(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持電極用導電材料ペーストとして、カーボンペーストまたはAg/AgX塩混合物ペーストを用いることにより、前記支持電極領域を形成することを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
前記Ag/AgX塩/(アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩)混合物ペースト中、重量比として、(Ag及びAgX塩の総量):[前記アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の総量]=1:0.05〜1:10であることを特徴とする、請求項11または12に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[(A)本発明の第一の態様]
(A−1)
本態様は、
絶縁性支持基板上に、
(i)Ag/AgX塩混合物(X
-イオンは、Cl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択)を含む電極層と、
(ii)防水性絶縁層と、
がこの順に積層された平板型参照電極であって、
多孔質電極領域が、電極層の少なくとも一部として含まれ、
開口部が、多孔質電極領域を電極外部と流体連通可能とするために形成されており、
アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が、電極層の空隙中に含まれている。
【0020】
ここで、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩は、M
AX塩及びM
EX
2塩からなる群から選択される一種以上の金属塩であり、M
A+イオンはアルカリ金属イオン、M
E2+イオンはアルカリ土類金属イオンである。
【0021】
(A−2)多孔質電極領域
(A−2−1)
本態様にいう多孔質電極領域は、従来型の銀/塩化銀内部電極にいう液絡に相当する部材としても作用する(流体連通制御機能)。そして、本態様の参照電極を外部被試験溶液に接触させた際、電極層の空隙中に含まれるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(M
AX塩またはM
EX
2塩)により、内部溶液としてのM
AX塩またはM
EX
2塩水溶液(好ましくは飽和水溶液)が形成される。開口部〜多孔質電極領域を介しての、外部被試験溶液と電極層との間の流体連通は、電気的接続を保つには十分であるが、多孔質電極領域の存在により電極層中の内部溶液がわずかずつしか流出しないことで、測定に必要な十分な時間、電極表面上のX
-イオン(典型的には塩化物イオン)濃度を実質的に一定に保つことができる。
【0022】
ここで、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(M
AX塩またはM
EX
2塩)が含まれる電極層の空隙とは、多孔質電極領域中の空隙のみならず、電極層の基板側空隙等の電極層に属する他の空隙も含みうる。
図4[特に
図4(b)]には、電極層の基板側空隙上にKCl結晶層が形成されていることがわかる[
図4(b)中の2本の二重線参照]。
【0023】
(A−2−2)
また、本態様にいう多孔質電極領域は、Ag/AgX塩混合物層中の一部のAgX塩を溶解除去して得ることのできる空隙を有する多孔質構造[(C)本発明の第三の態様参照]、あるいはAg/AgX塩/(M
AX塩またはM
EX
2塩)混合物層中のM
AX塩またはM
EX
2塩を溶解除去して得ることのできる空隙を有する多孔質構造[(D)本発明の第四の態様(D−5)参照]を有する領域である。言い換えれば、前者ではAgX塩粒子のサイズに匹敵するサイズ、後者ではM
AX塩粒子またはM
EX
2塩粒子のサイズに匹敵するサイズ(たとえば、いずれも体積平均粒径として0.01〜100μm程度)の空隙構造(多孔質構造)を有する領域である。かかる空隙により、いわゆる液絡(電極層と電極外部とを流体連通可能とする通路)として機能できるようになっている。
【0024】
たとえば、
図3(c)には、かかる多孔質電極領域部分の電子顕微鏡写真を示している。
図3(d)と比べて、一部のAgX塩(
図3ではAgCl)が溶解除去され、本態様にいう意味での多孔質電極領域が顕在化している。
【0025】
そして、本発明にいう多孔質電極領域を含む電極層の空隙中には、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であるM
AX塩またはM
EX
2塩(ここで、M
A+イオンはアルカリ金属イオン、M
E2+イオンはアルカリ土類金属イオン、X
-イオンは、Cl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択)が含まれる。かかるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が、電位測定の際に、電極表面に安定的にX
-イオンを供給する供給源となっている。これらの金属塩のうち、M
AX塩が好ましく、その中でもKClが、陽イオンと陰イオンの輸率がほぼ等しい点で最も好ましい。これらの金属塩の含有割合としては、多孔質電極領域を含む電極層の空隙の体積に相当する水に対する室温における溶解度以上が好ましい。
【0026】
ここで、電極層の空隙中にM
AX塩またはM
EX
2塩を含むとは、多孔質電極領域中の多孔質構造の空隙を残しつつ、M
AX塩またはM
EX
2塩が電極層の空隙中に含まれることをいう。これに対して、後記する本発明の第二の態様では、M
AX塩またはM
EX
2塩が、電極層中、Ag/AgX塩と均質な混合物となって存在しており、多孔質構造が顕在化していないのとは異なる。
【0027】
(A−2−3)
前記多孔質電極領域を形成する一方法として、後記する本発明の第三の態様において説明するように、浸漬法によることができる。
【0028】
より具体的には、電極層(Ag/AgX塩の均一混合物層)をM
AX塩またはM
EX
2塩水溶液(好ましくは飽和または過飽和水溶液)に一定期間浸漬することにより、一部のAgX塩粒子を溶液中に溶解させることで、AgX塩粒子が占めていた空間を、多孔質構造を構成する空隙に転換することができる。そして、該多孔質構造を含めて電極層の空隙中に入り込んだM
AX塩またはM
EX
2塩水溶液中のM
AX塩またはM
EX
2塩が、電極層の空隙中に含まれるアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であるM
AX塩またはM
EX
2塩となる。
【0029】
あるいは、後記する本発明の第二の態様の平板型参照電極を、同様にM
AX塩またはM
EX
2塩水溶液(好ましくは飽和または過飽和水溶液)で処理することによっても製造可能である[本発明の第四の態様、後記の(D−5)参照]。
【0030】
(A−3)電極層
少なくともAg/AgX塩(X
-イオンは、Cl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択)の混合物層を含み、Ag/AgX電極(典型的にはAg/AgCl電極)を構成する層である。電極層は、さらに炭素電極等の支持電極層を含む多層電極層としてもよい。この場合、支持電極層は、絶縁性支持基板とAg/AgX塩混合層の間に形成することができる。
【0031】
電極層全体として、AgとAgX塩の好ましい重量配合比率は、電位安定性と電気抵抗の観点から、95:5〜5:95が好ましく、90:10〜20:80がより好ましい。
【0032】
当該電極層の少なくとも一部に前記の多孔質電極領域が含まれている。
【0033】
当該電極層の空隙中に易水溶性塩であるM
AX塩またはM
EX
2塩が含まれることから、少なくとも測定に必要な十分な時間の間、電極層表面(内部表面含む)のX
-イオン濃度が安定化する。
【0034】
電極層の空隙中に易水溶性M
AX塩またはM
EX
2塩を含んでいるため、被測定水溶液の侵入も円滑に行われ、短時間で測定可能状態になることができる。
【0035】
また、多孔質電極領域の空隙のサイズは、AgX塩粒子あるいは、M
AX塩粒子またはM
EX
2塩粒子と同程度のサイズ(体積平均粒径としては0.01〜100μm)の小さいサイズであることから[前記(A−2−2)参照]、液体の出入りが制約され、電極層表面(内部表面含む)のX
-イオン濃度が安定化に寄与する(流体連通制御機能)。
【0036】
電極層を構成するAg粒子の好ましい体積平均粒径としては0.01〜100μm、より好ましくは0.1〜50μmである。同様に電極層を構成するAgX塩粒子の好ましい体積平均粒径としては0.01〜100μm、より好ましくは0.1〜50μmである。なお、体積平均粒径は、典型的にはレーザー回折式粒子径分布測定装置によって測定できる。
【0037】
また、電極層の厚みとしては、被測定水溶液の浸透性の観点から、好ましくは0.1〜200μmとすることができる。
【0038】
(A−4)防水性絶縁層
本態様の平板型参照電極では、電極層の上に防水性絶縁層が形成されている。この層は絶縁の機能を有すると共に、防水性の機能により、電極層、特に多孔質電極領域の空隙と外部溶液との間の流体連通に制限を加え、電極表面のX
-イオン濃度の安定化に寄与する。
【0039】
防水性絶縁層を形成するための適切な材料として、従来公知の任意の防水性材料を使用することができるが、たとえばアクリル樹脂等を好適に用いることができる。
【0040】
(A−5)開口部
多孔質電極領域を通して電極層と外部被試験溶液との間を流体連通させるために形成される。
【0041】
多孔質電極領域の一部が外部に曝露されるような形状パターンで防水絶縁層を形成することで、開口部を形成できる。このような開口部は、防水性絶縁層内部あるいは電極層の側面(電極層平面の周縁側端)に設けることができる。電極層の側面(電極層平面の周縁側端)を開口部として用いる態様の開口部は、たとえば多孔質電極領域が平板型参照電極の側面にまで達しており、かつ該側面の少なくとも一部を防水性絶縁層等で覆わないことで形成できる。
【0042】
開口部の大きさは、被試験溶液が速やかに電極層の多孔質電極領域に入り込み、もって速やかに測定可能状態になるように適切な大きさを選択することができる。かかる観点からは、開口部の平面形状は任意の形状でよいが、少なくとも0.1mm以上の円相当径を有することが好ましい。ここで、円相当径とは、開口部の平面形状の面積に相当する面積を有する真円の直径のことをいう。より具体的には、
円相当径={4×(開口部の面積)/π}の正の平方根
により計算できる。
【0043】
(A−6)絶縁性支持基板
電極層を支持する機能を有する基板であり、当該技術において慣用される任意の材料、たとえばポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)やガラス等を用いることができる。
【0044】
典型的な厚みとしては、50〜2000μmを挙げることができる。
【0045】
[(B)本発明の第二の態様]
(B−1)
本態様は、
絶縁性支持基板上に、
(i)多孔質前駆体電極領域と、任意に支持電極領域とを含む電極層と、
(ii)防水性絶縁層と、
がこの順に積層された平板型参照電極であって、
前記多孔質前駆体電極領域が、Ag/AgX塩/(アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩)混合物を含み、
X
―イオンは、Cl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択され、
前記アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩は、M
AX塩及びM
EX
2塩からなる群から選択される一種以上であり、
M
A+イオンはアルカリ金属イオンであり、
M
E2+イオンはアルカリ土類金属イオンであり、
前記支持電極領域が、支持電極用導電材料を含み、
前記多孔質前駆体電極領域を、電極外部と流体連通可能とするための開口部が備えられている。
【0046】
本態様では、前記本発明の第一の態様のように事前に電極層に多孔質構造を有する多孔質電極領域が形成されているわけではなく、測定のために被試験溶液に電極を浸漬する際に、電極層材料混合物中に含まれていたアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(M
AX塩またはM
EX
2塩)が溶解することで多孔質構造が形成されるように構成されている。
【0047】
(B−2)多孔質前駆体電極領域
本発明の第一の態様の多孔質電極領域に対応する領域であり、Ag/AgX塩/(M
AX塩またはM
EX
2塩)混合物を含む。ここで、X
-イオンは、Cl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択され、M
Aイオンはアルカリ金属イオン、M
Eイオンはアルカリ土類金属イオンである。
【0048】
後記する本発明の第四の態様においても説明する通り、M
AX塩またはM
EX
2塩は、難水溶性のAgX塩とは異なり易水溶性であり、短時間に水に溶解するため、多孔質構造を形成させるために、本発明の第三の態様のように、事前にM
AX塩またはM
EX
2塩溶液に一定期間浸漬する工程は必ずしも必要ではない。すなわち、多孔質前駆体電極領域は、電位測定の際、速やかに多孔質構造を有する領域に変換されると考えられる。また、溶解したM
AX塩またはM
EX
2塩は、電極表面のX
-イオンの供給源となる。
【0049】
また、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であるM
AX塩またはM
EX
2塩のうち、M
AX塩が好ましく、さらにM
AX塩がKClであることが、陽イオンと陰イオンの輸率がほぼ等しい点で最も好ましい。
【0050】
多孔質構造を有する領域に良好に変換させる観点からは、Ag/AgX塩/アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(M
AX塩またはM
EX
2塩)混合物中、重量比として、(Ag及びAgX塩の総量):[前記アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(M
AX塩またはM
EX
2塩)の総量]=1:0.05〜1:10であることが好ましく、1:0.5〜1:1.5であることが好ましい。
【0051】
また、AgとAgXの好ましい重量配合比率は、電位安定性と電気抵抗の観点から、95:5〜5:95が好ましく、90:10〜20:80がより好ましい。
【0052】
また、前記電極層を構成するAg粒子の体積平均粒径が0.01〜100μmであることが好ましく、前記電極層を構成するAgX塩粒子の体積平均粒径が0.01〜100μmであることが好ましく、前記電極層を構成するM
AX塩またはM
EX
2塩粒子の体積平均粒径が0.01〜100μmであるであることがより好ましい。
【0053】
(B−3)電極層
本態様の電極層は、多孔質前駆体電極領域と、任意に支持電極領域とを含む。
【0054】
多孔質前駆体電極領域については前記(B−2)で説明した。
【0055】
本態様の電極層はさらに任意に、支持電極領域を含んでもよい。支持電極領域は、多孔質前駆体構造領域と絶縁性支持基板との間に介在する。
【0056】
支持電極領域は絶縁性支持基板上に形成することができ、導電性を有する任意の材料として形成できる。用いる支持電極用導電材料としては、たとえばC(炭素)、Ag/AgX塩などを例示できる(実施例2及び3参照)。もっとも、導電材料として、Ag/AgX塩/(M
AX塩またはM
EX
2塩)混合物を用いる場合は、電極層が多孔質前駆体電極領域からなり、任意の支持電極領域が含まれない場合に相当する。
【0057】
また、電極層全体の厚みとしては、被測定水溶液の浸透性の観点から、好ましくは0.1〜200μmとすることができる。
【0058】
(B−4)開口部
本態様の開口部は、電極層と外部被試験溶液との間を流体連通させるために形成される点では、本発明の第一の態様と共通する。しかし、本態様では、易溶解性のM
AX塩またはM
EX
2塩粒子が電極層材料混合物中に分散した状態で開口部直前まで存在する。
【0059】
このため、電極表面のX
-イオン濃度の変動をできるだけ抑制する観点からは、開口部の平面形状の円相当径を調節することで、電極層と外部被試験溶液との間の流体連通を制御することが好ましい。すなわち、本態様にいう開口部は本発明の第一の態様にいう多孔質電極領域の有する流体連通制御機能も併せ有することが好ましい。
【0060】
かかる観点からは、本態様にいう開口部は、防水性絶縁層を貫通する1または複数のピンホールで構成されていることが好ましく、これにより電極層と外部被試験溶液との間の流体連通を維持しつつ、電極表面のX
-イオン濃度の変動をできるだけ抑制するように調整することが好ましい。ピンホールとは、針で突いて形成されるような小孔を意味し、たとえば、その円相当径が1mm未満の孔を例示できる。もっとも、ピンホール開口部の平面形状は任意でよい。より具体的には、一つのピンホールの開口部の円相当径は、電極層と外部被試験溶液との間の流体連通を維持しつつ、電極内部のM
AX塩またはM
EX
2塩が外部に流出するのをできるだけ抑制すべく、1〜400μmとすることが好ましく、25〜250μmとするのがより好ましく、50〜200μmとするのがさらに好ましい(実施例2、3参照);電位の平均化効果の観点からは、ピンホールの数は多いほうが好ましい。
【0061】
(B−5)その他の構成部材
防水性絶縁層、絶縁性支持基板については、本発明の第一の態様と同様であり、それぞれ前記(A−4)及び(A−6)を準用することができる。但し、準用の際、「多孔質電極領域」を「多孔質前駆体電極領域」に置き換える。
【0062】
[(C)本発明の第三の態様]
(C−1)
本態様は、浸漬法を用いて、本発明の第一の態様の平板型参照電極を製造する方法である。
【0063】
より具体的には、
(i)絶縁性支持基板を準備する工程と、
(ii)前記絶縁性支持基板を覆って混合物ペーストを塗布することにより、電極層を形成する工程であって、
前記混合物ペーストが、Ag/AgX塩混合物ペーストであり、前記X
-イオンは、Cl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択される工程と、
(iii)前記電極層を覆って防水性絶縁層を形成する工程と、
(iv)前記工程(iii)と同時に、または前記工程(iii)の後に、前記電極層の一部を外部に露出させる開口部を形成して参照電極前駆体を得る工程と、
(v)前記参照電極前駆体を、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩水溶液に浸漬して、前記参照電極前駆体中のAgX塩の一部を溶解させて、多孔質電極領域を形成する工程であって、
前記アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が、M
AX塩及びM
EX
2塩からなる群から選択される一種以上であり、
M
A+イオンはアルカリ金属イオンであり、
M
E2+イオンはアルカリ土類金属イオンである工程と、
(vi)前記工程(v)で得られた塩水溶液処理体を洗浄乾燥し、電極層の空隙中に前記アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を析出させる工程と、
を含むことを特徴とする製造方法である。
【0064】
(C−2)
本態様の製造方法では、混合物ペーストにより電極層を形成後、一定期間(たとえば2日程度、実施例1参照)、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(M
AX塩またはM
EX
2塩)溶液(ここで、M
A+イオンはアルカリ金属イオンであり、M
E2+イオンはアルカリ土類金属イオンであり、X
-イオンはCl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択される)に浸漬することで、参照電極として用いた場合の電位の持続時間が十分となるまで難溶性のAgX塩粒子を徐々に溶解させ、多孔質電極領域を形成する。M
AX塩またはM
EX
2塩水溶液を用いるため、AgX塩粒子の溶解により形成された空隙中に、M
AX塩またはM
EX
2塩水溶液由来のM
AX塩またはM
EX
2塩を、工程(vi)の乾燥中に析出させることができる。
【0065】
M
AX塩またはM
EX
2塩水溶液としては飽和または過飽和溶液を用いることが、有効量のM
AX塩またはM
EX
2塩を、多孔質構造を含む電極層の空隙中に含ませるためにもっとも好ましい。
【0066】
(C−3)
また、電極層及び防水性絶縁層の形成には、印刷技術を用い簡便に作製することが可能である。
【0067】
電極層の形成に用いる混合物ペーストは、Ag/AgX塩混合物ペーストであり、AgとAgX塩の好ましい重量配合比率は、電位安定性と電気抵抗の観点から、95:5〜5:95が好ましく、90:10〜20:80がより好ましい。
【0068】
さらに、電極層が、支持電極層をも含む多層電極層である場合、各電極層を印刷法により簡便に形成することも可能である。このような多層電極層の態様においては、「絶縁性支持基板を覆って混合物ペーストを塗布する」とは、絶縁性支持基板上に形成された支持電極層上にAg/AgX塩混合物ペーストを塗布することを意味する。すなわち、前記工程(i)及び(ii)の間にさらに、
(ii‘)前記絶縁性支持基板上に、支持電極層を形成する工程、を含み、前記工程(ii)における混合物ペーストの塗布が、前記支持電極層上で行われる。
【0069】
また、Ag/AgX塩混合物ペースト等の電極層形成に用いられるペーストには、ポリエチレングリコール等の水溶性分散剤を添加してもよい。かかる添加により、より円滑に印刷を行うことができる。もっとも、かかる水溶性分散剤は混合物ペーストの塗布を容易にするために必要十分な量で添加すれば足り、塗布後の加熱乾燥(たとえば10〜20時間、200℃程度の温度)による気化・分解等により電極層から除くことができる。
【0070】
(C−4)
また、開口部の形成については、たとえば、前記(A−5)でも説明したように、形成する防水性絶縁層の印刷パターンを予め開口部が同時に形成されるように設定することで簡便に形成でき、安定生産の観点からも好ましい。あるいは、工程(iii)終了後に、防水性絶縁層の一部を除去することで開口部を設けてもよい。
【0071】
(C−5)
工程(vi)の洗浄乾燥工程では、たとえば水及びアルコールを順次用いて、電極外部表面に残存する塩水溶液を洗い流した後、適宜加熱等により乾燥する。通常、数10〜150℃程度の温度で約10分〜1時間程度、加熱すればよい。これにより、電極層の空隙中に含まれていた塩水溶液に由来して、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を電極層の空隙中に析出させることができる。
【0072】
[(D)本発明の第四の態様]
(D−1)
本態様は、易水溶性塩混合法を用いて、本発明の第二の態様の平板型参照電極を製造する方法である。
【0073】
より具体的には、
(i)絶縁性支持基板を準備する工程と、
(ii)前記絶縁性支持基板を覆って1または複数の混合物ペーストを塗布して、多孔質前駆体電極領域及び任意の支持電極領域を含む電極層を形成する工程であって、
前記混合物ペーストとして、Ag/AgX塩/(アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩)混合物ペーストを用いることにより、前記多孔質前駆体電極領域を形成し、
X
-イオンは、Cl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択され、
前記アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が、M
AX塩及びM
EX
2塩からなる群から選択される一種以上であり、
M
A+イオンはアルカリ金属イオンであり、
M
E2+イオンはアルカリ土類金属イオンであり、
前記混合物ペーストとして、支持電極用導電材料ペーストを用いることにより、任意に前記支持電極領域を形成する、工程と、
(iii)前記電極層を覆って防水性絶縁層を形成する工程と、
(iv)前記工程(iii)と同時に、または前記工程(iii)の後に、前記多孔質前駆体電極領域を、電極外部と流体連通可能とするための開口部を形成する工程と、を含むことを特徴とする製造方法である。
【0074】
ここで、前記Ag/AgX塩/(アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩)混合物ペーストを用いる場合の、当該混合物ペーストの全重量を基準とする、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(M
AX塩またはM
EX
2塩)の配合割合は、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは30〜70重量%とすることができる。
【0075】
また、当該混合物ペースト中のAgとAgXの好ましい重量配合比率は、電位安定性と電気抵抗の観点から、95:5〜5:95が好ましく、90:10〜20:80がより好ましい。
【0076】
また、後記する(D−5)で詳しく説明するように、さらに追加の工程を加えることで、本発明の第一の態様の平板型参照電極を製造する方法ともなり得る。
【0077】
(D−2)
本態様の製造方法では、Ag/AgX電極の電解質であり易水溶性塩であるM
AX塩またはM
EX
2塩(M
A+イオンはアルカリ金属イオンであり;M
E2+イオンはアルカリ土類金属であり;X
-イオンは、Cl
-、Br
-、I
-及びSCN
-からなる群から選択される)が、多孔質前駆体電極領域を形成するための混合物ペースト中に分散配合されている。
【0078】
分散配合されるM
AX塩またはM
EX
2塩の好ましい配合割合については、前記(D−1)を参照することができる。
【0079】
かかる分散配合により、事前に多孔質構造を形成する本発明の第三の態様のような浸漬工程は必ずしも必要ではない。M
AX塩またはM
EX
2塩は、難水溶性であるAgX塩とは異なり、易水溶性であり、被測定水溶液に浸漬すれば短時間に溶解して、多孔質構造の空隙を顕在化させることができる。
【0080】
(D−3)
本態様の電極層には多孔質前駆体電極領域が含まれ、このような多孔質前駆体電極領域はAg/AgX塩/(M
AX塩またはM
EX
2塩)混合物ペーストを用いた1ないし複数回の印刷により形成することができる。
【0081】
他方、本態様の電極層には任意に支持電極領域を含んでもよい。当該支持電極領域は任意の導電材料を用いて形成できる。たとえば、カーボンペーストやAg/AgX塩混合物ペーストを用いた印刷により、それぞれ炭素支持電極領域やAg/AgX塩支持電極領域を形成することができる。もっとも、導電材料として、Ag/AgX塩/(M
AX塩またはM
EX
2塩)混合物ペーストを用いる場合は、電極層が多孔質前駆体電極領域からなり、支持電極領域を含まない場合に相当する。
【0082】
なお、支持電極領域を含む態様においては、工程(ii)にいう「絶縁性支持基板を覆って混合物ペーストを塗布」するとは、絶縁性支持基板上に形成された支持電極領域上に混合物ペーストを塗布することを意味する。すなわち、前記工程(i)及び(ii)の間にさらに、
(ii‘)前記絶縁性支持基板上に、支持電極領域を形成する工程、を含み、前記工程(ii)における混合物ペーストの塗布が、前記支持電極領域上に行われる。
【0083】
混合物ペースト等の電極層形成に用いられるペーストには、ポリエチレングリコール等の水溶性分散剤を添加してもよい。かかる添加により、より円滑に印刷を行うことができる。もっとも、かかる水溶性分散剤は混合物ペーストの塗布を容易にするために必要十分な量で添加すれば足り、塗布後の加熱乾燥(たとえば10〜20時間、200℃程度の温度)において、その大部分が気化・分解等により電極層から除くことができる。
【0084】
なお、実施例2は、Ag/AgCl混合層(支持電極領域)と、Ag/AgCl/KCl混合層(多孔質前駆体電極領域)とを用いた多領域電極層である。
【0085】
また、実施例3は、炭素層(支持電極領域)と、Ag/AgCl/KCl混合層(多孔質前駆体電極領域)とを用いた多領域電極層である。なお、実施例3では、多孔質前駆体電極領域の形成に、Ag/AgCl/KCl/PEG混合物ペーストを用いているが、PEGはあくまで塗布をしやすくするための分散剤であり、印刷後の加熱乾燥処理による気化・分解等により除くことができる。
【0086】
防水性絶縁層の形成も、印刷技術を用い簡便に作製することが可能である。
【0087】
(D−4)
開口部の形成については、開口部がピンホールである場合も含めて、防水性絶縁層の印刷パターンを予め開口部が同時に形成されるように設定することが、安定生産の観点から望ましい。もっとも、簡便に作製する観点から、防水性絶縁層形成後に開口部を作製することも可能である。たとえば、実施例2及び3では、防水性絶縁層形成後に、針等を用いて開口部としてのピンホールを形成している。
【0088】
(D−5)
なお、本態様の製造方法を利用して、本発明の第一の態様の平板型参照電極を製造することも可能である。
【0089】
すなわち、前記(D−1)の工程(i)〜(iv)に加えて、
(v)工程(iv)で得られた前記参照電極を、M
AX塩またはM
EX
2塩水溶液(好ましくは飽和水溶液)に浸漬して、前記参照電極中のM
AX塩またはM
EX
2塩の少なくとも一部を溶解させて、多孔質構造を顕在化させる工程、及び
(vi)前記工程(iv)で得られた浸漬処理体を洗浄乾燥し、前記電極層の空隙中の前記塩水溶液から、M
AX塩またはM
EX
2塩を析出させる工程、を行うことで、 本発明の第一の態様の平板型参照電極を製造することもできる。
【0090】
また、この場合、開口部の平面形状が、少なくとも0.1mm以上の円相当径を有することが好ましい。
【実施例】
【0091】
実施例1〜3、比較例1〜2の参照電極を作製した。
【0092】
なお、印刷には、Micro−Tec社製印刷機 MT−320TVを用いた。
【0093】
[実施例1]
参照電極作製
本発明の第三の態様に属する以下の手順により、本発明の第一の態様の実施例1の参照電極を作製した。
図1(b)に作製した参照電極の平面図を示す。
【0094】
(i)
基板[ポリエチレンテレフタレートシート(PET)、ルミラーS10、厚さ250μm、50mm×10mm、JMT(株)製]にAg/AgClペースト(重量比60:40、GWENT GROUP製C2130809D5)を
図1(b)に示すパターンで印刷して、110℃のオーブンで15分間乾燥させることにより、Ag/AgCl層を形成した。該Ag/AgCl層の膜厚は、およそ20〜40μm程度であった。
【0095】
(ii)
次にUV硬化型ソルダーレジスト[アクリル樹脂、PLAS FINE PSR−310(A−81)250PS、互応化学工業(株)製]を用いて、
図1に示すように防水性絶縁層を印刷し、UV照射により硬化させた[
図2(a)参照]。該防水性絶縁層の厚みは、およそ30〜50μm程度であった。
【0096】
ここで、
図1に示す電極部は開口部(直径3mm)となっており、防水性絶縁層は形成されていない(
図2も参照)。
【0097】
(iii)
電極部を飽和KCl水溶液に室温で2日間、浸漬した。この浸漬の間に、開口部付近の飽和KCl溶液と接触したAg/AgCl層から、AgClの一部が溶解して、多孔質電極領域が形成されると考えられる[
図2(b)の参照番号3及び
図3(c)参照]。
【0098】
ここで、飽和KCl水溶液は、塩化カリウム[和光純薬工業(株)試薬特級]を、蒸留水に溶解させることで調製した。
【0099】
(iv)
浸漬終了後、水、次いでエタノールで洗浄した。
【0100】
(v)
洗浄後、50℃のオーブンで10分間乾燥させた。
参照電極の断面
得られた参照電極の各特定部位[
図2(b)に示す参照番号(1)〜(4)に対応]の断面の電子顕微鏡写真(倍率:(a)300倍、(b)1200倍、(c)5000倍、(d)5000倍)を
図3に示す。
【0101】
特に
図3(b)[
図2(b)の参照番号(2)に対応]には、断面上部に防水性絶縁層が、断面下部に多孔質構造のAg/AgCl層が観察され、飽和KCl水溶液に由来するKClがAg/AgCl層の下部に析出している[元素分析で確認、
図4(b)参照]。
【0102】
[実施例2]
本発明の第四の態様に属する以下の手順により、本発明の第二の態様の実施例2の参照電極を作製した(
図5参照)。
【0103】
(i)
基板(ガラス、1mm厚)上にAg/AgClペースト(重量比60:40、GWENT GROUP製C2130809D5)を印刷して、110℃のオーブンで15分間乾燥することにより、支持電極領域を形成した。
【0104】
(ii)
次いで、得られた支持電極領域の表面のうち、開口部が形成される予定の位置を含む一部表面(
図5参照)にAg/AgCl/KClペーストを印刷し、220℃のオーブンで18時間乾燥することにより、KClを均一に含むAg/AgCl混合物層(多孔質前駆体電極領域)を形成した。
【0105】
ここで、用いたAg/AgCl/KClペーストは、参照電極用銀/塩化銀インク[BAS(株)製011464、15.7g]に塩化カリウム[和光純薬工業(株)試薬特級、粉砕物として6.4g]を加えて、ジルコニアボール3mmの存在下に混練装置(あわとり練太郎 AR−250、(株)シンキー製)を用いて混練して得られた。
【0106】
(iii)
次にUV硬化型ソルダーレジスト[アクリル樹脂、PLAS FINE PSR−310(A−81)250PS、互応化学工業(株)製]を用いて、電極層(支持電極領域及び多孔質前駆体電極領域)の表面上に防水性絶縁層を印刷し、UV照射により硬化させた。
【0107】
(iv)
次いで、多孔質前駆体電極領域上の防水性絶縁層部分の特定部位に針を用いてピンホールを作製した(直径100〜200μm)。
【0108】
[実施例3]
本発明の第四の態様に属する以下の手順により、本発明の第二の態様の実施例3の参照電極を作製した(
図6参照)。
【0109】
(i)
基板(ガラス、1mm厚)上にカーボンペースト(十条ケミカル製JELCON CH-8カーボンペースト)を印刷して、120℃のオーブンで15分間乾燥することにより、支持電極領域(炭素導電層)を形成した。
【0110】
(ii)
次いで、得られた支持電極領域の表面のうち、開口部が形成される予定の位置を含む一部表面にAg/AgCl/KCl/ポリエチレングリコール(PEG)混合物ペーストを印刷し、220℃のオーブンで18時間乾燥することにより、KClを均一に含むAg/AgCl混合物層(多孔質前駆体電極領域)を形成した。なお、用いたペースト中のPEGは、オーブンでの加熱乾燥による気化・分解等により除くことができる。
【0111】
ここで、用いたAg/AgCl/KCl/PEG混合物ペーストは、参照電極用銀/塩化銀インク[BAS(株)製011464、7.9g]に塩化カリウム[和光純薬工業(株)試薬特級、粉砕物として3.9g]及びポリエチレングリコール2000[和光純薬工業(株)試薬一級、3.9g]を加えて、ジルコニアボール3mmの存在下に混練装置(あわとり練太郎 AR−250、(株)シンキー製)を用いて混練して得られた。
【0112】
(iii)
次にUV硬化型ソルダーレジスト[アクリル樹脂、PLAS FINE PSR−310(A−81)250PS、互応化学工業(株)製]を用いて、電極層(支持電極領域及び多孔質前駆体電極領域)の表面上に防水性絶縁層を印刷し、UV照射により硬化させた。
【0113】
(iv)
次いで、多孔質前駆体電極領域上の防水性絶縁層部分の特定部位に針を用いてピンホールを10ケ作製した(各ピンホールの直径50〜100μm)。
【0114】
[比較例1]
下記のような手順で比較例1の参照電極を作製した(
図7参照)。
【0115】
(i)
基板(ガラス、1mm厚)上にAg/AgClペースト(重量比60:40、GWENT GROUP製C2130809D5)を印刷して、110℃のオーブンで15分間乾燥することにより、Ag/AgCl混合物層(電極層)を形成した。
【0116】
(ii)
次いで、Ag/AgCl混合物層上に、UV硬化型ソルダーレジスト[アクリル樹脂、PLAS FINE PSR−310(A−81)250PS、互応化学工業(株)製]を用いて、防水性絶縁層を印刷し、UV照射により硬化させた。
【0117】
ここで、Ag/AgCl混合物層上の一部には、防水性絶縁層を形成せず、開口部(直径3mm)が形成されている(
図6参照)。
【0118】
[比較例2]
下記のような手順で比較例2の参照電極を作製した(
図8参照)。
【0119】
(i)
比較例1の参照電極の開口部にポリビニルアルコール(PVA)/KCl水溶液を10μl滴下後、85℃のオーブンで5分間乾燥して、開口部にPVA/KCl/H
2O膜層を形成した。
【0120】
ここで、PVA/KCl水溶液は、100mgのPVAを2mlの水で溶解後、2mlのKCl飽和水溶液を添加することで調製した。
【0121】
(ii)
次いで、PVA/KCl/H
2O膜層上に保護膜液5μl滴下して、室温で3時間乾燥した。
【0122】
ここで、保護膜液は、400mgのポリビニルクロライド(PVC)及び300mgのジ−n−オクチルフェニルフォスホネート(DOPP)を10mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解して得られた。
【0123】
[試験例1]
得られた参照電極(実施例1〜3、比較例1)のそれぞれにつき、外部溶液としてのKCl水溶液のKCl濃度(0.01mM〜3500mM)を変化させた場合の電極電位安定性について調べた(KCl濃度に対する電位応答試験)。
【0124】
なお、市販のAg/AgClガラス電極(イーシーフロンティア製RE−2B)を基準として電極電位を測定した。
【0125】
その結果を下記表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
*1:外部溶液のKCl濃度が0.01mMでは2回、それ以外の濃度では3回測定後の数平均値
*2:7回測定後の数平均値
*3:2回測定後の数平均値
*4:7回測定後の数平均値
【0128】
上記の表1をグラフ化したのが、
図9(a)(実施例1)、
図10(a)(実施例2)、
図11(a)(実施例3)及び
図12(a)(比較例1)である。なお、これらの図では縦軸に電極電位(mV)、横軸に外部KCl水溶液のKCl濃度(mM)の常用対数を採用している。
【0129】
上記測定の結果、実施例1〜3の参照電極については、広範な外部溶液中のCl
-濃度に対して安定であったが[
図9(a)、
図10(a)及び
図11(a)参照]、比較例1の参照電極では、電極電位が大きく変化し参照電極としては不適切であることがわかった[
図12(a)参照]。
【0130】
実施例1〜3においては、KCl塩を含む多孔質電極領域(実施例1)ないし多孔質前駆体電極領域(実施例2,3)の存在により、参照電極表面と接触する溶液のKCl濃度が安定にほぼ飽和に近い状態に保たれると考えられ、電位安定性が高い。これに対して、比較例1では、実施例品のようなKCl塩を含む多孔質構造が未形成であるため、参照電極表面の溶液のKCl濃度が、外部溶液のKCl濃度に直接依存してしまうため電位安定性がないものと考えられる。
【0131】
[試験例2]
得られた参照電極(実施例1〜3、比較例2)のそれぞれにつき、外部溶液としてのKCl水溶液のKCl濃度を3mMに固定した場合の経時的な電極電位安定性について、秒単位で電極電位を測定した(希薄KCl水溶液に対する経時的な電位安定性試験)。
【0132】
その結果を、
図9(b)(実施例1)、
図10(b)(実施例2)、
図11(b)(実施例3)及び
図12(b)(比較例2)にそれぞれ示す。
【0133】
また、下記表2において、1秒間隔で合計5秒間の5つの測定値の数平均値として特定経過時間後の電極電位を示した。
【0134】
【表2】
【0135】
*1:16秒後には−9.7mVに達している(単独値)。
*2:18秒後には約5mV(4.5mV)に達している(単独値)。58−62秒間の数平均値は4.2mVである。
*3:12秒後には約0.9mV(0.92mV)を記録している(単独値)。58−62秒の数平均値は0.9mVだが、68−72秒の数平均値は1.2mVである。
【0136】
この結果、実施例1〜3では短時間で電位が安定化し、長時間、比較的安定的な電位を維持できたが、比較例2では、電極電位が大きく増加した。これは比較例2の参照電極において、PVA/KCl/H
2O膜層から保護膜外にKClが徐々に拡散し、Ag/AgCl電極表面のCl
―濃度が低下したものと考えられる。電極層の多孔質電極領域ないし多孔質前駆体電極領域中に、KClが含まれることが重要であることを示す。