【実施例1】
【0056】
以下、本発明の実施例について説明する。第一の実施例では、主にLSSCをSOFCセルの導電性材料として評価した結果を示し、第二の実施例では、主にLSSCをカソード材料として評価した結果を示す。以下の実施例は、本発明を具体的に実施した例を示すものであり、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
《第一実施例:導電性材料》
第一実施例として、SOFCの導電性材料としてLSSCを用いる評価を行った。実施例1,2のLSSC成形体を作製して、1)電気伝導率と2)熱膨張係数を評価した。
[ペロブスカイト型酸化物成形体の作製]
〈実施例1〉
実施例1として、以下の手順によってLSSCの成形体を得た。
(LSSC成形体)
LSSC原料粉末の作製は、固相反応法により行った。所望のモル組成比のLSSCが得られるように、原料となる各種金属酸化物又は塩の粉末を秤量した。具体的には、La
2O
3粉末、SrCO
3粉末、Sm
2O
3粉末及びCo
3O
4粉末を使用した。これらを溶液中で湿式混合した後に溶媒を除去して得られた粉末を、800℃で焼成、及び粉砕することにより、平均粒径0.5μm(D50)のLSSC原料粉末を得た。
【0058】
得られた原料粉末を、一軸圧縮成形し、さらにCIP法(冷間静水圧プレス)を用いて、圧力245MPa条件下で行った圧粉成形後、さらに1000℃で焼結することにより、ペレット状に成形し、LSSC成形体を得た。(1)式〔La
z−xSm
xSr
1−zCoO
3〕において、z=0.5の場合のSmのモル組成比「x」が所定の範囲内にある複数のLSSC成形体サンプルを作製した(表1の実施例1のNo.1−1,1−2参照)。
【0059】
〈実施例2〉
実施例2として、以下の手順によってLSSCの成形体を得た。
(LSSC成形体)
実施例1と同様の製法でペレット状に成形したLSSC成形体を得た。(1)式〔La
z−xSm
xSr
1−zCoO
3〕において、Srのモル組成比「1−z」が所定値の場合における、Smの置換比率「x/z」が所定の範囲内にある、複数のLSSC成形体サンプルを作製した(表1の実施例2のNo.1〜3参照)。
【0060】
〈比較例1〉
(LSC成形体)
実施例1と同様の製法でペレット状に成形したLSC成形体を得た。〔La
zSr
1−zCoO
3〕において、Laのモル組成比「z」が、z=0.5のLSC成形体サンプルを作製した(表1の比較例1のNo.1参照)。
【0061】
〈比較例2〉
(LSC成形体)
実施例1と同様の製法でペレット状に成形したLSC成形体を得た。〔La
zSr
1−zCoO
3〕において、Srのモル組成比「1−z」が所定値の場合におけるLSC成形体サンプルを作製した(表1の比較例2のNo.1〜3参照)。
【0062】
[ペロブスカイト型酸化物成形体の評価]
(ペロブスカイト型酸化物成形体の同定)
得られた実施例1の各LSSC成形体サンプル、実施例2の各LSSC成形体サンプルについて、X線回折スペクトルデータ及びICP発光分光分析データを取得し、各成形体サンプルの結晶相の確認及び組成の同定を行った。
実施例1,2で得た各成形体サンプルが、本発明に係るペロブスカイト型酸化物を含有する成形体であることが解った。
【0063】
1)電気伝導率の評価
得られた実施例1、2のLSSCの各成形体サンプルについて、所定の環境温度下で電気伝導率を測定した。
図3に、環境温度(600〜800℃)に対する実施例1(表1のNo.1−1,1−2)のLSSC成形体の電気伝導率の変化を示した。
図4に、実施例2(表1のNo.1〜3)の各LSSC成形体について、650℃におけるSmの置換比率「x/z」に対する電気伝導率の変化を示した。各
図3,4について、比較例1,2のLSC成形体との比較結果を示した。
また、上記各実施例1,2の電気伝導率の評価結果を、比較例1,2と相対評価する形式で表1に示した。表1中◎、○、△の記号は、導電性材料としての評価を示し、◎は比較例よりも大変優れている、○は比較例よりも優れている、△は比較例に匹敵する〜やや劣る、評価を意味する。なお、比較基準である比較例自体の試験結果の評価については、省略した。
【0064】
図3より、温度環境が600〜800℃の範囲で変化した場合でも、LSSC成形体の方がLSCよりも電気伝導率が大きくなることを確認できた。600℃以下、800℃以上のさらに広い温度範囲においても、LSCよりも電気伝導率が大きくなることが推察できる。本発明者等は、環境温度の上昇に伴って電気伝導率が低下気味の傾向にあることに着目している。つまり、電気伝導率の温度依存性が金属的な挙動を示している。よって、電気特性の視点から金属代替材料として相応しい導電特性を有する材料であると解される。
【0065】
また、
図4より、広範囲のSrのペロブスカイト型酸化物に対するモル組成比(1−z)において、適宜なSmの置換比率の範囲で、LSSC成形体の電気伝導率の方がLSCよりも概ね大きくなっており、LSCのLaの一部をSmで置換することによる効果を確認することができた。
図4より、Smの置換比率x/zが0.01≦x/z≦0.25の範囲で、LSSCの電気伝導率の方がLSCよりも最大で20%程度大きくなっており、LSCのLaの一部をSmで置換することによる顕著な効果が認められた。Srのモル組成比(1−z)が、0.2≦1−z≦0.7において、LSSC成形体の電気伝導率の方がLSCよりも大きくなるであろうことが分かった。
z=0.3のとき、Smの置換比率x/zが0.01≦x/z≦0.5の範囲で、LSSCの電気伝導率の方がLSCよりも大きくなっている。また、z=0.5のとき、Smの置換比率x/zが0.01≦x/z≦0.72の範囲で、LSSCの電気伝導率の方がLSCよりも大きくなっている。さらに、z=0.8のとき、Smの置換比率x/zが0.01≦x/z<0.5の範囲で、LSSCの電気伝導率の方がLSCよりも大きくなっている。
【0066】
以上、説明したとおり、本発明のSOFC100(燃料電池)は、本実施形態又は本実施例に記載したペロブスカイト型酸化物を用いており、電解質層3と、電解質層3の一方側に設けられたカソード層2と、電解質層3の他方側に設けられたアノード層1と、カソード層2又はアノード層1の少なくとも一方に電気的に接続して電極反応する電子を集電し、又は単セルCないしSOFC100の外部に電気を取り出す集電体Eと、を備え、集電体Eを構成する集電部材52が、一般式ABO
3で示されるペロブスカイト型酸化物を導電性材料として含有し、ペロブスカイト型酸化物が、AサイトにLa及びSrを配列し、かつ、BサイトにCoを配列し、Aサイトに配列されるLa及びSrのうち、一方のLaの一部がSmで置換され、Smのペロブスカイト型酸化物に対するモル組成比は、置換前のLaのペロブスカイト型酸化物に対するモル組成比より小さい、ペロブスカイト構造を有する。
【0067】
よって、導電性材料の電気伝導率が、従来材料のLaSrCoO
3より大きくなることにより、集電部材52の電気抵抗に起因する電圧損失を低減することができ、SOFC100の出力特性を向上することができる。SOFC100は一般に単セルCを多数積層し、単セルCそれぞれを集電体Eを介して電気的に接続した状態で発電するので、電気抵抗が小さくなる効果が大きい。よって、燃料電池の出力特性を向上できる。
【0068】
上記の実施例2の結果より、LSSCのSrのモル組成比(1−z)の範囲が、0.2≦1−z≦0.7において、Smの置換比率x/zのとり得る範囲が0.01≦x/z<0.5にあれば、Smで置換する前のLSCよりも電気伝導率が大きくなるので好ましいことが分かる。更に、Smの置換比率x/zが0.01≦x/z≦0.25であれば、上記効果が得られることが明らかである点で特に好ましい。
【0069】
なお、Srのモル組成比(1−z)の範囲0.2≦1−z≦0.7は、すなわち、置換前のLaのモル組成比「z」を用いると、0.3≦z≦0.8の範囲に対応する。
【0070】
2)熱膨張係数の評価
得られた実施例2のLSSCの各成形体サンプルについて、所定の環境温度下で熱膨張係数を測定した。
図5に、650℃における実施例2(表1のNo.2)のSmの置換比率x/zに対する熱膨張係数の変化を示した。
また、上述の電気伝導率の評価と同様に、実施例2の熱膨張係数の評価結果を比較例2と相対評価する形式で表1に示した。
【0071】
本発明に係る導電性材料を所定の他部材に接合して用いる集電部材として扱う場合には、接合する相手部材の熱膨張係数に近い方が好ましい。集電部材は、本来特性として電気伝導率が大きいことが求められ、相手部材として金属材料が選択される場合が少なくない。相手方の金属材料の熱膨張係数としては、11〜12×10
−6(K
−1)程度が目安値として想定される(想定熱膨張係数)。
図5より、650℃下において、LSSC成形体がLSCよりも金属材料の想定熱膨張係数に近づいていることが明らかとなり、好ましい評価結果が得られた。
【0072】
ところで、LSCは、電気伝導率が大きく優れているものの、熱膨張係数が一般的な金属材料やセラミックス系材料よりも大きい。大きな電気伝導率と、他部材と同程度の熱膨張係数とを備えた導電性材料又はカソード材料の出現が期待されている。
本実施例は、このような問題を解決するためになされたものであり、高温で動作する条件下で大きな電気伝導率を有し、他部材の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有する集電部材を備えた燃料電池を提供することを目的とすることができる。
【0073】
上述したとおり、本発明のSOFC100(燃料電池)は、本実施形態に係る集電部材52が、本実施例に係るペロブスカイト型酸化物LSSCを導電性材料として含有している。よって、導電性材料の電気伝導率が大きくなることに加え、LaSmSrCoO
3の熱膨張係数がLaSrCoO
3よりも小さいので、高温下(作動温度下)でのセラミックス系材料と金属材料との熱膨張係数の不一致に起因して、集電部材52と金属材料を主成分とするセパレータ層51とが剥離しようとするのを抑制できる。よって、接触抵抗を低減できるのでさらに燃料電池の出力特性を向上できる。
【0074】
また、LaSmSrCoO
3の熱膨張係数がLaSrCoO
3よりも小さいので、セパレータ層51、カソード層2、アノード層1等の電池部材との熱膨張係数の不一致に起因して、割れ欠けを生じにくくなるので信頼性を高められる。
【0075】
上記の実施例2の結果より、LSSCのSrのモル組成比(1−z)の範囲が、0.2≦1−z≦0.7において、Smの置換比率x/zのとり得る範囲が0.01≦x/z<0.5であれば、Smで置換する前のLSCよりも電気伝導率が大きく、かつ、熱膨張係数が適正値に近づくので好ましい。更に、Smの置換比率x/zが0.01≦x/z≦0.25であれば、上記効果が得られることが明らかである点で特に好ましい。
【0076】
《第二実施例:カソード材料》
第二実施例として、SOFCのカソード材料としてLSSCを用いる評価を行った。実施例3のLSSC成形体を作製して第一実施例と同様にLSSC成形体の評価を行うと共に、実施例4に係る(SOFCの単セルに相当する)コイン型セルC(disk)を作製し、カソード材料としてLSSCを用いた場合の出力電圧を測定した。この出力電圧測定値に基づいてコイン型セルC(disk)に対応する円筒型セルC(cyl)の出力電圧をシミュレーションにより求め、実施例4のSOFCセルとして発電性能の評価を行った。
【0077】
[ペロブスカイト型酸化物成形体の作製]
〈実施例3〉
実施例3として、以下の手順によってLSSCの成形体を得た。
(LSSC成形体)
実施例1と同様の製法で、ペレット状に成形したLSSC成形体を得た。(1)式〔La
z−xSm
xSr
1−zCoO
3〕において、z=0.5の場合のSmのモル組成比「x」が所定の範囲内にある複数種類のLSSC原料粉末を合成して、複数のLSSC成形体サンプルを作製した(表1のNo.1〜4参照)。
【0078】
〈比較例3〉
(LSC成形体)
比較例1と同様の製法でペレット状に成形したz=0.5の場合のLSC〔La
0.5Sr
0.5CoO
3〕の成形体サンプルを得た。
【0079】
[ペロブスカイト型酸化物成形体の評価]
1)電気伝導率の評価
実施例1,2と同様に、得られた実施例3の各LSSC成形体サンプルについて同定を行い、実施例3の各成形体サンプルが、本発明に係るペロブスカイト型酸化物を含有する成形体であることを確認した。そして、得られた実施例3のLSSCの各成形体サンプルについて、所定の環境温度下で電気伝導率を測定した。
図6に、700℃下における実施例3のそれぞれのLSSCのSmの置換比率x/zに対する電気伝導率の変化を示した。
【0080】
図6より、700℃下において、実施例3の各LSSC成形体の方が比較例3のLSC成形体よりも電気伝導率が大きいことが、実施例1と同様に実験により確かめられた。Smの置換比率x/zが0<x/z≦0.72の範囲で、各LSSC成形体の電気伝導率の方が、比較例3のLSC成形体よりも大きくなる効果が認められた。
【0081】
2)熱膨張係数の評価
得られた実施例3の各LSSC成形体サンプルについて、700℃下での熱膨張係数を測定した。
図7に、実施例3の各LSSC成形体のSmの置換比率x/zに対する熱膨張係数の変化を示した。
【0082】
SOFCでは、カソード層とカソード層に接合する相手部材との熱膨張係数が近いことが好ましい。カソード層は、セラミックス系材料で形成される電解質層、反応抑止層若しくは集電部材や、又は金属系材料で形成される集電部材等の相手部材に接合されると想定される。これらの相手部材に対して整合性が取れる熱膨張係数としては、実施例1,2同様に、11〜12×10
−6(K
−1)程度が、目安値として想定される(想定熱膨張係数)。
図7のグラフより、700℃下において、実施例3の各LSSC成形体は、Smの置換比率x/zが0<x/z≦0.5の範囲で、比較例3のLSC成形体の熱膨張係数より小さくなり、想定熱膨張係数に近づいている効果が認められた。
【0083】
[コイン型セルの作製]
〈実施例4〉
実施例4のSOFCの出力特性を評価するために、以下の手順によってカソード材料にLSSCを用いたコイン型セルC(disk)を作製した。すなわち、(1)式〔La
z−xSm
xSr
1−zCoO
3〕における異なるモル組成比xのLSSC粉末を含有する複数種類のカソード層用ペースト(カソード材料)を用いて、
図9に示す各コイン型セルC(disk)を複数作製した。
(アノード層支持体前駆体の作製)
粒径約0.5μmの市販の酸化ニッケル(NiO)粉末と、粒径約0.5μmの8YSZ(Y
2O
3:8〔mol〕%)粉末と、を重量比で、6:4で混合して混合粉体を得た。このアノード極支持体材料の混合粉体と、溶剤としてキシレンと、有機結合材としてポリビニルブチラールと、気孔形成材としてアクリル樹脂と、可塑剤としてフタル酸エステルと、を重量比で、48〜58:24:8.5:5〜15:4.5の割合で加え、キシレン中に分散させ、ボールミルで混練してスラリーを作製した。このスラリーからドクタブレード法によってPETの基材シート上にシートを成形し、当該シートを乾燥させ、厚み0.5〜1.0mmのアノード層支持体前駆体を作製した。
【0084】
(アノード層用ペーストの作製)
アノード層支持体前駆体を作製したのと同じ酸化ニッケル(NiO)粉末と、同じ8YSZ粉末と、溶剤としてα−テルピネオールと、バインダとしてエチルセルロースと、を重量比で、48:32:18:2の割合で加えて混合し、十分混練してアノード層用ペーストを作製した。
【0085】
(電解質層用ペーストの作製)
粒径約0.5μmの市販のYSZ(Y
2O
3:8〔mol〕%−ZrO
2:92〔mol〕%)粉末と、溶剤としてテルピネオール系溶剤と、バインダとしてエチルセルロースと、を重量比で、65:31:4の割合で加えて混合し、十分混練して電解質層用ペーストを作製した。
【0086】
(反応抑止層用ペーストの作製)
粒径約0.5μmの市販の10GDC(Gd
2O
3:10〔mol〕%−CeO
2:90〔mol〕%)粉末に、溶剤としてα−テルピネオールと、バインダとしてエチルセルロースと、を重量比で、65:31:4の割合で加えて混合し、十分混練して反応抑止層用ペーストを作製した。
【0087】
(カソード層用ペーストの作製)
カソード材料として組成が異なるLSSC原料粉末を含有する複数種類のカソード層用ペーストを、以下の方法で作製した。(1)式〔La
z−xSm
xSr
1−zCoO
3〕において、z=0.5の場合のSmのモル組成比「x」が所定の範囲内(0<x≦0.36)にあるLSSC原料粉末を用いた。具体的には、実施例3の各LSSC成形体を作製したそれぞれの組成のLSSC原料粉末と同じ組成のLSSC粉末を用いた(表1参照)。所定のモル組成比xの各LSSC粉末に、溶剤としてα−テルピネオールと、バインダとしてエチルセルロースと、を重量比で、80:17:3の割合でそれぞれ加えて混合し、十分混練して複数種類のカソード層用ペーストを得た。
【0088】
(コイン型セルC(disk)の作製)
上記した異なるモル組成比のLSSC粉末を含有するそれぞれのカソード層用ペーストと、上記した他部材用のペースト等とを用いて、以下の方法により、カソード層を形成するカソード材料のみで異なる
図9に示すコイン型セルC(disk)を複数作製した。
上記のアノード層支持体前駆体を用いて、その片側の表面上に同心円状に上記のアノード層用ペーストをスクリーン印刷して乾燥し、直径約30mm、厚み約10μmの円形薄膜状のアノード層前駆体を積層した。さらに、アノード層前駆体の表面上に同心円状に上記の電解質層用ペーストをスクリーン印刷して乾燥し、直径約30mm、厚み約10μmの円形薄膜状の電解質層前駆体を積層した。さらに、同様に、電解質層前駆体の表面上に同心円状に上記の反応抑止層用ペーストをスクリーン印刷して乾燥し、直径約15mm、厚み約5μmの円形薄膜状の反応抑止層前駆体を積層した後、直径約25mmの円板状に切り抜いた。アノード層支持体/アノード層/電解質層がほぼ同径で、反応抑止層のみ小径をなして同心円状に積層される積層体前駆体を得た。
【0089】
次に、上記のアノード層支持体/アノード層/電解質層/反応抑止層の積層体前駆体を1350℃で3時間焼成した。アノード層支持体12、アノード層11、電解質層31及び反応抑止層32が、順に積層された円板状のハーフセル積層体を作製した。
【0090】
次に、上記のハーフセル積層体の反応抑止層32の表面上に同心円状にカソード層用ペーストをスクリーン印刷して乾燥し、直径約10mmのカソード層前駆体を積層した。ハーフセル積層体/カソード層の順に、小径をなして同心円状に積層される積層体前駆体を得た。
【0091】
次に、上記のハーフセル積層体/カソード層の積層体前駆体を1000℃で2時間焼成した。
図9に示すとおり、アノード層支持体12、アノード層11、電解質層31、反応抑止層32及びカソード層21が、順に積層されたコイン型セルC(disk)を作製した。コイン型セルC(disk)は、アノード層支持体12、アノード層11、電解質層31がほぼ同径をなし、反応抑止層32、カソード層21の順に小径をなし、これら各層が同心円状に積層され、アノード層11、電解質層31、反応抑止層32及びカソード層21全体で約50μmの厚みを有する円形の平板型構成を有する。
【0092】
(比較例4)
(コイン型セルC(disk)の作製)
比較例3のz=0.5の場合のLSC〔La
0.5Sr
0.5CoO
3〕粉末を用いて、実施例4と同じ製法で、同じ形状を有するコイン型セルC(disk)を作製した。
【0093】
[セル電圧評価]
(発電試験)
実施例4及び比較例4に係るコイン型セルC(disk)を用いて、以下の条件にて発電試験を行い、各コイン型セルC(disk)のセル電圧を実測定した。
実施例4のコイン型セルC(disk)は、略円形平板型の全体形状を有する。コイン型セルC(disk)は、
図9に示すとおり、アノード層支持体12、アノード層11、電解質層31がほぼ同径をなし、反応抑止層32、カソード層21の順に小径をなし、これら各層が図示において順に上方に同心円状に積層される構成を有している。
公知の発電試験装置を用いて、700℃の環境温度下で、アノード層支持体12の露出部に白金製のメッシュ状部材からなる電極体を接触させてアノード極側の集電を行い、同様に、カソード層21の表面に電極体を接触させてカソード極側の集電を行った。燃料ガスとしてH
2を用い、酸化ガスとして空気を用い、それぞれ200(ml/min)の流量で流した。所定の電流密度0.2(A/cm
2)における電極体間の電圧を測定した。
【0094】
(セル電圧:円筒型セル)
このように測定したコイン型セルC(disk)の電圧から、円筒型セルC(cyl)の電圧を推定した。具体的には、円筒型セルC(cyl)の伝送線モデル(等価回路)を用いて、発電試験で得られたコイン型セルC(disk)のセル電圧実測値に基づき、円筒型セルC(cyl)の出力電圧を求めるためのシミュレーションを行った。円筒型セルC(cyl)には所定の仮想集電部材(図示せず)が取り付けられているものと仮想して、上記のシミュレーション値から、仮想集電部材の集電損失分の電圧降下算出値を減算する補正を行い、円筒型セルC(cyl)の電圧を推定した。
円筒型セルC(cyl)は、
図10に示すように、径方向に沿って内側から外側に向かって順に、コイン型セルC(disk)のアノード層支持体12、アノード層11、電解質層31、反応抑止層32、カソード層21の5層の各層に対応する、アノード層支持体120、アノード層110、電解質層310、反応抑止層320、カソード層210を有する。
【0095】
円筒型セルC(cyl)は、軸方向に沿った所定長さ(例えばL=50mm)の電極長を有する。外部回路に接続される円筒型セルC(cyl)の集電部位は、アノード層110とカソード層210における軸方向に沿った一端部及び他端部にある。また、この伝送線モデルにおいてシミュレーションを行うために、各層を形成する材料の物性値として、既知の数値を与えた。その中で、カソード層210の電気伝導率としては、実施例3に係る各LSSC成形体で実測した数値を与えた。なお、カソード層210に接続した仮想カソード集電部材の電気伝導率としては、対応する実施例3に係る各LSSC成形体で実測した数値に基づき、30%の気孔率を有するものとして算出した数値を与えた。
【0096】
図8に、円筒型セルC(cyl)のセル電圧を示す。実施例4及び比較例4に係る各コイン型セルC(disk)の実測電圧値に基づいて算出した各円筒型セルC(cyl)の出力電圧と、LSSCのSmの置換比率x/zとの関係を表わすグラフを示した。
図8より、カソード層21のカソード材料としてLSSCを含有し、かつ、仮想カソード集電部材の導電性材料としてLSSCを用いると仮想した実施例4の各円筒型セルC(cyl)は、700℃下において、比較例4の円筒型セルC(cyl)に匹敵するセル電圧を示すことを確認できた。Smの置換比率x/zが0<x/z<0.72の範囲にある円筒型セルC(cyl)では、比較例4のセルと同様なセル電圧が得られており、評価することができた。特に、Smの置換比率x/zが0.08の近辺のLSSCを用いた円筒型セルC(cyl)では、比較例4の円筒型セルC(cyl)よりも大きなセル電圧が得られており、高評価することができた。
【0097】
[カソード材料の総合評価]
第二実施例においてLSSCをSOFCセルのカソード材料として用いた実施例3,4の評価結果を比較例と相対評価する形式で表1に示した。
【0098】
【表1】
【0099】
表1、および
図6〜8から、総合的に以下のとおり判断できる。すなわち、Smのペロブスカイト型酸化物に対する置換比率x/zのとり得る範囲が0<x/z<0.72であれば、電気伝導率が大きく、熱膨張係数が適正値に近づき、比較例のLSCを用いる場合と比べて遜色ないセル電圧を得られるので好ましい。更に、置換比率x/zのとり得る範囲が0.08≦x/z≦0.5であれば、上記効果が得られることが明らかである点で特に好ましい。
【0100】
また、SOFCセルの出力特性を評価するために、カソード層21の上に仮想カソード集電部材が積層され、カソード材料及び導電性材料がともにLSSCを含有する構成の円筒型セルC(cyl)を想定して検討を行ったが、本実施例は、当該構成に限定されない。少なくともカソード材料がLSSCを含有する構成のSOFCセルであっても、電気伝導率向上の効果を得ることができる。但し、SOFCセルは、異なるセラミックス同士や、金属−セラミックス等の異種材料の接合体として構成されるので、異なる材料の界面においては、絶縁性反応物が生じたり、成分元素の相互拡散が進み電極反応活性が阻害されたりする虞を内包している。カソード層とカソード層に接合されるカソード集電層ないし集電体とが、同じ材料であれば、このような障害の発生を抑制できるので好ましい。
【0101】
なお、LSCは、電気伝導率が大きく優れているものの、熱膨張係数が一般的な金属材料やセラミックス系材料よりも大きい。大きな電気伝導率と、他部材と同程度の熱膨張係数とを備えたカソード材料の出現が期待されている。本実施例は、このような問題を鑑みて行ったものであり、高温で動作する条件下で大きな電気伝導率を有し、他部材の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するカソード層を備えた燃料電池を提供することを目的としている。
【0102】
以上、詳述したとおり、本発明のSOFC100(燃料電池)は、本実施形態又は本実施例に記載したペロブスカイト型酸化物を用いており、電解質層3と、電解質層3の一方側に設けられたカソード層2と、電解質層3の他方側に設けられたアノード層1と、カソード層2又はアノード層1の少なくとも一方に電気的に接続して電極反応する電子を集電し、又は単セルCないしSOFC100の外部に電気を取り出す集電体Eと、を備え、集電体Eを構成する集電部材52又はカソード層2の少なくとも一方が、一般式ABO
3で示されるペロブスカイト型酸化物を導電性材料又はカソード材料として含有し、ペロブスカイト型酸化物が、AサイトにLa及びSrを配列し、かつ、BサイトにCoを配列し、Aサイトに配列されるLa及びSrのうち、一方のLaの一部がSmで置換され、Smのペロブスカイト型酸化物に対するモル組成比は、置換前のLaのペロブスカイト型酸化物に対するモル組成比より小さい、ペロブスカイト構造を有する。
【0103】
よって、導電性材料の電気伝導率が、従来材料のLaSrCoO
3より大きくなることにより、集電部材52の電気抵抗に起因する電圧損失を低減することができ、SOFC100の出力特性を向上することができる。SOFC100は一般に単セルCを多数積層し、単セルCそれぞれを集電体Eを介して電気的に接続した状態で発電するので、電気抵抗が小さくなる効果が大きい。そのうえで、LaSmSrCoO
3の熱膨張係数は、LaSrCoO
3よりも低減し、金属材料やセラミックス系材料を始めとした他部材の熱膨張係数に近づく。つまり。LaSmSrCoO
3の熱膨張係数がLaSrCoO
3よりも小さいので、高温下(作動温度下)でのセラミックス系材料と金属材料との熱膨張係数の不一致に起因して、集電部材52と金属材料を主成分とするセパレータ層51とが剥離しようとするのを抑制できる。よって、接触抵抗を低減できるのでさらに燃料電池の出力特性を向上できる。
【0104】
よって、第一実施例で述べた効果に加えて、カソード材料の電気伝導率が、従来材料のLaSrCoO
3より大きくなる。LaSmSrCoO
3は、LaSrCoO
3と同様に酸素活性化触媒機能、酸素イオン導電性及び電子導電性を有している。そのうえで、LaSmSrCoO
3の熱膨張係数がLaSrCoO
3よりも小さいので、高温下(作動温度下)での他のセラミックス系材料との、又は金属材料との熱膨張係数の不一致に起因して、カソード層2と金属材料を主成分とするセパレータ層51とが、若しくはカソード層2とセラミックス系材料を主成分とする電解質層3や集電体Eとが、剥離しようとするのを抑制できる。従来公知のLaSrCoO
3の熱膨張係数は、SOFC用として一般的に用いられる金属やセラミックスの他材料と比較して相当大きく、熱膨張係数の整合性を取るのが難しくなる傾向があったので、導電性能を活用しながら熱膨張係数が低減される効果が際立つ。よって、接触抵抗を低減できるのでさらに燃料電池の出力特性を向上できる。
なお、上述した実施例では、カソード材料として好ましいLaSrCoO
3の組成について、Smの置換比率x/zをパラメータとする好ましい範囲について具体的に説明したが、Smのモル組成比xをパラメータとして用いても同様の好ましい範囲を有することができる。
【0105】
さらに、LaSmSrCoO
3を導電性材料及びカソード材料とする仮想集電部材及びカソード層210を備えた円筒型セルC(cyl)は、従来材料のLaSrCoO
3を導電性材料及びカソード材料とするものよりも、出力特性を高めることができる。また、LaSmSrCoO
3を導電性材料及びカソード材料とする仮想集電部材及びカソード層210を備えた円筒型セルC(cyl)は、カソード層とカソード層に接合される(仮想)カソード集電部材とが、同じ材料なので、上述した電極反応活性が阻害される障害の発生を抑制することができ、SOFCセルの出力特性の劣化を抑制することができる。
【0106】
また、LaSmSrCoO
3の熱膨張係数がLaSrCoO
3よりも小さいので、セパレータ層51、集電体E(集電部材52)、電解質層3等の電池部材との熱膨張係数の不一致を低減することで、割れ欠けが生じにくくなるので信頼性を高められる。