特許第6835174号(P6835174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6835174
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】ステータ及び回転機
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/12 20060101AFI20210215BHJP
   H02K 3/38 20060101ALI20210215BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   H02K15/12 G
   H02K3/38 A
   H02K3/04 J
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-174124(P2019-174124)
(22)【出願日】2019年9月25日
【審査請求日】2020年7月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋平
(72)【発明者】
【氏名】内藤 好晴
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴彦
【審査官】 末續 礼子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/195481(WO,A1)
【文献】 特開2014−176208(JP,A)
【文献】 特開2012−115144(JP,A)
【文献】 特開2014−054104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
H02K 3/04
H02K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアと、
軸方向に沿って前記ステータコアに巻き付けられた複数の巻線と、
延在方向の一端部に複数の前記巻線が接続され、且つ延在方向の他端部に電源が入力される渡り線とを備え、
軸方向において、複数の前記巻線のそれぞれが、前記ステータコアの一方側の端よりも一方側の領域で折り返して他方側に向けて延び、
複数の前記巻線のそれぞれにおける両側の線末端が、前記ステータコアの軸方向における他方側の端から他方側に向けて突出して互いに溶接によって接続された状態で粉体塗装を施された、ステータであって、
前記渡り線を包み込んだ状態で所定の形状に成型された絶縁性の成型体を備え、
前記渡り線として、互いに異なる相の電源が供給される複数の前記渡り線を備え、
軸方向において、前記成型体の他方側の端が、複数の前記巻線の他方側の端よりも一方側に位置
前記成型体が、複数の前記渡り線を前記軸方向に沿って並べる態様で包み込んだ状態で、前記ステータコアよりも径方向の外側に配置され、
軸方向において、前記成型体の一方側の端が前記ステータコアの他方側の端よりも一方側に位置する、
ステータ。
【請求項2】
前記成型体の延在方向の両端部のうち、電源入力側の端部が、複数の前記渡り線を軸方向に対して直交する方向に並べる態様で包み込み、且つ前記端部における少なくとも一部を、前記ステータコアを内接円として囲む仮想四角形の内側に位置させる、
請求項に記載のステータ。
【請求項3】
回転軸線を中心にして回転するロータと、前記ロータの中心を貫通するシャフトと、回転軸線を中心にした周方向に沿って前記ロータを囲むステータとを備える回転機であって、
前記ステータが、請求項1又は2に記載のステータである、回転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ及び回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアと、軸方向に沿ってステータコアに巻き付けられた複数の巻線と、一端部が複数の巻線に接続され、且つ他端部が電源入力される渡り線とを備えるステータが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のステータは、ステータコアと、巻線としての複数のコイルと、延在方向の一端部に複数のコイルが接続され、且つ延在方向の他端部に電源が入力される渡り線たる動力線とを備える。軸方向(ステータコアの筒形状の中心軸線方向)において、複数のコイルのそれぞれは、ステータコアの一方側の端よりも一方側の領域で折り返して他方側に延びる態様で軸方向に沿ってステータに巻き付けられる。複数のコイルのそれぞれにおける両側の線末端は、ステータコアの軸方向における他方側の端から他方側に向けて突出する。複数のコイルにおいて、前述のようにステータコアから他方側に向けて突出している部分は、溶接によって互いに接続される。
【0004】
特許文献1に記載のステータにおいては、渡り線としての複数の動力線がむき出しの状態になっているが、渡り線同士のショートを防止するために、複数の渡り線を成型体としての樹脂モールドによって包み込んで固定したステータも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019−126143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数の渡り線を樹脂モールド等の絶縁性の成型体で包み込む構成では、ステータを搭載した回転機の内部において、塗装の剥がれによって電気的及び機械的な障害を引き起こし易くなることが判明した。具体的には、上述したように、ステータに巻き付けられた複数の巻線(例えばコイル)においてステータコアよりも軸方向の他端側に突出している部分は、溶接によって互いに接続されるが、溶接時にエナメル被膜が剥がれて剥き出しの状態になる。このため、複数の巻線におけるステータコアからの突出部分(溶接個所を含む部分)は、溶接後に、塗料に浸けられて塗装されるのが一般的である。この塗装の際に、渡り線を包み込んでいる樹脂モールドにも塗料がつくと、樹脂と塗料との接着性が低いことから、回転機の運転中に塗料が樹脂モールドから剥がれ落ちて回転機内を汚染し、電気的及び機械的な障害を引き起こし易くなるのである。塗装に先立って、樹脂モールドをマスキングすれば、樹脂モールドに塗料を付着させることはなくなるが、マスキングの工程を行うことでステータの生産性を低下させてしまう。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂モールド等の成型体をマスキングする工程を行うことなく、成型体からの塗料の剥がれによる回転機の電気的及び機械的な障害の発生を回避することができるロータ及び回転機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ステータコアと、軸方向に沿って前記ステータコアに巻き付けられた複数の巻線と、延在方向の一端部に複数の前記巻線が接続され、且つ延在方向の他端部に電源が入力される渡り線とを備え、軸方向において、複数の前記巻線のそれぞれが、前記ステータコアの一方側の端よりも一方側の領域で折り返して他方側に向けて延び、複数の前記巻線のそれぞれにおける両側の線末端が、前記ステータコアの軸方向における他方側の端から他方側に向けて突出して互いに溶接によって接続された状態で粉体塗装を施された、ステータであって、前記渡り線を包み込んだ状態で所定の形状に成型された絶縁性の成型体を備え、前記渡り線として、互いに異なる相の電源が供給される複数の前記渡り線を備え、軸方向において、前記成型体の他方側の端が、複数の前記巻線の他方側の端よりも一方側に位置前記成型体が、複数の前記渡り線を前記軸方向に沿って並べる態様で包み込んだ状態で、前記ステータコアよりも径方向の外側に配置され、軸方向において、前記成型体の一方側の端が前記ステータコアの他方側の端よりも一方側に位置する、ステータである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成型体をマスキングする工程を行うことなく、成型体からの塗料の剥がれによる回転機の電気的及び機械的な障害の発生を回避することができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るモータを示す分解斜視図である。
図2】同モータのステータを軸方向のフロント側から示す斜視図である。
図3】同ステータを軸方向のリア側から示す斜視図である。
図4】同ステータを示す側面図である。
図5】軸方向のリア側において複数の平角線コイルに粉体塗装を施されている最中の同ステータを示す図である。
図6】同ステータをフロント側から示す正面図である。
図7】同ステータの樹脂モールドにおける図6のB−B断面を示す断面図である。
図8】モータカバー、第2ハウジング、及び第1ハウジングの端子カバーの図示を省略した状態の同モータを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図を用いて、本発明を適用した回転機としてのモータの一実施形態について説明する。なお、各図においては、便宜上、モータのモータカバーの図示が省略されている。
【0012】
図1は、実施形態に係るモータ1を示す分解斜視図である。モータ1は、第1ハウジング2、第2ハウジング3、シャフト9、ロータ(回転子)10、ステータ(固定子)20、インバータカバー80、電動オイルポンプ81、オイル中継タンク82等を備える。
【0013】
軸状のシャフト9は、円筒状のロータ10のロータコア11の中心に設けられたシャフト穴を回転軸線A方向に貫通し、ロータ10の回転軸線A上に位置する。シャフト9は、ロータ10とともに回転軸線Aを中心にして回転駆動する。以下、回転軸線Aの延在方向、及びこれに平行な方向を、単に軸方向という。
【0014】
シャフト9の軸方向における両端部のうち、駆動出力側の端部(モータギヤなどが固定される端部)は、ロータ10の端面から突出する。以下、軸方向における両側のうち、駆動出力側となる方をフロント側、反対側をリア側という。フロント側は、本発明における軸方向の一方側の一例であり、リア側は、本発明における軸方向の他方側の一例である。
【0015】
各図においては、X軸、Y軸、Z軸が適宜示される。X軸は、軸方向に沿って延びる。X軸のフロント側には、矢印が付される。Y軸は、モータ1の短手方向に沿って延びる。Z軸は、X軸及びY軸の両方に直交する方向に延びる。
【0016】
第1ハウジング2のコア収容部2aにおけるフロント側の端には、不図示のモータカバーがボルト止めされる。モータカバーは、シャフト穴を備え、シャフト9の駆動出力側の端部を貫通させてコア収容部2aの外部に露出させる。第1ハウジング2の円筒状のコア収容部2aにおける軸方向の両端のそれぞれは、開口を備える。これら開口のうち、フロント側の開口は、前述のモータカバーによって塞がれる。また、リア側の開口は、後述の第2ハウジング3によって塞がれる。
【0017】
鋳造品からなる第1ハウジング2は、コア収容部2aと、オイルポンプ収容部2bと、端子台収容部2cとを備え、ロータ10及びステータ20を収容するモータハウジングとして機能する。円筒状のコア収容部2aは、ロータ10及びステータ20を収容し、内周面で円筒状のステータ20を保持する。オイルポンプ収容部2bは、電動オイルポンプ81を収容する。端子台収容部2cは、ステータ20と後述のインバータとを電気接続するための端子台を収容する。
【0018】
円筒状のロータ10は、コア収容部2aの内周面に保持されているステータ20の中空内に収容される。ロータ10は、磁石埋込型(IPM:埋込磁石型(IPM:Interior permanent Magnet)のロータであるが、表面磁石型(SPM:Surface Permanent Magnet)のロータであってもよい。また、ロータ10は、永久磁石を備えないロータであってもよい。
【0019】
鋳造品からなる第2ハウジング3は、第1ハウジング2の軸方向におけるリア側の端にボルトによって固定され、モータハウジング、及びインバータハウジングとして機能する。より詳しくは、第2ハウジング3の軸方向におけるフロント側の領域は、モータハウジングとして機能し、第2ハウジング3の軸方向におけるリア側の領域は、インバータを収容するインバータハウジングとして機能し、両領域は隔壁によって隔てられる。箱形の第2ハウジング3の軸方向のリア側の端は、大開口を備え、インバータはその大開口を通じて第2ハウジング3の軸方向におけるリア側の領域に入れられる。第2ハウジング3の軸方向におけるリア側の端には、インバータカバー80がボルト止めされる。第2ハウジング3の上述の大開口は、インバータカバー80によって塞がれる。
【0020】
オイル中継タンク82は、第1ハウジング2とは別体からなり、第1ハウジング2にボルト止めされる。オイル中継タンク82は、吸入管82aと、吐出管82bとを備える。吸入管82aには、例えば自動車のラジエータ等の冷却器から延びる不図示のオイル送出管が接続される。吐出管82bには、冷却器へと延びる不図示のオイル返送管が接続される。
【0021】
電動オイルポンプ81が作動すると、モータ1を冷却するためのオイルが、前述の冷却器と、オイル送出管と、吸入管82aと、オイル中継タンク82と、モータ1のモータハウジング内と、オイル中継タンク82と、オイル返送管とを辿る経路を循環する。この循環により、モータハウジング内のロータ10及びステータ20が冷却される。
【0022】
以下、回転軸線Aを中心とする円周方向に沿った方向を周方向という。また、回転軸線Aを中心とする仮想円の半径方向を径方向という。
【0023】
図2は、ステータ20を軸方向のフロント側から示す斜視図である。ステータ20は、円筒状のステータコア21と、軸方向に沿ってステータコア21に巻き付けられた巻線としての複数の平角線コイル22とを備える。ステータコア21の内周面には、軸方向に延びる複数のティース(歯部)21aが、周方向に所定の間隔で並ぶ態様で配置される。
【0024】
軸方向において、複数の平角線コイル22のそれぞれは、図2に示されるように、ステータコア21のフロント側の端よりもフロント側に存在する領域で折り返してリア側に向けて延びる。
【0025】
図3は、ステータ20を軸方向のリア側から示す斜視図である。図3に示されるように、複数の平角線コイル22のそれぞれにおける両側の線末端は、ステータコア21の軸方向におけるリア側の端からリア側に向けて突出して、互いに溶接によって接続される。ステータ20は、複数のU相用の平角線コイル22と、複数のV相用の平角線コイル22と、複数のW相用の平角線コイル22とを備える。同じ相用の平角線コイル22同士は、連結線26によって連結される。連結線26は、溶接によって平角線コイル22に接続される。
【0026】
ステータ20は、U相用の渡り線23Uと、V相用の渡り線23Vと、W相用の渡り線23Wとを備える。各渡り線(23U、23V、23W)は、周方向に延在し、延在方向における一端部と他端部とを除く部分が、成型体としての樹脂モールド24に包み込まれる。樹脂モールド24は、絶縁性の樹脂を型によって円弧状に成形したものである。
【0027】
U相用の渡り線23Uの延在方向における一端部は、樹脂モールド24によって包み込まれず、溶接によってU相用の平角線コイル22に接続される。また、U相用の渡り線23Uの延在方向における他端部は、樹脂モールド24によって包み込まれず、軸方向に向けて折れ曲がった端子部23aUになっている。V相用の渡り線23V、W相用の渡り線23Wも、U相用の渡り線23Vと同様に、延在方向において、両端部を除く部分が樹脂モールド24によって包み込まれ、一端部が平角線コイル22に接続され、他端部が端子部(23aV、23aW)になっている。U相用の端子部23aUにはU相の電源が入力され、V相用の端子部23aVにはV相の電源が入力され、W相用の端子部23aWにはW相の電源が入力される。
【0028】
図4は、ステータ20を示す側面図である。軸方向(X軸方向)において、樹脂モールド24のリア側の端Eは、複数の平角線コイル22のリア側の端Eよりもフロント側(X軸の矢印方向)に位置する。
【0029】
図5は、軸方向のリア側において複数の平角線コイル22に粉体塗装を施されている最中のステータ20を示す図である。なお、図5では、便宜上、治具91、塗料タンク92、及び粉体塗料93については断面を示す一方で、ステータ20については側面を示している。図5において、ステータ20には、治具91が装着され、塗料タンク92の上壁の上に載置される。この状態では、ステータ20の樹脂モールド24は、塗料タンク92よりも上方に位置する。塗料タンク92内には、粉体塗料93が貯留されている。塗料タンク92内の粉体塗料93の粉面Sは、ステータ20の平角線コイル22の軸方向におけるリア側の端Eよりもリア側にあることから、平角線コイル22の軸方向におけるリア側の端Eが粉体塗料93内に浸けられる。これにより、平角線コイル22の軸方向におけるリア側の端Eに粉体塗料93が塗布される。その後、ステータ20は、加熱器内に移されて、平角線コイル22に付着した粉体塗料93の固化処理を施される。図5からわかるように、平角線コイル22のリア側の端Eよりもフロント側に位置する樹脂モールド24には、粉体塗料93が付着しない。
【0030】
かかる構成のモータ1においては、平角線コイル22を粉体塗装するときに、樹脂モールド24にマスキングを施すことなく、樹脂モールド24に対する粉体塗料の付着を回避することが可能である。よって、モータ1によれば、樹脂モールド24をマスキングする工程を行うことなく、樹脂モールド24からの塗料の剥がれによるモータ1の電気的及び機械的な障害の発生を回避することができる。
【0031】
図6は、ステータ20をフロント側から示す正面図である。図7は、樹脂モールド24における図6のB−B断面を示す断面図である。樹脂モールド24は、図7に示されるように、3つの渡り線(23U、23V、23W)を軸方向(X軸方向)に沿って並べる態様で包み込む。かかる構成では、樹脂モールド24が3つの渡り線を軸方向に直交する方向(Y−Z平面の方向)に並べて包み込む態様に比べて、円弧状の樹脂モールド24の径方向のサイズを小さくすることが可能である。よって、モータ1によれば、ステータ20の径方向の小型化を図ることができる。
【0032】
3つの渡り線を軸方向に並べる態様で包み込む樹脂モールド24における軸方向のサイズ(厚み)は、ステータコア21の軸方向におけるリア側の端(図4のE)からの平角線コイル22の突出量よりも僅かに小さいが、両者の大きさに大差はない。このため、樹脂モールド24をステータコア21の軸方向におけるリア側の端(E)に接触させて固定したとしても、樹脂モールド24の軸方向におけるリア側の端Eを、平角線コイル22の軸方向におけるリア側の端Eから大きく離すことができない。樹脂モールド24に対する粉体塗料93の付着を確実に回避するためには、樹脂モールド24の軸方向におけるリア側の端Eを、平角線コイル22の軸方向におけるリア側の端Eから大きく離すことが望ましい。
【0033】
そこで、モータ1においては、図6に示されるように、円弧状の樹脂モールド24が、回転軸線Aを中心とする径方向において、ステータコア21よりも外側に配置される。かかる構成では、図4に示されるように、樹脂モールド24の軸方向におけるフロント側(X軸方向の矢印側)の端Eを、ステータコア21の軸方向におけるリア側の端Eよりもフロント側に位置させることが可能である。かかる構成のモータ1によれば、樹脂モールド24の軸方向におけるリア側の端Eを、平角線コイル22の軸方向におけるリア側の端Eから大きく離して、樹脂モールド24に対する粉体塗料93の付着を確実に回避することができる。
【0034】
図6に示されるように、樹脂モールド24の延在方向(円弧が延びる方向)の両端部のうち、電源入力側の端部は、少なくとも一部を、ステータコア21を内接円として囲む仮想四角形(図中二点鎖線で示される四角形)の内側に位置させる。かかる構成では、電源入力側の端部の全てが前述の仮想四角形の外側に位置する構成に比べて、ステータ20の軸方向に直交する方向のサイズを小型化することができる。
【0035】
また、樹脂モールド24の延在方向における電源入力側の端部は、3つの渡り線(23U、23V、23W)を軸方向に対して直交する方向(Y−Z方向)に並べる態様で包み込む。かかる構成では、ステータの平角線コイル22と、インバータの電子基板とを電気接続するためのバスバーを複雑な形状で這い回すことなく、電子基板の3つの基板端子と、ステータ20の3つの端子部(23aU、23aV、23aW)とを電気接続することができる。
【0036】
インバータのバスバーを複雑に這い回す必要がなくなる理由について、以下に説明する。図8は、モータカバー、第2ハウジング(図2の3)、及び第1ハウジングの端子カバー(図1の79)の図示を省略した状態のモータ1を示す斜視図である。モータ1のインバータは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)ユニット30を備える。IGBTユニット30は、複数のIGBTを実装した電子基板31を備える。
【0037】
モータ1のように、インバータを搭載したモータにおいては、次のようなレイアウトを採用するのが一般的である。即ち、図示のように、IGBTユニット30等を備えるインバータを、ロータ10及びステータ20よりも軸方向のリア側に位置させ、且つインバータの電子基板31を、軸方向と直交する方向(Y−Z方向)に沿わせる姿勢で配置するレイアウトである。前述の姿勢で配置される電子基板31は、不図示の電源出力用の3つの基板端子(U相用端子、V相用端子、W相用端子)を、基板面における互いに異なる位置(Y−Z平面における互いに異なる位置)に備える。電子基板31における前述の3つの基板端子のうち、U相用の基板端子には、インバータのU相用のバスバー32Uが電気接続される。また、V相用の基板端子には、インバータのV相用のバスバー32Vが電気接続される。また、W相用の基板端子には、インバータのW相用のバスバー32Wが電気接続される。
【0038】
インバータのU相用のバスバー32Uの他端部は、第1ハウジング2の端子収容部2c内に収容される端子台上において、ステータ20のU相用の端子部23aUに重ね合わされてネジ止めされる。インバータのV相用のバスバー32Vの他端部は、端子台上において、ステータ20のV相用の端子部23aVに重ね合わされてネジ止めされる。インバータのW相用のバスバー32Wの他端部は、端子台上において、ステータ20のW相用の端子部23aWに重ね合わされてネジ止めされる。
【0039】
上述したように、ステータ20の3つの端子部(23aU、23aV、23aW)は、軸方向と直交する方向(Y−Z方向)に並ぶ態様で配置される。また、インバータの電子基板31の3つの基板端子は基板面における互いに異なる位置に配置され、軸方向と直交する方向(Y−Z方向)に並んでいる。つまり、ステータ20の3つの端子部(23aU、23aV、23aW)、電子基板31の3つの基板端子は何れも、軸方向と直交する方向に並ぶ。かかる構成では、図8に示されるように、インバータの3つのバスバー(32U、32V、32W)を複雑な形状で這い回すことなく、ステータ20の3つの端子部(23aU、23aV、23aW)と、電子基板31の3つの基板端子とを電気接続することができる。
【0040】
ステータコア21に巻き付けられる巻線として、平角線コイル22を備えるモータ1について説明したが、巻線の態様は平角線に限定されない。ステータコアに巻き付けられる巻線として、平角線以外の導線(例えばエナメル線)を備える回転機にも、本発明の適用が可能である。また、回転機としてのモータ1に本発明を適用した例について説明したが、回転機としての発電機(ダイナモ)にも本発明の適用が可能である。
【0041】
本発明は上述の実施形態に限られず、本発明の構成を適用し得る範囲内で、実施形態とは異なる構成を採用することもできる。本発明は、以下に説明する態様毎に特有の作用効果を奏する。
【0042】
〔第1態様〕
第1態様は、ステータコア(例えばステータコア21)と、軸方向(例えばX軸方向)に沿って前記ステータコアに巻き付けられた複数の巻線(例えば平角線コイル22)と、延在方向の一端部に複数の前記巻線が接続され、且つ延在方向の他端部に電源が入力される渡り線(例えば渡り線23U〜W)とを備え、軸方向において、複数の前記巻線のそれぞれが、前記ステータコアの一方側(例えばフロント側)の端よりも一方側の領域で折り返して他方側(例えばリア側)に向けて延び、複数の前記巻線のそれぞれにおける両側の線末端が、前記ステータコアの軸方向における他方側の端から他方側に向けて突出する、ステータ(例えばステータ20)であって、前記渡り線を包み込んだ状態で所定の形状に成型された絶縁性の成型体(例えば樹脂モールド24)を備え、軸方向において、前記成型体の他方側の端が、複数の前記巻線の他方側の端よりも一方側に位置する、ステータである。
【0043】
かかる構成においては、複数の巻線の軸方向における他方側の端を塗料に浸して塗装するときに、成型体にマスキングを施すことなく、成型体に対する塗料の付着を回避することが可能である。よって、第1態様によれば、成型体をマスキングする工程を行うことなく、成型体からの塗料の剥がれによる回転機の電気的及び機械的な障害の発生を回避することができる。
【0044】
〔第2態様〕
第2態様は、第1態様の構成を備え、前記渡り線として、互いに異なる相(例えばU相、V相、W相)の電源が供給される複数の前記渡り線を備え、前記成型体が、複数の前記渡り線を前記軸方向に沿って並べる態様で包み込む、ステータである。
【0045】
かかる構成においては、成型体により、3つの渡り線を軸方向に直交する方向(例えばY−Z平面の方向)に並べて包み込む態様に比べて、成型体の径方向のサイズを小さくして、ロータの径方向の小型化を図ることができる。
【0046】
〔第3態様〕
第3態様は、第2態様の構成を備え、前記成型体が、前記ステータコアよりも径方向の外側に配置され、軸方向において、前記成型体の一方側の端(例えば端E)が前記ステータコアの他方側の端よりも一方側に位置する、ステータである。
【0047】
かかる構成によれば、成型体の軸方向における他方側の端(例えば端E)を、複数の巻線の軸方向における他方側の端(例えば端E)から大きく離して、成型体に対する粉体塗料93の付着を確実に回避することができる。なお、ステータの径方向のサイズの大型化が許容される場合には、複数の渡り線を径方向に並べる態様で成型体に包み込ませてもよい。かかる構成では、成型体の厚みを小さくすることができることから、第3態様の構成を備えなくても、成型体の軸方向の他方側の端を、複数の巻線の軸方向における他方側の端から大きく離すことが可能である。
【0048】
〔第4態様〕
第4態様は、第3態様の構成を備え、前記成型体の延在方向の両端部のうち、電源入力側の端部が、複数の前記渡り線を軸方向に対して直交する方向に並べる態様で包み込み、且つ前記端部における少なくとも一部を、前記ステータコアを内接円として囲む仮想四角形の内側に位置させる、ステータである。
【0049】
かかる構成によれば、インバータのバスバーを複雑な形状で這い回すことなく、インバータの電子基板の複数の基板端子と、ロータの複数の端子部とを電気接続することができる。また、第4態様によれば、前記端部の全てが前記仮想四角形の外側に位置する構成に比べて、ステータの軸方向に直交する方向のサイズを小型化することができる。
【0050】
〔第5態様〕
第5態様は、回転軸線(例えば回転軸線A)を中心にして回転するロータと、前記ロータの中心を貫通するシャフト(例えばシャフト9)と、回転軸線を中心にした周方向に沿って前記ロータを囲むステータとを備える回転機(たとえばモータ1)であって、前記ステータが、第1態様〜第5態様の何れかのステータである、回転機である。
【0051】
かかる構成によれば、成型体をマスキングする工程を行うことなく、成型体からの塗料の剥がれによる回転機の電気的及び機械的な障害の発生を回避することができる。
【符号の説明】
【0052】
9:シャフト、 10:ロータ、 21;ステータコア、 22:平角線コイル(巻線)、 23U:U相用の渡り線、 23V:V相用の渡り線、 23W:W相用の渡り線、 24:樹脂モールド(成型体)、 端E:、成型体の軸方向における他方側の端、 E:複数の巻線の軸方向における他方側の端、 E:成型体の軸方向における一方側の端、 A:回転軸線

【要約】      (修正有)
【課題】樹脂モールドをマスキングする工程を行うことなく、樹脂モールドからの塗料の剥がれによるモータの電気的及び機械的な障害の発生を回避する。
【解決手段】ステータ20において、U相用の渡り線、V相用の渡り線、及びW相用の渡り線を包み込んだ状態で円弧状に成型された絶縁性の樹脂モールド24を備え、回転軸線A方向において、樹脂モールド24のリア側(矢印Xとは反対方向)の端Eが、複数の平角線コイル22のリア側の端Eよりもフロント側に位置する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
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図8