特許第6835641号(P6835641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835641
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】出来形計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20210215BHJP
   G01C 15/06 20060101ALI20210215BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   G01C15/00 103A
   G01C15/06 T
   G01B11/24 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-58595(P2017-58595)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-162969(P2018-162969A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 高弘
【審査官】 國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】 実開平07−042934(JP,U)
【文献】 特開平10−111130(JP,A)
【文献】 特開2017−009557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01C 15/06
G01B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計座標が既知の測点に中心点が一致するように反射シートターゲットを設置する作業と、
前記測点の設計座標に基づいて、当該測点の周囲に複数の視準点を設定する作業と、
トータルステーションの視準方向を前記視準点に設定して、前記視準点から前記反射シートターゲットの中心点を追尾測量して複数の測量座標値を取得する作業と、
複数の前記測量座標値を用いて、最小二乗法により前記反射シートターゲットの中心座標値を算出する作業と、を備えることを特徴とする、出来形計測方法。
【請求項2】
複数の前記中心座標値を用いて最小二乗法により直線の直線方程式を算出することを特徴とする、請求項1に記載の出来形計測方法。
【請求項3】
前記直線が、前記測点が設定された部材の一の面と他の面とが交わる境界線と平行であることを特徴とする、請求項2に記載の出来形計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トータルステーションを用いた出来形計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部材の出来形を計測する場合には、部材に設置されたターゲットをトータルステーション等により測定する方法が一般的に採用される。このようなターゲットとして、ターゲットプリズムを使用すれば、測点の座標を簡易に測定できる。ところが、ターゲットプリズムでプリズムを構成するガラスを光が通過する際、空気中よりも光の速度が遅くなる。そのため、ターゲットプリズムは、一般的にプリズムの屈折率に基づいたプリズム定数を考慮した設計となっているが、それでも測点の実測値にわずかな誤差が生じるおそれがある。
【0003】
一方、ターゲットを使用することなく、非接触で測定する方法としては、カメラで撮影した画像を基に行う方法や、3Dスキャナーによる測定データを利用する方法等がある。ところが、カメラの撮影画像を利用する方法は、カメラ画素数に限界があり、大型部材の計測では数ミリ程度の誤差が生じるおそれがある。また、3Dスキャナーは、機械的に一定のサイクルで回転するミラーによって測定するものであるため、点群が所定のピッチで測定される。そのため、特に大型部材に設定された測点の位置を正確に測定できないおそれがあった。
【0004】
そのため、本出願人は、例えば、特許文献1に示すように、ノンプリズム式トータルステーションを利用した円の中心点を測定する方法として、円の境界線の内側と外側にそれぞれ基点を設定して、両基点を利用して二分法により円の境界線上の境界点を抽出し、同様の方法により抽出した複数の境界点の座標を用いて最小二乗法により円の中心座標を算出する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】

【特許文献1】特開2017−9557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の計測方法は、1つの測点の座標を算出するために測量を多数回行う必要があり、作業に手間と時間がかかる。すなわち、1つの測点(円の中心点)を測定するために、多数の境界点を抽出する必要がある。各境界点の抽出は、円の内側と外側に設定した2つの基点を測定した後、これら基点の中間点を測定し、この中間点および一方の基点を新たな基点として新たな中間点を測定することを繰り返す二分法により行う。そのため、円の中心点等、1つの測点の座標を算出するために手間と時間を要する。同様に、部材の縁部分の測量や段差境界線等を測量する場合にも、測量を多数回繰り返す必要があり、手間と時間がかかっていた。
このような観点から、本発明は、より簡易かつ早期に、測点等を高精度に測定することを可能とした出来形計測方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の出来形計測方法は、設計座標が既知の測点に中心点が一致するように反射シートターゲットを設置する作業と、前記測点の設計座標に基づいて、当該測点の周囲に複数の視準点を設定する作業と、トータルステーションの視準方向を前記視準点に設定して、前記視準点から前記反射シートターゲットの中心点を追尾測量して複数の測量座標値を取得する作業と、複数の前記測量座標値を用いて、最小二乗法により前記反射シートターゲットの中心座標値を算出する作業とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明の出来形計測方法によれば、1つの測点に対して、比較的少ない点数(例えば、4乃至6点程度)の視準点を計測することで、測点の座標を正確に算出することができるため、従来の手法に比べて手間を削減することができ、ひいては、計測に要する時間を大幅に削減することができる。
なお、直線上に設定された複数の前記測点に設置された反射シートターゲットの中心座標値を算出すれば、複数の前記中心座標値を用いて最小二乗法により前記直線の直線方程式を算出することができる。前記直線が、部材の一の面と他の面とが交わる境界線や、部材の表面に形成された段差の境界線等と平行であれば、部材の角部や境界線等の位置を正確に算出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の出来形計測方法によれば、簡易かつ早期に、測点等を高精度に計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態の出来形測定方法を説明するための斜視図である。
図2】第一の実施形態の出来形測定方法を説明するための斜視図である。
図3】視準点の設定状況を示す模式図である。
図4】第二の実施形態の出来形測定方法を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一の実施形態>
第一の実施形態では、図1に示すように、角部が面取りされたコンクリート部材2の出来形を、トータルステーション1により測定する場合について説明する。本実施形態では、コンクリート部材2の上面21(第一面)と前面22(第二面)との角23(上面21と前面22とが交わる境界線)を測定する。本実施形態のコンクリート部材2は、角部が隅切されて傾斜面が形成されているが、角部の形状は限定されるものではなく、例えば、弧状に丸められていてもよい。また、図1では、上面21および前面22が、それぞれ水平面と鉛直面を呈しているが、コンクリート部材2の各面の角度は限定されない。例えば、上面21および前面22は水平または鉛直に対して傾斜していてもよい。
【0012】
まず、コンクリート部材2の上面21に設けられた二つ基準点P1,P2を測定する。二つの基準点P1,P2は、コンクリート部材2の上面21に固定されたプリズムターゲットをトータルステーション1により自動測量することにより測定する。このとき、測量に使用する座標軸は、トータルステーション1を中心とした第一座標軸を利用する。なお、基準点P1,P2の設置位置は限定されるものではない。基準点P1,P2の測定値は、図示しないコンピュータに送信する。
コンピュータが基準点P1,P2の座標を受信すると、当該コンピュータにより、一方の基準点P1を中心として、両基準点P1,P2を結ぶ直線をX軸とした第二座標軸を設定する。
【0013】
コンクリート部材2の角部の測定は、図2に示すように、コンクリート部材2の上面21に載置した第一板材31と、コンクリート部材2の前面22に添設した第二板材32とを利用して行う。第一板材31の一部は、コンクリート部材2の前面22よりも前方に突出しており、第二板材32の上端は、第一板材31の突出部分の下面に当接している。すなわち、第一板材31の下面と、第二板材32の裏面との交線は、面取りされたコンクリート部材2の角23を構成する。第一板材31および第二板材32を構成する材料は限定されるものではないが、自重によりたわむことがない剛性を有したものを使用する。また、第一板材31および第二板材32の裏面(コンクリート部材2との当接面)は、コンクリート部材2への貼り付けおよびコンクリート部材2から剥がすことが可能な粘着性を有しているのが望ましい。
【0014】
第二板材32には、複数(本実施形態では4つ)の反射シートターゲット3が設置されている。複数の反射シートターゲット3は、第二板材32の上端(上辺)と平行な直線(オフセット線33)上に設定されている。第二板材32の上端と、オフセット線33との離隔距離(オフセット距離)は既知である。また、反射シートターゲット3同士の間隔も既知である。すなわち、第一板材31と第二板材32とをそれぞれコンクリート部材2の上面21と前面22に設置すれば、コンクリート部材2の前面22に設定された設計座標が既知の複数の測点4に反射シートターゲット3の中心点が一致した状態(測点4を通る前面22の法線上に反射シートターゲット3の中心点が位置する状態)で反射シートターゲット3が設置された状態になる。なお、第二板材32に設定される反射シートターゲット3の数は限定されるものではない。
【0015】
次に、図3に示すように、視準点5を設定する。本実施形態では、各反射シートターゲット3(各測点4)の周囲に視準点5を6つずつ設定する。視準点5は、測点4(反射シートターゲット3の中心点)からずらした位置に設定する。なお、測点4に対する視準点5の数は限定されるものではないが、4〜6点程度設定するのが望ましい。複数の視準点5は、測点4の周囲を囲うように配置するとともに、視準点5同士の間隔が等間隔になるように設定するのが望ましい。このように、複数の視準点5を利用して複数の方向から測点4を視準すれば、トータルステーション1のあそびやバックラッシュ等に起因する誤差を減らすことができ、サブミリメータ以下の測定をより高精度の行うことができる。なお、視準点5の配置は限定されるものではない。視準点5の設定は、コンピュータに入力された測点4の設計座標に基づいて、コンピュータが行う。
ここで、視準点5は、測点4の設計座標に基づいて設定された座標であって、反射シートターゲット3を測定する際に、トータルステーション1の向きを設定するために使用する。すなわち、視準点5は、仮想点であって、反射シートターゲット3の周囲に別途ターゲットなどを実際に設ける必要はない。
【0016】
続いて、トータルステーション1を利用して反射シートターゲット3の中心座標を測定する。まず、トータルステーション1の視準方向を視準点5に設定して、測量を開始する。トータルステーション1は、視準点5から反射シートターゲット3の中心点を追尾測量する。トータルステーション1は、コンピュータから送信された視準点5のデータに基づいて、自動的に反射シートターゲット3の追尾測量を行う。測定された測量座標値は、コンピュータに送信される。同様の作業を各視準点5を利用して行うことで、6方向から視準することで得られた6つの測量座標値を取得する。
次に、6つの測量座標値を用いて最小二乗法により反射シートターゲット3の中心座標値(測点4の座標値)を算出する。反射シートターゲット3の中心座標値は、測量座標値を第二座標軸のXZ平面に投影して二次元座標に変換してから、最小二乗法により算出する。反射シートターゲット3の中心座標値の算出は、コンピュータにより行う。
同様の作業を繰り返すことにより、各反射シートターゲット3の中心座標値を算出する。
【0017】
続いて、複数の反射シートターゲット3の中心座標値を用いて最小二乗法により、各測点4を通るオフセット線33(図2参照)の直線方程式を算出する。直線方程式の算出は、コンピュータにより行う。
オフセット線33の直線方程式を算出したら、当該直線方程式とオフセット距離とを利用して、コンクリート部材2の角23の直線方程式を算出する。算出された角23の計算値(測定値)と、設計値とを比較して、コンクリート部材2の出来形を確認する。
【0018】
以上、本実施形態の出来形測定方法によれば、6点の視準点5を利用して測点4の座標値を正確に算出することができるため、従来の手法に比べて手間を大幅に削減することができる。コンクリート部材2の角23からオフセットされた直線(オフセット線33)を早期かつ正確に測定することで、面取りによって境界線が不明確なコンクリート部材2の角23を、簡易かつ高精度に測定することができる。そのため、コンクリート部材2の出来形の計測に要する時間を大幅に削減することができる。
コンクリート部材2の計測に反射シートターゲット3を利用しているため、プリズムターゲットに比べて誤差が少なく、高精度の測定が可能である。
【0019】
なお、本実施形態では、コンクリート部材2の上面21と前面22の角を測定する場合ついて説明したが、測定の対象となる角は限定されるものではない。例えば、コンクリート部材2の側面(第一面)と前面22(第二面)の角や、底面(第一面)と前面22(第二面)の角であってもよい。この場合には、第一板材31を第一面(側面または底面)に添設し、第二板材32を第二面(前面22)に添設した状態で測定を行えばよい。
また、本実施形態では、第一板材31および第二板材32をそれぞれ個別に第一面または第二面に添設する場合について説明したが、第一板材31と第二板材32とが蝶番状の治具を介して連結されたものを使用してもよい。
第一面および第二面に添設する治具は板材に限定されるものではなく、シート材であってもよい。
【0020】
<第二の実施形態>
第二の実施形態では、図1に示すように、コンクリート部材2の前面22に形成されたボルト孔24の位置を、トータルステーション1で測定する場合について説明する。なお、本実施形態では、ボルト孔24の位置を測定する場合について説明するが、測定対象部位はボルト孔24に限定されるものではない。例えば、内面が平坦な単なる孔や窪み(凹部)等であってもよい。
まず、コンクリート部材2の上面21に設けられた二つ基準点P1,P2を測定する。二つの基準点P1,P2は、コンクリート部材2の上面21に固定されたプリズムターゲットをトータルステーション1により自動測量することにより測定する。基準点P1,P2の座標を測定したら、一方の基準点P1を中心として、両基準点P1,P2を結ぶ直線をX軸とした座標軸を設定する。
【0021】
次に、図4に示すように、ボルト孔24に、反射シートターゲット3が設置されたボルト34を螺着する。反射シートターゲット3の中心は、ボルト34の中心軸と一致している。なお、ボルト34は、基準点P1,P2の測定前にボルト孔24に螺着しておいてもよい。また、本実施形態では、ボルト孔24にボルト34を取り付ける場合について説明するが、測定対象部位(ボルト孔24等)に取り付ける部材は、反射シートターゲット3が設置可能で、かつ測定対象部位に取付可能であれば、ボルト34に限定されるものではなく、例えば、ピン治具であってもよい。
次に、図3に示すように、視準点5を設定する。本実施形態では、各反射シートターゲット3(各測点4)の周囲に視準点5を6つずつ設定する。なお、視準点5の詳細は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
続いて、トータルステーション1を利用して反射シートターゲット3の中心座標を測定する。反射シートターゲット3の中心座標の測定方法は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
そして、複数の測量座標値を用いて最小二乗法により反射シートターゲット3の中心座標値(測点4の座標値)を算出する。反射シートターゲット3の中心座標値は、測量座標値を第二座標軸のXZ平面に投影して二次元座標に変換してから、最小二乗法により算出する。
【0022】
以上、本実施形態の出来形測定方法によれば、6点の視準点5を利用して測点4の座標値を正確に算出することができるため、従来の手法に比べて手間を大幅に削減することができる。同一平面に形成された複数のボルト孔24の座標値を測定すれば、ボルト孔24同士の位置関係の確認とともに、ボルト孔24が形成された平面の平面性を確認することができる。
コンクリート部材2の計測に反射シートターゲット3を利用しているため、プリズムターゲットに比べて誤差が少なく、高精度の測定が可能である。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
本実施形態の出来高計測方法により測定を行う測定対象物はコンクリート部材に限定されるものではない。
また、出来高計測方法は、測定対象物の角23の測定や、ボルト孔24の位置の測定に限定されるものではなく、例えば、測定対象物の縁の測定、測定対象物の表面に形成された段差部分の境界線や段差の高さの確認などにも応用することができる。すなわち、オフセット線33の測定を利用すれば、部材の縁や境界線を算出することができ、また、高さの異なる2つの平面を測定することで段差の高さを確認することができる。
測量時に使用する座標軸および座標値の算出に利用する座標軸は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0024】
1 トータルステーション
2 コンクリート構造物(測定対象物)
3 反射シートターゲット
4 測点
5 視準点
P1,P2 基準点
図1
図2
図3
図4