【実施例】
【0017】
図1〜
図3と、表1〜表3を参照しながら、実施例を説明する。打抜き格子2を
図1(a)に示し、比較のためにエキスパンド格子10を
図1(b)に示す。4は耳、5,6は枠で、7は足である。エキスパンド格子10では枠6がない。打抜き格子2では、枠6があるため、腐食による格子の伸びが抑制され、また正極板全体が均一に充放電されやすい。
【0018】
正極格子材料として、表1と
図2とに示すように、組成1〜11のPb-Ca-Sn合金シートを用意した。最適実施例の範囲が
図2の斜線の内側で、Ca含有量をmass%単位でxとすると、0.03≦x≦0.09である。Sn含有量をmass%単位でyとすると、y≦2.0で、
図2の左下から右上への斜めの境界線は、9.16x+0.525=yである。圧下率を変えて、平均層間隔が14μm、26μm、62μm、125μm、178μm、199μmの圧延シートを冷間で製造した。次に圧延シートを打抜き、厚さ3mmの正極格子とした。これ以外に、平均層間隔62μmの圧延シートからエキスパンド格子を製造し、他に鋳造で正極格子を製造した。なお同じ平均層間隔の圧延シートを製造するため、圧下率を格子組成に応じて調整し、圧下率を変化させて必要とする平均層間隔とした。代表的な正極格子について、圧延組織の平均層間隔を表2に示す。
圧下率とは、鉛合金の塊であるスラブが、ロールなどの圧延装置を通過してシートとされた時の、圧延を行う前のスラブがシートになった時に厚みがどれだけ変化したかをいい、
(スラブ厚−シート厚み)/スラブ厚×100(%)で示される。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
未化成の正極活物質として、ボールミル法による鉛粉99.9mass%と、合成樹脂繊維0.1mass%とを、25℃で比重が1.16の硫酸でペースト化し、正極格子に充填して乾燥及び熟成を施し、ストラップで互いに接続して、正極板4枚から成る極板群とした。正極活物質の組成と密度等は任意である。
【0022】
Caを0.1mass%、Snを0.7mass%、Alを0.02mass%以下含有し、残部がPbと不可避不純物である負極格子を鋳造した。なお負極格子の組成、鋳造、打抜き等の格子の種類と、平均層間隔等のパラメータは任意である。負極活物質として、ボールミル法の鉛粉98.3mass%と、合成樹脂繊維0.1mass%、カーボンブラック0.1mass%、BaSO41.4mass%、及びリグニン0.1mass%を、25℃で比重が1.14の硫酸でペースト化し、負極格子に充填した。乾燥と熟成を施し、ストラップで互いに接続して、負極板5枚から成る極板群とした。
【0023】
正極板と負極板との間にリテイナーマット等の保液体を配置し、圧迫を加えながら電槽内に収容し、電解液として硫酸を加え、電槽化成を施して、容量が60A・hの制御弁式鉛蓄電池とした。保液体にはシリカゲル等を用いても良く、正極格子以外の点では、制御弁式鉛蓄電池の構成は任意である。例えば負極格子は鋳造でも、エキスパンドでも、打抜きでも良い。正極活物質及び負極活物質の組成は任意である。
【0024】
据置用のVRLA電池を想定し、高温で加速したフロート寿命試験を行った。60℃で、2.23Vの充電電圧を常時加え、1カ月毎に、25℃で0.2CAの放電電流で端子電圧が1.75Vに低下するまでの電気量から、放電容量を確認した。そして放電容量が初期値の80%以下に低下した時点でフロート寿命とした。またフロート寿命に達したVRLA電池に対し、XYZの各方向へ1.2Gの加速度の振動を加え、振動周波数を1Hzから30Hzまで45秒間でスイープした。振動を加えた後に、前記の条件で再度放電容量を測定した。高温加速フロート寿命を常温(25℃)での寿命に換算した値と、初期の容量を100%とする振動試験後の容量保持率とを、表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
鋳造格子(比較例1〜3)はフロート寿命は長いが、寿命末期の容量保持率は低く、その原因は粒界腐食による格子の崩壊、正極活物質の脱落にあった。エキスパンド格子(比較例4〜6)は、フロート寿命が極端に短く、特に同じ格子組成で同じ平均層間隔の打抜き格子(実施例2,5,6)に比べ、著しくフロート寿命が短かった。このことは、格子に圧延シートを用いたため腐食電流が増加したこと、さらに格子縦枠がないため電流分布が不均一になったことにより、充電不足になり、放電容量が早期に低下することを示している。
【0027】
これに対し、打抜き格子を用い、平均層間隔を26μm〜178μmとすると、長いフロート寿命性能が得られ、かつ寿命末期でも75%以上の容量保持率(寿命末期と初期の容量の比)が得られた。なお平均層間隔を14μmとすると、フロート寿命性能は13年未満に低下し、180μm超とすると寿命保持率は75%未満に低下した。
【0028】
最適範囲から外れる組成8-11(実施例25〜32)では、フロート寿命が短いことが分かった。Ca濃度が0.03mass%未満では初期から格子の強度が低く、0.09mass%を超えると腐食が進行し易いため、格子が腐食で伸びやすく、短絡が生じやすいためであった。またSn濃度が最適範囲から外れると、腐食が進行しやすくなることが分かった。なお実施例25〜32のVRLA電池は、平均層間隔を最適化することにより、フロート寿命性能と寿命末期での耐震性を両立させている点で、この発明に含まれる。
【0029】
正極格子の平均層間隔と腐食との関係を調べるため、打抜き前の圧延板を比重1.28の硫酸電解液に浸し、75℃で標準水素電極に換算して1.8Vの定電位腐食試験を4ヵ月おこない、腐食状況を観察した。なお対極は純Pb電極、参照極はAg/AgCl/KCl電極とした。腐食試験後の試料の状況を、実施例8の圧延板(
図3(a))と比較例8の圧延板(
図3(b))とについて示す。平均層間隔が199μmの比較例8では、粒界腐食により圧延板が破断した。
【0030】
実施例では、打抜き格子とすることと、平均層間隔を25μm以上とすることとにより層状腐食を抑制し、平均層間隔を180μm以下とすることにより粒界腐食も抑制する。このためフロート寿命と、寿命末期での耐震性とに優れる、VRLA電池が得られる。
【0031】
実施例は据置用のVRLA電池を説明したが、フロート充電以外の充電方法を用いても良く、また据置用以外の用途に用いても良い。
【0032】
本発明に係る鉛蓄電池は、例えば、下記の態様にて実現され得る。
本発明の態様1に係る鉛蓄電池は、正極集電体と正極活物質と、負極集電体と負極活物質と、保液体とを有する制御弁式鉛蓄電池において、前記正極集電体は、鉛合金の圧延シートを打ち抜いた打抜き集電体で、集電体の厚さ方向の断面での、層状の集電体組織の平均層間隔が25μm以上180μm以下である。
【0033】
本発明の態様2に係る鉛蓄電池は、正極集電体と正極活物質と、負極集電体と負極活物質と、保液体とを有する制御弁式鉛蓄電池において、前記正極集電体は、鉛合金の圧延シートを打ち抜いた打抜き集電体で、圧延方向に平行でかつ集電体の厚さ方向の断面での、層状の集電体組織の平均層間隔が25μm以上180μm以下である。
【0034】
本発明の態様3に係る鉛蓄電池は、態様1の制御弁式鉛蓄電池であって、前記正極集電体は、Pb-Ca-Sn合金から成り、mass%単位で、Ca含有量をx,Sn含有量をyとした際に、0.03≦x≦0.09,9.16x+0.525≦y≦2.0 である。
【0035】
本発明の態様4に係る鉛蓄電池は、態様1または2の制御弁式鉛蓄電池であって、前記正極集電体は、桟の断面が長方形で、かつ4周に枠を備えている。
【0036】
本発明の態様5に係る鉛蓄電池は、態様1〜4のいずれかの制御弁式鉛蓄電池であって、据置用途に用いられる。