(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と、熱可塑性エラストマー組成物からなるシール性部品とを有し、該筐体とシール性部品が接触してなる医療用器具であって、該熱可塑性エラストマー組成物が、下記A成分と下記B成分を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、該熱可塑性エラストマー組成物中におけるA成分及びB成分の合計量が40質量%以上100質量%以下であることを特徴とする医療用器具。
A成分:(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体、(b)ポリオレフィン、(c)ポリブテン及び(d)ヒドロシリル基含有化合物を含む混合物の動的熱処理物。ただし、(b)ポリオレフィンは、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、(c)ポリブテンの数平均分子量は700〜100,000であり、該混合物中の(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体100質量部に対する(b)ポリオレフィンの含有量は5〜30質量部で、ポリブテンの含有量は5〜100質量部である。
B成分:曲げ弾性率が1,000〜3,000MPaであるポリプロピレン系樹脂
前記熱可塑性エラストマー組成物は、A成分中の(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体100質量部に対し、B成分を5〜40質量部含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の医療用器具。
A成分中の(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体100質量部に対し、B成分を5〜40質量部含む、請求項5ないし7のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0022】
[熱可塑性エラストマー組成物]
まず、本発明の医療用器具のシール性部品を構成する本発明の熱可塑性エラストマー組成物について説明する。
【0023】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、以下のA成分とB成分を含むものである。
A成分:(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体、(b)ポリオレフィン、(c)ポリブテン及び(d)ヒドロシリル基含有化合物を含む混合物の動的熱処理物。ただし、(b)ポリオレフィンは、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり、(c)ポリブテンの数平均分子量は700〜100,000であり、該混合物中の(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体100質量部に対する(b)ポリオレフィンの含有量は5〜30質量部で、ポリブテンの含有量は5〜100質量部である。
B成分:曲げ弾性率が1,000〜3,000MPaであるポリプロピレン系樹脂
【0024】
<作用機構>
(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体、(b)ポリオレフィン、(c)ポリブテン及び(d)ヒドロシリル基含有化合物を含む混合物の動的熱処理物であるA成分は、組成物の耐熱性、高温時の耐圧縮永久歪性を大幅に向上させる成分であり、シール性の向上にも寄与する。また、成分中に環状オレフィン構造や類似の環構造を有しないことから、環状ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低く、蒸気滅菌のような高温高圧の条件に晒されても、環状ポリオレフィン系樹脂製筐体との接触部における白化や固着の問題がない。
このA成分にB成分である曲げ弾性率が1,000〜3,000MPaのポリプロピレン系樹脂を混合することにより、得られる成形体の耐熱性及びシール性のバランスが良好となり、組成物の成形性が良好となり、さらに環状ポリオレフィン系樹脂との耐固着性が良好となる。
このようなことから、本発明によれば、シール性部品によるシール性、耐熱性に優れると共に、滅菌処理等で加熱条件に晒された場合における筐体のシール性部品との接触部分の白化や筐体とシール性部品との固着の問題のない医療用器具を提供することができる。
なお、本発明において、B成分の曲げ弾性率1,000〜3,000MPaのポリプロピレン系樹脂を、(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体、(b)ポリオレフィン、(c)ポリブテン及び(d)ヒドロシリル基含有化合物を含む混合物の動的熱処理物であるA成分に混合して用いること、即ち、B成分は、A成分の動的熱処理時には、動的熱処理物の被処理物中には存在せず、動的熱処理により得られたA成分に対してB成分を混合することは極めて重要な構成要件であり、このように、B成分をA成分に添加混合することにより、A成分の動的熱処理時における樹脂温度の上昇にB成分が晒されないため、B成分の熱劣化による組成物の変色やベタツキの発生、低分子量成分の発生、ヤケ等の異物の発生が抑制され、医療用途として十分な衛生性を確保することが可能である。
これに対して、動的熱処理の被処理物中にB成分が存在していても、B成分の熱劣化による組成物の変色やベタツキの発生、低分子量成分の発生、ヤケ等の異物の発生が起こるため、医療用器具として好適に用いられる衛生性を有しながら、シール性部品によるシール性、耐熱性等に優れると共に、加熱滅菌処理時などの加熱条件下における環状ポリオレフィン系樹脂製筐体の白化や筐体とシール性部品との固着の問題を解決することができる本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得ることはできない。
【0025】
<A成分>
A成分は、(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体、(b)ポリオレフィン、(c)ポリブテン及び(d)ヒドロシリル基含有化合物を含む混合物の動的熱処理物であり、具体的には、(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体100質量部を、(b)ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であるポリオレフィン5〜30質量部と、(c)数平均分子量が700〜100,000のポリブテン5〜100質量部の存在下で、(d)ヒドロシリル基含有化合物により、溶融混練中に架橋してなる組成物である。
【0026】
((a)反応性基を有するイソブチレン系重合体)
(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体(以下、「(a)成分」と称す場合がある。)は、反応性基を有することで架橋して架橋物を生成し得るものであり、その反応性基は、架橋剤である後述の(d)ヒドロシリル基含有化合物による架橋反応に対して活性を示すものであればよく、特に制限はないが、炭素−炭素二重結合を有するアルケニル基が好ましく、また、反応活性の観点から、(a)成分のイソブチレン系重合体は、反応性基を末端に有することが好ましい。即ち、(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体は、末端にアルケニル基を有するイソブチレン系重合体であることが好ましい。反応性基のアルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の鎖状アルケニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基を挙げることができるが、立体障害の観点から、アリル基が好ましい。
【0027】
(a)成分が有するアルケニル基等の反応性基の量は、必要とする特性によって任意に選ぶことができるが、架橋後の特性の観点から、1分子あたり少なくとも0.2個の反応性基を末端に有すること、即ち、(a)成分の反応性基含有量は0.2個/モル以上であることが好ましく、反応性基量は1分子当たり1.0個以上(1.0個/モル以上)であることがさらに好ましく、1分子当たり1.5個以上(1.5個/モル以上)であることが最も好ましい。反応性基の量が1分子当たり0.2個未満であると、架橋反応が十分に進行しないおそれがある。この反応性基量の上限には特に制限はないが、通常5個/モル以下である。ここで、アルケニル基等の反応性基量は、1H−NMR分析により求めることができる。
【0028】
(a)成分のイソブチレン系重合体とは、全単量体単位に対するイソブチレン単位の含有量が50質量%よりも多い重合体である。
イソブチレン系重合体としては、その種類は特に制限されず、イソブチレン単独重合体、イソブチレンランダム共重合体、イソブチレンブロック共重合体等のいずれも使用することができる。
【0029】
イソブチレン系重合体がイソブチレン共重合体である場合、イソブチレンと共重合する単量体としては、エチレン、プロピレン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、スチレン等の1種又は2種以上を例示することができる。
【0030】
イソブチレン系重合体におけるイソブチレン単位の含有量は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。イソブチレン単位の含有量が上記下限値以上で多い程、(c)ポリブテンとの相溶性が良好となる傾向にあるため、イソブチレン系重合体はイソブチレン単位含有量100質量%のイソブチレン単独重合体であることが最も好ましい。なお、イソブチレン系重合体のイソブチレン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0031】
また、イソブチレン系重合体の質量平均分子量は、5,000〜500,000、特に10,000〜200,000であることが好ましい。イソブチレン系重合体の質量平均分子量が上記下限以上であると、機械的な特性等が十分に発現される傾向があり、上記上限以下であると、溶融混練性、架橋反応性に優れる傾向がある。
【0032】
なお、ここで、イソブチレン系重合体の質量平均分子量はGPCにより測定されたポリスチレン換算の値である。
【0033】
イソブチレン系重合体の末端にアルケニル基を導入する方法としては、特開平3−152164号公報や特開平7−304909号公報に開示されているような、水酸基などの官能基を有する重合体に不飽和基を有する化合物を反応させて重合体に不飽和基を導入する方法が挙げられる。またハロゲン原子を有する重合体に不飽和基を導入するためにはアルケニルフェニルエーテルとのフリーデルクラフツ反応を行う方法、ルイス酸存在下アリルトリメチルシラン等との置換反応を行う方法、種々のフェノール類とのフリーデルクラフツ反応を行い水酸基を導入した上でさらに前記のアルケニル基導入反応を行う方法などが挙げられる。この中でもアリルトリメチルシランと塩素の置換反応により末端にアリル基を導入したものが、反応性の点から好ましい。
【0034】
(a)成分は1種のみを用いてもよく、反応性基の種類やイソブチレン系重合体の単量体組成、質量平均分子量などの異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0035】
((b)ポリオレフィン)
(b)ポリオレフィン(以下、「(b)成分」と称す場合がある。)は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群より選択されるものであり、(b)成分は、(a)成分の架橋反応場として機能するだけでなく、A成分に、成形流動性、耐熱性、機械強度を付与する働きを有する。
【0036】
ポリエチレン系樹脂とは、全単量体単位に対するエチレン単位の含有量が50質量%よりも多いポリオレフィン樹脂である。
【0037】
ポリエチレン系樹脂としては、その種類は特に制限ざれず、エチレン単独重合体、エチレンランダム共重合体、エチレンブロック共重合体等のいずれも使用することができる。
【0038】
ポリエチレン系樹脂がエチレン共重合体である場合、エチレンと共重合する単量体としては、プロピレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等の1種又は2種以上を例示することができる。
【0039】
ポリプロピレン系樹脂とは、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有量が50質量%よりも多いポリオレフィン樹脂である。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂としては、その種類は特に制限ざれず、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等のいずれも使用することができる。
【0041】
ポリプロピレン系樹脂がプロピレン共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、エチレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等の1種又は2種以上を例示することができる。
【0042】
ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは80質量%以上である。プロピレン単位の含有量が上記下限値以上であることにより、組成物の結晶性が向上し、成形品の耐熱性が良好となる傾向にある。一方、ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の含有量の上限については、特に制限はなく、通常100質量%以下である。なお、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0043】
好ましいポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどが挙げられ、好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなどが例示できる。(b)成分としては、耐熱性の点から、ポリプロピレン系樹脂を用いることが好ましい。
【0044】
(b)成分のメルトフローレート(MFR)としては特に限定されないが、ポリエチレン系樹脂の場合は、JIS K7210に従い、測定温度190℃、測定荷重21.2Nの条件で測定されたMFRとして、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜50g/10分であることがより好ましく、1〜30g/10分であることが特に好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂の場合は、JIS K7210に従い、測定温度230℃、測定荷重21.2Nの条件で測定されたMFRとして、0.1〜100g/10分であることが好ましく0.5〜50g/10分であることがより好ましく、1〜30g/10分であることが特に好ましい。いずれの場合も、MFRが上記下限以上であると成形流動性の観点から好ましく、上記上限以下であると動的熱処理時のイソブチレン系重合体の分散性向上の観点から好ましい。
【0045】
(b)成分は1種のみを用いてもよく、樹脂種や物性等の異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0046】
(b)成分は(a)成分100質量部に対して5〜30質量部用いる。(b)成分が5質量部よりも少ないと、(b)成分を用いることによる十分な成形流動性等の効果を得ることができないばかりか、(a)成分の分散が不十分となり、(a)成分の動的熱処理が均一に進行しなくなる場合がある。(b)成分が30質量部よりも多いと、動的熱処理による樹脂温度の上昇に晒される成分が多くなるため、組成物全体として熱劣化が起こりやすくなり、得られる組成物の変色やベタツキの発生、低分子量成分の発生、ヤケ等の異物の発生が起こる場合があり、また、柔軟性が損なわれ、得られる熱可塑性エラストマー組成物に十分なシール性が得られない場合がある。(b)成分は(a)成分100質量部に対して好ましくは6〜25質量部、より好ましくは7〜20質量部用いられる。
【0047】
((c)ポリブテン)
(c)数平均分子量が700〜100,000のポリブテン(以下、「(c)成分」と称す場合がある。)は、柔軟性と成形流動性を付与するための軟化剤として機能するものである。
【0048】
(c)成分のポリブテンの数平均分子量が700未満であるとブリードアウトが認められるようになる。(c)成分のポリブテンの数平均分子量は800〜100,000であることが好ましく、850〜80,000であることがより好ましい。
【0049】
ここで、ポリブテンの数平均分子量は、GPCにより測定されるポリスチレン換算の値である。
【0050】
(c)成分は(a)成分100質量部に対して5〜100質量部用いる。(c)成分が5質量部よりも少ないと、(c)成分を用いることによる上記効果を十分に得ることができず、100質量部よりも多いとブリードアウトの恐れがある。(c)成分は(a)成分100質量部に対して好ましくは10〜80質量部、より好ましくは20〜70質量部用いられる。
【0051】
((d)ヒドロキシル基含有化合物)
(d)ヒドロキシル基含有化合物(以下、「(d)成分」と称す場合がある。)は、(a)成分の架橋剤として機能するものである。
【0052】
(d)成分のヒドロシリル基含有化合物に特に制限はないが、ヒドロシリル基含有ポリシロキサンが好ましく、各種のものを用いることができる。その中でもヒドロシリル基を3個以上持ち、シロキサンユニットを3個以上500個以下持つ、ヒドロシリル基含有ポリシロキサンが好ましく、ヒドロシリル基を3個以上持ち、シロキサンユニットを10個以上200個以下持つヒドロシリル基ポリシロキサンがさらに好ましく、ヒドロシリル基を3個以上持ち、シロキサンユニットを20個以上100個以下持つヒドロシリル基ポリシロキサンが特に好ましい。ヒドロシリル基が3個より少ないと、架橋によるネットワークの十分な成長が達成されず最適なゴム弾性が得られない傾向があり、シロキサンユニットが500個より多くなると、ポリシロキサンの粘度が高く(a)成分中への分散性が低下し、架橋反応の進行が不十分となる傾向がある。ここで言うポリシロキサンユニットとは以下の一般式(I)、(II)、又は(III)で表される部分構造をさす。
[Si(R
1)
2O] …(I)
[Si(H)(R
2)O] …(II)
[Si(R
2)(R
3)O] …(III)
(上記式中、R
1及びR
2は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を表し、R
3は炭素数1〜10のアルキル基又はアラルキル基を表す。)
【0053】
ヒドロシリル基含有ポリシロキサンとして、下記一般式(IV)又は(V)で表される鎖状ポリシロキサンや、下記一般式(VI)で表される環状ポリシロキサン等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0055】
(上記式(IV)〜(VI)中、R
1及びR
2は炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を表し、R
3は炭素数1〜10のアルキル基又はアラルキル基を表す。bは3≦b、a,b,cは3≦a+b+c≦500を満たす整数を表す。eは3≦e、d,e,fはd+e+f≦500を満たす整数を表す。)
【0056】
(d)成分のヒドロシリル基含有化合物は任意の割合で用いることができるが、架橋速度の面から、(a)成分のアルケニル基等の反応性基に対するヒドロシリル基の量(ヒドロシリル基/反応性基)が、モル比で0.5〜10の範囲となるように用いることが好ましく、さらに1〜5となるように用いることが好ましい。このモル比が0.5より小さいと、架橋が不十分となる傾向があり、また、10より大きいと、架橋後も活性なヒドロシリル基が大量に残るので、揮発分が発生しやすい傾向がある。
【0057】
(ヒドロシリル化触媒)
(a)成分と(d)成分との架橋反応は、2成分を混合して加熱することにより進行するが、反応をより迅速に進めるために、ヒドロシリル化触媒を添加することが好ましい。このようなヒドロシリル化触媒としては特に限定されず、例えば、有機過酸化物やアゾ化合物等のラジカル発生剤、及び遷移金属触媒が挙げられる。
【0058】
ラジカル発生剤としては特に限定されず、例えば、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)イソプロピルベンゼンのようなジアルキルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、p−クロロベンゾイルペルオキシド、m−クロロベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドのようなジアシルペルオキシド、過安息香酸−t−ブチルのような過酸エステル、過ジ炭酸ジイソプロピル、過ジ炭酸ジ−2−エチルヘキシルのようなペルオキシジカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンのようなペルオキシケタール等を挙げることができる。
【0059】
また、遷移金属触媒としても特に限定されず、例えば、白金単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に白金固体を分散させたもの、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体、白金−オレフィン錯体、白金(0)−ジアルケニルテトラメチルジシロキサン錯体が挙げられる。白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh
3)
3,RhCl
3,RuCl
3,IrCl
3,FeCl
3,AlCl
3,PdCl
2・H
2O,NiCl
2,TiCl
4等が挙げられる(ここで、「Ph」は「フェニル基」を表す。)。これらの触媒は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのうち、架橋効率の点で、白金ビニルシロキサンが好ましい。
【0060】
ヒドロシリル化触媒量としては特に制限はないが、(a)成分の反応性基1モルに対し、10
−1〜10
−8モルの範囲で用いるのが良く、好ましくは10
−3〜10
−6モルの範囲で用いるのがよい。触媒量が上記下限以上であると架橋の進行が十分となる傾向があり、上記上限以下であると、発熱を抑えて、架橋反応を十分に制御できる傾向がある。
【0061】
(A成分の製造方法)
A成分は、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分、更に必要に応じて前述のヒドロシリル化触媒等のその他の成分を含む混合物を動的熱処理してなるものであり、この動的熱処理により、(a)成分が(b)成分と(c)成分の存在下に、(d)成分により架橋される架橋反応が進行して架橋物となる。
【0062】
本発明において「動的熱処理」とは溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。この動的熱処理は、溶融混練によって行うのが好ましく、そのための加熱混練装置としては、特に制限はないが、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等が挙げられる。また、その添加の順序としては、(b)成分が溶融した後に、溶融した(b)成分と(c)成分に(a)成分を添加し、さらに必要であれば他の成分を追加し、均一に混合した後、(d)成分の架橋剤及びヒドロシリル化触媒を添加して架橋反応を進行させる方法が好ましい。なお、ヒドロシリル化触媒は液状の(c)成分に混合して添加してもよい。
【0063】
動的熱処理時の溶融混練の温度は、130〜240℃が好ましい。この温度が130℃以上であれば、(b)成分の溶融が十分となり、均一に混練できるようになる傾向がある。この温度が240℃以下であれば、(a)成分の熱分解を抑制できる。溶融混練の時間は通常1〜10分程度である。
【0064】
なお、本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、前述の(a)反応性基を有するイソブチレン系重合体を、所定量の(b)ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であるポリオレフィンと(c)数平均分子量が700〜100,000のポリブテンの存在下で、(d)ヒドロシリル基含有化合物により動的熱処理することにより得られるA成分による前述の作用機構に基づく効果を確実に得る上で、A成分は、(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び必要に応じて用いられる前述のヒドロシリル化触媒を、合計で、動的熱処理によりA成分を製造する原料混合物中に50質量%以上含むように配合することが好ましく、特に60質量%以上、とりわけ80〜100質量%となるように配合することが好ましい。
【0065】
<B成分>
B成分は、曲げ弾性率1,000〜3,000MPaのポリプロピレン系樹脂である。
【0066】
ポリプロピレン系樹脂とは、前述の通り、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有量が50質量%よりも多いポリオレフィン樹脂である。
【0067】
ポリプロピレン系樹脂としては、その種類は特に制限ざれず、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等のいずれも使用することができる。
【0068】
ポリプロピレン系樹脂がプロピレン共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、エチレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等の1種又は2種以上を例示することができる。
【0069】
ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有量が上記下限値以上であることにより、耐熱性及び剛性が良好となる傾向にある。得られる成形体の耐熱性、シール性及び環状ポリオレフィン系樹脂との耐固着性の観点から、B成分のポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)を用いることが好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0070】
B成分のポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、得られるシール性部品の環状ポリオレフィン系樹脂に対する耐固着性、シール性及び針保持性の観点から、1,000MPa以上であり、1,100MPa以上が好ましく、1,200MPa以上がより好ましい。また、得られるシール性部品のシール性の観点から、3,000MPa以下であり、2,500MPa以下が好ましく、2,000MPa以下がより好ましい。即ち、B成分のポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、1,000〜3,000MPaであり、1,100〜2,500MPaが好ましく、1,200〜2,000MPaがより好ましい。
【0071】
なお、ここで、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定される値である。
【0072】
また、B成分のポリプロピレン系樹脂の、JIS K7210に従い、測定温度230℃、測定荷重21.2Nの条件で測定されたMFRは、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜80g/10分であることがより好ましく、1〜70g/10分であることが特に好ましい。B成分のポリプロピレン系樹脂のMFRが上記下限以上であると成形流動性の観点から好ましく、上記上限以下であると得られる成形品の耐熱性の観点から好ましい。
【0073】
<A成分とB成分の含有割合>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、A成分中の(a)成分100質量部に対してB成分を5〜40質量部含むことが好ましい。B成分の含有量が上記下限以上であると、A成分にB成分を混合することによる成形品の医療用途としての衛生性を確保する効果を十分に得ることができ、上記上限以下であるとシール性部品のシール性が十分に発現される。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、B成分を(a)成分100質量部に対して8〜38質量部含むことがより好ましく、10〜35質量部含むことが更に好ましい。
【0074】
なお、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、A成分の1種のみを含むものであってもよく、(a)〜(d)成分の種類や組成の異なるA成分の2種以上を含むものであってもよい。B成分についても、1種のみを含むものであってもよく、単量体組成や物性の異なるものの2種以上を含むものであってもよい。
【0075】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲において、A成分及びB成分以外の他の成分、例えばA成分及びB成分以外の樹脂やエラストマー、添加剤を含むものであってもよい。
【0076】
A成分及びB成分以外の樹脂やエラストマーとしては、具体的には、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂;スチレン系熱可塑性エラストマー及び/又はその水素添加物等を挙げることができる。
【0077】
このうち、スチレン系熱可塑性エラストマー及び/又はその水素添加物としては、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム等が挙げられるが、これらの中でも耐熱性及び柔軟性の点から、スチレン系のブロック共重合体が好ましく、以下の式(1)及び/又は式(2)で表されるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンブロックとの共重合体及び/又はその水素添加物(水素添加誘導体)(以下、「水添ブロック共重合体」と称する場合がある。)であるのがより好ましく、以下の式(1)及び/又は式(2)で表されるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンブロックとの共重合体の水素添加物であるのが更に好ましく、以下の式(1)で表されるスチレン系のブロック共重合体の水素添加物、即ち、ビニル芳香族炭化水素単位からなる重合体ブロック(S)と、共役ジエン単位からなる重合体ブロック(D)を、S−D−Sの直鎖状トリブロック構造で有するスチレン系のブロック共重合体の水素添加物が特に好ましい。
【0078】
S−(D−S)m …(1)
(S−D)n …(2)
(式中、Sはビニル芳香族炭化水素単位からなる重合体ブロックを表し、Dは共役ジエン単位からなる重合体ブロックを表し、m及びnは1〜5の整数を表す)
【0079】
上述のブロック共重合体は、直鎖状、分岐状及び/又は放射状の何れでもよい。
【0080】
Sの重合体ブロックを構成する単量体のビニル芳香族炭化水素としては、スチレン又はα−メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。
Dの重合体ブロックを構成する共役ジエン単量体としては、ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましい。
【0081】
式(1)及び/又は式(2)で表されるブロック共重合体が水添ブロック共重合体であり、Dの重合体ブロックがブタジエンのみから構成される場合、Dブロックのミクロ構造中の1,2−付加構造が20〜70質量%であるのが水添後のエラストマーとしての性質を保持する上で好ましい。
【0082】
m及びnは、秩序−無秩序転移温度を下げるという意味では大きい方がよいが、製造しやすさ及びコストの点では小さい方がよい。ブロック共重合体(水添ブロック共重合体も含む)としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表されるブロック共重合体(水添ブロック共重合体も含む)よりも式(1)で表されるブロック共重合体(水添ブロック共重合体も含む)が好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体(水添ブロック共重合体も含む)が更に好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体(水添ブロック共重合体も含む)が特に好ましい。
【0083】
式(1)及び/又は式(2)で表されるブロック共重合体(水添ブロック共重合体も含む)中の「Sの重合体ブロック」の割合は、熱可塑性エラストマーの機械的強度の点から多い方が好ましく、また、一方、柔軟性、ブリードアウトのしにくさの点から少ない方が好ましい。式(1)のブロック共重合体(水添ブロック共重合体も含む)中の「Sの重合体ブロック」の割合は、具体的には、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましく、また、一方、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0084】
式(1)及び/又は式(2)で表されるブロック共重合体(水添ブロック共重合体も含む)等のスチレン系熱可塑性エラストマー及び/又はその水素添加物の重量平均分子量は、耐熱性、機械的強度の点では大きい方が好ましいが、成形外観及び流動性の点では小さい方が好ましい。具体的には、スチレン系熱可塑性エラストマー及び/又はその水素添加物の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、3万以上であることが更に好ましく、また、一方、80万以下であることが好ましく、65万以下であることが更に好ましく、50万以下であることが特に好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により、以下の条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0085】
(測定条件)
機器:日本ミリポア社製「150C ALC/GPC」
カラム:昭和電工社製「AD80M/S」3本
検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」測定
波長:3.42μm
溶媒:o−ジクロロベンゼン
温度:140℃
流速:1cm
3/分
注入量:200マイクロリットル
濃度:2mg/cm
3
酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−p−フェノール0.2質量%添加
【0086】
上述のブロック共重合体及び/又はその水素添加物の製造方法としては、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、公知の製造方法を用いることができる。
【0087】
上記のような水添ブロック共重合体の市販品としては、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、クラレ社製「セプトン(登録商標)」、旭化成社製「タフテック(登録商標)」等が挙げられる。
【0088】
これらのスチレン系熱可塑性エラストマー及び/又はその水素添加物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0089】
また、他の添加剤等としては、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、光安定剤、結晶核剤、衝撃改良剤、顔料、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、相溶化剤、粘着性付与剤、鉱物油系ゴム用軟化剤、合成油系ゴム用軟化剤等が挙げられる。
これらのその他の樹脂や添加剤等は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0090】
特に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物が上記のスチレン系熱可塑性エラストマー及び/又はその水素添加物を含む場合は、これと親和性の高い鉱物油系ゴム用軟化剤や合成油系ゴム用軟化剤を更に含むことが好ましく、これらの軟化剤は、スチレン系熱可塑性エラストマー及び/又はその水素添加物100質量部に対して30〜200質量部含有されることが好ましい。
【0091】
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
滑剤としては、例えば、シリコーンオイル、脂肪酸アミド、脂肪酸グリセリド等が挙げられる。
難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が環境面で好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0092】
充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0093】
A成分及びB成分以外の樹脂や添加剤を用いる場合でも、本発明の熱可塑性エラストマー組成物中におけるA成分及びB成分の合計量は、本発明の優れた効果の発現のしやすさ等の点から、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。なお、ここでの上限は、通常100質量%である。
【0094】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上述の各成分を所定の割合で混合することにより製造され、耐熱性、圧縮永久歪に優れるものである。
【0095】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限は無い。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分布した樹脂組成物を得ることができる。
【0096】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、前記の各原料成分をそのままドライブレンドした状態をも包含し、これを成形することによってシール性部品としてもよいが、より均一な混合・分散のためには、前記のA成分及びB成分等の原料成分を、溶融混合して組成物としておくことが好ましい。溶融混合の方法としては、例えば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の各原料成分を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分を順次溶融させながら混合してもよいし、各原料成分の混合物をペレット化したり目的成形品を製造する際の成形時に溶融混合してもよい。
【0097】
前記の各原料成分を混合する際の混合方法や混合条件は、各原料成分が均一に混合されれば特に制限はないが、生産性の点からは、単軸押出機や二軸押出機のような連続混練機及びミルロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機等の公知の溶融混練方法が好ましい。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃の範囲である。
【0098】
[シール性部品]
本発明の医療用器具のシール性部品(以下、「本発明のシール性部品」と称す場合がある。)は、上述の本発明の熱可塑性エラストマー組成物をシール性部品の形状に成形することにより得ることができる。本発明のシール性部品は、密封性と摺動性が確保できればどのような形状のものでも構わない。
【0099】
本発明のシール性部品の製造方法は、シール性を発現させることができる形状に成形できれば特に制限はない。具体的には射出成形、圧縮成形、押出成形からの打ち抜き成形等が挙げられるが、これらのうち、成形サイクルや量産性を考えると、射出成形又は圧縮成形が好ましい。
【0100】
成形時のシリンダー及びダイスの温度は、未溶融物の表面析出等による外観不良が起こり難い点では、高温であることが好ましく、熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分の中で最も融点が高い成分の融点より高温であることがより好ましく、最も融点が高い成分の融点より10℃以上高いことが更に好ましく、最も融点が高い成分の融点より20℃以上高いことが特に好ましい。具体的には、A成分の融点が一般的に160〜240℃であることから、170℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましい。一方、含有成分の熱分解による変色や物性低下を起こさないためには、成形時のシリンダー及びダイスの温度は、低い方が好ましい。成形時のシリンダー及びダイス温度の上限は250℃以下であることが好ましく、240℃以下であることがより好ましい。また、射出成形を行う場合の金型温度は、60℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましい。
【0101】
[筐体]
本発明の医療用器具の筐体は環状ポリオレフィン系樹脂からなる。
環状ポリオレフィンとは、エチレンと環状オレフィンモノマーとの共重合体、又は環状オレフィンモノマーの開環メタセシス重合体の水素添加物を指す。環状オレフィンモノマーとしては、例えばシクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体や、ノルボルネン環を有する置換及び無置換の二環もしくは三環以上の多環環状オレフィンモノマー(以下、「ノルボルネン系モノマー」と称す場合がある。)が挙げられる。製造適性及び内容物適性の観点から、中でもノルボルネン系モノマーが好適に用いられる。
【0102】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、塩素化ノルボルネン、クロロメチルノルボルネン、トリメチルシリルノルボルネン、フェニルノルボルネン、シアノノルボルネン、ジシアノノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、ピリジルノルボルネン、ナヂック酸無水物、ナヂック酸イミドなどの二環シクロオレフィン;ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの三環シクロオレフィン;ジメタノヘキサヒドロナフタレン、ジメタノオクタヒドロナフタレンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの四環シクロオレフィン;トリシクロペンタジエンなどの五環シクロオレフィン;ヘキサシクロヘプタデセンなどの六環シクロオレフィンなどが挙げられる。また、ジノルボルネン、二個のノルボルネン環を炭化水素鎖又はエステル基などで結合した化合物、これらのアルキル、アリール置換体などのノルボルネン環を含む化合物等を用いることも可能である。
【0103】
上記エチレンと環状オレフィンモノマーの共重合体としては、例えば三井化学株式会社製の「アペル(登録商標)」、TICONA社製の「TOPAS(登録商標)」等の市販品を好適に用いることができる。また、上記ノルボルネン系モノマーの開環メタセシス重合体の水素添加物としては、日本ゼオン株式会社製の「ゼオネックス(登録商標)」、「ゼオノア(登録商標)」やJSR製の「アートン(登録商標)」等の市販品を好適に用いることができる。
【0104】
環状ポリオレフィン系樹脂としては、その透明性、水蒸気バリア性を損なわない範囲で複数種の環状ポリオレフィン系樹脂を併用した環状ポリオレフィン系樹脂組成物を用いることもでき、また、ポリエチレンやスチレン系エラストマーとの混合物を使用することもできる。
【0105】
本発明の医療用器具の筐体は、上記のような環状ポリオレフィン系樹脂を用いて押出成形、射出成形、二色成形等により常法に従って製造することができる。
【0106】
[医療用器具]
本発明の医療用器具は、上記のような環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるシール性部品とを有するものである。
本発明の医療用器具は、環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と、これと接する本発明のシール性部品とを有するものであれば、その形状、使用目的等には特に制限はないが、代表的には注射器が挙げられ、本発明の医療用器具における筐体がシリンジ、シール性部品がガスケットであることが好ましく、特に本発明の医療用器具はプレフィルドシリンジとして好適に適用される。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0108】
[原料]
以下の実施例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
【0109】
<A成分>
(a)成分:末端にアルケニル基を有するイソブチレン系重合体(国際公開WO2006/098142の製造例1に従って製造したもの、質量平均分子量=50,000、アリル基含有量=2.0個/モル)
(b1)成分:ランダムポリプロピレン(商品名:プライムポリプロ(登録商標)J215W、プライムポリマー社製、MFR(230℃、21.2N荷重)=9g/10分)
(b2)成分:高密度ポリエチレン(商品名:ハイゼックス(登録商標)2200J、プライムポリマー社製、MFR(190℃、21.2N荷重)=5.2g/10分)
(c)成分:ポリブテン(商品名:出光ポリブテン100R、出光興産社製、数平均分子量=960)
(d)成分:(CH
3)
3SiO-[Si(H)(CH
3)O]
48−Si(CH
3)
3で表されるヒドロシリル基含有ポリシロキサン
【0110】
<B成分>
(B1)成分:ポリプロピレン単独重合体(商品名:ノバテック(登録商標)FA3KM、日本ポリプロ社製、曲げ弾性率=1,500MPa、MFR(230℃、21.2N荷重)=10g/10分)
(B2)成分:ポリプロピレン単独重合体(商品名:ノバテック(登録商標)FY6Q、日本ポリプロ社製、曲げ弾性率=1,500MPa、MFR(230℃、21.2N荷重)=2g/10分)
【0111】
<比較用A成分>
(c’)成分:鉱物油系ゴム用軟化剤(商品名:JOMOプロセスP500、ジャパンエナジー社製)
【0112】
<比較用B成分(B’成分)>
ランダムポリプロピレン(商品名:ウェルネクス(登録商標)RFG4MC、日本ポリプロ社製、曲げ弾性率=280MPa、MFR(230℃、21.2N荷重)=6g/10分)
【0113】
<その他成分(C成分)>
(C1)成分:スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水素添加物(商品名:クレイトン(登録商標)G1651HU、クレイトンポリマー社製、重量平均分子量(Mw):250,000、スチレン含有量:33質量%)
(C2)成分:鉱物油系ゴム用軟化剤(商品名:ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW380、出光興産社製)
(C3)成分:合成油系ゴム用軟化剤(商品名:ルーカント(登録商標)HC−40、松和産業社製)
【0114】
<環状ポリオレフィン系樹脂>
シクロオレフィンポリマー(商品名:ゼオネックス(登録商標)690R、日本ゼオン社製、密度=1.01g/cm
3、MFR(280℃、2.12N荷重)=20g/10分)
【0115】
[実施例1]
<A成分の製造>
(a)イソブチレン系重合体100質量部、(b1)ランダムポリプロピレン11質量部、(c)ポリブテン40質量部、(d)ヒドロシリル基含有ポリシロキサン1.2質量部を用いて、国際公開WO2006/098142に記載の方法に従って動的熱処理を行い、動的熱処理物であるA成分を製造した。
【0116】
<熱可塑性エラストマー組成物試験片の製造>
表−1に示す配合割合(質量部)となるように、A成分とB成分を配合し、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用いて200℃にて5分間溶融混練し、熱可塑性エラストマー樹脂組成物を得た。次いで、得られた組成物を200℃にて圧縮成形し、2mm厚のプレートを得た。
【0117】
<環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造>
株式会社テクノベル製二軸押出機KZW15−45MG−NHにて環状ポリオレフィン系樹脂を成形し、厚み100μmの単層フィルムを得た。成形時の条件は、成形温度:230〜260℃、成形速度:3m/分に設定した。得られたフィルムは10cm四方の大きさに切り出した。
【0118】
製造された熱可塑性エラストマー組成物プレートと環状ポリオレフィン系樹脂フィルムを用い、以下の評価を行い、結果を表−1に示した。
【0119】
<力学的評価>
1.A硬度
熱可塑性エラストマー組成物のプレートを用い、JIS K6253に準じて測定を行った。熱可塑性エラストマー樹脂組成物をシール性部品として好適に用いるためには、熱可塑性エラストマー組成物のA硬度は40以上75以下であることが好ましい。
2.圧縮永久歪
熱可塑性エラストマー組成物のプレートを用い、JIS K6262に準じて測定を行った。熱可塑性エラストマー樹脂組成物をシール性部品として好適に用いるためには、120℃×22hr(25%圧縮)の圧縮永久歪が60%以下であることが好ましい。
【0120】
<筐体とシール性部品との接触評価>
作成した熱可塑性エラストマー組成物のプレートから接触評価用の直径28mmの試験片を打ち抜いた。打ち抜いた熱可塑性エラストマー樹脂組成物の試験片を、切り出した環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの中央部に載せて両者を接触させ、評価用サンプルとした。これを120℃のオーブンに入れ、4.5kgの荷重を加えた状態で120分間加熱した後、荷重を除き、23℃で30分間空冷した後、下記の測定方法により固着性試験、白化確認試験を実施した。
1.固着性試験
評価用サンプルから熱可塑性エラストマー樹脂組成物の試験片を除く際、試験片と環状ポリオレフィン系樹脂のフィルムの固着状態を確認した。評価基準は下記の通りとした。
◎:特に力を加えなくても試験片とフィルムを容易にはがすことができる。
○:多少の力は必要だが、試験片とフィルムをはがすことができる。
×:試験片とフィルムをはがすのにかなりの力を要するか、はがすことができない。2.白化確認試験
評価用サンプルから熱可塑性エラストマー樹脂組成物の試験片を除き、残った環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの試験片と接触していた部分の外見上の変化を確認した。評価基準は下記の通りとした。
◎:フィルムに全く変化が認められない。
○:フィルムにやや白化が見られるが問題ない。
×:フィルムに白化や割れ等の変化が顕著に見られる。
【0121】
[実施例2、3]
熱可塑性エラストマー組成物試験片の製造時に、A成分、B成分およびC成分を、表−1に示す配合割合(質量部)となるように、同方向二軸押出機TEX25αIII(日本製鋼所社製)を用いて溶融混練を行って熱可塑性エラストマー組成物を得、次いで、得られた組成物をインラインスクリュウタイプ射出成形機IS130GN−5A(東芝機械社製)を用いてシート状に成形した。得られた射出成形プレート(厚み2mm)を用いて、実施例1と同様に評価を行い、結果を表−1に示した。
【0122】
[比較例1]
実施例1において、A成分の製造に、(b1)ランダムポリプロピレンの代りに(b2)高密度ポリエチレンを用い、また、(c)ポリブテンの代りに(c’)鉱物油系ゴム用軟化剤を用いたこと以外は同様にして熱可塑性エラストマー組成物を製造し、同様に評価を行い、結果を表−1に示した。
【0123】
[比較例2]
実施例1において、B成分のポリプロピレンの代りに曲げ弾性率の低いB’成分のポリプロピレンを用いたこと以外は同様にして熱可塑性エラストマー組成物を製造し、同様に評価を行い、結果を表−1に示した。
【0124】
【表1】
【0125】
表−1より、実施例1〜3の熱可塑性エラストマー組成物は、硬度、圧縮永久歪、環状ポリオレフィン系樹脂との固着防止性、白化防止性に優れることがわかる。
これに対して、ポリブテン以外の軟化剤を用いた比較例1では、熱可塑性エラストマー組成物の環状ポリオレフィン系樹脂との接触部において顕著な白化が発生している。
また、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率が低すぎる比較例2では、熱可塑性エラストマー組成物の環状ポリオレフィン系樹脂との固着が顕著に発生している。