特許第6835909号(P6835909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835909
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】歯科用石膏粉末
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/34 20060101AFI20210215BHJP
   C01F 11/46 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   A61C13/34 Z
   C01F11/46 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-108018(P2019-108018)
(22)【出願日】2019年6月10日
(62)【分割の表示】特願2017-219206(P2017-219206)の分割
【原出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2019-151667(P2019-151667A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】森 大三郎
(72)【発明者】
【氏名】福島 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】堀内 治彦
【審査官】 金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−054653(JP,A)
【文献】 独国実用新案第202010006531(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/34
C01F 11/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α半水石膏100重量部に対して、二水石膏2〜4重量部、硫酸カリウム0.5〜3重量部、減水剤0.05〜0.8重量部が配合されており、その他の添加剤が合計で0.3重量部を超えて配合されていない歯科用石膏粉末であって、
前記減水剤は、ポリエチレングリコールモノアリルエーテルと不飽和ジカルボン酸との共重合体の水溶性塩である、歯科用石膏粉末。
【請求項2】
前記減水剤の配合量が、前記α半水石膏100重量部に対して、0.15〜0.3重量部である、請求項1に記載の歯科用石膏粉末。
【請求項3】
前記硫酸カリウムの配合量が、前記二水石膏の配合量に対して、25〜100重量%である、請求項1又は2に記載の歯科用石膏粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用模型を作製する際に用いられ、水との練和により硬化体となる歯科用石膏粉末に関する。更に詳細には、歯科に適した練和時の流動性、硬化時間及び硬化体の強度を有する歯科用石膏粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野においては、口腔内に装着されるインレー,クラウン,ブリッジ,部分床義歯,全部床義歯等の各種歯科補綴物を作製する際に、口腔内の形状を模した型の作製に歯科用石膏が使用されている。
【0003】
この歯科用石膏は、通常、半水石膏であるα半水石膏(硬質石膏)及び/またはβ半水石膏(焼石膏)を主成分とした粉末の形態で提供されている。歯科医や歯科技工士等は使用時に所定量の歯科用石膏粉末及び練和用の水をゴム製の小型ボウル(ラバーボウル)に採取し、専用のスパチュラを用いて練和し、石膏スラリーとした後に、模型用として使用する場合には口腔内の印象を採得した陰型内に注入して硬化させることで口腔内状態を再現した作業用模型や顎模型等を作製する。この作業用模型や顎模型を元に歯科補綴物が作製される。
【0004】
従って歯科用石膏には、細部を再現するための精密さが必要とされ、同時に、再現した細部が破壊されたり傷んだりしない程度の強度も必要とされている。強度を確保するために混和する水は一定割合以下に抑える必要があることから、従来の歯科用石膏のスラリーの粘度は比較的高めであった。
【0005】
陰型内に注入して硬化させるという歯科用石膏の作業性の観点から、特に歯科用石膏のスラリーには細部にまで流れ込む流動性が求められる。また、歯科用石膏粉末と水との練和の際、スラリー中に直径0.2〜3mm程度の気泡が混入すると模型の精度に影響が出るため、気泡の混入を抑えることが重要である。しかしながら前述の通り、従来の歯科用石膏はスラリーの粘度が高いために気泡が入り易いという問題があった。
【0006】
一般に水と練和した後の組成物の流動性を高める方法としては、粉末に対する練和液の割合である混水比を大きくする方法が知られている。しかしながら、混水比を増大させると硬化後の硬化体の密度が低下して機械的強さが低下するという問題がある。この問題に対して、建築用コンクリートの分野では、コンクリート組成物中に減水剤やAE減水剤を添加することにより流動性を高める方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0007】
減水剤は、粉液を練和し易くする効果をもたらすことで混和時の水の量を減らし、硬化後の組成物の強度を向上させる物質であり、リグニンスルホン酸塩,オキシカルボン酸塩,ナフタレンスルホン酸塩,メラミンスルホン酸塩,ポリスチレンスルホン酸塩,ポリカルボン酸塩等の界面活性効果を持ったものが知られている。この減水剤を配合すると、粉液比を変化させることなくスラリーの粘度が低下するので流動性が向上し練和性や作業性を高めることが可能である。また、AE剤(Air-Entraining admixture)は、前記減水剤の効果に加えて、硬化体中に微細な独立気泡を一様に分散させる効果を有する物質である。
【0008】
しかしながら、歯科用石膏粉末に従来の減水剤を使用すると、硬化が著しく遅くなるという問題があり、5分以内に印象から取り外す等の短時間での硬化が要求される作業がある歯科分野では用いられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3584564号公報
【特許文献2】特開2001−31457号公報
【特許文献3】特開2006−282435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、歯科に適した練和時の流動性、硬化時間及び硬化体の強度を有する優れた歯科用石膏粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意研究した結果、半水石膏に対して特定量の二水石膏、硫酸カリウム、ポリカルボン酸塩系の減水剤を配合し、その他の添加剤は特定量以下とすると前記課題を解決できることを究明して本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は、α半水石膏100重量部に対して、二水石膏2〜4重量部、硫酸カリウム0.5〜3重量部、減水剤0.05〜0.8重量部が配合されており、その他の添加剤が合計で0.3重量部を超えて配合されていない歯科用石膏粉末であって、前記減水剤は、ポリエチレングリコールモノアリルエーテルと不飽和ジカルボン酸との共重合体の水溶性塩である、歯科用石膏粉末である。歯科用石膏粉末は、前記減水剤の配合量が、前記α半水石膏100重量部に対して、0.15〜0.3重量部であることが好ましく、前記硫酸カリウムの配合量が、前記二水石膏の配合量に対して、25〜100重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る歯科用石膏粉末は、歯科に適した練和時の流動性、硬化時間及び硬化体の強度を有する優れた歯科用石膏粉末である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る歯科用石膏粉末は、従来の歯科用石膏粉末には使用されなかった減水剤の中でもポリカルボン酸塩系の減水剤を配合する。この配合により、粉液を練和し易くする効果に加えて、硬化体中に微細な独立気泡を一様に分散させる効果が得られる。
ポリカルボン酸塩系とは、従来から主にコンクリートの分野で使用されてきた物が使用可能であり、例えば、Cが5〜6の鎖状オレフィンとエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物との共重合体の水溶性塩,ポリエチレングリコールモノアリルエーテルと不飽和ジカルボン酸との共重合体,ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体,末端にスルホン基を有する(メタ)アクリル酸アミドとアクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸との共重合体,ビニルスルホネートやアリールスルホネートやメタクリルスルホネートのようにスルホン基を有する単量体と(メタ)アクリル酸とその他の単量体の共重合体,スルホン基で置換された芳香族環を有する単量体とマレイン酸との共重合体,末端にスルホン基を有する単量体とポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルとポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エーテルと(メタ)アクリル酸との4者共重合体等を例示することができる。
【0015】
ポリカルボン酸塩系の減水剤の配合量は、半水石膏100重量部に対して0.05〜0.8重量部であり、好ましくは0.15〜0.3重量部である。更に好ましくは、0.15〜0.25重量部である。この減水剤の配合量は0.05重量部未満では前記効果が十分でなく、0.8重量部を超えると流動性の増大に寄与せず硬化後の耐久性も低下し、更に硬化時間の遅延が発生する。なお、減水剤の配合方法は懸濁液、粉末または粒状の何れでも可能であり、その配合時期は粉末中へのドライブレンドである。
【0016】
本発明に係る歯科用石膏粉末は、半水石膏を主成分とする従来からの歯科用石膏粉末に前述の特定の減水剤を配合する。半水石膏は、α半水石膏,β半水石膏,α半水石膏とβ半水石膏の混合物がある。
【0017】
本発明に係る歯科用石膏粉末は、特定量の二水石膏を含有する。二水石膏を配合することで硬化促進と硬化膨張増大の効果が得られる。この二水石膏の配合量は、半水石膏100重量部に対して2〜4重量部であり、好ましくは2〜3.5重量部である。更に好ましくは、2〜3重量部である。この二水石膏の配合量が2重量部未満であると硬化促進の効果が十分でなく、4重量部を超えると流動性が低下し、また硬化膨張が大きくなるため模型の精度が低下する。
【0018】
二水石膏には、天然石膏と化学石膏がある。化学石膏としては、硫酸と炭酸カルシウムから新たに合成されるものもあるが、その多くは、各種の化学プロセスの副産物として得られる副生石膏である。これらの化学石膏の平均粒径は概ね30〜60μmであるが、平均粒径が60μmよりも大きい結晶の二水石膏も使用できる。
【0019】
本発明に係る歯科用石膏粉末は、特定量の硫酸カリウムを含有する。硫酸カリウムを配合することで硬化促進及び硬化膨張抑制の効果が得られる。この硫酸カリウムの配合量は、半水石膏100重量部に対して0.5〜3重量部であり、その配合量が半水石膏100重量部に対して0.5重量部未満であると硬化促進の効果が十分でなく、3重量部を超えた場合は硬化が早くなり過ぎてしまう。好ましくは0.5〜3重量部である。また、前述の二水石膏との配合量の関係で定義してもよく、この場合には、硫酸カリウムの配合量が、二水石膏の配合量に対して25重量%以上〜同量と設定すれば、歯科用模型として適切な硬化膨張となるために好ましい。
【0020】
本発明に係る歯科用石膏粉末には、酒石酸カリウム等の硬化膨張抑制剤、公知の着色剤、軽量化材、クエン酸塩,ホウ酸塩,酢酸塩等の塩類、デン粉,アラビアゴム,カルボキシメチルセルロース,ゼラチン等の水溶性高分子等の公知の硬化遅延剤を配合してもよいが、これらの添加剤の配合量は、減水剤の効果を得るために半水石膏100重量部に対して0.3重量部を超えないことが必要である。
【0021】
本発明に係る歯科用石膏粉末には、前記ポリカルボン酸塩系の減水剤以外の減水剤は、流動性を高めた場合に歯科用石膏の硬化の遅延が著しいため、配合しない。この本発明では使用しない減水剤としては、ナフタリン系(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等)、メラミン系(メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物等)、アミノスルホン酸系(芳香族アミノスルホン酸ポリマー等)を挙げることができる。
【0022】
本発明に係る歯科用石膏粉末は、従来の歯科用石膏と同様の粉末形態であり、この粉末に適量の水、例えば粉末100重量部に対し18〜28重量部の水を加えてスラリー状とし、任意の形状に成形後、硬化して歯科用模型を作ることができる。
【0023】
以下、本発明に係る歯科用石膏粉末の実施例を挙げ詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
二水石膏、減水剤、硫酸カリウム、添加剤をポットミルに所定の原料を入れポットミルにて20分間混合し歯科用石膏粉末を作製した。
各実施例の配合を表1に、各比較例の配合を表2に纏めて示す。
【0025】
<硬化時間の評価>
各実施例及び各比較例にて作製した歯科用石膏粉末100gと水道水23gとをラバーボウルに入れ、石膏スパチュラにて混合しスラリーとした後、JIS T6605「歯科用硬質石膏」に定められた方法により物理的性質(硬化時間)を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0026】
<流動性の評価>
各実施例及び各比較例にて作製した歯科用石膏粉末100gと水道水23gとをラバーボウルに入れ、石膏スパチュラにて混合しスラリーとした後、JIS T6601「歯科鋳造用石こう系埋没材」に定められた方法によりこのスラリーの物理的性質(流動性)を測定した。結果を表1及び表2に示す。表中で評価を示す記号は以下の通りである。
◎ 60mmを超える
○ 40〜60mm
× 40mm未満
【0027】
<硬化体の5分後の強度の評価>
各実施例及び各比較例にて作製した歯科用石膏粉末100gと水道水23gとをラバーボウルに入れ、石膏スパチュラにて混合しスラリーとした。このスラリーを印象材へ流し込み5分経過後に印象材から石膏模型を取り外し、JIS T6605「歯科用硬質石膏」に定められた方法により物理的性質(強度)を測定した。結果を表1及び表2に示す。表中で評価を示す記号は以下の通りである。
◎ 10MPaを超える
○ 3〜10MPa
× 3MPa未満
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表中、Melflux2651F、Melflux4930F及びMelflux5581FはBASF社製のポリカルボン酸塩系の減水剤であり、MelfluxAP101FはBASF社製の変性ポリカルボン酸系減水剤であり、PowerconはBASF社製のナフタレンスルホン酸系減水剤であり、NL−G400はBASF社製のメラミンスルホン酸系減水剤である。
【0031】
表1より明らかな如く、実施例1〜8は硬化時間が5分以内で流動性及び5分後の強度が少なくとも評価が○以上であるが、表2の如くポリカルボン酸塩系の減水剤の配合量が本発明の範囲内であるが添加物の配合量が0.3重量部を超えている比較例1〜3は硬化時間が5分を超え且つ5分後の強度の評価が×であり、減水剤としてポリカルボン酸塩系の減水剤を使用していない比較例4〜16は流動性及び5分後の強度の少なくとも一方の評価が×であって歯科用石膏粉末として好ましいものではないことが判る。