特許第6836279号(P6836279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836279カチオン重合性モノマーのフロンタル重合方法
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  • 特許6836279-カチオン重合性モノマーのフロンタル重合方法 図000023
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836279
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】カチオン重合性モノマーのフロンタル重合方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20210215BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C08G59/40
   C08G59/68
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-530937(P2018-530937)
(86)(22)【出願日】2016年9月2日
(65)【公表番号】特表2018-529831(P2018-529831A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】AT2016060047
(87)【国際公開番号】WO2017035551
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年8月21日
(31)【優先権主張番号】A576/2015
(32)【優先日】2015年9月2日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】517047651
【氏名又は名称】テヒニッシュ・ウニベルズィテート・ウイーン
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitat Wien
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】リスカ、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ボンゼ、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ケルン、ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】クナーク、パトリック
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−545047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/40
C08G 59/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のカチオン重合開始剤と該少なくとも1種の開始剤のための少なくとも1種の活性化剤との組み合わせを用いたカチオン重合性モノマーのフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合のためのプロセスであって、該活性化剤としてベンゾピナコールを用いることを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記カチオン重合開始剤が、ヨードニウム、ホスホニウム、スルホニウム、フェロセニウムおよびジアゾニウム塩、特にそれらのアリール-置換代表物から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ジアリールヨードニウム塩が前記カチオン重合開始剤として用いられることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項4】
(4-オクチルオキシフェニル)-(フェニル)-ヨードニウム-ヘキサフルオロアンチモネート、(4-イソプロピルフェニル)(4'-メチルフェニル)ヨードニウム-テトラキス-(ペンタフルオロフェニル)-ボレートまたはジフェニル-ヨードニウム-テトラキス(パーフルオロ-t-ブチルオキシ)-アルミネートが前記カチオン重合開始剤として用いられることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項5】
ジフェニル-ヨードニウム-テトラキス(パーフルオロ-t-ブチルオキシ)アルミネートが前記カチオン重合開始剤として用いられることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記カチオン重合が開環重合として行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
1価または多価エポキシド(オキシラン)、チイラン(エピスルフィド)、オキセタン、ラクタム、ラクトン、ラクチド、グリコリド、テトラヒドロフラン、またはそれらの混合物が前記カチオン重合性モノマーとして用いられることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
1種以上の多価エポキシドが前記カチオン重合性モノマーとして用いられることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項9】
1種以上の多価ビニルエーテルが前記カチオン重合性モノマーとして用いられることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
カチオンおよびラジカル重合性モノマーの混合物が、必要に応じてさらなるフリーラジカル開始剤を添加して重合されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
さらなる光開始剤、増感剤、安定化剤、重合調整剤、調節剤、溶媒、充填剤、色素、顔料、およびこれらの混合物から選ばれる1種以上の追加の成分を用いることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合性モノマーのフロンタル重合のための新規なプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
フロンタル重合は、反応ゾーンが重合性物質を介して伝播する重合反応のバリエーションである。伝統的な重合反応と同様に、フロンタル重合反応は、それらが開始されるプロセスに依存して、熱フロンタル重合(TFP)および光フロンタル重合(PFP)に分類される。TFPは、理論的には、消費されない反応性モノマー物質が存在する限り無期限の反応を含む。PFP反応において、開始剤は、開始の間に漂白され、光の侵入深さの連続的な増加を生じ、従って、実際に前面を生成する。PFPはその範囲が強く限定される;さらに、開始照射源は、重合プロセス全体にわたって活性のままである必要がある。
【0003】
PFTの例は、Crivello et al., J. Polym. Sci. A Polym. Chem. 42(7), 1630-1646 (2003)に開示されている。この場合、光酸発生剤とも呼ばれるカチオン光開始剤は、光(通常紫外線)を照射されると励起され;励起状態において、結合は均質または不均質に開裂され、その後、水素原子は、アニオンと共にいわゆる光酸を形成するために、カチオン重合されるモノマーから除去される。この光酸は、好ましくは非常に強い酸、例えば超酸であり、これはモノマーをプロトン化し、従って、カチオン重合を開始する。フロンタル重合のこの特異的な場合において、光はサンプル体全体において光酸を活性化し、次いでフロンタル重合は外部の熱刺激によって引き起こされる。しかしながら、サンプル体全体が光を照射される必要があることは不利点であり、これは嵩高い部分または複雑な形状の場合非常に困難または不可能でさえある。
【0004】
フリーラジカル誘起カチオン重合(RICP)は、カチオン重合の特別のタイプであり;フリーラジカルおよびカチオン開始剤の組み合わせを使用し;数年間、カチオンおよび熱フリーラジカル開始剤の組み合わせが同様に使用されており:成形体の表面の照射に続いてカチオン重合が上記のようにカチオン光開始剤によって開始された後、発熱重合反応の間に放出された反応熱が熱開始剤の分解を引き起こし、従って、反応性フリーラジカルを形成し、これはカチオン開始剤もまた開裂させ、それによってより深い層においてさらなるカチオン重合反応、および従って効果的なフロンタル重合を引き起こす。
【0005】
光開始剤の代わりに熱カチオン開始剤を用いた場合、類似のカスケードが外部熱源を用いた熱活性化によって開始される。熱カチオン開始剤および熱ラジカル開始剤の両方を含む対応する反応系は、共触媒と呼ばれ、例えば、US特許4.336.366およびそこで引用された参考文献に開示されている。とりわけ、ベンゾピナコール誘導体が共触媒として開示されており、これもまたそこに開示された発明の主題である。しかし、US特許4.336.366はフロンタル重合を記載していない。
【0006】
本発明者らは、現在、フリーラジカル誘起カチオン重合(RICP)およびフロンタル重合の概念が組み合わされた文献を1つしか知らない: Mariani et al., "UV-ignited Frontal Polymerization of an Epoxy Resin", J. Polym. Sci. A Polym. Chem. 42(9), 2066-2072 (2004)。
【0007】
カチオン光開始剤および熱フリーラジカル開始剤の上記組み合わせを用いて反応が行われる場合、そして上記反応カスケードを引き起こすUV光の初期照射後、既に生成したポリマーとまだ反応していないモノマーとの間の界面で前面が発生し;十分な熱が放出されて熱開始剤を分解しない限り、従って該熱開始剤はカチオン開始剤を活性化し(これは光開始剤のための「活性化剤」とも呼ばれる理由である)、新たなカチオン重合反応が連続して引き起こされ続ける。2つの開始剤が十分な量で利用可能である場合、この前面は、重合がさらなる未反応のモノマーの欠如により中断されるまで、重合される混合物全体にわたって伝播する。
【0008】
当業者が知っているように、一般的なカチオン光開始剤は、アニオンとしての非求核性塩基と対になった、アリールヨードニウム、アリールスルホニウムまたはアリールジアゾニウム塩などの第1級オニウム塩、ならびに(反応性が少し低い)フェロセニウム塩であり、これらは上述の強酸に相当する。数年間、ほとんどはヘキサフルオロホスフェートPF6-、ヘキサフルオロアンチモネートSbF6-またはテトラキス-(パーフルオロフェニル)ボレートなどの種々のボレートであり、この目的のために用いられている。
【0009】
従って図1はジアリールヨードニウム塩の例を用いたフリーラジカル誘起カチオン光重合の反応順序を例示する。
【0010】
RICPプロセスにおいて、アゾ化合物、例えばアゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、パーオキシド、例えば(ジ)ベンゾイルパーオキシド(BPO)などの一般的な熱不安定性フリーラジカル発生剤は、熱フリーラジカル開始剤またはカチオン光開始剤と組み合わせた「活性化剤」として用いられた。
【0011】
Marianiら(上記)に従ってフロンタル重合として実施される現在唯一知られているRICPプロセスは、カチオン光開始剤としてジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートを、熱開始剤としてのベンゾイルパーオキシド(BPO)と組み合わせて用いる。下式の反応性の高い3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(CE)がカチオン重合性モノマーとして用いられた:
【0012】
【化1】
【0013】
一般的に、フロンタル重合に用いられる反応混合物は、通常溶媒を含有せず、なぜなら反応の間に放出される反応熱は消散させる必要はないが、反応系内で消費され;従って、本質的に非常にエネルギー効率的であり、高い重合率および反応ターンオーバーによって特徴付けられるからである。
【0014】
しかし、重合反応の間に反応混合物を攪拌することが実際上不可能であることは不利点であり、なぜなら、これは前面の破壊を生じ、このことは例えば局所的な過熱または気体含有物のために泡の形成による重合物がしばしば不均一である理由であるからである。
【0015】
とりわけ、熱開始剤は、CO2(BPOの場合)またはN2(AIBNの場合)などの通常気体状副生成物がその熱分解の間に形成するので、該気体含有物の原因である。伝播する前面において時々100℃を超える高温、およびしばしば150℃さえ超える高温、特に混合物内の開始剤の不均一な分布が局所的な過熱を生じる場合は、さらにしばしばいくらかのモノマーの蒸発を引き起こすかあるいはそれらの熱分解を生じ、これは、Marianiら(上記)により用いられたCEモノマーについて本発明者らによって観察されたように、再度重合物中に泡の形成を生じる。超酸はこれらの温度でモノマーのエステル結合を開裂し、脱炭酸反応およびCO2の放出を生じると仮定される。
【0016】
さらに、これらの伝統的な熱開始剤は、以下に示すビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)またはそのオリゴマーなどの少し反応性は低いが非常に一般的なモノマーを用いたフロンタル重合を引き起こすことができない。
【0017】
【化2】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
この背景に対し、本発明の目的は、反応性の低いモノマーもまた重合し、そして重合物のいかなる不均一性も大いに回避することを可能とするフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合(RICFP)プロセスを開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の開示
本発明は、少なくとも1種のカチオン重合開始剤および該少なくとも1種の開始剤のための少なくとも1種の活性化剤の組み合わせを用いたカチオン重合性モノマーのフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合のための、ベンゾピナコールを該活性化剤として用いることを特徴とするプロセスを提供すること、およびカチオン重合性モノマーのフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合におけるカチオン重合開始剤のための活性化剤としてのベンゾピナコールの使用を提供することによってこの目的を達成する。
【0020】
【化3】
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】既に述べたように、図1は、まず第1に「hν」によって示されるように、フリーラジカル誘起カチオン光重合の反応カスケードを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
それらの調査の間、本発明者らは、C-C-不安定化合物ならびに種々のパーオキシド、アシルパーオキシド、パーカーボネート、スルホニルパーオキシド、およびアゾ化合物を含む、種々のカチオン光開始剤のための活性化剤として多数の公知の熱フリーラジカル開始剤を研究し;驚くべきことに、まず第1に、ベンゾピナコールが、全ての試験したモノマーで実質的に泡を含有しない重合物を生成した唯一の熱開始剤であっただけでなく、以下の実施例が示すように、BADGEなどの一般的であるが反応性がほとんどないモノマーのフロンタル重合を開始することができた唯一の開始剤であったことを見出した。
【0023】
これは、以下の理由でさらにいっそう驚くべきことであった:
一方、D. BraunおよびK. Beckerは、効果的な熱重合開始剤としてベンゾピナコールおよび芳香族化合物のパラ位がハロゲン化されたいくつかのその誘導体を1960年代後半に既に開示した(オレフィンモノマーの伝統的なフリーラジカル重合についてのみ(Braun and Becker, "Aromatische Pinakole als Polymerisationsinitiatoren", Angew. Makromol. Chem. 6(1), 186-189 (1968)を参照)。1981からの上述のUS 4.336.366はまた、(熱ではあるが)カチオン開始剤のための「共触媒」としてベンゾピナコール誘導体を開示する。
【0024】
一方、このUS特許は、OH基を有しないベンゾピナコール誘導体、すなわち、特に2つの酸素原子で適切にアルキル化、アシル化またはシリル化された誘導体を明確に記載および請求しているにすぎず、これらは、非常に低い温度で、60〜200℃、好ましくは100〜160℃の温度でさえ既に分解すると予想され、重合に用いられる。それより先に、BraunおよびBeckerはまた、ベンゾピナコールおよびそのハロゲン化誘導体が比較的高温でのみ分解することを見出したが、顕著な分解は40℃で既に観察されると言われている(BraunおよびBecker;上記)。
【0025】
US特許4.336.366の開示に反して、本発明者らは、ベンゾピナコールが、反応混合物にわたる前面伝播を事実上発生させることができる唯一の開始剤であるだけでなく、さらに実質的に泡を含有しない重合物を生成するので、本発明の特異的な目的のため、すなわちカチオン重合性モノマーのフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合におけるカチオン光開始剤と組み合わせた熱フリーラジカル開始剤としての使用のために完璧に適していることを見出した。
【0026】
ベンゾピナコールと組み合わせて用いられる重合開始剤は、特に限定されないが、好ましくは一般的なヨードニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ジアゾニウムおよびフェロセニウム-塩からまたはチオピリリウム、ピリリウムおよびセレノニウム塩から、より好ましくはこれらの塩のアリール置換代表物から、およびさらにより好ましくはB(C6F5)4-、SbF6-、AsF6-、PF6-またはBF4-を含む非求核性塩基と形成される非常に強い酸の塩から選ばれる。本発明に従って、ジアリールヨードニウム塩がこの目的のために特に用いられ、なぜならこれらの塩は、カチオン開始剤の最も一般的な代表物であり、そしてヨードニウム塩の反応性はイソピロピルチオキサントンまたはジブチルアントラセンなどの増感剤の添加によって、他のオニウム塩の反応性よりも顕著により大きな程度まで増大され得るからである(J. Crivello, K. Dietliker, "Chemistry and Technology of UV and EB Formulations", 2nd ed., vol. III, p. 349, Wileyを参照)。
【0027】
特に好ましい実施態様において、(4-オクチルオキシフェニル)-(フェニル)-ヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネートまたは(4-イソプロピルフェニル)(4’-メチルフェニル)--ヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)-ボレートおよびより好ましくはジフェニル-ヨードニウム テトラキス(パーフルオロ-t-ブチルオキシ)-アルミネートが該カチオン重合開始剤として用いられ、これらは優秀な結果の達成を可能とする。
【0028】
好ましい実施態様において、カチオン重合は開環重合として行われる(J. Crivello, K. Dietliker, "Chemistry and Technology of UV and EB Formulations", 2nd ed., vol. III, p. 334, Wileyを参照)が、ビニルエーテルなどの非環式モノマーもまた用いられ得る。特に好ましい実施態様において、1価または多価のエポキシド(オキシラン)、チイラン(エピスルフィド)、オキセタン、ラクタム、ラクトン、ラクチド、グリコリド、テトラヒドロフラン、またはそれらの混合物、特に1つ以上の多価のエポキシドまたはビニルエーテルまたはイソブチレン誘導体がカチオン重合性モノマーとして用いられ得る。
【0029】
しかしながら、本発明に従って熱開始剤としてベンゾピナコールを用いるフロンタル重合反応はまた、光収率を増加させおよび重合の開始を加速し、あるいはまず第1に例えばカチオン光開始剤の波長範囲(典型的には400 nm未満、しばしばさらに300 nm未満)の光を吸収する充填剤の存在下で反応を開始するために、増感剤および/または追加の光開始剤の存在下で開始され得る。カチオンおよび熱開始剤の対の反応カスケードはまた、熱的に開始され得、初期熱エネルギー供給はベンゾピナコールをフリーラジカルに分解し、次いでこれはカチオン開始剤の分解を引き起こし、その後、カスケードは上記のように進行する。
【0030】
本発明のこのような実施態様は、以下の実施例を参照して実証される。
【0031】
さらに、本発明の好ましい実施態様は、上述のようにエポキシドなどの種々のカチオン重合性モノマーの混合物だけでなく、カチオンおよびラジカル重合性モノマーの混合物もまた使用し得、カチオンおよびフリーラジカル重合物からなる「ハイブリッド材料」を得ることができる。熱フリーラジカル開始剤としてのベンゾピナコールは、この場合、カチオン光開始剤の分解およびそれぞれのモノマーのフリーラジカル重合を引き起こし得、および/または追加のフリーラジカル(熱または光)開始剤が添加される。
【0032】
さらに、例えば一般的な安定化剤、重合調整剤、調節剤、溶媒、色素、顔料およびそれらの混合物から選ばれ得るさらなる成分が、フロンタル重合を邪魔または妨害しない限り、上述の成分に加えて用いられ得る。
【0033】
あるいは、カスケードはまた、熱エネルギーによって引き起こされ得る;この場合、熱開始剤はまず開裂され、次いで今度はカチオン開始剤を活性化する。この場合、反応1は省略され、そしてカスケードは反応3−4−2の繰り返し順序を含む。増感剤が使用される場合、それはしばしば長波長の光を吸収し、従ってエネルギーをカチオン開始剤に移動させ、次いでこれは反応1と同様に分解し、従ってさらなるカスケードを引き起こす。フリーラジカル光開始剤を用いる場合、これはまたしばしば一般的なカチオン開始剤よりも長波長を吸収することができ、フリーラジカル開始剤の分解はフリーラジカルを生成し、これは反応4と同様にカチオン開始剤を分解し、これは次いで反応2から開始して上記スキームに従って反応カスケードを引き起こす。本発明の実施例を以下に記載する。
【実施例】
【0034】
本発明は、以下の実施例に基づいて詳細に記載され、これらは本発明の実行可能性を例示することを意図するのみであり、その範囲を限定することを意図しない。
【0035】
以下でテトラフェニルエチレンジオールとも呼ばれ、TPEDと省略されるベンゾピナコールおよび他の開始剤(ベンゾピナコール ビス(トリメチルシリルエーテル)を除く)ならびにモノマーは、市販で入手可能であり、さらに精製することなく反応に用いた。
【0036】
最初の成功した実験後、ベンゾピナコールの遊離OH基がその反応性に必須であったかどうかを調べるために、US特許4,336,366にも開示されているベンゾピナコール ビス(トリメチルシリルエーテル)を合成し、その反応性をフロンタル重合において試験した。ここでも述べている、いくつかの公知の合成経路に従ったアルキル化およびアシル化誘導体(ベンゾピナコール ジメチルエーテル、ベンゾピナコール ジアセテート)を製造するいくつかの試みは、これまで未知の理由のために失敗した。
合成例1
ベンゾピナコール ビス(トリメチルシリルエーテル) (TPED-Si)の製造
【0037】
【化4】
【0038】
機械攪拌機、滴下漏斗およびセプタムを備えた3つ口フラスコに10 mlのジオキサン中の50 mmolの亜鉛をあらかじめ充填し、そして10 mmolのトリメチルクロロシランをセプタムを介して加えた。10 mmolのベンゾフェノンを10 mlのジオキサンに溶解し、そして反応物にゆっくりと滴下した。反応フラスコを超音波浴に配置し、そして攪拌しながら3時間超音波処理した。次いで反応混合物をろ過し、そしてn-ヘキサンで処理し、白色固体を沈殿させた。混合物をロータリーエバポレーターでエバポレートし、次いでそのようにして生成した沈殿物が再度部分的に溶解するまで石油エーテルで処理した。沈殿物を濾去し、そして濾液を乾固するまでロータリーエバポレーターでエバポレートして0.63 gの白色固体を得、これを溶出液としてPE:DCMを用いてシリカを通してろ過した。
【0039】
ATR-IRによる特徴付け。13C-および1H-NMRは標題化合物が得られたことを確認した。
実施例1〜5および比較例1〜8
種々の開始剤を用いたフロンタル重合
現在最も広範に使用されているエポキシドモノマーの1つ、すなわち既に上述したBADGEを代表的モノマーとして用いた;カチオン光開始剤および熱活性化剤の種々の対を用いてBADGEの重合を試みた。
【0040】
開始剤を、以下の表1に列挙した量で3 mlのジクロロメタンに溶解した。次いでそれぞれの透明溶液を15 gのBAD-GEモノマーと混合し、そして油浴中50℃で攪拌した。次いでジクロロメタンを真空下除去し、そして処方物を同時に脱気した。3時間後、3.7 gの各サンプルを、熱センサーを備えた円筒形凹部を有するポリテトラフルオロエチレン製の重合モールドに移し、重合の間の前面の温度を決定し、最高温度(TF.max)を比較の基礎として用いた。
【0041】
処方物を、320〜500 nmの波長フィルターを有するOmnicure 2000水銀灯に取り付けた光導波路を介して重合モールドの一端で垂直に照射した。UV光強度は、導波路の出口で3 W/cm2に設定した。市販のデジタルカメラを用いて重合プロセスを記録し、そして反応が完了した後評価した。前面速度(VF)を、重合モールドの一面に取り付けたルーラーを用いて決定した。
【0042】
(4-オクチルオキシフェニル)-(フェニル)-ヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート(IOC-8)および(4-イソプロピルフェニル)(4’-メチルフェニル)--ヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(PFPB)は、2つの試験したカチオン光開始剤であった。
【0043】
【化5】
【0044】
合計で、9つの異なる化合物を活性化剤として、すなわち熱開始剤として試験した。ベンゾピナコール(TPED)およびそのジシリルエーテル(TPED-Si)およびジニトリルTPE-CN、テトラフルオロエタン(TPE-H)ならびにトリ-フェニルアセトフェノン(TPAP)に加えて、いかなる気体状副生成物も形成しない3つのさらなるC-C-不安定熱フリーラジカル開始剤を試験した:
【0045】
【化6】
【0046】
さらに、3つの一般的な熱パーオキシド開始剤であるtert-ブチルパーオキシド(TBPO)、tert-ブチルシクロヘキシルパーオキソジカーボネート(TBC-PDC)およびベンゾイルパーオキシド(BPO)ならびにアゾ-ビス(イソブチロニトリル)(AIBN)を試験した:
【0047】
【化7】
【0048】
さらに、ジメチルスルホニルパーオキシド(DMSP)を、上述の代表物とは対照的に気体の放出を生じないさらなる熱開始剤として試験した。
【0049】
【化8】
【0050】
第1の実験シリーズにおいて、種々の熱開始剤を2 Mol%のモル濃度で、同モル量のカチオン開始剤(IOC-8)を用いてまず試験した。
【0051】
第2の実験シリーズにおいて、ベンゾピナコール(TPED)を種々の濃度および種々の開始剤を用いて試験した。
【0052】
以下の表1は、本発明の実施例(B1〜B5)および比較例(V1〜V8)について、これらの2つの実験シリーズの結果を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から、まず第1に、試験した全ての9つの熱開始剤のうち、ベンゾピナコール(TPED)およびそのシリルエーテルTPED-Siのみがフロンタル重合を引き起こし得たことが明確に分かり得る。
【0055】
他の場合の全てにおいて、すなわち比較例1〜8では、重合は照射した領域で局所的に起こったが、反応混合物にわたって伝播するいかなる前面も存在しなかった。
【0056】
理論に束縛されることは望まないが、本発明者らは、シリルエーテルTPED-Siの反応性が強い光酸の存在下でのO-Si結合の(少なくとも部分的な)加水分解によるものであり、反応性ジオールTPEDの原位置での形成を生じると仮定する。これは、前面の伝播速度、これはTPEDについてTPED-Siの伝播速度よりも2.5倍高かった(ΔVF: 5.1 cm/min)、が同じ開始剤濃度で有意に低かったという事実によって、ならびに有意に低かった前面温度(ΔTF.max: 50℃)によって支持されている。
【0057】
TPED-Siのような構造的に類似の化合物、すなわちTPEDの1つまたは両方のOH基に「保護基」が与えられている化合物が光酸の存在下でのフロンタル重合の間に実施されている強い酸性条件下で容易に開裂し得、遊離ジオールTPEDを形成すると仮定され得る。保護基として用いられ得るエーテルの例は、とりわけ、t-ブチルジメチルシリルエーテルまたはt-ブチルジフェニルシリルエーテルなどのシリルエーテル、例えば、tert-ブチルエーテル、メトキシメチルエーテル、アリルエーテル、ベンジルエーテル、またはテトラヒドロピラニルエーテルを含む。さらに、アセトン-またはベンズアルデヒド-ベースの1,2-アセタール基ならびにアセチルエステルまたはピバロイルエステルは、容易に開裂可能である。
【0058】
従って、フロンタル重合の間にベンゾピナコールを放出するTPEDのこのような保護形態もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0059】
ベンゾピナコールのみを熱開始剤として用いた第2の実験シリーズ、すなわち実施例1と比較した実施例3〜5の結果は、さらに以下を示す:
a)カチオン光開始剤の量を2から0.75 Mol%まで減少させたとしても(実施例3)、安定な前面が発生する;および
b)ベンゾピナコールは、既に半分の濃度1 Mol%で速い伝播前面を生成する(2倍量のTPED-Siを用いて達成されるよりもさらに約50 %速く伝播する)(実施例4);
c)前面の伝播速度は、カチオン光開始剤としてIOC-8の代わりに同量のPFPBを用いた場合、さらに約3分の1増加し得る。
【0060】
さらに、本発明の全ての実施例は、完全に重合した樹脂の目視検査によって決定されるように、実質的に泡を含有しない重合物を生成した。
【0061】
従って、ベンゾピナコールは、このようなフロンタル重合反応における使用のための優秀な熱開始剤である。
実施例6〜13
カチオン重合性モノマーのバリエーション
上記実施例について記載したのと同じ実験設定においてカチオン光開始剤としてのIOC-8および熱開始剤としてのベンゾピナコール(TEPD)を有する開始剤の対を用いて、反応混合物において他のカチオン重合性モノマーを用いて異なる比を研究した;以下の表2は選択した条件を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
用いたモノマーの構造を次頁に示す。
【0064】
【化9】
【0065】
表3は、現在最も広範に使用されている樹脂BADGE以外に、多数の他のカチオン重合性樹脂を本発明のプロセスを用いてフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合によって硬化し得ることを示す。開始剤濃度はまた、いかなる問題もなく、および前面の特性を有意に変化させることなく、変化させ得る(特に、実施例6〜8を参照)。
【0066】
実施例9および13からのビスフェノールAに基づいたエポキシド樹脂処方物と比較した場合、脂環式または脂肪族エポキシド樹脂を用いた場合の開始剤系の有意に増大した反応性もまた明らかになる。
実施例14〜19
充填剤を含む反応混合物
シリケートなどの充填剤を用いて新たな複合材料を製造することができる。発電の分野において、例えば銅棒に巻かれているマイカフィルムが電気絶縁体として用いられる。これらのフィルムは、通常エポキシド樹脂系を用いて真空含浸を適用して安定化される。
【0067】
従って、この実施例群は、2つの異なるモノマーおよび開始剤のIOC-8/TPED対を用いて、マイカ粉末を充填したエポキシド樹脂処方物のフロンタル重合を試験する。
【0068】
マイカは、カチオン光開始剤IOC-8と同じ範囲の波長を吸収するので、上記実施例のように照射によってIOC-8を分解することによって反応カスケードを開始することは可能ではない。
a)熱エネルギーを用いた開始
最初は、熱開始剤TPEDを、反応混合物に局所的に熱を印加する(例えば、はんだごてまたは温風ファンを用いて)ことによってフリーラジカルへと開裂させ、該フリーラジカルはカチオン開始剤を分解させ、通常のカスケードを引き起こす(実施例14〜16)。
b)増感剤を用いた光化学開始
カチオン光開始剤ならびにマイカ以外の(通常より長)波長で(理想的には正確にランプの発光極大で)極大吸収を有し、そしてそのように吸収された光エネルギーを光開始剤に伝達してその活性化を達成する光増感剤(「増感剤」)を加えることによって、カスケードを引き起こした。ペリレンを例示的な増感剤として用いた(実施例18〜19)。
c)追加の光開始剤の光化学開始
この場合、IOC-8およびマイカとは別の(ほとんどはより長い)範囲の波を吸収し、そして形成したフリーラジカルがカチオン開始剤を活性化する追加の光開始剤を用いてカスケードを引き起こした。この目的のために、Ivoclar Vivadentから市販で入手可能なゲルマニウム開始剤Ivocerin(登録商標)を用いた(実施例17)。
【0069】
以下の表3は、上記実施例の処方物および結果を示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3は、全ての場合において、反応混合物にわたって伝播する安定な前面が発生したことを示す。
【0072】
光増感剤を用いたさらなる実験(本明細書中では詳細に記載しない)において、アントラセンおよび3-ITX(3-イソプロピル 9H-チオキサンテン-9-オン)が、熱開始剤としてのTPEDの存在下、IOC-8のための増感剤として有用であると分かったが、開始剤の対としてIOC-8および種々の熱開始剤(TBPO、TBC-PDC、BPO、AIBNおよびDMSP)の組み合わせを用いた場合、前面は再度発生できなかった。
実施例20〜24、比較例9
処方物およびその形成した生成物の物理特性
フリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合(RICFP)によって生成したポリマーの特性は、伝統的な熱硬化によって生成したポリマーの特性と類似しているかまたはその特性を超えている。これは、以下の実施例に例示され、ここでRICFPによって生成されるBADGEポリマーの保存安定性、熱機械的、機械的および電気的特性を、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物を用いた無水物硬化によって生成されるBADGEポリマーと比較する。全ての場合において、IOC-8-SbF6を光酸発生剤(PAG)として用い、そしてベンゾピナコール(TPED)をフリーラジカル熱開始剤(RTI)として用いた。処方物の正確な組成は、個々の実施例に見い出され得る。
実施例20および21、比較例9−保存安定性
処方物の存安定性は、これらの処方物を用いて行われる重合反応の再現性に必須のパラメーターである。保存安定性を試験するために、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの混合物を、フリーラジカル熱開始剤および光酸発生剤を2つの異なる濃度で用いて製造した。予備実験に基づいて、開始剤および光酸発生剤の1および2 Mol%の濃度を選択した。比較例において、促進剤として有機Zn塩と共に、BADGEおよび無水物-ベースの硬化剤、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(MHHPA)からなる市販の系(Araldite Impregnating Resin System MY 790-1. CH / HY 1102; 2008についての技術データシートを参照)を用いた。BADGE処方物は50℃未満の温度で保存した場合に結晶化する傾向があるので、全ての処方物を、50℃および光の排除下で保存し、光開始剤のいかなる所望でない活性化も防止した。
【0073】
処方物の粘度を、流量計によって混合直後およびある一定の間隔で測定し、早過ぎるゲル化を目的としてそれらの保存安定性を洞察した。これらの粘度測定は、PeltierオーブンおよびCP-50測定システムを有するAnton Paar MCR 300流量計を用いて行った。測定は、50℃の一定温度で100 sについて100 s-1のせん断速度を有する回転下で行った(融点に近い温度でのせん断によって誘起されるいかなる結晶化も防止するため)。100秒のこの期間の最後の粘度値を分析に用いた。全ての測定は3回行い、結果を平均化した。
【0074】
【表4】
【0075】
50℃および光排除下、1 Mol% IOCおよびTPEDを有する処方物は4週間非常に安定のままである。それぞれの濃度を2 Mol%まで増加させると、粘度は約1週間後わずかに増加し始めるが、処方物は加工に適切なままである。無水物を用いた比較例では、粘度は3日後既に有意に増加し、そして5日後処方物は不均一に変化し、その結果その粘度はもはや測定できなかった。従って、活性化剤としてベンゾピナコールを含む処方物は非常に良好な保存安定性を示す。
実施例22〜24−熱機械特性
DSCによって決定したガラス転移温度Tgを有意なパラメーターとして用いた。RICFPによって硬化したポリマーロッドの中央部分からのサンプルを取り、そしてRetschクライオミル中ですりつぶして微細なポリマー粉末を得た。これらのポリマー粉末をアルミニウム皿に正確に量り取り、DSCシグナルをNetsch STA 449 F1によって、25℃〜250℃の温度、30 K/minの加熱速度、250℃での5分の保持時間および20 K/minでの25℃までの冷却で2サイクル記録した。2回目のサイクルの間にTgを決定した。全ての測定は3回行い、そして結果を平均化した。
【0076】
【表5】
【0077】
無水物硬化BADGE系のTgを154 ± 4℃と同定した。表5は、RICFP-硬化系が全て伝統的な材料のTgよりも5〜10℃高く、これによってより高温でより安定になることを示す。カチオンおよび熱開始剤の両方の濃度が増加した場合にTgが低下するという事実は、より短い動力学的鎖長のせいであり得る:より高い開始剤濃度では、より多くの鎖が開始され、より短い鎖長を生じる。
実施例25〜37、比較例10〜21
種々の濃度の比較
ジフェニル-ヨードニウム テトラキス(パーフルオロ-t-ブチルオキシ)-アルミネートDPI-TTAは、本発明によれば特に好ましいアルミニウム-ベースのカチオン開始剤である:
【0078】
【化10】
【0079】
これを、市販で入手可能であり以前に使用されていたヘキサフルオロアンチモネート-ベースのIOC-8 SbF6および同様に市販で入手可能であるがかなりより高価なテトラアリールボレート-ベースのDAI-PFPBと比較した。
【0080】
【化11】
【0081】
この目的のために、エポキシド樹脂としてのBADGE中に1 Mol%のフリーラジカル熱開始剤(RTI)ベンゾピナコール(TPED)および種々の濃度の3つのカチオン開始剤を含む処方物を製造した。次いで、これらの処方物をフロンタル重合によって硬化する試みを行なった。フロンタル重合反応の成功後、前面パラメーターを決定した。この研究の結果を表6に示す。表6は、前面速度、すなわち局所重合ゾーンが伝播する速度を表すvF、および前面の最大温度を表すTF.maxを含む。「- 1)」は、特定の処方物を用いたフロンタル重合が達成されなかったことを意味する。
【0082】
【表6】
【0083】
表6に示すように、テトラアリールボレート-ベースのDAI-PFPBは、既にカチオン開始剤の濃度の有意な減少を達成する助けとなり得る。IOC-8 SbF6の場合、BADGEを用いた安定なフロンタル重合は、既に0.5 Mol%の濃度で不可能となる。新規なアルミニウム-ベースのDPI-TTAの場合、フロンタル重合の能力を保持しつつ、濃度の0.025 Mol%までのさらなる減少が可能となる。表はさらに、ヘキサフルオロアンチモネート-ベースのIOC-8 SbF6と比較して、カチオン開始剤としてDPI-TTAを用いて前面速度を有意に増加させることが可能であることを示す。
実施例38〜44、比較例22
薄層におけるフロンタル重合
フロンタル重合は、前面を維持する熱開始剤を開裂するために、放出された重合熱を用いることに基づく。従って、フロンタル重合は放出されたエネルギー量に強く依存する。これは、次に、処方物の質量、反応性基の含有量および隣接する材料の熱容量に依存する。従って、フロンタル重合は、その層厚さに関して常に制限される。なぜなら、体積および質量、ならびに従って表面および関連する熱損失は、層厚さの減少に伴って増加し続けるからである。以下に詳細に記載する設定を発展させ、本願のシステムの最小層厚さを決定した。
方法および実験設定
完成した処方物を、5 mmの初期高さを有する重合モールドに導入した。モールドの高さは、9.7 cmの距離にわたって一定に減少する。ポリマーのいかなる変形も回避するために、重合線をPTFEの蓋によって覆った。前面が小さな視野ギャップにおいて可視になるまで、処方物を照射した。ポリマーを冷却した後、離型しそして測定した。ポリマーの最も薄い端部の厚さを、キャリパーを用いて決定した;3つの重合実験からの結果を平均化した。
【0084】
カチオン開始剤IOC-8 SbF6およびDPI-TTAの比較のために、0.1および1 Mol%のカチオン開始剤の1つならびに1または8 Mol%の熱開始剤TPEDを含む処方物をBADGE樹脂において用いた。この研究の結果を表7に示す。
【0085】
【表7】
【0086】
表7は、DPI-TTAを用いて達成され得る層厚さがIOC-8 SbF6を用いた場合に達成される層厚さよりも有意に低いことを明確に示す。IOC-8 SbF6を0.1 Mol%の濃度で用いた場合、フロンタル重合を開始することは不可能であり、1 Mol%の濃度ではフロンタル重合が達成された。熱開始剤TPEDの濃度を1から8 Mol%まで増加させると、層厚さを約50 %減少させることが可能であり;しかしながら、それでもDPI-TTAをカチオン開始剤の濃度の10分の1および熱開始剤の濃度の8分の1で用いて達成され得るのと同じ厚さを達成することは可能ではなかった。
【0087】
薄層におけるフロンタル重合のためにカチオン開始剤としてDPI-TTAを用いて達成される優秀な結果により、詳細な研究を行い、最少層厚さに対する熱およびカチオン開始剤の濃度の影響を調査した。従って、DPI-TTAおよびTPEDの濃度をさらに変化させた。
【0088】
【表8】
【0089】
表8は、熱開始剤(TPED)の濃度が増加するにつれ、およびカチオン開始剤(DPI-TTA)の濃度が増加するにつれ、最少層厚さが減少することを示す。相互依存の発達は、このシステムで達成可能な最少層厚さが0.75 mmよりもはるかに低くはないことを示唆する。
実施例45−適用例「ケミカルアンカー」
ケミカルアンカーは、ねじ、ボルト、ねじ棒などを穴に固定することを可能とする処方物である。2つの選択肢の間での選択がある:短いポットライフを有する速い反応時間または非常に速い硬化を有する不利な非常に長いトップライフに関連した長いポットライフ。従って、ケミカルアンカーの主要部としてのフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合(RICFP)によって硬化され得る処方物の使用は有利であり、長いポットライフに非常に速い硬化を組み合わせる。反応は、(UV)光の照射によって、または熱の局所的付与(例えば、はんだごてまたはホットエアガンを用いて)によって開始され得る。
処方物
典型的な処方物は、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのエポキシド樹脂、本発明の開始剤DPITTAなどのカチオン光開始剤、およびベンゾピナコールなどのフリーラジカル熱開始剤からなる。処方物を製造するために、開始剤をできる限り少量のジクロロメタンに溶解し、次いで樹脂と混合する。次いで、ジクロロメタンを真空中、50℃で攪拌下、完全に除去する。
【0090】
【表9】
【0091】
穴の調製
パーカッションドリルを用いて、花崗岩、コンクリートおよび煉瓦に直径14 mmの穴を開けた。次いで、穴を圧縮空気で掃除し、いかなる付着したごみも除去した。岩とエポキシド処方物との間の接着が不十分であり得るので、プライマーを用いて改善し得る。プライマーは、処方物と混合され得るか、あるいは穴に予備的に付与され得る。本願の場合、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランをプライマーとして用いた。
方法A:穴を直接予備処理する
予備処理として、50 mlのエタノール(96%)、0.23 mlの3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび1.5 mlの希酢酸(氷酢酸:水 1:10)を含有する処方物を調製した。穴をこの溶液で完全に満たし、室温で約1時間作用させた。次いで、岩(コンクリート、花崗岩および煉瓦)をオーブン中、60℃で一晩保持した。翌日、溶液は完全に乾燥した。次いで、このような予備処理を行った穴を「下塗りした」と呼ぶ。
方法B:プライマーを反応処方物に加える
開始剤と共に、追加の5重量%の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを上記樹脂処方物に加えた。樹脂の添加後、溶媒を除去し、そして処方物を脱気した。
ねじ棒
ねじ棒(直径12 mm)を11 cmの長さに切断し、そしてそれらの端部をバリ取りし、岩の中に差し込んだ。穴の大きさ(14 mm)およびねじ棒の直径は、1 mmの環状の間隙を生じる。
重合
穴の体積の約半分を反応処方物で満たし、次いでねじ棒を中心に配置した。次いで、流体で満たされかつ8 mmの直径を有する光導波路を介して320〜500 nmのフィルターを備えたUV可視光源を用いて処方物の可視表面を照射することによって反応を開始した。光導波路の出口での照射強度は、3 W/cm2に設定した。
引張強度試験
次いで、得られたサンプルを引張試験機(Zwick Z250)を用いて試験し、ねじ棒と岩との間のポリマーの接着を試験した。このねじ棒に、2つのナットを用いて第2のねじ棒を固定し、次いで第2のねじ棒を引張試験機にクランプした。カウンターベアリングを用いて岩を下方に固定した。
【0092】
試験を10 mm/minの速度で行った。表10は、典型的な最大に必要な力を示す。プライマーを処方物に加えた場合に達成される結果と穴を予備処理することによって達成される結果とに有意な差異がないことに留意すべきである。さらに、煉瓦は、棒を引き抜く試みの間に、常に部分的に破壊された。
【0093】
【表10】
【0094】
要約すれば、ベンゾピナコールは、カチオン重合性モノマーのフリーラジカル誘起カチオンフロンタル重合にすばらしく適した開始剤であることが十分に証明された。
図1