特許第6835529号(P6835529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6835529チオール基含有イオン性高分子化合物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835529
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】チオール基含有イオン性高分子化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/06 20060101AFI20210215BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C08F20/06
   C08F293/00
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-206905(P2016-206905)
(22)【出願日】2016年10月21日
(65)【公開番号】特開2018-65968(P2018-65968A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大嶌 和幸
(72)【発明者】
【氏名】光上 義朗
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−522205(JP,A)
【文献】 特開平9−3108(JP,A)
【文献】 特開2016−191681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位を含むポリマー鎖を有する骨格上にチオール基を平均で以上12以下有し、
前記骨格は、前記ポリマー鎖が3本以上結合した星型構造を有し、
前記チオール基が、前記骨格の末端に位置し、
前記チオール基と、前記イオン性基とが互いに異なる炭素原子に結合されてなり、且つ
多分散度(Mw/Mn)が1.00以上2.00以下である、チオール基含有イオン性高分子化合物。
【請求項2】
前記ポリマー鎖において、前記イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位が占める割合は、当該ポリマー鎖を構成する構成単位の総数100mol%に対して、70mol%以上100mol%以下である、請求項1に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物。
【請求項3】
多分散度(Mw/Mn)が1.00以上1.75以下である、請求項1または2に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物。
【請求項4】
前記イオン性基がアニオン性基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物。
【請求項5】
前記イオン性基がカルボキシル基である、請求項1〜のいずれか1項に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物。
【請求項6】
前記イオン性基を有する水溶性不飽和単量体が(メタ)アクリル酸(塩)を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物。
【請求項7】
前記ポリマー鎖が(メタ)アクリル酸(塩)のホモポリマーである、請求項1〜のいずれか1項に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物。
【請求項8】
重量平均分子量(Mw)が1000以上1000000以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物のチオール基が、炭素数2〜10のアシル基、及び炭素数7〜20の置換された又は非置換のベンジル基からなる群から選択される少なくとも1種の保護基により保護されてなる、チオール基含有イオン性高分子化合物誘導体。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載のチオール基含有イオン性高分子化合物と、マレイミド含有化合物、アルケン含有化合物、及びアルキン含有化合物からなる群から選択される少なくとも1種とを反応させる工程を含む、イオン性高分子化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物であるチオール基含有イオン性高分子化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性基を有する高分子化合物は、pHや塩濃度等の刺激に対して応答性を示すことから、ドラッグデリバリーや汚染物質の除去等の用途で注目されている。特に近年、その機能を改善するため、従来の直鎖状だけでなく、星型、デンドリマー、ゲル等の精密な構造を有するイオン性高分子化合物が開発されている。
【0003】
一方、医療工学や材料工学等の分野においては、チオール基を有する高分子化合物を用いる、アルケン(炭素−炭素二重結合)とのチオール−エン反応によるデンドリマーの合成(非特許文献1)や、S−Au結合形成による金(Au)の表面修飾(非特許文献2)等が広く行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C.E. Hoyle et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2010, 49, pp. 1540-1573
【非特許文献2】B.S. Sumerlin et al., Langmuir, 2003, 19, pp. 5559-5562
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような精密な構造を有する様々なイオン性高分子化合物を合成する手段のひとつとして、チオール基が導入されたイオン性高分子化合物を中間体に用いることが考えられるが、これまでのところ、そのような中間体は報告されていない。
【0006】
そこで本発明は、様々なイオン性高分子化合物の精密合成に有用なチオール基が導入された中間体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位を含むポリマー鎖を有する骨格上にチオール基を平均で2以上12以下の割合で、チオール基と、イオン性基とが互いに異なる炭素原子に結合されるように導入し、且つ多分散度(Mw/Mn)が1.00以上2.00以下となるように制御することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明のチオール基含有イオン性高分子化合物は、イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位を含むポリマー鎖を有する骨格上にチオール基を平均で2以上12以下有し、チオール基と、イオン性基とが互いに異なる炭素原子に結合されてなり、且つ多分散度(Mw/Mn)が1.00以上2.00以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオン性基を有する様々な高分子化合物の精密合成に有用な中間体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温(20〜25℃)、相対湿度40〜50%RH以下の条件で測定する。
【0011】
<チオール基含有イオン性高分子化合物>
本発明の一形態に係るチオール基含有イオン性高分子化合物は、下記(1)〜(3)の特徴を有する。
【0012】
(1)イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位を含むポリマー鎖を有する骨格上にチオール基を平均で2以上12以下有する;
(2)チオール基と、イオン性基とが互いに異なる炭素原子に結合されてなる;
(3)多分散度(Mw/Mn)が1.00以上2.00以下である。
【0013】
チオール基含有イオン性高分子化合物の一実施形態として、後述の実施例1で合成したチオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))を例に挙げて説明する。
【0014】
【化1】
【0015】
上記式で表される1−PNaA/AA(SH)は、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼン由来のコア部に、アクリル酸(塩)由来の構成単位を含むポリマー鎖が結合した、4腕の星型骨格を有する。そして、4腕のそれぞれの末端にチオール基(−SH)が導入されてなる構造を有する。1−PNaA/AA(SH)は、上記式に示すように、チオール基と、イオン性基であるカルボキシル基及びそのナトリウム塩とが、互いに異なる炭素原子に結合されてなる。さらに、実施例1で合成した1−PNaA/AA(SH)の多分散度(Mw/Mn)は1.34である。なお、式中、n(アクリル酸(塩)由来の構成単位の数)は独立して約70である。また、式中、4本のポリマー鎖中、1本のポリマー鎖中のカルボキシル基は全てナトリウム塩(COONa)として記載され、3本のポリマー鎖のカルボキシル基は全てCOOHとして記載されているが、これは便宜上の記載であり、1−PNaA/AA(SH)に含まれる全てのカルボキシル基のうちの一部がナトリウム塩となっていることを意味するものである。
【0016】
当該1−PNaA/AA(SH)は、pHや塩濃度などの刺激に対して応答性を有する高分子化合物の合成中間体として有用である。当該1−PNaA/AA(SH)を経て得られる刺激応答性高分子化合物は、例えば、医療分野、又は環境保全・再生の分野でドラッグ・デリバリー・システム用途や汚染物質除去用途等に利用されうる。また、吸水性樹脂の分野において、部分中和ポリ(メタ)アクリル酸架橋体の合成中間体としても利用することができる。以下、本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物の各特徴について詳細に説明する。
【0017】
特徴(1)
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位を含むポリマー鎖(以下、単に「ポリマー鎖」とも称する)を有する骨格上にチオール基を平均で2以上12以下有する(特徴(1))。
【0018】
本明細書において、「イオン性基」とは、溶媒中(特には水中)でイオン化する基を意味する。具体的には、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基;アンモニウム基等のカチオン性基が挙げられる。なかでも、カルボキシル基が好ましい。
【0019】
また、本明細書では、上記で挙げたアニオン性基又はカチオン性基由来の塩も「イオン性基」に含まれる。塩としては、例えば、アニオン性基由来の塩の場合、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、ナトリウム塩が好ましい。一方、カチオン性基由来の塩の場合の塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩等が挙げられる。なお、チオール基含有イオン性高分子化合物1分子中に含まれるイオン性基は、1種のみであってもよいし、2種以上が組み合わされていても構わない。また、チオール基含有イオン性高分子化合物1分子中にポリマー鎖が2以上含まれる場合の各ポリマー鎖に含まれるイオン性基についても、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上が組み合わされていても構わない。
【0020】
本明細書において、「水溶性不飽和単量体」とは、水溶性であって、不飽和結合(炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合)を有し、互いに付加重合しうる単量体を意味する。ここで、「水溶性」とは、水100g(25℃)に1g以上溶解する物質であることを意味する。
【0021】
「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体」としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸等のアニオン性基を有する水溶性不飽和単量体及びこれらの塩が挙げられる。なお、本明細書において、アクリルもしくはメタクリルのいずれか一方、又はアクリル及びメタクリルの両方を、単に「(メタ)アクリル」とも称する。また、「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体」もしくはその塩のいずれか一方、又は「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体」及びその塩の両方を、単に「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体(塩)」(例えば、(メタ)アクリル酸(塩))とも称する。
【0022】
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物に含まれるポリマー鎖は、上記の「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位」を必須に含むものであるが、「イオン性基を有さない水溶性不飽和単量体由来の構成単位」を含むものであってもよい。「イオン性基を有さない水溶性不飽和単量体」としては、例えば、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルピロリジン、N−ビニルアセトアミド等のノニオン性の親水基含有不飽和単量体が挙げられる。また、上記ポリマー鎖は、「非水溶性不飽和単量体由来の構成単位」を含むものであってもよい。例えば、医療工学分野での利用の際には、薬理活性物質や抗体を結合させた不飽和単量体や、光や糖などの刺激に応答する不飽和単量体を構成単位とすることが考えられるが、これらの不飽和単量体には、非水溶性であるものも多い。
【0023】
ここで、上述した水溶性不飽和単量体及び非水溶性不飽和単量体は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0024】
上記ポリマー鎖において、「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位」が占める割合は、当該ポリマー鎖を構成する構成単位の総数100mol%に対して、好ましくは70mol%以上であり、より好ましくは80mol%以上であり、さらに好ましくは90mol%であり、特に好ましくは95mol%以上(ただし、上限値は100mol%)である。「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位」の割合が大きいポリマー鎖とすることにより、イオン性基の持つ特性を十分に発揮させることができる。
【0025】
さらに、特に吸水性樹脂の分野においては、上記「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体」は(メタ)アクリル酸(塩)を含むことが好ましい。具体的には、本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物に含まれるポリマー鎖において、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構成単位が占める割合は、当該ポリマーを構成する構成単位の総数100mol%に対して、好ましくは70mol%以上であり、より好ましくは80mol%以上であり、さらに好ましくは90mol%であり、特に好ましくは95mol%以上であり、最も好ましくは100mol%(すなわち、ポリマー鎖が(メタ)アクリル酸(塩)のホモポリマーである形態)である。(メタ)アクリル酸(塩)由来の構成単位の割合が大きいポリマー鎖とすることにより、例えば、吸水性樹脂の分野において、部分中和ポリ(メタ)アクリル酸(塩)架橋体の合成中間体として利用することが可能となる。
【0026】
また、同様に吸水性樹脂の分野においては、上記ポリマー鎖を構成する構成単位100mol%に対し、(メタ)アクリル酸由来の構成単位0〜50mol%及び(メタ)アクリル酸塩由来の構成単位100〜50mol%(ただし、両者の合計量は100mol%以下である)の範囲にあるものが好ましく、(メタ)アクリル酸由来の構成単位10〜40mol%及び(メタ)アクリル酸塩由来の構成単位90〜60mol%(ただし、両者の合計量は100mol%以下である)の範囲にあるものがより好ましい。なお、本明細書において、この(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩との合計量に対する(メタ)アクリル酸塩のモル比を「中和率」と称する。この中和率の値は、好ましくは50〜100mol%である。
【0027】
なお、上記ポリマー鎖における「イオン性基を有する水溶性不飽和単量体由来の構成単位」の数は、特に制限されず、当業者が適宜設定することが可能であるが、上記ポリマー鎖1本当たり、好ましくは10〜200であり、より好ましくは20〜150であり、さらに好ましくは25〜100である。当該構成単位の数が上記の範囲内であると、GPCやH−NMR及び/又は13C−NMRによるキャラクタリゼーションを行いやすい。
【0028】
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、上述したポリマー鎖を有する骨格上にチオール基を平均で2以上12以下有することを特徴とする。本明細書において、「骨格」とは、本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物において、チオール基以外の構造部分を意味するものとする。
【0029】
上記骨格は、上述したポリマー鎖を少なくとも1つ含む限りにおいて、いかなる構造を有していてもよく、目的とする化合物(チオール基含有イオン性高分子化合物を反応させて得られるイオン性基を有する高分子化合物)の構造や、合成上の観点から、当業者が適宜決定することができる。例えば、直鎖状、分岐鎖状の構造を有していてもよいし、上記で例示した1−PNaA/AA(SH)のように、上記ポリマー鎖が3本以上結合した星型構造を有していてもよい。なかでも、精密合成に適するという観点から、直鎖状構造又は星型構造であることが好ましく、星型構造であることがより好ましい。
【0030】
上記骨格が星型構造である場合の、コア部を構成する原子団は特に制限されず、任意の多官能性化合物又はこれを修飾した化合物を用いることができる。当該多官能性化合物としては、例えば、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼン等のハロゲン化化合物;ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、アラビトール、マンニトール等のポリオール;トリエチレンテトラミン等のポリアミン等が挙げられる。この際に準備するコアとしての多官能性化合物の価数(官能基の数)によって、得られる骨格の腕の数が決定される。例えば、4価のハロゲン化アルキルである1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンをコアとして用いると、4本の腕を有する星型構造の骨格が得られる。また、多官能性化合物の修飾操作としては、例えばペンタエリスリトールのヒドロキシ(−OH)基)に対してアシル化合物を反応させてエステル化するといった操作が例示される。このように多官能性化合物を修飾しておくことで、これに続くポリマー鎖の導入を有利に進行させることが可能となる。
【0031】
上記骨格の合成方法は特に制限されず、従来公知の手法を適宜参照することができる。上記1−PNaA/AA(SH)の場合を例に挙げると、原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)法により、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンにtert−ブチルアクリレートを重合させることによってコアから4本のポリマー鎖が伸長した4腕の星型構造へと導くことができる。上記の方法のように、イオン性基を有する水溶性不飽和単量体としてのアクリル酸は、予めtert−ブチル基等の保護基で保護し、重合反応に用いていることが好ましい。このように、イオン性基を予め保護基で保護することにより、重合反応におけるイオン性基の影響を抑えることができるため、本形態に係るチオール基含有イオン性高分子化合物の分子量や多分散度(分子量分布)をより厳密に制御することが可能となる。なお、カルボキシル基の保護基として、例えば、tert−ブチル基、メチル基、アミド基などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0032】
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、上記骨格上にチオール基を平均で2以上12以下有することを特徴とする。すなわち、本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、1分子あたりチオール基を平均で2以上12以下有する、多官能チオールである。当該1分子あたりのチオール基の数は、合成の目的とする化合物により適宜設定されうるが、好ましくは2以上12以下であり、より好ましくは2以上8以下であり、さらに好ましくは2以上4以下であり、最も好ましくは3以上4以下である。なお、本明細書において、チオール基含有イオン性高分子化合物1分子あたり含まれるチオール基の数は、後述の実施例に記載のエルマン法により確認することができる。
【0033】
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、より精密な合成を達成する観点から、1分子あたりが有するチオール基の数のばらつきが小さいものであることが好ましい。1分子あたりが有するチオール基の数のばらつきは、以下の方法により評価することができる。
【0034】
すなわち、チオール基含有イオン性高分子化合物と、チオール基と反応する官能基(例えばマレイミド基)を1分子中に1つ有するポリマー(以下、「ポリマーA」と称する)とを反応させ、反応前後で多分散度(Mw/Mn)がどの程度大きくなったか(すなわち、分子量分布がどの程度広がったか)を測定する方法である。チオール基含有イオン性高分子化合物1分子中に含まれるチオール基の数が完全に揃っている(ばらつきがない)場合には、反応により、全ての分子に同じ数のポリマーAが付加するため、反応前後では、一様に分子量が増加するだけで多分散度(Mw/Mn)は大きくならない。それに対し、チオール基含有イオン性高分子化合物1分子中に含まれるチオール基の数が不揃いである(ばらつきがある)場合、付加するポリマーAの数が分子により異なるため、分子毎の反応前後での分子量の増加の程度が一定ではなくなり、多分散度(Mw/Mn)は大きくなる。この反応前の多分散度を(Mw/Mn反応前)とし、反応後の多分散度を(Mw/Mn反応後)とした場合、((Mw/Mn反応後)/(Mw/Mn反応前))の値は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.25以下、さらに好ましくは1.15以下、特に好ましくは1.10以下、最も好ましくは1.05以下である。
【0035】
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物では、上記骨格上におけるチオール基の位置は特に制限されないが、変換反応により得られる高分子化合物の形態を制御しやすくする観点、及びチオール基の反応性を向上させる観点から、チオール基が骨格の末端に位置することが好ましい。なお、本明細書において、「骨格の末端」とは、骨格上に存在する任意の炭素原子2個のうち、当該2個の炭素原子間の結合距離が最長となる炭素原子2個を意味するものとする。なお、例えば、上記骨格がX本の腕を有する星型構造である場合は、各腕について末端の炭素原子が存在するため、末端の炭素原子はX個存在することとなる。多くの用途においては、末端の炭素原子すべてにチオール基が存在することが好ましい。しかしながら、本明細書において「チオール基が骨格の末端に位置する」という場合は、あくまでも上記で定義した「骨格の末端」に該当する2個の炭素原子にチオール基が結合していることを意味するのであって、その他の末端の炭素原子上のチオール基の有無は問題としないこととする。
【0036】
またこれとは別に、本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、チオール基の導入位置を制御するという合成上の観点から、制御が比較的容易なポリマー鎖以外の部分にチオール基が導入されてなるものであることが好ましい。すなわち、ポリマー鎖の両末端以外の構成単位(繰り返し単位)に直接又はリンカーを介してチオール基が導入された構造を有しないことが好ましい。
【0037】
上記骨格上にチオール基を導入する方法は特に制限されず、従来公知の手法を適宜参照することができる。上記1−PNaA/AA(SH)の場合を例に挙げると、上述のようにATRP法を用いて伸長されたポリマー鎖の末端のブロモ基(−Br)をアジド基(−N)に変換した後、チオ酢酸S−(4−ペンチニル)とのヒュスゲン(Huisgen)環化付加反応をすることにより、骨格上にアセチル基で保護されたチオール基を導入する。そして、チオール基を脱保護することにより、本形態に係るチオール基含有イオン性高分子化合物を得ることができる。
【0038】
なお、本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、チオール基がフリーの状態では不安定であるため、チオール基を保護基で保護した誘導体の形態で、流通し、保管し、取り扱うことが好ましい。したがって、本発明の他の一形態によると、上記チオール基含有イオン性高分子化合物のチオール基が保護基により保護されてなる、チオール基含有イオン性高分子化合物誘導体が提供される。
【0039】
上記チオール基含有イオン性高分子化合物誘導体におけるチオール基の保護基は特に制限されないが、例えば、炭素数1〜10のアシル基(具体的にはホルミル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基など)や、炭素数7〜20の置換された又は非置換のベンジル基(具体的にはベンジル基、パラメトキシベンジル基、パラニトロベンジル基、オルトニトロベンジル基など)などが挙げられる。なかでも、合成及び脱保護の容易さの観点から、炭素数2〜7のアシル基や炭素数7〜10の置換された又は非置換のベンジル基が好ましく、アセチル基がより好ましい。これらの保護基は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0040】
特徴(2)
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、チオール基と、イオン性基とが互いに異なる炭素原子に結合されてなることを特徴とする。チオール基とイオン性基とが互いに異なる炭素原子に結合されていると、チオール基含有イオン性高分子化合物の合成過程において、副反応が進行し、所定の多分散度を有するチオール基含有イオン性高分子化合物を得ることが困難となるため、好ましくない。なお、チオール基含有イオン性高分子化合物において、チオール基と、イオン性基とが互いに異なる炭素原子に結合されているか否かは、H−NMR及び/又は13C−NMRを用いて判別することが可能である。イオン性基がカルボキシル基である場合を例に挙げると、チオール基とカルボキシル基とが同一の炭素原子に結合されていると、H−NMR又は13C−NMR測定において、当該炭素原子に結合するプロトン(メチン(CH)基のプロトン)の化学シフト又は当該炭素原子の化学シフトがカルボキシル基の影響によりそれぞれ低磁場側(高ppm側)にシフトするのが観測される。
【0041】
特徴(3)
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、多分散度(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が1.00以上2.00以下であることを特徴とする。多分散度(Mw/Mn)が2.00超である(分子量分布が大きい)と、上記ポリマー鎖の長さが不均一であるなどの理由から、精密合成の中間体としては不適当であるし、チオール基含有イオン性高分子化合物1分子中に含まれるチオール基の数の平均値やばらつきの程度の定量も困難となる。当該多分散度(Mw/Mn)は、好ましくは1.00以上1.75以下であり、より好ましくは1.00以上1.50以下であり、さらに好ましくは1.00以上1.35以下である。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、多分散度(Mw/Mn)は、後述の実施例に記載のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた方法により測定される値を採用する。
【0042】
チオール基含有イオン性高分子化合物の多分散度を上記範囲とするための、チオール基含有イオン性高分子化合物の製造方法は、特に制限されず、従来公知の手法を適宜参照することができる。一例を挙げると、上記ポリマー鎖の部分をリビング重合(リビングラジカル重合、リビングカチオン重合)を用いて合成することにより、多分散度を所定の範囲内に制御することが可能である。
【0043】
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は、合成の目的とする化合物の構造により、適宜設定することが可能であるが、好ましくは1000〜1000000であり、より好ましくは5000〜200000であり、さらに好ましくは10000〜100000である。重量平均分子量(Mw)が上記範囲内であると、吸水性樹脂としての利用に適した架橋密度を有する、部分中和ポリ(メタ)アクリル酸(塩)架橋体の合成に用いることができる。
【0044】
<用途>
本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、種々のイオン性基を有する高分子化合物の精密合成に有用である。本発明の一形態によると、チオール基含有イオン性高分子化合物と、マレイミド含有化合物、アルケン含有化合物、及びアルキン含有化合物からなる群から選択される少なくとも1種との反応により、種々のイオン性基を有する高分子化合物を製造することができる。これらの反応を行う際、副反応であるチオールの酸化によるジスルフィド結合形成の生成を抑制するため、反応溶液のpHを8以下にし、反応容器内を窒素雰囲気とすることが好ましいが、それでも当該副反応の進行抑制が十分でない場合には、ホスフィンなどの還元剤を用いることも可能である。これらの反応により得られる当該高分子化合物は、イオン性基を有するポリマー鎖を有しているため、pHや塩濃度などの刺激に対して応答性を有する刺激応答性高分子化合物として、医療工学や、材料工学の分野で、例えば、ドラッグ・デリバリー・システム用途等に好適に利用されうる。
【0045】
上記ポリマー鎖をポリ(メタ)アクリル酸(塩)とした場合には、吸水性樹脂として利用される部分中和(メタ)ポリアクリル酸(塩)架橋体の合成に用いることも可能である。特に、後述の実施例で示すように、チオール基を有する4腕を有する星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))と、マレイミド基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(MA))との反応により、正四面体の繰り返し構造を有する部分中和ポリアクリル酸架橋体を得ることができる。
【0046】
また、本形態のチオール基含有イオン性高分子化合物は、金(Au)との反応でS−Au結合を形成する。よって、金(Au)の表面の表面修飾(例えば、自己組織化(Self−Assembly:SA)法)として用いることも可能である。
【0047】
なお、当然のことながら、製造方法の発明にあっては、当該製造方法によって得られる物(本発明で言えば、上記製造方法で得られるイオン性高分子化合物)についても特許権の効力が及ぶ。イオン性高分子化合物が、上記製造方法を経て得られたものであるか否かは、特に、得られるイオン性高分子化合物中に未反応のチオール基含有イオン性高分子化合物が存在するか否かで容易に判断することができる。チオール基含有イオン性高分子化合物の有無については、後述の実施例に記載のエルマン法等により確認することができる。
【実施例】
【0048】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
<チオール基含有イオン性高分子化合物1分子あたりのチオール基の数の平均値>
下記のエルマン法を用いて、チオール基含有イオン性高分子化合物1分子あたりのチオール基の数の平均値を求めた。
【0049】
中性リン酸緩衝液(25mMリン酸2水素カリウム、25mMリン酸水素2ナトリウム)を調製した。この中性リン酸緩衝液中に、エルマン試薬(5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸))を、濃度0.1mMとなるように溶解させた。また、別途、中性リン酸緩衝液中に、チオール基含有イオン性高分子化合物を、濃度0.05mMとなるように溶解させた。
【0050】
上記の0.1mMエルマン試薬溶液3mlに、0.05mMチオール基含有イオン性高分子化合物溶液1mlを加え、室温で3時間静置した。その後、溶液の412nmの吸光度を吸光光度計で測定した。この412nmにおける吸光は、チオール基含有イオン性高分子化合物中のチオール基とエルマン試薬との等量反応により生じる2−ニトロ−5−メルカプト安息香酸に由来するものである。2−ニトロ−5−メルカプト安息香酸の中性リン酸緩衝液でのモル吸光係数(14150/M・cm)に基づき、吸光度の測定値から溶液中のチオール基の総数(単位;μmol)を算出した。上記ではチオール基含有イオン性高分子化合物は0.05μmolであるので、(算出されたチオール基の総数)/0.05の式により、チオール基含有イオン性高分子化合物1分子あたりのチオール基の数の平均値を求めた。
【0051】
<多分散度(Mw/Mn)>
(試料調製)
ポリマーを下記の溶離液に溶解させて0.02重量%の溶液とし、フィルター(ジーエルサイエンス社製、GLクロマトディスク、水系25A、孔径0.2μm)を通過させた後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を以下の条件で行った。
【0052】
(GPC測定条件)
ビスコテック社製TDA302(登録商標)を用いて、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び多分散度(Mw/Mn)の測定を行った。当該測定装置は、サイズ排除クロマトグラフィー、屈折率検出器、光散乱検出器、及びキャピラリー粘度計から構成されている。測定装置及び測定条件の詳細は以下の通りとした。
【0053】
ポンプ、オートサンプラー:ビスコテック社製GPCmax
ガードカラム:OHpak SB−G(昭和電工株式会社製)
カラム:OHpak SB−806MHQ(昭和電工株式会社製)×2本直列接続
検出器:ビスコテック社製TDA302(系内温度を30℃に保持)
溶離液:リン酸2水素ナトリウム2水和物60mM・リン酸水素2ナトリウム12水和物20mM・アジ化ナトリウム400ppm水溶液(pH6.35〜6.38)
流速:0.5ml/min
注入量:100μl。
【0054】
本測定に使用する純水は、十分に不純物を取り除いたものを使用した。また、測定は十分な量の溶媒を装置に流し、検出器のベースラインが安定した状態で行った。特に、光散乱検出器でのノイズがない状態で測定を行った。
【0055】
装置の校正は、ポリオキシエチレングリコール(重量平均分子量(Mw)22396、多分散度(Mw/Mn)1.0、示差屈折率(dn/dc)0.132、溶媒屈折率1.33)を標準サンプルとして用いて行った。また、分析対象のチオール基含有イオン性高分子化合物については、その示差屈折率(dn/dc)を0.132、溶媒屈折率を1.33とした。
【0056】
屈折率、光散乱強度、粘度のデータ収集及び解析は、Viscotek OmniSEC3.1(登録商標)ソフトウェアを用いて行った。屈折率(RI)及び光散乱強度(角度7°)LALS、粘度計(DP)から得られたデータより、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、多分散度(Mw/Mn)、固有粘度(IV)を算出した。なお、本明細書において、固有粘度(IV)は極限粘度(IV)と同義である。
【0057】
[実施例1]
<チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))の合成>
【0058】
【化2】
【0059】
(4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(Br))の合成)
【0060】
【化3】
【0061】
攪拌子を入れた、窒素で満たされた300mlナスフラスコ中で、臭化銅(I)800mgと2,2’−ビピリジン1.8gとを炭酸エチレン5.0gに溶解させた。そこにt−ブチルアクリレート110mlと1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼン0.34gを加え、反応液とした。この反応液を80℃の油浴中で2時間加熱撹拌した。得られた溶液を0℃の水浴につけて冷やし、ジエチルエーテル100mlを加えてから空気雰囲気下にて15分間攪拌した後に、減圧乾燥し、4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(Br))の粗生成物を得た。この粗生成物をジエチルエーテル100mlに溶解させた溶液を分液ロートに移し、純水100mlを加えて振り混ぜた。回収した有機層を分液ロートに移し、再び純水100mlを加えて振り混ぜた。得られた有機層を減圧乾燥することにより、固体の4腕の星型ポリアクリル酸t−(1−PtBA(Br))を得た。
【0062】
(4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(N))の合成)
【0063】
【化4】
【0064】
攪拌子を入れた、窒素で満たされた50mlナスフラスコ中で、上記で得た4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(Br))20gとアジ化ナトリウム1.56gとを、ジメチルホルムアミド100mlに溶解させ、反応液とした。この反応液を室温下で18時間攪拌した後、減圧乾燥し、4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(N))の粗生成物を得た。この粗生成物をジエチルエーテル100mlに溶解させた溶液を分液ロートに移し、純水100mlを加えて振り混ぜた。回収した有機層を分液ロートに移し、再び純水100mlを加えて振り混ぜた。得られた有機層を減圧乾燥することにより、固体の4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(N))を得た。
【0065】
(4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(SAc))の合成)
【0066】
【化5】
【0067】
攪拌子を入れた、窒素で満たされた50mlナスフラスコ中で、上記で得た4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(N))7.5g、下記式A:
【0068】
【化6】
【0069】
で表されるチオ酢酸S−(4ペンチニル)350mg、臭化銅(I)250mgをジメチルホルムアミド30mlに溶解させた。そこにペンタメチルジエチレントリアミン400mgを加え、反応液とした。この反応液を室温下で18時間攪拌した後、減圧乾燥し、4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(SAc))の粗生成物を得た。この粗生成物をジエチルエーテル100mlに溶解させた溶液を分液ロートに移し、純水100mlを加えて振り混ぜた。回収した有機層を分液ロートに移し、再び純水100mlを加えて振り混ぜた。得られた有機層を減圧乾燥し、生じた固体をヘキサン50mlで3回洗浄することにより、固体の4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(SAc))を得た。
【0070】
(4腕の星型ポリアクリル酸(1−PAA(SAc))の合成)
【0071】
【化7】
【0072】
攪拌子を入れた、窒素で満たされた50mlナスフラスコ中に、上記で得た4腕の星型ポリアクリル酸t−ブチル(1−PtBA(SAc))3gを移し、ジクロロメタン12mlに溶かした。そこにトリフルオロ酢酸6mlを加え、16時間攪拌した。この際、徐々にトリフルオロ酢酸によるt−ブチル基の脱保護反応が進行し、ポリマーはジクロロメタンとトリフルオロ酢酸の混合液に溶けなくなり、析出する。反応容器から液体を除去し、残った固体を減圧乾燥することにより、4腕の星型ポリアクリル酸(1−PAA(SAc))の粗生成物を得た。この粗生成物をテトラヒドロフラン(THF)15mlに溶解させ、減圧乾燥した後、得られた固体にアセトン15mlを加えて攪拌した。攪拌を止めた後、上澄み液を除き、再度アセトン15mlを加えて攪拌した。攪拌を止めた後、上澄み液を除き、得られた固体を減圧乾燥することにより、固体の4腕の星型ポリアクリル酸(1−PAA(SAc))を得た。
【0073】
(チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))の合成)
【0074】
【化8】
【0075】
攪拌子を入れた、窒素で満たされたガラスバイアル中に、上記で得た4腕の星型ポリアクリル酸(1−PAA(SAc))10mgを量り入れ、純水20μlと2MのNaOH水溶液80μlを加えて10分間攪拌し、カルボキシル基の中和及びチオール基の脱保護を行った。そこに2MのHCl水溶液30μlを加えることにより、チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))の水溶液を得た。
【0076】
この、チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))の数平均分子量Mnは26,922であり、多分散度(Mw/Mn)は1.34であった。
【0077】
また、測定の結果、ポリマー1分子中のチオール基(SH)の数は4.05であると算出され、ポリマー1分子当り、4つのチオール基を有していることが確認された。
【0078】
さらに、H−NMR測定の結果、チオール基(SH)が結合しているメチレン基(−CH−)のプロトンに由来するピークが2ppm付近に現れた。チオール基(SH)とカルボキシル基(COOH)とが、同じ炭素原子に結合している場合、その炭素原子のプロトンのピークは3.5ppm付近に現れるが、そのようなピークは観測されなかった。このことから、チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))のチオール基は、カルボキシル基と同じ炭素原子に結合していないことが確認された。
【0079】
[実施例2]
<チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))とマレイミド化合物との反応>
【0080】
【化9】
【0081】
実施例1で、(1−PAA(SAc))10mgを変換することにより得た、チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))の水溶液と、プロパルギルマレイミド0.5mgを100μlの純水に溶解させて得た水溶液とを混合し、1時間攪拌することにより、アルキン官能基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(アルキン))を得た。
【0082】
[実施例3]
<チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))とマレイミド基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(MA)との反応>
【0083】
【化10】
【0084】
実施例1で、(1−PAA(SAc))10mgを変換することにより得た、チオール基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(SH))の水溶液と、マレイミド基を有する4腕の星型部分中和ポリアクリル酸(1−PNaA/AA(MA))(数平均分子量Mn=26,185、分子量分布Mw/Mn=1.32)10mgを120μlの純水に溶解させて得た水溶液とを混合し、1時間静置することにより、PNaA/AA水膨潤ゲルを得た。