(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対向する1組の回転するロールを用いて、それらの間に溶湯を供給し、凝固させる双ロールキャスト法により、Al−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板を製造する方法であって、
前記溶湯が、90質量%以上のAlと、0.2〜2.0質量%のSiと、0.2〜3.0質量%のMgとを含み、
前記ロールが銅または銅合金から成り
前記1組の回転するロールそれぞれの周速が20m/分以上、150m/分以下であり、
前記1組の回転するロールが、0.8kN/mm以上、2.0kN/mm以下で押圧されているAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法。
前記溶湯が、6063合金、6061合金、6016合金、6022合金および6111合金より選択される1つの組成を満足する請求項2に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法。
Fe:1.0〜2.0質量%およびCu:1.0〜1.2質量%の少なくとも一方を含有し、それ以外の元素が6063合金、6061合金、6016合金、6022合金および6111合金より選択される1つの組成の規格を満足する請求項1に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および非特許文献1に示された方法を含む、従来の鋳造方法では、得られた、6000系合金等をはじめとするAl−Mg−Si系アルミニウム合金の鋳造板は、そのまま(鋳造後のまま)用いると曲げ加工時に表面にクラックが発生する場合があるという問題があった。
例えば、板厚が10mm以下の従来の6000系合金鋳造板では、JIS Z 224198:2006に準拠した180度曲げ加工試験を行った場合に表面にクラック(微小クラックも含む)を生じないようにするのは極めて困難であった。
【0008】
このため、従来のAl−Mg−Si系アルミニウム合金の鋳造板は、比較的加工条件の厳しい曲げ加工を適用することができず、十分な曲げ加工を行うことができるAl−Mg−Si系アルミニウム合金の鋳造板が求められていた。
【0009】
本発明に係る実施形態は、このような課題の解決を目的とするものであり、十分な曲げ加工性を有し、曲げ加工時のクラック発生を抑制したAl−Mg−Si系アルミニウム合金の鋳造板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様1は、対向する1組の回転するロールを用いて、それらの間に溶湯を供給し、凝固させる双ロールキャスト法により、Al−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板を製造する方法であって、
前記溶湯が、90質量%以上のAlと、0.2〜2.0質量%のSiと、0.2〜3.0質量%のMgとを含み、
前記ロールが銅または銅合金から成り
前記1組の回転するロールそれぞれの周速が20m/分以上、150m/分以下であり、
前記1組の回転するロールが、0.8kN/mm以上、2.0kN/mm以下で押圧されているAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法である。
【0011】
本発明の態様2は、前記溶湯が、Si:0.2〜2.0質量%およびMg:0.2〜3.0質量%を含み、
必要に応じて、Fe:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、Mn:1.4質量%以下(0質量%を含まず)、Cr:0.35質量%以下(0質量%を含まず)、Zr:0.3質量%以下(0質量%を含まず)、V:0.3質量%以下(0質量%を含まず)、Ti:0.25質量%以下(0質量%を含まず)、Cu:1.2質量%以下(0質量%を含まず)、Ag:0.2質量%以下(0質量%を含まず)、Zn:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、Sn:0.5質量%以下(0質量%を含まず)、Sc:1.0質量%以下(0質量%を含まず)、B;0.06質量%以下(0質量%を含まず)、Bi:1.5質量%以下(0質量%を含まず)およびPb:2.0質量%以下(0質量%を含まず)から成る群から選択される1種または2種以上を更に含有し、
残部がAlおよび不可避的不純物から成る態様1に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法である。
【0012】
本発明の態様3は、前記溶湯が、6063合金、6061合金、6016合金、6022合金および6111合金より選択される1つの組成を満足する態様2に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法である。
【0013】
本発明の態様4は、Fe:1.0〜2.0質量%およびCu:1.0〜1.2質量%の少なくとも一方を含有し、それ以外の元素が6063合金、6061合金、6016合金、6022合金および6111合金より選択される1つの組成の規格を満足する態様1に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法である。
【0014】
本発明の態様5は、Si:0.2〜2.0質量%およびMg:0.2〜3.0質量%を含み、
厚さが10mm以下であり、
JIS Z 2248 に準拠した180度曲げ試験後において、表面にクラックを有しないAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板である。
【0015】
本発明の態様6は、請求項5に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板を用いた自動車用ボディーシートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、十分な曲げ加工性を有し、曲げ加工時のクラック発生を抑制したAl−Mg−Si系アルミニウム合金の鋳造板およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一の部分又は部材を示す。
【0019】
1.Al−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法
本発明者らは鋭意検討した結果、90質量%以上のAlと、0.2〜2.0質量%のSiと、0.2〜3.0質量%のMgとを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板を製造するに際して、双ロールキャスト法を用いて、ロールの材質と、ロールの周速と、ロールに付与する押圧力を適正な範囲に制御して、Al−Mg−Si系アルミニウム合金を鋳造することで、曲げ加工を行った際に表面にクラック(微小クラックを含む)が発生するのを抑制できるAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板を得ることができることを見いだした。
【0020】
以下に、まず、本発明の実施形態に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の製造方法に用いる鋳造装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る製造方法で用いる双ロールキャスター100を示す模式断面図およびメニスカス12aを示す模式部分拡大断面図である。
双ロールキャスター100は、ロール1Aとロール1Bから成る1組のロールとを有している。ロール1Aおよびロール1Bとは離間して配置され、それぞれ、矢印Aおよび矢印Bの方向に回転する。ロール1Aとロール1Bの間の隙間(鋳造キャビティー)に供給された溶湯10は、回転するロール1Aおよびロール1Bと接触して、冷却され、凝固が進行すると共に、この凝固した部分が下方に進み、さらに冷却されてAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板12が形成される。
図1に示す実施形態では、凝固部(内部に未凝固の領域を含む場合を含む)がロール1Aおよび1Bと離間した後の冷却は空冷となっているが、これに限定されず、水冷等の他の冷却方法により冷却してよい。
【0021】
凝固は、溶湯10がロール1Aまたは1Bとノズル3とが接する(離型剤を介して接する場合も含む)する部分の近傍でメニスカス12aを形成する。メニスカス12aがロール1Aまたは1Bに沿って下方に移動していく際に冷却が進み、凝固部(最終的に得られるAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板12の外側部分)が形成される。そして、この凝固部がロール1Aおよびロール1Bの回転により下方に進む過程で鋳造方向に垂直な断面内全体が凝固して、Al−Mg−Si系アルミニウム鋳造板12が形成される。
【0022】
ノズル3を用いて、その内部に溶湯10の液面(湯面)10aを形成した状態でノズル3を介して溶湯10をロール1Aとロール1Bとの間に供給することが好ましい。溶湯によりある程度の大きさの静水圧が生じ、メニスカス12aの形状の変動を抑制でき、より安定した鋳造条件を得ることが可能となる。液面10aは好ましくは5mm、より好ましくは10mm、メニスカス12aの先端部(
図1ではメニスカス12aの上端部)より上部に位置している。
なお、
図1に示すメニスカス12aの形状はあくまで例示であり、溶湯の液面の高さ等の鋳造条件によりメニスカス12aは異なった形状を有する場合がある。また、溶湯の液面の高さ等の鋳造条件の変動により、メニスカス12aの形状は周期的または非周期的に変動する場合がある。
ノズル3は耐火物により作られてよい。
溶湯10を双ロールキャスター100に供給する際。溶湯10は好ましくは液相線温度より10℃〜50℃高い温度となっている。これにより、より安定した鋳造を行うことができる。
【0023】
図1に示す双ロールキャスター(双ロール式鋳造装置)100は、縦型の鋳造装置である。すなわち、ロール1Aとロール1Bとは、水平方向に並んで配置されており、ロール1Aとロール1Bの間に、通常は上部から溶湯10を供給している。縦型の鋳造装置は容易にロール間に溶湯を注湯できること、および鋳造速度の高速化が容易であることから好ましい。
しかし、これに限定されるものではなく、例えば、2つのロールが垂直方向に並んで配置され、ロール間に水平方向から注湯する横型のロールキャスターを用いてよい。2つのロールが水平でもなく垂直でもない角度をもった方向に配置されている傾斜型の鋳造機を用いてもよい。
【0024】
また、
図1に示す双ロールキャスター(双ロール式鋳造装置)100では、ロール1Aとロール1Bの直径が同じとなっている。これにより、比較的容易に2つのロールの周速を同じにすることができる。しかし、これに限定されるものではなく、一方のロールの直径を他方のロールの直径よりも大きくしてよい。
次に本発明の実施形態に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の鋳造条件の詳細を説明する。
【0025】
(1)ロール素材
ロール1Aおよびロール1Bは、銅または銅合金から成る。これにより、溶湯10とロール1Aまたはロール1Bとの間の高い熱伝達特性を得ることができ、十分に早い冷却速度で溶湯10を凝固させることができ、得られるAl−Mg−Si系アルミニウム鋳造板12の曲げ加工後の表面にクラックが生ずるのを抑制できる。
ここで、銅合金とは、質量比で銅を50%以上含む合金を意味する。好ましくは、銅を質量比で90%以上、より好ましくは銅を質量比で98%以上含む。これにより、より確実に十分な熱伝達特性を得ることができる。このような好ましい銅合金として、Cu≧98質量%、Cr:0.05〜1.5質量%およびZr:0.03〜0.8質量%を含有し、残部が不可避不純物である、CCM−A合金およびCCM−B合金を例示できる。
【0026】
なお、本明細書において「ロールが銅または銅合金から成る」とは、ロール表面の溶湯10と接触する部分が銅または銅合金により形成されていることを意味するものであり、溶湯と接触しない部分(内部)を銅または銅合金以外の材料で形成しているロールおよび内部に中空部を有するロールを含む概念である。
【0027】
(2)ロール周速
上述のようにロール1Aおよびロール1Bは、それぞれ、矢印Aおよび矢印Bの方向に回転する。そして、ロール1Aおよびロール1Bの周速は、20m/分以上、150m/分以下である。好ましくは、ロール1Aおよびロール1Bの周速は同じである。
曲げ加工後の表面クラックの発生を避けるために通常、ロール周速を例えば10m/分のように遅くする場合がある。しかし、本発明者は上述のようにロールの材質を銅または銅合金とし、さらに以下に詳述するように1組のロールである双ロール(ロール1Aおよび1B)を0.8kN/mm以上、2.0kN/mm以下で押圧するとともに、ロール周速を20m/分以上とすることで、鋳造時の凝固層の厚さが安定し、ロールへの負荷変動が減少し、これにより曲げ加工時の表面クラックの発生を抑制できることを見いだしたのである。このように、20m/分以上のロール周速で鋳造できるということは、高速双ロールキャスティングが可能であることを意味し、高い生産性を実現できる。
【0028】
一方、ロール周速が150m/分を超えると、溶湯ヘッド圧により、溶湯とロールの接触状態を均一に保つことが困難になる。このためさらに溶湯ヘッド圧を高めるには、ノズルの壁面高さを高くするか、又は、ガス圧をかける等の対応が必要であり、製造装置が大がかりかつ複雑になるため実用的でない。
【0029】
(3)ロールの押圧
ロール1Aとロール1Bから成る1組のロール(双ロール)は、
図1に矢印Pで示すように、押圧されている。より詳細には、1組のロールは互いの間隔が狭くなる方向に押圧されている。押圧力は0.8kN/mm以上、2.0kN/mm以下である。押圧力はロールに付与された荷重をロールの長さ(幅、
図1の紙面に垂直な方向の長さ)で割ることにより求まる。
押圧力を0.8kN/mm以上とすることで、ロール周速を20m/分以上で凝固部の形状が安定し、得られるAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板に曲げ加工を行った際に表面にクラックが生ずるのを抑制できる。
【0030】
一方、押圧力が2.0kN/mmを超えると、鋳造中にロール表面が短時間で粗れてしまい、得られたAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板の表面に凹凸が転写され、転写された凹凸により、曲げ加工時に表面クラックを生じてしまう。例えば、ロール周速60m/分で6022合金板を鋳造した後のロール表面を比較すると押圧力が2.0kN/mmの場合、ロール表面にほとんど荒れがないのに対して、押圧力が2.5kN/mmの場合、短時間でロール表面が荒れて凹凸を生じることを確認している。
【0031】
なお、ロールの押圧は、例えば、ばねまたはダンパー等の既知の装置を用いて行ってよい。なお、
図1ではロール1Aとロール1Bの両方に押圧力Pを付与しているが、これに限定されず、例えばロール1Aとロール1Bのどちらか一方の回転軸を
図1の水平方向には動かないように固定し、ロール1Aとロール1Bの他方にのみ押圧力Pを付与してもよい。
【0032】
(4)合金組成
本発明の実施形態に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板は、90質量%以上のAlと、0.2〜2.0質量%のSiと、0.2〜3.0質量%のMgとを含み、好ましくは95質量%以上のAlと、0.2〜2.0質量%のSiと、0.2〜2.0質量%のMgとを含む。
好ましい1つの実施形態においては、残部は不可避的不純物である。
別の好ましい実施形態では、不可避不純物に加えて、任意の1以上の元素であって、鋳造性を阻害しない元素を含んでよい。すなわち、「(1)ロール素材」、「(2)ロール周速」および「(3)ロールの押圧」に規定される条件を満足する鋳造条件において鋳造した鋳造材を曲げ加工した際に表面にクラックを生じることなくAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板を得ることができる限り、残部は不可避不純物以外に任意の1以上の元素を含んでよい。
【0033】
このような合金組成を満足するアルミニウム合金であり、かつ広く用いられている合金として、JIS規格および米国のAA規格で規定されている6000系合金がある。
6000系合金は、日本工業規格JIS H 4000:2014に組成が規定されている6101合金、6061合金おおび6082合金と、JIS H 4040:2015に組成が規定されている6005A合金、6005C合金、6060合金、6262合金、6063合金および6181合金と、JIS H 4080:2015に組成が規定されている6463合金とを含む。また、JIS規格だけでなく、例えばAA規格の6016合金、6022合金および6111合金も6000系合金に含まれる。
【0034】
また6000系合金全体を規定する組成範囲については、いくつかの定義があるが、本明細書においては、6000系合金の組成範囲を以下のように規定する。
Si:0.2〜2.0質量%およびMg:0.2〜3.0質量%を含み、
必要に応じて以下から選択される1種または2種以上を含有することが許容され、
Fe:1.0質量%以下(0質量%を含まず)
Mn:1.4質量%以下(0質量%を含まず)
Cr:0.35質量%以下(0質量%を含まず)
Zr:0.3質量%以下(0質量%を含まず)
V:0.3質量%以下(0質量%を含まず)
Ti:0.25質量%以下(0質量%を含まず)
Cu:1.2質量%以下(0質量%を含まず)
Ag:0.2質量%以下(0質量%を含まず)
Zn:1.0質量%以下(0質量%を含まず)
Sn:0.5質量%以下(0質量%を含まず)
Sc:1.0質量%以下(0質量%を含まず)
B:0.06質量%以下(0質量%を含まず)
Bi:1.5質量%以下(0質量%を含まず)
Pb:2.0質量%以下(0質量%を含まず)
残部はAlおよび不可避的不純物から成る。
【0035】
6000系合金の中でも用途の広さ等を考慮すると、6063合金、6061合金、6016合金、6022合金および6111合金が好ましい。
【0036】
また、6063合金、6061合金、6016合金、6022合金および6111合金の改良合金として、Fe:1.0〜2.0質量%およびCu:1.0〜1.2質量%の少なくとも一方を含有し、それ以外の元素(すなわち、Feを1.0〜2.0質量%含有する場合はFe以外の元素、Cuを1.0〜1.2質量%含有する場合はCu以外の元素、Feを1.0〜2.0質量%含有し且つCuを1.0〜1.2質量%含有する場合は、FeとCu以外の元素)は6063合金、6061合金、6016合金、6022合金または6111合金の組成の規格を満足する合金も好ましい組成として挙げることができる。
Feを1.0〜2.0質量%含有することでロールキャスト後の延性を向上できる効果を有し、Cuを1.0〜1.2質量%含有することで強度を向上できる。
【0037】
なお、本発明の実施形態に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板12が上述した組成を有することから、溶湯10は、上記の組成と実質的に同じ組成を有する。
【0038】
2.Al−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板
本発明の実施形態に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板は、上述の「(4)合金組成」で規定した組成を有する。また、JIS Z 2248:2006に準拠した180度曲げ加工試験を行っても表面にクラック(微小クラックを含む)を生じない。
多くの用途がある板厚が10mm以下の従来の6000系合金板については、180度曲げ加工を行っても表面にクラックを生じない鋳造板(鋳造後、熱処理等を行わずに、すなわち鋳造ままの状態で曲げ試験を行っても表面にクラックが生じない鋳造板)を得ることができなかったが、本発明の実施形態に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板は、板厚が10mm以下でJIS Z 2248:2006に準拠した180度曲げ試験を行っても表面にクラックを生じないという特徴を有している。
このような本発明の実施形態に係るAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板は、例えば自動車のボディーシート等の各種の部材に用いることができる。
とりわけ、6000系アルミニウム合金、特に6022のアルミニウム合金を、上述の双ロールキャスト法により薄板鋳造し、鋳造後圧延した6000系アルミニウム合金板は、自動車用のボディーシート(内板、外板、天井用)として好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
・実施例1
1.サンプル作製
図1に概略を示すロールキャスター100を用いて、表1に示す成分を有する、Al−Mg−Si系アルミニウム合金鋳造板サンプルを作製した。
ロール1Aおよびロール1Bとして、直径300mm、幅50mmの銅合金CCM−Aから成るロールを用いた。ロール1Aとロール1Bのロール周速は同じにし、表2に示すように30m/分または90m/分とした。また、表2に示すようにロールに0.2kN/mm〜2.0kN/mmの押圧力Pを付与した。ロール1Bの回転軸は横方向に動かないように固定されており、押圧力Pはロール1Aにのみ付与した。
ロール1Aとロール1Bとの間隔は得られるサンプルの板厚tが3mmとなるように調整した。
【0040】
高さが200mm、ロール幅方向の長さ50mmのノズルを用いた。液相線温度より10℃〜50℃高い温度の溶湯10をノズル3の内部に注湯した。ノズル3内の溶湯の液面10aがメニスカス12aの先端部より50mm以上になるように溶湯10を注湯した。
【0041】
これにより、それぞれのサンプルについて、幅50mm、厚さ3mmの鋳造材を得た。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
2.曲げ試験および表面観察
得られたサンプルについて、JIS Z 2248:2006に準拠した180度曲げ試験を行った。
図2は、曲げ試験装置200を示す模式断面図である。得られた鋳造材を切断して、長さ80mm、幅50mm、厚さ(t)3mmの1号試験片を得た。支え22と支え23の間の距離を30mmとした。押金具21の先端部の内側半径rを10mmとした。
そして、押金具21を矢印Fの方向に押込み170°まで曲げた後、内側半径rの2倍である20mmの厚さを有するはさみ物を挟んで試験片の両端を押し合って180°まで曲げた。
【0045】
曲げ試験後の試験片について、曲げの際に外側であった表面部を肉眼で観察した。表面観察結果を表2に示す。明らかなクラックが認められたものを「×」とし、微小クラックに相当する光沢ムラまたは縦筋が認められたものを「△」、クラックが認められず、且つ、微小クラックも認められなかったものを「○」とし、「○」を合格とした。
図3は、表面観察結果の例を示す写真である。
図3(a)は比較例4−1の表面観察結果であり、
図3(b)は比較例4−2の表面観察結果であり、
図3(c)は実施例4−3の表面観察結果である。
【0046】
表2から分かるように、ロールの周速が20m/分以上、150m/分以下であり、ロールの押圧力が0.8kN/mm以上、2.0kN/mm以下である実施例サンプルは、何れも曲げ試験後の表面にクラックのない良好な結果を示していた。
一方、ロールの周速が20m/分以上、150m/分以下であること、およびロールの押圧力が0.8kN/mm以上、2.0kN/mm以下であることの少なくとも一方を満足しない比較例サンプルは何れも曲げ試験後の表面にクラックまたは微小クラックを有していた。
【0047】
・実施例2
表2に記載の実施例1の6063合金、6061合金、6016合金、6022合金および6111合金に更にFeを0.2〜1.0質量%添加した合金、ならびに6022合金に更にCuを0.2〜1.0質量%添加した合金のサンプルを作製した。
それぞれの合金の組成は、添加したFeまたはCuの量だけ残部Alが減少した組成となっている。例えば、6063合金に0.2質量%Feを追加した合金(表中に「6063+0.2%Fe」と記載)サンプルでは、Feの含有量は0.40質量%であり、Feの増加分だけ残部のAlが減少し、その他の元素であるSi、Cu、Mn、Mg、Cr、ZnおよびTiは表2に記載の値と略同じである。
【0048】
合金組成が異なる以外は、実施例1の「1.サンプル作製」に記載の方法で、実施例1と同じ、サイズ(長さ80mm、幅50mm、厚さ3mm)の鋳造材を得た。
そして、得られた鋳造材を用いて、実施例1の「2.曲げ試験および表面観察」に記載の方法で、曲げ試験および表面観察を行った。
表面観察結果を表3〜8に示す。
表3〜7は、それぞれ、6063合金、6061合金、6016合金、6022合金および6111合金に更にFeを0.2〜1.0質量%添加した合金サンプルの表面観察結果を示し、表8は、6022合金に更にCuを0.2〜1.0質量%添加した合金のサンプルの表面観察結果を示す。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
表3〜8から分かるように、ロールの周速が20m/分以上、150m/分以下であり、ロールの押圧力が0.8kN/mm以上、2.0kN/mm以下であるサンプル(実施例サンプル)は、何れも曲げ試験後の表面にクラックのない良好な結果を示していた。
一方、ロールの周速が20m/分以上、150m/分以下であること、およびロールの押圧力が0.8kN/mm以上、2.0kN/mm以下であることの少なくとも一方を満足しないサンプル(比較例サンプル)は何れも曲げ試験後の表面にクラックまたは微小クラックを有していた。