【実施例】
【0034】
本発明は、以下の実施例に基づいて詳細に記載され、これらは本発明の実行可能性を例示することを意図するのみであり、その範囲を限定することを意図しない。
【0035】
以下でテトラフェニルエチレンジオールとも呼ばれ、TPEDと省略されるベンゾピナコールおよび他の開始剤(ベンゾピナコール ビス(トリメチルシリルエーテル)を除く)ならびにモノマーは、市販で入手可能であり、さらに精製することなく反応に用いた。
【0036】
最初の成功した実験後、ベンゾピナコールの遊離OH基がその反応性に必須であったかどうかを調べるために、US特許4,336,366にも開示されているベンゾピナコール ビス(トリメチルシリルエーテル)を合成し、その反応性をフロンタル重合において試験した。ここでも述べている、いくつかの公知の合成経路に従ったアルキル化およびアシル化誘導体(ベンゾピナコール ジメチルエーテル、ベンゾピナコール ジアセテート)を製造するいくつかの試みは、これまで未知の理由のために失敗した。
合成例1
ベンゾピナコール ビス(トリメチルシリルエーテル) (TPED-Si)の製造
【0037】
【化4】
【0038】
機械攪拌機、滴下漏斗およびセプタムを備えた3つ口フラスコに10 mlのジオキサン中の50 mmolの亜鉛をあらかじめ充填し、そして10 mmolのトリメチルクロロシランをセプタムを介して加えた。10 mmolのベンゾフェノンを10 mlのジオキサンに溶解し、そして反応物にゆっくりと滴下した。反応フラスコを超音波浴に配置し、そして攪拌しながら3時間超音波処理した。次いで反応混合物をろ過し、そしてn-ヘキサンで処理し、白色固体を沈殿させた。混合物をロータリーエバポレーターでエバポレートし、次いでそのようにして生成した沈殿物が再度部分的に溶解するまで石油エーテルで処理した。沈殿物を濾去し、そして濾液を乾固するまでロータリーエバポレーターでエバポレートして0.63 gの白色固体を得、これを溶出液としてPE:DCMを用いてシリカを通してろ過した。
【0039】
ATR-IRによる特徴付け。
13C-および
1H-NMRは標題化合物が得られたことを確認した。
実施例1〜5および比較例1〜8
種々の開始剤を用いたフロンタル重合
現在最も広範に使用されているエポキシドモノマーの1つ、すなわち既に上述したBADGEを代表的モノマーとして用いた;カチオン光開始剤および熱活性化剤の種々の対を用いてBADGEの重合を試みた。
【0040】
開始剤を、以下の表1に列挙した量で3 mlのジクロロメタンに溶解した。次いでそれぞれの透明溶液を15 gのBAD-GEモノマーと混合し、そして油浴中50℃で攪拌した。次いでジクロロメタンを真空下除去し、そして処方物を同時に脱気した。3時間後、3.7 gの各サンプルを、熱センサーを備えた円筒形凹部を有するポリテトラフルオロエチレン製の重合モールドに移し、重合の間の前面の温度を決定し、最高温度(T
F.max)を比較の基礎として用いた。
【0041】
処方物を、320〜500 nmの波長フィルターを有するOmnicure 2000水銀灯に取り付けた光導波路を介して重合モールドの一端で垂直に照射した。UV光強度は、導波路の出口で3 W/cm
2に設定した。市販のデジタルカメラを用いて重合プロセスを記録し、そして反応が完了した後評価した。前面速度(V
F)を、重合モールドの一面に取り付けたルーラーを用いて決定した。
【0042】
(4-オクチルオキシフェニル)-(フェニル)-ヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート(IOC-8)および(4-イソプロピルフェニル)(4’-メチルフェニル)--ヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(PFPB)は、2つの試験したカチオン光開始剤であった。
【0043】
【化5】
【0044】
合計で、9つの異なる化合物を活性化剤として、すなわち熱開始剤として試験した。ベンゾピナコール(TPED)およびそのジシリルエーテル(TPED-Si)およびジニトリルTPE-CN、テトラフルオロエタン(TPE-H)ならびにトリ-フェニルアセトフェノン(TPAP)に加えて、いかなる気体状副生成物も形成しない3つのさらなるC-C-不安定熱フリーラジカル開始剤を試験した:
【0045】
【化6】
【0046】
さらに、3つの一般的な熱パーオキシド開始剤であるtert-ブチルパーオキシド(TBPO)、tert-ブチルシクロヘキシルパーオキソジカーボネート(TBC-PDC)およびベンゾイルパーオキシド(BPO)ならびにアゾ-ビス(イソブチロニトリル)(AIBN)を試験した:
【0047】
【化7】
【0048】
さらに、ジメチルスルホニルパーオキシド(DMSP)を、上述の代表物とは対照的に気体の放出を生じないさらなる熱開始剤として試験した。
【0049】
【化8】
【0050】
第1の実験シリーズにおいて、種々の熱開始剤を2 Mol%のモル濃度で、同モル量のカチオン開始剤(IOC-8)を用いてまず試験した。
【0051】
第2の実験シリーズにおいて、ベンゾピナコール(TPED)を種々の濃度および種々の開始剤を用いて試験した。
【0052】
以下の表1は、本発明の実施例(B1〜B5)および比較例(V1〜V8)について、これらの2つの実験シリーズの結果を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から、まず第1に、試験した全ての9つの熱開始剤のうち、ベンゾピナコール(TPED)およびそのシリルエーテルTPED-Siのみがフロンタル重合を引き起こし得たことが明確に分かり得る。
【0055】
他の場合の全てにおいて、すなわち比較例1〜8では、重合は照射した領域で局所的に起こったが、反応混合物にわたって伝播するいかなる前面も存在しなかった。
【0056】
理論に束縛されることは望まないが、本発明者らは、シリルエーテルTPED-Siの反応性が強い光酸の存在下でのO-Si結合の(少なくとも部分的な)加水分解によるものであり、反応性ジオールTPEDの原位置での形成を生じると仮定する。これは、前面の伝播速度、これはTPEDについてTPED-Siの伝播速度よりも2.5倍高かった(ΔV
F: 5.1 cm/min)、が同じ開始剤濃度で有意に低かったという事実によって、ならびに有意に低かった前面温度(ΔT
F.max: 50℃)によって支持されている。
【0057】
TPED-Siのような構造的に類似の化合物、すなわちTPEDの1つまたは両方のOH基に「保護基」が与えられている化合物が光酸の存在下でのフロンタル重合の間に実施されている強い酸性条件下で容易に開裂し得、遊離ジオールTPEDを形成すると仮定され得る。保護基として用いられ得るエーテルの例は、とりわけ、t-ブチルジメチルシリルエーテルまたはt-ブチルジフェニルシリルエーテルなどのシリルエーテル、例えば、tert-ブチルエーテル、メトキシメチルエーテル、アリルエーテル、ベンジルエーテル、またはテトラヒドロピラニルエーテルを含む。さらに、アセトン-またはベンズアルデヒド-ベースの1,2-アセタール基ならびにアセチルエステルまたはピバロイルエステルは、容易に開裂可能である。
【0058】
従って、フロンタル重合の間にベンゾピナコールを放出するTPEDのこのような保護形態もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0059】
ベンゾピナコールのみを熱開始剤として用いた第2の実験シリーズ、すなわち実施例1と比較した実施例3〜5の結果は、さらに以下を示す:
a)カチオン光開始剤の量を2から0.75 Mol%まで減少させたとしても(実施例3)、安定な前面が発生する;および
b)ベンゾピナコールは、既に半分の濃度1 Mol%で速い伝播前面を生成する(2倍量のTPED-Siを用いて達成されるよりもさらに約50 %速く伝播する)(実施例4);
c)前面の伝播速度は、カチオン光開始剤としてIOC-8の代わりに同量のPFPBを用いた場合、さらに約3分の1増加し得る。
【0060】
さらに、本発明の全ての実施例は、完全に重合した樹脂の目視検査によって決定されるように、実質的に泡を含有しない重合物を生成した。
【0061】
従って、ベンゾピナコールは、このようなフロンタル重合反応における使用のための優秀な熱開始剤である。
実施例6〜13
カチオン重合性モノマーのバリエーション
上記実施例について記載したのと同じ実験設定においてカチオン光開始剤としてのIOC-8および熱開始剤としてのベンゾピナコール(TEPD)を有する開始剤の対を用いて、反応混合物において他のカチオン重合性モノマーを用いて異なる比を研究した;以下の表2は選択した条件を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
用いたモノマーの構造を次頁に示す。
【0064】
【化9】
【0065】
表3は、現在最も広範に使用されている樹脂BADGE以外に、多数の他のカチオン重合性樹脂を本発明のプロセスを用いてフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合によって硬化し得ることを示す。開始剤濃度はまた、いかなる問題もなく、および前面の特性を有意に変化させることなく、変化させ得る(特に、実施例6〜8を参照)。
【0066】
実施例9および13からのビスフェノールAに基づいたエポキシド樹脂処方物と比較した場合、脂環式または脂肪族エポキシド樹脂を用いた場合の開始剤系の有意に増大した反応性もまた明らかになる。
実施例14〜19
充填剤を含む反応混合物
シリケートなどの充填剤を用いて新たな複合材料を製造することができる。発電の分野において、例えば銅棒に巻かれているマイカフィルムが電気絶縁体として用いられる。これらのフィルムは、通常エポキシド樹脂系を用いて真空含浸を適用して安定化される。
【0067】
従って、この実施例群は、2つの異なるモノマーおよび開始剤のIOC-8/TPED対を用いて、マイカ粉末を充填したエポキシド樹脂処方物のフロンタル重合を試験する。
【0068】
マイカは、カチオン光開始剤IOC-8と同じ範囲の波長を吸収するので、上記実施例のように照射によってIOC-8を分解することによって反応カスケードを開始することは可能ではない。
a)熱エネルギーを用いた開始
最初は、熱開始剤TPEDを、反応混合物に局所的に熱を印加する(例えば、はんだごてまたは温風ファンを用いて)ことによってフリーラジカルへと開裂させ、該フリーラジカルはカチオン開始剤を分解させ、通常のカスケードを引き起こす(実施例14〜16)。
b)増感剤を用いた光化学開始
カチオン光開始剤ならびにマイカ以外の(通常より長)波長で(理想的には正確にランプの発光極大で)極大吸収を有し、そしてそのように吸収された光エネルギーを光開始剤に伝達してその活性化を達成する光増感剤(「増感剤」)を加えることによって、カスケードを引き起こした。ペリレンを例示的な増感剤として用いた(実施例18〜19)。
c)追加の光開始剤の光化学開始
この場合、IOC-8およびマイカとは別の(ほとんどはより長い)範囲の波を吸収し、そして形成したフリーラジカルがカチオン開始剤を活性化する追加の光開始剤を用いてカスケードを引き起こした。この目的のために、Ivoclar Vivadentから市販で入手可能なゲルマニウム開始剤Ivocerin(登録商標)を用いた(実施例17)。
【0069】
以下の表3は、上記実施例の処方物および結果を示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3は、全ての場合において、反応混合物にわたって伝播する安定な前面が発生したことを示す。
【0072】
光増感剤を用いたさらなる実験(本明細書中では詳細に記載しない)において、アントラセンおよび3-ITX(3-イソプロピル 9H-チオキサンテン-9-オン)が、熱開始剤としてのTPEDの存在下、IOC-8のための増感剤として有用であると分かったが、開始剤の対としてIOC-8および種々の熱開始剤(TBPO、TBC-PDC、BPO、AIBNおよびDMSP)の組み合わせを用いた場合、前面は再度発生できなかった。
実施例20〜24、比較例9
処方物およびその形成した生成物の物理特性
フリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合(RICFP)によって生成したポリマーの特性は、伝統的な熱硬化によって生成したポリマーの特性と類似しているかまたはその特性を超えている。これは、以下の実施例に例示され、ここでRICFPによって生成されるBADGEポリマーの保存安定性、熱機械的、機械的および電気的特性を、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物を用いた無水物硬化によって生成されるBADGEポリマーと比較する。全ての場合において、IOC-8-SbF
6を光酸発生剤(PAG)として用い、そしてベンゾピナコール(TPED)をフリーラジカル熱開始剤(RTI)として用いた。処方物の正確な組成は、個々の実施例に見い出され得る。
実施例20および21、比較例9−保存安定性
処方物の存安定性は、これらの処方物を用いて行われる重合反応の再現性に必須のパラメーターである。保存安定性を試験するために、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの混合物を、フリーラジカル熱開始剤および光酸発生剤を2つの異なる濃度で用いて製造した。予備実験に基づいて、開始剤および光酸発生剤の1および2 Mol%の濃度を選択した。比較例において、促進剤として有機Zn塩と共に、BADGEおよび無水物-ベースの硬化剤、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(MHHPA)からなる市販の系(Araldite Impregnating Resin System MY 790-1. CH / HY 1102; 2008についての技術データシートを参照)を用いた。BADGE処方物は50℃未満の温度で保存した場合に結晶化する傾向があるので、全ての処方物を、50℃および光の排除下で保存し、光開始剤のいかなる所望でない活性化も防止した。
【0073】
処方物の粘度を、流量計によって混合直後およびある一定の間隔で測定し、早過ぎるゲル化を目的としてそれらの保存安定性を洞察した。これらの粘度測定は、PeltierオーブンおよびCP-50測定システムを有するAnton Paar MCR 300流量計を用いて行った。測定は、50℃の一定温度で100 sについて100 s
-1のせん断速度を有する回転下で行った(融点に近い温度でのせん断によって誘起されるいかなる結晶化も防止するため)。100秒のこの期間の最後の粘度値を分析に用いた。全ての測定は3回行い、結果を平均化した。
【0074】
【表4】
【0075】
50℃および光排除下、1 Mol% IOCおよびTPEDを有する処方物は4週間非常に安定のままである。それぞれの濃度を2 Mol%まで増加させると、粘度は約1週間後わずかに増加し始めるが、処方物は加工に適切なままである。無水物を用いた比較例では、粘度は3日後既に有意に増加し、そして5日後処方物は不均一に変化し、その結果その粘度はもはや測定できなかった。従って、活性化剤としてベンゾピナコールを含む処方物は非常に良好な保存安定性を示す。
実施例22〜24−熱機械特性
DSCによって決定したガラス転移温度T
gを有意なパラメーターとして用いた。RICFPによって硬化したポリマーロッドの中央部分からのサンプルを取り、そしてRetschクライオミル中ですりつぶして微細なポリマー粉末を得た。これらのポリマー粉末をアルミニウム皿に正確に量り取り、DSCシグナルをNetsch STA 449 F1によって、25℃〜250℃の温度、30 K/minの加熱速度、250℃での5分の保持時間および20 K/minでの25℃までの冷却で2サイクル記録した。2回目のサイクルの間にT
gを決定した。全ての測定は3回行い、そして結果を平均化した。
【0076】
【表5】
【0077】
無水物硬化BADGE系のT
gを154 ± 4℃と同定した。表5は、RICFP-硬化系が全て伝統的な材料のT
gよりも5〜10℃高く、これによってより高温でより安定になることを示す。カチオンおよび熱開始剤の両方の濃度が増加した場合にT
gが低下するという事実は、より短い動力学的鎖長のせいであり得る:より高い開始剤濃度では、より多くの鎖が開始され、より短い鎖長を生じる。
実施例25〜37、比較例10〜21
種々の濃度の比較
ジフェニル-ヨードニウム テトラキス(パーフルオロ-t-ブチルオキシ)-アルミネートDPI-TTAは、本発明によれば特に好ましいアルミニウム-ベースのカチオン開始剤である:
【0078】
【化10】
【0079】
これを、市販で入手可能であり以前に使用されていたヘキサフルオロアンチモネート-ベースのIOC-8 SbF
6および同様に市販で入手可能であるがかなりより高価なテトラアリールボレート-ベースのDAI-PFPBと比較した。
【0080】
【化11】
【0081】
この目的のために、エポキシド樹脂としてのBADGE中に1 Mol%のフリーラジカル熱開始剤(RTI)ベンゾピナコール(TPED)および種々の濃度の3つのカチオン開始剤を含む処方物を製造した。次いで、これらの処方物をフロンタル重合によって硬化する試みを行なった。フロンタル重合反応の成功後、前面パラメーターを決定した。この研究の結果を表6に示す。表6は、前面速度、すなわち局所重合ゾーンが伝播する速度を表すv
F、および前面の最大温度を表すT
F.maxを含む。「-
1)」は、特定の処方物を用いたフロンタル重合が達成されなかったことを意味する。
【0082】
【表6】
【0083】
表6に示すように、テトラアリールボレート-ベースのDAI-PFPBは、既にカチオン開始剤の濃度の有意な減少を達成する助けとなり得る。IOC-8 SbF
6の場合、BADGEを用いた安定なフロンタル重合は、既に0.5 Mol%の濃度で不可能となる。新規なアルミニウム-ベースのDPI-TTAの場合、フロンタル重合の能力を保持しつつ、濃度の0.025 Mol%までのさらなる減少が可能となる。表はさらに、ヘキサフルオロアンチモネート-ベースのIOC-8 SbF
6と比較して、カチオン開始剤としてDPI-TTAを用いて前面速度を有意に増加させることが可能であることを示す。
実施例38〜44、比較例22
薄層におけるフロンタル重合
フロンタル重合は、前面を維持する熱開始剤を開裂するために、放出された重合熱を用いることに基づく。従って、フロンタル重合は放出されたエネルギー量に強く依存する。これは、次に、処方物の質量、反応性基の含有量および隣接する材料の熱容量に依存する。従って、フロンタル重合は、その層厚さに関して常に制限される。なぜなら、体積および質量、ならびに従って表面および関連する熱損失は、層厚さの減少に伴って増加し続けるからである。以下に詳細に記載する設定を発展させ、本願のシステムの最小層厚さを決定した。
方法および実験設定
完成した処方物を、5 mmの初期高さを有する重合モールドに導入した。モールドの高さは、9.7 cmの距離にわたって一定に減少する。ポリマーのいかなる変形も回避するために、重合線をPTFEの蓋によって覆った。前面が小さな視野ギャップにおいて可視になるまで、処方物を照射した。ポリマーを冷却した後、離型しそして測定した。ポリマーの最も薄い端部の厚さを、キャリパーを用いて決定した;3つの重合実験からの結果を平均化した。
【0084】
カチオン開始剤IOC-8 SbF
6およびDPI-TTAの比較のために、0.1および1 Mol%のカチオン開始剤の1つならびに1または8 Mol%の熱開始剤TPEDを含む処方物をBADGE樹脂において用いた。この研究の結果を表7に示す。
【0085】
【表7】
【0086】
表7は、DPI-TTAを用いて達成され得る層厚さがIOC-8 SbF
6を用いた場合に達成される層厚さよりも有意に低いことを明確に示す。IOC-8 SbF
6を0.1 Mol%の濃度で用いた場合、フロンタル重合を開始することは不可能であり、1 Mol%の濃度ではフロンタル重合が達成された。熱開始剤TPEDの濃度を1から8 Mol%まで増加させると、層厚さを約50 %減少させることが可能であり;しかしながら、それでもDPI-TTAをカチオン開始剤の濃度の10分の1および熱開始剤の濃度の8分の1で用いて達成され得るのと同じ厚さを達成することは可能ではなかった。
【0087】
薄層におけるフロンタル重合のためにカチオン開始剤としてDPI-TTAを用いて達成される優秀な結果により、詳細な研究を行い、最少層厚さに対する熱およびカチオン開始剤の濃度の影響を調査した。従って、DPI-TTAおよびTPEDの濃度をさらに変化させた。
【0088】
【表8】
【0089】
表8は、熱開始剤(TPED)の濃度が増加するにつれ、およびカチオン開始剤(DPI-TTA)の濃度が増加するにつれ、最少層厚さが減少することを示す。相互依存の発達は、このシステムで達成可能な最少層厚さが0.75 mmよりもはるかに低くはないことを示唆する。
実施例45−適用例「ケミカルアンカー」
ケミカルアンカーは、ねじ、ボルト、ねじ棒などを穴に固定することを可能とする処方物である。2つの選択肢の間での選択がある:短いポットライフを有する速い反応時間または非常に速い硬化を有する不利な非常に長いトップライフに関連した長いポットライフ。従って、ケミカルアンカーの主要部としてのフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合(RICFP)によって硬化され得る処方物の使用は有利であり、長いポットライフに非常に速い硬化を組み合わせる。反応は、(UV)光の照射によって、または熱の局所的付与(例えば、はんだごてまたはホットエアガンを用いて)によって開始され得る。
処方物
典型的な処方物は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのエポキシド樹脂、本発明の開始剤DPITTAなどのカチオン光開始剤、およびベンゾピナコールなどのフリーラジカル熱開始剤からなる。処方物を製造するために、開始剤をできる限り少量のジクロロメタンに溶解し、次いで樹脂と混合する。次いで、ジクロロメタンを真空中、50℃で攪拌下、完全に除去する。
【0090】
【表9】
【0091】
穴の調製
パーカッションドリルを用いて、花崗岩、コンクリートおよび煉瓦に直径14 mmの穴を開けた。次いで、穴を圧縮空気で掃除し、いかなる付着したごみも除去した。岩とエポキシド処方物との間の接着が不十分であり得るので、プライマーを用いて改善し得る。プライマーは、処方物と混合され得るか、あるいは穴に予備的に付与され得る。本願の場合、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランをプライマーとして用いた。
方法A:穴を直接予備処理する
予備処理として、50 mlのエタノール(96%)、0.23 mlの3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび1.5 mlの希酢酸(氷酢酸:水 1:10)を含有する処方物を調製した。穴をこの溶液で完全に満たし、室温で約1時間作用させた。次いで、岩(コンクリート、花崗岩および煉瓦)をオーブン中、60℃で一晩保持した。翌日、溶液は完全に乾燥した。次いで、このような予備処理を行った穴を「下塗りした」と呼ぶ。
方法B:プライマーを反応処方物に加える
開始剤と共に、追加の5重量%の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを上記樹脂処方物に加えた。樹脂の添加後、溶媒を除去し、そして処方物を脱気した。
ねじ棒
ねじ棒(直径12 mm)を11 cmの長さに切断し、そしてそれらの端部をバリ取りし、岩の中に差し込んだ。穴の大きさ(14 mm)およびねじ棒の直径は、1 mmの環状の間隙を生じる。
重合
穴の体積の約半分を反応処方物で満たし、次いでねじ棒を中心に配置した。次いで、流体で満たされかつ8 mmの直径を有する光導波路を介して320〜500 nmのフィルターを備えたUV可視光源を用いて処方物の可視表面を照射することによって反応を開始した。光導波路の出口での照射強度は、3 W/cm
2に設定した。
引張強度試験
次いで、得られたサンプルを引張試験機(Zwick Z250)を用いて試験し、ねじ棒と岩との間のポリマーの接着を試験した。このねじ棒に、2つのナットを用いて第2のねじ棒を固定し、次いで第2のねじ棒を引張試験機にクランプした。カウンターベアリングを用いて岩を下方に固定した。
【0092】
試験を10 mm/minの速度で行った。表10は、典型的な最大に必要な力を示す。プライマーを処方物に加えた場合に達成される結果と穴を予備処理することによって達成される結果とに有意な差異がないことに留意すべきである。さらに、煉瓦は、棒を引き抜く試みの間に、常に部分的に破壊された。
【0093】
【表10】
【0094】
要約すれば、ベンゾピナコールは、カチオン重合性モノマーのフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合にすばらしく適した開始剤であることが十分に証明された。