【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [公開日]令和元年7月18日 [公開場所]小樽市漁業協同組合 事務所(北海道小樽市色内3−5−18) [公開日]令和元年7月23日 [公開場所]雄武漁業協同組合 事務所(北海道紋別郡雄武町字雄武983) [公開日]令和元年7月23日 [公開場所]紋別漁業協同組合 事務所(北海道紋別市港町6−5−2) [公開日]令和元年7月23日 [公開場所]沙留漁業協同組合 事務所(北海道紋別郡興部町字沙留143) [公開日]令和元年7月26日 [公開場所]岩内郡漁業協同組合 事務所(北海道岩内郡岩内町大浜461) [公開日]令和元年7月26日 [公開場所]古宇郡漁業協同組合 盃支所(北海道古宇郡泊村字盃) [公開日]令和元年8月2日 [公開場所]寿都町漁業協同組合 事務所(北海道寿都町大磯町20) [公開日]令和元年8月2日 [公開場所]寿都町役場 産業振興課 事務所(北海道寿都郡寿都町字渡島超140−1) [公開日]令和元年9月10日 [公開場所]岩内町役場 企画産業課 事務所(北海道岩内町字万代134) [公開日]令和元年9月10日 [公開場所]島牧漁業協同組合 事務所(北海道島牧郡島牧村港町100) [公開日]令和元年10月18日 [公開場所]小樽市漁業協同組合 祝津地先(北海道小樽市祝津) [公開日]令和元年10月23日 [公開場所]古宇郡漁業協同組合 盃地先(北海道古宇郡泊村字盃)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1紐状部材が、前記細径部及び太径部の両方に跨って延びた紐状の第1部材と、前記第1部材に沿って前記第1部材と組み合わされていることにより前記太径部を形成している紐状の第2部材とを有していることを特徴とする請求項1に記載の海藻漁場の造成方法。
前記第1固定金具が、前記第1紐状部材の一端部が結び付けられる結び付け部と、前記天然物又は前記人工設置物に形成された穴へと一方向に差し込まれる第1差し込み部及び第2差し込み部とを有しており、
前記一方向と直交する方向に関して、前記第1差し込み部と前記結び付け部との間の距離が、前記第2差し込み部と前記結び付け部との間の距離より大きいことを特徴とする請求項5に記載の海藻漁場の造成方法。
海底の天然物又は人工設置物の上面に形成された穴に差し込まれる第4差し込み部が、前記本体部が延びた方向と交差する方向に関して前記第3差し込み部から離隔するように設けられていることを特徴とする請求項3又は8に記載の海藻漁場の造成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によると、施設の設置に先立って採苗を実施する必要がある。例えば、胞子を放出可能な母藻を採取し、水槽等において母藻からの胞子を基質に着生させ、その後、基質を海底に設置するといった煩雑な工程の実施が必要である。このように、特許文献1の方法では、基質の導入段階での工程を容易に実施できないおそれがある。したがって、適切な規模の基質を確保しにくく、十分な量の海藻を育成しにくいため、漁場の造成には適切でない。また、近年の海藻不足から、基質に着生させるための胞子を十分に確保しづらい。したがって、胞子を付着した基質を十分に確保できず、適切な規模の基質を設置できないおそれがある。さらに、基質が海底に設置されるため、海底に生息するウニ等の植食動物による食害にさらされやすい。よって、基質に海藻が着生したとしてもこれを長期間に亘って維持することができない。これらの問題から、特許文献1の方法では、持続可能で十分な規模の漁場を造成できないおそれがある。
【0005】
より詳細に引用文献1の課題を挙げると、以下の通りとなる。引用文献1の方法で漁場を造成すると、施設全体が大型になりやすく、使用する網地や固定資材についても大規模なものが必要となりやすい。また、採苗工程を実施する場合、胞子液を満たした水槽(プール等)に施設を浸漬した後の管理(例えば、運搬時間の短縮、風乾や網地に採苗した胞子の擦れの防止)が困難であることから、かかる方法は採用できず、代わりにタネ糸を装着する方法が候補となり得る。しかし、この方法でも、大規模な網地にタネ糸を装着する作業において、タネ糸が乾かないように短時間での施工が必要となるため、陸上での作業は困難である。一方、水中で実施するにも膨大な時間と人手が必要となるため、やはり困難である。さらに、水中では、岩盤底質において面積のある網地を展張すると、網地の周辺部から中央部に離れるに従い、網地素材の伸びにより、一様な緊張形状(ピンと張った網地の形状)を保つことが困難になる。この網地の伸び代は、海底に敷設された網地が波やうねりによって揺れ動く原因となる。また、これによって網地が擦れ、短時間で網目破損が発生しやすくなり、さらに、台風や低気圧等が発生した際の時化により網地の引き裂き等の被害等が発生しやすい。特に海藻増殖を目的とする場合は、漁場水深が浅いことから、かかる漁場に設置した施設の被害が大きくなりやすい。一方、底質が砂泥質である場合には、網地の比重を大きくすることにより、網地が砂泥に埋まり込んで安定する。しかしながら、網地の基質が埋まり込むと、基質に着生する種苗の発芽及び成長に必要な光量が不足する。このように、引用文献1の方法は、海藻漁場の造成方法として課題が多い。
【0006】
本発明の目的は、植食動物が生息する漁場において、維持・管理が容易であり、天然胞子を供給する持続可能な海藻漁場の造成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の海藻漁場の造成方法は、植食動物が生息する漁場において、第1基質及び第2基質を用いて海藻漁場を造成する方法であって、前記第1基質が、第1固定金具によって海底の天然物又は人工設置物に一端部が固定される第1紐状部材と、前記第1紐状部材の他端部に固定された浮き部材とを有しており、前記第2基質が、第2固定金具によって海底の天然物又は人工設置物に固定される第2紐状部材を有しており、天然の母藻からの胞子が海中を流れる経路中に前記第1紐状部材が配置され、且つ、前記浮き部材の浮力によって前記第1紐状部材が前記一端部から海面に向かって延びるように前記第1基質を設置し、当該母藻からの胞子を前記第1紐状部材に着生させる工程と、前記第1紐状部材が波浪の影響で揺れ動くことにより、前記植食動物による食害を抑制しつつ前記第1紐状部材において海藻を成長させる工程と、前記第1基質に着生した母藻からの胞子が流れる経路中に前記第2紐状部材が配置され、且つ、海底の天然物又は人工設置物の上方において前記第2紐状部材が陸沖方向に延びるように前記第2基質を設置し、当該母藻からの胞子を前記第2紐状部材に着生させる工程と、前記第2紐状部材において成長した海藻の少なくとも一部を、海底の天然物又は人工設置物の上面に到達させることにより、前記植食動物に給餌する工程とを備えている。
また、本発明の第1の観点においては、前記第1紐状部材が、互いに太さの異なる部分である細径部及び太径部を有しており、前記細径部が、前記第1紐状部材において前記第1固定金具の上部に位置する。さらに、本発明の第2の観点においては、前記天然の母藻からの胞子を着生させる際に、沿岸の卓越流に関して上流側と比べて下流側に多くの前記第1基質を設置する。本発明の第3の観点においては、前記第2固定金具が、海底の天然物又は人工設置物の上面に形成された穴に差し込まれる第3差し込み部と、前記第3差し込み部より上方の部分である本体部とを有し、複数個の前記第2固定金具を平面視で陸沖方向に一列に配置すると共に、前記第2紐状部材を、前記複数個の第2固定金具のそれぞれにおける前記本体部に固定する。
【0008】
本発明の海藻漁場の造成方法によると、まずは、天然の母藻からの胞子を第1基質に着生させる。第1基質の設置は、浮き部材が固定された第1紐状部材を固定金具によって固定するという簡易な方法で実施できる。また、天然の母藻からの胞子が海中を流れる経路中に第1紐状部材を配置させる。このため、天然の母藻からの胞子を着生させることができる適切な位置に第1基質を設置しやすい。また、第1基質は、第1紐状部材が海底から海面に向かって延びるように配置される。このように配置された第1紐状部材は、波浪の影響で揺れ動くため、第1紐状部材に着生した海藻が海底に生息する植食動物による食害を受けにくい。したがって、第1基質において胞子を放出できる段階まで海藻を確実に保護して成長させやすい。
【0009】
次に、第1基質に着生した海藻を母藻として、かかる母藻からの胞子をさらに第2基質に着生させる。第1基質は、天然の母藻から採苗した位置のまま利用されてもよいし、そこから離隔した場所や新規漁場に移動してもよい。上記の通り、第1基質は、固定金具によって第1紐状部材の一端部が固定される簡易な構成を有している。このため、海藻が着生した第1紐状部材を別の場所に移動して利用しやすい。なお、この場合、金具は移動せずに採苗場所と移設先のそれぞれに設置した金具を使用すると効率的である。第2基質は、固定金具によって第2紐状部材が陸沖方向に延びるように海底の天然物又は人工設置物に設置される簡易な構成を有している。このため、第2紐状部材を延伸するという簡易な方法で施設の規模を拡張しやすい。また、第2紐状部材は海底の天然物又は人工設置物の上方に配置される。このため、第2紐状部材において海藻が成長・伸長するまでの期間、海藻は天然物又は人工設置物の上面(付近)に到達しない。また、第2紐状部材が水中を陸沖方向に延びているので、波浪に由来する基質周辺の水の流動が植食動物による摂餌行動を常時抑制すると共に、第2紐状部材(基質)上で生育する海藻類を動揺させる。かかる動揺により、海藻が植食動物を叩き、その摂餌行動を抑制する。したがって、ウニ等の植食動物が基質に這い上がって海藻を摂食することによる食害が大きく抑制される。そして、海藻が成長すると、その一部が海底の天然物又は人工設置物に到達し、餌料量が増えた状態で植食動物の摂餌の対象となる。
さらに、第1の観点によると、太径部よりも波浪により揺れ動きやすい細径部は、海底に生息するウニ等の植食動物が這い上がりにくい。さらに、上部の太径部は波の抵抗が強く作用するので細径部がより揺れやすくなる。したがって、上方の太径部に植食動物がたどり着きにくい。よって、太径部に着生した海藻への植食動物による食害が抑制される。第2の観点によると、母藻から放出された胞子は、沿岸流によって、上流側と比べて下流側に多く流出・拡散する。したがって、上流側と比べて下流側に多くの第1基質を、母藻から距離を空けずに設置することで、かかる胞子をより確実に効率よく第1基質に着生させることができる。なお、本発明において、「沿岸の卓越流に関して上流側と比べて下流側に多くの前記第1基質を設置する」とは、母藻(又は母藻群の中心)より上流側に位置する第1基質よりも下流側に位置する第1基質が多くなるように第1基質を設置することを意味する。また、沿岸の卓越流とは、第1基質への採苗の期間において卓越する沿岸流を意味する。第3の観点によると、第2固定金具によって簡易な構成で天然物又は人工設置物から上方に離隔するように第2紐状部材を固定できる。
【0010】
以上の通り、本発明においては、天然の母藻が放出する胞子を適切に第1基質に着生させつつ、着生した海藻が植食動物から食害を受けるのを回避できる。これにより、限られた天然の母藻から供給される胞子を保護・育成して、胞子を放出する段階まで確実に海藻を育成できる。また、第1基質において育成された母藻からの胞子を第2基質に着生させる。第1基質は、漁場を造成・拡大する場所に移動することもできる。第2基質においては、海藻が十分に成長するまで植食動物による食害を抑制できる。さらに、第2基質は第2紐状部材を延伸することで新規の着生基質を提供できるため、簡易に規模を拡張できる。これらにより、本発明においては、植食動物による食害を抑制すると共に適切に回避しつつ、長期間に亘って持続的に海藻を保護・育成しながら、十分な規模の海藻漁場を造成でき、さらに、当該漁場を植食動物への給餌場として利用することができる。また、従来技術のような大規模な施設が不要となりやすく、維持・管理が容易になる。
【0011】
また、本発明においては、前記浮き部材が紡錘形状を有しており、前記第1紐状部材が前記紡錘形状の一端部から延びていることが好ましい。これにより、浮き部材の長尺方向が波浪による流れと同一方向になびくように浮き部材が配置されやすい。したがって、波浪に対する浮き部材の抵抗が大きく低減される。よって、第1基質が波浪によって破損・流出することを抑制できる。
【0013】
また、本発明においては、前記第1紐状部材が、前記細径部及び太径部の両方に跨って延びた紐状の第1部材と、前記第1部材に沿って前記第1部材と組み合わされていることにより前記太径部を形成している紐状の第2部材とを有していることが好ましい。第1紐状部材に細径部及び太径部を設けると、これら太さの異なる部分同士で、波浪によって揺れ動く周期の違いが発生する。かかる違いにより、仮に、太い紐状部材と細い紐状部材の端部同士を連結することで太径部と細径部を構成したとすると、その連結部付近において、細径部が屈曲疲労等により破断するおそれがある。これに対し、上記構成の通り、第2部材が第1部材と組み合わされている(例えば、互いに縒り合されている)ため、上記のような連結部の屈曲疲労が大幅に抑制されている。なお、太径部は、径の太いロープ(撚り紐状でないもの)を添着してもよい。
【0014】
また、本発明においては、前記第1固定金具が、前記第1紐状部材の一端部が結び付けられる結び付け部と、前記天然物又は前記人工設置物に形成された穴へと一方向に差し込まれる第1差し込み部及び第2差し込み部とを有しており、前記一方向と直交する方向に関して、前記第1差し込み部と前記結び付け部との間の距離が、前記第2差し込み部と前記結び付け部との間の距離より大きいことが好ましい。第1固定金具には、第1紐状部材を通じ、波浪による引張荷重が発生する。この引張荷重の方向は、浮き部材が波浪に乗って移動するのに応じて様々な方向に頻繁に変動する。これに対し、上記構成の通り、第2差し込み部のみならず第1差し込み部が設けられ、天然物又は人工設置物の穴に差し込まれる。これにより、第1差し込み部が上記のように変動する引張荷重に対し、差し込み方向に関する支持力を発生させる。これによって、第1固定金具全体の変形や変位が抑制され、強度及び耐久性が確保されている。また、仮に第1差し込み部が変位したり変形したりしても、第2差し込み部と穴の壁面との摩擦抵抗により第1固定金具の固定が維持される。このように、第1固定金具によって第1基質が天然物又は人工設置物に強固に固定される。
【0015】
また、本発明においては、前記第1固定金具が1本の棒状部材を有しており、前記棒状部材の一端部が、前記一方向に向かって折り曲げられていることにより前記第1差し込み部を形成しており、前記棒状部材の他端部が、前記一方向とは反対方向に向かって湾曲した湾曲部を前記結び付け部として形成していると共に、前記湾曲部と前記一端部を繋ぐ直線部と交差するように、前記一方向に向かって折り曲げられていることにより、前記湾曲部から前記一方向に向かって突出した前記第2差し込み部を形成していることが好ましい。例えば仮に、第1固定金具の代わりに従来のアンカーピン及びアイナットで第1基質を固定した場合、これら2つの部材が通常、異種金属で構成されていることから、部材の接触部において腐食が進行しやすくなる。これに対し、上記構成の通り一本の棒状部材から構成された第1固定金具を用いることで腐食を回避し、第1基質の固定状態が長期間維持される。
【0019】
また、本発明においては、前記第2固定金具が、前記本体部と交差した交差部を有しており、複数本の前記第2紐状部材が、水平方向に関して互いに離隔するように、前記
第2固定金具のそれぞれの前記交差部に固定されていることが好ましい。これによると、複数本の第2紐状部材が、一列に配置された
第2固定金具の各交差部に固定されている。したがって、一列に配置された
第2固定金具に第2紐状部材が一本だけ固定される場合と比べ、多くの海藻を第2基質において着生・育成させ得る。
【0020】
また、本発明においては、海底の天然物又は人工設置物の上面に形成された穴に差し込まれる第4差し込み部が、前記本体部が延びた方向と交差する方向に関して前記第3差し込み部から離隔するように設けられていることが好ましい。これによると、2本の差し込み部が差し込まれるので、第2固定金具が回転することなく、強固に固定される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る海藻漁場の造成方法について説明する。本方法においては、
図1〜
図8に示す藻場礁1を用いた海藻の育成を通じて漁場が造成される。育成の対象となるコンブ類等の海藻は、従来、ウニやアワビ等の植食動物の餌料として利用されてきた。しかしながら、近年は、磯焼け現象の発生等により餌不足が持続し、これによって植食動物の水揚げの落ち込みと品質低下が著しいことが指摘されている。そこで、本海藻漁場の造成方法においては、海藻の育成を促進しつつ、育成した海藻を植食動物の餌料として利用する。このため、藻場礁1は、以下の立て縄基質100(本発明における第1基質)及び底繋ぎ施設200(本発明における第2基質)の両方を用いて構築される施設としている。まず、立て縄基質100について説明した後、立て縄基質100及び底繋ぎ施設200の両方を利用した施設の構築について説明する。
【0023】
立て縄基質100は、海底の岩礁等の天然物か、海底に設置されたコンクリートブロック等の人工設置物(以下、岩礁等という。)に取り付けられ、設置される。立て縄基質100は、
図1に示すように、細ロープ101(本発明における第1部材)、太ロープ102(本発明における第2部材)、フロート103(本発明における浮き部材)及び固定金具110(本発明における第1固定金具)を備えている。なお、細ロープ101及び太ロープ102からなる部分が本発明における第1紐状部材に対応する。細ロープ101及び太ロープ102は、それぞれ合成繊維製のロープである。細ロープ101の一端部は固定金具110によって岩礁等の表面に固定されている。細ロープ101の他端部にはフロート103が固定されている。フロート103は、紡錘形の形状を有する発泡プラスチック製の部材である。フロート103には、その長尺方向の両端を結ぶように延びた貫通孔が形成されている。この貫通孔に細ロープ101の他端部が通され、細ロープ101における貫通孔の開口近傍の部分に抜け留め用の結び目等が形成されることにより、細ロープ101の他端部にフロート103が固定されている。これにより、細ロープ101がフロート103の紡錘形の先端部から延びるように立て縄基質100が構成されている。
【0024】
太ロープ102は、複数本(例えば、2〜3本)の合成繊維製のロープを編み込んだものか、径の太いロープである。太ロープ102は、
図1に示すように、細ロープ101の途中の部分に組み合わされている。これにより、立て縄基質100には、固定金具110に固定された一端から太ロープ102の端部までの部分である細径部100aと、太ロープ102が設けられた部分である太径部100bとが形成されている。細径部100aより太い太径部100bは、コンブ等の海藻類の仮根がより強固に固着しやすい。一方、細径部100aは、後述の通り、植食動物、特にウニが這い上がりにくい部分である。細ロープ101と太ロープ102は、例えば
図2に示すように、太ロープ102の編み目(編み込まれたロープ同士の間)に細ロープ101を通すことで組み合わされている。これらは、互いに組み合わされた状態で止め糸105を結び付け添着することで固定されている。
【0025】
固定金具110は岩礁等に差し込まれて用いられる。差し込み方向は、一例として上下方向に平行な方向であるが、上下方向と交差する方向であってもよい。固定金具110は、
図3及び
図4に示すように、金属製の1本の棒状部材が折り曲げられることで構成されている。これにより、複数個の部材の組み合わせで構成される場合と比べて固定金具110の電食に対する耐性が確保されやすい。これに対し、固定金具110の代わりに、従来のアンカーピン及びアイナットが用いられた場合、これら2つの部材が通常、異種金属で構成されていることから、部材の接触部において腐食が進行しやすくなる。固定金具110は、岩礁等への差し込み方向とほぼ直交する方向に沿って直線状に延びた本体部111(本発明における直線部)と、本体部111の一端から差し込み方向に向かって折り曲げられた差し込み部112(本発明における第1差し込み部)と、本体部111の他端からループ状に折り曲げられたループ部113とを有している。差し込み部112は、差し込み方向に沿って直線状に延びている。差し込み部112の先端は先鋭(先端を切り落とす加工が施された状態)に形成され、差し込み方向に対して斜めの方向に沿った表面112aが形成されている。
【0026】
ループ部113は、本体部111の他端から差し込み方向とは反対方向に向かって一旦湾曲して湾曲部114を形成していると共に、本体部111と交差するように湾曲部114から差し込み方向へと突出して差し込み部115(本発明における第2差し込み部)を形成している。湾曲部114の上部114a(本発明における結び付け部)には細ロープ101が結び付けられる。差し込み部115の先端は、
図4に示すように先鋭(先細り)に形成され、差し込み方向に対して斜めの方向に沿った表面115aが形成されている。差し込み部115は、差し込み方向に関して差し込み部112より小さく突出している。差し込み方向と直交する方向に関し、湾曲部114から差し込み部115までの距離は、湾曲部114から差し込み部112までの距離より小さい。固定金具110は、差し込み部112及び差し込み部115の両方が岩礁等に形成された穴に差し込まれることによって固定される。
【0027】
立て縄基質100の設置方法は以下の通りである。まず、細ロープ101及び太ロープ102を準備する。太ロープ102はロープを編み込んで作製されるか、径の太いロープを添着してもよい。そして、事前の準備段階又は設置現場において、細ロープ101にフロート103を固定すると共に、太ロープ102を細ロープ101に組み合わせる。海底の設置箇所においては、固定金具110の差し込み部112及び差し込み部115に応じた2つの穴を岩礁等に形成しておく。そして、固定金具110の差し込み部112及び差し込み部115を穴に差し込んだ後、固定金具110の本体部111に差し込み方向に向けてハンマーで打撃を加える。なお、固定場所(岩盤等)の状況により固定金具110の固定方法が適宜選択されてよい。例えば、粘土岩盤に対しては、打撃で固定した際に固定力不足が見込まれる場合には、水中用の接着剤を用いてもよい。これによって、差し込み部112及び差し込み部115を穴内に確実に挿入する。このように固定金具110を岩礁等に固定した後、固定金具110の湾曲部114に細ロープ101の先端部を結び付ける。なお、湾曲部114にあらかじめ細ロープ101の先端部を結び付けた後、固定金具110を岩礁等に固定してもよい。立て縄基質100は、例えば、
図1に示すように上部が海面に浮かんで漂うように配置される。
【0028】
立て縄基質100の具体的な構成は、対象となる海藻や設置環境に応じて現場で適宜調整されるとよい。調整の対象は、例えば、細ロープ101の長さや、フロート103及び太ロープ102を細ロープ101に取り付ける個数や固定位置である。
図1に示す立て縄基質100’及び100’’は、立て縄基質100とは別の構成例である。立て縄基質100’は、全体が海中に没した状態で配置される一例である。立て縄基質100’’は、2個のフロート及び2本の太ロープ102を細ロープ101に取り付ける一例である。立て縄基質100’’では、細ロープ101の先端から、フロート103、太ロープ102、フロート103及び太ロープ102の順に、これらが細ロープ101に取り付けられている。なお、細ロープ101及び太ロープ102の構成は、水深や波浪環境により変更されてよい。例えば、細ロープのみの構成であってもよい。これは、水深が浅い漁場において、細ロープ101単体の方が、波浪抵抗が軽減され、材料疲労が軽減されることによる。
【0029】
立て縄基質100の使用例は以下の通りである。本実施形態は、海藻として、コンブ類への適用が主に想定されるが、ホンダワラ類やカジメ類等の他の海藻に適用されてもよい。立て縄基質100への海藻の着生には天然採苗方式が用いられる。例えば、ホソメコンブ等のコンブにおける天然の母藻から流出する遊走子を立て縄基質100に着生させる。このため、立て縄基質100は、海藻の母藻からの遊走子の流出経路に設置される。例えば、立て縄基質100は、
図5に示すように沿岸に形成された母藻群の周囲に、母藻群の中心Cに関して同心楕円状(又は、同心円状)に配列される。具体的には、Cを中心とする楕円状の列E1及びE2のそれぞれに沿って複数個の立て縄基質100が配列される。列E1及びE2のそれぞれにおいては、
図5に示すように、沿岸の卓越流の影響を考慮し、卓越流の下流側が上流側と比べ、列に沿った長さ当たりの数が大きくなるように立て縄基質100を配置する。これは、卓越流に関して下流側に母藻群から流出する遊走子が集中するからである。また、母藻群からの距離が大きくなるほど、漁場の面積当たりの個数が小さくなるように立て縄基質100を配置してもよい。母藻群から各立て縄基質100までの距離は小さいほどよいが、数百m程度までであることが好ましい。このように、母藻群の中心より上流側と比べて下流側に多くの立て縄基質100が設置されることで、立て縄基質100に遊走子が効率的に着生する。各立て縄基質100においては、
図1に示すように、主に仮根が固着・発達しやすい太径部100bで海藻が大きく成長する。
【0030】
本実施形態に係る立て縄基質100によると、母藻からの胞子の流出経路に設置することで海藻を施設に着生させる。前述したように漁場で近隣に母藻群落が存在する環境では、設置前に立て縄基質100(及び、後述の底繋ぎ施設200)への採苗は不要である。したがって、海底の設置場所に施設を導入するまでの工程が簡易である。また、立て縄基質100の設置後、フロート103によって、基質本体(細ロープ101及び太ロープ102)が海中で、固定金具110から海面に向かって上下方向に延びるように配置される。したがって、海中を浮遊する胞子が基質本体に効果的に着生可能である。
【0031】
なお、初年度に母藻群落が存在しない漁場の場合は、母藻群落が存在する漁場で立て縄基質100に採苗した後に基質を移設して遊走子を供給するとよい。
【0032】
ところで、上記のように沿岸に近い領域に立て縄基質100を設置すると、波浪による施設への影響が強くなる。例えば、
図1の両矢印Wに示すように、立て縄基質100の上部が波浪の伝搬方向に応じて前後に揺れ動くことになり、立て縄基質100の全体もこれに応じて揺れ動く。特に、太径部100bより細い細径部100aは、波浪により揺れ動く傾向が強い。したがって、細径部100aは植食動物、特にウニが這い上がりにくく、上方の太径部100bに植食動物がたどり着きにくい。よって、太径部100bに着生した海藻への植食動物による食害が抑制されている。
【0033】
一方、波浪による影響が強過ぎると、立て縄基質100が波浪によって破損するおそれがある。例えば、フロート103は、波浪に従ってロープの長さの範囲で流される。そして、ロープが緊張するまでフロート103が流されると、フロート103は水中に没して波浪のピークをやり過ごす。このとき、ロープには海面付近からの引張力が繰り返し加わる。これによってロープの疲労により破断に至るおそれがある。これに対し、本実施形態においては、フロート103が紡錘形の形状を有しており、細ロープ101が紡錘形の先端部から延びるように立て縄基質100が構成されている。したがって、フロート103の長尺方向が波浪による流れと同一方向になびくようにフロート103が配置されやすい。フロート103の長尺方向が波浪の伝搬方向に沿うと、フロート103における波浪に対する抵抗が小さくなる。よって、立て縄基質100が波浪の影響を受けて破損・流出するおそれが抑制される。
【0034】
また、波浪によって立て縄基質100が引っ張られることにより、細ロープ101が結び付けられた湾曲部114の上部114aには、
図3に示すように、概ね上方の全方位方向への引張力Fが作用する。これに対し、固定金具110は、岩礁等に差し込まれた差し込み部112及び差し込み部115の両方によって支持されている。差し込み部112及び差し込み部115は、いずれも湾曲部114の上部114aから
図3の左右方向(差し込み方向と直交する方向)に離隔している。このため、
図3に示すような全方位に変動する引張力が湾曲部114にかかり、この引張力が本体部111に変形応力として作用する。これに対し、下方(差し込み方向)に向かう支持力が差し込み部115に発生し、この支持力が上記引張力に対する抵抗となり上記変形応力による変形と釣り合うため、固定部材110全体が変形したり破損したりすることなく、耐久性が維持される。仮に、差し込み部115が岩礁等から抜けたとしても、差し込み部115より深く岩礁等に差し込まれた差し込み部112が固定金具110を支持している。
【0035】
また、細ロープ101が細径部100a及び太径部100bの両方に跨るように細ロープ101と太ロープ102が組み合わされている。これに対し、仮に、太い紐と細い紐の端部同士を固縛して連結することで細径部100a及び太径部100bを構成したとする。この場合、細径部100aと太径部100bの境界の連結箇所において立て縄基質100の強度が応力集中や屈曲疲労により比較的弱くなるおそれがある。また、太さの異なる細径部100a及び太径部100b同士で、波浪によって揺れ動く周期の違いが発生するおそれもある。強い波浪によって立て縄基質100が引っ張られると、連結部が解けることで、立て縄基質100が破損するおそれもある。これに対し、本実施形態では、細ロープ101が細径部100a及び太径部100bの両方に跨っているので、細径部100aと太径部100bとの境界において強度が弱くなりにくい。したがって、立て縄基質100の破損が抑制される。
【0036】
次に、上述の海藻漁場の造成方法について説明する。底繋ぎ施設200は、
図6に示すように、陸と沖を結ぶ方向(以下、「陸沖方向」という。)に沿って張られたロープ201a〜201c(本発明における第2
紐状部材)を、陸沖方向と直交する方向に関して複数配列した施設である。ロープ201a〜201cは、いずれも合成繊維製であり、海藻の仮根が固着しやすい太さに調整されている。ロープ201a〜201cの3本のロープからなる列は、例えば、沿岸における一辺が数十m程度の領域に、陸沖方向と直交する方向に関して概ね等間隔で設けられている。立て縄基質100は、上述の天然採苗方式によって着生した海藻が胞子を放出できる程度まで十分成長したものを、採苗した場所から藻場礁1の設置領域に移設することで用いられる。立て縄基質100は、沿岸の卓越流に関して底繋ぎ施設200全体の上流側と、陸沖方向と直交する方向に関して底繋ぎ施設200の中間部又はその付近とに設置されている。かかる2か所において、複数個の立て縄基質100が陸沖方向に沿って概ね等間隔に配列されている。
【0037】
底繋ぎ施設200についてより詳細に説明する。ロープ201a〜201cは、
図6及び
図7に示すように、陸沖方向に延びるように、固定金具110及び210を用いて岩礁等に固定されている。ロープ201a〜201cは、
図7に示すように、海底の岩礁等の凹凸に概ね沿うように張られている。固定金具110は、立て縄基質100に用いられているものと同じである。固定金具110は、ロープ201a〜201cのそれぞれの両端を海底の岩礁等に固定するために用いられている。固定金具210(本発明における第2固定金具)は、
図6及び
図7に示すように陸沖方向に沿って一列に配列されている。固定金具210は、
図8に示すように、岩礁等に差し込まれる縦棒211と、縦棒211の上端部にこれと交差するように固定された横棒212(本発明における交差部)と、縦棒211の下端部よりやや上方に固定された平板213と、横棒212から平板213まで縦棒211に対して斜めに渡された4本の補強棒214と、平板213の一端に固定された縦棒216とを有している。これらの部材はいずれも金属製であり、溶接によって互いに固定されている。縦棒211は直線状に形成されており、その下端は先鋭に形成されている。縦棒211の上端面には円柱形の無垢材からなる円柱棒215が固定されている。円柱棒215は、縦棒211の上端面から、縦棒211の両側方に突出している。縦棒211の上端部211xにはロープ201bが結び付けられている。円柱棒215は、縦棒211に結び付けられたロープ201bを縦棒211から抜け落ちないように規制している。縦棒216は直線状に形成されており、その下端は先鋭に形成されている。縦棒211及び216において平板213より下方の部分は、岩礁等に差し込まれる差し込み部211a及び216a(本発明における第3差し込み部及び第4差し込み部)を形成している。このように、差し込み部211a及び216aの2本が岩礁等に差し込まれるので、差し込み方向に沿った軸周りに固定金具210が回転するのが抑制されている。縦棒211において、差し込み部211aより上方の部分(本発明における本体部)は、上下方向に関して差し込み部211aより長い。
【0038】
横棒212は、縦棒211の両側方に向かって縦棒211と直交する方向に突出するように直線状に形成されている。横棒212の左右端面のそれぞれには円柱棒215が固定されている。縦棒211と直交する方向に関する横棒212の両端部212xにはロープ201a及び201cが結び付けられている。円柱棒215は、横棒212の左右端面から上下に突出している。円柱棒215は、横棒212に結び付けられたロープ201a及び201cを横棒212から抜け落ちないように規制している。平板213は、縦棒211の両側方に向かって縦棒211と直交する方向に突出するように直線状に形成されている。平板213は、岩礁等の表面に接触している。4本の補強棒214のうちの2本は、横棒212の一端部よりやや中央部寄りの位置に上端が固定され、下端が平板213の両端部に固定されている。残りの2本は、横棒212の他端部よりやや中央部寄りの位置に上端が固定され、下端が平板213の両端部に固定されている。
【0039】
底繋ぎ施設200の設置方法は以下の通りである。一例として、沖側から陸側に向かってロープ201a〜201cを設置する場合について説明する。まず、固定金具110を沖側・陸側の双方に設置し、これらに作業船を固定したりこれらの間で移動させたりする。これにより陸沖方向のアウトラインが決定され、作業船の移動または固定は任意の場所に設定でき、移動・固定に伴う作業時間を短縮できる。次に、例えば沖側の最初の固定位置から所定の距離だけ陸側に近づいた2番目の固定位置までロープ201a〜201cを繰り出していく。そして、2番目の固定位置において固定金具210を用いてロープ201a〜201cを固定する。具体的には、固定金具210の差し込み部211a及び216aに応じた穴を岩礁等に形成しておく。そして、固定金具210の差し込み部211a及び216aを上方から穴に差し込んだ後、固定金具210の上端部にハンマーで上方から打撃を加える。これによって、平板213が岩礁等に接触するまで差し込み部211a及び216aを穴内に確実に挿入する。固定の強度を増強する際は水中用の接着剤(レジン型を含む)を使用する。また、固定金具210の向きは、横棒212が陸沖方向と交差する方向に沿うように調整する。次に、2番目の固定位置から所定の距離だけ陸側に近づいた3番目の固定位置までロープ201a〜201cを繰り出していく。そして、3番目の固定位置において、2番目の固定位置と同様、固定金具210を用いてロープ201a〜201cを固定する。これを繰り返すことで、固定金具210を用いて、陸沖方向に沿って、ロープ201a〜201cを張っていく。施設の設置予定領域において最も陸側の固定位置では、固定金具110を上述の通りに岩礁等に固定した後、湾曲部114の上部114aにロープ201a〜201cの一端部を結び付ける。各固定位置においては、隣の固定位置との間でロープ201a〜201cに緩みが生じないようにロープ201a〜201cが張られることが好ましい。
【0040】
藻場礁1を使用した海藻の育成による海藻漁場の造成方法は以下の通りである。立て縄基質100に着生した母藻から胞子が放出されると、その胞子は沿岸流によって主に下流側の底繋ぎ施設200へと流出し、底繋ぎ施設200のロープ201a〜201cに着生する。ロープ201a〜201cにおいて海藻が成長すると、海藻は海底の岩礁等の表面に向かって徐々に伸びていく。このように、陸沖方向に沿って配列された固定金具210の1列ごとに3本のロープが設けられ、これら3本のロープにおいて海藻が成長する。したがって、仮に一列に配置された固定金具210にロープが一本だけ固定される場合と比べ、多くの海藻を育成することが可能である。
【0041】
ロープ201a〜201cは、固定金具210の上部(縦棒211の上端部211x及び横棒212の両端部212x)に結び付けられているため、海底の岩礁等の表面より上方に離隔している。このため、海藻の成長開始後しばらくは、海藻は岩礁等の表面に到達しない。よって、岩礁等に生息している植食動物の食害にさらされにくい。よって、成長の初期段階において食害による海藻の成長が阻害されにくい。一方、成長が進み、
図7に示すように岩礁等の表面に海藻が到達すると、植食動物による摂餌の対象となる。しかしながら、時化の時期等、波浪の高い条件下では、ロープ201a〜201cに着生して垂下した海藻の揺れ動きにより、海藻が植食動物を叩く「叩き効果」が激しくなる。かかる場合、植食動物は海藻に叩かれない場所まで退避するので、一時的に海藻が摂餌されなくなり、この状態が数日間続くと海藻は再び成長(特にコンブは5〜8センチ/日)して餌供給量は増加する。
【0042】
また、岩礁のように表面に凹凸があるところに底繋ぎ施設200が設置される場合、ロープ201a〜201cから岩礁上面までの距離がまちまちとなる。したがって、ロープ201a〜201cにおいて成長した海藻は、着生した箇所によって、岩礁の表面に垂れ下がったり、岩礁の表面まで到達しなかったりする場合が生じる。よって、ロープ201a〜201cに着生した海藻の全てが植食動物の食害にさらされる事態を回避しつつ、一部の海藻を植食動物の摂餌に供することが可能となる。以上のように、底繋ぎ施設200を使用した海藻の育成方法によると、植食動物による食害抑制と植食動物への餌料提供のバランスを取りやすい。これにより、本藻場礁1を用いた海藻漁場の造成方法は、海藻の育成を促進しつつ、育成した海藻を植食動物の餌料として利用しやすいものとなっている。
【0043】
なお、ロープ201a〜201cは、いずれも陸沖方向に沿うように設置されている。陸沖方向は、海岸線に対し概ね波浪の進入方向であるため、例えば、これらのロープが陸沖方向と直交する海岸線方向に設置される場合と比べ、波浪の影響を受けにくいと共に、施設自体の対候性・耐久性が実用の範囲で向上する。
【0044】
以上説明した本実施形態に係る海藻漁場の造成方法によると、まずは、天然の母藻からの胞子を立て縄基質100に着生させる。立て縄基質100の設置は、フロート103が固定された基質本体(細ロープ101及び太ロープ102)を固定金具110によって海底の岩礁等に固定するという簡易な方法で実施できる。また、天然の母藻からの胞子が海中を流れる経路中に基質本体を配置させる。このため、天然の母藻からの胞子を着生させることができる適切な位置に立て縄基質100を設置しやすい。また、立て縄基質100は、基質本体が固定金具110から海面に向かって延びるように配置される。このように配置された第1紐状部材は、波浪の影響で揺れ動くため、基質本体に着生した海藻が海底に生息する植食動物による食害を受けにくい。したがって、立て縄基質100において胞子を放出できる段階まで海藻を確実に保護して成長させやすい。
【0045】
次に、立て縄基質100に着生した海藻を母藻として、かかる母藻からの胞子をさらに底繋ぎ施設200に着生させる。立て縄基質100は、天然の母藻から採苗した位置のまま利用されてもよいし、そこから離隔した場所(新規漁場等)に移動してもよい。上記の通り、立て縄基質100は、固定金具110によって基質本体の一端部が固定される簡易な構成を有している。このため、海藻が着生した基質本体を別の場所に移動して利用しやすい。底繋ぎ施設200は、固定金具210によってロープ201a〜201cが鉛直方向と交差する方向に延びるように岩礁等に設置される簡易な構成を有している。このため、ロープ201a〜201cを延伸するという簡易な方法で施設の規模を拡張しやすい。また、上記の通り、ロープ201a〜201cは固定金具210の上部に結び付けられ、もって、岩礁等の上方に配置される。このため、ロープ201a〜201cにおいて海藻が成長・伸長するまでの期間、海藻は天然物又は人工設置物に到達しない。また、ロープ201a〜201cが水中を陸沖方向に延びているので、波浪に由来する基質周辺の水の流動が植食動物による摂餌行動を常時抑制すると共に、ロープ201a〜201c上で生育する海藻類を動揺させる。かかる動揺により、海藻が植食動物を叩き、その摂餌行動を抑制する。したがって、海底に生息するウニ等の植食動物が基質に這い上がって海藻を摂食することによる食害が大きく抑制される。そして、海藻が成長すると、その一部が海底の岩礁等に到達し、餌料量が増えた状態で植食動物の摂餌の対象となる。
【0046】
以上の通り、本実施形態においては、天然の母藻が放出する胞子を適切に立て縄基質100に着生させつつ、着生した海藻が植食動物から食害を受けるのを回避できる。これにより、限られた天然の母藻から供給される胞子を保護・育成して、胞子を放出する段階まで確実に海藻を育成できる。また、立て縄基質100において育成された母藻からの胞子を底繋ぎ施設200に着生させる。立て縄基質100は、漁場を造成・拡大したい場所に移動することもできる。底繋ぎ施設200においては、海藻が十分に成長するまで植食動物による食害を抑制できる。さらに、底繋ぎ施設200はロープ201a〜201cを延伸することで新規の着生基質を提供できるため、簡易に規模を拡張できる。これらにより、本実施形態においては、植食動物が生息する漁場においてその食害を適切に抑制しつつ、長期間に亘って持続的に海藻を保護・育成しながら、十分な規模の海藻が生産される漁場を造成でき、さらに、当該漁場を植食動物への給餌場として利用することができる。また、従来技術のような大規模な施設が不要となりやすく、維持・管理が容易になる。
【0047】
以下、本発明者が本発明の創作に至った経緯について説明する。なお、以下の説明は本発明の技術的範囲を限定する目的のものではない。第1に、漁場に関しては以下の通りである。漁場は岩礁・岩盤の底質で海藻類が生育する場所であるが、時期によりウニ等の植食動物が高密度に生息するため、多くの海藻類は成長の初期段階で食害され藻場が形成されず、磯焼け現象が持続している。この打開策として人為的に植食動物の摂食圧を下げる駆除・除去が潜水やカゴ漁具、船上漁獲等で行われている。しかし摂食圧を下げる目安として、1平方メートル当たり200g以下のウニ重量(ウニ個数換算では1平方メートル3〜4個体以下)が求められ、この基準を達成するには多大な人手と費用とが掛かるため、廉価で効率的なウニ除去の方法が求められてきた。本発明ではウニ等植食動物類が高密度に生息する漁場において、これら動物類の除去を必要とせず摂食圧を下げながら漁場の中層で海藻類を一定期間育成して大型に成長(餌料海藻の最大化)させ、海藻類漁場を形成した後に植食動物に海藻類を給餌する方法として底つなぎ施設が実現した。
【0048】
第2に、採苗に関しては以下の通りである。天然母藻の群落が存在(無い場合は移設) →母藻群落に子嚢斑形成・遊走子の放出 →近い距離で放出された胞子は高密度な状態で運搬・分散される →この近距離で高密度の場所に着生基質を設置 →近距離では短時間で遊走子が着生でき健苗(活力のある種苗)の採苗が可能 →近距離の採苗は漁場における確実な天然採苗の方法となり、これを立て縄基質で実現した →着生種苗は健苗で初期生残・成長は良好 →淘汰されたのち大型化しやすく基質に長期間残存 →基質上で母藻群落形成 →移設可能な母藻群となる。
【0049】
第3に、施設に関しては以下の通りである。浅海域の厳しい環境で越冬できる施設 →施設は固定・浮体・着生基質のバランスを試験から決定 →立て縄は漁場の母藻から天然採苗、移設、着生海藻を母藻まで保護・育成する。→底つなぎ施設は2点固定の施設で越冬できる →沿岸波の特性を最大利用 → 固定金具の開発 →沖陸張り込みと流速の遅い海底付近の利用で最小の波浪抵抗 →横張り施設の常識であったフロートを除去 →短い展張距離3〜5mと細いロープ(波浪抵抗がかかる断面積の最小化)の緊張張り込み→ 上下左右の動きを抑制でき材料疲労を軽減でき→ 施設が越冬して保全状態を維持(コンブを得る最低条件。これが最大の課題で沿岸施設は成功例が少なかった)→基質上で育成、伸長した海藻は植食動物の餌として(人手を介さず)利用され、海藻の保護・育成と成長した海藻が給餌される漁場として機能する。
【0050】
<変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0051】
例えば、上述の実施形態においては、藻場礁1を岩礁等の天然物上に設置することが想定されている。しかしながら、過去に海底に構築された藻場礁、魚礁、海洋構造物、投石漁場等の人工設置物に立て縄基質100や底繋ぎ施設200を設置してもよい。また、岩礁以外の天然物として砂地に立て縄基質100や底繋ぎ施設200を設置してもよい。
【0052】
また、上述の実施形態における固定金具210の代わりに、
図9に示す固定金具310が用いられてもよい。固定金具310はロープ201aを1本だけ固定するために使用される。固定金具310は、ロープ201aが張られる方向に関して互いに離隔した縦棒311及び312並びに、縦棒311と縦棒312の間を繋ぐ横棒313及び314を有している。これらの部材は互いに溶接されることで固定されている。横棒313と横棒314は、上下方向に関して離隔している。ロープ201aは、縦棒311及び312において横棒313の直下の部分に結び付けられる。なお、ロープ201aは、縦棒311及び312において横棒313と横棒314の間の部分であれば、横棒314の直下以外の部分に結び付けられてもよい。縦棒311及び312において横棒より下方の部分は、岩礁等に差し込まれる差し込み部311a及び312a(本発明における第3差し込み部及び第4差し込み部)を形成している。このように、差し込み部311a及び312aの2本が岩礁等に差し込まれるので、差し込み方向に沿った軸周りに固定金具310が回転するのが抑制されている。
【0053】
なお、上述の実施形態においては、藻場礁1として、立て縄基質100及び底繋ぎ施設200の両方を利用している。しかし、本発明とは異なる観点として、立て縄基質100が単独で使用されてもよい。この場合、(1)天然採苗の施設、(2)天然採苗後の保護・育成施設、又は(3)他の漁場への移設によるタネ場(核藻場)の創設としての利用があり得る。また、成長した海藻に対してさらに立て縄基質100を増設していき、海藻の生息域を広範囲に拡張していくことも可能である。
【解決手段】海底の岩礁等の上面に設置される立て縄基質100及び底繋ぎ施設200を備えている。立て縄基質100は、フロートによってロープが海底から海面に向かって延びるように設置されている。立て縄基質100は、天然の母藻からの胞子が海中を流れる経路中に、当該胞子が着生するように配置される。立て縄基質100と底繋ぎ施設200は互いに近くに設置される。底繋ぎ施設200は、海底の岩礁等の上面から上方において陸沖方向に延びるように配置されたロープ201a〜201cを有している。ロープ201a〜201cは、立て縄基質100に着生した母藻からの胞子が海中を流れる経路中に、当該胞子が着生するように配置される。ロープ201a〜201cに着生した海藻が成長すると、海底の岩礁等に到達する。