(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835622
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】タイルの劣化診断用移動装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/265 20060101AFI20210215BHJP
【FI】
G01N29/265
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-29025(P2017-29025)
(22)【出願日】2017年2月20日
(65)【公開番号】特開2018-136139(P2018-136139A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 周男
(72)【発明者】
【氏名】名知 博司
(72)【発明者】
【氏名】船越 貴惠
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−052958(JP,A)
【文献】
実開平05−056773(JP,U)
【文献】
実開平05−072642(JP,U)
【文献】
特開2003−014711(JP,A)
【文献】
実開平07−034367(JP,U)
【文献】
特開平10−278858(JP,A)
【文献】
中国実用新案第203581169(CN,U)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0061696(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
E04G 1/00− 7/34
B62D 41/00−67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口または凹部が形成されている壁面に沿って移動する移動装置であって、
前記壁面に対して対向するように配置可能に構成された固定フレームと、
前記固定フレームに固定され、前記壁面に貼設されたタイルの劣化を診断する診断装置と、
前記固定フレームの上部において前記壁面側に配された第一車輪と、
前記固定フレームの下部において前記壁面側に配された第二車輪と、
前記固定フレームの上方に連結され、該固定フレームに対して上下方向に進退可能に配された上部フレームと、
前記上部フレームの先端において前記壁面側に配された第三車輪と、
前記固定フレームの下方に連結され、該固定フレームに対して上下方向に進退可能に配された下部フレームと、
前記下部フレームの先端において前記壁面側に配された第四車輪と、
を備え、
上下方向において、前記上部フレームの長さおよび前記下部フレームの長さは、前記第三車輪と前記第四車輪との間に前記開口または前記凹部が位置したときに前記第一車輪、前記第二車輪、前記第三車輪、および前記第四車輪のうち少なくとも二つの車輪が前記壁面に当接可能となる長さであることを特徴とするタイルの劣化診断用移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルの劣化診断用移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば建物の外壁や床に貼設されたタイルは、経年劣化等により浮き・剥離や割れが発生し、特に外壁に貼設されたタイルは、浮き・剥離、割れによって剥落すると大きな事故につながるおそれがある。
【0003】
このため、従来、建物の外壁に貼設されたタイルの劣化を診断(検査、調査)することが行なわれ、この種のタイルの劣化診断を行う手法として、外観目視法、打音検査法、反発法、赤外線診断法等が用いられている。
【0004】
上述の手法のうち、打音検査法は、熟練した検査員がテストハンマーでタイル面を叩き、劣化部と健全部の微妙な音の違いを聞き分けることにより、外観では判別しにくいタイルの浮き・剥離の有無を比較的容易に判別できるため、タイルの劣化診断手法として多用されている。
【0005】
一方、打音検査法と同様、劣化部と健全部の微妙な音の違いによって劣化部分を特定するタイルの劣化診断方法として、擦過法も多用されている(例えば、特許文献1参照)。
擦過法は、例えば、直径20mm程度の金属球を検査対象面のタイル面に押し付け、タイル面を金属球で擦るように移動させ、その時に発生する音(擦過音)からタイルの浮き・剥離等の劣化の有無を判別することができ、また、劣化部分を特定することができる。
【0006】
さらに、この擦過法は、金属球を検査対象面のタイル面に押し付けた状態を維持しつつ移動することによる擦過音を捉える手法であるため、打音検査法と比較し、ロボット等で自動化を図りやすい。すなわち、ロボット等を操作し、マイクロフォンで録音された擦過音を検査員がコンピュータ等で分析することで診断を行うことができ、検査員の経験や資質といった個人差の影響が少なく、高精度で診断を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平7−34367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の擦過法に基づいて診断用のロボット(タイルの劣化診断ロボット、以下、「診断ロボット」とする場合がある)を用い、擦過法でタイルの劣化診断を行う場合、診断ロボットは、パラペットから吊下げられ、診断ロボットに設けられた車輪で壁面に対して支持され、該壁面に沿って移動可能な機構を備えている。しかしながら、従来の診断ロボットでは、開口等に車輪が差し掛かると、壁からの支持力を失うことになり、診断ロボットが不安定になるため、診断することができなくなるという問題があった。したがって、例えばマンション等のバルコニーがある面や、窓等の開口を有する壁面に対して診断ロボットを使用することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、開口等を有する壁面でも安定して、壁面に沿って移動可能なタイルの劣化診断用移動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載のタイルの劣化診断用移動装置は、開口または凹部が形成されている壁面に沿って移動する移動装置であって、前記壁面に対して対向するように配置可能に構成された固定フレームと、前記固定フレームに固定され、前記壁面に貼設されたタイルの劣化を診断する診断装置と、前記固定フレームの上部において前記壁面側に配された第一車輪と、前記固定フレームの下部において前記壁面側に配された第二車輪と、前記固定フレームの上方に連結され、該固定フレームに対して上下方向に進退可能に配された上部フレームと、前記上部フレームの先端において前記壁面側に配された第三車輪と、前記固定フレームの下方に連結され、該固定フレームに対して上下方向に進退可能に配された下部フレームと、前記下部フレームの先端において前記壁面側に配された第四車輪と、を備え、上下方向において、前記上部フレームの長さおよび前記下部フレームの長さは、前記第三車輪と前記第四車輪との間に前記開口または前記凹部が位置したときに前記第一車輪、前記第二車輪、前記第三車輪、および前記第四車輪のうち少なくとも二つの車輪が前記壁面に当接可能となる長さであることを特徴とする。
【0011】
上述の構成によれば、上部フレームと下部フレームの各々が固定フレームの上方と下方の各々に延び、第一車輪、第二車輪、第三車輪、および第四車輪のうち少なくとも二つの車輪が壁面に当接可能となる長さに設定されることで、上下方向において、第一車輪および第二車輪の間隔よりも大きい開口や凹部等を有する壁面に対しても、少なくとも二つの車輪が壁面に当接し、壁面からの支持力が得られるので、壁面に沿って安定して移動可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るタイルの劣化診断用移動装置は、開口や凹部等を有する壁面でも安定して、壁面に沿って移動することができる。
また、本発明に係るタイルの劣化診断用移動装置によれば、上述のように開口や凹部を有する壁面でも安定して移動するので、このような壁面に貼設されたタイルの劣化を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用したタイルの劣化診断用移動装置の構成を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は側断面図である。
【
図2】本発明を適用したタイルの劣化診断用移動装置の構成を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は側断面図である。
【
図3】本発明を適用したタイルの劣化診断用移動装置の構成を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は側断面図である。
【
図4】本発明を適用したタイルの劣化診断用移動装置の構成を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用したタイルの劣化診断用移動装置の実施形態について説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものであり、長さ、幅及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更することができる。
【0015】
図1に示すように、タイルの劣化診断用移動装置10(以下、単に「移動装置10」とする)は、開口Aが形成されている壁面Wに沿って移動する移動装置であって、少なくとも固定フレーム12、診断装置30、上部フレーム14、下部フレーム16、第一車輪21、第二車輪22、第三車輪23、および第四車輪を備えている。
【0016】
壁面Wはマンション等の建物のいわゆる外壁であり、壁面Wには外壁の保護や装飾等の目的で不図示のタイルが貼設されている。開口Aは、建物の各階層のバルコニーや、窓等によるものであり、
図1に例示するように複数形成されている。
以下では、壁面Wに沿った方向を「上下方向」とし、上下方向に直交する方向を「横方向」とする。
【0017】
固定フレーム12は、移動装置10の本体として機能するフレームであり、壁面Wに対して対向するように配置可能に構成され、診断装置30をはじめとして、壁面Wに貼設されたタイルの劣化を診断するために必要な構成を備えている。具体的には、固定フレーム12における壁面W側とは反対側(すなわち、屋外側)には、側面視ドーム型のカバー32が配され、カバー32の内部に診断装置30および診断装置30を駆動させるための駆動装置(図示略)が設けられている。
【0018】
診断装置30は、固定フレーム12に配置された擦過棒34と、擦過棒34を支持する支持部36と、擦過棒34を所定の方向に進退移動させるための擦過棒進退機構38と、診断結果処理部(図示略)と、を備えている。
擦過棒34は、横方向に延びる軸部と、該軸部における壁面W側の先端に例えば20mm程度の直径で形成された金属球と、を備えている。
支持部36は、擦過棒34の軸部に挿通され、擦過棒進退機構38に連結されている。
擦過棒進退機構38は、固定フレーム12に連結され、支持部36に挿通された擦過棒34を横方向に進退させ、擦過棒34を壁面Wに対して近接離間させることができるように構成されている。
診断結果処理部は、擦過棒進退機構38に接続され、横方向への擦過棒34の進退移動に連動して擦過棒34からの擦過音等のタイルに関する劣化情報を受け取り、適宜処理する。
【0019】
診断装置30は、壁面Wに貼設されたタイルの劣化を診断する機能を有していれば、特に限定されない。
【0020】
カバー32の上方には、ワイヤー連結部40が取り付けられている。ワイヤー連結部40には、建物の屋上のパラペット(図示略)等から吊下されたワイヤーEの下方向における先端が連結されている。このような構成により、移動装置10は、建物の屋上のパラペット等から吊下可能とされている。
【0021】
上部フレーム14は、固定フレーム12の上部に連結され、上下方向に進退可能に配されている。具体的には、上部フレーム14は、平面視矩形のフレーム部材であり、固定フレーム12における壁面W側に接しつつ、上下方向にスライド可能に配設されている。
【0022】
下部フレーム16は、固定フレーム12の下部に連結され、上下方向に進退可能に配されている。具体的には、下部フレーム16は、平面視矩形のフレーム部材であり、固定フレーム12における壁面W側に接しつつ、上下方向にスライド可能に配設されている。
【0023】
なお、上部フレーム14および下部フレーム16において、鉛直方向に延びる部材に連結され且つ幅方向に延在する部材は省略可能である。すなわち、移動装置10は、平面視(
図1から
図4までの各図の(a)のように壁面Wを正面視した場合)H型のフレームを備えていてもよい。
【0024】
第一車輪21は、固定フレーム12の上部において壁面W側に配され、第二車輪22は、固定フレーム12の下部において壁面W側に配されている。上述のように、移動装置10が建物の屋上のパラペット等から吊下された際に、第一車輪21および第二車輪22は、壁面Wに接し、壁面Wに沿って回動可能な車輪である。
【0025】
第三車輪23は、上部フレーム14の先端14aにおいて壁面W側に配されている。
第四車輪24は、下部フレーム16の先端16aにおいて壁面W側に配置されている。第一車輪21および第二車輪22と同様に、第三車輪23および第四車輪24は、移動装置10が建物の屋上のパラペット等から吊下された際に、壁面Wに接し、壁面Wに沿って回動可能な車輪である。
【0026】
上部フレーム14と下部フレーム16の各々は、移動装置10が建物の屋上のパラペット等から吊下される前に固定フレーム12の上部と下部の各々に対して所定の相対位置でネジ止め等により固定されている。
前述の所定の相対位置とは、上下方向において、第三車輪23と第四車輪24との間に開口Aが位置したときに第一車輪21、第二車輪22、第三車輪23、および第四車輪24のうち少なくとも二つの車輪(
図1(b)では、第一車輪21と第四車輪24)が壁面Wに当接可能となる上部フレーム14および下部フレーム16の長さが達成され得る位置が全て該当する。このような所定の相対位置は、上下方向における開口Aの大きさ、開口A同士の間の壁面Wの大きさによって適宜設定されている。
【0027】
上述の移動装置10を用いて建物の壁面W等に貼設されたタイルの浮き・剥離、割れ等、劣化の有無を診断する際には、
図1に示すように、ワイヤー連結部40をワイヤーEで支持し、第一車輪21、第二車輪22、第三車輪23、第四車輪24、および擦過棒34を壁面W側に配置する。
【0028】
次に、診断開始となる所定の位置で擦過棒進退機構38を駆動させ、擦過棒34を横方向に進行させ、壁面Wに押し付ける。その状態から、移動装置10を壁面Wに沿って上下方向に(基本的には下から上へ)移動させつつ、擦過棒34の金属球が壁面Wのタイルに押し付けられながら上下方向に進退移動することで発生する擦過音を診断結果処理部で処理し、タイルの浮き・剥離等の劣化の有無を診断する。
【0029】
本実施形態の移動装置10では、壁面Wに沿って上下方向に移動しつつ、上述のようにタイルの浮き・剥離等の劣化の有無を診断する際に、上下方向において、第三車輪23と第四車輪24との間に開口Aが位置したときに第一車輪21、第二車輪22、第三車輪23、および第四車輪24のうち少なくとも二つの車輪が壁面Wに当接するように、上部フレーム14および下部フレーム16が固定フレーム12の上方および下方に延出している。
【0030】
例えば、
図2に例示するように、複数の開口Aのうち開口AXが第三車輪23と第四車輪24との間に位置した場合には、第三車輪23と第二車輪22は壁面Wに接触していないが、第一車輪21と第四車輪24がそれぞれ接点Cにおいて壁面Wおよびタイルに接し、壁からの支持力を二箇所で得られる。このように壁からの支持力を二箇所から得ることにより、移動装置10および診断装置30は安定する。
【0031】
図3に例示するように、移動装置10が
図2に示す相対位置より上昇し、開口Aのうち開口AXが第三車輪23と第一車輪21との間に位置し、かつ開口AXの直上の開口AYが第二車輪22と第四車輪24との間に位置した場合には、第一車輪21、第二車輪22、第三車輪23、および第四車輪24の全てがそれぞれ接点Cにおいて壁面Wに接し、壁からの支持力を四箇所で得られる。このように壁からの支持力を四箇所から得ることにより、移動装置10および診断装置30は安定する。
【0032】
図4に例示するように、移動装置10が
図3に示す相対位置よりさらに上昇し、複数の開口Aのうち開口AYが第三車輪23と第四車輪24との間に位置した場合には、第一車輪21と第四車輪24は壁面Wに接触していないが、第三車輪23と第二車輪22がそれぞれ接点Cにおいて壁面Wおよびタイルに接し、壁からの支持力を二箇所で得られる。このように壁からの支持力を二箇所から得ることにより、移動装置10および診断装置30は引き続き安定する。
したがって、本実施形態の移動装置10によれば、壁からの支持力を少なくとも二箇所から得ることによって、開口Aを有する壁面Wでも安定して、壁面に沿って移動し、タイルの浮き・剥離等の劣化の有無を診断することができる。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変更が可能である。
【0034】
例えば、壁面Wには、開口Aの他に凹部が形成されていても構わない。このような場合であっても、第一車輪21、第二車輪22、第三車輪23、および第四車輪24のうち少なくとも二つの車輪が壁面Wに当接するように、上部フレーム14および下部フレーム16が固定フレーム12の上方および下方に延出していれば、いずれかの車輪が凹部に嵌る等によって移動装置10が不安定になることもなく、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
なお、建物の外壁に開口Aが一つ形成されている場合であっても、移動装置10は適用可能である。
【0035】
また、上下方向における建物の開口Aの大きさや開口A同士の間の壁面Wの大きさにばらつきがある場合には、固定フレーム12の上方に延出する上部フレーム14の長さ、および固定フレーム12の下方に延出する下部フレーム16の長さはリモートコントロール等によって適宜調整であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 移動装置(タイルの劣化診断用移動装置)
12 固定フレーム
14 上部フレーム
16 下部フレーム
21 第一車輪
22 第二車輪
23 第三車輪
24 第四車輪
W 壁面