(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量平均分子量が45,000以上のポリアリレート(A)0.5質量部以上15質量部以下、重量平均分子量が45,000以下の芳香族ポリカーボネート(B)99.5質量部以下85質量部以上を含有する組成物から形成されたフィルムであって、
二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムとの動摩擦係数であって、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で測定した動摩擦係数が、2.0以下であり、
前記フィルムの厚みが10μm以上300μm以下である、フィルム。
重量平均分子量が45,000以上のポリアリレート(A)0.5質量部以上15質量部以下、重量平均分子量が45,000以下の芳香族ポリカーボネート(B)99.5質量部以下85質量部以上を含有する組成物を、溶融状態でシート状に押し出し、一対のロールで圧着して作製するフィルムの製造方法であって、前記一対のロールの少なくとも1つのロール表面のタイプA型のデュロメーター硬度が10〜99である、フィルムの製造方法。
前記フィルムは、二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムとの動摩擦係数であって、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で測定した動摩擦係数が2.0以下である、請求項6に記載のフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0010】
本発明のフィルムは、重量平均分子量が45,000以上のポリアリレート(A)0.5質量部以上15質量部以下、重量平均分子量が45,000以下の芳香族ポリカーボネート(B)99.5質量部以下85質量部以上を含有する組成物から形成されたフィルムであって、前記フィルムの厚みが10μm以上300μm以下であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、高い摺動性を有し、かつ、濁りが抑制された(低ヘイズ)透明のフィルムを提供可能になる。さらに、全光線透過率も高くできる。すなわち、本発明のフィルムには、フィルムの搬送性の向上や巻きジワ防止の観点から、フィルム同士の密着の抑制(アンチブロッキング性)が求められる。アンチブロッキングとは、フィルム同士が密着しても容易に剥離できるようにすることをいう。つまり、本発明の組成物から形成されるフィルムには、スタックしない程度の摺動性が求められる。
図2(a)は、平滑なポリカーボネートフィルムの上で、平滑なポリカーボネートフィルムを滑らせる状態を示す模式図である。このように平滑なポリカーボネートフィルムの上に、平滑なポリカーボネートフィルムを載せた場合、摺動性がない。このようなポリカーボネートフィルムに摺動性を付与するには、
図2(b)に模式図を示すように、フィルムの表面に微細な凹凸を設けることが考えられる。フィルムの表面に微細な凹凸を設けると、フィルム同士の接触面積が減り、高い摺動性が達成される。なお、
図2において、21は表面が平滑なポリカーボネートフィルムであり、22は表面に微細な凹凸を設けたポリカーボネートフィルムである。
このようにフィルムの表面に微細な凹凸を設ける手段としては、既に公知の方法が知られている。例えば、表面に微細な凹凸を有するロールを用いて、フィルムの表面に微細な凹凸を形成する方法が挙げられる。この方法では、表面に微細な凹凸を有するロールの間に、溶融したフィルムを通過させ、微細な凹凸を形成する。しかしながら、表面に微細な凹凸を有するロールを用いる方法では、長期使用によるロールの摩耗によって、フィルム表面に転写された微細な凹凸形状が変化してしまう場合がある。また、別の方法として、フィルムに微粒子を添加して、微粒子によって、フィルムの表面に微細な凹凸を形成する方法もある。しかしながら、微粒子を添加する方法では、微粒子と樹脂の屈折率の違いにより、透明性が損なわれる場合がある。
そこで、本発明では、新たな方法として、ポリマーブレンドによって、フィルムの表面に微細な凹凸を形成することとした。具体的には、以下のメカニズムによると推定される。
すなわち、
図3は、本発明のフィルム30の断面方向からみた模式図であって、Xはポリアリレート(A)を、Yは芳香族ポリカーボネート(B)を示している。すなわち、本発明のフィルムでは、ポリアリレート(A)と芳香族ポリカーボネート(B)を用い、両者の相溶性があえて悪くすることによって、海島構造を作製し、摺動性を高めている。より具体的には、重量平均分子量が45,000以上のポリアリレート(A)と、重量平均分子量が45,000以下の芳香族ポリカーボネート(B)を採用することにより、両者の相溶を抑制し、フィルムの表面に微細な凹凸を形成している。また、芳香族ポリカーボネート(B)99.5質量部以下85質量部以上に対し、ポリアリレート(A)の量を15質量部以下とすることにより、濁りを抑制し、透明性の高いフィルムが得られたと推測される。
【0011】
本発明で用いる組成物は、ポリアリレート(A)および芳香族ポリカーボネート(B)、ならびに、必要に応じ配合される、酸化防止剤(C)、エステル交換防止剤(D)、離型剤(E)、および、他の成分とからなる。
【0012】
<ポリアリレート(A)>
本発明で用いる組成物は、重量平均分子量が45,000以上のポリアリレート(A)を含む。このように比較的高分子量のポリアリレートを、比較的低分子量の芳香族ポリカーボネート(B)とブレンドすることにより、ポリアリレート(A)と芳香族ポリカーボネート(B)の相溶性が高くなりすぎないように調整している。
前記ポリアリレート(A)の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、55,000以上であることがより好ましく、60,000以上であることがさらに好ましい。また、前記ポリアリレート(A)の重量平均分子量は、80,000以下であることが好ましく、75,000以下であることがより好ましく、70,000以下であることがさらに好ましく、70,000未満であることが一層好ましく、66,000以下であることがより一層好ましい。
ポリアリレート(A)の重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
組成物がポリアリレート(A)を2種以上含む場合の重量平均分子量は、ポリアリレート(A)の混合物の重量平均分子量とする(以下、他の物性についても同じ。また、他の樹脂成分についても同じ。)。
【0013】
ポリアリレート(A)の極限粘度は、0.49dL/g以上であることが好ましく、0.55dL/g以上であることがより好ましく、0.59dL/g以上であることがさらに好ましく、0.62dL/g以上であることが一層好ましい。前記ポリアリレート(A)の極限粘度の下限値を0.49dL/g以上とすることにより、フィルムを作成した際に摺動性がより効果的に発揮される。また、ポリアリレート(A)の極限粘度は、0.84dL/g以下であることが好ましく、0.79dL/g以下であることがより好ましく、0.74dL/g以下であることがさらに好ましい。前記ポリアリレート(A)の極限粘度の上限値を0.84dL/g以下とすることにより、フィルムのヘイズの上昇をより効果的に抑制することが可能になる。
ポリアリレート(A)の極限粘度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0014】
本発明で用いるポリアリレート(A)は、芳香族ジカルボン酸由来の構成単位とビスフェノール由来の構成単位とから構成される芳香族ポリエステルであることが好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。
ビスフェノールとしては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは、2種以上混合して使用してもよい。
【0015】
ポリアリレート(A)の製造方法は、特に限定はされず、公知の方法により得られたものを使用することができる。界面重合法、溶融重合法で得られたポリアリレート(A)は好適に用いることができる。
【0016】
<芳香族ポリカーボネート(B)>
本発明で用いる組成物は、重量平均分子量が45,000以下の芳香族ポリカーボネート(B)を含む。このように比較的低分子量の芳香族ポリカーボネートを、比較的高分子量のポリアリレートとブレンドすることにより、ポリアリレート(A)と芳香族ポリカーボネート(B)の相溶性が高くなりすぎないように調整している。
前記芳香族ポリカーボネート(B)の重量平均分子量は、40,000以下であることが好ましく、35,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることがさらに好ましく、25,000以下であることが一層好ましい。また、前記芳香族ポリカーボネート(B)の重量平均分子量の下限値は、20,000以上であることが好ましい。
芳香族ポリカーボネート(B)の重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0017】
本発明において、芳香族ポリカーボネート(B)の極限粘度は、0.30dL/g以上であることが好ましく、0.35dL/g以上であることがより好ましく、0.40dL/g以上であることがさらに好ましい。上限としては、1.0dL/g以下であることが好ましく、0.50dL/g以下であることがより好ましく、0.48dL/g以下であることがさらに好ましい。
極限粘度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0018】
芳香族ポリカーボネート(B)のガラス転移温度(Tg)は、140℃以上であることが好ましく、145℃以上であることがより好ましい。上限としては、160℃以下であることが好ましい。上限は高いほど好ましいが、例えば、155℃以下、さらには150℃以下であっても十分に性能要求を満たすものである。
芳香族ポリカーボネート(B)のガラス転移温度(Tg)は、下記のDSCの測定条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定する。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を開始ガラス転移温度とし、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を終了ガラス転移温度とし、開始ガラス転移温度と終了ガラス転移温度の中間地点をガラス転移温度(Tg)とする。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:250℃、降温速度:20℃/分とする。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、(株)日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用することができる。
【0019】
芳香族ポリカーボネート(B)は、ビスフェノールA型ポリカーボネートであることが好ましい。ビスフェノールA型ポリカーボネートとは、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位を有する樹脂をいい、下記式(B−1)で表される構成単位を有していることが好ましい。式中の*は他の構成単位や末端基との結合位置を表す。
【化1】
式(1)中、X
1は下記構造を表す。
【化2】
R
5およびR
6は、アルキル基または水素原子であり、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
式(B−1)は下記式(B−2)で表されることが好ましい。
【化3】
【0020】
ビスフェノールA型ポリカーボネートにおける、式(B−1)で表される構成単位の含有量は、両末端を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(B−1)で表される構成単位であってもよい。ビスフェノールA型ポリカーボネートとして特に好ましくは実質的に両末端を除く全構成単位が式(B−1)の構成単位で構成された樹脂が挙げられる。ここでの実質的に両末端を除く全構成単位とは、両末端を除く全構成単位の99.0モル%以上であることを意味し、99.5モル%以上が好ましく、99.9モル%以上がより好ましい。
ビスフェノールA型ポリカーボネートは、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018−154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0021】
ビスフェノールA型ポリカーボネートの製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0022】
<ポリアリレート(A)と芳香族ポリカーボネート(B)のブレンド>
本発明で用いる組成物は、ポリアリレート(A)0.5質量部以上15質量部以下に対し、芳香族ポリカーボネート(B)99.5質量部以下85質量部以上を含有する。このようなブレンド比とすることにより、フィルムの表面に微細な凹凸を形成することが可能になる。
本発明で用いる組成物は、ポリアリレート(A)と芳香族ポリカーボネート(B)のブレンド比が、3〜15質量部:97〜85質量部であることがより好ましい。
本発明で用いる組成物は、また、ポリアリレート(A)を、組成物中、0.5〜15質量%の割合で含むことが好ましい。本発明で用いる組成物は、また、芳香族ポリカーボネート(B)を、組成物中、85〜99.5質量%の割合で含むことが好ましい。ただし、ポリアリレート(A)と芳香族ポリカーボネート(B)の合計が100質量%を超えることはない。
本発明で用いる組成物の一実施形態として、ポリアリレート(A)と芳香族ポリカーボネート(B)の合計含有量が、組成物の95質量%以上である態様、さらには、組成物の97質量%以上である態様、特には組成物の98質量%以上である態様が例示される。
本発明で用いる組成物は、ポリアリレート(A)を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計が上記範囲となることが好ましい。
本発明で用いる組成物は、芳香族ポリカーボネート(B)を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計が上記範囲となることが好ましい。
【0023】
また、ポリアリレート(A)の重量平均分子量と芳香族ポリカーボネート(B)の重量平均分子量の差(Mwa−Mwb)は、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることがさらに好ましい。また、前記差(Mwa−Mwb)は、60,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。
【0024】
<酸化防止剤(C)>
本発明で用いる組成物は、酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられ、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)の少なくとも1種が好ましく、特にリン系酸化防止剤が好ましい。また両者を併用することも好ましい。
リン系酸化防止剤としては、以下の式(1)または(2)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【化4】
(式(1)中、R
1およびR
2はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜30のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基を表す。)
【化5】
(式(2)中、R
3〜R
7は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数6〜20のアリール基または炭素原子数1〜20のアルキル基を表す。)
【0025】
上記式(1)中、R
1、R
2で表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜10の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。R
1、R
2がアリール基である場合、以下の一般式(1−a)、(1−b)、または(1−c)のいずれかで表されるアリール基が好ましい。
【0026】
【化6】
(式(1−a)中、R
Aは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。式(1−b)中、R
Bは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。)
【0027】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、特開2019−002023号公報の段落0041に記載のフェノール系酸化防止剤および特開2019−056035号公報の段落0033〜0034に記載のフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
その他、酸化防止剤の詳細は、特開2017−031313号公報の段落0057〜0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0028】
組成物中の酸化防止剤の含有量は、含有する場合、ポリアリレート(A)および芳香族ポリカーボネート(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上であり、より好ましくは0.007質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上である。また、酸化防止剤の含有量の上限値は、ポリアリレート(A)および芳香族ポリカーボネート(B)の合計100質量部に対して、好ましくは4質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下、一層好ましくは0.1質量部以下である。
酸化防止剤の含有量を0.005質量部以上とすることにより、フィルムの透明性がより向上する傾向にある。また、酸化防止剤の含有量を4質量部以下とすることにより、湿熱安定性が向上する傾向にある。
また、酸化防止剤としてリン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤(好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)を組み合わせて使用する場合、その含有量は、ポリアリレート(A)および芳香族ポリカーボネート(B)の合計100質量部に対して、リン系酸化防止剤を0.001〜0.2質量部、フェノール系酸化防止剤を0.001〜0.2質量部の範囲で含有することが好ましい。
酸化防止剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
<エステル交換防止剤(D)>
本発明で用いる組成物は、エステル交換防止剤を含有することが好ましい。
エステル交換防止剤としては、リン系エステル交換防止剤および硫黄系エステル交換防止剤が挙げられる。
リン系エステル交換防止剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられる。
エステル交換防止剤としては、国際公開第2015/190162号の段落0035〜0039、特開2019−002023号公報の段落0037、特開2018−199745号公報の段落0041の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0030】
組成物中のエステル交換防止剤の含有量は、含有する場合、ポリアリレート(A)および芳香族ポリカーボネート(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.007質量部以上である。また、エステル交換防止剤の含有量の上限値は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下、一層好ましくは0.1質量部以下である。
エステル交換防止剤は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0031】
<離型剤(E)>
本発明で用いる組成物は、離型剤を含有することが好ましい。
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができ、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルが好ましい。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例として、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。
その他、離型剤としては、特開2017−226848号公報の段落0032、特開2018−199745号公報の段落0056に記載の離型剤を用いることができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
組成物中の離型剤の含有量は、含有する場合、ポリアリレート(A)および芳香族ポリカーボネート(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、また、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
離型剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0033】
<その他の成分>
上記組成物は、上記の他、他の熱可塑性樹脂、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記他の成分の合計量は、含有する場合、組成物の0.001〜5質量%であることが好ましく、0.001〜2質量%であることがより好ましく、0.01〜1質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
<フィルムの特性>
本発明のフィルムは、厚みが10μm以上300μm以下である。厚みを300μm以下とすることにより、透明なフィルムとすることができる。また、10μm未満だと表面に形成されるポリアリレート(A)の領域(島)が多すぎ、ヘイズが高くなってしまう。
本発明のフィルムの厚みは、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であってもよい。また、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることが一層好ましく、80μm以下であることがより一層好ましく、60μm以下であることがさらに一層好ましい。
【0035】
本発明のフィルムは、また、二乗平均平方根粗さが0.093μmのフィルムとの間の動摩擦係数が、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましい。下限値は、例えば、0.1以上である。
動摩擦係数は、スレッド100mm/分、ロードセル10Nの条件で測定した値であり、より具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0036】
本発明のフィルムは、D65光源10°視野の条件における全光線透過率が、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることがさらに好ましい。前記光線透過率の上限は100%が理想であるが、94%以下であっても十分に要求性能を満たすものである。
全光線透過率は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0037】
本発明のフィルムは、ヘイズが10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが一層好ましい。下限値については、0%が理想であるが、0.1%以上であっても実用レベルである。
ヘイズは、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0038】
<用途>
本発明のフィルムは、マスキングフィルムとして好ましく用いられる。より好ましくは、透明導電性フィルムの保護フィルムとして用いられる。特に、本発明のフィルムと、粘着剤層、フィルム基材および電極層をこの順で有する、透明導電性フィルムとして好ましく用いられる。
また、上記透明導電性フィルムは、タッチパネルのフィルムセンサー、電子ペーパーや色素増感型太陽電池、タッチセンサー等に用いる透明導電性フィルムとして好ましく用いられる。
また、本発明のフィルムは、上記以外でも、高い摺動性と透明性が求められる用途のフィルムに好ましく用いられる。
【0039】
<フィルムの製造方法>
本発明のフィルムの製造方法は、重量平均分子量が45,000以上のポリアリレート(A)0.5質量部以上15質量部以下、重量平均分子量が45,000以下の芳香族ポリカーボネート(B)99.5質量部以下85質量部以上を含有する組成物を、溶融状態でシート状に押し出し、一対のロールで圧着して作製するフィルムの製造方法であって、前記一対のロールの少なくとも1つのロール表面のタイプA型のデュロメーター硬度が10〜99であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、芳香族ポリカーボネート(B)中に、ポリアリレート(A)の島が形成されたフィルムが得られる。
以下、本発明の製造方法の詳細について説明する。
図4は、本発明のフィルムの製造方法を示す模式図の一例である。本発明の製造方法では、例えば、
図4に示すように、上記ポリアリレート(A)および芳香族ポリカーボネート(B)を含有する組成物41を、ダイス42から溶融状態で、シート状に押し出す。溶融状態かつシート状の組成物41は、一対のロール43(第一のロール43aと第二のロール43b)の間を通過する際に、前記一対のロール43で圧着される。このとき、第一ロール43aおよび第二ロール43bの少なくとも1つについて、そのロール表面のタイプA型のデュロメーター硬度が10〜99のロールを用いる。
図4では、第一ロール43aが表面のデュロメーター硬度が10〜99のロールである。すなわち、第一ロール43aとして、表面が柔らかいロールを用いる。表面のデュロメーター硬度が10〜99のロールを用いることにより、ポリアリレート(A)のうち、芳香族ポリカーボネート(B)と相溶していない部分がフィルムの表面に出てきて、フィルムの表面に微細な凹凸を形成する。結果として、高い摺動性を達成することができる。ロール表面のデュロメーター硬度は、30以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、また、80以下であることが好ましく、75以下であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、適度な柔らかさのロールとなる。表面のデュロメーター硬度が10〜99であるロールは、例えば、鏡面ゴムロールが例示される。
表面のデュロメーター硬度が10〜99のロールの温度は、30〜90℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましい。
【0040】
図4では、組成物が上記一対のロール43(第一ロール43aと第二ロール43b)の間を通過した後、さらに搬送ロール44を通過する。
表面のデュロメーター硬度が10〜99であるロール以外のロール、例えば、
図4では、第二ロール43bと搬送ロール44は、金属製のロールが挙げられる。金属製のロールは、デュロメーター硬度が測定限界である100に達する。金属製のロールとしては、鏡面剛体ロールや金属弾性ロールが例示される。また、表面のデュロメーター硬度が10〜99のロール以外のロールの表面温度は、70〜170℃であることが好ましく、100〜160℃であることがより好ましい。
【0041】
本発明では、第一ロールおよび第二ロールの少なくとも1つのロール表面のデュロメーター硬度が上記範囲であればよいが、第一ロールおよび第二ロールの両方の表面が上記デュロメーター硬度を満たしていてもよい。この場合、フィルムの表面に所望の微細な凹凸が形成される。
【0042】
上記一対のロール43(第一ロール43aと第二ロール43b)の間を通過した後のフィルムは、搬送ロール44を通過する間、あるいは、冷却ゾーンや、冷却ロールを通過することによって、冷却される。冷却後、さらに巻き取られてよい。すなわち、本発明では、芯材と、芯材に巻き取られた本発明のフィルムとを有する巻取体とすることができる。
上記フィルムの製造方法で得られるフィルムは、フィルムの厚みが10μm以上300μm以下であることが好ましい。その他、本発明のフィルムの製造方法で得られるフィルムの詳細は、上述の本発明のフィルムと同様である。
また、上記で得られた本発明のフィルムと、粘着剤層と、フィルム基材と、電極層とを積層することにより、透明導電性フィルムを製造することもできる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0044】
<原料>
・ポリアリレート(A)
(A1)界面重合法により得られた芳香族ポリアリレート(ユニチカ社製、U−パウダー Dタイプ、重量平均分子量63,000、極限粘度0.65dL/g)
(A2)界面重合法により得られた芳香族ポリアリレート(ユニチカ社製、U−パウダー Lタイプ、重量平均分子量40,800、極限粘度0.48dL/g)
【0045】
・ポリカーボネート(B)
(B1)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、E−2000F、重量平均分子量52,800、粘度平均分子量27,000、極限粘度0.54dL/g、Tg151℃)
(B2)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、S−3000F、重量平均分子量41,300、粘度平均分子量21,000、極限粘度0.43dL/g、Tg148℃)
【0046】
・酸化防止剤(C)
(C1)トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(リン系酸化防止剤、ADEKA株式会社製、アデカスタブ2112)
(C2)テトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert-ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリトリトール(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ADEKA株式会社製アデカスタブAO−60)
【0047】
・エステル交換防止剤(D)
(D1)オクタデシルホスファイト(ADEKA株式会社製、AX−71)
【0048】
・離型剤(E)
(E1)グリセリンモノステアレート(理研ビタミン株式会社製、リケマールS−100A)
【0049】
<重量平均分子量の測定方法>
ポリアリレート(A)および芳香族ポリカーボネート(B)の重量平均分子量(Mw)のゲル浸透クロマトグラフィーによる測定は、具体的には以下のようにして行った。
ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC−20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF−804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はRID−10A(島津製作所社製)のRI検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
上記ゲル浸透クロマトグラフィー装置、カラム、検出器が入手困難な場合、同等の性能を有する他の装置等を用いて測定する。
【0050】
<極限粘度の測定方法>
樹脂の極限粘度[η](単位dL/g)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用して測定した。測定温度は25℃条件とした。ウベローデ粘度計にて、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[η
sp]を測定した。得られた比粘度の値と濃度から下記式により極限粘度を算出した。
【数1】
【0051】
実施例1〜5、比較例1〜3
<樹脂ペレットの製造>
上記した各成分を、それぞれ表1または表2に記載の含有量(各成分の含有量は質量部である)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、スクリュー径32mmのベント付二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)により、シリンダー温度300℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0052】
<フィルムの製造>
得られたペレットを用いて、以下の方法でフィルムを製造した。
上記で得られたペレットを、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量10Kg/h、スクリュー回転数63rpmの条件で溶融状に押し出し、第一ロールと第二ロールで圧着した後、冷却固化し、フィルムを作製した。シリンダー・ダイヘッド温度は280℃で行った。
最終的に得られるフィルム厚みの調整は、表1または表2に記載の値となるように、第一ロールおよび第二ロールのロール速度を変更して行った。
【0053】
用いた第一ロールおよび第二ロールの詳細は以下の通りである。
・第一ロール:持田商工社製、シリコーンゴムロール(IT68S−MCG)
寸法径:外径260mm×幅600mm
ロール表面のデュロメーター硬度(タイプA型):70
ロール温度:50℃
・第二ロール:JSW社製、金属剛体ロール(表面:ハードクロム処理)
芯金径:外径250mm×幅600mm
ロール表面のデュロメーター硬度(タイプA型):測定限界である100に達した
ロール温度:130℃
【0054】
<動摩擦係数の測定>
得られたフィルムの動摩擦係数の測定は摩擦係数測定機を用いて測定した。具体的には、二乗平均平方根粗さが0.093μmのビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムと得られたフィルムが重なるように設置し、スレッドを100mm/分、ロードセル10Nの条件で、ポリカーボネートフィルム上を、得られたフィルムを滑らせて、動摩擦係数を測定した。
摩擦係数測定機は、東洋精機製作所社製(「フリクションテスター」)を用いた。
二乗平均平方根粗さが0.093μmのビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムは、片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学社製、FE−2000、厚さ100μm品)を用いた。本実施例では、片面マスキングフィルム付きビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムのマスキングを剥がした面を上面にし、長軸が試験テーブルの長軸に一致するように、テープで試験テーブルの右端に固定し、63mm×63mm、200gのスレッドの下側に、得られたフィルムを貼り付け、ポリカーボネートフィルムと得られたフィルムが重なるように設置し、上述の通り、得られたフィルムを滑らせて動摩擦係数を測定した。なお、比較例においてはフィルムが滑らず動摩擦係数を測定できない場合があった。
【0055】
<二乗平均平方根粗さRqの測定>
動摩擦係数の測定に用いたビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムの表面粗さの測定は表面粗さ測定機を用いて具体的に以下の方法で測定した。装置の検出器を「一体型」にして、検出器の駆動部には「標準駆動ユニット」を装着した。ガラス板状にテープでフィルムを固定し、その上で表面粗さ測定機が動かないように設置した。その後、測定条件を規格「JIS B 0601−2001」、測定速度0.5mm/s、カットオフ値0.8、区間数3で測定を行い、二乗平均平方根粗さRqを測定した。二乗平均平方根粗さRqはフィルムの場所を変えて、3回測定して、その平均値とした。
測定機は、ミツトヨ社製、「SJ−210」を用いた。
【0056】
<全光線透過率、ヘイズの測定>
ヘイズメーターを用いて、D65光源10°視野の条件にて、得られたフィルムの全光線透過率(%)およびヘイズ(%)を測定した。
ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM−150」を用いた。
【0057】
結果を下記表1および表2に示す。
【表1】
【表2】
高い摺動性を有し、かつ、濁りが抑制された透明なフィルム、およびフィルムの製造方法の提供。重量平均分子量が45,000以上のポリアリレート(A)0.5質量部以上15質量部以下、重量平均分子量が45,000以下の芳香族ポリカーボネート(B)99.5質量部以下85質量部以上を含有する組成物から形成されたフィルムであって、前記フィルムの厚みが10μm以上300μm以下である、フィルム。