(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スペクトル選択性素子の作用面(12)の面法線が前記検出光路(66)の光軸に対して所定の角度で斜めになるように、前記作用面(12)は、前記検出光路(66)上に配置されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の走査顕微鏡(20)。
前記スペクトル選択性素子(10)の作用面(12)は、前記検出光束(54)が前記作用面(12)に入射する入射角によって前記作用面(12)のスペクトルエッジが実質的に線形に変化するように構成されている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の走査顕微鏡(20)。
前記検出光束(54)が前記スペクトル選択性素子(10)の作用面(12)に入射するときの、前記照射光束(24)の走査移動に応じて変化する入射角は、前記作用面(12)における前記検出光束(54)の入射の場所が前記入射角によって近似的に線形に変化する角度範囲に制限されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載の走査顕微鏡(20)。
前記少なくとも1つのエッジフィルタは、少なくとも1つのショートパスフィルタ、少なくとも1つのロングパスフィルタおよび/または少なくとも1つのバンドパスフィルタを含む、
請求項9記載の走査顕微鏡(20)。
前記スペクトル選択性素子(10)の作用面(12)は、前記作用面(12)のスペクトルエッジが変化軸(V)に沿った方向において、前記検出光束(54)の入射の場所によって線形または非線形に変化するように構成されている、
請求項1から11までのいずれか1項記載の走査顕微鏡(20)。
前記作用面(12)が前記対物レンズ瞳(50)の像の場所に配置されている場合、前記作用面(12)のスペクトルエッジは、前記変化軸(V)に沿った方向において、前記検出光束の入射の場所によって線形に変化し、
前記入射角の変化に起因する、前記スペクトルエッジの変化が補償される前記場所に、前記作用面(12)が配置されている場合、前記スペクトルエッジは、前記変化軸(V)に沿った方向において、前記検出光束の入射の場所によって非線形に変化する、
請求項12記載の走査顕微鏡(20)。
前記ビームスプリッタ(118,203,214)は、前記検出光束(54)のうち前記ビームスプリッタ(118,203,214)が各自に割り当てられた前記検出モジュール(88,210,221,228)へ透過によって供給するスペクトル成分の波長が、前記ビームスプリッタカスケード内において順次減少していくように構成されている、
請求項17記載の走査顕微鏡(20)。
前記走査顕微鏡(20)は、前記検出光路(66)上において前記対物レンズ瞳(50)の像に前置された少なくとも1つの第1のビームスプリッタ(194)と、前記検出光路(66)上において前記対物レンズ瞳(50)の像に後置された少なくとも1つの第2のビームスプリッタ(118)と、を備えている、
請求項16から18までのいずれか1項記載の走査顕微鏡(20)。
前記第1のビームスプリッタ(194)と前記第2のビームスプリッタ(118)とは同一の発散を示し、かつ、前記対物レンズ瞳(50)の像から等しい距離に配置されており、
前記発散は、前記作用面(12)上における単位区間あたりの前記スペクトルエッジの変化に相当するものである、
請求項19記載の走査顕微鏡(20)。
前記少なくとも1つの第1のビームスプリッタは、少なくとも2つのビームスプリッタ(251,252)を含み、前記少なくとも2つのビームスプリッタ(251,252)は、前記対物レンズ瞳(50)の像からそれぞれ異なる距離に前置されており、かつ、異なる発散を示し、および/または、
前記少なくとも1つの第2のビームスプリッタは、少なくとも2つのビームスプリッタ(254,255)を含み、前記少なくとも2つのビームスプリッタ(254,255)は、前記対物レンズ瞳(50)の像からそれぞれ異なる距離に後置されており、かつ、異なる発散を示す、
請求項19または20記載の走査顕微鏡(20)。
【背景技術】
【0003】
上記にて記載した分野の走査顕微鏡はたとえば、蛍光放射を放出するために照射光束を用いて蛍光色素を励起させる蛍光観察法において使用される。この用途では、励起光を照射光束の形態で、試料上にて走査移動をさせる。この走査移動は、対物レンズに前置された走査ユニットを介して実現され、走査ユニットは通常は、1つまたは複数の可動の走査ミラーと、照射光束を対物レンズの入射瞳へ送る走査光学系と、を備えている。試料において照射光束によって励起された蛍光放射は、対物レンズによって走査顕微鏡へ送り返され、検出光束の形態で検出ユニットへ供給される。この検出ユニットは通常は、検出光束を成形および偏向するための複数のレンズと、検出光束を最終的に検出する検出器と、を備えている。
【0004】
共焦点顕微鏡法では、通常はいわゆるデスキャン検出器を用いて動作するが、たとえばマルチフォトン顕微鏡法、ライトシートないしは光シート顕微鏡法、または、マルチスポットないしは多焦点顕微鏡法等の他の顕微鏡用途では、いわゆるノンデスキャン検出器(NDD)が用いられる。デスキャン検出器は、検出光束が走査ユニットへ返されて走査ユニットによって位置固定的な検出光束に変換された後に初めて、検出光束を受光する。かかる位置固定的な光束は、走査ユニットに当たる前は照射光束でもある。それに対してノンデスキャン検出器は、検出光束が先に走査ユニットへ供給されることなく検出光束を受光するものである。よって、検出光束は走査ユニットによって影響を受けることなく検出器に到達する。
【0005】
マルチフォトン顕微鏡法では、非線形の作用によって、試料に集光された照射光束によって生じる、空間的に狭く制限された励起焦点内の蛍光色素のみが励起されて、蛍光放射を放出する。この励起焦点に由来する蛍光放射は全て、励起焦点の既知の位置を考慮してノンデスキャン検出器によって検出することができる。その結果、照射光束を試料において走査移動させることによって、3次元の試料像を生成することができる。
【0006】
走査顕微鏡の検出光路には、通常は、検出光束を所望のようにスペクトル操作する複数のビームスプリッタおよびフィルタが設けられている。たとえば、ビームスプリッタを使用して、検出光束を波長に依存して複数の部分光線に分割し、各自専用の検出器を備えた複数の検出チャネルへこれらの部分光線を供給することができる。光学フィルタを用いて、検出器ごとに検出すべき波長領域を規定することができる。
【0007】
検出器としては特に点検出器(たとえば光電子増倍器、アバランシェ光電子増倍器またはハイブリッド光電子増倍器)、ライン検出器またはエリア検出器ないしはアレイ検出器(たとえばCCD、EMCCD、CMOS、sCMOS、またはQIS(Quanta Image Sensor))を使用することができる。
【0008】
一方、共焦点顕微鏡法では、ユーザが検出対象の波長領域を撮像前に自由に選択できる、いわゆる分光検出器も使用されている。かかる分光検出器では、たとえばプリズムを用いて検出光束を複数のスペクトル成分に分解し、これらから、検出対象の波長領域を選択する。
【0009】
それに対して、上述のフレキシブルに使用可能な分光検出器をノンデスキャン検出器において使用することは、従来は容易ではなかった。というのも、ノンデスキャン検出器では検出光束は検出ユニットにおいて、共焦点用途では検出光束が走査ユニットへ戻ることによって生じることがない走査移動を行うからである。よって、従来はノンデスキャン検出器には、スペクトル特性が決まっている従来の干渉フィルタないしは干渉ビームスプリッタ、すなわち、スペクトル特性が実験中にユーザによって変化できない従来の干渉フィルタないしは干渉ビームスプリッタが備えつけられていた。
【0010】
独国特許出願公開第102006034908号明細書(DE 10 2006 034 908 A1)には、走査顕微鏡においてカットオフ波長(「スペクトルエッジ」ともいう)がフィルタに沿った方向に変化するエッジフィルタの形態のスペクトル選択性素子(プロファイルフィルタ)を使用することが記載されている。このスペクトル選択性素子では、フィルタのスペクトルエッジが透過波長領域を、透過が行われない波長領域から分離する。
【0011】
スペクトルエッジが位置によって変わるかかるエッジフィルタを使用することにより、ユーザが検出器のスペクトル特性を要望に応じて調整することができる。しかしこのようなエッジフィルタでは、独国特許出願公開第102006034908号明細書では言及されていない問題も生じる。たとえば、フィルタに入射した検出光束が十分に小さい径を有する場合にしか、十分に急峻なスペクトルエッジ、すなわち十分に鮮鋭なカットオフ波長を実現することができない。光束径が増大するごとに、エッジ勾配が必然的に減少していく。エッジ勾配が小さくなるほど、検出器のスペクトル特性は低精度になっていく。
【0012】
その上、フィルタのスペクトルエッジ位置は、検出光束がフィルタに入射する入射角に依存する。このことは特に、検出光束の入射角が照射光束の走査移動に基づいて変化するノンデスキャン検出器の場合に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、冒頭に述べた分野の走査顕微鏡を、ノンデスキャン用途において検出ユニットのスペクトル特性のフレキシブルかつ高精度の規定が可能になるように改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は前記課題を、請求項1記載の構成を備えた走査顕微鏡によって解決する。従属請求項に有利な実施形態が記載されている。
【0015】
本発明は択一的な一形態では、スペクトル選択性素子の作用面を、検出光路上の対物レンズ瞳の像の場所に配置する。それに対し、第2の代替的な一形態では本発明は、スペクトル選択性素子の作用面を、検出光路上の位置であって、検出光束が作用面に入射する入射角の、照射光束の走査移動に基づいて生じる変化に起因する、当該作用面のスペクトルエッジの変化が、当該作用面のスペクトルエッジの逆方向の変化によって少なくとも部分的に補償される位置に配置し、当該作用面のスペクトルエッジの逆方向の変化は、検出光束が作用面に入射する場所の変化によって生じるものである。かかる形態では、スペクトルエッジ、すなわち反射と透過との間のカットオフ波長を、たとえば、透過率がちょうど50%である波長として規定することができる。もちろん、スペクトルエッジを他の態様で規定することも可能である。
【0016】
換言すると、請求項1に記載の本発明は、照射光束を試料に集光するための対物レンズを照射光路上に配置した走査顕微鏡を対象とするものである。照射光路上において対物レンズには、対物レンズによって集光された照射光束が試料に対して相対的に走査移動を行うように照射光束を偏向するための走査ユニットが前置されている。走査顕微鏡は、検出光路上に配置された、照射光束を受光するための検出ユニットを備えている。この検出光路は、検出光束が走査ユニットによって偏向されないように構成されており、これにより、照射光路の照射光束は走査ユニットに到達しない。その点においては、検出光束は走査移動を行うので、この検出光路は移動ないしはスキャンする検出光路である。検出ユニットは、検出光束をスペクトル操作するために、スペクトルエッジを有する作用面を備えた少なくとも1つのスペクトル選択性素子を備えている。スペクトルエッジは、検出光束が作用面に入射する場所によって変化する。
【0017】
「スペクトルエッジの変化」とは、本発明では特に、検出光束がスペクトル選択性素子の作用面に当たる場所に依存して、当該スペクトル選択性素子において反射および/または透過する検出光束のスペクトル成分が変化することをいう。
【0018】
第1の択一的な形態では、スペクトル選択性素子の作用面は、検出光路上の対物レンズ瞳の像の場所に配置されている。第2の代替的な形態では、スペクトル選択性素子の作用面は検出光路上において、当該検出光路の他の場所に配置されている。検出光路のこの他の場所は、検出光束が走査移動を行う、移動ないしはスキャンする検出光路上に設けられており、その際には、検出光束の走査移動に起因して生じる、スペクトル選択性素子の作用面への検出光束の入射場所の変化(これは通常、スペクトル選択性素子の作用面に対する検出光束の入射角の相対的な変化の原因にもなる)が、作用面のスペクトルエッジの逆方向の変化によって少なくとも部分的に補償されるように、スペクトル選択性素子を配置することができる。
【0019】
上掲の第1の択一的な形態は、特に、スペクトル選択性素子がその作用面を検出光路の光軸に対して垂直にして配置されており、かつ、走査に起因する傾動運動により検出光束が当該素子の作用面に入射する(当該光軸を基準とした)最大入射角が過度に大きくない場合に、有利に適用することができる。この場合、スペクトル選択性素子を瞳像の場所に配置することによって、作用面上における光入射場所が変わることによるスペクトルエッジのシフトが回避され、なおかつ、入射角の変化に起因するスペクトルエッジのシフトが比較的小さくなって許容範囲内となる。典型的にはこのことは、35°以下の入射角、特に30°以下の入射角、ごく具体的には20°以下の入射角に当てはまる。
【0020】
第2の代替的な形態は、特に、走査移動によって生じる、スペクトル選択性素子における入射角が、入射角に依存するエッジ位置シフトを許容できなくなるほど大きい場合に、有利である。この場合本発明は、スペクトル選択性素子の作用面が光軸に沿った方向に瞳像の位置に対して相対的にシフトするように、当該作用面を検出光路上に配置する。作用面を瞳像の場所に対して上述のように相対的に配置することにより、検出光束の傾動運動によって、作用面における検出光束の入射場所が変化する。入射場所がこのように変化すると、入射角に依存するエッジ位置シフトを十分に補償するために使用できる、エッジ位置のシフトが生じる。
【0021】
換言すると、入射角に依存するエッジ位置の変化は、スペクトル選択性素子の適切な発散プロファイルによって補償される、ということである。ここで「発散」とは、当該素子の作用面上における単位区間あたりのスペクトルエッジの変化をいう。
【0022】
この補償を可能にするためには、スペクトル選択性素子の作用面は検出光路の光軸に対して垂直ではなく、斜めに配置されている。このような斜め位置決めにより、垂直方向の向きとは異なって、スペクトルエッジの位置は入射角と共に単調に変化することとなる。このことによって、スペクトル選択性素子の作用面上における入射場所の変化によって生じる、同様に単調に推移する逆方向のエッジ位置シフトにより、入射角に依存するエッジ位置シフトを補償することができる。
【0023】
スペクトル選択性素子は有利には、反射平面すなわち入射光線と反射光線とによって定まる平面がスペクトル選択性素子の変化軸Vに対して平行になるように、光路上に配置される。
【0024】
有利には、スペクトル選択性素子の作用面は検出光路の光軸に沿った方向において、対物レンズ瞳の場所まで距離Δzを有し、この距離Δzは、検出光束の入射角の変化、ひいては検出光束のスキャン角の変化と、スペクトル選択性素子の発散とに依存して定められている。よってパラメータΔzは、検出光路の光軸に沿った方向におけるスペクトル選択性素子の作用面から対物レンズ瞳の像の場所までの距離を示すものであり、スペクトル選択性素子は、対物レンズ瞳の結像の場所から上流または下流に距離Δzの場所に配置することができる。同時に複数のスペクトル選択性素子を使用することも可能であり、これらのスペクトル選択性素子のうち一部を対物レンズ瞳の結像の場所より上流に、一部を当該結像の場所より下流に配置することができる。
【0025】
上記および下記においてスキャン角とは、検出光束と光軸との間の角度である。以下、スキャン角については記号θを、場合によっては下付文字との組合せで用いる。反時計回りのスキャン角は、本願では正の数字で表し(θ>0)、時計回りのスキャン角は負の数字で表す(θ<0)。使用される全てのスキャン角の角度範囲を「スキャン角範囲」とも称する。
【0026】
さらに、作用面が検出光路の光軸に対して斜めに配置される場合、(図中に示されているように)一般性を限定することなく、正のスキャン角θの場合に対物レンズ瞳の像の位置と作用面上における光入射場所との間の距離が負のスキャン角θの場合より小さくなるように、作用面は光軸に対して角度φ>0で配置される。この角度φとスキャン角θとから、検出光束の入射角を特定することができる。
【0027】
上掲の距離Δz>0は有利には、全てのスキャン角θ≠0について以下の条件を満たすように定められている:
【数1】
有利には、
【数2】
特に有利には、
【数3】
ここで、
ES(θ,φ)は、スキャン角θかつ角度φの場合に生じる、光軸上における光線束の入射場所での作用面のスペクトルエッジの変化を表し、
(ES(θ,φ)は負の値もとることができる)、
EDは、作用面上における単位区間あたりのスペクトルエッジの変化を表す。
【0028】
有利には距離Δzは、所望のエッジ位置からのスペクトル位置の偏差が全てのスキャン角について可能な限り最小となるように、すなわち、入射角に依存するエッジ位置シフトが可能な限り最良に補償されるように定められている。
【0029】
この場合、以下の条件を満たすスキャン角θ
0が存在することとなる:
【数4】
【0030】
よって角度θ
0は、入射場所の変化に基づくエッジ位置のシフトが入射角に依存するエッジ位置シフトによって補償され、かつ、当該補償からの偏差がスキャン角範囲全体において近似的に最適化されるスキャン角である。角度θ
0はスキャン角範囲内である。
【0031】
上記にて説明した、スペクトル選択性素子の作用面の斜め位置決めは有利には、作用面の面法線が検出光路の光軸に対して定められた角度で斜めになるように実現される。
【0032】
上掲の角度は、有利には65°以下(たとえば45°)であり、特に有利な一構成では、上掲の角度は20°〜40°の範囲内である。かかる角度範囲の選択は、以下の考察に基づいている:大きいエッジ勾配を達成するためには、スペクトル選択性素子の場所における光線径が可能な限り小さくなければならない。さらに、スキャンフィールドを可能な限り大きくしたいとの要請、すなわち、スキャン角を大きくしたいとの要請も存在し、このようにすると、検出ユニットにおいて使用される結像光学系の開口数が大きくなる。開口数が大きいことは、スペクトル選択性素子における入射角が小さいことと同様に有利である。というのも、開口数が大きいこともエッジ勾配を改善するからである。
【0033】
本発明の配置を最適化するためには、瞳までの距離、使用される結像光学系の開口数ならびに径、発散および入射角を、その光学素子の不調和が排除されるように変化させることができる。特に、入射角が過度に大きく、かつ、スペクトル選択性素子から瞳までの距離が過度に大きい場合、光路上において後置された結像光学系との不調和が生じることが判明している。さらに、特に大きい開口数を維持しなければならない場合には、入射角が過度に小さいと、反射時の光路上においてスペクトル選択性素子に直接前置ないしは後置された光学素子との不調和が生じ得ることも判明している。2つのスペクトル選択性素子を瞳の上流と下流とに配置する場合において、特に素子から瞳までの各距離が小さく、かつ入射角が大きい場合には、これらの素子間に不調和が生じる。
【0034】
上記検討を背景として、大きい開口数を維持するとの条件下では、スペクトル選択性素子の作用面上における検出光の入射角を約20°〜約40°の間に設定することが有利であるとの認識が得られた。このようにして、入射角に対するエッジ位置の依存性が小さいことにより、各素子の発散を縮小することができ、これにより各素子の長さも短くすることができる。さらに、上述の不調和を回避するために光学素子間のスペースを大きく維持することも可能になる。
【0035】
スペクトル選択性素子の作用面はたとえば、検出光束が作用面に入射する入射角によって当該作用面のスペクトルエッジが実質的に線形に変化するように構成されている。かかる構成によって、作用面における光入射場所の変化により生じる逆方向のエッジ位置シフトによって、入射角に依存するエッジ位置シフトを、特に簡単に補償することができる。
【0036】
ショートパスフィルタまたはロングパスフィルタとしてスペクトル選択性素子を使用する場合、スペクトルエッジが入射場所によって線形に変化することが有利である。しかし本発明は、スペクトルエッジが検出光束の入射場所によって線形に変化することに限定されるものではない。特に、スペクトル選択性素子をビームスプリッタとして使用する場合には、スペクトルエッジの非線形の変化、たとえば2乗変化、指数関数的変化、または他の態様の変化も可能である。
【0037】
スペクトル選択性素子の作用面は、そのスペクトルエッジが上述の変化軸に対して垂直方向に、検出光束の入射場所によって変化するように構成することも可能である。本実施形態は有利には、本発明の分野の走査顕微鏡の場合、通常は試料を2次元走査するとの事情を考慮したものである。この場合、スペクトル選択性素子における検出光束の実際の入射角は、得られる像においてたとえばx軸とこれに対して垂直なy軸とを基準とする2つのスキャン角のベクトル積から算出されるものである。x軸は、上述の変化軸に相当する。これに対応して、変化軸に対して垂直な軸はy軸に相当する。よって、試料の2次元の走査を行うと、作用面上におけるスペクトルエッジ位置の依存性は上掲の変化軸または発散軸の方向にだけでなく、当該軸に対して垂直方向にも生じる結果となる。この垂直方向においてスペクトルエッジを適切に変化させることにより、y軸を基準とする入射角によって引き起こされるスペクトルエッジの変化を、効果的に補償することができる。たとえば、スペクトル選択性素子の作用面上において同一のスペクトルエッジ位置の線が変化軸または発散軸に対して垂直方向に直線には延在せず、適切な態様で曲線になるように、スペクトル選択性素子を構成することができる。
【0038】
有利には、検出光束がスペクトル選択性素子の作用面に入射するときの、照射光束の走査移動に応じて変化する入射角は、当該検出光束が作用面に入射する場所が入射角によって実質的に線形に変化する角度範囲に制限される。ここで、作用面の面法線と検出光路の光軸とが成す角度が小さいほど、入射角が変化する角度範囲を大きくすることができる。
【0039】
有利には、少なくとも1つのスペクトル選択性素子は少なくとも1つのビームスプリッタおよび/または少なくとも1つのエッジフィルタを備えている。エッジフィルタは、少なくとも1つのショートパスフィルタ、少なくとも1つのロングパスフィルタおよび/または少なくとも1つのバンドパスフィルタを含むことができる。
【0040】
有利には上述のバンドパスフィルタは、検出光路の光軸に沿って並べて配置されたショートパスフィルタとロングパスフィルタとから構成されている。
【0041】
構成をよりコンパクトにするためには、フィルタ領域ないしは分割領域が相異なる複数のスペクトル選択性素子を前後に並べて配置することが有利となり得る。たとえば、スペクトルエッジが最小値から中間値まで変化する第1のフィルタ領域ないしは分割領域を有する第1の基板を設けることができ、さらに、スペクトルエッジが上記の中間値から最大値まで変化するフィルタ領域ないしは分割領域を有する第2の基板を設けることができる。これらの第1および第2の基板を検出光路上において前後に並べて配置し、所望の検出波長領域ないしは所望のスペクトルエッジを有する基板を検出光路上に移動させ、かつ、他方の基板を当該光路から取り出すように使用することができる。さらに、これらの基板は、波長に依存しない高い透過率を有する領域を有することも可能である。かかる構成によって、一方の基板を光路から取り出すことに代えて、波長に依存しない高い透過率の領域を光路上に移動させること、ないしは光路上に留まらせることも可能になる。
【0042】
スペクトル選択性素子が光軸に対して垂直方向ないしは略垂直方向である場合、特に有利な一構成では、スペクトル選択性素子の作用面のスペクトルエッジが変化軸に沿った方向において、検出光束の入射場所によって線形に変化するように、当該作用面が構成されている。本実施形態では、当該素子はたとえば、線形可変エッジフィルタである。
【0043】
たとえば検出ユニットは、検出光路上においてスペクトル選択性素子に前置された光学系を備えており、この光学系は、変化軸に対して平行な方向において、当該変化軸に対して垂直方向における光学的作用とは異なる光学的作用を有する。かかる光学系はたとえば、上述の方向において異なる屈折力を示す非点収差光学系、特にシリンダ光学系とすることができる。たとえば、スペクトル選択性素子の作用面上への入射角を小さく抑えるため、シリンダ光学系が検出光束を、変化軸に対して平行方向にのみコリメートし、かつ、変化軸に対して垂直方向には光束を発散したままにするように、シリンダ光学系を構成することができる。また、変化軸に対して平行な方向と垂直な方向とにおいて異なる結像比をもたらす光学系も可能である。このような光学系によって、たとえば、スペクトル選択性素子に入射した検出光束が当該スペクトル選択性素子の作用面上に、変化軸に対して垂直方向の寸法が当該変化軸に対して平行方向の寸法より大きい楕円形の光スポットを生成するように、当該検出光束に影響を及ぼすことができる。このように影響を及ぼすことによって、変化軸に対して垂直方向に生じる既に小さいエッジ位置シフトを、さらに低減することができる。
【0044】
有利には検出ユニットは、少なくとも2つの検出モジュールを備えたモジュール構成を有し、少なくとも1つのスペクトル選択性素子は少なくとも1つのビームスプリッタを有し、このビームスプリッタは検出光束をスペクトル分離した状態で両検出モジュールへ供給する。かかるモジュール構成により、本発明の走査顕微鏡を、都度の所望の用途に合わせてフレキシブルに調整することが可能になる。
【0045】
作用面上における検出光束の入射場所を変化させるためには、駆動装置を用いてスペクトル選択性素子を位置調整可能とすることが有利である。素子の作用面がたとえば方形の形状を有する場合、所望のスペクトルエッジに調整するため、適切な駆動装置を用いて作用面を、当該方形の長辺に対して平行な変化軸に沿った方向に位置調整することができる。それに対して、発散のプロファイルが円形の形状を有する場合、エッジ位置を調整するため、駆動装置を用いて作用面を回転させることができる。
【0046】
有利には、たとえば機械的、空気圧式、電気的、または圧電効果をベースとする駆動装置を用いて、作用面の位置を調整することができる。たとえば、所望の位置に調整するために電気モータを使用することができる。かかる調整は、ユーザによってソフトウェアを用いて行うことができる。また、上述のような駆動装置を自動的に動作させることも可能である。さらに、検出光路の光軸に沿った方向においてスペクトル選択性素子の作用面と対物レンズ瞳の像の場所との間の距離Δzのフレキシブルな適合を可能にするため、スペクトル選択性素子を光軸に沿ってシフト可能に構成することも可能である。このシフトも有利には、上掲の種類の駆動装置によって行うことができ、また自動的に行うことも可能である。上掲のいずれの場合においても、駆動装置を固定のプログラム順序に基づいて制御することができ、または、光強度または光線位置等の特定の測定データに応答する閉ループ制御に基づいて制御することもできる。その際には、駆動装置が測定前または測定中に位置を適合させることが可能である。このことによってたとえば、エッジ位置の残りのシフトを動的に補償することができる。
【0047】
本発明の走査顕微鏡は、通常は干渉フィルタを用いて動作する従来のシステムであって、スペクトル特性が空間的にフィルタ全体にわたって一定であるシステムと比較して、走査顕微鏡において使用されるスペクトル選択性素子を適切に調整することによって各検出チャネルの個々のスペクトル特性をユーザによって撮像直前ないしは撮像中に初めて規定できるという、格別な利点を奏する。設けられる検出チャネルが多いほど、上記利点は顕著になる。このことを背景として、非常に有利な一実施形態では検出ユニットは、少なくとも1つの第1のビームスプリッタと1つの第2のビームスプリッタとを含むビームスプリッタカスケード、少なくとも1つの第1の検出モジュール、第2の検出モジュールおよび第3の検出モジュールを備えており、第1のビームスプリッタは検出光束をスペクトル分離した状態で透過によって第1の検出モジュールへ供給し、かつ反射によって第2のビームスプリッタへ供給し、第2のビームスプリッタは、第1のビームスプリッタによって反射された検出光束をスペクトル分離した状態で透過によって第2の検出モジュールへ供給し、かつ反射によって第3の検出モジュールへ直接、または他のビームスプリッタを介して間接的に供給する。本実施形態は、上述のビームスプリッタを構成する本発明のスペクトル選択性素子の特性が、スペクトルエッジに基づいて透過スペクトル領域より大きい反射スペクトル領域より大きいものとなっているとの認識に基づいている。ノンデスキャン検出ユニットを2つより多くの検出モジュールによって構成する場合、可能な限り大きなスペクトルフレキシビリティを達成するためには、検出モジュールのカスケード接続を透過によってではなく反射によって行うことが有利である。
【0048】
他の有利な一実施形態では上述のビームスプリッタは、検出光束のうちビームスプリッタが各自に割り当てられた検出モジュールへ透過によって供給するスペクトル成分の波長が、ビームスプリッタカスケード内において順次減少していくように構成されている。複数の検出モジュールを備えた検出ユニットの場合、各検出モジュールは検出光のうち、最大でも、他の検出モジュールによっては検出されない成分のみを検出することができる。よって本実施形態では、検出光において、最大光波長を有するスペクトル成分を、検出光路上において最初の検出モジュールへ送るように、すなわち、透過において最初のビームスプリッタに後置された検出モジュールへ送るように構成されている。このことに応じて、検出光のうち光波長が2番目に大きいスペクトル成分は、検出光路の中で2番目の検出モジュールへ送られる。すなわち、透過において2番目のビームスプリッタに後置された検出モジュールへ送られる。その後、他のスペクトル成分も同様に他の検出モジュールへ分配される。よって、これらのビームスプリッタはロングパスビームスプリッタとして構成されている。
【0049】
したがって、上記の実施形態との協働においては、検出モジュールのカスケード接続はビームスプリッタにおける反射だけでなされるのではなく、検出モジュールによって検出される検出光のスペクトル成分の波長についてもなされる。
【0050】
ビームスプリッタの反射率は通常は透過率より高いので、検出ユニットのカスケード状の構成は、光取り出し率が高いという利点を奏する。その理由は、検出光は各検出モジュールへの光路上において、複数のビームスプリッタのうち一度にちょうど1つでしか透過されないからである。
【0051】
他の有利な一構成は、検出光路上において対物レンズ瞳の像に前置された少なくとも1つの第1のビームスプリッタと、検出光路上において当該対物レンズ瞳の像に後置された少なくとも1つの第2のビームスプリッタとを備えている。その際には、瞳像からの各距離は、上述の関係式(1)または(2)に従って規定される。このことによっても、走査顕微鏡の構成を特にコンパクトにすることができる。
【0052】
有利には、第1のビームスプリッタと第2のビームスプリッタとは同一の発散を示し、かつ、対物レンズ瞳の像から等しい距離に配置されている。既に上記で述べたように、この発散は、作用面上における単位区間あたりのスペクトルエッジの変化に相当する。かかる構成によっても、特に簡単かつコンパクトな構成が容易になる。このことは特に、反射光路および透過光路の双方においてスペクトル選択性素子が各瞳像の周囲に配置される場合に当てはまる。
【0053】
他の一構成では、少なくとも2つのビームスプリッタが設けられており、これらのビームスプリッタは対物レンズ瞳の像からそれぞれ異なる距離に前置されており、かつ異なる発散を示し、および/または、少なくとも2つのビームスプリッタが設けられており、これらのビームスプリッタは対物レンズ瞳の像からそれぞれ異なる距離に後置されており、かつ異なる発散を示す。本構成は、各スペクトル選択性素子から瞳までの距離がとりわけ当該素子の発散に依存するとの認識に基づいている。このことによって、瞳像より上流にも、また瞳像より下流にも、1つより多くのスペクトル選択性素子を配置することができ、対応する瞳の側に存在する素子は異なる発散を有する。
【0054】
他の有利な一構成では、少なくとも1つのスペクトル選択性素子は少なくとも1つのエッジフィルタを備えており、このエッジフィルタは、検出器を備えた少なくとも1つの検出モジュールにおいて、他の結像光学系を用いることなくビームスプリッタに接続されている。この少なくとも1つのエッジフィルタは検出器に前置されており、その作用面は、対物レンズ瞳の像の場所にほぼ配置されている。本構成では少なくとも1つのエッジフィルタは、その作用面を有利には検出光路の光軸に対して垂直にして配置されている。ここでも、少なくとも1つのエッジフィルタは、少なくとも1つのショートパスフィルタ、少なくとも1つのロングパスフィルタおよび/または少なくとも1つのバンドパスフィルタを含むことができる。少なくとも1つのエッジフィルタが複数の素子から構成されている場合、これらの素子は瞳像の直近に設けられている。
【0055】
有利には、検出ユニットは少なくとも1つの非球面レンズを備えており、この非球面レンズは、特に有利な一構成ではアクロマティック構成となっている。かかる構成は、ノンデスキャン検出ユニットの光路上には大きな開口が生じるとの事情を考慮したものである。アクロマティック非球面レンズを用いることにより、大きな開口の場合に生じる結像誤差を小さく抑えることができる。
【0056】
有利には、スペクトル選択性素子の作用面は、さらに偏光感応性に構成されている。このことはたとえば、作用面上に偏光感応領域を設けることによって実現することができる。この偏光感応領域は、たとえば偏光子または偏光スプリッタとして構成することができる。本構成は、特に異方性検査に有利である。これによって、偏光方向が異なる検出光をそれぞれ異なる検出モジュールへ送ることもできる。
【0057】
特殊な一実施形態では、対物レンズは照射光束を試料上に集光するように、かつ、検出光束を受光するように構成されている。よって本構成は、照射および検出のために共用される対物レンズを備えたものである。
【0058】
代替的な一実施形態では、上述の対物レンズは照射光束を試料上に集光するためにのみ構成されている。その際には検出光路上に、検出光束を受光してさらに検出ユニットの方向に送る光学系が設けられている。この光学系はたとえば対物レンズまたはコンデンサであり、試料から来た検出光を集光する。
【0059】
以下、本発明を特定の実施形態に基づき、図面を参照して詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下では
図1を参照して、まずは、本発明ではノンデスキャン検出ユニットにおいて検出光束をスペクトル操作するための使用されるスペクトル選択性素子10の特性について説明する。
【0062】
図1の実施例では、スペクトル選択性素子10は可変のダイクロイックエッジフィルタ、たとえばロングパスフィルタまたはショートパスフィルタである。エッジフィルタは、ロングパスフィルタとしては、予め決まったカットオフ波長またはスペクトルエッジを上回るスペクトルを透過し、それに対してショートパスフィルタとしては、当該カットオフ波長またはスペクトルエッジを下回るスペクトルを透過する。しかし、以下の説明はフィルタに限定されるものではなく、本発明の素子10が、スペクトルエッジを上回るスペクトルを透過するスペクトル選択性ビームスプリッタであって、スペクトルエッジを下回るスペクトルを所定のように反射させるスペクトル選択性ビームスプリッタ(またはその逆)となる場合にも、同様に当てはまることに留意すべきである。
【0063】
図1に示されているように、スペクトル選択性素子10は作用面12を有し、この作用面12は変化軸Vに沿った方向に、スペクトル的に働く長さLを有する。
図1の実施例では変化軸Vは、xが付された長手方向に対して平行であり、かつ、yが付された幅方向に対して垂直である。
【0064】
素子10は、そのスペクトルエッジが、変化軸Vに沿った方向において検出光束の入射場所によって変化するという特性を有する。よって、変化軸Vは「発散軸」とも称される。
【0065】
変化軸Vに沿った方向における、検出光束の入射場所に伴うスペクトルエッジの変化は、線形または非線形で行うことができ、具体的にはたとえば、2乗、指数関数的、または他の態様で行うことができる。検出光束によってエッジフィルタ10の作用面12上に生成される光スポットは、
図1では14によって示されている。それに対して、変化軸Vに対して垂直な幅方向yにおけるエッジフィルタ10のスペクトル特性、特にそのスペクトルエッジは、
図1の実施例では十分に一定である。
【0066】
素子10を変化軸Vに沿った方向において移動させることにより、光スポット14の入射場所が変化し、ひいてはスペクトルエッジの位置、すなわち透過スペクトル領域と反射スペクトル領域とを分けるカットオフ波長が変化する。素子10のスペクトルエッジが(x
0を付された基準値から)変化することができる波長領域をWRとすると、変化軸Vに沿った方向における検出光束の入射場所に伴うスペクトルエッジの変化が線形に推移する場合には、パラメータED=WR/Lは、変化軸Vに沿った方向における素子10の作用面12上における単位区間あたりのスペクトルエッジ位置の変化を表す。
【0067】
図1のスペクトル選択性素子10の場合、
図1中にてDにより示された光スポット14の径が増大するとスペクトルエッジ勾配が減少してしまうという問題が生じる。スペクトルエッジ勾配としてはたとえば、透過率が10%から90%まで上昇するスペクトル領域が定義される。
【0068】
一実例のエッジフィルタについて光スポット14の径Dに依存して測定を行った結果、検査対象の構成について、エッジ勾配STを下記の線形関係式によって良好な近似で表すことができるという結果になった:
【数5】
【0069】
さらに、
図1のスペクトル選択性素子10は、検出光束が作用面12に入射する入射角に依存して当該スペクトル選択性素子10のスペクトルエッジが変化するという特性も有する。
【0070】
一般的に、光軸に対してφ=45°で斜め位置決めされるために(ひいては、45°の入射角に対応するように)構成されたビームスプリッタについては、スキャン角が過度に大きくない限りにおいて、入射角とエッジ位置のシフトとの間(ひいては、スキャン角θとエッジ位置のシフトとの間)には、略線形の関係が存在する。
【0071】
45°の入射角に対応して構成されたビームスプリッタについて、570nmの波長でθ=−10°〜θ=+10°のスキャン角範囲内において、実例による測定を行い、この測定により、スキャン角θに依存するエッジ位置のシフトESについて以下の線形関係式が得られた(このスキャン角θも、入射角と角度φとから直接算出することができる):
【数6】
【0072】
垂直な入射角に対して可変のダイクロイックエッジフィルタとして構成されたスペクトル選択性素子の場合にも、エッジ位置は入射角に依存するが、この依存性は、入射角が小さい場合については一般に小さい。
【0073】
一般的に、垂直入射でスペクトルエッジの波長λ
50%(ψ
0)を示す干渉フィルタについて、ひいてはスペクトル選択性素子については、入射角ψが垂直入射とは異なる場合、スペクトルエッジの波長λ
50%(ψ)は下記の数式によって計算できる、ということが当てはまる(Warren J. Smith:Modern Optical Engineering, Third Edition, McGraw-Hill, 2000年、第208頁):
【数7】
ここで、nは実効屈折率を表し、λ
50%はスペクトルエッジ、すなわち透過率が50%である波長を表す。この数式は良好な近似で、垂直でない入射角に対応して設計されたスペクトル選択性素子であって、当該スペクトル選択性素子の設計が対応する角度ψ
0から入射角ψが偏差するスペクトル選択性素子の場合に生じるスペクトルエッジλ
50%の波長の計算にも、使用することができる。
【0074】
関係式(5)から、差分商の形成によって、以下のようになる:
【数8】
【数9】
上記の定数bと、負のスキャン角に相当する入射角変化ΔψすなわちΔψ=−θと、を用いると、以下のようになる:
ES(λ
50%(ψ
0),θ)=λ
50%(ψ
0)・b・θ (7)
【0075】
図1の素子10の場合、スペクトルエッジの位置は作用面12上における検出光束の入射場所に依存するとの事情を考慮して、本発明は特殊な一実施形態では、素子10の作用面12を走査顕微鏡の検出光路において、検出光束が(傾動運動を除いて)静止状態になる場所、すなわち作用面12上において固定の入射場所をとる場所に配置する。かかる振舞いを検出光束が示すのは、検出光路上の、対物レンズ瞳の像の場所である。したがって本発明の本実施形態では、スペクトル選択性素子10の作用面12を対物レンズ瞳の像の場所に配置する。本実施形態については、以下
図2を参照して説明する。
【0076】
図2は、上記実施形態を実現した本発明の走査顕微鏡20を概略的にのみ示す図である。走査顕微鏡20は、照射光路26上で照射光束24を送光する励起光源22を備えている。照射光束24はレンズ30によって励起ピンホール部32に集光される。励起ピンホール部32を通過した後、他のレンズ34がこの照射光束24をビームスプリッタ36へ送り、このビームスプリッタ36は照射光束24を走査ユニット38へ偏向する。走査ユニット38は、1つまたは複数の可動の走査ミラー40を備えている。走査ユニット38を用いて走査移動で偏向された照射光束24は、走査光学系42と他のレンズ44とを介してビームスプリッタ46に入射する。ビームスプリッタ46を通過した後、照射光束24は対物レンズ48に到達する。この対物レンズ48は対物レンズ瞳50を有する。対物レンズ48は最終的に、照射光束24を試料52に集光する。
【0077】
対物レンズ48を通過して試料52に当たった照射光束が走査移動を行うように、走査ユニット38を用いて照射光束24を偏向する。このようにして照射光束24により、試料52において蛍光放射が励起され、この蛍光放射は対物レンズ48を通って検出光束54の形態となって走査顕微鏡20内に返される。
【0078】
図2の実施形態では、検出光束54は2つの別個の検出ユニットへ供給される。これらの検出ユニットは、
図2では一般的に56ないしは58が付されている。検出ユニット56は、検出光束54が走査ユニット38へ返された後に、この検出光束54を受光する。よって、この検出ユニット56はデスキャンユニットとなる。それに対して検出ユニット58は、検出光束54が走査ユニット38によって影響を受けることなく、検出光束54を受光する。よって、検出ユニット58はノンデスキャンユニットとなる。
【0079】
デスキャン検出ユニット56はレンズ60を備えており、このレンズ60は、検出光束54が走査ユニット38によって偏向されてビームスプリッタ36に通された後に検出光束54を検出ピンホール部62に集光させる。検出ピンホール部62に検出器64が後置されており、この検出器64は検出光束54を受光する。ここで、ビームスプリッタ46はたとえば光路から旋回により出ることが可能なものであり、または、蛍光放射に対して部分透過性であることに留意すべきである。
【0080】
ノンデスキャン検出ユニット58は、ビームスプリッタ46によって照射光路26から分岐した検出光路66上に設けられている。ノンデスキャン検出ユニット58は、試料52の中間像が生成される中間像面68の両側に、それぞれレンズ70ないしは72を備えている。レンズ72には、検出光路66上においてビームスプリッタ74が後置されている。ビームスプリッタ74は検出光束54を2つの部分光束76および78に分割し、これらは2つの別個の検出モジュールへ供給される。これらの検出モジュールは、
図2では全体的に80および81を付されている。
【0081】
検出モジュール80は、試料52の中間像が生成される中間像面82の両側に、それぞれレンズ84ないしは86を備えている。レンズ86は検出光束54を検出器88へ送る。この検出器88には検出フィルタ90が前置されている。
【0082】
これに応じて検出モジュール81も、同様に試料52の中間像が生成される中間像面89の両側に、それぞれレンズ92ないしは94を備えている。レンズ94は検出光束54を検出器95へ送る。検出器95には検出フィルタ96が前置されている。
【0083】
図2に示された配置構成では、ビームスプリッタ36,46および74はそれぞれダイクロイック構成となっており、これらのビームスプリッタに入射した光を波長に依存して透過ないしは反射させることを述べておく。このようにしてビームスプリッタ36は、照射光束24の波長領域の光を反射し、かつ検出光束54の波長領域の光を透過させる特性を有する。これに対応して、ビームスプリッタ46は検出光束54の領域の光を反射し、かつ、照射光束24の波長領域の光を透過させる。ビームスプリッタ74も、検出光束54の一部を透過させ、かつ残りの一部を反射させる。
【0084】
さらに、
図2では照射光束24と検出光束54とが部分的に重なり合っていることに留意すべきである。たとえばビームスプリッタ46と試料52との間の光路は、両光束24および54に対応する共通の光路となる。
【0085】
図2の特殊な実施形態では、検出フィルタ90および96はそれぞれ、
図1に示された態様のスペクトル選択性素子を構成する。よって、
図2では検出フィルタ90および96のそれぞれ後に、
図1においてスペクトル選択性素子を示す符号10が括弧書きで付されている。
【0086】
図2の特殊な実施形態では、検出フィルタ90および96は検出光路66において、それぞれ対物レンズ瞳50の像の場所に来るように配置される。検出フィルタ90および96のこのような配置は、検出フィルタ90ないしは96の作用面12上における光入射場所が一定に維持されるという利点を有する。したがって、光入射の場所に依存するエッジ位置シフトは生じない。
【0087】
特に、走査ユニット38によってなされる照射光束24の走査移動が比較的小さく、ひいては、瞳像の場所における検出光束54の、対応する傾動運動が比較的小さい場合、スペクトルエッジの角度依存性シフトESも僅かのみとなる。よって、
図2に示されている実施形態は、スキャン角が過度に大きくない場合に有利な解決手段となる。
【0088】
しかし特定の状況下では、
図1のスペクトル選択性素子10を対物レンズ瞳50の像の場所に配置することが問題となり得る。このことは特に、スペクトル選択性素子10が比較的大きな入射角に対応して、たとえば35°または45°に対応して構成されている場合に当てはまる。スペクトル選択性ビームスプリッタの場合、このことが当てはまることが多い。このことについては下記において再度、具体的な数値例に基づいて示すこととする。
【0089】
一例として、
図2の対物レンズ48が20の倍率を有し、かつ1.00の開口数を有すると仮定すると、結像レンズ焦点距離が200mmである場合、対物レンズ瞳径は20mmとなる。エッジ長が0.775mmである像野の場合、これにより対物レンズ瞳50において生じる(光軸を基準とした)スキャン角は、最大±2.2°となる。ここで、対物レンズ瞳50の像が位置する場所において結像比1での結像の場合、検出光路66上において検出光束54も、20mmの径と±2.2°の最大スキャン角とを有することとなる。
【0090】
上記のスキャン角を関係式(4)に代入すると、角度に依存するエッジ位置シフトは±3.41nmとなり、これは完全に許容し得る値である。しかし、20mmの径を関係式(3)に代入すると、エッジ勾配STの値は127nmとなり、これは、相当数の用途では許容できない大きな値となる。
【0091】
検出光束54の径は、適切な結像によって、たとえば対物レンズ瞳50を1/10縮小することにより、十分に小さくすることができ、このことによって、関係式(3)を考慮すると、エッジ勾配STが19nmと許容可能な値になる。しかし、光束径をこのように1/10に縮小すると、これに付随して最大スキャン角も10倍に増大することとなる。すなわち、最大スキャン角は±22°にまで増大する。関係式(4)を考慮すると、ここで選択した数値例の場合、上記のことから、角度に依存するエッジ位置シフトESは±34.1nmと許容できない値となる。すなわち、像野の側縁部間のエッジ位置のシフトは68nmを超えることとなる。
【0092】
かかる問題を解決するためには、スペクトル選択性素子10を対物レンズ瞳50の像の場所に配置するのではなく、試料52の中間像の場所に配置することを検討することができる(
図2において68,82および89によって示されている)。しかしここで考慮すべき点は、本解決手段の場合にも、どの試料ポイントにおいても素子10上において同様のエッジ位置を維持するためには、試料52をスペクトル選択性素子10の小さい領域に結像させる結像を選択しなければならないことである。しかしかかる結像によって、スペクトル選択性素子10において検出光束54が大きく拡開すること、すなわちビーム円錐が比較的大きくなることになり、ひいては、ビーム円錐に含まれる個々の光線のスペクトルエッジが大きく異なることにもなる。そうすると、総じてビーム円錐の個々の光線のフィルタ機能による平均化によって、この場合にもエッジ勾配STが小さくなる。
【0093】
上記問題を回避するため、本発明の、
図2の配置構成に代わる代替的な一実施形態では、検出光路上において対物レンズ瞳50の像から離隔した場所であって、入射角が変化することに起因するエッジ位置シフトが、どの入射角においても検出光束が変化軸Vに沿った方向(すなわちx方向)におけるスペクトル選択性素子10の他の場所に入射することによって補償される場所に、スペクトル選択性素子10を配置する。変化軸Vに沿った方向におけるスペクトルエッジの位置は変化するので、上述のことにより、変化軸Vに沿った方向におけるスペクトルエッジの位置の変化が適切に選択されている限りにおいて、角度に依存するエッジ位置シフトを十分に補償することができる。
【0094】
以下、
図3,
図4および
図5を参照して、角度に依存するエッジ位置シフトが、検出光束54の傾動運動によって作用面12上における変化軸Vに沿った方向での光入射場所の変化が生じることに起因する逆方向のエッジ位置シフトによって補償されるように、スペクトル選択性素子10の作用面12から対物レンズ瞳50の像の位置までの距離がどのようにして定められるかを説明する。
【0095】
図3には、検出光路66における検出光束54の上述の傾動運動が示されている。
図3において符号100は、検出光路66上に配置されたレンズを示しており、このレンズは、対物レンズ瞳50の像が位置する平面102に前置されている。またΔzは、検出光路66の光軸Oに沿って測定された、平面102からの距離を示す。
【0096】
図3に示されているように、検出光束54は、照射光束24の走査移動に相当する傾動運動を行い、この傾動運動によって、検出光束54は瞳像の平面102から外へ空間的に移動する。それに対して、検出光束54は平面102内では静止状態である。検出光束54の傾動運動を特徴付ける最大スキャン角は、
図3ではθ
maxによって示されている。スキャン角θ
maxは、検出光束54の中心光線104と光軸Oとが成す角度を表す。中心光線104は、検出光束54の中心の光束軸を成す。最大スキャン角θ
maxに相当する、距離Δzでの検出光束54の空間的移動は、
図3ではdによって示されている。
【0097】
図4には、スペクトル選択性素子10の作用面12の本発明の配置を概略的にのみ示している。ここで留意すべき点は、
図4では概観しやすくするため、検出光束54の傾動運動の半分のみを示していることである。
【0098】
スキャン角に依存するエッジ位置シフトを、作用面12上における光入射場所に依存する逆方向のエッジ位置シフトによって補償できるようにするためには、作用面12と光軸Oとが90°の角度を成さずに、それより小さい角度φを成すように、作用面12を検出光路66上に配置する。たとえば、平面102から距離Δzの場所において90°の角度で作用面12を配置すると、スキャン角の変化によって光軸Oの両側に生じるエッジ位置シフト(−θ、+θ)は同一の正負符号を有するが、作用面12上における光入射場所の変化によって光軸Oの両側に生じるエッジ位置シフトは、異なる正負符号を有することとなる。よって、角度に依存するエッジ位置シフトを、入射場所に依存するエッジ位置シフトによって所望のように補償することは、光軸Oに対して垂直に作用面12を配置した場合、全走査領域において不可能である。それに対して、90°より小さい角度φで作用面12を斜めに配置すると、検出光束54が作用面12に入射する角度と共に単調に変化するエッジ位置シフトが達成される。
【0099】
スキャン角に依存するエッジ位置シフトを、作用面12上における光入射場所に依存する逆方向のエッジ位置シフトによって所望のように補償することは、以下の条件を満たした場合に達成される:
Δx(θλ
50%/θx)=−Δψ(θλ
50%/θψ) (8)
ここで、θλ
50%/θx=EDは、作用面上における単位区間あたりのスペクトルエッジの変化を表す。EDは、可変フィルタないしは可変ビームスプリッタの発散とも称される。
【0100】
図3および
図4から、以下の通りになる:
Δx=Δz{sinθ/sin(θ+φ)} (9)
【0101】
関係式(9)に対する線形当てはめ関数は、以下の通りになる。これは、たとえばテイラー展開によって求めることができる:
Δx=Δz・k・θ (10)
ここで、kは定数を表す。
【0102】
関係式(8)および関係式(9)から、スペクトル選択性素子10の作用面12から平面102までの距離Δz、すなわち対物レンズ瞳50の像の場所までの距離Δzを、さらに上記にて記載されている関係式(2)に従って算出することができる。
【0103】
代替的に、与えられたΔzの場合における必要な発散ED=θλ
50%/θxを算出することができる。関係式(7)、関係式(8)および関係式(10)から、以下のようになる:
θλ
50%/θx=−{(λ
50%・b)/(Δz・k)} (11)
【0104】
関係式(11)を解くと、以下の関係式が得られる:
λ
50%(x,ψ
0)=λ
0exp[{−b/(Δz・k)}・x](12)
ここで、λ
0は開始波長、すなわちx座標の0点における波長を表す。
【0105】
スペクトル選択性素子のスペクトルエッジは、当該近似については、変化軸に沿った方向に、検出光束の入射場所によって指数関数的に変化する。構成において実現される発散はフィルタの振舞いに依存するので、このような指数関数的な推移としての他の関係式も最良の解決手段となり得る。
【0106】
図5は、検出光束54(より正確には検出光束54の中心光線104。
図4参照)が作用面12上に入射するスキャン角と作用面12上における区間Δxとの関係を示している。
図5では、作用面12の3つの異なる斜め位置決めについて当該関係を示しており、ここで留意すべき点は、
図5中のこれら3つの各角度表示は(
図4中の角度φの定義とは異なり)、検出光路66の光軸Oに対する作用面12の面法線の相対角度を表している、ということである。
【0107】
図5から明らかであるように、作用面12の斜め位置決めと光軸Oに対する直角配置との偏差が小さいほど、線形関係式を用いて、スキャン角と作用面12上における区間Δxとの関係を良好に近似することができる。
【0108】
図6および
図7には、
図2に示されている走査顕微鏡20を変更した一実施形態が示されており、本実施形態では、上記にて説明した、スペクトル選択性素子10における光入射場所の変化によって生じる逆方向のエッジ位置シフトによって、角度に依存するエッジ位置シフトを補償することが適用される。
図6および
図7において、
図2の実施形態で使用される構成要素に相当する構成要素には、
図2において既に使用されている符号を付している。また
図6では、ノンデスキャン検出ユニット58の一部である構成要素、または、ノンデスキャン検出ユニット58と直接協働する構成要素のみが示されている。さらに下記にて
図8〜
図17を参照して説明する他の全ての実施例についても、同様のことが当てはまる。
【0109】
図2の実施形態との相違点として、
図6に示されている実施形態は、両検出器88および95より上流にそれぞれ、ロングパスフィルタ110ないしは112とショートパスフィルタ114ないしは116とから構成されたフィルタ対を備えている。よって、両フィルタ対はそれぞれ、互いに依存せずに可変に調整できる2つのスペクトルエッジを有するバンドパスフィルタを構成する。各フィルタ110,112,114および116はいずれも、入射角に依存する所望の単調なエッジ位置シフトを達成するため、
図4に示されているように斜めに位置決めされている。
【0110】
図6の配置構成はさらにビームスプリッタ118も備えており、これはフィルタ110,112,114および116と同様、
図1に示された態様のスペクトル選択性素子となる。ビームスプリッタ118は、その作用面を検出光路66の光軸に対して45°の角度にして配置されている。
【0111】
さらに、
図6の配置構成は阻止フィルタ120も備えており、この阻止フィルタ120は、検出光路66上においてレンズ70に前置されている。阻止フィルタ120は、試料52において反射された励起光をブロックするためのものであり、その励起光の強度は、検出される蛍光の強度より数倍高い。
【0112】
図7は、
図6の配置構成の瞳結像の光路を示している。
図7では、検出光路66において、それぞれ対物レンズ瞳50の像が存在する複数の場所があることが分かる。
図7では、これらの場所に121,122および124が付されている。ビームスプリッタ118は瞳像の場所121から、上記の条件(1)または(2)に従って定められた距離に後置されている。フィルタ110ならびに114から構成されたフィルタ対、および、フィルタ112ならびに116から構成されたフィルタ対についても、同様のことが当てはまり、フィルタ110,112はそれぞれ瞳像の場所に前置されており、かつ、フィルタ114,116はそれぞれ瞳像の場所に後置されている。フィルタ110および114から瞳像までの距離の絶対値は等しい。フィルタ対112,116についても同様のことが当てはまる。
【0113】
図8は、一変形実施形態の瞳結像を
図7に対応して示す図であり、本実施形態では、フィルタ110,112,114および116は検出光路66の光軸に対して斜めに位置決めされずに、直角の向きに位置決めされている。よって、フィルタ110,112,114および116は本実施形態では、
図8の単なる概略図とは異なり、実際には瞳像の各場所に配置される。
【0114】
図9および
図10は他の実施形態を示しており、この実施形態は、
図6および
図7の実施形態に対してさらに、追加の検出器152を有する検出モジュール115を備えている。これに応じて、検出光路66上には他のレンズ154,156,158および160が設けられている。さらに、検出光路66は他のビームスプリッタ162とロングパスフィルタ164とショートパスフィルタ166とを備えており、これらは検出器152に前置されており、これらが合わさってバンドパスフィルタを構成する。
図9では、それぞれ試料52の中間像が生成される追加の中間像面に168および170が付されている。
図10の瞳結像を見るとさらに、瞳像の追加の場所173,174,176および178があるのが分かる。
【0115】
図11は、
図9および
図10に示された配置構成を改良した実施形態を示しており、本実施形態では、検出モジュール115は検出モジュール180に置き換えられている。検出モジュール180は検出器182を備えており、この検出器182にはロングパスフィルタ184およびショートパスフィルタ186が前置されており、これらが合わさってバンドパスフィルタを構成する。さらに検出モジュール180は、試料52の像が生成される中間像面188の両側に、2つの他のレンズ190ないしは192を備えている。
【0116】
本実施形態では、検出光路66はビームスプリッタ118の他にさらに、
図1に示された態様の他のビームスプリッタ194を備えている。両ビームスプリッタ118および194は、瞳結像の場所121から、関係式(1)または(2)に従って規定された等しい距離をおいて前置ないしは後置されている。このことによって、
図9および
図10の実施形態と比較して光学素子の数を削減できるので、特にコンパクトな構成を実現することができる。
【0117】
図12は、
図11の構成に基づく、走査顕微鏡20の他の一実施形態を示している。
【0118】
図12の実施形態は、検出モジュール80と、3つの他の検出モジュール210,221および228と、の全部で4つの検出モジュールを含むノンデスキャン検出ユニット58を備えている。検出モジュール80,210,221および228には、以下説明するように検出光束54がビームスプリッタカスケードを用いてスペクトル分離された状態で供給される。このビームスプリッタカスケードは、ビームスプリッタ118と他のビームスプリッタ203および214とから構成されている。これらのスペクトル選択性ビームスプリッタ118,203および214は検出光路66上において、各スペクトル選択性素子の作用面を当該検出光路66の光軸に対してそれぞれ45°の角度にして配置されている。さらに、ビームスプリッタ118,203および214はそれぞれ、対物レンズ瞳50の像の場所から、条件(1)または(2)に従って定められた距離に後置されている。
【0119】
図12の実施形態は、ビームスプリッタ118,203および214がそれぞれ、スペクトルエッジを基準として、検出光束54のスペクトル領域を透過するよりも大きなスペクトル領域を反射させるとの事情を考慮したものである。よって
図12の実施形態は、ビームスプリッタ118,203および214における反射を介して検出モジュール80,210,221および228をカスケード接続したものである。本実施形態はさらに、各検出モジュール80,210,221および228には、最大で、検出光束54のうち、それぞれ他の検出モジュールによっては検出されないスペクトル成分しか供給できないとの事情も考慮したものである。したがって、
図12の本実施形態はビームスプリッタ反射を介したカスケード接続だけでなく、検出モジュール80,210,221および228によって検出されるスペクトル成分の波長も介したカスケード接続を行うものである。最後に言及したカスケード接続は、最長の波長から開始して、波長が短くなる方向に行われる。
【0120】
詳細には、ビームスプリッタ118は検出光束54のうち、当該検出光の中で最長の波長を有するスペクトル成分を検出モジュール80へ通過させる。この長波長のスペクトル成分は、レンズ84,86と、ロングパスフィルタ110およびショートパスフィルタ114によって構成された、斜めに位置決めされたフィルタ対と、を通過した後、検出器88に到達する。検出光の他の残りの成分は、ビームスプリッタ118において反射されてレンズ201,202を通過してビームスプリッタ203に入射する。ビームスプリッタ203は、自己に供給された検出光の中で最も長い波長を有するスペクトル成分を検出モジュール210へ透過させる。レンズ204,206と、ロングパスフィルタ207およびショートパスフィルタ208によって構成された、斜めに位置決めされたフィルタ対と、を通過した後、検出光のうちビームスプリッタ203を透過したスペクトル成分は検出器209に到達する。検出光の他の残りの成分は、ビームスプリッタ203によって反射されてレンズ211,213を介してビームスプリッタ214へ供給される。
【0121】
ビームスプリッタ214は、自己に供給された検出光の中で最も長い波長を有するスペクトル成分を検出モジュール221へ透過させる。レンズ215,217と、ロングパスフィルタ218およびショートパスフィルタ219によって構成された、斜めに位置決めされたフィルタ対と、を通過した後、この透過したスペクトル成分は検出器220に到達する。ビームスプリッタ214に供給された検出光のうち他の残りのスペクトル成分は、当該ビームスプリッタ214によって反射され、このスペクトル成分はレンズ222,224と、ロングパスフィルタ225およびショートパスフィルタ226から構成された、斜めに位置決めされたフィルタ対と、を通過した後、検出器227に到達する。
【0122】
図12の配置構成において、符号201,205,212,216および223は、試料52の中間像が生成される場所を表す。
【0123】
よって、
図12の配置構成は、検出光束54が検出器88,209,220および227までの光路上において、各ビームスプリッタ118,203および214においてそれぞれちょうど1回しか透過しないようになっている。このことは光取り出し率に関して有利である。というのも、ビームスプリッタ118,203および214の各反射率は、各自の透過率より高いからである。
【0124】
図13は、
図11の構成に基づく、走査顕微鏡20の他の一実施形態を示している。
図11の配置構成では、両ビームスプリッタ194,118が瞳像の場所121に前置ないしは後置されている。ここで両ビームスプリッタ118および194の発散が同一であることを前提とすると、各ビームスプリッタ118および194から瞳像の場所121までの距離は等しい。
図11の配置構成は、総じて3つの検出モジュール80,81および180を備えている。
【0125】
図13に示されている実施形態は、
図11の配置構成を拡張して、2つの検出モジュール80,81と2つの他の検出モジュール244,245との、総じて4つの検出モジュールを備えている。両検出モジュール80,81と同様に、検出モジュール244,245もそれぞれ2つのレンズ232,234ないしは238,240と、ロングパスフィルタ235ないしは241およびショートパスフィルタ236ないしは242によって構成された、斜めに位置決めされたフィルタ対と、検出器237ないしは243と、を備えている。
【0126】
図13の実施形態はさらに他のビームスプリッタ231も備えており、これは、
図1に示された態様の本発明のスペクトル選択性素子10を構成する。ビームスプリッタ231はビームスプリッタ194と同様、検出光路66上において斜めに位置決めされている。ビームスプリッタ118は、対物レンズ瞳50の像が生成される場所230から、条件(1)または(2)に従って定められた距離に後置されている。ビームスプリッタ231の発散がビームスプリッタ194の発散と同一であることを前提とすると、両ビームスプリッタ194,231から場所230までの距離は等しい。
【0127】
図13の配置構成において、符号233および239は、それぞれ試料52の中間像が生成される場所を表す。
【0128】
図14は、ビームスプリッタ対251,252ないしは254,255が設けられた実施形態を示しており、これらのビームスプリッタ対251,252ないしは254,255の各ビームスプリッタはそれぞれ異なる発散を示し、ひいては、各ビームスプリッタから、
図14において253が付された、瞳結像の場所までの距離は相違する。
【0129】
図14の実施形態は、総じて5つの検出モジュール286,287,288,289および290を備えている。これらの各検出モジュールは2つのレンズ263,265,269,271,256,282,275,277,257,259と、ロングパスフィルタ266,272,283,278,260およびショートパスフィルタ267,273,284,279,261によって構成された、斜めに位置決めされたフィルタ対と、検出器268,274,285,280,262と、を備えている。
【0130】
さらに上記にて述べたように、両ビームスプリッタ251,252は、その発散が相違しているので、瞳結像の場所253から異なる距離に前置することができる。このことにより、コンパクトな配置で瞳結像の場所253に複数のビームスプリッタを前置することができる。両ビームスプリッタ254,255が場所253の他方の側に後置されている構成にも、同様のことが当てはまる。
【0131】
図15は、2つの検出モジュール301,302を備えた一実施形態を示しており、これらの検出モジュール301,302はそれぞれ、検出器300ないしは294と、各検出器に前置されたフィルタ対と、を備えており、これらの各フィルタ対は、ロングパスフィルタ298ないしは295とショートパスフィルタ299ないしは292とから構成されている。
図2および
図6〜
図14の実施形態とは異なり、ロングパスフィルタ298ないしは295およびショートパスフィルタ299ないしは292はそれぞれ、他の結像光学系を設けることなくビームスプリッタ194に接続されている。
【0132】
図15の配置構成を特にコンパクトに抑えるためには、フィルタ対298,299ないしは295,292を検出光路66上において斜めに位置決めするのではなく、各フィルタ対の面法線を検出光路66の光軸に対して平行にして配置する。よって、フィルタ対298,299ないしは295,292は瞳結像の場所297ないしは293に(または、必ず当該場所の直近に)設けられる。
【0133】
図16には、
図1に示されたスペクトル選択性素子10の一変形態様が示されている。10’が付されたこの変形態様は、
図16の下部分のイメージに示されている。比較のため、上部分のイメージに、
図1に相当する実施形態を示している。
【0134】
図16においても、Vは、素子10の作用面12のスペクトルエッジが変化する変化軸ないしは発散軸を示している。
図16においてLによって示されている、変化軸Vに対して横方向に延在する線は、等高線表現のように、同一のスペクトルエッジの場所を示している。
図16の上部分のイメージから分かるように、素子10の線Lは変化軸Vに対して垂直である。このことは、素子10の場合、変化軸Vに対して垂直方向にはスペクトルエッジの変化が生じないことを意味する。
【0135】
それに対して変形態様の素子10’では、線Lの、変化軸Vに対して横方向の形状は、曲線になっている。したがって素子10’では、変化軸Vに対して垂直方向に、スペクトルエッジの変化が生じる。変化軸Vに対して垂直方向のスペクトルエッジのこのような変化は、さらに上記にて説明したように、試料の2次元走査の際にスペクトル選択性素子における検出光束の実際の入射角が、互いに垂直な軸を基準とする2つのスキャン角から構成されるとの事情を考慮するために使用することができる。
【0136】
最後に
図17には、走査顕微鏡の他の一実施形態が示されている。本実施形態が、対物レンズ48を照射および検出の双方に用いる上記の実施形態と相違する点は、本実施形態では対物レンズ48は試料52への照射にしか用いられないことである。したがって
図17の検出構成は、対物レンズ48に戻らない検出光を用いて動作する。むしろ
図17の実施形態では、試料52に光学系305が後置されており、この光学系305は検出光束54を集光して、検出ユニット80,210,221および258の方向にさらに送光する。光学系305はたとえば、対物レンズまたはコンデンサとして構成されている。本実施形態では、
図12に示されたビームスプリッタ46を省略することができる。
【0137】
上記にて
図17を参照して説明した、透過光を用いて動作する検出構成は、
図12の実施例を基礎としている。しかし、上記にて記載されている実施例は全て、
図17に示されている態様に変更できることを明確に述べておく。
【0138】
最後に完全を期するため、上記にて記載されている検出構成では、ビームスプリッタ46およびフィルタ120を除いて、全てのビームスプリッタおよびフィルタ、すなわちエッジフィルタ、ロングパスフィルタおよびショートパスフィルタは、本発明の態様のスペクトル選択性素子を構成することを、再度述べておく。