(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の射出成形は、一般に熱可塑性樹脂の可塑性を利用して金型内で樹脂混合物を成形する技術に基づくものである。熱可塑性樹脂を溶融し、金型内に射出し、しかる後に射出シリンダーによる保持圧力(保圧と称することもある)下、金型内で冷却及び固化して所望の成形品を得ていた。このように、樹脂混合物を固化させ、金型から成形品を満足しうるように離型させるためには、使用される樹脂が非結晶性樹脂の場合は加熱変形温度以下、また結晶性樹脂の場合は融点以下に成形材料を冷却する必要がある。上述の様な通常の成形法を用いた場合、時として成形品外観と機械的特性において問題が発生することがある。
【0003】
近年、各種電気及び電子部品、並びに車両の内装及び外装等の外観部品において、外観に優れる成形品を得る技術が重要となっている。特に高強度もしくは高剛性な特性を得る目的で、ガラス繊維もしくはカーボンファイバーを添加した熱可塑性樹脂複合材料、又はメタリック調の外観を得るためにアルミニウムフレークを添加したような材料を用いる場合は、外観性能が問題となっていた。
【0004】
このような外観不良を防止するため、例えば、特許文献1から特許文献3には、熱可塑性樹脂材料を射出成形する場合に用いる金型であって、金型に冷却通路と加熱通路とを設けて、金型を加熱および冷却する技術が提案されている。
【0005】
まず、外観に関する問題に関しては、非強化熱可塑性樹脂、並びにガラス繊維、マイカ、金属等の充填材及び/又は添加剤を含んだ熱可塑性樹脂複合材料に発生することがある。その原因は、通常、金型温度が、使用される樹脂の加熱変形温度以下に保たれていることにある。また現行、生産性を上げるために結露寸前まで温度を下げた冷媒を利用して金型を冷却することが行なわれている。しかし、冷たい金型の表面に接触した溶融熱可塑性樹脂材料は、急速に冷却され、金型表面近傍で急速に流動性が失われ、その結果金型表面の転写性が著しく損なわれてしまい、成形品の表面はかなり不規則なものになるという問題がある。
【0006】
樹脂を注入するゲートが複数ある多点ゲートを有する金型を用いる場合は、溶融樹脂が金型内で合流する部分(ウエルド部)でウエルドドラインが発生するという問題がある。「ウエルドライン」とは、ウエルド部の成形品表面に発生するライン状の凹みのほか、ウエルド近傍に発生する黒筋を含む。また、成形品に開口部を有する金型を用いた場合、金型内に充填された溶融樹脂は、いったん溶融樹脂が分かれて流動し、再び樹脂が合流してウエルドラインを形成することがある。これらのウエルドラインは、非強化熱可塑性樹脂でも熱可塑性樹脂複合材料を用いた場合でも外観不良となるため問題となっている。
【0007】
さらにガラス繊維等の充填材を添加した熱可塑性樹脂複合材料では、成形品表面の光沢性が損なわれるといった外観不良の問題も発生する。従来、樹脂混合物が不充分な状態のまま固化してしまうことを防ぐ方法として金型温度を上げることが提案されている。
【0008】
しかしながら、金型温度を上げると一般に冷却時間が長くかかったり、完全に固化する前に金型から取り出されたりするため、非常に寸法精度の悪い成形品しか得られないという問題がある。すなわち、実際の成形では、これらの矛盾した二つの条件の悪影響を考慮して適当な温度が選択されているのが現状である。
【0009】
そこで、これらの問題を解決する一つの効果的な射出成形技術として高周波誘導加熱を用いて金型表面をあらかじめ加熱して更に金型内に充填した溶融樹脂を充填後に再流動化させるといった方法が、特許文献4に記載されている。この技術を用いれば、特にガラス繊維やアルミニウムフレークを添加した成形品のウエルド強度(ウエルド部の強度)を高くする、あるいは外観を改良することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4に記載の技術を用いるには、加熱装置として高周波誘導加熱装置、溶融樹脂再流動装置として金型外に設置したピストンが必要であることから、経済性に劣るという課題がなお残っている。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂複合材料を用いて、外観に優れる成形品をハイサイクルで生産可能な射出成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らによる鋭意検討の結果、特定の金型を用いるとともに、昇温速度、降温速度、かつ温度差を調整して射出成形することにより、外観に優れる成形品をハイサイクルで製造することができることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0014】
本発明の射出成形方法は、複数の金型部分で形成されるキャビティを有する金型に、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂複合材料を充填して成形品を得る射出成形方法であって、
金型は、キャビティ面を少なくとも冷却することができる第一の温度調節手段と、第一の温度調節手段のキャビティ面とは反対側に、キャビティ面を少なくとも加熱することができる第二の温度調節手段とを備え、
キャビティ面を熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上の加熱温度まで昇温して熱可塑性樹脂を金型内に充填する第一の工程と、
第一の工程後、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度未満の冷却温度まで降温して熱可塑性樹脂を冷却固化し、その後、金型を開放して、成形品を取り出す第二の工程と、を備え、
第一の工程における昇温速度は80℃/分以上であり、第二の工程における降温速度は100℃/分以上であり、かつ加熱温度と冷却温度との差は50℃以上である。
【0015】
ここで、加熱温度および冷却温度は、融点又はガラス転移温度を基準にしているが、熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂の場合は融点を基準に用い、熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合はガラス転移温度を基準に用いる。また、降温速度とは、目標高温温度から目標低温温度までにキャビティ面を冷却したときの降温速度である。また、昇温速度とは、目標低温温度から目標高温温度までにキャビティを昇温したときの昇温速度である。
また、キャビティ面の温度とは、予めキャビティ面とキャビティ面近傍の温度との相関関係を求めておき、成形時の実際の温度制御はキャビティ面近傍の温度を測定して求めた値とする。
【0016】
キャビティ面から第一の温度調節手段までの距離L0と、キャビティ面からキャビティ面とは反対側の面までの距離L1は、下記の関係を満たすことが好ましい。
(L1/L0)>3
【0017】
第一の温度調節手段は、冷却用媒体が流通する1以上の冷却媒体通路を備えてなり、第二の温度調節手段は、加熱用ヒーターであることが好ましい。
【0018】
金型部分は、第一の温度調節手段を有する第一部分と、第二の温度調節手段を有する第二部分とを備えることが好ましい。
【0019】
金型部分において、第一部分の体積V(I)と金型部分の体積V0とは、下記の関係を満たすことが好ましい。
(V(0)/V(I))>3
【0020】
第一部分の体積V(I)と第二部分の体積V0とは、下記の関係を満たすことがより好ましい。
(V(0)/V(I))>5
【0021】
第一部分の体積V(I)および第一部分の材質の熱伝導率C(I)(J/s・m・K)と、第二部分の体積V(II)および第二部分の材質の熱伝導率C(II)(J/s・m・K)とが、下記の関係を満たすことが好ましい。
[{V(II)×(1/C(II))}/{V(I)×(1/C(I))}]>3
【0022】
第一部分の材質の熱伝導率C(I)(J/s・m・K)が、第二部分の材質の熱伝導率C(II)(J/s・m・K)の3.5倍以上であることが好ましい。
【0023】
キャビティ面を冷却する際、第一部分と第二部分とが離間可能であることが好ましい。
【0024】
第二温度調節手段は、第二部分の平均温度を、熱可塑性樹脂、または、熱可塑性樹脂複合材料を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度+50℃以上または融点+50℃以上に設定するものであることが好ましい。
【0025】
第一の温度調節手段は冷却媒体通路を複数備えてなり、複数の冷却媒体通路に同温度の冷却媒体を同時に流通させるマニホールドを少なくとも一つ有することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱可塑性樹脂や熱可塑性樹脂複合材料の成形品を外観良く、かつハイサイクルで生産性良く提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態ついて詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0029】
本発明の射出成形方法の一実施形態について説明する。
[射出成形方法]
本発明の射出成形方法は、複数の金型部分で形成されるキャビティを有する金型に、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂複合材料を充填して成形品を得る射出成形方法であって、
金型は、キャビティ面を少なくとも冷却することができる第一の温度調節手段と、第一の温度調節手段のキャビティ面とは反対側に、キャビティ面を少なくとも加熱することができる第二の温度調節手段とを備え、
キャビティ面を熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上の加熱温度まで昇温して熱可塑性樹脂を金型内に充填する第一の工程と、
第一の工程後、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度未満の冷却温度まで降温して熱可塑性樹脂を冷却固化し、その後、金型を開放して、成形品を取り出す第二の工程と、を備え、
第一の工程における昇温速度は80℃/分以上であり、第二の工程における降温速度は100℃/分以上であり、かつ加熱温度と冷却温度との差は50℃以上である。
【0030】
昇温速度は、生産性の観点から80℃/分以上であり、降温速度は、生産性の観点から100℃/分である。昇温速度は、好ましくは100℃/分以上、より好ましくは150℃/分以上であり、降温速度は、好ましくは150℃/分以上、より好ましくは200℃/分以上である。
加熱温度としては、結晶性樹脂の場合、融点−50℃以上、好ましくは融点以上、更に好ましくは、融点+10℃以上である。非晶性樹脂の場合、ガラス転移温度以上、好ましくはガラス転移温度+10℃以上である。
冷却温度は、結晶性熱可塑性樹脂の場合は、融点−100℃以下が好ましく、非結晶性樹脂の場合は、ガラス転移温度−20℃以下である。
加熱温度と冷却温度との差は、アルミニウムフレーク入りの材料等を用いた場合のウエルドラインによる外観不良を改善するためには、金型内に充填した溶融樹脂を再流動させる必要があるため、50℃以上であり、より好ましくは150℃以上である。
【0031】
<熱可塑性樹脂および熱可塑性樹脂複合材料>
本発明における熱可塑性樹脂および熱可塑性樹脂複合材料に用いられる「熱可塑性樹脂」とは、一般に熱可塑性樹脂と称されるものすべてを示す。例えば、ポリスチレンや、ハイインパクトポリスチレン、ミデイアムインパクトポリスチレンのようなゴム補強スチレン系樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN樹脂)、アクリロニトリル−ブチルアクリレートゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピルゴム−スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル−塩化ポリエチレン−スチレン共重合体(ACS)、ABS樹脂(例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリルーブタジエン−スチレン−アルファメチルスチレン共重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリメチールメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂;低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;エチレン塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、エチレン塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PETPまたはPET)、ポリブチレンテレフタレート(PBTPまたはPBT)等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート(PC)、変性ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂;ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレンコポリマー、ポリオキシメチレンホモポリマー等のポリアセタール(POM)樹脂;その他のエンジニアリング樹脂、スーパーエンジニアリング樹脂;例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PSU)等が挙げられる。
セルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、エチルセルロース(EC)等のセルロース誘導体;液晶ポリマー、液晶アロマチックポリエステル等の液晶系ポリマー(LCP)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、熱可塑性スチレンブタジエンエラストマー(SBC)、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー(TPO)、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPEE)、熱可塑性塩化ビニルエラストマー(TPVC)、熱可塑性ポリアミドエラストマー(TPAE)等の熱可塑性エラストマー;も挙げられる。
本発明における熱可塑性樹脂としては、本発明の成形工程において上述のような熱可塑性樹脂が生成されるものでもよい。一種もしくはそれ以上の熱可塑性樹脂のブレンド体を用いて本発明方法によって成形してもよい。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂複合材料は、充填材及び/又は添加剤等を含有するものである。
【0032】
熱可塑性樹脂複合材料に添加される充填材としては、無機物が挙げられる。例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、マイカ、アスベスト等や、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属の粉体、中空体、フレーク状のもの又はこれらの金属の金属酸化物、金属水酸化物でもよい。
熱可塑性樹脂複合材料に添加する添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、熱安定剤、帯電防止剤、着色剤等を挙げることができる。
【0033】
さらに熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂複合材料に化学発泡剤や、窒素や二酸化炭素などの物理発泡剤を入れた発泡成形品の外観改良にも有効である。
【0034】
本発明に用いることができる射出成形機としては、公知のものを用いることができる。
【0035】
本発明によれば、金型内に熱可塑性樹脂を充填する前に熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上にキャビティ面を急加熱し、金型内に熱可塑性樹脂を射出充填することで外観に優れた射出成形品をハイサイクルで得ることができる。
【0036】
<金型>
次に、本発明の射出成形方法に用いることができる金型の一実施形態について図面を参照しながら、説明する。本発明の射出成形方法に用いることができる金型は以下に説明するものに限定されない。本実施形態では、
図1および
図2に示す縦型型締め機構を有する金型を用いて説明するが、横型型締め機構を有する金型でも同様に用いることができる。
図1に金型の一実施形態の概略断面図を示す。
図1に示すように、金型100は、金型部分10と、金型部分20と、断熱板15、25とを備えてなり、金型部分10と金型部分20とにより、キャビティ30を形成する。キャビティ30に熱可塑性樹脂(以下の説明では、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂複合材料を、簡単のため熱可塑性樹脂として説明する)を射出充填し、成形品を賦型するものである。溶融樹脂は、射出成形機のシリンダーのノズル(図示せず)からランナー部33を通ってキャビティ30に充填される。
【0037】
金型部分10は、キャビティ面31近傍にキャビティ面31を少なくとも冷却することができる複数の冷却媒体通路からなる第一の温度調節手段13と、第一の温度調節手段13のキャビティ面31とは反対側に、キャビティ面31を少なくとも加熱することができる複数の棒状カートリッジヒーターからなる第二の温度調節手段14とを備える。
また、金型部分20も同様に、キャビティ面32近傍にキャビティ面32を少なくとも冷却することができる複数の冷却媒体通路からなる第一の温度調節手段23と、第一の温度調節手段23のキャビティ面32とは反対側に、キャビティ面32を少なくとも加熱することができる複数の棒状カートリッジヒーターからなる第二の温度調節手段24とを備える。
【0038】
金型部分10は、第一の温度調節手段13を有する第一部分11と、第二の温度調節手段14を有する第二部分12とに分割された構造であり、第一部分11と第二部分12が、ばね40によって離間可能に構成されている。
また、金型部分20も同様に、第一の温度調節手段23を有する第一部分21と、第二の温度調節手段24を有する第二部分22とに分割された構造であり、第一部分21と第二部分22とが、ばね40によって離間可能に構成されている。
【0039】
次に、
図2を用いてさらに金型部分の詳細について説明する。
図2は、金型の詳細を説明するための概略断面図であり、一部構成要素を省略している。
図2に示すように、金型部分(
図1における符号10、20)は、キャビティ面31から第一の温度調節手段13までの距離L0、キャビティ面31からキャビティ面31とは反対側の面16までの距離L1が、下記の関係を満たすものである。
(L1/L0)>3
【0040】
成形用金型が複数の金型部分で構成される場合、上記数値範囲を満たす金型部分は少なくとも一つあればよいが、全ての金型部分で上記数値範囲を満たすことがより好ましい。
【0041】
ここで、キャビティ面から第一の温度調節手段までの距離L0とは、金型のキャビティ面に対して垂直な断面における、キャビティ面から第一の温度調節手段の中心までの距離を意味する。
また、第一の温度調節手段から第二の温度調節手段までの距離L2とは、金型のキャビティ面に対して垂直な断面における、第一の温度調節手段の中心から第二の温度調節手段の中心までの距離を意味する。
また、キャビティ面からキャビティ面とは反対側の面までの距離L1とは、金型のキャビティ面に対して垂直な断面における距離を意味する。
【0042】
キャビティ面が凹凸形状であってキャビティ面から第一の温度調節手段までの距離が場所によって異なる場合は、キャビティ面から第一の温度調節手段の中心までの距離L0は、それらのうちの最短距離を意味する。
また、キャビティ面が凹凸形状であって、第一の温度調節手段がその凹凸形状に沿ってキャビティ面から同距離に設けられている場合は、第一の温度調節手段から第二の温度調節手段までの距離L2は場所によって異なることとなる。この場合の、第一の温度調節手段から第二の温度調節手段までの距離L2とは、異なるL2のうち最短距離を意味する。
また、キャビティ面が凹凸形状の場合の、キャビティ面からキャビティ面とは反対側の面までの距離L1とは、異なるL1の平均距離を意味する。
【0043】
また、第一の温度調節手段および第二の温度調節手段が複数の冷却媒体通路または複数のヒーターを備えてなる場合は、1つの通路またはヒーターについて、キャビティ面からの距離が場所によって異なる場合は、全ての通路またはヒーターについての最短距離の平均値とする。
【0044】
また、第一部分と第二部分とが同素材で一体的に形成された場合、第一部分と第二部分との境界は、キャビティ面に垂直な断面における第一の温度調節手段の中心から第二の温度調節手段側にL0離れた位置とする。
【0045】
本実施形態の金型は、キャビティ面近傍に少なくとも冷却を行う第一の温度調節手段を設けた構造を有し、第一の温度調節手段よりもキャビティ面から遠方に少なくとも加熱を行う第二の温度調節手段を設けたものである。第二の温度調節手段は、金型部分全体を加熱することにより、キャビティ面を加熱するものである。
【0046】
第一の温度調節手段は、キャビティ面に近いほど好ましいが、金型の強度、設計上の制約から一定の距離に設ける必要がある。キャビティ面から第一の温度調節手段までの距離L0は、第一の温度手段の寸法にもよるが、30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。L0の下限値に特に制限はないが、第一の温度手段の寸法にもよるが、金型の強度上の制約からは、第一の温度手段の端部からキャビティ面までの距離が、3mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましい。
【0047】
本実施形態の金型では、キャビティ面から第一の温度調節手段までの距離L0、キャビティ面からキャビティ面とは反対側の面までの距離L1との関係は、(L1/L0)>3であり、より好ましくは、(L1/L0)>5であり、最も好ましくは、(L1/L0)>10である。
(L1/L0)>3とすることにより、冷却部分に比して高温である蓄熱部分の容量を大きくすることで、金型加熱時の急加熱を効率よく実施することができる。さらに冷却を行う第一の温度調節手段がキャビティ面に近いほど、冷却時に素早く成形品を冷却できる。また、冷却部分が少ないほど、金型加熱時に金型を素早く加熱することができる。
ここで、冷却部分とは、第一の温度調節手段で冷却される部分であって、少なくとも第一部分を示す。また、蓄熱部分とは、第二の温度調節手段で加熱される部分であって、少なくとも第二部分を示す。
【0048】
さらに第一の温度調節手段から第二の温度調節手段までの距離L2は、L2>L0であり、好ましくは、2<L2/L0<10である。
L2>L0とすることにより、冷却時には、第二の温度調節手段まで冷却してしまうのを良好に防ぐことができ、一方、加熱時には、第二の温度調節手段の制御パワーの乱れを防ぐことができる。
キャビティ面の温度制御において、キャビティ温度の上下温度がわずかな場合は、L0とL2はできるだけ近い方がよい。しかし、複合材料を成形する場合には、キャビティ温度の上限値と下限値の差が、例えば50℃以上、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上と大きいため、上記範囲とすることが好ましい。
【0049】
金型部分は、第一温度調節手段を有する第一部分と、第二の温度調節手段を有する第二部分とを備えてなるものであってもよい。その場合、第一部分と第二部分とは、同じ材質の材料を用いてもよいが、より好ましくは、第一部分の材料に第二部分の材料よりも熱伝導率のよい材質のものを用いる。第一部分に熱伝導率の良い材質の材料を用いることによって、冷却時に第一部分を急速に冷却することができる。さらに第一部分の第一の温度調節手段の冷却を止めて加熱する時にも第二の温度調節手段を有する第二部分に蓄熱された熱を素早く伝導することが可能となる。
【0050】
また、第一の温度調節手段である冷却媒体通路を有する第一部分と第二の温度調節手段を有する第二部分とを備えた構造の場合、
図2に示すように、第一部分の体積V(I)と、実質的に加熱される金型部分の体積V0との関係は、好ましくは、(V0/V(I))>3であり、より好ましくは、(V0/V(I))>5であり、最も好ましくは(V0/V(I))>10である。
【0051】
すなわち、キャビティ面の加熱は、熱を一定量蓄熱した蓄熱部の役割を有する第二部分からの熱の供給によりキャビティ面を急加熱してキャビティに設置された材料の熱可塑性樹脂を加熱溶融できる。ここで蓄熱部分の容量が大きいほど効果的にキャビティ面を加熱することができる。ただし、蓄熱部分の容量の大きさには、設備上、加熱に伴う消費エネルギー量の観点から、金型や成形設備の大きさに応じて適宜決定することができる。
【0052】
一方、キャビティ面の冷却は、例えば、第一の温度調節手段を複数の冷却媒体通路とした場合には、キャビティ面近傍の冷却媒体通路に冷却媒体を流通することにより、キャビティ面を急冷却し、溶融した熱可塑性樹脂を冷却固化することが可能となる。この際、キャビティ面近傍のみを冷却するためには冷媒通路を有する部分の金型容量が小さいほど好ましく、冷却媒体通路は、よりキャビティ面に近い方が好ましい。
【0053】
第一部分と第二部分の材質は、同じものを用いてもよいが、熱伝導率の異なる材料を用いてもよい。
第一部分の体積V(I)および第一部分の材質の熱伝導率C(I)(J/s・m・K)と、第二部分の体積V(II)および第二部分の材質の熱伝導率C(II)(J/s・m・K)とは、以下の関係を満たす。
[{V(II)×(1/C(II))}/{V(I)×(1/C(I))}]>3
さらに好ましくは、
[{V(II)×(1/C(II))}/{V(I)×(1/C(I))}]>5
最も好ましくは、
[{V(II)×(1/C(II))}/{V(I)×(1/C(I))}]>10
である。
[{V(II)×(1/C(II))}/{V(I)×(1/C(I))}]>3とすることによって、冷却時には迅速にキャビティ面を冷却することができ、加熱時には、第二部分の蓄熱によって迅速に昇温することができる。
【0054】
また、第一部分の材質の熱伝導率C(I)(J/s・m・K)は、第二の温度調節手段を有する第二部分の材質の熱伝導率C(II)(J/s・m・K)の3.5倍以上であることが好ましい。すなわち冷却時には熱伝導率が高い方が、早く冷却でき、加熱時には熱伝導率が高い方が、素早く蓄熱部から熱を奪って加熱することができる。これは、特に第一部分を冷却する際に第一部分と第二部分とを分離することにより、より高い効果を得ることができる。冷却時に分離しない場合は、第一部分の熱伝導率が良いと冷却時に蓄熱部の機能を有する第二部分を冷却することもあり、適宜、材料を最適化する必要がある。
【0055】
第一部分と第二部分とは、分離できる構造とすることがさらに好ましい。キャビティを所望の温度に加熱した後に金型をキャビティが閉じた状態でわずかに型開動作を行い、第一部分と第二部分とを分離し、空気の断熱層を設けることも成形サイクルを上げるために有効である。
具体的な方法としては、第一部分と第二部分の間にばねを挿入することによって、金型を僅かに開放することにより、キャビティを閉鎖したまま第一部分と第二部分とを分離することができる。分離は、複数の金型部分の少なくとも一つで行ってよい。
【0056】
金型を分離した状態で冷却水を冷却媒体通路等に圧入し、キャビティを含む第一部分を急冷する。この際、キャビティが開放しないようにばねや油圧シリンダーを用いてキャビティ面は閉鎖状態を保つ。キャビティ面が一定時間、熱可塑性樹脂の加熱変形温度以下になった後に冷却水を止め、必要に応じて冷却媒体通路に圧縮空気を導入し、冷却媒体通路内の水を排出する。
【0057】
第一部分の冷却は、第一の温度調節手段を複数の冷却媒体通路で構成した場合は、冷却媒体を流通することで達せられるが、冷却媒体をいかに素早く多量に流通させるかが、キャビティ面の急冷却を可能にするかどうかを左右する。
そのために、各冷却媒体通路に単独で冷却媒体を流通できるような構造とすることが好ましい。具体例として同温度の冷却媒体を同時に流通させることができるマニホールドが挙げられる。マニホールドを金型外部の冷却媒体通路の流入側に設置し、マニホールドから同時に冷却媒体を各冷却媒体通路に流通させてもよく、さらに冷却媒体の排出側にもマニホールドを設置して排出すれば、より効率的である。
流量は、冷却効率に大きく影響し、必要に応じて加圧ポンプ等を用いて冷媒を流通させてもよい。また、市販の加圧温調機を用いることも可能である。
【0058】
冷却媒体通路に流通させる媒体としては、水、チラー液、炭酸ガス、圧縮気体等を上げることができる。また媒体は、1種類でもよいが、温度の異なる媒体を多段で流通してもよい。たとえば、キャビティ温度を220℃まで加熱した場合に、150℃の加圧温水を数秒流し、その後、60℃の温調水、さらに10℃の冷却水を多段で流し、金型が一定温度に達したときに再び70℃の加圧温水を流してキャビティ面が均一温度になるように調整してもよい。
【0059】
熱可塑性樹脂の種類にもよるが、第二の温度調節手段は、第二部分の平均温度を、非結晶性樹脂の場合は、キャビティに設置する熱可塑性樹脂材料のガラス転移温度以上、好ましくはガラス転移温度+10℃以上、アルミニウムフレーク入り材料を成形する場合は、ガラス転移温度+50℃以上に設定する。結晶性樹脂の場合は、キャビティに設置する熱可塑性樹脂材料の融点以上、好ましくは融点+10℃以上、アルミニウムフレーク入り材料を成形する場合は、融点+50℃以上に設定する。
第二部分の平均温度とは、金型第二部分の平均温度であり、測定法の一例としては、第二温度調節手段の近傍、10mm〜30mm離れた位置の金型内部に温度計を入れて温度を測定する方法が用いられる。第二温度調節手段にカートリッジヒーターを用いる場合、温度制御は、前述の温度を検知して電源の入切制御をしたり、PID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)をして電源の容量を調整する方法などがある。
【0060】
また、第二の温度調節手段に特段の制約はなく、棒状カートリッジヒーター以外に、加熱オイル、水蒸気のような加熱媒体でも電気抵抗を利用したヒーター等があるが、金型を熱可塑性樹脂の融点以上である高温に保持するには、汎用性、性能の面から加熱ヒーターであることが好ましい。ヒーターの種類としては、セラミックスヒーター、シーズヒーターなどがあるが、棒状カートリッジヒーターが簡便性、性能上好ましく使用される。
【0061】
本実施形態では、金型部分10および金型部分20は、それぞれ第一部分11、21と、第二部分12、22とが離間可能に構成された場合について説明したが、ばね40を設けず、ボルト締め等で一体的に形成されていてもよい。
【0062】
断熱板15、25は、成形機への熱伝導による熱流動を抑制する役割を有するために、金型100と成形機との連結部に設けた方がよい。
【0063】
図3に金型の平面投影図を示す。
図3に示すように、コア凸部34が、成形品に開口部(
図4および
図5における符号244および344の部分)を形成するように設けられている。溶融樹脂は、ランナー部33から入り、金型内を流動し、コア凸部34を回り込みウエルドライン発生位置37付近で合流する。
アルミニウムフレークのような充填材を入れた材料を成形する場合、金型温度を上げて成形品表面のウエルドラインを消すだけでは、成形品内部のウエルドラインが見えて、外観上極めて劣った成形品ができる。そのためにウエルドライン付近で合流した樹脂を再流動させることにより、極めて良好な外観を得ることができる。キャビティに充填された溶融樹脂の再流動化法として、
図3に示すように、捨てキャビ部分35を有する金型にシャットオフ弁36を設けることが挙げられる。シャットオフ弁36を閉鎖した状態でキャビティ内に樹脂を充填し、ウエルドライン発生位置37で溶融樹脂が合流すると同時に、樹脂保圧をかけた状態でシャットオフ弁36を開放することにより、ウエルドライン発生位置37で合流した溶融樹脂の一部が動いて充填された充填材の配向性を変えることができる。
【実施例】
【0064】
〔実施例1〕
金型は、
図1〜
図3に示す金型を用いた。
図1および2にその金型の垂直断面図、
図3にその金型の平面投影図を示し、
図4に得られた成形品の概略上面図を示す。
本実施例1ではシャットオフ弁36(
図3参照)を閉鎖状態のまま成形し、捨てキャビ部分35は成形しなかった。
図1で冷却媒体通路13、23を有する第一部分(11および21)は、熱伝導率165J/s・m・Kのコルソン合金(マテリオン ブラッシュ社製、モールドマックス−V)を用い、棒状カートリッジヒーター14、24を有する第二部分(12および22)は、熱伝導率40J/s・m・Kの炭素鋼(S55C)を用いた。
冷却媒体通路13、23は、内径8mmで中心部からキャビティ面までの距離L0が10mmの位置に20mm間隔(L)で設置したものである。
冷却媒体通路の中心から棒状カートリッジヒーターの中心までの距離L2は40mmである。
棒状カートリッジヒーター1000W(10mmΦ×400mm、ワット密度8.3W/cm
2)(株式会社八光電機製GLE4103)を用いた。
図1および
図2におけるコア凸部34は、
図4に示す成形品200の開口部244を形成するものである。ここで、
図3に示すように、金型に射出充填された熱可塑性の溶融樹脂がコア部34を回り込んでぶつかり合う部分が、ウエルドライン発生位置37である。
樹脂は、金型のパーティング面にランナー部を設けたパーティング射出方式を用いた。
また使用する材料としては、ガラス転移温度が105℃のABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂に着色剤を添加した高光沢黒色材料を用いた。
【0065】
成形品を下記に示す射出成形工程に従って作製した。
成形機は、最大型締め力300トンの東芝機械製(S100V−8A)を用いた。
【0066】
[工程1]金型を加熱し、120℃一定に保った状態で金型を型締めした。
[工程2](樹脂充填)金型を型締めした状態で熱可塑性樹脂を充填した。
[工程3](金型分離、冷却)型締め力を下げ、キャビティを閉鎖した状態で、第一部分と第二部分とをそれぞれ5mm分離し、冷却媒体通路に25℃の冷却水を通水して、キャビティ面を急冷却した。
キャビティ温度が、70℃に達してから通水を停止し、通水停止後10秒後に金型を開放し、同時に冷却媒体通路の水を圧縮空気にて排出した。
[工程4](離型)金型離型後、直ちに成形体を取り出し、金型を型締めした。
[工程5](金型加熱)金型加熱部の伝熱によりキャビティ面を120℃に急加熱し、工程1に戻した。
【0067】
実施例1における金型の昇温速度は200℃/分、降温速度は500℃/分、成形サイクルは30秒であった。
【0068】
得られた成形体200の寸法は、200mm×150mm、肉厚2mmであり、
図4に示すように20×100mmの開口部244と、成形品におけるランナー部233とを有するものであった。
成形品の外観は良好で、ウエルドラインは外観上全く観察されない、外観に極めて優れたものであった。
【0069】
〔実施例2〕
金型のキャビティ面側の第一部分11,21の材質を実施例1の第二部分で用いた炭素鋼に変えた以外は、実施例1と同様な金型を用いて成形を行った。実施例2における金型の昇温速度は150℃/分、降温速度は300℃/分、成形サイクルは45秒であった。
実施例2の成形品は、実施例1と同様良好な外観を得ることができた。
【0070】
〔実施例3〕
キャビティ面の冷却時に第一部分11,21と第二部分12,22を分離しなかった以外は、実施例1と同様に成形体を作製した。実施例3における金型の昇温速度は70℃/分、降温速度は400℃/分、成形サイクルは70秒であった。
実施例3の成形品は、実施例1と同様良好な外観を得ることができた。
【0071】
〔実施例4〕
キャビティ面側の第一部分11,21の材質を実施例1の第二部分で用いた炭素鋼に変え、キャビティ面の冷却時に第一部分11,21と第二部分12,22を分離しなかった以外は、実施例1と同様の方法で成形体を作製した。実施例4における金型の昇温速度は100℃/分、降温速度は300℃/分、成形サイクルは80秒であった。
実施例4の成形品は、実施例1と同様良好な外観を得ることができた。
【0072】
〔実施例5〕
熱可塑性樹脂として20質量%のガラス繊維強化SAN(スチレンアクリロニトリル)樹脂を用い、実施例1と同様の操作を行った。なお、最初の金型温度の設定を220℃とし、冷却を70℃まで行った。
昇温速度は200℃/分、降温速度は500℃/分、成形サイクルは90秒であった。
図5に本実施例で得られた成形品300の概略上面図を示す。本実施例では、キャビティ内に熱可塑性樹脂が充填されると同時に
図3に示したシャットオフ弁36を開放し、捨てキャビ部分35に樹脂を充填し、成形品300を得た。この時、射出成形機からの樹脂の充填は継続することにより、捨てキャビ部分35に、ウエルドライン発生位置の樹脂が一部移動した。
図5に示すように、得られた成形品300は、20×100mmの開口部344と、成形品におけるランナー部333と、成形品における捨てキャビ部分335とを有するものであり、外観に優れ、ウエルドラインのないものであった。
また、成形後にウエルドライン発生位置37を含む成形片(A)を切り出してウエルド強度を測定した。
ウエルド強度は引張強度90MPaであり、強度に優れていた。
【0073】
〔実施例6〕
熱可塑性樹脂として使用材料としては、平均粒径30μmのアルミニウムフレークと透明ABSをコンパウンドして調製した1.5質量%アルミニウムフレーク入りABS樹脂を用いる以外は、実施例5と同様な方法で成形品を作製した。
得られた成形品は外観に優れ、ウエルドラインの無い極めて外観に優れたメタリック調の成形品が得られた。
【0074】
〔比較例1〕
金型温度を70℃一定で成形を行う以外は、実施例1と同様の方法で成形品を作製した。成形品は、開口部の中央にウエルドラインがある外観に劣った成形品であった。サイクル時間は30秒であった。
【0075】
〔比較例2〕
金型温度を70℃一定で成形を行う以外は、実施例5と同様の方法で成形品を作製した。成形品は、開口部の中央にウエルドラインがある外観に劣った成形品であった。また、実施例5と同様にウエルド強度を測定した結果、引張り強度40MPaと強度が劣る結果となった。また、サイクル時間は30秒であった。
【0076】
〔比較例3〕
金型温度を70℃一定で成形を行う以外は、実施例6と同様の方法で成形品を作製した。成形品は、開口部の中央に黒色の極めて目立つウエルドラインがある外観に劣った成形品であった。また、サイクル時間は30秒であった。
【0077】
〔比較例4〕
実施例1と同じ手順で成形を行ったが、金型は、ヒーターの位置と冷却水管の位置が異なる以外は、実施例4と同じ構造および材質のものを使用した。つまり、ヒーターの設置位置は、キャビティ面より200mmで、冷却水管は、ヒーターの後方(キャビティ面と反対側)のL0=400mmの位置に設置した。実施例1と同様に金型キャビティ面を70℃と120℃の温度で上げ下げした。昇温速度は、20℃/分で冷却速度は、10℃/分で、成形サイクルは、8分であった。成形品の表面にはウエルドラインの無い外観の物が得られた。
【0078】
[評価条件]
(引張強度)
引張強度は、ISO527−1に準じ以下の条件にて測定した。
・試験環境:23℃50RH%
・成形品:JIS K7113 3号試験片
・引張速度:5mm/min
・チャック間:50mm
・使用機器:インストロン50kN(インストロン社製)
【0079】
上記のように、本発明の射出成形方法を用いた実施例は、ハイサイクルで成形することが可能であり、かつ、ウエルドラインが発生せず外観に優れるものであった。
一方、金型の温度が一定である比較例は、成形のサイクル時間が長い、あるいはウエルドラインが生じ外観に劣った。