特許第6836086号(P6836086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836086車両内装用表皮材料、その製造方法及び車両用シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836086
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】車両内装用表皮材料、その製造方法及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20210215BHJP
   B32B 27/30 20060101ALN20210215BHJP
   B32B 27/02 20060101ALN20210215BHJP
【FI】
   B60N2/58
   !B32B27/30 101
   !B32B27/02
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-87309(P2019-87309)
(22)【出願日】2019年5月7日
(62)【分割の表示】特願2015-65848(P2015-65848)の分割
【原出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2019-131188(P2019-131188A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2019年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】古田 愛
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 淳一
【審査官】 森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−111989(JP,A)
【文献】 特表2004−502040(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/001732(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 − 2/90
B32B 1/00 − 43/00
D06N 1/00 − 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然皮革又は合成皮革を用いた車両内装用表皮材料であって、
せん断剛性値が37.6[gf/(cm・degree)]以上41.8[gf/(cm・degree)]以下、
曲げ剛性値が2.12[gf・cm2/cm]以上2.4[gf・cm2/cm]以下、
引っ張り歪みが8.08[%]以上8.8[%]以下
となる条件を全て満たすことを特徴とする車両内装用表皮材料。
【請求項2】
天然皮革又は合成皮革を用いた車両内装用表皮材料であって、
せん断剛性値が37.6[gf/(cm・degree)]以上41.8[gf/(cm・degree)]以下、
曲げ剛性値が1.6[gf・cm2/cm]以上2.4[gf・cm2/cm]以下、
引っ張り歪みが8.4[%]以上8.8[%]以下
となる条件を全て満たすことを特徴とする車両内装用表皮材料。
【請求項3】
天然皮革又は合成皮革を用いた車両内装用表皮材料であって、
せん断剛性値が37.6[gf/(cm・degree)]以上41.8[gf/(cm・degree)]以下、
曲げ剛性値が2.12[gf・cm2/cm]以上2.4[gf・cm2/cm]以下、
引っ張り歪みが8.4[%]以上8.8[%]以下
となる条件を全て満たすことを特徴とする車両内装用表皮材料。
【請求項4】
前記合成皮革は、ポリ塩化ビニルの発泡層を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料。
【請求項5】
前記合成皮革は、表面側にポリ塩化ビニルのトップ層を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料。
【請求項6】
前記合成皮革は、裏面側に基布を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料。
【請求項7】
前記基布は、ポリエステルの糸による両面メリヤス編みで形成されていることを特徴とする請求項6に記載の車両内装用表皮材料。
【請求項8】
前記合成皮革は、ポリ塩化ビニルの発泡層と、表面側に配されたポリ塩化ビニルのトップ層と、を有し、
前記発泡層は、可塑剤が添加されたポリ塩化ビニルを原料とし、発泡処理が行われて形成されており、
前記トップ層は、可塑剤が添加されたポリ塩化ビニルを原料とし、発泡処理が行われていないことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料。
【請求項9】
前述の請求項1から8のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料を表皮として使用したことを特徴とする車両用シート。
【請求項10】
請求項7に記載の車両内装用表皮材料の製造方法であって、
前記合成皮革の引っ張り歪みは、前記基布の糸の種類、糸の太さ、糸の編み方、密度により調整されることを特徴とする車両内装用表皮材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料の製造方法であって、
前記天然皮革は、クロム鞣しやタンニン鞣しの鞣しの種別や、鞣しを行う際の各種の条件の選択により、せん断剛性値、曲げ剛性値及び引っ張り歪みの調整が行われることを特徴とする車両内装用表皮材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料の製造方法であって、
前記合成皮革のせん断剛性値及び曲げ剛性値を調整するために、前記合成皮革が有する
ポリ塩化ビニルの発泡層の発泡倍率を高くする場合には前記発泡層の厚さを厚くし、前記発泡層の発泡倍率を低くする場合には前記発泡層の厚さを薄くすることを特徴とする車両内装用表皮材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートその他の車両内装の表皮として使用される車両内装用表皮材料、その製造方法及び車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両内装用表皮材料としては、本皮、人造皮革、布等が多く使用されている。
特許文献1では、車両内装用表皮材料として、織物からなる表皮材とその裏面に積層されたポリウレタンフォームシートからなる裏打ち材とを備え、織物の繊度を規定することにより軽量化と耐久性の双方の向上を実現していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−220593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の車両内装用表皮材料は、表面に織物を用いているので、糸の種類や織り方、織りの密度等により、その特性を比較的容易に調整可能である。
一方、本皮や人造皮革を車両内装用表皮材料として用いた場合には、車両内装に要求される立体形状に合わせて表面を被覆する場合に、視覚的に良好な仕上がりが要求されるが、織物のように各種特性の調整が容易ではないことから、その要求に答えることは困難であった。
【0005】
本発明は、外観に優れた状態で立体形状の対象物を被覆することができる車両内装用表皮材料、その製造方法及び車両用シートを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
天然皮革又は合成皮革を用いた車両内装用表皮材料であって、
せん断剛性値が37.6[gf/(cm・degree)]以上41.8[gf/(cm・degree)]以下、
曲げ剛性値が2.12[gf・cm2/cm]以上2.4[gf・cm2/cm]以下、
引っ張り歪みが8.08[%]以上8.8[%]以下
となる条件を全て満たすことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、
天然皮革又は合成皮革を用いた車両内装用表皮材料であって、
せん断剛性値が37.6[gf/(cm・degree)]以上41.8[gf/(cm・degree)]以下、
曲げ剛性値が1.6[gf・cm2/cm]以上2.4[gf・cm2/cm]以下、
引っ張り歪みが8.4[%]以上8.8[%]以下
となる条件を全て満たすことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、
天然皮革又は合成皮革を用いた車両内装用表皮材料であって、
せん断剛性値が37.6[gf/(cm・degree)]以上41.8[gf/(cm・degree)]以下、
曲げ剛性値が2.12[gf・cm2/cm]以上2.4[gf・cm2/cm]以下、
引っ張り歪みが8.4[%]以上8.8[%]以下
となる条件を全て満たすことを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料において、
前記合成皮革は、ポリ塩化ビニルの発泡層を有することを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料において、
前記合成皮革は、表面側にポリ塩化ビニルのトップ層を有することを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料において、
前記合成皮革は、裏面側に基布を有することを特徴とする。
請求項7記載の発明は、請求項6に記載の車両内装用表皮材料において、
前記基布は、ポリエステルの糸による両面メリヤス編みで形成されていることを特徴とする。
請求項8記載の発明は、
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料であって、
前記合成皮革は、ポリ塩化ビニルの発泡層と、表面側に配されたポリ塩化ビニルのトップ層と、を有し、
前記発泡層は、可塑剤が添加されたポリ塩化ビニルを原料とし、発泡処理が行われて形成されており、
前記トップ層は、可塑剤が添加されたポリ塩化ビニルを原料とし、発泡処理が行われていないことを特徴とする。
請求項9記載の発明は、車両用シートにおいて、
前述の請求項1から8のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料を表皮として使用したことを特徴とする。
請求項10記載の発明は、
請求項7に記載の車両内装用表皮材料の製造方法であって、
前記合成皮革の引っ張り歪みは、前記基布の糸の種類、糸の太さ、糸の編み方、密度により調整されることを特徴とする。
請求項11記載の発明は、
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料の製造方法であって、
前記天然皮革は、クロム鞣しやタンニン鞣しの鞣しの種別や、鞣しを行う際の各種の条件の選択により、せん断剛性値、曲げ剛性値及び引っ張り歪みの調整が行われることを特徴とする。
請求項12記載の発明は、
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両内装用表皮材料の製造方法であって、
前記合成皮革のせん断剛性値及び曲げ剛性値を調整するために、前記合成皮革が有するポリ塩化ビニルの発泡層の発泡倍率を高くする場合には前記発泡層の厚さを厚くし、前記発泡層の発泡倍率を低くする場合には前記発泡層の厚さを薄くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、せん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの三つの特性について全てを好適な前述した数値範囲内とすることにより、皺の発生を抑え、外観に優れた状態で立体的な対象物の表面を被覆することが可能な車両内装用表皮材料を提供することが可能である。
【0011】
また、合成皮革がポリ塩化ビニルの発泡層を有する場合には、発泡倍率を適宜調節することにより、せん断剛性値や曲げ剛性値を適正な範囲内に調整することが可能となる。
【0012】
また、合成皮革が表面側にポリ塩化ビニルのトップ層を有する場合には、表面の保護を図ると共に、外観に対する装飾等の加工が容易となり、耐久性及び装飾性を向上させることが可能となる。
【0013】
また、合成皮革が裏面側に基布を有する場合には、基布の特性に応じて引っ張り歪みを適正な範囲内に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態としての合成皮革を用いた車両内装用表皮材料の断面図である。
図2】車両内装用表皮材料の引っ張り歪みの測定方法の説明図である。
図3】車両内装用表皮材料のせん断剛性値の測定方法の説明図である。
図4】車両内装用表皮材料の曲げ剛性値の測定方法の説明図である。
図5】車両内装用表皮材料の比較試験結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0016】
図1は、本実施形態としての合成皮革を用いた車両内装用表皮材料10の断面図である。
図示のように、車両内装用表皮材料10は、裏地となる基布1と、当該基布1の上に形成されたPVC(ポリ塩化ビニル)の発泡層2と、発泡層2の上に形成された表地となるPVCのトップ層3とからなる三層構造を有している。
上記車両内装用表皮材料10は、例えば、車両用シートの表面の被覆材として、或いは、車両内の内装の表皮材として使用され、使用の際には、トップ層3が表面側に向けられる。
【0017】
上記基布1は、ポリエステルの糸による両面メリヤス編みで形成されており、車両内装用表皮材料10の全体の厚さ1.1[mm]に対して基布1の厚さは0.3[mm]、1平方メートル当たりの重量が100[g]となっている。
発泡層2は、可塑剤が添加されたPVCを原料とし、発泡処理が行われて形成されている。
トップ層3は、可塑剤が添加されたPVCを原料とし、発泡処理は行われていない。
【0018】
車両内装用表皮材料10としては、上記合成皮革に加えて天然皮革も含まれるが、これらの皮革類は、せん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの三つの特性がそれぞれに規定された数値範囲内となる場合に、立体形状の表面を被覆する車両内装用表皮材料10が、立体形状の表面の曲面に滑らかに追従して変形し且つ密着し、皺等の発生が抑制される。
【0019】
ここで、上記各特性値の計測方法について説明する。なお、以下の説明では、合成皮革からなる車両内装用表皮材料10を試料とする場合を説明するが、天然皮革の場合も全く同じ方法で計測される。
また、この下記の計測方法は、川端季雄著「風合い評価の標準化と解析(第2版)」風合い計量と規格化研究会、日本繊維機械学会発行の記載を参考としているが、この文献は主に布の風合い評価を前提としているので、皮革の計測に当たっては、試料の寸法等を修正している。
【0020】
まず、引っ張り歪みは、図2に示すように、上記車両内装用表皮材料10を幅20[cm]の帯状とした試料の両端部をそれぞれチャックC,Cで挟持する。この時、チャックCとチャックCとの間は5[cm]の隙間を確保して、幅20[cm]、長さ5[cm]の範囲の車両内装用表皮材料10に対してその長さ方向に生じる引っ張り歪みを測定する。
二つのチャックC,Cは一方が固定され、他方が一方に対して離間する方向(車両内装用表皮材料10の平面に平行であって幅方向に直交する方向)に引っ張り荷重Fが加えられる。即ち、図2において下側のチャックCが固定され上側のチャックCが上方に移動する。引っ張り荷重Fは、0から最大500[gf/cm]まで徐々に増やしながら付加され、歪みの速度は4.00×10-3/secを維持する。
そして、最大引っ張り荷重の500[gf/cm]に達したときの引っ張り方向の歪み量を測定し、元の長さに対する比率を百分率で算出した値を引っ張り歪みεmとする。
【0021】
せん断剛性値は、図2の場合と同じように、引っ張り歪みと同じ幅20[cm]の車両内装用表皮材料10の試料を5[cm]の隙間を確保してチャックC,Cで両端を挟持する。そして、図3に示すように、二つのチャックC,Cに対して、一方が他方に対して離間する方向(車両内装用表皮材料10の平面に平行であって幅方向に直交する方向)に一定の引っ張り荷重W(=10[gf/cm])を加えつつ、せん断ずり速度を0.417[mm/sec]に保つように幅方向にせん断荷重FSを加え、当該荷重FSと車両内装用表皮材料10に生じるせん断角度φ[°(degree)]の変化を測定する。
そして、横軸をせん断角度φ、縦軸をせん断荷重FSとして、測定に基づくせん断角度φとせん断荷重FSとの関係を示す曲線を描く。さらに、当該曲線上の、せん断角度φ=0.5[°(degree)]の点とせん断角度φ=5[°(degree)]の点とを直線で結び、当該直線の傾きをせん断剛性値Gとして算出する。
【0022】
曲げ剛性値は、図4に示すように、幅4[cm]、長さ20[cm]の車両内装用表皮材料10の幅方向両端部をそれぞれ全長に渡って保持すると共に、当該両端部をそれぞれ車両内装用表皮材料10の長さ方向に沿った回転軸回りに互いに逆回転で曲げモーメントMを付加し、変形速度を0.5[cm-1/sec]とする等速度曲率の純曲げを行う。この時の曲げ方向は、車両内装用表皮材料10におけるトップ層3側(表面側)が凸となる方向とする。
そして、この時の曲率K[cm-1]と曲げモーメントM[gf・cm/cm]の変化を計測し、横軸を曲率K[cm-1]、縦軸を曲げモーメントM[gf・cm/cm]として、側手に基づく曲率Kと曲げモーメントMとの関係を示す曲線を描く。さらに、当該曲線上の、曲率0.5[cm-1]の点と5[cm-1]の点とを直線に結び、当該直線の傾きを単位長さ当たりの曲げ剛性値Bとして算出する。
【0023】
上記計測方法によって得られたせん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの三つの特性における好適な数値範囲は以下の通りである。
せん断剛性値:20[gf/(cm・degree)]以上56[gf/(cm・degree)]以下
曲げ剛性値 :1.6[gf・cm2/cm]以上2.5[gf・cm2/cm]以下
引っ張り歪み:7.5[%]以上10[%]以下
【0024】
せん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの全てがそれぞれについて定められた上記数値範囲となる場合に、合成皮革を用いた車両内装用表皮材料10は、立体形状の表面の曲面に追従して変形し密着すると共に、皺の発生が十分に低減された状態で立体形状を被覆することができる。なお、合成皮革に限らず天然皮革からなる車両内装用表皮材料についても同じ数値範囲の条件で、立体形状の曲面に追従して皺を十分に低減されて立体形状を被覆することができる。
【0025】
合成皮革を用いた車両内装用表皮材料10では、せん断剛性値と曲げ剛性値については、発泡層2のPVCの発泡倍率に応じてこれらの特性値を調整することができる。即ち、発泡倍率を高く調整すると、発泡層2が疎となってせん断剛性値は低くなるが、発泡層2は厚くなるので曲げ剛性値は高くなる。また、発泡倍率を低く調整すると、発泡層2が密となってせん断剛性値は高くなるが、発泡層2は薄くなって曲げ剛性値は低くなる。
また、引っ張り歪みは、基布1の糸の種類、糸の太さ、糸の編み方、密度等により調整することができる。
【0026】
また、天然皮革を用いた車両内装用表皮材料10は、クロム鞣しやタンニン鞣し等の鞣しの種別や、鞣しを行う際の各種の条件の選択により、せん断剛性値、曲げ剛性値及び引っ張り歪みの調整を行うことができる。
【実施例1】
【0027】
次に、せん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの三つの特性について全て好適な数値範囲となる車両内装用表皮材料10の実施例1〜3と一部又は全部の特性について好適な数値範囲外となる車両内装用表皮材料の比較例1〜8とより比較試験を行った結果を図5の図表に示す。
この比較試験では、車両用シートの表面を各実施例及び各比較例の車両内装用表皮材料により被覆した場合の外観評価を行った。外観評価は、車両用シートの前面又は後面と側面との境界部分における皺の発生数に応じて三段階での評価を行った。即ち、皺の発生数が少ないほど車両内装用表皮材料として優良であり、図5では、皺がない場合を「○」、皺が発生した場合を「×」とした。
また、図5に記載された各特性値が、前述した好適な数値範囲内である場合には数値の隣にカッコ書きで「〇」を併記し、前述した好適な数値範囲外である場合には数値の隣にカッコ書きで「×」を併記した。
【0028】
実施例1は、前述した基布1とPVCの発泡層2とPVCのトップ層3からなる三層構造の合成皮革であり、せん断剛性値:40[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:2.4[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:8.4[%]でいずれも好適な数値範囲内となる特性の車両内装用表皮材料10である。
【0029】
実施例2は、天然皮革であり、せん断剛性値:37.6[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:1.6[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:8.8[%]でいずれも好適な数値範囲内となる特性の車両内装用表皮材料10である。
なお、天然皮革を使用した各実施例及び各比較例では、いずれも天然皮革として牛革を使用している。
【0030】
実施例3は、天然皮革であり、せん断剛性値:41.8[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:2.12[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:8.08[%]でいずれも好適な数値範囲内となる特性の車両内装用表皮材料10である。
【0031】
比較例1は、基布とPVCの発泡層とPVCのトップ層からなる三層構造であって、基布の諸条件と発泡層の発泡倍率とが実施例1と異なる合成皮革であり、せん断剛性値:36[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:4[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:6.2[%]で、曲げ剛性値と引っ張り歪みとが好適な数値範囲外となる特性の車両内装用表皮材料である。
【0032】
比較例2は、天然皮革であり、せん断剛性値:38.9[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:3.5[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:5.3[%]で、曲げ剛性値と引っ張り歪みとが好適な数値範囲外となる特性の車両内装用表皮材料である。
【0033】
比較例3は、天然皮革であり、せん断剛性値:35.7[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:1.15[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:11.3[%]で、曲げ剛性値と引っ張り歪みとが好適な数値範囲外となる特性の車両内装用表皮材料である。
【0034】
比較例4は、基布と熱可塑性ウレタン樹脂とこれらの間の接着層からなる三層構造の合成皮革であり、せん断剛性値:26[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:1.3[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:9.3[%]で、曲げ剛性値のみが好適な数値範囲外となる特性の車両内装用表皮材料である。
【0035】
比較例5は、基布と熱硬化性ウレタン樹脂とこれらの間の接着層からなる三層構造の人造皮革であり、せん断剛性値:17.5[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:0.6[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:7.6[%]で、せん断剛性値と曲げ剛性値とが好適な数値範囲外となる特性の車両内装用表皮材料である。
【0036】
比較例6は、天然皮革であり、せん断剛性値:62.5[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:4.9[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:4[%]で、全ての特性値が好適な数値範囲外となる特性の車両内装用表皮材料である。
【0037】
比較例7は、天然皮革であり、せん断剛性値:55.8[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:4[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:5[%]で、曲げ剛性値と引っ張り歪みとが好適な数値範囲外となる特性の車両内装用表皮材料である。
【0038】
比較例8は、天然皮革であり、せん断剛性値:32.5[gf/(cm・degree)]、曲げ剛性値:2.5[gf・cm2/cm]、引っ張り歪み:7[%]で、引っ張り歪みのみが好適な数値範囲外となる特性の車両内装用表皮材料である。
【0039】
せん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの三つの特性について全て好適な数値範囲となる車両内装用表皮材料10の実施例1〜3については、合成皮革、天然皮革である場合を問わず、いずれも皺が生じることなく対象物となる車両用シートを被覆することができた。
一方、せん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの三つの特性の一部又は全部について好適な数値範囲となる条件が整わない各比較例1〜8の場合には、合成皮革、天然皮革である場合を問わず、いずれも対象物となる車両用シートを被覆したときに皺が発生した。
特に、比較例4及び比較例8は、三つの特性の内の二つが好適な数値範囲となっていたが皺の発生を抑えることができず、三つの特性が全て好適な数値範囲となることが必須であることが確認された。
【0040】
以上のように、せん断剛性値、曲げ剛性値、引っ張り歪みの三つの特性について全てが前述した好適な数値範囲内となる車両内装用表皮材料10は、合成皮革、天然皮革いずれの場合も、皺の発生を抑え、外観に優れた状態で立体的な対象物の表面を被覆することが可能である。
【0041】
また、合成皮革からなる車両内装用表皮材料10は、PVCの発泡層2を有するので、発泡倍率を適宜調節することにより、せん断剛性値や曲げ剛性値を適正な範囲内に調整することが可能となる。
さらに、合成皮革からなる車両内装用表皮材料10は、表面側にPVCのトップ層3を有するので、表面の保護を図ると共に、外観に対する装飾等の加工が容易となり、耐久性及び装飾性を向上させることが可能となる。
また、合成皮革からなる車両内装用表皮材料10は、裏面側に基布1を有するので、基布1の特性に応じて引っ張り歪みを適正な範囲内に調整することが可能となる。
【0042】
[その他]
前述した実施例では、車両用シートの被覆を例示したが、これにかぎらず、車内のシート以外の部位に用いる場合でも好適に被覆することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 基布
2 発泡層
3 トップ層
10 車両内装用表皮材料
図1
図2
図3
図4
図5