(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
(概略構成)
はじめに、
図1を参照して、本実施の形態に係る耐火用スリーブ1の概略構成について説明する。
【0019】
耐火用スリーブ1は、建物の防火区画となる壁9の貫通孔90に挿通される。壁9は、たとえば集合住宅の界壁であり、第1空間91と第2空間92とを仕切る区画体である。貫通孔90の直径はたとえば100mm程度である。
【0020】
耐火用スリーブ1は、貫通孔90に嵌め入れられる筒状部2と、筒状部2の両端縁に接続される一対のフランジ部31,32とで構成される。筒状部2の形状は略円筒状であり、フランジ部31,32の形状は略円環状である。
【0021】
筒状部2には、第1空間91から第2空間92に延びるケーブル部材81が収容される。また、筒状部2には、ケーブル部材81の周囲を取り囲むように熱膨張性耐熱パック(以下「耐熱パック」と略す)82が充填される。なお、「ケーブル部材」には、電気ケーブルだけでなく、配管部材も含まれる。
【0022】
フランジ部31は、第1空間91に面して配置され、筒状部2の一端に接続される。フランジ部32は、第2空間92に面して配置され、筒状部2の他端に接続される。
図1には、筒状部2の一端側が矢印A1で示されている。フランジ部31,32はいずれも、筒状部2とは別体である。
【0023】
フランジ部31が筒状部2の一端に接続されることで、筒状部2の一端側の外周面と貫通孔90の内壁面との間に生じ得る微小な隙間が被覆される。同様に、フランジ部32が筒状部2の他端に接続されることで、筒状部2の他端側の外周面と貫通孔90の内壁面との間に生じ得る微小な隙間が被覆される。
【0024】
図2は、組立状態の耐火用スリーブ1を模式的に示す側面図であり、
図3は、耐火用スリーブ1を分解して示す分解側面図である。
【0025】
本実施の形態において、筒状部2は、一端側のフランジ部31と接続する(第1の)筒体21と、他端側のフランジ部32と接続する(第2の)筒体22とで構成される。これらの筒体21,22は、伸縮可能に嵌め合わされる。つまり、筒体21,22の重ね度合を調整することで、筒状部2全体の軸方向長さLを調整することができる。これにより、筒状部2の軸方向長さLを、壁9の壁厚Lw(
図1)に簡単に合わせることができる。
【0026】
筒体21,22およびフランジ部31,32は、鋼材など金属製材料により形成される。また、これらの板厚は、0.3mm〜0.5mmであることが望ましい。以下に、筒状部2を構成する筒体21,22、および、フランジ部31,32の構成例について詳細に説明する。
【0027】
(筒体の構成)
図4および
図5をさらに参照して、筒体21,22の構成について説明する。
図4は、無負荷状態における筒体21,22の外観斜視図である。
図5は、ケーブル挿入状態における筒体21,22の外観斜視図である。なお、個々の筒体21,22の説明においては、フランジ部31,32側が筒体21,22の軸方向一端側であり、筒体21,22の軸方向他端側において筒体21,22が重なり合うものとする。
図4および
図5において、筒体21,22の軸方向一端側(フランジ側)が矢印B1で示されている。
【0028】
筒体21および筒体22は同じ構成である。よって、ここでは代表的に一方の筒体21について説明するが、他方の筒体22も同様である。
【0029】
筒体21には、一端縁から他端縁まで延びるスリット41が設けられている。つまり、筒体21は円周方向の1個所において切断されている。このスリット41により、筒体21を径方向に縮めたり広げたりすることができる。筒体21の軸方向長さは、たとえば120mm〜200mmの範囲内で定められる。
【0030】
図4に示されるように、筒体21は、無負荷状態において、スリット41に隣接する2つの部分42が重なるように形成されている。2つの部分42のうちの一方は、筒体21の円周方向の一端縁部分であり、2つの部分42のうちの他方は、筒体21の円周方向の他端縁部分である。これらの部分42が円周方向に重なり合う重なり幅は、筒体21の軸方向一端から他端まで略一定である。無負荷状態における筒体21の外径は、壁9の貫通孔90の直径(略100mm)よりも若干小さく、たとえば97mm程度である。
【0031】
図5に示されるように、筒体21のスリット41を開くことで、筒体21の円周方向一端縁と他端縁との間に、隙間410を作ることができる。つまり、筒体21は、円周方向に隙間のない円筒形状から、円周方向に隙間410を有する略C字状断面の筒形状に変位可能に形成されている。そのため、作業者は、この隙間410からケーブル部材81(
図1)を筒体21の内部20に出し入れすることができる。
【0032】
筒体21がこのように形成されるため、筒体21の内部20に筒体21の端からだけでなく、筒体21の側方からケーブル部材81を挿入することができる。また、壁9の貫通孔90内において、筒体21,22同士を容易に嵌め合わせることができる。
【0033】
図4および
図5に示されるように、筒体21の一端には、外径方向に折り曲げられた折り曲げ片43が設けられている。本実施の形態では、略180°の間隔で設けられた2つの折り曲げ片43が設けられているが、折り曲げ片43の個数および間隔は限定されない。折り曲げ片43には、ビスなどの釘部材を挿通するための孔43aが設けられていてもよい。
【0034】
(フランジ部の構成)
図6および
図7をさらに参照して、フランジ部31,32の構成について説明する。
図6は、無負荷状態におけるフランジ部31,32の外観斜視図である。
図7は、ケーブル挿入状態におけるフランジ部31,32の外観斜視図である。なお、フランジ部31,32の説明において、上記した筒体21,22の軸方向一端方向(矢印B1で示す方向)と同じ方向を前方または正面側といい、その反対方向を後方という。
【0035】
フランジ部31およびフランジ部32は同じ構成である。よって、ここでは代表的に一方のフランジ部31について説明するが、他方のフランジ部32も同様である。
【0036】
図6に示されるように、フランジ部31には、正面視において円周方向の1個所に、径方向に延びるスリット51が設けられている。フランジ部31は、無負荷状態においてもスリット51の部分、すなわちフランジ部31の円周方向の一端縁と他端縁との間に、隙間510が存在していてもよい。つまり、フランジ部31は正面視において略C字形状となるように形成されていてもよい。この状態におけるフランジ部31の中心穴30の直径も、貫通孔90の直径よりも若干小さく、たとえば97mm程度である。
【0037】
無負荷状態における隙間510の幅(円周方向一端と他端との間の間隔)は、8mm以下であり、たとえば5mm程度である。そのため、この隙間510から各種のケーブル部材81を挿入することは困難である。本実施の形態では、
図7に示すように、スリット51に隣接する2つの部分52を前後方向(軸方向)に捩じることができる。2つの部分52のうちの一方は、フランジ部31の円周方向の一端縁部分であり、2つの部分52のうちの他方は、フランジ部31の円周方向の他端縁部分である。
【0038】
スリット51に隣接する2つの部分52を前後方向(軸方向)に捩じることで、フランジ部31の円周方向一端縁部分52と他端縁部分52との間に、円周方向および前後方向の隙間511を作ることができる。つまり、フランジ部31は、前後方向に隙間がなく(または微小な隙間しかなく)円周方向に隙間510を有する形状から、円周方向および前後方向に隙間511を有する形状に変位可能に形成されている。隙間511の大きさは隙間510よりも大きい。
【0039】
そのため、作業者は、この拡大された隙間511からケーブル部材81をフランジ部31の中心穴30に出し入れすることができる。なお、ケーブル挿入状態における隙間511は前後方向にのみ開いていてもよい。
【0040】
本実施の形態では、フランジ部31は、筒体21の軸方向一端側の端部に嵌め合わされる嵌合部54を有している。嵌合部54は、フランジ本体53の内径端縁から後方(他端側)へ延びる。嵌合部54の軸方向長さは、たとえば10mm〜18mmである。フランジ本体53には、ビスなどの釘部材を挿通するための孔53aが設けられている。
【0041】
嵌合部54は略円筒形状であるが、上記したスリット51による隙間510を有する略C字状の断面形状となっている。フランジ部31が嵌合部54を有することで、フランジ部31の径方向の広がり(緩み)を防止することができる。なお、無負荷状態における嵌合部54の外径は、無負荷状態における筒体21の外径と等しいことが望ましい。
【0042】
(耐火用スリーブの施工)
図8および
図9に示す模式図を参照して、耐火用スリーブ1を、壁9の貫通孔90に施工する手順について説明する。
【0043】
作業者は、たとえば第1空間91側から、壁9の貫通孔90にケーブル部材81を挿通する。これにより、ケーブル部材81が第1空間91から第2空間92に引き出される。
【0044】
ケーブル部材81が貫通孔90に挿通されると、
図4に示す無負荷状態の筒体21を把持し、径方向に広げる。これにより、
図5に示すように筒体21の軸方向一端から他端まで延びる隙間410が作られる。作業者は、この隙間410から、第1空間91側のケーブル部材81を筒体21の内部20に挿入する。このようにして、筒体21内にケーブル部材81が通されると、
図8に示すように、無負荷状態の筒体21を軸方向他端側から壁9の貫通孔90に挿入する。
【0045】
同様に、筒体22を径方向に広げ、第2空間92側のケーブル部材81を隙間410から筒体22の内部20に挿入する。筒体22内にケーブル部材81が通されると、無負荷状態の筒体22を軸方向他端側から壁9の貫通孔90に挿入する。
【0046】
筒体21は第1空間91側から挿入され、筒体22は第2空間92側から挿入される。この挿入段階においては、筒体21,22の一端側に設けられた折り曲げ片43は、
図8に示されるように外径方向に折り曲げられておらず、軸方向に延びている。
【0047】
筒体21,22は、
図9に示されるように、貫通孔90内で互いに嵌め合わされる。上述のように筒体21,22は、軸方向一端から他端まで延びるスリット41を有するため、たとえば後入れの筒体22の外径を手で調整して先入れの筒体21内に嵌め入れることができる。これにより、筒体21,22が一体となって筒状部2(
図1)を構成する。筒体21,22の全長、すなわち筒状部2の軸方向長さL(
図3)は、貫通孔90の長さ、すなわち壁9の壁厚Lw(
図1)と大よそ一致する。
【0048】
筒体21,22が貫通孔90に挿通されると、筒体21,22の内部に耐熱パック82が挿入される。耐熱パック82は、ケーブル部材81の周囲を取り囲むように配置される。なお、耐熱パック82は、専用の押さえ金具(図示せず)によって位置決めされる。
【0049】
筒体21,22の内部に耐熱パック82が充填されると、作業者は、
図6に示す無負荷状態の一方のフランジ部31を把持し、フランジ部31を前後方向に捩じる。これにより、
図7に示すようにフランジ部31のスリット51の部分に(円周方向および)前後方向の隙間511が作られる。作業者は、この隙間511から、第1空間91側のケーブル部材81をフランジ部31の中心穴30に挿入する。
【0050】
このようにして、フランジ部31にケーブル部材81を挿通した後に、作業者は、無負荷状態のフランジ部31を筒体21の軸方向一端に接続する。具体的には、
図3に示されるように、フランジ部31の嵌合部54が筒体21の外径側に位置するように、これらが嵌め合わされる。これにより、フランジ部31のフランジ本体53は、壁9の第1空間91側の壁面91aに面接触する。
【0051】
他方のフランジ部32も同様の作業により、フランジ部32の中心穴30に、第2空間92側のケーブル部材81を挿入し、その後、無負荷状態のフランジ部32を筒体21の軸方向一端に接続する。これにより、フランジ部32のフランジ本体53は、壁9の第2空間92側の壁面92aに面接触する。
【0052】
なお、筒体21,22とフランジ部31,32とを接続する際には、筒体21,22およびフランジ部31,32の径が微調整されてよい。
【0053】
フランジ部31,32が筒体21,22に接続されると、筒体21,22の折り曲げ片43が、フランジ部31,32のフランジ本体53にそれぞれ沿うように略直角に折り曲げられる。このとき、
図10に示されるように、2つの折り曲げ片43のうちの一方が、各フランジ部31,32のスリット51の部分の隙間510を覆う位置となるように、筒体21,22またはフランジ部31,32の周方向位置が調整される。なお、
図10では、筒状部2内部に収容されたケーブル部材81および耐熱パック82の図示を省略している。
【0054】
筒体21,22の折り曲げ片43とフランジ部31,32のスリット51との位置が合わされると、フランジ本体53の孔53aにビス60が打ち込まれる。これにより、筒体21,22が貫通孔90の奥へ軸方向にずれることを防止することができる。
【0055】
図10に示されるように、筒体21,22の折り曲げ片43自体も、孔43aを貫通するビス60によって壁9に固定されてもよい。このようにすることで、筒体21,22が貫通孔90から手前側へ軸方向にずれることを防止することができる。また、筒体21,22が円周方向にずれることによってフランジ部31,32の隙間510が露出することを防止することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態に係る耐火用スリーブ1によれば、ケーブル部材81の挿入後の施工が可能となる。また、説明はしなかったが、一般的な耐火用スリーブと同様に、耐火用スリーブ1を貫通孔90にセットした後で、ケーブル部材81を挿通することもできる。このように、現場での作業順序が固定されないため、現場での施工性を向上させることができる。
【0057】
また、各筒体および各フランジ部はスリットを有するだけで二分割されていない。したがって、部品点数を抑えることができ、さらに施工性を向上させることができる。
【0058】
また、本実施の形態によれば、筒状部2の軸方向長さLを調整できるため、同じ構成および形状の耐火用スリーブ1を、様々な壁厚の壁の貫通孔に採用することができる。
【0059】
(変形例1)
上記したフランジ部31,32のフランジ本体53は、中心穴30が円形となっていればよく、外径形状は円形でなくてもよい。たとえば、
図11に示すフランジ部31Aのように、フランジ本体53の外径部に切断部55が設けられていてもよい。この場合、壁面91aまたは91bの貫通孔90の近くに換気フード等の突出物(図示せず)が取り付けられる場合であっても、切断部55が突出部側を向くようにフランジ部31Aを配置することで、突出部が邪魔にならず耐火用スリーブ1を施工することができる。
【0060】
あるいは、フランジ部31,32のフランジ本体53の外形形状は、たとえば矩形形状であってもよい。
【0061】
(変形例2)
上記実施の形態では、
図5に示したように、筒体21,22が無負荷状態においてスリット41に隣接する部分42が重なり合うように(つまり、円周方向に隙間のないように)形成されていることとした。しかしながら、各筒体21,22は、無負荷状態において重なり合う部分がなくてもよい。
【0062】
図12は、本実施の形態の変形例2における無負荷状態の筒体21Aを示す外観斜視図である。筒体21Aは、無負荷状態においてスリット41の部分に隙間411が存在している。隙間411の幅は、筒体21Aの軸方向一端から他端まで略一定である。隙間411の幅は、筒体21Aに力を加えることで大きくしたり小さくしたりできる。
【0063】
このような構成の場合、隙間411の幅を広げて、筒体21Aの内部20にケーブル部材81を挿通した後で、筒体21Aを径方向に縮めて、筒体21Aの円周方向一端縁部42aと他端縁部42bとを重なり合わせる。その状態で、ブチルテープなどの接合部材(図示せず)により重なり合う部分を接合することにより、筒体21Aの形状を円周方向に隙間のない円筒形状とすることができる。なお、筒体21Aの外周面には、縁部42a,42bの重ね幅を所定の幅とするためのガイド線(
図12において一点鎖線で示される)が設けられていてもよい。
【0064】
筒体21Aは、上記実施の形態の筒体21,22と同様に、無負荷状態における外径が貫通孔90の直径と同程度(たとえば直径との差が5mm以下)となるように形成される。本変形例では、無負荷状態においてもある程度の隙間411が存在する。そのため、筒体21Aによれば、壁9の貫通孔90の直径が比較的小さい場合(たとえば70mm程度)であっても、ケーブル挿入状態において隙間411の幅を広げることで、ケーブル部材81を隙間411から挿入することが可能となる。
【0065】
(変形例3)
上記実施の形態では、筒状部2(筒体21,22)およびフランジ部31,32の双方にスリットが設けられることとしたが、少なくとも筒状部2にスリットが設けられていればよい。
【0066】
図13は、本実施の形態の変形例3におけるフランジ部31Bを示す正面図である。フランジ部31Bには、スリットが設けられていない。この場合、フランジ部31Bは、上記した嵌合部54を有していなくてもよい。フランジ部31B(フランジ本体53)には、上記した孔53aが設けられていないが、孔53aを有していてもよい。
【0067】
本変形例によるフランジ部31Bは、壁9の貫通孔90の直径が比較的小さい場合(たとえば70mm程度)に、
図12に示した筒体21Aと組み合わせて用いられることが想定される。つまり、フランジ部の材質および厚みの関係上、フランジ部を捻ることでできるスリット部分の最大隙間が、ケーブル部材81を挿通できる大きさに満たない場合に、スリットのないフランジ部31Bを採用してもよい。なお、このような構成の場合、壁9の貫通孔90にケーブル部材81を挿入する前に、壁9の壁面91aまたは91bにフランジ部31Bを固定しておく必要がある。
【0068】
(他の変形例)
本実施の形態では、筒状部2が、伸縮可能に嵌め合わされる2つの筒体21,22により構成されることとしたが、壁9の壁厚Lwと略同じ軸方向長さを有する1つの筒体で構成されてもよい。
【0069】
また、本実施の形態では、貫通孔90を有する区画体が壁9であることとしたが、限定的ではなく、たとえば床であってもよい。この場合、筒状部2に接続されるフランジ部は床上側にのみ設けられてもよい。つまり、筒状部2の少なくとも一端縁にフランジ部が接続されればよい。
【0070】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。