(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836280
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】鋼材の製造方法および鋼材
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20210215BHJP
C22C 38/52 20060101ALI20210215BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/52
C21D8/00 D
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-560954(P2018-560954)
(86)(22)【出願日】2017年5月11日
(65)【公表番号】特表2019-518871(P2019-518871A)
(43)【公表日】2019年7月4日
(86)【国際出願番号】EP2017061290
(87)【国際公開番号】WO2017198530
(87)【国際公開日】20171123
【審査請求日】2018年12月28日
(31)【優先権主張番号】102016109253.3
(32)【優先日】2016年5月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518407582
【氏名又は名称】フォエスタルピネ ベーラー エデルシュタール ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】ペルコ ヨヘン
(72)【発明者】
【氏名】ハスペル ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シュッツ パトリック
【審査官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−166303(JP,A)
【文献】
米国特許第05496421(US,A)
【文献】
特開平06−299301(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104328353(CN,A)
【文献】
国際公開第2017/168874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の製造方法であって、以下の分析(mass%において):
C<0.050;
Si<0.70;
Mn<1.00;
P<0.030;
S<0.010;
Cr=14〜15.50;
Mo=0.30〜0.60;
Ni=4.50〜5.50;
V<0.20;
W<0.20;
Cu=2.50〜4.00;
Co<0.30;
Ti<0.05;
Al<0.05;
Nb<0.05;
Ta<0.05;
N<0.05;
ならびに残りは鉄および溶融関連不純物である、
に相当する鋼を溶融する、前記方法。
【請求項2】
前記鋼材がポンプのための耐食性鋼材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋼材を、従来的に、またはESRもしくはVARを用いて溶融し、800℃〜1250℃でフォーミングし;熱処理を、溶体化焼きなましで850℃〜1050℃で行い、続いて、硬化、冷却し、要求される機械的特性に依存して450℃〜600℃で焼き戻すことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
450℃〜520℃で前記焼き戻しを行う、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼材を以下の分析:
C<0.030;
Si<0.40;
Mn<0.60;
P<0.025;
S<0.005;
Cr=14.20〜14.60;
Mo=0.30〜0.45;
Ni=4.80〜5.20;
V<0.10;
W<0.10;
Cu=3.00〜3.70;
Co<0.15;
Ti<0.010;
Al<0.030;
Nb<0.02;
Ta<0.02;
N<0.02;
ならびに残りは鉄および溶融関連不純物である、
で溶融することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理、前記硬化、前記冷却、および前記焼き戻しを、構造が次いで最大で1%のデルタフェライトを有するマルテンサイトから構成され、一次硬質相を含まず、焼き戻したオーステナイト含有量が合計で最大8%であるように行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
以下の分析:
C<0.050;
Si<0.70;
Mn<1.00;
P<0.030;
S<0.010;
Cr=14〜15.50;
Mo=0.30〜0.60;
Ni=4.50〜5.50;
V<0.20;
W<0.20;
Cu=2.50〜4.00;
Co<0.30;
Ti<0.05;
Al<0.05;
Nb<0.05;
Ta<0.05;
N<0.05
ならびに残りは鉄および溶融関連不純物を有する鋼材であって、
前記鋼材の構造が最大で1%のデルタフェライトを有するマルテンサイトから構成され、前記構造がニオブ、タンタル、チタン、またはバナジウムに基づく一次硬質相を含まず、焼き戻したオーステナイト含有量が最大で8%であることを特徴とする、鋼材。
【請求項8】
前記鋼材がポンプを製造するための鋼材である、請求項7に記載の鋼材。
【請求項9】
前記鋼材が以下の分析:
C<0.030;
Si<0.40;
Mn<0.60;
P<0.025;
S<0.005;
Cr=14.20〜14.60;
Mo=0.30〜0.45;
Ni=4.80〜5.20;
V<0.10;
W<0.10;
Cu=3.00〜3.70;
Co<0.15;
Ti<0.010;
Al<0.030;
Nb<0.02;
Ta<0.02;
N<0.02;
ならびに残りは鉄および溶融関連不純物を有することを特徴とする、請求項7又は8に記載の鋼材。
【請求項10】
520℃の焼き戻し温度において、前記鋼材が−40℃で70Jを超える硬度と共に1000MPaの降伏強度を達成し、485℃の焼き戻し温度において、前記鋼材が−40℃で60Jを超える硬度と共に1100MPaの降伏強度を達成することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
強力に腐食的な環境にさらされるポンプ等を製造するために、ポンプ用の対応するブロックを製造する鋼を使用することが知られており、それを、次に使用して、ポンプおよびポンプ部品をしばしば材料除去機械加工によって製造する。
【0002】
このために使用される鋼は、特に標準化されており、上述の部分組立品は、主に鋼DIN 1.4542、DIN 1.4418およびまたDIN 1.4313を使用して製造される。
【0003】
一方ではかなり低い価格レベルのため、およびまた世界市場における極めて高い需要のため、これらの鋼は、可能な最大の程度に従来通りに溶融される。
【0004】
低い価格レベルおよび世界的な需要のために、対応する再溶融法(
ESRまたは
VAR)で製造される材料は、すべての国において使用することはできない。
【0005】
ポンプブロックを製造するために、極めて大きなブロックフォーマットが、鋳造重量がしばしば10tより大きいように必要とされる。このことは、好適な材料を、従来のブロックフォーマットおよび従来の溶融を使用する場合でさえ最も均一な可能な製品特性が低い偏析傾向のために達成され得るように設計しなければならないことを意味する。偏析が機械的不均一性およびおそらくは亀裂の出発点であり得るので、偏析はここでは基本的に所望されない。さらに、耐食特性における逸脱はまた、偏析の近傍において起こり得る。
【0006】
鋼DIN 1.4418は、約1000MPaの高い降伏強度(Rp
0.2%)を有し;鋼DIN 1.4418は、極めて高い低温硬度を達成することができ、それは、典型的には、−40℃で50〜150J(シャルピーVノッチ)の刻み目のある棒衝撃仕事の範囲内にある。この高レベルの硬度は、ポンプにおいて生じるキャビテーションのために必要とされる。
【0007】
同一の降伏強度を有する材料DIN 1.4542は、このレベルの硬度を達成するにはとても至り得ず、通常−40℃で1桁の刻み目のある棒衝撃仕事値のみにとどまる。
【0008】
鋼DIN 1.4313はまた、ポンプブロックに使用されるが、その合金レベルは、DIN 1.4418のものよりも低いので、その最大強度レベルまで焼き戻した場合に900〜1000MPaの降伏強度を達成することができるに過ぎない。この材料をその最大強度レベルで使用する場合、しかしながら、低温で低い硬度レベルを達成することが可能であるにすぎず、加えて、合金による耐食性は、他の2種の鋼と比較して著しく低い。材料DIN 1.4313およびDIN 1.4418は、この場合においてニッケルマルテンサイト二次硬化合金であり、一方材料DIN 1.4542は、ニッケルマルテンサイト銅硬化材料である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、極めて高い鋳造重量においてさえも極めて低い硬度レベルで改善された強度を示し、一方また高い耐食性を有する材料を作り出すことにある。
【0010】
当該目的は、請求項1の特徴を有する鋼材の製造方法で達成される。
【0011】
有利な変更を、従属請求項に開示する。
【0012】
本発明の別の目的は、既知の鋼の強度と相応して同様であるかまたはそれより大きい強度を有するが、より高い硬度レベルおよび改善された耐食性を有する材料を作り出すことにある。
【0013】
この目的は、請求項6の特徴を有する鋼材料によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らの述べた目標は、DIN 1.4418またはDIN 1.4542の強度より大きいかまたはそれに等しい強度を有する材料を開発することにあり、それは、既に極めて高い固有強度を有するが、またDIN 1.4418の極めて高い硬度レベルを達成するかまたは超えるが、他方また著しく強度が低いDIN 1.4313の耐食性を超える。
【0015】
この文脈における目標は、しかしながら、またこれらの製品特性を従来の溶融で達成することにあるが、分析については、高純度の再溶融変形(
ESRまたは
VAR)を達成することもまた可能であるように設定されるべきである。かかる高純度の再溶融変形は、そのかなりより低い含有量のより小さいサイズの酸化物含有物により、例えば圧縮機または遠心機における場合のように、高度に動的な負荷を受ける機械および装置の設計における特別な用途のための疲労特性に関して特定の利点を有する。航空機用途において強力な応力を受ける部品についての通常の再溶融技術である、真空アーク炉(
VAR:)内での再溶融によって、本発明による材料の欠陥サイズを減少させることによって、材料の疲労強度を増大させることができる。この効果は、主に本発明による材料を航空機および航空宇宙用途において高い強度で使用する場合に大きく重要である。
【0016】
かかる材料特性を得るために、一方でニッケルマルテンサイト二次硬化法を、および他方でニッケルマルテンサイト銅硬化法を共に放棄し、新たな方向において始動することが、必要である。
【0017】
本発明によれば、銅を、新たな鋼材料における焼き戻しのために使用する。本発明者らは、構造成分としてのデルタフェライトによって硬度が低下することに気付いた;オーステナイト対フェライト安定化元素の最適な比で、この相は最小化され、製造上の理由から、デルタフェライト相の存在を最小に保持するためのあらゆる努力が、好適な鋳造技術により、および成形を最適化された温度で行うことによりなされる。
【0018】
例えば、DIN 1.4542において使用する種類のニオブ安定化は、本発明によれば、粗い一次炭化物が生成しないように完全に回避される。
【0019】
本発明者らは、材料概念、例えばDIN 1.4542が、溶融冶金におけるシステム工学によって、高クロム溶融物の炭素含有量を減少させる可能性が未だ確実にならなかった時点で生じたことに気付いた。
【0020】
この理由のために、しばしば採用されるアプローチは、耐食性に対して悪影響を有していた炭素に、強力な炭化物形成剤、例えばチタンまたはニオブによって、一炭化物および炭化クロムの形成を通じて結合することであった。この合金化技法は、オーステナイト材料およびマルテンサイト材料、例えばDIN 1.4542の両方を用いて使用され、今日でさえ、この材料についての国際規格において尚規定されている。
【0021】
この合金化系における安定化を省略する熟考した上でのステップは、本発明による本質的な特徴の1つであり、それによって、本発明に従う特性プロフィールおよび上述の製造選択肢を有する材料を達成することが可能になる。
【0022】
本発明を、以下で図面に基づいて例によって説明する。
図面において:
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】表1は、EN 10088−3に基づく標準物質の化学的分析を、本発明による材料(15−5MOD)との比較において示す。
【
図2】表2は、本発明による材料の、520℃での焼き戻しでの横断方向における機械的特性を示す。
【
図3】表3は、本発明による材料の、485℃での焼き戻しでの横断方向における機械的特性を示す。
【
図4】表4は、本発明によるものではない標準材料の横断方向における機械的特性を示す。
【
図5】表5は、他の標準材料の横断方向における機械的特性を示す。
【
図6】表6は、他の標準材料の横断方向における機械的特性を示す。
【
図7】表7は、本発明による材料の、450℃での焼き戻しでの横断方向における機械的特性を示す。
【
図8】表8は、試験した試料の引張試験パラメーターに基づくエロージョン・コロージョンに対する耐性および標準材料の質量損失の本発明の材料の質量損失に対する比較を示す。
【0024】
表1は、前述の材料のすべての、本発明による材料(15−5MOD)に対する比較を示す。本発明による材料を、従来通りに溶融し、640×540mmの寸法を有する複数の平坦な棒を、鍛造によって製造した。鍛造の後、当該材料を950°で
溶体化焼きなましし、硬化させ、次いで焼き戻す。
【0025】
焼き戻し温度は、ある場合において485℃であり、他の場合において520℃であった。
【0026】
熱処理の後、棒を中央で切断し、次いで底部、中央、および切断して短くした領域の帯域において完全な機械的試験を受けさせる。
【0027】
この場合における機械的試験は、室温での引張試験、室温での刻み目のある棒衝撃試験(シャルピーVノッチ)、および−40℃での刻み目のある棒衝撃試験(シャルピーVノッチ)から構成される。
【0028】
表1による分析によって、本発明による鋼材料の所望の状態において、特にマンガン内容物およびリン内容物が除去され、特にまた硫黄内容物の除去が含まれることが、示される。クロム含有量は、材料DIN 1.4313と材料DIN 1.4418との間であり、最終的に窒素含有量は特に低く、銅もまた存在する。
【0029】
2つの焼き戻した状態における機械的特性を、表2および表3に示し、強度が約100MPaだけ異なり、特定の熱処理で、それぞれ約1000および1100MPaの降伏強度を達成することができることが例証される。本発明による材料の例外的な特徴は、しかしながら、低温においてさえも際だって高い硬度レベルである。
【0030】
特性のこの顕著な組み合わせは、概して、デルタフェライトを、適切な分析構成によって回避することができるという本発明による洞察に基づいている。さらに、本発明では、ニオブの最大量は、ニオブ安定化を不可能にしなければならず、ニオブ含有量が、硬度を低下させる硬質相が回避される程度に低いように厳しく制限される。
【0031】
比較のために、材料D 1.4313およびD 1.4418の比較データを表4および表5に示し;これらもまた、同一の寸法範囲内の鍛造した棒に基づいて決定した。
【0032】
この場合において、本発明による鋼材料は、強度および硬度の最良の組み合わせを有する。
【0033】
表6は、520×280の寸法を有するより小さなDIN 1.4542鍛造棒の結果を示し、それは、同一の強度で硬度のわずか一部を達成するに過ぎない。
【0034】
本発明による材料15−5MODの開発の文脈において、特定した分析で達成され得る最大の強度ポテンシャルを、研究した。焼き戻し温度を450℃まで低下させることにより、約1177〜1190Mpaの降伏強度へのさらなる強度の増大を達成することができることが、判明した。この極度に強い状態において、−40℃での刻み目のある棒衝撃試験によって決定された硬度は、485℃での焼き戻しに相対して自然に低下するが、20J〜78J(表7)では、当該材料は、100MPaより大きい降伏強度で材料DIN 1.4542のものよりも尚数倍高い刻み目のある棒衝撃仕事レベルを示し、したがってこのWBH状態さえも、低い低温硬度にもかかわらず実用的な観点から極度に関連性があると考慮しなければならない。
【0035】
当該材料は、高い強度および付随する高い硬度を有することに加えて、また十分な耐食性を有しなければならないので、追加の腐食試験をまた、行った。
【0036】
エロージョン・コロージョンによる質量損失を、20%エタン酸中で決定し、それを、硫酸でpH1.6に酸性化した。試験を、24時間継続させた。結果(表8)によって、材料DIN 1.4418、DIN 1.4542、および本発明の材料がほとんどいかなる浸食をも示さず、これらの条件下でのそれらの耐食性もまた同等であると考えられ得ることが示される。予測された通り、材料1.4313は、そのより低い合金含有量のために著しい材料損失を示す。この場合において、本発明による材料は、同一のレベルの耐食性を保持しながら、強度および硬度の両方を尚さらに向上させることができることが、特に明らかである。
【0037】
本発明による方法では、材料を、表1に対応する分析により、>10tまでの重さの大きなブロックフォーマットに従来的に溶融する。
【0038】
次いで、当該材料を、800〜1250℃の範囲内において成形し、続いて熱処理する。
【0039】
熱処理は、850〜1050℃の
溶体化焼きなまし、その後の硬化、その後の冷却、および450〜600℃での焼き戻しから構成され;450〜520℃の温度範囲が、最大の強度を達成するために好ましい。
【0040】
本発明による材料の構造を、次いで最大で1%のデルタフェライトを有するマルテンサイトから構成し;それは、一次硬質相(主としてニオブ、タンタル、チタン、バナジウムに基づく)を有さず、焼き戻したオーステナイト含有量は、最大で8%である。
【0041】
本発明による材料を、主として耐腐食性ポンプブロックに使用するが、また一般的な機械および装置の構造において使用することができる。
【0042】
本発明によれば、特に高度に動的な荷重を受ける部分組立品において、または航空機および航空宇宙産業における安全上重要な構造部品の場合において、疲労強度に対する増大する要求に伴って、材料をまた、
ESRまたは
VAR方法による高純度再溶融生成物の形態において製造することができる。再溶融と関連する純度等級の改善によって、材料における欠陥サイズにおける減少による疲労特性の十分に周知の改善がもたらされる。
【0043】
本発明では、一方で極めて精密な分析管理を通じて、ならびにデルタフェライトおよび一次硬質相の分析および減少の実施を通じて、極めて高い強度、耐食性、および硬度を以前は互いに組み合わせることができなかった方法において達成する材料を製造することが、有利である。