する。従って、所望のプラズマを安定して生成することができる。
【0064】
さらに、本実施形態に係るプラズマ光源1によれば、二つの同軸状電極10、10を対向させて構成されている。このため、二つの同軸状電極10、10のそれぞれにおいて、所望のプラズマを安定して生成することができる。また、それぞれの同軸状電極10のプラズマの生成タイミングを調整することができる。従って、極端紫外光を安定発光が可能となる。
(第二実施形態)
【0065】
次に、第二実施形態に係るプラズマ光源1aについて説明する。
【0066】
本実施形態に係るプラズマ光源1aは、上述した第一実施形態に係るプラズマ光源1とほぼ同様に構成されており、中心電極11と外部電極12の間の隣り合う空間を仕切る隔壁14を備える点で、隔壁14を備えていないプラズマ光源1と異なっている。
【0067】
図6、7は、本実施形態に係るプラズマ光源における隔壁を示す図である。
図6に示すように、中心電極11と外部電極12の間の隣り合う空間を仕切るように隔壁14が設けられている。
図6では、中心電極11の周りに四つの外部電極12が配置されているため、中心電極11と各外部電極12の間に四つの空間が形成されている。このため、隣り合う空間と空間の間にそれぞれ一つの隔壁14が設けられている。たとえば、隔壁14は、中心電極11、外部電極12を基端側で支持する絶縁体13(
図1参照)により支持される。隔壁14としては、たとえば絶縁性物質により形成される板体を用いればよい。
【0068】
隔壁14は、中心電極11と外部電極12の間の空間に供給されるプラズマ媒質43が隣の空間へ拡散するのを抑制する壁体である。この隔壁14は、中心電極11と外部電極12の間の隣り合う空間を完全に仕切るものでなくてもよい。つまり、プラズマ媒質43が隣りの空間へ移動するのを低減できる構造のものであっても十分な効果が期待できる。
【0069】
図7に示すように、隔壁14は、中心電極11及び外部電極12の軸方向(
図7中のA方向)に対し、プラズマ媒質材41が配置される領域をカバーするように設けられていればよい。たとえば、隔壁14は、絶縁体13から中心電極11及び外部電極12の先端側へプラズマ媒質材41の設置位置まで延びるように設けられる。なお、
図7では、説明の便宜上、一組の中心電極11及び外部電極12に対応する隔壁14のみを示している。
【0070】
このような本実施形態に係るプラズマ光源1aによれば、上述した第一実施形態に係るプラズマ光源1の作用効果に加え、隣り合う中心電極11と外部電極12の間の空間を仕切る隔壁14が設けられることにより、放出されるプラズマ媒質43の拡散が抑制され、中心電極11と各外部電極12との間の空間に所望の量のプラズマ媒質を正確に供給することができる。従って、各外部電極12と中心電極11の間の各空間に生成されるプラズマの偏りを低減することができ、中心電極の周りに生成されるプラズマの均等化の向上が図れる。
【0071】
以上、本発明を上述の実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲の記載の要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0072】
たとえば、上述した各実施形態では、プラズマ媒質材41を中心電極11から離間させて配置しているが、プラズマ媒質材41を中心電極11に取り付けて配置してもよい。具体的には、
図8に示すように、中心電極11の外周にプラズマ媒質材41を取り付け、プラズマ媒質材41に対し外部電極12の配置数に応じた複数のレーザ光32をプラズマ媒質材41へ照射させてもよい。
図8では、四つの外部電極12に対し四つのレーザ光32が照射されている。この場合であっても、中心電極11と各外部電極12の間の複数の空間に対し供給されるプラズマ媒質43の量や供給タイミングを個別に調整することが可能となる。このため、各外部電極12と中心電極11の間に生成されるプラズマの偏りを低減することができ、中心電極11の周りに生成されるプラズマの均等化が図れる。これにより、プラズマから放射される極端紫外光を安定して発生させることができる。なお、この
図8のプラズマ光源においても、隔壁14を設けてもよい。この場合、放出されるプラズマ媒質43の拡散を抑制され、中心電極11と各外部電極12との間の空間に所望の量のプラズマ媒質を正確に供給することができる。従って、各外部電極12と中心電極11の間の各空間に生成されるプラズマの偏りを低減することができ、中心電極の周りに生成されるプラズマの均等化の向上が図れる。
【0073】
また、上述した各実施形態では、二つの同軸状電極10、10を対向して配置する対向型プラズマフォーカス方式のプラズマ光源に適用する場合について説明したが、本発明に係るプラズマ光源はそのような方式以外のプラズマ光源に適用することもできる。すなわち、一つの同軸状電極10により放電及び紫外光の発光を行うプラズマ光源に適用してもよい。