特許第6835071号(P6835071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6835071メタノール製造方法及びメタノール製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835071
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】メタノール製造方法及びメタノール製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/152 20060101AFI20210215BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20210215BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210215BHJP
【FI】
   C07C29/152
   C07C31/04
   !C07B61/00 300
【請求項の数】12
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-510615(P2018-510615)
(86)(22)【出願日】2017年4月4日
(86)【国際出願番号】JP2017014078
(87)【国際公開番号】WO2017175760
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2020年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-77448(P2016-77448)
(32)【優先日】2016年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】神戸 康聡
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】岡村 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】平川 大悟
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/018610(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103232321(CN,A)
【文献】 特公昭51−10210(JP,B1)
【文献】 特開2005−125244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む合成ガスからメタノールを合成する合成工程と、前記合成工程を経て得られた反応混合物から未反応ガスを分離する分離工程と、を有するメタノール製造方法であって、
少なくとも2つの前記合成工程と、少なくとも2つの前記分離工程とを有する合成ループを有し、
前記合成ループにおいて、最終合成工程の後の最終分離工程で最終反応混合物から分離した最終未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスに、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含むメイクアップガスの10〜90モル%と混合して第1混合ガスを得る第1混合工程と、前記第1混合ガスからメタノールを合成する第1合成工程と、前記第1合成工程で得られた第1反応混合物から第1未反応ガスを分離する第1分離工程と、最終的に未反応ガスと前記メイクアップガスの10〜90モル%のうちの少なくとも一部とを混合して最終混合ガスを得る最終混合工程と、前記最終混合ガスからメタノールを合成する前記最終合成工程と、前記最終合成工程で得られた前記最終反応混合物から前記最終未反応ガスを分離する前記最終分離工程と、を有し
前記第1混合ガスを予熱する第1予熱工程と、前記最終混合ガスを予熱する最終予熱工程と、前記最終予熱工程を経た前記最終混合ガスを前記最終合成工程の前に循環機によって昇圧する昇圧工程と、を有し、かつ
加圧沸騰水との間接熱交換により触媒層の反応温度を制御する、メタノール製造方法。
【請求項2】
前記最終予熱工程において前記最終混合ガスを予熱する熱源が、前記最終反応混合物である、請求項1に記載のメタノール製造方法。
【請求項3】
前記最終混合ガスを予熱した前記最終反応混合物を、前記最終分離工程の前に減圧する最終反応混合物減圧工程を有する、請求項2に記載のメタノール製造方法。
【請求項4】
前記最終分離工程で得られた最終未反応ガスを、前記第1混合工程の前に減圧する最終未反応ガス減圧工程を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【請求項5】
前記第1予熱工程を経た前記第1混合ガスを、前記第1合成工程の前に昇圧する昇圧工程を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【請求項6】
前記第1予熱工程において前記第1混合ガスを予熱する熱源が、前記第1反応混合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【請求項7】
前記第1混合ガスを予熱した前記第1反応混合物を、前記第1分離工程の前に減圧する第1反応混合物減圧工程を有する、請求項6記載のメタノール製造方法。
【請求項8】
前記第1分離工程で得られた第1未反応ガスを減圧する第1未反応ガス減圧工程を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【請求項9】
前記昇圧工程における昇圧前後の圧力比が1.10を超える、請求項1〜8のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【請求項10】
前記第1分離工程の後、前記最終混合工程の前に、未反応ガスと前記メイクアップガスの10〜90モル%のうちの少なくとも一部とを混合して中間混合ガスを得る中間混合工程と、前記中間混合ガスからメタノールを合成する中間合成工程と、前記中間合成工程で得られた中間反応混合物から中間未反応ガスを分離する中間分離工程と、を更に有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【請求項11】
前記各減圧工程のうち少なくとも1つの工程において、エネルギーを回収する、請求項3、4、7及び8のいずれか1項に記載のメタノール製造方法。
【請求項12】
水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む合成ガスからメタノールを合成する反応器と、前記反応器において得られた反応混合物から未反応ガスを分離する分離装置と、を備えるメタノール製造装置であって、
少なくとも2つの前記反応器と、少なくとも2つの前記分離装置とを備える合成ループを有し、
前記合成ループにおいて、最終反応器の後の最終分離装置において最終反応混合物から分離した最終未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスに、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含むメイクアップガスの10〜90モル%と混合して第1混合ガスを得る第1混合手段と、前記第1混合ガスからメタノールを合成する第1反応器と、前記第1反応器において得られた第1反応混合物から第1未反応ガスを分離する第1分離装置と、最終的に未反応ガスと前記メイクアップガスの10〜90モル%のうちの少なくとも一部とを混合して最終混合ガスを得る最終混合手段と、前記最終混合ガスからメタノールを合成する前記最終反応器と、前記最終反応器において得られた前記最終反応混合物から前記最終未反応ガスを分離する前記最終分離装置と、を備え、
前記第1混合ガスを予熱する第1予熱器と、前記最終混合ガスを予熱する最終予熱器と、前記最終予熱器により予熱された前記最終混合ガスを前記最終反応器に供給する前に昇圧する循環機と、を備え、
少なくとも前記最終反応器において、加圧沸騰水との間接熱交換により触媒層の反応温度を制御する、メタノール製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタノール製造方法及びメタノール製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業的なメタノールの製造は、化石燃料を原料とし、それを改質することにより得られる一酸化炭素、二酸化炭素及び水素を主成分とする合成ガス(以下、「合成原料ガス」又は「原料ガス」ともいう。)を、触媒上で反応させることにより行われる。その反応条件は、圧力50〜150kg/cm、温度160〜300℃であり、用いられる触媒は銅・亜鉛を主成分とする触媒である。メタノール合成反応は下記式(1)及び(2)で表される。
【化1】
【0003】
特許文献1は、低循環比でのメタノール合成においてガスの反応物分圧が高くなることがあり、これが過反応及び触媒床の過熱の発生を引き起こすという課題があったとしている。そして、その課題を解決するために、供給される合成原料ガスを2つの流れに分け、一方の流れを回収未反応ガスと混合した後に第1合成ステージに導入するとともに、他方の流れを第1合成ステージの出口ガスと混合し、合成メタノールの分離の前に、さらなる合成ステージでメタノールを合成することを、特許文献1は提案している。特許文献1に記載の技術は、合成ステージでのメタノール合成量を調整することで触媒層の過熱を避けるとともに、供給原料ガス流量に対する未反応回収ガス流量として表される循環比を1〜3と低くできることを特徴としている。
【0004】
特許文献2は、メタノール合成を低圧下で行うことは、圧縮機の負荷を低減したり圧縮機を全く不要にしたりするという利点をもたらすが、その一方で、大量の触媒を必要とするか、あるいは、高い循環比で未反応ガスを循環使用しなければならないという欠点を有することを述べている。特許文献2に記載の技術は、それらの欠点を解決するために、合成塔を2基直列に装置し、それぞれの合成塔の出口ガスを凝縮分離することで循環比を4.0以下に低減することを特徴としている。この特許文献2の実施例においては、循環比を6.0から3.5に変更したことが具体的に示されている。
特許文献3は、反応器における原料分圧を高くすることで、過反応や高温につながると述べている。そして、この高温によって触媒劣化速度が高くなることにつながる可能性があると指摘している。そこで、特許文献3に記載の技術は、期待される触媒寿命を短くせず、経済的に成り立つ手法で大量の目的物を得る手法として、合成ループ内に反応器を複数配置し、それぞれの反応器後に分離器を配置し、原料ガスを複数の反応器前に供給することも可能な方法で、反応器間で昇圧することを特徴とした技術を提案している。特許文献3は、上記技術により、循環ガス量を低減し、触媒層温度を制御し、それにより、受け入れ可能な触媒寿命を達成した上で、達成すべき所望の生成物の生産を可能にしたと記載している。そして、実施例においては、循環ガス量の23%又は約28%を削減したことが示されている。
【0005】
ところで、プラントの大型化による経済性向上を追求する場合、ボトルネックとなる箇所を並列化することで大規模化を達成する手法が一般的に用いられる。例えば、メタノール合成プロセスにおいては、反応器の製作限界等によって規模が制限されることがある。そのような場合に、反応器を複数並列に配置してプラント全体の大型化を行うことがある。
【0006】
また、非特許文献1には、メタノール合成に伴い生じる水が相当の触媒活性劣化を引き起こすことが記載されている。
【0007】
そして、非特許文献2には、メタノール合成技術の発展の経過が記載されている。より詳細には、メタノール合成技術のうち製造プロセスに関しては、エネルギー効率の向上とプラントの大型化による経済性向上の追及を中心に進められてきたと記載されている。加えて、未反応ガス循環量の大幅な減少の付随効果として、電力及び冷却水使用量の削減、並びに、合成ループ内の配管、循環機及び熱交換器などの周辺機器のサイズダウンが可能になることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4362013号公報
【特許文献2】特公昭51−10210号公報
【特許文献3】国際公開第2006/018610号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Applied Catalysis A: General, 469 (2014), p.306-311
【非特許文献2】久和正昭著「天然ガスの高度利用技術―開発研究の最前線―、第5章第2節 メタノール合成」市川勝監修、エヌ・ティー・エス、2001年、439頁、446〜447頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
メタノール合成反応は、上記式(1)及び(2)で表され、分子数減少反応かつ高発熱反応であることが知られている。一方で、現在一般的に用いられている銅・亜鉛系触媒は、適切な反応温度範囲が220〜280℃である。反応温度が280℃を超えると触媒の活性低下、平衡メタノール濃度の低下、及び、好ましくない副反応生成物の増加が生じるという欠点がある。そこで、触媒の過熱を避けるために、触媒層で起こる反応量の制限及び触媒層の冷却のうち少なくともいずれか一方が必要とされている。
加えて、メタノール合成に伴い生じる熱によって触媒のシンタリングが促進されたり、非特許文献1に記載のように、メタノール合成に伴い生成する水が触媒劣化を促進させたりする。そこで、メタノール合成では、触媒を有効に利用するに当たって触媒の負荷を平準化し、効率的に触媒を利用することが求められている。
【0011】
また、地球環境を配慮し、メタノール製造において廃棄される酸化炭素量を低減するために、カーボン収率を高く維持することが求められている。加えて、非特許文献2に記載のように、未反応ガス循環量の大幅減少、すなわち循環比を低くすることで、電力及び冷却水使用量の削減が可能となる。そこで、メタノール合成プロセスにおいて、使用エネルギー削減の観点から低循環比とすることも求められている。前述のとおり、特許文献1は、合成するメタノール量を複数の反応器に分配することで、循環比を1〜3と低くしつつも触媒層温度を適切に保つことができることを特徴としている。しかしながら、転化率の低い平衡反応であるメタノール合成反応においては、一般的に循環比を低くするほどカーボン収率は低下するという課題がある。実際、特許文献1に記載の実施例2の結果から、メタノール合成反応におけるカーボン収率を計算すると76.2%となり、比較例である実施例1に比べても低下しており、実用的ではない。ここで、カーボン収率は、メイクアップガス中の酸化炭素ガス(一酸化炭素及び二酸化炭素)モル流量に対する、粗メタノール中のメタノールモル流量の割合で表される。また、特許文献1では、パージガスをさらに反応させる装置を設置することでカーボン収率が向上する手法を実施例3として例示している。しかしながら、さらなる反応装置とそれに付随する装置を設置することには、大規模な設備投資が必要である。そして、特許文献1には、その特許請求の範囲及び図面から明らかなように、第1合成ステージの出口ガスから未反応ガスを分離し、その未反応ガスを次の段階の合成ステージの原料として利用するという技術思想は存在しない。むしろ、特許文献1の特許請求の範囲及び図面には、第1合成ステージの出口ガスが全量第2合成ステージに供給されることが記載されているのみであり、上記の技術思想は排除されている。
【0012】
さらに、特許文献2は、合成塔間において、メタノールを含む生成物の凝縮分離によって低圧でかつ低循環比での合成を可能にしたと述べている。しかしながら、その実施例では、循環比を6.0から3.5に変更しただけであり、カーボン収率の改善にはつながっていない。また、特許文献2のようなプロセスでは、収率の改善及びエネルギー使用量の削減を意図して、(1)合成圧力を上昇させたり、(2)触媒活性を向上させたり、あるいは(3)循環比をさらに低減させたりすると、各合成塔でのメタノール生産量に偏りが拡大し、それと同時に触媒に与える負荷の偏りが大きくなる傾向があり好ましくない。触媒負荷の偏りが大きくなると触媒劣化に差が生じる。そのため、同時期に触媒を交換しようとすると、いずれかの合成塔において用いられる触媒はその触媒寿命に達していない状態で交換されることになる。あるいは、各々の触媒について所望の触媒寿命に到達した時期で触媒を交換しようとすると、各合成塔間での触媒交換の時期が大きく異なることになる。その結果、メタノール製造のオペレーションにおける効率を低下させることになる。
特許文献3は、循環ガス量を低減し、触媒層温度を制御することで受け入れ可能な触媒寿命を達成した上で、達成すべき所望の生成物の生産を可能にしたと記載している。しかしながら、その実施例では、循環ガス量が既存技術に対して72%又は77%に低減できたことを示しているにすぎず、カーボン収率についての記載もない。カーボン収率について考慮しないのであれば、循環ガス量を低減したとしても、原料ガス量を増加して生産量を維持することが可能であり、技術的な革新性がない。
また、メイクアップガス入口に対して、合成ループにおける最も遠い位置にパージガスの取り出しを設けるのが、カーボン収率の観点から最も都合がよい。一方で、循環機の処理ガス量の観点では、合成ループにおけるパージガスの取り出し位置は循環機の直前がよい。特許文献3に開示されたプロセスは、本来であれば循環機によって昇圧する必要のないガス(合成ループから取り出すパージガス)を昇圧するプロセスとなっている。これでは、循環器の処理ガス量が増大し、エネルギー使用量が増加してしまうので、適切ではない。
加えて、最終の凝縮分離工程ではない凝縮分離工程において、冷却水削減の目的又は機器費削減の目的で、水冷熱交換器を用いずにエアフィンクーラーのみを用いて、冷却器出口ガス温度を55〜90℃としてメタノール分離割合を低下させる場合、その凝縮分離の工程に用いる機器の後段に循環機を配置すると、導入される凝縮性気体の総量が増加する。この場合、特に、気液分離直後の飽和状態の凝縮性気体を循環機に導入する場合、循環機内で凝縮液滴が発生する確率が高まる。循環機内で凝縮液滴が発生すると機械的な故障およびエネルギー損失の原因となり、この位置に循環機を配置するのは適切ではない。
【0013】
さらに、非特許文献2に記載のように、一般的に、製造プロセス面から見たメタノール合成技術の改善は、エネルギー効率の向上とプラント大型化による経済性向上の追及を中心に行われてきている。例えば、特許文献1によると、メタノールの増産化を目的としており、やはり経済性の向上が求められていることがわかる。このようなメタノール合成技術の改善の流れから見ると、特許文献2に記載のように合成ステージ間で生成物を凝縮分離することは、エネルギーの多くを環境に排出することになるため、明らかに逆行している。具体的には、特許文献2に記載の実施例において、循環ガス量は原料ガス量の3.5倍であり、第1合成塔出口から分離器まで冷却されながら流通するガス量は、原料ガス量の3.5倍以上となる。そのため、大量のガスを冷却する必要があり、冷却器の負荷が高くなることからも、好ましくない。
また、プラントの大型化による経済性向上を追求する場合に行われる並列化については、例えば反応器を並列化する場合、反応器に導入できるガス量が増加するため大型化は可能となる。しかしながら、そのような並列化は、一般的に収率改善や循環比低減にはつながるものではない。
【0014】
本発明は上記事情の少なくとも一部に鑑みてなされたものであり、メタノール合成において、触媒層の温度を適切な温度範囲とし、エネルギー使用量を削減し、さらに高いカーボン収率を達成するメタノール製造方法及びメタノール製造装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた。その結果、特定のプロセスによって、触媒過熱の抑制を達成すると同時に、収率改善とエネルギー使用量の低減を合わせて達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。特定のプロセスは、複数のメタノール合成工程を有し、メタノール合成工程において生じた反応混合物から分離した未反応ガスを続くメタノール合成工程に導入する。さらに、最後段のメタノール合成工程において生じた反応混合物から分離し、部分的にパージガスとして取り除かれ、メイクアップガスの一部と混合した最終未反応ガスを最初のメタノール合成工程に導入することで、未反応ガスを各反応器に直列的に通過させる合成ループを形成する。さらに、原料ガスを分割して各反応器の前において合成ループに導入する。加えて、最後段のメタノール合成工程の供給ガスを予熱後に昇圧する工程を有する。すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む合成ガスからメタノールを合成する合成工程と、前記合成工程を経て得られた反応混合物から未反応ガスを分離する分離工程と、を有するメタノール製造方法であって、少なくとも2つの前記合成工程と、少なくとも2つの前記分離工程とを有する合成ループを有し、前記合成ループにおいて、最終合成工程の後の最終分離工程で最終反応混合物から分離した最終未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスに、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含むメイクアップガスの10〜90モル%と混合して第1混合ガスを得る第1混合工程と、前記第1混合ガスからメタノールを合成する第1合成工程と、前記第1合成工程で得られた第1反応混合物から第1未反応ガスを分離する第1分離工程と、最終的に未反応ガスと前記メイクアップガスの10〜90モル%のうちの少なくとも一部とを混合して最終混合ガスを得る最終混合工程と、前記最終混合ガスからメタノールを合成する前記最終合成工程と、前記最終合成工程で得られた前記最終反応混合物から前記最終未反応ガスを分離する前記最終分離工程と、を有し、前記第1混合ガスを予熱する第1予熱工程と、前記最終混合ガスを予熱する最終予熱工程と、前記最終予熱工程を経た前記最終混合ガスを前記最終合成工程の前に循環機によって昇圧する昇圧工程と、を有し、かつ加圧沸騰水との間接熱交換により触媒層の反応温度を制御する、メタノール製造方法。
[2]前記最終予熱工程において前記最終混合ガスを予熱する熱源が、前記最終反応混合物である、[1]に記載のメタノール製造方法。
[3]前記最終混合ガスを予熱した前記最終反応混合物を、前記最終分離工程の前に減圧する最終反応混合物減圧工程を有する、[2]に記載のメタノール製造方法。
[4]前記最終分離工程で得られた最終未反応ガスを、前記第1混合工程の前に減圧する最終未反応ガス減圧工程を有する、[1]〜[3]のいずれか1つに記載のメタノール製造方法。
[5]前記第1予熱工程を経た前記第1混合ガスを、前記第1合成工程の前に昇圧する昇圧工程を有する、[1]〜[4]のいずれか1つに記載のメタノール製造方法。
[6]前記第1予熱工程において前記第1混合ガスを予熱する熱源が、前記第1反応混合物である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載のメタノール製造方法。
[7]前記第1混合ガスを予熱した前記第1反応混合物を、前記第1分離工程の前に減圧する第1反応混合物減圧工程を有する、[6]記載のメタノール製造方法。
[8]前記第1分離工程で得られた第1未反応ガスを減圧する第1未反応ガス減圧工程を有する、[1]〜[7]のいずれか1つに記載のメタノール製造方法。
[9]前記昇圧工程における昇圧前後の圧力比が1.10を超える、[1]〜[8]のいずれか1つに記載のメタノール製造方法。
[10]前記第1分離工程の後、前記最終混合工程の前に、未反応ガスと前記メイクアップガスの10〜90モル%のうちの少なくとも一部とを混合して中間混合ガスを得る中間混合工程と、前記中間混合ガスからメタノールを合成する中間合成工程と、前記中間合成工程で得られた中間反応混合物から中間未反応ガスを分離する中間分離工程と、を更に有する、[1]〜[9]のいずれか1つに記載のメタノール製造方法。
[11]前記各減圧工程のうち少なくとも1つの工程において、エネルギーを回収する、[3]、[4]、[7]及び[8]のいずれか1つに記載のメタノール製造方法。
[12]水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む合成ガスからメタノールを合成する反応器と、前記反応器において得られた反応混合物から未反応ガスを分離する分離装置と、を備えるメタノール製造装置であって、少なくとも2つの前記反応器と、少なくとも2つの前記分離装置とを備える合成ループを有し、前記合成ループにおいて、最終反応器の後の最終分離装置において最終反応混合物から分離した最終未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスに、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含むメイクアップガスの10〜90モル%と混合して第1混合ガスを得る第1混合手段と、前記第1混合ガスからメタノールを合成する第1反応器と、前記第1反応器において得られた第1反応混合物から第1未反応ガスを分離する第1分離装置と、最終的に未反応ガスと前記メイクアップガスの10〜90モル%のうちの少なくとも一部とを混合して最終混合ガスを得る最終混合手段と、前記最終混合ガスからメタノールを合成する前記最終反応器と、前記最終反応器において得られた前記最終反応混合物から前記最終未反応ガスを分離する前記最終分離装置と、を備え、前記第1混合ガスを予熱する第1予熱器と、前記最終混合ガスを予熱する最終予熱器と、前記最終予熱器により予熱された前記最終混合ガスを前記最終反応器に供給する前に昇圧する循環機と、を備え、少なくとも前記最終反応器において、加圧沸騰水との間接熱交換により触媒層の反応温度を制御する、メタノール製造装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、メタノール合成において、触媒層の温度を適切な温度範囲とし、エネルギー使用量を削減し、さらに高いカーボン収率を達成するメタノール製造方法及びメタノール製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のメタノール製造方法に用いられる製造装置の一例を示す模式図である。
図2】比較例相当のメタノール製造方法に用いられる製造装置の一例を示す模式図である。
図3】本発明のメタノール製造方法に用いられる製造装置の別の一例を示す模式図である。
図4】本発明のメタノール製造方法に用いられる製造装置のさらに別の一例を示す模式図である。
図5】本発明のメタノール製造方法に用いられる製造装置のなおも別の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0019】
本実施形態のメタノール製造方法は、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む合成ガスからメタノールを合成する合成工程と、その合成工程を経て得られた反応混合物から未反応ガスを分離する分離工程とを有するメタノール製造方法であって、少なくとも2つの合成工程と、少なくとも2つの分離工程とを有する合成ループを有し、合成ループにおいて、最終合成工程の後の最終分離工程で最終反応混合物から分離した最終未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスに、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含むメイクアップガスの10〜90モル%と混合して第1混合ガスを得る第1混合工程と、第1混合ガスからメタノールを合成する第1合成工程と、第1合成工程で得られた第1反応混合物から第1未反応ガスを分離する第1分離工程と、最終的に未反応ガスとメイクアップガスの10〜90モル%のうちの少なくとも一部とを混合して最終混合ガスを得る最終混合工程と、最終混合ガスからメタノールを合成する最終合成工程と、最終合成工程で得られた最終反応混合物から最終未反応ガスを分離する最終分離工程とを有し、第1混合ガスを予熱する第1予熱工程と、最終混合ガスを予熱する最終予熱工程と、最終予熱工程を経た最終混合ガスを最終合成工程の前に循環機によって昇圧する昇圧工程とを有し、かつ加圧沸騰水との間接熱交換により触媒層の反応温度を制御する。第1混合ガスを予熱する熱源が第1反応混合物である場合には、その第1反応混合物は、第1混合ガスにより冷却されるので、より凝縮されやすくなる。同様に、最終混合ガスを予熱する熱源が最終反応混合物である場合には、その最終反応混合物は、最終混合ガスにより冷却されるので、より凝縮されやすくなる。
【0020】
また、本実施形態のメタノール製造装置は、上記のメタノール製造方法に用いる装置である。より詳細には、本実施形態のメタノール製造装置は、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む合成ガスからメタノールを合成する反応器と、反応器において得られた反応混合物から未反応ガスを分離する分離装置とを備えるメタノール製造装置であって、少なくとも2つの反応器と、少なくとも2つの分離装置とを備える合成ループを有し、合成ループにおいて、最終反応器の後の最終分離装置において最終反応混合物から分離した最終未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスに、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含むメイクアップガスの10〜90モル%、好ましくは10〜70モル%と混合して第1混合ガスを得る第1混合手段と、第1混合ガスからメタノールを合成する第1反応器と、第1反応器において得られた第1反応混合物から第1未反応ガスを分離する第1分離装置と、最終的に未反応ガスとメイクアップガスの10〜90モル%、好ましくは30〜90モル%、のうちの少なくとも一部とを混合して最終混合ガスを得る最終混合手段と、最終混合ガスからメタノールを合成する最終反応器と、最終反応器において得られた最終反応混合物から最終未反応ガスを分離する最終分離装置とを備え、さらに、第1混合ガスを予熱する第1予熱器と、最終混合ガスを予熱する最終予熱器と、最終予熱器により予熱された最終混合ガスを最終反応器に供給する前に昇圧する循環機とを備え、少なくとも最終反応器において、加圧沸騰水との間接熱交換により触媒層の反応温度を制御するメタノール製造装置である。
本実施形態においては、少なくとも1つの分離工程が最終合成工程よりも前段に設けられている。また、本実施形態においては、最終分離工程以外の少なくとも1つの分離工程において、その直前の合成工程で得られた反応混合物からメタノールを含む反応生成物と未反応の合成ガス(以下「未反応ガス」という。)とを分離し、この未反応ガスに上記メイクアップガスを混合して得られた混合ガスから、その後段の合成工程においてメタノールを合成する。
【0021】
(合成ループ)
本実施形態において、合成ループは、少なくとも1つの合成工程と少なくとも1つの分離工程とを経たガスが最終合成工程と最終分離工程とを経て、最終分離工程において分離された未反応ガスが、第1合成工程における原料のガスとして用いられることで形成される。この合成ループ内でガスを循環させるために、メタノール製造装置は、昇圧のための循環機を少なくとも1つ備え、その昇圧工程は、最終予熱工程の後であって最終合成工程の前である。これによって、最終合成工程において反応温度を高めるためのエネルギーを低減でき、その工程において反応器での熱回収量を増大させることができる。また、昇圧工程における昇圧よって昇温が可能になるため、その前に最終混合ガスを予熱する際に必要となる温度を低下させることができる。そうすると、予熱の際に用いる予熱器での低温側の流体と高温側の流体の温度差が大きくなるため、予熱器における熱交換量(熱回収量)を増大させたり、熱交換器のサイズを小さくしたりすることも可能となる。循環機には乾き度の高い流体を導入することが好ましい。より具体的には、分離工程の後で飽和状態の凝縮性気体を有する流体を予熱することで乾き度を上げるか、あるいは乾き度の高い流体(例えば、メイクアップガス)を混合することで乾き度を上げるか、あるいはその両方を行うことが好ましい。これにより、循環機内での凝縮液滴の発生をより抑制することができるので、機械的な故障やエネルギー損失の増大を更に防止することが可能となる。
【0022】
さらにこの合成ループは減圧工程を有してもよい。その減圧工程は、未反応ガスをその後にメイクアップガスと混合する前に減圧する工程であると好ましい。より具体的には、最終分離工程で得られた最終未反応ガスを、第1混合工程の前に減圧する最終未反応ガス減圧工程であると好ましい。これにより、その前段の最終分離工程における圧力を高めることができるため、そこでの気液の分離効率を更に向上させることが可能となる。同様に、減圧工程が、第1分離工程で得られた第1未反応ガスを減圧する第1未反応ガス減圧工程であっても好ましい。それらに代えて又は加えて、減圧工程は、反応混合物を分離工程の前に減圧する減圧工程であると好ましい。混合ガスを予熱する熱源がその反応混合物である場合は、混合ガスを予熱した後に、その反応混合物を減圧するのが好ましい。より具体的には、減圧工程が、最終混合ガスを予熱した最終反応混合物を、最終分離工程の前に減圧する最終反応混合物減圧工程であると好ましく、第1混合ガスを予熱した第1反応混合物を、第1分離工程の前に減圧する第1反応混合物減圧工程であっても好ましい。これらにより、減圧工程で流体を冷却できるため、分離工程の前に反応混合物の一部を凝縮するために用いられる凝縮器のサイズを縮小若しくは全く不要にすることが可能となる。
【0023】
合成ループへの物質の出入りのうちの入りとして、メイクアップガスが複数の流れに分割された後に各合成工程前の混合工程から合成ループに導入される。また、物質の出入りのうちの出として、分離工程において反応混合物中の反応生成物が分離されて合成ループ外へ抜き出されると共に、不活性成分の蓄積を防ぐためのパージガスが合成ループ外に取り出される。なお、本明細書において、「反応混合物」とは、合成工程の出口成分であって、合成工程における反応により生じた成分と未反応成分との混合物であり、通常、メタノールを含むものである。
【0024】
また、各分離段階での未反応ガスは、次の混合工程、合成工程および分離工程に導かれ、各未反応ガスは直列に全反応器に導入され得る合成ループを形成する。
【0025】
最終合成工程は、第1合成工程の後に、メタノールを合成する合成工程を経た反応混合物から分離された未反応ガスとメイクアップガスとを混合して得られる混合ガスから、メタノールを合成する工程であれば、特に限定されない。最終合成工程は、上記第2混合ガスからメタノールを合成する工程(第2合成工程)であると好ましい。あるいは、最終合成工程は、第2合成工程で得られた第2反応混合物から第2未反応ガスを分離し、その第2未反応ガスとメイクアップガスとを混合して得られる第3混合ガスから、メタノールを合成する工程(第3合成工程)であっても好ましい。これら第2合成工程及び第3合成工程のうち、最終合成工程は、第2合成工程であることがより好ましい。
また、最終分離工程は、第1分離工程の後に、反応混合物から未反応ガスを分離する工程であれば、特に限定されない。最終分離工程は、第2合成工程で得られた第2反応混合物から第2未反応ガスを分離する第2分離工程であると好ましい。あるいは、最終分離工程は、第3合成工程で得られた第3反応混合物から第3未反応ガスを分離する第3分離工程であると好ましい。これら第2分離工程及び第3分離工程のうち、最終分離工程は、第2分離工程であることがより好ましい。
【0026】
(メイクアップガス)
メイクアップガスは、天然ガスの水蒸気改質ガスや石炭ガス化ガスなどの一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)及び水素(H)を含む合成原料ガスを圧縮機によって反応圧力まで昇圧したものである。反応圧力は、例えば、4.9〜14.7MPa−G(50〜150kg/cm−G)であってもよく、より好ましくは7.8〜10.8MPa−G(80〜110kg/cm−G)である。工業的には、メイクアップガスは、例えば天然ガスを原料とした水蒸気改質反応によって得られるものであり、下記式により算出されるCO、CO及びHのモル%の関係(M):
M=(Hモル%)/(2×COモル%+3×COモル%)
が、1.0より大きく2.0以下であるものが好ましい。さらに好ましいものはMが1.3〜1.5である。
【0027】
(メイクアップガスの分割)
本実施形態において、メイクアップガスは、合成ループに導入する前に複数の流れに分割され、合成ループ内に存在する複数の合成工程における原料ガスの一部として、合成ループに導入される。メイクアップガスの分割比率は、各合成工程における合成条件及び各分離工程における分離条件によって好適な範囲が異なる。ただし、最初のメタノール合成工程(第1合成工程)に供給する混合ガス(第1混合ガス)に含まれるメイクアップガスのモル流量は、メイクアップガスの全体量に対して10〜90モル%、好ましくは10〜70モル%である。次いで第2合成工程に供給する混合ガス(第2混合ガス)に含まれるメイクアップガスのモル流量は、メイクアップガスの全体量に対して10〜90モル%、好ましくは10〜70モル%である。そして、第3合成工程以降が存在する場合であって、第1合成工程および第2合成工程に供給したメイクアップガスのモル流量の和をメイクアップガスの全体量の100%未満とする場合は、残りのメイクアップガスを第3合成工程以降の各メタノール合成工程に適宜分割する。また、第3合成工程以降が存在する場合であって、第1合成工程および第2合成工程に供給したメイクアップガスのモル流量の和がメイクアップガスの全体量の100%とする場合は、メイクアップガスを第3合成工程以降の各メタノール合成工程には分割供給しない。例えば、1つの実施態様として、分離工程における分離方法として凝縮分離方法を用いて、2つの合成工程と2つの凝縮分離工程とを有する製造方法の場合を説明する。この実施態様では、第1凝縮分離工程の出口ガス温度を20℃〜100℃とする場合、最終合成工程(第2合成工程)の直前で合成ループに導入されるメイクアップガスの割合(メイクアップガスの全体量に対する割合。以下同様。)は、カーボン収率及び触媒層の最高温度などの観点から、10〜90モル%であると好ましく、より好ましくは30〜90モル%、さらに好ましくは40〜70モル%である。また、第1凝縮分離工程の出口ガス温度を40℃〜80℃とする場合、最終合成工程の直前で合成ループに導入されるメイクアップガスの割合は、上記と同様の観点から、10〜90モル%であるとよく、30〜90モル%であると好ましく、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%である。
【0028】
合成工程の原料ガスとなる合成ガスは、好ましくは予熱器により180〜260℃に昇温された後、合成工程に供給される。合成工程に供給される際の合成ガス温度は、触媒の種類や量、反応器の形状及び反応圧力等によって適宜設定されるが、好ましい合成ガス温度は200〜250℃である。反応器におけるエネルギー回収の観点から、より好ましい反応器入口のガス温度は、触媒層の冷却に用いられる加圧沸騰水の温度よりも高い温度である。
【0029】
また、各混合工程において未反応ガスに混合するメイクアップガスの割合(分割比率)を、合成工程における所望とする各反応器の温度に応じて調整することが好ましい。なお、ここで所望の温度とは、後述のメタノール合成反応における温度である。
本実施形態においては、メイクアップガスを合成ループに導入する前に複数の流れに分割し、その分割比率を調整することができる。これにより、合成工程での反応器の温度を容易に制御することが可能となる。
【0030】
(合成工程及び触媒)
合成工程においては、合成ガスからメタノールを合成する。合成工程において用いられる反応器は、触媒層を有すると共に反応で生じる熱を触媒層から取り除く機構(除熱機構)を有するものであると好ましい。
【0031】
合成に用いる触媒は、銅原子及び亜鉛原子を必須成分として含むメタノール合成触媒であると好ましい。このような触媒は、酸化物の状態から、還元性ガス、例えば水素や一酸化炭素、又はそれらの混合ガスにより還元され、それにより銅が活性化して触媒活性を有する。触媒は、銅原子及び亜鉛原子に加えて、主たる第3成分として、アルミニウム原子及び/又はクロム原子を含んでもよい。銅及び亜鉛を必須成分として含む触媒は、公知の方法で調製することができる。かかる触媒は、例えば、特公昭51−44715号公報、特許第2695663号公報、特公平6−35401号公報、特開平10−272361号公報、及び特開2001−205089号公報に記載の方法により調製することができる。
【0032】
好ましい触媒は、銅原子及び亜鉛原子を原子比(銅/亜鉛)2.0〜3.0で含み、かつアルミニウム原子を含むメタノール合成触媒である。このような触媒としては、例えば、特開平8−299796号公報に記載の方法により調製された触媒、及び、国際公開第2011/048976号に記載の触媒が挙げられる。
好ましい触媒の具体例としては、国際公開第2011/048976号の実施例及び比較例、例えば、実施例2及び実施例3に用いられた触媒が挙げられる。また、触媒における銅原子及び亜鉛原子のより好ましい原子比(銅/亜鉛)は、2.1〜3.0の範囲である。それに加えて、アルミナを3〜20質量%含むメタノール合成触媒がさらに好ましい。かかる触媒は、上述のとおり、例えば、国際公開第2011/048976号に記載の方法により調製することができる。より具体的には、例えば、銅を含む水溶液と亜鉛を含む水溶液とアルカリ水溶液とを混合して銅及び亜鉛を含む沈殿物を生成する工程と、得られた沈殿物と擬ベーマイト構造を有するアルミナ水和物とを混合して混合物を得る工程と、得られた混合物を密度が2.0〜3.0g/mLになるように成型する工程とを有する製造方法によって調製される。ただし、本実施形態に用いる触媒は上記の触媒及び上記の調製方法で調製された触媒に限定されるものではなく、同等のメタノール合成活性を有する他の触媒であってもよい。
【0033】
触媒層からの除熱方法としては、冷却材に加圧沸騰水を用いて間接的に触媒層と加圧沸騰水との間で熱交換する方法が好ましい。ここで、加圧沸騰水とは、触媒層からの除熱の際に潜熱を利用できるように沸騰する水である。また、そのような除熱方法に係る除熱機構としては、例えば、触媒層のガス流れ方向に対して向流方向又は並流方向に加圧沸騰水を流通させる冷却機構、及び、触媒層のガス流れ方向に直交する形で加圧沸騰水を流通させる冷却機構が挙げられる。より具体的には、例えば、触媒層のガス流れ方向に平行な内管を有し、その内管の内側に触媒層を形成し冷却材をその内管の外側に流通させる多管式反応器、触媒層のガス流れ方向に平行な内管を有し、触媒層を内管の外側に形成し冷却材をその内管の内側に流通させる多管式反応器、及び、触媒層のガス流れ方向に直交する方向に配置した内管内に冷却材を流通させる層間冷却式反応器などが挙げられる。冷却材である加圧沸騰水の温度は、210〜260℃が好ましい。加圧沸騰水から生成した水蒸気の使用先として好ましいのは、天然ガスの水蒸気改質反応の原料水蒸気である。この場合、加圧沸騰水の圧力は一般的な水蒸気改質反応の圧力(1.5〜2.5MPa−G(15〜25kg/cm−G))よりも高い圧力を有することが好ましいため、加圧沸騰水の温度は、例えば220〜240℃であることがより好ましい。
加圧沸騰水との間接熱交換により触媒層の反応温度を制御するのは、少なくとも最終合成工程においてであればよいが、全ての合成工程において加圧沸騰水との間接熱交換により触媒層の反応温度を制御するのが好ましい。なお、複数の反応器において加圧沸騰水を冷却材に用いる場合、それぞれの反応器における加圧沸騰水の温度は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
合成工程におけるメタノールの合成反応は、よく知られているように、例えば、圧力4.9〜14.7MPa−G(50〜150kg/cm−G)、温度200〜300℃の条件で行われると好ましい。メタノール合成反応における圧力及び温度は、より好ましくは、圧力7.8〜10.8MPa−G(80〜110kg/cm−G)、温度200〜280℃であり、さらに好ましくは、圧力7.8〜10.8MPa−G(80〜110kg/cm−G)、温度200〜270℃である。
【0035】
複数の反応器が同じ触媒量を有する場合、各メタノール合成工程におけるメタノール生成量のうちの最小量に対する最大量の比は、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2である。
【0036】
(分離工程)
分離工程においては、合成工程を経て得られた反応生成物を含む反応混合物から未反応ガスを分離する。言い換えれば、上記反応混合物に含まれるメタノール又はメタノール及び水と未反応ガスとを分離する。分離方法としては、例えば、合成工程からの出口ガスを冷却し、冷却によって生じる凝縮液を気液分離器によって分離する凝縮分離方法、及び分離膜を用いた膜分離方法が挙げられ、これらの中では凝縮分離方法が好ましい。本実施形態においては、凝縮分離方法を用いた分離工程(凝縮分離工程)が合成ループ内に少なくとも2つ設けられ、それらのうちの1つは、最終合成工程の後の最終凝縮分離工程であることが好ましい。凝縮分離工程において冷却される流体は、当該凝縮分離工程の前の合成工程からの出口ガス(ガス状の反応混合物)であり、合成されたメタノールを含む。メタノールを含む液を凝縮液として得る方法としては、例えば、反応器に供給される合成ガスとの相互熱交換やエアフィンクーラーなどによる空冷、冷却水やブラインなどの冷却材による冷却などが挙げられる。冷却対象となる流体(反応混合物)の冷却前の初期温度と冷却後の目標温度に応じて、凝縮液を得る方法は1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いられる。あるいは、本実施形態のメタノールの製造方法において用いられ得る減圧機によってガスを膨張させるのに伴う冷却を利用して凝縮液を得る手法を組み合わせることもできる。得られた凝縮液は、気液分離器(以下、単に「分離器」ともいう。)を用いて分離することが一般的である。これら冷却器(凝縮器)と分離器との組み合わせとしては、冷却器と分離器とを1つずつ組み合わせたものであってもよく、冷却器と分離器とを複数ずつ組み合わせたものであってもよい。冷却器と分離器とが複数組み合わされた例としては、例えば、特開昭61−257934号公報に記載のものが挙げられる。より具体的には、合成工程を経て得られる反応混合物を冷却し、メタノールを主成分とする反応生成物を凝縮し分離するに際し、凝縮器を2段に分け、前段の凝縮器の伝熱表面温度を反応混合物の露点以下、かつ反応混合物中に含まれるパラフィン類の融点以上の温度に設定し、後段の凝縮器の伝熱表面温度を60℃以下とする手法が挙げられる。
【0037】
例えば、1つの実施態様として、分離工程における分離方法として凝縮分離方法を用いて、2つの合成工程と2つの凝縮分離工程とを有する製造方法の場合を説明する。第1凝縮分離工程は、第1合成工程からの出口ガス(ガス状の反応混合物)を凝縮分離する工程であり、第1合成工程の後に設けられる。この第1凝縮分離工程では、第1合成工程からの出口ガスに含まれるメタノールのうち、好ましくは35〜100モル%、より好ましくは35〜99モル%、さらに好ましくは75〜96モル%のメタノールを分離することによって、メタノールを合成ループから抜き出す。
凝縮分離工程においては、冷却によって、メタノール、あるいはメタノール及び水を含む凝縮液が所定量生じるまで反応混合物を冷却する。例えば、メタノール分圧0.69〜0.88MPa−G(7.0〜9.0kg/cm−G)の流体(反応混合物)を冷却し凝縮させる場合は、好ましくは、20〜100℃、より好ましくは40〜80℃に冷却することが好ましい。このとき、メタノール収率向上の観点から、第1凝縮分離工程において、第1合成工程からの出口ガスに含まれるメタノールの分離割合は75モル%より高くすることが好ましい。さらに、その後の第2合成工程での反応制御のために、第1凝縮分離工程における第1合成工程からの出口ガスに含まれるメタノールの分離割合は96モル%より低くすることがより好ましい。冷却水の節約の観点からは、第1凝縮分離工程における冷却は、エアフィンクーラーによる冷却(空冷)のみを用いることが好ましい。この場合、反応混合物の冷却後の目標温度は、同様の観点から55〜90℃であることが好ましい。
【0038】
このように、複数の合成工程間に分離工程を有することにより、その分離工程の後に続く合成工程において、反応器に供給される水の量が低減される。その結果、分離工程がない場合に比べて、触媒の活性点と考えられる銅粒子のシンタリングが抑制されるので、触媒寿命を延長させる効果が想定される。また、複数の合成工程間に分離工程を有し、その工程において分離された未反応ガスを、それに続く合成工程の原料として用いることにより、その分離工程の前後にある合成工程における反応量のバランスが良好となり、結果として、触媒をより有効に活用できる。さらに、複数の合成工程間の分離工程において、その分離工程の前の合成工程からの出口ガスに含まれるメタノールのうち4〜25モル%を分離せずに、その後の合成工程に供給することで、後段の合成工程における反応を制御し、触媒層の過熱を抑制することも可能となる。この場合、分離工程にて取り除かれない凝縮性のガス量が増加する。
【0039】
最終合成工程からの出口ガスは最終分離工程に供給される。最終分離工程において、最終合成工程からの出口ガス(ガス状の反応混合物)に含まれるメタノールのうち、少なくとも一部が分離される。最終分離工程において凝縮分離を採用する場合、最終合成工程からの出口ガスは、好ましくは20℃〜50℃、例えば45℃まで冷却され、気液分離器によって気相(未反応ガス)と液相とに分離される。合成ループ中の各分離工程において分離されたメタノールを含む反応生成物は、粗メタノールとして取り出される。
合成ループにおいては不活性成分が蓄積するため、一部のガスをパージガスとして系外に除去する必要がある。このパージガスの取り出し位置は、合成ループ内の適切な位置であればよい。このときのパージガス流量は、後述する循環比を所望の数値内にするよう適宜調整すればよい。ここで、循環比は、メイクアップガスのモル流量に対する循環ガスのモル流量で定義される。本実施形態において、循環ガスのモル流量は、最終未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスのモル流量である。合成ループ中の各分離工程にて分離されたメタノールを含む反応生成物は、粗メタノールとして取り出される。
合成ループにおけるパージガスの取り出し位置は、循環機の処理ガス量を削減する観点から、合成ループ内での圧力が低くなる箇所が好ましい。加えて、カーボン収率の観点から、反応混合物中の反応生成物を分離して合成ループ外へ抜き出した後の未反応ガスの一部をパージガスとして分岐することが好ましく、そのパージガス取り出し位置がメイクアップガスの合流前であるとより好ましい。さらに、複数の合成工程間の分離工程において、その分離工程の前の合成工程からの出口ガスに含まれるメタノールのうち4〜25モル%を分離せずに、その後の合成工程に供給することで、後段の合成工程における反応を制御し、触媒層の過熱を抑制することも可能となる。この場合、その分離工程に用いる分離器の後段であって、続く合成工程に用いる反応器の前段にある予熱機の更に前段に循環機を配置することは、循環機内で凝縮が発生する恐れがあり、適切ではない。
【0040】
メタノール合成プロセスにおける循環比は、メイクアップガスのモル流量に対する循環ガスのモル流量の比で定義される。本実施形態においては、循環比は好ましくは0.6以上2.0以下であり、より好ましくは0.8以上1.5以下である。メイクアップガスと循環ガスのガス組成を対比すると、メイクアップガスの方が、発熱反応であるメタノール合成の原料である一酸化炭素及び二酸化炭素の含有割合が高いため、触媒層でより発熱を生じさせやすい。そこで、循環比を0.6以上にすることにより、メイクアップガスに主に起因する触媒の過熱を、循環ガスによる希釈により、更に抑制することができる。一方、循環比を2.0以下にすることにより、プロセス全体でのエネルギー効率が向上する。これは、メイクアップガスのモル流量を相対的に増大させることで、未反応ガスに含まれる成分のうち、本来であれば冷却する必要のない水素などのモル流量を少なくすることができ、その分、冷却器の負荷を小さくすることが可能となるからである。
【0041】
(昇圧工程)
本実施形態のメタノール製造方法は、合成ループ内に少なくとも1つの昇圧工程を有する。この昇圧工程における昇圧には、循環機が用いられる。このメタノールの製造方法は、少なくとも1つの昇圧工程を、最終予熱工程の後であって、かつ最終合成工程の前に有する。最終予熱工程において用いられる得る予熱器は、最終合成工程への供給ガスである最終混合ガスを所定の温度に昇温するものであり、一般的には最終合成工程を経て得られる最終反応混合物(通常はガス状)と熱交換するものであるのが好ましい。この場合、最終混合ガスの予熱後の温度は、最終反応混合物の温度以上にはならない。最終合成工程において用いられ得る反応器として、加圧沸騰水との間接熱交換機構を有する等温反応器を想定した場合、最終反応混合物の反応器出口温度は加圧沸騰水の温度に漸近するため、予熱器で予熱された最終混合ガスは、加圧沸騰水の温度よりも低い温度で供給されることになり、加圧沸騰水による反応熱の回収量が低下することになる。一方、本実施形態においては、昇圧工程を最終予熱工程の後であって、かつ最終合成工程の前に有することによって、最終混合ガスの反応器入口での温度を加圧沸騰水の温度に近く若しくはそれよりも高くすることができ、循環比の低減によって達成された反応熱の回収量の増加をさらに推し進め、さらなる反応熱の回収量増加をもたらす。このような効果をより有効かつ確実に奏する観点から、昇圧工程における昇圧前後の圧力比が1.10を超えると好ましく、1.20を超えるとより好ましい。この圧力比の上限は特に限定されないが、通常は2.00程度である。さらに、上記には劣るものの同様の効果を奏する観点から、本実施形態のメタノール製造方法は、第1予熱工程を経た第1混合ガスを、第1合成工程の前に昇圧する別の昇圧工程を有してもよい。
【0042】
(減圧工程)
本実施形態のメタノール製造方法においては、合成ループ内に少なくとも1つの減圧工程を有する。このメタノールの製造方法は、減圧工程を、第1合成工程の後であって、第1分離工程の前又は後に有してもよい。また、第1合成工程に用いられる反応器出口の第1反応混合物が、第1混合ガスの予熱に熱源として用いられる場合は、本実施形態のメタノールの製造方法は、第1混合ガスとの熱交換(最終混合ガスによる冷却)の後に減圧工程を有してもよい。また、このメタノールの製造方法は、最終合成工程の後、最終分離工程の前であって、最終反応混合物の一部を凝縮する工程の前又は後に減圧工程を有するのが好ましい。さらに、最終分離工程の後であって、第1混合工程の前までの間に減圧工程を有するのも好ましい。また、反応器出口の最終反応混合物が、最終混合ガスの予熱に熱源として用いられる場合は、本実施形態のメタノールの製造方法は、最終混合ガスとの熱交換(最終混合ガスによる冷却)の後に減圧工程を有するのが好ましい。このような減圧工程を有することは、エネルギーを回収する余地を生み出し、エネルギーの使用量を削減する点から好ましい。エネルギーの回収方法としては、例えば、圧力差を利用した発電によるエネルギー回収、及び、他の低圧流体の昇圧に利用する圧力変換型エネルギー回収が挙げられる。また、最終反応混合物の最終混合ガスとの熱交換の後であって、最終分離工程の前に減圧工程を有する場合、最終分離工程後に減圧工程を有する場合に比べて、減圧工程における流体量が増加することから、エネルギーを回収する余地をより多く生み出すことができる。さらに、減圧によって最終反応混合物が冷却される効果によって、分離目標温度によっては、最終分離工程の前に最終反応混合物の一部を凝縮するために用いられる凝縮器のサイズを小さくでき、あるいは、その凝縮器が不要になる場合もある。これら減圧工程は、反応器出口ガスの予熱器通過後であって最終分離工程前か、又は、最終分離工程後であって第1混合工程前のいずれかにあってもよく、あるいはそれらの両方にあってもよい。
【0043】
本実施形態のメタノール製造方法においては、合成ループは、3つ以上の混合工程、3つ以上の合成工程、及び3つ以上の分離工程を有してもよい。また、2つ以上の昇圧工程、2つ以上の減圧工程を有してもよい。さらに、合成工程において等温反応器を用い、反応器供給ガスである混合ガスと反応器出口ガスを予熱器にて熱交換する予熱工程を有する場合、1つ以上の合成工程の前に昇圧工程を有し、かつその合成工程の予熱工程後に減圧工程を有することがより好ましく、各合成工程の前に昇圧工程を有し、かつ各合成工程の予熱工程後に減圧工程を有することが更に好ましい。この段落において、「合成工程の前」とは、その合成工程よりも前に別の合成工程がある場合は、その別の合成工程よりも後であって、さらにその合成工程の前の予熱工程よりも後であることを意味し、「合成工程の予熱工程後」とは、その合成工程の反応器出口ガスが予熱器を通過した後であって、その合成工程よりも後に別の合成工程がある場合は、その別の合成工程の予熱工程よりも前であることを意味する。これにより、予熱器に流入する流体のうち、昇温する側の流体(反応器供給ガス)が低圧に、降温する側の流体(反応器出口ガス)が高圧になるので、予熱器における熱交換がより促進されることになる。
【0044】
図1は、本実施形態のメタノール製造方法に用いられる製造装置の一例を示す模式図である。この製造装置は、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む合成ガスからメタノールを合成する反応器23a及び23bと、反応器23a及び23bにおいて得られた反応混合物から未反応ガスを分離する分離装置である気液分離器26a及び26bとを備えるメタノール製造装置である。このメタノール製造装置は、2つの反応器23a及び23bと、2つの気液分離器(分離装置)26a及び26bとを備える合成ループを有し、その合成ループにおいて、第2反応器23bの後の第2気液分離器26bにおいて第2反応混合物から分離した第2未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスを、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含むメイクアップガスの10〜90モル%と混合して第1混合ガスを得る第1混合手段(ライン3aの合成ループへの合流部)と、第1混合ガスからメタノールを合成する第1反応器23aと、第1反応器23aにおいて得られた第1反応混合物から第1未反応ガスを分離する第1気液分離器26aと、第1未反応ガスとメイクアップガスの10〜90モル%とを混合して第2混合ガスを得る第2混合手段(ライン3bの合成ループへの合流部)と、第2混合ガスから最終的にメタノールを合成する第2反応器23bと、第2反応器23bにおいて得られた第2反応混合物から第2未反応ガスを分離する第2気液分離器26bとを備え、予熱器22bを通過した後の第2混合ガスを昇圧する循環機32bと、第2反応混合物から気液分離器26bにおいて分離された未反応ガスを減圧する減圧機34bとを備え、反応器23a及び23bにおいて、加圧沸騰水との間接熱交換により内管24a及び24b内の触媒層の反応温度を制御するメタノール製造装置である。なお、図示していないが、減圧機34bに代えて若しくは加えて、反応器23b出口から予熱器22bを通過した後の第2反応混合物を減圧する減圧機を備えてもよい。本実施形態において、第2反応器23b、第2気液分離器26b、第2反応混合物及び第2未反応ガスはそれぞれ、最終反応器、最終分離装置、最終反応混合物及び最終未反応ガスに該当する。
【0045】
水蒸気改質反応により生成されたCO、CO及びHを含む合成原料ガスは、圧縮機により所定の圧力まで昇圧される。昇圧された合成原料ガス(メイクアップガス)のうちの所定量はライン3a内を流通し、合成ループに供給される。メイクアップガスが循環ガスと混合されたライン4aの第1混合ガスは予熱器22aに供給される。反応器供給ガスである第1混合ガスは、予熱器22aにおいて、反応器23a出口のライン7a内を流通する反応生成物を含む反応器出口ガス(第1反応混合物)と熱交換されることで、所定の温度に予熱され、ライン5aから反応器23aに供給される。メイクアップガスのうちの残りはライン3b内を流通する。
【0046】
反応器23aは内管24aを有し、内管24a中に銅及び亜鉛を必須成分として含むメタノール合成触媒が充填され触媒層を形成する。ライン5aから反応器23a内に供給された第1混合ガスが内管24a内の触媒層を通過する過程でメタノールが合成される。触媒層における流体の圧力及び温度は、上記メタノール合成反応における反応及び温度の範囲内であればよい。
【0047】
反応器23aよりライン7aへ流出したメタノールを含む反応器出口ガス(第1反応混合物)は、予熱器22aにおいて冷却された後、さらに凝縮器25aによりメタノールの露点以下に冷却されることでメタノールの凝縮が促進される。凝縮されたメタノールを含む流体は、気液分離器26aにて凝縮分を粗メタノールとしてライン9aから系外に抜き出され、残る気相分はライン8a内を流通する。
【0048】
メイクアップガスのうちライン3b内に流通したものは、気液分離器26aからライン8a内を流通した未反応ガスと混合されて、反応器供給ガスである第2混合ガスとしてライン4bから、予熱器22bに供給される。所定の温度に予熱された第2混合ガスはライン5bから循環機32bに供給され、所定の反応圧力まで昇圧された後に、ライン6bから反応器23bへ供給される。
【0049】
反応器23bは内管24bを有し、内管24b内に銅及び亜鉛を必須成分として含むメタノール合成触媒が充填され触媒層を形成する。ライン6bから反応器23b内に供給された第2混合ガスが内管24b内の触媒層を通過する過程でメタノールが合成される。触媒層における流体の圧力及び温度は、上記メタノール合成反応における反応及び温度の範囲内であればよい。
【0050】
反応器23bよりライン7bへ流出したメタノールを含む反応器出口ガス(第2反応混合物)は、予熱器22bにおいて冷却された後、さらに凝縮器25bにより、所定の温度まで冷却されることでメタノールがさらに凝縮される。凝縮されたメタノールを含む第2反応混合物は、気液分離器26bにて凝縮分を粗メタノールとしてライン9bから系外に抜き出され、気相分(第2未反応ガス)はライン8b内を流通する。ライン8bを流通する第2未反応ガスは減圧機34bにて減圧される。その後、所定の循環比となる量の第2未反応ガスの一部が循環ガスとしてライン16を流通し、ライン3aを流通するメイクアップガスと合流し、反応器23aへ循環される。残りの未反応ガスは、合成ループ中に蓄積する不活性成分を除去するためにパージガスとしてライン15より合成ループから系外へ抜き出される。
【0051】
反応器23a及び反応器23b内の触媒層の冷却は、スチームドラム33a及び33bからのボイラー水をライン43a及び43bからそれぞれの反応器23a及び23bに導入し、それを加圧沸騰水として用い、生じた水蒸気を含む流体がそれぞれライン44a及び44bからスチームドラム33a及び33bに回収される過程でなされる。反応熱により生じた水蒸気は、スチームドラム33a及び33bからライン42a及び42bへ取り出され、水蒸気量を補う量の水がライン41a及び41bからスチームドラム33a及び33bへ供給される。ライン42a及び42bから取り出された水蒸気は、原料ガスを天然ガスから生成する際の水蒸気改質反応に必要な原料水蒸気として用いられ得る。
【0052】
図3は、本実施形態のメタノール製造方法に用いられる製造装置の別の一例を示す模式図である。図1に示す製造装置と異なる部分は、循環機と減圧機をそれぞれ2基ずつ、合成ループ内に備えた点である。すなわち、1つの点は、予熱器22aで予熱された反応器供給ガスである第1混合ガスは、ライン5aから循環機32aに供給され、循環機32aにより昇圧された後に、ライン6aから反応器23aに供給される点である。もう1つの点は、分離器26aで分離された第1未反応ガスがライン8aに取り出された後、減圧機34aにて減圧されてから、ライン3bからのメイクアップガスの一部と合流して、ライン4bから予熱器22bに供給される点である。
【0053】
図4は、本実施形態のメタノール製造方法に用いられる製造装置のさらに別の一例を示す模式図である。図1に示す製造装置と異なる部分は、混合手段、反応器、気液分離器、循環器及び圧縮機を3つずつ備えている点である。この製造装置は、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含む合成ガスからメタノールを合成する反応器23a、23b及び23cと、反応器23a、23b及び23cにおいて得られた反応混合物から未反応ガスを分離する分離装置である気液分離器26a、26b及び26cと、気液分離器26a、26b及び26cにおいて得られた未反応ガスを減圧する装置である減圧機34a、34b及び34cと、反応器供給ガスである混合ガスの予熱器22a、22b及び22c通過後の流体をそれぞれ昇圧する装置である循環機32a、32b及び32cとを備えるメタノール製造装置である。このメタノール製造装置は、3つの反応器23a、23b及び23cと、3つの気液分離器(分離装置)26a、26b及び26cとを備える合成ループを有し、その合成ループにおいて、第3反応器23cの後の第3気液分離器26cにおいて第3反応混合物から分離した第3未反応ガスからパージガスを取り除いた残りのガスを、水素と一酸化炭素と二酸化炭素とを含むメイクアップガスの10〜90モル%と混合して第1混合ガスを得る第1混合手段(ライン3aの合成ループへの合流部)と、第1混合ガスからメタノールを合成する第1反応器23aと、第1反応器23aにおいて得られた第1反応混合物から第1未反応ガスを分離する第1気液分離器26aと、第1未反応ガスとメイクアップガスの50〜85モル%とを混合して第2混合ガスを得る第2混合手段(ライン3bの合成ループへの合流部)と、第2混合ガスからメタノールを合成する第2反応器23bと、第2反応器23bにおいて得られた第2反応混合物から第2未反応ガスを分離する第2気液分離器26bと、第2未反応ガスとメイクアップガスの5〜85モル%とを混合して第3混合ガスを得る第3混合手段(ライン3cの合成ループへの合流部)と、第3混合ガスから最終的にメタノールを合成する第3反応器23cと、第3反応器23cにおいて得られた第3反応混合物から第3未反応ガスを分離する第3気液分離器26cとを備え、予熱器22a、22b及び22c通過後の反応器供給ガスである混合ガスをそれぞれ昇圧する循環機32a、32b及び32cと、気液分離器26a、26b及び26cにおいて分離された未反応ガスをそれぞれ減圧する減圧機34a、34b及び34cとを備え、反応器23a、23b及び23cにおいて、加圧沸騰水との間接熱交換により内管24a、24b及び24c内の触媒層の反応温度を制御するメタノール製造装置である。なお、図示していないが、減圧機34a、34b及び34cに代えて若しくは加えて、反応器23a、23b及び23c出口から予熱器22a、22b及び22cを通過した後の反応混合物を減圧する減圧機を備えてもよい。本実施形態において、第3反応器23c、第3気液分離器26c、第3反応混合物及び第3未反応ガスはそれぞれ、最終反応器、最終分離装置、最終反応混合物及び最終未反応ガスに該当する。
【0054】
水蒸気改質反応により生成されたCO、CO及びHを含む合成原料ガスは、圧縮機により所定の圧力まで昇圧される。昇圧された合成原料ガス(メイクアップガス)のうちの所定量はライン3a内を流通し、合成ループに供給される。メイクアップガスが混合されたライン4aの反応器供給ガス(第1混合ガス)は予熱器22aに供給される。第1混合ガスは、予熱器22aにおいて、反応器23a出口のライン7a内を流通する反応生成物を含む反応器出口ガス(第1反応混合物)と熱交換されることで、所定の温度に予熱され、ライン5aから循環機32aに供給され、所定の反応圧力まで昇圧された後にライン6aから反応器23aへ供給される。
【0055】
反応器23aは内管24aを有し、内管24a中に銅及び亜鉛を必須成分として含むメタノール合成触媒が充填され触媒層を形成する。ライン6aから反応器23a内に供給された第1混合ガスが内管24a内の触媒層を通過する過程でメタノールが合成される。触媒層における流体の圧力及び温度は、上記メタノール合成反応における反応及び温度の範囲内であればよい。
【0056】
反応器23aよりライン7aへ流出したメタノールを含む出口ガス(第1反応混合物)は、予熱器22aにおいて冷却された後、さらに凝縮器25aによりメタノールの露点以下に冷却されることでメタノールの凝縮が促進される。凝縮されたメタノールを含む流体は気液分離器26aにて凝縮分を粗メタノールとしてライン9aから系外に抜き出され、残る気相分はライン8a内を流通する。ライン8aに取り出された第1未反応ガスは減圧機34aによって所定の圧力に減圧される。
【0057】
メイクアップガスのうちライン3b内に流通したものは、気液分離器26aからライン8a内を流通した第1未反応ガスと混合されて、反応器供給ガス(第2混合ガス)としてライン4bから、予熱器22bに供給される。所定の温度に予熱された第2混合ガスはライン5bから循環機32bに供給され、所定の反応圧力まで昇圧された後にライン6bから反応器23bへ供給される。
【0058】
反応器23bは内管24bを有し、内管24b内に銅及び亜鉛を必須成分として含むメタノール合成触媒が充填され触媒層を形成する。ライン6bから反応器23b内に供給された第2混合ガスが内管24b内の触媒層を通過する過程で、メタノールが合成される。触媒層における流体の圧力及び温度は、上記メタノール合成反応における反応及び温度の範囲内であればよい。
【0059】
反応器23bよりライン7bへ流出したメタノールを含む反応器出口ガス(第2反応混合物)は、予熱器22bにおいて冷却された後、さらに凝縮器25bにて冷却されることでメタノールの凝縮が促進される。凝縮されたメタノールを含む流体は、気液分離器26bにて凝縮分を粗メタノールとしてライン9bから系外に抜き出され、残る気相分はライン8b内を流通する。ライン8bに取り出された第2未反応ガスは減圧機34bによって所定の圧力に減圧される。
【0060】
メイクアップガスのうちライン3c内に流通したものは、気液分離器26bからライン8b内を流通した第2未反応ガスと混合されて、反応器供給ガス(第3混合ガス)としてライン4cから、予熱器22cに供給される。所定の温度に予熱された第3混合ガスはライン5cから循環機32cに供給され、所定の反応圧力まで昇圧された後にライン6cから反応器23cへ供給される。
【0061】
反応器23cは内管24cを有し、内管24c内に銅及び亜鉛を必須成分として含むメタノール合成触媒が充填され触媒層を形成する。ライン6cから反応器23c内に供給された第3混合ガスが内管24c内の触媒層を通過する過程で、メタノールが合成される。触媒層における流体の圧力及び温度は、上記メタノール合成反応における反応及び温度の範囲内であればよい。
【0062】
反応器23cよりライン7cへ流出したメタノールを含む反応器出口ガス(第3反応混合物)は、予熱器22cにおいて冷却された後、さらに凝縮器25cにより、所定の温度まで冷却されることでメタノールがさらに凝縮される。凝縮されたメタノールを含む流体は、気液分離器26cにて凝縮分を粗メタノールとしてライン9cから系外に抜き出され、気相分(第3未反応ガス)はライン8c内を流通する。ライン8cに取り出された第3未反応ガスは減圧機34cによって所定の圧力に減圧される。
【0063】
ライン8c内を流通する第3未反応ガスのうち所定の循環比となる量の第3未反応ガスが、循環ガスとしてライン16からライン3aを流通するメイクアップガスと合流し、反応器23aへ循環される。残りの第3未反応ガスは、合成ループ中に蓄積する不活性成分を除去するためにパージガスとしてライン15より合成ループから系外へ抜き出される。
【0064】
反応器23a、反応器23b及び反応器23cの触媒層の冷却は、スチームドラム33a、33b及び33cからのボイラー水をライン43a、43b及び43cからそれぞれの反応器23a、23b及び23cに導入し、それを加圧沸騰水として用い、生じた水蒸気を含む流体がそれぞれライン44a、44b及び44cからスチームドラム33a、33b及び33cにそれぞれ回収される過程でなされる。反応熱により生じた水蒸気は、スチームドラム33a、33b及びスチームドラム33cから、ライン42a、42b及びライン42cへそれぞれ取り出され、水蒸気量を補う量の水をライン41a、41b及び41cからそれぞれのスチームドラムへ供給する。ライン42a、42b及びライン42cから取り出された水蒸気は、原料ガスを天然ガスから生成する際の水蒸気改質反応に必要な原料水蒸気として用いられ得る。
【0065】
この製造装置を用いたメタノールの製造方法では、第1未反応ガスとメイクアップガスの10〜90モル%のうちの少なくとも一部とを混合して第2混合ガスを得ることが中間混合工程に該当し、第2混合ガスからメタノールを合成することが中間合成工程に該当し、第2反応混合物から第2未反応ガスを分離することが中間分離工程に該当する。
【実施例】
【0066】
以下、本発明をメタノール合成プラント設計の実施例並びに比較例により詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されない。
メタノール合成に用いる触媒は、国際公開第2011/048976号の実施例3に記載の方法によって調製された触媒(メタノール合成触媒A)とした。
【0067】
(実施例1)
実施例1では図1に示す製造装置を用いた。各条件は以下のとおりとした。すなわち、原料ガスとして、天然ガスの水蒸気改質反応で生じるガスを利用し、循環比1.0の条件でメタノールの合成を行った。また、反応器23a及び23bにおける触媒としてメタノール合成触媒Aを用いた。原料ガスは圧縮機により8.0MPa−Gまで昇圧した。昇圧した合成原料ガス(メイクアップガス)のうち50モル%をライン3a内に流通し、ライン16内を流通する循環ガスと混合し、反応器供給ガス(第1混合ガス)を得た。ライン4aを流通した第1混合ガスを、反応器23a出口のライン7a内を流通する反応生成物を含む反応器出口ガス(第1反応混合物)と予熱機22aにて熱交換することで、ライン5aにおける温度が200℃になるよう予熱した。メイクアップガスのうち残りの50モル%をライン3b内に流通させた。予熱後の第1混合ガスを反応器23aに供給してメタノールの合成を行った(第1合成工程)。反応器23aの触媒層における流体の圧力は7.8MPa−G、温度は200〜254℃の間であった。
【0068】
また、第1合成工程からの出口ガス(第1反応混合物)を凝縮器25aによりメタノールの露点以下である45℃(全圧7.6MPa−G)に冷却して、メタノールの凝縮を促進した。気液分離器26aで分離された第1未反応ガスをライン8a内に流通し、ライン3b内を流通するメイクアップガスと混合し、反応器供給ガス(第2混合ガス)を得た。ライン4b内を流通した第2混合ガスを、反応器23b出口のライン7b内を流通する反応生成物を含む出口ガス(第2反応混合物)と予熱器22bにて熱交換することで、ライン5bにおける温度が190℃になるように予熱した。ライン5b内を流通する第2混合ガスを、循環機32bを通過する過程でライン6bの圧力が9.8MPa−Gとなるように昇圧した。昇圧に伴い、ライン6b内を流通する第2混合ガスの温度は230℃となった。昇圧後の第2混合ガスを反応器23bに供給してメタノールの合成を行った。触媒層における流体の圧力は9.8MPa−G、温度は230〜265℃の間であった。反応器23bよりライン7bへ流出したメタノールを含む出口ガス(第2反応混合物)を予熱器22bにおいて冷却した後、凝縮器25bにより45℃に冷却して、メタノールをさらに凝縮した。気液分離器26bで分離された第2未反応ガスをライン8b内に流通し、減圧機34を通過する過程で減圧した後、一部をライン15からパージガスとして取り出し、残りをライン16内を流通する循環ガスとした。ライン16を流れる循環ガスのモル流量はメイクアップガスのモル流量と等しくなるように制御し、その結果、ライン8bにおける第2未反応ガスのモル流量に対するパージガス(ライン15)のモル流量は、19.4%であった。
【0069】
物質収支を表1に示す。縦欄は図1に示すライン番号であり、横欄は各ラインを流通する流体の、温度、圧力及び物質流量である。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1における触媒層の最高温度は、反応器23aの内管24aにおいて254℃、反応器23bの内管24bにおいて265℃であり、触媒使用温度範囲として非常に好ましい温度範囲であった。このとき、冷却材である加圧沸騰水の温度は230℃であった。回収熱量は89.7MWであり、循環機動力は8.8MWであった。
【0072】
実施例1におけるカーボン収率は、メイクアップガス中のCOモル流量とCOモル流量の和(ライン3a及びライン3bのCOモル流量とCOモル流量との総和)に対する、粗メタノール中のメタノールモル流量(ライン9aのメタノールモル流量とライン9bのメタノールモル流量との総和)の割合で示され、97.0%であった(カーボン収率については、以下同様に算出した)。
【0073】
(比較例1)
比較例1では、図2に示す製造装置を用いた。実施例1との相違点は、合成ループにおける循環機の位置である。具体的には、気液分離器26aにおいて分離された残りの未反応ガスをライン8aにて取り出し、ライン3bからのメイクアップガスを混合した後であって、予熱器22bを通過する前に、循環機32bにて昇圧した点である。ライン3a及びライン3bを流通するメイクアップガスの組成、合計モル流量、温度、及び圧力をそれぞれ実施例1と同様にした。比較例1は、特許文献2の技術に基づいたものである。
【0074】
比較例1の物質収支を表2に示す。縦欄は図2に示すライン番号であり、横欄は各ラインを流通する流体の、温度、圧力及び物質流量である。
【0075】
【表2】
【0076】
比較例1における触媒層の最高温度は、反応器23aの内管24aにおいて254℃、反応器23bの内管24bにおいて260℃であった。このとき、冷却材である加圧沸騰水の温度は230℃、回収熱量は81.8MWであり、循環機動力は6.5MWであった。
【0077】
比較例1におけるカーボン収率は96.9%であった。
【0078】
実施例1と比較例1の違いは、循環機を予熱器の前に配置するか、予熱器の後に配置するかの違いである。予熱器での予熱後に昇圧工程を有する実施例1の結果は、昇圧後に予熱する比較例1の結果に比べて、循環機への投入エネルギーで+2.3MW増加したものの、反応器での回収エネルギーで+7.9MW増加したため、合計では5.6MWのエネルギー削減効果を示した。
【0079】
(実施例2)
実施例2では図3に示す製造装置を用いた。各条件は以下のとおりとした。すなわち、原料ガスとして、天然ガスの水蒸気改質反応で生じるガスを利用し、循環比1.0の条件でメタノールの合成を行った。また、反応器23a及び23bにおける触媒としてメタノール合成触媒Aを用いた。原料ガスは圧縮機により8.0MPa−Gまで昇圧した。昇圧した合成原料ガス(メイクアップガス)のうち50モル%をライン3a内に流通し、ライン16内を流通する循環ガスと混合し、反応器供給ガス(第1混合ガス)を得た。ライン4a内を流通した第1混合ガスは、反応器23a出口のライン7a内を流通する反応生成物を含む出口ガス(第1反応混合物)と予熱器22aにて熱交換することで、ライン5aにおける温度が195℃になるよう予熱した。ライン5a内を流通する第1混合ガスは、循環機32aを通過する過程でライン6aの圧力が9.8MPa−Gとなるように昇圧した。昇圧に伴い、ライン6a内を流通する第1混合ガスの温度は230℃となった。メイクアップガスのうち残りの50モル%をライン3b内に流通させた。昇圧後の第1混合ガスを反応器23aに供給してメタノールの合成を行った(第1合成工程)。触媒層における流体の圧力は9.8MPa−G、温度は230〜272℃の間であった。
【0080】
また、第1合成工程からの出口ガス(第1反応混合物)を凝縮器25aによりメタノールの露点以下である45℃(全圧9.6MPa−G)に冷却して、メタノールの凝縮を促進した。気液分離器26aで分離された第1未反応ガスをライン8a内に流通し、減圧機34aを通過する過程で減圧した後、ライン3b内を流通するメイクアップガスと混合して、反応器供給ガス(第2混合ガス)を得た。ライン4b内を流通した第2混合ガスを、反応器23b出口のライン7b内を流通する反応生成物を含む出口ガス(第2反応混合物)と予熱器22bにて熱交換することで、ライン5bにおける温度が195℃になるよう予熱した。ライン5b内を流通する第2混合ガスを、循環機32bを通過する過程でライン6bの圧力が9.8MPa−Gとなるように昇圧した。昇圧に伴い、ライン6b内を流通する第2混合ガスの温度は230℃となった。昇圧後の第2混合ガスを反応器23bに供給してメタノールの合成を行った。触媒層における流体の圧力は9.8MPa−G、温度は230〜269℃の間であった。反応器23bよりライン7bへ流出したメタノールを含む出口ガス(第2反応混合物)を予熱器22bにおいて冷却した後、凝縮器25bにより45℃に冷却して、メタノールをさらに凝縮した。気液分離器26bで分離された第2未反応ガスをライン8b内に流通し、減圧機34を通過する過程で減圧した後、一部をライン15からパージガスとして取り出し、残りをライン16内を流通する循環ガスとした。ライン16を流れる循環ガスのモル流量はメイクアップガスのモル流量の1.0倍となるように制御し、その結果、ライン8bにおける第2未反応ガスのモル流量に対するパージガス(ライン15)のモル流量は、19.1%であった。
【0081】
物質収支を表3に示す。縦欄は図3に示すライン番号であり、横欄は各ラインを流通する流体の、温度、圧力及び物質流量である。
【0082】
【表3】
【0083】
実施例2における触媒層の最高温度は、反応器23aの内管24aにおいて272℃、反応器23bの内管24bにおいて269℃であり、触媒使用温度範囲として好ましい温度範囲であった。このとき、冷却材である加圧沸騰水の温度は230℃であり、回収熱量は97.4MWであり、循環機動力は合計で14.5MWであった。
【0084】
実施例2におけるカーボン収率は97.5%であった。
【0085】
実施例2の結果は、比較例1の結果に比べて、循環機への投入エネルギーで+8.0MW増加したものの、反応器での回収エネルギーで+15.6MW増加したため、合計では7.6MWのエネルギー削減効果を示した。さらに、減圧機での減圧操作において圧力エネルギーを回収すれば、比較例1では2.6MWのエネルギー回収となり、実施例2では5.0MWのエネルギー回収となることから、全てを合計すると10.0MWのエネルギー削減効果となった。
【0086】
(実施例3)
実施例3では図4に示す製造装置を用いた。各条件は以下のとおりとした。すなわち、原料ガスとして、天然ガスの水蒸気改質反応で生じるガスを利用し、循環比1.0の条件でメタノールの合成を行った。また、反応器23a、23b及び23cにおける触媒としてメタノール合成触媒Aを用いた。原料ガスは圧縮機により8.0MPa−Gまで昇圧した。昇圧した合成原料ガス(メイクアップガス)のうち30モル%をライン3a内に流通し、ライン16内を流通する循環ガスと混合し、反応器供給ガス(第1混合ガス)を得た。ライン4a内を流通した第1混合ガスは、反応器23a出口のライン7a内を流通する反応生成物を含む出口ガス(第1反応混合物)と予熱器22aにて熱交換することで、ライン5aにおける温度が195℃になるよう予熱した。ライン5a内を流通する第1混合ガスは、循環機32aを通過する過程でライン6aの圧力が9.8MPa−Gとなるように昇圧した。昇圧に伴い、ライン6a内を流通する第1混合ガスの温度は230℃となった。メイクアップガスのうち50モル%をライン3b内に、残りの20モル%をライン3cに流通させた。昇圧後の第1混合ガスを反応器23aに供給してメタノールの合成を行った(第1合成工程)。反応器23aの触媒層における流体の圧力は9.8MPa−G、温度は230〜264℃の間であった。
【0087】
また、第1合成工程からの出口ガス(第1反応混合物)を凝縮器25aによりメタノールの露点以下である80℃(全圧9.6MPa−G)に冷却して、メタノールの凝縮を促進した。気液分離器26aで分離された第1未反応ガスをライン8a内に流通し、減圧機34aを通過する過程で減圧した後、ライン3b内を流通するメイクアップガスと混合して、反応器供給ガス(第2混合ガス)を得た。ライン4b内を流通した第2混合ガスを、反応器23b出口のライン7b内を流通する反応生成物を含む出口ガス(第2反応混合物)と予熱器22bにて熱交換することで、ライン5bにおける温度が195℃になるよう予熱した。ライン5b内を流通する第2混合ガスを、循環機32bを通過する過程でライン6bの圧力が9.8MPa−Gとなるように昇圧した。昇圧に伴い、ライン6b内を流通する第2混合ガスの温度は230℃となった。触媒層における流体の圧力は9.8MPa−G、温度は230〜265℃の間であった。反応器23bよりライン7bへ流出したメタノールを含む出口ガス(第2反応混合物)を予熱器22bにおいて冷却した後、凝縮器25bにより45℃に冷却して、メタノールをさらに凝縮した。気液分離器26bで分離された第2未反応ガスをライン8b内に流通し、減圧機34bを通過する過程で減圧した後、ライン3c内に流通するメイクアップガスと混合し、反応器供給ガス(第3混合ガス)を得た。ライン4c内を流通した第3混合ガスを、反応器23c出口のライン7c内を流通する反応生成物を含む出口ガス(第3反応生成物)と予熱器22cにて熱交換することで、ライン5cにおける温度が195℃になるよう予熱した。ライン5c内を流通する第3混合ガスを、循環機32cを通過する過程でライン6cの圧力が9.8MPa−Gとなるように昇圧した。昇圧に伴い、ライン6c内を流通する第3混合ガスの温度は230℃となった。昇圧後の第3混合ガスを反応器23cに供給してメタノールの合成を行った。触媒層における流体の圧力は9.8MPa−G、温度は230〜254℃の間であった。反応器23cよりライン7cへ流出したメタノールを含む出口ガス(第3反応生成物)を予熱器22cにおいて冷却した後、凝縮器25cにより45℃に冷却して、メタノールをさらに凝縮した。気液分離器26cで分離された第3未反応ガスをライン8c内を流通し、減圧機34cを通過する過程で減圧した後、一部をライン15からパージガスとして取り出し、残りをライン16内を流通する循環ガスとした。ライン16を流れる循環ガスのモル流量はメイクアップガスのモル流量の1.0倍となるように制御し、その結果、ライン8bにおける第3未反応ガスのモル流量に対するパージガス(ライン15)のモル流量は、18.5%であった。
【0088】
物質収支を表4に示す。縦欄は図4に示すライン番号であり、横欄は各ラインを流通する流体の、温度、圧力及び物質流量である。
【0089】
【表4】
【0090】
実施例3における触媒層の最高温度は、反応器23aの内管24aにおいて264℃、反応器23bの内管24bにおいて265℃、反応器23cの内管24cにおいて254℃であり、触媒使用温度範囲として好ましい温度範囲であった。このとき、冷却材である加圧沸騰水の温度は230℃であり、回収熱量は97.5MWであり、循環機動力は合計で20.0MWであった。
【0091】
実施例3におけるカーボン収率は98.5%であった。
【0092】
実施例3の結果は、比較例1の結果に比べて、循環機への投入エネルギーで+13.5MW増加したものの、反応器での回収エネルギーで+15.7MW増加したため、合計では2.2MWのエネルギー削減効果を示した。さらに、減圧機での減圧操作において圧力エネルギーを回収すれば、比較例1では2.6MWのエネルギー回収となり、実施例3では7.8MWのエネルギー回収となることから、全てを合計すると7.5MWのエネルギー削減効果となった。
【0093】
(実施例4)
実施例4では図5に示す製造装置を用いた。各条件は以下のとおりとした。すなわち、原料ガスとして、天然ガスの水蒸気改質反応で生じるガスを利用し、循環比1.0の条件でメタノールの合成を行った。また、反応器23a及び23bにおける触媒としてメタノール合成触媒Aを用いた。原料ガスは圧縮機により8.0MPa−Gまで昇圧した。昇圧した合成原料ガス(メイクアップガス)のうち50モル%をライン3a内に流通し、ライン16内を流通する循環ガスと混合し、反応器供給ガス(第1混合ガス)を得た。ライン4aを流通した第1混合ガスを、反応器23a出口のライン7a内を流通する反応生成物を含む反応器出口ガス(第1反応混合物)と予熱器22aにて熱交換することで、ライン5aにおける温度が200℃になるよう予熱した。メイクアップガスのうち残りの50モル%をライン3b内に流通させた。予熱後の第1混合ガスを反応器23aに供給してメタノールの合成を行った(第1合成工程)。反応器23aの触媒層における流体の圧力は7.8MPa−G、温度は200〜254℃の間であった。
【0094】
また、第1合成工程からの出口ガス(第1反応混合物)を凝縮器25aによりメタノールの露点以下である45℃(全圧7.6MPa−G)に冷却して、メタノールの凝縮を促進した。気液分離器26aで分離された第1未反応ガスをライン8a内に流通し、ライン3b内を流通するメイクアップガスと混合し、反応器供給ガス(第2混合ガス)を得た。ライン4b内を流通した第2混合ガスを、反応器23b出口のライン7b内を流通する反応生成物を含む出口ガス(第2反応混合物)と予熱器22bにて熱交換することで、ライン5bにおける温度が190℃になるように予熱した。ライン5b内を流通する第2混合ガスを、循環機32bを通過する過程でライン6bの圧力が9.8MPa−Gとなるように昇圧した。昇圧に伴い、ライン6b内を流通する第2混合ガスの温度は230℃となった。昇圧後の第2混合ガスを反応器23bに供給してメタノールの合成を行った。触媒層における流体の圧力は9.8MPa−G、温度は230〜264℃の間であった。反応器23bよりライン7bへ流出したメタノールを含む出口ガス(第2反応混合物)を予熱器22bにおいて冷却した後、減圧機34を通過する過程で減圧し、凝縮器25bにより45℃に冷却して、メタノールをさらに凝縮した。気液分離器26bで分離された第2未反応ガスをライン8b内に流通した後、一部をライン15からパージガスとして取り出し、残りをライン16内を流通する循環ガスとした。ライン16を流れる循環ガスのモル流量はメイクアップガスのモル流量と等しくなるように制御し、その結果、ライン8bにおける未反応ガスのモル流量に対するパージガス(ライン15)のモル流量は、19.4%であった。
【0095】
物質収支を表5に示す。縦欄は図5に示すライン番号であり、横欄は各ラインを流通する流体の、温度、圧力及び物質流量である。
【0096】
【表5】
【0097】
実施例4における触媒層の最高温度は、反応器23aの内管24aにおいて254℃、反応器23bの内管24bにおいて264℃であり、触媒使用温度範囲として非常に好ましい温度範囲であった。このとき、冷却材である加圧沸騰水の温度は230℃であった。回収熱量は89.7MWであり、循環機動力は8.8MWであった。
【0098】
実施例4におけるカーボン収率は、96.9%であった。
【0099】
実施例4において、凝縮器25bの負荷は31.1MWであり、減圧機34bにおいてエネルギー回収を行う場合の回収エネルギーは3.9MWとなった。実施例1においては凝縮器25bの負荷は35.1MWであったので、実施例4では実施例1よりも凝縮器負荷を低減することができ、これは凝縮器自体のコスト低減につながる結果となった。
【0100】
各例における循環機に投入したエネルギー、減圧機で回収したエネルギー、及び反応器で回収したエネルギー、並びにそれらの収支をまとめた装置全体での回収エネルギー(ネット回収エネルギー)を、表6に示す。
【表6】
【0101】
本出願は、2016年4月7日出願の日本特許出願(特願2016−077448)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の方法によれば、循環比を低くしつつも触媒層温度を適切に保つと共にメタノール合成におけるカーボン収率を高くすることができ、エネルギー使用量を削減でき(言い換えれば回収エネルギー量を増大でき)、より効率的に反応を進めることができる。したがって、本発明は、メタノールの製造方法及び製造装置において、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0103】
32a、32b、32c…循環機、22a、22b、22c…予熱器、23a、23b、23c…反応器、24a、24b、24c…内管、25a、25b、25c…凝縮器、26a、26b、26c…気液分離器、33a、33b、33c…スチームドラム、34a、34b、34c…減圧機。
図1
図2
図3
図4
図5