【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
[製造例1]プロアントシアニジンガレート類の調製
超純水1.2Lに溶解したポリフェノンG(緑茶抽出物粉末、三井農林株式会社製)100gをDIAION HP20カラム(70mm×310mm、三菱化学株式会社製)に供し、超純水1.8L、20%、40%、60%、80%メタノール(水/メタノール=8/2、6/4、4/6、2/8(体積比))水溶液各3L、アセトン3Lで順次溶出した。各溶出液を減圧濃縮、凍結乾燥を行い、水画分46.02g、20%メタノール画分16.97g、40%メタノール画分20.28g、60%メタノール画分14.25g、80%メタノール画分1.87g、アセトン画分0.50gを得た。
【0036】
メタノール75mLに溶解した40%メタノール画分19.70gをTOYOPEARL HW-40Cカラム(40mm×440mm、東ソー株式会社製)にて分画した(移動相:メタノール、流速14.7mL/min)。溶出液を濃縮、凍結乾燥して、画分1(保持時間0〜60分)8.04g、画分2(同60〜150分)10.72g、画分3(同150〜270分)0.53gを得た。
【0037】
0.52gの画分3を、Mightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm、関東化学株式会社製)を用いた分取HPLCにより分画した(カラム温度:26℃、流速:16mL/min、移動相A:水/ギ酸=1000/2(体積比)、移動相B:メタノール、グラジエントプログラム:0〜50分まで移動相Bを体積比で10〜30%に上昇→50〜51分まで移動相Bを体積比で30〜95%に上昇→51〜60分まで移動相Bを体積比で95%に保持)。溶出液を濃縮、凍結乾燥して、画分3-1(保持時間0〜12分)3mg、画分3-2(同12〜15分)64mg、画分3-3(同15〜19分)48mg、画分3-4(同19〜22分)21mg、画分3-5(同22〜27分)31mg、画分3-6(同27〜31分)35mg、画分3-7(同31〜54分)142mg、画分3-8(同54〜58分)14mgを得た。
【0038】
63mgの画分3-2をMightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm)を用いた分取HPLCにより精製(移動相:水/酢酸エチル/ギ酸=970/30/1(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min)を行い、(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCgを2mgと、(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgを37mg得た。
【0039】
46mgの画分3-3をMightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm)を用いた分取HPLCにより2回の精製(1回目 移動相:水/酢酸エチル/ギ酸=920/80/1(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min。2回目 移動相:水/アセトニトリル/ギ酸=920/80/1(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min)を行い、(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECgを16mg得た。
【0040】
19mgの画分3-4をMightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm)を用いた分取HPLCにより精製(移動相:水/アセトニトリル/ギ酸=910/90/2(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min)を行い、(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgを11mg得た。
【0041】
[製造例2](-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCの調製
8mgの(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgを超純水1.5mLに溶解し、スミチームTAN(タンナーゼ、新日本化学工業株式会社製)2mgを加え37℃で30分間反応させた。その後、Mightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm)を用いた分取HPLCにより反応液の精製(移動相:水/メタノール/ギ酸=950/50/1(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min)を行い、(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCを5mg得た。
【0042】
[製造例3]テアシネンシンAの合成
1.8gの(-)-EGCg(三井農林株式会社製)を超純水60mLとMcIlvaine緩衝液(pH 5)60mLで溶解した。50mLコニカルビーカー4つそれぞれにこの溶液30mLと10%パラジウム/炭素(50%水湿潤品、SIGMA-ALDRICH社製)170mgを加えて、空気雰囲気下室温で180分間撹拌した。触媒をろ別した後、ろ液にジチオスレイトール463mgを加えて、室温で45分間撹拌した。反応液に1M水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH6に調整した。反応液を酢酸エチル50mLで5回抽出し、酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで脱水した。硫酸ナトリウムをろ別後、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。酢酸エチル画分1.5gをメタノール5mLで溶解後、TOYOPEARL HW-40Sカラムクロマトグラフィー(40mm×450mm、移動相:メタノール、流速:15mL/min)に供し、粗テアシネンシンAを374mg得た。得られた粗テアシネンシンAを5%アセトニトリル(水/アセトニトリル=9.5/5、体積比)15mLに溶解後、MCIGEL-CHP55Yカラムクロマトグラフィー(20mm×300mm、三菱化学株式会社製、移動相:水/アセトニトリル/ギ酸=870/130/1(体積比)、流速:7.5mL/min)により精製し、テアシネンシンAを286mg得た。
【0043】
[製造例4]テアシネンシンBの合成
0.6gの(-)-EGC(三井農林株式会社製)と、0.9gの(-)-EGCgを超純水60mLとMcIlvaine緩衝液(pH5)60mLを用いて溶解した。50mLコニカルビーカー4つそれぞれにこの溶液30mLと10%パラジウム/炭素(50%水湿潤品)250mgを加えて、空気雰囲気下室温で210分間撹拌した。触媒をろ別した後、ろ液にトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩860mgを加え、室温で10分間撹拌した。反応液を直接DIAION HP-20カラムクロマトグラフィー(30mm×140mm)に供し、超純水350mLで洗浄後、40%メタノール(水/メタノール=6/4、体積比)500mLで溶出した。濃縮乾固した40%メタノール画分1.1gをメタノール5mLで溶解後、TOYOPEARL HW-40Sカラムクロマトグラフィー(40mm×450mm、移動相:メタノール、流速:15mL/min)に供し、粗テアシネンシンBを294mg得た。得られた粗テアシネンシンBを5%アセトニトリル(水/アセトニトリル=9.5/5、体積比)7.5mLに溶解後、MCIGEL-CHP55Yカラムクロマトグラフィー(20mm×300mm、移動相:水/アセトニトリル/ギ酸=900/100/1(体積比)、流速:7.5mL/min)にて精製し、テアシネンシンBを188mg得た。
【0044】
[製造例5]テアシネンシンCの合成
1.2gの(-)-EGCを、超純水60mLとMcIlvaine緩衝液(pH5)60mLを用いて溶解した。50mLコニカルビーカー4つそれぞれにこの溶液30mLと10%パラジウム/炭素(50%水湿潤品)170mgを加えて、空気雰囲気下室温で240分間撹拌した。触媒をろ別した後、ろ液にトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩860mgを加え、室温で10分間撹拌した。反応液をMCIGEL-CHP55Yカラムクロマトグラフィー(20mm×300mm、移動相:水/メタノール/ギ酸=950/50/1(体積比)、流速:7.5mL/min)にて精製し、テアシネンシンCを369mg得た。
【0045】
[試験例1]SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性の測定
製造例1〜5で得られた画分、プロアントシアニジン類、テアシネンシン類のSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性の測定を行った。また、カテキン類((-)-EC、(-)-EGC、(-)-ECg、(-)-EGCg、全て三井農林株式会社製)についても活性の測定を行った。SARSコロナウイルスはFFM-1株(Dr. H.W. Doerr,Frankfurt University of Medicine,Germanyより分与)を用いた。培養細胞はVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来)を用い、培地には10重量%ウシ胎児血清、ストレプトマイシン(100μg/mL)、ペニシリン(100U/mL)を添加したダルベッコ変法イーグル最小必須培地(SIGMA-ALDRICH社製)を用いて5体積%濃度のCO
2存在下、37℃で培養した。
【0046】
6穴プレート上で90%単層を形成したVero細胞に、SARSコロナウイルスのストック液0.2mLを添加して25℃で60分間感染させた。次いで、被験物質を培養液1mL当たり0、1、3、10、30、100μg/mL(ポリフェノンGの場合のみ0、10、30、100、200、400μg/mL)となるように加え、1重量%メチルセルロースを加えたダルベッコ変法イーグル最小必須培地(5%ウシ胎児血清含有)で4日間培養した。培養後、メチルセルロースを取り除き、Vero細胞を2.5重量%クリスタルバイオレットで染色し、0.05Mリン酸緩衝生理食塩水(Mg
2+及びCa
2+不含、0.15M塩化ナトリウム、pH7.0)で3回洗浄した。形成されたプラーク数から1mL当たりのウイルス量をPFU(Plaque Forming Unit)/mLとして求め、さらに被験物質のIC
50(ウイルスの増殖を50%阻害する濃度(阻害数から算出))を算出し、表1及び表2に示した。
【0047】
緑茶抽出物粉末であるポリフェノンGに含まれるSARSコロナウイルスの増殖阻害成分の特定を行った(調製方法は製造例1を参照)。DIAION HP20を用い、ポリフェノンG(IC
50=150μg/mL)を6つの画分(水画分、20%・40%・60%・80%メタノール画分、アセトン画分)に分画した。次いで、SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性が最も高かった40%メタノール画分(IC
50=25μg/mL)を、TOYOPEARL HW-40Cにて3つの画分(画分1〜3)に分画した。次いで、増殖阻害活性が最も高かった画分3(IC
50=15μg/mL)を、Mightysil RP-18 GP IIを用いた分取HPLCにて8つの画分(画分3-1〜3-8)に分画した。さらに、増殖阻害活性が高い3つの画分、画分3-2(IC
50=20μg/mL)、画分3-3(IC
50=20μg/mL)、画分3-4(IC
50=15μg/mL)を同様の分取HPLCにて精製を行った。画分3-2より(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCg及び(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgを、画分3-3より(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECgを、画分3-4より(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgを得た。
【0048】
【表1】
【0049】
これらの単離した化合物は、プロアントシアニジン類の二量体に没食子酸が結合したプロアントシアニジンガレート類であった。プロアントシアニジンガレート類のSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性を、単量体であるカテキン類や、烏龍茶や紅茶に含まれる異なる結合様式を持つ二量体であるテアシネンシン類の活性と比較した(表2)。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、単量体であるカテキン類の内、(-)-ECと(-)-EGCではIC
50は100μg/mLを超え、SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性は認められなかった。また、単量体であるカテキン類の内、ガロイル基を有する(-)-ECgと(-)-EGCgは1〜30μg/mLの試験濃度ではウイルスの増殖阻害率が50%より低く、100μg/mLでは細胞変性が認められたためIC
50の算出ができなかった。
【0052】
一方、二量体であるプロアントシアニジン類、テアシネンシン類ではSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性が認められ、特にガロイル基を有するプロアントシアニジンガレート類、テアシネンシンガレート類で高い増殖阻害活性が認められた。ガロイル基を持たないプロアントシアニジン類である(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCに対し、プロアントシアニジンガレート類((-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECg、(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCg)は2.5〜3.3倍の活性が認められた。またガロイル基を持たないテアシネンシン類であるテアシネンシンCに対し、テアシネンシンガレート類(テアシネンシンA、テアシネンシンB)は3.3〜5.0倍の活性が認められた。
【0053】
[試験例2]ネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性の測定
プロアントシアニジンガレート類である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgとテアシネンシン類のネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性の測定を行った。SARSコロナウイルスに代えてネコカリシウイルスF9株、Vero細胞に変えてCRFK細胞(ネコ腎臓由来)を使用した以外は試験例1と同様の方法で、ネコカリシウイルスに対する被験物質のIC
50を算出した。
【0054】
プロアントシアニジンガレート類である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgのIC
50は30μg/mL、テアシネンシンA、テアシネンシンB及びテアシネンシンCのIC
50はそれぞれ20μg/mL、10μg/mL、70μg/mLであった。ガロイル基を持たないテアシネンシンCに対し、ガロイル基を持つ(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg、テアシネンシンA及びテアシネンシンBは2.3〜7.0倍の強いウイルス増殖阻害活性が認められた。
【0055】
[試験例3]インフルエンザウイルスに対する増殖阻害活性の測定
プロアントシアニジンガレート類である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgのインフルエンザウイルスに対する増殖阻害活性の測定を行った。SARSコロナウイルスに代えてA型インフルエンザウイルスPR8株、Vero細胞に代えてMDCK細胞(イヌ腎臓由来)を使用した以外は試験例1と同様の方法で、インフルエンザウイルスに対する被験物質のIC
50を算出した。(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgのIC
50は10μg/mLであった。
【0056】
[配合例]チュアブル錠剤
(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg0.5重量部、キシリトール33.8重量部、マンニトール30.6重量部、微結晶性セルロース6.1重量部、着香料14.1重量部、ステアリン酸4.3重量部、タルク0.6重量部、ソルビトール10.0重量部を混合した粉体を錠剤プレスによって圧縮し、ウイルス増殖阻害剤を含有する錠剤を得た。