(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835616
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】対象物の表面の少なくとも1つの湾曲した領域にインクジェット印刷するための方法
(51)【国際特許分類】
B41J 3/407 20060101AFI20210215BHJP
B41J 3/44 20060101ALI20210215BHJP
B41J 2/52 20060101ALI20210215BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
B41J3/407
B41J3/44
B41J2/52
B41J2/01 109
B41J2/01 201
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-28151(P2017-28151)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2017-144738(P2017-144738A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年9月2日
(31)【優先権主張番号】10 2016 202 398.5
(32)【優先日】2016年2月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390009232
【氏名又は名称】ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ルプレヒト
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル フューナー
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ミュラー
【審査官】
上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−150771(JP,A)
【文献】
特開2015−160162(JP,A)
【文献】
特表2015−520011(JP,A)
【文献】
特開2015−027636(JP,A)
【文献】
特開2015−150772(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0019017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 3/407
B41J 2/01
B41J 2/52
B41J 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物(1)の表面(2)の少なくとも1つの湾曲した領域(2’)に印刷像(3)をインクジェット印刷するための方法であって、
前記領域(2’)内にインク滴(5)の網目スクリーン(4)を設け、これによって印刷ドット(6)を生成し、ただし前記網目スクリーン(4)は、コンピュータ(7)によって計算され、前記インク滴(5)は、プリントヘッド(8)によって、前記プリントヘッド(8)のノズル面(10)のノズル(9)を用いて生成されて、前記領域(2’)内に塗布され、
前記方法は、前記コンピュータ(7)内で実行される以下のステップa)からg)、すなわち、
a)前記印刷像(3)を表すデータを準備する(A)ステップ、
b)前記領域(2’)を表すデータを準備する(B)または計算する(B)ステップ、
c)前記プリントヘッド(8)または前記対象物(1)が移動する経路(11)に関する経路データを準備する(C)または計算する(C)ステップ、
d)b)およびc)からのデータを用いて、前記インク滴(5)の塗布場所を計算する(D)ステップ、
e)d)からのデータを用いて、前記領域(2’)のタイリング(12)に基づくデータを計算する(E)ステップ、
f)e)からのデータを用いて、トーン値を較正する(F)ステップ、
g)f)からのデータを用いて、前記印刷像(3)をラスタライズする(G、G’)ステップ、および、
前記プリントヘッド(8)によって実行される以下のステップh)、すなわち、
h)ラスタライズされた前記印刷像(3)を前記領域(2’)に印刷する(H)ステップ、
を有しており、
前記ステップd)は、
d1)前記ノズル(9)の場所を、前記表面(2)上に投影する(D1)ことと、
d2)少なくとも、前記表面(2)に対する前記インク滴(5)の塗布速度を考慮して前記投影を修正する(D2)こととを含んでいる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
対象物(1)の表面(2)の少なくとも1つの湾曲した領域(2’)に印刷像(3)をインクジェット印刷するための方法であって、
前記領域(2’)内にインク滴(5)の網目スクリーン(4)を設け、これによって印刷ドット(6)を生成し、ただし前記網目スクリーン(4)は、コンピュータ(7)によって計算され、前記インク滴(5)は、プリントヘッド(8)によって、前記プリントヘッド(8)のノズル面(10)のノズル(9)を用いて生成されて、前記領域(2’)内に塗布され、
前記方法は、前記コンピュータ(7)内で実行される以下のステップa)からg)、すなわち、
a)前記印刷像(3)を表すデータを準備する(A)ステップ、
b)前記領域(2’)を表すデータを準備する(B)または計算する(B)ステップ、
c)前記プリントヘッド(8)または前記対象物(1)が移動する経路(11)に関する経路データを準備する(C)または計算する(C)ステップ、
d)b)およびc)からのデータを用いて、前記インク滴(5)の塗布場所を計算する(D)ステップ、
e)d)からのデータを用いて、前記領域(2’)のタイリング(12)に基づくデータを計算する(E)ステップ、
f)e)からのデータを用いて、トーン値を較正する(F)ステップ、
g)f)からのデータを用いて、前記印刷像(3)をラスタライズする(G、G’)ステップ、および、
前記プリントヘッド(8)によって実行される以下のステップh)、すなわち、
h)ラスタライズされた前記印刷像(3)を前記領域(2’)に印刷する(H)ステップ、
を有しており、
ステップe)は、
e1)不規則なタイル(12)を前記印刷ドット(6)に割り当てること(E1)、および、
e2)各タイル面積を計算すること(E2)を含んでいる、
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
ステップf)は、
網目スクリーン値と前記タイル面積とに依存する較正関数を使用する(F)ことを含んでいる、
請求項2記載の方法。
【請求項4】
ステップg)は2つのステップ、すなわち、
g1)前記ノズル面(10)に前記印刷ドット(6)の場所を逆投影する(G1)こと、および、
g2)2Dラスタライズ方法を用いてラスタライズする(G2)こと、
または
g3)3Dラスタライズ方法を用いてラスタライズする(G3)こと、および、
g4)前記ノズル面(10)に前記印刷ドット(6)の場所を逆投影する(G4)こと、
を含んでいる、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
付加的なステップB’は、前記印刷像(3)を前記表面(2)上にマッピングすることを含んでいる、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法を実行するための装置であって、
・前記装置は、ロボット(13)と、プリントヘッド(8)と、コンピュータ(7)と、を含んでおり、
・前記コンピュータは、前記ステップa)〜g)が前記コンピュータ上で実行され、これに続いて、前記ロボットおよび前記プリントヘッドが前記コンピュータによって駆動制御されるように構成されており、
・前記ロボットは運動を実行し、この際に前記プリントヘッドはインク滴を生成する、
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の特徴部分に記載された構成を有する、対象物の表面の少なくとも1つの湾曲した領域にインクジェット印刷するための方法に関する。さらに、本発明は、請求項8の特徴部分に記載された構成を有する、本発明の方法を実行するための装置に関する。
【0002】
本発明は、空間的に延在している対象物もしくは物体の表面を印刷する技術分野にある。この表面は湾曲されていることがあり、インクジェット方法で印刷される。このために、インクジェットプリントヘッドがロボットアームによって、所定の印刷間隔で、印刷されるべき表面に沿って案内される。
【背景技術】
【0003】
従来技術から既に、上述した技術分野における発明を記載している多数の特許出願および特許が知られている。本特許出願人も、既に、この技術分野における特許出願を提出しており、これは例えば、独国特許出願公開第102012006371号明細書(DE 10 2012 006 371 A1)、独国特許出願公開第102014011301号明細書(DE 10 2014 011 301 A1)および独国特許出願公開第102015205631号明細書(DE 10 2015 205 631 A1)である。これら3つの上述した特許出願では、任意の3D対象物もしくはその任意の湾曲した表面の任意の箇所に、任意の印刷像を設けることを可能にする装置および方法が詳細に記載されている。ここでは、上述したように、ロボットによって案内されるインクジェットプリントヘッドが使用されている。ロボットもプリントヘッドも、制御部、すなわちコンピュータと接続されており、この制御部上には、ロボットの運動およびプリントヘッドの印刷像に従ったインク吐出を駆動制御するのに必要なコンピュータプログラムおよびデータがファイルされている。
【0004】
湾曲した表面に印刷する場合には、印刷全紙等の平らな基板に印刷するのとは異なり、印刷されるべき表面上に塗布されるインク滴の密度、および、これによって生成されるトーン値が変動し得る、という問題が生じる。このような変動によって、不所望な、視認可能な印刷像の変化が生じてしまう。従って、このような変動もしくはノイズは回避されるべきものである。
【0005】
特開2011−227782号(JP 2011227782)も、対象物の印刷に関しており、そのための方法を記載している。しかしこの文献は、上述した問題、すなわち、どのように不所望なトーン値変化を阻止することができるのか、もしくは、このためにどのような技術的な措置が設けられなければならないのかを開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、従来技術と比べて改善された方法を実現することである。この方法は、任意の湾曲した表面を有する任意の3次元対象物に印刷することを可能にし、この際に、印刷されるべき画像の不所望なノイズ、特にトーン値変化を阻止することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題の本発明の解決方法は、請求項1の特徴部分に記載された構成を有する方法である。
【0008】
対象物の表面の少なくとも1つの湾曲した領域に印刷像をインクジェット印刷するための本発明の方法では、この領域内にインク滴の網目スクリーンが設けられ、これによって印刷ドットが生成され、ただしこの網目スクリーンはコンピュータによって計算され、インク滴はプリントヘッドによって、プリントヘッドのノズル面のノズルを用いて生成されて、この領域内に塗布される。ここで本発明の方法は、コンピュータ内で実行される以下のステップa)〜g)と、プリントヘッドによって実行される以下のステップh)とを有していることを特徴とする。すなわち、a)印刷像を表すデータを準備するステップ、b)領域を表すデータを準備するまたは計算するステップ、c)プリントヘッドまたは対象物が移動する経路に関する経路データを準備するまたは計算するステップ、d)b)およびc)からのデータを用いて、インク滴の塗布場所を計算するステップ、e)d)からのデータを用いて、領域のタイリングに基づくデータを計算するステップ、f)e)からのデータを用いて、トーン値を較正するステップ、g)f)からのデータを用いて、印刷像をラスタライズするステップ、h)ラスタライズされた印刷像を領域に印刷するステップである。
【0009】
本発明の方法は有利には、任意に成形されたもしくは湾曲された表面を有する3次元対象物に印刷することを可能にする。この方法はさらに、任意の印刷像を対象物上の任意の場所に位置付けることを可能にする。最後に、この方法は、表面上のインク滴の不所望な密度変動、もしくは、ここから生じる不所望なトーン値変動を回避して(または、少なくとも十分に低減して)、視覚的に魅力的な3次元印刷製品(印刷された3次元対象物)を生成することを可能にする。このために、本発明では、ステップa)〜g)、特にステップe)およびf)が実行される。
【0010】
本発明の有利な発展形態は、従属請求項、明細書および関連する図面に記載されている。
【0011】
本発明の有利な発展形態は、ステップd)が、d1)ノズルの場所を表面上に投影することを含んでいることを特徴とし得る。
【0012】
本発明の方法の有利な発展形態は、ステップd)が、d2)少なくとも、表面に対するインク滴の塗布速度を考慮して、この投影を修正することを含んでいることを特徴とし得る。
【0013】
本発明の方法の有利な発展形態は、ステップe)が、e1)不規則なタイルを印刷ドットに割り当てること、および、e2)各タイル面積を計算することを含んでいることを特徴とし得る。
【0014】
本発明の方法の有利な発展形態は、ステップf)が、網目スクリーン値と、タイル面積とに依存する較正関数を使用することを含んでいることを特徴とし得る。
【0015】
本発明の方法の有利な発展形態は、ステップg)が、2つのステップを含んでいることを特徴とし得る。すなわちg1)ノズル面に印刷ドットの場所を逆投影すること、およびg2)2Dラスタライズ方法を用いてラスタライズすること、または、g3)3Dラスタライズ方法を用いてラスタライズすること、および、g4)ノズル面に印刷ドットの場所を逆投影すること、を含んでいることを特徴とし得る。さらに、事前に特定もしくは計算されたインク滴サイズがノズル面において逆投影されてよい。
【0016】
本発明の方法の有利な発展形態は、付加的なステップB’が、印刷像を表面上にマッピングすることを含んでいることを特徴とし得る。
【0017】
上述した方法を実行するための本発明の装置またはその発展形態は、次のような装置であり、ここでこの装置は、ロボットと、プリントヘッドと、コンピュータとを含んでいる。このコンピュータは、ステップa)〜g)がコンピュータ上で実行され、これに続いて、ロボットおよびプリントヘッドがこのコンピュータによって駆動制御されるように構成されている。さらにこのロボットは、運動を実行し、この際にプリントヘッドがインク滴を生成する。
【0018】
以下、本発明および本発明の有利な発展形態を、関連する図面を参照して、有利な実施例に基づいて、詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の方法の有利な実施例を実行する際の装置の斜視図
【
図2】本発明によって生成された印刷ドットの概略図
【
図3】本発明に相応して使用される、有利なタイリングの概略図
【
図4】本発明に相応して使用される、有利な較正関数の簡易化された図
【
図5】本発明の方法の有利な実施形態の概略的なフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示された装置は、ロボットアーム14およびロボットアームに取り付けられているプリントヘッド8を有するロボット13を含み、さらに、ロボット13の運動およびプリントヘッド8のインク吐出を制御するコンピュータ7を含む。ロボット13は、有利には、多軸ロボットであり、例えば多関節アームロボット、特に、いわゆる産業用ロボットである。プリントヘッド8は、ノズル面10を有するインクジェットプリントヘッドである。ノズル面10は、少なくとも1つのノズル9の列を有している。ノズル9は、個々に駆動制御可能であり、プリントヘッド8の運動の間に、印刷されるべき印刷像に相応して、インク滴を吐出する。
【0021】
ロボット13は、プリントヘッド8を対象物1に沿って案内する。この対象物1は、湾曲した表面2を有している。この湾曲した表面の領域2’内に、印刷像3が設けられうる。この領域2’は、プリントヘッド8の印刷幅よりも広いので、プリントヘッド8は、複数の経路11上で、運動方向15において、および、表面2に対して印刷間隔を伴って、対象物1に沿って動かされる。ここで生成された複数の印刷像ストリップは相互に接しており、このようにして印刷像3を生成する。
【0022】
本発明の方法の有利な発展形態を以降で、さらなる図面を参照して、特に
図5および
図5に示されているステップA〜Hのフローを参照して説明する。
【0023】
ステップA 印刷像を表すデータを準備する
【0024】
ステップAでは、既に存在していない限り、コンピュータ7に、印刷されるべき印刷像3に対する必要なデータが提供される。このデータは、例えば、マトリクス状に、色値に関する情報を含んでいる、いわゆるビットマップの形態で準備され得る。印刷像は、色の面、パターン、テキスト、ロゴ、画像等、または、これらの任意の組み合わせであってよい。有利にはこれは多色の画像である。このような多色の画像は、通常、いわゆる、色分解版で存在するので、印刷像のデータは、個々の色分解版(CMYK)に対する複数の個々のデータセットも表し得る。さらに、印刷像のデータは、対象物1の表面2上で、異なる箇所に印刷される複数の個々の印刷像のことであり得る。
【0025】
ステップB 領域を表すデータを準備するまたは計算する
【0026】
湾曲した表面2を有する対象物1に正確に印刷することを可能にするために、対象物1もしくは対象物1の表面2を正確に表すデータが準備されなければならない。相応するデータの準備は既に、以下の2つの、同出願人のドイツ特許出願に詳細に記載されている。すなわち、独国特許出願公開第102012006371号明細書(DE 10 2012 006 371 A1)および独国特許出願公開第102014011301号明細書(DE 10 2014 011 301 A1)である。従って、ここでは、対象物1もしくは対象物1の表面2を表すデータの準備に関しては、この2つの特許出願の開示を参照されたい。
【0028】
いわゆるマッピングまたはテクスチャマッピングにおいても、ステップAからの印刷像3のデータおよびステップBからの領域2’のデータが使用される。ここで領域2’内では、(純粋にコンピュータによって行われる)印刷像3の位置付けが行われる。換言すれば、デザイン設定に応じて、どのように、かつ、どこに印刷像が位置すべきなのかが決められる。ここで、印刷像を、例えば、(同様に、純粋にコンピュータによって)移動させる、回転させるまたは歪ませることもできる。
【0029】
ステップC プリントヘッド8または対象物1が運動する経路に関する経路データを準備または計算する
【0030】
先行するステップA、BおよびB’から、どの印刷像3が、どの対象物1もしくは対象物1のどの表面2上に、どのように位置すべきなのかが確定する。このような印刷像を生成するためには、上述したように、多くの場合には、プリントヘッド8を、複数回、表面2にわたって動かし、この際に、複数のストリップから印刷像をまとめることが必要である。従って、ロボット13もしくはロボット13によって案内されるプリントヘッド8の経路を計画することが必要である。このような経路計画は、以下の、同特許出願人のドイツ特許出願に既に詳細に記載されている。すなわち、独国特許出願公開第102014011301号明細書(DE 10 2014 011 301 A1)および独国特許出願公開第102015205631号明細書(DE 10 2015 205 631 A1)である。従って、ここで、経路計画の実行に関しては、2つの上述した特許出願の該当する開示箇所を参照されたい。
【0031】
ステップD ステップBおよびCからのデータを用いて、インク滴の塗布場所を計算する
【0032】
経路11に沿った、ひいては、対象物1の表面2に沿った、ロボット13を用いたプリントヘッド8の移動によって、表面2が湾曲している場合には、表面2に達する全てのインク滴5が、隣接するインク滴に対して同じ間隔を有しているのではない、という結果が生じる。プリントヘッド8が、例えば、弓形の経路11上で移動する場合には、インク滴によって形成された、経路の内側縁部の印刷ドットは、経路の外側縁部の印刷ドットよりも、密集して相互に隣接して位置する。換言すれば、印刷ドットの密度が場所に依存することがあり、これによって、場所に依存して、過度に程度が高いまたは過度に程度が低い、表面2上のインク滴の塗布が生じてしまうことがある。従って、後述する修正措置が取られない場合には、場所に依存して、不所望な、過度に程度の高い、または、過度に程度の低いインク塗布が生じ、これによって、印刷されるべき印刷像の不所望な変化が生じてしまうだろう。
【0033】
ステップD、特にその部分ステップD1において、プリントヘッド8のノズル9の場所が、表面2上に投影される。この投影は、コンピュータによって行われるプロセスであり、これは有利には、コンピュータ7内で行われる。印刷像、印刷されるべき湾曲した表面2および印刷像の位置、向き、および、場合によっては、歪みが判明している場合には、プリントヘッド8の各ノズルに対して、各時点で、すなわち経路11の各箇所で、インク滴が吐出されるか否か、および、(理想的な、すなわち直線的な飛行経路の場合に)インク滴が対象物1の表面2上でどの箇所に位置するのかを特定することができる。ここで、コンピュータ7内で実行される計算プロセスは、実質的に、対象物1の表面2上にノズルの場所を投影する、コンピュータによるステップを実行し、この際に、後の印刷プロセスの純粋に計算上のシミュレーションに匹敵し得るアルゴリズムである。
【0034】
この、純粋に幾何学形状的な投影の他に、有利には、ステップD2において、表面2に対するインク滴5の塗布速度を考慮した修正も実行され得る。すなわち、インク滴は、理想的な、直線的な飛行経路で、ノズルから表面2上へと飛行するのではない。なぜなら、(ノズルからのインク滴の吐出による)表面2へ向かう方向での速度成分の他に、各インク滴は、対象物1の表面2に沿ったプリントヘッド8の移動によって、表面2に対して実質的に並行に位置し得る速度成分も有しているからである。インク滴のこれらの速度成分の重畳によって、湾曲した飛行経路が生じる。プリントヘッド8の運動、特にその速度は既知なので、インク滴の付加的な速度成分は特定可能であり、さらに、表面2上のインク滴の実際の着地場所が(コンピュータによって)特定可能である。このような計算も、有利には、コンピュータ7によって実行される。このような計算では、有利には、物理的に理由付けがされた、または、経験的にパラメータ化されたモデルが使用可能である。ここでは有利には、以降の入力パラメータが利用される。すなわち、インク滴サイズ、x方向およびz方向における速度(xはプリントヘッド8の運動方向、zは表面2に対して垂直な方向)、表面2に対する間隔、空気中のインク滴の減速に対する抵抗係数である。
【0035】
ステップE ステップDからのデータを用いて、領域のタイリングに基づくデータを計算する
【0036】
従来の他の印刷プロセスのように、印刷されるべき画像データは、いわゆるラスタイメージプロセス(RIP)を受けなければならない。2次元の画像を平らな2次元の表面2上に印刷するためのRIP方法は既知であるが、これを、容易には、3次元の物体の湾曲した表面2上に印刷像を印刷する際に適用することはできない。
図2を参照すれば、その理由が明らかになる。
図2では、それぞれ、左側および右側に、衝突したインク滴5によって生成された印刷ドット6の網目スクリーン4が示されている。ここで、左側半分に示された印刷ドット6は、
図2の右側半分に示された印刷ドット6よりも、自身の各隣接印刷ドットに対して大きい間隔を有している。これは、上述したように、一般的に、プリントヘッド8が、湾曲した経路上で、湾曲した表面2に沿って動かされ、これによってインク滴同士がより密集して位置し得る、または、インク滴同士がより離れた間隔を有することによって引き起こされ得る。
図2ではさらに、印刷ドット同士がより密集して集まっている場所においてより暗いトーンが生成され、印刷ドット同士がより離れて位置している場所において、より明るいトーンが生成されることが見て取れる。表面2上の印刷ドットのこのような密度変動は、印刷像のラスタライズ(RIPプロセス)の際に、考慮もしくは早目に修正されなければならない。さらに、
図2に示された黒色の点がインク滴の衝突場所を表すべきであり、図示された円がこの際に形成されるべき印刷ドットの生じ得るサイズを表すべきである、ということに、ここで留意されたい。ここで重要なのは、インク滴が表面2上で拡がること、すなわち拡大し、材料が吸収性の場合には浸透することを理解することである。従って、形成された印刷ドットが重畳することがある。これは通常、むしろ、特に、ふさがれた色の面が生成されるべき場合には望ましい。しかし、印刷ドットの過度に強いまたは過度に弱い重畳、ひいては、印刷像におけるノイズとなる輝度変動が生じることは望まれていない。
【0037】
上述した、ノイズとなり得る影響を回避するために、コンピュータによって、いわゆるタイリングが行われる。これを以降で、
図3を参照して説明する。
図3では、
図2からの幾つかの印刷ドット6が拡大して示されている。ここで各印刷ドット6には、自身を取り囲んでいるタイル12が割り当てられる。ここでこれらのタイルは有利には、各印刷ドットに対して個々に特定される。すなわち、換言すれば、印刷ドットがより密度濃く位置しているであろう印刷像内の箇所では、より小さい面積を有するタイルによるタイリングが選択される。これに相応して、密度が増大するだろう印刷像の箇所では、より大きい面積のタイルによるタイリングが選択される。
【0038】
図4には、このようなタイリングがどのように構築され得るのかの例が示されている。例えば、不規則な四角形が選択される。これの四角形は例えば、これらが隣接する2つの印刷ドット間の各垂直二等分線によって制限されることによって生成される。ここで再度、このようなタイリングが、有利にはコンピュータ7内で実行される、純粋にコンピュータによって行われるプロセスである、ということに留意されたい。
【0039】
ステップE1では、各印刷ドット6に個々のタイル12が割り当てられる、もしくは、異なる印刷ドットに不規則なタイルが割り当てられるのに対して、次に、ステップE2では、各印刷ドットに対して、自身に割り当てられているタイルの面積が計算される。このような面積の計算も、有利には、同様に、コンピュータ7において行われる。
【0040】
タイルの拡がりが僅かなので、容易にするために、面積の計算時に、個々のタイルが湾曲を有していない、と仮定することができる。ここで、各タイルが、接平面において、印刷ドットを通って位置していると仮定することもできる。
【0041】
ステップF ステップEからのデータを用いて、トーン値を較正する
【0042】
従来の2D印刷方法(平らな基板上の平らな印刷像)では、既に、いわゆる、トーン値較正を実行することが公知である。このようなトーン値較正に対しては、網点面積率(0〜100%)に対する軸にわたって、トーン値(0〜100%)が記入されている較正曲線が知られている。このような較正曲線は通常、45°の勾配を有する直線ではなく、湾曲した曲線である。すなわち、例えば60%のトーン値は、60%の網点面積率で得られるのではなく、既に、50%の網点面積率において得られる。
【0043】
本発明でも同様に、較正が実行される。ここでは、有利には、いわゆる、拡張された、または3Dの較正が使用される。このために有利に使用可能な較正関数が、
図4に示されている。関数16は、2つの軸XおよびYにわたる面を形成する。軸X上には網目スクリーン値または網点面積率が記入されており、Y軸上には、各タイルの面積が記入されている。ここで各タイルの計算された面積は、0〜100の間の値に正規化される。
図4から、面積値75を通る曲線が、面積値50を通る曲線よりもより急峻に経過することが見て取れ、面積値25を通る曲線が、面積値50を通る曲線よりもよりなだらかに経過することが見て取れる。従って較正関数16は、各タイルの事前に計算された面積に依存するトーン値の修正を含んでいる。所定の印刷ドットでのトーン値が高くされなければならないか、または、低くされなければならないかを、準備されたこの3D較正関数から求めることができる。
【0044】
択一的に、Y軸上に、値100を超える値も記入することができる。従って、値100は、例えば、タイルの公称面積に相応し(すなわち、例えば均等なチェス盤状のタイリングのタイルの場合)、100を上回る値はより大きいタイルに相当し、100を下回る値はより小さいタイルに相当する。例えば、Y軸は、0から、約120まで達し得る。
【0045】
タイルの面積が、印刷システムの公称ピクセルサイズに正規化されてもよい。360dpiの解像度を有する模範的な印刷システムの場合、公称印刷ドット面もしくはその面積は、70.5μm×70.5μmである。
【0046】
較正関数16を特定するために、パラメータの関係が使用可能である、または、測定された複数の節点を補間することによって関数を求めることができる。
【0047】
ステップG ステップFからのデータを用いて、印刷像をラスタライズする
【0048】
ラスタライズは、生じ得る各インク滴に対して、このインク滴がセットされるべきか否かを特定もしくは計算するために、もしくは、各ノズルに対して、このノズルが所定の時点でインク滴をノズルの作用領域内に位置する対象物1の表面2上に移動させ、これによって印刷ドットを生成すべきか否かを特定もしくは計算するために実行される。プリントヘッド8が異なるインク滴サイズ(例えば小、中、大)をサポートしている場合には、ラスタライズの実行に、どのインク滴サイズが、生成されるべき印刷ドットに対して使用されるべきかも、特定もしくは計算することができる。
【0049】
本発明ではラスタライズを、2つの択一的な様式で行うことができる。第1の様式を以下に記載する。ここでは印刷ドットの場所が、コンピュータによって、対象物1の表面2から、再び、プリントヘッド8のノズル面10上に再計算される。このような再計算のデータが、既に、ステップA〜Dの少なくとも1つから既知である場合、コンピュータによるこのような逆投影を省くことができる、もしくは、このような逆投影は、既に存在するデータの使用と同じ意味である。表現「ノズル面への逆投影」によって、ここでは、このノズル面が移動する、対象物1の印刷されるべき表面2に対して平行な面部分への逆投影が意図されている。このようないわゆる包絡面も通常、湾曲している。プリントヘッド8のノズル面は、対象物1の表面2の湾曲に応じて、常に完全にこの包絡面に位置するのではない。従って計算時には、例えば、ノズル面の中央のノズルは、常に包絡面内に位置し、他の(特に縁部に位置する)ノズルは、包絡面の上にまたは包絡面の下に位置してもよいと仮定される。
【0050】
いわゆる逆投影の後、対象物1上の印刷像の適切な箇所にインク滴が位置付けされるようにインク滴をセットするために、どのノズルがどの場所で、どの時に起動されなければならないかが既知である(もしくは、必要なデータが計算されている)。
【0051】
逆投影のこのステップG1の他に、ここで、ラスタライズのステップG2が実行される。ここで、従来の2Dラスタライズ方法が使用可能である。ここでは、トーン値較正を省くことができる。なぜなら、既に、ステップFで、いわゆる3Dトーン値較正が実行されたからである。
【0052】
択一的に、サブステップG3およびG4を伴ったステップG’も、以降のように実行可能である。ラスタライズは、このような択一的な形態では、ノズル面における印刷ドットの場所の逆投影の前に行われる。しかしこのために、いわゆる3Dラスタライズ方法が必要である。このような3Dラスタライズ方法は、従来の2Dラスタライズ方法とは異なっており、コンピュータによって、直接的に、対象物1の3次元表面2上で行われる。例えば、3Dケースに相応に適合させるのに、2Dケースに公知の誤差拡散方法が適しているだろう。
【0053】
使用されているプリントヘッド8および/またはその駆動制御に応じて技術的に可能であり、かつ、実際に設定もされている場合に限り、種々のインク滴サイズの特定もしくは計算を、上述した2Dまたは3Dラスタライズ方法の実行時に行うことができる。
【0054】
ステップH ラスタライズされた印刷像を領域に印刷する
【0055】
この最後のステップでは、事前に行われた計算ステップから得られたデータが、所望の印刷像3が所望の位置で、ノイズとなる密度変動を伴わずに生成されるように、ロボット13を用いた対象物1の表面2に沿った運動の間にプリントヘッド8を駆動制御するために用いられる。
【符号の説明】
【0056】
1 対象物
2 表面
2’ 表面の領域
3 印刷像
4 網目スクリーン
5 インク滴
6 印刷ドット
7 コンピュータ
8 プリントヘッド
9 ノズル
10 ノズル面
11 経路
12 タイリング/タイル
13 ロボット
14 ロボットアーム
15 運動方向
16 較正関数
A−H ステップ
X 網目スクリーン値/網点面積率
Y タイル面積