特許第6835746号(P6835746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6835746イリノテカン含有経口用固形製剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835746
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】イリノテカン含有経口用固形製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4745 20060101AFI20210215BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   A61K31/4745
   A61P35/00
   A61K47/12
   A61K9/16
   A61K9/48
   A61K9/20
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-564664(P2017-564664)
(86)(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公表番号】特表2018-519279(P2018-519279A)
(43)【公表日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】KR2016006513
(87)【国際公開番号】WO2017003120
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年5月9日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0093413
(32)【優先日】2015年6月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516132149
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ケイレブ ヒョン ミン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、 ミョン キ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジン チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヨン イル
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジェ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ウ、 ジョン ス
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/038526(WO,A1)
【文献】 特開2004−277374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリノテカン塩酸塩三水和物;及び、酢酸、クエン酸、乳酸、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される酸性化剤を含む経口投与用固形製剤。
【請求項2】
前記固形製剤に対して、米国薬典(USP)溶出試験項目のパドル法により、精製水900mlを利用して溶出試験を実施するとき、30分後溶出液のpHが、1ないし5を示すことを特徴とする請求項1に記載の固形製剤。
【請求項3】
前記酸性化剤が、イリノテカン塩酸塩三水和物1重量部に対して、0.2ないし10重量部の量で含まれることを特徴とする請求項1に記載の固形製剤。
【請求項4】
前記固形製剤は、顆粒剤、カプセル剤または錠剤であることを特徴とする請求項1に記載の固形製剤。
【請求項5】
希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された薬剤学的に許容される添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の固形製剤。
【請求項6】
固形製剤総量を基準に、前記希釈剤が、20ないし80重量%、前記結合剤が、1ないし10重量%、前記崩壊剤が、2ないし7重量%、または前記滑沢剤が、0.5ないし5重量%の量で含まれることを特徴とする請求項5に記載の固形製剤。
【請求項7】
前記固形製剤は、米国薬典(USP)溶出試験項目のパドル法により、精製水900mlを利用しての溶出試験時、30分以内に、80%以上の活性成分の溶出率を示すことを特徴とする請求項1に記載の固形製剤。
【請求項8】
癌治療用であることを特徴とする請求項1に記載の固形製剤。
【請求項9】
イリノテカン塩酸塩三水和物、希釈剤、及び結合剤を含む顆粒を製造する製粒段階と、
前記製粒された顆粒を、崩壊剤及び滑沢剤と混合する後混合段階と、
選択的に、前記後混合して得られた混合物を製剤化する製剤化段階と、を含み、
前記製粒段階及び/または後混合段階で酸性化剤を付加し、
前記製粒段階は、湿式顆粒法によって遂行され、
前記酸性化剤は、酢酸、クエン酸、乳酸、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載の経口用固形製剤の製造方法。
【請求項10】
前記湿式顆粒法は、イリノテカン塩酸塩三水和物、及び希釈剤を含む混合物を、結合剤を含む結合液と練合して製粒し、酸性化剤を、前記混合物及び/または結合液に付加して混合することを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリノテカン含有経口用固形製剤及びその製造方法に係り、さらに具体的には、改善された生体利用率及び安定性を有するイリノテカン含有経口用固形製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イリノテカンは、カンプトテシン(camptothecin)の半合成アナログであり、主に転移性結腸直腸癌に適用される抗癌化学療法剤である。イリノテカンの化学名は、(S)−4,11−ジエチル−3,4,12,14−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−3,14−ジオキソ−1H−ピラノ[3’,4’:6,7]−インドリジノ[1,2−b]キノリン−9−イル−[1,4’−ビペペリジン]−1’−カルボロキシレートであり、下記化学式1の構造を有する。
【0003】
【化1】
【0004】
イリノテカンは、前臨床試験及び臨床試験のいずれても広範囲に研究された。イリノテカンは、結腸癌の治療に対して、米国FDA(Food and Drug Administration)承認を受けた。イリノテカンは、幅広い多種多様な実験用腫瘍モデルに対して、優秀な抗腫瘍活性を示し、具体的には、肺癌、胃癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、子宮頚癌、頭頚部癌、脳腫瘍、卵巣癌などの効能に対して研究されている(WO 2001/30351)。
【0005】
イリノテカンは、プロドラッグであり、肝臓、腸管、腫瘍などにおいて、カルボキシルエステラーゼによって代謝され、活性代謝物SN−38(7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン)になる。SN−38は、イリノテカンの100倍ないし1,000倍以上の効能を有する。
【0006】
イリノテカンは、重度の下痢、強力な免疫系抑制などの深刻な副作用を有する問題があり、イリノテカンによる下痢は、少なくなく入院または集中治療が必要な深刻な脱水症を誘発する。また、イリノテカンが係わる免疫系抑制は、血中白血球数、特に好中球数の劇的な減少を引き起こす。
【0007】
イリノテカンの効能は、投与用法に依存的であると示され、イリノテカンは、低用量の長期間投与が、高用量の短期間投与より効果が高く、毒性が低いと知られている。イリノテカンの効果的な長期的エクスポージャー方法は、経口投与であり、経口投与時、総イリノテカンに対する総SN−38への代謝比率は、静脈内(i.v.)投与時より高い。従って、イリノテカンの経口投与用製剤の開発が必要であるが、イリノテカンは、溶解度が低い薬物であるので、十分な生体利用率を確保することができる経口用製剤の開発が必要である(EP 2328557 A)。それだけではなく、経時的にも活性成分の安定性を維持することができるイリノテカン経口用製剤の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、生体利用率及び活性成分の安定性が改善されたイリノテカン含有経口用固形製剤を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、生体利用率及び活性成分の安定性にすぐれるイリノテカン含有経口用固形製剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一様相は、活性成分として、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩;及び酸性化剤を含む経口投与用固形製剤を提供する。
【0011】
本発明の他の様相は、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩、希釈剤、及び結合剤を含む顆粒を製造する製粒段階と、前記製粒された顆粒を、崩壊剤及び滑沢剤と混合する後混合段階と、選択的に、前記後混合して得られた混合物を製剤化する段階と、を含み、前記製粒段階及び/または後混合段階において、酸性化剤を付加する、本発明の一様相による固形製剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一様相によれば、酸性化剤を利用して製造されたイリノテカン含有経口投与用固形製剤は、酸性化剤を含むことにより、顕著に上昇した活性成分の溶出率を有するので、経口投与時、改善された生体利用率を確保することができる。それだけではなく、前記固形製剤は、活性成分の経時安定性が高い。従って、前記経口投与用固形製剤は、イリノテカンの効果的な経口投与を可能にし、従来の注射投与に比べ、イリノテカンの副作用誘発可能性を顕著に低めることができる。従って、本発明による前記固形製剤は、有効性及び安定性の上昇、副作用低減などの側面で非常に望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1−6及び比較例1−3の経口投与用固形製剤に対する、米国薬典溶出試験項目のパドル法による、精製水900mlでの溶出試験時、30分後の溶出率を測定した結果を示したグラフである。
図2】実施例1−6及び比較例1−3の経口投与用固形製剤を、HDPEビン包装をした後、60℃チャンバに保管し、2週後、4週後に、未知関連物質の生成量を測定した結果をグラフで示したものである。
図3】実施例1−6及び比較例1−3の経口投与用固形製剤を、HDPEビン包装をした後、60℃チャンバに保管し、2週後、4週後に総関連物質の生成量を測定した結果をグラフで示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、一具体例を挙げて詳細に説明する。
【0015】
本発明で使用される全ての技術用語は、異なって定義されない以上、本発明の関連分野で当業者が、一般的に理解するような意味で使用される。また、本明細書には、望ましい方法や試料が記載されるが、それらと類似しているか、あるいは同等なものも、本発明の範疇に含まれる。本明細書に参考文献として記載される全ての刊行物の内容は、全体が本明細書に参照として統合される。
【0016】
本発明は、一様相において、活性成分として、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩;及び酸性化剤を含む経口投与用固形製剤を提供する。
【0017】
前記薬学的に許容可能な塩は、酸付加塩を含み、前記酸付加塩は、無機酸塩または有機酸塩を含む。
【0018】
前記無機酸塩は、塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩または二硫酸塩を含むが、それらに限定されるものではない。前記有機酸塩は、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、ベシル酸塩、カンシル酸塩またはエジシル酸塩を含むが、それらに限定されるものではない。
【0019】
一具体例において、前記イリノテカンの薬学的に許容可能な塩は、塩酸塩であり、さらに具体的には、イリノテカン塩酸塩水和物であり、一層具体的には、イリノテカン塩酸塩三水和物である。
【0020】
本明細書において、「酸性化剤」は、水への溶解時、溶液のpHを低める任意の物質である。一具体例において、前記酸性化剤は、水への溶解時、溶液のpHを5以下に低めることができる無機酸及び/または有機酸である。
【0021】
前記無機酸は、塩酸、リン酸、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、それらに限定されるものではない。前記有機酸は、クエン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、フタル酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、フィチン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、アスコルビン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、アラキジン酸、エルカ酸(erucic acid)、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、エジシル酸(edisilic acid)、ステアリン酸、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、それらに限定されるものではない。
【0022】
一具体例において、前記酸性化剤は、カルボン酸基(COOH)またはスルホン酸基(SOH)を含むC−C20有機酸である。
【0023】
一具体例において、前記酸性化剤が,酢酸、アジピン酸、クエン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、乳酸、プロピオン酸、酒石酸、フマル酸、ギ酸、シュウ酸、カンシル酸、リンゴ酸、マレイン酸、エジシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びそれらの任意の組み合わせからなる群からも選択される。
【0024】
一具体例において、前記酸性化剤は、酢酸、クエン酸、乳酸、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された酸性化剤である。
【0025】
前記経口投与用固形製剤は、酸性化剤の種類によっても異なるが、米国薬典(USP)溶出試験(dissolution test)項目のパドル(paddle)法により、精製水900mlを利用して溶出試験を実施するとき、30分後溶出液のpHが1ないし5を示すことができる量でもあり、具体的には、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩1重量部に対して、約0.2ないし10.0重量部、さらに具体的には、0.2ないし5重量部の量でも含まれる。
【0026】
一具体例において、前記経口投与用固形製剤は、米国薬典(USP)溶出試験項目のパドル法により、精製水900mlを利用して溶出試験を実施するとき、30分後溶出液のpHが1ないし5を示す固形製剤である。
【0027】
前記本発明による経口投与用固形製剤は、前記酸性化剤の含有により、難溶性薬物であるイリノテカンの溶出率が顕著に上昇し、それにより、経口投与時、生体利用率が顕著に上昇する。また、生体利用率上昇により、経口投与が可能であるので、患者の投薬順応度が上昇する。
【0028】
一具体例において、前記経口投与用固形製剤は、米国薬典(USP)溶出試験項目のパドル法により、精製水900mlを利用して溶出試験を実施するとき、45分以内に80%以上の活性成分の溶出率を示し、さらに具体的には、30分以内に80%以上の活性成分の溶出率を示す固形製剤である。試験結果、酸性化剤を含むイリノテカン含有経口投与用固形製剤は、酸性化剤を含まないか、あるいは塩基性化剤を含む場合に比べ、活性成分の溶出率が顕著に上昇すると分かった(試験例2)。
【0029】
前記本発明による経口投与用固形製剤は、前記酸性化剤の含有により、イリノテカンの経時安定性を顕著に増大させることができる。試験結果、酸性化剤を含むイリノテカン含有経口投与用固形製剤は、酸性化剤を含まないか、あるいは塩基性化剤を含む場合に比べ、経時的な関連物質生成量の増加幅が顕著に低いということが分かった(試験例3)。
【0030】
本明細書において「固形製剤」は、薬物を一定形状に成形または被包して作った製剤を意味する。前記経口用固形製剤は、例えば、ペレット、カプセル剤、錠剤(単層錠、二層錠、内核錠など含む)、乾燥シロップ剤、顆粒剤などにも剤形化されるが、それらに限定されるものではない。さらに具体的には、前記経口用固形製剤は、カプセル剤、単層錠または二層錠の形態でもある。前記経口用固形製剤がカプセル剤である場合、前記カプセル剤は、内部に顆粒剤または錠剤などを含む形態でもある。
【0031】
前記経口投与用固形製剤は、前記活性成分及び酸性化剤以外に、1種以上の薬学的に許容可能な添加剤を追加して含んでもよい。具体的には、前記薬学的に許容可能な添加剤として、希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、及びそれらが任意の組み合わせからなる群から選択される1種以上の物質を追加して含んでもよい。
【0032】
前記希釈剤は、増量のために使用され、マンニトール、ラクトース、澱粉、微結晶セルロース、Ludipress(登録商標)、リン酸二水素カルシウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群からも選択されるが、それらに限定されるものではない。前記希釈剤は、固形製剤総重量の1ないし99重量%、一具体例においては、20ないし80重量%の量でも含まれる。
【0033】
前記結合剤は、ポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群からも選択されるが、それらに限定されるものではない。前記結合剤は、固形製剤総重量の0.5ないし15重量%、一具体例においては、1ないし10重量%の量でも含まれる。
【0034】
前記崩壊剤は、クロスカメロースナトリウム、クロスポビドン、澱粉グリコール酸ナトリウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群からも選択されるが、それらに限定されるものではない。前記崩壊剤は、固形製剤の総重量を基準に、1ないし30重量%、一具体例においては、2ないし7重量%の量でも使用される。
【0035】
前記滑沢剤は、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩類(例:ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなど)、タルク、コロイドシリカ、ショ糖脂肪酸エステル、水素化植物性オイル、ワックス、グリセリル脂肪酸エステル類、グリセロールジベヘネート、及びそれらの任意の組み合わせからなる群からも選択されるが、それらに限定されるものではない。前記滑沢剤は、固形製剤総重量の0.3ないし7重量%、一具体例においては、0.5ないし5重量%の量でも含まれる。
【0036】
一具体例において、前記経口用固形製剤は、単位剤形当たり活性成分であるイリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩を、遊離塩基として、約0.1〜500mg含んでもよく、固形製剤の総重量を基準に、0.5ないし50重量%、具体的には、1ないし40重量%の比率で含んでもよい。
【0037】
前記経口用固形製剤は、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩の任意適応症を有する患者を含んだ哺乳動物に投与することができる。従って、前記経口用固形製剤は、癌治療にも使用され、非制限的には、肺癌、胃癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、子宮頚癌、頭頚部癌、脳腫瘍、卵巣癌を含んだ各種異なる癌類型の治療に使用することができる。一具体例においては、前記経口用固形製剤は、結腸癌、特に、結直腸癌治療に使用することができる。
【0038】
前記本発明による経口用固形製剤は、当該技術分野で公知の任意経口用固形製剤、具体的には、顆粒、ペレット、カプセルまたは錠剤の製造方法によっても製造される。一具体例においては、湿式顆粒または乾式顆粒、またはそれを利用した経口用固形製剤の製造方法によっても製造される。一具体例において、顆粒の製造は、湿式顆粒法によっても製造される。
【0039】
本発明は他、の事様相において、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩、希釈剤、及び結合剤を含む顆粒を製造する製粒段階と、前記製粒された顆粒を、崩壊剤及び滑沢剤と混合する後混合段階と、選択的に、前記後混合して得られた混合物を製剤化する段階と、を含み、前記製粒段階または後混合段階において、酸性化剤を付加する、本発明の一様相による固形製剤の製造方法を提供する。
【0040】
本様相による経口用固形製剤の製造方法の詳細は、前記本発明の一様相による経口用固形製剤に係わる説明が、そのまま適用される。
【0041】
前記顆粒製造段階は、当該技術分野に公知されている任意の顆粒製造方法によっても製造され、湿式顆粒法または乾式顆粒法によっても製造される。一具体例においては、顆粒の製造は、湿式顆粒法によっても製造される。
【0042】
前記湿式顆粒法は、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩、及び希釈剤を含む混合物を結合液と練合して製粒し、乾燥させる過程を遂行することができる。前記酸性化剤は、前記混合物、結合液、または混合物及び結合液のいずれにも付加して混合することができる。
【0043】
前記結合液を製造するための溶媒は、水、エタノール、イソプロパノール、アセトン、またはそれらの任意の組み合わせでもある。前記結合液は、結合剤以外に、前記溶媒に追加して、製薬分野で一般的に使用可能な添加剤、例えば、界面活性剤、緩衝剤、またはそれらの組み合わせを添加することによっても製造される。一具体例によれば、前記結合液は、エタノールに親水性結合剤を溶解させて製造される。
【0044】
前記乾燥させる過程は、活性成分の安定性を考慮し、約60℃を超えない温度、望ましくは、約50℃を超えない温度、さらに望ましくは、約40℃を超えない温度、最も望ましくは、20℃ないし40℃の温度で、空気乾燥、流動層乾燥、オーブン乾燥を介しても遂行される。
【0045】
前記乾式顆粒法は、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩、並びに希釈剤、崩壊剤及び結合剤を含む混合物を、ローラ圧着法(roller compacting)または直打法(direct compression)を使用することができる。本発明の一具体例においては、ローラ圧着法を使用することができる。ローラ圧着とは、詳細には、2つのローラ間に粉末を通過させながら、一定圧力で圧着する方法を介して、顆粒を製造する方法をいう。前記ローラ圧着法は、ローラコンパクタを利用して遂行することができる。ローラ圧着された混合物は、その後、適する大きさの顆粒を得るために、必要により、粉砕機(例:fitz-mill)、オシレータ(oscillator)などを使用して、粉砕して錠粒する過程を追加して経ることができる。
【0046】
前記乾式顆粒法において前記酸性化剤は、イリノテカン、またはその薬学的に許容可能な塩、並びに希釈剤、崩壊剤及び結合剤を含む混合物に付加して含有させることができる。
【0047】
前記崩壊剤及び滑沢剤と混合する後混合段階において、前記崩壊剤は、顆粒を含むカプセル製造に使用される任意の崩壊剤が使用され、例えば、クロスカメロースナトリウム、クロスポビドン、グリコール酸澱粉ナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、及びそれらの任意の組み合わせからなる群からも選択される。一具体例において、前記崩壊剤は、クロスカメロースナトリウムである。前記滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリルフマル酸ナトリウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群からも選択され、一具体例において、前記滑沢剤は、タルク及びステアリルフマル酸ナトリウムの組み合わせである。かような後混合段階においても、前記酸性化剤を付加して混合することができる。
【0048】
前記製剤化する段階は、顆粒を利用して、固形製剤に製剤化する、当該技術分野で公知の任意方法によって遂行することができ、例えば、錠剤、カプセル剤または乾燥シロップ剤に製剤化する任意の公知方法によって遂行することができる。
【0049】
以下、本発明について、下記実施例に基づいて詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明の例示であるのみ、本発明の範囲は、それらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1ないし3:酸性化剤を含む錠剤の製造(1)
下記表1のような組成で、まずイリノテカン塩酸塩三水和物(Dongwoo Fine-Chem、韓国)、乳糖及び微結晶セルロースを予備混合(pre-mixing)し、ポビドンを、エタノール及び水の混合物(エタノール:水=7:3)に溶解させた結合液に、酸性化剤として、クエン酸、乳酸または酢酸を加えて溶解させて酸性化された結合液を加え、練合して乾燥させた後、約20メッシュシーブでシービングし、イリノテカン湿式顆粒を製造した。
【0051】
得られたイリノテカン湿式顆粒に、クロスカメロースナトリウムを加えて混合(mixing)した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて最終混合したものを、ロータリ打錠機(GRC−18:世宗機械、韓国)で打錠し、硬度約5ないし12kpを有する錠剤を製造した。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例4ないし6:酸性化剤の量を異にした錠剤の製造
下記表2のような組成で、前記実施例1と同一方法で製造するが、酸性化剤としてクエン酸を使用し、その量だけ異ならせ、実施例4ないし6の錠剤を製造した。
【0054】
【表2】
【0055】
比較例1ないし3:塩基性化剤を含む錠剤の製造
下記表3のような組成で、前記実施例1と同一方法で製造するが、酸性化剤を使用しないか(比較例1)、あるいは酸性化剤の代わりに、塩基性化剤である炭酸カルシウム(比較例2)またはメグルミン(比較例3)を使用することを除いては、同一方法で比較例1ないし3の錠剤を製造した。
【0056】
【表3】
【0057】
試験例1:pH比較評価
実施例1ないし6、及び比較例1,2,3で得られた錠剤に対して、米国薬典(USP)溶出試験項目のパドル法により、精製水900mlを利用して溶出試験を実施した。試験開始30分後に、溶出試験液のpHを測定して下記表4に示した。
【0058】
【表4】
【0059】
前記表4から分かるように、酸性化剤を使用した実施例1ないし6は、試験開始30分後、溶出試験液がpH5.0より低いpHを示し、酸性化剤を使用しないか、あるいは塩基性安定化剤を使用した比較例1,2,3の場合、溶出試験液のpHがpH5.0より高いということが分かった。
【0060】
試験例2:溶出率評価
実施例1ないし6、及び比較例1,2,3で得られた錠剤に対して、米国薬典(USP)溶出試験項目のパドル法により、精製水900mlを利用して溶出試験を実施した。試験開始後30分、溶出試験液サンプルを採取し、以下のような条件で、液体クロマトグラフィを実施し、それぞれのサンプルについて、イリノテカン塩酸塩溶出率を計算し、下記表5及び図1に示した。
【0061】
−カラム:内径約4.6mm、長さ150mmであるステンレス管に、粒径5μmの液体クロマトグラフ用C18で充填されたカラム(Inertsil ODS−2)
−カラム温度:30℃
−試料注入量:20μL
−移動相:0.005mol/Lの1−ヘプタンスルホン酸ナトリウムを含んだメタノール:pH4.0酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液の混合液(11:9)
−流速:1.0mL/分
−検出器:紫外部吸光光度計(測定波長254nm)
【0062】
【表5】
【0063】
前記表5及び図1から分かるように、酸性化剤を使用した実施例1,2,3,4,5,6の錠剤が高い溶出率を示し、30分に80%以上の溶出率を示した。酸性化剤量が増加するほど、30分経過時の活性成分溶出率が上昇した。しかし、酸性化剤を含まないか、あるいは塩基性化剤を使用した比較例1,2及び3の場合、実施例1,2,3,4,5,6より低い溶出率を示し、30分に80%以下の溶出率を示した。
【0064】
試験例3:関連物質の評価
前記実施例1,2,3,4,5,6及び比較例1,2,3で製造したイリノテカンの製剤に対して、保管安定性を評価するために、未知関連物質及び総関連物質の生成量を測定した。測定方法は、下記表6に示した。前記製剤をHDPE(high-density polyethylene)ビン包装した後、保管安定性を予測するための経時変化を観察するために、60℃チャンバに保管し、2週後、4週後、関連物質の生成量を測定した。測定結果を下記表7,8及び図2,3に示した。
【0065】
【表6】
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
前記表7,8及び図2,3から分かるように、酸性化剤を使用した実施例1〜6の錠剤は、4週まで関連物質がほとんど増加しないのに対し、酸性化剤を含まないか、あるいは塩基性安定化剤を使用した比較例1〜3の場合は、実施例1〜6に比べ、関連物質の増加程度が大きいということが分かった。
【0069】
以上、本発明について、その望ましい実施例を中心に説明した。本発明が属する技術分野で当業者であるならば、本発明が、本発明の本質的な特性から外れない範囲で変形された形態に具現されるということを理解することができるであろう。従って、前記開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点から考慮されなければならない。本発明の範囲は、前述の説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等な範囲内にある全ての差異は、本発明に含まれたものであると解釈されなければならないのである。
図1
図2
図3