(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「加工対象物」とは、穴あけ、切断、及び/又はガウジング(溝形成)加工等が施される被加工物であって、その材質は、金属材料、セラミック、及び/又は繊維強化プラスチック(FRP)材等を含む。
また、本明細書において、加工対象物の表面に形成される「液膜」とは、液体供給ノズルより噴射される液体により形成され、常に流動状態にあるものをいう。また、本明細書において、液体供給ノズルより加工対象物へと噴射される液体の供給位置とは、上述の各種加工が施される前の加工対象物の表面上における位置であり、同様に、レーザー光照射部とは、レーザーヘッドより射出するレーザー光の加工対象物の表面上における位置を指す。なお、上述の穴あけ、切断、及び/又はガウジング(溝形成)加工等を総称して溶融加工と称する場合もある。
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の一実施例に係るレーザー加工装置の全体概略構成図である。
図1に示すように、レーザー加工装置1は、レーザー光3を被加工物である加工対象物2に集光して溶融させるレーザーヘッド3a、レーザー発振器3b、レーザー発振器3bにより発せられたレーザー光をレーザーヘッド3aへ伝搬する光ファイバ3c、レーザーヘッド3aの先端部近傍に設置される液面検知センサ3d、レーザーヘッド3aより射出されるレーザー光3の光軸とは異なる軸方向に沿って配され液体4を噴射するための液体供給ノズル4a、液体4を貯留する給水タンク4b、給水タンク4bより液体4を液体供給ノズル4aへと通流させるホース4c、ホース4cに設置され給水タンク4bより液体4を汲み出すポンプ4e、ホース4cに設置される圧力調整弁4d、及びこれらを制御する制御部5を備える。なお、
図1では図示しないが、レーザー加工装置1は、レーザーヘッド3a及び/又は液体供給ノズル4aを3次元的に移動させることが可能な3次元移動機構を備えている。ここで、3次元移動機構として、例えば、X軸、Y軸、及びZ軸に沿った所望量の移動或いは、これら軸を中心とした所望量の回転(ヨーイング、ピッチング、ローリング)を可能とする3軸ロボット等が用いられる。また、液面検知センサ3dとしては、例えば、静電容量方式、或いは超音波方式等のセンサが用いられる。
【0012】
制御部5が、ポンプ4eを稼働すると共に、所望の開度に圧力調整弁4dを制御することで、液体供給ノズル4aより被加工物である加工対象物2の表面へ液体4が噴射される。これにより、加工対象物2の表面上には流動性の液膜6が形成される。この液膜6は、液体供給ノズル4aより供給される液体4である水(水道水)等が通流する状態にあり、液膜6が形成され続けている状態で、レーザーヘッド3aよりレーザー光3を加工対象物2へ照射することにより、加工対象物2のレーザー光照射部2aに穴が形成される。
【0013】
図2は、
図1に示すレーザーヘッド3aの光学系の模式図である。レーザーヘッド3aは、コリメータレンズ32、フォーカシングレンズ33、及びレーザーヘッドノズル31を備える。光ファイバ3cより導入されるレーザー光3は、コリメータレンズ32により平行光とされ、その後、フォーカシングレンズ33によりレーザーヘッドノズル31の出口付近の焦点位置にて収束する。焦点位置にて収束後のレーザー光3は、焦点位置から被加工物である加工対象物2までの距離に応じたスポット径にて、加工対象物2の表面上に照射される。なお、以下では、
図2において点線で示す軸をレーザー光3の光軸と称する。
【0014】
図3は、
図1に示す制御部5の機能ブロック図である。
図3に示すように、レーザー加工装置1を構成する制御部5は、圧力調整弁開度制御部21、ポンプ制御部22、レーザー制御部23、計測値取得部24、記憶部25、通信I/F26、入力I/F27、及び出力I/F28を備え、これらは相互に内部バス30を介して接続されている。また、入力I/F27は入力部29に接続され、入力部29を介して入力される各種設定値等を取り込む。入力部29を介して入力される各種設定値は、例えば、レーザー光3の出力設定値、加工対象物2の厚さ、レーザー光3のスポット径又は焦点位置と加工対象物2の表面間の距離、液体供給ノズル4aより噴射する液体4の流量設定値、レーザー光照射時間、及び液体供給時間のうち、少なくともいずれか一つを含む。また、入力部29を介して、予め加工対象物2の厚さ毎に対応するレーザー加工装置1の移動速度を入力しても良い。このように、入力部29を介して入力される上述の各種設定値は、入力I/F27及び内部バス30を介して記憶部25の所定の記憶領域に格納される。
【0015】
計測値取得部24は、液面検知センサ3dにより計測される流動性の液膜6の液面の高さの計測値を、通信I/F26及び内部バス30を介して取得する。計測値取得部24は、取得された液膜6の液面の高さの計測値に対し、例えば、ノイズ除去等の処理を施し内部バス30を介して圧力調整弁開度制御部21へ転送すると共に、記憶部25内の所定の記憶領域に格納する。
【0016】
記憶部25は、予め加工対象物2の厚さ毎に対応するレーザー加工装置1の移動速度をテーブル形式にて格納又は、加工対象物2の厚さとレーザー加工装置1の移動速度の相関関係を規定する関数或いはグラフを格納している。また、上述のように、入力部29を介して入力される各種設定値、及び計測値取得部24により書き込まれる液膜6の液面の高さの計測値を格納する。
【0017】
圧力調整弁開度制御部21は、計測値取得部24より転送される液膜6の液面の高さの計測値及び記憶部25に格納されるレーザー光3の焦点位置と加工対象物2の表面間の距離に基づき液膜6の膜厚を求め、求めた膜厚に基づき所望の流量となるよう圧力調整弁4dの開度を算出し、開度指令値として、内部バス30及び出力I/F28を介して圧力調整弁4dへ出力する。
【0018】
レーザー制御部23は、内部バス30を介して記憶部25へアクセスし、記憶部25に格納されるレーザー光3の出力設定値を読み出し、出力指令値として、内部バス30及び出力I/F28を介してレーザー発振器3bへ出力する。また、レーザー制御部23は、記憶部25に格納されるレーザー光3のスポット径又は焦点位置と加工対象物2の表面間の距離を読み出し、内部バス30及び出力I/F28を介して、例えば、上述の3軸ロボット(図示せず)に出力する。これにより、3軸ロボット(図示せず)は、レーザーヘッド3aを加工対象物2の表面上の所定の位置に位置付ける。なお、圧力調整弁開度制御部21に代えて、レーザー制御部23が、計測値取得部24より転送される液膜6の液面の高さの計測値及び記憶部25に格納されるレーザー光3の焦点位置と加工対象物2の表面間の距離に基づき液膜6の膜厚を求める構成としても良い。この場合、求めた液膜6の膜厚は内部バス30を介して圧力調整弁開度制御部21へ転送される。
【0019】
ポンプ制御部22は、内部バス30を介して記憶部25へアクセスし、記憶部25に格納される液体供給時間を読み出しポンプ4eの起動及び停止指令を、内部バス30及び出力I/F28を介してポンプ4eへ出力する。
また、図示しない他の制御部又はレーザー制御部23は、内部バス30を介して記憶部25へアクセスし、記憶部25にテーブル形式にて格納される加工対象物2の厚さ毎に対応するレーザー加工装置1の移動速度或いは加工対象物2の厚さと移動速度の相関関係を規定する関数若しくはグラフを読み出す。読み出された加工対象物2の厚さ毎に対応するレーザー加工装置1の移動速度は、内部バス30及び出力I/F28を介して、図示しない3軸ロボットへ出力される。
【0020】
なお、本実施例においては、レーザーヘッド3aの先端部近傍に液面検知センサ3dを設置する構成としたが、これに限られるものではない。すなわち、液面検知センサ3dを有さない構成としても良い。この場合、
図3に示した計測値取得部24は不要となり、液体供給ノズル4aから液体4を噴射する条件、すなわち、予め記憶部25に所定の流量となる圧力調整弁4dの開度を格納し、圧力調整弁開度制御部21は、この記憶部25に格納される圧力調整弁4dの開度を読み出し、開度指令値として圧力調整弁4dへ出力する。
【0021】
上述の、圧力調整弁開度制御部21、ポンプ制御部22、レーザー制御部23、及び計測値取得部24は、例えば、図示しないCPU等のプロセッサ、各種プログラムを格納するROM、演算過程のデータを一時的に格納するRAM、外部記憶装置等の記憶装置にて実現されると共に、CPU等のプロセッサがROMに格納された各種プログラムを読み出し実行し、実行結果である演算結果をRAM又は外部記憶装置に格納する。なお、ここで演算結果又は演算過程のデータをRAMに代えて記憶部25に格納するよう構成しても良い。
【0022】
次に、
図4及び
図5を用いて、液膜が形成されている状態でレーザー光3を照射した際に生じる現象について説明する。
図4は、比較的厚い液膜が形成されている状態でレーザー光を照射した際に生じる現象を段階的に示す断面模式図である。
図4の上図では、加工対象物2の表面上に、厚い液膜6aが存在する状態で、レーザーヘッド3aよりレーザー光3を加工対象物2へ照射した状態を示している。ここで、
図4では、厚い液膜6aは流動性を有しておらず、単に加工対象物2の表面上に水を張った状態を想定している。
図4の下図に示すように、厚い液膜6aはレーザー光3を減衰させる効果があり、また、加工対象物2上のレーザー光照射部2aを冷却する効果が大きい。そのため、レーザー光照射部2aの溶融は生じず、穴が形成されることはない。仮に、レーザー光3の出力を高出力化すれば、ある程度の溶融効率を実現できるものの、比較的低出力のレーザー発振器3b(
図1)を用いて溶融効率の低減を回避するためには、薄い液膜を維持することが必要となる。
【0023】
図5は、比較的薄い液膜が形成されている状態でレーザー光を照射した際に生じる現象を段階的に示す断面模式図である。
図5の上図では、加工対象物2の表面上に、薄い液膜6bが存在する状態で、レーザーヘッド3aよりレーザー光3を加工対象物2に照射した状態を示している。
図5においても、薄い液膜6bは流動性を有しておらず、単に加工対象物2の表面上に水を張った状態を想定している。
図5の下図に示すように、薄い液膜6bはレーザー光3を減衰させる効果が比較的小さいため、加工対象物2の表面上のレーザー光照射部2aの溶融が生じる。また、この時、レーザー光照射部2aの近傍2bは溶融までに至らない程度の温度まで加熱される。この結果、レーザー光3による加熱、及びレーザー光照射部2aとレーザー光照射部2aの近傍2bからの伝熱により、薄い液膜6bのうち、レーザー光照射部2a、及びレーザー光照射部2aの近傍2bの上に存在していた領域は矢印にて示すように蒸発する。薄い液膜6bは、表面張力によりその場に留まり、液膜6bの蒸発した領域への液体4の流入は生じない。そのため、加工対象物2の表面上に薄い液膜6bを形成し続けることができない。
これに対し、
図1に示す本実施例に係るレーザー加工装置1では、レーザー加工装置1を構成する液体供給ノズル4aより薄い液膜6b中の蒸発した領域へ、常に新たな液体4が供給されることから、加工対象物2の表面上に薄い液膜6bが形成され続ける。すなわち、本実施例では、加工対象物2の表面上に常に流動性の液膜6(薄い液膜6b)が維持され、比較的低出力のレーザー発振器3b(
図1)を用いて溶融効率の低減を回避することが可能となる。
【0024】
次に、
図6〜
図13を用いて、本発明に係るレーザー加工方法による加工原理を説明する。以下では、溶融加工のうち穴あけ加工を行う場合を一例として説明する。
図6は、
図1に示すレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法のうち、溶融工程を示す断面模式図である。
まず、上述したように図示しない3次元移動機構としての、例えば3軸ロボットにより、レーザー加工装置1が被加工物である加工対象物2の上方に位置付けられる。このときレーザー加工装置1を構成する液体供給ノズル4aは、レーザーヘッド3aより射出されるレーザー光3の光軸とは異なる軸方向に沿って配される。そして
図3に示したように、制御部5が、ポンプ4eを稼働すると共に、所望の開度に圧力調整弁4dを制御することで、給水タンク4bに貯留される液体4がホース4cを通流し液体供給ノズル4aへ送られる。このとき、制御部5を構成する圧力調整弁開度制御部21は、予め記憶部25に格納される液体供給ノズル4aより噴射する液体4の流量設定値に対応するよう圧力調整弁4dの開度を制御し、比較的小さい圧力に調整された液体4(低圧水)が、被加工物である加工対象物2の表面へ噴射され、加工対象物2の表面上に液膜6を形成する(液膜形成工程)。
次に、制御部5を構成するレーザー制御部23は、内部バス30を介して記憶部25へアクセスし、記憶部25に格納されるレーザー光3の出力設定値を読み出し、出力指令値として、内部バス30及び出力I/F28を介してレーザー発振器3bへ出力する。これにより、レーザー発振器3bから発せられたレーザー光3は、光ファイバ3cを介してレーザーヘッド3aへ伝搬され、レーザーヘッド3aより被加工物である加工対象物2の表面(穴あけ加工の対象箇所)へ照射される。加工対象物2の表面上におけるレーザー光3のスポット径に対応する領域であるレーザー光照射部2aは、
図6に示すように、レーザー光3により加熱され、加工対象物2の内部領域を含め溶融物2cとなる。また、液膜6のうち、レーザー光照射部2a、及び溶融までに至らない程度の温度まで加熱されるレーザー光照射部2aの近傍2bの上に存在する領域は、矢印にて示すように蒸発する。なお、
図6に示すように、液体供給ノズル4aから噴射される液体4の加工対象物2の表面上における位置は、レーザー光照射部2aに対し所定の距離離間している。
【0025】
また、加工対象物2の表面上にレーザー光3を照射することで、溶融物2cが形成される際、加工対象物2、レーザー光3及び流動性の液膜6との化学的な反応により溶融が促進される。具体的には、上述したように、加工対象物2はレーザー光3を照射されることで溶融温度まで加熱される。高温状態となった加工対象物2は酸化反応が始まる。周囲から酸素を取り込むことで、酸化反応が進み、それに伴って反応熱を発生する。酸化反応が進んでいる、高温状態の加工対象物2と流動性の液膜6(例えば水等)が接触することで、液膜6から積極的に酸素を取り込み、酸化反応が急激に促進することで、より反応熱を発生し、加工対象物2の内部領域の溶融が補助される。
【0026】
図7以降では、説明の便宜上、本実施例に係るレーザー加工装置1を構成するレーザーヘッド3a及び液体供給ノズル4aのみ示し、
図1及び
図6に示した、レーザー発振器3b、光ファイバ3c、レーザーヘッド3aの先端部近傍に設置される液面検知センサ3d、給水タンク4b、ホース4c、圧力調整弁4d、及び制御部5の表記を省略している。
【0027】
図7は、
図1に示すレーザー加工装置1を用いたレーザー加工方法のうち、溶融物の排除工程を示す断面模式図である。
図7に示すように、液体供給ノズル4aより液体4が新たに加工対象物2へ供給され続けるため、レーザー光照射部2a、及びレーザー光照射部2aの近傍2bの上に、常に液膜6を形成するための液体4の流れが生じる。流れを有する(流動状態にある)液体4は運動量(運動エネルギー)を有しており、この運動量(運動エネルギー)を有する液体4が溶融物2cと衝突することにより、溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cが剥離又は離脱し排除され、加工対象物2に穴が形成される。
【0028】
図8は、液体の気化圧力による溶融物2cの排除原理を示す断面模式図であり、
図9は、液体の気化圧力による溶融物2cの排除原理を示す断面模式図であって、溶融物2cが被加工物より排除される途中段階の状態を示す図である。上述の
図7に示した液体4が有する運動量(運動エネルギー)に加え、液体4が気化する際の気化圧力7の作用により溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cが排除される。以下、その詳細について説明する。
【0029】
図8の上図に示すように、液体供給ノズル4aより噴射された液体4により、加工対象物2の表面上に流動性の液膜6が形成された状態で、レーザーヘッド3aより加工対象物2の表面上の加工対象箇所へレーザー光3が照射される。加工対象物2の表面上のレーザー光照射部2aが溶融し、レーザー光照射部2aの近傍2bは溶融までに至らない程度の温度まで加熱される。
次に、
図8の下図に示すように、レーザー光照射部2a、及びレーザー光照射部2aの近傍2b上の流動性の液膜6を形成する液体4の一部が、レーザー光3による加熱、及び、レーザー光照射部2aとレーザー光照射部2aの近傍2bからの伝熱により蒸発する。この時、白抜き矢印にて示すように、液体4が気化する際の気化圧力7が放射状に発生し、溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cが剥離又は離脱するよう作用する。すなわち、気化圧力7は溶融物2cを排除する働きを補助する。なお、一般的に気相中において、レーザー光3のみを金属材料に照射する場合、レーザー光照射部表面が蒸発温度以上に加熱されると金属材料表面において蒸発が生じ、その反力でレーザー光照射部表面に窪みが生じることが知られている。本実施例に係る排除工程においては、金属材料と比較して、より蒸発しやすい液体4をレーザー光照射部2a上に介在させることで、液体4の蒸発を積極的に発生させ、その気化圧力7により溶融物2cの排除を補助又は促進する。
【0030】
図9に示すように、放射状に発生する液体4が気化する際の気化圧力7のうち、溶融物2cを加工対象物2の内部へ押し込む方向に作用する気化圧力7により、溶融物2cの大半が溶融物2cより分離され大きな塊状の溶融物2fとなって、レーザー光照射部2aを規定するレーザー光3のスポット径の周方向に沿って上方へと押し出される。この時、放射状に発生する液体4が気化する際の気化圧力7のうち、上方へと作用する気化圧力7は、溶融物2cより分離された大きな塊状の溶融物2fを上方へと押し上げるよう作用する。
【0031】
図10は、溶融物が被加工物である加工対象物より排除される形態を示す断面模式図である。
図10の上図は、上述した流動性の液膜6を形成する液体4が有する運動量(運動エネルギー)及び/又は、液体4が気化する際の気化圧力7が大きい場合を示している。この場合、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから小さい粒状の溶融物2eとなって放射状に飛散する形態にて、被加工物である加工対象物2から剥離又は離脱し排除される。
また、加工対象物2の表面上にレーザー光3を照射することで、溶融物2cが形成される際の化学的な反応により発生するガスも、溶融物2cの排除を補助する。具体的には、上述の溶融工程で示したように、流動性の液膜6(例えば水等)から酸素を積極的に取り込むことで、溶融物2cの酸化反応が促進される。酸素を奪われた液膜6側には水素が発生する。発生した水素の溶融物2cへの溶け込み及び/又は、発生した水素がレーザー光3で加熱されることによる爆発により、溶融物2cの排除が補助又は促進される。
【0032】
一方、
図10の下図に示すように、流動性の液膜6を形成する液体4が有する運動量(運動エネルギー)及び/又は、液体4が気化する際の気化圧力7が小さい場合には、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから大きな塊状の溶融物2fとなって押し出される形態にて、被加工物である加工対象物2から剥離又は離脱し排除される。
【0033】
図11は、
図1に示すレーザー加工装置1を用いたレーザー加工方法のうち、冷却工程を示す断面模式図である。
図11の上図に示すように、被加工物である加工対象物2から剥離又は離脱し排除された溶融物2gは、高温状態を保った状態で、流動性の液膜6を形成する液体4が有する運動量(運動エネルギー)によって加工対象物2の上方へ移動する。ここで、比較例について説明する。
図12は、比較例のレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法のうち、冷却工程を示す断面模式図である。
図12に示す比較例では、加工対象物2の表面上に流動性の液膜6が存在しなかった場合に生じる現象を示している。加工対象物2から剥離又は離脱し排除された溶融物2gは、加工対象物2に直接付着する。付着した溶融物2iは、冷え固まることで固化し、加工対象物2に固着するため、その後の剥離・排除・回収が困難となる。
しかし、
図11の下図に示すように、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、高温状態を保った状態で排除された溶融物2gは急冷・固化される。この結果、排除された溶融物2gは急冷・固化された溶融物2hとなり、加工対象物2への固着を防ぐことが可能となる。
【0034】
図13は、
図1に示すレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法のうち、回収工程を示す断面模式図である。
図13の上図に示すように、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、
図13の下図に示すように流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され、回収が可能な状態となる。なお、急冷・固化された溶融物2hは、例えば、流動性の液膜6の下流側(
図13において左側)に配される吸引ノズル(図示せず)等により、流動性の液膜6を形成する液体4と共に回収される。なお、回収方法については、吸引ノズルによる回収に限定されるものではなく、急冷・固化された溶融物2hを回収可能な形態であれば、いずれの形態を用いても良い。
急冷・固化された溶融物2hは、生じた都度その場で回収しても良く、また、ある程度の量を発生させ、流動性の液膜6の下流側に堆積させた後、まとめて回収しても良い。
【0035】
上述のように本実施例では、レーザー加工方法を、液膜形成工程、溶融工程、排除工程、及び回収工程の4段階の工程に分け、これらの工程が順次実行されるよう説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。すなわち、初期段階で、液膜形成工程実行後、上述したように、被加工物である加工対象物2の表面上には、常に流動性の液膜6が形成されている。従って、少なくとも溶融工程及び排除工程は並行して実行されることにより、溶融加工の一例として挙げた穴あけ加工が行われる。また、模式図は説明用に簡略化して表記したものであり、必ずしも実際の加工方法を正確に示したものではない。例えば、
図6に示した「溶融工程」において、液膜6が途切れたような表記をしているが、液膜6の蒸発と、流動性の液膜6を形成する新たな液体4の流入は、巨視的には同時に生じるため、流動性の液膜6が途切れた状態となることはない。
【0036】
ここで、本実施例に係るレーザー加工装置1を用いた実験結果を以下に示す。
図14は、
図1に示すレーザー加工装置1を用いたレーザー加工方法により得られる加工結果を示す断面模式図、及び液体供給ノズル4aより噴射する液体4として水を用いた場合における水供給量と溶融深さ又は穴深さとの関係を示す図である。
【0037】
加工対象物2として板厚約30mmのSUS304のブロックを、流動性の液膜6を形成する液体4として水道水を用い、1秒間穴あけ加工することで、非貫通の穴空けを実施した。
まず、ホース4cに設置される圧力調整弁4dを開放し、圧力がほとんどかかっていない状態(0.5MPa以下)の低流量の水(低圧水)を、ノズル径約1.0mmの液体供給ノズル4aよりSUS304のブロックの表面上に噴射し、SUS304のブロックの表面上に流動性の液膜6(薄い水膜)を形成し続けた状態にする。この状態で、SUS304のブロックの表面上において液体供給ノズル4aより噴射される水の供給位置から所定の距離だけ離間する位置に、レーザーヘッド3aより約6.0kWの出力のレーザー光3を照射すると、上述したように、加工対象物2であるSUS304のブロックに穴が形成される。
【0038】
図14において、上部に、本実施例に係るレーザー加工装置1を用いたレーザー加工方法により得られる加工結果を示す断面模式図(加工対象物2であるSUS304のブロック断面模式図)を示し、下部に、横軸に流動性の液膜6を形成する水の流量(水供給量:L/min)をレーザーの出力(kW)で除した値(L/(min×kW))を、縦軸に得られた溶接深さ又は穴の深さ(mm)を取りプロットした。なお、図中の横軸の値がゼロの条件は、液体供給ノズル4aより水を一切噴射していない条件であり、レーザーヘッド3aよりレーザー光3をSUS304のブロックへ照射することで、金属の溶融のみが生じる。そのため、縦軸の値は、穴の深さに加え溶融深さをプロットしている。
【0039】
流動性の液膜6を形成するため、SUS304のブロックの表面上に液体供給ノズル4aより噴射される水には、レーザー光3の減衰や冷却等、溶融を阻害する効果がある。しかし、低流量の水(低圧水)を噴射しながらレーザー光3を照射すると、水を一切噴射していない条件で得られる溶融深さに比べ、深い穴が得られる結果となった。具体的には、レーザーの単位出力当たりの液体供給量を0.1〜0.15L/(min×kW)と非常に小さな値に設定すると、約5〜10mm程度の深さの穴が得られる結果となった。一方、水を一切噴射しない条件で得られる溶融深さは、その約0.6倍となった。すなわち、低流量の水(低圧水)を噴射しながらレーザー光3を照射すると、レーザー光3のみを照射した場合に比べ、深い領域まで金属を溶融させることが可能であった。
一方、圧力調整弁4dを絞ることで、液体供給ノズル4aより噴射される水に圧力を印加し、比較的高流量の水(高圧水)を噴射しながらレーザー光3を照射すると、流量(水供給量)を高くするに従って、得られる穴の深さが低下する傾向が示された。具体的には、上述したレーザーの単位出力当たりの液体供給量を2倍、3倍、5倍と増加させた条件で加工を実施すると、得られる穴の深さはそれぞれ、0.7倍、0.5倍、0.3倍の値となり、低下することが確認された。
【0040】
水の流量(水供給量)を高くすると、水が有する運動量(運動エネルギー)が増加し、その結果、溶融物を加工対象物2であるSUS304のブロックから剥離又は離脱させ排除する効果が増加する。しかし、溶融物を排除する効果と比較して、加工対象物2であるSUS304のブロックの溶融を阻害する効果、すなわち、溶融物(レ―ザー照射部)が冷却され溶融が抑制される効果及び高流量の水(液膜の厚さの増加)によるレーザー光の減衰効果が上回ったため、加工対象物2であるSUS304のブロックに形成される穴の深さが低下したと考えられる。
【0041】
以上の結果から、本発明者等は、流動性の液膜6を形成する液体4が有するレーザー光3の減衰や冷却等、溶融を阻害する効果を維持或は低下させつつ、流動性の液膜6を形成する液体4が有する運動量(運動エネルギー)や液体4が気化する際の気化圧力7等、溶融物を加工対象物2から剥離又は離脱させ排除する効果を維持或は増加させることで、より深い領域まで加工対象物2を溶融させることが可能となり、その結果、溶融物の排除効率の高いレーザー加工が実現できるとの知見を得たものである。
【0042】
なお、本実施例では、溶融加工のうち穴あけ加工を行う場合を一例としたため、レーザーヘッド3aと、レーザーヘッド3aより射出されるレーザー光3の光軸とは異なる軸方向に沿って配される液体供給ノズル4aとの位置関係を固定とし、非貫通の穴空け加工を行う場合を説明したが、これに限られるものではない。例えば、上述の
図3に示した記憶部25に格納される加工対象物2の厚さに応じてレーザー光照射時間をレーザー制御部23が調整又は、加工対象物2の厚さに応じて液体供給時間をポンプ制御部22が調整することで、貫通の穴空け加工を行うよう構成しても良い。また、記憶部25に予め格納される加工対象物2の厚さ毎に対応するレーザー加工装置1の移動速度をテーブル形式にて格納又は、加工対象物2の厚さとレーザー加工装置1の移動速度の相関関係を規定する関数或いはグラフに基づき、例えば、図示しない3軸ロボットが、レーザー加工装置1を構成するレーザーヘッド3a及び液体供給ノズル4aを加工対象物2の表面に沿って水平移動させながら加工することで、ガウジング(溝形成)を行うよう構成しても良い。また、加工対象物2の厚さに応じて図示しない3軸ロボットが、レーザー加工装置1を構成するレーザーヘッド3a及び液体供給ノズル4aを加工対象物2の移動速度を調整することで、加工対象物2の切断を行うよう構成しても良い。
【0043】
以上のとおり、本実施例によれば、レーザー光照射による溶融物の排除効率を向上し得ると共に、当該溶融物を適切に回収し得るレーザー加工装置及びレーザー加工方法を提供することが可能となる。
より具体的には、本実施例に係るレーザー加工装置1及びそれを用いたレーザー加工方法では、加工対象物2の表面上に流動性の液膜6を形成し続けた状態で、加工対象物2の加工対象箇所にレーザー光3を照射する構成を備える。そのため、流動性の液膜6による溶融物の排除効果と冷却効果が好適に組み合わされることにより、溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cを排除し、且つ、排除された溶融物2gの加工対象物2への固着を防止し、急冷・固化された溶融物2hとして回収することが可能となる。すなわち、溶融物の適切な回収を達成することができる。
【0044】
また、本実施例によれば、加工対象物2の表面上に流動性の液膜6を形成し続けられる程度の流量の液体4を液体供給ノズル4aより供給しさえすれば良いため、低流量の液体4(低圧水)を供給し続けるだけで十分であり、従来のウォータジェット加工におけるような高圧用ポンプや高圧噴射用ノズルを用意することなく、溶融加工を実現できる。
【実施例2】
【0045】
図15は、本発明の他の実施例に係るレーザー加工装置の主要部概略構成図であって、液体供給ノズルより連続的に液体を供給する場合のレーザー加工方法の概念説明図であり、
図16は、本発明の他の実施例に係るレーザー加工装置の主要部概略構成図であって、液体供給ノズルより液体を所定の周期にて断続的に供給する場合のレーザー加工方法の概念説明図である。本実施例では、実施例1と比較して、液体供給ノズル4aから噴射される液体4の加工対象物2の表面上における位置をレーザー光照射部2aより更に離間するよう構成した点、また、液体供給ノズル4aから噴射される液体4を所定の周期にて断続的に供給するよう構成した点が、実施例1と異なる。その他の構成は実施例1と同様であり、実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では実施例1と重複する説明を省略すると共に、溶融加工のうち穴あけ加工を行う場合を一例として説明する。
【0046】
図15に示すように、まず、液体供給ノズル4aから加工対象物2の表面上に液体4を噴射し、加工対象物2の表面上に流動性の液膜6を形成する(液膜形成工程)。その後、液体4の供給位置8から下流側(
図15において左側)へ所定の距離(例えば数mm)離間する位置に、レーザーヘッド3aよりレーザー光3を照射する。上述の実施例1と同様に、レーザー光3の照射によりレーザー光照射部2aは、加熱され加工対象物2の内部領域を含め溶融物2cとなり(溶融工程)、また、液膜6のうち、レーザー光照射部2a、及び溶融までに至らない程度の温度まで加熱されるレーザー光照射部2aの近傍2b(
図15では図示せず)の上に存在する領域は蒸発する。液体供給ノズル4aから噴射される液体4は連続的に供給され、液体4が有する運動量(運動エネルギー)に加え、液体4が気化する際の気化圧力7(図中白抜き矢印にて示す)の作用により溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cが排除される(排除工程)。その後、排除された溶融物2g(図示せず)は、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され、回収が可能な状態となる。
【0047】
ここで、仮に,レーザー光照射部2aに液体4を直接噴射する場合と比較すると、本実施例に係るレーザー加工装置1では、レーザー光3と液体4の交差が少なく、液体4によるレーザー光3の減衰を抑制することが可能となる。また、液体4が加工対象物2の表面上に噴射された際に発生する水飛沫9によってレーザー光3の集光が妨げられることもない。従って、溶融物2cは、レーザー光照射部2a上を流れる液体4によるせん断力、及び、液体4が気化する際の気化圧力7により、溶融物2cの元あった位置2dから好適に排除される。
以上のように、液体供給ノズル4aより噴射される液体4の供給位置8と、レーザー光照射部2aの位置とが所定の距離(例えば、数mm)離間するよう、液体供給ノズル4a及びレーザーヘッド3aを配することで、液体4の持つ、溶融を阻害する効果を低下させつつ、溶融物を排除する効果を維持することが可能となり、その結果、溶融物の排除効率の高いレーザー加工が実現できる。
【0048】
また、
図16に示すようにレーザー加工装置1を構成する液体供給ノズル4aは、その先端部付近であって液体供給ノズル4aの軸方向前方にスリットを有する円板10、及び当該スリットを有する円板10を所望の回転速度にて回転させるモータ15を備える。モータ15によりスリットを有する円板10を回転させることで、断続的に液体4を加工対象物2の表面上に噴射し流動性の液膜6の形成(液膜形成工程)及び流動性の液膜6を維持する。ここで、スリットを有する円板10は、例えば周方向に相互に所定の間隔にて離間し形成された貫通孔をスリットとして備え、所望の回転速度にて回転されるスリットを有する円板10の貫通孔を通過する、液体供給ノズル4aより噴射される液体4のみを液体4の供給位置8へ供給する。貫通孔の形状は、円形でも矩形でも良く、また、スリットを有する円板10に形成されるスリット(貫通孔)の数は、適宜設定すれば良い。
【0049】
その後、液体4の供給位置8から下流側(
図16において左側)へ所定の距離(例えば数mm)離間する位置に、レーザーヘッド3aよりレーザー光3を照射する。上述の実施例1と同様に、レーザー光3の照射によりレーザー光照射部2aは、加熱され加工対象物2の内部領域を含め溶融物2cとなり(溶融工程)、また、液膜6のうち、レーザー光照射部2a、及び溶融までに至らない程度の温度まで加熱されるレーザー光照射部2aの近傍2b(
図16では図示せず)の上に存在する領域は蒸発する。液体供給ノズル4aから噴射される液体4は連続的に供給され、液体4が有する運動量(運動エネルギー)に加え、液体4が気化する際の気化圧力7(図中白抜き矢印にて示す)の作用により溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cが排除される(排除工程)。その後、排除された溶融物2g(図示せず)は、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され、回収が可能な状態となる。
【0050】
図16に示すレーザー加工装置1においては、液体供給ノズル4aより液体4を断続的に加工対象物2の表面上へ噴射することにより、単位時間あたりの液体4の流量を低下させつつ、溶融物2cと衝突する際の局所的な運動量(運動エネルギー)を維持することが可能となる。すなわち、流動性の液膜6を形成する液体4の持つ溶融を阻害する効果を低下させ、且つ、溶融物2cを排除する効果を維持することが可能となる。
【0051】
例えば、3.0MPa程度の、比較的高い圧力を印加した液体4を、液体供給ノズル4aより加工対象物2の表面上へ連続的に噴射すると、液体4の流量が大きいため、溶融物2cを加工対象物2から剥離又は離脱させ排除する効果が増加する。しかし、同時に、溶融物2cが冷却され溶融が抑制される効果及び高流量の液体4(液膜6の厚さの増加)によるレーザー光3の減衰効果も増加し、結果として、溶融を阻害する効果も大きくなってしまう。
しかし、例えば、3.0MPa程度の、比較的高い圧力を印加した液体4を、液体供給ノズル4aより加工対象物2の表面上へ断続的に噴射すると、低流量の液体4を液体供給ノズル4aより加工対象物2の表面上へ連続的に噴射する場合と比較して、単位時間あたりの液体4の流量を維持しつつ、溶融物2cと衝突する際の局所的な運動量(運動エネルギー)を増加させることが可能となる。すなわち、流動性の液膜6を形成する液体4の持つ溶融を阻害する効果を維持しつつ、且つ、溶融物2cを排除する効果を増加させることが可能となる。
【0052】
なお、液体4の断続的な供給条件は、スリットを有する円板10の回転速度、スリット数、円板の寸法等により変化させることが可能であり、具体的には、断続的な噴射の周期、液体4が噴射されている時間の割合を変化させることが可能である。スリットを有する円板10を通す前の連続的な水の供給量をA(L/min)、断続的な噴射の周期をf(回/s)、断続的な噴射1周期内で液体4が噴射されている時間の割合をd、とすると、断続的に噴射される液体の断続噴射1回当たりの流量X(水供給量:L/回)は、下記の式(1)で表される。
X=(A×d)/(60×f) ・・・(1)
図17、レーザー加工装置を用いたレーザー加工方法により得られるレーザーの単位出力に対する断続噴射1回あたりの流量と穴深さとの関係を示す図である。
図17では、液体供給ノズル4aより断続的に噴射する液体4として水を用いた。
図17において、横軸に流動性の液膜6を形成する断続的に噴射される水の断続噴射1回あたりの流量(水供給量:L/回)をレーザーの出力(kW)で除した値(L/(回×kW))を、縦軸に得られた穴の深さ(mm)を取りプロットした。
図17において、供給する液体は約1.0MPa程度の圧力を印加した条件としており、上述した液体4の断続的な供給条件を変化させることで、レーザーの単位出力に対する断続噴射1回あたりの流量L/(回×kW)が約300〜350×10
-6L/(回×kW)以下となるような条件範囲で実験を行った。
図17に示すように、レーザーの単位出力に対する断続噴射1回あたりの流量L/(回×kW)の値を小さくするほど、得られる穴の深さは深くなっており、すなわち、断続的な噴射の周期を大きくし、且つ、液体4が噴射されている時間の割合を短くするほど、溶融物2cの排除効率が増加する。具体的には、断続的な噴射の周期は単位時間(1秒間)あたり20回以上とし、液体4が噴射されていない時間帯に対する液体4が噴射されている時間帯の割合を1.0以下とすることが望ましい。
ここで、
図16に示すレーザー加工装置1においては、レーザー加工装置1を構成する制御部5は、上述の実施例1において
図3に示した構成に、更に、モータ制御部を備えると共に、記憶部25は予めスリット数毎にスリットを有する円板10の回転速度を紐付けて格納している。モータ制御部は、内部バス30を介して記憶部25へアクセスし、記憶部25に格納されるスリット数に対応するスリットを有する円板10の回転速度を読み出しモータ15へ回転速度指令値を、内部バス30及び出力I/F28を介してモータ15へ出力する。
【0053】
以上の通り、本実施例によれば、実施例1の効果に加え、液体供給ノズル4aより噴射される液体4の供給位置8と、レーザー光照射部2aの位置とが所定の距離(例えば、数mm)離間するよう、液体供給ノズル4a及びレーザーヘッド3aを配することで、液体4の持つ、溶融を阻害する効果を低下させつつ、溶融物を排除する効果を維持することが可能となり、その結果、溶融物の排除効率の高いレーザー加工が実現できる。
また、本実施例によれば、液体供給ノズル4aより液体4を加工対象物2の表面上へ断続的に供給することにより、流動性の液膜6を形成する液体4の持つ溶融を阻害する効果を維持或は低下させつつ、溶融物2cを排除する効果を維持或は増加させることが可能となり、その結果、溶融物2cの排除効率の高いレーザー加工が実現できる。
【実施例3】
【0054】
図18は、本発明の他の実施例に係るレーザー加工装置の主要部概略構成図である。本実施例では、レーザー加工装置が、レーザーヘッドを保護するため及び/又は酸化反応により溶融を促進するためのガス噴射用ノズルを更に備える点が実施例1と異なる。その他の構成は実施例1と同様であり、実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では実施例1と重複する説明を省略すると共に、溶融加工のうち穴あけ加工を行う場合を一例として説明する。
【0055】
一般的なレーザーガウジングにおいては、レーザー光を照射することで溶融させた加工対象物に対し、高速のガスジェットを噴射することにより溶融物を排除している。ここで、高速のガスジェットは、溶融物を元あった位置から排除するため、飛散する溶融物等からレーザーヘッドを保護するため、及び酸化反応により加工対象の溶融を促進させるため、という3つの目的を達成するために用いられている。
これに対し、本実施例に係るレーザー加工装置1においては、流動性の液膜及び流動性の液膜を形成する液体がレーザー光の照射により気化する際の気化圧力により、溶融物を元あった位置から排除するものであり、後述するガス噴射用ノズルより噴射されるガスは、レーザーヘッドの保護及び酸化反応による加工対象の溶融の促進に供される。
【0056】
図18に示すように、本実施例に係るレーザー加工装置1は、レーザー光3を被加工物である加工対象物2に集光して溶融させるレーザーヘッド3aと、レーザーヘッド3aより射出されるレーザー光3の光軸とは異なる軸方向に沿って配され液体4を噴射するための液体供給ノズル4aとの間に、圧縮空気又は圧縮酸素等のガス11をレーザー光照射部2aへ噴射するためのガス噴射用ノズル11aを備える。
まず、液体供給ノズル4aから加工対象物2の表面上に液体4を噴射し、加工対象物2の表面上に流動性の液膜6を形成する(液膜形成工程)。その後、液体供給ノズル4aから噴射される液体4の加工対象物2の表面上における位置から所定の距離離間する位置に、レーザーヘッド3aよりレーザー光3を照射する。この時、ガス噴射用ノズル11aよりレーザー光照射部2aへ圧縮空気又は圧縮酸素等のガス11を噴射する(溶融工程)。ガス噴射用ノズル11aよりレーザー光照射部2aへ噴射される圧縮空気又は圧縮酸素等のガス11は、レーザー光照射部2aにおける酸化反応を促進させ、溶融物2cの領域を拡大するよう作用する。これにより溶融効率を向上させることが可能となる。
【0057】
その後、上述の実施例1と同様に、液体供給ノズル4aから噴射される液体4は連続的に供給され、液体4が有する運動量(運動エネルギー)により溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cが排除される(排除工程)。排除された溶融物2g(図示せず)は、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され回収され(回収工程)、加工対象物2の加工対象箇所(レーザー光照射部2a)に穴が形成される。なお、ガス噴射用ノズル11aよりレーザー光照射部2aへ噴射される圧縮空気又は圧縮酸素等のガス11は、溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cを排除し得るほどの運動量(運動エネルギー)を有する必要がないため、一般的なレーザーガウジングのように高速で噴射する必要はない。
【0058】
本実施例では、ガス噴射用ノズル11aよりレーザー光照射部2aへ圧縮空気又は圧縮酸素等のガス11を噴射することにより、酸化反応が促進され溶融物2cの領域が拡大されることで溶融効率が向上するため、結果として溶融物2cの排除効率が向上する。また、溶融物2cの排除と同時に、圧縮空気又は圧縮酸素等のガス11によって、飛散する小さい粒状の溶融物2e(
図10)、金属蒸気(図示せず)、水飛沫9(
図15)等からレーザーヘッド3aが保護される。
【0059】
なお、本実施例では、レーザーヘッド3a、液体供給ノズル4a、及びガス噴射用ノズル11aを相互に異なる軸方向に配する例を示したがこれに限られるものではない。例えば、ガス噴射用ノズル11aより噴射されるガス11の噴射方向を、レーザーヘッド3aより射出されるレーザー光3の光軸、又は、液体供給ノズル4aより噴射される液体4の噴射方向と同軸となるよう、これら、レーザーヘッド3a、液体供給ノズル4a、及びガス噴射用ノズル11aを配する構成としても良い。
【0060】
以上の通り、本実施例によれば、実施例1の効果に加え、ガス噴射用ノズル11aよりレーザー光照射部2aへ圧縮空気又は圧縮酸素等のガス11を噴射することにより、酸化反応が促進され溶融物2cの領域が拡大されることで溶融効率が向上するため、溶融物2cの排除効率を更に向上することが可能となる。
【実施例4】
【0061】
図21は、発明の他の実施例に係るレーザー加工装置の主要部概略構成図であって、レーザー加工装置の移動方向と同じ向きに液体を噴射した場合の概念説明用断面模式図であり、
図24は、レーザー加工装置の移動方向に対し所定の角度を有する方向より液体を噴射し、溝を形成する加工を繰り返した場合の模式図であって、レーザー加工装置の主要部の概略構成を示す上面図である。本実施例では、レーザー加工装置1の移動方向に対し所定の角度を有する方向より液体を噴射し得るよう液体供給ノズル4aを配する点が実施例1と異なり、特に、液体供給ノズル4aを加工対象物2の表面上に投影した場合において、液体供給ノズル4aがレーザー加工装置1の移動方向に対し所定の角度を有するよう配される点が異なる。その他の構成は実施例1と同様であり、実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では実施例1と重複する説明を省略すると共に、溶融加工のうちガウジング(溝形成)加工を行う場合を一例として説明する。
【0062】
本実施例に係るレーザー加工装置1及び当該レーザー加工装置1を用いたレーザー加工方法を説明する前に比較例について説明する。
図19は、比較例のレーザー加工装置の主要部概略構成図であって、レーザー加工装置の移動方向と逆向きに液体を噴射した場合の概念説明用断面模式図であり、
図20は、
図19のA−A断面矢視図である。
【0063】
まず、レーザーヘッド3a及び液体供給ノズル4aの位置関係が固定された状態で、レーザー加工装置1を例えば3軸ロボット等の3次元移動機構(図示せず)により、加工対象物2の表面に沿って水平移動させながら加工を実施することで、溝が形成される。形成された溝の隣に、再度、溝を形成する加工を繰り返すことで、加工対象物2の表層の広い領域を排除する。形成される溝の深さが加工対象物2の厚さよりも浅い場合を、ガウジングと呼ぶ。ガウジングは、切断とは異なり、非貫通の加工である。切断の場合は、溶融物2cは、加工対象物2の貫通部を通して、溶融物2cの元あった位置2dから加工対象物2の裏側へと排除される。一方、ガウジングの場合は、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから、加工面12より上方へ排除される。そのため、排除された溶融物2gの飛散方向等、適切な排除に留意する必要がある。具体的には、排除された溶融物2gが加工面12及び加工面12の周囲12aに固着することを防ぐ必要がある。加工面12及び加工面12の周囲12aに付着した溶融物2iは、回収効率の低下のみならず、加工面12の隣に新しく溝を形成する際の、レーザー光3の集光阻害を引き起こし、溶融効率の低下による、溶融物2cの排除効率の低下も引き起こす。
【0064】
図19に示すように、比較例のレーザー加工装置1は、レーザー加工装置1の移動方向13とは逆向きに、液体供給ノズル4aから流動性の液膜6を形成する液体4を加工対象物2の表面上に噴射し、同時にレーザーヘッド3aよりレーザー光3を照射する。換言すれば、比較例のレーザー加工装置1は、レーザー加工装置1の移動方向13に対し、レーザーヘッド3aより前方側に液体供給ノズル4aを配している。レーザー加工装置1の移動方向13とは逆向きに、流動性の液膜6を形成する液体4の流れが生じるため、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから、加工面12の方向へ移動しやすくなり、冷却工程による急冷・固化が十分に達成されないまま、加工面12、及び、加工面12の周囲12aに付着する。その結果、排除された溶融物2g(図示せず)は、加工面12及び加工面12の周囲12aへ付着し、付着した溶融物2iとなり、固着が生じる。
図20に
図19のA−A断面矢視図を示す。
図20に示すように、具体的には形成された溝の壁面部分12bへの固着が生じやすい。これは、排除された溶融物2gを急冷・固化させるための流動性の液膜6が溝の壁面部分12bには形成されにくいためである。
【0065】
図21に本発明の他の実施例に係るレーザー加工装置の主要部概略構成図であって、レーザー加工装置の移動方向と同じ向きに液体を噴射した場合の概念説明用断面模式図を示す。
図21に示すように、本実施例に係るレーザー加工装置1は、レーザー加工装置1の移動方向13と同じ向きに、液体供給ノズル4aから流動性の液膜6を形成する液体4を加工対象物2の表面上に噴射し、同時にレーザーヘッド3aよりレーザー光3を照射する。換言すれば、本実施例に係るレーザー加工装置1は、レーザー加工装置1の移動方向13に対し、レーザーヘッド3aより後方側に液体供給ノズル4aを配している。なお、
図21に示すように、液体供給ノズル4aから噴射される液体4の加工前の加工対象物2の表面上(点線で示す)における位置は、レーザー光照射部2a(図示せず)に対し所定の距離離間している。レーザー加工装置1の移動方向13と同じ向きに、流動性の液膜6を形成する液体4の流れが生じるため、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから、加工面12と反対方向の加工対象物2の表面上へ剥離又は離脱し排除される。加工対象物2の表面上には流動性の液膜6が形成されているため、排除された溶融物2gは流動性の液膜6によって急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され回収されるため、適切に排除・回収することが可能となる。
【0066】
以上、レーザー加工装置1を水平移動させながら溝を加工する際の、適切な溶融物の排除に係る液体4の噴射方向について説明したが、溝を形成する加工を繰り返すことで、加工対象物2の表層の広い領域を排除する場合においても、液体供給ノズル4aから流動性の液膜6を形成する液体4を噴射する噴射方向が重要となる。
図22は、レーザー加工装置の移動方向と同じ向きに液体を噴射し、溝を形成する加工を繰り返した場合の模式図であって、レーザー加工装置の主要部の概略構成を示す上面図である。
図22では、レーザーヘッド3aは溶融物2cの直上に位置するため、図面の見やすさを考慮し、レーザーヘッド3aの表記を省略している。また、
図23は
図22のA−A断面矢視図である。上述の
図21に示した1本の溝を加工する場合とは異なり、
図20及び
図23に示すように、既に溝を加工した加工面12側には壁が存在しない。そのため、液体供給ノズル4aから噴射される液体4及び溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから加工面12側へ移動しやすくなる。その結果、上述の
図19及び
図20を用いて説明した理由と同様に、排除された溶融物2g(
図23)は冷却工程による急冷・固化が十分に達成されないまま、加工面12、及び、加工面12の周囲12aに付着する。その結果、排除された溶融物2g(
図23)は、加工面12及び加工面12の周囲12aへ付着し付着した溶融物2iとなり、固着が生じる。
【0067】
図24は、レーザー加工装置の移動方向と同じ向きに液体を噴射し、溝を形成する加工を繰り返した場合の模式図であって、レーザー加工装置の主要部の概略構成を示す上面図である。
図24では、レーザーヘッド3aは溶融物2cの直上に位置するため、図面の見やすさを考慮し、レーザーヘッド3aの表記を省略している。また、
図25は、
図24のA−A断面矢視図である。
図24に示すように、本実施例に係るレーザー加工装置1は、レーザー加工装置1の移動方向13と液体供給ノズル4aより噴射される液体4の噴射方向とが、所定の角度θαをなすよう配される液体供給ノズル4aを備える。換言すれば、液体供給ノズル4aを加工対象物2の表面上に投影した場合において、液体供給ノズル4aがレーザー加工装置1の移動方向13に対し所定の角度θαを有するよう配されている。また、液体供給ノズル4aから噴射される液体4の加工面12上における位置は、溶融物2cの位置(レーザー光照射部2aに相当)に対し所定の距離離間している。従って、液体供給ノズル4aから噴射される液体4の加工前の加工対象物2の表面上における位置は、レーザー光照射部2a(図示せず)に対し所定の距離離間していることは言うまでもない。
図24に示すように、レーザー加工装置1の移動方向13と同じ向きであって、且つ、上記所定の角度θαをなす斜め方向から、加工面12と反対側へと向かう流動性の液膜6を形成する液体4の流れが生じるため、溶融物2cの元あった位置2dから溶融物2cは、剥離又は離脱し、流動性の液膜6を形成する液体4により急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。なお、レーザー加工装置1の移動方向13と液体供給ノズル4aより噴射される液体4の噴射方向との成す角度θαは、0°以上90°未満の範囲に設定され、好ましくは、15°以上75°以下であり、45°が望ましい。
図24では、一例として、45°に設定された場合を示している。
【0068】
また、
図25に示すように、液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4により、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから、加工面12と反対方向の加工対象物2の表面上へ剥離又は離脱し排除される。加工対象物2の表面上には流動性の液膜6が形成されているため、排除された溶融物2gは流動性の液膜6によって急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され回収されるため、適切に排除・回収することが可能となる。なお、
図25においては、レーザー光3と液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4とが、あたかも重なるよう表記しているが、これは、
図24のA−A断面を矢印方向から見た図であるためであり、実際には、
図25において、レーザー光3と液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4とは、相互に所定の距離離間している。
【0069】
次に、
図26〜
図31を用いて、適切に溶融物を排除するための液体供給ノズル4aより噴射される液体4の噴射位置について説明する。
図26は、レーザー光照射部に対して、液体供給ノズルより液体を同じ位置或いはレーザー加工装置の移動方向側にシフトした場合の比較例の断面模式図である。
図26に示すように、液体供給ノズル4aより噴射される液体4と衝突した溶融物2cは、レーザー加工装置1の移動方向13と逆側、すなわち、加工面12側へ排除されやすくなる。その結果、上述の
図19及び
図20を用いて説明した理由と同様に、排除された溶融物2g(図示せず)は冷却工程による急冷・固化が十分に達成されないまま、加工面12、及び、加工面12の周囲12aに付着する。その結果、排除された溶融物2gは、加工面12及び加工面12の周囲12aへ付着し付着した溶融物2iとなり、固着が生じる。
【0070】
図27は、レーザー光照射部に対して、液体供給ノズルより液体が供給される位置を、レーザー加工装置の移動方向と逆側にシフトした場合の実施例の断面模式図である。
図27に示すように、液体供給ノズル4aから噴射される液体4の加工前の加工対象物2の表面上(点線で示す)における位置は、レーザー光照射部2a(図示せず)に対し所定の距離離間している。液体供給ノズル4aより噴射される液体4と衝突した溶融物2cは、レーザー加工装置1の移動方向13と同じ向きに、流動性の液膜6を形成する液体4の流れが生じるため、溶融物2cの元あった位置2dから、加工面12と反対方向の加工対象物2の表面上へ剥離又は離脱し排除される。加工対象物2の表面上には流動性の液膜6が形成されているため、排除された溶融物2gは流動性の液膜6によって急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され回収されるため、適切に排除・回収することが可能となる。
【0071】
以上、レーザー加工装置1を水平移動させながら加工を実施することで、溝を加工する際の、適切な溶融物の排除に係る液体4の噴射位置について説明したが、溝を形成する加工を繰り返すことで、加工対象物2の表層の広い領域を排除する場合も、液体4の噴射位置が重要となる。
図28は、レーザー光照射部に対し、液体供給ノズルより液体が供給される位置を、レーザー加工装置の移動方向と逆側にシフトし、溝を形成する加工を繰り返した場合の比較例の模式図であって、レーザー加工装置の主要部の概略構成を示す上面図である。
図28では、レーザーヘッド3aは溶融物2cの直上に位置するため、図面の見やすさを考慮し、レーザーヘッド3aの表記を省略している。また、
図29は、
図28のA−A断面矢視図である。
図28及び
図29に示すように、既に溝を加工した加工面12側には壁が存在しない。そのため、液体供給ノズル4aから噴射される液体4及び溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから加工面12側へ移動しやすくなる。その結果、上述の
図22及び
図23を用いて説明した理由と同様に、排除された溶融物2g(
図29)は冷却工程による急冷・固化が十分に達成されないまま、加工面12、及び、加工面12の周囲12aに付着する。その結果、排除された溶融物2g(
図29)は、加工面12及び加工面12の周囲12aへ付着し付着した溶融物2iとなり、固着が生じる。
【0072】
図30は、レーザー光照射部に対し、液体供給ノズルより液体が供給される位置を、レーザー加工装置の移動方向と逆側にシフトすると共に水平方向にシフトさせ、溝を形成する加工を繰り返した場合の実施例の模式図であって、レーザー加工装置の主要部の概略構成を示す上面図である。
図30では、レーザーヘッド3aは溶融物2cの直上に位置するため、図面の見やすさを考慮し、レーザーヘッド3aの表記を省略すると共に、本来レーザーヘッド3aと平行に配される液体供給ノズル4aより噴射される液体4の位置を解りやすくするため液体供給ノズル4aを表記している。また、
図31は、
図30のA−A断面矢視図である。
図30及び
図31に示すように、レーザー加工装置1は、レーザー加工装置1の移動方向13と逆側であって、且つ、既に溝が形成された加工面12側へ所定の距離だけシフトすると共に、レーザーヘッド3aに平行に配される液体供給ノズル4aを備える。
図31に示すように、液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4により、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから、加工面12と反対方向の加工対象物2の表面上へ剥離又は離脱し排除される。加工対象物2の表面上には流動性の液膜6が形成されているため、排除された溶融物2gは流動性の液膜6によって急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され回収されるため、適切に排除・回収することが可能となる。
【0073】
次に、
図32〜
図35を用いて、適切に溶融物を排除するための液体の噴射角度について説明する。
図32及び
図33は、液体供給ノズルの軸方向(液体が噴射される方向)と加工対象物の表面とのなす角(傾斜角)を小さくした場合の断面模式図である。なお、
図32及び
図33では、レーザー光3と液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4とが、あたかも重なるよう表記しているが、実際には、図中奥行方向において、レーザー光3と液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4とは、相互に所定の距離離間している。
図32及び
図33に示すように、レーザー加工装置1は、液体供給ノズル4aより流動性の液膜6を形成する液体4が噴射される噴射方向(液体供給ノズル4aの軸方向)と加工対象物2の表面とが、所定の角度θβ1をなすよう配される液体供給ノズル4aを備える。図に示すように角度θβ1(傾斜角)は比較的小さい。
【0074】
図32に示すように、加工初期の溝が浅い段階では、液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4を溶融物2cへと向かい供給することが可能である。レーザー加工装置1の移動方向13と同じ向きに、流動性の液膜6を形成する液体4の流れが生じるため、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから、加工面12と反対方向の加工対象物2の表面上へ剥離又は離脱し排除される。加工対象物2の表面上には流動性の液膜6が形成されているため、排除された溶融物2gは流動性の液膜6によって急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され回収されるため、適切に排除・回収することが可能となる。
【0075】
しかし、加工が進み、溝が深くなると、
図33に示すように、液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4を溶融物2cへと向かい供給することが困難となる。その結果、液体供給ノズル4aより噴射される液体4と衝突した溶融物2cは、レーザー加工装置1の移動方向13と逆側、すなわち、加工面12側へ排除されやすくなる。その結果、排除された溶融物2gは冷却工程による急冷・固化が十分に達成されないまま、加工面12、及び、加工面12の周囲12aに付着する。その結果、排除された溶融物2gは、加工面12及び加工面12の周囲12aへ付着し付着した溶融物2iとなり、固着が生じる。
【0076】
図34及び
図35は、液体供給ノズルの軸方向(液体が噴射される方向)と加工対象物の表面とのなす角(傾斜角)を大きくした場合の断面模式図である。なお、なお、
図34及び
図35では、レーザー光3と液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4とが、あたかも重なるよう表記しているが、実際には、図中奥行方向において、レーザー光3と液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4とは、相互に所定の距離離間している。
図34及び
図35に示すように、レーザー加工装置1は、液体供給ノズル4aより流動性の液膜6を形成する液体4が噴射される噴射方向(液体供給ノズル4aの軸方向)と加工対象物2の表面とが、所定の角度θβ2をなすよう配される液体供給ノズル4aを備える。図に示すように角度θβ2(傾斜角)は比較的大きい。
図34及び
図35に示すように、加工された溝の浅さによらず、液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4を溶融物2cへと向かい供給することが可能である。液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4の流れにより、溶融物2cは、溶融物2cの元あった位置2dから、加工面12と反対方向の加工対象物2の表面上へ剥離又は離脱し排除される。加工対象物2の表面上には流動性の液膜6が形成されているため、排除された溶融物2gは流動性の液膜6によって急冷・固化され、急冷・固化された溶融物2hとなる。そして、加工対象物2の表面上に存在する流動性の液膜6により、急冷・固化された溶融物2hは、流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗って、加工対象物2の表面上から洗い流され回収されるため、適切に排除・回収することが可能となる。
【0077】
以上の通り、本実施例によれば、実施例1の効果に加え、加工対象物の表層の広い領域に溝を形成するガウジングにおいて、溶融物を適切に排除し、溶融物の加工対象物への固着を防ぐことで、排除効率と回収効率の高い加工が可能となる。
【実施例5】
【0078】
図36は、本発明の他の実施例に係るレーザー加工装置であって、流動性の液膜の流れの方向において、レーザーヘッドよりも上流側に第1の液体供給ノズルを、下流側に第2の液体供給ノズルを配するレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法の概念説明図である。本実施例では、レーザーヘッドよりも上流側に第1の液体供給ノズルを、下流側に第2の液体供給ノズルを配する構成とした点が実施例1と異なる。その他の構成は実施例1と同様であり、実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では実施例1と重複する説明を省略すると共に、溶融加工のうち穴あけ加工を行う場合を一例として説明する。
【0079】
図36に示すように、本実施例に係るレーザー加工装置1は、レーザー光3を被加工物である加工対象物2に集光して溶融させるレーザーヘッド3a、流動性の液膜6の流れの方向においてレーザーヘッド3aよりも上流側に配される第1の液体供給ノズル4f、及び流動性の液膜6の流れの方向においてレーザーヘッド3aよりも下流側に配される第2の液体供給ノズル4gを備える。第1の液体供給ノズル4fから噴射される液体4の加工対象物2の表面上における位置は、レーザー光照射部2a(図示せず)に対し所定の距離離間している。また、同様に、第2の液体供給ノズル4gから噴射される液体4の加工対象物2の表面上における位置は、レーザー光照射部2a(図示せず)に対し所定の距離離間している。
【0080】
第1の液体供給ノズル4fから噴射される流動性の液膜6を形成する液体4により、上述の溶融工程にて形成された溶融物2cを、溶融物2cの元あった位置2dから排除する。加工対象物2から剥離又は離脱し排除された溶融物2gを、第2の液体供給ノズル4gから噴射される流動性の液膜6を形成する液体4により急冷・固化し、急冷・固化された溶融物2hを、第2の液体供給ノズル4gから噴射される流動性の液膜6を形成する液体4の流れに乗せて回収する。
【0081】
なお、図示しないが、第1の液体供給ノズル4f及び第2の液体供給ノズル4gには、給水タンク4bに貯留される液体4を汲み出すためのポンプ、圧力調整弁、給水タンク4b、及び液体4を通流させるホースがそれぞれ独立に設けられている。
【0082】
本実施例によれば、実施例1と比較し、レーザー加工装置1を構成する部品点数が増加するものの、より効果的に溶融物の排除効率を向上できると共に、溶融物を適切に回収することが可能となる。
【実施例6】
【0083】
図37は、本発明の他の実施例に係るレーザー加工装置であって、加工面に付着する溶融物を回収するための機械加工用のツールを備えるレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法の概念説明図である。本実施例では、万が一溶融物が加工面に付着した場合においても、当該付着した溶融物を回収するための機械加工用のツールを備える点が実施例1と異なる。その他の構成は実施例1と同様であり、実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では実施例1と重複する説明を省略すると共に、溶融加工のうちガウジング(溝形成)加工を行う場合を一例として説明する。
【0084】
図37に示すように、本実施例に係るレーザー加工装置1は、レーザー加工装置1の移動方向13に対して、レーザーヘッド3a及び液体供給ノズル4aよりも後方側に機械加工用のツール14を備える。機械加工用のツール14として、例えば、スクレーパー等が用いられる。なお、
図37では、レーザー光3と液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4とが、あたかも重なるよう表記しているが、実際には、図中奥行方向において、レーザー光3と液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4とは、相互に所定の距離離間している。
まず、液体供給ノズル4aより噴射される流動性の液膜6を形成する液体4によって、溶融物2cが、溶融物2cが元あった位置2dから排除される。万が一、液体供給ノズル4aより噴射される液体4と衝突した溶融物2cが、レーザー加工装置1の移動方向13と逆側、すなわち、加工面12側へ排除された場合、上述したように、排除された溶融物2gは冷却工程による急冷・固化が十分に達成されないまま、加工面12、及び、加工面12の周囲12aに付着する。その結果、排除された溶融物2g(図示せず)は、加工面12及び加工面12の周囲12aへ付着し付着した溶融物2iとなり、固着が生じる。この場合、付着した溶融物2iを、機械加工用のツール14により削り取ることにより回収する。なお、付着した溶融物2iは、付着した直後は比較的高温状態を維持しているため、容易に削り取ることができる。
【0085】
以上の通り、本実施例によれば、実施例1の効果に加え、万が一加工面に溶融物が付着した場合においても、当該付着した溶融物を好適に回収できる。
【実施例7】
【0086】
図38は、本発明の他の実施例に係るレーザー加工装置であって、装置全体を覆うためのカバーを備えるレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法の概念説明図である。本実施例では、レーザー光照射部2a及びレーザー光照射部2aの近傍2bのおかれる環境と、加工対象物2のおかれる環境とを隔離し、安定した加工を達成するために、レーザー加工装置1の全体を覆うためのカバーを備える点が実施例1と異なる。その他の構成は実施例1と同様であり、実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では実施例1と重複する説明を省略すると共に、溶融加工のうちガウジング(溝形成)加工を行う場合を一例として説明する。
【0087】
図38に示すように、レーザー加工装置1は、レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34を備える。レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34は、例えば、金属等の高剛性の材料にて形成しても良く、又は、フィルム等の低剛性の材料にて形成しても良い。なお、これら高剛性の材料及び低剛性の材料の組み合わせにて、レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34を形成しても良い。
図38では一例として金属製のカバー34を用いる場合を示している。レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34は、伸縮機構36を介してレーザーヘッド3aに固定されている。そのため、レーザーヘッド3a及び液体供給ノズル4aの位置関係が固定された状態で、レーザー加工装置1を例えば3軸ロボット等の3次元移動機構(図示せず)により、加工対象物2の表面に沿って水平移動させながらガウジング(溝形成)加工を行う場合、カバー34はレーザーヘッド3aの動きに追従する。
【0088】
また、
図38に示すように、レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34の側面のうち、一方の側面には液体供給ノズル4aを挿入するための貫通穴35が設けられており、液体供給ノズル4aより液体4を加工対象物2の表面上に噴射することで、流動性の液膜6が形成される。また、レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34の各側面の上部に、上述のように伸縮機構36がそれぞれ設けられている。これら伸縮機構36が、加工対象物2の表面形状に応じて伸縮することで、液体供給ノズル4aの位置も変化する。このため、仮に、加工対象物2とレーザーヘッド3a、及び液体供給ノズル4aとの距離が想定より大幅に変化した場合であっても、ある程度はレーザー照射部2aと液体供給ノズル4aより噴射される液体4の供給位置8との位置関係を維持することが可能となる。具体的には、加工対象物2の表面に大きな起伏或いは凹凸がある場合にも、レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34を加工対象物2の表面上に押し付けながらガウジング(溝形成)加工を行うことで、安定した加工が実現できる。
【0089】
また、
図38に示すように、レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34の側面のうち、上述の液体供給ノズル4aを挿入するための貫通穴35が設けられた側面に対し、水平方向に対向する側面に溶融物回収孔37が形成されている。換言すれば、溶融物回収孔37が形成された側面は、レーザー加工装置1の移動方向13において、レーザーヘッド3aを挟んで液体供給ノズル4aを挿入するための貫通穴35が設けられた側面と対向している。溶融物回収孔37は溶融物回収ホース38に連通しており、溶融物回収ホース38の先に設置されたポンプ(図示せず)により吸引することで、ガウジング(溝形成)加工時に発生した急冷・固化された溶融物2h及び流動性の液膜6を形成する液体4を、発生したその場で回収することが可能となる。このため、加工対象物2のおかれている環境に急冷・固化された溶融物2h或いは流動性の液膜6を形成する液体4が飛散することは無く、加工環境を汚染する虞が無い。換言すれば、ガウジング(溝形成)加工により生ずる急冷・固化された溶融物2h或いは流動性の液膜6を形成する液体4が、レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34の外部へ飛散することは無い。
【0090】
また、カバー34を備えるレーザー加工装置1を加工対象物2の表面形状に十分に追従させ、カバー34内の気密を保つことが可能であれば、カバー34内にガスを充満させることで、局所的な気中環境を作り出すことが可能となる。これにより、加工対象物2のおかれている環境(気相中或いは液相中(水中)等)の影響を受けず、安定した加工が実現できる。
【0091】
以上の通り、本実施例によれば、実施例1の効果に加え、レーザー光照射部2a及びレーザー光照射部2aの近傍2bのおかれる環境と、加工対象物2のおかれる環境とを隔離することで、より安定した加工を実現することが可能となる。
また、本実施例によれば、レーザー加工装置1の全体を覆うカバー34により、加工により生ずる急冷・固化された溶融物2h或いは流動性の液膜6を形成する液体4が、カバー34の外部へ飛散することは無く、加工環境の汚染を防止することも可能となる。
【0092】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。