特許第6834786号(P6834786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6834786無機繊維用バインダー、無機繊維用バインダー水溶液、無機繊維マット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834786
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】無機繊維用バインダー、無機繊維用バインダー水溶液、無機繊維マット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/587 20120101AFI20210215BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20210215BHJP
   D06M 15/333 20060101ALI20210215BHJP
   D06M 15/267 20060101ALI20210215BHJP
   D06M 15/285 20060101ALI20210215BHJP
   D06M 15/05 20060101ALI20210215BHJP
   D06M 15/11 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   D04H1/587
   D04H1/4209
   D06M15/333
   D06M15/267
   D06M15/285
   D06M15/05
   D06M15/11
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-105629(P2017-105629)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-199881(P2018-199881A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2019年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有馬 尚市
(72)【発明者】
【氏名】内田 昂輝
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−092480(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/085729(WO,A1)
【文献】 特開2016−108707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合度が200〜500であり、且つ、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース及び澱粉の群から選ばれる水溶性高分子化合物:100質量部、及び
(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物:3質量部以上
を含有する無機繊維用バインダーであり、該無機繊維はグラスウール又はロックウールであることを特徴とする無機繊維用バインダー。
【請求項2】
(A)水溶性高分子化合物がポリビニルアルコールである請求項記載の無機繊維用バインダー。
【請求項3】
(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物が、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物である請求項1又は2記載の無機繊維用バインダー。
【請求項4】
上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物が下記式で表される請求項記載の無機繊維用バインダー。
【化1】
(上記式中のnの含有量は、n+mの合計100質量%に対して0.1〜3質量%である。)
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項記載の無機繊維用バインダーで処理した無機繊維からなる無機繊維マット。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項記載の無機繊維用バインダーを水に溶解してなる無機繊維用バインダー水溶液であって、該無機繊維用バインダー水溶液の粘度が25℃において1〜100mPa・sであることを特徴とする無機繊維用バインダー水溶液。
【請求項7】
(A)重合度が200〜500であり、且つ、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース及び澱粉の群から選ばれる水溶性高分子化合物:100質量部、及び
(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物:3質量部以上
を含有する無機繊維用バインダーを無機繊維に対してスプレーにより噴霧して製造する工程を含むと共に、上記無機繊維はグラスウール又はロックウールであることを特徴とする無機繊維マットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維用バインダー、特に、建築用の断熱材、吸音材等として好適に用いられる無機繊維マットに対して、揮発性有機化合物の放出が極めて少なく、十分な厚みを持ち、かつ優れた復元性を与える無機繊維用バインダー、及び該バインダーで処理された無機繊維マットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラスウール、ロックウール等の無機繊維からなる無機繊維マットは、産業用や住宅用の断熱材や吸音材に広く用いられている。無機繊維マットは、一般に水溶性フェノール樹脂を主成分とするバインダーによって無機繊維同士が固定され、マット状に成形されて製造されている(例えば、特開昭58−070760号公報:特許文献1)。
【0003】
しかし、上記バインダーの主成分として用いられている水溶性フェノール樹脂は、架橋剤として一般的にホルムアルデヒドが使用されているため、バインダーを加熱硬化する際に、未反応のホルムアルデヒドが無機繊維マットに残留してしまうという問題がある。また、硬化後も、バインダーの加水分解や縮合反応の進行によってホルムアルデヒドが発生するという問題がある。この場合、上記ホルムアルデヒドが、製造後の無機繊維マットの表面や側面から放出されることになる。
【0004】
ホルムアルデヒドのように常温常圧で空気中に容易に揮発する揮発性有機化合物に関して、近年、揮発性有機化合物による室内空気の汚染が顕在化するとともに、揮発性有機化合物が原因のひとつとされるシックハウス症候群などの健康被害が問題となっている。そのため、建築材料からのホルムアルデヒドの放出量が法律で規制されている。よって、建築材料からのホルムアルデヒド及びその他の揮発性有機化合物の放出量を極めて少なくするために、これらの含有量を極めて少なくすることが有効であると考えられる。
【0005】
無機繊維マットから放出される揮発性有機化合物とは、主にバインダーに含まれるホルムアルデヒドであるため、上記問題点を解決するためには、バインダーに用いる組成物をホルムアルデヒド非含有組成物とする必要がある。しかし、従来のフェノール樹脂を主成分とするバインダーを用いた無機繊維マットは、原料コストが安く、更にマットの復元率や表面強度等が非常に優れたものであった。そのため、ホルムアルデヒド非含有組成物を主成分とするバインダーを用いてもこれらの性能を有する必要があるが、同等の性能を具備させることは困難であった。
【0006】
上記問題に対応するために、特開2005−299013号公報(特許文献2)では、アクリル樹脂系エマルジョンを主成分とするバインダー、また、特開2006−089906号公報(特許文献3)では、カルボキシル基等の官能基を持ったビニル共重合体からなるバインダーが提案されている。しかし、これらのバインダーを用いて得られる無機繊維マットの復元率や表面強度等は、水溶性フェノール樹脂を含むバインダーを用いて得られる無機繊維マットと比較して劣るものであった。さらに、本願出願人も特開2011−153395号公報(特許文献4)で、ヒドロキシル基を持つ水溶性高分子化合物とホウ素化合物を含有するバインダーを開示している。しかし、当該バインダーを用いて得られる無機繊維マットは、揮発性有機化合物の問題はクリアできていたものの、水溶性フェノール樹脂に比べて復元率や表面強化度等はやや劣っていた。
【0007】
国際公開第2005/092814号(特許文献5)では無水マレイン酸と不飽和単量体との不飽和共重合物(具体的には無水マレイン酸とブタジエンとの不飽和共重合物)が、特開2012−136385号公報(特許文献6)では無水マレイン酸とアクリル酸エステルの共重合化合物が、特開2016−108707号公報(特許文献7)と特開2016−108708号公報(特許文献8)ではマレイン酸共重合物(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体モノアルキルエステルと思われる)が、特開昭60−046951号公報(特許文献9)ではイソブチレン・無水マレイン酸の共重合体が、それぞれ提案されている。無機繊維からなる無機繊維マットは、溶融ガラスに低濃度の水溶性バインダーを噴霧することで製造されるが、前述した化合物等は、いずれも水への溶解度が乏しく、必ずしも好適な水溶性バインダーが得られるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−070760号公報
【特許文献2】特開2005−299013号公報
【特許文献3】特開2006−089906号公報
【特許文献4】特開2011−153395号公報
【特許文献5】国際公開第2005/092814号
【特許文献6】特開2012−136385号公報
【特許文献7】特開2016−108707号公報
【特許文献8】特開2016−108708号公報
【特許文献9】特開昭60−046951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、揮発性有機化合物の放出が極めて少なく、かつ、十分な厚みと復元性に優れた無機繊維マットを製造することが可能な無機繊維用バインダー、及び該バインダーで処理された無機繊維マットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、水溶性高分子化合物と、無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物とを含有するバインダーが、フェノール樹脂に近い復元率を無機繊維マットに与え、かつ極めて少ない揮発性有機化合物放出量を実現することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記無機繊維用バインダー、無機繊維用バインダー水溶液、無機繊維マット及びその製造方法を提供する。
1.(A)重合度が200〜500であり、且つ、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース及び澱粉の群から選ばれる水溶性高分子化合物:100質量部、及び
(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物:3質量部以上
を含有する無機繊維用バインダーであり、該無機繊維はグラスウール又はロックウールであることを特徴とする無機繊維用バインダー。
2.(A)水溶性高分子化合物がポリビニルアルコールである上記記載の無機繊維用バインダー。
3.(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物が、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物である上記1又は2記載の無機繊維用バインダー。
4.上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物が下記式で表される上記記載の無機繊維用バインダー。
【化1】
(上記式中のnの含有量は、n+mの合計100質量%に対して0.1〜3質量%である。)
5.上記1〜のいずれか1項記載の無機繊維用バインダーで処理した無機繊維からなる無機繊維マット。
6.上記1〜のいずれか1項記載の無機繊維用バインダーを水に溶解してなる無機繊維用バインダー水溶液であって、該無機繊維用バインダー水溶液の粘度が25℃において1〜100mPa・sであることを特徴とする無機繊維用バインダー水溶液。
7.(A)重合度が200〜500であり、且つ、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース及び澱粉の群から選ばれる水溶性高分子化合物:100質量部、及び
(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物:3質量部以上
を含有する無機繊維用バインダーを無機繊維に対してスプレーにより噴霧して製造する工程を含むと共に、上記無機繊維はグラスウール又はロックウールであることを特徴とする無機繊維マットの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無機繊維用バインダーを用いれば、フェノール樹脂に近い復元率を持つ無機繊維マットを作製することができ、またその無機繊維マットからの揮発性有機化合物の放出量は極めて少ない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の無機繊維用バインダーを使用して無機繊維マットを製造する工程の一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明の無機繊維用バインダーを無機繊維に付与する工程の一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の無機繊維用バインダーは、
(A)水溶性高分子化合物:100質量部、及び
(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物:3質量部以上
を含有するものである。
【0015】
(A)成分の水溶性高分子化合物は、本発明の無機繊維用バインダーの主剤である。(A)成分の持つ水溶性高分子化合物としては、特に限定されないが、好ましくはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、澱粉などである。これらの中でも、ポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0016】
上記(A)成分の水溶性高分子化合物としては、重合度が1,000以下のものが好ましく、500以下のものが更に好ましく、200〜500のものが最も好ましい。1,000を超えると、スプレーによる塗布不良が生じ必要な付着量が得られず無機繊維マットに十分な復元性が得られないなどの不具合が生じる場合がある。上記重合度は、重量平均重合度として、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の値である。また、水溶性高分子化合物のケン化度は、JIS K 6726の試験方法に基づいて、80mol%以上が好ましく、88mol%以上が更に好ましく、上限値は99mol%未満であることが好ましい。このケン化度が99mol%以上であると、低温で粘度上昇が大きくなり、ゲル化することがある。
【0017】
上記(A)成分の水溶性高分子化合物としては、市販品を使用することができ、例えば、日本・酢ビポバール社製の「ポバール(PVA)」等が挙げられる。
【0018】
(B)成分の無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物は、本発明において架橋剤として機能する。(B)成分の無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物としては、特に限定されず、無水マレイン酸とイソブチレン、イソプロピレン、エチレン、エチレン・プロピレン、ブタジエンなどとの共重合物のアンモニア変性物が挙げられる。特に、下記構造式で表されるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物が好ましい。
【化2】
【0019】
(B)成分の無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物の重量平均分子量は、5,000〜30,000が好ましく、10,000〜20,000が更に好ましく、15,000〜20,000が最も好ましい。この重量平均分子量は、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の値である。また、上記式中のnとmは質量割合を表し、nは、n+mの合計100質量%に対して、0.1〜3質量%が好ましく、0.3〜2質量%が更に好ましく、0.5〜1質量%が最も好ましい。
【0020】
(B)成分の無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物の含有量は、(A)成分の水溶性高分子化合物100質量部に対し、3質量部以上であり、好ましくは3〜20質量部、更に好ましくは3〜5質量部である。無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物の含有量が3質量部未満であると、架橋性不足などの不具合が生じる場合があり、20質量部を超えた場合は、(A)成分の水溶性高分子化合物との混和性には問題はないが、処理水溶液が黄色に着色し製品品質低下となり、更にコストアップにも繋がる。
【0021】
上記(B)成分の無水マレイン酸含有共重合物としては、市販品を使用することができ、例えば、クラレ社製の「イソバン」等が挙げられる。
【0022】
更に、本発明の無機繊維用バインダーには、(A)水溶性高分子化合物及び(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物以外に、尿素等の保水材、シランカップリング剤、撥水剤、pH調整剤、着色剤などの添加剤を必要により加えてもよい。これらの添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意とすることができる。
【0023】
本発明の無機繊維用バインダーは、水に溶解して無機繊維用バインダー水溶液として使用することが好ましい。上記無機繊維用バインダー水溶液の粘度は、25℃において1〜100mPa・sであることが好ましく、特に好ましいのは、1〜50mPa・sである。なお、この粘度値は、回転粘度計による測定値である。粘度が100mPa・sを超えると噴霧(吐出)不良となり加工後のバインダー付着量が減少する為、本発明の効果が発揮できない場合がある。また、その濃度は10質量%以下が好ましく、5質量%以下が更に好ましく、3質量%以下が最も好ましい。
【0024】
また、上記無機繊維用バインダー水溶液のpHは、4〜8であることが好ましく、4〜6がより好ましい。pHが上記範囲から外れると、架橋性が変化し、復元性に影響を及ぼす場合がある。
【0025】
本発明の無機繊維用バインダーは、様々な無機繊維に使用可能であり、特にグラスウール、ロックウールに対して優れた効果を発揮する。
【0026】
本発明の無機繊維マットは、無機繊維を上記無機繊維用バインダーで処理して形成されるものである。上記無機繊維マットに用いられる無機繊維としては、特に限定されないが、グラスウールやロックウールであることが好ましい。
【0027】
無機繊維の繊維化方法としては、遠心法、吹き飛ばし法など従来公知の方法を採用できる。更に、無機繊維マットの密度も通常の断熱材や吸音材に使用されている密度でよく、好ましくは40kg/m3以下、より好ましくは32kg/m3以下である。
【0028】
無機繊維用バインダーの使用量は、無機繊維に対して固形分比率で1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。1質量%未満であると、復元性の乏しい無機繊維マットが成形されるなどの不具合が生じる場合があり、10質量%を超えると、硬く潰れた無機繊維マットが成形されるなどの不具合が生じる場合がある。
【0029】
本発明の無機繊維用バインダーを使用して無機繊維マットを製造する方法の一例を、図1及び図2を参照して説明する。図1は、本発明の無機繊維用バインダーを使用して無機繊維マットを製造する工程の一実施形態を示す模式図であり、図2は、本発明の無機繊維用バインダーを無機繊維に付与する工程の一実施形態を示す斜視図である。
【0030】
まず、繊維化装置1によりグラスウール等の無機繊維を紡出させる繊維化工程が行われる。ここで、繊維化装置1による繊維化の方法としては、特に限定されず、従来公知の遠心法、吹き飛ばし法などが挙げられる。また、繊維化装置1は、製造する無機繊維マット7の密度、厚さ、及び幅方向の長さに応じて複数設けることも可能である。
【0031】
次いで、図2で示すように、バインダー付与装置2によって、繊維化装置1から紡出された無機繊維3に、本発明のバインダーを付与する。バインダーの付与方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば、上記バインダー水溶液を用いて、スプレー法などで付与することができる。繊維の上層部より直接又は斜め方向から繊維同士の交点部分をメインに交点以外の部分にもバインダーを付着させて処理する。
【0032】
コンベア41は、未硬化のバインダーが付着した無機繊維3を有孔のコンベア上に積層する装置であり、繊維を均一に積層させるために、コンベア41は吸引装置を有する有孔のコンベアであることが好ましい。
【0033】
ここで、本発明におけるバインダーの付着量とは、強熱減量法又はLOI(Loss of Ignition)と呼ばれる方法により測定される量であり、約550℃でバインダー付着後の無機繊維マットの乾燥試料を強熱し、減量することにより失われる物質の質量を意味する。
【0034】
上記工程によって、バインダーが付与された無機繊維3は、繊維化装置1の下方に配置されたコンベア41に堆積され、連続して、ライン方向に沿って設けられているコンベア42に移動する。そして、コンベア42及びコンベア42上に所定間隔で対向配置されたコンベア5によって、堆積した無機繊維3は所定の厚さに圧縮されつつ、コンベア42、及びコンベア5の位置に配設された成形炉6に入る。
【0035】
成形炉6において、無機繊維3に付与された本発明のバインダーが加熱硬化して、所定の厚さの無機繊維マット7が形成される。なお、加工条件は、ラインの長さ等で大きく変わるため、適宜設定すればよい。例えば、本実施例の場合は、加熱温度は、好ましくは150〜300℃、より好ましくは180〜250℃である。加熱温度が150℃よりも低いと、無機繊維マット7の水分が完全に蒸発しないことがあり、300℃よりも高いと無機繊維マット7に処理されたバインダーが炭化することがある。また、加熱時間は、好ましくは120〜360秒、より好ましくは180〜300秒である。加熱温度が120秒よりも短いと、無機繊維マット7の水分が完全に蒸発しないことがあり、360秒よりも長いと無機繊維マット7に処理されたバインダーが炭化することがある。そして、形成された無機繊維マット7は、コンベア43の部分に設置された切断機8によって所定の製品寸法に切断された後、コンベア44によって運ばれ、包装、梱包される。
【0036】
このようにして製造された本発明の無機繊維マットは、フェノール樹脂をはじめとしてこれまで提案されてきたバインダーで処理した無機繊維マットと比較して優れた復元率や表面強度等を持ちながらも、無機繊維マットからの揮発性有機化合物の放出量は極めて少ないものである。
【0037】
なお、JISによって、ホルムアルデヒド放散速度は、数段階に区別されている。たとえばJIS−A9504ではF☆☆〜F☆☆☆☆の3段階に区分されており、それぞれ、ホルムアルデヒド放散速度が5μg/m2・h以下の場合がF☆☆☆☆タイプ、5μg/m2・hを超えて20μg/m2・h以下の場合がF☆☆☆タイプ、20μg/m2・hを超えて120μg/m2・h以下の場合がF☆☆タイプである。F☆☆☆☆タイプが最も優れており、本発明の無機繊維用バインダーを用いた場合、JIS−A1901のチャンバー法に基づいた試験において、F☆☆☆☆タイプの無機繊維マットを製造することができる。
【0038】
また、本発明における無機繊維マットの復元率とは、外力を加えて圧縮させた後、外力を除いて復元させた後の無機繊維マットの厚さと、圧縮前の無機繊維マットの厚さの比で表される。無機繊維マットは保管や輸送の効率を上げるために、一定数量以上の無機繊維マットをまとめて圧縮して梱包する場合がある。そのため、開梱して得られる無機繊維マットが圧縮前の厚さを確保できない場合、すなわち、無機繊維マットの復元率が悪い場合には、断熱性や吸音性などの性能が充分に得られない場合がある。
【実施例】
【0039】
以下、製造例と実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0040】
[実施例1〜4]
表1に記載したポリビニルアルコール100部とイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物5部をイオン交換水に溶解し2質量%の濃度である無機繊維用バインダー水溶液を調製した。無機繊維としてグラスウールを用い、調製した無機繊維用バインダー水溶液を用いてスプレー塗布してグラスウールを処理し、実施例における処理条件、200℃、180秒で加熱乾燥して無機繊維マットを作製した。無機繊維マットへの無機繊維用バインダーの処理量は、処理後の無機繊維マットを質量基準として、無機繊維への付着量が無機繊維用バインダーの固形分比率で4%となるようにした。
【0041】
[実施例5〜8]
実施例1において、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物の量を、それぞれ3部、7部、10部、20部とした以外は、実施例1と同様の製造方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0042】
[比較例1]
ポリビニルアルコールに代えて、フェノール樹脂「ショーノールBRL−1015」(水溶性フェノール:昭和高分子(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0043】
[比較例2,3]
実施例1において、無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物の量をそれぞれ0部、1部とした以外は、実施例1と同様の方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0044】
[比較例4〜7]
無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物に代えて、それぞれホウ砂((株)松葉薬品製)、カルボジライトV−02(カルボジイミド系架橋剤:日清紡(株)製)、メイカネートTP−120(イソシアネート系架橋剤:名成化学工業(株)製)、ガントレンツAN−119(マレイン酸・メチルビニルエーテル共重合物:五協産業(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0045】
[評価方法]
実施例1〜8及び比較例1〜7の無機繊維マットの復元率及びホルムアルデヒド放散速度を測定した。なお、ホルムアルデヒド放散速度はJIS−A1901に基づいて測定した。
【0046】
無機繊維マットの復元率
無機繊維マットの梱包体製造時に、10cm×10cmのサンプルを取り出し、20kgの加重を1時間かけ、加重後の無機繊維マットの厚み(dx)を測定し、下記式(1)により復元率を求めた(n=5)。その結果を表1に併記した。
R=(dx/d)×100 (1)
R :復元率(%)
dx:復元後の無機繊維マットの厚み(mm)
d :試験前の無機繊維マットの呼び厚み(mm)
【0047】
ホルムアルデヒド放散速度
また、無機繊維マットの梱包体を適宜切断し、表面積を440cm2に調整したものを、ホルムアルデヒドの放散速度の測定用試験体とした。ホルムアルデヒド放散速度の測定条件について、測定日数は7日間として、チャンバー内の温度を28℃、相対湿度を50%として、チャンバー体積を20L、換気回数を1時間当り0.5回とした。サンプリングには、DNPH(2,4−ジニトロフェニルヒドラジン)シリカショートボディ(Waters社製)を用いて、捕集体積は10Lとし、捕集流量は167mL/minとした。その結果を表1に併記した。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表中のポリビニルアルコールの詳細は、下記のとおりである。
・JF−05(完全鹸化ポバール:鹸化度98〜99%、重合度500)
・JL−05E(部分鹸化ポバール:鹸化度78〜81%、重合度500)
・JP−05(部分鹸化ポバール:鹸化度87〜89%、重合度500)
・JP−10(部分鹸化ポバール:鹸化度87〜89%、重合度1000)
上記いずれも日本・酢ビポバール社製
【0050】
上記表中のイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物は、「ISOBAM−104」(株)クラレ製であり、化学構造式は下記のとおりであり、重量平均分子量16,000〜17,000、n=0.7〜0.8質量%、m=99.2〜99.3質量%である。
【化3】
【0051】
上記表中の無水マレイン酸系共重合物は、「ガントレンツAN−119」(無水マレイン酸・メチルビニルエーテル共重合物:五協産業(株)製)である。
【符号の説明】
【0052】
1 繊維化装置
2 バインダー付与装置
3 無機繊維
41,42,43,44,5 コンベア
6 成形炉
7 無機繊維マット
8 切断機
図1
図2