(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記布帛から前記組紐状圧電素子が部分的に露出しており、該露出部分において前記組紐状圧電素子の前記導電性繊維および/または前記導電層と他の部材とが電気的に接続されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の布帛状圧電素子。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(組紐状圧電素子)
図1は実施形態に係る組紐状圧電素子の構成例を示す模式図である。
組紐状圧電素子1は、導電性繊維Bで形成された芯部3と、芯部3を被覆するように組紐状の圧電性繊維Aで形成された鞘部2と、鞘部2を被覆する導電層4とを備えている。導電層4は芯部3の導電性繊維の対極となる電極としての機能と、芯部3の導電性繊維を外部の電磁波から遮蔽し、芯部3の導電性繊維に発生するノイズ信号を抑制するシールドとしての機能を同時に有する。
【0015】
導電層4による鞘部2の被覆率は25%以上が好ましい。ここで被覆率とは、導電層4を鞘部2へ投影した際の導電層4に含まれる導電性物質5の面積と鞘部2の表面積の比率であり、その値は25%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。導電層4の被覆率が25%を下回るとノイズ信号の抑制効果が十分に発揮されない場合がある。導電性物質5が導電層4の表面へ露出していない場合、例えば導電性物質5を内包する繊維を導電層4として使用して鞘部2を被覆している場合は、その繊維の鞘部2へ投影した際の面積と鞘部2の表面積の比率を被覆率とすることができる。
【0016】
導電性物質5とは、導電層4に含まれる導電性物質のことであり、公知のあらゆるものが該当する。
【0017】
組紐状圧電素子1では、少なくとも一本の導電性繊維Bの外周面を多数の圧電性繊維Aが緻密に取り巻いている。組紐状圧電素子1に変形が生じると、多数の圧電性繊維Aそれぞれに変形による応力が生じ、それにより多数の圧電性繊維Aそれぞれに電場が生じ(圧電効果)、その結果、導電性繊維Bを取り巻く多数の圧電性繊維Aの電場を重畳した電圧変化が導電性繊維Bに生じる。すなわち圧電性繊維Aの組紐状の鞘部2を用いない場合と比較して導電性繊維Bからの電気信号が増大する。それにより、組紐状圧電素子1では、比較的小さな変形で生じる応力によっても、大きな電気信号を取り出すことが可能となる。なお、導電性繊維Bは複数本であってもよい。
【0018】
組紐状圧電素子1は、その中心軸(
図1中のCL)方向への伸縮変形に対して選択的に大きな電気信号を出力するか、あるいはその中心軸を軸としたねじり変形に対して選択的に大きな電気信号を出力するものが好ましく、その中心軸方向への伸縮変形に対して選択的に大きな電気信号を出力するものがより好ましい。
【0019】
(伸縮変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子)
中心軸方向への伸縮変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子1としては、例えば、圧電性繊維Aとして、一軸配向した高分子の成型体であり、配向軸を3軸とした時の圧電定数d14の絶対値が0.1pC/N以上1000pC/N以下の値を有する結晶性高分子を主成分として含む圧電性高分子を使用することができる。本発明において「主成分として含む」とは、構成成分の50質量%以上を占めることを指す。また、本発明において結晶性高分子とは、1質量%以上の結晶部と、結晶部以外の非晶部とからなる高分子であり、結晶性高分子の質量とは結晶部と非晶部とを合計した質量である。なお、d14の値は成型条件や純度および測定雰囲気によって異なる値を示すが、本発明においては、実際に使用される圧電性高分子中の結晶性高分子の結晶化度および結晶配向度を測定し、それと同等の結晶化度および結晶配向度を有する1軸延伸フィルムを当該結晶性高分子を用いて作成し、そのフィルムのd14の絶対値が、実際に使用される温度において0.1pC/N以上1000pC/N以下の値を示せばよく、本実施形態の圧電性高分子に含まれる結晶性高分子としては、後述されるような特定の結晶性高分子には限定されない。フィルムサンプルのd14の測定は公知の様々な方法を取ることができるが、例えばフィルムサンプルの両面に金属を蒸着して電極としたサンプルを、延伸方向から45度傾いた方向に4辺を有する長方形に切り出し、その長尺方向に引張荷重をかけた時に両面の電極に発生する電荷を測定することで、d14の値を測定することができる。
【0020】
また、中心軸方向への伸縮変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子1においては、中心軸の方向と圧電性高分子の配向方向とがなす角度(配向角度θ)は15°以上75°以下であることが好ましい。この条件を満たす時、組紐状圧電素子1に対し中心軸方向の伸縮変形(引張応力および圧縮応力)を与えることで、圧電性高分子に含まれる結晶性高分子の圧電定数d14に対応する圧電効果を効率よく利用し、組紐状圧電素子1の中心軸側と外側とに効率的に逆極性(逆符号)の電荷を発生させることができる。かかる観点から、配向角度θは25°以上65°以下であることが好ましく、35°以上55°以下であることがより好ましく、40°以上50°以下であることがさらに好ましい。このように圧電性高分子を配置すると、圧電性高分子の配向方向はらせんを描くことになる。
【0021】
また、このように圧電性高分子を配置することで、組紐状圧電素子1の表面を擦るようなせん断変形や、中心軸を曲げるような曲げ変形や、中心軸を軸としたねじり変形に対しては組紐状圧電素子1の中心軸側と外側とには大きな電荷を発生させないようにする、即ち中心軸方向の伸縮に対して選択的に大きな電荷を発生させる組紐状圧電素子1とすることができる。
【0022】
配向角度θは、可能な限り下記の方法で測定する。組紐状圧電素子1の側面写真を撮影し、圧電性高分子A’のらせんピッチHPを測定する。らせんピッチHPは
図2の通り、1本の圧電性高分子A’が表面から裏面を回って再び表面に来るまでに要した、中心軸方向の直線距離である。また、必要に応じて接着剤で構造を固定後に、組紐状圧電素子1の中心軸に垂直な断面を切り出して写真を撮影し、鞘部2が占める部分の外側半径Roおよび内側半径Riを測定する。断面の外縁および内縁が楕円形や扁平な円形の場合は、長径と短径の平均値をRoおよびRiとする。下記式から中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θを計算する。
θ = arctan(2πRm/HP) (0°≦θ≦90°)
ただしRm=2(Ro
3−Ri
3)/3(Ro
2−Ri
2)、即ち断面積で加重平均した組紐状圧電素子1の半径である。
【0023】
組紐状圧電素子1の側面写真において圧電性高分子が均一な表面を有しており、圧電性高分子のらせんピッチが判別できない場合は、接着剤等で固定した組紐状圧電素子1を中心軸を通る平面で割断し、割断面に垂直な方向に、中心軸を通るよう十分に狭い範囲でX線を透過するよう広角X線回折分析を行い、配向方向を決定して中心軸との角度をとり、θとする。
【0024】
本発明に係る組紐状圧電素子1では、圧電性高分子の配向方向に沿って描かれるらせんについて、らせん方向(S撚り方向またはZ撚り方向)やらせんピッチを異にする2つ以上のらせんが同時に存在する場合があるが、それぞれのらせん方向およびらせんピッチの圧電性高分子についてそれぞれ上記測定を行い、いずれか一つのらせん方向およびらせんピッチの圧電性高分子が前述の条件を満たすことが必要である。
【0025】
中心軸方向の伸縮変形に対して中心軸側と外側とに発生する電荷の極性は、圧電性高分子の配向方向をS撚りのらせんに沿って配置した場合と、同じ圧電性高分子の配向方向をZ撚りのらせんに沿って配置した場合とでは、互いに逆の極性になる。このため、圧電性高分子の配向方向をS撚りのらせんに沿って配置すると同時にZ撚りのらせんに沿って配置した場合は、伸縮変形に対する発生電荷がS撚り方向とZ撚り方向とで互いに打消し合って効率的に利用できないため、好ましくない。したがって、上記の圧電性高分子は、圧電定数d14の値が正の結晶性高分子を主成分として含むP体と、負の結晶性高分子を主成分として含むN体とを含み、組紐状圧電素子1の中心軸が1cmの長さを持つ部分について、配向軸がZ撚り方向にらせんを巻いて配置されたP体の質量をZP、配向軸がS撚り方向にらせんを巻いて配置されたP体の質量をSP、配向軸がZ撚り方向にらせんを巻いて配置されたN体の質量をZN、配向軸がS撚り方向にらせんを巻いて配置されたN体の質量をSNとし、(ZP+SN)と(SP+ZN)とのうち小さい方をT1、大きい方をT2としたとき、T1/T2の値が0以上0.8以下であることが好ましく、さらに0以上0.5以下であることが好ましい。
【0026】
(ねじり変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子)
中心軸を軸としたねじり変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子1としては、上記と同様に、例えば、圧電性繊維Aとして、一軸配向した高分子の成型体であり、配向軸を3軸とした時の圧電定数d14の絶対値が0.1pC/N以上1000pC/N以下の値を有する結晶性高分子を主成分として含む圧電性高分子を使用することができる。また、中心軸を軸としたねじり変形に対して選択的に大きな電気信号を出力する組紐状圧電素子1においては、中心軸の方向と圧電性高分子の配向方向とがなす角度θは0°以上40°以下または50°以上90°以下であることが好ましい。この条件を満たす時、組紐状圧電素子1に対し中心軸を軸としたねじり変形(ねじり応力)を与えることで、圧電性高分子に含まれる結晶性高分子の圧電定数d14に対応する圧電効果を効率よく利用し、組紐状圧電素子1の中心軸側と外側とに効率的に逆極性の電荷を発生させることができる。かかる観点から、中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θは0°以上35°以下または55°以上90°以下であることが好ましく、0°以上30°以下または60°以上90°以下であることがより好ましく、0°以上25°以下または65°以上90°以下であることがさらに好ましい。中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θが0°を超えて90°未満である場合には、圧電性高分子の配向方向はらせんを描くことになる。
【0027】
また、このように圧電性高分子を配置することで、組紐状圧電素子1の表面を擦るようなせん断変形や、中心軸を曲げるような曲げ変形や、中心軸方向の伸縮変形に対しては組紐状圧電素子1の中心軸側と外側とには大きな電荷を発生させないようにする、即ち中心軸を軸としたねじりに対して選択的に大きな電荷を発生させる組紐状圧電素子1とすることができる。
【0028】
圧電性高分子の配向方向がらせんをなす場合、らせん方向(S撚り方向またはZ撚り方向)がどちらであるかは、ねじり変形に対して発生する電荷の極性に影響しない。ただし、中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θが0°以上40°以下である場合と、50°以上90°以下である場合とでは、ねじり変形に対して発生する電荷の極性が逆転する。また、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸のように、d14の符号が互いに異なる結晶性高分子を含む圧電性高分子も、ねじり変形に対して発生する電荷の極性が逆転する。従って、ねじり変形に対して組紐状圧電素子1の中心軸側と外側とに効率的に逆極性の電荷を発生させるためには、d14の符号が同一の結晶性高分子を主成分として含む圧電性高分子のみを用い、組紐状圧電素子1の中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θは0°以上40°以下または50°以上90°以下のどちらかのみに揃えることが好ましい。
【0029】
伸縮変形に対して組紐状圧電素子1の中心軸側と外側とには大きな電荷を発生させないようにする観点から、上記の圧電性高分子は、圧電定数d14の値が正の結晶性高分子を主成分として含むP体と、負の結晶性高分子を主成分として含むN体とを含み、組紐状圧電素子1の中心軸が1cmの長さを持つ部分について、配向軸がZ撚り方向にらせんを巻いて配置されたP体の質量をZP、配向軸がS撚り方向にらせんを巻いて配置されたP体の質量をSP、配向軸がZ撚り方向にらせんを巻いて配置されたN体の質量をZN、配向軸がS撚り方向にらせんを巻いて配置されたN体の質量をSNとし、(ZP+SN)と(SP+ZN)とのうち小さい方をT1、大きい方をT2としたとき、T1/T2の値が0.8超であることがより好ましく、さらに0.9超であることが好ましい。ここで上記のT1/T2の値を満足しない場合でも、中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θが0°以上10°以下、または80°以上90°以下の場合は、10°超80°未満の場合に比べ伸縮変形に対して発生する電荷量が小さくなる結果、ねじり変形に対して選択的に電気信号を発生させることができ、好ましい。
【0030】
本発明の圧電性繊維として主成分としてポリ乳酸が含まれる繊維を用いる場合、ポリ乳酸中の乳酸ユニットは90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。
【0031】
なお、組紐状圧電素子1では、本発明の目的を達成する限り、鞘部2では圧電性繊維A以外の他の繊維と組み合わせて混繊等を行ってもよいし、芯部3では導電性繊維B以外の他の繊維と組み合わせて混繊等を行ってもよい。
【0032】
導電性繊維Bの芯部3と、組紐状の圧電性繊維Aの鞘部2と、鞘部2を被覆する導電層4とで構成される組紐状圧電素子の長さは特に限定はない。例えば、その組紐状圧電素子は製造において連続的に製造され、その後に必要な長さに切断して利用してもよい。組紐状圧電素子の長さは1mm〜10m、好ましくは、5mm〜2m、より好ましくは1cm〜1mである。長さが短過ぎると繊維形状である利便性が失われ、また、長さが長過ぎると導電性繊維Bの抵抗値を考慮する必要が出てくるであろう。
【0033】
以下、各構成について詳細に説明する。
【0034】
(導電性繊維)
導電性繊維Bとしては、導電性を示すものであればよく、公知のあらゆるものが用いられる。導電性繊維Bとしては、例えば、金属繊維、導電性高分子からなる繊維、炭素繊維、繊維状あるいは粒状の導電性フィラーを分散させた高分子からなる繊維、あるいは繊維状物の表面に導電性を有する層を設けた繊維が挙げられる。繊維状物の表面に導電性を有する層を設ける方法としては、金属コート、導電性高分子コート、導電性繊維の巻付けなどが挙げられる。なかでも金属コートが導電性、耐久性、柔軟性などの観点から好ましい。金属をコートする具体的な方法としては、蒸着、スパッタ、電解メッキ、無電解メッキなどが挙げられるが生産性などの観点からメッキが好ましい。このような金属をメッキされた繊維は金属メッキ繊維ということができる。
【0035】
金属をコートされるベースの繊維として、導電性の有無によらず公知の繊維を用いることができ、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維の他、綿、麻、絹等の天然繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維を用いることができる。ベースの繊維はこれらに限定されるものではなく、公知の繊維を任意に用いることができ、これらの繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
ベースの繊維にコートされる金属は導電性を示し、本発明の効果を奏する限り、いずれを用いてもよい。例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、パラジウム、酸化インジウム錫、硫化銅など、およびこれらの混合物や合金などを用いることができる。
【0037】
導電性繊維Bに屈曲耐性のある金属コートした有機繊維を使用すると、導電性繊維が折れることが非常に少なく、圧電素子を用いたセンサーとしての耐久性や安全性に優れる。
【0038】
導電性繊維Bはフィラメントを複数本束ねたマルチフィラメントであっても、また、フィラメント一本からなるモノフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの方が電気特性の長尺安定性の観点で好ましい。モノフィラメント(紡績糸を含む)の場合、その単糸径は1μm〜5000μmであり、好ましくは2μm〜100μmである。さらに好ましくは3μm〜50μmである。マルチフィラメントの場合、フィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは5本〜500本、さらに好ましくは10本〜100本である。ただし、導電性繊維Bの繊度・本数とは、組紐を作製する際に用いる芯部3の繊度・本数であり、複数本の単糸(モノフィラメント)で形成されるマルチフィラメントも一本の導電性繊維Bと数えるものとする。ここで芯部3とは、導電性繊維以外の繊維を用いた場合であっても、それを含めた全体の量とする。
【0039】
繊維の直径が小さいと強度が低下しハンドリングが困難となり、また、直径が大きい場合にはフレキシブル性が犠牲になる。導電性繊維Bの断面形状としては円または楕円であることが、圧電素子の設計および製造の観点で好ましいが、これに限定されない。
【0040】
また、圧電性高分子からの電気出力を効率よく取り出すため、電気抵抗は低いことが好ましく、体積抵抗率としては10
-1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
-2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
-3Ω・cm以下である。ただし、電気信号の検出で十分な強度が得られるのであれば導電性繊維Bの抵抗率はこの限りではない。
【0041】
導電性繊維Bは、本発明の用途から、繰り返しの曲げやねじりといった動きに対して耐性がなければならない。その指標としては、結節強さが、より大きいものが好まれる。結節強さはJIS L1013 8.6の方法で測定することができる。本発明に適当な結節強さの程度としては、0.5cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることがより好ましく、1.5cN/dtex以上であることがさらに好ましく、2.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。また、別の指標としては、曲げ剛性が、より小さいものが好まれる。曲げ剛性は、カトーテック(株)製KES―FB2純曲げ試験機などの測定装置で測定されるのが一般的である。本発明に適当な曲げ剛性の程度としては、東邦テナックス(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)HTS40−3Kよりも小さいほうが好ましい。具体的には、導電性繊維の曲げ剛性が0.05×10
-4N・m
2/m以下であることが好ましく、0.02×10
-4N・m
2/m以下であることがより好ましく、0.01×10
-4N・m
2/m以下であることがさらに好ましい。
【0042】
(圧電性繊維)
圧電性繊維Aの材料である圧電性高分子としてはポリフッ化ビニリデンやポリ乳酸のような圧電性を示す高分子を利用できるが、本実施形態では上記のように圧電性繊維Aは主成分として配向軸を3軸とした時の圧電定数d14の絶対値が高い結晶性高分子、とりわけポリ乳酸を含むことが好適である。ポリ乳酸は、例えば溶融紡糸後に延伸によって容易に配向して圧電性を示し、ポリフッ化ビニリデンなどで必要となる電界配向処理が不要な点で生産性に優れている。しかしこのことは、本発明を実施するに際してポリフッ化ビニリデンその他の圧電性材料の使用を排除することを意図するものではない。
【0043】
ポリ乳酸としては、その結晶構造によって、L−乳酸、L−ラクチドを重合してなるポリ−L−乳酸、D−乳酸、D−ラクチドを重合してなるポリ−D−乳酸、さらに、それらのハイブリッド構造からなるステレオコンプレックスポリ乳酸などがあるが、圧電性を示すものであればいずれも利用できる。圧電率の高さの観点で好ましくは、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸である。ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸はそれぞれ、同じ応力に対して分極が逆になるために、目的に応じてこれらを組み合わせて使用することも可能である。
【0044】
ポリ乳酸の光学純度は99%以上であることが好ましく、99.3%以上であることがより好ましく、99.5%以上であることがさらに好ましい。光学純度が99%未満であると著しく圧電率が低下する場合があり、圧電性繊維Aの形状変化よって十分な電気信号を得ることが難しくなる場合がある。特に、圧電性繊維Aは、主成分としてポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を含み、これらの光学純度が99%以上であることが好ましい。
【0045】
ポリ乳酸を主成分とする圧電性繊維Aは、製造時に延伸されて、その繊維軸方向に一軸配向している。さらに、圧電性繊維Aは、その繊維軸方向に一軸配向しているだけでなく、ポリ乳酸の結晶を含むものであることが好ましく、一軸配向したポリ乳酸の結晶を含むものであることがより好ましい。なぜなら、ポリ乳酸はその結晶性が高いことおよび一軸配向していることでより大きな圧電性を示し、d14の絶対値が高くなるためである。
【0046】
結晶性および一軸配向性はホモPLA結晶化度X
homo(%)および結晶配向度Ao(%)で求められる。本発明の圧電性繊維Aとしては、ホモPLA結晶化度X
homo(%)および結晶配向度Ao(%)が下記式(1)を満たすことが好ましい。
X
homo×Ao×Ao÷10
6≧0.26 (1)
上記式(1)を満たさない場合、結晶性および/または一軸配向性が十分でなく、動作に対する電気信号の出力値が低下したり、特定方向の動作に対する信号の感度が低下したりするおそれがある。上記式(1)の左辺の値は、0.28以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。ここで、各々の値は下記に従って求める。
【0047】
ホモポリ乳酸結晶化度X
homo:
ホモポリ乳酸結晶化度X
homoについては、広角X線回折分析(WAXD)による結晶構造解析から求める。広角X線回折分析(WAXD)では、リガク製ultrax18型X線回折装置を用いて透過法により、以下条件でサンプルのX線回折図形をイメージングプレートに記録する。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×60mA
スリット: 1st:1mmΦ,2nd:0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 35mgのポリ乳酸繊維を引き揃え3cmの繊維束とする。
得られるX線回折図形において方位角にわたって全散乱強度Itotalを求め、ここで2θ=16.5°,18.5°,24.3°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣIHMiを求める。これらの値から下式(2)に従い、ホモポリ乳酸結晶化度X
homoを求める。
ホモポリ乳酸結晶化度X
homo(%)=ΣI
HMi/I
total×100 (2)
なお、ΣI
HMiは、全散乱強度においてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって算出する。
【0048】
(2)結晶配向度Ao:
結晶配向度Aoについては、上記の広角X線回折分析(WAXD)により得られるX線回折図形において、動径方向の2θ=16.5°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する回折ピークについて、方位角(°)に対する強度分布をとり、得られた分布プロファイルの半値幅の総計Σ
Wi(°)から次式(3)より算出する。
結晶配向度Ao(%)=(360−ΣW
i)÷360×100 (3)
【0049】
なお、ポリ乳酸は加水分解が比較的速いポリエステルであるから、耐湿熱性が問題となる場合においては、公知の、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物などの加水分解防止剤を添加してもよい。また、必要に応じてリン酸系化合物などの酸化防止剤、可塑剤、光劣化防止剤などを添加して物性改良してもよい。
【0050】
圧電性繊維Aはフィラメントを複数本束ねたマルチフィラメントであっても、また、フィラメント一本からなるモノフィラメントであってもよい。モノフィラメント(紡績糸を含む)の場合、その単糸径は1μm〜5mmであり、好ましくは5μm〜2mm、さらに好ましくは10μm〜1mmである。マルチフィラメントの場合、その単糸径は0.1μm〜5mmであり、好ましくは2μm〜100μm、さらに好ましくは3μm〜50μmである。マルチフィラメントのフィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは50本〜50000本、さらに好ましくは100本〜20000本である。ただし、圧電性繊維Aの繊度や本数については、組紐を作製する際のキャリア1つあたりの繊度、本数であり、複数本の単糸(モノフィラメント)で形成されるマルチフィラメントも一本の圧電性繊維Aと数えるものとする。ここで、キャリア1つの中に、圧電性繊維以外の繊維を用いた場合であっても、それを含めた全体の量とする。
【0051】
このような圧電性高分子を圧電性繊維Aとするためには、高分子から繊維化するための公知の手法を、本発明の効果を奏する限りいずれも採用することができる。例えば、圧電性高分子を押し出し成型して繊維化する手法、圧電性高分子を溶融紡糸して繊維化する手法、圧電性高分子を乾式あるいは湿式紡糸により繊維化する手法、圧電性高分子を静電紡糸により繊維化する手法、フィルムを形成した後に細くカットする手法、などを採用することができる。これらの紡糸条件は、採用する圧電性高分子に応じて公知の手法を適用すればよく、通常は工業的に生産の容易な溶融紡糸法を採用すればよい。さらに、繊維を形成後には形成された繊維を延伸する。それにより一軸延伸配向しかつ結晶を含む大きな圧電性を示す圧電性繊維Aが形成される。
【0052】
また、圧電性繊維Aは、上記のように作製されたものを組紐とする前に、染色、撚糸、合糸、熱処理などの処理をすることができる。
【0053】
さらに、圧電性繊維Aは、組紐を形成する際に繊維同士が擦れて断糸したり、毛羽が出たりする場合があるため、その強度と耐摩耗性は高い方が好ましく、強度は1.5cN/dtex以上であることが好ましく、2.0cN/dtex以上であることがより好ましく、2.5cN/dtex以上であることがさらに好ましく、3.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。耐摩耗性は、JIS L1095 9.10.2 B法などで評価することができ、摩擦回数は100回以上が好ましく、1000回以上であることがより好ましく、5000回以上であることがさらに好ましく、10000回以上であることが最も好ましい。耐摩耗性を向上させるための方法は特に限定されるものではなく、公知のあらゆる方法を用いることができ、例えば、結晶化度を向上させたり、微粒子を添加したり、表面加工したりすることができる。また、組紐に加工する際に、繊維に潤滑剤を塗布して摩擦を低減させることもできる。
【0054】
また、圧電性繊維の収縮率は、前述した導電性繊維の収縮率との差が小さいことが好ましい。収縮率差が大きいと、組紐作製後や布帛作製後の後処理工程や実使用時に熱がかかった時や経時変化により組紐が曲がったり、布帛の平坦性が悪くなったり、圧電信号が弱くなってしまう場合がある。収縮率を後述の沸水収縮率で定量化した場合、圧電性繊維の沸水収縮率S(p)および導電性繊維の沸水収縮率S(c)が下記式(4)を満たすことが好適である。
|S(p)−S(c)|≦10 (4)
上記式(4)の左辺は5以下であることがより好ましく、3以下であればさらに好ましい。
【0055】
また、圧電性繊維の収縮率は、導電性繊維以外の繊維、例えば絶縁性繊維の収縮率との差も小さいことが好ましい。収縮率差が大きいと、組紐作製後や布帛作製後の後処理工程や実使用時に熱がかかった時や経時変化により組紐が曲がったり、布帛の平坦性が悪くなったり、圧電信号が弱くなってしまう場合がある。収縮率を沸水収縮率で定量化した場合、圧電性繊維の沸水収縮率S(p)および絶縁性繊維の沸水収縮率S(i)が下記式(5)を満たすことが好適である。
|S(p)−S(i)|≦10 (5)
上記式(5)の左辺は5以下であることがより好ましく、3以下であればさらに好ましい。
【0056】
また、圧電性繊維の収縮率は小さい方が好ましい。例えば収縮率を沸水収縮率で定量化した場合、圧電性繊維の収縮率は15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。収縮率を下げる手段としては、公知のあらゆる方法を適用することができ、例えば、熱処理により非晶部の配向緩和や結晶化度を上げることにより収縮率を低減することができ、熱処理を実施するタイミングは特に限定されず、延伸後、撚糸後、組紐化後、布帛化後などが挙げられる。なお、上述の沸水収縮率は以下の方法で測定するものとする。枠周1.125mの検尺機で捲数20回のカセを作り、0.022cN/dtexの荷重を掛けて、スケール板に吊るして初期のカセ長L0を測定した。その後、このカセを100℃の沸騰水浴中で30分間処理後、放冷し再び上記荷重を掛けてスケール板に吊るし収縮後のカセ長Lを測定した。測定されたL0およびLを用いて下記式(6)により沸水収縮率を計算する。
沸水収縮率=(L0−L)/L0×100(%) (6)
【0057】
(被覆)
導電性繊維B、すなわち芯部3は、圧電性繊維A、すなわち組紐状の鞘部2で表面が被覆されている。導電性繊維Bを被覆する鞘部2の厚みは1μm〜10mmであることが好ましく、5μm〜5mmであることがより好ましく、10μm〜3mmであることがさらに好ましい、20μm〜1mmであることが最も好ましい。薄すぎると強度の点で問題となる場合があり、また、厚すぎると組紐状圧電素子1が硬くなり変形し難くなる場合がある。なお、ここで言う鞘部2とは芯部3に隣接する層のことを指す。
【0058】
組紐状圧電素子1において、鞘部2の圧電性繊維Aの総繊度は、芯部3の導電性繊維Bの総繊度の1/2倍以上、20倍以下であることが好ましく、1倍以上、15倍以下であることがより好ましく、2倍以上、10倍以下であることがさらに好ましい。圧電性繊維Aの総繊度が導電性繊維Bの総繊度に対して小さ過ぎると、導電性繊維Bを囲む圧電性繊維Aが少な過ぎて導電性繊維Bが十分な電気信号を出力できず、さらに導電性繊維Bが近接する他の導電性繊維に接触するおそれがある。圧電性繊維Aの総繊度が導電性繊維Bの総繊度に対して大き過ぎると、導電性繊維Bを囲む圧電性繊維Aが多過ぎて組紐状圧電素子1が硬くなり変形し難くなる。すなわち、いずれの場合にも組紐状圧電素子1がセンサーとして十分に機能しなくなる。
ここでいう総繊度とは、鞘部2を構成する圧電性繊維A全ての繊度の和であり、例えば、一般的な8打組紐の場合には、8本の繊維の繊度の総和となる。
【0059】
また、組紐状圧電素子1において、鞘部2の圧電性繊維Aの一本あたりの繊度は、導電性繊維Bの総繊度の1/20倍以上、2倍以下であることが好ましく、1/15倍以上、1.5倍以下であることがより好ましく、1/10倍以上、1倍以下であることがさらに好ましい。圧電性繊維A一本あたりの繊度が導電性繊維Bの総繊度に対して小さ過ぎると、圧電性繊維Aが少な過ぎて導電性繊維Bが十分な電気信号を出力できず、さらに圧電性繊維Aが切断するおそれがある。圧電性繊維A一本あたりの繊度が導電性繊維Bの総繊度に対して大き過ぎると、圧電性繊維Aが太過ぎて組紐状圧電素子1が硬くなり変形し難くなる。すなわち、いずれの場合にも組紐状圧電素子1がセンサーとして十分に機能しなくなる。
【0060】
なお、導電性繊維Bに金属繊維を用いた場合や、金属繊維を導電性繊維Bあるいは圧電性繊維Aに混繊した場合は、繊度の比率は上記の限りではない。本発明において、上記比率は、接触面積や被覆率、すなわち、面積および体積の観点で重要であるからである。例えば、それぞれの繊維の比重が2を超えるような場合には、繊維の平均断面積の比率が上記繊度の比率であることが好ましい。
【0061】
圧電性繊維Aと導電性繊維Bとはできるだけ密着していることが好ましいが、密着性を改良するために、導電性繊維Bと圧電性繊維Aとの間にアンカー層や接着層などを設けてもよい。
【0062】
被覆の方法は導電性繊維Bを芯糸として、その周りに圧電性繊維Aを組紐状に巻きつける方法が取られる。一方、圧電性繊維Aの組紐の形状は、印加された荷重で生じる応力に対して電気信号を出力することが出来れば特に限定されるものではないが、芯部3を有する8打組紐や16打組紐が好ましい。
【0063】
導電性繊維Bと圧電性繊維Aの形状としては特に限定されるものではないが、できるだけ同心円状に近いことが、好ましい。なお、導電性繊維Bとしてマルチフィラメントを用いる場合、圧電性繊維Aは、導電性繊維Bのマルチフィラメントの表面(繊維周面)の少なくとも一部が接触しているように被覆していればよく、マルチフィラメントを構成するすべてのフィラメント表面(繊維周面)に圧電性繊維Aが被覆していてもよいし、被覆していなくともよい。導電性繊維Bのマルチフィラメントを構成する内部の各フィラメントへの圧電性繊維Aの被覆状態は、圧電性素子としての性能、取扱い性等を考慮して、適宜設定すればよい。
【0064】
(導電層)
導電層4は芯部3の導電性繊維の対極となる電極としての機能と、芯部3の導電性繊維を外部の電磁波から遮蔽し、芯部3の導電性繊維に発生するノイズ信号を抑制するシールドとしての機能とを同時に有することができる。導電層4はシールドとして機能するため、接地(アースまたは電子回路のグランドに接続)されることが好ましい。それにより、例えば布帛状圧電素子7の上下に電磁波シールド用の導電性の布帛を重ねなくても、組紐状圧電素子7のS/N比(信号対雑音比)を著しく向上させることができる。導電層4の様態としては、コーティングの他、フィルム、布帛、繊維の巻き付けが考えられ、またそれらを組み合わせてもよい。
【0065】
導電層4を形成するコーティングには導電性を示す物質を含むものが使用されていればよく、公知のあらゆるものが用いられる。例えば、金属、導電性高分子、導電性フィラーを分散させた高分子が挙げられる。
【0066】
導電層4をフィルムの巻き付けにより形成する場合は、導電性高分子、導電性フィラーを分散させた高分子を製膜して得られるフィルムが用いられ、また表面に導電性を有する層を設けたフィルムが用いられてもよい。
【0067】
導電層4を布帛の巻き付けにより形成する場合は、後述する導電性繊維6を構成成分とする布帛が用いられる。
【0068】
導電層4を繊維の巻き付けにより形成する場合、その手法としては、カバーリング、編物、組物が考えられる。また、使用する繊維は、導電性繊維6であり、導電性繊維6は、上記導電性繊維Bと同一種であっても異種の導電性繊維であってもよい。導電性繊維6としては、例えば、金属繊維、導電性高分子からなる繊維、炭素繊維、繊維状あるいは粒状の導電性フィラーを分散させた高分子からなる繊維、あるいは繊維状物の表面に導電性を有する層を設けた繊維が挙げられる。繊維状物の表面に導電性を有する層を設ける方法としては、金属コート、導電性高分子コート、導電性繊維の巻付けなどが挙げられる。なかでも金属コートが導電性、耐久性、柔軟性などの観点から好ましい。金属をコートする具体的な方法としては、蒸着、スパッタ、電解メッキ、無電解メッキなどが挙げられるが生産性などの観点からメッキが好ましい。このような金属をメッキされた繊維は金属メッキ繊維ということができる。
【0069】
金属をコートされるベースの繊維として、導電性の有無によらず公知の繊維を用いることができ、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維の他、綿、麻、絹等の天然繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維を用いることができる。ベースの繊維はこれらに限定されるものではなく、公知の繊維を任意に用いることができ、これらの繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
ベースの繊維にコートされる金属は導電性を示し、本発明の効果を奏する限り、いずれを用いてもよい。例えば、金、銀、白金、銅、ニッケル、スズ、亜鉛、パラジウム、酸化インジウム錫、硫化銅など、およびこれらの混合物や合金などを用いることができる。
【0071】
導電性繊維6に屈曲耐性のある金属コートした有機繊維を使用すると、導電性繊維が折れることが非常に少なく、圧電素子を用いたセンサーとしての耐久性や安全性に優れる。
【0072】
導電性繊維6はフィラメントを複数本束ねたマルチフィラメントであっても、また、フィラメント一本からなるモノフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの方が電気特性の長尺安定性の観点で好ましい。モノフィラメント(紡績糸を含む)の場合、その単糸径は1μm〜5000μmであり、好ましくは2μm〜100μmである。さらに好ましくは3μm〜50μmである。マルチフィラメントの場合、フィラメント数としては、1本〜100000本が好ましく、より好ましくは5本〜500本、さらに好ましくは10本〜100本である。
【0073】
繊維の直径が小さいと強度が低下しハンドリングが困難となり、また、直径が大きい場合にはフレキシブル性が犠牲になる。導電性繊維6の断面形状としては円または楕円であることが、圧電素子の設計および製造の観点で好ましいが、これに限定されない。
【0074】
また、ノイズ信号の抑制効果を高めるため、電気抵抗は低いことが好ましく、体積抵抗率としては10
-1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは10
-2Ω・cm以下、さらに好ましくは10
-3Ω・cm以下である。ただし、ノイズ信号の抑制効果が得られるのであれば抵抗率はこの限りではない。
【0075】
導電性繊維6は、本発明の用途から、繰り返しの曲げやねじりといった動きに対して耐性がなければならない。その指標としては、結節強さが、より大きいものが好まれる。結節強さはJIS L1013 8.6の方法で測定することができる。本発明に適当な結節強さの程度としては、0.5cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることがより好ましく、1.5cN/dtex以上であることがさらに好ましく、2.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。また、別の指標としては、曲げ剛性が、より小さいものが好まれる。曲げ剛性は、カトーテック(株)製KES―FB2純曲げ試験機などの測定装置で測定されるのが一般的である。本発明に適当な曲げ剛性の程度としては、東邦テナックス(株)製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)HTS40−3Kよりも小さいほうが好ましい。具体的には、導電性繊維の曲げ剛性が0.05×10
-4N・m
2/m以下であることが好ましく、0.02×10
-4N・m
2/m以下であることがより好ましく、0.01×10
-4N・m
2/m以下であることがさらに好ましい。
【0076】
(保護層)
本発明に係る組紐状圧電素子1の最表面には保護層を設けてもよい。この保護層は絶縁性であることが好ましく、フレキシブル性などの観点から高分子からなるものがより好ましい。保護層に絶縁性を持たせる場合には、もちろん、この場合には保護層ごと変形させたり、保護層上を擦ったりすることになるが、これらの外力が圧電性繊維Aまで到達し、その分極を誘起できるものであれば特に限定はない。保護層としては、高分子などのコーティングによって形成されるものに限定されず、フィルム、布帛、繊維などを巻付けてもよく、あるいは、それらが組み合わされたものであってもよい。また、後述する本発明に係る布帛を保護層として用いることもでき、構成の簡素化の点から好ましい。
【0077】
保護層の厚みとしては出来るだけ薄い方が、せん断応力を圧電性繊維Aに伝えやすいが、薄すぎると保護層自体が破壊される等の問題が発生しやすくなるため、好ましくは10nm〜200μm、より好ましくは50nm〜50μm、さらに好ましくは70nm〜30μm、最も好ましくは100nm〜10μmである。この保護層により圧電素子の形状を形成することもできる。
【0078】
さらには、圧電性繊維からなる層を複数層設けたり、信号を取り出すための導電性繊維からなる層を複数層設けたりすることもできる。もちろん、これらの保護層、圧電性繊維からなる層、導電性繊維からなる層は、その目的に応じて、その順番および層数は適宜決められる。なお、巻付ける方法としては、鞘部2のさらに外層に組紐構造を形成したり、カバーリングしたりする方法が挙げられる。
【0079】
本発明に係る組紐状圧電素子1は、前述した圧電効果による電気信号の出力を利用して変形や応力を検出することができる他、組紐状圧電素子1の芯部の導電性繊維Bと導電層4の間の静電容量変化を計測することで、組紐状圧電素子1へ加えられた圧力による変形を検出することも可能になる。更に、複数本の組紐状圧電素子1を組み合わせて使用する場合、各々の組紐状圧電素子1の導電層4間の静電容量変化を計測することで、組紐状圧電素子1へ加えられた圧力による変形を検出することも可能になる。
【0080】
(布帛状圧電素子)
本発明の布帛状圧電素子は、少なくとも1本の組紐状圧電素子が布帛に固定されている。こうすることでこの布帛自体を衣服など所望の形状に加工してデバイスとできるのみならず、既成の服や構造体などセンサ機能を有しない基材に縫付けや接着などの様々な方法で設置し、センサ機能を付与することが簡便にできるようになる。
図3は実施形態に係る組紐状圧電素子を用いた布帛状圧電素子の構成例を示す模式図である。
【0081】
図3の例では、布帛状圧電素子7は、少なくとも1本の組紐状圧電素子1が布帛8に固定されている。布帛8は、布帛を構成する繊維(組紐を含む)の少なくとも1本が組紐状圧電素子1であり、組紐状圧電素子1が圧電素子としての機能を発揮可能である限り何らの限定は無く、どのような織編物であってもよい。布状にするにあたっては、本発明の目的を達成する限り、他の繊維(組紐を含む)と組み合わせて、交織、交編等を行ってもよい。もちろん、組紐状圧電素子1を、布帛を構成する繊維(例えば、経糸や緯糸)の一部として用いてもよいし、組紐状圧電素子1を布帛に刺繍してもよいし、接着してもよい。
図3に示す例では、布帛状圧電素子7は、経糸として、少なくとも1本の組紐状圧電素子1および絶縁性繊維9を配し、緯糸として絶縁性繊維9を配した平織物である。絶縁性繊維9については後述される。なお、絶縁性繊維9の全部又は一部が組紐形態であってもよい。
【0082】
この場合、布帛状圧電素子7が曲げられるなどして変形したとき、その変形に伴い組紐状圧電素子1も変形するので、組紐状圧電素子1から出力される電気信号により、布帛状圧電素子7の変形を検出できる。そして、布帛状圧電素子7は、布帛(織編物)として用いることができるので、例えば衣類形状のウェアラブルセンサーに適用することができる。
【0083】
また、
図3に示す布帛状圧電素子7の緯糸の絶縁性繊維を、部分的に導電性繊維10で置き換えた構成(
図4)では、組紐状圧電素子1に導電性繊維10が交差して接触している。したがって、導電性繊維10は、組紐状圧電素子1の導電層4の少なくとも一部と交差して接触しており、このような導電性繊維10を導電層4の代わりに電子回路へ接続することができる。導電性繊維10は導電性繊維Bと同一種であっても異種の導電性繊維であってもよく、その全部又は一部が組紐形態であってもよい。
【0084】
本発明の布帛状圧電素子は、布帛に対する組紐状圧電素子の5cmあたりの引抜き強度が0.1N以上である。こうすることで、布帛の変形と組紐状圧電素子の変形との差が最小限になるため、組紐状圧電素子の電気信号により検知される組紐状圧電素子の変形量を用いて、布帛の変形を推定する際の誤差を最小化でき、再現性も向上させることができる。布帛に対する組紐状圧電素子の5cmあたりの引抜き強度が0.1N未満の場合、例えば布帛の伸縮変形が起こっても組紐状圧電素子と布帛との間で滑りが起こり、組紐状圧電素子が十分に伸縮変形せず、布帛の伸縮量より組紐状圧電素子の電気信号により検知される伸縮量が著しく小さくなってしまい、再現性も低い。かかる観点から、布帛に対する組紐状圧電素子の5cmあたりの引抜き強度は0.2N以上が好ましく、0.3N以上がさらに好ましく、0.4N以上が特に好ましい。なお、引き抜き強度が組紐状圧電素子の強度以上であることが最も好ましい。
【0085】
本発明における「布帛に対する組紐状圧電素子の5cmあたりの引抜き強度」は、以下のようにして決定される。まず、組紐状圧電素子が布帛状圧電素子から露出している場所がある場合は、露出している組紐状圧電素子を引張試験機の把持治具の一方で把持し、把持した側の組紐状圧電素子が固定された端から5cmの部分で組紐状圧電素子および布帛状圧電素子を切断する。組紐状圧電素子が布帛に固定された5cmの部分の両脇の、組紐状圧電素子から1mm以内の領域を除いた部分を、組紐状圧電素子の長さ方向に5cmにわたってU字型の把持治具で把持し、引張試験機の把持治具のもう一方に接続する。また、この状態で10mm/minの速度で引張試験を行い、最大強度を測定し、引抜き強度とする。なお、組紐状圧電素子が布帛状圧電素子から露出している場所が十分にない場合は、布帛の一部(組紐状圧電素子以外の部分)を切断して組紐組紐状圧電素子を露出させ、上記の測定を行えばよい。なお、組紐状圧電素子が布帛に固定された部分の長さを5cm確保することが困難な場合は、任意の長さの固定部分で引抜き強度を測定して、5cmあたりの強度に換算してもよい。
【0086】
本発明の布帛状圧電素子は、布帛を構成する繊維による組紐状圧電素子の被覆率が布帛の両面とも30%を超えることが好ましい。こうすることで、布帛に対する組紐状圧電素子の引抜き強度が上がり、布帛の変形と組紐状圧電素子の変形との差が最小限になるのみならず、外部からの擦り、熱、光などによる損傷を受けにくくすることができる。かかる観点から、布帛を構成する繊維による組紐状圧電素子の被覆率は布帛の両面とも50%を超えることがより好ましく、70%を超えることがさらに好ましく、100%が最も好ましい。
【0087】
布帛を構成する繊維による組紐状圧電素子の被覆率は、布帛状圧電素子の一方の面から垂直に観察したときの画像において、組紐状圧電素子の投影面積に対し、布帛を構成する繊維によって組紐状圧電素子が隠れている部分の面積比を算出する。もう一方の面からの観察画像についても同様に評価し、布帛の両面でそれぞれ被覆率を算出する。このように算出した場合、通常の織物組織(平織や綾織、朱子織等)による布帛では、両面ともに被覆率が50%を超えることは難しいが、平織や綾織組織にて製織するときに紡績糸やマルチフィラメント糸を用いたり、組紐状圧電素子に直交する糸の密度を高くしたり、組紐状圧電素子に平行な糸の密度を比較的低くすることで、布帛の両面とも50%を超える被覆率とすることができる。ただし、組紐状圧電素子に直交する糸の密度を高くするため、組紐状圧電素子に直交する糸の張力を下げ過ぎた場合は、組紐状圧電素子を拘束する力が弱まる結果、所望の引抜き強度を達成することができなくなるため、好ましくない。また、2重織り布帛あるいは2重編み布帛の層間に組紐状圧電素子が挟み込まれるよう布帛を製造することで、布帛の両面の被覆率を大きく向上させ、100%または100%に近くすることもできる。一方、被覆率が30%以下の場合は、布帛の繊維間から組紐状圧電素子が露出している箇所が多く、保護が十分ではない。布帛を構成する繊維が透明であっても被覆されているとみなす。組紐状圧電素子が導電層4の外層に保護層を備えている場合は、その保護層も含めて組紐状圧電素子とみなす。
【0088】
(複数の圧電素子)
また、布帛状圧電素子7では、組紐状圧電素子1を複数並べて用いることも可能である。並べ方としては、例えば経糸または緯糸としてすべてに組紐状圧電素子1を用いてもよいし、数本ごとや一部分に組紐状圧電素子1を用いてもよい。また、ある部分では経糸として組紐状圧電素子1を用い、他の部分では緯糸として組紐状圧電素子1を用いてもよい。
【0089】
図5は実施形態に係る組紐状圧電素子を用いた布帛状圧電素子の他の構成例を示す模式図である。布帛状圧電素子7は、少なくとも2本の組紐状圧電素子1を含む布帛8を備えており、これらの組紐状圧電素子1は略平行に配置されている。布帛8は、布帛を構成する繊維(組紐を含む)の少なくとも2本が組紐状圧電素子1であり、組紐状圧電素子1が圧電素子としての機能を発揮可能である限り何らの限定は無く、どのような織編物であってもよい。
図5に示す例では、布帛状圧電素子7は、経糸として、少なくとも2本の組紐状圧電素子1および絶縁性繊維9を配し、緯糸として絶縁性繊維9を配した平織物である。絶縁性繊維9については後述される。なお、絶縁性繊維9の全部又は一部が組紐形態であってもよい。また、
図4の場合と同様に、
図5に示す布帛状圧電素子7の緯糸の絶縁性繊維を、部分的に導電性繊維で置き換えてもよい。
【0090】
組紐状圧電素子1は、変形すると圧電信号を発するが、この信号は変形の様態に応じて大きさや形状が変化する。
図5に示す布帛状圧電素子7の場合、布帛状圧電素子7が2本の組紐状圧電素子1に直交する線を屈曲部として曲げ変形したとき、2本の組紐状圧電素子1は同一の変形をする。したがって、2本の組紐状圧電素子1からは同一の信号が検出される。一方で、ねじりなどの複雑な変形を与えた場合、2本の組紐状圧電素子1には別々の変形が誘起されることとなり、それぞれの組紐状圧電素子1が発生する信号は異なるものになる。この原理により、複数の組紐状圧電素子1を組み合わせ、それぞれの組紐状圧電素子1で発生する信号を比較演算することで、組紐状圧電素子1の複雑な変形の解析が可能になる。例えば、各組紐状圧電素子1で発生する信号の極性、振幅、位相などを比較して得られる結果に基づき、ねじりなどの複雑な変形を検出することができる。
【0091】
例えば、2本の組紐状圧電素子にそれぞれ伸縮により電気信号を出力するものを用い、
図5のように布帛の上面図において2本の組紐状圧電素子1は異なった位置に配置された布帛状圧電素子7を好ましい形態として挙げることができる。この形態では、
図5の布帛状圧電素子7の下辺を固定し、上辺の左端を引き上げ、右端を引き下げるような曲げ変形に対しては、2本の組紐状圧電素子1が受ける伸縮変形は互いに異なったものになる、すなわち左の組紐状圧電素子1が伸び、右の組紐状圧電素子1が縮むため、それぞれの組紐状圧電素子1で発生する信号を比較することで、上記の曲げを検知することができる。この場合、布帛の一方向への伸縮では2本の組紐状圧電素子1が受ける伸縮変形は同様なものになるため、上記の曲げ変形と区別して検知することが可能となる。
【0092】
また、
図6に示す例の通り、それぞれ伸縮により電気信号を出力する2本の組紐状圧電素子1を、布帛8の中央面8aを基準とした相対位置が互いに異なるように布帛中に固定することで、布帛8に垂直な方向への曲げにより、1本の組紐状圧電素子1には圧縮変形が与えられ、他方の組紐状圧電素子1には伸長変形が与えられることから、これら2本の組紐状圧電素子1のそれぞれ、より具体的にはこれら2本の組紐状圧電素子1に含まれる導電性繊維Bのそれぞれから出力される電気信号を用いて布帛8に垂直な方向への布帛の曲げを検知する布帛状圧電素子7が好ましい形態として挙げられる。この形態では、例えば2本の組紐状圧電素子1に同等の性能の素子を用いた場合は、布帛状圧電素子7が組紐状圧電素子1の軸方向への伸縮変形をした時に2本の組紐状圧電素子1から同等の出力が得られるため、前記の布帛の曲げ変形と区別して検知することが可能となる。
図6では布帛8の中央面8aを対称面として面対称の位置に2本の組紐状圧電素子1を配置しているが、布帛8の中央面8aを基準とした相対位置が互いに異なるように布帛中に固定されていればよく、布帛8の同じ面に布帛8の中央面8aからの距離を異にして2本の組紐状圧電素子1が固定されていてもよい。
【0093】
また、このような形態において、2本の組紐状圧電素子に、それぞれの組紐状圧電素子の伸縮により互いに逆極性の電気信号(すなわち逆符号の電気信号)を出力するものを用いた場合は、それらの信号の和により布帛の曲げに対して大きな出力を発生し、布帛の伸縮に対して小さな出力を発生する素子とすることも、好ましい形態として挙げることができる。互いに逆極性の電気信号を出力する組紐状圧電素子は、前述の通り使用する圧電性高分子の主な成分としてポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とをそれぞれ用いたり、同じ圧電性高分子を用いて配向方向がS撚り方向とZ撚り方向とになるようそれぞれ配置したりすることで実現することができる。また、2本の組紐状圧電素子の信号の和を取る方法としては、2本の組紐状圧電素子の芯部を短絡させる方法や、電子回路上およびソフト上で和を取る方法のいずれも用いることができる。
【0094】
上記の形態では、布帛の曲げに対して2本の組紐状圧電素子1が異なる変形を受けるようにする観点から、2本の組紐状圧電素子1は、互いに間隔を置いて配置され、具体的には圧電性繊維が互いに最も近い部分の距離が0.05mm以上500mm以下離れていることが好ましく、0.1mm以上200mm以下離れていることがより好ましく、0.5mm以上100mm以下離れていることが更に好ましい。また信号検出に使用しない組紐状圧電素子が布帛中に含まれる場合、その組紐状圧電素子と他の組紐状圧電素子の距離が0.05mm未満であってもよい。
【0095】
さらに別の例として、布帛状圧電素子に含まれる組紐状圧電素子のうち少なくとも1本の組紐状圧電素子に伸縮により電気信号を出力するものを用い、それとは別の少なくとも1本の組紐状圧電素子にねじりにより電気信号を出力するものを用いて、当該少なくとも1本の組紐状圧電素子から出力される電気信号により布帛の伸縮あるいは曲げ変形を検知し、当該別の少なくとも1本の組紐状圧電素子から出力される電気信号により布帛のねじり変形を検知する形態を挙げることができる。この形態では、布帛の伸縮変形あるいは曲げ変形を検知する組紐状圧電素子は、前述した伸縮変形により選択的に電気信号を出力するものを用い、布帛のねじり変形を検知する組紐状圧電素子は、前述したねじり変形により選択的に電気信号を出力するものを用いることが好ましい。この例では、組紐状圧電素子の間の距離は問わない。
【0096】
以上の通り、複数の組紐状圧電素子1を組み合せ、それぞれの組紐状圧電素子1で発生する信号を比較演算することで、曲げやねじりなどの複雑な変形の解析が可能になるので、例えば衣類形状のウェアラブルセンサーに適用することができる。この場合、布帛状圧電素子7が曲げられるなどして変形したとき、その変形に伴い組紐状圧電素子1も変形するので、組紐状圧電素子1から出力される電気信号に基づいて、布帛状圧電素子7の変形を検出できる。そして、布帛状圧電素子7は、布帛(織編物)として用いることができるので、例えば衣類形状のウェアラブルセンサーに適用することができる。
【0097】
(絶縁性繊維)
布帛状圧電素子7では、組紐状圧電素子1(及び導電性繊維10)以外の部分には、絶縁性繊維を使用することができる。この際、絶縁性繊維は布帛状圧電素子7の柔軟性を向上する目的で伸縮性のある素材、形状を有する繊維を用いることができる。
【0098】
このように組紐状圧電素子1(及び導電性繊維10)以外にこのように絶縁性繊維を配置することで、布帛状圧電素子7の操作性(例示:ウェアラブルセンサーとしての動き易さ)を向上させることが可能である。
【0099】
このような絶縁性繊維としては、体積抵抗率が10
6Ω・cm以上であれば用いることができ、より好ましくは10
8Ω・cm以上、さらに好ましくは10
10Ω・cm以上がよい。
【0100】
絶縁性繊維として例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維、ポリスルホン繊維、ポリエーテル繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維他、綿、麻、絹等の天然繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維を用いることができる。これらに限定されるものではなく、公知の絶縁性繊維を任意に用いることができる。さらに、これらの絶縁性繊維を組み合わせて用いてもよく、絶縁性を有しない繊維と組み合わせ、全体として絶縁性を有する繊維としてもよい。
【0101】
また、公知のあらゆる断面形状の繊維も用いることができる。
【0102】
(製造方法)
本発明に係る組紐状圧電素子1は少なくとも1本の導電性繊維Bの表面を組紐状の圧電性繊維Aで被覆しているが、その製造方法としては例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、導電性繊維Bと圧電性繊維Aを別々の工程で作製し、導電性繊維Bに圧電性繊維Aを組紐状に巻きつけて被覆する方法である。この場合には、できるだけ同心円状に近くなるように被覆することが好ましい。
【0103】
この場合、圧電性繊維Aを形成する圧電性高分子としてポリ乳酸を用いる場合の好ましい紡糸、延伸条件として、溶融紡糸温度は150℃〜250℃が好ましく、延伸温度は40℃〜150℃が好ましく、延伸倍率は1.1倍から5.0倍が好ましく、結晶化温度は80℃〜170℃が好ましい。
【0104】
導電性繊維Bに巻きつける圧電性繊維Aとしては、複数のフィラメントを束ねたマルチフィラメントを用いてもよく、また、モノフィラメント(紡績糸を含む)を用いても良い。また、圧電性繊維Aを巻きつけられる導電性繊維Bとしては、複数のフィラメントを束ねたマルチフィラメントを用いてもよく、また、モノフィラメント(紡績糸を含む)を用いても良い。
【0105】
被覆の好ましい形態としては、導電性繊維Bを芯糸とし、その周囲に圧電性繊維Aを組紐状に製紐して、丸打組物(Tubular Braid)を作製することで被覆することができる。より具体的には芯部3を有する8打組紐や16打組紐が挙げられる。ただし、例えば、圧電性繊維Aを編組チューブのような形態とし、導電性繊維Bを芯として当該編組チューブに挿入することで被覆してもよい。
【0106】
導電層4は、コーティングや繊維の巻き付けによって製造されるが、製造の容易さの観点より、繊維の巻き付けが好ましい。繊維の巻き付け方法としてはカバーリング、編物、組物が考えられ、何れの方法により製造してもよい。
【0107】
以上のような製造方法により、導電性繊維Bの表面を組紐状の圧電性繊維Aで被覆し、さらにその周囲に導電層4を設けた組紐状圧電素子1を得ることができる。
【0108】
本発明の布帛状圧電素子7は、製織、製編により製造される。本発明の目的を達成する限り、他の繊維(組紐を含む)と組み合わせて、交織、交編、交組等を行ってもよい。もちろん、組紐状圧電素子1を、布帛を構成する繊維(例えば、経糸や緯糸)の一部として用いてもよいし、組紐状圧電素子1を布帛に刺繍してもよいし、接着してもよく、それらの方法を組み合わせてもよい。また、組紐状圧電素子1の近傍のみに布帛が存在するテープ形の布帛状圧電素子とすると、他の布帛に縫い付けや貼付けによって容易に設置することができるため好ましい。この時、テープの端と組紐状圧電素子との距離(テープの幅方向の距離)は、1mm以上100mm以下が好ましく、3mm以上50mm以下がより好ましく、5mm以上20mm以下がさらに好ましい。テープ形の布帛状圧電素子とする場合は、広幅の布帛状圧電素子を組紐状圧電素子1と平行にカットして製造してもよいが、布テープの製織、製編時に交織、交編、交組等を行うことや、布テープに組紐状圧電素子1を刺繍、接着することが、製造工程の簡素化の観点から好ましい。
【0109】
織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、丸編物(緯編物)であってもよいし経編物であってもよい。丸編物(緯編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示される。経編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。更には、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛織物、立毛編み物であってもよい。
【0110】
製造工程の簡素化および引抜き強度、被覆率の向上の観点から、布帛に組紐状圧電素子が織り込まれる状態または編み込まれる状態で固定されていることがより好ましく、多重織り布帛あるいは多重編み布帛の層間に組紐状圧電素子が挟み込まれていることがさらに好ましい。多重とは二重以上のものを指す。
【0111】
(圧電素子の適用技術)
本発明の組紐状圧電素子1や布帛状圧電素子7のような圧電素子はいずれの様態であっても、表面への接触、圧力、形状変化を電気信号として出力することができるので、その圧電素子に印加された応力の大きさおよび/又は印加された位置を検出するセンサー(デバイス)として利用することができる。また、この電気信号を他のデバイスを動かすための電力源あるいは蓄電するなど、発電素子として用いることもできる。具体的には、人、動物、ロボット、機械など自発的に動くものの可動部に用いることによる発電、靴底、敷物、外部から圧力を受ける構造物の表面での発電、流体中での形状変化による発電、などが挙げられる。また、流体中での形状変化により電気信号を発するために、流体中の帯電性物質を吸着させたり付着を抑制させたりすることも可能である。
【0112】
図7は、本発明の圧電素子12を備えるデバイス11を示すブロック図である。デバイス11は、圧電素子12(布帛状圧電素子7)と、任意選択で、印加された圧力に応じて圧電素子12の出力端子から出力される電気信号を増幅する増幅手段13、当該任意選択の増幅手段13で増幅された電気信号を出力する出力手段14、および出力手段14から出力された電気信号を外部機器(図示せず)へ送信する送信手段15を有する電気回路とを備える。このデバイス11を用いれば、圧電素子12の表面への接触、圧力、形状変化により出力された電気信号に基づき、外部機器(図示せず)における演算処理にて、圧電素子に印加された応力の大きさおよび/又は印加された位置を検出することができる。
【0113】
任意選択の増幅手段13、出力手段14、及び送信手段15は、例えばソフトウェアプログラム形式で構築されてもよく、あるいは各種電子回路とソフトウェアプログラムとの組み合わせで構築されてもよい。例えば、演算処理装置(図示せず)に当該ソフトウェアプログラムがインストールされ、演算処理装置が当該ソフトウェアプログラムに従って動作することで、各部の機能を実現する。またあるいは、任意選択の増幅手段13、出力手段14、及び送信手段15を、これら各部の機能を実現するソフトウェアプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。なお、送信手段15による送信方式を無線によるもの有線によるものにするかは、構成するセンサーに応じて適宜決定すればよい。あるいは、デバイス11内に、出力手段14から出力された電気信号に基づき圧電素子12に印加された応力の大きさおよび/又は印加された位置を演算する演算手段(図示せず)を設けてもよい。また、増幅手段だけではなく、ノイズを除去する手段や他の信号と組み合わせて処理する手段などの公知の信号処理手段を組み合わせて用いることができる。これらの手段の接続の順序は目的に応じて適宜変えることができる。もちろん、圧電素子12から出力される電気信号をそのまま外部機器へ送信した後で信号処理してもよい。
【0114】
図8〜10は、実施の形態に係る組紐布帛状圧電素子を備えるデバイスの構成例を示す模式図である。
図8〜10の増幅手段13は、
図7を参照して説明したものに相当するが、
図7の出力手段14および送信手段15については
図8〜10では図示を省略している。布帛状圧電素子7を備えるデバイスを構成する場合、増幅手段13の入力端子に組紐状圧電素子1の芯部3(導電性繊維Bで形成される)の出力端子からの引出し線を接続し、接地(アース)端子には、組紐状圧電素子1の導電層4または布帛状圧電素子7の導電性繊維10または増幅手段13の入力端子に接続した組紐状圧電素子1とは別の組紐状圧電素子を接続する。例えば、
図8に示すように、布帛状圧電素子7において、組紐状圧電素子1の芯部3の出力端子からの引出し線を増幅手段13の入力端子に接続し、組紐状圧電素子1の導電層4を接地(アース)する。また例えば、
図9に示すように、布帛状圧電素子7において、組紐状圧電素子1の芯部3からの引出し線を増幅手段13の入力端子に接続し、組紐状圧電素子1に交差して接触した導電性繊維10を接地(アース)する。また例えば、
図10に示すように、布帛状圧電素子7において組紐状圧電素子1を複数並べている場合、1本の組紐状圧電素子1の芯部3の出力端子からの引出し線を増幅手段13の入力端子に接続し、当該組紐状圧電素子1に並んだ別の組紐状圧電素子1の芯部3からの引出し線を、接地(アース)する。
【0115】
組紐状圧電素子1に変形が生じると、圧電性繊維Aは変形して分極が発生する。圧電性繊維Aの分極により発生した正負各電荷の配列につられて、組紐状圧電素子1の芯部3を形成する導電性繊維Bの出力端子からの引出し線上において、電荷の移動が発生する。導電性繊維Bからの引出し線上における電荷の移動は微小な電気信号(すなわち電流または電位差)として現れる。つまり、組紐状圧電素子1に変形が与えられた時に発生する電荷に応じて、出力端子から電気信号が出力される増幅手段13はこの電気信号を増幅し、出力手段14は、増幅手段13で増幅された電気信号を出力する。組紐状圧電素子1の変形の種類によって出力手段14から出力される電気信号の極性、振幅、位相などが異なるので、出力手段14から出力される電気信号の極性、振幅、位相などを比較して得られる結果に基づき、ねじりなどの複雑な変形の態様を判別する。
【0116】
組紐状圧電素子と
図8〜10における増幅手段13などの電子回路とを接続するため、組紐状圧電素子と他の部材(コネクタや導線など)とを電気的に接続するには、組紐状圧電素子が布帛に被覆されたままでは接続するのが困難である。このため、組紐状圧電素子は布帛から部分的に露出しており、該露出部分において組紐状圧電素子の導電性繊維および/または導電層と他の部材とが電気的に接続されていることが好ましい。露出部分は接続作業の簡易さと性能とのバランスから、2mm以上100mm以下が好ましく、5mm以上50mm以下がより好ましく、10mm以上30mm以下がさらに好ましい。
【0117】
上記の露出部分を布帛状圧電素子に対して後から付与するのは、布帛の部分的な切除等の後加工が必要となり、布帛の物性を損なう恐れもあるため好ましくなく、布帛状圧電素子の製造時にあらかじめ他の部材との接続箇所で組紐状圧電素子を露出させるような組織として製織、製編することが好ましい。
【0118】
本発明のデバイス11は布帛状であり、柔軟性があるため、非常に広範な用途が考えられる。本発明のデバイス11の具体的な例としては、帽子や手袋、靴下などを含む着衣、サポーター、ハンカチ状などの形状をした、タッチパネル、人や動物の表面感圧センサー、例えば、手袋やバンド、サポーターなどの形状をした関節部の曲げ、捩じり、伸縮を感知するセンサーが挙げられる。例えば人に用いる場合には、接触や動きを検出し、医療用途などの関節などの動きの情報収集、アミューズメント用途、失われた組織やロボットを動かすためのインターフェースとして用いることができる。他には、動物や人型を模したぬいぐるみやロボットの表面感圧センサー、関節部の曲げ、捩じり、伸縮を感知するセンサーとして用いることができる。他には、シーツや枕などの寝具、靴底、手袋、椅子、敷物、袋、旗などの表面感圧センサーや形状変化センサーとして用いることができる。
【0119】
さらに、本発明のデバイス11は組紐状あるいは布帛状であり、柔軟性があるので、あらゆる構造物の全体あるいは一部の表面に貼付あるいは被覆することにより表面感圧センサー、形状変化センサーとして用いることができる。
【0120】
さらに、本発明のデバイス11は、組紐状圧電素子1の表面を擦るだけで十分な電気信号を発生することができるので、タッチセンサーのようなタッチ式入力装置やポインティングデバイスなどに用いることができる。また、組紐状圧電素子1で被計測物の表面を擦ることによって被計測物の高さ方向の位置情報や形状情報を得ることができるので、表面形状計測などに用いることができる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に記載するが本発明はこれによって何らの限定を受けるものではない。
【0122】
本実施例で示される圧電性繊維、組紐状圧電素子および布帛状圧電素子の各特性は、以下の方法によって決定した。
【0123】
[圧電性繊維]
(1)ポリ−L−乳酸結晶化度X
homo:
ポリ−L−乳酸結晶化度X
homoについては、広角X線回折分析(WAXD)による結晶構造解析から求めた。広角X線回折分析(WAXD)では、リガク製ultrax18型X線回折装置を用いて透過法により、以下条件でサンプルのX線回折図形をイメージングプレートに記録した。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×60mA
スリット: 1st:1mmΦ,2nd:0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 35mgのポリ乳酸繊維を引き揃え3cmの繊維束とする
得られたX線回折図形において方位角にわたって全散乱強度I
totalを求め、ここで2θ=16.5°,18.5°,24.3°付近に現れるポリ−L−乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣI
HMiを求めた。これらの値から下式(3)に従い、ポリ−L−乳酸結晶化度X
homoを求めた。
[数3]
ポリ−L−乳酸結晶化度X
homo(%)=ΣI
HMi/I
total×100 (3)
なお、ΣI
HMiは、全散乱強度においてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって算出した。
【0124】
(2)ポリ−L−乳酸結晶配向度A:
ポリ−L−乳酸結晶配向度Aについては、上記の広角X線回折分析(WAXD)により得られたX線回折図形において、動径方向の2θ=16.5°付近に現れるポリ−L−乳酸結晶に由来する回折ピークについて、方位角(°)に対する強度分布をとり、得られた分布プロファイルの半値幅の総計ΣW
i(°)から次式(4)より算出した。
[数4]
ポリ−L−乳酸結晶配向度A(%)=(360−ΣW
i)÷360×100 (4)
【0125】
(3)ポリ乳酸の光学純度:
布帛を構成する1本(マルチフィラメントの場合は1束)のポリ乳酸繊維0.1gを採取し、5モル/リットル濃度の水酸化ナトリウム水溶液1.0mLとメタノール1.0mLを加え、65℃に設定した水浴振とう器にセットして、ポリ乳酸が均一溶液になるまで30分程度加水分解を行い、さらに加水分解が完了した溶液に0.25モル/リットルの硫酸を加えpH7まで中和し、その分解溶液を0.1mL採取して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)移動相溶液3mLにより希釈し、メンブレンフィルター(0.45μm)によりろ過した。この調整溶液のHPLC測定を行い、L−乳酸モノマーとD−乳酸モノマーの比率を定量した。1本のポリ乳酸繊維が0.1gに満たない場合は、採取可能な量に合わせ他の溶液の使用量を調整し、HPLC測定に供するサンプル溶液のポリ乳酸濃度が上記と同等から100分の1の範囲になるようにした。
<HPLC測定条件>
カラム:住化分析センター社製「スミキラル(登録商標)」OA−5000(4.6mmφ×150mm)、
移動相:1.0ミリモル/リットルの硫酸銅水溶液
移動相流量:1.0ミリリットル/分
検出器:UV検出器(波長254nm)
注入量:100マイクロリットル
L乳酸モノマーに由来するピーク面積をS
LLAとし、D−乳酸モノマーに由来するピーク面積をS
DLAとすると、S
LLAおよびS
DLAはL−乳酸モノマーのモル濃度M
LLAおよびD−乳酸モノマーのモル濃度M
DLAにそれぞれ比例するため、S
LLAとS
DLAのうち大きい方の値をS
MLAとし、光学純度は下記式(5)で計算した。
[数5]
光学純度(%)=S
MLA÷(S
LLA+S
DLA)×100 (5)
【0126】
[布帛状圧電素子]
(4)引抜き強度
組紐状圧電素子が布帛状圧電素子から露出している場所がある場合は、露出している組紐状圧電素子を引張試験機(株式会社オリエンテック製万能試験機「テンシロンRTC−1225A」)の把持治具の一方で把持し、把持した側の組紐状圧電素子が固定された端から5cmの部分で組紐状圧電素子および布帛状圧電素子を切断した。組紐状圧電素子が布帛に固定された5cmの部分の両脇の、組紐状圧電素子から1mm以内の領域を除いた部分を、組紐状圧電素子の長さ方向に5cmにわたってU字型の把持治具で把持し、引張試験機の把持治具のもう一方に接続した。この状態で10mm/minの速度で引張試験を行い、最大強度を測定し、引抜き強度とした。なお、組紐状圧電素子が布帛状圧電素子から露出している場所が十分にない場合は、布帛の一部(組紐状圧電素子以外の部分)を切断して組紐組紐状圧電素子を露出させ、上記の測定を行った。なお、組紐状圧電素子が布帛に固定された部分の長さを5cm確保することが困難な場合は、任意の長さの固定部分で引抜き強度を測定して、5cmあたりの強度に換算した。
【0127】
(5)被覆率
布帛状圧電素子中の組紐状圧電素子の任意の3点で、顕微鏡により表裏両面から撮影した6枚の写真のそれぞれについて、組紐状圧電素子の幅に対して10倍以上の長さにわたる部分において、組紐の幅と観察部分の長さとの積から計算される面積に対し、組紐表面が露出して見える部分の面積の割合を算出し、その割合を100%から減じた値を被覆率とし、表面3枚の写真の平均値を被覆率(表)、裏面3枚の写真の平均値を被覆率(裏)とした。
【0128】
(6)電気信号測定
エレクトロメータ(Keysight社 B2987A)を、同軸ケーブル(芯:Hi極、シールド:Lo極)を介して圧電素子の導電体に接続した状態で、圧電素子に対し以下の曲げ動作をしながら50m秒の間隔で電流値を計測した。
【0129】
(6−1)曲げ試験
上部と下部との2つのチャックを備え、下部のチャックは鉛直方向にのみ動くようなレール上に固定されて常に下方向へ0.5Nの荷重がかかる状態とし、上部のチャックは下部のチャックの72mm上方に位置し、2つのチャックを結ぶ線分を直径とする仮想の円周上を上部のチャックが移動し、該仮想の円の中心から左右にそれぞれ16mmの位置を中心とした直径15mmの円を断面とする2本の円柱(側面には50番手の綿糸からなる平織布が貼付けられている)が固定され、その2本の円柱の間を通って布帛状圧電素子が固定され、その2本の円柱を支点として曲げ変形が与えられる試験装置を用い、組紐状圧電素子が上下のチャックにて把持されるよう布帛状圧電素子を上下のチャックに把持して固定し、該仮想の円周上にて上部のチャックを12時の位置、下部のチャックを6時の位置としたとき、上部のチャックを12時の位置から該仮想の円周上の1時、2時の位置を経由して3時の位置に一定速度で0.9秒かけて移動させた後、12時の位置を経由して9時の位置まで1.8秒かけて移動させ、再び0.9秒かけて12時の位置に戻る往復曲げ動作を10回繰り返し、その間の電流値を計測し、12時の位置から3時の位置まで移動する間の電流値のピーク値を往復運動10回の平均値を取り、信号の値とした。
【0130】
(7)組紐状圧電素子の外観
(6−1)の曲げ試験を往復1000回行った後、布帛状圧電素子中の組紐状圧電素子を引抜き、外側の導電層表面の銀メッキの剥がれを顕微鏡で観察した。全く剥がれが見られないものを優秀合格、僅かに剥がれが見られるものを合格、頻繁に剥がれが見られるものを不合格とした。
【0131】
[組紐状圧電素子]
(8)中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θ
中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θは、下記式から計算した。
θ = arctan(2πRm/HP) (0°≦θ≦90°)
ただしRm=2(Ro
3−Ri
3)/3(Ro
2−Ri
2)、即ち断面積で加重平均した組紐状圧電素子(または他の構造体)の半径である。らせんピッチHP、組紐状圧電素子(または他の構造体)が占める部分の外側半径Roおよび内側半径Riは以下の通り測定した。
(8−1)組紐状圧電素子の場合は、(組紐状圧電素子の圧電性高分子以外による被覆がなされている場合は必要に応じて被覆を除去して側面から圧電性高分子が観察できる状態としてから)側面写真を撮影し、任意の5カ所で
図2のように圧電性高分子のらせんピッチHP(μm)を測定し、平均値を取った。また、組紐状圧電素子に低粘性の瞬間接着剤「アロンアルファEXTRA2000」(東亞合成)を染み込ませて固化させた後、組紐の長軸に垂直な断面を切り出して断面写真を撮影し、1枚の断面写真について後述の通り組紐状圧電素子が占める部分の外側半径Ro(μm)および内側半径Ri(μm)を測定し、同様の測定を別の任意の断面5カ所について測定し、平均値を取った。圧電性高分子と絶縁性高分子とが同時に組まれている場合、例えば圧電性繊維と絶縁性繊維を合糸したものを用いている場合や、8打ち組紐の4本の繊維が圧電性高分子であり、残る4本の繊維が絶縁性高分子である場合は、様々な場所で断面を取った時、圧電性高分子が存在する領域と絶縁性高分子が存在する領域とが互いに入れ替わるため、圧電性高分子が存在する領域と絶縁性高分子が存在する領域とを合せて組紐状圧電素子が占める部分とみなす。ただし、絶縁性高分子が圧電性高分子と同時に組まれていない部分については、組紐状圧電素子の一部とはみなさない。
外側半径Roと内側半径Riについては、以下の通り測定した。
図11(a)の断面写真の通り、圧電性構造体(圧電性繊維Aで形成された鞘部2)が占める領域(以後PSAと記載する)と、PSAの中央部にありPSAではない領域(以後CAと記載する)を定義する。PSAの外側にあり、PSAに重ならない最小の真円の直径と、PSAの外側を通らない(CAは通ってもよい)最大の真円の直径との平均値をRoとする(
図11(b))。また、CAの外側にあり、CAに重ならない最小の真円の直径と、CAの外側を通らない最大の真円の直径との平均値をRiとする(
図11(c))。
(8−2)カバリング糸状圧電素子の場合は、圧電性高分子をカバリングする時の巻き速度がT回/m(カバリング糸の長さあたりの圧電性高分子の回転数)のとき、らせんピッチHP(μm)=1000000/Tとした。また、カバリング糸状圧電素子に低粘性の瞬間接着剤「アロンアルファEXTRA2000」(東亞合成)を染み込ませて固化させた後、組紐の長軸に垂直な断面を切り出して断面写真を撮影し、1枚の断面写真について組紐状圧電素子の場合と同様にカバリング糸状圧電素子が占める部分の外側半径Ro(μm)および内側半径Ri(μm)を測定し、同様の測定を別の任意の断面5カ所について測定し、平均値を取った。圧電性高分子と絶縁性高分子とが同時にカバリングされている場合、例えば圧電性繊維と絶縁性繊維を合糸したものをカバリングしてある場合や、圧電性繊維と絶縁性繊維とが重ならないように同時にカバリングしてある場合は、様々な場所で断面を取った時、圧電性高分子が存在する領域と絶縁性高分子が存在する領域とが互いに入れ替わるため、圧電性高分子が存在する領域と絶縁性高分子が存在する領域とを合せてカバリング糸状圧電素子が占める部分とみなす。ただし、絶縁性高分子が圧電性高分子と同時にカバリングされてない、即ちどの断面を取っても絶縁性高分子が常に圧電性高分子の内側または外側にある部分については、カバリング糸状圧電素子の一部とはみなさない。
【0132】
(9)電気信号測定
エレクトロメータ(Keysight社 B2987A)を、同軸ケーブル(芯:Hi極、シールド:Lo極)を介して圧電素子の導電体に接続した状態で、圧電素子に対し下記9−1〜5のいずれかの動作試験をしながら50m秒の間隔で電流値を計測した。
(9−1)引張試験
株式会社オリエンテック製万能試験機「テンシロンRTC−1225A」を用い、圧電素子の長尺方向に12cmの間隔を空けて圧電素子をチャックで掴み、素子が弛んだ状態を0.0Nとし、0.5Nの張力まで引っ張った状態で変位を0mmとし、100mm/minの動作速度で1.2mmまで引っ張った後、0mmまで−100mm/minの動作速度で戻す動作を10回繰り返した。
(9−2)ねじり試験
圧電素子を掴む2か所のチャックのうち、片方のチャックはねじり動作を行わず圧電素子の長軸方向に自由に動くようなレール上に設置されて圧電素子に0.5Nの張力が常にかかる状態とし、他方のチャックは圧電素子の長軸方向には動かずねじり動作を行うよう設計されたねじり試験装置を用い、圧電素子の長尺方向に72mmの間隔を空けて圧電素子をこれらのチャックで掴み、素子の中央からチャックを見て時計回りにねじるように100°/sの速度で0°から45°まで回転した後、−100/sの速度で45°から0°まで回転する往復ねじり動作を10回繰り返した。
(9−3)曲げ試験
上部と下部との2つのチャックを備え、下部のチャックは固定され、上部のチャックは下部のチャックの72mm上方に位置し、2つのチャックを結ぶ線分を直径とする仮想の円周上を上部のチャックが移動する試験装置を用い、圧電素子をチャックに把持して固定し、該円周上にて上部のチャックを12時の位置、下部のチャックを6時の位置としたとき、圧電素子を9時方向に凸に僅かに撓ませた状態とした後、上部のチャックを12時の位置から該円周上の1時、2時の位置を経由して3時の位置に一定速度で0.9秒かけて移動させた後、12時の位置まで0.9秒かけて移動させる往復曲げ動作を10回繰り返した。
(9−4)せん断試験
50番手の綿糸で織られた平織布を表面に貼り付けた2枚の剛直な金属板によって、圧電素子の中央部64mmの長さの部分を上下から水平に挟み(下部の金属板は台に固定されている)、上から3.2Nの垂直荷重をかけ、金属板表面の綿布と圧電素子との間が滑らないようにした状態のまま、上の金属板を0Nから1Nの荷重まで1秒かけて圧電素子の長尺方向に引っ張った後、引張荷重を0Nまで1秒かけて戻すせん断動作を10回繰り返した。
(9−5)押圧試験
株式会社オリエンテック製万能試験機「テンシロンRTC−1225A」を用い、水平で剛直な金属台上に静置した圧電素子の中央部64mmの長さの部分を、上部のクロスヘッドに設置された剛直な金属板により水平に圧電素子を挟み、圧電素子から上部の金属板への反力が0.01Nから20Nとなるまで0.6秒かけて上部のクロスヘッドを下げて押圧し、反力が0.01Nとなるまで0.6秒かけて除圧する動作を10回繰り返した。
【0133】
圧電素子用の布帛は以下の方法で製造した。
【0134】
(ポリ乳酸の製造)
実施例において用いたポリ乳酸は以下の方法で製造した。
L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100質量部に対し、オクチル酸スズを0.005質量部加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応機にて180℃で2時間反応させ、オクチル酸スズに対し1.2倍当量のリン酸を添加しその後、13.3Paで残存するラクチドを減圧除去し、チップ化し、ポリ−L−乳酸(PLLA1)を得た。得られたPLLA1の質量平均分子量は15.2万、ガラス転移点(Tg)は55℃、融点は175℃であった。
【0135】
(圧電性繊維)
240℃にて溶融させたPLLA1を24ホールのキャップから20g/minで吐出し、887m/minにて引き取った。この未延伸マルチフィラメント糸を80℃、2.3倍に延伸し、100℃で熱固定処理することにより84dTex/24フィラメントのマルチフィラメント一軸延伸糸PF1を得た。また、240℃にて溶融させたPLLA1を12ホールのキャップから8g/minで吐出し、1050m/minにて引き取った。この未延伸マルチフィラメント糸を80℃、2.3倍に延伸し、150℃で熱固定処理することにより33dtex/12フィラメントのマルチフィラメント一軸延伸糸PF2を得た。これらの圧電性繊維PF1およびPF2を圧電性高分子として用いた。PF1およびPF2のポリ−L−乳酸結晶化度、ポリ−L−乳酸結晶配向度および光学純度は上記の方法で測定し、表1の通りであった。
【0136】
【表1】
【0137】
(導電性繊維)
ミツフジ(株)製の銀メッキナイロン、品名『AGposs』100d34f(CF1)を導電性繊維Bとして使用した。CF1の抵抗率は250Ω/mであった。
また、ミツフジ(株)製の銀メッキナイロン、品名『AGposs』30d10f(CF2)を導電性繊維Bおよび導電性繊維5として使用した。CF2の導電性は950Ω/mであった。
【0138】
(絶縁性繊維)
ポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸後に延伸することで製造した84dTex/24フィラメントの延伸糸IF1、および33dTex/12フィラメントの延伸糸IF2をそれぞれ絶縁性繊維とした。
【0139】
(組紐状圧電素子)
図1に示すように、導電性繊維CF1を芯糸とし、8打ち丸組紐製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアに上記の圧電性繊維PF1をセットし、S撚り方向に組まれる4本のキャリアに上記の絶縁性繊維IF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子を作成した。次いで、この組紐状圧電素子を芯糸とし、製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアおよびS撚り方向に組まれる4本のキャリア全てに上記の導電性繊維CF2をセットして組むことで、組紐状圧電素子の周りを導電性繊維からなる導電層で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1とした。
【0140】
(製織)
(実施例1)
ポリエステルのスパン糸による2重織りテープ(幅16mm、厚み0.3mm)の層間に、経糸に平行に5カ所の筒状部分を形成し、それぞれの筒中に組紐状圧電素子1を入れて織った布帛状圧電素子を作成した。筒状部分は2層合わせて16本の84dTexの経糸で構成し、筒状部分以外の部分は167dTexの経糸で構成した。緯糸は84dTexの糸を用いた。5本の組紐状圧電素子同士の間には167dTexの経糸を2本(各層1本)入れた。布帛状圧電素子の中央の組紐状圧電素子1について、引抜き強度、被覆率の測定を行い、曲げ試験の信号強度と、曲げ試験後の組紐状圧電素子の外側導電層外観を確認した。結果を表2に示す。
【0141】
(実施例2)
ポリエステル糸(330dTex/72フィラメント)を経糸および緯糸に用いた平織布の経糸の一部に、組紐状圧電素子1を用いて織った布帛状圧電素子を作成した。この平織布は緯糸密度より経糸密度が高く、経糸間の隙間がほぼなかった。布帛状圧電素子中の組紐状圧電素子1について、引抜き強度、被覆率の測定を行い、曲げ試験の信号強度と、曲げ試験後の組紐状圧電素子の外側導電層外観を確認した。結果を表2に示す。
【0142】
(実施例3)
実施例2と同様にポリエステルのスパン糸を経糸および緯糸に用いて織った平織布の緯糸の一部に、組紐状圧電素子1を用いて織った布帛状圧電素子を作成した。布帛状圧電素子中の組紐状圧電素子1について、引抜き強度、被覆率の測定を行い、曲げ試験の信号強度と、曲げ試験後の組紐状圧電素子の外側導電層外観を確認した。結果を表2に示す。
【0143】
(実施例4)
実施例2で織った平織布に、組紐状圧電素子1を置き、組紐状圧電素子1をまたぐように60番手のポリエステルスパンミシン糸によるジグザグ縫い(幅2mm、ピッチ1mm)を行って組紐状圧電素子を平織布に固定して、布帛状圧電素子を作成した。布帛状圧電素子中の組紐状圧電素子1について、引抜き強度、被覆率の測定を行い、曲げ試験の信号強度と、曲げ試験後の組紐状圧電素子の外側導電層外観を確認した。結果を表2に示す。
【0144】
(比較例1)
ポリエステルスパンミシン糸によるジグザグ縫いの幅を4mm、ピッチを2mmに変更した以外は実施例4と同様に、布帛状圧電素子を作成した。布帛状圧電素子中の組紐状圧電素子1について、引抜き強度、被覆率の測定を行い、曲げ試験の信号強度と、曲げ試験後の組紐状圧電素子の外側導電層外観を確認した。結果を表2に示す。
【0145】
【表2】
【0146】
表2の結果から、5cmあたりの引抜き強度が0.1N以上である実施例1〜4では、曲げ試験において強い信号が観測されているのに対し、0.1N未満である比較例1では曲げ試験において弱い信号しか観測されず、実施例1〜4の布帛状圧電素子はセンサとしての性能に優れていることが分かる。また、被覆率が表面と裏面ともに30%を超える実施例1〜4では、曲げ試験後の組紐状圧電素子の導電層の劣化が比較例1に比べて抑制されており、布帛状センサとしての耐久性に優れていることが分かる。
【0147】
(実施例5)
本実施例では、本発明の布帛状圧電素子において用いられる圧電素子に関し、特に圧電性高分子の配向角度θおよびT1/T2の値が伸縮変形に対する電気信号に及ぼす影響について調べた。
【0148】
(例A)
例Aの試料として、
図1に示すように、導電性繊維CF1を芯糸とし、8打ち丸組紐製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアに上記の圧電性繊維PF1をセットし、S撚り方向に組まれる4本のキャリアに上記の絶縁性繊維IF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子1−Aを作成した。
【0149】
(例B)
組紐状圧電素子1−Aを芯糸とし、製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアおよびS撚り方向に組まれる4本のキャリア全てに上記の導電性繊維CF2をセットして組むことで、組紐状圧電素子1−Aの周りを導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Bとした。
【0150】
(例C、D)
PF1の巻付け速度を変更した以外は組紐状圧電素子1−Aと同様にして、2本の組紐状圧電素子を作成し、これらの組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Cおよび1−Dとした。
【0151】
(例E〜H)
製紐機の8本のキャリアのうち、表3の通りZ撚り方向およびS撚り方向に組まれるキャリアにそれぞれPF1あるいはIF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向およびS撚り方向のそれぞれに所定の割合で圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子を作成し、これらの組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−E〜1−Hとした。
【0152】
(例I)
PF1の代わりにPF2を使用し、IF1の代わりにIF2を使用し、巻付け速度を調整した以外は組紐状圧電素子1−Aと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Iとした。
【0153】
(例J)
PF2の代わりにIF2を使用し、IF2の代わりにPF2を使用した以外は組紐状圧電素子1−Aと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Jとした。
【0154】
(例K)
CF1を芯糸とし、PF1を芯糸の周りにS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにIF1をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、芯糸の周りにS撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれ、さらに外側を導電性繊維で覆ったカバリング糸状圧電素子1−Kを作成した。
【0155】
(例L)
PF1の代わりにIF1を使用した以外は組紐状圧電素子1−Aと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状素子1−Lとした。
【0156】
(例M)
PF1の代わりにIF1を使用した以外はカバリング糸状圧電素子1−Kと同様にしてカバリング糸状素子を作成し、カバリング糸状素子1−Mとした。
【0157】
(例N)
IF1の代わりにPF1を使用した以外は組紐状圧電素子1−Bと同様にして組紐状圧電素子1−Nを作成した。
【0158】
(例O)
IF2の代わりにPF2を使用した以外は組紐状圧電素子1−Iと同様にして組紐状圧電素子1−Oを作成した。
【0159】
(例P)
導電性繊維CF1を芯糸とし、16打ち丸組紐製紐機の16本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる8本のキャリアに上記の圧電性繊維PF1をセットし、S撚り方向に組まれる8本のキャリアに上記の絶縁性繊維IF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−Bと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−Pとした。
【0160】
(例Q)
CF1を芯糸とし、PF1を芯糸の周りにS撚り方向に6000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにIF1をZ撚り方向に6000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、芯糸の周りにS撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれ、さらに外側を導電性繊維で覆ったカバリング糸状圧電素子1−Qを作成した。
【0161】
各圧電素子のRi、Ro、HPを測定し、計算された中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θの値、およびT1/T2の値を表3に示す。組紐状圧電素子については、RiおよびRoは、断面において圧電性繊維と絶縁性繊維が存在する領域を合わせて圧電素子の占める領域として測定した。カバリング糸状圧電素子については、RiおよびRoは、断面において圧電性繊維が存在する領域を圧電素子の占める領域として測定した。また、各圧電素子を15cmの長さに切断し、芯の導電性繊維をHi極とし、周辺をシールドする金網または鞘の導電性繊維をLo極としてエレクトロメータ(Keysight社 B2987A)に接続し、電流値をモニタした。引張試験、ねじり試験、曲げ試験、せん断試験および押圧試験時の電流値を表3に示す。なお、例L、Mは圧電性高分子を含まないため、θおよびT1/T2の値は測定できない。
【0162】
【表3】
【0163】
表3の結果から、中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θが15°以上75°以下であり、T1/T2の値が0以上0.8以下であるとき、引張動作(伸縮変形)に対し大きな信号を発生し、引張以外の動作には大きな信号を発生せず、引張動作に選択的に応答する素子であることが分かる。また例IとJとを比べると、Z撚り方向に多く圧電性繊維を巻いた場合と、S撚り方向に多く圧電性繊維を巻いた場合とを比べると、引張試験時の信号の極性が逆となっており、巻き方向が信号の極性に対応していることが分かる。
【0164】
さらに、表には示していないが、例A〜Kの素子は引張荷重を与えた時の信号と、引張荷重を除いた時の信号とを比べると、極性が互いに逆で絶対値が概ね同じ信号を発生したため、これらの素子は引張荷重や変位の定量に適していることが分かる。一方、例NおよびOの素子は引張荷重を与えた時の信号と、引張荷重を除いた時の信号とを比べると、極性が互いに逆である場合も同じである場合もあったため、これらの素子は引張荷重や変位の定量に適していないことが分かる。また、表には示していないが、例Bの引張試験時のノイズレベルは、例Aの引張試験時のノイズレベルより低く、組紐状圧電素子の外側に導電性繊維からなる導電層を配置してシールドとした素子ではノイズを低減できることが分かる。
【0165】
(実施例6)
本実施例では、本発明の布帛状圧電素子において用いられる圧電素子に関し、特に圧電性高分子の配向角度θおよびT1/T2の値がねじり変形に対する電気信号に及ぼす影響について調べた。
【0166】
(例AA)
実施例1の試料として、
図1に示すように、導電性繊維CF1を芯糸とし、8打ち丸組紐製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアおよびS撚り方向に組まれる4本のキャリア全てに上記の圧電性繊維PF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向およびS撚り方向ともに圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子1−AAを作成した。
【0167】
(例AB)
組紐状圧電素子1−AAを芯糸とし、製紐機の8本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる4本のキャリアおよびS撚り方向に組まれる4本のキャリア全てに上記の導電性繊維CF2をセットして組むことで、組紐状圧電素子1−AAの周りを導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−ABとした。
【0168】
(例AC)
PF1の代わりにPF2を使用し、巻付け速度を調整した以外は組紐状圧電素子1−AAと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子1−AAを芯糸とし、組紐状圧電素子1−ABと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−ACとした。
【0169】
(例AD)
CF1の代わりにCF2を使用し、巻付け速度を調整した以外は組紐状圧電素子1−AAと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子1−AAを芯糸とし、組紐状圧電素子1−ABと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−ADとした。
【0170】
(例AE)
導電性繊維CF1を芯糸とし、16打ち丸組紐製紐機の16本のキャリアのうち、Z撚り方向に組まれる8本のキャリアおよびS撚り方向に組まれる8本のキャリア全てに上記の圧電性繊維PF1をセットして組むことで、芯糸の周りにZ撚り方向およびS撚り方向ともに圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれた組紐状圧電素子を作成し、この組紐状圧電素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−ABと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状圧電素子1−AEとした。
【0171】
(例AF)
CF1を芯糸とし、PF1を芯糸の周りにS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにPF1をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、芯糸の周りにZ撚り方向およびS撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれ、さらに外側を導電性繊維で覆ったカバリング糸状圧電素子1−AFを作成した。
【0172】
(例AG)
CF1を芯糸とし、PF1を芯糸の周りにS撚り方向に6000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにPF1をZ撚り方向に6000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をS撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、その外側にさらにCF2をZ撚り方向に3000回/mのカバリング回数で巻きつけ、芯糸の周りにZ撚り方向およびS撚り方向に圧電性繊維PF1がらせん状に巻かれ、さらに外側を導電性繊維で覆ったカバリング糸状圧電素子1−AGを作成した。
【0173】
(例AH)
PF1の代わりにIF1を使用した以外は組紐状圧電素子1−AAと同様にして組紐状圧電素子を作成し、この組紐状素子を芯糸とし、組紐状圧電素子1−ABと同様に導電性繊維で覆ったものを作製し、組紐状素子1−AHとした。
【0174】
(例AI)
PF1の代わりにIF1を使用した以外はカバリング糸状圧電素子1−AFと同様にしてカバリング糸状素子を作成し、カバリング糸状素子1−AIとした。
【0175】
(例AJ、AK)
PF1またはPF2の巻付け速度を変更した以外は組紐状圧電素子1−ABおよび1−ACと同様にして、2本の組紐状圧電素子を作成し、組紐状圧電素子1−AJおよび1−AKとした。
【0176】
(例AL)
S撚り方向に巻いたPF1の代わりにIF1を使用した以外は組紐状圧電素子1−ABと同様にして組紐状圧電素子1−ALを作成した。
【0177】
(例AM)
Z撚り方向に巻いたPF2の代わりにIF2を使用した以外は組紐状圧電素子1−ACと同様にして組紐状圧電素子1−AMを作成した。
【0178】
(例AN)
Z撚り方向に巻いたPF1の代わりにIF1を使用した以外はカバリング糸状圧電素子1−AFと同様にしてカバリング糸状圧電素子1−ANを作成した。
【0179】
各圧電素子のRi、Ro、HPを測定し、計算された中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θの値、およびT1/T2の値を表4に示す。組紐状圧電素子については、RiおよびRoは、断面において圧電性繊維と絶縁性繊維が存在する領域を合わせて圧電素子の占める領域として測定した。カバリング糸状圧電素子については、RiおよびRoは、断面において圧電性繊維が存在する領域を圧電素子の占める領域として測定した。また、各圧電素子を15cmの長さに切断し、芯の導電性繊維をHi極とし、周辺をシールドする金網または鞘の導電性繊維をLo極としてエレクトロメータ(Keysight社 B2987A)に接続し、電流値をモニタした。引張試験、ねじり試験、曲げ試験、せん断試験および押圧試験時の電流値を表4に示す。なお、例AH、AIは圧電性高分子を含まないため、θおよびT1/T2の値は測定できない。
【0180】
【表4】
【0181】
表4の結果から、中心軸の方向に対する圧電性高分子の配向角度θが0°以上40°以下または50°以上90°以下であり、T1/T2の値が0.8を超えて1.0以下であるとき、ねじり動作(ねじり変形)に対し大きな信号を発生し、ねじり以外の動作には大きな信号を発生せず、ねじり動作に選択的に応答する素子であることが分かる。また、例AA〜AEと実施例AF〜AGとを比べると、θが0°以上40°以下の場合と、θが50°以上90°以下の場合とで、ねじり試験時の信号の極性が逆となっており、θがねじり試験時の信号の極性に対応していることが分かる。
【0182】
さらに、表には示していないが、例AA〜AGの素子はS撚り方向にねじりを与えた時の信号と、Z撚り方向にねじりを与えた時の信号とを比べると、極性が互いに逆で絶対値が概ね同じ信号を発生したため、これらの素子はねじり荷重や変位の定量に適していることが分かる。一方、例AJおよび例AKの素子はS撚り方向にねじりを与えた時の信号と、Z撚り方向にねじりを与えた時の信号とを比べると、極性が互いに逆である場合も同じである場合もあったため、これらの素子はねじり荷重や変位の定量に適していないことが分かる。また、表には示していないが、例ABのねじり試験時のノイズレベルは、例AAのねじり試験時のノイズレベルより低く、組紐状圧電素子の外側に導電性繊維からなる導電層を配置してシールドとした素子ではノイズを低減できることが分かる。