特許第6835510号(P6835510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6835510建築土木用筋材、これを用いたコンクリート構造物、コンクリート床版構造体及びその施工方法と補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835510
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】建築土木用筋材、これを用いたコンクリート構造物、コンクリート床版構造体及びその施工方法と補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/07 20060101AFI20210215BHJP
   E04C 5/20 20060101ALI20210215BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20210215BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20210215BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   E04C5/07
   E04C5/20
   E01D19/12
   E01D22/00 B
   E04G21/12 105E
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-176281(P2016-176281)
(22)【出願日】2016年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-53208(P2017-53208A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2019年8月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-178617(P2015-178617)
(32)【優先日】2015年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久部 修弘
(72)【発明者】
【氏名】萩原 勝之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰聰
(72)【発明者】
【氏名】三橋 悠三
【審査官】 河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−309750(JP,A)
【文献】 特開平02−096044(JP,A)
【文献】 実開昭62−140115(JP,U)
【文献】 特開昭61−049809(JP,A)
【文献】 特開平07−279314(JP,A)
【文献】 特開2003−176508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/07−5/12、5/20
E01D 19/12
E01D 22/00
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂材(FRP)からなる筋材本体の外周に、当該筋材本体の外周に通された繊維強化樹脂材からなる管体をエポキシ系樹脂充填剤又は膨張セメントからなる定着剤で筋材本体に固定してなる突起部が複数設けられた構成を有する建築土木用筋材であり、前記筋材本体の径(φ)と、前記突起部を形成する管体の外径(S)及び内径(T)とが以下の関係式を満たすとともに、管体の長さと厚みが以下の条件を満たすものであることを特徴とする建築土木用筋材。
(関係式)φ+10mm≦S≦φ+20mm
φ+4mm≦T≦φ+8mm
(管体の長さ)50〜70mmであること
(管体の厚み)3〜8mmであること
【請求項2】
筋材本体が炭素繊維強化樹脂材(CFRP)、アラミド繊維強化樹脂材(AFRP)の何れかにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の建築土木用筋材。
【請求項3】
管体がガラス繊維強化樹脂材(GFRP)、炭素繊維強化樹脂材(CFRP)、アラミド繊維強化樹脂材(AFRP)の何れかにより形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築土木用筋材。
【請求項4】
隣接する管体同士の間隔が100〜1500mmであることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の建築土木用筋材。
【請求項5】
繊維強化樹脂材中の繊維状強化材の含有量が30〜80体積%であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の建築土木用筋材。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載の建築土木用筋材を用いて形成されたコンクリート構造物。
【請求項7】
請求項1から5の何れかに記載の建築土木用筋材を用いて形成されたコンクリート床版構造体。
【請求項8】
コンクリート床版上にアスファルト舗装体を設けてなるコンクリート床版構造体の施工方法において、
請求項1から5の何れかに記載の建築土木用筋材をコンクリート床版上に複数本設置する工程と、
前記建築土木用筋材が設置されたコンクリート床版上に速硬化モルタルを打設する工程と、
前記速硬化モルタル上にアスファルト舗装体を敷設する工程と、を有することを特徴とするコンクリート床版構造体の施工方法。
【請求項9】
コンクリート床版上にアスファルト舗装体を設けてなる既設のコンクリート床版構造体を補強する方法において、
前記アスファルト舗装体を撤去する工程と、
請求項1から5の何れかに記載の建築土木用筋材をコンクリート床版上に複数本設置する工程と、
前記建築土木用筋材が設置されたコンクリート床版上に速硬化モルタルを打設する工程と、
前記速硬化モルタル上にアスファルト舗装体を敷設する工程と、を有することを特徴とするコンクリート床版構造体の補強方法。
【請求項10】
既設のコンクリート床版構造体を補強する方法において、
既設のコンクリート床版の上面部分をその内部に配置された鉄筋が露出する深さに切除する工程と、
請求項1から5の何れかに記載の建築土木用筋材を前記切除した部分の上面に複数本設置する工程と、
前記建築土木用筋材が設置されたコンクリート床版上に速硬化モルタルを打設する工程と、を有することを特徴とするコンクリート床版構造体の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築土木構造を補強するために構造物の中に埋め込まれる繊維強化樹脂(以下、「FRP」ともいう。)製の筋材と、これを用いて構成されるコンクリート床版構造物及びその施工方法と補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過日公表された高速道路の大規模更新・修繕計画によれば、多くの予算が橋梁における床版の架け替えや改修工事に割り当てられている。交通規制期間などの施工条件によって床版の架け替えが難しい場所も多く、それらの場所では床版上面から補強を施す工事により改修が行なわれる。
【0003】
床版上面から補強を施す工法としては、例えば床版上面にスチールファイバーコンクリートを打設し、新旧コンクリートを一体化させて床版厚の増加によって補強する上面増し厚工法が知られている。また、既設の床版の表層部を埋設された鉄筋が露出しない深さではつり、はつり部分を、プライマーを塗布しその上に樹脂モルタルを敷設するなどして処理した後、FRP製の補強筋材をはつり部分に配置し、その後、樹脂モルタルを打設して床版の表層部を復元するFRP補強工法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−176508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記上面増し厚工法は、追加補強鉄筋の充填性を確保するため、10cm程度増し厚してある程度のコンクリートの厚さが必要となって床版厚が増加し、これにより死荷重の増加を招き、既存躯体の負担が増加してしまうという問題がある。路面高も変わってしまうため、伸縮装置を含めて線形の見直しを行なう必要も生じてしまう。
一方、前記FRP補強工法は、即硬化性の樹脂モルタルを使用するものの工程数が多く、各工程で養生時間を確保する必要もあるため、工期短縮が難しいという問題がある。
早期に大規模更新、修繕を施す必要がある高速道路の橋梁は総延長で数百kmにも及ぶことから、床版を強化し補強する工事には、重量増加を抑えて短い交通規制期間で確実且つ速やかに施工可能なことが要求され、これを実現する新たな工法の開発が要請されている。
【0006】
本発明は従来の技術が有するこのような問題点に鑑み、鉄筋が埋設されたコンクリート構造物を補強し改修するにあたり、構造物内部での定着性に優れた建築土木用の筋材を開発し、これを用いて高速道路の橋梁などの床版を、重量増加を抑えつつ短い工期で補強し改修することができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来のFRP補強工法においては、床版上に下塗りとなる樹脂モルタル層を形成し、その上面にFRP製の補強筋材を設置し、その後、さらに樹脂モルタルを打設して補強筋を埋め戻しているため、工事全体としての養生時間は長くなり、工期の短縮化は困難である。樹脂モルタルに代えて速硬化性のモルタルを用いた場合、FRP製の補強筋材はコンクリートなどとの付着力が小さく定着性が高くないため、そのままでは十分な補強効果が得られない。
【0008】
そこで本発明は、FRP製の筋材をその外周に定着部位を複数設けて構成することで、コンクリートなどの構造材料との付着力を向上させ、筋材を構造材料に確実に一体化させてコンクリート構造物を有効に補強できるようにした。
【0009】
すなわち、本発明の建築土木用筋材は、FRPからなる筋材本体の外周に、当該筋材本体の外周に通された繊維強化樹脂材からなる管体をエポキシ系樹脂充填剤又は膨張セメントからなる定着剤で筋材本体に固定してなる突起部が複数設けられた構成を有することを特徴とする。
【0010】
前記構成の筋材において、筋材本体は炭素繊維強化樹脂材(以下、「CFRP」ともいう。)、アラミド繊維強化樹脂材(以下、「AFRP」ともいう。)の何れかからなるロッド、好ましくは高弾性CFRPロッドにより形成することができる。
また、突起部を構成する管体はガラス繊維強化樹脂材(以下、「GFRP」ともいう。)、CFRP、AFRPの何れかにより形成することができる。
筋材本体に管体を固定するための定着剤は、エポキシ系樹脂充填剤又は膨張セメントを用いることができる。
【0011】
前記構成の筋材において、管体の外径(S)と筋材本体の径(φ)が以下の関係式を満たす構成を有することを特徴とする。
(関係式)φ+6mm≦S≦φ+35mm
また、管体の内径(T)と筋材本体の径(φ)が以下の関係式を満たす構成を有することを特徴とする。
(関係式)φ+2mm≦T≦φ+10mm
【0012】
さらに、前記構成の筋材において、管体の長さが30〜70mmであることを特徴とする。
また、管体の厚みが1〜8mmであることを特徴とする。
またさらに、隣接する管体同士の間隔が100〜1500mmであることを特徴とする。
前記構成の筋材において、繊維強化樹脂材中の繊維状強化材の含有量が30〜80体積%であることも特徴とする。
【0013】
本発明の建築土木用筋材は、適宜な径及び長さに形成された筋材本体と、筋材本体の外周に嵌る内径で筒状に形成された適宜な長さの複数の管体を用意し、筋材本体の外周に管体を通し、隣接する管体同士で互いに所定の間隔を開けた位置で、筋材本体の外周面と管体の内周面間に定着剤を充填して筋材本体に各管体を固着して形成され、筋材本体に固定された各管体は筋材本体の外周から外方へ突出した大径の突起部となる。
【0014】
このように構成される本発明の建築土木用筋材は、コンクリート構造体を形成する場合に、構造材料内に埋め込んでコンクリート構造体を補強するための手段として用いることができる。
また、コンクリート床版構造体を形成する場合に、コンクリート床版内に埋め込んで床版を補強する手段として用いることができる。
その他、本発明の建築土木用筋材は、ビルや道路、橋梁、水路、堤防など様々なコンクリート構造の建築物や土木構造物などに、構造材料に埋め込んで補強する筋材として用いることができる。
【0015】
また、本発明は、コンクリート床版上にアスファルト舗装体を設けてなるコンクリート床版構造体の施工方法において、
前記構成の建築土木用筋材をコンクリート床版上に複数本設置する工程と、
前記建築土木用筋材が設置されたコンクリート床版上に速硬化モルタルを打設する工程と、
前記速硬化モルタル上にアスファルト舗装体を敷設する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明は、コンクリート床版上にアスファルト舗装体を設けてなる既設のコンクリート床版構造体を補強する方法において、
前記アスファルト舗装体を撤去する工程と、
前記構成の建築土木用筋材をコンクリート床版上に複数本設置する工程と、
前記建築土木用筋材が設置されたコンクリート床版上に速硬化モルタルを打設する工程と、
前記速硬化モルタル上にアスファルト舗装体を敷設する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、既設のコンクリート床版構造体を補強する方法において、
既設のコンクリート床版の上面部分をその内部に配置された鉄筋が露出する深さに切除する工程と、
前記構成の建築土木用筋材を前記切除した部分の上面に複数本設置する工程と、
前記建築土木用筋材が設置されたコンクリート床版上に速硬化モルタルを打設する工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
前記施工方法及び補強方法において、コンクリート床版は内部に鉄筋を配した鉄筋コンクリートであり、その上に或いは上部を切除した上で本発明の建築土木用筋材を設置し、且つ速硬化モルタルを打設して下部のコンクリート床版と一体のコンクリート床版構造物が形成される。アスファルト舗装体はその上に敷設される。
これによれば、構造材料中に埋設される建築土木用筋材は、FRP製の筋体本体の外周に沿って複数の突起部を適宜な間隔を開けて一体化した形状に設けられているので、速硬化モルタルとの界面に剥離応力が発生し難く、筋材は高い付着性でモルタルに確実に一体化し、コンクリート床版が引張りや曲げを受けても筋材は引き抜け難く、構造材料の耐衝撃性や曲げ強度、耐摩耗性などの物性を向上させてコンクリート床版を有効に補強することができる。コンクリートに対して高い付着性が発揮される形状に筋材が設けられているので、速硬化性のモルタルやコンクリートを使用して短い工期でコンクリート床版構造体の施工や補強が可能となる。
また、FRP製の筋材は耐腐食性に優れており、ヤング係数が鉄の2倍以上の高弾性CFRP製の筋材であれば鉄筋の応力緩和効果が高く、コンクリート床版の強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の建築土木用筋材の外観図である。
図2図1の建築土木用筋材の部分断面図である。
図3】本発明の建築土木用筋材を用いて床版を補強する道路橋梁の概略断面図である。
図4】(A)〜(D)は図3中のA部分を拡大して示した補強する工程を説明するための図である。
図5】実施例における引張試験の測定系の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、図示した建築土木用筋材の形態やこれを用いて強化する構造物の形態は本発明を限定するものではない。
【0021】
図1は本発明の一実施形態の建築土木用筋材(以下、単に「筋材」ともいう。)の外観、図2はその要部拡大断面を示している。
図示した筋材1は、適宜な径(φ)及び長さのFRP製、好ましくは高弾性のCFRP製又はAFRP製の筋材本体2の外周に、FRP製、好ましくはGFRP製、CFRP製又はAFRP製、より好ましくはGFRP製の管体4を通し、且つこれを定着剤5により筋材本体2に固定してなる複数の突起部3を一体に設けて形成してある。
【0022】
詳しくは、筋材本体2は適宜な径(φ)及び長さに形成され、その外周に、筋材本体2の径(φ)よりも若干大きな内径(T)で筒状に形成された適宜な長さの複数の管体4を通し、隣接する管体4,4同士で互いに所定の間隔を開けた位置で、筋材本体2の外周面と管体4の内周面間に定着剤5を充填して、筋材本体2に各管体4を固着し、筋材本体2に、これに固定された各管体4による筋材本体2の外周から外方へ突出した大径の突起部3を一体化させることにより筋材1を構成することができる。
【0023】
管体4は、予め製造されていることが好ましく、例えば、ロービング状のガラス繊維等の繊維状充填材をエポキシ樹脂等の樹脂成分に含浸させ、芯材に所望の厚みに巻きつける。その後、樹脂成分を硬化させ、芯材を抜き取ることにより管体4を得ることができる。
【0024】
管体4を構成する繊維強化樹脂材に含まれる炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維状強化材の含有量は、繊維強化樹脂材中の30〜80体積%であることが好ましく、40〜75体積%であることがより好ましく、50〜70体積%であることがさらに好ましい。
【0025】
筋材本体2の外周に管体4を固定するための定着剤5としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、湿気硬化性樹脂、モルタル、セメント等を用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0026】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン及び環状ポリオレフィン等のオレフィン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂及びAS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0027】
湿気硬化性樹脂としては、湿気でイソシアネート基が生成してくる樹脂であるウレタン樹脂、変性シリコーン樹脂等が挙げられる。
モルタルとしては、膨張モルタル、軽量モルタル、耐火モルタル等が挙げられる。
セメントとしては、ケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム等を主成分とする普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、高炉ポルトランドセメント、超速硬セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミセメント、膨張セメント、耐硫酸塩セメント、高炉コロイドセメント、コロイドセメント等が挙げられる。
セメントは、必要に応じて水及び公知のセメント用混和剤、例えば、収縮補償材、硬化促進割、硬化遅延剤、分散剤、空気連行剤、増粘剤、減水剤、充填材等を併用することができる。
中でも、コンクリート等の被定着物との付着応力度の観点から、エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂系の充填材やセメントが好ましく、膨張セメントがより好ましい。
【0028】
筋材本体2の径と長さ、管体4の長さや筋材本体2に一体化する個数、配置間隔などの筋材1の形成条件は、これを用いて補強する施工場所に応じて適宜に設定することができる。
【0029】
十分な補強効果を得るため、以下の形成条件に設定することが好ましい。
すなわち、筋材本体2は、その径(φ)が5〜20mmに設定されていることが好ましく、7〜15mmに設定されていることがより好ましい。
【0030】
また、管体4の内径(T)は、筋材本体2の径(φ)よりも大きく設定されるが、前記径(φ)との関係で、(φ+2mm≦T≦φ+10mm)の範囲に設定されていることが好ましく、(φ+4mm≦T≦φ+8mm)に設定されていることがより好ましい。
【0031】
管体4の外径(S)も筋材本体2の径(φ)よりも大きく設定されるが、前記径(φ)との関係で、(φ+6mm≦S≦φ+35mm)の範囲に設定されていることが好ましく、より好ましくは(φ+8mm≦S≦φ+30mm)、さらに好ましくは(φ+10mm≦S≦φ+20mm)に設定することができる。
【0032】
管体4の厚みは、1〜8mmに設定されていることが好ましく、より好ましくは1.5〜5mm、さらに好ましくは2〜4mmに設定することができる。
【0033】
管体4の長さは、10〜80mmに設定されていることが好ましく、より好ましくは30〜70mm、さらに好ましくは40〜60mmに設定することができる。長さが30mmよりも小さいと、筋材本体2から管体4が抜け出しやすく、70mmを超える長さであると、筋材1を含むコンクリート床版上に打設された速硬化モルタル等が割裂破壊を起こす可能性があるため好ましくない。
【0034】
また、隣接する管体4,4同士の間隔は、100〜1500mmに設定されていることが好ましく、より好ましくは150〜1000mm、さらに好ましくは200〜500mmに設定することができる。隣接する管体4,4同士の間隔が100mmよりも小さいと、隣り合う管体4の間への速硬化モルタルの充填が不十分となる可能性があり、一方、間隔が1000mmを超えると、一つの管体4に応力が集中しやすく筋材1が破断してしまう可能性があるため好ましくない。なお、隣接する管体4,4同士の間隔とは、複数の管体4のうちの一管体4の端部と、これに隣接する他の管体4の端部との距離をいう。
【0035】
なお、上記の好ましい設定範囲において、空隙率、内径と外径、長さ、間隔等が、測定箇所によって異なる場合は、それらの平均値が採用される。
【0036】
本発明においては、このような管体4を、FRP製の筋材本体2に複数設けることにより、管体4にかかる引張力が分散され、筋材本体2が折れたり管体4から抜けたりすることがなく、筋材本体2と管体4とを確実に一体化させて、コンクリート構造物を有効に補強することができる。
【0037】
例えば、後述する高速道路の橋梁の床版の補強工事に用いる場合、径12mmのCFRP製の筋材本体2の外周に、内径18mm、長さ50mmのGFRP製の複数の管体4を通し、隣接する管体4,4同士を30mm程度の間隔を開けた位置で、各管体4を定着剤5で筋材本体2に固着して構成された筋材1を用いることができる。
【0038】
このように構成された筋材1は、図3に示されるような高速道路の橋梁におけるコンクリート床版6を補強するための改修工事の際に、以下のようにしてコンクリート構造体に埋め込むことでコンクリート床版6を補強することができる。
【0039】
改修対象のコンクリート床版6は、図4(A)に示されるように、内部に鉄筋7が配されたコンクリート構造体であり、これを補強する改修工事においては、先ず、同図(B)に示されるように、内部の上側に配された鉄筋7が露出する深さまでコンクリート床版6の表面を切除する。コンクリート床版6の上面にアスファルト舗装体(図示せず)が敷設されている場合はこれを除去しておく。なお、コンクリート床版6の上部の切除した部分の処理は適宜に行なわれる。
【0040】
次いで、同図(C)に示されるように、前記図1に示された筋材1を切除した部分の上面に、複数本を平行に設置する。この際、筋材1は、コンクリート床版6を支える橋体8の橋軸方向直角方向に向くように配置する。
【0041】
そして、同図(D)に示されるように、速硬化性のモルタル9を筋材1が設置された前記切除した部分に対して切除前と略同じ厚みとなるように打設し硬化させることで、改修工事が完了する。コンクリート床版6の上面にアスファルト舗装体が敷設されていた場合は、モルタル9が硬化した後、アスファルト舗装体を敷設して工事が完了する。
【0042】
これによれば、筋材1は、FRP製の筋体本体2の外周に沿って複数の突起部3を適宜な間隔を開けて一体化した形状に設けられているので、筋材1は高い付着性でモルタル9に確実に一体化し、コンクリート床版6が引張りや曲げを受けても筋材1は引き抜け難く、構造材料の耐衝撃性や曲げ強度、耐摩耗性などの物性を向上させてコンクリート床版1を有効に補強することができる。コンクリート床版6の上部の切除した部分に速硬化性のモルタル9を打設して筋材1を埋め戻すことで、コンクリート床版6をその厚みを増すことなく、短い工期で補強することが可能である。
【0043】
次に、本発明の筋材1のコンクリート構造物に埋め込み、付着性能を試験した実施例について説明する。
【0044】
〔実験1〕
(実施例1)
径(φ)12mmの高弾性CFRP製の筋材本体2の外周に、内径(T)18mm、長さ50mm、外径(S)24mm、厚み3mmのGFRP製の管体4(ガラス繊維含有量65.6体積%)を通し、これを定着剤5としてエポキシ樹脂系充填剤を用いて固着し、筋材本体2の外周に一つの突起部3が一体化された筋材1を形成した。管体4の定着長(L)は110mmとした(図5参照)。
【0045】
(実施例2)
定着剤5として膨張セメントを用いる以外、実施例1と同じ条件で筋材1を形成した。
【0046】
(比較例1)
径13mmの鉄筋(D13)を筋材として用いた。
【0047】
(比較例2)
径12mmの高弾性CFRP製のロッドを筋材として用いた。
【0048】
各実施例と比較例の筋材は各々3本製作し、これらを図5に示される試験体となるように型枠に設置した後、コンクリートを型枠内に流し込み、筋材が一体に埋め込まれた、縦横100mm×100mm、高さ160mmの寸法であって下部中央に径20mm、長さ50mmの細孔を備えたコンクリートブロック試験体を形成した。コンクリートブロックの強度は21N/mmである。
各試験体のコンクリートブロックから露出した筋材の端部に鋼製スリーブを定着させ、鋼製スリーブを下向きにした試験体を支持した状態で、鋼製スリーブを下方へ引張り、筋材がコンクリートブロックから離脱した時の最大引張り強度(Pmax)を測定した。
測定された最大引張り強度から付着応力度を導出し、各実施例と比較例の平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実験1の測定結果によれば、コンクリートブロックに対する筋材の付着応力度は、実施例1では比較例1と略同等の結果となり、管体4の定着剤5として膨張セメントを用いた実施例2では比較例1を上回る、高い付着性が得られることを確認できた。
なお、実施例1,2では、鉄筋を用いていないため、改修後にもセメントに含まれる水分による錆等の腐食が発生する心配はない。
【0051】
〔実験2]
(実施例3)
定着剤5として膨張セメントを用い、管体4の長さを30mmとする以外は、実施例1と同じ条件で筋材1を形成した。
【0052】
(実施例4)
定着剤5として膨張セメントを用いる以外、実施例1と同じ条件で筋材1を形成した。
【0053】
(実施例5)
定着剤5として膨張セメントを用い、管体4の長さを70mmとする以外は、実施例1と同じ条件で筋材1を形成した。
【0054】
各実施例の筋材は各々3本製作し、実験1と同様にして、筋材が一体に埋め込まれた、縦横100mm×100mm、高さ140mm(実施例3)、160mm(実施例4)、180mm(実施例5)の寸法であって下部中央に径20mm、長さ50mmの細孔を備えたコンクリートブロック試験体を形成した。管体4の定着長(L)は、実施例3は90mm、実施例4は110mm、実施例5は130mmとした。コンクリートブロックの強度は29N/mmである。
各試験体のコンクリートブロックから露出した筋材の端部に鋼製スリーブを定着させ、鋼製スリーブを下向きにした試験体を支持した状態で、鋼製スリーブを下方へ引張り、筋材がコンクリートブロックから離脱した時の最大引張り強度(Pmax)を測定した。
測定された最大引張り強度から付着応力度を導出し、各実施例と比較例の平均値を求めた。その結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
管体4の長さを変化させた実験2の測定結果によれば、コンクリートブロックに対する筋材の付着応力度は、管体4の長さが50mmである実施例4が、それぞれ実施例3の長さ30mm、実施例5の長さ70mmに設定した場合よりも高いことが確認できた。
【符号の説明】
【0057】
1 筋材、2 筋材本体、3 突起部、4 管体、5 定着剤、6 コンクリート床版、7 鉄筋、8 橋体、9 モルタル
図1
図2
図3
図4
図5