特許第6835225号(P6835225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835225
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】繊維構造体及び繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
   D03D 25/00 20060101AFI20210215BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20210215BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20210215BHJP
   B29C 70/24 20060101ALI20210215BHJP
   B29B 15/12 20060101ALI20210215BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20210215BHJP
【FI】
   D03D25/00
   D03D15/00 B
   D03D1/00 A
   B29C70/24
   B29B15/12
   B29K105:08
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-529039(P2019-529039)
(86)(22)【出願日】2018年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2018024173
(87)【国際公開番号】WO2019012983
(87)【国際公開日】20190117
【審査請求日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2017-137077(P2017-137077)
(32)【優先日】2017年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉川 元基
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101994259(CN,A)
【文献】 特開2015−080944(JP,A)
【文献】 実開平04−135986(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08−15/14
B29C41/00−41/36
41/46−41/52
70/00−70/88
C08J5/04−5/10
5/24
D03D1/00−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方向に積み重ねられた複数の繊維層と
前記複数の繊維層を前記積層方向に拘束する複数の拘束糸と、
を備える、繊維構造体であって、
前記複数の繊維層は、第1方向に並んだ複数の第1の繊維束によって構成された2以上の第1繊維層と、前記第1方向と直交する第2方向に並んだ複数の第2の繊維束によって構成された第2繊維層とを含み、
前記各拘束糸は、前記積層方向における前記繊維構造体の両端に位置する2つの前記第1の繊維束に係合し、
前記両端に位置する2つの前記第1繊維層を構成する前記第1の繊維束は、前記拘束糸が係合した部分である係合部と、前記拘束糸が係合していない部分である非係合部とを有し、
前記第1方向に隣り合う前記係合部と前記非係合部とについて、前記積層方向における前記非係合部の寸法は、前記積層方向における前記係合部の寸法より大きい、繊維構造体。
【請求項2】
前記第1方向に隣り合う前記係合部と前記非係合部とについて、前記積層方向における前記非係合部の寸法は、前記積層方向における前記係合部の寸法と前記積層方向における前記拘束糸の寸法との和と、等しい、請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項3】
前記両端に位置する2つの前記第1繊維層を構成する前記第1の繊維束は嵩高な糸である、請求項1又は請求項2に記載の繊維構造体。
【請求項4】
前記両端に位置する2つの前記第1繊維層を構成する前記第1の繊維束はスラブ糸である、請求項1又は請求項2に記載の繊維構造体。
【請求項5】
前記各拘束糸は、前記第1方向に沿って、前記積層方向における前記繊維構造体の第1端に配置される前記第1の繊維束と、前記積層方向における前記繊維構造体の第2端に配置される前記第1の繊維束とに、交互に係合する、請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の繊維構造体。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の繊維構造体と、
前記繊維構造体に含浸されたマトリックス樹脂と、
を含む、繊維強化複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積み重ねられた複数の繊維層と、複数の繊維層を拘束する複数の拘束糸とを備える繊維構造体及び繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材は軽量の構造材料として広く使用されている。繊維強化複合材用の強化基材として繊維構造体がある。この繊維構造体にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化複合材は航空機、自動車及び建築物等の構造材として用いられている。このような繊維強化複合材の繊維構造体としては、例えば、特許文献1が挙げられる。
【0003】
図8に示すように、特許文献1に開示の繊維構造体としての3次元織布90は、複数の経糸91と複数の緯糸92とからなる面内方向糸93と、複数の面外方向糸94とから形成されている。3次元織布90は、経糸91によって形成された複数の繊維層91aと、緯糸92によって形成された複数の繊維層91bとが積み重ねられて形成されている。面外方向糸94は、繊維層91a,91bの積層方向における3次元織布90の両端に配置された緯糸92に係合し、複数の繊維層91a,91bを積層方向に拘束している。
【0004】
上記3次元織布90を強化基材として用いた3次元繊維強化複合材は、図示しない密閉治具内に3次元織布90を密封した状態で、3次元織布90に樹脂を含浸し、樹脂を加熱加圧処理して硬化することで形成される。3次元繊維強化複合材は、積層方向における3次元織布90の両端面が平滑面となるように成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−103960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層方向における3次元織布90の両端には、緯糸92に面外方向糸94が係合した部分と係合していない部分とが共存する。緯糸92に面外方向糸94が係合した部分では、面外方向糸94が緯糸92の繊維層91bの表面よりも積層方向に突出している。よって、密閉治具によって3次元織布90が積層方向の内側に向けて押圧されたとき、経糸91に蛇行が生じて3次元繊維強化複合材の強度が低下してしまう。3次元繊維強化複合材の強度低下を抑制するためには、経糸91の蛇行を抑制することが望ましい。
【0007】
本発明の目的は、強度低下を抑制できる繊維構造体及び繊維強化複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様の繊維構造体は、積層方向に積み重ねられた複数の繊維層と、前記繊維層を前記積層方向に拘束する複数の拘束糸と、を備える。前記複数の繊維層は、第1方向に並んだ複数の第1の繊維束によって構成された2以上の第1繊維層と、前記第1方向と直交する第2方向に並んだ複数の第2の繊維束によって構成された第2繊維層とを含み、前記各拘束糸は、前記積層方向における前記繊維構造体の両端に位置する2つの前記第1の繊維束に係合し、前記積層方向の両端に位置する2つの前記第1繊維層を構成する前記第1の繊維束は、前記拘束糸が係合した部分である係合部と、前記拘束糸が係合していない部分である非係合部とを有し、前記第1方向に隣り合う前記係合部と前記非係合部とについて、前記積層方向における前記非係合部の寸法は、前記積層方向における前記係合部の寸法より大きい。
【0009】
これによれば、非係合部の寸法と、係合部の寸法との差により、拘束糸の寸法を吸収でき、係合部と非係合部とで寸法が同じ場合と比べると、非係合部よりも拘束糸が突出することを抑えることができる。よって、積層方向における前記繊維構造体の両端に位置する第1繊維層を構成する第1の繊維束に、拘束糸が係合した係合部と拘束糸が係合しない非係合部とが形成されていても、繊維構造体の積層方向における両端面が平滑面になるように成形する際には、第2の繊維束が成形時の押圧によって蛇行することを抑制できる。その結果、蛇行に伴う第2の繊維束の糸主軸方向における強度低下を抑制できる。
【0010】
本開示の別の態様の繊維構造体では、前記第1方向に隣り合う前記係合部と前記非係合部とについて、前記積層方向における前記非係合部の寸法は、前記積層方向における前記係合部の寸法と前記積層方向における前記拘束糸の寸法との和と、等しくてもよい。
【0011】
これによれば、繊維構造体の積層方向における両端面が平滑面になるように成形する際には、第2の繊維束に向けた係合部の押圧量と非係合部の押圧量とを等しくすることができ、第2の繊維束が成形時の押圧によって蛇行することを抑制できる。その結果、蛇行に伴う第2の繊維束の糸主軸方向における強度低下を抑制できる。
【0012】
本開示の別の態様の繊維構造体では、前記両端に位置する2つの前記第1繊維層を構成する前記第1の繊維束は嵩高な糸であってもよい。
これによれば、第1の繊維束を構成する繊維同士を近付けるように第1の繊維束を縮径させると、第1の繊維束の太さが細くなり、係合部が形成されるとともに繊維密度が高くなる。一方、第1の繊維束を縮径させない嵩高な状態では、第1の繊維束の太さは太く、繊維密度は低い。そして、繊維構造体の製造時、第1の繊維束に拘束糸が係合することにより、第1の繊維束が縮径して係合部が形成される。よって、第1の繊維束に嵩高な糸を用いることで、拘束糸による拘束工程時に係合部を形成でき、繊維構造体の製造が容易となる。
【0013】
本開示の別の態様の繊維構造体では、前記両端に位置する2つの前記第1繊維層を構成する前記第1の繊維束はスラブ糸であってもよい。
これによれば、第1の繊維束を構成する繊維を引き延ばすことで第1の繊維束の太さを細くでき、引き延ばし量を調整し、第1の繊維束の太さを調整することで係合部及び非係合部を形成できる。よって、係合部と非係合部との間に繊維密度に大きな差が生じず、第1の繊維束の糸主軸方向への強度差に大きな差が生じない。
【0014】
本開示の別の態様の繊維構造体では、前記各拘束糸は、前記第1方向に沿って、前記積層方向における前記繊維構造体の第1端に配置される前記第1の繊維束と、前記積層方向における前記繊維構造体の第2端に配置される前記第1の繊維束とに、交互に係合してもよい。
【0015】
本開示の一態様の繊維強化複合材は、上記繊維構造体と、前記繊維構造体に含浸されたマトリックス樹脂と、を含む。
これによれば、非係合部の寸法と、係合部の寸法との差により、拘束糸の寸法を吸収でき、係合部と非係合部とで寸法が同じ場合と比べると、非係合部に対する拘束糸の突出量を少なくできる。よって、両端に配置される第1繊維層を構成する第1の繊維束に、拘束糸が係合した係合部と拘束糸が係合しない非係合部とが形成されていても、繊維構造体の積層方向における両端面が平滑面になるように成形する際には、第2の繊維束が成形時の押圧によって蛇行することを抑制できる。その結果、蛇行に伴う第2の繊維束の糸主軸方向における強度低下を抑制でき、繊維強化複合材において、第2の繊維束の糸主軸方向における強度低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の繊維強化複合材を模式的に示す斜視図。
図2】実施形態の繊維構造体を示す平面図。
図3A図1の繊維構造体の3−3線に沿った断面図。
図3B図3Aの繊維構造体の係合部を示す断面図。
図3C図3Aの繊維構造体の非係合部を示す断面図。
図4図1の繊維構造体の4−4線に沿った断面図。
図5】成形型内に図1の繊維構造体を配置した状態を示す断面図。
図6A】別の実施形態の繊維構造体を示す断面図。
図6B図6Aの繊維構造体の係合部を示す断面図。
図6C図6Aの繊維構造体の非係合部を示す断面図。
図7】別の実施形態の繊維構造体を示す断面図。
図8】従来の3次元織布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、繊維構造体、及び繊維強化複合材を具体化した一実施形態を図1図5にしたがって説明する。
図1に示すように、繊維強化複合材10は、強化基材である繊維構造体11にマトリックス樹脂12を含浸させて構成されている。マトリックス樹脂12としては、例えば、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂が使用される。
【0018】
繊維構造体11は、複数の繊維層が積層されて構成されている。なお、繊維層が積み重なった方向を繊維構造体11の積層方向Yとする。また、繊維構造体11は、第1の繊維束である複数本の緯糸13と、第2の繊維束である複数本の経糸14とを有する。繊維構造体11は、多層織りによって形成された多層織物である。緯糸13と経糸14とは互いに直交する方向に延びている。
【0019】
緯糸13及び経糸14は、共に、繊維を束ねて形成された繊維束である。この繊維束は、有機繊維、無機繊維又は混繊繊維で構成されてもよい。混繊繊維は、異なる種類の有機繊維同士が混繊されてもよいし、異なる種類の無機繊維同士が混繊されてもよいし、有機繊維と無機繊維とが混繊されてもよい。有機繊維の種類としては、アラミド繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維の種類としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
【0020】
図1図2図3A又は図4に示すように、繊維構造体11は、第1繊維層である緯糸層を複数有する。緯糸層は、第1方向X1に互いに平行に並ぶ複数本の緯糸13により形成される。複数の緯糸層は、第1緯糸層21と、積層方向Yにおいて第1緯糸層21より下方に配置された第2緯糸層22と、積層方向Yにおいて第2緯糸層22より下方に配置された第3緯糸層23と、を含む。第1〜第3緯糸層21〜23は、多層織物を構成する繊維層である。
【0021】
また、繊維構造体11は、第2繊維層である経糸層を複数有する。経糸層は、第2方向X2に互いに平行に並ぶ複数本の経糸14により形成される。複数の経糸層は、第1経糸層31と、積層方向Yにおける第1経糸層31より下方に配置された第2経糸層32と、を有する。第1〜第2経糸層31〜32は、多層織物を構成する繊維層である。
【0022】
積層方向Yにおける繊維構造体11の第1端から第2端(上端から下端)へ第1緯糸層21、第1経糸層31、第2緯糸層22、第2経糸層32、及び第3緯糸層23がこの順番で積層されている。第1緯糸層21及び第3緯糸層23は、それぞれ積層方向Yにおける繊維構造体11の両端、すなわち第1端と第2端とに配置される。これら第1緯糸層21、第1経糸層31、第2緯糸層22、第2経糸層32、及び第3緯糸層23は、複数の拘束糸15により積層方向Yに拘束されている。
【0023】
複数の拘束糸15は、第2方向X2に互いに平行に並んでいる。各拘束糸15は、繊維構造体11の形状保持用であり、繊維束である。この繊維束は、有機繊維、無機繊維または混繊繊維で構成されてもよい。混繊繊維は、異なる種類の有機繊維同士が混繊されてもよいし、異なる種類の無機繊維同士が混繊されてもよいし、有機繊維と無機繊維が混繊されてもよい。複数本の拘束糸15は、経糸14と第2方向X2に隣り合うように配列される。各拘束糸15は、繊維構造体11を構成する最上層の第1緯糸層21の緯糸13の外面を通って折り返すように配置されている。また、各拘束糸15は、繊維構造体11を積層方向Yに貫通し、最下層の第3緯糸層23の緯糸13の外面を通って折り返すように配置されている。よって、拘束糸15は、積層方向Yの両端にそれぞれ位置する第1緯糸層21及び第3緯糸層23の緯糸13に係合している。
【0024】
第1緯糸層21及び第3緯糸層23のそれぞれにおいて、第2方向X2に隣り合う2つの拘束糸15は、緯糸13に係合する位置が第1方向X1にずれている。そして、拘束糸15が第1緯糸層21及び第3緯糸層23を構成する緯糸13に係合することで、第1〜第3緯糸層21〜23が積層方向に拘束される。さらに、第1緯糸層21と第2緯糸層22との間に第1経糸層31が拘束され、第2緯糸層22と第3緯糸層23との間に第2経糸層32が拘束される。
【0025】
繊維構造体11は積層方向Yにおいて第1端面11aと第2端面11bとを備える。第1端面11aは第1緯糸層21を構成する全ての緯糸13と、複数の拘束糸15における第1緯糸層21の緯糸13の外面で折り返された部分と、によって構成されている。第2端面11bは第3緯糸層23を構成する全ての緯糸13と、複数の拘束糸15における第3緯糸層23の緯糸13の外面で折り返された部分と、によって構成されている。
【0026】
第1緯糸層21及び第3緯糸層23を構成する緯糸13は、拘束糸15が係合した部分である係合部13aと、拘束糸15が係合していない部分である非係合部13bとを含む。
【0027】
なお、緯糸13は、経糸14とともに製織に用いられる前の状態では、緯糸13を縮径できる、所謂嵩高な糸である。本明細書において、「嵩高な糸」とは、拘束糸15の積層方向Yにおける寸法に応じて決まる必要量だけ縮径可能なように、繊維束の収束度を比較的小さくした糸を指す。このような糸を製造するためには、例えば、非連続繊維からなる繊維束を紡績する場合には、ドラフト装置に導入される前に繊維束を収束させるトランペットの出口面積を通常よりも広くする。また、繊維束が連続繊維の場合は、連続繊維を収束させる収束剤(油剤)の添加量を通常よりも少なくする。このような方法により、嵩高な糸が製造される。
【0028】
そして、拘束糸15が緯糸13に係合することで、緯糸13に係合部13a及び非係合部13bが形成される。詳細には、係合部13aでは緯糸13を構成する繊維同士が互いに近付き、非係合部13bと比べて緯糸13が縮径された状態となっている。
【0029】
したがって、図3B及び図3Cに示すように、緯糸13における係合部13aの太さは、非係合部13bの太さより細く、係合部13aの繊維密度は、非係合部13bより高い。そして、各緯糸13には、拘束糸15の係合により、第2方向X2に交互に並ぶ係合部13aと非係合部13bとが形成される。係合部13a及び非係合部13bを有する各緯糸13は、糸主軸方向へ直線状に延びる。
【0030】
図3Aに示すように、積層方向Yにおける緯糸13の寸法が厚さであり、係合部13aの厚さD1は、非係合部13bの厚さD2より薄い。言い換えると、非係合部13bの寸法(厚さD2)は、係合部13aの寸法(厚さD1)より大きい(厚い)。
【0031】
また、積層方向Yにおける拘束糸15の寸法が厚さD3である。なお、非係合部13bの厚さD2とは、非係合部13bのうち最も厚さの厚い部分での厚さである。そして、係合部13aと非係合部13bとは、非係合部13bの厚さD2に、係合部13aの厚さD1と拘束糸15の厚さD3の和を一致させた関係にある。本実施形態では、非係合部13bの厚さD2は、係合部13aの厚さD1と拘束糸15の厚さD3の和と同じである。なお、係合部13aの厚さD1、非係合部13bの厚さD2、及び拘束糸15の厚さD3は、製造公差等により若干変動する。このため、非係合部13bの厚さD2と、係合部13aの厚さD1と拘束糸15の厚さD3の和とは、実質的に等しければよく、若干ずれた場合も含む。
【0032】
第1経糸層31は、第1緯糸層21よりも積層方向Yにおける内層であって、第1緯糸層21と積層方向Yに隣り合う。第1経糸層31には、第1緯糸層21の緯糸13が重なっている。また、第2経糸層32は第3緯糸層23よりも積層方向Yの内層であって、第3緯糸層23と積層方向Yに隣り合う。第2経糸層32には、第3緯糸層23の緯糸13が重なっている。これら第1経糸層31及び第2経糸層32を構成する経糸14の糸主軸は、共に、直線状に延びている。そして、非係合部13bの厚さD2は、係合部13aの厚さD1と拘束糸15の厚さD3の和と同じであるため、積層方向Yにおける繊維構造体11の同じ端に位置する非係合部13bの頂点P1と拘束糸15の頂点P2とは、一つの仮想平面S、すなわち第1端面11a上、又は、第2端面11b上に位置している。
【0033】
以上のように構成された繊維構造体11にマトリックス樹脂12を含浸させて硬化させると、繊維強化複合材10が得られる。繊維強化複合材10を成形する成形法の例には、例えばRTM(レジン・トランスファー・モールディング)法または熱プレス成形法が挙げられる。繊維構造体11にマトリックス樹脂12を含浸させた後、含浸したマトリックス樹脂12を硬化させることにより、繊維構造体11の緯糸13及び経糸14は、マトリックス樹脂12と複合化する。繊維強化複合材10は、例えば、航空機または乗用車等の移動体の外板として使用される。
【0034】
次に、繊維強化複合材10の製造方法を作用とともに記載する。
図示しない織機により、複数の緯糸13によって第1〜第3緯糸層21〜23が形成されるとともに、複数の経糸14によって第1〜第2経糸層31〜32が形成される。そして、複数の拘束糸15により、第1〜第3緯糸層21〜23が積層方向Yに拘束される。拘束糸15による拘束工程において、拘束糸15が、第1緯糸層21及び第3緯糸層23を構成する緯糸13に係合すると、拘束糸15が係合した部分すなわち係合部13aにおいて、嵩高な緯糸13が縮径する。拘束糸15が係合していない部分は、係合部13aよりも厚さの大きい非係合部13bになる。
【0035】
図5に示すように、成形型41は下型42及び上型43を備える。下型42は形成すべき繊維強化複合材10の形状に対応したキャビティ44を備える。キャビティ44の深さは、繊維構造体11の積層方向Yにおける寸法より浅い。そのため、キャビティ44の内底面44aが繊維構造体11を支持した状態では、繊維構造体11の第1端面11aは、下型42の上面42aから突出する。
【0036】
上型43には、型閉め状態でキャビティ44に連通する図示しない注入孔及び排出孔が形成されている。注入孔の一端がキャビティ44に開口し、注入口の他端が図示しない樹脂注入装置に接続されている。排出孔の一端がキャビティ44に開口し、排出口の他端が図示しない減圧ポンプに接続されている。
【0037】
そして、成形型41が開放された状態で、キャビティ44内、すなわち成形型41内に繊維構造体11を配置する。このとき、繊維構造体11は、第1端面11a(第1緯糸層21)が上面を構成するようにキャビティ44内に配置される。第2端面11bは、キャビティ44の内底面44aに支持されるが、内底面44aには拘束糸15の頂点P2と、非係合部13bの頂点P1とが接触する。
【0038】
次に、キャビティ44が密閉されるまで型閉めを行う。このとき、上型43の下面43aに対し、拘束糸15の頂点P2と、非係合部13bの頂点P1とが同時に接触し、拘束糸15及び非係合部13bが積層方向Yの内側に向けて押圧される。すると、繊維構造体11が積層方向Yに圧縮される。第1端面11aは上型43の下面43aによって平滑面となるように成形され、第2端面11bは、キャビティ44の内底面44aによって平滑面となるように成形される。
【0039】
次に、成形型41を加熱する。そして、減圧ポンプを駆動して、キャビティ44内を真空に近い状態まで減圧する。続いて、キャビティ44内が減圧された状態で、樹脂注入装置に接続された注入孔から、マトリックス樹脂12の材料である熱硬化性樹脂をキャビティ44内に注入する。キャビティ44内に注入された熱硬化性樹脂は繊維構造体11に含浸される。熱硬化性樹脂は、キャビティ44を下から次第に満たしていく。成形型41の加熱は、熱硬化性樹脂の硬化が完了するまで継続される。熱硬化性樹脂の硬化が完了し、マトリックス樹脂12となった後、成形型41を開き、成形型41内から繊維強化複合材10を取り出す。
【0040】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)第1緯糸層21及び第3緯糸層23を構成する緯糸13において、非係合部13bの厚さD2を、係合部13aの厚さD1より厚くした。このため、第1緯糸層21及び第3緯糸層23を構成する緯糸13に、拘束糸15の係合により係合部13aと非係合部13bとが形成されていても、非係合部13bの厚さD2と係合部13aの厚さD1との差で、拘束糸15の厚さを吸収できるので、非係合部13bよりも拘束糸15が突出することを無くすことができる。よって、第1端面11a及び第2端面11bが平滑面になるように成形する際、成形時の押圧によって経糸14が蛇行することを抑制できる。したがって、拘束糸15を備える繊維強化複合材10であっても、第1方向X1における強度低下を抑制できる。
【0041】
(2)第1緯糸層21及び第3緯糸層23を構成する緯糸13において、非係合部13bの厚さD2に対し、係合部13aの厚さD1と拘束糸15の厚さD3の和を一致させた。このため、第1緯糸層21及び第3緯糸層23を構成する緯糸13に、拘束糸15の係合により係合部13aと非係合部13bとが形成されていても、第1端面11a及び第2端面11bが平滑面になるように成形する際、経糸14に向けた係合部13aの押圧量と非係合部13bの押圧量とを等しくすることができる。その結果、成形時の押圧によって経糸14が蛇行することを抑制でき、経糸14の糸主軸が直線状に延びた状態を維持できる。したがって、拘束糸15を備える繊維強化複合材10であっても、第1方向X1における強度低下を抑制できる。
【0042】
(3)緯糸13として、拘束糸15が係合すると縮径する嵩高な糸を使用した。このため、緯糸13に対して、拘束糸15が係合することで係合部13aが形成され、拘束糸15が係合しない部分には非係合部13bが形成される。よって、拘束糸15による拘束工程時に係合部13a及び非係合部13bを形成でき、繊維構造体11の製造が容易となる。
【0043】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 緯糸層及び経糸層の数は適宜変更してもよい。例えば、図6Aに示すように、繊維構造体50は、積層方向Yにおける第1端に第1緯糸層51を有するとともに、積層方向Yにおける第2端に第2緯糸層52を有し、第1緯糸層51と第2緯糸層52との間に1つの経糸層53を有する構造であってもよい。この場合、第1緯糸層51と第2緯糸層52とを構成する緯糸13に拘束糸54が係合する。
【0044】
なお、図6B又は図6Cに示すように、第1緯糸層51及び第2緯糸層52を構成する緯糸13は、スラブ糸を使用してもよい。この緯糸13は、糸主軸方向に沿って繊維密度は同じ(一定)でありながら係合部13aと非係合部13bとを備える。係合部13aと非係合部13bは、一定太さの繊維束を、複数のローラ群を有するドラフト装置によって一方向へ引き延ばす際、ドラフト装置のドラフト倍率を交互に異ならせて、糸主軸方向に沿って繊維束の太さを交互に変化させて形成されている。そして、緯糸13において、係合部13aを構成する繊維の本数と、非係合部13bを構成する繊維の本数とを異ならせる。すなわち、繊維の本数は、係合部13aの箇所の方が非係合部13bの箇所よりも少ない。そうすることで、係合部13aと非係合部13bとの間で繊維密度に大きな差が生じず、緯糸13の糸主軸方向において強度に大きな差が生じない。
【0045】
○ 拘束糸15は、積層方向Yの第1端に位置する第1緯糸層21の緯糸13と、積層方向Yの第2端に位置する第3緯糸層23の緯糸13に係合したが、これに限らない。
例えば、図7に示すように、拘束糸15を積層方向Yにずらして設け、第1緯糸層21の緯糸13と第2緯糸層22の緯糸13とに係合する拘束糸15と、第2緯糸層22の緯糸13と第3緯糸層23の緯糸13とに係合する拘束糸15とを設けてもよい。
【0046】
○ 拘束糸15,54は、積層方向における第1端に位置する緯糸13と積層方向における第2端に位置する緯糸13に対し、第1方向X1において交互に係合したが、複数本おきに係合してもよい。
【0047】
○ 第1の繊維束を経糸14とし、第2の繊維束を緯糸13としてもよい。
○ マトリックス樹脂12はエポキシ樹脂でなくてもよく、例えばビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂であってもよいし、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド樹脂、ABS樹脂等といった熱可塑性樹脂であってもよい。
【0048】
○ 第1緯糸層21及び第3緯糸層23の緯糸13において、非係合部13bの厚さD2に対し、係合部13aの厚さD1と拘束糸15の厚さD3の和が一致していなくてもよい。例えば、非係合部13bの厚さD2が係合部13aの厚さD1より厚ければ、拘束糸15の厚さD3は、実施形態より厚くてもよいし、薄くてもよい。このように構成した場合、非係合部13bの厚さD2が係合部13aの厚さD1と等しい場合と比較して成形時の押圧によって経糸14が蛇行することを抑制できる。したがって、拘束糸15を備える繊維強化複合材10であっても、第1方向X1における強度低下を抑制できる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8