特許第6835785号(P6835785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835785
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】コンプレッションリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/12 20060101AFI20210215BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   F16J9/12
   F02F5/00 Q
   F02F5/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-187574(P2018-187574)
(22)【出願日】2018年10月2日
(65)【公開番号】特開2020-56463(P2020-56463A)
(43)【公開日】2020年4月9日
【審査請求日】2019年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊行
(72)【発明者】
【氏名】山田 和子
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−007652(JP,A)
【文献】 米国特許第06189893(US,B1)
【文献】 実開昭55−040289(JP,U)
【文献】 実開昭53−040107(JP,U)
【文献】 特開平06−159135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
F02F 11/00
F16J 1/00−1/24
F16J 7/00−10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダに装着されるピストンに形成されたリング溝に設けられるコンプレッションリングであって、
リング状を有するリング本体と、前記リング本体に設けられ、互いに対向することで合口空間を形成する一対の合口端面と、を有し、
前記リング本体において前記リング溝の上壁と対向するリング上面には、前記コンプレッションリングの周長方向に沿うとともに前記合口空間に連なるオイル排出溝が形成されており、
前記リング本体の外周端から前記オイル排出溝の外周縁までの距離は、前記ピストンが前記シリンダに装着された場合における前記シリンダの内壁から前記リング溝の上壁の外周縁までの最大離間距離よりも大きい、
コンプレッションリング。
【請求項2】
前記オイル排出溝の内周縁は、前記リング本体の内周面よりも該コンプレッションリングの径方向外側に形成されており、
前記リング上面は、前記オイル排出溝の内周縁よりも該コンプレッションリングの径方向内側において平坦面に形成された内側上端領域を有し、
前記オイル排出溝は、前記リング本体の内周面に開口せず、前記合口空間にのみ開口している、
請求項に記載のコンプレッションリング。
【請求項3】
前記オイル排出溝は、前記コンプレッションリングの周長方向に沿って、前記一対の合口端面の一方から他方に亘って形成されている、
請求項1又は2に記載のコンプレッションリング。
【請求項4】
前記リング本体において前記リング溝の下壁と対向するリング下面には、前記コンプレッションリングの周長方向に沿ってリング下面溝が形成されている、
請求項1からの何れか一項に記載のコンプレッションリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッションリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車に搭載される内燃機関は、コンプレッションリング(圧力リング)とオイルリングからなるピストンリングを、シリンダに装着されたピストンに設けた構成を採用している。これらのピストンリングは、上側(燃焼室側)から順にトップリング、セカンドリング、オイルリングがピストンの外周面に形成されたリング溝に装着され、シリンダ内壁面を摺動する。燃焼室から最も遠いオイルリングは、シリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイル(潤滑油)をクランク室側に掻き落とし、潤滑油膜がシリンダ内壁面に適切に保持されるように調整することで内燃機関の運転に伴うピストンの焼き付きを防止する機能を有する。コンプレッションリングは、気密を保持することで燃焼室側からクランク室側への燃焼ガスの流出(ブローバイ)を抑制する機能や、オイルリングが掻き落とし切れなかった余分なオイルを掻き落とすことでオイルの燃焼室側への流出(オイル上がり)を抑制する機能を有する。コンプレッションリングをオイルリングと組み合わせることによって、ブローバイガスの低減とオイル消費の低減を実現することができる。
【0003】
上述のようにピストンリングを組み合わせて用いる場合、燃焼室に近いトップリングを気密保持に特化した形状とし、クランク室に近いセカンドリングをオイル掻き落とし機能を備えた形状とすることが一般的である。例えば、特許文献1には、セカンドリングの外周面に下向き(クランク室側)に広がるテーパ部を設けるとともにテーパ部の下端に逆テーパ部を形成することでセカンドリングにオイル掻き落とし性能を持たせつつも、テーパ部と逆テーパ部との接続部分を円筒状にラッピング仕上げを施すことでシリンダ内壁面に縦きずが生じることを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−252891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、コンプレッションリングによるオイルシールにおいては、リングの上下面とリング溝の内壁との間に侵入したオイルの油量が問題となる。リング上下面とリング溝の内壁との隙間内の油量が多いと、該オイルの油圧によってコンプレッションリングの挙動が制限される。その結果、リング上下面がリング溝内壁に十分に密着することができず、クランク室から上がってくるオイルがリング上下面とリング溝の内壁との隙間を通って燃焼室側に流出する虞があり、これがオイル消費の悪化の原因となる。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンプレッションリングのオイルシール性能を更に高めることが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用した。本発明は、内燃機関のシリンダに装着されるピストンに形成されたリング溝に設けられるコンプレッションリングであって、リング状を有するリング本体と、前記リング本体に設けられ、互いに対向することで合口空間を形成する一対の合口端面と、を有し、前記リング本体において前記リング溝の上壁と対向するリング上面には、前記コンプレッションリングの周長方向に沿っ
て延在するとともに前記合口空間に連なるオイル排出溝が形成されている、コンプレッションリングである。
【0008】
即ち、本発明に係るコンプレッションリングは、リング上面に、合口空間に連なるオイル排出溝を有している。ここで、リング上面とリング溝の上壁との隙間に存在するオイルの量が多いと、オイルの油圧によってコンプレッションリングの挙動が制限され、リング上面がリング溝の上壁に十分に密着することができず、クランク室側から上がってくるオイルが該隙間を通って燃焼室側に流出する虞がある。本発明によると、オイル排出溝を通じてリング上面とリング溝の上壁との隙間内のオイルを合口空間に排出することで、該隙間内のオイルを減らすことができる。これにより、オイルの油圧を低減し、リング上面をリング溝の上壁に十分に密着させることができる。その結果、本発明によれば、従来よりもオイル上がりを抑制し、オイル消費を低減することができる。即ち、オイルシール性能を高めることができる。なお、ここでいう「密着」とは、リング上面とリング溝の上壁とが直接的に当接することや、コンプレッションリングの摩耗等を防ぐための必要分の油膜がリング上面とリング溝の上壁との間に介在した状態でリング上面とリング溝の上壁とが間接的に当接することを含むものとする。
【0009】
また、本発明に係るコンプレッションリングは、いわゆるトップリングであってもよいし、セカンドリングであってもよい。但し、本発明に係るコンプレッションリングは、オイル上がりの抑制を目的とするセカンドリングとして好適に採用することができる。
【0010】
なお、前記リング本体の外周端から前記オイル排出溝の外周縁までの距離は、前記ピストンが前記シリンダに装着された場合における前記シリンダの内壁から前記リング溝の上壁の外周縁までの最大離間距離よりも大きいことが好適であるが、大きくなくてもよい。
【0011】
ここで、リング本体の外周端とは、リング本体において径方向の最外端に位置する部分であり、シリンダの内壁に摺接する部分である。また、最大離間距離とは、ピストンスラップ等を考慮して想定される、シリンダの内壁とリング溝の上壁の外周縁との離間距離の最大値である。このとき、リング本体の外周端からオイル排出溝の外周縁までの距離を、シリンダの内壁からリング溝の上壁の外周縁までの最大離間距離よりも大きくすることにより、コンプレッションリングが内燃機関に設けられたときに、上壁の外周縁よりもコンプレッションリングの径方向内側の範囲にオイル排出溝が位置する態様となる。これにより、リング上面がリング溝の上壁に押し付けられたときに、オイル排出溝内のオイルがピストン外周面とシリンダの内壁との隙間(クリアランス)に流出することが上壁によって抑制され、オイル消費を低減することができる。また、上壁の外周縁がオイル排出溝内に入ることがないため、リング上面がリング溝の上壁に押し付けられた状態において、コンプレッションリングが水平姿勢に安定する。その結果、リングの外周面を安定してシリンダの内壁に摺接させることができる。
【0012】
また、前記オイル排出溝の内周縁は、前記リング本体の内周面よりも該コンプレッションリングの径方向外側に形成されており、前記リング上面は、前記オイル排出溝の内周縁よりも前記径方向内側において平坦面に形成された内側上端領域を有し、前記オイル排出溝は、前記リング本体の内周面に開口せず、前記合口空間にのみ開口していてもよい。コンプレッションリングにねじれ作用が生じると、リング溝内においてコンプレッションリングが傾斜姿勢となる場合がある。このとき、リング上面が内側上端領域を有することから、内側上端領域がリング溝の上壁に当接する。そして、オイル排出溝がリング本体の内周面に開口していないため、オイルシールがなされ、オイル上がりを抑制することができる。
【0013】
更に、前記オイル排出溝は、前記コンプレッションリングの周長方向に沿って、前記一
対の合口端面の一方から他方に亘って延在していてもよい。即ち、オイル排出溝がコンプレッションリングの全周に亘って形成されていてもよい。これによると、周長方向の全範囲において、リング上面とリング溝の上壁との隙間内のオイルを、オイル排出溝を通じて合口空間に排出することができる。その結果、周長方向の全範囲において、リング上面とリング溝の上壁との密着性を高めることができる。また、オイル排出溝が一対の合口端面の両方において合口空間と連通していることから、一対の合口端面の一方のみにおいて合口空間と連通している場合と比較して、該隙間内のオイルを合口空間に排出し易くすることができる。但し、本発明は、オイル排出溝がリングの全周に亘って形成されていなくてもよく、例えば、オイル排出溝が、中途で間欠していてもよい。
【0014】
なお、本発明は、前記リング本体において前記リング溝の下壁と対向するリング下面には、前記コンプレッションリングの周長方向に沿って延在するリング下面溝が形成されていてもよい。これによると、リング下面がリング溝の下壁に密着した状態における接触面積を小さくすることができる。そのため、リング下面がリング溝の下壁から離間し易くすることができる。これにより、リングが早期に移動できるようになり、リング上面のみにオイル排出溝を設ける場合よりも早いタイミングでリング上面をリング溝の上壁に密着させることができる。その結果、オイルシール性能を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンプレッションリングのオイルシール性能を更に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係るセカンドリングが設けられた内燃機関の全体図である。
図2】実施形態に係る内燃機関のリング溝付近の拡大図である。
図3】実施形態に係るセカンドリングが使用状態にあるときの上面図である。
図4A】実施形態に係るセカンドリングの第1合口端面の端面図である。
図4B】実施形態に係るセカンドリングの第2合口端面の端面図である。
図5】実施形態に係る内燃機関の運転時において、セカンドリング溝の上壁とリング上面との間に形成された隙間にオイルが侵入した状態を示す合口端面図である。
図6】実施形態に係る内燃機関の運転時において、図5に示す状態からセカンドリングがセカンドリング溝の上壁に押し付けられたときの状態を示す合口端面図である。
図7】ピストンの上昇行程の終盤においてセカンドリング溝内のセカンドリングに捩れが生じた状態を示す断面図である。
図8】実施形態の変形例に係るセカンドリングの第1合口端面の端面図である。
図9】膜厚計測装置の内燃機関構造が1サイクル運転する間のピストン外周面のトップランドにおける油膜厚さを示すグラフである。
図10】実験例と比較例の油膜厚さの平均値を示すグラフである。
図11A】実験例の吸気行程におけるピストン外周面を示す図である。
図11B】比較例の吸気行程におけるピストン外周面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るコンプレッションリングをセカンドリングとして用いた実施形態について説明する。なお、以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
図1は、実施形態に係るセカンドリング20が設けられた内燃機関100の全体図である。図2は、内燃機関100のリング溝付近の拡大図である。図1及び図2では、便宜上、各構成を簡略化して図示している。図3は、実施形態に係るセカンドリング20が使用状態にあるときの上面図である。図4Aは、セカンドリング20の第1合口端面1の端面
図である。図4Bは、セカンドリング20の第2合口端面2の端面図である。図1に示すように、実施形態に係る内燃機関100は、シリンダ50と、シリンダ50に装着されたピストン40と、を有する。以下、内燃機関100において、シリンダ50の軸方向を「上下方向」と定義する。また、シリンダ50の軸方向のうち、燃焼室60側を「上側」(図4における上方向)と定義し、その反対側(即ち、クランク室70側)を「下側」と定義する。
【0019】
図2に示すように、ピストン40のピストン外周面40aには、ピストン40の軸方向に所定の間隔を空けて上側から順にトップリング溝401、セカンドリング溝402、オイルリング溝403が形成されている。トップリング溝401、セカンドリング溝402、オイルリング溝403には、夫々、トップリング10、セカンドリング20、オイルリング30が組み付けられる。ピストン外周面40aは、トップリング溝401、セカンドリング溝402、オイルリング溝403によって区画される。ピストン外周面40aにおいて、トップリング溝401よりも上方の領域をトップランドL1と称し、トップリング溝401とセカンドリング溝402の間の領域をセカンドランドL2と称し、セカンドリング溝402とオイルリング溝403の間の領域をサードランドL3と称する。ここで、各リング溝において上下に対向する内壁のうち、上側の内壁を上壁W1と称し、下側の内壁を下壁W2と称する。
【0020】
次に、実施形態に係るセカンドリング20について説明する。図3に示すように、セカンドリング20は、リング形状を形成するリング本体201と、合口に形成された空間である合口空間7と、を有している。図4A及び図4Bに示すように、セカンドリング20は、周長方向と直交する断面が略矩形状となるように形成されている。但し、セカンドリング20の該断面形状は、矩形状に限定されない。ここで、本明細書における「周長方向」とは、特に指定しない限りはセカンドリング20の周長方向のことを指す。また、「径方向」とは、特に指定しない限りはセカンドリング20の半径方向のことを指す。また、セカンドリング20の「内側」又は「径方向内側」とは、セカンドリング20の内周面側のことを指し、「外側」又は「径方向外側」とは、その反対側(即ち、セカンドリング20の外周面側)のことを指す。また、「軸方向」とは、特に指定しない限りはセカンドリング20の中心軸に沿う方向のことを指す。
【0021】
また、図2に示すように、セカンドリング20がシリンダ50に装着されたピストン40の外周に形成されたセカンドリング溝402に設けられた状態を、「使用状態」と称する。より詳しくは、「使用状態」は、セカンドリング20が、内燃機関100において、シリンダ50に装着されたピストン40のセカンドリング溝402に設けられた状態のことを指す。使用状態におけるセカンドリング20の軸方向は、内燃機関100の上下方向、即ち、シリンダ50の軸方向と一致する。図3図4A及び図4Bに示すように、セカンドリング20の外周面をリング外周面3と称し、内周面をリング内周面4と称する。また、リング本体201の軸方向に面する両面について、使用状態において上側に位置する面をリング上面5と称し、下側に位置する面をリング下面6と称する。リング上面5は、使用状態においてセカンドリング溝402の上壁W1に対向する面であり、リング下面6は、使用状態においてセカンドリング溝402の下壁W2に対向する面である。
【0022】
セカンドリング20は、使用状態においてリング外周面3がシリンダ内壁50aを押接するように自己張力を有している。図2に示すように、リング外周面3は、軸方向下側に向かうに従って拡径したテーパフェース形状を有する。図2における符号31は、リング外周面3の下縁である。図4Aに示すように、リング外周面3の下縁31は、リング本体201において径方向の最外端に位置する。そのため、使用状態においては、図2に示すようにリング外周面3の下縁31がシリンダ内壁50aに摺接する。これにより、ピストン外周面40aとシリンダ内壁50aの隙間(クリアランス)PC1が塞がれ、燃焼ガス
が隙間PC1を通って燃焼室60からクランク室70側に漏れることが抑制される。リング外周面3の下縁31がシリンダ内壁50aに摺接することで、シリンダ内壁50aに付着したオイルが掻き落とされ、余分なオイルが隙間PC1を通ってクランク室70側から燃焼室60側に流出することが抑制される。リング外周面3の下縁31は、本発明に係る「リング本体の外周端」の一例に相当する。「外周端」は、即ち、リング本体201において径方向の最外端に位置する部分であり、使用状態においてシリンダ内壁50aに摺接する部分である。なお、図4A及び図4Bに示すように、実施形態に係るセカンドリング20は、リング外周面3の下部が切り欠かれることによって、アンダーカット部20aが形成されている。セカンドリング20の下部に形成されたアンダーカット部20aの空間がピストン40下降時に掻き落とされたオイルをバッファすることで、オイル上がりの抑制性能が向上している。但し、本発明は、セカンドリング20がアンダーカット部20aを有さない構成であってもよい。リング外周面3の形状としては、ストレートフェース形状、テーパフェース形状、バレルフェース形状などが挙げられる。
【0023】
図3に示すように、セカンドリング20は、第1合口端面1と第2合口端面2とを有している。セカンドリング20が使用状態にあるとき、第1合口端面1と第2合口端面2とが隙間を空けて対向することによって、合口空間7が形成される。
【0024】
次に、実施形態に係るセカンドリング20に形成されたリング面溝8について説明する。図3に示すように、セカンドリング20のリング上面5には、周長方向に沿って延在するとともに合口空間7に連通する溝であるリング面溝8が形成されている。図4A及び図4Bに示すように、リング面溝8は、セカンドリング20のリング下面6にも形成されている。以下、リング上面5に形成されたリング面溝8をリング上面溝8Tと称し、リング下面6に形成されたリング面溝8をリング下面溝8Bと称する。リング上面溝8Tは、本発明に係る「オイル排出溝」の一例に相当する。なお、リング上面溝8Tとリング下面溝8Bを区別せずに説明するときは、単にリング面溝8と称する。
【0025】
図3図4A及び図4Bに示すように、リング上面5は、リング上面溝8Tを挟んで径方向外側の領域である外側上端面53と径方向内側の領域である内側上端面54とを有する。外側上端面53及び内側上端面54は、共に平坦面に形成されており、軸方向における高さを同一とする。リング上面溝8Tは、凹形状をなす溝形成面9Tによって形成される。溝形成面9Tは、外側上端面53及び内側上端面54に対して軸方向下側(即ち、クランク室70側)に深くなることで、リング上面溝8Tを形成している。本例では、溝形成面9Tは、周長方向に直交する断面において軸方向上向きに凹状の円弧形状をなす溝として形成されている。但し、リング上面溝8Tの形状はこれに限定されず、矩形溝、V溝、台形溝など、様々な形状を選択することができる。
【0026】
図3に示すように、溝形成面9Tは、セカンドリング20の全周に亘って形成されている。これにより、リング上面溝8Tは、リング上面5において第1合口端面1から第2合口端面2に亘って周長方向に延在している。そのため、リング上面溝8Tは、第1合口端面1側と第2合口端面2側において合口空間7と連通している。リング上面溝8Tの内部から合口空間7へ通じる開口のうち、第1合口端面1側の開口を第1溝開口81Tと称し、第2合口端面2側の開口を第2溝開口82Tと称する。なお、本発明は、リング上面溝8Tが第1溝開口81Tと第2溝開口82Tの一方のみにおいて合口空間7と連通していてもよい。
【0027】
図4A及び図4Bに示すように、リング下面6は、リング下面溝8Bを挟んで径方向外側の領域である外側下端面63と径方向内側の領域である内側下端面64とを有する。外側下端面63及び内側下端面64は、共に平坦面に形成されており、軸方向における高さを同一とする。リング下面溝8Bは、凹形状をなす溝形成面9Bによって形成される。溝
形成面9Bは、外側下端面63及び内側下端面64に対して軸方向上側(即ち、燃焼室60側)に深くなることで、リング下面溝8Bを形成している。本例では、溝形成面9Bは、周長方向に直交する断面において軸方向下向きに凹状の円弧形状をなす溝として形成されている。但し、リング下面溝8Bの形状はこれに限定されず、矩形溝、V溝、台形溝など、様々な形状を選択することができる。
【0028】
溝形成面9Bは、溝形成面9Tと同様に、セカンドリング20の全周に亘って形成されている。これにより、リング下面溝8Bは、リング下面6において第1合口端面1から第2合口端面2に亘って周長方向に延在し、第1合口端面1側と第2合口端面2側において合口空間7と連通している。リング下面溝8Bの内部から合口空間7へ通じる開口のうち、第1合口端面1側の開口を第1溝開口81Bと称し、第2合口端面2側の開口を第2溝開口82Bと称する。なお、本発明は、リング下面溝8Bが第1溝開口81Bと第2溝開口82Bの一方のみにおいて合口空間7と連通していてもよい。
【0029】
図4A中の符号a1は、リング本体201の径方向における長さ寸法を示し、符号a2は、リング本体201の軸方向における長さ寸法を示す。また、符号a3は、リング上面溝8Tの径方向における長さ寸法(幅寸法)を示し、符号a4は、リング上面溝8Tの深さ寸法を示す。符号CL1は、軸方向に平行であってリング上面溝8Tの径方向中央を通る中央線を示す。符号a5は、リング内周面4と中央線CL1との離間寸法を示す。また、符号R1は、溝形成面9Tの半径を示す。セカンドリング20は、例えば、リング本体201の寸法をa1=2.9mm、a2=1.2mmとした場合、リング上面溝8Tの寸法をa3=1.2mm、a4=0.125mm、a5=0.93mm、R1=1.5mmとすることができる。但し、上述の寸法は例示的なものであり、リング上面溝8Tの寸法は適宜選択することができる。
【0030】
以下、実施形態に係る内燃機関100におけるセカンドリング20付近のオイルの挙動について説明する。図5及び図6は、内燃機関100の運転時における、セカンドリング溝402内のリング上面5付近のオイルの挙動を示す図である。図中の白抜き矢印は、セカンドリング20の挙動を示す。また、図中の塗り潰し矢印は、オイルの流れを示す。図5は、セカンドリング溝402の上壁W1とリング上面5との間に形成された隙間C1にオイルが侵入した状態を示す合口端面図である。図5に示す状態では、リング下面6がセカンドリング溝402の下壁W2に密着しており、リング上面5が上壁W1に対して離間している。これにより、上壁W1とリング上面5との間には、隙間C1が形成されている。例えば、圧縮行程においてセカンドリング20に下向きの慣性力が作用したり、高圧となった燃焼室内のガス圧がセカンドリング20に作用したりすることで、図5に示す状態となる。図5に示す状態では、クランク室70からセカンドリング20に供給されたオイルが該隙間C1に侵入している。
【0031】
図6は、図5に示す状態からリング上面5がセカンドリング溝402の上壁W1に押し付けられたときの状態を示す合口端面図である。例えば、膨張行程においてセカンドリング20に上向きの慣性力が作用したり、エンジンブレーキを利用した減速時において負圧となった燃焼室内のガス圧がセカンドリング20に作用したりすることで、セカンドリング20が上方向に移動し、リング下面6がセカンドリング溝402の下壁W2から離間するとともにリング上面5が上壁W1に接近し、図6に示す状態となる。
【0032】
図5に示す状態から、図6に示す状態となるとき、リング上面5がセカンドリング溝402の上壁W1に接近しようとすることで、隙間C1に滞留しているオイルが軸方向に圧縮される。ここで、リング上面溝8Tを形成する溝形成面9Tがリング上面5よりもクランク室70側に深くなっているため、隙間C1で圧縮されたオイルがリング上面5からリング上面溝8Tへ逃げ易くなっている。更に、リング上面溝8Tが合口空間7に連通して
いるため、リング上面溝8T内のオイルが合口空間7に抜け易くなっている。これにより、隙間C1内で圧縮されたオイルがリング上面溝8Tを流れ、第1溝開口81T及び第2溝開口82Tから合口空間7へ排出される。その結果、隙間C1内のオイルの量が低減する。
【0033】
ここで、リング上面5とセカンドリング溝402の上壁W1との隙間C1内の油量が多いと、オイルの油圧によってセカンドリング20の挙動が制限され、リング上面5がセカンドリング溝402の上壁W1に接近し難くなる。そのため、リング上面5がセカンドリング溝402の上壁W1に十分に密着することができず、クランク室70側から上がってくるオイルが隙間C1を通って燃焼室60側に流出する虞がある。これに対し、本実施形態のセカンドリング20は、リング上面溝8Tを通じて隙間C1内のオイルを合口空間7に排出することで、隙間C1内のオイルを減らすことができる。これにより、オイルの油圧が低減され、リング上面5がセカンドリング溝402の上壁W1に接近し易くなり、リング上面5をセカンドリング溝402の上壁W1に十分に密着させることができる。その結果、クランク室70側から上ってきたオイルが隙間C1を通って燃焼室60側に流出することを抑制することができる。即ち、オイルシール性能を向上させ、オイル上がりを更に抑制することができる。なお、ここでいう「密着」とは、リング上面5とセカンドリング溝402の上壁W1とが直接的に当接することや、セカンドリング20の摩耗等を防ぐための必要分の油膜がリング上面5とセカンドリング溝402の上壁W1との間に介在した状態でリング上面5とセカンドリング溝402の上壁W1とが間接的に当接することを含むものとし、以下の説明においても同様とする。
【0034】
以上のように、実施形態に係るセカンドリング20によると、周長方向に沿って延在するとともに合口空間7に連なるリング上面溝8Tがリング上面5に形成されていることで、オイル上がりを更に抑制し、オイル消費を低減することが可能となる。
【0035】
また、本発明は、リング面溝8がリング上面5とリング下面6の両方に形成されていなくともよく、リング上面5とリング下面6のうち、少なくともリング上面5にリング面溝8が形成されていればよい。即ち、セカンドリング20は、リング上面溝8Tのみ有してもよい。これにより、内燃機関100の運転時におけるオイルシール性能を向上させることができる。但し、実施形態に係るセカンドリング20は、リング下面溝8Bを有することによって、リング下面溝8Bを有しない場合と比較して、リング下面6とセカンドリング溝402の下壁W2との接触面積を小さくすることができる。これにより、リング下面6がセカンドリング溝402の下壁W2から離間し易くすることができる。そのため、セカンドリング20が早期に上方向に移動できるようになり、リング上面5のみにリング面溝8を設ける場合よりも早いタイミングでリング上面5をセカンドリング溝402の上壁W1に密着させることができる。その結果、オイルシール性能を更に向上させることができる。なお、リング下面溝8Bは、セカンドリング20がリング下面溝8Bを有しない場合よりもリング下面6とセカンドリング溝402の下壁W2との接触面積を小さくすることができればよく、リング下面溝8Bは、必ずしも合口空間7と連通しなくともよい。
【0036】
図5及び図6中の符号d1は、ピストン40がシリンダ50に装着された場合における、シリンダ内壁50aからセカンドリング溝402の上壁W1の外周縁W11までの最大離間距離を示す。ここで、ピストン40がシリンダ50内を往復する際、ピストン40の首振り運動(ピストンスラップとも呼ぶ)によって、隙間PC1の大きさ、及びシリンダ内壁50aとセカンドリング溝402の外周縁W11との離間距離が変化することがある。最大離間距離d1は、ピストンスラップ等を考慮して想定される、シリンダ内壁50aとセカンドリング溝402の外周縁W11との離間距離の最大値である。また、図5に示すように、リング外周面3の下縁(外周端)31からリング上面溝8Tの外周縁83Tまでの距離をa6とする。このとき、本実施形態に係るセカンドリング20は、a6>d1
となるように設計されている。
【0037】
ここで、図3に示す破線は、セカンドリング20が使用状態にあるときのセカンドリング溝402の上壁W1の外周縁W11を示す。図3では、ピストンスラップ等によって、セカンドリング溝402の外周縁W11がシリンダ内壁50aに対して最も離間した状態を示している。図3に示すように、セカンドリング20の中心軸CA1とピストン40の中心軸(即ち、外周縁W11の中心)CA2とが不一致となっている。このような場合であっても、上述のように、a6>d1であることから、図3に示すように上壁W1の外周縁W11よりも径方向内側の範囲(即ち、破線で示す円の内側)にリング上面溝8Tが位置する態様となる。これによると、リング上面5がセカンドリング溝402の上壁W1に押し付けられたときに、リング上面溝8T内のオイルが隙間PC1に流出することがリング上面5の外側上端面53によって抑制される。その結果、オイル消費を低減することができる。また、上壁W1の外周縁W11がリング上面溝8T内に入ることがないため、図6に示すように、リング上面5が上壁W1に押し付けられた状態において、セカンドリング20が水平姿勢(軸方向と直交する姿勢)に安定する。その結果、リング外周面3を安定してシリンダ内壁50aに摺接させることができる。
【0038】
同様に、図5及び図6に示すように、ピストン40がシリンダ50に装着された場合における、シリンダ内壁50aからセカンドリング溝402の下壁W2の外周縁W21までの最大離間距離をd2とし、リング外周面3の下縁31からリング下面溝8Bの外周縁83Bまでの距離をa7とする。このとき、本実施形態に係るセカンドリング20は、a7>d2となるように設計されている。これにより、セカンドリング20が使用状態にあるとき、下壁W2の外周縁W21よりも径方向内側の範囲にリング下面溝8Bが位置する態様となる。これによると、リング下面6が下壁W2に押し付けられたときに、セカンドリング20が水平姿勢(軸方向と直交する姿勢)となるため、リング外周面3を安定してシリンダ内壁50aに摺接させることができる。
【0039】
図7は、ピストン40の上昇行程の終盤においてセカンドリング溝402内のセカンドリング20に捩れが生じた状態を示す断面図である。ピストン40の上昇行程では、リング外周面3の下縁31とシリンダ内壁50aとの間に生じる摩擦(フリクション)により、セカンドリング20にねじれ作用が生じ、図7に示すように、セカンドリング溝402内におけるセカンドリング20の姿勢が、径方向外側に向かって下がるように傾斜した傾斜姿勢となることがある。このとき、本実施形態に係るセカンドリング20は、リング上面溝8Tの内周縁84Tがリング内周面4よりも径方向外側に形成されており、且つ、リング上面5は、リング上面溝8Tの内周縁84Tよりも径方向内側において平坦面に形成された内側上端面54を有する。そのため、図7に示すように、リング外周面3の下縁31がシリンダ内壁50aに当接し、内側上端面54が上壁W1に当接した状態となる。これにより、ピストン40の上昇行程の終盤においてクランク室70側から上がってくるオイルがシールされ、オイル上がりが抑制されている。ここで、例えば、リング内周面4にリング上面溝8T内のオイルを排出する開口を設けた場合に、図7に示すような状態となると、クランク室70側から上がってきたオイルが当該開口を通じて燃焼室60側に流出する虞がある。これに対して、実施形態に係るセカンドリング20は、リング面溝8内のオイルを排出する開口をリング内周面4側に設けず、合口空間7側のみに第1溝開口81及び第2溝開口82を設けることで、オイルシール性能を保持することができる。内側上端面54は、本発明に係る「内側上端領域」の一例である。
【0040】
更に、リング上面溝8Tが第1合口端面1から第2合口端面2に亘って周長方向に延在していることにより、即ち、リング上面溝8Tはセカンドリング20の全周に亘って形成されていることにより、周長方向の全範囲における隙間C1内のオイルを、リング面溝8を通じて合口空間7に排出することができる。その結果、周長方向の全範囲において、リ
ング上面5とセカンドリング溝402の上壁W1との密着性を高めることができる。また、リング上面溝8Tが第1溝開口81と第2溝開口82において合口空間7と連通していることから、第1溝開口81と第2溝開口82の一方のみにおいて合口空間7と連通している場合と比較して、隙間C1内のオイルを合口空間7に排出し易くすることができる。但し、リング上面溝8Tは、セカンドリング20の全周に亘って形成されていなくてもよい。例えば、リング上面溝8Tは、中途で間欠していてもよい。
【0041】
また、上述したように、リング上面溝8Tの各寸法は適宜変更してもよい。リング上面溝8Tは、周長方向において幅寸法a3や深さ寸法a4が一定でなくともよい。例えば、リング上面溝8Tは、第1溝開口81Tと第2溝開口82Tにおいて、幅寸法a3や深さ寸法a4を他の部位よりも大きくすることでオイルを合口空間7に排出し易くしてもよい。また、リング外周面3の下縁31からリング上面溝8Tの外周縁83Tまでの距離a6やリング外周面3の下縁31からリング下面溝8Bの外周縁83Bまでの距離a7についても、周長方向において一定でなくともよい。但し、上述したオイル消費低減等の観点から、a6>d1、a7>d2であることが好ましい。
【0042】
[変形例]
図8は、実施形態の変形例に係るセカンドリング80の第1合口端面1の端面図である。図8に示すように、変形例に係るセカンドリング80は、リング上面5にのみリング面溝8が形成されている点で、セカンドリング20と相違する。セカンドリング80は、セカンドリング20と同様にリング上面溝8Tを有していることにより、オイルシール性能を向上させることができる。
【0043】
[膜厚計測実験]
実施形態に係るセカンドリング20によるオイル上がりの抑制効果を確認すべく、膜厚計測装置を用いた膜厚計測実験を行った。本実験に用いた膜厚計測装置は、透光部を備えたシリンダホルダと全体が透明ガラス製のシリンダとを用いた非燃焼式の内燃機関構造を備えている。膜厚計測装置は、蛍光物質を混合したオイルをシリンダとピストンとの間に介在させた状態でピストンを往復させ、その間にシリンダホルダの透光部にレーザ光を照射するとともに蛍光物質が発する蛍光強度分布を高速度カメラにより取得し、蛍光強度分布に基づいてピストン外周面におけるオイルの膜厚(油膜厚さ)を算出する。
【0044】
実験では、後述する実験例と比較例の夫々について、膜厚計測装置の内燃機関構造を運転させた場合における、ピストン外周面の油膜厚さを計測した。実験条件は、4ストロークエンジンにおいてエンジンブレーキを使用したときのオイルが吸い上げられる状況を再現するために、クランク回転数を2000rpmとし、吸気管内のガス圧を絶対圧力で9kPaとした。
【0045】
[実験例]
実験例として、実施形態に係るセカンドリング20を膜厚計測装置の内燃機関構造に設けた場合のピストン外周面の油膜厚さを計測した。実験例に係るセカンドリングは、実施形態に係るセカンドリング20に相当する。即ち、実験例のセカンドリングは、リング本体の上下面において、全周に亘ってオイル排出溝が設けられている。
【0046】
[比較例]
比較例として、従来のオイル排出溝が設けられていないセカンドリングを膜厚計測装置の内燃機関構造に設けた場合のピストン外周面の油膜厚さを計測した。比較例に係るセカンドリングは、実施形態に係るセカンドリング20からリング上面溝8T及びリング下面溝8Bを排除した構成に相当する。
【0047】
[実験結果]
図9は、膜厚計測実験において膜厚計測装置の内燃機関構造が1サイクル運転する間のピストン外周面のトップランドにおける油膜厚さを示すグラフである。図9中の横軸はクランク角度を示しており、縦軸は油膜厚さを示している。また、図10は、実験例と比較例の油膜厚さの平均値を示すグラフである。図10中の縦軸は図9に示す油膜厚さの平均値を示している。
【0048】
図9に示すように、実施形態に係るセカンドリングを用いた実験例の方が、比較例よりも、トップランドにおける油膜厚さ(オイル量)が1サイクル(4ストローク)の全ての行程において減少していることがわかる。また、図10に示すように、実験例は、比較例に対して、トップランドにおける油膜厚さの平均が凡そ2/5に減少していることがわかる。これにより、実施形態に係るセカンドリングによるオイル上がりの抑制効果を確認することができた。
【0049】
図11A及び図11Bは、油膜厚さ計測実験におけるピストン外周面の蛍光強度分布の計測例を表示したものである。図11A及び図11Bに示す縦長帯状の白黒画像は、ピストン外周面の蛍光強度分布(即ち、油膜厚さ分布)を示し、上下方向がシリンダ軸方向であり、上方側が燃焼室側、下方側がクランク室側であり、左右方向がシリンダの周方向である。図11Aは、実験例の吸気行程におけるピストン外周面を示しており、図11Bは、比較例の吸気行程におけるピストン外周面を示している。
【0050】
図11A図11Bとを比較することにより、実施形態に係るセカンドリングを用いた実験例の方が、比較例よりも吸気行程においてトップランドに存在するオイル量が少ないことがわかる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。本発明に係るコンプレッションリングは、セカンドリングに限定されない。本発明のコンプレッションリングの構成は、トップリングにも採用することができる。
【符号の説明】
【0052】
100 :内燃機関
10 :トップリング
20 :セカンドリング
30 :オイルリング
1 :第1合口端面
2 :第2合口端面
3 :リング外周面
31 :下縁(外周端)
4 :リング内周面
5 :リング上面
53 :外側上端面
54 :内側上端面(内側上端領域)
6 :リング下面
63 :外側下端面
64 :内側下端面
7 :合口空間
8 :リング面溝
81 :第1溝開口
82 :第2溝開口
83 :外周縁
84 :内周縁
9 :溝形成面
40 :ピストン
40a :ピストン外周面
401 :トップリング溝
402 :セカンドリング溝
403 :オイルリング溝
W1 :上壁
W11 :上壁外周縁
W2 :下壁
W21 :下壁外周縁
50 :シリンダ
50a :シリンダ内壁
60 :燃焼室
70 :クランク室
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B