(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記のような従来のスタッカークレーンでは、走行作動と昇降作動が開始してから完了するまでの全期間にわたる消費電力量の総計を低減することができるとしても、その全期間のうちの一部、特定の期間においては走行作動の消費電力と昇降作動の消費電力の合計が一時的に定格を超過してしまう場合がある。
【0007】
走行作動のための電力と、昇降作動のための電力とが両方とも共通してスタッカークレーンの主電源から供給されている場合には、主電源は走行作動の消費電力と昇降作動の消費電力の合計となる総消費電力を出力しなければならない。一方、走行作動と昇降作動のそれぞれには、開始から完了までの間に最も消費電力が高くなる期間、つまり消費する電力の最大ピーク期間がある。ここで、走行作動と昇降作動が同時に行われてこれらの最大ピーク期間が重なる可能性を考慮するならば、走行作動と昇降作動の両方の最大消費電力の合計値に相当する電力を供給できるほど定格の大きい(出力可能な最大電力が高い)主電源が要求される。
【0008】
この問題に対し、主電源を補助する補助電源として、スタッカークレーンに蓄電池を搭載して、この蓄電池に主電源から予め蓄えられた電力を併用することによって最大ピーク期間における電力供給を補助するという方法が考えられる。この方法ならば主電源の定格はさほど大きくなくてよい。ただし蓄電池から出力可能な電力にも上限があり、出力可能な上限電力を毎回(何度も)蓄電池から実際に出力させてしまうと蓄電池の寿命を縮めてしまうおそれがある。そのため、総消費電力は走行作動と昇降作動の開始から完了までの全期間にわたって、常に蓄電池から出力可能な上限電力よりも低くなっていることが望ましい。同様に主電源も、出力可能な最大電力を実際に出力してしまうと過度に負荷を受けるため、総消費電力はピークにおいてもできるだけ低くなっていることが望ましい。
【0009】
そこで本発明は、スタッカークレーンの動作に必要な消費電力を低減して省電力を図るとともに、走行のための消費電力ピークと昇降のための消費電力ピークとが重なる場合でも総消費電力が過度に高くならないようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る実施形態の一例としてのスタッカークレーンは、物品を搬送するために用いられるスタッカークレーンであって、走行用モータの駆動によって走行することで走行経路に沿った水平方向に移動する走行台車と、昇降用モータの駆動によって昇降することで前記走行台車に立設された昇降マストに沿った鉛直方向へ移動する昇降台と、外部からの搬送指示に応じて前記走行用モータおよび前記昇降用モータを制御することにより、搬送指示によって指示された目標位置へと前記昇降台を移動させる移動制御装置と、を有するスタッカークレーンにおいて、前記移動制御装置は、前記昇降台を現在位置から前記目標位置へ移動させるために必要な前記走行用モータおよび前記昇降用モータの駆動パターンを、予め定められた標準制御規則に従って決定し、前記標準制御規則に従って決定される前記駆動パターンにおいて、前記走行用モータが消費する電力の最大ピーク期間と、前記昇降用モータが消費する電力の最大ピーク期間とが、前記標準制御規則に従って決定される前記駆動パターンでは重なる場合には、前記移動制御装置は、前記走行用モータおよび前記昇降用モータの上限速度が前記標準制御規則における上限速度よりも低く設定された省電力制御規則に従って前記走行用モータおよび前記昇降用モータの駆動パターンを決定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の更なる実施形態では、上記スタッカークレーンにおいて、主電源から供給される電力を蓄積する蓄電装置が設けられており、前記蓄電装置は、前記主電源と共同で電力を出力するか、または前記蓄電装置のみからの電力を出力することにより、前記主電源のみから電力が出力される場合よりも高い電力を出力することが可能であり、前記蓄電装置から前記走行用モータおよび前記昇降用モータへ駆動用の電力が供給されることが好ましい。
【0012】
また、本発明の更なる実施形態では、上記スタッカークレーンにおいて、前記標準制御規則には、前記走行台車の走行速度の上限としての標準上限走行速度と、前記昇降台の昇降速度の上限としての標準上限昇降速度と、が予め設定されており、前記移動制御装置が、前記標準制御規則に従って前記走行用モータおよび前記昇降用モータの駆動パターンを決定する場合に、前記移動制御装置は、前記走行台車が前記標準上限走行速度で前記目標位置の水平座標まで走行するのに要する最短走行時間と、前記昇降台が前記標準上限昇降速度で前記目標位置の鉛直座標まで昇降するのに要する最短昇降時間と、を比較し、前記最短走行時間が前記最短昇降時間よりも長い場合には、前記昇降台が前記目標位置の鉛直座標まで昇降するのに前記最短走行時間と同じ時間を要するように前記昇降台の昇降速度を設定し、前記最短昇降時間が前記最短走行時間よりも長い場合には、前記走行台車が前記目標位置の水平座標まで走行するのに前記最短昇降時間と同じ時間を要するように前記走行台車の走行速度を設定することが好ましい。
【0013】
また、本発明の更なる実施形態では、上記のように走行台車の走行速度を設定することに加えて、前記昇降台が昇降可能な最大距離を可能な限り高速で昇降するのに要する最大電力および時間をそれぞれ最大昇降電力および最大距離昇降時間とし、前記最大距離昇降時間と同じ期間だけ前記走行台車が前記標準上限走行速度で走行するのに要する最大電力を最大走行電力とし、前記最大昇降電力と前記最大走行電力との和以上の値が省電力閾値として設定されており、前記標準制御規則に従って前記走行用モータおよび前記昇降用モータの駆動パターンが決定されると前記走行用モータおよび前記昇降用モータが消費する合計電力のピークが前記省電力閾値よりも大きくなる場合に、前記移動制御装置は、省電力制御規則に従って前記走行用モータおよび前記昇降用モータの駆動パターンを決定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る実施形態の一例としてのスタッカークレーンによれば、標準制御規則では走行のための消費電力ピークと昇降のための消費電力ピークとが重なる場合には、昇降用モータの上限速度が低く設定された省電力制御規則を用いるため、昇降用モータで消費される電力の上限が低く制限されることになり、走行のための消費電力ピークと昇降のための消費電力ピークとが重なっていても、走行のための消費電力と昇降のための消費電力の合計となる総消費電力が過度に高くなることはない。また省電力制御規則を用いることによって、走行と昇降それぞれの消費電力ピークの期間がずれる場合もあり、この場合は結果的にこれらのピークが重ならず、以って総消費電力が低く抑えられる。
【0015】
また更なる実施形態においてスタッカークレーンに蓄電池などの蓄電装置が設けられており、この蓄電装置が主電源を十分に補助できる高い電力を出力することが可能であれば、定格の小さい(出力可能な最大電力が低い)主電源を用いる必要がある場合、例えば設備に備え付けの主電源を変更できない場合であっても、問題なく消費電力の高いスタッカークレーンを動作させることができる。そしてこの場合でも、上述の通り総消費電力が過度に高くなることはないので、蓄電装置が出力可能な上限にまで至るほど高い電力を実際に出力してしまうことは避けられ、蓄電装置の寿命を縮めてしまうことはない。より詳しくは、蓄電装置のみから出力される電力、あるいは蓄電装置と主電源との共同で出力される電力が、主電源のみから出力される電力よりも大きくなっていることが好ましい。
【0016】
また更なる実施形態におけるスタッカークレーンによれば、最短走行時間と最短昇降時間との比較に応じて走行速度または昇降速度を設定することにより、昇降台の昇降と走行台車の走行とが同時に完了することになり、昇降台と走行台車のどちらか一方が他方の動作の完了を他方が停止状態で待機する事態を防止することができる。
【0017】
また更なる実施形態におけるスタッカークレーンによれば、省電力閾値として最大昇降電力と最大走行電力との和以上の値が設定されることにより、総消費電力のピークが標準制御規則において許容可能な最大電力を超えると見込まれる場合に省電力制御規則に切り替わることが簡易に実現される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態の一例としてのスタッカークレーンについて説明する。
図1にはスタッカークレーン20を備える自動倉庫設備10の一例が示されている。この自動倉庫設備10には物品収納棚50が設けられており、スタッカークレーン20は自動倉庫設備10内を走行しながら物品収納棚50に対して物品14を搬入および搬出する。また、自動倉庫設備10には、この設備内で行われる作業を管理する自動倉庫コントローラ60が設けられている。この自動倉庫コントローラ60は例えば、各物品14の情報を管理したり、スタッカークレーン20へ搬送指示を出力したりする。自動倉庫コントローラ60は予め決められたルーチンに従い自動的に動作することもできるが、自動倉庫設備10の管理者(物流業者など)から入力装置62を介して動作指示を受信するなどして、管理者の指示に従って動作することもできる。
図1には入力装置62の例として自動倉庫コントローラ60の本体に備え付けられたタッチパネルディスプレイを示している。
【0020】
物品収納棚50には複数の支柱と一対の腕木54で個別に区切られた複数の収納部52が設けられている。これら収納部52は
図1に示す通り物品収納棚50内の上下方向(鉛直方向)および左右方向(水平方向)のそれぞれに複数配設されており、それぞれが物品14を収納することができる。
【0021】
物品収納棚50は自動倉庫設備10内に複数設けられる。
図1には物品収容棚50が2つ図示されているが、スタッカークレーン20を見やすくするために、手前側の物品収容棚50は端の部分以外を省略されている。自動倉庫コントローラ60は物品収納棚50の各収納部52について、どの物品収納棚50に属する収納部52であるのか、水平方向のどの位置であるのか、鉛直方向のどの位置であるのか、といった情報に基づき、収納部52のそれぞれを個別に識別して管理する。
【0022】
複数の物品収容棚50同士は収納部50に対する物品14の出し入れ方向が互いに対向するように間隔を隔てて配置されており、各物品収納棚50の間をスタッカークレーン20が走行する。
【0023】
スタッカークレーン20は、走行台車22と昇降台23を備えている。走行台車22は、各物品収納棚50の長手方向(水平方向)に沿って床面側に配設された走行レール28および天井側に走行レール28と平行に配設されたガイドレール29に案内されて、走行レール28によって規定される走行経路に沿った水平方向に移動する。なお、
図1には図示しない走行用モータ22M(
図2)が走行台車22に設けられており、この走行用モータ22Mの駆動によって車輪が回転させられるなどして走行台車22が走行する。
【0024】
昇降台23は、走行台車22に立設された前後一対の昇降マスト27に支持・案内されている。
図1には図示しない昇降用モータ23M(
図2)の駆動により、例えば昇降マスト27に設けられたスプロケットに巻き回されていて昇降台23を吊り下げるチェーンが巻き取り・繰り出しされるなどして、昇降台23は昇降マスト27に沿った鉛直方向へ移動する。走行台車22の走行と昇降台23の昇降により、昇降台23は物品収納棚50のうち任意の収納部52に臨む位置へと移動することができる。なお、走行台車22を走行させながら昇降台23を昇降させることが可能であり、昇降台23はその水平位置と鉛直位置を同時に変化させることができる。
【0025】
また昇降台23には、スタッカークレーン20から収納部52へ向かう方向(物品14の出し入れ方向)に昇降台23を出退させることが可能なフォーク装置24(移載装置)が設けられており、このフォーク装置24の作動によって昇降台23と物品収納棚50との間で物品の移載を行うことが可能である。例えば
図1には図示しない移載用モータ24M(
図2)の駆動によって折り畳み式のアームが出し入れ方向に伸縮することなどによって移載動作が行われる。なお、実際に移載を行うにあたっては移載用モータ24Mの駆動だけではなく昇降台23の昇降が伴う。すなわち、アームが伸びると昇降台23が物品収納棚50内に位置することになるが、その状態で昇降台23が物品14を収納している収納部52の下方から(一対の腕木54の間を通って)上昇すると、収納部52に収納されている物品14がフォーク装置24によって搬出される。一方、物品14を載置した昇降台23が空の収納部52の上方から下降すると、昇降台23に載置された物品14が収納部52へ搬入される。
【0026】
一対の昇降マスト27のうち片方の根元側に、スタッカークレーン20の動作を制御するクレーンコントローラ25が設けられている。
図2に示すように、クレーンコントローラ25には、自動倉庫コントローラ60との通信(赤外線通信や電波通信のような無線通信でも、有線通信でもよい)を行う通信器38や、走行台車22と昇降台23の移動を制御する移動制御装置30などが含まれる。
【0027】
図2は、自動倉庫設備10に設けられた各種機器同士の間の関係を表すブロック図である。
図2に示すように、クレーンコントローラ25に含まれる移動制御装置30は、走行用モータ22Mを制御する走行制御部32と、昇降用モータ23Mを制御する昇降制御部33と、移載用モータ24Mを制御する移載制御部34とを有する。
【0028】
また、走行制御部32と昇降制御部33はそれぞれ、走行台車22の現在位置(水平方向の位置)を測定する水平測定装置32aと、昇降台23の現在位置(鉛直方向の位置)を測定する鉛直測定装置33aから、測定された現在位置の情報を受信する。水平測定装置32aの具体例としては、走行台車22から走行レール28と平行にレーザ光を投射し、走行レール28の端部に設けられた図示しない反射鏡からの反射光を調べるというレーザ測定方式の測定器が利用可能である。同様に鉛直測定装置33aについても、走行台車22の土台部から上方へレーザ光を投射し、昇降台23の底面側に貼り付けられた反射鏡からの反射光を調べるレーザ測定方式の測定器が利用可能である。これらにより、移動制御装置30は走行台車22の水平方向位置および昇降台23の鉛直方向位置を認識することが可能であり、通信器38を介してその位置を自動倉庫コントローラ60へ通知することもできる。
【0029】
また
図2に示すように、自動倉庫設備10には主電源70と蓄電装置72が設けられている。主電源70としては例えば商用電源を用いることができ、自動倉庫コントローラ60やクレーンコントローラ25などの各種機器の動作電力が主電力70から供給される。ただし安全面・コスト面の観点から、主電源70が瞬間的に出力可能な電力には制限がかかっていることが多く、モータのように消費電力の大きい装置に対してはピーク時の電力を安定して供給できないことがある。そこで
図2に示すブロック図においては主電源70から供給される電力を蓄積する蓄電装置72(キャパシタや蓄電池)が設けられており、走行用モータ22M、昇降用モータ23M、移載用モータ24Mに対してはこの蓄電装置72から電力が供給されるようになっている。蓄電装置72は予め電力を蓄積(充電)しておくことで、瞬間的には主電源70よりも大きな電力を出力することが可能なように構築されるのが好ましい。主電源70もクレーンコントローラ25を通じて各モータに接続しており、主電源70から各モータへ電力を供給することも可能であるが、要求される電力が瞬間的に大きくなる際には、蓄電装置72が電力供給を補助することにより、主電源70に出力制限があっても安定して各モータへ電力を供給することができる。
【0030】
移動制御装置30は、昇降台23を特定の目標位置(いずれかの収納部52に臨む位置)へ移動させるように自動倉庫コントローラ60から指示(外部からの搬送指示)を受けた場合、走行台車22および昇降台23の現在位置に基づき、走行台車22の走行および昇降台23の昇降が適切な速度推移で行われるように制御を実行する。
【0031】
図3に示すフローチャートを参照して、自動倉庫設備10において行われる処理について説明する。まず、入力装置62や外部の上位装置から、物品14を新しく物品収納棚50へ収納する要求(搬入要求)、または収納済みの物品14を物品収納棚50から取り出す要求(搬出要求)が自動倉庫コントローラ60に入力される。あるいは各物品14をどのように管理するべきかについて予め定められたルーチンに従い、自動倉庫コントローラ60が自動的に搬入要求または搬出要求を生成する。そして、搬入要求が生じた場合は、自動倉庫コントローラ60は管理している各収納部52の情報を基に、その物品14を収納可能な収納部52(空き収納部52)を探し、いずれかの空き収納部52を物品14の収納先として決定する。一方、搬出要求が生じた場合は、目的の物品14が収納されている収納部52を、物品14の取り出し元として決定する。収納先または取り出し元の収納部52が決定したら、その収納部52がどの物品収納棚50に属しており、水平方向のどの位置であるのか、鉛直方向のどの位置であるのか、の情報に基づき、昇降台23が最終的に移動するべき目標位置の情報を含む搬送指示を、通信器38を介してクレーンコントローラ25へ発信する(ステップS01)。
【0032】
クレーンコントローラ25の移動制御装置30は、搬送指示に含まれる目標位置と、水平測定装置32aおよび鉛直測定装置33aにより測定された昇降台23の現在位置とを基に、昇降台23が目標位置へと移動するには走行台車22および昇降台23がどのような速度推移で移動すればよいか(加速運動・等速運動・減速運動をそれぞれどの程度の期間、どの程度の加速度または速度で行えばよいか)について、予め定められた標準制御規則に従い、走行用モータ22Mおよび昇降用モータ23Mの駆動パターンを決定する(ステップS02)。
【0033】
移動制御装置30は決定した駆動パターンを改めて検査し、走行用モータ22Mが消費する電力の最大ピーク期間と、昇降用モータ23Mが消費する電力の最大ピーク期間とが重なっていないかどうかを確認する(ステップS03)。両者の最大ピーク期間が重なっていなければ標準制御規則に従って決定した駆動パターン通りに走行用モータ22Mおよび昇降用モータ23Mを駆動する(ステップS04)。一方、両者の最大ピーク期間が重なっていた場合には、標準制御規則に従って決定した駆動パターンを破棄し、予め定められた省電力制御規則に従って駆動パターンを決定し直す(ステップS05)。この省電力制御規則においては、昇降用モータ23Mの上限速度が、標準制御規則での上限速度よりも低く設定されている。その後、省電力制御規則に従って決定した駆動パターン通りに走行用モータ22Mおよび昇降用モータ23Mを駆動する(ステップS06)。ステップS04またはステップS06の完了後には昇降台23が目標位置に到達する。その後、移動制御装置30は収納部52に対する移載動作を実行する(ステップS07)。すなわち、移載用モータ24M(および昇降用モータ23M)が駆動されて、収納部52へ物品14が搬入されるか、あるいは収納部52から物品14が搬出される。
【0034】
クレーンコントローラ25の移動制御装置30は搬入要求または搬出要求に基づく搬送指示が発信される度に上述の処理を行い、物品収納棚50に対する物品14の出し入れを実行する。
【0035】
上述のステップS02において駆動パターンが決定される際の処理について、
図4のフローチャートを参照して説明する。なお、標準制御規則においては、機器の性能限界や動作の安定性を考慮して、走行台車22の走行速度vaの上限としての標準上限走行速度vamと、昇降台23の昇降速度vbの上限としての標準上限昇降速度vbmとが予め設定されている。
【0036】
駆動パターンの決定にあたってはまず、搬送指示に含まれる目標位置の水平座標と昇降台23の現在位置の水平座標から、走行台車22が走行するべき水平距離Laが割り出され、その水平距離Laを標準上限走行速度vamで走行するのに要する最短走行時間ta0が算定される(ステップS21)。なお、この算定にあたっては走行台車22が一定の標準上限走行速度vamで走行するのではなく、停止状態から標準上限走行速度vamまで加速するのに要する時間と距離、標準上限走行速度vamから停止状態まで減速するのに要する時間と距離も考慮される。
【0037】
次に、搬送指示に含まれる目標位置の鉛直座標と昇降台23の現在位置の鉛直座標から、昇降台23が昇降するべき鉛直距離Lbが割り出され、その鉛直距離Lbを標準上限昇降速度vbmで昇降するのに要する最短昇降時間tb0が算定される(ステップS22)。この算定にあたっても、昇降台23が停止状態から標準上限昇降速度vbmまで加速するのに要する時間と距離、および標準上限昇降速度vbmから停止状態まで減速するのに要する時間と距離が考慮される。
【0038】
そして算定された最短走行時間ta0と最短昇降時間tb0が比較される(ステップS23)。比較の結果、最短走行時間ta0が最短昇降時間tb0よりも長い場合(ta0>tb0)には、移動が早く完了すると見込まれる方、つまり昇降台23の速度が制限される。すなわち昇降速度vbは、標準上限昇降速度vbmよりも低く(vb<vbm)設定され、鉛直距離Lbを移動するために要する時間tbが最短走行時間ta0と同じ(tb=ta0)になるよう調節される(ステップS24)。
【0039】
一方、最短昇降時間tb0が最短走行時間ta0よりも長い場合(ta0<tb0)には、走行台車22の速度が制限される。すなわち走行速度vaは、標準上限走行速度vam以下の値(va≦vam)に設定されて、水平距離Laを移動するために要する時間taが最短昇降時間tb0と同じ(ta=tb0)になるよう調節される(ステップS25)。
【0040】
なお、最短走行時間ta0と最短昇降時間tb0とが同じ場合(ta0=tb0)には、走行台車22と昇降台23をそれぞれ標準上限走行速度vamおよび標準上限昇降速度vbmで移動させればよいが、
図4においては図示の便宜上、ta0=tb0の場合はステップS25と同じ処理が行われるものとしている(その処理の結果、va=vamと設定される)。
【0041】
以上のように走行速度vaおよび昇降速度vbが設定されることで、昇降台23の移動にかかる時間を最小限に抑えつつ、走行動作と昇降動作が同時に完了するように調節される。
【0042】
上述のような標準制御規則に従う駆動パターンで走行用モータ22Mおよび昇降用モータ23Mが駆動された場合の走行台車22および昇降台23の速度推移、そして各モータの消費電力推移の一例を
図5に示す。
【0043】
速度のピーク期間と消費電力のピーク期間は必ずしも一致しない。ただし、最終的に到達するべき速度が大きいほど、加速および減速の期間を長くするか、加速力および減速力を大きくする必要があるため、最終的に到達するべき速度(設定された走行速度vaや昇降速度vb)が大きいほど、消費電力のピーク期間が長くなったり、ピーク値が大きくなったりする傾向にある。
【0044】
図4に示す処理が行われた結果、走行動作と昇降動作は同じ時間で完了するように調節されている。しかし走行速度vaと昇降速度vbは異なる値であり、移動するべき水平距離Laと鉛直距離Lbも異なる値であるため、
図5に示すように、速度(回転数)のピーク期間の長さは走行用モータ22Mと昇降用モータ23Mとで異なっている。しかし両モータの消費電力のピーク期間については、
図5に示す駆動パターンではこれらのピーク期間が一部重なっている。
【0045】
図5では例として走行用モータ22Mの消費電力ピーク値が160kW、昇降用モータ23Mの消費電力ピーク値が70kWとしている。
図2に示す蓄電装置72が寿命を縮めることなく主電源70と共に供給できる電力の上限(推奨上限)が200kWであるとした場合、走行用モータ22Mが単体で動作するならば問題なく動作させられるが、
図5に示すように走行用モータ22Mと昇降用モータ23Mの消費電力のピーク期間が重なってしまうと、瞬間的には230kWの消費電力が必要となるため、主電源70および蓄電装置72の推奨上限を超えてしまう。必要消費電力が推奨上限を超える場合でも、電源70および蓄電装置72は実際には推奨上限を超える電力を供給可能であるためスタッカークレーン20の動作が停止してしまうことはないが、推奨上限を超えた電力を供給してしまうと蓄電装置72の寿命が縮まってしまう。
【0046】
この場合には省電力制御規則に従った駆動パターンを作成し、全体としての消費電力が最大でも200kW以下に収まるようにすることが望ましい。
図6に示すグラフは省電力制御規則に従った駆動パターンである。
【0047】
省電力制御規則における駆動パターンの決定手順については、昇降用モータ23Mの上限速度が標準制御規則での上限速度(標準上限昇降速度vbm)よりも低く設定されていることを除けば、基本的に
図4と同じ手順を用いることができる。つまり、省電力制御規則における昇降用モータ23Mの上限速度を省電力上限昇降速度vbz(vbz<vbm)として、
図4における標準上限昇降速度vbmの代わりに省電力上限昇降速度vbzを用いて駆動パターンを決定すればよい。
【0048】
省電力上限昇降速度vbzが標準上限昇降速度vbmよりも低いために、停止状態から省電力上限昇降速度vbzまで加速する際のピーク期間、ピーク値は標準上限昇降速度vbmを用いた場合よりも小さくなる。そのため
図6に示すように走行用モータ22Mと昇降用モータ23Mのピーク期間が重なる部分は小さくなり、重なっている部分でも両モータの総消費電力は低く抑えられる。具体例として、省電力制御規則において上限昇降速度vbzを低く設定した結果、昇降用モータ23Mの消費電力ピーク値が40kWになったとすると、走行用モータ22M(ピーク160kW)と昇降用モータ23Mの消費電力のピーク期間が重なってしまっても、瞬間的な消費電力は最大でも200kW以下に収まることとなるため、主電源70および蓄電装置72の推奨上限を超えることがない。よって、蓄電装置72の寿命が縮まらずに済む。
【0049】
このように、本実施形態のスタッカークレーン20においては、走行台車22と昇降台23をできるだけ短い時間で目標位置へ到達するように適切に動作させつつ、蓄電装置72の寿命を縮めないように制御が行われるため、高い搬送効率と、長いメンテナンスフリー期間が実現される。
【0050】
なお標準制御規則において走行用モータ22Mと昇降用モータ23Mの消費電力のピーク期間が重なっていることを計算上でどのようにして判定するかについては、
図5に示すようなグラフを実際に作成してピーク期間の重なり具合を調べてもよいが、走行用モータ22Mと昇降用モータ23Mが消費する合計電力(瞬間的な総消費電力)の推移を計算して、そのピークが所定の閾値を上回るかどうかで簡易的な判定を行ってもよい。
【0051】
つまり、「総消費電力が瞬間的にでもこの値を超えたら省電力制御規則を適用する」という基準値として省電力閾値を設定しておき、予想される総消費電力の最大値と省電力閾値とを比較すればよい。ここで省電力閾値の値としては、前述の推奨上限(自動倉庫設備10に固有の、予め定められた値)をそのまま使用してもよい。またスタッカークレーン20の実際の動作で消費される電力を基にして省電力閾値が計算で決定されてもよい。
【0052】
省電力閾値を計算で決定する方法の例としては以下のような手順が考えられる。まず昇降台23が昇降可能な最大距離を確認する。昇降可能な最大距離というのはつまり、マスト27に沿って昇降台23が鉛直方向に移動可能な範囲の大きさである。この距離は多くの場合、物品収納棚50のうち最上段の収納部52と最下段の収納部52との間の距離に相当する。この昇降可能な最大距離を可能な限り高速(例えば標準上限昇降速度vbm)で昇降するのにどれだけの時間(最大距離昇降時間)が必要か、またその間に消費電力が最大でどれだけの値(最大昇降電力)になるか、を算出する。そして算出された最大距離昇降時間について、それと同じ期間だけ走行台車22が標準上限走行速度vamで走行する場合に消費電力が最大でどれだけの値(最大走行電力)になるか、を算出する。こうして算出された最大昇降電力と最大走行電力との和を省電力閾値として設定する。ここで、標準制御規則が適用されるケースを多くすることが望まれるならば、最大昇降電力と最大走行電力との和よりもある程度大きい値を省電力閾値としてもよい。
【0053】
上述の省電力閾値の計算について詳しく説明すると、主電源70および蓄電装置72が供給可能な電力は基本的には、走行台車22や昇降台23が想定されている最大の距離をそれぞれ単体で移動するにあたっての消費電力よりは高く設定されるので、省電力閾値はそれ以上の値に設定してよい。一方、短い距離での移動を最短で行おうとすると加速・減速を短時間で済ませる必要があり、加速・減速に伴う負荷が過度に高くなる場合がある。そのため、昇降台23の昇降距離が最大距離よりも短くても、消費電力のピークが過度に高くなる可能性がある。同様に、走行台車22が短い距離を走行する場合でも消費電力ピークが過度に高くなる可能性がある。そこで、走行台車22および昇降台23が考え得る限り最大の距離を移動するにあたっての消費電力の最大値を算出しておき、その値までは主電源70および蓄電装置72が電力を供給可能であるとみなして、それ以上の値を省電力閾値として設定すればよい。
【0054】
なお、上述の実施形態においては標準制御規則の駆動パターンを作成してから両モータの消費電力のピーク期間が重なるかどうかを判定しているが、移動するべき水平距離La、鉛直距離Lbの組み合わせに基づいて標準制御規則と省電力制御規則とのどちらを用いるか決定するようにしてもよい。詳しく説明すると、駆動パターンは決まった手順で決定されるため、移動するべき水平距離La、鉛直距離Lbに応じて一意に定まる。そのため、どのような水平距離La、鉛直距離Lbの組み合わせであれば標準制御規則の駆動パターンで両モータの消費電力のピーク期間が重なってしまうのかについて、計算で予め調べておくことができる。よって、自動倉庫設備10の管理者が水平距離La・鉛直距離Lbの組み合わせと、標準制御規則・省電力制御規則のどちらを用いるべきかの対応関係を示すテーブル(表)を作成しておき、移動制御装置30はそのテーブルを参照して標準制御規則・省電力制御規則のどちらを用いるか決定するようにしてもよい。このようにすると、省電力制御規則を用いるべき場合に標準制御規則の駆動パターンを一旦作成してからそれを破棄するという手順が必要なくなるため、適切な駆動パターンの決定を迅速に行うことができる。
【0055】
また、上述の実施形態においては、走行台車22と昇降台23のどちらか一方が他方の動作の完了を他方が停止状態で待機する事態を防止するために、走行台車22の走行時間と昇降台23の昇降時間とが一致するように走行速度vaおよび昇降速度vbが調節されるが、この調節は必ずしも行わなくてもよい。すなわち、走行台車22または昇降台23が停止状態で待機する事態を許容するならば、走行台車22と昇降台23をそれぞれ可能な限り高速で(例えば標準上限走行速度vamおよび標準上限昇降速度vbmで)移動させてもよい。特に、作業遅れが生じているなどして蓄電装置72の寿命を縮めてでも高速に物品14の搬送を行うことが求められる場合には、省電力を考慮せずに高速で走行台車22と昇降台23を移動させてもよい。
【0056】
また、上述の実施形態においては、スタッカークレーン20と物品収容棚50との間で物品14の移載を行うフォーク装置24がスタッカークレーン20に設けられているが、このような移載を行う装置は必ずしもスタッカークレーン20に設けられなくてもよい。すなわち、スタッカークレーン20と物品収容棚50との間での物品14の移載を行う移載装置が、物品収納棚50の側に設けられていてもよい。
【0057】
また、上述の実施形態においては、自動倉庫コントローラ60の入力装置62として自動倉庫コントローラ60自体に備え付けられているタッチパネルディスプレイを示しているが、入力装置62は自動倉庫コントローラ60と別体でもよく、例えば無線通信で自動倉庫コントローラ60へ動作指示を発信するリモートコントローラであったり、電子ネットワークを介して自動倉庫設備10の外部から動作指示を発信するネットワーク機器であったりしてもよい。