特許第6835267号(P6835267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6835267繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートおよびその製造方法、ならびに繊維強化熱可塑性プラスチック成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835267
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートおよびその製造方法、ならびに繊維強化熱可塑性プラスチック成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20210215BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20210215BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20210215BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20210215BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20210215BHJP
【FI】
   B32B5/26
   B29B11/16
   B29C70/06
   B32B5/28 Z
   B29K105:12
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-16206(P2020-16206)
(22)【出願日】2020年2月3日
(62)【分割の表示】特願2016-170125(P2016-170125)の分割
【原出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2020-90101(P2020-90101A)
(43)【公開日】2020年6月11日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 さくら
(72)【発明者】
【氏名】中山 靖章
(72)【発明者】
【氏名】広松 稔典
(72)【発明者】
【氏名】藤村 昴
【審査官】 塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−047244(JP,A)
【文献】 特開2016−037681(JP,A)
【文献】 特開2014−004775(JP,A)
【文献】 特開2013−173330(JP,A)
【文献】 特開2016−71376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29B 11/16
15/08−15/14
B29C 70/06
B29K105/12
C08J 5/04−5/10
5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布マットと、前記不織布マットに隣接する、強化繊維を含有する強化繊維シートと、を含む積層体が加熱処理されて形成されたシートであって、前記強化繊維シートに含有される強化繊維は、前記不織布マットに含有される強化繊維よりも平均繊維長が長く、
前記不織布マットは、エアレイド法で形成されたエアレイドウェブであり、
前記強化繊維シートは、前記エアレイド法において前記エアレイドウェブの搬送に用いられたキャリアシートであることを特徴とする、繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート。
【請求項2】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する1つまたは複数の不織布マットと、強化繊維を含有する1つまたは複数の強化繊維シートとを、少なくとも1つの前記不織布マットと少なくとも1つの前記強化繊維シートとが隣接するように含む積層体が加熱処理されて形成されたシートであって、前記強化繊維シートに含有される強化繊維は、前記不織布マットに含有される強化繊維よりも平均繊維長が長く、
前記不織布マットは、エアレイド法で形成されたエアレイドウェブであり、
前記強化繊維シートは、前記エアレイド法において前記エアレイドウェブの搬送に用いられたキャリアシートであることを特徴とする、繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート。
【請求項3】
前記不織布マットは、熱融着性樹脂をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート。
【請求項4】
前記強化繊維シートは、不織布であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートの単体または積層体を成形加工して得られた繊維強化熱可塑性プラスチック成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性プラスチックを作製するための繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートおよびその製造方法、ならびに作製された繊維強化熱可塑性プラスチック成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの強化繊維と、マトリクス樹脂と、からなる繊維強化材料は、電機・電子機器、OA機器、架電機器の筐体、スポーツ・レジャー用品、航空機の機体や部品、自動車の車体や部品、土木・建築材、構造部品および筐体等に使用されている。
【0003】
繊維強化材料のマトリクス樹脂として、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が知られている。様々な形状に対応できることから、近年、マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた繊維強化材料である繊維強化熱可塑性プラスチックの利用が広がっている。
【0004】
繊維強化熱可塑性プラスチックとして、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート(以下、単に「プレシート」ともいう)をあらかじめ製造し、このプレシートの単体または積層体を成形して得られる繊維強化熱可塑性プラスチックが知られている。
【0005】
特許文献1は、強度補強を目的として、強化繊維および熱可塑性樹脂を含む構造体と、熱可塑性樹脂製フィルムや不織布などのシート状物と、を積層して一体化させたプレシートを開示している。
【0006】
特許文献2は、強度に対する要求を満たしつつ表面品位に優れたプレシートの提供を目的として、最表層を形成する炭素繊維不織布と、該最表層の直下に位置する層として炭素繊維が一方向に引き揃えられた一方向炭素繊維シートを有する表層基材と、から形成した、積層体構造のプレシートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−255065号公報
【特許文献2】特開2008−132705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
繊維強化熱可塑性プラスチックの利用が広がる中で、物理的特性の中でも耐衝撃性に優れた繊維強化熱可塑性プラスチック成形品、およびこれを作製可能な繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートに対する要求がある。しかしながら、特許文献1および特許文献2には、耐衝撃性に関するプレシートの特性についての記載がない。
【0009】
本発明の目的は、耐衝撃性に優れた繊維強化熱可塑性プラスチック成形品、ならびに、これを作製可能な、繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の態様を有する。
[1] 強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布マットと、前記不織布マットに隣接する、強化繊維を含有する強化繊維シートと、を含む積層体が加熱処理されて形成されたシートであって、前記強化繊維シートに含有される強化繊維は、前記不織布マットに含有される強化繊維よりも平均繊維長が長く、前記不織布マットは、エアレイド法で形成されたエアレイドウェブであり、前記強化繊維シートは、前記エアレイド法において前記エアレイドウェブの搬送に用いられたキャリアシートであることを特徴とする、繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート。
[2] 強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する1つまたは複数の不織布マットと、強化繊維を含有する1つまたは複数の強化繊維シートとを、少なくとも1つの前記不織布マットと少なくとも1つの前記強化繊維シートとが隣接するように含む積層体が加熱処理されて形成されたシートであって、前記強化繊維シートに含有される強化繊維は、前記不織布マットに含有される強化繊維よりも平均繊維長が長く、前記不織布マットは、エアレイド法で形成されたエアレイドウェブであり、前記強化繊維シートは、前記エアレイド法において前記エアレイドウェブの搬送に用いられたキャリアシートであることを特徴とする、繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート。
[3] 前記不織布マットは、熱融着性樹脂をさらに含むことを特徴とする、[1]または[2]に記載の繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート。
[4] 前記強化繊維シートは、不織布であることを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート。
[5] [1]から[4]のいずれかに記載の強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートの単体または積層体を成形加工して得られた繊維強化熱可塑性プラスチック成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート、およびそれから作製された繊維強化熱可塑性プラスチック成形品は、耐衝撃性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例および比較例に係るプレシートの構成および成形品の測定結果を示す表である。
図2】本発明の繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートの製造方法において使用可能なウェブ形成装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシート>
本発明の繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートは、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する不織布マットと、不織布マットに隣接する強化繊維シートと、を含む積層体が加熱処理されて形成されたシートであって、強化繊維シートに含有される強化繊維は、不織布マットに含有される強化繊維よりも平均繊維長が長いシートである。
【0014】
また、本発明の繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートは、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有する1つまたは複数の不織布マットと、1つまたは複数の強化繊維シートとを、少なくとも1つの不織布マットと少なくとも1つの強化繊維シートとが隣接するように含む積層体が加熱処理されて形成されたシートであって、強化繊維シートに含有される強化繊維は、不織布マットに含有される強化繊維よりも平均繊維長が長いシートである。
【0015】
不織布マットは、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含有するシート状物である。不織布マットは、不織布であることができ、例えばエアレイド法、湿式抄紙法、スパンレース法、ニードルパンチ法などによって形成されることができる。
【0016】
不織布マットは、熱融着性樹脂をさらに含んでいてもよい。例えば、水を一切使用せずにエアレイド法により不織布マットを形成する場合、すなわち、いわゆるTDS法(Totally Dry System)により不織布マットを作製する場合は、不織布マットは、熱により構成成分同士を結着させるサーマルボンディングのために、熱融着性樹脂を必須の成分として含む。TDS法では、水を一切使用しないため、構成成分の機能を損なわない状態で不織布マットを形成することができる。
【0017】
強化繊維シートは、不織布マットに含有される強化繊維よりも平均繊維長が長い強化繊維を含有する。例えば、強化繊維シートは、不織布であることができ、例えばエアレイド法、湿式抄紙法、スパンレース法、ニードルパンチ法などによって形成されることができる。具体的には、例えば、強化繊維を、カード機にてシート状にし次いでニードルパンチにより絡めることによって、強化繊維シートを形成してもよい。
【0018】
強化繊維シートは、不織布マットをエアレイド法により形成する場合のエアレイドウェブのキャリアシートとされてもよい。この方法によれば、1つの工程(ワンパス)で、プレシートを作製し得る。また、不織布マットと強化繊維シートとの間の層間強度が高いプレシートを作製することができる。
【0019】
加熱処理は、熱融着性樹脂の融点以上の温度で行うことにより、積層体中の各層の層間接着および層内における構成成分同士の結着を促進させ得る。
【0020】
(プレシートの層構成)
本発明のプレシートの層構成として、不織布マットと強化繊維シートとが積層された構成が含まれる。また、本発明のプレシートの層構成として、複数の不織布マットの積層体の少なくとも1つの表面に強化繊維シートが積層された構成が含まれる。複数の不織布マットの層間には強化繊維シートが配置されていてもよい。また、本発明のプレシートの層構成として、複数の強化繊維シートの積層体の少なくとも1つの表面に不織布マットが積層された構成が含まれる。複数の強化繊維シートの層間には不織布マットが配置されていてもよい。
【0021】
このように、本発明のプレシートは、2層以上の複数の層からなる積層体である。プレシートに含まれる層の数や層の構成内容は、プレシートの目標厚さに対するプレシートを構成する各層の層厚や、所望とするプレシートの物性等に応じて、さまざまに設定することができる。本発明のプレシートに含まれる層の数は、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上であることができる。
【0022】
例えば、限定目的でなく例示目的で示す以下の構成は、本発明の範囲である。
(1)強化繊維シートと不織布マットとが積層された構成。
(2)強化繊維シートと不織布マットと強化繊維シートとがこの順で積層された構成。
(3)強化繊維シートと不織布マットと不織布マットとがこの順で積層された構成。
(4)強化繊維シートと強化繊維シートと不織布マットとがこの順で積層された構成。
(5)不織布マットと強化繊維シートと不織布マットとがこの順で積層された構成。
(6)上述の(1)〜(5)に示す構成の任意の組み合わせ。
(7)上述の(1)〜(6)に示す構成に対し、1つまたは複数の強化繊維シートまたは不織布マットが表面または構成間に積層された構成。
【0023】
このうちの(6)の取り得る構成を、例を挙げて説明する。例えば、(6)の構成が(1)と(1)とを組み合わせた構成である場合、そのような構成としては、強化繊維シートと不織布マットと強化繊維シートと不織布マットとがこの順で積層された構成、強化繊維シートと不織布マットと不織布マットと強化繊維シートとがこの順で積層された構成、および不織布マットと強化繊維シートと強化繊維シートと不織布マットとがこの順で積層された構成、が挙げられる。このように、いくつかの構成を組み合わせる場合は、積層体を同じ向きで(裏と表とを合わせて)積層させる他、表同士、裏同士を隣接させて積層させる構成が含まれる。
【0024】
また、このうちの(7)の取り得る構成を、例を挙げて説明する。例えば、(7)の構成が(2)と(3)との組み合わせに基づく構成である場合、そのような構成としては、例えば、強化繊維シートと不織布マットと強化繊維シートと強化繊維シートと強化繊維シートと不織布マットと不織布マットがこの順で積層された構成などがある。これは、(2)と(3)との間に、強化繊維シートをさらに加えた例である。すなわち、例えば、1つの強化繊維シートが薄い場合に、このように複数の強化繊維シートを重ねることにより、得られるプレシートの厚みおよび強度を向上させることができる。
【0025】
1つのプレシートにおいて、複数の不織布マットが含まれる場合、各不織布マットは同一であってもよく異なっていてもよい。また、1つのプレシートにおいて、複数の強化繊維シートが含まれる場合、各強化繊維シートは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0026】
層間には、構造を補強する目的の他の層が配置されていてもよい。
【0027】
(強化繊維)
本発明の不織布マットおよび強化繊維シートに適用可能な強化繊維としては、炭素繊維(ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系異方性炭素繊維等)、無機繊維(ガラス繊維、バサルト繊維、チタン酸カリウムウィスカ等)、有機繊維(アラミド繊維等)などが挙げられる。
【0028】
上記強化繊維の中でも、炭素繊維およびガラス繊維は、プレシートから得られる成形品の機械的物性をより高くし得るため、好適に用いられる。
【0029】
強化繊維は、例えばチョップドファイバーの形態であることができる。特に、本発明の不織布マットをエアレイド法により形成する場合は、強化繊維は、例えば解繊チョップドファイバーの形態であることができる。
【0030】
本発明の不織布マットに用いられる強化繊維の平均繊維長(Lm)は、1mm以上100mm以下であることが好ましく、2mm以上80mm以下であることがより好ましく、2mm以上60m以下であることがさらに好ましい。平均繊維長が前記範囲であると、ウェブの製造が容易であるとともに、強度の高い成形品を得ることができる。
【0031】
本発明の強化繊維シートに用いられる強化繊維の平均繊維長(Ls)は、5mm以上100mm以下であることが好ましく、5mm以上80mm以下であることがより好ましく、5mm以上60m以下であることがさらに好ましい。平均繊維長が前記範囲であると、ウェブの製造が容易であるとともに、強度の高い成形品を得ることができる。
【0032】
ここで、本発明において、強化繊維シートに配合される強化繊維の平均繊維長(Ls)は、不織布マットに配合される強化繊維の平均繊維長(Lm)よりも長いことを特徴とする。すなわち、本発明において、平均繊維長についてLs>Lmの大小関係が満たされることを要する。この関係が満たされる場合、不織布マットは、相対的に短い平均繊維長の繊維を含有するため、変形させ易く、得られるプレシートに良好な成形性を付与することができる。強化繊維シートは、相対的に長い平均繊維長の繊維を含有するため、得られるプレシートおよび成形品に、耐衝撃性などの高い強度を付与することができる。
【0033】
本発明の不織布マットに用いられる強化繊維の平均繊維長(Lm)と本発明の強化繊維シートに用いられる強化繊維の平均繊維長(Ls)の繊維長の比率(Lm)/(Ls)は、(Lm)/(Ls)=1/1.5〜1/20であることが好ましく、(Lm)/(Ls)=1/2〜1/17であることが好ましく、(Lm)/(Ls)=1/3〜1/17であることがさらに好ましい。繊維長の比率(Lm)/(Ls)が前記範囲内であると、プレシートを構成する各層に含まれる強化繊維の平均繊維長が隣接する層同士で極端に異なることはない。そのため、厚さ方向において強度ムラの少ない成形品を得ることができ、かつ全体として強度の高い成形品を得ることができる。
【0034】
(チョップドファイバー)
ここで、チョップドファイバーとは、繊維集束体が切断された短繊維のことである。また、繊維集束体とは、数百本から数千本の強化繊維が、水または樹脂等の結束剤によって集束したものである。また、解繊チョップドファイバーとは、チョップドファイバーを解繊することによって得られた多数本のファイバーである。
【0035】
本発明に適用可能なチョップドファイバーの例として、チョップ状の炭素繊維としては、例えば、平均繊維径が4〜10μm、平均繊維長が3〜13mmの東邦テナックス株式会社製のものが知られている。チョップ状のガラス繊維としては、例えば、平均繊維径が3〜18μm、平均繊維長が1〜20mmのオーウェンス・コーニング社製のものが挙げられる。チョップ状のアラミド繊維としては、例えば、平均繊維径が10〜15μmの、ショートカットファイバー(繊維長0.1〜5mm)や短繊維(繊維長38〜128mm)の形態の帝人株式会社製のものが挙げられる。
【0036】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、適当な温度に加熱すると軟化して可塑性を持ち、冷却すると固化する性質を有する。本発明において、熱可塑性樹脂は、繊維強化熱可塑性プラスチックにおけるマトリクス樹脂となる。
【0037】
本発明の不織布マットは、熱可塑性樹脂を必須の構成成分とする。本発明の不織布マットに適用可能な熱可塑性樹脂は、繊維状であってもよく、粒子状であってもよい。プレシートから得られる成形品の強度がより高くなる点からは、熱可塑性樹脂は繊維状であることが好ましい。
【0038】
本発明の強化繊維シートは、熱可塑性樹脂を含んでいてもいなくてもよい。強化繊維シートが熱可塑性樹脂を含んでいない場合、プレシート内で強化繊維リッチな層ができ、作製される成形品における補強効果が高まる。また、強化繊維シートが熱可塑性樹脂を含んでいる場合、プレシートの全層または任意の層に熱可塑性樹脂が含まれる構成をとることが可能になる。熱可塑性樹脂をプレシートの各層に対して均一に分布させることで、プレシートの厚さ方向における強度を均一化することが可能となる。
【0039】
本発明の強化繊維シートに適用可能な熱可塑性樹脂は、繊維状であってもよく、粒子状であってもよく、ペレット状であってもよい。プレシートから得られる成形品の強度がより高くなる点からは、熱可塑性樹脂は繊維状であることが好ましい。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5Tなどのポリアミド、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリエーテルイミド(PEI)等が挙げられる。熱可塑性樹脂は2種以上を併用しても構わない。
【0041】
1つのプレシートにおける各層を構成する不織布マットと強化繊維シートの熱可塑性樹脂は、同一であってもよく異なっていてもよい。プレス成形体の層間接着性という観点では同一であることが好ましい。また、強化繊維シートと不織布マットとに異なる熱可塑性樹脂を配合することで、プレシートの各層の物性を任意に変更させることができる。これにより、例えば表面と内部の物性を異ならせるなどして、成形品に機能を付与することができる。
【0042】
熱可塑性樹脂が繊維状である場合、熱可塑性繊維の繊度は1dtex〜120dtexであることが好ましく、1dtex〜85dtexであることがより好ましい。また、熱可塑性繊維の平均繊維長は1〜50mmであることが好ましく、1〜40mmであることがより好ましく、2〜30mmであることがさらに好ましい。熱可塑性繊維の繊度および平均繊維長が前記範囲であると、不織布マットの形成が容易であり、均一な結着力や分散状態を得やすい。
【0043】
熱可塑性樹脂が粒子状である場合、熱可塑性粒子の平均粒径は、1〜1,000μmであることが好ましく、10〜800μmであることがより好ましい。
【0044】
熱可塑性樹脂がペレット状である場合、一辺が0.1〜5mmであることが好ましく、0.5〜5mmであることがより好ましい。
【0045】
(熱融着性樹脂)
必要に応じて配合されていてもよい本発明における熱融着性樹脂は、その融点とプレシート作製工程における加熱処理温度との関係によって、プレシート作製時に溶融して強化繊維と熱可塑性樹脂とを結着させることができるバインダ樹脂である。また、熱融着性樹脂は、繊維強化熱可塑性プラスチックにおけるマトリクス樹脂としても機能し得る。このように、本発明において、熱可塑性樹脂および熱融着性樹脂はいずれも、繊維強化熱可塑性プラスチックにおけるマトリクス樹脂になり得るが、以下、本明細書中において単に「マトリクス樹脂」というときは、熱可塑性樹脂を指すものとする。
【0046】
熱融着性樹脂は繊維状であってもよいし、粒子状であってもよい。また、プレシートを湿式法で製造する場合、熱融着性樹脂は粒子が液体に分散している形態であってもよい。
【0047】
熱融着性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン、低融点ポリエチレンテレフタレート、低融点ポリアミド、低融点ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、アクリル、ウレタン、スチレンブタジエン共重合体、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。熱融着性樹脂は2種類以上を併用しても構わない。
【0048】
熱融着性樹脂が繊維状である場合、熱融着性繊維の繊度は1dtex〜120dtexであることが好ましく、1dtex〜85dtexであることがより好ましい。また、熱融着性繊維の平均繊維長は1〜100mmであることが好ましく、1〜60mmであることがより好ましく、2〜30mmであることがさらに好ましい。熱融着性繊維の繊度および平均繊維長が前記範囲であると、不織布マットの形成が容易であり、均一な結着力や分散状態を得やすい。
【0049】
熱融着性樹脂が粒子状である場合、熱融着性粒子の平均粒径は、10〜1,000μmであることが好ましく、20〜800μmであることがより好ましい。水溶液に分散している場合、熱融着性粒子の平均粒径は、10nm〜100μmであることが好ましい。
【0050】
(熱融着性樹脂および熱可塑性樹脂の複合体)
上述の熱可塑性樹脂および熱融着性樹脂は、複合化されて複合体を形成していてもよい。
【0051】
熱可塑性樹脂と熱融着性樹脂との複合体としては、熱可塑性樹脂からなる芯部分と熱融着性樹脂からなる鞘部分とを有する芯鞘繊維、長手方向に垂直な断面において片側の半分が熱融着性樹脂からなり、もう一方の片側の半分が熱可塑性樹脂からなるサイドバイサイド繊維、熱可塑性樹脂からなるコアと熱融着性樹脂からなるシェルとを有するコアシェル粒子等が挙げられる。これらの中でも、異種の樹脂を容易に複合化できることから、芯鞘繊維が好適に用いられる。
【0052】
芯鞘繊維としては、例えば、ポリプロピレン繊維(融点160℃)からなる芯部分と、該芯部分の外周に形成された、ポリエチレン(融点130℃)からなる鞘部分とを備えたPP/PE複合芯鞘繊維が挙げられる。
【0053】
また、他の芯鞘繊維としては、例えば、PET/低融点PET複合芯鞘繊維、高密度ポリエチレン/低密度ポリエチレン複合芯鞘繊維、ポリエチレン/低融点PET複合芯鞘繊維、ポリアミド/低融点ポリアミド複合芯鞘繊維、ポリ乳酸/低融点ポリ乳酸複合芯鞘繊維、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート複合芯鞘繊維等が挙げられる。
【0054】
これらの複合体は、外部に露出する熱融着性樹脂の存在により、熱融着性を提供することができ、バインダとして機能することができる。したがって、これらの複合体は、本発明において熱融着性樹脂として配合されることができる。また、これらの複合体は、熱可塑性樹脂を含むことから、これを含んで作製されるプレシートから得られる成形品に強度を付与することができる。
【0055】
(各成分の含有比率)
プレシートが熱融着性樹脂を含まない場合、プレシートにおける、強化繊維の含有質量Aと、マトリクス樹脂となる熱可塑性樹脂の含有質量Bと、の比率A/Bは、例えば10/90〜90/10であることができ、20/80〜80/20であることができる。比率A/Bが前記範囲にあると、プレシートから得られる繊維強化熱可塑性プラスチックの機械的物性を充分に高めることができる。
【0056】
プレシートが熱融着性樹脂を含む場合、熱融着性樹脂の含有質量Cは、プレシート全体の質量を100部としたとき、1〜50部であることができ、2〜15部であることができる。すなわち、プレシートが強化繊維と熱可塑性樹脂と熱融着性樹脂とからなると仮定した場合、プレシート全体を100質量部とすると、そのうち熱融着性樹脂の含有量Cは1〜50質量部であることができ、残りの99質量部〜50質量部が、上述の比率A/Bで、強化繊維および熱可塑性樹脂の含有量に割り振られることとなる。
【0057】
プレシート全体における熱融着性樹脂の含有比率が高いと、加熱による構成成分の結着工程を含む製造方法によりプレシートを製造した場合のプレシートの強度が相対的に高くなる傾向がある。また、プレシート全体における熱融着性樹脂の含有比率が低いと、成形品を製造する際のプレシートの熱プレス工程の後において、熱プレス工程後の強度が高くなる傾向がある。これは、理論によって縛られることを望むものではないが、プレシート全体における熱融着性樹脂の含有比率が低いと、成形品に含まれる不純物が少なくなるためであると考えられる。
【0058】
(坪量)
プレシートの坪量は40〜4000g/m2であることが好ましく、100〜3000g/m2であることがより好ましく、200〜3000g/m2であることがさらに好ましい。プレシートの坪量が前記下限値以上であれば、成形品を製造する際の熱プレス工程において、プレシートの積層枚数を減らすことができ、作業を簡略化できる。一方、プレシートの坪量が前記上限値以下であれば、プレシートを容易に得ることができる。
【0059】
(作用効果)
本発明のプレシートは、互いに隣接するように配置された不織布マットと強化繊維シートとを含む。不織布マットおよび強化繊維シートは共に強化繊維を含み、強化繊維シートにおける強化繊維の平均繊維長は不織布マットの平均繊維長より長い。このような不織布マットと強化繊維シートとが加熱処理により複合化された構成を含む本発明のプレシートは、平均繊維長の短い強化繊維を含む不織布マットにより強度と良好な成形性とが付与され、また、平均繊維長の長い強化繊維を含む強化繊維シートにより、さらなる高い強度が付与される。したがって、本発明によれば、不織布マット単体では得られなかった耐衝撃性に優れたプレシートおよび繊維強化熱可塑性プラスチック成形品を得ることができる。
【0060】
<プレシートの製造方法>
本発明のプレシートの製造方法は、不織布マットの形成と、強化繊維シートの形成とを含む。
【0061】
例えば、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンレース法、ニードルパンチ法などの知られている不織布の製造方法により、強化繊維シートを有さない不織布マットのみを得て、得られた不織布マットと別途作製した強化繊維シートとを積層して一体化することにより、プレシートを作製することができる。また、例えば、エアレイド法により不織布マットを作製する際に、エアレイド法のキャリアシートを、本発明に係る強化繊維シートとしてもよい。
【0062】
また、強化繊維シートの形成方法としては、例えばエアレイド法、湿式抄紙法、スパンレース法、ニードルパンチ法などがある。例えば、強化繊維を、カード機にてシート状にし、次いでニードルパンチにより絡めることによって、強化繊維シートを形成してもよい。
【0063】
(エアレイド法を用いたプレシートの製造方法)
次に、エアレイド法を用いた実施形態のプレシートの製造方法について詳細に説明する。本実施形態のプレシートの製造方法は、解繊工程と混合工程とウェブ形成工程と結着工程とを有する。各工程について、以下に説明する。
【0064】
(解繊工程)
解繊工程は、チョップドファイバーを空気流および/または機械的シェアによって解繊して、解繊チョップドファイバーを得る工程である。
【0065】
チョップドファイバーの空気流による解繊方法では、ブロアー等によって空気流を形成し、その空気流にチョップドファイバーを供給し、空気流の攪拌効果によってチョップドファイバーを解繊する。空気流による解繊によれば、強化繊維が破断して短くなることを防止できる。特に、炭素繊維およびガラス繊維は、脆くて機械的な剪断力によって破断しやすいところ、空気流によって解繊することにより、破断を防止できる。
【0066】
解繊方法としては、旋回する空気流で解繊することが好ましい。旋回する空気流を利用した解繊方法によれば、チョップドファイバーを充分に解繊することができる。そのため、エアレイド法によってエアレイドウェブを形成する際に、解繊チョップドファイバーの分散性をより高めることができる。
【0067】
旋回する空気流を利用した解繊方法としては、例えば、ブロアーの中にチョップドファイバーを投入してブロアーにて解繊する方法が挙げられる。また、ブロアーによって円筒容器内に、周方向に沿うように空気を送って旋回流を形成し、その旋回流の中にチョップドファイバーを供給し、攪拌して解繊する方法が挙げられる。空気流と機械的シェアを併用する方法としては、ブロアー内に邪魔板を設けることでチョップドファイバーが邪魔板にあたり、空気流および機械的シェアによって解繊される方法が挙げられる。機械的シェアで解繊する方法としては、繊維束をロールで圧縮し広げる方法や針のついたローラーでカーディングする方法などが挙げられる。
【0068】
空気流の流速は、チョップドファイバーの量に応じて適宜選択されるが、通常は、10〜150m/秒の範囲内である。
【0069】
(混合工程)
混合工程は、解繊チョップドファイバーと、熱可塑性樹脂と、熱融着性樹脂と、を混合してウェブ原料を得る工程である。必要に応じて添加する難燃剤等の助剤は、この混合工程において添加することができる。
【0070】
混合に際しては、解繊チョップドファイバーの分散性を向上させるために、解繊チョップドファイバーと熱可塑性樹脂と熱融着性樹脂とを攪拌することが好ましい。ただし、解繊チョップドファイバーの破断を防ぐために、機械的剪断力を利用した攪拌ではなく、空気流を用いた攪拌を適用することが好ましい。
【0071】
混合工程は、解繊工程の後でもよいし、解繊工程と同時でもよい。混合工程を解繊工程と同時とする場合には、解繊工程での空気流を利用して、解繊チョップドファイバーと熱可塑性樹脂と熱融着性樹脂とを混合する。
【0072】
(ウェブ形成工程)
ウェブ形成工程は、ウェブ原料からウェブを形成する工程である。本実施形態ではエアレイド法を採用してエアレイドウェブを得る。ここで、エアレイド法とは、空気流を利用して繊維を3次元的にランダムに堆積させてウェブを形成する方法である。
【0073】
本実施形態におけるウェブ形成工程では、例えば、図2に示すウェブ形成装置1を用いる。このウェブ形成装置1は、コンベア10と透気性無端ベルト20と繊維混合物供給手段30と第1のキャリアシート供給手段40と第2のキャリアシート供給手段50とサクションボックス60と備える。
【0074】
ここで、コンベア10は、複数のローラー11によって構成されている。透気性無端ベルト20は、コンベア10に装着されて回転するようになっている。繊維混合物供給手段30は、透気性無端ベルト20に繊維混合物を空気流と共に供給するものである。第1のキャリアシート供給手段40は、透気性無端ベルト20に向けて第1のキャリアシート41を供給するものである。第2のキャリアシート供給手段50は、透気性無端ベルト20を通過した第1のキャリアシート41に向けて第2のキャリアシート51を供給するものである。サクションボックス60は、透気性無端ベルト20をその内側から吸引するものである。
【0075】
ウェブ形成装置1においては、繊維混合物供給手段30は透気性無端ベルト20の上方に設置され、第1のキャリアシート供給手段40は透気性無端ベルト20よりも上流に設置され、第2のキャリアシート供給手段50は透気性無端ベルト20よりも下流に設置されている。
【0076】
上記ウェブ形成装置1を用いたウェブ形成工程では、各ローラー11を同方向に回転させることによりコンベア10を駆動させて透気性無端ベルト20を回転させる。また、透気性無端ベルト20の上に接触するように、第1のキャリアシート41を第1のキャリアシート供給手段40から繰り出す。
【0077】
次いで、サクションボックス60によって透気性無端ベルト20を吸引しながら、繊維混合物供給手段30から空気流と共に繊維混合物を下降させ、透気性無端ベルト20上の第1のキャリアシート41上に繊維混合物を落下、堆積させる。これにより、エアレイドウェブAを形成する。
【0078】
次いで、エアレイドウェブAの上に、第2のキャリアシート51を第2のキャリアシート供給手段50より供給して、エアレイドウェブ含有積層シートを得る。
【0079】
第1のキャリアシート41および第2のキャリアシート51は、エアレイド法においてエアレイドウェブを搬送する搬送手段としての機能を有する。
【0080】
(結着工程)
結着方式は、ケミカルボンド方式、サーマルボンド方式、マルチボンド方式より選択される。いずれの方式を選択しても構わないが、強化繊維との結着性という観点からサーマルボンド方式を使用する場合が多い。サーマルボンド方式による結着工程は、エアレイドウェブを加熱処理して、解繊チョップドファイバー同士を熱融着性樹脂によって結着させる工程である。
【0081】
エアレイドウェブの加熱処理としては、熱風処理、赤外線照射処理が挙げられ、装置が低コストである点では、熱風処理が好ましい。
【0082】
熱風処理としては、エアレイドウェブを、周面に通気性を有する回転ドラムを備えたスルーエアードライヤに接触させて熱処理する方法(熱風循環ロータリードラム方式)や、エアレイドウェブを、ボックスタイプドライヤに通し、エアレイドウェブに熱風を通過させることで熱処理する方法(熱風循環コンベアオーブン方式)などが挙げられる。
【0083】
第1のキャリアシートおよび第2のキャリアシートに挟まれて積層シートになっているエアレイドウェブ、すなわちエアレイドウェブ含有積層シートは、積層シートのまま熱風処理することができる。第1のキャリアシートおよび第2のキャリアシートは、熱風処理後にエアレイドウェブから剥離することができる。本実施形態では、第1のキャリアシートおよび第2のキャリアシートをエアレイドウェブから剥離せずに、本発明に係る強化繊維シートとした。
【0084】
加熱処理温度は、熱融着性樹脂が溶融するが、熱可塑性樹脂は溶融しない温度とすることが好ましい。このような温度とすれば、解繊チョップドファイバー同士を確実に結着しつつ、プレシートを成形する前に熱可塑性樹脂が溶融することを抑制できる。
【0085】
結着工程の後には、プレシートの厚みおよび密度を微調整する目的で、加熱ロールに通して圧縮処理してもよい。
【0086】
本実施形態のプレシートの製造方法では、エアレイド法におけるエアレイドウェブの搬送手段であるキャリアシートに、本発明に係る強化繊維シートとなるべきシート状物を使用した。本実施形態の製造方法によれば、不織布マットからキャリアシートを剥離する剥離工程、および剥離工程に後続する、キャリアシートを剥離して得た不織布マットに強化繊維シートを積層する積層工程等を省略することができ、作業効率向上の効果が奏される。
【0087】
なお、本実施形態では、ウェブ形成装置は繊維混合物供給手段を1つ有していた。このウェブ形成装置において、上述の工程を繰り返すことにより、複数の不織布マットを有するプレシートを得てもよい。また、ウェブ形成装置に複数の繊維混合物供給手段を設け、1パスの工程で複数の不織布マットを有するプレシートを得てもよい。このとき、複数の不織布マット間に強化繊維シートまたは構造強化等を目的とした他のシート状物を間挿してもよい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0089】
[実施例1]
<プレシートの製造>
チョップ状のPAN系炭素繊維(繊維径7μm、繊維長13mm)を、旋回流式ジェット気流解繊装置を用いて解繊処理して、解繊チョップドファイバー(CF)を得た。解繊機での処理風速は45m/分であり、装置内に設けたバッフルにより乱流とした。
【0090】
次いで、得られた解繊チョップドファイバー(繊維長13mm)と、6ナイロン繊維(繊度3.3dtex、繊維長4mm、融点225℃)と、芯鞘型の熱融着性複合繊維(PET/PET複合芯鞘繊維、芯部融点260℃、鞘部融点130℃、繊度2.2dtex、繊維長5mm)とを、35/55/10の割合(質量比)で空気流により均一に混合して繊維混合物を得た。
【0091】
次いで、図2に示すウェブ形成装置1を用い、繊維混合物からエアレイドウェブを形成した。具体的には、コンベア10に装着されて走行する透気性無端ベルト20の上に、第1のキャリアシート供給手段40によって、第1のキャリアシート41を繰り出した。実施例1では、第1のキャリアシート41として、解繊チョップドファイバー(繊維長50mm)をカード機にてシート状にして次いでニードルパンチで絡めることによって製造した強化繊維シート(坪量100g/m2)を使用した。なお、「坪量」はJIS P 8124:2011に記載の「紙及び板紙−坪量の測定方法」に従って測定した。
【0092】
サクションボックス60によって透気性無端ベルト20を吸引しながら、第1のキャリアシート41の上に、繊維混合物供給手段30から空気流と共に繊維混合物を落下堆積させた。その際、エアレイドウェブ部分の坪量が500g/m2となるように、繊維混合物を供給した。ここで、エアレイドウェブ部分は、プレシートにおける不織布マットとなるべき部分である。
【0093】
次いで、第2のキャリアシート供給手段50によって、第1のキャリアシート41上の繊維混合物堆積物の上に、第2のキャリアシート51を積層して、エアレイドウェブ含有積層シートを得た。実施例1では、第2のキャリアシート51として、解繊チョップドファイバー(繊維長50mm)をカード機にてシート状にして次いでニードルパンチで絡めることによって製造した強化繊維シート(坪量100g/m2)を使用した。つまり、実施例1においては、第1のキャリアシート41と第2のキャリアシート51に、同一の強化繊維シートを用いた。
【0094】
得られた積層シートを、熱風循環コンベアオーブン方式のボックスタイプドライヤに通し、温度140℃で熱風処理して、坪量700g/m2のプレシートAを得た。実施例1では、第1のキャリアシート41および第2のキャリアシート51は、プレシートにおける強化繊維シートとなる。
【0095】
第2のキャリアシートを積層しない以外は上記プレシートAと同様の方法で坪量600g/m2のプレシートBを得た。
【0096】
<炭素繊維強化熱可塑性プラスチック成形品の作製>
上記プレシートAとBを20cm×20cmに裁断し、これにより得た裁断片を強化繊維シートと不織布マットとが交互に配置されるように各1枚積層し、縦横20cm×20cm、深さ1mmの開口部を有するステンレス製の金型内に配置した。次いで、前記金型を熱プレス機にセットし、温度をマトリクス樹脂の融点+30℃に設定し、圧力2MPaで3分間予備プレスし、さらに5MPaに加圧して10分間プレス処理した。その後、5MPaで冷却して、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック成形品1を得た。得られた成形品は厚さ0.96mm、密度1.35g/cm3であった。
【0097】
詳細には、本実施例では、プレシートはマトリクス樹脂として6ナイロンを含むので、その融点225℃よりも30℃高い温度である255℃に熱プレス機の温度を設定して、
成形加工を行った。なお、本発明において、プレシートがマトリクス樹脂として複数の熱可塑性樹脂を含むことがあるが、その場合は、熱プレス機の温度は配合部数が一番多い主となるマトリクス樹脂が溶融し、かつ分解しない温度に随時、設定する。
【0098】
[実施例2]
第1のキャリアシートとして、解繊チョップドファイバー(繊維長50mm)をカード機にてシート状にして次いでニードルパンチで絡めることによって製造した強化繊維シート(坪量300g/m2)を使用した以外は、実施例1のプレシートBと同様にして坪量800g/m2のプレシートCを得た。つまり、プレシートCは、プレシートBと強化繊維シートの坪量の点で異なる。また、第1のキャリアシートとしてティッシュを用いてプレシートを作製した後、第1のキャリアシートを剥がした以外は、実施例1のプレシートBと同様にして500g/m2プレシートDを得た。つまり、プレシートDは、プレシートBと強化繊維シートの有無の点で異なり、不織布マットのみからなる。
【0099】
上記プレシートCとDを20cm×20cmに裁断し、これにより得た裁断片を不織布マットと強化繊維シートとが交互に配置されるように各1枚積層した以外は、実施例1と同様にして、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック成形品2を得た。得られた成形品は厚さ0.96mm、密度1.35g/cm3であった。
【0100】
[比較例1]
解繊チョップドファイバー(繊維長13mm)と、6ナイロン繊維(繊度3.3dtex、繊維長4mm、融点225℃)と、芯鞘型の熱融着性複合繊維(PET/PET複合芯鞘繊維、芯部融点260℃、鞘部融点130℃、繊度2.2dtex、繊維長5mm)とを、45/45/10の割合(質量比)に変更した以外は実施例2のプレシートDと同様にして500g/m2のプレシートEを得た。
【0101】
得られたプレシートEを20cm×20cmに裁断し、これにより得た裁断片を3枚積層した以外は、実施例1と同様にして、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック成形品3を得た。得られた成形品は厚さ0.96mm、密度1.35g/cm3であった。
【0102】
[比較例2]
第1のキャリアシートおよび第2のキャリアシートとして、解繊チョップドファイバー(繊維長13mm)をカード機にてシート状にして次いでニードルパンチで絡めることによって製造した強化繊維シート(坪量100g/m2)を使用した以外は、実施例1のプレシートAと同様にしてプレシートFを、プレシートBと同様にしてプレシートGを得た。
【0103】
上記プレシートFとGを20cm×20cmに裁断し、これにより得た裁断片を強化繊維シートと不織布マットとが交互に配置されるように各1枚積層した以外は、実施例1と同様にして、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック成形品4を得た。得られた成形品は厚さ0.96mm、密度1.35g/cm3であった。
【0104】
<評価>
得られた成形品について、下記の方法により曲げ弾性率および曲げ強度、ならびに耐衝撃性を測定した。測定結果を図1の表に示す。
【0105】
(成形品の曲げ弾性率および曲げ強度の測定方法)
ダイヤモンドカッターを用いて、得られた成形品を幅15mm、長さ100mmに裁断して、試験片を作製した。その試験片について、厚みを測定した後、JIS K7074に記載の「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」に従い、3点曲げ試験を、速度5mm/分、支点間距離80mmの条件で行って、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。曲げ弾性率および曲げ強度の値は、成形品の剛性を判断する指標とした。数値が大きいほど、剛性が高く良好な成形品であると評価した。
【0106】
(成形品の耐衝撃性の測定方法)
ダイヤモンドカッターを用いて、得られた成形品を幅10mm、長さ100mmに裁断して、試験片を作製した。その試験片について、厚みを測定した後、JIS K7111−1に記載の「プラスチックのシャルピー衝撃試験」により耐衝撃性を測定した。数値が大きいほど、耐衝撃性は良好で衝撃に対して強いと評価した。
【0107】
(測定結果)
実施例1および2のプレシートから得た成形品は、不織布マットのみからなる比較例1、および強化繊維シートに含まれる炭素繊維の繊維長が相対的に短い比較例2と比べて、耐衝撃性に優れており、また、曲げ弾性率および曲げ強度は同等レベルであった。
【符号の説明】
【0108】
1 ウェブ形成装置
30 繊維混合物供給手段
41 第1のキャリアシート
51 第2のキャリアシート
A エアレイドウェブ
図1
図2