【文献】
Cellulose,2019年 1月14日,Vol.26 No.4,Page.2303-2316,doi: 10.1007/s10570-019-02257-8
【文献】
J. Chromatogr. A,2009年,Vol.1216,p.857-872
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(微細繊維状セルロース)
本発明は、カルバミド基を含有し、繊維幅が1000nm以下の硫酸エステル化繊維状セルロースに関する。本明細書においては、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースともいい、繊維幅が1000nm以下の硫酸エステル化繊維状セルロースを硫酸エステル化微細繊維状セルロースともいう。
【0015】
本発明の硫酸エステル化微細繊維状セルロースは、硫酸エステル基とカルバミド基を有する。このように、本発明の硫酸エステル化微細繊維状セルロースは、硫酸エステル基とカルバミド基の両方を含有することにより、質量減ピーク温度が高い微細繊維状セルロースを得ることができる。なお、本明細書において、微細繊維状セルロースの質量減ピーク温度が高いということは、微細繊維状セルロースの熱分解温度が高いことを意味している。このように、熱分解温度が高い微細繊維状セルロースにおいては、熱分解が生じにくく、結果として、微細繊維状セルロースの黄変、劣化(低分子化)等が抑制される。
【0016】
なお、本明細書において、質量減ピーク温度の高低は、同程度の微細化状態における微細繊維状セルロース間において比較されるものである。すなわち、微細繊維状セルロースを0.2質量%濃度のスラリーとした際に、同程度のヘーズを示す微細繊維状セルロース間において比較される。例えば、本発明の微細繊維状セルロースの質量減ピーク温度は、同程度のヘーズを示す微細繊維状セルロースであって、有機溶媒中において、セルロース繊維の硫酸エステル化反応を行うことで得られた微細繊維状セルロースに比べて、高くなっている。
【0017】
質量減ピーク温度の高低は、同程度の微細化状態における微細繊維状セルロース間において比較されるものであるため、その数値範囲はセルロース繊維の微細化の程度によって変動するものであるが、硫酸エステル化微細繊維状セルロースの質量減ピーク温度は、226.0℃以上であることが好ましく、230.0℃以上であることがより好ましく、235.0℃以上であることがさらに好ましく、240.0℃以上であることが特に好ましい。なお、硫酸エステル化微細繊維状セルロースの質量減ピーク温度は、300℃以下であることが好ましい。硫酸エステル化微細繊維状セルロースの質量減ピーク温度が上記範囲内であることは、硫酸エステル化微細繊維状セルロースの熱分解温度が高いことを示しており、結果として硫酸エステル化微細繊維状セルロースの熱分解が抑制される。
【0018】
硫酸エステル化微細繊維状セルロースの質量減ピーク温度は、硫酸エステル化微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した後、示差熱熱重量同時測定装置を用いて測定することができる。具体的には、凍結乾燥及び粉砕処理後の試料を、窒素雰囲気下で下記温度プログラムの通り昇温させ、1秒間に1度、重量を測定する。110℃での重量を基準として、温度に対して質量減少の微分値を取ったグラフ(例えば、
図1)を描画し、質量減少の微分値(DTG)が最も値が大きくなった点の温度を、質量減ピーク温度とする。なお、示差熱熱重量同時測定装置としては、セイコーインスツルメンツ株式会社製、TG/DTA6300を用いることができる。
<温度プログラム>
1.50℃で5分間保持
2.50℃→100℃へ昇温(昇温速度:10℃/分)
3.100℃で10分間保持
4.100℃→600℃へ昇温(昇温速度:10℃/分)
【0019】
本明細書において、カルバミド基は、下記構造式で表される基であることが好ましい。
【0021】
上記構造式中、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である。中でも、Rは水素原子であることが特に好ましい。
【0022】
また、硫酸エステル基は、下記構造式で表される基であることが好ましい。
【0024】
上記構造式中、Mは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、または芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、または水素イオン、アンモニウムイオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種または2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、工業的に利用し易いアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、またはカリウムイオンが好ましいが、特に限定されない。
【0025】
硫酸エステル化微細繊維状セルロースにおけるカルバミド基の導入量は、0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、硫酸エステル化微細繊維状セルロースにおけるカルバミド基の導入量は、2.00mmol/g以下であることが好ましい。ここで、硫酸エステル化微細繊維状セルロースにおけるカルバミド基の導入量は、硫酸エステル化微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料を、微量窒素分析することで算出することができる。微細繊維状セルロース単位質量あたりのカルバミド基の導入量(mmol/g)は、微量窒素分析で得られた微細繊維状セルロース単位質量あたりの窒素含有量(g/g)を窒素の原子量で除することで算出できる。
【0026】
硫酸エステル化微細繊維状セルロースにおける硫酸エステル基の導入量は、0.50mmol/g以上であることが好ましく、0.70mmol/g以上であることがより好ましく、1.00mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、硫酸エステル化微細繊維状セルロースにおける硫酸エステル基の導入量は、5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。ここで、硫酸エステル化微細繊維状セルロースにおける硫酸エステル基の導入量は、硫酸エステル化微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料の硫黄量を測定することで算出することができる。具体的には、硫酸エステル化微細繊維状セルロースを含むスラリーを凍結乾燥し、さらに粉砕した試料を、密閉容器中で硝酸を用いて加圧加熱分解した後、適宜希釈してICP−OESで硫黄量を測定する。供試した微細繊維状セルロースの絶乾質量で割り返して算出した値を微細繊維状セルロースの硫酸エステル基量(単位:mmol/g)とする。
【0027】
本発明の硫酸エステル化微細繊維状セルロースの製造工程では、水系溶媒中において、硫酸及び/又は硫酸アミドと、尿素及び/又は尿素誘導体を共存させることで、セルロース繊維の硫酸エステル化反応を行っている。これにより、硫酸エステル基とカルバミド基を有する硫酸エステル化セルロース繊維を得ることができる。そして、このような硫酸エステル化セルロース繊維は解繊処理が可能であるため、解繊処理を施すことにより微細化された硫酸エステル化セルロース繊維を得ることができる。このように、本発明においては、硫酸エステル化微細繊維状セルロースの製造工程で有機溶媒を用いることなく硫酸エステル化反応を進行させることができる。硫酸エステル化微細繊維状セルロースの製造工程では有機溶媒を用いる必要がないため、硫酸エステル化微細繊維状セルロースの製造工程は安全性が高い。また、硫酸エステル化微細繊維状セルロース製造コストも抑制される。さらに、硫酸エステル化微細繊維状セルロースを製造する際に有機溶媒を用いることがないため、環境への負荷も低減されている。
【0028】
本発明の微細繊維状セルロースにおいては、得られる硫酸エステル化繊維状セルロースに有機溶媒が残存しておらず、有機溶媒含有量が微細繊維状セルロースの絶乾重量に対して10000ppm以下である。なお、硫酸エステル化繊維状セルロース中における有機溶媒含有量は、1000ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、0ppmであることが特に好ましい。このように、硫酸エステル化繊維状セルロース中には、実質的に有機溶媒が含まれていないため、有機溶媒に起因する引火性や臭気が抑制された微細繊維状セルロースを得ることができる。また、有機溶剤を含まない系で製造しているため、適用用途の拡大も図ることができる。
【0029】
硫酸エステル化微細繊維状セルロースの繊維幅は1000nm以下であればよく、100nm以下であることがより好ましく、8nm以下であることがさらに好ましい。硫酸エステル化微細繊維状セルロースの繊維幅を上記範囲内とすることにより、硫酸エステル化微細繊維状セルロースをスラリーやシート状とした際には、その透明性を高めることができる。また、硫酸エステル化微細繊維状セルロースは優れた増粘効果を発揮することもできる。
【0030】
微細繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性を高めることができる。
【0031】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0032】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0033】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、微細繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0034】
微細繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0035】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0036】
微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば微細繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0037】
本実施形態における微細繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が上記範囲内にある微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0038】
(微細繊維状セルロースの製造方法)
本発明は、上述した硫酸エステル化微細繊維状セルロースの製造方法に関するものでもある。硫酸エステル化微細繊維状セルロースの製造方法は、セルロース原料に対し、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合し、100℃以上で実質的に水分がなくなるまで加熱する工程(a)と、工程(a)で得られたセルロース原料を微細化する工程(b)と、を含む。
【0039】
セルロース原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
【0040】
セルロース原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロース原料に加えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0041】
<硫酸エステル化工程>
工程(a)は、セルロース原料に対し、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合し、100℃以上で実質的に水分がなくなるまで加熱する工程である。すなわち、工程(a)は、硫酸エステル化工程である。硫酸エステル化工程は、硫酸及び/又は硫酸アミドを、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。硫酸エステル化工程では、セルロース原料が有する水酸基と硫酸及び/又は硫酸アミドが反応することで、硫酸エステル基を有するセルロース繊維(硫酸エステル基導入繊維)を得ることができる。
【0042】
硫酸エステル化工程では、セルロース原料に、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合する。セルロース原料に、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合する方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状のセルロース原料に対して、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態のセルロース原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態のセルロース原料を用いることが好ましい。セルロース原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。また、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合する際には、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体の両方が溶解した水溶液を添加することが好ましいが、硫酸及び/又は硫酸アミドを含む水溶液と、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を別々に調製し、これらを同時に添加してもよく、順次添加してもよい。硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液とセルロース原料を混合する際には、セルロース原料を水溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、セルロース原料に水溶液を滴下してもよい。また、過剰量の水溶液をセルロース原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰分の水溶液を除去してもよい。
【0043】
セルロース原料に対する硫酸及び/又は硫酸アミドの添加量は、特に限定されないが、たとえば硫酸及び/又は硫酸アミドの添加量を硫黄原子量に換算した場合において、セルロース原料(絶乾質量)に対する硫黄原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。セルロース原料に対する硫黄原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、セルロース原料に対する硫黄原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0044】
硫酸エステル化工程で使用する尿素及び/又は尿素誘導体としては、たとえば尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、および1−エチル尿素などが挙げられる。中でも、硫酸エステル化工程では尿素を用いることが特に好ましい。
【0045】
セルロース原料(絶乾質量)に対する尿素及び/又は尿素誘導体の添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
硫酸エステル化工程においては、セルロース原料に硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合した後、当該セルロース原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、硫酸エステル基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0047】
加熱処理工程では、実質的に水分がなくなるまで加熱をすることが好ましい。このため、加熱処理時間は、セルロース原料に含まれる水分量や、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液の添加量によって、変動するが、例えば、10秒以上10000秒以下とすることが好ましい。硫酸エステル化工程では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、硫酸エステル基とカルバミド基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0048】
加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0049】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分等を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、硫酸エステル化反応をより効率よく行うことができる。
【0050】
硫酸エステル化工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。
【0051】
セルロース原料に対する硫酸エステル基の導入量は、0.50mmol/g以上であることが好ましく、0.70mmol/g以上であることがより好ましく、1.00mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、セルロース原料に対する硫酸エステル基の導入量は、5.00mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましい。硫酸エステル基の導入量を上記範囲内とすることにより、セルロース原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、硫酸エステル基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの質量減ピーク温度をより高くすることができ、熱分解性が抑制された微細繊維状セルロースが得られやすくなる。
【0052】
セルロース原料に対するカルバミド基の導入量は、0.05mmol/g以上であることが好ましく、0.10mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、セルロース原料に対するカルバミド基の導入量は、2.00mmol/g以下であることが好ましい。カルバミド基の導入量を上記範囲内とすることにより、セルロース原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、カルバミド基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの質量減ピーク温度をより高くすることができ、熱分解性が抑制された微細繊維状セルロースが得られやすくなる。
【0053】
カルバミド基は、尿素及び/又は尿素誘導体の熱分解によって生じるイソシアネートがセルロースのヒドロキシ基と反応することで導入される。また、この熱分解は溶媒が実質的に無くなるまで加熱され、かつ、100℃以上、好ましくは尿素及び/又は尿素誘導体の融点(尿素であれば135℃)以上の高温で加熱されたときに起こりやすい。したがって、溶媒が実質的になくなるまで加熱され、かつ、高温で加熱されることで、セルロースにカルバミド基が導入されやすくなる。
【0054】
<洗浄工程>
微細繊維状セルロースの製造方法においては、硫酸エステル化工程の後に洗浄工程を設けてもよい。洗浄工程では、たとえば水や有機溶媒により、硫酸エステル基導入繊維を洗浄する。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。ただし、残留する有機溶媒が硫黄原子や、窒素原子を含む場合、硫酸基やカルバミド基が正しく定量されない場合がある。このため、微細繊維状セルロースが含む硫酸基や、カルバミド基を正確に算出する場合には、これらの基の定量に影響しない溶媒(例えば、水)で十分に洗浄することが好ましい。なお、定量が特に重要でない場合は、洗浄の程度は特に限定されない。
【0055】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースの製造方法においては、硫酸エステル化工程(工程(a))と、後述する解繊処理工程(工程(b))との間に、硫酸エステル基導入繊維に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、硫酸エステル基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。なお、本明細書においては、アルカリ処理工程を中和処理工程と呼ぶこともある。
【0056】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0057】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程における硫酸エステル基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば硫酸エステル基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、硫酸エステル化工程の後であってアルカリ処理工程の前に、硫酸エステル基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行った硫酸エステル基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0059】
アルカリ処理工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。アルカリ処理工程を2回以上行う場合には、各工程間に洗浄工程を設けることが好ましい。なお、カルバミド基の定量においては、硫酸基に対イオンとして残留するアンモニウムイオンが問題になることから、窒素を含まないアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)で複数回処理することが好ましい。
【0060】
<解繊処理工程>
硫酸エステル化微細繊維状セルロースの製造方法は、硫酸エステル化工程(工程(a))で得られたセルロース原料を微細化する工程(b)と、を含む。本明細書においては、微細化する工程を解繊処理工程ともいう。硫酸エステル基導入繊維を解繊処理工程で微細化することにより、硫酸エステル化微細繊維状セルロースが得られる。
【0061】
解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0062】
解繊処理工程においては、硫酸エステル基導入繊維を分散媒に希釈したスラリーを用いることが好ましい。分散媒としては、水を使用する。
【0063】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、硫酸エステル基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などの硫酸エステル基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0064】
(組成物)
本発明は、上述した硫酸エステル化微細繊維状セルロースを含む組成物に関するものでもある。組成物は、液状であってもよく、固形状やゲル状であってもよい。組成物が液状である場合、組成物は、硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーであってもよい。すなわち、本発明は、上述した製造工程で得られる硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーに関するものであってもよい。なお、本実施形態においては、硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーを濃縮したり、乾燥した後に、溶媒に再分散させることで硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーとしてもよい。ここで、硫酸エステル化微細繊維状セルロースを再分散させる際の溶媒としては、水や有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル等が挙げられる。なお、溶媒は、水と有機溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0065】
硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリー中における硫酸エステル化微細繊維状セルロースの含有量は、スラリーの全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、硫酸エステル化微細繊維状セルロースの含有量は、スラリーの全質量に対して、8.0質量%以下であることが好ましく、7.0質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
硫酸エステル化微細繊維状セルロースを水に分散させ、硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーとし、硫酸エステル化微細繊維状セルロース濃度が0.4質量%のスラリーとした場合、該スラリーの23℃における粘度は、100mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましく、2000mPa・s以上であることがさらに好ましい。また、スラリーの23℃における粘度は、200000mPa・s以下であることが好ましく、100000mPa・s以下であることがより好ましい。硫酸エステル化微細繊維状セルロース濃度が0.4質量%のスラリーの粘度は、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定することができる。測定条件は23℃とし、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度を測定する。また、測定対象のスラリーは測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置し、スラリーの液温を23℃とする。
【0067】
硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーを、硫酸エステル化微細繊維状セルロース濃度が0.2質量%のスラリーとした場合、該スラリーのヘーズは、60%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。スラリーのヘーズが上記範囲であることは、スラリーの透明度が高く、硫酸エステル化微細繊維状セルロースの微細化が良好であることを意味する。ここで、硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリー(微細繊維状セルロース濃度0.2質量%)のヘーズは、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)にスラリーを入れ、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
【0068】
硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーを、硫酸エステル化微細繊維状セルロース濃度が0.2質量%のスラリーとした場合、該スラリーの全光線透過率は、92%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。スラリーの全光線透過率が上記範囲であることは、スラリーの透明度が高く、硫酸エステル化微細繊維状セルロースの微細化が良好であることを意味する。ここで、硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリー(微細繊維状セルロース濃度0.2質量%)の全光線透過率は、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)にスラリーを入れ、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
【0069】
硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーは、溶媒と、硫酸エステル化微細繊維状セルロースに加えて他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、防腐剤(例えば、フェノキシエタノール)等を挙げることができる。また、硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーは、任意成分としては、親水性高分子や有機イオン等を含有していてもよい。
【0070】
親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましく、含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等の親水性高分子;グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等の親水性低分子が挙げられる。
【0071】
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn−プロピルオニウムイオン、テトラn−ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
【0072】
(シート)
本発明は、上述した硫酸エステル化微細繊維状セルロースを含むシートに関するものであってもよい。このようなシートは、上述したような硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工するか、もしくは当該スラリーを抄紙することで形成されるものであることが好ましい。
【0073】
塗工工程では、硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
【0074】
抄紙工程では、抄紙機により硫酸エステル化微細繊維状セルロース含有スラリーを抄紙する。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、特に限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
【0075】
各工程の後には、乾燥工程を設けてもよい。乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法を採用することができる。
【0076】
シートの坪量は、10g/m
2以上であることが好ましく、20g/m
2以上であることがより好ましい。また、シートの坪量は、200g/m
2以下であることが好ましく、180g/m
2以下であることがより好ましい。
【0077】
(用途)
本発明の硫酸エステル化微細繊維状セルロースは、例えば、食品、化粧品、セメント、塗料(自動車、船舶、航空機等の乗り物塗装用、建材用、日用品用など)、インク、医薬品などへの添加物として用いることができる。また、本発明の硫酸エステル化微細繊維状セルロースは、樹脂系材料やゴム系材料に添加したりすることで、日用品への応用も可能である。さらに、本発明の硫酸エステル化微細繊維状セルロースは、樹脂やエマルジョンと混合し補強材として用いることもできるし、繊維状セルロース含有組成物のスラリーを用いて製膜し、各種シートを作製してもよい。シートは、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。
【実施例】
【0078】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0079】
<実施例1(製造例1)>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m
2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
【0080】
この原料パルプに対して硫酸エステル化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、アミド硫酸と尿素の混合水溶液を添加して、アミド硫酸38質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で19分間加熱し、パルプ中のセルロースに硫酸基を導入し、硫酸エステル化パルプを得た。
【0081】
次いで、得られた硫酸エステル化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、硫酸エステル化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0082】
次いで、洗浄後の硫酸エステル化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後の硫酸エステル化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下の硫酸エステル化パルプスラリーを得た。次いで、当該硫酸エステル化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施された硫酸エステル化パルプを得た。次いで、中和処理後の硫酸エステル化パルプに対して、上記洗浄処理を行い、硫酸エステル化パルプ(1回中和済み)を得た。
【0083】
得られた硫酸エステル化パルプに、上記中和処理と、洗浄処理をさらに4回繰返して、硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)を得た。
【0084】
得られた硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)にイオン交換水を添加後、撹拌し、固形分濃度が0.5質量%のスラリーにした。このスラリーを、解繊処理装置(高速回転解繊処理装置 クレアミックス2.2S エム・テクニック社製)を用いて21500回転/分の条件で30分間解繊処理を行い、繊維幅が3〜5nmである微細繊維状セルロースを含有するスラリーを得た。
【0085】
<実施例2(製造例2)>
熱風乾燥機での加熱時間を13分にした以外は、製造例1と同様にして、硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)及び繊維幅が3〜5nmである微細繊維状セルロースを含有するスラリーを得た。
【0086】
<実施例3(製造例3)>
アミド硫酸の代わりに、硫酸を用いた以外は、製造例1と同様にして、硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)及び繊維幅が3〜5nmである微細繊維状セルロースを含有するスラリーを得た。
【0087】
<比較例1(製造例4)>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m
2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプをハンドミキサー(大阪ケミカル製、ラボミルサーPLUS)を用い、回転数20,000rpmで15秒処理して綿状のフラッフィングパルプ(固形分93質量%)にした。
【0088】
得られたフラッフィングパルプ100質量部(絶乾質量)に、300質量部のアミド硫酸を1667質量部のDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解させた溶液(合計1967質量部)を加えた後、50℃にて密閉条件で540分間加熱し、パルプ中のセルロースに硫酸基を導入し、硫酸エステル化パルプのDMF懸濁液を得た。
【0089】
次いで、得られた硫酸エステル化パルプのDMF懸濁液(合計2067質量部)に対して洗浄処理1を行った。洗浄処理1では、硫酸エステル化パルプのDMF懸濁液2067質量部に、10000質量部のイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を10回繰り返し、未反応のアミド硫酸および、溶媒のDMFを十分に洗い流した。さらに、10回濾過後のろ液の電気伝導度が100μS/cm以下であることを確認した。
【0090】
次いで、洗浄後の硫酸エステル化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後の硫酸エステル化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下の硫酸エステル化パルプスラリーを得た。次いで、当該硫酸エステル化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施された硫酸エステル化パルプを得た。次いで、中和処理後の硫酸エステル化パルプ100質量部(絶乾質量)に対して、10000質量部のイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰返して洗浄処理2を行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。この操作により、硫酸エステル化パルプ(1回中和済み)を得た。
【0091】
得られた硫酸エステル化パルプに、上記中和処理と、洗浄処理2をさらに4回繰返して、硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)を得た。
【0092】
得られた硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)にイオン交換水を添加後、撹拌し、固形分濃度が0.5質量%のスラリーにした。このスラリーを、解繊処理装置(高速回転解繊処理装置 クレアミックス2.2S エム・テクニック社製)を用いて21500回転/分の条件で30分間解繊処理を行い、繊維幅が3〜5nmである微細繊維状セルロースを含有するスラリーを得た。
【0093】
<比較例2(製造例5)>
密閉条件での加熱時間を420分にした以外は、製造例4と同様にして、硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)及び繊維幅が3〜5nmである微細繊維状セルロースを含有するスラリーを得た。
【0094】
<比較例3(製造例6)>
密閉条件での加熱時間を180分にした以外は、製造例4と同様にして、硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)及び繊維幅が3〜5nmである微細繊維状セルロースを含有するスラリーを得た。
【0095】
<比較例4(製造例7)>
DMFの代わりに、水を用いた以外は製造例4と同様にしたが、微細化装置の閉塞が起こり、微細繊維状セルロース含有スラリーが得られなかった。
【0096】
<赤外線吸収スペクトルの測定>
製造例1〜6で得られた硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)及び微細繊維状セルロースに対しFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、製造例1〜6で得られた硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)及び微細繊維状セルロースでは1220−1260cm
−1付近に硫酸エステル基のS=Oに基づく吸収が観察され、パルプに硫酸エステル基が付加されていることが確認された。
【0097】
<X線回折分析>
製造例1〜6で得られた硫酸エステル化パルプ(5回中和済み)を供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。また、製造例1〜6で得られた微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることも確認された。
【0098】
<測定及び評価>
製造例1〜6で得た微細繊維状セルロース含有スラリーについて、後述する方法により液ヘーズ、全光線透過率、粘度を測定した。また、凍結乾燥後にセルロースに導入された硫酸エステル基量、カルバミド基量、質量減ピーク温度を測定した。
【0099】
<微細繊維状セルロース含有スラリーのヘーズの測定>
微細繊維状セルロース含有スラリーのヘーズは、解繊処理工程後の微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いて、JIS K 7136に準拠して測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、測定対象のスラリーは測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時のスラリーの液温は23℃であった。
【0100】
<微細繊維状セルロース含有スラリーの全光線透過率の測定>
微細繊維状セルロース含有スラリーの全光線透過率は、解繊処理工程後の微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いて、JIS K 7361に準拠して測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、測定対象のスラリーは測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時のスラリーの液温は23℃であった。
【0101】
<微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度の測定>
微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度は、次のように測定した。まず、微細繊維状セルロース含有スラリーを固形分濃度が0.4質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌した。次いで、得られたスラリーの粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値をスラリーの粘度とした。また、測定対象のスラリーは測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時のスラリーの液温は23℃であった。
【0102】
<微細繊維状セルロース含有スラリーの凍結乾燥>
製造例1〜6で得られた微細繊維状セルロース含有スラリーを、冷凍庫で凍結させた後、凍結乾燥機(ラブコンコ社製FreeZone)で3日間乾燥させた。得られた凍結乾燥物をハンドミキサー(大阪ケミカル製、ラボミルサーPLUS)を用い、回転数20,000rpmで60秒、粉砕処理を行って粉末状にした。
【0103】
<硫酸エステル基量の測定>
微細繊維状セルロースの硫酸エステル基量は、次のように測定した。まず、凍結乾燥及び粉砕処理後の試料を密閉容器中で硝酸を用いて加圧加熱分解した。その後、適宜希釈してICP−OESで硫黄量を測定した。供試した微細繊維状セルロースの絶乾質量で割り返して算出した値を微細繊維状セルロースの硫酸エステル基量(単位:mmol/g)とした。
【0104】
<カルバミド基量の測定>
微細繊維状セルロースのカルバミド基量は、凍結乾燥及び粉砕処理後の試料を三菱化学アナリック社製の微量全窒素分析装置TN−110に供試して測定した。なお、有機溶媒由来又はイオン性の窒素は、中和処理、洗浄処理の過程で除かれていた。微細繊維状セルロース単位質量あたりのカルバミド基の導入量(mmol/g)は、微量窒素分析で得られた微細繊維状セルロース単位質量あたりの窒素含有量(g/g)を窒素の原子量で除することで算出した。
【0105】
<質量減ピーク温度の測定>
質量減ピーク温度は、示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツルメンツ株式会社(現株式会社日立ハイテクサイエンス)製、TG/DTA6300)を用いて測定した。具体的には、凍結乾燥及び粉砕処理後の試料5〜10mgを、窒素雰囲気下で下記温度プログラムの通り昇温させ、1秒間に1度、重量を測定した。110℃での重量を基準として、温度に対して質量減少の微分値を取ったグラフを描画し、質量減少の微分値(DTG)が最も値が大きくなった点の温度を、質量減ピーク温度とした。
図1では、質量減ピーク温度の算出に用いたグラフ(実施例1、比較例1を記載)を例示した。
図1において、DTGが最大となる温度が質量減ピーク温度となる。
<温度プログラム>
1.50℃で5分間保持
2.50℃→100℃へ昇温(昇温速度:10℃/分)
3.100℃で10分間保持
4.100℃→600℃へ昇温(昇温速度:10℃/分)
【0106】
【表1】
【0107】
実施例では、質量減ピーク温度の高い微細繊維状セルロースが得られていた。質量減ピーク温度の上昇により、微細繊維状セルロースの着色が抑制される傾向が見られる。なお、比較例4では、微細化装置の閉塞が起こり、微細繊維状セルロース含有スラリーが得られなかった。これは、100℃以下で、密閉条件での反応のため、水が蒸発せず、脱水によるエステル化反応が起こらなかったものと推察された。
【0108】
また、実施例で得られた微細繊維状セルロース含有スラリー中においては、有機溶媒の含有が検出されなかった。なお、微細繊維状セルロースの絶乾質量に対する有機溶媒の含有量は、実質的に0ppmであった。
【0109】
図2は、実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた微細繊維状セルロース含有スラリーのヘーズと質量減ピーク温度の関係を示すグラフである。
図2では、同等の微細化処理後に得られる微細繊維状セルロース含有スラリーの透明度(ヘーズが低いほど高透明)に対して、質量減ピーク温度が示されている。このグラフから明らかなように、実施例では比較例に対して同等の透明度であっても高い熱分解ピーク温度を示した。
【0110】
なお、実施例で得られた微細繊維状セルロース含有スラリーからはシートが得られることも確認された。具体的には、微細繊維状セルロース含有スラリー(0.5質量%)100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(住友精化社製、PEO−18)の0.5質量%水溶液を20質量部添加し、塗工液を得た。次いで、得られるシート(上記塗工液の固形分から構成される層)の仕上がり坪量が50g/m
2になるように塗工液を計量して、市販のアクリル板に塗工し、50℃の恒温乾燥機にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mm、高さ5cmの金枠)を配置した。次いで、上記アクリル板から乾燥後のシートをはく離して微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【解決手段】本発明は、カルバミド基を含有し、繊維幅が1000nm以下の硫酸エステル化繊維状セルロース、硫酸エステル化繊維状セルロースを含む組成物及び硫酸エステル化繊維状セルロースを含むシートに関する。また、本発明は、セルロース原料に対し、硫酸及び/又は硫酸アミド、並びに、尿素及び/又は尿素誘導体を含む水溶液を混合し、100℃以上で実質的に水分がなくなるまで加熱する工程(a)と、前記工程(a)で得られたセルロース原料を微細化する工程(b)と、を含む、硫酸エステル化繊維状セルロースの製造方法に関するものでもある。