【実施例1】
【0016】
図1は、実施例1の発光素子の構成を示した図である。
図1のように、実施例1の発光素子は、GaNからなる基板10と、基板10表面上に順に積層されたn層11、発光層12、p層13と、を有している。また、p層13上には透明電極14が設けられ、透明電極14上にはp電極15が設けられている。また、p層13表面からn層11に達する溝が設けられ、その溝の底面に露出するn層11上にn電極16が設けられている。また、p電極15上、およびn電極16上を除いて上面は絶縁膜17に覆われている。実施例1の発光素子はフリップチップ型の素子であり、基板10裏面側から光を取り出す構造である。
【0017】
基板10はGaNに限らず、III 族窒化物半導体であればよい。たとえば、AlGaN、InGaN、AlGaInNなどを用いることができる。基板10の裏面(n層11が接する側とは反対側の面)には、凹凸が設けられている。
【0018】
n層11、発光層12およびp層13の構造は、従来知られている任意の構造とすることができる。また、電極構造も従来知られている任意の構造とすることができる。
【0019】
また、実施例1の発光素子はフリップチップ型であるが、フェイスアップ型の素子や上下方向に導通を取る縦型の素子など、任意の構造の発光素子であってよい。フェイスアップ型の素子の場合、基板10裏面には凹凸を設ける必要はない。
【0020】
次に、実施例1の発光素子の製造工程について、
図2−4を参照に説明する。
【0021】
まず、GaNからなる基板10上に、発光素子の素子構造を形成する。具体的には、まず、基板10上に、MOCVD法によってn層11、発光層12、p層13を順に積層する。次にp層13上の所定領域にスパッタや蒸着によって透明電極14を形成し、透明電極14上にスパッタや蒸着によってp電極15を形成する。そして、p層13の素子分離する領域とn電極16の形成領域をドライエッチングしてn層11を露出させる。次に、n層11上にスパッタや蒸着によってn電極16を形成する。その後、p電極15およびn電極16上を除いて上面全体を覆うようにして絶縁膜17を形成する(
図2(a)参照)。
【0022】
次に、基板10の裏面を研磨して基板10の厚さを140
μmに薄くする。基板10の厚さはこの値に限らないが、光取り出しや分割の容易さのため、基板10は50〜250μmの厚さに薄くするのがよい。
【0023】
そして、基板10裏面に凹凸加工を施す(
図2(b)参照)。マスクはナノインプリントなどによって形成し、ドライエッチングやウェットエッチングによって基板10裏面をエッチングする。基板10裏面はGaNの窒素極性面であるため、KOH、TMAHなどによってウェットエッチング可能である。この凹凸により、光取り出しを高めている。なお、発光素子をフェイスアップ型とする場合には、基板10裏面の凹凸加工は行わなくてよい。
【0024】
次に、素子構造の上面(p電極15上および絶縁膜17上)に熱剥離テープ20を貼り付けてウェハを支持する(
図2(c)参照)。熱剥離テープ20は、熱剥離温度が100℃以上のものが望ましい。100℃未満では次工程のレーザー照射の熱で発泡して剥離してしまう可能性がある。また、熱剥離テープ20の粘着力は5N/20mm以上のものが望ましい。これよりも粘着力が弱いと、次工程のスクライブ溝形成においてウェハから熱剥離テープ20が剥がれてしまう場合がある。熱剥離テープ20には、たとえば日東電工製の3193MSを用いることができる。
【0025】
次に、素子分割予定のラインに沿って基板10裏面にレーザーを照射してGaNを蒸発させ、格子状のパターンのスクライブ溝21を形成する(
図2(d)参照)。スクライブ溝21の深さは、基板10の厚さの10〜50%とすることが望ましい。この範囲であれば、後のブレーキングによって基板10を個々の素子ごとに分割することが容易となる。
【0026】
このとき、スクライブ溝21の底面や側面には変質層22が形成される。変質層22は、酸化ガリウムや変質したGaNが混合した状態であると考えられる。変質層22には黒色の部分が存在する。そのため、変質層22は光を吸収し、光取り出しを悪化させてしまう。そこで、後述の工程により変質層22を除去する。
【0027】
次に、加熱して熱剥離テープ20をウェハから剥がす(
図3(a)参照)。熱剥離テープ20は加熱により発泡して粘着力を失い、自然にウェハから浮き上がって剥離する。UVテープを用いた場合、UV照射で粘着力を失った後も真空吸着して張りつき、UVテープを剥がす際の力によって基板10が割れてしまうことがあった。しかし、熱剥離テープ20を用いれば、発泡により真空吸着で張りつくことはないので、このような基板10の割れを生じることなく、素子構造上面から熱剥離テープ20を剥がすことができる。
【0028】
次に、素子構造上面全体を覆うようにして保護膜23を形成する(
図3(b)参照)。保護膜23は、次工程のウェットエッチングによってp電極15やn電極16、絶縁膜17がエッチングされないように保護するために設けるものである。保護膜23は、レジストを塗布後、加熱して固化させることにより形成する。保護膜23の厚さは、3μmである。保護膜23のレジスト材料は、次工程のウェットエッチングに耐性を有した任意の材料を用いることができる。具体的にはフッ酸系溶液に耐性を有した材料であればよい。また、保護膜23の厚さも、次工程のウェットエッチングにおいてp電極15やn電極16、絶縁膜17が露出してしまわない厚さであれば任意の厚さでよい。
【0029】
次に、ウェットエッチングによって変質層22を除去する(
図3(c)参照)。ウェットエッチングは、
図4に示すように、BHF(バッファードフッ酸)によるウェットエッチング(ステップS1)と、MEA(モノエタノールアミン)によるウェットエッチング(ステップS2)とを交互に複数回繰り返し行う。変質層22を除去することにより、変質層22による光の吸収を低減し、発光素子の光取り出しを向上させることができる。なお、保護膜23はMEAにより溶けて薄くなるため、ウェットエッチング毎に保護膜23を塗布し直してもよい。
【0030】
BHFによるウェットエッチングは、ダイキン工業製のフッ酸の濃度が15%のものを使用し、BHFの温度55℃で20分間行う。このBHFによるウェットエッチングでは、変質層22の成分のうち酸化ガリウムを除去することができる。なお、BHFの温度は上記に限らないが、温度が低いと変質層22を十分に除去できないため50℃以上とすることが望ましい。より望ましくは50〜80℃、さらに望ましくは50〜70℃である。また、エッチング時間も上記に限らないが、変質層22を十分に除去するために5〜60分間とすることが望ましい。より望ましくは5〜40分間、さらに望ましくは10〜30分間である。
【0031】
なお、BHF以外にもフッ酸系溶液であれば任意の材料を用いることができる。たとえば、フッ酸などを用いてもよい。
【0032】
MEAによるウェットエッチングは、東京応化工業製の剥離106(MEAの濃度は75%)を使用し、溶液の温度120℃で6分間行う。このMEAによるウェットエッチングでは、変質層22の成分のうち、変性したGaNを除去することができる。なお、
MEAの温度は上記に限らないが、温度が低いと変質層22を十分に除去できないため100℃以上とすることが望ましい。より望ましくは100〜150℃、さらに望ましくは110〜130℃である。また、エッチング時間も上記に限らないが、変質層22を十分に除去するために2〜20分間とすることが望ましい。より望ましくは3〜15分間、さらに望ましくは5〜10分間である。
【0033】
なお、MEA以外にも、GaNに対するエッチングレートが十分に低いアルカリ溶液であれば任意のものを用いることができ、pHが13以下の溶液が好ましい。たとえば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メタノールアミン、などのアルカノールアミン、アンモニアなどを用いてもよい。
【0034】
ウェットエッチングは、詳細には以下のように行う。BHFによるウェットエッチング、水による洗浄、IPA(イソプロピルアルコール)による洗浄、MEAによるウェットエッチング、IPAによる洗浄、水による洗浄、を1セットとして、これを数セット繰り返す。洗浄をこのような順序で行うのは、剥離106は直接水に触れると強アルカリ化してしまうためである。
【0035】
BHFによるウェットエッチングとMEAによるウェットエッチングを1セットとしてその繰り返し回数は3回以上とすることが望ましい。3回以上であれば変質層22を十分に除去することが可能となる。特に、スクライブ溝21の格子状のパターンのうち、十字に交差する部分は、レーザーの照射が重複するため他の領域よりも溝が深くなるが、このような深い領域であっても3回以上の繰り返しであれば十分に変質層22を除去することができる。より望ましくは3〜10回、さらに望ましくは4〜7回である。
【0036】
BHFによるウェットエッチングと、MEAによるウェットエッチングを繰り返し行うのは次の理由による。変質層22は、酸化ガリウムと変性したGaNとが混合した状態である。そのため、BHFによるウェットエッチングのみでは、変性したGaNがエッチングストッパとして作用し、MEAによるウェットエッチングのみでは、酸化ガリウムがエッチングストッパとして作用してしまい、たとえエッチング時間を長く取ったとしても変質層22を十分に除去することはできない。そこで、実施例1では、BHFによるウェットエッチングとMEAによるウェットエッチングを交互に繰り返すことで、酸化ガリウムと変性したGaNの一方がエッチングストッパとして作用してしまうのを回避し、変質層22を十分に除去できるようにしている。
【0037】
なお、実施例1では最初にBHFによるウェットエッチングを行い、次にMEAによるウェットエッチングを行って、以下それを交互に繰り返し行うようにしているが、このような順番で行うのはMEAが保護膜23を溶かしてしまうためである。
【0038】
BHFは、GaNをウェットエッチングしない。また、MEAは、GaNのウェットエッチングレートが遅い。そのため、上記の変質層22除去のウェットエッチング工程では、基板10裏面の凹凸構造に変化を及ぼすことはなく、凹凸形状をそのまま維持することができる。また、電極保護のための保護膜23を設けており、この保護膜23はBHFに耐性を有した材料を用いているため、電極構造も維持することができる。つまり、発光素子構造には影響を与えることなく変質層22を除去することができる。
【0039】
次に、素子構造上面を覆っていた保護層23を除去し、基板10裏面にUVテープ24を貼り付ける。そして、基板10表面側から刃を当てて、ブレーキングによって個々の発光素子に分割する(
図3(d)参照)。以上によって実施例1の発光素子が製造される。
【0040】
以上、実施例1の発光素子の製造方法によれば、レーザー照射により基板10のスクライブ溝21に生じた変質層22を容易に除去することができる。その結果、変質層22による光の吸収が低減され、発光素子の光取り出しを向上させることができる。特に実施例1の発光素子の製造方法では、基板10裏面の凹凸加工や電極構造など、発光素子の素子構造に変化を及ぼすことなく、変質層22を除去することができる。
【0041】
次に、ウェットエッチングによる変質層22除去に関する実験結果について説明する。
図5は、変質層22除去前のスクライブ溝21を上面および側面から撮影した写真である。スクライブ溝21の側面に沿って変質層22が形成されていることが確認できる。
【0042】
図6は、ウェットエッチングによる変質層22除去後のスクライブ溝21を上面および側面から撮影した写真である。ウェットエッチングは、BHFによるウェットエッチングとMEAによるウェットエッチングを1セットとして1〜3回繰り返した。また、BHFによるウェットエッチングは、温度55℃、5分間、10分間、20分間とし、MEAによるウェットエッチングは、温度120℃、6分間とした。また、比較のため、温度55℃で20分間のBHFによるウェットエッチングのみとした場合も変質層22が除去できるかどうか確認した。
【0043】
図6のように、BHFによるウェットエッチングの時間がいずれの場合でも、繰り返し回数が増えるごとに変質層22が少なくなり、繰り返し回数が3回では変質層22は見られなくなった。ただし、繰り返し回数が1、2回の場合を見ると、エッチング時間が長いほど変質層22が少なくなることがわかった。この結果、最も望ましいのはBHFによるエッチング時間を20分間とし、繰り返し回数を3回とすることであるとわかった。
【0044】
また、
図6のように、BHFによるウェットエッチングのみの場合は、繰り返し回数1、2回目で変質層22が若干除去できているものの、繰り返し回数が2回目と3回目で変質層22の残量がほとんど変化せず、BHFによるウェットエッチングのみでは繰り返し回数を増やしても変質層22を除去しきれないことがわかった。
【0045】
図7は、TMAH水溶液によってウェットエッチングを行った後のスクライブ溝21を上方から撮影した写真である。TMAH水溶液の温度は60℃とし、エッチング時間は60分とした。
図7のように、スクライブ溝21の側面には所々変質層22が残っており、TMAHによるウェットエッチングでは十分に変質層を除去できないことがわかった。
【0046】
図8は、BHFによるウェットエッチングを行い、さらにその後にMEAによるウェットエッチングを行った後のスクライブ溝21を上方から撮影した写真である。BHFによるウェットエッチングは、温度を常温とし、20分間行った。また、MEAによるウェットエッチングでは、温度を常温とし、6.5分間行った。
図8のように、スクライブ溝21の側面にはわずかに変質層22が残っていた。この結果、エッチングは常温よりも高い温度で行うことが望ましいことがわかった。