特許第6835801号(P6835801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化学工業株式会社の特許一覧

特許6835801ホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法、1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法及び遷移金属錯体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835801
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】ホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法、1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法及び遷移金属錯体
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/50 20060101AFI20210215BHJP
【FI】
   C07F9/50
【請求項の数】6
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2018-227506(P2018-227506)
(22)【出願日】2018年12月4日
(65)【公開番号】特開2019-206510(P2019-206510A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2020年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2018-102380(P2018-102380)
(32)【優先日】2018年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 健
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/005200(WO,A1)
【文献】 特表2011−503221(JP,A)
【文献】 GU,L. et al.,α-Dicationic Chelating Phosphines: Synthesis and Application to the Hydroarylation of Dienes,Journal of the American Chemical Society,2017年,Vol.139, No.13,p.4948-4953
【文献】 GU,L. et al.,Reductive Elimination of C6F5-C6F5 from Pd(II) Complexes: Influence of α-Dicationic Chelating Phosp,Organometallics,2017年,Vol.37, No.5,p.665-672
【文献】 TAMURA,K. et al.,Enantiopure 1,2-Bis(tert-butylmethylphosphino)benzene as a Highly Efficient Ligand in Rhodium-Cataly,Organic Letters,2010年,Vol.12, No.19,p.4400-4403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 19/00
C07F 5/02
C07F 9/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。Rは一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液を得るとともに、下記一般式(2):
【化2】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて、ホスフィンボラン化合物を含むB液を得、次いで、該A液に該B液を添加して反応を行うことにより、下記一般式(3):
【化3】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)を有することを特徴とするホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物が、リン原子上に不斉中心を有する光学活性体であることを特徴とする請求項1記載のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法。
【請求項3】
がt−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基又はアダマンチル基であり、Rがメチル基であることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程(A)での反応温度が、−80〜30℃であることを特徴とする請求項2又は3いずれか記載のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。Rは一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液を得るとともに、下記一般式(2):
【化2】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて、ホスフィンボラン化合物を含有するB液を得、次いで、該A液に該B液を添加し反応を行うことにより、下記一般式(3):
【化3】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)と、
下記の反応工程(B1)反応工程(B2)又は反応工程(B3)を行うことにより、下記一般式(6):
【化4】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る反応工程(B1)、反応工程(B2)又は反応工程(B3)と、
を有することを特徴とする1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法。
反応工程(B1):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を脱ボラン化し、次いで、リチオ化し、次いで、一般式(4):
PX (4)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRの一方であり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるアルキルジハロゲノホスフィンと反応させ、次いで、一般式(5):
MgX (5)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRの他方であり、Xはハロゲン原子を示す)
で表されるグリニャール試薬と反応させる工程。
反応工程(B2):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を脱ボラン化し、次いで、リチオ化し、次いで、一般式(4’):
PX (4’)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRに相当する基であり、R及びRが同一の基である。Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応させる工程。
反応工程(B3):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体をリチオ化し、次いで、一般式(4’):
PX (4’)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRに相当する基であり、R及びRが同一の基である。Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応させ、次いで、脱ボラン化を行う工程。
【請求項6】
前記一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物が、リン原子上に不斉中心を有する光学活性体であることを特徴とする請求項5記載の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法に関する。更に、本発明は、不斉合成反応において不斉触媒として用いられる金属錯体の配位子として用いられる遷移金属錯体の配位子源等として有用な1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学活性なホスフィン配位子を有する金属錯体を触媒とする有機合成反応は古くから知られており、極めて有用であることから、多くの研究成果が報告されている。近年では、リン原子そのものが不斉である配位子が開発されている。例えば、特許文献1及び非特許文献1には、優れた触媒性能を発揮する金属錯体を提供することができる光学活性な1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体及びその製造方法が記載されている。
【0003】
特許文献1の製造方法は、1,2−ビス(ホスフィノ)ベンゼンを出発原料として用いている。また、非特許文献1の製造方法は、1,2−ジフルオロベンゼントリカルボニルクロミウム及びビス(ジアルキルホスフィノ)ボロニウム塩が出発物質として使用されている。
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1に記載の製造方法で使用されている出発物質は、いずれも高価であり、これらの製造方法は、経済性の観点からすると工業的に有利とは言えない。
【0004】
本発明者らは、先に工業的に有利な光学活性な1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法として、下記一般式(A)で表される光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体から光学活性な1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を製造する方法を提案した(特許文献2参照)。
【0005】
【化1】
【0006】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは異なる基である。)
【0007】
特許文献2において、前記一般式(A)で表される光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法として、2−ハロゲノアニリンを出発原料として用いているが、目的とするホスフィノベンゼンボラン誘導体を得るまでの工程が長く、2−ハロゲノアニリン自体も高価なこともあって工業的に有利でない。
【0008】
前記一般式(A)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を工業的に有利な方法で製造する方法としては、1,2−ジハロゲノベンゼンを出発原料とする方法が提案されている(特許文献3及び非特許文献2)。
【0009】
しかしながら、−80℃の超低温で反応を行っても、特に光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体の収率が低く、不斉触媒として用いられる金属錯体の配位子として用いられる遷移金属錯体の配位子源等として有用な光学活性な1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を安価に工業的に有利に製造する上で、その出発原料となる光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体においても、更なる収率の向上が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−319288号公報
【特許文献2】特開2012−017288号公報
【特許文献3】国際公開第2013/007724号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ORGANIC LETTERS,2006,Vol.8、No.26、6103-6106
【非特許文献2】ORGANIC LETTERS,2010,Vol.12、No.19、4400-4403
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、工業的に有利なホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体及び1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を製造する場合に、光学純度が高いものを高い収率で得ることが出来る光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体及び1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の一般式で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液に、特定の一般式で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させたホスフィンボラン化合物を含むB液を添加することにより、従来のB液にA液を添加する方法に比べて、副反応に伴う不純物を減らす事が出来るために、飛躍的に収率が向上すること、また、光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体を製造する場合においても工業的に有利な温度で反応を行っても、光学純度が高いものを高い収率で得ることができること、を見出し本発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。Rは一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液を得るとともに、下記一般式(2):
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて、ホスフィンボラン化合物を含むB液を得、次いで、該A液に該B液を添加して反応を行うことにより、下記一般式(3):
【0019】
【化3】
【0020】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)を有することを特徴とするホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明(2)は、前記一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物が、リン原子上に不斉中心を有する光学活性体であることを特徴とする(1)のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明(3)は、Rがt−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基又はアダマンチル基であり、Rがメチル基であることを特徴とする(1)又は(2)いずれかのホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0023】
また、本発明(4)は、前記反応工程(A)での反応温度が、−80〜30℃であることを特徴とする(2)又は(3)いずれかのホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0024】
また、本発明(5)は、下記一般式(1):
【0025】
【化1】
【0026】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。Rは一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液を得るとともに、下記一般式(2):
【0027】
【化2】
【0028】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて、ホスフィンボラン化合物を含有するB液を得、次いで、該A液に該B液を添加し反応を行うことにより、下記一般式(3):
【0029】
【化3】
【0030】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)と、
下記の反応工程(B1)反応工程(B2)又は反応工程(B3)を行うことにより、下記一般式(6):
【0031】
【化4】
【0032】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る反応工程(B1)、反応工程(B2)又は反応工程(B3)と、
を有することを特徴とする1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法を提供するものである。
反応工程(B1):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を脱ボラン化し、次いで、リチオ化し、次いで、一般式(4):
PX (4)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRの一方であり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるアルキルジハロゲノホスフィンと反応させ、次いで、一般式(5):
MgX (5)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRの他方であり、Xはハロゲン原子を示す)
で表されるグリニャール試薬と反応させる工程。
反応工程(B2):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を脱ボラン化し、次いで、リチオ化し、次いで、一般式(4’):
PX (4’)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRに相当する基であり、R及びRが同一の基である。Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応させる工程。
反応工程(B3):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体をリチオ化し、次いで、一般式(4’):
PX (4’)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRに相当する基であり、R及びRが同一の基である。Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応させ、次いで、脱ボラン化を行う工程。
【0033】
また、本発明(6)は、前記一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物が、リン原子上に不斉中心を有する光学活性体であることを特徴とする(5)の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0034】
また、本発明(7)は、下記一般式(7):
【0035】
【化17】
【0036】
(式中、R及びR、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。Aはフェニル基を示す。)
で表される(R)−1−ジアルキルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼンを提供するものである。
【0037】
また、本発明(8)は、下記一般式(8):
【0038】
【化18】
【0039】
で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼンを提供するものである。
【0040】
また、本発明(9)は、下記一般式(9):
【0041】
【化19】
【0042】
(式中、R及びR、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。Bはペンタフルオロフェニル基を示す。)
で表される(R)−ジアルキルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼンを提供するものである。
【0043】
また、本発明(10)は、下記一般式(10):
【0044】
【化20】
【0045】
で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼンを提供するものである。
【0046】
また、本発明(11)は、遷移金属と、該遷移金属に配位している(7)〜(10)いずれかの化合物と、からなることを特徴とする遷移金属錯体を提供するものである。
【0047】
また、本発明(12)は、不斉合成反応における触媒用であることを特徴とする(11)の遷移金属錯体を提供するものである。
【発明の効果】
【0048】
本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法は、ホスフィノベンゼンボラン誘導体の収率を飛躍的に向上させることができ、また、光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体を製造する場合において、工業的に有利な温度で反応を行っても、光学純度が高いものを高い収率で得ることができる。また、本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法は、不斉合成反応において不斉触媒として用いられる金属錯体の配位子として用いられる遷移金属錯体の配位子源として有用な1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を工業的に有利な方法で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法は、下記一般式(1):
【0050】
【化1】
【0051】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。Rは一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液を得るとともに、下記一般式(2):
【0052】
【化2】
【0053】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて、ホスフィンボラン化合物を含むB液を得、次いで、該A液に該B液を添加して反応を行うことにより、下記一般式(3):
【0054】
【化3】
【0055】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)を有することを特徴とするホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法である。
【0056】
本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法は、前記一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液に、前記一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて得られるホスフィンボラン化合物を含むB液を添加して反応させ、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)を有する。なお、本発明において、A液にB液を添加するとは、A液の全量に対して、B液を少しずつ分割添加していく添加方式を指す。
【0057】
反応工程(A)は、A液に対してB液を添加するという添加方式を採用する。そして、反応工程(A)において、A液にB液を添加することにより、従来のB液に対してA液を添加するという添加方式を採用する方法に比べ、ホスフィノベンゼンボラン誘導体の収率を高くすることができる。
【0058】
反応工程(A)では、先ず、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液と、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて得られるホスフィンボラン化合物を含むB液と、を、それぞれ別々に調製する。
【0059】
反応工程(A)に係るA液は、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含む液である。A液は、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンが溶媒に溶解されている溶液であってもよく、固体の一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンが溶媒に分散しているスラリーであってもよい。
【0060】
一般式(1)中、Xは、ハロゲン原子であり、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。Xとしては、臭素原子が好ましい。また、一般式(1)中、Rは、一価の置換基を示す。Rの一価の置換基としては、特に制限されないが、例えば、直鎖状又は分岐状であり且つ炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、置換アミノ基、アミノ基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アルキレンジオキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。また、一般式(1)中、nは、0〜4の整数を示す。
【0061】
一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンとして、市販品を使用することができ、例えば、1,2−ジブロモベンゼン等は、東京化成工業株式会社から入手可能である。
【0062】
A液で用いられる溶媒の種類は、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンに対して不活性な溶媒であれば、特に制限されない。A液で用いられる溶媒としては、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを溶解することができるものが好ましく、このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。また、これらの溶媒は、1種単独で又は混合溶媒として用いられる。また、反応工程(A)では、A液が、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンが、スラリー状態で存在しているスラリーであっても、反応を開始することができる。そのため、A液に用いられる溶媒は、必ずしも完全に一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを溶解する必要はなく、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンのスラリーを形成する溶媒であってもよい。
【0063】
A液中の一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンの濃度は、反応性及び生産性の観点から、1〜50質量が好ましく、10〜90質量%が特に好ましい。
【0064】
反応工程(A)に係るB液は、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を、溶媒中で脱プロトン化させて得られるホスフィンボラン化合物を含む溶液である。
【0065】
一般式(2)中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。
【0066】
及びRで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、n−ヘプチル基、イソヘキシル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。また、R及びRで表されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、R及び/又はRが置換基を有するシクロアルキル基又は置換基を有するフェニル基の場合、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。R及び/又はRが置換基を有するアルキル基である場合、置換基としては、フェニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロム基、ヨード基等が挙げられる。
【0067】
本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法において、1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を不斉触媒の用途として用いる観点からは、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物は、リン原子上に不斉中心を有する光学活性体であることが好ましく、また、一般式(2)中のRがt−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基又はアダマンチル基であり、且つ、Rがメチル基であることが特に好ましい。一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物がリン原子上に不斉中心を有する光学活性体である場合、(R)体であってもよく、(S)体であってもよい。一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の光学純度は高いことが好ましく、例えば、98%ee以上であることが好ましい。本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法では、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物として、ラセミ体を用いないことが、目的とする光学活性体以外の異性体を含有しない光学純度の高いものを得る観点から好ましい。
【0068】
一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物は、公知の方法によって調製される。そのような方法としては、例えば、特開2001−253889号公報、特開2003−300988号公報、特開2007−70310号公報、特開2010−138136号公報及びJ.Org.Chem,2000,vol.65,P4185−4188等に記載の方法が挙げられる。
【0069】
B液の調製においては、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物が溶媒に溶解している溶液と、塩基とを混合することで、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の脱プロトン化を行うことにより、B液を調製する。この際、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物が溶媒に溶解している溶液に対して塩基を添加することが、塩基溶液に対して、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を溶媒に溶解した溶液を添加した場合に比べて、反応生成物が過剰な塩基に曝され続ける事がないため、副生物を減少させるという利点がある点で好ましい。なお、本発明において、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物が溶媒に溶解している溶液に対して塩基を添加するとは、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物が溶媒に溶解している溶液全量に対して、塩基を少しずつ分割添加する添加方式を指す。
【0070】
B液の調製において、溶媒中の一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の濃度は、反応性及び生産性の観点から、好ましくは1〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。
【0071】
B液の調製において、脱プロトン化に用いられる塩基としては、例えば、n−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、メチルマグネシウムブロミド、t−ブトキシカリウム、ヒューニッヒ塩基、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。脱プロトン化に用いられる塩基としては、n−ブチルリチウムが好ましい。
【0072】
B液の調製において、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物に対する塩基の添加量は、モル比で1.0〜1.5であることが、経済性と反応性の観点から好ましい。
【0073】
B液の調製において、脱プロトン化で用いられる溶媒は、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物及び生成するホスフィンボラン化合物を溶解することができ且つ一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物及び生成するホスフィンボラン化合物に対し不活性な溶媒であれば、特に制限されない。B液の調製において、脱プロトン化で用いられる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で又は混合溶媒として用いられる。
【0074】
B液の調製において、塩基の添加温度は、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の光学純度を保ったまま脱プロトン化することができる観点から、好ましくは−80〜30℃、特に好ましくは−20〜0℃である。B液の調製において、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を含む液に、塩基を添加することにより、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の脱プロトン化が速やかに行われるが、必要に応じて、脱プロトン化の反応を完結させるために、塩基の添加終了後に引続き熟成を行ってもよい。なお、本発明において、熟成とは、反応原料の全量を混合した後に、反応を完結させるために、反応を継続させることを指す。
【0075】
そして、B液の調製においては、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を含む液に、塩基を添加することにより、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の脱プロトン化物が生成し、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化して得られるホスフィンボラン化合物を含むB液が得られる。
【0076】
反応工程(A)において、A液の調製と、B液の調製、すなわち、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化する処理とは、どちらを先に行なってもよく、同時に並行して行ってもよい。
【0077】
反応工程(A)では、次いで、A液に対してB液を添加する。本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法は、A液にB液を添加して反応を行うことに特徴があり、従来のB液にA液を添加する方法に比べて、副反応に伴う不純物を減らす事が出来るために、飛躍的に収率を向上させることができる。また、本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法は、光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体を製造する場合においても、A液にB液を添加して反応を行うことにより、工業的に有利な温度まで反応温度を高くしても、光学純度が高いものが高い収率で得ることが出来る。
【0078】
反応工程(A)において、A液へのB液の添加を開始する時点でのA液の温度は、十分な反応性で、高い光学純度の生成物が得られる理由から、好ましくは−80〜80℃、特に好ましくは−20〜50℃である。また、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物として光学活性体を用い、所望の光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体を製造する場合には、A液へのB液の添加を開始する時点でのA液の温度は、光学純度が高いものを高収率で得る観点から、好ましくは−80〜30℃、特に好ましくは−20〜0℃である。
【0079】
反応工程(A)において、A液へのB液の総添加量は、反応性と経済性の観点から、A液中の一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンに対する一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の脱プロトン化物であるホスフィンボラン化合物のモル比が、1.0〜3.0となる量が好ましく、1.1〜2.0となる量が特に好ましい。
【0080】
反応工程(A)において、A液にB液を添加するときの添加温度、すなわち、A液にB液を添加しているときの反応液の温度は、工業的に有利な反応温度で反応を行う観点から、好ましくは−80〜80℃、特に好ましくは−20〜50℃である。また、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物として光学活性体を用い、所望の光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体を製造する場合には、A液にB液を添加するときの添加温度、すなわち、A液にB液を添加しているときの反応液の温度は、光学純度が高いものを高収率で得る観点から、好ましくは−80〜30℃、特に好ましくは−20〜0℃である。
【0081】
反応工程(A)において、A液へのB液の添加速度は、特に制限されるものではないが、安定した品質のものを得る観点から、一定速度であることが好ましい。例えば、反応熱や副反応の制御の観点から、A液に対するB液の添加を、例えば、1Lスケールの場合、10分以上かけて行うことが好ましく、30分以上かけて行うことがより好ましい。A液に対するB液の添加は、連続的であっても断続的であってもよい。また、A液に対するB液の添加が連続的であっても断続的であっても、製造時間の観点から、例えば、1Lスケールの場合、A液に対するB液の添加を、180分以下の時間で行うことが好ましい。A液にB液を添加している間、上記のB液のA液への好ましい添加温度の範囲内に反応液の温度を維持することが好ましい。
【0082】
反応工程(A)では、A液へのB液の添加により速やかに反応が完結する場合は、A液へのB液の添加終了により、反応が完結するので、A液へのB液の添加を終了した後、速やかに反応を終了させる。また、反応工程(A)では、A液へのB液の添加終了後、必要により引続き反応を完結させるために熟成を行うことができる。この熟成を行う場合の反応液の温度は、−80〜80℃であり、工業的に有利な反応温度で熟成を行う観点から熟成の際の反応液の温度は、−20〜80℃が好ましい。また、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物として光学活性体を用い、所望の光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体を製造する場合には、熟成の際の反応液の温度は、光学純度が高いものを高収率で得る観点から、好ましくは−20〜50℃、特に好ましくは−20〜30℃である。熟成の時間は、例えば、10分以上5時間以下が生成物の分解を防ぐ観点から好ましい。なお、反応工程(A)において、A液へのB液の添加後、熟成を行わずに反応を終了させる場合は、A液へのB液の添加を開始してから添加を終了するまでの反応液の温度が反応温度であり、また、A液へB液の添加を行った後、熟成を行う場合は、A液へのB液の添加を開始してから熟成を終了するまでの反応液の温度が反応温度である。そのため、反応工程(A)において、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンと、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて得られるホスフィンボラン化合物と、を反応させる際の反応温度は、−80〜80℃であり、工業的に有利な反応温度で熟成を行う観点から、−20〜80℃が好ましい。また、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物として光学活性体を用い、所望の光学活性なホスフィノベンゼンボラン誘導体を製造する場合には、反応工程(A)において、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンと、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて得られるホスフィンボラン化合物と、を反応させる際の反応温度は、光学純度が高いものを高収率で得る観点から、好ましくは−20〜50℃、特に好ましくは−20〜30℃である。
【0083】
反応工程(A)では、A液にB液を添加して、一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンと、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化して得られるホスフィンボラン化合物と、を反応させることにより、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る。
【0084】
反応工程(A)では、反応終了後、生成した一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を、必要に応じて、分液洗浄、抽出、晶析、蒸留、昇華、カラムクロマトグラフィーといった精製作業に付してもよい。
【0085】
本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法により得られる一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体は、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造原料として有用である。
【0086】
一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体から一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を製造する方法としては、下記の本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法が、連続的に行え、工業的に有利である観点から好ましい。
【0087】
本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法は、下記一般式(1):
【0088】
【化1】
【0089】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。Rは一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液を得るとともに、下記一般式(2):
【0090】
【化2】
【0091】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて、ホスフィンボラン化合物を含有するB液を得、次いで、該A液に該B液を添加し反応を行うことにより、下記一般式(3):
【0092】
【化3】
【0093】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)と、
下記の反応工程(B1)、反応工程(B2)又は反応工程(B3)を行うことにより、下記一般式(6):
【0094】
【化4】
【0095】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R及びRは同一の基であってもよく異なる基であってもよい。)
で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る反応工程(B1)、反応工程(B2)又は反応工程(B3)と、
を有することを特徴とする1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法である。
反応工程(B1):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を脱ボラン化し、次いで、リチオ化し、次いで、一般式(4):
PX (4)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRの一方であり、Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるアルキルジハロゲノホスフィンと反応させ、次いで、一般式(5):
MgX (5)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRの他方であり、Xはハロゲン原子を示す)
で表されるグリニャール試薬と反応させる工程。
反応工程(B2):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を脱ボラン化し、次いで、リチオ化し、次いで、一般式(4’):
PX (4’)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRに相当する基であり、R及びRが同一の基である。Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応させる工程。
反応工程(B3):
前記一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体をリチオ化し、次いで、一般式(4’):
PX (4’)
(Rは前記一般式(6)におけるR及びRに相当する基であり、R及びRが同一の基である。Xはハロゲン原子を示す。)
で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応させ、次いで、脱ボラン化を行う工程。
つまり、本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法では、反応工程(A)を行った後、反応工程(A)を行い得られるホスフィノベンゼンボラン誘導体を用いて、反応工程(B1)を行い、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得るか、あるいは、反応工程(A)を行った後、反応工程(A)を行い得られるホスフィノベンゼンボラン誘導体を用いて、反応工程(B2)を行い、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得るか、あるいは反応工程(A)を行った後、反応工程(A)を行い得られるホスフィノベンゼンボラン誘導体を用いて、反応工程(B3)を行い、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る。
【0096】
なお、本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法において、一般式(4)中のRは、一般式(6)中のR及びRのうちのいずれか一方であり、且つ、一般式(5)中のRは、一般式(6)中のR及びRのうちの他方である。つまり、反応(iii)において、一般式(4)で表されるアルキルジハロゲノホスフィンとして、RPXで表されるアルキルジハロゲノホスフィンを用いる場合は、反応(iv)において、一般式(5)で表されるグリニャール試薬として、RMgXで表されるグリニャール試薬を用い、一方、反応(iii)において、一般式(4)で表されるアルキルジハロゲノホスフィンとして、RPXで表されるアルキルジハロゲノホスフィンを用いる場合は、反応(iv)において、一般式(5)で表されるグリニャール試薬として、RMgXで表されるグリニャール試薬を用いる。
また、一般式(4’)中のRは、一般式(6)中のR及びRに相当する基で、R及びRが同一の基の場合である。
【0097】
以下、反応工程(B1)を有する1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法を「製造方法B1」と言う。一方、反応工程(B2)を有する1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法を「製造方法B2」と言うことがある。また、反応工程(B3)を有する1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法を「製造方法B3」と言うことがある。
【0098】
本発明の製造方法B1に係る1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法は、前記一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液に、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて得られるホスフィンボラン化合物を含むB液を添加して反応させて、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)と、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を脱ボラン化し、次いで、リチオ化し、次いで、一般式(4)で表されるアルキルジハロゲノホスフィンと反応させ、次いで、一般式(5)で表されるグリニャール試薬と反応させることにより、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る反応工程(B1)と、を有する。
【0099】
本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法B1に係る反応工程(A)は、本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法に係る反応工程(A)と同様である。
【0100】
反応工程(B1)は、脱ボラン化(i)と、リチオ化(ii)と、脱ボラン化及びリチオ化後の反応生成物とアルキルジハロゲノホスフィンとの反応(iii)と、反応(iii)で得られる反応生成物とグリニャール試薬との反応(iv)と、からなる。
【0101】
脱ボラン化(i)では、下記の反応式(1)に従って、脱ボラン化剤により、溶媒中で、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体の脱ボラン化反応を行い、下記反応式(1)中の一般式(3A)で表されるホスフィノベンゼン誘導体を得る。
【0102】
【化9】
【0103】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
【0104】
脱ボラン化(i)に用いられる脱ボラン化剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、トリエチレンジアミン(DABCO)、トリエチルアミン、HBF、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。脱ボラン化剤としては、DABCOが好ましい。脱ボラン化剤の添加量は、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体1モルに対し、通常1.0〜3.0モルであり、好ましくは1.1〜2.0モルである。
【0105】
脱ボラン化(i)で用いられる溶媒としては、例えば、THF、ヘキサン、トルエン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等が挙げられ、これらは1種単独であっても又は2種以上の混合であってもよい。
【0106】
脱ボラン化(i)における脱ボラン化反応の反応温度は、光学純度の高いホスフィノベンゼン誘導体(3A)を得る観点から、好ましくは20〜120℃、より好ましくは30〜80℃である。また、脱ボラン化(i)における脱ボラン化反応の反応時間は、好ましくは10分以上、特に好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜8時間である。
【0107】
リチオ化(ii)では、下記の反応式(2)に従って、リチオ化剤により、溶媒中で、一般式(3A)で表されるホスフィノベンゼン誘導体のリチオ化を行い、下記反応式(2)中の一般式(3B)で表される反応生成物を得る。なお、反応工程(B)では、脱ボラン化から連続してリチオ化を行うことができる。
【0108】
【化10】
【0109】
(式中、式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
【0110】
リチオ化(ii)で用いられるリチオ化剤としては、例えば、有機リチウム化合物が用いられる。有機リチウム化合物の例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、sec−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等が挙がられる。リチオ化剤の添加量は、一般式(3A)で表されるホスフィノベンゼン誘導体に対するリチオ化剤のモル比で、1.0〜1.5であることが経済性及び反応性の観点から好ましく、1.0〜1.2であることが副反応を制御する観点からさらに好ましい。
【0111】
リチオ化(ii)で用いられる溶媒としては、例えば、THF、ヘキサン、トルエン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等が挙げられ、これらは1種単独又は2種以上の混合であってもよい。
【0112】
リチオ化(ii)において、リチオ化剤を添加するときの添加温度、すなわち、リチオ化剤を添加するときの反応液の温度は、一般式(3A)で表されるホスフィノベンゼン誘導体の光学純度を保ったままリチオ化することができる観点から、好ましくは−80〜20℃、特に好ましくは−80〜0℃である。リチオ化の反応時間は、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜8時間である。
【0113】
リチオ化(ii)では、一般式(3A)で表されるホスフィノベンゼン誘導体を含む液に、リチオ化剤を添加することにより、一般式(3A)で表されるホスフィノベンゼン誘導体のリチオ化が速やかに行われるが、必要に応じてリチオ化反応を完結させるために、リチオ化剤の添加終了後に引き続き熟成を行ってもよい。
【0114】
反応(iii)では、下記の反応式(3)に従って、リチオ化(ii)を行い得られる反応生成物(3B)と、一般式(4)で表されるアルキルジハロゲノホスフィンを反応させて、下記反応式(3)中の一般式(3C)で表される反応生成物を得る。なお、反応工程(B1)では、リチオ化(ii)から連続して反応(iii)を行うことができる。
【0115】
【化11】
【0116】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。Rは一般式(6)におけるR及びRのうちのいずれか一方である。)
【0117】
一般式(4)中のRは、R及びRのうちの炭素数が多い方の基であることが好ましい。Xで表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、塩素が好ましい。一般式(4)で表されるアルキルジハロゲノホスフィンは、市販品として入手可能である。また、一般式(4)で表されるアルキルジハロゲノホスフィンは、工業的にも安価に製造可能である(例えば、特開2002−255983号公報、特開2001−354683号公報等参照)。
【0118】
反応(iii)に用いられる溶媒は、例えば、THF、ヘキサン、トルエン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等が挙げられ、1種単独又は2種以上の混合で用いられる。
【0119】
反応(iii)において、一般式(4)で表されるアルキルジハロゲノホスフィンの使用量は、脱ボラン化(i)に用いられた一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体1モルに対し、好ましくは1.0〜2.0モル、特に好ましくは1.1〜1.5モルである。また、反応(iii)の反応時間は、好ましくは0.5〜24時間、特に好ましくは1〜12時間である。また、反応(iii)の反応温度は、好ましくは−80〜80℃、特に好ましくは−80〜20℃である。
【0120】
反応(iv)では、下記の反応式(4)に従って、反応(iii)を行い得られる反応生成物(3C)と、一般式(5)で表されるグリニャール試薬と、を反応させて、下記反応式(4)中の一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る。なお、反応工程(B1)では、反応(iii)から連続して反応(iv)を行うことができる。
【0121】
【化12】
【0122】
(式中、R、R、R、X、X及びnは前記と同義。R及びRは前記一般式(6)におけるR及びRの他方である。)
【0123】
反応(iv)では、従来公知のグリニャール反応に準じて、反応を行うことができる。例えば、反応(iv)では、THF、ヘキサン、トルエン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等の有機溶媒中で反応を行うことができる。反応(iv)において、一般式(5)で表されるグリニャール試薬の使用量は、脱ボラン化(i)で用いた一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体1モルに対し、好ましくは1.0〜3.0モル、特に好ましくは1.0〜2.0モルである。また、反応(iv)において、反応時間は、好ましくは0.5〜24時間、特に好ましくは1〜12時間である。また、反応(iv)において、反応温度は、好ましくは−80〜80℃、特に好ましくは−20〜80℃である。
【0124】
反応工程(B1)において、脱ボラン化(i)、リチオ化(ii)、脱ボラン化及びリチオ化後の反応生成物とアルキルジハロゲノホスフィンとの反応(iii)及び反応(iii)で得られる反応生成物とグリニャール試薬との反応(iv)を触媒存在下に実施しても良い。触媒の例としてはCuCl、CuCl、CuBr、CuBr、Cu(OTf)などが挙げられ、(3B)1モルに対して0.01〜0.3モル使用することが好ましい。
【0125】
反応工程(B1)において、脱ボラン化(i)、リチオ化(ii)、脱ボラン化及びリチオ化後の反応生成物とアルキルジハロゲノホスフィンとの反応(iii)、反応(iii)で得られる反応生成物とグリニャール試薬との反応(iv)を、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0126】
本発明の製造方法B2に係る1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法は、前記一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液に、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて得られるホスフィンボラン化合物を含むB液を添加して反応させて、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)と、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を脱ボラン化し、次いで、リチオ化し、次いで、一般式(4’)で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応させることにより、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る反応工程(B2)と、を有する。
【0127】
本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法B2に係る反応工程(A)は、本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法に係る反応工程(A)と同様である。
【0128】
反応工程(B2)は、脱ボラン化(i)と、リチオ化(ii)と、脱ボラン化及びリチオ化後の反応生成物とジアルキルハロゲノホスフィンとの反応(V)と、からなる。
そして、反応工程(B2)において、脱ボラン化(i)と、リチオ化(ii)は、反応工程(B1)と同様である。
【0129】
反応(V)では、下記の反応式(5)に従って、リチオ化(ii)を行い得られる反応生成物(3B)と、一般式(4’)で表されるジアルキルハロゲノホスフィンを反応させて、下記反応式(5)中の一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る。なお、反応工程(B2)ではリチオ化(ii)から連続して反応(V)を行うことができる。
【0130】
【化13】
【0131】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。Rは一般式(6)におけるR及びRに相当し、RとRは同じ基である。)
【0132】
反応(V)に用いられる溶媒は、例えば、THF、ヘキサン、トルエン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等が挙げられ、1種単独又は2種以上の混合で用いられる。
【0133】
反応(V)において、一般式(4’)で表されるジアルキルジハロゲノホスフィンの使用量は、脱ボラン化(i)に用いられた一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体1モルに対し、好ましくは1.0〜2.0モル、特に好ましくは1.1〜1.5モルである。また、反応(V)の反応時間は、好ましくは0.5〜24時間、特に好ましくは1.0〜12時間である。また、反応(V)の反応温度は、好ましくは−80〜80℃、特に好ましくは−20〜80℃である。
【0134】
反応工程(B2)において、脱ボラン化(i)、リチオ化(ii)、脱ボラン化及びリチオ化後の反応生成物とジアルキルハロゲノホスフィンとの反応(V)を、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0135】
反応工程(B2)において、脱ボラン化(i)、リチオ化(ii)、脱ボラン化及びリチオ化後の反応生成物とジアルキルハロゲノホスフィンとの反応(V)を、触媒存在下に実施しても良い。触媒の例としてはCuCl、CuCl,CuBr、CuBr、Cu(OTf)などが挙げられ、(3B)1モルに対して0.01〜0.3モル使用することが好ましい。
【0136】
本発明の製造方法B3に係る1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法は、前記一般式(1)で表される1,2−ジハロゲノベンゼンを含むA液に、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物を脱プロトン化させて得られるホスフィンボラン化合物を含むB液を添加して反応させて、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を得る反応工程(A)と、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体をリチオ化し、次いで、一般式(4’)で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応させ、次いで、脱ボラン化することにより、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る反応工程(B3)と、を有する。
【0137】
本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の製造方法B3に係る反応工程(A)は、本発明のホスフィノベンゼンボラン誘導体の製造方法に係る反応工程(A)と同様である。
【0138】
反応工程(B3)は、リチオ化(Vi)と、リチオ化後の反応生成物とジアルキルハロゲノホスフィンとの反応(Vii)、脱ボラン化(Viii)と、からなる。
【0139】
リチオ化(Vi)では、下記の反応式(6)に従って、リチオ化剤により、溶媒中で、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体のリチオ化を行い、下記反応式(6)中の一般式(3a)で表される反応生成物を得る。
【0140】
【化14】
【0141】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。)
【0142】
リチオ化(Vi)で用いられるリチオ化剤及び溶媒としては、前記リチオ化(ii)と同様なリチオ化剤及び溶媒を用いることができる。リチオ化剤の添加量は、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体に対するリチオ化剤のモル比で、1.0〜1.5であることが経済性及び反応性の観点から好ましく、1.0〜1.2であることが副反応を抑制する観点からさらに好ましい。リチオ化(Vi)において、リチオ化剤を添加するときの添加温度、すなわち、リチオ化剤を添加するときの反応液の温度は、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体の光学純度を保ったままリチオ化することができる観点から、−80〜20℃、特に好ましくは−80〜0℃である。リチオ化の反応時間は、通常3分〜10時間、好ましくは3分〜8時間である。
【0143】
リチオ化(Vi)では、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体を含む液に、リチオ化剤を添加することにより、一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体のリチオ化が速やかに行われるが、必要に応じてリチオ化反応を完結させるために、リチオ化剤の添加終了後に引き続き熟成を行ってもよい。
【0144】
反応(Vii)では、下記の反応式(7)に従って、リチオ化(Vi)で得られる反応生成物(3a)と、一般式(4’)で表されるジアルキルハロゲノホスフィンを反応させて、下記反応式(7)中の一般式(3b)で表される反応生成物を得る。なお、反応工程(B3)では、リチオ化(Vi)から連続して反応(Vii)を行うことができる。
【0145】
【化15】
【0146】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。Rは一般式(6)におけるR及びRに相当し、RとRは同じ基である。)
【0147】
反応(Vii)に用いられる一般式(4’)で表されるジアルキルハロゲノホスフィンと反応に用いる溶媒は、前記反応(V)と同様なものが用いられる。
【0148】
反応(Vii)において、一般式(4’)で表されるジアルキルハロゲノホスフィンの使用量は、リチオ化(Vi)に用いられた一般式(3)で表されるホスフィノベンゼンボラン誘導体1モルに対し、好ましくは1.0〜2.0モル、特に好ましくは1.1〜1.5モルである。また、反応(Vii)の反応時間は、好ましくは0.5〜24時間、特に好ましくは1.0〜12時間である。また、反応(Vii)の反応温度は、好ましくは−80〜80℃、特に好ましくは−20〜80℃である。
【0149】
脱ボラン化(Viii)では、下記の反応式(8)に従って、脱ボラン化剤により、溶媒中で、一般式(3b)で表される反応生成物の脱ボラン化反応を行い、下記反応式(8)中の一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る。なお、反応工程(B3)では反応(Vii)から連続して脱ボラン化(Viii)を行うことができる。
【0150】
【化16】
【0151】
(式中、R、R、R、X及びnは前記と同義。Rは一般式(6)におけるR及びRに相当し、RとRは同じ基である。)
【0152】
脱ボラン化(Viii)に用いられる溶媒及び脱ボラン化剤としては、前記脱ボラン化(i)と同様なものを用いることができる。
【0153】
脱ボラン化(Viii)における脱ボラン化反応の反応温度は、光学純度の高い一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得る観点から、好ましくは20〜120℃、より好ましくは30〜80℃である。また、脱ボラン化(Viii)における脱ボラン化反応の反応時間は、好ましくは10分以上、特に好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜8時間である。
【0154】
反応工程(B3)において、リチオ化(Vi)、リチオ化後の反応生成物とジアルキルハロゲノホスフィンとの反応(Vii)、脱ボラン化(Viii)を、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0155】
反応工程(B3)において、リチオ化(Vi)と、リチオ化後の反応生成物とジアルキルハロゲノホスフィンとの反応(Vii)、脱ボラン化(Viii)を、触媒存在下に実施しても良い。触媒の例としてはCuCl、CuCl、CuBr、CuBr、Cu(OTf)などが挙げられ、(3a)1モルに対して0.01〜0.3モル使用することが好ましい。
【0156】
そして、本発明の製造方法B1、本発明の製造方法B2又は本発明の製造方法B3を行うことにより、目的物である一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体が得られる。本発明の製造方法B1を行って得られる目的物であるベンゼン誘導体が光学活性体である場合は、目的物は(R,R)体又は(S,S)体であるが、目的物以外の生成物として(R,S)体又は(S,R)体、例えば、メソ体が含有された混合物が得られることもある。このようなときは、必要により精製(a)を行うことにより、目的物と目的物以外の生成物を含有する混合物から、本発明の目的物である(R,R)体又は(S,S)体を分離すると、目的物を純度よく得ることができる。また、本発明の製造方法B2を行って得られる目的物であるベンゼン誘導体が光学活性体である場合においても必要により精製(a)を行うことにより、目的物と目的物以外の生成物を含有する混合物から、本発明の目的物を純度よく得ることができる。本発明の目的物の分離を、通常の精製方法により行えばよく、通常は再結晶で十分である。また、本発明の目的物の分離を、必要に応じてカラム分離により行うことができる。また、精製(a)を行うに当たって、適宜、脱溶媒、洗浄等の精製方法により、精製(a’)を行っておくことが好ましい。また、カラム分離等により精製を行う場合には、必要により、化合物を安定化させるため、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体に対して当量以上のボラン・THF溶液で一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体をボラン化し、カラム分離後に、前記脱ボラン化(i)或いは脱ボラン化(Viii)と同様に脱ボラン化して、目的物である一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を得てもよい。
【0157】
本発明の形態としては、下記一般式(7):
【0158】
【化17】
【0159】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。Aは置換されていてもよいフェニル基を示す。)
で表される(R)−1−ジアルキルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼンが挙げられる。
【0160】
また、本発明の形態としては、下記一般式(8):
【0161】
【化18】
【0162】
で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼンが挙げられる。
【0163】
また、本発明の形態としては、下記一般式(9):
【0164】
【化19】
【0165】
(式中、R及びRは、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基を示し、但し、RとRは同一の基となることはない。Bは置換されていてもよいペンタフルオロフェニル基を示す。)
で表される(R)−ジアルキルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼンが挙げられる。
【0166】
また、本発明の形態としては、下記一般式(10):
【0167】
【化20】
【0168】
で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼンが挙げられる。
【0169】
本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体製造方法により得られる一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体は、配位子として、遷移金属と共に錯体を形成することができる。つまり、本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体製造方法により得られる一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体、例えば、本発明の下記一般式(7)で表される(R)−1−ジアルキルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン、本発明の下記一般式(8)で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン、本発明の下記一般式(9)で表される(R)−ジアルキルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼン、及び本発明の下記一般式(10)で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼンは、遷移金属と共に錯体を形成する配位子として、好適に用いられる。
【0170】
前記一般式(7)において、Aが置換基を有するフェニル基の場合、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。前記一般式(9)において、Bが置換基を有するペンタフルオロフェニル基の場合、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。前記一般式(7)及び(9)において、R〜Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、n−ヘプチル基、イソヘキシル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。また、R〜Rで表されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、R〜Rが置換基を有するシクロアルキル基の場合、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。R〜Rが置換基を有するアルキル基である場合、置換基としては、フェニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロム基、ヨード基等が挙げられる。
【0171】
すなわち、本発明の遷移金属錯体は、遷移金属と、該遷移金属に配位している本発明の1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体製造方法により得られる一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体、例えば、本発明の下記一般式(7)で表される(R)−1−ジアルキルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン、本発明の下記一般式(8)で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン、本発明の下記一般式(9)で表される(R)−ジアルキルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼン、又は本発明の下記一般式(10)で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼンと、からなることを特徴とする遷移金属錯体である。
【0172】
本発明の遷移金属錯体において、錯体を形成することができる遷移金属としては、例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、ニッケル、鉄、銅等が挙げられ、好ましくはロジウム、パラジウム金属である。光学活性な一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体を配位子として、ロジウム金属と共に錯体を形成させる方法としては、例えば、実験化学講座 第4版(日本化学会編、丸善株式会社発行 第18巻 327〜353頁)に記載されている方法に従えばよく、例えば、光学活性な一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体と、ビス(シクロオクタン−1,5−ジエン)ロジウムヘキサフルオロアンチモン酸塩、ビス(シクロオクタン−1,5−ジエン)ロジウムテトラフルオロホウ酸塩等と、を反応させることにより、ロジウム錯体を製造することができる。
【0173】
得られるロジウム錯体を具体的に例示すると、[Rh((S,S)−(A))(cod)]Cl、[Rh((S,S)−(A))(cod)]Br、[Rh((S,S)−(A))(cod)]I、[Rh((R,R)−(A))(cod)]Cl、[Rh((R,R)−(A))(cod)]Br、[Rh((R,R)−(A))(cod)]I、[Rh((S,S)−(A))(cod)]SbF、[Rh((S,S)−(A))(cod)]BF、[Rh((S,S)−(A))(cod)]ClO4 、[Rh((S,S)−(A))(cod)]PF、[Rh((S,S)−(A))(cod)]BPh、[Rh((R,R)−(A))(cod)]SbF、[Rh((R,R)−(A))(cod)]BF、[Rh((R,R)−(A))(cod)]ClO、[Rh((R,R)−(A))(cod)]PF、[Rh((R,R)−(A))(cod)]BPh、[Rh((S,S)−(A))(nbd)]SbF、[Rh((S,S)−(A))(nbd)]BF、[Rh((S,S)−(A))(ndb)]ClO、[Rh((S,S)−(A))(ndb)]PF、[Rh((S,S)−(A))(ndb)]BPh、[Rh((R,R)−(A))(nbd)]SbF、[Rh((R,R)−(A))(nbd)]BF、[Rh((R,R)−(A))(ndb)]ClO、[Rh((R,R)−(A))(ndb)]PF、[Rh((R,R)−(A))(ndb)]BPh等が挙げられ、本発明では[Rh((S,S)−(A))(cod)]SbF又は[Rh((R,R)−(A))(cod)]SbFが好ましい。なお、上記のロジウム錯体中の(A)は、一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体、例えば、本発明の下記一般式(7)で表される(R)−1−ジアルキルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン、本発明の下記一般式(8)で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン、本発明の下記一般式(9)で表される(R)−ジアルキルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼン、又は本発明の下記一般式(10)で表される(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼン、codは1,5−シクロオクタジエン、nbdはノルボルナジエン、Phはフェニルを示す。
【0174】
一般式(6)で表される1,2−ビス(ジアルキルホスフィノ)ベンゼン誘導体の光学活性体を配位子とした遷移金属錯体、すなわち、本発明の遷移金属錯体ともいう)は、不斉合成触媒として有用なものである。不斉合成としては、例えば不斉水素化反応、不斉ヒドロシリル化反応、不斉マイケル付加反応、有機ボロン酸を用いた電子不足オレフィンへの不斉1,4−付加反応、不斉環化などが挙げられる。これらの不斉合成反応は、本発明に係る遷移金属錯体を用いる点以外は、通常と同様に行うことができる。
【0175】
本発明の遷移金属錯体は、特に不斉水素化反応における触媒として好適である。不斉水素化反応において基質として用いられる化合物としては、例えば、プロキラル炭素原子を含むC=C二重結合又はC=O二重結合を有する化合物が挙げられ、例えば、αデヒドロアミノ酸、βデヒドロアミノ酸、イタコン酸、エナミド、β−ケトエステル、エノールエステル、α,β不飽和カルボン酸、β、γ不飽和カルボン酸等が挙げられる。不斉水素化反応において、基質と触媒である本発明に係る遷移金属錯体とのモル比(基質/触媒)は、限りなく大きいほうが好ましいが、実用的には通常は100〜100,000であることが好ましい。
【実施例】
【0176】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<(S)−tert−ブチルメチルホスフィン−ボランの合成>
(S)−tert−ブチル(ヒドロキシメチル)メチルホスフィン−ボラン(92%ee、2.22g、15.0mmol)を10mlのピリジンに溶解した溶液に、0℃、撹拌下に、塩化ベンゾイル(2.1mL、18mmol)を滴下した。次いで、反応混合液を室温まで加熱した。1時間経過後、反応混合液を水で希釈し、エーテルで3回抽出した。得られた有機層を1Mの塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を除去した後、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で残渣を精製した。無色の固体が得られ、この固体を、ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒で2回再結晶した。このようにして光学的に純粋なベンゾイルオキシメチル(tert−ブチル)メチルホスフィン−ボランを得た。収量は2.34g、収率は62%であった。
【0177】
次いで、ベンゾイルオキシメチル(tert−ブチル)メチルホスフィン−ボラン(99%ee、6.05g、24.0mmol)を25mLのエタノールに溶解した溶液に、15mLの水に溶解した水酸化カリウム(4.0g、72mmol)を滴下した。約1時間で加水分解が完了した。反応混合液を水で希釈し、エーテルで3回抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。ロータリーエバポレータで溶媒を除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で残渣を精製し、(S)−tert−ブチル(ヒドロキシメチル)メチルホスフィン−ボランを得た。この化合物を72mLのアセトンに溶解した。水酸化カリウム(13.5g、240mmol)、過硫酸カリウム(19.4g、72.0mmol)及び三塩化ルテニウム三水和物(624mg、2.4mmol)を150mLの水に溶解した水溶液(0℃)に、該水溶液を激しく撹拌した状態で、前記アセトン溶液を徐々に添加した。2時間経過後、反応混合液を3Mの塩酸で中和し、エーテルで3回抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。ロータリーエバポレータで溶媒を室温下に除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ペンタン/エーテル=8/1)で残渣を精製した。このようにして(S)−tert−ブチルメチルホスフィン−ボランを得た(純度98.5%ee)。収量は2.27g、収率は80%であった。
【0178】
(実施例1)
<(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ―1―ブロモベンゼン(a3)の合成>
【0179】
【化21】
【0180】
よく乾燥した10mLの二口フラスコに(S)−t−ブチルメチルホスフィン−ボラン(354mg、3mmol)とマグネチックスターラーバーを入れ、系内をアルゴン置換した。THF(3mL)を加えたのち、フラスコを−80℃の冷媒浴に浸し、n−BuLi(1.55Mのヘキサン溶液2.1mL、3.3mmol)をゆっくり加え、ホスフィドアニオンを発生させ、これをB液とした。
一方、アルゴン置換した30mLの二口フラスコに1,2−ジブロモベンゼン(0.53 mL、4.5mmol)とTHF(1.5mL)を入れ、−80℃に冷却し、これをA液とした。
二つのフラスコをカニュラーで連結し、A液にB液を15分かけて−80℃に維持しながら滴下した。
滴下後、約1時間かけて0℃まで浴温をあげた。反応混合物中に水と酢酸エチルを加えて十分に撹拌したのち、有機層を分離し、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせ、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。エバポレーターと真空ポンプを用いて溶媒を除去したのち、フラスコを氷水に浸し、1mLのヘキサンを加えてよくかき混ぜた。固形物をろ取し、少量の冷ヘキサンで洗浄することにより白色結晶を得た(収量582mg、収率71%)。
ろ液を濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル/ヘキサン=1:15)で精製することにより、104mg(13%)の二番晶を得た。一次晶と二次晶を合わせた収量686mgで収率84%であった。また、31P NMRにより求めた純度は99.0%であり。光学純度は99.0%ee以上であった。
【0181】
(化合物(a3)の同定データ)
(mp 90-92℃、TLC: silica gel Rf = 0.40 (hexane/AcOEt = 10:1).
1H NMR (CDCl3) δ 0.54-0.92 (br m, 3H), 1.20 (d, J = 14.4 Hz, 9H), 1.91 (d, J = 10.0 Hz,3H), 7.32 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.40 (t, J = 8.0 Hz, 1H), 7.64 (d, 7.6 Hz, 1H), 8.06 (dd, J =7.7, 12.9 Hz, 1H);
13C NMR (CDCl3) δ 8.83 (d, J = 37.2 Hz), 26.09 (d, J = 2.4 Hz), 31.26(d, J = 31.2 Hz), 127.02 (d, J = 12.0 Hz), 127.27 (s), 128.47 (d, J = 45.6 Hz), 132.63 (s),135.23 (d, J = 4.8 Hz), 139.24 (d, J = 16.8 Hz);
31P NMR (CDCl3) δ 38.6 (s).
HRMS(TOF): Calcd for C11H19BBrNaP: 297.0378; Found: 297.0038.
HPLC: Daicel Chiralcel ADH(hexane:i-PrOH = 99.5:0.5, 0.5 mL/min, 254 nm); (S) t1 = 13.2 min, (R) t2 = 14.2 min.)
【0182】
(実施例2)
<(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ―1―ブロモベンゼン(a3)の合成>
A液にB液を−10℃に維持しながら滴下した以外は、実施例1と同様な操作で(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ―1―ブロモベンゼン(a3)を得た。一次晶と二次晶を合わせた収率は70%であった。また、31P NMRにより求めた純度は99.2%であり、光学純度は99.0%ee以上であった。
【0183】
(実施例3)
<(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ―1―ブロモベンゼン(a3)の合成>
A液にB液を−80℃に維持しながら滴下し、(S)−t−ブチルメチルホスフィン−ボラン(354mg、3mmol)、1,2−ジブロモベンゼン(0.42mL、3.6mmol)を用いた事以外は、実施例1と同様な操作で(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)を得た(当量比1.2)。一次晶からの収率は73%、二次晶からの収率は9%であった。また、31P NMRにより求めた純度は99.0%であり。光学純度は99.0%ee以上であった。
【0184】
(実施例4)
<(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)の合成>
A液にB液を−80℃に維持しながら滴下し、(S)−t−ブチルメチルホスフィン−ボラン(354mg、3mmol)、1,2−ジブロモベンゼン(0.71mL、6.0mmol)を用いた事以外は、実施例1と同様な操作で(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)を得た(当量比2.0)。一次晶からの収率は58%、二次晶からの収率は23%であった。また、31P NMRにより求めた純度は98.6%であり、光学純度は99.0%ee以上であった。
【0185】
(実施例5)
<(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)の合成>
A液にB液を−10℃に維持しながら滴下し、(S)−t−ブチルメチルホスフィン−ボラン(354mg、3mmol)、1,2−ジブロモベンゼン(0.42mL、3.6mmol)を用いた事以外は、実施例1と同様な操作で(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)を得た(当量比1.2)。一次晶からの収率は58%、二次晶からの収率は14%であった。また、31P NMRにより求めた純度は99.3%であり、光学純度は99.0%ee以上であった。
【0186】
(比較例1)
<(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)の合成>
B液にA液を添加した以外は、実施例1と同様な操作で(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)を得た。一次晶と二次晶を合わせた収率は65%、また、31P NMRにより求めた純度は98.7%であり、光学純度は99.0%ee以上であった。
【0187】
(比較例2)
<(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)の合成>
B液にA液を添加した以外は、実施例2と同様な操作で(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)を得た。実施例2と同様な再結晶操作では結晶が析出しないため、後処理後の粗生成物を全量カラム処理して目的物を得た。収率は24%であった。また、31P NMRにより求めた純度は99.1%であり。光学純度は99.0%ee以上であった。
【0188】
【表1】
【0189】
(実施例6)
<(R,R)−1,2−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)ベンゼン(a6)の合成>
【0190】
【化22】
【0191】
よく乾燥した50mLの2口フラスコに、実施例1の手順で得られた(R)−2−(ボラナート)(t−ブチル)メチルホスフィノ−1−ブロモベンゼン(a3)1.365g(5.00mmol)と1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)589mg(5.25mmol)を仕込み、Ar置換した後に脱水テトラヒドロフラン10mLを加え攪拌して溶解させた。この溶液を穏やかな還流の元で約70℃にて2時間反応させた。その後−78℃へ冷却し、sec−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.03mol/L)5.10mLをシリンジでゆっくり加えた。30分後、tert−ブチルジクロロホスフィン875mg(5.5mmol)のTHF溶液3mlを一度に加えた。次いで1時間かけて室温(20℃)へ昇温し、さらに1時間攪拌を行った。その後0℃へ冷却し、メチルマグネシウムブロミドのTHF溶液(0.96mol/L)12.5mlをシリンジで加えた後、室温へ昇温し、さらに1時間攪拌を行った。次いで大部分の溶媒を濃縮し、脱気したヘキサン25mlと15質量%NHCl水溶液10mlを加えた。ヘキサン層を分離した後、飽和食塩水で洗浄し、NaSOで乾燥した。その後溶媒を濃縮し、残渣の油状物に脱気したメタノールを加えた。生じた結晶をろ過し、少量の冷やしたメタノールで洗浄した後、減圧乾燥し、無色の結晶として、(R,R)−1,2−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)ベンゼン539mg(収率38%)を得た。光学純度は99.0%ee以上であった。得られた化合物の分析結果を以下に示す。
【0192】
(化合物(a6)の同定データ)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 0.96 (t, J = 6.0 Hz, 18H), 1.23 (t, J = 3.2 Hz, 6H), 7.26−7.35 (m, 2H), 7.48−7.50 (m, 2H)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 5.69 (t, J = 6.0 Hz), 27.24 (t, 8.4 Hz), 30.37 (t, 7.2 Hz), 127.75 (S), 131.47 (S), 144.86 (t, 6.0 Hz)
31P NMR (202 MHz, CDCl3) δ: -25.20 (s).
APCI-MS:m/z 283 (M++H).
HRMS(TOF): Calcd.for C16H28NaP2: 305.1564, Found: 305.1472
mp. 125〜126℃
[α]D24:+222.9 (c, 0.535, EtOAc)
【0193】
(実施例7)
<(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼンの合成>
【0194】
【化23】
【0195】
三方コックとセプタムを装着した10mLの2口フラスコに、実施例1に記載した方法と同様な手順により得た1−(ボラナート)−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ブロモベンゼン(137mg、0.5mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して,系内をアルゴン置換した。脱水シクロペンチルメチルエーテル(CPME)(1.5mL)を加えたのち、フラスコを−80℃の低温浴に浸し、マグネチックスターラーで撹拌しながらsec−BuLi(0.5mmol)をシリンジで5分間かけて滴下した。滴下後,同温度で30分間保ったのち、クロロジフェニルホスフィン(110mL、0.6mmol)をマイクロシリンジで一挙に加えた。約1時間かけて反応温度を室温まで上げ、さらに1時間撹拌を続けた。生じた白色沈殿をろ過して除去し、ろ液をエバポレーターで濃縮したのち分取用薄層クロマトグラフィーで精製することにより(R)−1−(ボラナート)−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン(b3A)を白色結晶として得た。収量136mg、収率72%。
(化合物(b3A)の同定データ)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ0.5-1.0 (br q, 3H, BH3), 1.33 (d, 3JHP = 14.4 Hz, 9H, C(CH3)3), 1.90 (d, 2JHP= 9.8 Hz, 3H, PCH3), 7.12-7.47 (m, 13H), 8.19-8.25 (m, 1H).
13C NMR(125 MHz, CDCl3) δ11.6 (dd, JCP = 35.7, 28.9 Hz), 26.4, 30.3 (d, JCP= 32.2 Hz), 128.6-129.1 (m), 131.0, 132.9-138.3 (m), 142.3 (d, JCP = 23.7 Hz).
31P NMR(200 MHz, CDCl3) δ-8.1, 37.0.
Rf = 0.47 (AcOEt/hexane = 1:10)
【0196】
【化24】
【0197】
三方コックとセプタムを装着した10 mLの2口フラスコに(R)−1−(ボラナート)−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン(b3A)(23mg、0.06mmol)とDABCO(13mg、 0.12mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して、系内をアルゴン置換した。脱水THF(0.5mL)を加えたのち、フラスコを60−65℃の油浴に浸し、2時間反応させた。反応終了後、大部分の溶媒をダイヤフラムで除去したのち、残渣を真空ポンプで乾燥することにより(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ジフェニルホスフィノベンゼン(b6)を得た。収量19mg、収率86%。
(化合物(b6)の同定データ)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ1.05 (d, 3JHP= 12.0 Hz, 9H, C(CH3)3 ), 1.19 (d, 2JHP = 4.6 Hz, 3H, PCH3), 6.92-6.96 (m, 1H), 7.12-7.17 (m, 2H). 7.21-7.36 (m, 10H), 7.54-7.58 (m, 1H).
13C NMR(125 MHz, CDCl3) δ6.5, 27.5 (d, JCP = 13.1 Hz), 30.3 (d, JCP= 14.3 Hz), 128.1-145.8 (m).
31P NMR(200 MHz, CDCl3) δ -23.5 (d, JPP = 162 Hz), -12.0 (d, JPP = 162 Hz).
Rf = 0.52 (AcOEt/hexane = 1:10)
【0198】
(実施例8)
<(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼンの合成>
【0199】
【化25】
【0200】
三方コックとセプタムを装着した30mLの2口フラスコに1−(ボラナート)−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ブロモベンゼン(819mg、3mmol)と1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)(370mg、3.3mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して、系内をアルゴン置換した。脱水THF(6mL)を加えたのち、フラスコを65℃の油浴に浸して脱ボラン化を行った。1.5時間後、反応容器を油浴より取り出し,−80℃の低温浴に浸した。マグネチックスターラーで撹拌しながらsec−BuLi(3.15mmol)をシリンジで5分間かけて滴下した。滴下後、同温度で30分間保ったのち、クロロビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン(1.32 g、3.3mmol)のTHF(1mL)溶液をシリンジで一挙に加えた。約2時間かけて反応温度を40℃まで上げ,さらに1時間撹拌を続けて粗化合物(c6’)を含む反応液を得た。
【0201】
【化26】
【0202】
次に、粗化合物(c6’)の精製を下記のように行った。
反応容器を氷浴に浸し、粗化合物(c6‘)を含む反応液にボラン・THF溶液(13mmol)をシリンジで加えた。反応混合物に食塩水を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥したのち、エバポレーターで溶媒を除去した。残渣に酢酸エチルとヘキサンの1:1混合溶媒を加え、よく撹拌したのち、白色沈殿をろ過して除いた。ろ液を濃縮、真空乾燥することにより淡黄色の無定形固体(1.52g)を得た。この生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(シリカゲル70g、展開溶媒:酢酸エチル:ヘキサン=1:4)することにより、(R)−1−(ボラナート)−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼン(c6’−1)を無色無定形固体として得た。収量1.10g、収率66%。
(化合物(c6’−1)の同定データ)
Rf = 0.37 (AcOEt:hexane = 1:7)
1H NMR(500 MHz, CDCl3) δ0.4-1.3 (br q, 3H), 1.25 (d, 3JHP= 14.4 Hz, 9H), 1.71 (d, 2JHP= 9.2 Hz, 3H), 7.48-7.57 (m, 3H), 7.76-7.83 (m, 1H).
13C NMR(125 MHz, CDCl3) δ10.3 (dd, JCP = 38.4, 8.4 Hz), 25.9, 30.6 (d, JCP= 29.8 Hz), 128-149 (m).
31P NMR(200 MHz, CDCl3) δ-42.7, 32.2.
19F NMR(470 MHz, CDCl3) δ-160.7, -159.1, -150.3, -148.4, -129.9, -128.9.
【0203】
三方コックとセプタムを装着した10mLの2口フラスコに(R)−1−(ボラナート)−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼン(c6’−1)(28mg、0.05mmol)とDABCO(11mg、0.1 mmol)を入れ,真空引きとアルゴン導入を繰り返して,系内をアルゴン置換した。脱水THF(0.5mL)を加えたのち、フラスコを60〜65℃の油浴に浸し、30分間反応させた。反応終了後、大部分の溶媒をダイヤフラムで除去したのち、残渣を真空ポンプで乾燥する事により(R)−1−tert−ブチルメチルホスフィノ−2−ビス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィノベンゼン(c6)を得た。収量24mg、収率87%。
(化合物(c6)の同定データ)
Rf = 0.80 (AcOEt:hexane = 1:7)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ1.09 (d, 3JHP= 12.1 Hz, 9H, C(CH3)3 ), 1.21 (d, 2JHP = 4.0 Hz, 3H, PCH3), 7.10-7.13 (m, 1H), 7.28-7.56 (m, 3H).
13C NMR(125 Mz, CDCl3) δ5.7 (dd, JCP = 19.1, 8.4 Hz), 27.1 (d, JCP= 15.5 Hz), 30.3 (d, JCP= 10.7 Hz), 128-149 (m).
31P NMR(200 MHz, CDCl3) δ-49.8 (d, quin, 3JPP= 206 Hz, 3JPF= 31.0 Hz), -22.2 (d, 3JPP= 206 Hz).
19F NMR(470 MHz, CDCl3) δ-161.3, -159.7, -151.1, -149.5, -129.6, -128.7.