特許第6835841号(P6835841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6835841非核酸系逆転写酵素阻害剤とポリ(ラクチド−co−グリコリド)とを含む注射液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835841
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】非核酸系逆転写酵素阻害剤とポリ(ラクチド−co−グリコリド)とを含む注射液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/505 20060101AFI20210215BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20210215BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20210215BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20210215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/536 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   A61K31/505
   A61K47/34
   A61K9/08
   A61K9/10
   A61K47/22
   A61P31/18
   A61P43/00 111
   A61P43/00 121
   A61K45/00
   A61K45/06
   A61K31/536
   A61K31/4439
   A61K31/551
   A61K31/496
   A61K31/52
   A61K31/522
   A61K31/7072
   A61K31/513
   A61K31/675
   A61K47/10
   A61K47/08
   A61K47/14
   A61K47/20
   A61K47/12
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-525346(P2018-525346)
(86)(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公表番号】特表2018-533614(P2018-533614A)
(43)【公表日】2018年11月15日
(86)【国際出願番号】EP2016077402
(87)【国際公開番号】WO2017084973
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2019年10月11日
(31)【優先権主張番号】62/255,866
(32)【優先日】2015年11月16日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15197777.4
(32)【優先日】2015年12月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ノアベアト ヴィントハープ
(72)【発明者】
【氏名】リマ ジャベル
(72)【発明者】
【氏名】アクセル シュレーダー
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン バートン
(72)【発明者】
【氏名】トム タイス
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−526758(JP,A)
【文献】 Der Pharmacia Sinica,2010年,1(1),p.74-81
【文献】 The Journal of AIDS Research,2014年,16(1),p.4-11
【文献】 Antimcrobial Agents and Chemotherapy,2010年 2月,54(2),p.718-727
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 45/00
A61K 47/00
A61K 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒と、
該有機溶媒に溶解したポリ(ラクチド−co−グリコリド)であるコポリマーと、
医薬品有効成分としてのリルピビリンと
を含む注射液であって、前記医薬品有効成分の含分は、前記コポリマー溶液の12重量%から18重量%までである注射液。
【請求項2】
前記有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、エタノール、プロピレングリコール、2−ピロリドン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、カプロラクタム、デシルメチルスルホキシド、脂肪酸および1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オンならびにそれらのいずれかの組合せまたは混合物の群から選択される、請求項1記載の注射液。
【請求項3】
前記コポリマーは、ラクチド:グリコリドのモル比が80:20から40:60までであるポリ(ラクチド−co−グリコリド)である、請求項1または2記載の注射液。
【請求項4】
前記医薬品有効成分としてのリルピビリン、水との接触後にIRスペクトル、純粋なリルピビリンの1568cm−1の振動バンドから1572cm−1と1576cm−1との間の振動バンドへのシフトを示すか、または1593cm−1の振動バンドが消失する、請求項1からまでのいずれか1項記載の注射液。
【請求項5】
請求項1からまでのいずれか1項記載の注射液を連続相として含むとともに、該注射液中に分散したさらなる医薬品有効成分を含む、注射用分散液。
【請求項6】
前記さらなる医薬品有効成分は、さらなる非核酸系逆転写酵素阻害剤、核酸系逆転写酵素阻害剤またはインテグラーゼ阻害剤である、請求項記載の注射用分散液。
【請求項7】
請求項1からまでのいずれか1項記載の注射液の調製方法であって、滅菌形態の前記有機溶媒と、滅菌形態の前記医薬品有効成分と、滅菌形態の前記コポリマーとを滅菌注射器具内で合することによる方法。
【請求項8】
請求項1からまでのいずれか1項記載の前記有機溶媒と前記医薬品有効成分と前記コポリマーとを滅菌形態で含むキット・オブ・パーツであって、前記医薬品有効成分および前記コポリマーは、滅菌注射器具内に乾燥形態で存在し、かつ前記有機溶媒は別個に保持されており、その後に該有機溶媒を前記注射器具に加えることができる、キット・オブ・パーツ。
【請求項9】
HIV治療用医薬剤形として使用するための、またはHIV治療用医薬剤形の調製に使用するための、請求項1からまでのいずれか1項記載の注射液。
【請求項10】
請求項1からまでのいずれか1項記載の注射液または請求項もしくは記載の注射用分散液を含む、医薬剤形。
【請求項11】
前記注射液と、少なくとも1種の核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)と、少なくとも1種の非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)とを含むとともに、肝酵素阻害剤であるブースターを適宜含むキット・オブ・パーツである、請求項10記載の医薬剤形。
【請求項12】
請求項1から4までのいずれか1項記載の注射液を含む、患者の抗レトロウイルスHIV治療のための3剤併用療法のための注射液であって、少なくとも1種の核酸系逆転写酵素阻害剤または少なくとも1種のさらなる非核酸系逆転写酵素阻害剤またはそれら双方の固定1日用量の経口製剤と組み合わされ、さらに肝酵素阻害剤であるブースターと適宜組み合わされる、患者の抗レトロウイルスHIV治療のための3剤併用療法のための注射液
【請求項13】
前記非核酸系逆転写酵素阻害剤は、エファビレンツ、ネビラピンおよびデラビルジンの群から選択される、請求項12記載の注射液
【請求項14】
前記核酸系逆転写酵素阻害剤は、アバカビル、エムトリシタビン、ジダノシン、ジドブジン、アプリシタビン、スタンピジン、エルブシタビン、ラシビル、アムドキソビル、スタブジン、テノホビル、ザルシタビンおよびフェスチナビルの群から選択される、請求項12記載の注射液
【請求項15】
前記3剤併用療法において、以下の核酸系逆転写酵素阻害剤および/または非核酸系逆転写酵素阻害剤のペア:
ラミブジンおよびジドブジン、ラミブジンおよびテノホビル、ラミブジンおよびエファビレンツ
が含まれる、請求項12から14までのいずれか1項記載の注射液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術的背景
本発明は、医薬品有効成分として使用される一群の標的特異的低分子であって、それらの各サブユニットと相互作用して結合モチーフを構築し得る低分子、ならびに該低分子とポリエステル賦形剤であるポリ乳酸−グリコール酸共重合体との特異的相互作用、および該賦形剤が存在する場合の該低分子の動的拡散挙動、ならびに該低分子の様々な投与形態であって、体液および身体組織に注入した際に特定の剤形を構築する投与形態、ならびに特定の薬物動態学上、製薬学上および医学的利用上の利点であって、特にRNAならびにDNAまたは細胞疾患プロセスにおいて生じる生理学的RNA−およびDNA−タンパク質複合体を標的とする他の経口または注射用の医薬品有効物質または機能的剤形を伴う併用療法における利点に関する。
【0002】
免疫不全症候群(AIDS)は、HIVによる後天性感染症がその原因である(Barre−Sinoussi et al., 1983, Science 220:868−870; Gallo et al., 1984, Science 224:500−503)。治療学的に認識された各HIVサブタイプには、遺伝的異質性が存在する。
【0003】
ウイルス、典型的には遺伝的に多型性のレトロウイルスRNAにコードされるサブセットは、免疫細胞に感染し、細胞への取込みおよびウイルス複製プロセスでは、細胞のヒトのおよびHIVにコードされるタンパク質および酵素が利用される。2つの群の酵素によってウイルスRNAからDNAが合成され(逆転写酵素、RT)、これらのDNAコピーがインテグラーゼによってヒト染色体DNAに組み込まれる。WHOが奨励する標準的な治療法では、合成低分子APIの様々な分子結合戦略によりこれらの2つの酵素が阻害される。
【0004】
経口低分子療法では、感染した細胞の疾患標的に達する前に薬物が肝臓で代謝を受ける初回通過効果を改善するために、こうした3種のAPIを同様の肝酵素阻害剤によって最終的に薬効促進させた単純な即放性製剤を使用することによる、その最適な投与が見出されている。例えば1日1錠、2錠および3錠投与するプロトコールでは、忍容性が良好である例えばラミブジン+エファビレンツ+テノホビルおよびラミブジン+ジドブジン+アバカビルが用いられ、核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)と非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)との双方が、典型的には1用量あたりそれぞれ100mg超1g未満の経口投与量で用いられる。
【0005】
近年、RT阻害剤およびインテグラーゼ阻害剤の使用によって治療の範囲が広がった。これらの阻害剤もやはり低分子構造を有するが、ただし酵素タンパク質の基質ポケットに近接したDNA複合体を標的とする。こうした阻害剤は、忍容性が高いとともに常に薬効が強く、したがって100mg未満の経口投与量や100mgをはるかに下回る注射用量でも治療上有効であることが報告されている。この群の化合物は、ヒトにおいて有効であり、注射可能なものとして導入され、また推測的なデポ剤試験で報告されている。現在のデポ剤は、例えば精密成形および(マイクロ)カプセル化または巨視的なインプラント薬物療法といったプロセスの高度化が欠点である。
【0006】
疫学的理論では、エラーが生じ易いウイルス変異の自然選択による抵抗性反応を避けるために、血清陽性患者の体液および細胞でのコピー数を個別に常に低下させることが求められる。これによって、こうした大きな被害をもたらす抵抗性の個々の運命と集団の運命との双方に関する治療レジームにおいてウイルス集団が安定化し、自然界のヒト集団の適所選択が危ぶまれる。このため、介入戦略では、複数の薬物選択肢や、服薬計画のコンプライアンスおよびアドヒアランスが必要とされるが、これらは現在の経口薬では実現不可能である。
【0007】
本発明の目的は、HIVの感染数や感染率が極めて高い地域が、個々に極めて低価格でかつ極めて高効率であるとともに、現在技術的には確立されていないがWHOが認めている治療基準を用いて、インバウンドでの服薬遵守によって男性労働者、所得のある人、女性、妊婦ならびに子供、女児および新生児への新たな感染率が低下し得るという意味で疫学的に最も優れたウイルスの適所適応を伴う共通の標準的な薬物の組合せを必要とするという困難な課題を解決することであった。
【0008】
Artsらは、HIVのデータベースHIV Databases www.hiv.lanl.gov/(最終更新:2013年)において、インビボおよびインビトロのデータにより、NNRTIおよびNRTIを用いてRT抵抗性の差異を説明している。NRTIは、ウイルス適応性を再確立するため主に基質ポケットに結合し、これが短期間の擬似的な抵抗性保存につながる。それに対してNNRTIは親油性ポケットに結合し、それによって酵素活性がアロステリックに変化し、薬物選択圧から解放された後に変異が許容され得る。本明細書に記載の薬物デポ剤の有効性は、このことと関連している:ウイルスは、選択肢のジレンマに陥っている。例えばAZT(ジドブジン)のような忍容性の高い薬物はレジームが変動するが、一方で薬物動態学的に長期にわたって作用する薬物成分は、ある出口を閉じたままにし、ウイルスが周期的に変異する際に放出されることとなる。これが、NNRTIとNRTIとの間の交差抵抗性が低い極めてばらつきのある変異パターンによって、プロテアーゼ酵素におけるパターン群と比較してウイルスの適応性がより低くなり、かつそうした組合せの優れた薬物追跡記録が得られることの一因である。こうした併用療法は、遺伝的障壁の高い療法である。しかし、インテグラーゼ阻害剤(II)であるドルテグラビルの場合、Linos VandekerckhoveらはPLOS(2013)において、ファーストライン治療では、インテグラーゼ阻害剤が他の標準レジームよりも優れていると結論付けている。ウイルス学的障害が生じた後のインテグラーゼ阻害剤の使用は、それらの48の臨床研究のメタアナリシスによっても支持されている。しかし、治療経験のある患者において、好結果の治療を切り替えて遺伝的障壁の高い薬物に変更する際には、慎重な使用が必要である。そのため、ラミブジンおよびAZTにおける低コストの溶液としての1種もしくは2種のNRTIまたは1種のNRTIと1種のNNRTIと、開示されるデポ注射剤とを用いた、治療未経験の患者に対する戦略が行われることとなる。
【0009】
米国特許第5278201号明細書(US 5278201、Dunnら)には、イン・サイチュ形成性の生分解性インプラントおよびその製造方法が記載されている。重縮合によって生成したポリ(D,L−乳酸)が、ポリマー対溶媒=68:32の比率でNMP(N−メチル−2−ピロリドン)に溶解される。この溶液に、サンギナリン、すなわち抗菌活性を示すベンゾフェナントリジンアルカロイドの一種が2重量%の濃度で加えられた。薬物放出試験では、この薬物の60%が初日に放出された。
【0010】
米国特許第8470359号明細書(US 8470359 B2、Dunnら)には、徐放性ポリマーが記載されている。実施例では、75/25のラクチド・グリコリドコポリマーが、N−メチル−2−ピロリドンに45/55の比率で溶解された。
【0011】
目的および解決策
有機溶剤と、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)コポリマーと、そこに溶解した医薬品有効成分とに基づいて注射液を調製することは知られている。該注射液は、医薬品有効成分を長期にわたって持続的に放出させるためのデポ剤として、哺乳動物およびヒトのそれぞれに皮下注射することを意図して作製されている。しかし、医薬品有効成分がHIV逆転写酵素阻害剤またはHIVインテグラーゼ阻害剤である場合には、いわゆる「ボーラス効果」の欠点が見出されている。この「ボーラス効果」とは、皮膚下に溜まった後の最初の数時間で、溶解したコポリマー/有効成分複合体からHIV逆転写酵素阻害剤またはHIVインテグラーゼ阻害剤が望ましくない高度の初期放出を示すことを意味する。この有効成分の高度の初期放出は、患者におけるHIV集団の変異率の望ましくない増加を引き起こすと考えられており、これは、HIV治療に対する抵抗性またはHIV治療の有効性の低さの一因である可能性があるか、またはこれらに寄与する。本発明の一目的は、上述の欠点を回避することであった。HIV逆転写酵素またはHIVインテグラーゼを阻害する有効成分の注射液は、「ボーラス効果」が低減または回避されるように提供されることが望ましい。驚くべきことに、注射液における医薬品有効成分の負荷量を増加させると、ボーラス効果を低減または回避できることが判明した。医薬品有効成分は、コポリマー溶液の約8重量%から約25重量%までの割合で存在することができる。リルピビリンの場合、15%の濃度でボーラス効果を完全に回避することができた。
【0012】
本発明者らは、HIV逆転写酵素阻害剤またはHIVインテグラーゼ阻害剤であり、かつ芳香族基と複素環式芳香族基とを含むか、または芳香族基と複素環式芳香族基と脂肪族複素環式基とを含む医薬品有効成分を、コポリマー溶液に、該コポリマー溶液の約8重量%から約25重量%までの特定の範囲で適用した場合に、この医薬品有効成分がポリ(ラクチド−co−グリコリド)コポリマーに適合することを見出した。注射可能なデポ剤形態として、ボーラス効果の欠点や部分的に非協同的な挙動を低減または回避することができる。この望ましくない非協同的挙動は、製剤の不均一性や沈殿物の形成によって生じ得る。このことは、本発明によるリルピビリンの例と、本発明によらないエファビレンツ(溶解性が低く、複素環式芳香族部が存在しない)との対比によって示される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1に、リルピビリン製剤R752−15(本発明による)およびR752−5(本発明によらない)を水性緩衝液と接触させた後の、2つの典型的な放出プロファイルを示す。R752−5のみがボーラス効果を示すのに対して、R752−15は検出可能なボーラス効果を示さない。
図2図2に、リルピビリン製剤R503−15(本発明による)およびR503−5(本発明によらない)を水性緩衝液と接触させた後の、2つの典型的な放出プロファイルを示す。R503−5のみが極めて弱いボーラス効果を示すのに対して、R503−15は検出可能なボーラス効果を示さない。
図3図3に、本発明によらない製剤E502−15およびE502−5を水性緩衝液と接触させた後の、2つの典型的な放出プロファイルを示す。エファビレンツの放出が高度であり、したがってどちらの曲線においてもボーラス効果が認められる。E502−5ではボーラス効果が常に識別可能であるのに対して、E502−15はボーラス効果を常に示すわけではなく、放出速度は劇的により遅い。図1および図2のリルピビリンの例よりもエファビレンツの放出の方がはるかに高度であることに留意すべきである。
【0014】
いずれの例においても、有効成分の負荷量を増加させることによってボーラス効果が低減する。このことは、有効成分(リルピビリンまたは部分的にエファビレンツ)とポリマーとの間に協同的な超分子流体集合相が形成されることを示す。
【0015】
リルピビリンを用いた場合のRESOMER(登録商標)RG 503(図2)の挙動は、RESOMER(登録商標)RG 752S(図1)の挙動よりも良好である。なぜならば、RESOMER(登録商標)RG 752Sの場合に比べてボーラス効果および放出速度が低いためである。リルピビリンとRESOMER(登録商標)RG 502とを用いた場合(R502−15およびR502−5)の結果は図示されていないが、これらの結果はボーラス効果を示し、また放出は、図1の曲線と図2の曲線との間にある。協同的な効果は、ポリマー構造に依存する。異なるAPI(図3のエファビレンツ)は、一方の相には遊離の有効成分が存在し(放出が速い)、他方の相には協同的なデポ剤が存在する(放出が緩やかである)という2相性の挙動を示すことができ、その結果、これら2つの相の放出の重なりが生じる。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、
有機溶媒と、
該有機溶媒に溶解したポリ(ラクチド−co−グリコリド)であるコポリマーと、
非核酸系HIV逆転写酵素阻害剤または非核酸系HIVインテグラーゼ阻害剤であり、かつ芳香族基と複素環式芳香族基とを含むか、または芳香族基と複素環式芳香族基と脂肪族複素環式基とを含む医薬品有効成分と
を含む注射液であって、前記医薬品有効成分の含分は、前記コポリマー溶液の約8重量%から約25重量%まで、約10重量%から約20重量%までもしくは約12重量%から約18重量%までであるか、前記コポリマー溶液の8重量%から25重量%まで、10重量%から20重量%までもしくは12重量%から18重量%までであるか、または前記コポリマー溶液の8重量%と25重量%との間、10重量%と20重量%との間もしくは12重量%と18重量%との間である注射液に関する。
【0017】
溶媒とコポリマーとの好ましい比率は、溶媒が90重量部から30重量部までに対してコポリマーが10重量部から70重量部までであってもよいし、溶媒が80重量部から40重量部までに対してコポリマーが20重量部から60重量部までであってもよい。有機溶媒における適切なコポリマー濃度は、5重量%から50重量%までであってもよいし、10重量%から40重量%までであってもよいし、20重量%から30重量%までであってもよいし、22重量%から28重量%までであってもよい。
【0018】
注射液とは、コポリマー(コポリマー溶液)と、有機溶媒または前記コポリマー溶液に溶解または分散した医薬品有効成分との溶液であって、HIV感染症の治療または治療の一部としてヒトに注射されることを目的とするものをいう。
【0019】
有機溶媒
前記注射液は、有機溶媒を含む。この有機溶媒は好ましくは、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水または哺乳動物の全身体液に拡散し得る。このことは、たとえこの有機溶媒が水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水または哺乳動物の全身体液に完全に混和しない場合であっても、前述の注射液の溶媒が注射後も連続的に減少することを意味する。当然のことながら、この有機溶媒は生体適合性でなければならない。このことは、その投与に関して、望ましくない副作用や毒性作用が、そのリスク/報酬評価のために治療上許容されることを意味する。哺乳動物の全身体液のイオン強度をシミュレートするために、生理食塩水(水1リットル中に約9gのNaCl)およびリン酸緩衝生理食塩水をインビトロシステムで使用することができる。
【0020】
水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水または哺乳動物の全身体液に混和する適切な有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルピロリジノン、エタノール、プロピレングリコール、2−ピロリドン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、カプロラクタム、デシルメチルスルホキシド、脂肪酸、好ましくはオレイン酸もしくはステアリン酸および1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オンならびにそれらのいずれかの組合せまたは混合物である。
【0021】
コポリマー
前記コポリマーは、前記有機溶媒に溶解していてもよい。前記有機溶媒における適切なコポリマー濃度は、5重量%から50重量%までであってもよいし、10重量%から40重量%までであってもよいし、20重量%から30重量%までであってもよいし、22重量%から28重量%までであってもよい。このコポリマーは、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)であり、ラクチド:グリコリドのモル比が約80:20から約40:60までであるポリ(ラクチド−co−グリコリド)が好ましく、ラクチド:グリコリドのモル比が約78:22から約45:55までであるポリ(ラクチド−co−グリコリド)が最も好ましい。
【0022】
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)コポリマー(PLGA)とは、グリコリドおよびラクチドから例えばオクタン酸スズなどの触媒の存在下での開環重合により重合することのできるコポリマーである。
【0023】
これらのコポリマーは、酸末端基とエステル末端基とを用いて製造することができる。例えば1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールまたはシクロヘキサン−1,4−ジメタノールなどのアルカンジオールを反応混合物に加えることによって、エステル末端基を有するコポリマーであって、該コポリマー中には滴定可能なカルボン酸基が存在しないコポリマーが得られる。エステル末端基を有するコポリマーが好ましい。
【0024】
適切なポリ(ラクチド−co−グリコリド)コポリマーは、80モル%から40モル%までまたは78モル%から45モル%までのラクチドと、20モル%から60モル%までまたは22モル%から55モル%までのグリコリドとの重合モノマー単位含分を有することができる。
【0025】
PLGAの分子量Mは、1,000から50,000までの範囲にあってもよいし、2,000から25,000までの範囲にあってもよい。PLGAの分子量Mは、例えばポリスチレン標準物質またはポリ乳酸標準物質に対してテトラヒドロフラン(THF)中でのクロマトグラフィーによって測定することができる。前記コポリマーのガラス転移温度T(欧州薬局方7.0(EP)第2.2.34章)は、34℃から48℃までの範囲にあってもよいし、35℃から47℃までの範囲にあってもよい。
【0026】
極めて適したコポリマーの1つに、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)であって、ラクチド/グリコリドのモル比が75:25であり、固有粘度IVが0.1[IV dl/g]から0.3[IV dl/g]までの範囲にあり、好ましくは0.16[IV dl/g]から0.24[IV dl/g]までの範囲にあるものが挙げられる。ガラス転移温度Tは、34℃から39℃までの範囲にあってもよいし、35℃から38℃までの範囲にあってもよい。好ましくは末端基は、エステル末端基である。(RESOMER(登録商標)RG 752S)。
【0027】
極めて適したコポリマーの1つに、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)であって、ラクチド/グリコリドのモル比が50:50であり、固有粘度IVが0.1[IV dl/g]から0.3[IV dl/g]までの範囲にあり、好ましくは0.16[IV dl/g]から0.24[IV dl/g]までの範囲にあるものが挙げられる。ガラス転移温度Tは、39℃から44℃までの範囲にあってもよいし、41℃から43℃までの範囲にあってもよい。好ましくは末端基は、エステル末端基である。(RESOMER(登録商標)RG 502)。
【0028】
極めて適したコポリマーの1つに、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)であって、ラクチド/グリコリドのモル比が50:50であり、固有粘度IVが0.26[IV dl/g]から0.5[IV dl/g]までの範囲にあり、好ましくは0.32[IV dl/g]から0.44[IV dl/g]までの範囲にあるものが挙げられる。ガラス転移温度Tは、43℃から48℃までの範囲にあってもよいし、45℃から47℃までの範囲にあってもよい。好ましくは末端基は、エステル末端基である。(RESOMER(登録商標)RG 503)。
【0029】
固有粘度IV:固有粘度(IV)は好ましくは、クロロホルムに溶解した0.1%の試料濃度を利用して、25℃+0.1℃で、0cタイプのウベローデ粘度計で測定される。
【0030】
ガラス転移温度:
ガラス転移温度Tは好ましくは、米国薬局方36(USP)第<891>章、欧州薬局方7.0(EP)第2.2.34章およびDIN 53765:1994−03(D)に準拠して求められる。
【0031】
医薬品有効成分
医薬品有効成分(すなわちactive pharmaceutical ingredient(API))は、非核酸系HIV逆転写酵素阻害剤(NNRTI)または非核酸系HIVインテグラーゼ阻害剤であってもよく、これらの阻害剤は好ましくは、芳香族基と複素環式芳香族基とを同時に含むか、または芳香族基と複素環式芳香族基と脂肪族複素環式基とを同時に含む。1日当たり1mgから150mgまで、または150mg未満、100mg未満、50mg未満の抗ウイルス活性用量を有するAPIが好ましい。抗ウイルス活性用量とは、特定の宿主におけるウイルスの遺伝的準種に影響を与える用量を意味する。
【0032】
好ましくは、医薬品有効成分は、エトラビリン、リルピビリンおよびドラビリンの群から選択される。
【0033】
芳香族基と複素環式芳香族基とを含むNNRTIは、例えばエトラビリン、リルピビリンおよびドラビリンである。
【0034】
芳香族基と複素環式芳香族基と脂肪族複素環式基とを同時に含むNNRTIは例えば、ドラビリンである。
【0035】
NNRTIを適宜、ブースターと組み合わせてもよく、このブースターは、リトナビルであってもよい。
【0036】
非核酸系HIVインテグラーゼ阻害剤は例えば、ドルテグラビルである。ドルテグラビルは、芳香族基と複素環式芳香族基と脂肪族複素環式基とを同時に含む。
【0037】
注射液
本発明はさらに、開示された注射液の調製方法であって、滅菌形態の有機溶媒と、滅菌形態の医薬品有効成分と、滅菌形態のコポリマーとを滅菌注射器具内で合することによる方法を開示する。
【0038】
本発明はさらに、開示された有機溶媒と医薬品有効成分とコポリマーとを滅菌形態で含むキット・オブ・パーツであって、前記医薬品有効成分および前記コポリマーは、滅菌注射器具内に乾燥形態で存在し、かつ前記有機溶媒は別個に保持されており、その後に該有機溶媒を前記注射器具に加えることができるキット・オブ・パーツを開示する。
【0039】
滅菌方法は当業者に知られており、これには化学的方法および物理的方法が含まれる。化学的方法とは例えば、エチレンオキシドと接触させることである。物理的方法には、放射線、好ましくはγ線、電子線γ線が含まれ得る。
【0040】
開示された注射液のうち医薬品有効成分がリルピビリンであるものは、水との接触後に、リルピビリンのサブトラクションIRスペクトルを示す。このスペクトルは、純粋なリルピビリンの1568cm−1の振動バンドから、1572cm−1と1576cm−1との間の振動バンドもしくは超分子集合バンドへのシフトか、または純粋なリルピビリンの1593cm−1の振動バンドの消失を示す。
【0041】
シフトとは、純粋なリルピビリンの1568cm−1の振動バンドが減少し、一方で1572cm−1と1576cm−1との間の、バンド、振動バンドまたは想定される超分子集合バンドが増加することを意味する。純粋なリルピビリンの1593cm−1の振動バンドは、多少なりとも消失し得る。
【0042】
分散液
本発明はさらに、開示された注射液を連続相として含むとともに、該注射液中に分散したさらなる医薬品有効成分を含む、注射用分散液を開示する。このさらなる医薬品有効成分は好ましくは、開示された注射液に不溶であり、したがって該注射液中に分散している。このさらなる医薬品有効成分は好ましくは、開示された注射液に不溶であり、したがって該注射液中に分散している、さらなる非核酸系逆転写酵素阻害剤、核酸系逆転写酵素阻害剤またはインテグラーゼ阻害剤である。このさらなる非核酸系逆転写酵素阻害剤は、注射液に溶解した非核酸系逆転写酵素阻害剤とは異なる。
【0043】
使用
開示された注射液を、患者のHIV治療への使用が可能な医薬剤形として直接使用することができる。開示された注射液を、患者のHIV治療への使用が可能な医薬剤形の調製に使用することができる。開示された注射液は、HIV治療用医薬剤形として使用するためのものであるか、またはHIV治療用医薬剤形の調製に使用するためのものである。
【0044】
医薬剤形
本発明は、前記注射液を含む医薬剤形を開示する。この医薬剤形は、キット・オブ・パーツとして存在してもよく、このキット・オブ・パーツは好ましくは、前記注射液と、少なくとも1種の核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)と、少なくとも1種の非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)とを含むとともに、肝酵素阻害剤であるブースターを適宜含む。このキット・オブ・パーツは、前記注射液を投与するためのシリンジを含んでもよい。
【0045】
この医薬剤形は、開示された注射液または開示された注射用分散液を含むことができる。
【0046】
使用方法
本発明はさらに、開示された注射液の注射を、少なくとも1種の核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)および少なくとも1種のさらなる非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)またはHIVインテグラーゼ阻害剤の固定1日用量の経口製剤と組み合わせ、さらに例えばリトナビルのような肝酵素阻害剤であってよいブースターと適宜組み合わせて含む、患者の抗レトロウイルスHIV治療のための3剤併用療法における注射液の使用方法を開示する。
【0047】
ブースターとは、薬物の半減期を短縮させる阻害剤または体内酵素の基質と定義することができる。ブースターは、医薬品有効成分または栄養成分から選択されてよい。適切なブースターの1つとして、リトナビルを挙げることができる。肝酵素阻害剤は、例えばリトナビルなどの、ある種の抗レトロウイルス薬を分解し得る例えばCYP3Aのような肝酵素をブロックするかまたは肝酵素の基質であるプロテイナーゼ阻害剤であってもよい。したがって、例えばコビシスタットのようなブースターは、いわゆる初回通過効果を改善することを目的としている。
【0048】
前記さらなる非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)は、エファビレンツ、ネビラピンまたはデラビルジンの群から選択されてよい。このさらなるNNRTIは、前記注射液においてすでに開示されていてよいNNRTIとは異なる。
【0049】
前記核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)は、アバカビル、エムトリシタビン、ジダノシン、ジドブジン、アプリシタビン、スタンピジン、エルブシタビン、ラシビル、アムドキソビル、スタブジン、テノホビル、ザルシタビンまたはフェスチナビルの群から選択されてよい。
【0050】
開示された注射液を用いた治療において、固定1日用量の経口製剤により加えることができる核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)または非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)またはその双方の極めて適切なペアを、以下のように選択することができる:ラミブジンおよびジドブジン、ラミブジンおよびテノホビル、好ましくはラミブジンおよびエファビレンツ。
【0051】
核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)と非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)とのペアを使用することができる。
【0052】
患者の抗レトロウイルスHIV治療のための3剤併用療法への使用方法において、以下の核酸系逆転写酵素阻害剤と非核酸系逆転写酵素阻害剤とのペアを、核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)および非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)であるさらなる物質と組み合わせて使用することができる:ラミブジンおよびジドブジン、ラミブジンおよびテノホビル、ラミブジンおよびエファビレンツ。次いでこれらのペアを、核酸系逆転写酵素阻害剤および非核酸系逆転写酵素阻害剤であるさらなる第3の物質と組み合わせる。
【0053】

使用するコポリマー:
RESOMER(登録商標)RG 752S:ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ラクチド/グリコリドのモル比は75:25であり、固有粘度IVは0.16[IV dl/g]から0.24[IV dl/g]までの範囲にある。ガラス転移温度Tは、約36.5℃である。このコポリマーは、エステル末端基を有する。
【0054】
RESOMER(登録商標)RG 502:ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ラクチド/グリコリドのモル比は50:50であり、固有粘度IVは0.16[IV dl/g]から0.24[IV dl/g]までの範囲にある。ガラス転移温度Tは、約41.4℃である。このコポリマーは、エステル末端基を有する。
【0055】
RESOMER(登録商標)RG 503:ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ラクチド/グリコリドのモル比は50:50であり、固有粘度IVは0.32[IV dl/g]から0.44[IV dl/g]までの範囲にある。ガラス転移温度Tは、約46.5℃である。このコポリマーは、エステル末端基を有する。
【0056】
標準的な体液の単一区画放出実験における性能
エファビレンツのイン・サイチュ製剤
15gのN−メチルピロリジノンに5gのポリマーを加えてポリマーのストック溶液を調製し、このポリマーが溶解するまでボルテックスを用いてこの混合物を20ないし30分間混合した。表1。
【0057】
このストック溶液を、3つの異なる容器中の約6.6gのアリコートに分ける。
【0058】
この溶液にエファビレンツを加え、このAPIが完全に溶解するまで再度ボルテックスを用いてこれを20ないし30分間混合する。表2。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
リルピビリンのイン・サイチュ製剤
7.5gのN−メチルピロリジノンに2.5gのポリマーを加えてポリマーのストック溶液を調製し、このポリマーが溶解するまでボルテックスを用いてこの混合物を20ないし30分間振とうさせた。
【0062】
このストック溶液を、2つの異なる容器中の約5gのアリコートに分ける。
【0063】
この溶液にリルピビリンを加え、このAPIが完全に溶解するまで再度ボルテックスを用いてこれを20ないし30分間混合する。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
放出試験:
pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS、British Pharmacopoeia)100mlを、200mlのメスフラスコに加える。表2および表4による液体製剤EおよびR((およそ)10mgのAPIから構成される)を加えたところ、これらの製剤は、このPBS緩衝液中で直ちに沈殿または凝集を示した。PBS緩衝液を200mlまで充填する。
【0067】
API放出試験を3回行った。HPLC分析のための試料(2ml)を、0時間、1時間、2時間、4時間、24時間および96時間の時点で採取し、13400rpmで5分間遠心分離し、上清を、表5のHPLC法にしたがって注入した。2時間、4時間および24時間の時点で100mlの溶解媒体を取り出し、新鮮な緩衝液(PBS 7.4)を100ml加えた。
【0068】
【表5】
【0069】
これらの放出試験の結果を、図1から図3までに示す。
【0070】
図1に、本発明による製剤R752−15および本発明によらない製剤R752−5を水性緩衝液と接触させた後の、2つの典型的な放出プロファイルを示す。R752−5のみがボーラス効果を示すのに対して、R752−15は検出可能なボーラス効果を示さない。
【0071】
図2に、本発明による製剤R503−15および本発明によらない製剤R503−5を水性緩衝液と接触させた後の、2つの典型的な放出プロファイルを示す。R503−5のみが極めて弱いボーラス効果を示すのに対して、R503−15は検出可能なボーラス効果を示さない。
【0072】
図3に、本発明によらない製剤E502−15およびE502−5を水性緩衝液と接触させた後の、2つの典型的な放出プロファイルを示す。エファビレンツの放出が高度であり、したがってどちらの曲線においてもボーラス効果が認められる。E502−5ではボーラス効果が常に識別可能であるのに対して、E502−15はボーラス効果を常に示すわけではなく、放出速度は劇的により遅い。図1および図2のリルピビリンの例よりもエファビレンツの放出の方がはるかに高度であることに留意すべきである。
【0073】
いずれの例においても、有効成分の負荷量を増加させることによってボーラス効果が低減する。このことは、有効成分(リルピビリンまたはエファビレンツ)とポリマーとの間に協同的な超分子流体集合相が形成されることを示す。
【0074】
リルピビリンを用いた場合のRESOMER(登録商標)RG 503(図2)の挙動は、RESOMER(登録商標)RG 752S(図1)の挙動よりも良好である。なぜならば、RESOMER(登録商標)RG 752Sの場合に比べてボーラス効果および放出速度が低いためである。リルピビリンとRESOMER(登録商標)RG 502とを用いた場合(R502−15およびR502−5)の結果は図示されていないが、これらの結果はボーラス効果を示し、また放出は、図1の曲線と図2の曲線との間にある。協同的な効果は、ポリマー構造に依存する。異なるAPI(図3のエファビレンツ)は、一方の相には遊離の有効成分が存在し(放出が速い)、他方の相には協同的なデポ剤が存在する(放出が緩やかである)という2相性の挙動を示すことができ、その結果、これら2つの相の放出の重なりが生じる。
【0075】
コポリマーRESOMER(登録商標)RG 503とリルピビリンとの間の新たなデポ相の特性決定を行う赤外分光分析
溶液のスペクトルを収集するためにBruckerアルファIRスペクトロメータを用い、穏やかに周囲温度で真空乾燥させたリルピビリン503製剤をそのダイヤモンドATR表面に直接置いた。対照標準として、類似の試料「プラセボ」溶液を同様に処理した。この「プラセボ」溶液は、RESOMER(登録商標)RG 503コポリマーのみを含んでおり、リルピビリンを含んでいなかった。
【0076】
結果:
N−メチルピロリジノンは、1500cm−1での対称的な主ピークと、1677cm−1でのシャープなアミド型振動ピークとを示したため、これらのピークは、リルピビリンによる3つの特徴的な二重結合/環振動バンド[1568cm−1(強い)、1593cm−1および1614.5cm−1(いずれも中程度)]からの差引きには重要でないことが判明した。PLGAポリマーによる他方のポリエステルの主バンドである1752cm−1も、リルピビリンの前述の特徴的なトリプレットから離れている。
【0077】
集合体が形成されるため、1568cm−1のピークは、溶媒のベースラインを差し引いた1575cm−1のスペクトルへと完全にシフトする。一方で、中間のピーク(1593cm−1)は、ほぼ完全に消失するか、または良好な内部標準として変化せずにそのままである1614.5cm−1のバンドの1600cm−1付近のショルダーとして識別することができた。
【0078】
1575cm−1のバンドまたは中間のバンドの抑制(シフト)は特徴的であり、また新規でかつ協同的なリルピビリン/PLGA(RESOMER(登録商標)RG 503)超分子の手掛かりとなる証拠の1つである。これは例えば、協同的な二重または三重のらせんDNA/RNAの集合における同一のスペクトル領域におけるヌクレオ塩基カルボニルおよび環振動のシフトの振動スペクトル効果と同様である。
【0079】
余分な溶媒を少々除去しても、バンドシフト効果は変化しなかった。
図1
図2
図3