特許第6835558号(P6835558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6835558スチレン系エラストマー樹脂組成物、スチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物、耐熱粘着フィルム、表面保護フィルム及び耐熱粘着フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835558
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】スチレン系エラストマー樹脂組成物、スチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物、耐熱粘着フィルム、表面保護フィルム及び耐熱粘着フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20210215BHJP
   C08F 2/48 20060101ALI20210215BHJP
   C08F 287/00 20060101ALI20210215BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20210215BHJP
   C09J 125/04 20060101ALI20210215BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20210215BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20210215BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C08F2/44 C
   C08F2/48
   C08F287/00
   C09J7/30
   C09J125/04
   B32B25/14
   B32B27/00 M
   B32B27/30 B
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-238618(P2016-238618)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-106015(P2017-106015A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2019年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-239597(P2015-239597)
(32)【優先日】2015年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郭 嘉謨
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 克典
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−195792(JP,A)
【文献】 特開平07−090228(JP,A)
【文献】 特開2007−279234(JP,A)
【文献】 特開昭57−047308(JP,A)
【文献】 特開2014−152295(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/068558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00− 2/60
6/00−283/00
283/02−289/00
291/00−297/08
C09J 1/00−201/10
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有し、
前記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーは、分子内にラジカル重合性二重結合を2以上有する多官能アクリレート又は多官能メタクリレートであり、
前記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量は、前記スチレン系エラストマーの水素添加物100重量部に対して0.1〜50重量部である
ことを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系エラストマーの水素添加物は、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー又はスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン(SEPS)ブロックコポリマーであることを特徴とする請求項1記載のスチレン系エラストマー樹脂組成物。
【請求項3】
水素引抜型光開始剤は、ベンゾフェノンであることを特徴とする請求項1又は2記載のスチレン系エラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
水素引抜型光開始剤の含有量がスチレン系エラストマーの水素添加物100重量部に対して0.1〜5重量部であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のスチレン系エラストマー樹脂組成物。
【請求項5】
スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物に光を照射して架橋させた光架橋物であって、
前記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーは、分子内にラジカル重合性二重結合を2以上有する多官能アクリレート又は多官能メタクリレートであり、
前記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量は、前記スチレン系エラストマーの水素添加物100重量部に対して0.1〜50重量部である
ことを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物。
【請求項6】
基材層と粘着剤層とを有する耐熱粘着フィルムであって、
前記粘着剤層は、スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物を含有し、
前記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーは、分子内にラジカル重合性二重結合を2以上有する多官能アクリレート又は多官能メタクリレートであり、
前記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量は、前記スチレン系エラストマーの水素添加物100重量部に対して0.1〜50重量部である
ことを特徴とする耐熱粘着フィルム。
【請求項7】
粘着剤層は、更に、粘着付与剤を含有することを特徴とする請求項6記載の耐熱粘着フィルム。
【請求項8】
請求項6又は7記載の耐熱粘着フィルムからなることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項9】
基材層と、スチレン系エラストマーの水素添加物、水素引抜型光開始剤及びラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物を含有する未架橋粘着剤層とを有する積層体を調製する工程と、
前記積層体の前記未架橋粘着剤層に光を照射する工程とを有する耐熱粘着フィルムの製造方法であって、
前記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーは、分子内にラジカル重合性二重結合を2以上有する多官能アクリレート又は多官能メタクリレートであり、
前記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量は、前記スチレン系エラストマーの水素添加物100重量部に対して0.1〜50重量部である
ことを特徴とする耐熱粘着フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させないスチレン系エラストマー樹脂組成物、該スチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物、耐熱粘着フィルム、耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルム及び耐熱粘着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着フィルムは簡便に接合が可能なことから各種産業分野に用いられている。建築分野では養生シートの仮固定、内装材の貼り合わせ等に、自動車分野ではシート、センサー等の内装部品の固定、サイドモール、サイドバイザー等の外装部品の固定等に、電気電子分野ではモジュール組み立て、モジュールの筐体への貼り合わせ等に粘着フィルムが用いられている。より具体的には例えば、光学デバイス、金属板、塗装した金属板、樹脂板、ガラス板等の部材の表面を保護するための表面保護フィルムとしても粘着フィルムが広く用いられている(例えば、特許文献1〜3)。特に、近年、表面保護フィルムは、液晶ディスプレイ用の光学部材の表面を保護するために使用されている。光学部材には、プリズムシート、拡散フィルム等のように片側又は両側の表面に凹凸形状を有するものがあり、この凹凸形状に損傷を与えないために、光学部材の使用に先立ち、その表面を表面保護フィルムで保護している。
粘着フィルムには、用途に応じて高い粘着力が求められる。例えば、表面に凹凸形状を有する被着体に貼着する場合、大きな接触面積を得ることができず被着体と粘着フィルムとの界面で剥離が生じやすい。このような用途では、粘着フィルムに特に高い粘着力が要求される。
【0003】
粘着フィルムの粘着剤層として、スチレン系エラストマーを用いることが検討されているが、スチレン系エラストマーを用いた粘着剤層は表面に凹凸形状を有する被着体に貼着する表面保護フィルム等の用途には粘着力が不充分であるという問題があった。一般に、粘着力を向上させるには粘着剤層における粘着付与剤の配合量を増やすことが有効である。しかしながら、粘着フィルムは、特に被着体が表面に凹凸形状を有する場合には、経時又は高温下で被着体と粘着剤層との間の接触面積が増加することによる粘着力の上昇、いわゆる粘着昂進の問題が生じることが知られている。
【0004】
粘着昂進を防止する方法としては、ブリード剤(例えば、エチレンビス−ステアリン酸アミド等)等の低分子成分や溶剤を粘着剤層に配合することが一般的である。しかしながら、ブリード剤等の低分子成分や溶剤を配合した粘着フィルムは、被着体から剥離したときに、被着体の表面に低分子成分や溶剤が残留して汚染してしまうことがあるという問題があった。例えば、近年の光学部材を保護する表面保護フィルムには、光学部材から剥離した後に、光学部材の表面を汚染しないことが要求される。光学部材の表面が汚染されて表面張力が低下すると、表面保護フィルムを剥離した後の光学部材の表面に接着剤やハードコート剤等を塗布したときに、微小な塗布ムラが発生して、製品に組み上げた時に輝度や色ムラ不良が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−129085号公報
【特許文献2】特開平6−1958号公報
【特許文献3】特開平8−12952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させないスチレン系エラストマー樹脂組成物、該スチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物、耐熱粘着フィルム、耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルム及び耐熱粘着フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物は、高温によっても反応せず容易に押し出し成形可能である一方、光を照射することにより架橋させることができることを見出した。水素引抜型光開始剤は、高温下でも安定性が高く、スチレン系エラストマーの水素添加物の通常の押し出し成形温度(100〜220℃程度)では活性化しない。しかしながら、水素引抜型光開始剤に光を照射すると活性化してラジカルを生じ、該ラジカルがスチレン系エラストマーの水素添加物中のC−Hの水素を引き抜き、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを介して架橋反応が起こると考えられる。
本発明者らは、更に、該スチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物を粘着剤層として用いることにより、ブリード剤等の低分子成分や溶剤を配合することなく粘着剤層の接着昂進を抑制することができる耐熱粘着フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明のスチレン系エラストマー樹脂組成物は、スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤とを含有する。
上記スチレン系エラストマーの水素添加物は、室温でゴム弾性(rubber elasticity)を有するものであれば特に限定されないが、ハードセグメントと呼ばれるポリスチレン層と、エチレン−ブチレン、エチレン−プロピレン、エチレン−ブタジエン等のソフトセグメントとのジブロック又はトリブロック構造を有するスチレン系エラストマーの水素添加物が好適である。
【0010】
上記スチレン系エラストマーとしては、具体的には例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン(SBBS)ブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)ブロック共重合体が挙げられる。
上記スチレン系エラストマーの水素添加物として、具体的には例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)ブロック共重合体、水添スチレン−ブチレンゴム(HSBR)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン(SEPS)ブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレン(SIBS)ブロック共重合体が挙げられる。
これらのスチレン系エラストマー又はその水素添加物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、熱及び光に比較的安定であることから、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー又はスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン(SEPS)ブロックコポリマーが好適である。
【0011】
上記スチレン系エラストマーの水素添加物は、部分水素添加物であってもよく、完全水素添加物であってもよい。なかでも、より優れた耐熱性及び耐候性が得られることから、共役ジエン化合物単位の二重結合(不飽和結合)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上が水素添加により飽和結合に変換されていることが好ましい。
なお、水素添加の比率(水素添加率)は、四塩化炭素を溶媒として用い、270MHzでのH−NMRスペクトルから算出した水素添加率を意味する。
【0012】
上記水素引抜型光開始剤は、光を照射することにより活性化して、活性ラジカルを生じるものである。
上記水素引抜型光開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾフェノン、チオキサントン、ミヒラーズケトン等が挙げられる。これらの水素引抜型光開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、光照射時の活性に優れるとともに、高温下での安定性に特に優れ、上記スチレン系エラストマーの水素添加物の押し出し温度ではほとんど活性化しないことから、ベンゾフェノンが好適である。
【0013】
上記水素引抜型光開始剤の含有量は特に限定されないが、上記スチレン系エラストマーの水素添加物100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が5.0重量部である。上記水素引抜型光開始剤の含有量が0.1重量部未満であると、光を照射しても充分に架橋せずに、所期の効果を発揮できないことがあり、5.0重量部を超えると、耐候性が悪化し黄変が生じることがある。上記水素引抜型光開始剤の含有量のより好ましい下限は0.3重量部、より好ましい上限は3.0重量部であり、更に好ましい下限は0.4重量部、更に好ましい上限は1.5重量部であり、特に好ましい下限は0.5重量部、特に好ましい上限は1.0重量部である。
【0014】
本発明のスチレン系エラストマー樹脂組成物は、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを含有する。
上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーは、光を照射時にスチレン系エラストマー間を架橋する橋の役割を果たす。特に高い架橋密度が要求される場合には、分子内にラジカル重合性二重結合を2以上有する多官能モノマー又はオリゴマーが好適である。
【0015】
上記多官能モノマー又はオリゴマーは、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシトリメチロールプロパントリアクリレート、ジメチロールプロパントリアクリレート又は上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。その他、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレート、上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。これらの多官能モノマー又はオリゴマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーは、分子量が1万以下であるものが好ましい。分子量が1万以下のラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを用いれば、光の照射により三次元網状化が効率よくなされる。上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの分子量は5000以下であることがより好ましい。
【0017】
上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量は特に限定されないが、上記スチレン系エラストマーの水素添加物100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が40重量部である。上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量がこの範囲内であると、確実に架橋させることができる一方、押出成型時の加熱によって粒状の局所架橋が生じてしまうこともない。上記ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は25重量部であり、更に好ましい下限は1重量部、更に好ましい上限は15重量部であり、特に好ましい上限は8重量部である。
【0018】
本発明のスチレン系エラストマー樹脂組成物は、更に必要に応じて、接着力調整剤、粘着付与樹脂、可塑剤、乳化剤、軟化剤、微粒子、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、酸化防止剤、界面活性剤、ワックス等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0019】
本発明のスチレン系エラストマー樹脂組成物は、光を照射することにより架橋させることができる。
上記光照射の方法としては特に限定されず、例えば、超高圧水銀灯等の紫外線照射装置を用いて、成形後のスチレン系エラストマー樹脂組成物に照射する方法が挙げられる。
上記光照射時の光の波長や照度は、上記水素引抜型光開始剤の種類等により適宜設定すればよい。例えば、上記水素引抜型光開始剤としてベンゾフェノンを用いる場合には、250〜400nmの波長の光を、10mW/cmの照度で10秒間〜30分間照射することが好ましい。
スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物に光を照射して架橋させた光架橋物であるスチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物もまた、本発明の1つである。
【0020】
本発明のスチレン系エラストマー樹脂組成物を用いれば、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させない耐熱粘着フィルムを得ることができる。
基材層と粘着剤層とを有する耐熱粘着フィルムであって、上記粘着剤層は、スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物を含有する耐熱粘着フィルムもまた、本発明の1つである。
【0021】
なお、本発明の優れた効果は、スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物を光架橋することによりはじめて発揮できるものである。しかしながら、架橋後の光架橋物は、貯蔵弾性率等により間接的に表すことは可能であっても、スチレン系エラストマー間の架橋状態等を直接的に特定することは極めて困難である。「スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物に光を照射して架橋させた光架橋物」を、その構造又は特性により直接特定することは、不可能であるか、又はおよそ実際的でないといわざるを得ない。従って、本発明においては、「スチレン系エラストマーの水素添加物と、水素引抜型光開始剤と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーとを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物に光を照射して架橋させた光架橋物」と記載することは許容されるべきである。
【0022】
本発明の耐熱粘着フィルムは、基材層と粘着剤層とを有する。
上記基材層は特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂を含有することが好ましい。
上記ポリオレフィン樹脂は特に限定されず、従来公知のポリオレフィン樹脂を用いることができ、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂等が挙げられる。
上記ポリプロピレン樹脂として、例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等が挙げられる。上記ポリエチレン樹脂として、例えば、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。なかでも、透明性、剛性、耐熱性の観点からポリプロピレン樹脂が好ましく、ホモポリプロピレン、又は、プロピレンと少なくとも1種のα−オレフィンとの共重合体がより好ましい。
【0023】
上記基材層は、本発明の効果を損なわない範囲内で、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤、耐候剤、結晶核剤等の添加剤、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、エラストマー等の樹脂改質剤を含有してもよい。
【0024】
上記基材層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は25μm、好ましい上限は200μmである。上記基材層の厚さが25μm未満であると、取扱い時に耐熱粘着フィルムが折れやすくなることがある。上記基材層の厚さが200μmを超えると、上記基材層に巻きぐせが残ることがある。上記基材層の厚さのより好ましい下限は50μm、より好ましい上限は188μmである。
【0025】
上記粘着剤層は、本発明のスチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物を含有する。このような光架橋物を含有することにより、上記粘着剤層がブリード剤等の低分子成分や溶剤を配合することなく、粘着剤層の接着昂進を抑制することができ耐熱粘着フィルムが得られる。
【0026】
上記粘着剤層は、更に、粘着付与剤を含有してもよい。
上記粘着付与剤は特に限定されないが、軟化点が80℃以上であることが好ましく、90〜140℃であることがより好ましい。上記粘着付与剤として、例えば、脂肪族共重合体、芳香族共重合体、脂肪族芳香族共重合体、脂環式共重合体等の石油系樹脂、クマロン−インデン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、重合ロジン等のロジン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、及び、これらの水素添加物等が挙げられる。また、ポリオレフィン樹脂との混合物として市販されている粘着付与剤を用いてもよい。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記粘着剤層の剥離性、耐候性等を高めるためには、上記粘着付与剤は、水素添加物であることが好ましい。
【0027】
上記粘着付与剤の含有量は特に限定されないが、上記スチレン系エラストマー樹脂組成物中のスチレン系エラストマー100重量部に対する好ましい下限は3重量部、好ましい上限は50重量部である。上記粘着付与剤の含有量がこの範囲内であると、特に高い初期粘着力を発揮しながら、被着体の表面から耐熱粘着フィルムを剥離する際に被着体の表面に粘着剤が残存(糊残り)するのを防止することができる。上記粘着付与剤の含有量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は40重量部である。
【0028】
上記粘着剤層は、粘着力の制御等を目的に、必要に応じて、例えば、軟化剤、酸化防止剤、接着昂進防止剤等の添加剤を含有してもよい。
上記粘着剤層は、被着体を汚染する恐れがあることから、ブリード剤等の低分子成分や溶剤を含有しないことが好ましい。
【0029】
上記粘着剤層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は3μm、好ましい上限は30μmである。上記粘着剤層の厚さが3μm未満であると、上記粘着剤層の粘着力が低下することがある。上記粘着剤層の厚さが30μmを超えると、被着体の表面から耐熱粘着フィルムを剥離する際に、耐熱粘着フィルムを剥がしにくくなることがある。上記粘着剤層の厚さのより好ましい下限は5μm、より好ましい上限は20μmである。
【0030】
本発明の耐熱粘着フィルムを製造する方法は特に限定されず、例えば、予め上記基材層と上記スチレン系エラストマー樹脂組成物を含有する未架橋粘着剤層とを有する積層体を調製し、該積層体の未架橋粘着剤層に光を照射する方法が挙げられる。
基材層と、スチレン系エラストマーの水素添加物、水素引抜型光開始剤及びラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーを含有するスチレン系エラストマー樹脂組成物を含有する未架橋粘着剤層とを有する積層体を調製する工程と、上記積層体の上記未架橋粘着剤層に光を照射する工程とを有する耐熱粘着フィルムの製造方法もまた、本発明の1つである。
上記光の照射条件は特に限定されないが、上記水素引抜型光開始剤としてベンゾフェノンを用いる場合には、250〜400nmの波長の光を、10mW/cmの照度で10秒間〜30分間照射することが好ましい。
【0031】
上記積層体は、例えば、予めTダイ成形又はインフレーション成形にて得られた基材層上に、押出ラミネーション、押出コーティング等の公知の積層法により上記スチレン系エラストマー樹脂組成物を含有する未架橋粘着剤層を積層する方法、基材層と上記スチレン系エラストマー樹脂組成物を含有する未架橋粘着剤層を独立してフィルムとした後、得られた各々のフィルムをドライラミネーションにより積層する方法、基材層を構成する樹脂と上記スチレン系エラストマー樹脂組成物とをTダイ法により共押出成形する方法等により製造することができる。
【0032】
本発明の耐熱粘着フィルムは、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させることがない。
本発明の耐熱粘着フィルムは、表面が平滑な被着体の表面を保護するための表面保護フィルムとして用いられてもよいが、表面に凹凸形状を有する被着体の表面を保護するための表面保護フィルムとして用いたときに特に高い効果を発揮する。
本発明の耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルムもまた、本発明の1つである。
【0033】
本発明の表面保護フィルムは、光学デバイス、金属板、塗装した金属板、樹脂板、ガラス板等の部材の表面を保護するために好適に用いられる。なかでも、プリズムシート、拡散フィルム等のように片側又は両側の表面に凹凸形状を有する光学部材の保護に特に好適である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させないスチレン系エラストマー樹脂組成物、該スチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物、耐熱粘着フィルム、耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルム及び耐熱粘着フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
スチレン系エラストマーの水素添加物としてSEBSブロックコポリマー(JSR社製のダイナロン「1321P」)100重量部に対して、水素引抜型光開始剤としてベンゾフェノン1重量部と、ラジカル重合性二重結合を有するモノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート4重量部を配合し、ラボプラストミル二軸押出機を用いて攪拌混合し、スチレン系エラストマー樹脂組成物を得た。
【0037】
基材層の原料として、ポリオレフィン樹脂(商品名「J715M」、プライムポリマー社製)を準備した。
得られたスチレン系エラストマー樹脂組成物とポリオレフィン樹脂を用い、Tダイ法により共押出成形し、基材層35μm、未架橋粘着剤層5μmの積層体を得た。
得られた積層体の未架橋粘着剤層側から、超高圧水銀灯を用いて、365nmの波長の光を10mW/cmの照度で1200秒間照射して、耐熱粘着フィルムを得た。
【0038】
(実施例2〜12、比較例1〜4)
スチレン系エラストマーの水素添加物、水素引抜型光開始剤、ラジカル重合性二重結合を有するモノマー又はオリゴマーの種類又は配合量や、紫外線照射の有無を表1及び表2に示すようにした以外は実施例1と同様にして耐熱粘着フィルムを得た。
なお、下記に示すスチレン系エラストマーの水素添加物を使用した。
・SEBSブロックコポリマー(旭化成社製のタフテック「H1041」)
・SEPSブロックコポリマー(クラレ社製のセプトン「2063」)
【0039】
<評価>
実施例、比較例で得られた耐熱粘着フィルムについて、以下の評価を行った。結果を表1及び表2に示した。
【0040】
(1)初期粘着力の評価
耐熱粘着フィルムを25mm幅に裁断した。裁断した耐熱粘着フィルムをアクリル板に、室温23℃、相対湿度50%で、2kgの圧着ゴムローラーを用いて300mm/minの速度で貼り付けた。30分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、耐熱粘着フィルムを300mm/minの速度で引き剥がして180度剥離強度を測定した。これを初期粘着力とし、以下の基準で評価した。
○:初期粘着力が0.05N/25mm以上、0.45N/25mm未満
×:初期粘着力が0.05N/25mm未満、又は、0.45N/25mm以上
【0041】
(2)粘着昂進率の評価
耐熱粘着フィルムを25mm幅に裁断した。裁断した耐熱粘着フィルムをアクリル板に、室温23℃、相対湿度50%で、2kgの圧着ゴムローラーを用いて300mm/minの速度で貼り付けた。次いで、2枚の厚み2mmのポリカーボネート板で耐熱粘着フィルムを貼り付けたアクリル板を挟み、6.0×10−3MPaの圧力を加え、その状態で60℃、168時間放置した。室温に取り出し60分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、耐熱粘着フィルムを300mm/minの速度で引き剥がして180度剥離強度を測定した。これを経時粘着力とした。
初期粘着力から経時粘着力の変化率(粘着昂進率)を次式で算出し、以下の基準で評価した。
粘着昂進率=(経時粘着力/初期粘着力)×100
◎:粘着昂進率が350%以下
○:粘着昂進率が350%を超え、400%以下
×:粘着昂進率が400%を超える
【0042】
(3)剥離後の被着体表面の表面張力の評価
耐熱粘着フィルムをコロナ処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、室温23℃、相対湿度50%で、2kgの圧着ゴムローラーを用いて300mm/minの速度で貼り付けた。その状態で40℃のオーブン中に24時間放置した。室温に取り出し60分間放置した後、耐熱粘着フィルムを剥離した。
貼付前、及び、剥離後のPETフィルムの表面の表面張力を測定し、下記式にて表面張力低下率を算出し、以下の基準で評価した。
表面張力低下率=(1―(剥離後の表面張力/貼付前の表面張力))×100
○:表面張力低下率が35%以下
×:表面張力低下率が35%を超える
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させないスチレン系エラストマー樹脂組成物、該スチレン系エラストマー樹脂組成物の光架橋物、耐熱粘着フィルム、耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルム及び耐熱粘着フィルムの製造方法を提供することができる。