特許第6836229号(P6836229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836229
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】ウイルス増殖阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20210215BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20210215BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20210215BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20210215BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20210215BHJP
【FI】
   A61K31/353
   A61P31/12
   A61P31/16
   A61P31/14
   A23L33/10
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-157619(P2016-157619)
(22)【出願日】2016年8月10日
(65)【公開番号】特開2018-24610(P2018-24610A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉仲 由之
(72)【発明者】
【氏名】山岡 昇司
(72)【発明者】
【氏名】八木 健介
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第1704051(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101756956(CN,A)
【文献】 特開2015−214501(JP,A)
【文献】 特開2005−314316(JP,A)
【文献】 特開2007−119412(JP,A)
【文献】 特開2000−226329(JP,A)
【文献】 Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,1996年,Vol.6, No.6,p.695-700
【文献】 Antiviral Research,2007年,Vol.76,p.86-92
【文献】 Fitoterapia,2014年,Vol.93,p.47-53
【文献】 Antiviral Chemistry & Chemotherapy,2002年,Vol.13, No.4,p.223-229
【文献】 Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2011年,Vol.55, No.12,p.5646-5653
【文献】 Journal of Natural Products,2012年,Vol.75,p.1798-1802
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A23L 33/00−33/29
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類及び式(II)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する、コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤。
【化1】

(R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は水酸基を表し、R及びRのうち少なくとも1つは水酸基である。R及びRは水素原子又はガロイル基を表し、R及びRのうち少なくとも1つはガロイル基である。)
【化2】


(R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はガロイル基を表す。)
【請求項2】
前記ウイルス増殖阻害剤の有効成分が、式(II)で表わされるテアシネンシン類である、請求項1に記載のウイルス増殖阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のウイルス増殖阻害剤を含む、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のウイルス増殖阻害剤を含む、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための医薬品又は医薬部外品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロアントシアニジンガレート類やテアシネンシン類を有効成分とするウイルス増殖阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症の予防・治療には、抗原抗体反応を利用したワクチンの開発が主流であるが、ウイルスは変異速度が速いために新興ウイルスや再興ウイルスが現れ、ワクチンの開発が対応できていないのが現状である。また、ワクチン以外の手段としては、ヘルペスウイルスに対するチミジンキナーゼ阻害剤、ヒト免疫不全ウイルスに対する逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤、インフルエンザウイルスに対するノイラミニダーゼ阻害剤などの酵素阻害剤が挙げられる。しかし、これら酵素阻害剤が適用できるウイルスは極めて限定的である。
【0003】
一方、植物由来成分であるポリフェノールは種々の生理活性を有し、ウイルスに対しては、ウイルスと直接に接触して細胞への吸着を防ぐことでその感染力を奪う不活化効果や、ウイルス感染した後のウイルスの増殖を阻害する効果が知られている。例えば、カテキン類の一種である(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートがインフルエンザウイルスの増殖を阻害すること(特許文献1)、リンゴやブドウ由来のプロアントシアニジン類(カテキン類の重合体)がSARSコロナウイルスの増殖を阻害すること(特許文献2)が報告されている。また、プロアントシアニジン類を含むピーナッツ種皮抽出物がヒト免疫不全ウイルスやSARSコロナウイルスの増殖を阻害すること(特許文献3)、エピカテキン四量体がSARSコロナウイルス、ネコカリシウイルス、インフルエンザウイルスの増殖を阻害すること(特許文献4)などが報告されている。しかし、プロアントシアニジン類に没食子酸が結合することで、種々のウイルスに対する増殖阻害活性が著しく向上することは何ら報告されていない。
【0004】
また、烏龍茶や紅茶に含まれるテアシネンシン類(プロアントシアニジン類とは異なるカテキン類の二量体)が単純ヘルペスウイルスを不活化すること(非特許文献1)が報告されているが、ウイルスの増殖を阻害する効果については全く報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-126834号公報
【特許文献2】特開2005-314316号公報
【特許文献3】特開2007-217410号公報
【特許文献4】特開2015-214501号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Antimicrob. Agents Chemother., 55, 5646-5653 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、新興ウイルスや再興ウイルス感染症にも対抗し得る、種々のウイルスに対して効果を示す、より効果の高い新たなウイルス増殖阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、プロアントシアニジン類に没食子酸が結合したプロアントシアニジンガレート類及びテアシネンシン類が高いウイルス増殖阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類、及び式(II)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有するウイルス増殖阻害剤を提供するものである。また、該ウイルス増殖阻害剤を含む、ウイルスの増殖を阻害又は減少させるための飲食品、医薬品や医薬部外品を提供するものである。
【0010】
【化1】
(R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子又は水酸基を表す。R2及びR4は水素原子又はガロイル基を表し、R2およびR4のうち少なくとも1つはガロイル基である。)
【0011】
【化2】
(R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子又はガロイル基を表す)
【発明の効果】
【0012】
本発明のウイルス増殖阻害剤は種々のウイルスに対して高い増殖阻害活性を有し、かつ、茶由来のポリフェノールに含まれる成分のため安全性が高い。また、該ウイルス増殖阻害剤はカテキン類二量体と低分子のため、他のプロアントシアニジン類と比較して合成が容易である。また、本発明のウイルス増殖阻害剤は、医薬品、サプリメント、飲食品などにも含有させることができ、これらを投与又は摂取することにより、ウイルスの増殖を抑制し、ウイルス感染症の予防又は軽減が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において本発明を詳細に説明する。
本発明のウイルス増殖阻害剤の有効成分である、式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類は、プロアントシアニジン類の一種である。
【化3】
(R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子又は水酸基を表す。R2及びR4は水素原子又はガロイル基を表し、R2およびR4のうち少なくとも1つはガロイル基である。)
【0014】
プロアントシアニジン類は、(+)-カテキン[(+)-C]、(+)-ガロカテキン[(+)-GC]、(-)-エピカテキン[(-)-EC]、(-)-エピガロカテキン[(-)-EGC]、(-)-エピカテキン-3-O-ガレート[(-)-ECg]、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート[(-)-EGCg]などのカテキン類を構成ユニットとして、それらが複数個結合した重合ポリフェノールとして知られている。その結合様式の違いから、プロアントシアニジン類は、A型(構成ユニット間に4→8及び2→O→7、又は4→6及び2→O→7の結合を有する)と、B型(構成ユニット間に4→8又は4→6の結合を有する)とに分類される。B型プロアントシアニジン類は茶、ブドウ種子、リンゴ、松樹皮、カカオなど多くの植物に含まれることが知られており、茶生葉、緑茶、烏龍茶、紅茶からは以下の式(III)〜(V)で表わされる二量体のB型プロアントシアニジン類(R1乃至R4の具体例は、式の下方に列挙する)が単離されている。
【0015】
【化4】
【0016】
【化5】
【0017】
【化6】
【0018】
本発明のウイルス増殖阻害剤は、二量体のB型プロアントシアニジン類に没食子酸が結合した式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類を有効成分とする。式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類は、ウイルス増殖阻害活性が高いという観点から下記式(VI)で表されるプロアントシアニジンガレート類が好ましい。式(VI)で表わされるプロアントシアニジンガレート類の具体例としては、(-)-EC-(4β→8)-(-)-ECg(プロシアニジンB2-3’-O-ガレート)、(-)-ECg-(4β→8)-(-)-ECg(プロシアニジンB2-3,3’-ジ-O-ガレート)、(-)-EGC-(4β→8)-(-)-ECg、(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-ECg、(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCg(プロデルフィニジンB2-3’-O-ガレート)、(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCg(プロデルフィニジンB2-3,3’-ジ-O-ガレート)、(-)-EC-(4β→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg(プロデルフィニジンB4-3’-O-ガレート)、(+)-C-(4α→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECgなどが挙げられる。プロアントシアニジンガレート類は公知の化学的合成方法(例えば、Molecules, 20, 18870-18885 (2015)に記載されている方法)などにより製造することができる。具体例を挙げると、(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCgは、ベンジル基で保護した(-)-EGCへ脱離基を導入し、ベンジル基で保護した(-)-EGCgと縮合させ、そして脱保護させることにより製造することが可能である。
【0019】
【化7】
(R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子又は水酸基を表す。R2及びR4は水素原子又はガロイル基を表し、R2およびR4のうち少なくとも1つはガロイル基である。)
【0020】
また、本発明のウイルス増殖阻害剤の有効成分であるプロアントシアニジンガレート類は、茶(Camellia sinensis)の他、大黄(Rheum sp.)、ヤマモモ(Morella rubra)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)、アカメガシワ(Mallotus japonicus)などを抽出・精製して得ることもできる。医薬上又は食品上許容し得る規格に適合し、本発明の効果を発揮するものであれば、プロアントシアニジンガレート類の粗精製物を用いてもよく、公知の分離精製方法を適宜組み合わせて純度を上げたものを用いてもよい。精製手段としては、例えば水、熱水、アルコールなどの極性溶媒、又は非極性溶媒を用いて行う溶剤抽出法、遠心分離法、高速液体クロマトグラフ法やカラムクロマトグラフ法などが挙げられる。
【0021】
本発明のウイルス増殖阻害剤は、式(II)で表わされるテアシネンシン類を有効成分として含有することもできる。
【0022】
【化8】
(R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子又はガロイル基を表す。)
【0023】
上記式には、説明のため所定のベンゼン環にBの文字を付し、そのベンゼン環がB環であることを示している。
テアシネンシン類は、カテキン類がB環同士で結合した二量体であり、烏龍茶や紅茶に含まれる。良く知られたテアシネンシン類としては以下の式(VII)や(VIII)で表わされるテアシネンシンA、テアシネンシンB、テアシネンシンC、テアシネンシンD、テアシネンシンEが挙げられる。
【0024】
【化9】
【0025】
【化10】
【0026】
上記式中の結合態様を示す「S」、「R」は、それぞれS体、R体をそれぞれ表す。
【0027】
ウイルス増殖阻害活性が高いという観点から、下記式(IX)で表わされるテアシネンシンガレート類が好ましい。式(IX)で表わされるテアシネンシンガレート類としては、テアシネンシンA、テアシネンシンB、テアシネンシンDなどが例示できる。テアシネンシン類は公知の化学的合成法(例えば、特開2010-138103号公報、Chem. Pharm. Bull. 59, 1183-1185 (2011)等に記載の方法)やナシ果実ホモジネートを用いた方法(Tetrahedron, 59, 7939-7947 (2003)に記載の方法)などにより製造することができる。例えばテアシネンシンAは、触媒や酸化酵素と共に(-)-EGCgを酸化重合した後、還元して製造することができる。
【0028】
【化11】
(R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子又はガロイル基を表す)
【0029】
また、本発明のウイルス増殖阻害剤の有効成分であるテアシネンシン類は、烏龍茶などの半発酵茶や紅茶などの発酵茶を抽出・精製して得ることもできる。医薬上又は食品上許容し得る規格に適合し、本発明の効果を発揮するものであれば、テアシネンシン類の粗精製物を用いてもよく、公知の分離精製方法を適宜組み合わせて純度を上げたものを用いてもよい。精製手段としては、例えば水、熱水、アルコールなどの極性溶媒、又は非極性溶媒を用いて行う溶剤抽出法、遠心分離法、高速液体クロマトグラフ法やカラムクロマトグラフ法などが挙げられる。
【0030】
本発明のウイルス増殖阻害剤が有効なウイルスとしては、コロナウイルス(SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、ヒトコロナウイルスなど)、カリシウイルス(ネコカリシウイルス、ノーウォークウイルスなど)、インフルエンザウイルス(A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルスなど)、ヒト免疫不全ウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パピローマウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルスなどのRNAウイルスやDNAウイルスが例示できる。
【0031】
本発明のウイルス増殖阻害剤が効果を示すメカニズムは不明であるが、種々のウイルスに効果を示すことからウイルスに共通の増殖機能に作用していると考えられる。プロアントシアニジン類で細胞を処理するとマンガンスーパーオキシドジスムターゼが誘導され、ウイルス増殖に要求されるスーパーオキシドの産生を抑制することで、ウイルスの増殖が阻害されると考えられている(Biochem. Biophys. Res. Commun., 261, 139-143(1999)、特許文献3参照)。本発明のウイルス増殖阻害剤も同様のメカニズムでウイルスの増殖を阻害していると考えられる。
【0032】
本発明のウイルス増殖阻害剤の有効成分であるプロアントシアニジンガレート類、及びテアシネンシン類は、細胞内でのウイルス増殖を阻害する作用を有するため、これらの有効成分を含有するウイルス増殖阻害剤を経口的あるいは非経口的に、ヒトを含む哺乳動物に投与し、ウイルス感染症の予防・治療、ウイルス産生抑制が期待できる。ウイルス増殖阻害剤を経口的に投与する場合の剤形としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、散剤、カプセル剤、トローチ剤、チュアブル剤、液剤(ドリンク剤)などが挙げられる。また、該有効成分に薬学的に許容される担体を添加して外用の製剤とすることもできる。製剤の形態としては、液剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、テープ剤、パッチ剤、エアゾール剤、スプレー剤、乳液剤などが挙げられ、皮膚表面や粘膜などから作用するものであれば、どのような形態でもよい。
【0033】
また、本発明のウイルス増殖阻害剤を飲食品に含有して摂取することもできる。飲食品としては特に制限はされないが、具体的に対象となる飲食品としては、茶系飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、果実飲料、果実酒類、野菜飲料、清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ドリンク剤、スポーツドリンク、豆乳などの飲料類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリーなどのデザート類;饅頭、羊羹、キャラメル、キャンディー、錠菓、スナック、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、チューインガムなどの菓子類;和風スープ、洋風スープ、中華スープ、味噌汁などのスープ類;パン類;ジャム類;マヨネーズ、ドレッシングなどの調味料類;レトルトカレーなどのレトルト食品などを挙げることができる。さらに、本発明のウイルス増殖阻害剤を少なくとも一種以上を飲食品に含ませることによってその食品を、ウイルス増殖を阻害する効果を目的とした機能性食品にすることができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
[製造例1]プロアントシアニジンガレート類の調製
超純水1.2Lに溶解したポリフェノンG(緑茶抽出物粉末、三井農林株式会社製)100gをDIAION HP20カラム(70mm×310mm、三菱化学株式会社製)に供し、超純水1.8L、20%、40%、60%、80%メタノール(水/メタノール=8/2、6/4、4/6、2/8(体積比))水溶液各3L、アセトン3Lで順次溶出した。各溶出液を減圧濃縮、凍結乾燥を行い、水画分46.02g、20%メタノール画分16.97g、40%メタノール画分20.28g、60%メタノール画分14.25g、80%メタノール画分1.87g、アセトン画分0.50gを得た。
【0036】
メタノール75mLに溶解した40%メタノール画分19.70gをTOYOPEARL HW-40Cカラム(40mm×440mm、東ソー株式会社製)にて分画した(移動相:メタノール、流速14.7mL/min)。溶出液を濃縮、凍結乾燥して、画分1(保持時間0〜60分)8.04g、画分2(同60〜150分)10.72g、画分3(同150〜270分)0.53gを得た。
【0037】
0.52gの画分3を、Mightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm、関東化学株式会社製)を用いた分取HPLCにより分画した(カラム温度:26℃、流速:16mL/min、移動相A:水/ギ酸=1000/2(体積比)、移動相B:メタノール、グラジエントプログラム:0〜50分まで移動相Bを体積比で10〜30%に上昇→50〜51分まで移動相Bを体積比で30〜95%に上昇→51〜60分まで移動相Bを体積比で95%に保持)。溶出液を濃縮、凍結乾燥して、画分3-1(保持時間0〜12分)3mg、画分3-2(同12〜15分)64mg、画分3-3(同15〜19分)48mg、画分3-4(同19〜22分)21mg、画分3-5(同22〜27分)31mg、画分3-6(同27〜31分)35mg、画分3-7(同31〜54分)142mg、画分3-8(同54〜58分)14mgを得た。
【0038】
63mgの画分3-2をMightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm)を用いた分取HPLCにより精製(移動相:水/酢酸エチル/ギ酸=970/30/1(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min)を行い、(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCgを2mgと、(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgを37mg得た。
【0039】
46mgの画分3-3をMightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm)を用いた分取HPLCにより2回の精製(1回目 移動相:水/酢酸エチル/ギ酸=920/80/1(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min。2回目 移動相:水/アセトニトリル/ギ酸=920/80/1(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min)を行い、(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECgを16mg得た。
【0040】
19mgの画分3-4をMightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm)を用いた分取HPLCにより精製(移動相:水/アセトニトリル/ギ酸=910/90/2(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min)を行い、(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgを11mg得た。
【0041】
[製造例2](-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCの調製
8mgの(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgを超純水1.5mLに溶解し、スミチームTAN(タンナーゼ、新日本化学工業株式会社製)2mgを加え37℃で30分間反応させた。その後、Mightysil RP-18 GP II(20×250mm、粒子径5μm)を用いた分取HPLCにより反応液の精製(移動相:水/メタノール/ギ酸=950/50/1(体積比)、カラム温度:26℃、流速:16mL/min)を行い、(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCを5mg得た。
【0042】
[製造例3]テアシネンシンAの合成
1.8gの(-)-EGCg(三井農林株式会社製)を超純水60mLとMcIlvaine緩衝液(pH 5)60mLで溶解した。50mLコニカルビーカー4つそれぞれにこの溶液30mLと10%パラジウム/炭素(50%水湿潤品、SIGMA-ALDRICH社製)170mgを加えて、空気雰囲気下室温で180分間撹拌した。触媒をろ別した後、ろ液にジチオスレイトール463mgを加えて、室温で45分間撹拌した。反応液に1M水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH6に調整した。反応液を酢酸エチル50mLで5回抽出し、酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで脱水した。硫酸ナトリウムをろ別後、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。酢酸エチル画分1.5gをメタノール5mLで溶解後、TOYOPEARL HW-40Sカラムクロマトグラフィー(40mm×450mm、移動相:メタノール、流速:15mL/min)に供し、粗テアシネンシンAを374mg得た。得られた粗テアシネンシンAを5%アセトニトリル(水/アセトニトリル=9.5/5、体積比)15mLに溶解後、MCIGEL-CHP55Yカラムクロマトグラフィー(20mm×300mm、三菱化学株式会社製、移動相:水/アセトニトリル/ギ酸=870/130/1(体積比)、流速:7.5mL/min)により精製し、テアシネンシンAを286mg得た。
【0043】
[製造例4]テアシネンシンBの合成
0.6gの(-)-EGC(三井農林株式会社製)と、0.9gの(-)-EGCgを超純水60mLとMcIlvaine緩衝液(pH5)60mLを用いて溶解した。50mLコニカルビーカー4つそれぞれにこの溶液30mLと10%パラジウム/炭素(50%水湿潤品)250mgを加えて、空気雰囲気下室温で210分間撹拌した。触媒をろ別した後、ろ液にトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩860mgを加え、室温で10分間撹拌した。反応液を直接DIAION HP-20カラムクロマトグラフィー(30mm×140mm)に供し、超純水350mLで洗浄後、40%メタノール(水/メタノール=6/4、体積比)500mLで溶出した。濃縮乾固した40%メタノール画分1.1gをメタノール5mLで溶解後、TOYOPEARL HW-40Sカラムクロマトグラフィー(40mm×450mm、移動相:メタノール、流速:15mL/min)に供し、粗テアシネンシンBを294mg得た。得られた粗テアシネンシンBを5%アセトニトリル(水/アセトニトリル=9.5/5、体積比)7.5mLに溶解後、MCIGEL-CHP55Yカラムクロマトグラフィー(20mm×300mm、移動相:水/アセトニトリル/ギ酸=900/100/1(体積比)、流速:7.5mL/min)にて精製し、テアシネンシンBを188mg得た。
【0044】
[製造例5]テアシネンシンCの合成
1.2gの(-)-EGCを、超純水60mLとMcIlvaine緩衝液(pH5)60mLを用いて溶解した。50mLコニカルビーカー4つそれぞれにこの溶液30mLと10%パラジウム/炭素(50%水湿潤品)170mgを加えて、空気雰囲気下室温で240分間撹拌した。触媒をろ別した後、ろ液にトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩860mgを加え、室温で10分間撹拌した。反応液をMCIGEL-CHP55Yカラムクロマトグラフィー(20mm×300mm、移動相:水/メタノール/ギ酸=950/50/1(体積比)、流速:7.5mL/min)にて精製し、テアシネンシンCを369mg得た。
【0045】
[試験例1]SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性の測定
製造例1〜5で得られた画分、プロアントシアニジン類、テアシネンシン類のSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性の測定を行った。また、カテキン類((-)-EC、(-)-EGC、(-)-ECg、(-)-EGCg、全て三井農林株式会社製)についても活性の測定を行った。SARSコロナウイルスはFFM-1株(Dr. H.W. Doerr,Frankfurt University of Medicine,Germanyより分与)を用いた。培養細胞はVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来)を用い、培地には10重量%ウシ胎児血清、ストレプトマイシン(100μg/mL)、ペニシリン(100U/mL)を添加したダルベッコ変法イーグル最小必須培地(SIGMA-ALDRICH社製)を用いて5体積%濃度のCO2存在下、37℃で培養した。
【0046】
6穴プレート上で90%単層を形成したVero細胞に、SARSコロナウイルスのストック液0.2mLを添加して25℃で60分間感染させた。次いで、被験物質を培養液1mL当たり0、1、3、10、30、100μg/mL(ポリフェノンGの場合のみ0、10、30、100、200、400μg/mL)となるように加え、1重量%メチルセルロースを加えたダルベッコ変法イーグル最小必須培地(5%ウシ胎児血清含有)で4日間培養した。培養後、メチルセルロースを取り除き、Vero細胞を2.5重量%クリスタルバイオレットで染色し、0.05Mリン酸緩衝生理食塩水(Mg2+及びCa2+不含、0.15M塩化ナトリウム、pH7.0)で3回洗浄した。形成されたプラーク数から1mL当たりのウイルス量をPFU(Plaque Forming Unit)/mLとして求め、さらに被験物質のIC50(ウイルスの増殖を50%阻害する濃度(阻害数から算出))を算出し、表1及び表2に示した。
【0047】
緑茶抽出物粉末であるポリフェノンGに含まれるSARSコロナウイルスの増殖阻害成分の特定を行った(調製方法は製造例1を参照)。DIAION HP20を用い、ポリフェノンG(IC50=150μg/mL)を6つの画分(水画分、20%・40%・60%・80%メタノール画分、アセトン画分)に分画した。次いで、SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性が最も高かった40%メタノール画分(IC50=25μg/mL)を、TOYOPEARL HW-40Cにて3つの画分(画分1〜3)に分画した。次いで、増殖阻害活性が最も高かった画分3(IC50=15μg/mL)を、Mightysil RP-18 GP IIを用いた分取HPLCにて8つの画分(画分3-1〜3-8)に分画した。さらに、増殖阻害活性が高い3つの画分、画分3-2(IC50=20μg/mL)、画分3-3(IC50=20μg/mL)、画分3-4(IC50=15μg/mL)を同様の分取HPLCにて精製を行った。画分3-2より(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCg及び(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgを、画分3-3より(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECgを、画分3-4より(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgを得た。
【0048】
【表1】
【0049】
これらの単離した化合物は、プロアントシアニジン類の二量体に没食子酸が結合したプロアントシアニジンガレート類であった。プロアントシアニジンガレート類のSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性を、単量体であるカテキン類や、烏龍茶や紅茶に含まれる異なる結合様式を持つ二量体であるテアシネンシン類の活性と比較した(表2)。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、単量体であるカテキン類の内、(-)-ECと(-)-EGCではIC50は100μg/mLを超え、SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性は認められなかった。また、単量体であるカテキン類の内、ガロイル基を有する(-)-ECgと(-)-EGCgは1〜30μg/mLの試験濃度ではウイルスの増殖阻害率が50%より低く、100μg/mLでは細胞変性が認められたためIC50の算出ができなかった。
【0052】
一方、二量体であるプロアントシアニジン類、テアシネンシン類ではSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性が認められ、特にガロイル基を有するプロアントシアニジンガレート類、テアシネンシンガレート類で高い増殖阻害活性が認められた。ガロイル基を持たないプロアントシアニジン類である(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCに対し、プロアントシアニジンガレート類((-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECg、(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCg)は2.5〜3.3倍の活性が認められた。またガロイル基を持たないテアシネンシン類であるテアシネンシンCに対し、テアシネンシンガレート類(テアシネンシンA、テアシネンシンB)は3.3〜5.0倍の活性が認められた。
【0053】
[試験例2]ネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性の測定
プロアントシアニジンガレート類である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgとテアシネンシン類のネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性の測定を行った。SARSコロナウイルスに代えてネコカリシウイルスF9株、Vero細胞に変えてCRFK細胞(ネコ腎臓由来)を使用した以外は試験例1と同様の方法で、ネコカリシウイルスに対する被験物質のIC50を算出した。
【0054】
プロアントシアニジンガレート類である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgのIC50は30μg/mL、テアシネンシンA、テアシネンシンB及びテアシネンシンCのIC50はそれぞれ20μg/mL、10μg/mL、70μg/mLであった。ガロイル基を持たないテアシネンシンCに対し、ガロイル基を持つ(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg、テアシネンシンA及びテアシネンシンBは2.3〜7.0倍の強いウイルス増殖阻害活性が認められた。
【0055】
[試験例3]インフルエンザウイルスに対する増殖阻害活性の測定
プロアントシアニジンガレート類である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgのインフルエンザウイルスに対する増殖阻害活性の測定を行った。SARSコロナウイルスに代えてA型インフルエンザウイルスPR8株、Vero細胞に代えてMDCK細胞(イヌ腎臓由来)を使用した以外は試験例1と同様の方法で、インフルエンザウイルスに対する被験物質のIC50を算出した。(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgのIC50は10μg/mLであった。
【0056】
[配合例]チュアブル錠剤
(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg0.5重量部、キシリトール33.8重量部、マンニトール30.6重量部、微結晶性セルロース6.1重量部、着香料14.1重量部、ステアリン酸4.3重量部、タルク0.6重量部、ソルビトール10.0重量部を混合した粉体を錠剤プレスによって圧縮し、ウイルス増殖阻害剤を含有する錠剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のウイルス増殖阻害剤はウイルス感染症の予防や治療に有用である。