(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
直流パルス電源装置をプラズマ発生装置に用いる場合には、直流パルス電源装置のパルス出力をプラズマ発生装置のチャンバ内の電極間に供給し、電極間で発生する放電によりプラズマを着火させ、発生したプラズマを維持する。直流パルス電源装置は、プラズマを負荷とする際、イグニッションモード、直流モード、及びパルスモードの各モードによりプラズマ負荷へパルス出力を供給する。イグニッションモードによりプラズマを着火させ、直流モードで一定の放電電圧状態を経た後、パルスモードによりパルス動作を開始する。
【0008】
図12は直流パルス電源装置からプラズマ負荷へパルス出力を供給する各モードを説明するための概略フローチャートである。
【0009】
通常、プラズマ発生装置は直流パルス電源装置にとって電気的な負荷に相当し、プラズマ放電が発生するまでのプラズマ放電開始時の負荷と、プラズマ放電が安定して発生している通常運転時の負荷とはインピーダンス状態が異なる。そのため、通常、直流電源装置は、プラズマ放電を発生させるために電圧を徐々に増加させ、通常運転時の電圧よりも大きな電圧を電極に一定期間印加する。この出力のモードはイグニッションモードと称される(S10)。
【0010】
イグニッションモードにより、プラズマ放電発生後は、一定の放電電圧状態となる。この出力のモードは直流モードと称される(S20)。
【0011】
直流モード後、直流電圧を所定デューティーでオン/オフさせ、パルス出力状態となる。この出力のモードはパルスモードと称される(S30)。
【0012】
図13(a)に示すパルス部120Aのチョッパ回路では、スイッチング素子122AのドレインDとソースSとの間のDS電圧は、スイッチング素子122Aがオフ時において直流リアクトル121Aに含まれるリーケージインダクタンスによりサージ電圧が発生する。本出願の発明者は、サージ電圧によるスイッチング素子122Aの損傷を回避するために、直流リアクトル121Bの両端電圧を所定電圧にクランプする電圧クランプ部130Bを設ける構成を提案している。
図13(b)は提案する回路構成の概略を示している。電圧クランプ部130Bは、直流リアクトル121Bに並列接続したコンデンサCを備える。電圧クランプ部130Bは、コンデンサCの電圧VCをサージ電圧よりも低い電圧にクランプすることによりDS電圧の過剰なサージ電圧上昇を抑制する。
【0013】
通常、リアクトルはリアクトル電流の増加に伴って磁界が増加すると透磁率が低下していき、磁性材料が持つ最大磁束密度に達すると磁気飽和の状態となる。磁気飽和の状態では透磁率が低下する。リアクトルの低透磁率は過剰電流の要因となる。リアクトルの磁気飽和のリセットは、リアクトルに対して極性が異なる電圧を印加し、印加する電圧と時間の積である電圧時間積(ET積)が逆極性で大きさが等しくなることにより行われる。
【0014】
図13(c)において、スイッチング素子122Bのオン期間の電圧時間積Sonとオフ期間の電圧時間積Soffを逆極性で大きさを等しくすることにより、直流リアクトル121Bの磁気飽和はリセットされる。
【0015】
図14は、直流リアクトルの磁気飽和状態を説明するための図であり、
図14(a)は直流電源装置の出力電圧波形を示し、
図14(b)は直流リアクトル電流iDCLの飽和電流波形を示し、
図14(c)はコンデンサCの電圧波形を示している。
【0016】
電圧クランプ部を備えた回路構成では、直流リアクトルの磁気飽和リセットが不十分であるという問題が発生する。
図13(c)は磁気飽和の発生状態を示している。スイッチング素子122Bがオフ期間Toffの電圧Voffはリセット電圧として作用するが、電圧Voffはパルス発生起動時においては0Vから徐々に上昇するが、電圧クランプ部130BのコンデンサCのキャパシタ電圧VCによりクランプされるため、初期段階では、リセット電圧は磁気飽和をリセットするのに十分な電圧まで上昇しない。そのため、パルス発生起動時の初期時のパルスモードでは、スイッチング素子122Bがオフ期間の電圧時間積Soffはスイッチング素子122Bがオン期間Tonの電圧時間積Sonよりも小さく、直流リアクトルの偏磁はリセットされることなく磁気飽和に至る。
【0017】
直流リアクトル121が磁気飽和するとインダクタンスが減少するため、過剰電流が流れる。
図15は直流リアクトルの電流例であり、磁気飽和により過剰電流が発生する状態を示している。したがって、パルス発生起動時の初期時のパルスモードにおいて、磁気飽和をリセットするリセット電圧が不十分なために、磁気飽和により過剰電流が発生するという課題がある。
【0018】
本発明は前記した従来の問題点を解決し、直流パルス電源装置において、パルス発生起動時における直流リアクトルの磁気飽和を抑制し、磁気飽和による過剰電流の発生を抑制することを目的とする。
【0019】
さらに、詳細には、パルス発生起動時において、直流リアクトルに並列接続されたキャパシタのキャパシタ電圧が磁気飽和のリセットに十分な電圧となるまでの間において、直流リアクトル電流を抑制し、磁気飽和を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の直流パルス電源装置は、パルス部が備えるチョッパ回路の直流リアクトルのリーケージインダクタンスにより発生するサージ電圧の上昇を抑制するために、直流リアクトルに並列接続されたキャパシタを含む電圧クランプ部を備える。直流パルス電源装置では、チョッパ回路のスイッチング素子がオフ状態にあるときのリアクトル電圧が電圧クランプ部により抑制され、直流リアクトルの磁気飽和する要因となる。本発明の直流パルス電源装置の制御回路部は、スイッチング素子の動作のデューティーを制御することにより直流リアクトルの磁気飽和をリセットし磁気飽和の発生を抑制する。
【0021】
本発明の直流パルス電源装置は、パルスモードの初期段階であるパルス動作の起動時において、キャパシタ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧まで充電されるまでの間、チョッパ回路のパルス動作のデューティーを制御して、スイッチング素子をオン状態として直流リアクトルを通電状態とするパルス幅を可変とする。デューティー又はパルス幅を漸増することにより、スイッチング素子がオン状態の電圧時間積の増加を漸増させる。デューティー及びパルス幅を漸増させることにより、スイッチング素子のオフ動作によりクランプ電圧が抑制される状態にあっても、スイッチング素子がオン状態の電圧時間積と、スイッチング素子がオフ状態の電圧時間積との差分が増加することを抑制し、直流リアクトルの磁気飽和を抑制する。
【0022】
ここで、漸増は初期値から所定値に向かって徐々に増加させることを意味する。デューティー又はパルス幅において、漸増により至る所定値は、スイッチング素子のオン状態により、キャパシタ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧となるデューティー又はパルス幅である。初期値は、リアクトルを磁気飽和させない値であり、所定値よりも十分に小さな値に設定される。
【0023】
パルス動作が起動した後、初期段階においてキャパシタ電圧が増加して定常段階となる。定常段階では、直流リアクトルに印加される電圧は、キャパシタ電圧のクランプ電圧に抑制されるが、このキャパシタ電圧は直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に設定することにより、定常段階のデューティーに切り替えたパルスモードにおいて直流リアクトルの磁気飽和は抑制される。
【0024】
本発明は、直流パルス電源装置、及び直流パルス電源装置のデューティー制御方法の各形態を備える。
【0025】
[直流パルス電源装置]
本発明の直流パルス電源装置は、直流電源と、直流電源に接続され、直流リアクトルとスイッチング素子の直列回路を備えた昇圧チョッパ回路によりパルス出力を発生するパルス部と、パルス部の直流リアクトルに並列接続されたキャパシタを含み、キャパシタのキャパシタ電圧により直流リアクトルの両端電圧をクランプ電圧に制限する電圧クランプ部と、パルス部のスイッチング素子のスイッチング動作を制御する制御回路部を備える。
【0026】
制御回路部は、一定周期でパルス出力を生成するパルスモードのパルス動作を制御するパルスモード制御部を備える。パルスモードによるパルス動作では、一定周期においてスイッチング素子を所定のデューティー比でオン/オフ動作を繰り返すことにより、直流電源から負荷に対してデューティー比に応じた電力がパルス出力により供給される。
【0027】
本発明のパルスモード制御部は、パルス幅を可変とするデューティー制御部を備え、初期段階と定常段階の2つの段階によりデューティー制御を行う。デューティー制御部は、パルス動作の初期段階において、スイッチング素子を閉じてオン状態とするパルス幅を漸増させ、直流リアクトルにリアクトル電流が流れる期間を漸増させる。初期段階において、スイッチング素子がオフ状態の電圧時間積は、直流リアクトルの電圧がクランプされているため小さい。スイッチング素子がオン状態のパルス幅を定常状態の大きさのままでパルス動作を繰り返すと、電圧時間積の差分が増加し磁気飽和に至る。
【0028】
本発明のデューティー制御は、初期段階において、スイッチング素子を閉じてオン状態とするパルス幅を初期値から定常段階のデューティーのパルス幅に向けて漸増させることにより、初期段階におけるスイッチング素子がオン状態の電圧時間積を抑え、スイッチング素子がオフ状態の電圧時間積との差分の増加を抑制し、初期段階での磁気飽和の発生を抑止する。
【0029】
定常段階では、パルスモードの定常デューティーのパルス幅でスイッチング素子をオン/オフ動作して、負荷に対して定常電力を供給する。定常段階では、キャパシタ電圧は直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧であるため、キャパシタ電圧により電圧がクランプされた状態であっても、定常段階のデューティーに切り替えたパルスモードにおいて直流リアクトルが磁気飽和することはない。
【0030】
本発明のデューティー制御は、直流リアクトルの磁気飽和を避けるために、初期段階において直流リアクトルの磁気飽和を抑制するデューティーとし、キャパシタ電圧が磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に充電された後は、定常段階のデューティーとする。
【0031】
本発明のデューティー制御は、パルス動作の周波数を一定周波数とし、デューティーを制御している。一定周波数のパルス動作において、パルス動作の一周期の時間幅は一定であるため、デューティーを可変とすることはパルス幅を可変とすることに相当する。したがって、本発明のデューティー制御においてデューティーを漸増させることにより、キャパシタ電圧が磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に至る前の初期段階において、直流リアクトルが磁気飽和することを防ぐ。
【0032】
パルス動作の初期段階では、キャパシタ電圧は直流リアクトルの磁気飽和をリセットするリセット電圧まで充電されていないため、キャパシタ電圧により直流リアクトルの磁気飽和をリセットすることは困難である。
【0033】
本発明は、パルス動作を起動する初期段階において、キャパシタ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧まで充電されるまでの間、チョッパ回路のパルス動作のデューティーを制御してスイッチング素子をオン状態とし、直流リアクトルを流れる直流リアクトル電流のパルス幅を漸増させる。直流リアクトルは、スイッチング素子がオン状態又はオフ状態の何れの状態においても通電状態であるが、オン状態の直流リアクトルに流れる直流リアクトル電流は、オフ状態における直流リアクトルよりも大きな電流が流れる。これにより、パルス幅に応じた期間の間、直流リアクトルに電流が増加され直流リアクトル電流を流すことにより、キャパシタの充電は促進される。本発明は、パルス幅を初期値から所定値に向かって漸増させることにより、初期段階において磁気飽和の発生を抑制しながら、キャパシタ電圧を増加させる。
【0034】
本発明のデューティー制御部は、パルスモードにおいて、初期段階における開始デューティー値、及びデューティーが漸増する遷移デューティー値、及び定常段階における定常デューティー値の各のデューティー値を備え、各デューティー値により各周期のパルス動作を行う。
【0035】
パルス動作の開始時には開始デューティー値に基づいたデューティー又はパルス幅によりパルス動作を開始する。パルス動作が開始した後、開始デューティー値から遷移デューティー値に切り替え、漸増する遷移デューティー値に基づくデューティー又はパルス幅によりパルス動作を実施する。キャパシタ電圧が磁気飽和をリセットするのに十分な電圧となった後、遷移デューティー値からパルスモードの定常デューティー値へ切り替える。キャパシタ電圧が磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に達したか否かは、キャパシタのキャパシタ電圧の電圧値又は電圧変化に基づいて検出することができる。遷移デューティー値は周期毎にデューティーを増加させることで漸増させる。デューティーの増加幅は、開始デューティー値から定常デューティー値に至るまでの周期数等の駆動条件に応じて設定することができる。
【0036】
パルスモード制御部はキャパシタ電圧が充電電圧に達したか否かを判定する電圧判定部を備える。デューティー制御部は、電圧判定部がキャパシタ電圧の電圧値又は電圧変化により判定した結果に基づいて、遷移デューティー値からパルスモードの定常デューティー値へ切り替える。キャパシタ電圧の電圧を設定電圧と比較し、キャパシタ電圧が設定電圧を越えたとき、又は、キャパシタ電圧の電圧変化ΔVCを設定値と比較し、電圧変化ΔVCが設定値以内であるときに、キャパシタの充電が完了し、キャパシタ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に至ったものと判定する。設定電圧は、例えば予め設定された充電完了電圧を用いることができる。
【0037】
本発明の直流パルス電源装置は、直流リアクトルのリアクトル電圧の内、設定電圧を超える電圧分を直流電源に回生する回生部を備え、この回生部は直流リアクトルに並列接続されたキャパシタを備える構成とし、このキャパシタは、サージ電圧を抑制するクランプ電圧を直流リアクトルに印加する電圧クランプ部、リセット電圧を回生する回生部として機能する。
【0038】
[直流パルス電源装置のデューティー制御方法]
本発明のデューティー制御方法は、直流電源と、直流電源に接続され、直流リアクトルとスイッチング素子の直列回路を備えた昇圧チョッパ回路によりパルス出力を発生するパルス部と、パルス部の直流リアクトルに並列接続されたキャパシタを含み、キャパシタのキャパシタ電圧により直流リアクトルの両端電圧をクランプ電圧に制限する電圧クランプ部と、パルス部のスイッチング素子のスイッチング動作を制御する制御回路部を備えた直流パルス電源装置の制御方法であり、キャパシタ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットする十分な電圧となるまでの間のスイッチング動作のデューティーを制御することにより、直流リアクトルの磁気飽和をリセットする。
【0039】
制御回路部は、一定周期のパルス出力を生成するパルスモードのパルス動作を制御するパルスモード制御部において、スイッチング素子をオン/オフ動作させる時間周期を制御し、直流リアクトル電流が増加している区間のパルス幅を可変するデューティー制御を行う。
【0040】
このデューティー制御において、
(a) パルス動作の初期段階において、パルス幅をパルス動作開始時の初期値から定常段階の定常値に向けて漸増させる。
(b) 初期段階の後のパルス動作の定常段階において、パルス幅を所定固定幅の定常値に保持する。
【0041】
パルス動作の初期段階において、パルス幅を初期値から定常値に向けて漸増させる過程でキャパシタ電圧は充電され、十分に充電された後はキャパシタ電圧の増加は停止し一定電圧となる。このときのキャパシタ電圧を、直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に設定することにより、直流リアクトルの磁気飽和をリセットすることができる。
【0042】
本発明は、このときのキャパシタ電圧を規定電圧とする。規定電圧は、パルスモードにおいてキャパシタの磁気飽和を定常的にリセットするのに十分なキャパシタ電圧であり、定常デューティーへの切り替え時点を定める電圧となる。キャパシタ電圧が規定電圧に達したか否かは、キャパシタ電圧の電圧値又は電圧変化に基づいて検出することができ、キャパシタ電圧の電圧値が規定電圧値となったこと、又はキャパシタ電圧の電圧変化が停止したことを検出することにより、キャパシタ電圧が規定電圧に達したと判定する。規定電圧値は、磁気飽和をリセットするのに十分な電圧まで充電されたときのキャパシタ電圧の電圧値を予め求めておくことで定めることができる。
【0043】
キャパシタ電圧が規定電圧に充電された後にはデューティー制御による電力供給の制限を解消し、パルス幅を所定幅の定常値に保持して負荷に対して所定の電力を供給する。プラズマを負荷とする場合には、パルスモードの所定デューティーに基づいたパルス幅によりパルス出力を形成し、このパルス出力をプラズマ負荷に供給してプラズマ放電を維持する。
【発明の効果】
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、直流パルス電源装置において、パルス動作による直流リアクトルの磁気飽和を抑制し、磁気飽和による過剰電流の発生を抑制することができる。
【0045】
また、直流パルス電源装置のパルス動作中に、直流リアクトルに並列接続されたキャパシタのキャパシタ電圧が磁気飽和をリセットするのに十分な電圧となるまでの間の初期段階において、デューティーを制御することにより負荷に供給する電力を制限して磁気飽和を抑制し、キャパシタ電圧が磁気飽和のリセットに十分な電圧に達した定常段階において、デューティー制御による電力供給を停止し、パルスモードの定常デューティー値により電力供給を行う。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の直流パルス電源装置が備えるパルス部は直流電圧からパルス出力を生成するチョッパ回路を備え、チョッパ回路の直流リアクトルのリーケージインダクタンスにより発生するサージ電圧の上昇を抑制するために、チョッパ回路の直流リアクトルに並列接続されたキャパシタを含む電圧クランプ部を備える。電圧クランプ部は、直流リアクトルの両端電圧をキャパシタ電圧にクランプすることにより、サージ電圧の上昇を抑制する。
【0048】
一方、直流パルス電源装置では、チョッパ回路のスイッチング素子がオフ状態にあるときのリアクトル電圧が電圧クランプ部により抑制されるため、磁気飽和をリセットする電圧時間積が不十分となり、直流リアクトルが磁気飽和する要因となる。
【0049】
本発明の直流パルス電源装置の制御回路部は、スイッチング素子の動作のデューティーを制御することにより、スイッチング素子がオフ状態での電圧時間積を磁気飽和のリセットに十分な量とし、リセット電圧がクランプされることによる磁気飽和の発生を抑制する。
【0050】
本発明の直流パルス電源装置は、パルスモードの初期段階であるパルス動作の起動時において、キャパシタ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧まで充電されるまでの間、チョッパ回路のパルス動作のデューティー又はパルス幅を制御して、スイッチング素子をオン状態として、オフ状態よりも大きな電流の直流リアクトル電流が流れるパルス幅を可変とする。デューティー又はパルス幅を漸増させることにより、スイッチング素子がオン状態の電圧時間積の増加を漸次漸増させる。
【0051】
デューティー及びパルス幅を漸増させることにより、スイッチング素子のオフ動作によりクランプ電圧が抑制される状態にあっても、オフ状態の時間幅を相対的に長くすることにより、スイッチング素子がオン状態の電圧時間積に対して、スイッチング素子がオフ状態の電圧時間積が少ないことにより生じる直流リアクトルの磁気飽和を抑制する。
【0052】
ここで、漸増は初期値から所定値に向かって漸次増加させることを意味する。漸増により至る定常値は、スイッチング素子のオン状態により、キャパシタ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧となるデューティー又はパルス幅である。初期値は定常値よりも十分に小さな値である。
【0053】
パルスモードにおいて、パルス動作は、起動時の初期段階と起動後の定常段階を備え、初期段階においてキャパシタ電圧が増加し、キャパシタ電圧がリセットするのに十分な電圧に達した後に定常段階に移行する。定常段階では、キャパシタ電圧によるクランプ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧となる。この定常段階では、直流リアクトルに印加される電圧は、キャパシタ電圧のクランプ電圧に抑制されるが、このキャパシタ電圧は直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧であるため、定常段階において定常デューティーに切り替えたパルスモードにおいて直流リアクトルが磁気飽和することはない。
【0054】
本発明の直流パルス電源装置のデューティー制御について
図1〜3を用いて説明し、本発明の直流パルス電源の概略構成について
図4を用いて説明する。本発明の直流パルス電源の構成例について
図5〜
図10を用いて説明する。
【0055】
[デューティー制御]
図1は本発明の直流パルス電源装置のデューティー制御を説明するフローチャートであり、パルスモードにおけるデューティー制御を示している。
図2はデューティー制御による出力電圧(
図2(a))、直流リアクトル電流(
図2(b))、キャパシタ電圧(
図2(c))の各波形を示している。また、
図2(d)はパルスモードの初期段階において磁気飽和が抑制される状態を示している。
【0056】
直流パルス電源装置は、プラズマを負荷とする場合は、イグニッションモード、直流モード、及びパルスモードの各モードのパルス動作によりプラズマ負荷に対して電力供給を行う。パルス動作は、はじめにイグニッションモードによりプラズマを着火させ、直流モードで一定の放電電圧状態を経た後、パルスモードにより生成したパルス出力を負荷に送る。パルスモードでは、直流電圧を所定のデューティーでオン/オフ動作させることにより生成したパルス出力をプラズマ負荷に供給し、プラズマ放電を維持する。
【0057】
図2では、イグニッションモードをIGモードで表記し、直流モードをDCモードで表記している。
図2(a)に示す出力電圧波形において、イグニッションモードでは出力電圧は接地レベル(GNDレベル)から直線状に増加する。プラズマが着火した後、イグニッションモードから直流モードに切り替え、直流モードで一定電圧の直流電圧を印加した後、パルスモードに切り替えパルス出力を生成する。
【0058】
本発明のデューティー制御は、パルスモードにおいて、開始デューティー値(DutyA)、遷移デューティー値(DutyB)、及びパルスモードの定常デューティー値(DutyPU)の各デューティー値にデューティーを切り替えながらパルス出力を生成する。
【0059】
本発明のデューティー制御は、パルスモードを初期段階と定常段階の2段階で制御する。初期段階は、クランプ電圧を形成するキャパシタ電圧VCが0Vから充電を開始し、定常デューティーにおいて磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に上昇するまでの期間である。この初期段階では、キャパシタ電圧VCは直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのには充電が不十分な状態にある。そのため、デューティーを定常状態の定常デューティーで駆動すると直流リアクトルは磁気飽和となり、過剰電流が発生するおそれがある。この磁気飽和の発生を抑制するため、初期段階ではデューティーを漸増させ、開始デューティー値(DutyA)から定常デューティー値(DutyB)に向けて徐々に増加させる。
【0060】
定常段階は、定常状態のパルス出力を生成する期間であり、定常デューティー値(DutyPU)のデューティーにより直流電圧からパルス出力を生成する。この定常段階では、キャパシタ電圧VCが磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に充電されているため、定常デューティー値(DutyPU)によりスイッチング素子をオン/オフ動作させる状態であっても直流リアクトルの磁気飽和はリセットされる。以下、パルスモードの初期段階と定常段階について説明する。
【0061】
[パルスモードの初期段階]
パルスモードの初期段階は開始時から遷移期間に進み、その後定常段階に移行する。
(パルスモードの開始時)
パルスモードの開始時では、直流リアクトル電流iDCLは零であり(
図2(b))、キャパシタ電圧VCは接地電圧レベル(GND)にある(
図2(c))。キャパシタ電圧VCは直流リアクトルの磁気飽和をリセットする電圧として用いられるが、パルスモードの開始時では接地電圧レベル(GND)にあるため、直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのには不十分である。
【0062】
パルスモードの開始時からパルスモードの定常段階の定常デューティー値(DutyPU)でパルス動作が行われると、定常デューティー値(DutyPU)に応じたオン/オフ動作が複数回繰り返され、パルス幅に応じた状態の直流リアクトル電流が直流リアクトルに流れる。定常デューティー値(DutyPU)は、プラズマ状態を維持するために必要な電力を供給するのに十分な電力が得られるように設定されるため、磁気飽和のリセット電圧が不十分な状態でパルス出力が繰り返して出力されると、その間に直流リアクトルは磁気飽和に至る。
【0063】
本発明のデューティー制御では、開始時の一周期目において、定常デューティー値(DutyPU)のパルス幅よりも短いパルス幅を有する開始デューティー値(DutyA)によりパルス動作を開始する(S1)。開始時の一周期目のパルス動作において、スイッチング素子がオン状態となるパルス幅の間、直流リアクトル電流iDCL及びキャパシタ電圧VCは増加する(
図2(b),(c))。キャパシタ電圧VCは0Vから増加していくため、磁気飽和をリセットするのには不十分である。
【0064】
(デューティーの遷移期間)
パルスモードの開始時では、キャパシタ電圧VCは磁気飽和をリセットするのには不十分であるため、引き続く遷移期間においてキャパシタ電圧VCを増加させる。
パルスモードの開始時の一周期のパルス動作を行った後(S2)、キャパシタ電圧VCが磁気飽和リセットに十分な電圧に達したか否かを判定する。この判定は、キャパシタ電圧VCの電圧値、又は、キャパシタ電圧VCの電圧変化ΔVCを検出することにより行うことができる。キャパシタ電圧VCの充電が完了し磁気飽和リセットに十分な電圧に達した段階では、キャパシタ電圧VCは一定電圧の充電完了電圧となり、電圧変化ΔVCは変化しなくなる。なお、キャパシタ電圧VCの充電完了電圧は、磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に対応して設定した設定電圧とする。
【0065】
キャパシタ電圧VCと設定電圧との比較により、キャパシタ電圧VCが設定電圧に達したことが検出されたとき、又は、キャパシタ電圧VCの電圧変化ΔVCと設定値との比較により、電圧変化ΔVCが減少して設定値以内となったことが検出されたとき、キャパシタの充電が完了し、キャパシタ電圧が直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に至ったものと判定する。なお、設定電圧及び設定値は電圧クランプ部に設けられたキャパシタの充電完了電圧、及びキャパシタの充電完了時の電圧変動幅を用いることができる。
【0066】
キャパシタが充電完了状態に至らず、キャパシタ電圧VCが設定電圧に達していない場合、あるいは電圧変化ΔVCが設定値を越えている場合には、開始時に続く遷移期間において、開始デューティー値(DutyA)に代えて遷移デューティー値(DutyB)によりデューティーを増加させる。遷移期間の遷移デューティー値(DutyB)は、例えば、前周期のデューティーにΔDutyを加算することにより定めることができる。遷移期間の最初の周期の遷移デューティー値(DutyB)は開始デューティー値(DutyA)にΔDutyを加算することにより定め、遷移期間の次の周期からは、前回の遷移デューティー値(DutyB)にΔDutyを加算することにより定めることができる。加算分のΔDutyはデューティーの遷移幅であり、例えば、初期段階のパルス幅変化区間の周期数N、開始デューティー値(DutyA)、定常デューティー値(DutyPU)に基づいて(DutyPU−DutyA)/Nにより定めることができる。なお、この加算分ΔDutyの増加量は一例であり、周期数N、開始デューティー値(DutyA)、及び定常デューティー値(DutyPU)の条件の範囲内で任意に設定することができる。
【0067】
デューティーの遷移期間では、キャパシタ電圧VCは各周期のパルス動作により充電完了電圧に向かって増加する。一方、直流リアクトル電流iDCLはスイッチング素子がオン状態となる区間での増加と、オフ状態となる区間での減少を繰り返して徐々に増加するが、キャパシタ電圧VCの増加によりオフ状態での電圧時間積が増加するため磁気飽和がリセットされていくため、直流リアクトル電流iDCLの上限は磁気飽和レベル以下に制限される。
【0068】
デューティーの遷移期間の最後の周期において、キャパシタ電圧VCは直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に充電される。S3の工程において、キャパシタ電圧VCの充電完了状態が検出されると、デューティーを遷移デューティー値(DutyB)から定常デューティー値(DutyPU)に切り替えて、定常デューティー値(DutyPU)によるパルス動作によりパルス出力を生成する(S5)。
【0069】
図2(d)はパルスモードの初期段階の電圧時間積の状態を示している。パルスモードの初期段階では、スイッチング素子がオン状態である期間(Ton)では、スイッチング素子のオン抵抗電圧に相当する電圧が印加され、スイッチング素子がオフ状態である期間(Toff)では直流リアクトルの両端電圧にはクランプ電圧が印加される。クランプ電圧はキャパシタの充電電圧であるキャパシタ電圧であり、初期段階では0Vから徐々に増加する。初期段階の当初の間は、スイッチング素子がオフ期間(Toff)の電圧時間積Soffはスイッチング素子がオン期間(Ton)の電圧時間積Sonよりも小さく、直流リアクトルは偏磁する状態にあるが、クランプ電圧が徐々に増加するに従って電圧時間積Soffと電圧時間積Sonの差分は減少し、磁気飽和はリセットされる状態となる。
【0070】
[パルスモードの定常段階]
パルスモードの定常段階では、定常デューティー値(DutyPU)のデューティーによりパルス動作を行う。この定常段階では、キャパシタ電圧VCは直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧に充電されているため、直流リアクトルは磁気飽和することなくリセットされ、直流リアクトル電流iDCLは各周期内で増減して変動するものの磁気飽和レベルを越えることはない。
【0071】
図3は、本発明のデューティー制御により直流リアクトル電流の電流波形を示している。図示する電流波形は、イグニションモード、直流モード、及びパルスモードの初期段階、及び定常段階の何れのモードにおいても、直流リアクトル電流は過剰電流とならないことを示している。
【0072】
[直流パルス電源装置の概略構成]
図4は本発明の直流パルス電源装置の構成例を示している。直流パルス電源装置は直流電源部10、パルス部20、制御回路部40、及び電圧検出部60を備え、パルス部20は直流電源部10の直流電圧から生成したパルス出力を負荷50に供給する。
【0073】
パルス部20は、昇圧チョッパ回路により構成することができる。
図4において、パルス部20は直流リアクトル21とスイッチング素子22の直列接続により構成された昇圧チョッパ回路を備える。直流リアクトル21は直流電源部10側と負荷50側との間に直列接続され、スイッチング素子22は負荷50側に対して並列接続される。駆動回路23はスイッチング素子22をオン/オフ動作させ、直流電圧を変換してパルス波形のパルス出力を生成する。また、直流リアクトル21には電圧クランプ部30clampのキャパシタCが並列接続される。
【0074】
図示する構成例では、パルス部20の直流電源側は、高電圧側の接地された端子Bと低電圧側として負電圧の端子Aを備える。図では、スイッチング素子22がFETの例を示し、ソースS側を低電圧側の端子AにドレインD側を接地電圧の高電圧側の端子Bに接続し、ゲートG側には駆動回路23からの駆動信号が入力される。
【0075】
制御回路部40は、目標のパルス出力に対応したスイッチング素子22のオン時間とオフ時間の時間幅ないしデューティー比を定める制御信号を生成し、駆動回路23を介して昇圧チョッパ回路を制御する。駆動回路23は、制御回路部40の制御信号に基づいてスイッチング素子22のゲートGに駆動信号を出力し、スイッチング素子22をオン/オフ動作させる。
【0076】
スイッチング素子22のソースS側は直流リアクトル21の負荷側に接続され、スイッチング素子22のドレインD側は接地される。スイッチング素子22がオン状態のときは、直流リアクトル21の負荷側は接地され、端子Bからオン状態にあるスイッチング素子22、及び直流リアクトル21を介して端子Aに直流リアクトル電流iDCLが流れる。この際、直流リアクトル21には電磁エネルギーが蓄積される。次に、スイッチング素子22がオン状態からオフ状態に切り替わると、直流リアクトル21に蓄積された蓄積エネルギーにより直流リアクトル21にはリアクトル電圧VDCLが発生する。昇圧チョッパ回路は、スイッチング素子22のオン動作とオフ動作を繰り返すことによりオン/オフ時間のデューティーに応じて出力電圧Voを上昇させる。
【0077】
制御回路部40は、イグニッションモードによりプラズマを着火させるイグニッションモード制御部42、プラズマが着火した後、直流モードにより一定の放電電圧状態にさせる直流モード制御部43、パルスモードのデューティー制御によりパルス出力を形成するパルスモード制御部44、及び各モードを切り替えるモード切替部41を備える。
【0078】
パルスモード制御部44は、デューティー値を切り替えることによりスイッチング素子22を閉じてオン状態にするパルス幅を変更する。初期段階においては、はじめに開始デューティー値を用いて一周期分のパルス動作を行い、引き続いて遷移デューティー値により複数の周期間でデューティーを漸増させる。初期段階でデューティーを増加させた後、以後のパルスモードの各周期では定常デューティーによりパルス動作を行ってパルス出力を形成する。
【0079】
パルスモード制御部44は、パルス幅を可変とするデューティー制御部44cを備え、パルス動作の初期段階において、スイッチング素子を閉じるパルス幅を漸増させ、スイッチング素子をオン状態として、直流リアクトルに大きな直流リアクトル電流が流れる時間を長くする。パルス幅を漸増させることにより、スイッチング素子がオン状態の電圧時間積と、スイッチング素子がオフ状態の電圧時間積との差分が増加することを抑制し、初期段階での磁気飽和の発生を抑止する。パルス動作の定常段階では、パルスモードの定常デューティーのパルス幅でスイッチング素子を閉じ、負荷に対して定常電力を供給する。定常段階では、キャパシタ電圧は直流リアクトルの磁気飽和をリセットするのに十分な電圧であるため、キャパシタ電圧により電圧がクランプされた状態であっても、定常段階のデューティーに切り替えたパルスモードにおいて直流リアクトルが磁気飽和することはない。
【0080】
デューティー制御部44cは、開始デューティー部44c1、遷移デューティー部44c2、及び定常デューティー部44c3を備える。開始デューティー部44c1は開始デューティー値(DutyA)を備え、遷移デューティー部44c2は遷移デューティー値(DutyB)、定常デューティー部44c3は定常デューティー値(DutyPU)を備える。また、パルスモード制御部44は、デューティー制御部44cの他に、一周期分を検出する周期検出部44a、及びキャパシタ電圧VC又はキャパシタ電圧の電圧変化ΔVCを用いて、キャパシタの充電状態を判定する電圧判定部44bを備える。キャパシタ電圧VCは電圧検出部60により検出される。
【0081】
モード切替部41は、外部からの開始信号を受けて、イグニッションモード制御部42にイグニッションを開始する信号を送る。イグニッションモード制御部42は開始信号を受けてイグニッション動作を行う。
【0082】
モード切替部41は、出力電圧Voをモニターし、出力電圧Voに基づいてイグニッションモードから直流モードに切り替える切替信号を直流モード制御部43に送る。直流モード制御部43は一定電圧の直流電圧の印加により放電電圧状態にさせる。
【0083】
モード切替部41は、直流モードの後、パルスモードに切り替える切替信号をパルスモード制御部44に送る。
【0084】
パルスモード制御部44において、デューティー制御部44cは、開始デューティー部44c1の開始デューティー値(DutyA)を用いてパルスモードの制御を開始する。駆動回路23は開始デューティー値(DutyA)のパルス幅で一周期のオン/オフ動作を行う。
【0085】
周期検出部44aはパルスモードの切替信号を受けた後、パルス動作の各周期を検出する。周期検出部44aはパルス動作の周期を検出する毎に電圧判定部44bにキャパシタの充電状態の判定を指示する。電圧判定部44bはパルス動作の周期毎に、電圧検出部60で検出したキャパシタ電圧VCが設定電圧に達したか否かの判定、又はキャパシタ電圧VCと前周期のキャパシタ電圧VCとの差である電圧変化ΔVCが設定値よりも大きな電圧変化であるか否かの判定を行う。
【0086】
キャパシタ電圧VCが設定電圧に達していない場合、あるいは電圧変化ΔVCが設定値を越える場合には、デューティー制御部44cは、遷移デューティー部44c2の遷移デューティー値(DutyB)を用いて駆動回路23を制御する。遷移デューティー部44c2は、周期毎に、遷移デューティー値(DutyB)を漸増させて更新する。
【0087】
遷移デューティー部44c2は、前回の遷移デューティー値(DutyB)にΔDutyを加算することにより遷移デューティー値(DutyB)を更新する。最初の遷移デューティー値(DutyB)は、前回の遷移デューティー値として開始デューティー値(DutyA)を用いる。
キャパシタ電圧VCが設定電圧に達した場合、あるいは電圧変化ΔVCが設定値を越えない場合には、遷移デューティー値(DutyB)からパルスモードの定常デューティー値(DutyPU)に切り替え、定常デューティー部44c3の定常デューティー値(DutyPU)を用いて駆動回路23を制御する。
【0088】
[直流パルス電源装置の構成例]
以下、直流パルス電源装置の構成例について説明する。構成例の直流パルス電源装置のパルス部は、直流リアクトルのリアクトル電圧を回生する回生部を備える。回生部は直流リアクトルのリアクトル電圧を回生する構成として、直流リアクトルの並列接続したキャパシタを備える。
【0089】
第1の構成例は昇圧チョッパ回路の直流リアクトルの両端のリアクトル電圧を回生する構成であり、第2〜第5の構成例は昇圧チョッパ回路の磁気結合する二つの直流リアクトルの一方の直流リアクトルのリアクトル電圧を回生する構成であり、第2,5の構成例は磁気結合する二つの直流リアクトルをタップ付き単巻きトランスとする構成であり、第3,4の構成例は磁気結合する二つの直流リアクトルを複巻きトランスとする構成である。また、回生するリアクトル電圧について、第1〜第5の構成例は直流電源の低電圧側の電圧を基準電圧としている。
【0090】
[直流パルス電源装置の第1の構成例]
本発明の直流パルス電源装置の第1の構成例について
図5を用いて説明する。
【0091】
本発明の直流パルス電源装置は、直流電源部(DC部)10と、直流電源部10に接続された昇圧チョッパ回路により発生したパルス出力を負荷5に供給するパルス部20Aと、パルス部20Aで発生する過剰な電圧上昇分を直流電源部10側に回生する回生部30と、直流電源部10、パルス部20A、駆動回路23と回生部30を制御する制御回路部40、及びキャパシタ電圧を検出する電圧検出部60を備え、出力ケーブル3を介して負荷5にパルス出力を供給する。
図5では、負荷5としてプラズマ発生装置の例を示しているが、負荷5はプラズマ発生装置に限らず、パルスレーザ励起、放電加工機等に適用してもよい。
【0092】
(直流電源部)
直流電源部(DC部)10は、交流電源2の交流電圧を直流電圧に整流する整流器11と、整流時に発生する過渡的に発生するスパイクの高電圧を吸収して抑制するスナバ回路12と、直流電圧を交流電圧に変換する単相インバータ回路13と、単相インバータ回路13の交流電圧を所定の電圧値に電圧変換する単相変圧器14と、単相変圧器14で電圧変換された交流電圧を直流電圧に整流する整流器15と、両端電圧を直流電源部の直流電圧とするキャパシタ16(CF)を備える。キャパシタ16の一端は接地され、他端に負電圧の低電圧が形成される。なお、
図5に示す構成では、負荷5としてプラズマ発生装置の容量負荷の例を示している。ここでは、プラズマ発生装置の一端を接地して負電圧を供給しているため、直流電源部10は負電圧のパルス出力を発生する構成を示している。
【0093】
単相インバータ回路13は、制御回路部40からの制御信号によりスイッチング動作を行って、直流電圧を所定の周波数の交流電圧に変換する。直流電源部10を構成する、整流器11,15、スナバ回路12、単相インバータ回路13、単相変圧器14の各回路要素は通常に知られる任意の回路構成とすることができる。
【0094】
(パルス部)
パルス部20Aは昇圧チョッパ回路により直流電圧からパルス波形を生成する。昇圧チョッパ回路は、直流電源側と負荷側との間に直列接続された直流リアクトル21aと、負荷側に対して並列接続されたスイッチング素子(Q1)22と、スイッチング素子22のオン/オフ動作を駆動する駆動回路23を備える。パルス部20Aの直流電源側は、接地された端子Bと低電圧側として負電圧の端子Aを備える。図示するスイッチング素子22はFETの例を示し、ソースS側を低電圧側にドレインD側を接地電圧側に接続し、ゲートG側には駆動回路23からの駆動信号が入力される。
【0095】
制御回路部40は、昇圧チョッパ回路を動作させるために、目標のパルス出力に対応してスイッチング素子22のオン時間とオフ時間の時間幅ないしデューティー比を定める信号を生成すると共に、直流電源部10の出力端の電圧、及び電流に基づいて制御信号を生成する。
【0096】
駆動回路23は、制御回路部40の制御信号に基づいてスイッチング素子22のゲートGに駆動信号を出力し、スイッチング素子22のオン/オフ動作を行わせる。
【0097】
スイッチング素子22のソースS側は直流リアクトル21aの負荷側に接続され、スイッチング素子22のドレインD側は接地される。スイッチング素子22がオン状態のときは、直流リアクトル21aの負荷側は接地され、端子Bからオン状態にあるスイッチング素子22、及び直流リアクトル21aを介して端子Aに電流が流れ、直流リアクトル21aには直流リアクトル電流が流れる。この際、直流リアクトル21aには直流リアクトル電流により電磁エネルギーが蓄積される。次に、スイッチング素子22がオン状態からオフ状態に切り替わると、直流リアクトル21aに蓄積された蓄積エネルギーにより直流リアクトル21aにはリアクトル電圧VDCLが発生する。昇圧チョッパ回路は、スイッチング素子22のオン動作とオフ動作を繰り返すことによりオン/オフ時間のデューティー比に応じて出力電圧Voを上昇させる。
【0098】
(回生部)
回生部30は昇圧チョッパ回路の直流リアクトルのリアクトル電圧の内、設定電圧を超える電圧分を直流電源に回生する。回生部30は、ダイオード31、キャパシタ32(C1)、インバータ回路33,変圧器34,整流器35を備える。回生部30は、回生機能と共に電圧クランプ部30clampの機能を構成している。
【0099】
キャパシタ32(C1)の一端は直流リアクトル21aの負荷側端部に接続され、他端はダイオード31を介して直流リアクトル21aの直流電源側端部に接続され、直流リアクトル21aに発生するリアクトル電圧が印加される。キャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1は、直流電源の直流電圧VAB及び変圧器の変圧比に基づいて定まり、変圧器34の変圧比が(n2:n1)である場合にはVC1=(n2/n1)×VABの設定電圧となる。ダイオード31はパルス部20Aから回生部30のキャパシタ32(C1)に向かう方向を順方向として接続され、直流リアクトル21aのリアクトル電圧VDCLがキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた場合に、リアクトル電圧VDCLがキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた電圧分について回生部30による回生が行われる。したがって、回生部30はキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1をしきい値として回生動作を行う。
【0100】
キャパシタ電圧VC1を定める方法としては、変圧器34の変圧比を変更する他に、インバータ回路33の出力を制御する方式がある。たとえば、PWM制御や位相シフト制御などがあるが、インバータ回路の出力を制御する方式であれば、この限りではない。
【0101】
また、
図5に示す回路構成では、回生部30は、一端がパルス部20Aの低電圧側入力端に接続された構成であり、低電圧側の電圧(負電圧)を基準として直流リアクトル21aのリアクトル電圧VDCLを回生入力電圧Vinとして回生を行う。
【0102】
インバータ回路33はキャパシタ32側の直流電圧と変圧器34側の交流電圧との間で直交変換を行い、キャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を直流電源の直流電圧VABに基づいて一定電圧に保持すると共に、リアクトル電圧VDCLがキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた場合にはその越えた電圧分を交流に変換して直流電源側に回生する。キャパシタ電圧VC1は一定電圧に保持されることから、直流リアクトル21aのリアクトル電圧VDCLはキャパシタ電圧VC1にクランプされる。したがって、回生部30は電圧クランプ部30clampの機能を構成している。インバータ回路33は、例えば、スイッチング素子のブリッジ回路で構成することができる。スイッチング素子の開閉動作は制御回路部40からの制御信号αにより制御される。
【0103】
変圧器34は、直流電源部10の直流電圧VABとキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1との電圧比率を変圧比に基づいて変調する。変圧器34の変圧比が(n2:n1)である場合には、直流電圧VABとキャパシタ電圧VC1との間の電圧関係は、VC1=(n2/n1)×VABで表される。
【0104】
整流器35は変圧器34側の交流電圧を直流電源部10側の直流電圧に整流する。整流器35の直流側端子は直流電源部10の端子A、Bに接続され、キャパシタ電圧VC1が直流電圧VABに基づいた電圧を超える場合のみに、直流電源部10に電力を回生する。
【0105】
電圧検出部60は、直流リアクトル21aにキャパシタ電圧VC1によるクランプ電圧を検出し、検出信号βを制御回路40に送る。制御回路40中の電圧判定部44bは、検出信号βによるキャパシタ電圧VCに基づいてキャパシタの充電状態を判定する。
【0106】
なお、回生部30の構成は直流リアクトル21aの両端電圧を所定電圧のクランプする機能、及び所定電圧を越える電力分を直流電源側の回生する機能を備える構成であれば、上記した構成に限られるものではない。
【0107】
(回生部の構成例)
図6を用いて直流パルス電源装置の回生部が備えるインバータ回路の回路構成例を説明する。
【0108】
回生部30は、キャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1の直流電圧を直交変換して得られた交流電圧を変圧器34に出力するインバータ回路33を含んでいる。インバータ回路33は、スイッチング素子QR1〜QR4からなるブリッジ回路33aと、制御信号αに基づいてスイッチング素子QR1〜QR4を駆動する駆動信号を生成する駆動回路33bとを備える。なお、ここでは、ブリッジ回路33aとしてフルブリッジ回路の例を示しているが、ハーフブリッジ回路や多相インバータ回路を用いても良い。
【0109】
[直流パルス電源装置の第2の構成]
図7を用いて本発明の直流パルス電源装置の第2の構成例について説明する。第2の構成例は、パルス部20の昇圧チョッパ回路の構成において第1の構成例と相違し、その他の構成は第1の構成例と同様である。以下、第1の構成例と相違する構成について説明し、その他の共通する構成の説明は省略する。
【0110】
第1の構成例の昇圧チョッパ回路が備える直流リアクトル21aは単一のコイルで構成される。これに対して、第2の構成例の直流リアクトル21bは、第1の構成例の昇圧チョッパ回路の単一コイルに代えてタップ付き単巻きトランスで構成される。タップ付き単巻きトランスによる直流リアクトル21bは、磁気結合された第1の直流リアクトル21b−1と第2の直流リアクトル21b−2とを直列接続して構成することができ、第1の直流リアクトル21b−1と第2の直流リアクトル21b−2の接続点をタップ点としている。第1の直流リアクトル21b−1の一端は直流電源の低電圧側の端子Aに接続され、第2の直流リアクトル21b−2の一端は負荷側に接続され、第1の直流リアクトル21b−1と第2の直流リアクトル21b−2の接続点のタップ点はスイッチング素子22のソースS端に接続される。
【0111】
スイッチング素子22がオン状態のときは、直流リアクトル21bの接続点のタップ点は接地され、端子Bからオン状態にあるスイッチング素子22、及び直流リアクトル21bの第1の直流リアクトル21b−1を介して端子Aに直流リアクトル電流が流れる。この際、直流リアクトルにより第1の直流リアクトル21b−1に電磁エネルギーが蓄積される。
【0112】
次に、スイッチング素子22がオン状態からオフ状態に切り替わると、直流リアクトル21bの第1の直流リアクトル21b−1に蓄積された蓄積エネルギーにより第1の直流リアクトル21b−1にはリアクトル電圧VDCL1が発生し、第2の直流リアクトル21b−2にはリアクトル電圧VDCL2が発生する。昇圧チョッパ回路は、スイッチング素子22のオン動作とオフ動作を繰り返すことにより、第1の構成例と同様に出力電圧Voを上昇させる。
【0113】
第1の直流リアクトル21b−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21b−2のリアクトル電圧VDCL2との電圧比は、第1の直流リアクトル21b−1と第2の直流リアクトル21b−2のインダクタンス比の比率に対応した値となる。直流リアクトル21bの第1の直流リアクトル21b−1と第2の直流リアクトル21b−2のタップ付き単巻きコイルの巻き数比をn1p:n2pとした場合には、第1の直流リアクトル21b−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21b−2のリアクトル電圧VDCL2との電圧比(VDCL1/VDCL2)は巻き数比(n1p/n2p)となる。
【0114】
第2の構成例の回生部30は、第1の構成例の直流リアクトル21aのリアクトル電圧VDCLに代えて直流リアクトル21bの第1の直流リアクトル21b−1のリアクトル電圧VDCL1を適用することで同様に動作する。
【0115】
回生部30において、キャパシタ32(C1)の一端は直流リアクトル21bの第1の直流リアクトル21b−1と第2の直流リアクトル21b−2の接続点に接続され、他端はダイオード31を介して第1の直流リアクトル21b−1の直流電源側端部に接続され、第1の直流リアクトル21b−1に発生するリアクトル電圧VDCL1が印加される。キャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1は、直流電源の直流電圧VAB及び変圧器34の変圧比に基づいて定まり、変圧器34の変圧比が(n2:n1)である場合にはVC1=(n2/n1)×VABの設定電圧となる。ダイオード31はパルス部20Bから回生部30のキャパシタ32(C1)に向かう方向を順方向として接続され、第1の直流リアクトル21b−1のリアクトル電圧VDCL1がキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた場合に、リアクトル電圧VDCL1がキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた電圧分について回生部30による回生が行われる。したがって、回生部30は第1の構成例と同様にキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1をしきい値として回生動作を行う。
【0116】
回生部30は、第1の構成例と同様に電圧クランプ部を構成し、第1の直流リアクトル21b−1の両端電圧を電圧クランプする。また、電圧検出部60は、第1の直流リアクトル21b−1のキャパシタ電圧VC1によるクランプ電圧を検出し、検出信号βを制御回路40に送る。制御回路40中の電圧判定部44bは、検出信号βによるキャパシタ電圧VCに基づいてキャパシタの充電状態を判定する。
【0117】
出力電圧Voには、直流電源の直流電圧VABに第1の直流リアクトル21b−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21b−2のリアクトル電圧VDCL2が重畳された電圧(Vo=VAB+VDCL1+VDCL2)が出力される。第1の直流リアクトル21b−1のリアクトル電圧VDCL1はキャパシタ電圧VC1にクランプされるため、出力電圧VoはVo=VAB+VC1+VDCL2となる。
【0118】
[直流パルス電源装置の第3の構成]
図8を用いて本発明の直流パルス電源装置の第3の構成例について説明する。第3の構成例は、パルス部20Cの昇圧チョッパ回路の構成において第1,2の構成例と相違し、その他の構成は第1,2の構成例と同様である。以下、第1,2の構成例と相違する構成について説明し、その他の共通する構成の説明は省略する。
【0119】
第2の構成例の昇圧チョッパ回路が備える直流リアクトル21bはタップ付き単巻きトランスで構成される。これに対して、第3の構成例の直流リアクトル21cは、第2の構成例の昇圧チョッパ回路のタップ付き単巻きトランスに代えて複巻きトランスで構成される。直流リアクトル21cの複巻きトランスは加極性の変圧器の例を示している。
【0120】
複巻きトランスによる直流リアクトル21cは、磁気結合された第1の直流リアクトル21c−1と第2の直流リアクトル21c−2とが並列接続された構成である。第1の直流リアクトル21c−1の一端は直流電源の低電圧側の端子Aに接続され、他端はスイッチング素子22のソースS端に接続される。第2の直流リアクトル21c−2の一端はスイッチング素子22のソースS端に接続され、他端は負荷側に接続される。
【0121】
スイッチング素子22がオン状態のときは、直流リアクトル21cの第1の直流リアクトル21c−1のスイッチング素子22側の端部は接地され、端子Bからオン状態にあるスイッチング素子22、及び第1の直流リアクトル21cを介して端子Aに直流リアクトル電流が流れる。この際、直流リアクトルにより第1の直流リアクトル21cに電磁エネルギーが蓄積される。
【0122】
次に、スイッチング素子22がオン状態からオフ状態に切り替わると、直流リアクトル21cの第1の直流リアクトル21c−1に蓄積された蓄積エネルギーにより第1の直流リアクトル21c−1にはリアクトル電圧VDCL1が発生し、第2の直流リアクトル21c−2には第1の直流リアクトル21c−1との磁気結合によりリアクトル電圧VDCL2が発生する。昇圧チョッパ回路は、スイッチング素子22のオン動作とオフ動作を繰り返すことにより、第1,2の構成例と同様に出力電圧Voを上昇させる。
【0123】
第1の直流リアクトル21c−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21c−2のリアクトル電圧VDCL2との電圧比は、第1の直流リアクトル21c−1と第2の直流リアクトル21c−2のインダクタンス比の比率に対応した値となる。直流リアクトル21cの第1の直流リアクトル21c−1と第2の直流リアクトル21c−2の複巻きコイルの巻き数比が(n1p:n2p)とした場合には、第1の直流リアクトル21c−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21c−2のリアクトル電圧VDCL2との電圧比(VDCL1/VDCL2)は巻き数比(n1p/n2p)となる。
【0124】
第3の構成例の回生部は、第2の構成例の直流リアクトル21bの第1の直流リアクトル21b−1のリアクトル電圧VDCL1と同様に動作する。
【0125】
回生部30において、キャパシタ32(C1)の一端は直流リアクトル21cの第1の直流リアクトル21c−1のスイッチング素子側の端部に接続され、他端はダイオード31を介して第1の直流リアクトル21c−1の直流電源側端部に接続され、第1の直流リアクトル21c−1に発生するリアクトル電圧VDCL1が印加される。キャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1は、直流電源の直流電圧VAB及び変圧器の変圧比に基づいて定まり、変圧器34の変圧比が(n2:n1)である場合にはVC1=(n2/n1)×VABの設定電圧となる。ダイオード31はパルス部から回生部30のキャパシタ32(C1)に向かう方向を順方向として接続され、第1の直流リアクトル21c−1のリアクトル電圧VDCL1がキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた場合に、リアクトル電圧VDCL1がキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた電圧分について回生部30による回生が行われる。したがって、回生部30は第1,2の構成例と同様にキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1をしきい値として回生動作を行う。
【0126】
回生部30は、第1の構成例と同様に電圧クランプ部を構成し、直流リアクトル21c−1の両端電圧を電圧クランプする。また、電圧検出部60は、直流リアクトル21c−1のキャパシタ電圧VC1によるクランプ電圧を検出し、検出信号βを制御回路40に送る。制御回路40中の電圧判定部44bは、検出信号βによるキャパシタ電圧VCに基づいてキャパシタの充電状態を判定する。
【0127】
出力電圧Voには、直流電源の直流電圧VABに第1の直流リアクトル21c−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21c−2のリアクトル電圧VDCL2が重畳された電圧(Vo=VAB+VDCL1+VDCL2)が出力される。第1の直流リアクトル21c−1のリアクトル電圧VDCL1はキャパシタ電圧VC1にクランプされるため、出力電圧VoはVo=VAB+VC1+VDCL2となる。なお、第1の直流リアクトル21c−1と第2の直流リアクトル21c−2との巻き数比が(n1p/n2p)であるときには、リアクトル電圧VDCL1及びVDCL2は(VDCL1/VDCL2=n1p/n2p)で表される。
【0128】
[直流パルス電源装置の第4の構成]
図9を用いて本発明の直流パルス電源装置の第4の構成例について説明する。第4の構成例は、パルス部20Dの昇圧チョッパ回路の直流リアクトルを構成するトランスの構成において第3の構成例と相違し、その他の構成は第3の構成例と同様である。
【0129】
第3の構成例の昇圧チョッパ回路が備える直流リアクトル21cは加極性の複巻きトランスで構成される。これに対して、第4の構成例の直流リアクトル21dは、第3の構成例の昇圧チョッパ回路の加極性の複巻きトランスに代えて減極性の複巻きトランスで構成される。
【0130】
複巻きトランスによる直流リアクトル21dは、磁気結合された第1の直流リアクトル21d−1と第2の直流リアクトル21d−2とを並列接続する構成である。第1の直流リアクトル21d−1の一端は直流電源の低電圧側の端子Aに接続され、他端はスイッチング素子22のソースS端に接続される。第2の直流リアクトル21d−2の一端は直流電源の低電圧側の端子Aに接続され、他端は負荷側に接続される。
【0131】
スイッチング素子22がオン状態のときは、直流リアクトル21dの第1の直流リアクトル21d−1のスイッチング素子22側の端部は接地され、端子Bからオン状態にあるスイッチング素子22、及び第1の直流リアクトル21d−1を介して端子Aに直流リアクトル電流が流れる。この際、直流リアクトルにより第1の直流リアクトル21d−1に電磁エネルギーが蓄積される。
【0132】
次に、スイッチング素子22がオン状態からオフ状態に切り替わると、直流リアクトル21dの第1の直流リアクトル21d−1に蓄積された蓄積エネルギーにより第1の直流リアクトル21d−1にはリアクトル電圧VDCL1が発生し、第2の直流リアクトル21d−2には第1の直流リアクトル21d−1との磁気結合によりリアクトル電圧VDCL2が発生する。昇圧チョッパ回路は、スイッチング素子22のオン動作とオフ動作を繰り返すことにより、第1,2,3の構成例と同様に出力電圧Voを上昇させる。
【0133】
第1の直流リアクトル21d−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21d−2のリアクトル電圧VDCL2との電圧比は、第1の直流リアクトル21d−1と第2の直流リアクトル21d−2のインダクタンス比の比率に対応した値となる。直流リアクトル21dの第1の直流リアクトル21d−1と第2の直流リアクトル21d−2の複巻きコイルの巻き数比が(n1p:n2p)とした場合には、第1の直流リアクトル21d−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21d−2のリアクトル電圧VDCL2との電圧比(VDCL1/VDCL2)は巻き数比(n1p/n2p)となる。
【0134】
第4の構成例の回生部の直流リアクトル21dは、第3の構成例の直流リアクトル21cの第1の直流リアクトル21cのリアクトル電圧VDCL1と同様に動作する。
【0135】
回生部30において、キャパシタ32(C1)の一端は直流リアクトル21dの第1の直流リアクトル21d−1のスイッチング素子側の端部に接続され、他端はダイオード31を介して第1の直流リアクトル21d−1の直流電源側端部に接続され、第1の直流リアクトル21d−1に発生するリアクトル電圧VDCL1が印加される。キャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1は、直流電源の直流電圧VAB及び変圧器の変圧比に基づいて定まり、変圧器34の変圧比が(n2:n1)である場合にはVC1=(n2/n1)×VABの設定電圧となる。ダイオード31はパルス部から回生部30のキャパシタ32(C1)に向かう方向を順方向として接続され、第1の直流リアクトル21d−1のリアクトル電圧VDCL1がキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた場合に、リアクトル電圧VDCL1がキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた電圧分について回生部30による回生が行われる。したがって、回生部30は第1,2,3の構成例と同様にキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1をしきい値として回生動作を行う。
【0136】
回生部30は、第1の構成例と同様に電圧クランプ部を構成し、直流リアクトル21d−1の両端電圧を電圧クランプする。また、電圧検出部60は、直流リアクトル21d−1のキャパシタ電圧VC1によるクランプ電圧を検出し、検出信号βを制御回路40に送る。制御回路40中の電圧判定部44bは、検出信号βによるキャパシタ電圧VCに基づいてキャパシタの充電状態を判定する。
【0137】
出力電圧Voには、直流電源の直流電圧VABに第2の直流リアクトル21d−2のリアクトル電圧VDCL2が重畳された電圧(Vo=VAB+VDCL2)が出力される。なお、第1の直流リアクトル21d−1と第2の直流リアクトル21d−2との巻き数比が(n1p/n2p)であるときには、リアクトル電圧VDCL1及びVDCL2は(VDCL1/VDCL2=n1p/n2p)で表される。そのため、VDCL1がVC1によってクランプされる場合、出力電圧VoはVo=VAB+VC1×(n1p/n2p)で表される。
【0138】
[直流パルス電源装置の第5の構成]
図10を用いて本発明の直流パルス電源装置の第5の構成例について説明する。第5の構成例は、昇圧チョッパ回路の直流リアクトルの設置態様において第2の構成例と相違し、その他の構成は第2の構成例と同様である。以下、第2の構成例と相違する構成について説明し、その他の共通する構成の説明は省略する。
【0139】
第5の構成例の昇圧チョッパ回路が備える直流リアクトル21eは第2の構成例の昇圧チョッパ回路の直流リアクトル21bと同様にトラップ付き単巻きトランスで構成されるが、電源ラインに対する設置態様において相違する。第2の構成例の直流リアクトル21bは直流電源の低電圧側の電源ラインに接続されるのに対して、第5の構成例の直流リアクトル21eは直流電源の高電圧側の電源ラインに接続される。
【0140】
タップ付き単巻きトランスによる直流リアクトル21eは、磁気結合された第1の直流リアクトル21e−1と第2の直流リアクトル21e−2とを直列接続して構成され、第1の直流リアクトル21e−1と第2の直流リアクトル21e−2の接続点をタップ点としている。第1の直流リアクトル21e−1の一端は直流電源の高電圧側の端子Bに接続され、第2の直流リアクトル21e−2の一端は負荷側に接続されて接地され、第1の直流リアクトル21e−1と第2の直流リアクトル21e−2の接続点のタップ点はスイッチング素子22のドレインD端に接続される。
【0141】
スイッチング素子22がオン状態のときは、直流リアクトル21eの接続点のタップ点は第2の直流リアクトル21e−2を介して接地され、端子Bから第1の直流リアクトル21e−1、及びオン状態にあるスイッチング素子22を介して端子Aに直流リアクトル電流が流れる。この際、直流リアクトルにより第1の直流リアクトル21e−1に電磁エネルギーが蓄積される。
【0142】
次に、スイッチング素子22がオン状態からオフ状態に切り替わると、直流リアクトル21eの第1の直流リアクトル21e−1に蓄積された蓄積エネルギーにより第1の直流リアクトル21e−1にはリアクトル電圧VDCL1が発生し、第2の直流リアクトル21e−2にはリアクトル電圧VDCL2が発生する。昇圧チョッパ回路は、スイッチング素子22のオン動作とオフ動作を繰り返すことにより、第1の構成例と同様に出力電圧Voを上昇させる。
【0143】
第1の直流リアクトル21e−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21e−2のリアクトル電圧VDCL2との電圧比は、第1の直流リアクトル21e−1と第2の直流リアクトル21e−2のインダクタンス比の比率に対応した値となる。直流リアクトル21の第1の直流リアクトル21e−1と第2の直流リアクトル21e−2のタップ付き単巻きコイルの巻き数比をn1p:n2pとした場合には、第1の直流リアクトル21e−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21e−2のリアクトル電圧VDCL2との電圧比(VDCL1/VDCL2)は巻き数比(n1p/n2p)となる。
【0144】
第5の構成例の回生部30は、第1の構成例の直流リアクトル21aのリアクトル電圧VDCLに代えて直流リアクトル21eの第1の直流リアクトル21e−1のリアクトル電圧VDCL1を適用することで同様に動作する。
【0145】
回生部30において、キャパシタ32(C1)の一端は直流リアクトル21eの第1の直流リアクトル21e−1と第2の直流リアクトル21e−2の接続点に接続され、他端はダイオード31を介して第1の直流リアクトル21e−1の直流電源側端部に接続され、第1の直流リアクトル21e−1に発生するリアクトル電圧VDCL1が印加される。キャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1は、直流電源の直流電圧VAB及び変圧器の変圧比に基づいて定まり、変圧器34の変圧比が(n2:n1)である場合にはVC1=(n2/n1)×VABの設定電圧となる。ダイオード31はパルス部20Dから回生部30のキャパシタ32(C1)に向かう方向を逆方向として接続され、第1の直流リアクトル21e−1のリアクトル電圧VDCL1がキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた場合に、リアクトル電圧VDCL1がキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1を越えた電圧分について回生部30による回生が行われる。したがって、回生部30は第1の構成例と同様にキャパシタ32(C1)のキャパシタ電圧VC1をしきい値として回生動作を行う。
【0146】
回生部30は、第1の構成例と同様に電圧クランプ部を構成し、直流リアクトル21e−1の両端電圧を電圧クランプする。また、電圧検出部60は、直流リアクトル21e−1のキャパシタ電圧VC1によるクランプ電圧を検出し、検出信号βを制御回路40に送る。制御回路40中の電圧判定部44bは、検出信号βによるキャパシタ電圧VCに基づいてキャパシタの充電状態を判定する。
【0147】
出力電圧Voには、直流電源の直流電圧VABに第1の直流リアクトル21e−1のリアクトル電圧VDCL1と第2の直流リアクトル21e−2のリアクトル電圧VDCL2が重畳された電圧(Vo=VAB+VDCL1+VDCL2)が出力される。第1の直流リアクトル21e−1のリアクトル電圧VDCL1はキャパシタ電圧VC1にクランプされるため、出力電圧VoはVo=VAB+VC1+VDCL2となる。
【0148】
第1の構成例〜第5の構成例に示した直流パルス電源装置において、制御回路部40は、一定周期でパルス出力を生成するパルスモードのパルス動作を制御するパルスモード制御部を備え、パルスモード制御部は、パルス幅を可変とするデューティー制御部を備える。デューティー制御部は、パルス動作の初期段階において、スイッチング素子を閉じて直流リアクトルに流れる直流リアクトル電流のパルス幅を漸増させることにより、スイッチング素子がオン状態の電圧時間積と、スイッチング素子がオフ状態の電圧時間積との差分が増加することを抑制し、パルスモードの初期段階における磁気飽和の発生を抑制する。
【0149】
また、スイッチング素子のS端子の電圧をサージ電圧よりも低い電圧にクランプして、スイッチング素子に加わる過剰な電圧上昇を抑制すると共に、パルスモード制御部のデューティー制御により、直流リアクトル21a〜21eの磁気飽和をリセットさせる。
【0150】
なお、上記実施の形態及び変形例における記述は、本発明に係る直流パルス電源装置の一例であり、本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。