特許第6836252号(P6836252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836252
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】水性塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 101/28 20060101AFI20210215BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210215BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210215BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20210215BHJP
【FI】
   C09D101/28
   C09D5/02
   C09D7/61
   C09D7/63
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-73219(P2019-73219)
(22)【出願日】2019年4月7日
(65)【公開番号】特開2020-172557(P2020-172557A)
(43)【公開日】2020年10月22日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】592116763
【氏名又は名称】株式会社ワンウィル
(74)【代理人】
【識別番号】100160299
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】山本 倍章
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第109423155(CN,A)
【文献】 特公昭47−006029(JP,B1)
【文献】 特開2016−160289(JP,A)
【文献】 特開2012−057042(JP,A)
【文献】 特開2006−022141(JP,A)
【文献】 特開2004−250908(JP,A)
【文献】 特開2019−137850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00、
101/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロフィライト及びセピオライトを含有する微粉末状の粘土鉱物と、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースを主成分とし、20℃における2重量%水溶液粘度が、それぞれ2400mPa・S〜4500mPa・S及び64000mPa・S〜90000mPa・Sである第1剤及び第2剤を含有する、微粉末状のチキソトロピー補助剤と、
珪藻土及びゼオライトを含有する微粉末状の無機多孔質材と、を含む微粉末組成物を主要構成物質とし、
前記微粉末組成物を水中に分散溶解させた、チキソトロピックインデックスが3.0〜4.0である水性塗料であって、
前記チキソトロピー補助剤は、前記第1剤67重量%〜91重量%、前記第2剤9重量%〜33重量%の配合割合であること、を特徴とする水性塗料。
【請求項2】
前記粘土鉱物は、前記パイロフィライト34重量%〜90重量%、前記セピオライト10重量%〜66重量%の配合割合とし、
前記無機多孔質材は、前記珪藻土2重量%〜33重量%、前記ゼオライト67重量%〜98重量%の配合割合とするとともに、
前記粘土鉱物1重量部に対して、
前記チキソトロピー補助剤0.02重量部〜0.10重量部と、前記無機多孔質材1.0重量部〜3.0重量部と、を含有するものであり、
前記微粉末組成物1重量部に対して、前記水を1.0重量部〜3.0重量部添加して分散溶解させたことを特徴とする請求項1に記載の水性塗料。
【請求項3】
前記粘土鉱物は、前記パイロフィライト34重量%〜90重量%、前記セピオライト10重量%〜66重量%の配合割合とし、
前記無機多孔質材は、前記珪藻土2重量%〜33重量%、前記ゼオライト67重量%〜98重量%の配合割合とするとともに、
さらに、微粉末状の光触媒活性を有する金属酸化物を含み、
前記粘土鉱物1重量部に対して、
前記チキソトロピー補助剤0.02重量部〜0.10重量部と、前記無機多孔質材1.0重量部〜3.0重量部と、前記光触媒活性を有する金属酸化物0.1重量部〜1.0重量部と、を含有するものであり、
前記微粉末組成物1重量部に対して、前記水を1.0重量部〜3.0重量部添加して分散溶解させたこと、を特徴とする請求項1に記載の水性塗料。
【請求項4】
前記粘土鉱物は、前記パイロフィライト34重量%〜90重量%、前記セピオライト10重量%〜66重量%の配合割合とし、
前記無機多孔質材は、前記珪藻土2重量%〜33重量%、前記ゼオライト67重量%〜98重量%の配合割合とするとともに、
さらに、尿素化合物と有機アルカリと酸とを主成分とするホルムアルデヒド低減剤を含み、
前記粘土鉱物1重量部に対して、
前記チキソトロピー補助剤0.02重量部〜0.10重量部と、前記無機多孔質材1.0重量部〜3.0重量部と、を含有するものであり、
前記微粉末組成物1重量部に対して、前記水を1.0重量部〜3.0重量部添加して分散溶解させたこと、を特徴とする請求項1に記載の水性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に安全であり、施工性に優れると共に耐熱性に優れ、多機能性能を有する水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅技術の進化で、高気密高断熱の住宅が増え、暑さ及び寒さ対策が向上しており、また、2002年、建築基準法改正により、建築物に関して、シックハウス対策が義務付けられることになった。しかし、換気対策が不充分な家屋、家具・家電、並びに家庭化学物質(殺虫剤、芳香材等)等の種々の要因に起因するシックハウス患者は減少していないという現状がある。IAQ(Indoor Air Quality)の言葉で代表されるように、室内の空気の清浄度と健康とは密接な関係があり、空気の汚れがアレルギー症などの各種疾病の原因となることが知られており、その改善が求められている。
【0003】
上記課題を解決するために、出願人は、多孔質無機鉱物を主成分として配合される調湿性と塗装性を有する壁紙・塗り壁材のような内装仕上げ材を開発した。すなわち、上記多孔質無機鉱物は、珪藻土及び酸性白土を含む粘土鉱物より選択される珪酸塩鉱物であり、この多孔質無機鉱物に尿素を3%〜10%添加することにより、ホルムアルデヒドの吸着捕捉と共に、捕捉したホルムアルデヒドをメチロール化物として脱水・安定化が図られ、かつこのメチロール化物を、配合する珪酸塩鉱物の固体酸触媒成分により、さらにメチレン化物へと縮合反応を促進して安定化及び無害化を図る内装仕上げ材である(以下、「従来内装材」という。)(特許文献1)。
【0004】
また、(A)珪藻土を体積比率35%〜65%で含み、(B)ゼオライト、多孔質の炭酸カルシウム、粘土を体積比率30%〜60%で含み、前記(A)珪藻土及び(B)ゼオライト、多孔質の炭酸カルシウム、粘土を体積比率90%〜99%の範囲内で含み、更に、粉末組成物に、樹脂、化学繊維、ホウ酸カルシウム(防カビ剤)を含むようにした粉末組成物に対して水を混合させた水性塗料が知られている(以下、「従来水性塗料」という。)(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5136872号公報
【特許文献2】特開2006−22141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来内装材は、シックハウスに対応する汚れた空気を清浄化する多機能を有しており、鏝施工だけでなく、刷毛・ローラー・スプレーでも施工することができる。しかし、この従来内装材は、塗料として開発されていないため、細かいフラットな壁面の仕上げができず、DIY等により簡易な施工性を実現することができないという問題点を有していた。
また、従来水性塗料は、構成物質の混錬性が悪く、ダマになりやすいなど、施工性に劣っており、防カビ性能等に劣っている等の問題点を有していた。
【0007】
新築住宅の着工件数は下降気味であるが、リフォーム、リノベーションは増加傾向であり、誰でも簡単に施工でき、多機能、施工性に優れた安全な水性塗料が求められている。また、近年、多くの地震が発生しているが、地震に伴う火災に起因する有毒ガスを吸引することによる被害が問題となっており、耐熱性を有すると同時に有毒ガスを発生しない建築材料の開発も求められている。
【0008】
本発明は、上記の各問題を解決するためになされたものであり、調湿、消臭、ホルムアルデヒド低減、防カビ及び抗菌等の多機能であり、安全、施工性及び耐熱性に優れた水性塗料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するために発明された水性塗料(以下、「本水性塗料」という場合がある。)は、パイロフィライト及びセピオライトを含有する微粉末状の粘土鉱物と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを主成分とし、20℃における2重量%水溶液粘度が、それぞれ2400mPa・S〜4500mPa・S及び64000mPa・S〜90000mPa・Sである第1剤及び第2剤を含有する、微粉末状のチキソトロピー補助剤と、珪藻土及びゼオライトを含有する微粉末状の無機多孔質材と、を含む微粉末組成物を主要構成物質とし、上記微粉末組成物を水中に分散溶解させた、チキソトロピックインデックスが3.0〜4.0である水性塗料であって、上記チキソトロピー補助剤は、上記第1剤67重量%〜91重量%、上記第2剤9重量%〜33重量%の配合割合であること、を特徴としている。
【0010】
また、本水性塗料において、上記粘土鉱物は、上記パイロフィライト34重量%〜90重量%、上記セピオライト10重量%〜66重量%の配合割合とし、上記無機多孔質材は、上記珪藻土2重量%〜33重量%、前記ゼオライト67重量%〜98重量%の配合割合とするとともに、上記粘土鉱物1重量部に対して、上記チキソトロピー補助剤0.02重量部〜0.10重量部と、上記無機多孔質材1.0重量部〜3.0重量部と、を含有するものであり、上記微粉末組成物1重量部に対して、上記水を1.0重量部〜3.0重量部となるように添加し、分散溶解させることが好適である。
【0011】
また、本水性塗料において、微粉末状の光触媒活性を有する金属酸化物を含み、上記粘土鉱物1重量部に対して、上記光触媒活性を有する金属酸化物を0.1重量部〜1.0重量部含有させることが好適である。
【0012】
また、本水性塗料において、尿素化合物と有機アルカリと酸とを主成分とするホルムアルデヒド低減剤を含むことが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、調湿、消臭、ホルムアルデヒド低減、防カビ、抗菌等の多機能であり、安全、施工性及び耐熱性に優れた水性塗料を提供することができる。また、本発明は、主要構成物質が鉱物由来の天然物質から構成されており、人体に安全な水性塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は当該実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
【0015】
[本水性塗料の基本的な考え方]
水性塗料が満たすべき性質は、基本性能である(1)品質性(発色性[特に、白色]、構成成分の均一分散性、凍結防止、水温適応性[広範囲な水温における適用性])、(2)施工性(可撓性[塗布性]、液だれ防止)、(3)美粧性(塗布面に対する隠蔽性、仕上げ後の美観、所定表面硬度、無沈下性、長期寿命)の他、調湿、ホルムアルデヒド低減、防カビ、抗菌、消臭、耐熱(不燃)等の付加的な性能を奏することが求められている。
【0016】
上記各性能を実現させるためには、必要となる最適な構成物質(構成材料)を配合する必要があるが、各構成物質間には、その性状に関してトレードオフの関係があり、すべての機能を同時に満たすことは難しかった。
【0017】
しかし、本発明者は、種々の試行錯誤により、最良である構成物質を選定し、最適な配合量及び配合割合を見いだすことにより、上記のすべての機能に関し、一定水準の効果を実現させるに至った。
【0018】
[本水性塗料の構成物質]
本水性塗料を構成する微粉末組成物は、少なくとも、微粉末状の粘土鉱物と、第1剤及び第2剤を含有する、微粉末状のチキソトロピー補助剤と、微粉末状の無機多孔質材と、光触媒活性を有する微粉末状の金属酸化物(以下、「金属酸化物光触媒」という。)と、ホルムアルデヒド低減剤と、補助構成物質を含有している。以下に、その構成物質等について詳細に説明する。
【0019】
(粘土鉱物)
本水性塗料における粘土鉱物は、チキソトロピー特性(作用するせん断応力に応じて速度勾配が増加し、粘度が低下する性質[撹拌することにより、固体又は半固体から液体に変化する性質])を有することが必要である。このような粘土鉱物には、種々の種類が存在するが、本水性塗料に適するためには、微粉末状とすることができ、溶剤としての水への良好な分散性を備えるとともに、良好なチキソトロピー特性を備えることが必要となる。本発明者は、水への沈降性、吸水性、流動性、嵩比重、色調、コスト等をも考慮し、種々の粘度鉱物を組み合わせ、当該粘土鉱物の粒径、配合量及び配合割合を変えて品質試験を繰り返し行った。その結果、本水性塗料では、パイロフィライトとセピオライトが最適であることを見いだし、構成物質としていることに第1の特徴を有している。
【0020】
上記パイロフィライト(AlSi(OH))は、「葉ろう石」とも称される層状ケイ酸塩鉱物の一種である。パイロフィライトの作用としては、耐スランプ性に優れ、液だれ性が少なく、ヘラ切れ性が良好であるとともに、乾燥時の耐変色性等に優れることに寄与することになる。さらに、高耐熱性・不燃性、遠赤外線の高放射性を有するとともに、施工後に眩しさがない(目に優しい)等を奏することになる。
【0021】
また、上記セピオライト(含む水珪酸マグネシウム)(MgSi1230(OH)・(OH・8HO)は、「海泡石」とも称される繊維状粘土鉱物であり、軽量かつ柔らかく、吸着性に優れている造岩鉱物である。セピオライトは、チキソトロピー特性を有するとともに、後記の無機多孔質材として高い吸着性能も有しており、さらに、成形性能、保形性能及び不燃性能を有している。そのため、物性を損なうことなく複合性能を発揮させることが可能となるため最適な物質である。
【0022】
(チキソトロピー補助剤)
チキソトロピー付与補助剤は、粘土鉱物のチキソトロピー特性を最大限に発揮させる役割を果たす物質である。本発明者は、種々の増粘剤を使用して、配合量及び配合割合を変えて品質試験を繰り返し行った。その結果、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを主成分とする水溶性セルロースエーテル(特に、少量のグリオキサールにより表面処理したものであることが最適である)(以下、「本水溶性セルロースエーテル」という。)が好適であり、さらに、本水溶性セルロースエーテルは、粘度(20℃における2%水溶液の粘度値)が異なる、同一成分の第1剤及び第2剤を組み合わせて用いることが最適であることを見いだし、構成物質としていることに第2の特徴を有している。
【0023】
すなわち、本水溶性セルロースエーテルは、20℃における2重量%水溶液粘度を2400mPa・S〜4500mPa・Sとする第1剤と、20℃における2重量%水溶液粘度を64000mPa・S〜90000mPa・Sとする第2剤を使用し、第1剤67重量%〜91重量%、第2剤9重量%〜33重量%の配合割合とすることを特徴としている。
【0024】
粘性が小さい第1剤は、水への分散性を向上させ、本水性塗料の初期段階における流動性を高める作用を担い、粘性が大きい第2剤は施工後における付着性能の向上を図る作用を担うものであり、両剤を組み合わせることにより、粘土鉱物のチキソトロピー特性を最大限に発揮させることに寄与することになる。
【0025】
(無機多孔質材)
無機多孔質材は、珪藻土とゼオライトとを主成分としている。
珪藻土は、藻類の一種である、二酸化珪素を主要成分とする珪藻の殻の化石から形成される堆積物であり、調湿性能、脱臭性能及び不燃性能が非常に優れている。なお、白色性を高めるためには、種々の色度を有する珪藻土の中で、白色珪藻土を使用することが好適である。
【0026】
ゼオライト(沸石)は、二酸化珪素を主成分とし、吸水性、吸着性、抗菌性及び不燃性能等を有する物質である。種々の種類が存在しているが、吸着性を高めるためには、CEC値(陽イオン交換容量)が、160meg/100g以上(単位重量100gあたりのミリグラム当量数)であることが好適である。
なお、白色性を高めるためには、種々の色度を有するゼオライトの中で、白色ゼオライトを使用することが好適である。
【0027】
(金属酸化物光触媒)
金属酸化物光触媒とは、可視光や紫外線の照射を受けることによって、酸化触媒としての機能を発揮するとともに、塗布面に対する隠蔽性、白色の発色性及び硬化後の強度発揮に寄与する物質であり、酸化チタン(TiO)が最適である。但し、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化第二鉄(Fe)等の金属酸化物を用いるものであってもよい。
【0028】
(ホルムアルデヒド低減剤)
ホルムアルデヒド低減剤は、尿素化合物と有機アルカリと酸を主成分としている。
尿素化合物としては、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、エチル尿素、ジエチル尿素等を用いることができるが、特に、エチレン尿素を用いることが好適である。
【0029】
また、有機アルカリとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミン及び4級アミン(水酸化テトラメチルアンモニウム)等の有機アミン、並びに有機アミン化合物を用いることができるが、特に、3級アルカノ−ル(脂肪族)アミンであるトリエタノールアミンを用いることが好適である。
また、酸としては、スルホン酸若しくはカルボン酸等の有機酸、又は硫酸若しくはリン酸等の無機酸を用いることができるが、特にクエン酸を用いることが好適である。
【0030】
(補助構成物質)
本水性塗料には、その作用効果を阻害することがない範囲で、所望の色彩を発色させるための顔料、合成樹脂(アクリル樹脂、酢酸ビニル等)、分散剤、消泡剤、防カビ剤、防菌剤及び防腐剤の内の少なくとも一種類の補助構成物質を添加することが可能である。
【0031】
なお、合成樹脂を添加する場合には、耐久性、耐候性及び耐水性に優れるアクリル樹脂、又は接着性及び密着性に優れる酢酸ビニルを用いることが好適である。但し、粘土鉱物のチキソトロピー特性を発揮させ、耐熱性に優れた水性塗料とするためには、アクリル樹脂と酢酸ビニル樹脂の両物質を使用することが最適である。
【0032】
(本水性塗料)
本水性塗料を構成する微粉末組成物は、微粉末状であることが必要であり、分散性を向上させるためには、10μm以下、好ましくは、3μm以下であることが好ましい。
また、施工性能及び経済性の観点から、本水性塗料を構成する微粉末組成物は、嵩比重を0.4以下とすることが好ましい。
【0033】
施工時における所定粘性の確保と液だれの防止という背反する要件を満たすために、本水性塗料は、微粉末組成物1重量部に対して、水1.0重量部〜3.0重量部を添加し(水量が1.0重量部未満であると強粘性となることで、塗布性に劣ってしまい、他方、3.0重量部を超えると液だれが生じてしまう)、さらには、チキソトロピックインデックス(TI値)が、3.0〜4.0であることが必要となる。
上記チキソトロピックインデックスが3.0未満であると、液だれが生じてしまい、4.0を超えると粘性が強くなりすぎることになり、施工性が劣ってしまうことになる。
【0034】
なお、チキソトロピックインデックスとは揺変性を示す指標であり、所定温度時における異なる回転速度a及びb(a>b)の粘度値(η)の比(ηb/ηa)で示される指標である。すなわち、所定温度下において、攪拌時にゾル状になり、放置した場合に再ゲル化する物性を示すパラメータであり、その値が小さい場合には、粘性が低く(水に近くなる)、その値が大きい場合には粘性が高くなる。本発明におけるチキソトロピックインデックスは、「JIS 6024 2015 建築補修用及び建築補強用エポキシ樹脂 5.8 チキソトロピックインデックス試験」に準じて測定された、2rpm及び20rpmの粘度比である「η2/η20」としたものである。
【0035】
また、各種の所定性能を発揮させるためには、上記微粉末組成物は、粘土鉱物と、チキソトロピー補助剤と、無機多孔質材と、金属酸化物光触媒と、ホルムアルデヒド低減剤の各微粉末を主要成分とする混合物であり、その配合量は、粘土鉱物1重量部に対して、チキソトロピー補助剤0.02重量部〜0.10重量部と、無機多孔質材1.0重量部〜3.0重量部と、金属酸化物光触媒0.1重量部〜1.0重量部とし、さらに、効果が発揮されうる所定量のホルムアルデヒド低減剤を添加することが必要となる。
【0036】
上記配合量において、チキソトロピー補助剤量が0.02重量部未満であると液だれが生じてしまい、0.1重量部を超えると粘性が強くなりすぎることになり、施工性が劣ってしまうことになる。
また、粘土鉱物1重量部に対して、無機多孔質材量が1.0重量部未満であると白色発色性に劣るとともに、塗布後に下地材の隠蔽性に劣る結果となり、所定の美粧性能を満たさないこととなった。さらに、無機多孔質材量が3.0重量部を超えると構成物質の配合割合のバランスが崩れてしまい、強粘性となることで、塗布性に劣ってしまうこととなる。
【0037】
また、金属酸化物光触媒量が0.1重量部未満であると所定効果を発揮することができず、1.0重量部を超えると費用対効果の点で不利になるとともに、塗布性及び調湿性を阻害することとなる。
【0038】
そして、実証試験を繰り返し、施工性、その他性能を総合判断したところ、粘土鉱物を構成するパイロフィライトとセピオライトの配合割合は、パイロフィライト34重量%〜90重量%と、セピオライト10重量%〜66重量%とする必要があることが明らかになった。
また、無機多孔質材を構成する珪藻土とゼオライトの配合割合は、珪藻土重量2%〜33重量%と、上記ゼオライト67重量%〜98重量%とする必要があることが明らかとなった。
【0039】
なお、補助構成物質を加える場合には、本水性塗料の作用効果を阻害することがない適量とする必要がある。
【0040】
[本水性塗料の製造方法]
本水性塗料は、上記配合の各構成物質を公知の混錬装置により、充分に混錬するとともに、加水することにより、製造することが可能である。
【0041】
[本水性塗料の作用効果]
本水性塗料は、最良である構成物質を選定し、最適な配合量及び配合割合とすることにより、調湿、消臭、防カビ、抗菌、ホルムアルデヒド低減、不燃等の多機能、施工性に優れた性能を実現させることができる。
【0042】
また、本水性塗料は、粘土鉱物がチキソトロピー特性を有していることから、増粘剤としての合成樹脂の使用を抑制できる。したがって、鉱物由来の天然物質を主要構成物質とすることができるため、人体に安全な水性塗料とすることができる。
また、本発明は、静電気の帯電を防止可能であることから、塵埃等の付着を防ぎ、清潔な室内環境を保持することができる。
【0043】
また、本水性塗料は、粘土鉱物として、パイロフィライト及びセピオライトを選択するとともに、2種類の粘度の異なる水溶性セルロースエーテル主成分とするチキソトロピー補助剤を適切な配合で組み合わせることにより、粘土鉱物と、チキソトロピー補助剤の相乗作用が発揮される。さらには、各構成物質を微粉末とするとともに、チキソトロピックインデックスを3.0〜4.0に調整することにより、他の効果を阻害することなく、施工性及び品質の向上を図ることが可能となる。
【0044】
従来、チキソトロピックインデックスが3.0〜4.0である性状の水性塗料は存在していなかった。しかし、本水性塗料では、チキソトロピックインデックスが3.0〜4.0であることから、施工後の硬化性及び定着性を確保した上で、施工時に液体状に変質することによる塗布性の向上を図ることが実現可能となる。
したがって、施工に最適となる流動性を保持し、液だれすることなく、容易に塗布することできる。そのため、ローラ施工、刷毛塗り施工、吹き付け施工等、いかなる塗布方法にも使用可能であり、建築専門業者の他、一般使用者も容易に塗装に使用することができる。
【0045】
また、金属酸化物光触媒と珪藻土の作用により、他の効果を阻害することなく、下地材の隠蔽性を向上させることができる。さらに、ゼオライト及び金属酸化物光触媒の作用により、茶色の発色を抑制して白色性を高めることで、美粧性の向上を図ることが可能となる。
【0046】
また、物理吸着性能に優れている無機多孔質材の性質をも兼ね備えるセピオライトと、同じく無機多孔質材である珪藻土と、物理吸着性能に加えて、陽イオン交換機能も兼ね備えているゼオライトの作用により、他の効果を阻害することなく、調湿性能及び消臭性能を向上させることが可能となる。これらの無機多孔質材は、カビの要因となる水分を吸収するため、優れた防カビ性能をも実現可能となる。
【0047】
また、金属酸化物光触媒の作用により、優れた抗菌性能、消臭性能及び空気浄化性能を実現させるとともに、塗布面の隠蔽性を向上させることができる。
【0048】
また、尿素化合物と有機アルカリと酸を主成分とするホルムアルデヒド低減剤の作用により、ホルムアルデヒドの大幅な低減効果が発揮される。すなわち、尿素化合物と有機アルカリとは、ホルムアルデヒドの低減効果に関して相加関係にあり、両者は、ホルムアルデヒドとのメチロール化反応により、その吸着量を高めることになる。このとき、酸による中和反応が進行し、同時に、尿素化合物のメチロール化、メチレン化の反応速度が高まるため、ホルムアルデヒドの化学反応捕捉による消失が著しく促進されることになる。
なお、酸にクエン酸を使用することにより、ホルムアルデヒドを弱酸性(pH5.5程度)とすることができ、皮膚等に付着することを心配することなく、安全に使用可能となる。
【0049】
また、本水性塗料は、不燃性の高い珪藻土及びゼオライトと、不燃性能の高い粘土鉱物であるパイロフィライト及びセピオライトとの化学的相乗効果が発揮されることから、非常に高い耐熱性能を有している。そのため、本水性塗料を塗布された壁面等は高い不燃性能を有することになり、火災等による有害物質の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【実施例】
【0050】
以下に、本水性塗料の各種性能を検証した各種試験結果について説明する。
(1)[第1実施例] 構成物質の配合量の相違による施工性能試験
構成物質の配合量の相違による施工性能を確認するために施工性能試験を行った。
試験体は、下記の構成物質を用い、表1に示す配合量により、水に分散溶解させることにより作成した(各試験体は、粘土鉱物を0.5kg使用して作成した)。
そして、可撓性(塗布性)、白色発色性、美粧性(塗布面に対する隠蔽性及び乾燥後の粉体の残存性)を目視により確認するとともに、チキソトロピックインデックス(TI値)を測定した。
【0051】
(構成物質)
[A]粘土鉱物
・パイロフィライト(山陽クレー工業株式会社製),粒径3.0μm以下
・セピオライト(昭和KDE株式会社製),粒径10μm以下
【0052】
[B]チキソトロピー補助剤
・第1剤(信越化学工業株式会社製) 67重量%
・第2剤(信越化学工業株式会社製) 33重量%
【0053】
[C]無機多孔質材
・珪藻土(中央シリカ株式会社製),粒径10μm以下
・ゼオライト(日東粉化工業株式会社製),代表粒子径1.25μm
【0054】
本施工性能試験によれば、粘土鉱物1重量部に対して、チキソトロピー補助剤量が0,02重量部未満であると粘性が不足して液だれが生じ、010重量部を越えると強粘性となることで、塗布性に劣ってしまうこととなった。
【0055】
また、粘土鉱物1重量部に対して、無機多孔質材量が1.0重量部未満であると白色発色性に劣るとともに、塗布後に下地材の隠蔽性に劣る結果となり、所定の美粧性能を満たさないこととなった。さらに、粘土鉱物1重量部に対して、無機多孔質材量が3.0重量部を超えると、配合割合のバランスが崩れ、粘性が不足することとなった。また、微粉末組成物(粘土鉱物、チキソトロピー補助剤及び無機多孔質材の混合物、以下も同様)1重量部に対して、水量が1.0重量部未満であると強粘性となることで、塗布性に劣ってしまい、他方、3.0重量部を超えると液だれが生じてしまうこととなった。
【0056】
以上より、各構成物質の配合量は、粘土鉱物1重量部に対して、チキソトロピー補助剤0.02重量部〜0.10重量部と、無機多孔質材1.0重量部〜3.0重量部の配合量とすることが好適であることが明らかになった。
また、微粉末組成物1重量部に対し、1.0重量部〜3.0重量部を加水することが好適であることが明らかとなり、その場合におけるチキソトロピックインデックスの適切な範囲(3.0〜4.0)が明らかとなった。
【0057】
【表1】
【0058】
(2)[第2実施例] 構成物質の配合割合の相違による施工性能試験
構成物質の配合割合の相違による施工性能を確認するために、表2に示す配合割合とした試験体を作成し、施工性能試験を行った。
【0059】
試験体に使用した各構成物質量及び粘土鉱物量は、第1実施例と同様であり、施工性能の評価指標も同様である。なお、水量は、微粉末組成物1重量部に対して、2.0重量部添加した。
【0060】
本性能評価試験によれば、所定性能を満たすために、粘土鉱物に関し、パイロフィライト34重量%〜90重量%、セピオライト10重量%〜66重量%の配合割合とすることが、好適であることが明らかになった。
また、同じく、チキソトロピー補助剤の配合割合に関し。第1剤67重量%〜91重量%、第2剤を9重量%〜33重量%とすることが好適であることが明らかになった。
また、同じく、無機多孔質材の配合割合に関し、珪藻土2重量%〜33重量%、ゼオライト67重量%〜98重量%とすることが好適であることが明らかになった。
【0061】
【表2】
【0062】
(3)[第3実施例] 無機多孔質材及び金属酸化物光触媒による性能評価試験
無機多孔質材及び金属酸化物光触媒による調湿性能、消臭性能及び防カビ性能を確認するために性能評価試験を行った。
【0063】
試験体に使用する各構成物質量及び粘土鉱物量は、第1実施例と同様である。構成物質の配合割合は、表3のとおりとし、無機多孔質材及び金属酸化物光触媒の添加量を変化させて性能評価を行った。なお、金属酸化物光触媒として酸化チタンを使用した。
【0064】
(構成物質の配合割合)
粘土鉱物の配合割合は、パイロフィライト60重量%、セピオライト40重量%とした。
チキソトロピー補助剤の配合割合は、第1剤75重量%、第2剤25重量%として、粘土鉱物1重量部に対して、0,04重量部添加した。
無機多孔質材の配合割合は、珪藻土20重量%、ゼオライト80重量%とした。
水量は、微粉末組成物1重量部に対して、2.0重量部添加した。
【0065】
性能評価は、下記方法により検証した。
A;調湿性能
「JIS A 6909 2010 7.32 建築用仕上塗材の吸放湿性試験」に基づき、吸放湿量を算出した。
試験体は、塗布量0.15kg/m2を1回塗りとすることにより作成した。
【0066】
B;消臭性能
「一般社団法人 繊維評価技術協議会 SEKマーク繊維製品認証基準(第6章−4 消臭性試験)に定める機器分析試験法(検知管法)」に基づき、各対象臭気ガスの臭気成分濃度を測定した。
試験体は、2mm〜3mm塗布した10cm×15cmのガラス板1枚/5リットルサンプリングバック中ガス3リットルとした。
対象臭気ガス及びその初期濃度は、アンモニア(10ppm)、硫化水素(15ppm)、ホルムアルデヒド(2.4ppm)とした。
濃度測定は、1時間後及び24時間後に行った。
【0067】
C:防カビ性能
「JIS Z 2911 かび抵抗性試験方法」に準じて、下記5種類のカビを培養し、試験体の表面に生じた菌糸の発育状態を肉眼で調べる試験を行った。
試験に用いるカビの種類は下記のとおりである。
アスペルギルス ニゲル(NBRC 105649)
ペニシリウム ピノヒルム(NBRC 33285)
ペシロマイセス バリオティ(NBRC 33284)
トリコデルマ ビレンス(NBRC 6355)
ケトミウム グロボスム(NBRC 6347)
また、胞子懸濁液調整溶液は、グルコース添加無機塩溶液、試験用寒天平板培地は、グルコース添加無機塩寒天培地とした。
【0068】
なお、防カビ試験において、表3中の評価は、下記のとおりである。
0:肉眼及び顕微鏡下でカビの発育は認められない。
1:肉眼ではカビの発育が認められないが、顕微鏡下では明らかに確認できる。
4:菌糸はよく発育し、発育部分の面積は資料の全面積の50%以上である。
【0069】
本性能評価試験によれば、粘土鉱物1重量部、チキソトロピー補助剤量0.40重量部及び水量2.0重量部に対し、無機多孔質材量1.0重量部〜3.0重量部及び金属酸化物光触媒量0.1重量部〜1.0重量部を添加した試験体において、調湿性能、消臭性能、防カビ性能が発揮されることが明らかとなった。また、金属酸化物光触媒量が0.1重量部未満の場合には、抗菌性能、消臭性能、防カビ性能がやや劣ることが明らかになった。なお、金属属酸化物光触媒が1.0重量部を超える場合には、高粘性となり、施工性(塗り易さ)が悪化することになった。
【0070】
【表3】
【0071】
(4)[第4実施例] 不燃性能評価試験
不燃性能を確認するために不燃性能評価試験を行った。
表4−1に示す配合量の試験体を作成し、厚さ0.27mm500g/m2の亜鉛めっき鋼板に塗布することにより試験板を作成し、下記試験方法による試験を行った。
【0072】
【表4-1】
【0073】
試験板の形状及び寸法は、円柱状で、直径 44mm、厚さ50mmとし、試験前に、試験板を温度23℃、相対湿度50%で一定質量になるように養生した。
加熱炉に試験板を挿入しない空の状態で30分加熱し、炉内温度を750℃に保持した後、試験板を当該加熱炉の壁内面から10mm離して、炉壁の高さの中央に設置した。そして、20分間の総発熱量(MJ/m2)を測定し、目視で、表面状態及び発火状態を観察するとともに、有毒ガスの発生状況を確認した。
【0074】
なお、日本での不燃材料の不燃性能は、建築基準法第2条第9号及び同施行令108条の2に定められている基準を満たす必要があり、建築材料に、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間、次の各号掲げる要件を満たしている必要がある。
第1号 燃焼しないものであること。
第2号 防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じないものであること。
第3号 避難上有害な煙又はガスを発生しないものであること。
【0075】
本不燃性能評価試験(表4−2)によれば、本水性塗料の対象とする配合割合を満たす3試験板における各経過時間における総発熱量は、一般的な不燃材料の満たすべき基準値である8.0MJ/m2を大きく下回った。また、試験板に裏面貫通孔及び亀裂が発生することがなかった。さらに、着火することもなく、有毒ガスの発生も見られなかった。このように、本試験板は、建築基準法に定める規定を満たしており、非常に耐熱性が高く、本試験体を塗布した試験板は、不燃性能が非常に高く、本水性塗料は耐熱性能に優れていることが明らかになった。
【0076】
【表4-2】
【0077】
(5)[第5実施例] ホルムアルデヒド低減剤の添加による性能評価試験
ホルムアルデヒド低減剤によるホルムアルデヒドの低減性能を確認するために性能評価試験を行った。
【0078】
試験体は、上記第1実施例におけるNo.1−2の試験体に、粘土鉱物1重量部に対して、ホルムアルデヒド低減剤0.003重量部を添加したものを使用した。
【0079】
ホルムアルデヒド低減剤の添加による性能は、下記方法により検証した。
ガラス容器(真空デシケータ容積12リットル)の中央部に各試験体(10cm×15cmのガラス板片面に塗布し乾燥した試料)をセットし、容器内を排気減圧後、これにホルムアルデヒド調整空気を封入する。静置して所定時間後に容器内空気を採取して気中濃度を測定した。
ホルムアルデヒド暴露条件は、初期濃度を3.0ppmとし、温度23℃、湿度50%で行った。
【0080】
本性能評価試験によれば、各時間経過後のホルムアルデヒド気中濃度は、それぞれ、1時間経過値(0.07ppm)、4時間経過値(0.02ppm)、24時間経過値及び48時間経過値(0.02ppm未満,残残率0.6%未満)となり、ホルムアルデヒド低減剤の有用性が明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本水性塗料によれば、施工に最適となる流動性を保持し、液だれすることなく、容易に塗布することできる。そのため、ローラ施工、刷毛塗り施工、吹き付け施工等、いかなる塗布方法にも使用可能であり、建築専門業者の他、一般使用者も容易に塗装に使用することができる。