特許第6835125号(P6835125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835125
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/74 20060101AFI20210215BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20210215BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   H01M4/74 D
   H01M4/68 A
   H01M10/12 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-58695(P2019-58695)
(22)【出願日】2019年3月26日
(62)【分割の表示】特願2015-542514(P2015-542514)の分割
【原出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2019-117802(P2019-117802A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-214836(P2013-214836)
(32)【優先日】2013年10月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 朋子
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−124064(JP,A)
【文献】 特開2008−084676(JP,A)
【文献】 特開2005−290421(JP,A)
【文献】 特開2006−066173(JP,A)
【文献】 特開2005−158440(JP,A)
【文献】 特開2002−175798(JP,A)
【文献】 特開2006−294296(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113166(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/092101(WO,A1)
【文献】 米国特許第06057059(US,A)
【文献】 米国特許第04228580(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/68−4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と正極活物質と、負極集電体と負極活物質と、を有し、
前記正極集電体は、鉛合金の圧延シートを打ち抜いた打抜き集電体で、
集電体の厚さ方向の断面での、層状の集電体組織の平均層間隔が25μm以上180μm以下であり、
前記正極集電体は、Pb-Ca-Sn合金から成り、mass%単位で、Ca含有量をx,Sn含有量をyとした際に、0.03≦x≦0.09,9.16x+0.525≦y≦2.0である、鉛蓄電池。
【請求項2】
正極集電体と正極活物質と、負極集電体と負極活物質と、を有し、
前記正極集電体は、鉛合金の圧延シートを打ち抜いた打抜き集電体で、圧延方向に平行でかつ集電体の厚さ方向の断面での、層状の集電体組織の平均層間隔が25μm以上180μm以下であり、
前記正極集電体は、Pb-Ca-Sn合金から成り、mass%単位で、Ca含有量をx,Sn含有量をyとした際に、0.03≦x≦0.09,9.16x+0.525≦y≦2.0である、鉛蓄電池。
【請求項3】
前記正極集電体は、桟の断面が長方形で、かつ4周に枠を備えている、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
据置用途に用いられる請求項1〜のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池に関し、特にその正極格子に関する。
【背景技術】
【0002】
病院や工場等の非常用電源装置(UPS)に用いられる据置用途の制御弁式鉛蓄電池(以下「VRLA電池」ということがある)の正極格子には一般に鋳造格子が用いられ、エキスパンド格子が用いられることはない。通常、据置用途のVRLA電池は、常時フロート充電されて満充電状態に維持されているため、正極の格子腐食が寿命モードとなることが一般的である。耐食性を持たせるため、正極格子の桟に一定の太さが必要になるが、エキスパンド格子の場合、厚い格子を作成することが困難で、大型の据置VRLA電池には不向きである。またエキスパンド格子をVRLA電池の正極格子に用いると、充電時の正極腐食電流が大きく、フロート電流が酸素発生に用いられないため、負極板での酸素吸収サイクルが不完全になる。そして酸素吸収サイクルが不完全になると、負極は分極し、この結果、フロート電流が減少して、正極が充電不足になり放電容量が低下する。このようにフロート使用されるVRLA電池の正極にエキスパンド格子を用いると、フロート電流が小さくなって、充電不足により短寿命になるため、制御弁式鉛蓄電池には鋳造格子が用いられてきた。
【0003】
関連する先行技術を示す。特許文献1(JP2006-294296A)は、圧延の初期の段階では小さな圧下率で圧延し、圧延シートの深層部の強度を維持することを開示している。特許文献2(JP2008-84676A)は、鉛蓄電池のエキスパンド格子(正極格子)に対し、圧延方向に沿っての平均粒子径を150μm以下にすると、粒界腐食が抑制されるとしている。特許文献3(JP2000-348758A)は、エキスパンド格子を正極格子としたVRLA電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JP2006-294296A
【特許文献2】JP2008-84676A
【特許文献3】JP2000-348758A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、鋳造格子をVRLA電池の正極格子とすると、粒界腐食が進行するため、寿命末期において、正極格子の強度が著しく低下することに着目した。正極格子の強度が低下すると、振動、地震等の災害時に、正極格子が崩壊しあるいは断線して、必要な放電性能が得られないという問題が生じる。
【0006】
この発明の課題は、長寿命でかつ寿命末期でも耐震性に優れる鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、正極集電体と正極活物質と、負極集電体と負極活物質と、を有し、前記正極集電体は、鉛合金の圧延シートを打ち抜いた打抜き集電体で、集電体の厚さ方向の断面での、層状の集電体組織の平均層間隔が25μm以上180μm以下であり、前記正極集電体は、Pb-Ca-Sn合金から成り、mass%単位で、Ca含有量をx,Sn含有量をyとした際に、0.03≦x≦0.09,9.16x+0.525≦y≦2.0である、鉛蓄電池に関する。
好ましくは、正極集電体と正極活物質と、負極集電体と負極活物質と、を有し、前記正極集電体は、鉛合金の圧延シートを打ち抜いた打抜き集電体で、圧延方向に平行でかつ集電体の厚さ方向の断面での、層状の集電体組織の平均層間隔が25μm以上180μm以下であり、前記正極集電体は、Pb-Ca-Sn合金から成り、mass%単位で、Ca含有量をx,Sn含有量をyとした際に、0.03≦x≦0.09,9.16x+0.525≦y≦2.0である、鉛蓄電池に関する。
【0008】
鉛合金の圧延シートを用いた正極集電体としては、エキスパンド格子と打抜き集電体とが知られている。そして打抜き集電体では、フロート充電電流等による正極集電体の腐食が遅く、エキスパンド格子に比べて、フロート寿命(フロート充電で使用した際の寿命)が改善する。打抜き集電体がエキスパンド集電体よりもフロート寿命が長いことは、実際のデータで確認でき、表3の比較例4,5,6と実施例2,5,6とに示すように、正極集電体の組成が同じで、圧延組織(圧延による層状の集電体組織)の平均層間隔が同じでも、フロート寿命は打抜き格子の方が60%以上長い。なお充電方法には、フロート充電以外にトリクル充電があるが、いずれも制御弁式鉛蓄電池にとっては同等の使用方法で、フロート寿命が長ければトリクル充電での寿命も長く、フロート充電で寿命末期の耐震性が高ければ、トリクル充電でも寿命末期の耐震性が高い。
【0009】
発明者は、フロート寿命と寿命末期の耐震性は、正極集電体の圧延組織の平均層間隔に依存することを見出した。即ち、平均層間隔を小さくするとフロート寿命が短くなり、特に25μm未満で寿命が短くなる。平均層間隔が小さな正極格子では、腐食の機構は主として層状腐食で、平均層間隔が小さいほど、層状腐食が速く進行するためである。そして平均層間隔が25μm以上か未満かで、フロート寿命は著しく異なる。
【0010】
寿命末期での耐震性に悪影響を及ぼしているのは、正極集電体の鋳造組織における粒界腐食である。粒界腐食の影響は平均層間隔が180μm以下か超かで異なり、平均層間隔を180μm以下にすると、寿命末期での耐震性が向上する。鋳造したスラブを圧延すると、多数の結晶粒を有する鋳造組織から層状組織に変化する。ここで平均層間隔を180μm以下にすると、結晶粒界がほとんど存在しなくなり、腐食は層状に進行するようになって、粒界腐食が発生しなくなるため、局所的に腐食が進行して格子が破断することが無くなるためである。平均層間隔を50μm以上にするとフロート寿命はさらに改善し、150μm以下にすると寿命末期での耐震性がさらに改善するので、平均層間隔は50μm以上で150μm以下が特に好ましい。
【0011】
粒界腐食の速度を定めているのは、結晶粒径のサイズや結晶粒の数であることが知られている。また層状の圧延組織では粒界腐食が生じないことも知られている。これらのことに加えて、平均層間隔が層状腐食の速度に影響することが判明した。このため圧延による正極集電体の場合、組成が同じであれば、フロート寿命と寿命末期での耐震性に影響するのは、平均層間隔である。そしてこれらの性能への圧延方向に沿っての粒子径の影響は小さい。図5に示すように、平均層間隔は圧下率と関係があり、好ましい圧下率の範囲は60%以上で90%以下である。
【0012】
好ましくは、前記正極集電体は、Pb-Ca-Sn合金から成り、mass%単位で、Ca含有量をx,Sn含有量をyとした際に、 0.03≦x≦0.09,9.16x+0.525≦y≦2.0 である。この組成範囲を図2の斜線の枠内に示し、この範囲からいずれの側へ逸脱しても、フロート寿命が低下する。このことは、表3の実施例1〜7と実施例25〜28(いずれも平均層間隔は62μm)から確認できる。正極格子はPb,Ca,Sn以外に、酸化防止剤及び不可避不純物を合計で0.04mass%以下含有することがある。
【0013】
図1(a),(b)に示すように、打抜き集電体では格子の4周に枠があるため、充放電電流が格子全体に均一化され、充電不足による容量低下が進みにくい。
【0014】
平均層間隔は、正極集電体の断面を例えば耳部と枠骨とで、金属顕微鏡により観察することにより測定できる。層間隔は圧延方向によらずに観察できるが、圧延方向で観察するとより測定しやすい。例えば正極集電体の耳部を縦方向と横方向(いずれも厚さ方向に垂直)に切断し、切断面を金属顕微鏡で観察し、圧延方向で結晶粒子径が大きくなることから圧延方向を確認する。次に圧延方向に沿って、正極集電体の耳部で断面を3個所、集電体枠骨で断面を3個所観察し、集電体の厚さと層の数との比を層間隔として、6個所の平均値を平均層間隔とする。圧延方向に沿った格子の枠骨が無い場合、圧延方向に沿った集電体の内骨等で代用しても良い。
図4は、平均層間隔の求め方を示した図であり、0.8mmの厚さの集電体の断面を観察し、赤線で示したように、層が13層あるため、平均層間隔は62μmとなる。
尚、圧延方向とは、鉛合金の塊であるスラブが、ロールなどの圧延装置を通過してシートとされた時の進行方向をいう。
圧延シートから集電体を作製する際には、集電体の耳部を図6(b)に示す方向に向けてシートから打抜く方法と、それとは別の方向で打抜く方法とがあり、どのような方向で打抜きを行ってもよい。
集電体とは、一般にグリッドと呼ばれる格子状の集電体や、円や楕円を打抜いた集電体、集電体の耳部から放射状にグリッドを設けたものなどがあり、格子状でないものであっても、単に集電体を格子と呼ぶ場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】打抜き格子(a)とエキスパンド格子(b)とを模式的に示す図
図2】実施例での正極格子の組成を示す図
図3】腐食試験後の試料の写真で、(a),(b)共に組成1で、格子組織の平均層間隔は(a)で125μm、(b)で199μmである。
図4】平均層間隔の求め方を示した図
図5】圧下率と平均層間隔の関係を示した図
図6】圧延方向と集電体の関係
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
以降、実施例では、集電体を単に格子と呼ぶ。
【実施例】
【0017】
図1図3と、表1〜表3を参照しながら、実施例を説明する。打抜き格子2を図1(a)に示し、比較のためにエキスパンド格子10を図1(b)に示す。4は耳、5,6は枠で、7は足である。エキスパンド格子10では枠6がない。打抜き格子2では、枠6があるため、腐食による格子の伸びが抑制され、また正極板全体が均一に充放電されやすい。
【0018】
正極格子材料として、表1と図2とに示すように、組成1〜11のPb-Ca-Sn合金シートを用意した。最適実施例の範囲が図2の斜線の内側で、Ca含有量をmass%単位でxとすると、0.03≦x≦0.09である。Sn含有量をmass%単位でyとすると、y≦2.0で、図2の左下から右上への斜めの境界線は、9.16x+0.525=yである。圧下率を変えて、平均層間隔が14μm、26μm、62μm、125μm、178μm、199μmの圧延シートを冷間で製造した。次に圧延シートを打抜き、厚さ3mmの正極格子とした。これ以外に、平均層間隔62μmの圧延シートからエキスパンド格子を製造し、他に鋳造で正極格子を製造した。なお同じ平均層間隔の圧延シートを製造するため、圧下率を格子組成に応じて調整し、圧下率を変化させて必要とする平均層間隔とした。代表的な正極格子について、圧延組織の平均層間隔を表2に示す。
圧下率とは、鉛合金の塊であるスラブが、ロールなどの圧延装置を通過してシートとされた時の、圧延を行う前のスラブがシートになった時に厚みがどれだけ変化したかをいい、
(スラブ厚−シート厚み)/スラブ厚×100(%)で示される。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
未化成の正極活物質として、ボールミル法による鉛粉99.9mass%と、合成樹脂繊維0.1mass%とを、25℃で比重が1.16の硫酸でペースト化し、正極格子に充填して乾燥及び熟成を施し、ストラップで互いに接続して、正極板4枚から成る極板群とした。正極活物質の組成と密度等は任意である。
【0022】
Caを0.1mass%、Snを0.7mass%、Alを0.02mass%以下含有し、残部がPbと不可避不純物である負極格子を鋳造した。なお負極格子の組成、鋳造、打抜き等の格子の種類と、平均層間隔等のパラメータは任意である。負極活物質として、ボールミル法の鉛粉98.3mass%と、合成樹脂繊維0.1mass%、カーボンブラック0.1mass%、BaSO41.4mass%、及びリグニン0.1mass%を、25℃で比重が1.14の硫酸でペースト化し、負極格子に充填した。乾燥と熟成を施し、ストラップで互いに接続して、負極板5枚から成る極板群とした。
【0023】
正極板と負極板との間にリテイナーマット等の保液体を配置し、圧迫を加えながら電槽内に収容し、電解液として硫酸を加え、電槽化成を施して、容量が60A・hの制御弁式鉛蓄電池とした。保液体にはシリカゲル等を用いても良く、正極格子以外の点では、制御弁式鉛蓄電池の構成は任意である。例えば負極格子は鋳造でも、エキスパンドでも、打抜きでも良い。正極活物質及び負極活物質の組成は任意である。
【0024】
据置用のVRLA電池を想定し、高温で加速したフロート寿命試験を行った。60℃で、2.23Vの充電電圧を常時加え、1カ月毎に、25℃で0.2CAの放電電流で端子電圧が1.75Vに低下するまでの電気量から、放電容量を確認した。そして放電容量が初期値の80%以下に低下した時点でフロート寿命とした。またフロート寿命に達したVRLA電池に対し、XYZの各方向へ1.2Gの加速度の振動を加え、振動周波数を1Hzから30Hzまで45秒間でスイープした。振動を加えた後に、前記の条件で再度放電容量を測定した。高温加速フロート寿命を常温(25℃)での寿命に換算した値と、初期の容量を100%とする振動試験後の容量保持率とを、表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
鋳造格子(比較例1〜3)はフロート寿命は長いが、寿命末期の容量保持率は低く、その原因は粒界腐食による格子の崩壊、正極活物質の脱落にあった。エキスパンド格子(比較例4〜6)は、フロート寿命が極端に短く、特に同じ格子組成で同じ平均層間隔の打抜き格子(実施例2,5,6)に比べ、著しくフロート寿命が短かった。このことは、格子に圧延シートを用いたため腐食電流が増加したこと、さらに格子縦枠がないため電流分布が不均一になったことにより、充電不足になり、放電容量が早期に低下することを示している。
【0027】
これに対し、打抜き格子を用い、平均層間隔を26μm〜178μmとすると、長いフロート寿命性能が得られ、かつ寿命末期でも75%以上の容量保持率(寿命末期と初期の容量の比)が得られた。なお平均層間隔を14μmとすると、フロート寿命性能は13年未満に低下し、180μm超とすると寿命保持率は75%未満に低下した。
【0028】
最適範囲から外れる組成8-11(実施例25〜32)では、フロート寿命が短いことが分かった。Ca濃度が0.03mass%未満では初期から格子の強度が低く、0.09mass%を超えると腐食が進行し易いため、格子が腐食で伸びやすく、短絡が生じやすいためであった。またSn濃度が最適範囲から外れると、腐食が進行しやすくなることが分かった。なお実施例25〜32のVRLA電池は、平均層間隔を最適化することにより、フロート寿命性能と寿命末期での耐震性を両立させている点で、この発明に含まれる。
【0029】
正極格子の平均層間隔と腐食との関係を調べるため、打抜き前の圧延板を比重1.28の硫酸電解液に浸し、75℃で標準水素電極に換算して1.8Vの定電位腐食試験を4ヵ月おこない、腐食状況を観察した。なお対極は純Pb電極、参照極はAg/AgCl/KCl電極とした。腐食試験後の試料の状況を、実施例8の圧延板(図3(a))と比較例8の圧延板(図3(b))とについて示す。平均層間隔が199μmの比較例8では、粒界腐食により圧延板が破断した。
【0030】
実施例では、打抜き格子とすることと、平均層間隔を25μm以上とすることとにより層状腐食を抑制し、平均層間隔を180μm以下とすることにより粒界腐食も抑制する。このためフロート寿命と、寿命末期での耐震性とに優れる、VRLA電池が得られる。
【0031】
実施例は据置用のVRLA電池を説明したが、フロート充電以外の充電方法を用いても良く、また据置用以外の用途に用いても良い。
【0032】
本発明に係る鉛蓄電池は、例えば、下記の態様にて実現され得る。
本発明の態様1に係る鉛蓄電池は、正極集電体と正極活物質と、負極集電体と負極活物質と、保液体とを有する制御弁式鉛蓄電池において、前記正極集電体は、鉛合金の圧延シートを打ち抜いた打抜き集電体で、集電体の厚さ方向の断面での、層状の集電体組織の平均層間隔が25μm以上180μm以下である。
【0033】
本発明の態様2に係る鉛蓄電池は、正極集電体と正極活物質と、負極集電体と負極活物質と、保液体とを有する制御弁式鉛蓄電池において、前記正極集電体は、鉛合金の圧延シートを打ち抜いた打抜き集電体で、圧延方向に平行でかつ集電体の厚さ方向の断面での、層状の集電体組織の平均層間隔が25μm以上180μm以下である。
【0034】
本発明の態様3に係る鉛蓄電池は、態様1の制御弁式鉛蓄電池であって、前記正極集電体は、Pb-Ca-Sn合金から成り、mass%単位で、Ca含有量をx,Sn含有量をyとした際に、0.03≦x≦0.09,9.16x+0.525≦y≦2.0 である。
【0035】
本発明の態様4に係る鉛蓄電池は、態様1または2の制御弁式鉛蓄電池であって、前記正極集電体は、桟の断面が長方形で、かつ4周に枠を備えている。
【0036】
本発明の態様5に係る鉛蓄電池は、態様1〜4のいずれかの制御弁式鉛蓄電池であって、据置用途に用いられる。
【符号の説明】
【0037】
2 打抜き格子
4 耳部
5,6 枠
7 足
8,12 桟
10 エキスパンド格子
図1
図2
図3
図4
図5
図6