【実施例1】
【0023】
本発明の実施例に係るドアクローザのストップ機構Sは、
図1に示すように、ストップ機構主体1、保持部としてのブラケットD、係合子2、バネ3、ストップ用カム6、及び切替手段5とを有している。
【0024】
ドアクローザのアームAは、メインアームB、調整ネジ棒C、ストップ機構主体1から構成されている。ストップ機構主体1は、ドアクローザのアームAの一部を構成する部材である。ストップ機構主体1の図示左側には保持部としてのブラケットDが接続されており、ストップ機構主体1の図示右側には調整ネジ棒Cが接続されている。以下の説明では、ストップ機構主体1のブラケットD側を前方、ストップ機構主体1の調整ネジ棒C側を後方として説明する。
【0025】
ストップ機構主体1は、中空部11と板状部12を有している。中空部11は略円筒形状であり、前方端部には係合子2が進退するための開口部13を形成している。
板状部12は、前記開口部13の下縁部から軸方向に延設し、板状部12にはブラケットDと接続するための回転軸16を挿通する孔を形成している。
【0026】
ブラケットDは、ドアクローザのアームAと扉取付枠体とを接続する部材であり、従来のドアクローザのストップ機構に用いられているブラケットと同様の構成である。ブラケットDは扉取付枠体の上側にネジ止め等の取り付け手段により取付ける。ブラケットDには前記回転軸16を挿通する孔を形成し、ブラケットDとストップ機構主体1は回転軸16で回転自在に接続する。
尚、本実施例では保持部としてのブラケットDとストップ機構主体1との間でドアクローザのストップ機構Sが構成されているが、メインアームBとストップ機構主体1とを接続し、メインアームBとストップ機構主体1の間でドアクローザのストップ機構Sを構成することもできる。この場合は、メインアームBが保持部に相当する。
【0027】
係合子2は、ストップ用カム6と係合する部材であり、従来のドアクローザのストップ機構に用いられている係合子と同様の構成である。係合子2は、金属製の球体であり、ストップ機構主体1の中空部11の開口部13付近に進退自在に設けられる。板状部12には厚肉部が設けられており、開口部13から突出する係合子2に当接して、係合子2がストップ機構主体1から抜脱することを防止している。
【0028】
バネ3は、係合子2をストップ用カム6の係合部61に圧接させて、ドアを保持するために必要な弾発力を発揮する部材である。バネ3はストップ機構主体1の中空部11に移動自在に設けられている。
【0029】
ストップ用カム6は、係合子2と係合してドアを所定の開扉角度で保持する部分であり、従来のドアクローザのストップ機構に用いられているストップ用カムと同様の構成である。ストップ用カム6の周縁部には、係合子2に対向する位置に係合部61が形成されている。また、係合子2と当接しない部分を解除領域62とする。ストップ用カム6は、ドアの開扉角度を変更できるよう、ブラケットDの回転軸16に対する取付角度の変更が可能である。
【0030】
ブッシュ4は、係合子2とバネ3の間に介在し、係合子2の動きをバネ3に伝達する部材である。係合子2によってブッシュ4が後方に押し込まれた際は、ブッシュ4が後方に移動していき、バネ3を加圧圧縮する。尚、ブッシュ4は係合子2とは別部材としたが、これらを金属素材等を用いて一体に形成してもよい。
【0031】
そして、切替手段5は、当接部52と切替軸部51との当接位置を軸方向へ切り替えることによって、ドアクローザのストップ機構Sを作動状態から無効状態へ切り替える部分である。
【0032】
前記切替手段5は、前記筒状体である中空部11の後方端部付近に直径方向に形成された一対の取付穴500、501と、該取付穴500、501に取付けられる柱状の切替軸部51と、該切替軸部51に当接する当接部52を有している。
一方の取付穴500には雌螺子部502を備える。他方の取付穴501は皿穴としている。
【0033】
切替軸部51は、
図2に示すように、基端側から先端側に向けて順に雄螺子部510、縮径部511、拡径部512、皿頭513が連続してなる構成である。
縮径部511及び拡径部512はいずれも円柱形状を有する。
縮径部511の直径寸法D1は雄螺子部510の直径寸法D3及び拡径部512の直径寸法D2よりも小径である。雄螺子部510の直径寸法D3と拡径部512の直径寸法D2は略同程度の直径寸法である。
このため、縮径部511と拡径部512との間、縮径部511と雄螺子部510との間にはそれぞれ段差が生じる。
【0034】
縮径部511の長さL1及び拡径部512の長さL2はいずれも中空部11の内径の2分の1程度としてある。
【0035】
雄螺子部510の基端面(底面)には操作部となるプラス溝514を有する。皿頭513の先端面(上面)には組立操作に使用するプラス溝515を有する。
皿頭513は切替軸部51における最大径を有する部分である。
【0036】
切替軸部51は、皿穴である取付穴501側から雄螺子部510を挿入し、雄螺子部510と雌螺子部502を螺合させることで取付けできる。取付けに際しては、
図3に示すように、皿頭513が皿穴に当接するまで締め込むことによって、作動状態(ストップ機構を有する状態)の精度を保持することができる。
【0037】
当接部52は切替手段5の構成部品であるとともに、バネ3をストップ機構主体1の内部で支持するための部材でもある。ストップ機構主体1の内部に移動自在に設けられる。
【0038】
当接部52は、
図4に示すように、円柱台座状の当接基部520と、該当接基部520の後端面から突出する二本の脚部522を有する。二本の脚部522の各先端部は当接端部521となる。当接端部521は切替軸部51の拡径部512の周面に沿う曲面523を有している。
【0039】
二本の脚部522間の距離L3は、縮径部511の直径寸法より大きく且つ拡径部512の直径寸法より小さく形成してある。脚部522の高さH1は、縮径部511の長さL1未満としてある。
当接基部520の前面は、バネ3の後方端部を支持する。
【0040】
次に、当接部52の位置と係合子2の位置などについて説明する。
(1)
図5、
図7に示すように、初期の当接部52の状態は、当接部52の当接端部521と拡径部512が当接した状態であり、当接部52は前方に押し出された状態である。この状態での当接部52の位置を、作動時位置とする。
(2)
図6、
図9に示すように、二本の脚部522間に縮径部511が嵌り込むと、当接部52は後退した状態となる。この状態での当接部52の位置を無効時位置とする。
(3)
図10(a)に示すように、当接部52が作動時位置にある状態において、係合子2とストップ用カム6とが当接してバネ3に加圧圧縮が加わり始めるときの係合子2の位置を初期位置P1とする。
(4)
図10(b)に示すように、係合子2がストップ用カム6によって後方に押し付けられ、ストップ用カム6の係合部61に係合した状態における係合子2 の位置を作動状態最終到達位置P3とする。尚、最終到達位置P3は、ストップ用カム6の係合部61によって係合子2が後方に押付けられた状態であるため、この位置は、当接部52が作動時位置にあるか無効時位置にあるかに関わらず、一定となる。
(5)
図10(c)に示すように、当接部52が解除時位置にある状態において、係合子2とストップ用カム6とが当接しない係合子2の位置を解除状態位置P2とする。
(6)当接部52が作動時位置にある状態において、バネ3は、係合子2とストップ用カム6が当接していない状態においても、バネ3は当接部52とブッシュ4とで予め圧縮(予圧縮)を与えた状態で挟持されている。この予圧縮の量を予圧縮量とする。
(7)
図8に示すように、係合子2とストップ用カム6が当接して係合子2が押し込まれると、バネ3はブッシュ4によって圧縮される(加圧圧縮)。この加圧圧縮の量を加圧圧縮量とする。
【0041】
当接部52の作動時位置は、係合子2が初期位置P1から最終到達位置P2に至るまでのバネ3の加圧圧縮量と予圧縮量との総和である圧縮量が、ドアを保持するために必要なバネ3の圧縮量以上となるように設定されている。
【0042】
次に前記のように構成されたドアクローザのストップ機構Sの作用について説明する。
【0043】
先ず、切り替え前の状態(作動状態)から説明する。係合子2がストップ用カム6の解除領域62に対向する状態において、当接部52の当接位置を切り替える際、すなわち、切替軸部51でストップ機構Sの作動状態から無効状態へ切り替える際には、バネ3は係合子2によって加圧圧縮を受けることなく、当接部52とブッシュ4で挟持された状態のまま移動する。このため、切替軸部51を螺合回転操作する際には切替軸部にはバネ3の弾発力は作用しない。
【0044】
係合子2がストップ用カム6の解除領域62に対向する状態において、切替軸部51を螺合回転操作してストップ機構Sを作動状態とすると、当接部52の当接端部521と拡径部512が当接されている状態となる。ドアを開くと、それに応じてストップ機構主体1とブラケットDとが相対回転する。相対回転が進行するにつれて係合子2とストップ用カム6とが当接していき、ブッシュ4を介してバネ3が加圧圧縮される。
【0045】
更にストップ機構主体1とブラケットDの相対回転が進行すると、
図8に示すように、係合子2がストップ用カム6の係合部61に係合した状態となる。この状態において、バネ3の予圧縮量と加圧圧縮量の総和である圧縮量は、ドアを保持するために必要なバネ3の圧縮量以上となるように設定されているため、ドアは所定の開扉状態で保持される。
【0046】
作動状態においては、当接端部521が拡径部512と当接している。本実施例においては、脚部522の高さ方向の約半分の範囲で、当接端部521と拡径部512とが当接している。当接している範囲は、少なくとも切替軸部51が1回転を超えて螺合回転させても当接端部521と拡径部512との当接が確保される範囲としている。このようにすることで、ドアクローザに不慮の衝撃が加わった場合等においても、意図しない切り替えを生じないものとしている。
【0047】
作動状態から無効状態への切り替えは、
切替軸部51の操作部であるプラス溝514をドライバーで1回転以上回転操作することで、軸方向に切替軸部51を移動させて、拡径部512に当接する位置を、当接端部521から当接基部520に変更する。
切替軸部51は雄螺子部510を除き回転対称に構成されており、バネ3の弾性力に抗することなく軽い力で螺合回転させることができる。
尚、本発明においては、プラス溝に限らず、マイナスドライバーや六角レンチ等に対応した溝や凹みを形成することも可能である。
【0048】
切替軸部51を1回転以上の螺合回転をさせて、軸方向(上方)に移動させると、切り替わる際に、当接端部521は当接する対象がなくなり、当接端部521から拡径部512が離脱する。バネの付勢によって、当接部52の二本の脚部522は、縮径部511に嵌り込み、当接基部520と拡径部512(若しくは縮径部511)とが当接する。
この状態において、ばねの予圧縮量と加圧圧縮量の総和である圧縮量がドアを保持するために必要なバネの圧縮量未満となる。
【0049】
二本の脚部522は拡径部512と雄螺子部510の間に挟まれた状態となり、軸方向への移動が規制される。二本の脚部522間の距離は、拡径部512の直径及び雄螺子部510の直径よりも小さいため、切替軸部51を回転させても拡径部512や雄螺子部510に乗り上げることはできず、ストップ機構Sは無効化される。
【0050】
切り替え後は、
図6、
図9に示すように、当接基部520が切替軸部51に当接した無効状態位置となる。ドアを開くと、それに応じてストップ機構主体1とブラケットDとが相対回転する。この状態では、バネに付勢力が多少残っていても、ドアを保持するために必要なバネの圧縮量未満であれば、ドアの開扉状態は保持されず、ドアクローザの閉扉力によって閉扉され、防火扉として機能させることができる。
【0051】
尚、上記実施例においては、切替手段は、拡径部の先端側に皿頭を備え、前記一対の取付穴のうち雌螺子部を有しない取付穴は皿穴としているが、本発明は上記実施例に限らず、皿頭に代えてなべ頭や六角頭等、種々のねじ頭を使用することが可能である。一方で、実施例に示した皿頭を用いる場合には、皿頭513が皿穴に当接するまで締め込む際の精度の保持が容易であり、また収まりがよい点で優れたものとすることができる。
【0052】
また上記実施例においては、当接端部521は切替軸部51の拡径部512の周面に沿う曲面523を有した構成としているが、本発明は曲面523を必ずしも有する必要はなく、例えば水平面等とすることも可能である。