特許第6835405号(P6835405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6835405-洗浄方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835405
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 15/00 20060101AFI20210215BHJP
   C08B 15/06 20060101ALI20210215BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20210215BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20210215BHJP
   B01F 3/12 20060101ALI20210215BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   B01F15/00 D
   C08B15/06
   A61Q5/02
   A61Q5/12
   A61K8/73
   B01F3/12
   B08B3/02 F
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-218162(P2016-218162)
(22)【出願日】2016年11月8日
(65)【公開番号】特開2018-75514(P2018-75514A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100171022
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 玉乃
(72)【発明者】
【氏名】大崎 和友
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勝史
(72)【発明者】
【氏名】高戸 健次
(72)【発明者】
【氏名】上廣 勝丈
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−144996(JP,A)
【文献】 特開2002−066472(JP,A)
【文献】 特開2000−024479(JP,A)
【文献】 特開平10−304976(JP,A)
【文献】 特開平02−095427(JP,A)
【文献】 特開2015−052104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 15/00
B01F 3/12
B08B 3/02 − 3/04
C08B 1/00 − 37/18
A61Q 5/02
A61Q 5/12
A61K 8/73
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース誘導体の製造に用いた機械撹拌式混合機の洗浄方法であって、該洗浄方法は
工程(A):塩基性触媒の存在下、セルロース含有原料と反応剤とを機械撹拌式混合機内で反応させてセルロース誘導体を得る工程、及び、
工程(B):工程(A)で得られたセルロース誘導体を前記混合機から排出する工程、
を有する方法でセルロース誘導体を製造し、次いで下記工程(I)〜工程(III)を行う、機械撹拌式混合機の洗浄方法
工程(I):前記混合機内の圧力を80kPa以下に減圧する工程
工程(II):工程(I)の後に前記混合機内に洗浄液を導入し、80kPa以下の減圧下で撹拌する工程
工程(III):工程(II)の後に前記混合機内の圧力を大気圧とし、次いで、前記洗浄液を排出する工程
【請求項2】
前記洗浄液が水である、請求項に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記工程(II)の攪拌時の温度が40℃以上である、請求項又はに記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記混合機が液添加ノズルを備え、前記工程(A)において、前記塩基性触媒又はその溶液を、該液添加ノズルを用いて該混合機内に投入する、請求項のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記工程(III)の後に前記混合機内を減圧乾燥する、請求項のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記混合機が液添加ノズルを備え、前記工程(III)の後に該液添加ノズルに気体を流通させながら該混合機内を減圧乾燥する、請求項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記塩基性触媒がアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれる1種以上である、請求項のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記セルロース誘導体がカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記工程(A)で得られるセルロース誘導体が粉末、フレーク、ペースト、粒状、又は塊状である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機械攪拌式混合機の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキルセルロースやそのカチオン化物などのセルロース誘導体は、シャンプーやリンス、トリートメント、コンディショナー等の配合成分や分散剤、改質剤、凝集剤等に用いられ、その用途は多岐にわたる。
セルロース誘導体は、例えば、粉末状の原料セルロースと、セルロース中の水酸基と反応し得る反応性官能基を有する反応剤とを、混合機内で攪拌しながら反応させることにより製造でき、上記反応を固相状態で行うことにより粉末状のセルロース誘導体が得られる。該セルロース誘導体は混合機から排出され、次いで混合機内は洗浄されるが、洗浄後にセルロース誘導体の一部が混合機内に付着し残存する場合がある。製造物が混合機内に付着したままであるとコンタミネーションが引き起こされるため、各種製造物の製造に用いる混合機の洗浄方法が検討されている。
【0003】
特許文献1には、カチオン化ヒドロキシセルロースの排出後に、残留したカチオン化ヒドロキシセルロースを親水性有機溶剤水溶液により洗浄し排出させる方法が開示されている。
特許文献2には、回転するローターと該ローターに組み合わされたステーターとを有する混合部を有する混合装置の洗浄方法として、前記混合部を水に浸透させつつ、100kPa以下の環境下で前記ローターを回転させ、次いで排水する減圧洗浄工程を有する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−3502号公報
【特許文献2】特開2015−144996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、セルロース誘導体などの製造に用いた機械攪拌式混合機を効果的に洗浄しうる方法、及び該方法を含むセルロース誘導体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記に関する。
[1]下記工程(I)〜工程(III)を有する機械撹拌式混合機の洗浄方法。
工程(I):機械撹拌式混合機内の圧力を80kPa以下に減圧する工程
工程(II):工程(I)の後に前記混合機内に洗浄液を導入し、80kPa以下の減圧下で撹拌する工程
工程(III):工程(II)の後に前記混合機内の圧力を大気圧とし、次いで、前記洗浄液を排出する工程
[2]セルロース誘導体の製造方法であって、該製造方法は
工程(A):塩基性触媒の存在下、セルロース含有原料と反応剤とを機械撹拌式混合機内で反応させてセルロース誘導体を得る工程、及び、
工程(B):工程(A)で得られたセルロース誘導体を前記混合機から排出する工程、
を有し、次いで前記工程(I)〜工程(III)を行う、セルロース誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セルロース誘導体などの製造に用いた機械攪拌式混合機を簡便な操作により効果的に洗浄することができるので、大スケールでの製造においても混合機の洗浄不良によるコンタミネーションを生じることなく製造物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】機械攪拌式混合機の一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
セルロース誘導体などの製造に用いた機械撹拌式混合機には、生成物が固着残留して除去困難となる場合がある。特に、固相状態で反応が行われた場合に機械撹拌式混合機内に固着した除去困難な残留物(以下、混合機内に固着した残留物を「付着物」ともいう)に対して、本発明の洗浄方法及び製造方法は有効である。
固相状態での反応とは、液相が実質的に存在しない状態での反応をいい、溶液中又は懸濁液中での反応とは異なるものである。
[洗浄方法]
本発明の機械撹拌式混合機の洗浄方法(以下「本発明の洗浄方法」ともいう)は、下記工程(I)〜工程(III)を有する。
工程(I):機械撹拌式混合機内の圧力を80kPa以下に減圧する工程
工程(II):工程(I)の後に前記混合機内に洗浄液を導入し、80kPa以下の減圧下で撹拌する工程
工程(III):工程(II)の後に前記混合機内の圧力を大気圧とし、次いで、前記洗浄液を排出する工程
なお本明細書において特に言及しない限り、各工程で規定する圧力は絶対圧である。
【0010】
上記工程を有する本発明の洗浄方法は、機械攪拌式混合機(以下、単に「混合機」ともいう)内の洗浄効果に優れる。その理由については以下のように考えられる。
本発明においては、工程(I)で混合機内を減圧にしてから工程(II)で洗浄液を導入する。混合機内を減圧した後に洗浄液を導入すると混合機内に洗浄液が勢いよく供給され、これにより混合機内の付着物をかき取る効果が得られる。また、洗浄液を導入した後に混合機内を減圧にした場合には減圧ラインに洗浄液が揮散、付着して減圧ラインが汚染されることがあるが、本発明の方法ではこの不具合を回避できる。
さらに、工程(I)から工程(II)にかけて混合機内を80kPa以下の減圧にしておくことで、付着物中への洗浄液の浸透が促進され、並びに洗浄液の泡立ちも抑制されるので、付着物のかき取り効果がより向上すると考えられる。
【0011】
<機械攪拌式混合機>
本発明に用いる機械攪拌式混合機は、少なくとも、反応槽内に攪拌翼を備えたものである。本発明において「混合機内」とは、特に言及しない限り、混合機が有する反応槽内を意味する。当該混合機は、減圧下での反応及び洗浄を可能にする観点からは、密閉性が高く、減圧操作の可能なものが好ましい。また、製造物の製造において反応速度を上げる観点から、加圧操作の可能なものが好ましい。
当該機械攪拌式混合機としては、高速撹拌型混合機、双腕型混合機が挙げられ、製造物の製造時の反応均一性を高める観点、並びに洗浄性の観点から、高速撹拌型混合機が好ましい。高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機と水平軸回転型混合機が挙げられ、製造物が後述するセルロース誘導体である場合、製品化を効率的に行う観点から、水平軸回転型混合機がより好ましい。
【0012】
垂直軸回転型混合機としては、ハイスピードミキサー(株式会社アーステクニカ製)、バーチカルグラニュレーター(株式会社パウレック製)が挙げられ、なかでもハイスピードミキサーが好ましい。その他、ハイフレックスグラル(株式会社アーステクニカ製)、ニュースピードニーダー(岡田精工株式会社製)、SPG混合機(株式会社ダルトン製)も用いることができる。
水平軸回転型混合機としては、レーディゲミキサー(中央機工株式会社製、レーディゲ社製)、プロシェアミキサー(大平洋機工株式会社製)が挙げられ、なかでもレーディゲミキサーが好ましい。その他、スパルタンリューザー(株式会社ダルトン製)、アペックス・グラニュレーター(大平洋機工株式会社製)も用いることができる。
【0013】
機械撹拌式混合機において用いられる攪拌翼は、ブレード型、アーム型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ベッカーショベル、すき状ショベル、のこ歯状ショベル等のショベル型、二軸羽根型、3翼、フラット羽根、C型羽根などが挙げられる。製造物の製造時の反応均一性を高める観点、並びに洗浄性の観点から、ベッカーショベル、すき状ショベル、のこ歯状ショベル等のショベル型、3翼、フラット羽根、C型羽根が好ましい。
【0014】
機械攪拌式混合機は、主翼である攪拌翼の他に、副翼であるチョッパー翼を有するものでもよい。チョッパー翼を有する混合機としては、プロシェアミキサー、レーディゲミキサー等の水平軸回転型混合機、ハイスピードミキサー、バーチカルグラニュレーター等の垂直軸回転型混合機が挙げられる。これらの中でも、製造物の製造時の反応均一性を高める観点から、水平軸回転型混合機が好ましく、より好ましくはレーディゲミキサーである。
【0015】
(液添加ノズル)
機械攪拌式混合機は、混合機内に触媒や反応剤等を投入するための液添加ノズルを備えていてもよい。液添加ノズルは、液体の触媒や反応剤等を流下、滴下、噴霧等により混合機内に投入できる機構を有するノズルである。
液添加ノズルは特に限定されないが、例えば、一流体ノズル、二流体ノズル等の噴霧ノズルが好ましく、混合機内に導入される気体量が比較的少なく反応槽内の圧力上昇が起こりにくいなどの点では一流体ノズルがより好ましい。
噴霧ノズルによるスプレーパターンは、特に限定されないが、例えば、充円錐、空円錐、充角錐、扇形が挙げられる。
噴霧ノズルとしては、例えば、一流体ノズルとしては、市販品として、株式会社いけうち社製の扇形ノズル、空円錐ノズル、充円錐ノズルを好適に用いることができる。
【0016】
本発明の洗浄方法は洗浄性が高いため、機械攪拌式混合機が液添加ノズルを備える場合も液添加ノズルの閉塞が起こり難い。この効果について以下に説明する。
本発明の洗浄方法では、工程(I)〜工程(III)を複数回行って混合機内を洗浄した後、さらに後述する減圧乾燥を行ってもよいが、減圧乾燥直前の洗浄液中に混合機内の付着物が多量に溶解していると、該付着物が液添加ノズルにも付着して減圧乾燥時に乾燥固化し、液添加ノズルを閉塞することがある。しかしながら本発明の洗浄方法は減圧乾燥直前の洗浄液中に溶解した付着物の量が少ないので、液添加ノズルにも付着物が付着し難いためである。
液添加ノズルの閉塞をより効果的に抑制する観点からは、工程(III)の後に液添加ノズルに気体を流通させながら混合機内を減圧乾燥することが好ましい。減圧乾燥については後述する。
【0017】
図1は機械攪拌式混合機の一実施形態を示す断面模式図である。機械撹拌式混合機10は反応槽11内に主翼である攪拌翼12を有し、さらに液添加ノズル20を備える。混合機10は液添加ノズル20を複数備えていてもよい。液添加ノズル20は通常、混合機10の上部に設置される。
混合機10は、主翼である攪拌翼12の他に、副翼であるチョッパー翼(非図示)を有してもよい。チョッパー翼は例えば攪拌翼の回転軸12aの外周に回転可能な状態で設けられ、反応槽11内に収容される。
なお、図1に示す機械攪拌式混合機10は攪拌翼の回転軸12aが略水平方向である水平軸回転型混合機であるが、本発明に用いる機械攪拌式混合機はこの態様に限定されない。
【0018】
洗浄前の機械撹拌式混合機内は、壁面や撹拌軸にセルロース誘導体などが固着した状態となっている。本発明の洗浄方法により、この固着したセルロース誘導体などが効果的に洗浄される。
<工程(I)>
工程(I)は、機械撹拌式混合機内の圧力を80kPa以下に減圧する工程である。工程(II)の洗浄液導入前に混合機内の圧力を80kPa以下にすることで、混合機内の付着物への洗浄液の浸透効果、及び該付着物のかき取り効果が向上し、洗浄性が向上する。
優れた洗浄効果を得る観点から、上記圧力は好ましくは60kPa以下、より好ましくは50kPa以下、さらに好ましくは45kPa以下である。また、減圧効率の観点から、上記圧力は好ましくは0.01kPa以上、より好ましくは0.1kPa以上、さらに好ましくは1kPa以上、よりさらに好ましくは5kPa以上である。
混合機内を減圧にする方法は特に制限はなく、例えば、真空ポンプを用いる方法が挙げられる。真空ポンプは、バグフィルター等を介して混合機と接続することが好ましい。
【0019】
<工程(II)>
工程(II)は、前記工程(I)の後に混合機内に洗浄液を導入し、80kPa以下の減圧下で撹拌する工程である。前記工程(I)で混合機内の圧力を80kPa以下の減圧にし、その後に洗浄液を導入して該減圧下で攪拌することで、常圧で洗浄液を導入した後に減圧した場合と比べると、減圧ラインに洗浄液が揮散、付着して減圧ラインが汚染されるのを回避できる。また、混合機内の付着物中への洗浄液の浸透が促進され、洗浄液の泡立ちも抑制されるので、付着物のかき取り効果が向上する。
優れた洗浄効果を得る観点から、上記圧力は好ましくは60kPa以下、より好ましくは50kPa以下、さらに好ましくは45kPa以下、よりさらに好ましくは30kPa以下、よりさらに好ましくは20kPa以下である。また、減圧効率の観点から、上記圧力は好ましくは0.01kPa以上、より好ましくは0.1kPa以上、さらに好ましくは1kPa以上、よりさらに好ましくは5kPa以上である。
【0020】
(洗浄液)
工程(II)で用いる洗浄液は、洗浄対象である付着物を溶解できるものである限り特に限定されず、水、有機溶剤、界面活性剤又はこれらの混合物が挙げられる。洗浄対象が後述するセルロース誘導体である場合は、水、有機溶剤、又はこれらの混合物が好ましく、水、極性溶剤、又はこれらの混合物がより好ましく、洗浄性及びコストの観点からは水がさらに好ましい。
好ましい極性溶剤としては、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1以上5以下のアルコール;1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶剤等が挙げられる。
【0021】
洗浄液の導入量は、優れた洗浄効果を得る観点から、混合機の単位容量(m)あたりの仕込み量として、好ましくは0.1m以上、より好ましくは0.2m以上、さらに好ましくは0.4m以上であり、攪拌効率の観点から、好ましくは0.8m以下、より好ましくは0.7m以下、さらに好ましくは0.6m以下である。
【0022】
(攪拌)
工程(II)における攪拌の周速は、洗浄性を向上させる観点から、好ましくは0.2m/秒以上、より好ましくは0.5m/秒以上、さらに好ましくは1.0m/秒以上、よりさらに好ましくは2.0m/秒以上、よりさらに好ましくは3.0m/秒以上であり、また、エネルギー効率及び洗浄液の泡立ち防止の観点から、好ましくは20m/秒以下、より好ましくは15m/秒以下、さらに好ましくは12m/秒以下、よりさらに好ましくは10m/秒以下、よりさらに好ましくは8.0m/秒以下である。
上記攪拌の周速は、混合機の主翼の周速(翼先端の移動速度=主翼径×円周率×回転数)を意味する。
【0023】
工程(II)の攪拌時の温度は特に限定されず、洗浄液の沸点や付着物の溶解性に応じて適宜選択することができる。例えば洗浄液が水であり、付着物がセルロース誘導体である場合には、洗浄性の観点から、攪拌時の温度は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上、よりさらに好ましくは65℃以上である。また、エネルギー効率の観点から、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは85℃以下である。
【0024】
工程(II)における攪拌は、洗浄性を向上させる観点から、正転方向に攪拌した後、さらに逆転方向に攪拌することが好ましい。正転及び逆転方向に攪拌する際の攪拌の周速及び攪拌温度は同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0025】
工程(II)の攪拌時間は特に制限されないが、洗浄性の観点から、総攪拌時間として好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上、よりさらに好ましくは3時間以上である。また、洗浄効率の観点から、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、さらに好ましくは6時間以下である。
正転方向及び逆転方向に攪拌する場合、正転方向の攪拌時間は逆転方向の攪拌時間よりも長いことが好ましく、その比率としては、好ましくは20/1〜2/1、より好ましくは15/1〜3/1、さらに好ましくは10/1〜4/1である。
【0026】
<工程(III)>
工程(III)は、前記工程(II)の後に混合機内の圧力を大気圧とし、次いで、洗浄液を排出する工程である。工程(III)では、例えば、工程(II)で80kPa以下の減圧になっている混合機内に窒素などの不活性ガス、又は空気等を導入して、混合機内の圧力を大気圧に戻す。製造物の安定性の観点から、混合機内に窒素などの不活性ガスを導入して、混合機内の圧力を大気圧に戻すことが好ましい。次いで、洗浄液を混合機から排出する。
【0027】
本発明の洗浄方法では、より優れた洗浄効果を得る観点から、工程(I)〜工程(III)の一連の工程を複数回繰り返して行うことが好ましい。繰り返し回数は好ましくは2回以上であり、洗浄効率の観点からは、好ましくは4回以下、より好ましくは3回以下である。
工程(I)〜工程(III)の一連の工程を2回以上行う場合、2回目以降の工程(I)〜工程(III)における好ましい態様は下記である。
洗浄2回目以降の工程(I)における混合機内の圧力は、洗浄1回目の時の圧力よりも高いことが好ましい。洗浄1回目終了後に混合機内に残存した洗浄液が減圧ラインに揮散するのを防止できるためである。この観点から、洗浄2回目以降の工程(I)における混合機内の圧力は、好ましくは60kPa以下、より好ましくは50kPa以下、さらに好ましくは45kPa以下である。また、減圧効率の観点から、上記圧力は好ましくは10kPa以上、より好ましくは20kPa以上である。
洗浄2回目以降の工程(II)における攪拌時間は、洗浄効率の観点から、洗浄1回目の時の攪拌時間よりも短いことが好ましい。洗浄性の観点から、総攪拌時間として好ましくは0.2時間以上、より好ましくは0.5時間以上、さらに好ましくは1時間以上、よりさらに好ましくは1.5時間以上である。また、洗浄効率の観点から、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下、さらに好ましくは4時間以下である。
また、洗浄2回目以降の工程(II)における攪拌の周速は、洗浄1回目の時の周速よりも遅いことが好ましく、好ましくは0.05m/秒以上、より好ましくは0.1m/秒以上、さらに好ましくは0.5m/秒以上、よりさらに好ましくは1.0m/秒以上、よりさらに好ましくは2.0m/秒以上であり、また、エネルギー効率及び洗浄液の泡立ち防止の観点から、好ましくは15m/秒以下、より好ましくは12m/秒以下、さらに好ましくは10m/秒以下、よりさらに好ましくは8.0m/秒以下、よりさらに好ましくは7.5m/秒以下である。
上記以外は、洗浄2回目以降の工程(I)〜工程(III)における好ましい態様は、洗浄1回目の時と同じである。
【0028】
<減圧乾燥>
本発明の洗浄方法は、前記工程(III)の後に混合機内を減圧乾燥することが好ましい(以下「減圧乾燥工程」ともいう)。工程(I)〜工程(III)の一連の工程を2回以上行う場合、減圧乾燥工程は、最後に行った工程(III)の終了後に行う。
減圧乾燥時の混合機内の温度は特に制限されないが、工程(II)の攪拌時の温度と同様の温度で行うことができる。例えば洗浄液が水である場合には、減圧乾燥時の温度は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上、よりさらに好ましくは65℃以上である。また、エネルギー効率の観点から、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは85℃以下である。
減圧乾燥時の混合機内の圧力は、乾燥速度の観点から低い方が好ましく、好ましくは10kPa以下、より好ましくは8kPa以下、さらに好ましくは5kPa以下である。また、減圧効率の観点から、上記圧力は好ましくは0.1kPa以上、より好ましくは0.2kPa以上、さらに好ましくは0.5kPa以上である。
減圧乾燥時間は特に制限されないが、好ましくは0.2時間以上、より好ましくは0.5時間以上であり、好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下である。
【0029】
本発明に用いる機械攪拌式混合機が液添加ノズルを備えるものである場合、前記工程(III)の後に液添加ノズルに気体を流通させながら混合機内を減圧乾燥することが好ましい。前記洗浄液中に溶解した付着物が液添加ノズルにも付着し、これが減圧乾燥時に乾燥固化して液添加ノズルを閉塞することがある。しかしながら液添加ノズルに気体を流通させながら混合機内を減圧乾燥することで液添加ノズルの閉塞を効果的に防止できるためである。
流通させる気体は窒素、アルゴン等の不活性ガスが好ましく、窒素がより好ましい。流通させる気体の流量は特に制限されないが、液添加ノズルの閉塞防止効果の観点から、好ましくは0.1Nm/h以上、より好ましくは0.2Nm/h以上、さらに好ましくは0.5Nm/h以上であり、コストの観点から、好ましくは15Nm/h以下、より好ましくは12Nm/h以下、さらに好ましくは10Nm/h以下である。
【0030】
本発明の洗浄方法は、各種製造物の製造に用いた混合機の洗浄に用いることができるが、特にセルロース誘導体の製造に用いた混合機の洗浄に好適である。混合機内の壁面や撹拌軸に固着しやすいため本発明の優れた洗浄効果を有効に発揮できるという観点からは、セルロース誘導体としてはヒドロキシアルキルセルロース又はその誘導体が好ましく、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースがより好ましく、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースがさらに好ましい。
【0031】
[セルロース誘導体の製造方法]
本発明のセルロース誘導体の製造方法(以下「本発明の製造方法」ともいう)は、下記工程(A)及び工程(B)を有し、次いで、前記工程(I)〜工程(III)を行う方法である。
工程(A):塩基性触媒の存在下、セルロース含有原料と反応剤とを機械撹拌式混合機内で反応させてセルロース誘導体を得る工程
工程(B):工程(A)で得られたセルロース誘導体を前記混合機から排出する工程
【0032】
<セルロース誘導体>
本発明の製造方法で得られるセルロース誘導体としては、前記工程(I)〜工程(III)による優れた洗浄効果を発揮できるという観点から、ヒドロキシアルキルセルロース又はその誘導体が好ましく、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースがより好ましく、カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースがさらに好ましい。また、セルロース誘導体の形状は特に限定しないが、例えば粉末、フレーク、ペースト、粒状、塊状であり、粉末が好ましい。粉末状のセルロース誘導体は製造過程で機械撹拌式混合機内に固着しやすいが、前記工程(I)〜工程(III)による洗浄効果を発揮しやすく効果的に洗浄することが可能である。
以下、セルロース誘導体として粉末状のカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを製造する方法を一例として説明するが、本発明の製造方法はこの態様に限定されない。
【0033】
<工程(A)>
工程(A)は、塩基性触媒の存在下、セルロース含有原料と反応剤とを機械撹拌式混合機内で反応させてセルロース誘導体を得る工程である。
工程(A)では、本発明の洗浄方法において記載した機械撹拌式混合機を用いる。該混合機は液添加ノズルを備えたものであることが好ましい。
【0034】
(セルロース含有原料)
工程(A)で用いるセルロース含有原料としては、化学的に純粋なセルロースの他、各種木材チップ、各種樹木の剪定枝材、間伐材、枝木材、建築廃材、工場廃材等の木材類;木材から製造される木材パルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等のパルプ類;新聞紙、段ボール、雑誌、上質紙等の紙類;稲わら、とうもろこし茎等の植物茎・葉類;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻等の植物殻類等、種々のセルロース含有原料を用いることができる。これらの中でも、パルプ類が好ましい。
【0035】
反応剤との反応性の観点から、工程(A)で用いるセルロース含有原料は粉末状であることが好ましい(以下、粉末状のセルロース含有原料を「粉末状セルロース」ともいう)。
粉末状セルロースを得る方法としては、例えばセルロース含有原料を必要に応じて裁断処理及び乾燥処理した後、粉砕機により粉砕処理する方法が挙げられる。当該粉砕処理では、セルロース含有原料を小粒径化するとともに低結晶化することができるので、反応剤との反応性がより向上する。セルロース含有原料の裁断処理、乾燥処理、及び粉砕処理の方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0036】
工程(A)で用いる粉末状セルロースは、その体積中位粒径(D50)が、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。また、反応剤との反応均一性の観点からは、D50は好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
【0037】
工程(A)で用いる粉末状セルロースの結晶化指数は、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、よりさらに好ましくは10%以下であり、生産性の観点からは、好ましくは−10%以上である。特に、粉末状セルロースの結晶化指数が10%以下であれば、反応剤との反応性及び反応均一性が良好になる。
セルロースの結晶化指数とは、セルロースのI型結晶構造に由来するセルロースの結晶化指数を指すものであり、X線結晶回折測定の結果から下記計算式(1)により求められる。結晶化指数の値が低いほど、セルロースが低結晶性であることを意味する。
結晶化指数(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔式中、I22.6は、X線回折におけるセルロースI型結晶の格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度を示し、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
【0038】
また粉末状セルロースの水分量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、反応剤との反応性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは4.0質量%以下、よりさらに好ましくは3.0質量%以下である。
上記D50、結晶化指数、及び水分量は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0039】
(反応剤)
本発明において反応剤とは、セルロースの第1級又は第2級の水酸基と反応して置換基を導入しうる化合物をいう。セルロース誘導体としてカチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを製造する場合、反応剤としてはヒドロキシアルキル化剤及びカチオン化剤が用いられる。
【0040】
〔ヒドロキシアルキル化剤〕
ヒドロキシアルキル化剤の具体例としては、エポキシアルカン、アルキルグリシジルエーテル、アルキルハロヒドリンエーテル等が挙げられる。これらの中でも、反応時に塩の生成がない観点から、エポキシアルカン及びアルキルグリシジルエーテルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、エポキシアルカンがより好ましい。
エポキシアルカンとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシオクタデカン等の炭素数2以上20以下のエポキシアルカンが挙げられる。エポキシアルカンの炭素数は、好ましくは3以上であり、また、好ましくは18以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下、よりさらに好ましくは6以下、よりさらに好ましくは4以下である。
上記の中でも、ヒドロキシアルキル化剤としてはプロピレンオキシド及びブチレンオキシドからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、プロピレンオキシドがより好ましい。
【0041】
〔カチオン化剤〕
本発明に用いられるカチオン化剤は、下記一般式(1)又は(2)で示される化合物が好ましい。
【0042】
【化1】
【0043】
一般式(1)及び(2)において、R1〜R3は各々独立に炭素数1以上4以下の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子を表す。一般式(2)においてZはハロゲン原子を表す。
得られるセルロース誘導体の水溶性の観点から、R1〜R3は炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、メチル基及びエチル基からなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。Xとしては塩素、臭素及びヨウ素などが挙げられるが、得られるセルロース誘導体の水溶性の観点からは塩素又は臭素が好ましく、塩素がより好ましい。
一般式(2)において、Zは、得られるセルロース誘導体の水溶性の観点から塩素又は臭素が好ましく、塩素がより好ましい。
【0044】
前記一般式(1)又は(2)で表される化合物の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウム、グリシジルトリエチルアンモニウム、グリシジルトリプロピルアンモニウム等の各々の塩化物、臭化物又はヨウ化物や、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、又は3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウム等の塩化物、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウム等の臭化物や、3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム、3−ヨード−2−ヒドロキシプロピルトリプロピルアンモニウム等のヨウ化物等が挙げられる。これらのカチオン化剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中では、入手性の観点から、グリシジルトリメチルアンモニウム又はグリシジルトリエチルアンモニウムの塩化物又は臭化物、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム等の塩化物、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム、3−ブロモ−2−ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム等の臭化物が好ましく、グリシジルトリメチルアンモニウム塩化物又は3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物がより好ましく、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物がさらに好ましい。
【0045】
(塩基性触媒)
工程(A)で用いる塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン類等が挙げられる。これらの中ではアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、アルカリ金属水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる1種以上がさらに好ましく、水酸化ナトリウムがよりさらに好ましい。
【0046】
工程(A)における塩基性触媒の使用量は、セルロース含有原料と反応剤との反応を効率よく進行させる観点から、セルロース含有原料の主鎖を構成するセルロースのアンヒドログルコース単位(以下「AGU」ともいう)1モルに対し好ましくは0.5モル当量以上、より好ましくは0.7モル当量以上、さらに好ましくは0.8モル当量以上である。一方、コストの観点から、当該塩基性触媒の使用量は、セルロース含有原料のAGU1モルに対して好ましくは3.0モル当量以下、より好ましくは2.5モル当量以下、さらに好ましくは2.0モル当量以下、よりさらに好ましくは1.5モル当量以下である。
【0047】
(反応)
工程(A)では、上記塩基性触媒の存在下、セルロース含有原料と反応剤とを機械撹拌式混合機内で反応させる。
カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを製造する場合、反応剤として用いるヒドロキシアルキル化剤とカチオン化剤の反応順序は特に制限されないが、塩基性触媒の存在下、セルロース含有原料とヒドロキシアルキル化剤とを反応させてヒドロキシアルキルセルロースを製造し、次いで該ヒドロキシアルキルセルロースとカチオン化剤とを反応させることが好ましい。
【0048】
〔ヒドロキシアルキル化工程〕
工程(A)の反応では、まず、塩基性触媒の存在下、セルロース含有原料とヒドロキシアルキル化剤とを機械撹拌式混合機内で反応させてヒドロキシアルキルセルロースを得る(ヒドロキシアルキル化工程)。
塩基性触媒及びヒドロキシアルキル化剤の添加順序には特に制限はないが、セルロース含有原料と塩基性触媒とを混合した後に、ヒドロキシアルキル化剤を添加して反応させることが好ましい。セルロース含有原料と塩基性触媒とを混合することで反応活性の高いアルカリセルロースが生成するので、その後のヒドロキシアルキル化剤との反応が効率よく進行するためである。
【0049】
上記反応は、固相状態で行われることが好ましい。上記反応を固相状態で行うことにより、セルロース含有原料とヒドロキシアルキル化剤との反応が効率よく進行する。また、例えばヒドロキシアルキル化工程の反応系内に大過剰の水が存在すると、エポキシアルカン等のヒドロキシアルキル化剤を用いた場合、エポキシアルカンの水和反応(副反応)等が起こり、副生成物の生成及び収率低下が起こりやすくなる。そのため上記反応を固相状態で行い、かつ反応時の水分量を少なくすることで、上記副反応を抑制し、収率を向上させることができる。
ヒドロキシアルキル化工程における反応時の水分量は、セルロース含有原料中に塩基性触媒及びヒドロキシアルキル化剤を均一に分散させる観点からは、セルロース含有原料中のセルロースに対し、好ましくは0質量%超であり、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは5.0質量%以上、よりさらに好ましくは10質量%以上、よりさらに好ましくは15質量%以上である。また、上記副反応を抑制して収率を向上させる観点からは、好ましくは100質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、よりさらに好ましくは55質量%以下である。本発明においては、反応時の水分量が100質量%以下であれば固相状態での反応となる。
なお、セルロース含有原料中のセルロースの量とは、セルロース含有原料の質量から該セルロース含有原料中の水分量を差し引いた値を意味する。ヒドロキシアルキル化工程における反応時の水分量は、当該工程に供されるセルロース含有原料中の水分量と、当該工程で必要に応じ添加する水の量の合計を意味する。
例えばヒドロキシアルキル化工程では、まず、混合機内でセルロース含有原料、塩基性触媒、必要に応じて水を加えて混合し、攪拌する。水を添加する場合、反応時の水分量が好ましくは上記範囲となるよう添加量を調整する。これにより前述したアルカリセルロースが生成する。
セルロースの着色を避ける観点、反応中のセルロース鎖の開裂による分子量の低下を避ける観点から、上記攪拌、及び以後の反応は窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0050】
混合機内に塩基性触媒を添加する方法としては、セルロース含有原料中に塩基性触媒を均一に分散させる観点から、塩基性触媒又はその溶液を、前記液添加ノズルを用いて混合機内に投入する方法が好ましい。塩基性触媒又はその溶液の投入方法には特に制限はなく、流下、滴下、噴霧のいずれでもよいが、セルロース含有原料中に塩基性触媒を均一に分散させる観点から、噴霧により投入することが好ましい。塩基性触媒が液体であればそのまま投入してもよく、塩基性触媒が固体である場合は塩基性触媒が溶解可能な溶媒に溶解させた溶液を調製し、これを投入する。使用する溶媒は、塩基性触媒が溶解可能であれば特に制限されない。
塩基性触媒がアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群から選ばれる1種以上である場合、当該触媒の水溶液を噴霧投入することが好ましい。塩基性触媒溶液の濃度は噴霧投入が可能な限り特に制限されないが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、液添加ノズルの閉塞を抑制する観点から、好ましくは45質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0051】
塩基性触媒又はその溶液の投入完了後、液添加ノズルの閉塞を防止する観点から、液添加ノズルに気体を流通させることが好ましい。流通させる気体は窒素、アルゴン等の不活性ガスが好ましく、窒素がより好ましい。
流通させる気体の流量は特に制限されないが、液添加ノズルの閉塞防止効果の観点から、好ましくは0.1Nm/h以上、より好ましくは0.2Nm/h以上、さらに好ましくは0.5Nm/h以上であり、コストの観点から、好ましくは15Nm/h以下、より好ましくは12Nm/h以下、さらに好ましくは10Nm/h以下である。上記流量は、ノズル1本あたりに流通させる気体の流量である。
液添加ノズルに気体を流通させる時間は、特に制限されないが、好ましくは1分以上、10分以下である。
【0052】
次いで、上記方法で得られた混合物(アルカリセルロースを含む混合物)に前述したヒドロキシアルキル化剤を添加して、ヒドロキシアルキル化剤と反応させる。ヒドロキシアルキル化剤を添加する方法に特に制限はなく、一括添加、分割添加、連続添加でもよく、あるいはこれらを組み合わせて添加することもできる。
ヒドロキシアルキル化剤の使用量に限定はなく、所望のヒドロキシアルキル基導入量に応じて適宜調整すればよい。例えば、工程(A)で用いられるセルロース含有原料中のセルロースのAGU1モルあたり、好ましくは0.50モル以上、より好ましくは1.0モル以上、さらに好ましくは3.0モル以上である。また、コストの観点から、ヒドロキシアルキル化剤の使用量は、工程(A)で用いられるセルロース含有原料中のセルロースのAGU1モルあたり、好ましくは20モル以下、より好ましくは10モル以下、さらに好ましくは8.0モル以下、よりさらに好ましくは6.0モル以下、よりさらに好ましくは5.0モル以下である。
【0053】
ヒドロキシアルキル化工程における反応時の攪拌の周速は、反応速度及び反応均一性を向上させる観点から、好ましくは0.2m/秒以上、より好ましくは0.5m/秒以上、さらに好ましくは1.0m/秒以上、よりさらに好ましくは1.5m/秒以上、よりさらに好ましくは2.0m/秒以上であり、また、エネルギー効率の観点から、好ましくは10m/秒以下、より好ましくは9.0m/秒以下、さらに好ましくは8.0m/秒以下、よりさらに好ましくは7.0m/秒以下、よりさらに好ましくは5.0m/秒以下である。
また、混合機がチョッパー翼を有する場合、チョッパー翼の攪拌回転数としては、反応速度及び反応均一性を向上させる観点から、好ましくは1.0m/秒以上、より好ましくは2.0m/秒以上、さらに好ましくは5.0m/秒以上であり、また、エネルギー効率の観点から、好ましくは40m/秒以下、より好ましくは30m/秒以下、さらに好ましくは20m/秒以下である。
【0054】
ヒドロキシアルキル化工程における反応温度及び反応時間は特に限定されないが、反応速度を向上させる観点から、反応温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは25℃以上である。また、セルロース含有原料又はヒドロキシアルキルセルロースの安定性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。
反応時間は、反応収率の観点から好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.3時間以上であり、生産性の観点からは、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。なおヒドロキシアルキル化工程における反応時間とは、ヒドロキシアルキル化剤の添加開始から反応終了までの経過時間をいう。
【0055】
上記反応条件においてヒドロキシアルキル化剤が気体である場合、反応は加圧条件下で行うことが好ましい。その際の反応圧力は、ヒドロキシアルキル化剤の沸点、系内のヒドロキシアルキル化剤の存在量、反応温度等を調整することにより適宜調整可能である。反応時の圧力は通常0.001MPa以上、10MPa以下(ゲージ圧)であり、反応速度、及び設備負荷の観点から、0.005MPa以上が好ましく、0.02MPa以上がより好ましく、そして、1MPa以下が好ましく、0.5MPa以下がより好ましい。
【0056】
上記ヒドロキシアルキル化工程を行い、ヒドロキシアルキルセルロースが得られる。セルロース含有原料として粉末状セルロースを用い、固相状態でヒドロキシアルキル化反応を行った場合、粉末状のヒドロキシプロピルセルロースが得られる。
【0057】
〔カチオン化工程〕
次いで、上記のようにして得られたヒドロキシアルキルセルロースとカチオン化剤とを反応させ、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを得る(カチオン化工程)。カチオン化工程は、ヒドロキシアルキル化工程に引き続いて同じ混合機内で行うことができる。
【0058】
カチオン化工程においては、反応均一性の観点から、混合機内で粉末状のヒドロキシアルキルセルロースを攪拌しながら、カチオン化剤又はその溶液を、液添加ノズルを用いて混合機内に投入して反応させることが好ましい。投入方法には特に制限はなく、流下、滴下、噴霧のいずれでもよいが、反応均一性の観点からは噴霧により投入することが好ましい
本発明において「カチオン化剤又はその溶液」とは、25℃において液体であるカチオン化剤単独、又は、カチオン化剤を溶媒に溶解させた溶液を意味する。該溶媒は、カチオン化剤が溶解する溶媒であれば特に制限されず、水、有機溶剤、並びにこれらの混合物のいずれでもよい。カチオン化剤溶液の濃度は、液添加ノズルを用いて粉末状のヒドロキシアルキルセルロースに噴霧等により投入することが可能である限り特に限定されないが、有効分量として好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上である。
【0059】
カチオン化剤の使用量に特に限定はなく、所望するカチオン性基の導入量、及び反応の収率に応じて適宜調整すればよい。
カチオン化剤の使用量は、工程(A)で用いられるセルロース含有原料中のセルロースのAGU1モルあたり、好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.01モル以上、さらに好ましくは0.10モル以上、よりさらに好ましくは0.30モル以上である。また、コストの観点から、カチオン化剤の使用量は、工程(A)で用いられるセルロース含有原料中のセルロースのAGU1モルあたり、好ましくは5.0モル以下、より好ましくは3.0モル以下、さらに好ましくは2.0モル以下、よりさらに好ましくは1.5モル以下、よりさらに好ましくは1.0モル以下、よりさらに好ましくは0.80モル以下である。
【0060】
カチオン化剤又はその溶液の投入完了後、液添加ノズルの閉塞を防止する観点から、液添加ノズルに気体を流通させることが好ましい。流通させる気体の種類、流量、及び流通時間は前記と同じである。
【0061】
カチオン化工程における攪拌の周速及びその好ましい範囲は、ヒドロキシアルキル化工程と同じである。また、混合機がチョッパー翼を有する場合、チョッパー翼の攪拌回転数及びその好ましい範囲も、ヒドロキシアルキル化工程と同じである。
【0062】
カチオン化工程は、ヒドロキシアルキルセルロースとカチオン化剤との反応速度を向上させる観点から、塩基性触媒の存在下で行われる。塩基性触媒としては、前記と同様の化合物が挙げられ、前記ヒドロキシアルキル化工程で用いた塩基性触媒をそのまま用いることが好ましい。
【0063】
カチオン化工程における反応温度は、特に限定されないが、ヒドロキシアルキルセルロースの安定性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下であり、また、反応速度を向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上である。
また、カチオン化工程における反応時間は、特に限定されないが、収率の観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.3時間以上、さらに好ましくは0.5時間以上であり、また、生産性の観点から、好ましくは6時間以下、より好ましくは4時間以下、さらに好ましくは3時間以下である。
【0064】
反応終了後は、必要に応じて塩基性触媒の中和、含水イソプロパノール、含水アセトン溶媒等での洗浄等といった精製操作を行って、カチオン化ヒドロキシアルキルセルロースを単離することもできる。
【0065】
<工程(B)>
工程(B)は、工程(A)で得られたセルロース誘導体を前記混合機から排出する工程である。セルロース誘導体の排出方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0066】
<工程(I)〜工程(III)>
本発明の製造方法は上記工程(A)及び工程(B)を有し、次いで、前述した工程(I)〜工程(III)を行う。工程(I)〜工程(III)、及びその好ましい態様は、本発明の洗浄方法において記載した通りである。
【0067】
本発明の製造方法で得られるセルロース誘導体の形状は特に限定されないが、例えば粉末、フレーク、ペースト、粒状、塊状であり、機械撹拌式混合機内に固着物が残留するものに対し有効に適用することができる。
本発明の製造方法で得られるセルロース誘導体は、ヘアシャンプーの他、例えば、リンス、トリートメント、コンディショナー等の毛髪化粧料組成物の配合成分や分散剤、改質剤、凝集剤等の幅広い分野で利用することができる。
【実施例】
【0068】
以下の実施例において、「%」は特に断らない場合、及び結晶化指数(%)を除き、「質量%」を意味する。
【0069】
(1)水分量の測定
パルプ、粉末状セルロースの水分量は、赤外線水分計(株式会社島津製作所製「MOC−120H」)を用いて測定した。測定1回あたり試料5gを用い、試料を平らにならして温度120℃にて測定を行い、30秒間の質量変化率が0.05%以下となる点を測定の終点とした。測定された水分量をセルロースに対する質量%に換算し、各水分量とした。
【0070】
(2)結晶化指数の算出
粉末状セルロースのX線回折強度を、X線回折装置(株式会社リガク製「MiniFlexII」)を用いて以下の条件で測定し、前記計算式(1)に基づいてセルロースのI型の結晶化指数を算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:30kV,管電流:15mA,測定範囲:回折角2θ=5〜35°、X線のスキャンスピードは40°/minで測定した。測定用サンプルは面積320mm×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。
【0071】
(3)体積中位粒径(D50)の測定
粉末状セルロースのD50は、レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製「LS13 320」)を用い、乾式法(トルネード方式)にて測定した。具体的には粉末状セルロース20mLをセルに仕込み、吸引して測定を行った。
【0072】
(4)混合機内のセルロース誘導体の付着量
混合機内のセルロース誘導体の付着量は、混合機内に投入したセルロース誘導体の原料の総重量と、後述する工程(B)にて排出したセルロース誘導体の量との差分とした。表1においては、混合機の単位容量(m)当たりの付着量(kg)で表記した。
【0073】
製造例1(粉末状セルロースの製造)
(1)裁断処理
セルロース含有原料として、シート状木材パルプ(Tembec社製「BioflocHV+」、結晶化指数:82%、水分量:8.5質量%)を、裁断機を用いて約3mm×1.5mm×1mmのチップ状に裁断した。
(2)乾燥処理
前記(1)の裁断処理により得られたパルプを、2軸横型攪拌乾燥機(株式会社奈良機械製作所製「2軸パドルドライヤー、NPD−3W(1/2)」)を用いて、連続処理にてパルプを乾燥した。乾燥機の加熱媒体は150℃のスチームを用い、パルプの供給速度は45kg/h、排出粉温度50℃、大気圧下での処理とした。
(3)セルロース粗粉砕処理
前記(2)の乾燥処理により得られた乾燥パルプを、連続式振動ミル(ユーラステクノ株式会社製「バイブロミル、YAMT−200」、第1及び第2粉砕室の容量:112L、ステンレス製)を用いて粗粉砕した。第1及び第2粉砕室には、直径30mm、長さ1300mmのステンレス製の丸棒状の粉砕媒体(ロッド)を80本ずつ収容した。連続式振動ミルを振動数16.7Hz、振幅13.4mmの条件下、乾燥パルプを20.0kg/hで供給した。
(4)セルロース小粒径化処理
前記(3)の粗粉砕処理により得られた粗粉砕セルロースを、高速回転式微粉砕機(株式会社ダルトン製、製品名「アトマイザーAIIW−5型」)を用いて小粒径化した。目開き1.0mmのスクリーンを装着し、ローター周速度を4400r/min、50m/sで駆動すると共に、原料供給部から粗粉砕セルロースを粗粉砕処理と同じ供給速度で供給し、排出口から粉末状セルロースを回収した。得られた粉末状セルロースの水分量は2.5質量%、結晶化指数は−4.2%、体積中位粒径(D50)は70μmであった。
(1)から(4)の処理は連続的に実施した。
【0074】
実施例1
(カチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの製造)
<工程(A−1):ヒドロキシプロピル化工程>
製造例1で得られた粉末状セルロースを、ジャケット付き反応槽の内部に主翼とチョッパー翼を有し、噴霧ノズルを備えた水平軸回転型の機械攪拌式混合機に、水分を除いた質量部として100質量部を投入した。槽内気相部を窒素で置換した後、主翼周速3m/s、チョッパー翼16m/sの撹拌下にて、塩基性触媒である水酸化ナトリウム24.7質量部(粉末状セルロースのAGU1モルに対し1.0モル当量)と水とを混合して得られた水酸化ナトリウム水溶液を、噴霧ノズルを用いて噴霧ノズルにて噴霧投入した。水酸化ナトリウム水溶液の調製に用いた水の量は、当該水の量と、粉末状セルロースが含有する水分との合計量が、反応系内の水分量として50質量部となるよう調整した。水酸化ナトリウム水溶液の噴霧終了後、噴霧ノズルに窒素を7Nm/hで3分流通させた。なお、本実施例に記載した窒素の流通量は、いずれも噴霧ノズル1本あたりの流通量である。さらにジャケット温水にて内温を50℃±5℃に調節し、2時間混合を継続した。次に主翼周速4.4m/s、チョッパー翼16m/sの撹拌下にて、内温を45℃±5℃に調節しつつ、プロピレンオキシド(PO)143.3質量部(粉末状セルロースのAGU1モルに対し4.0モル)を、内圧0.07〜0.10MPa(ゲージ圧)に保つように、約8時間かけて投入した。全てのプロピレンオキシドを投入した後、十分に内圧が安定するまで撹拌及び温度調節を約3時間継続し、粉末状のヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0075】
<工程(A−2):カチオン化工程>
工程(A−1)と同じ反応槽にて、攪拌を継続しながら、工程(A−1)で得られた粉末状のヒドロキシプロピルセルロースに対し、カチオン化剤である3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(HAC)の70質量%水溶液(含水量30%、純度90%以上、四日市合成株式会社製、製品名「CTA−65」)112.7質量部(粉末状セルロースのAGU1モルに対しHACとして0.68モル)を、噴霧ノズルにて噴霧投入した。HAC水溶液の噴霧終了後、噴霧ノズルに窒素を7Nm/hで3分流通させた。その後、内温を50℃±5℃に調節しつつ、2時間攪拌を継続した。続けて、内温40℃まで冷却し、セルロース誘導体である粉末状のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを得た。全仕込み量は混合機の単位容量(m)当たり174kgとした。
【0076】
<工程(B)>
工程(A−2)で得られたカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを混合機の底排弁から排出した。排出初期は主翼周速0.8m/s、排出後期は主翼周速3.9m/sで撹拌しながら排出した。また、排出時、チョッパー翼は1.6m/sで間欠的に撹拌した。排出後、混合機内のカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースの付着量は混合機の混合機の単位容量(m)当たり0.02kgであった。
【0077】
(洗浄)
工程(B)の後、混合機内の圧力を11kPa(絶対圧)に減圧した(工程(I−1))。
次いで、洗浄液として、混合機の単位容量(m)当たり0.5mの水を仕込んでジャケット温水を80℃に昇温し、主翼周速7.8m/s、チョッパー翼周速7.1m/sにて3時間攪拌した(工程II−1a)。洗浄液の最終到達温度は73℃であった。さらに、主翼の攪拌方向を逆転させて主翼周速7.8m/s、チョッパー翼周速7.1m/sにて0.5時間攪拌した(工程II−1b)。工程II−1b終了後、混合機内の圧力を窒素導入により大気圧にし、次いで洗浄水を排出した(工程(III−1))。排出された洗浄水の泡立ちも観察されなかった。
混合機内の圧力を41kPa(絶対圧)に減圧し(工程(I−2))、洗浄液として、混合機の単位容量(m)当たり0.5mの水を仕込んでジャケット温水を80℃に昇温し、主翼周速6.2m/s、チョッパー翼周速7.1m/sにて2時間攪拌した(工程II−2a)。さらに、主翼の攪拌方向を逆転させて主翼周速6.2m/s、チョッパー翼周速7.1m/sにて0.5時間攪拌した(工程II−2b)。工程II−2b終了後、混合機内の圧力を大気圧にし、次いで洗浄水を排出した(工程(III−2))。
工程(III−2)終了後の混合機内を目視観察したところ、付着物(カチオン化ヒドロキシプロピルセルロース)は残存していなかった。また排出された洗浄水の泡立ちも観察されなかった。
【0078】
工程(III−2)の後、混合機内の減圧乾燥を行った。減圧乾燥はジャケット温水を80℃に昇温し、混合機内の圧力を2kPa(絶対圧)に減圧して、噴霧ノズルに窒素を7Nm/hで流通させながら2時間行った。
減圧乾燥後、噴霧ノズルの閉塞の有無を確認し、閉塞が生じていないことを確認した。
【0079】
実施例2
実施例1において、プロピレンオキシド(PO)の使用量を150.5質量部(粉末状セルロースのAGU1モルに対し4.2モル)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを製造した。
また、各工程の条件を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で混合機の洗浄を行った。結果を表1に示す。
【0080】
比較例1
実施例1と同様の方法でカチオン化ヒドロキシプロピルセルロースを製造した。その後、各工程の条件を表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で混合機の洗浄を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1から明らかなように、機械攪拌式混合機の洗浄において、洗浄液を仕込む前に混合機内を80kPa以下に減圧しなかった比較例1では、洗浄後も混合機内に付着物が残存し、排出された洗浄水にも泡立ちが見られた。さらに、比較例1では工程(I)〜(III)終了後の減圧乾燥時に噴霧ノズルに気体を流通させなかったため、噴霧ノズルの閉塞が生じた。
これに対し本願実施例の洗浄方法では、洗浄後の付着物の残存、排出された洗浄水の泡立ちもなく、噴霧ノズルの閉塞も観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、セルロース誘導体などの製造に用いた機械攪拌式混合機を簡便な操作により効果的に洗浄することができるので、大スケールでの製造においても混合機の洗浄不良によるコンタミネーションを生じることなく製造物を製造することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 機械攪拌式混合機
11 反応槽
12 攪拌翼(主翼)
12a 攪拌翼の回転軸
20 液添加ノズル
図1