特許第6836315号(P6836315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836315
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】制御弁式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/68 20060101AFI20210215BHJP
   C22C 11/02 20060101ALI20210215BHJP
   C22C 11/06 20060101ALI20210215BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20210215BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   H01M4/68 A
   C22C11/02
   C22C11/06
   H01M4/14 Q
   H01M10/06 Z
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-55481(P2015-55481)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-177909(P2016-177909A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年9月20日
【審判番号】不服2019-9243(P2019-9243/J1)
【審判請求日】2019年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】松村 朋子
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 磯部 香
【審判官】 土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−192870(JP,A)
【文献】 特開2004−055323(JP,A)
【文献】 特開2004−281197(JP,A)
【文献】 特開平03−037962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/68
C22C11/02
C22C11/06
H01M 4/14
H01M10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金の全質量に対してCa0.07質量%以上0.12質量%以下、Sn0.75質量%以下を含有するPb−Ca−Sn系合金、又は合金の全質量に対してCa0.07質量%以上0.12質量%以下を含有し、Snが0%であるPb−Ca系合金からなる負極耳を備え、且つ、負極電極材料の質量に対する正極電極材料の質量の比が、1.27以上1
.35以下、又は1.47以上であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池に関し、特に負極集電体の耳の腐食が抑制された制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池には、極板群を挿入した電槽の中に電解液を注液して構成される開放型の液式電池と、正極板と負極板の間に挿入された微細ガラスマットセパレータ(リテーナーマット)に電解液を保持させ、正極で発生する酸素ガスを負極活物質上で水に還元する、いわゆる酸素サイクルと呼ばれる原理を利用した制御弁式電池とがある。
【0003】
液式電池は、充電中に起こる水の電気分解反応や自然蒸発によって電解液中の水分が失われるため、適宜精製水を補給する必要があるのに対して、制御弁式鉛蓄電池は、メンテナンスフリーとすることができるため、近年、据え置き用や車載用にその利用が進んでいる。
【0004】
制御弁式鉛蓄電池においては、負極集電体の耳とストラップの溶接部が電解液から露出しているため、充電時においても、鉛の平衡電位より貴な状態におかれる。そのため、負極集電体では、耳やストラップを這い上がった硫酸と正極から発生した酸素によって、耳やストラップで腐食が進行し、溶接界面での破断が多発する問題があり、これまでに耐食性を向上させる目的で、負極集電体の合金組成について、種々検討されている。
【0005】
特許文献1には、「負極格子に、カルシウム(Ca)を0.025〜0.065質量%、錫(Sn)を0.25〜1.0質量%含む鉛(Pb)−Ca−Sn系合金を用い、極板耳部を接続するストラップを形成するための足し鉛として、純鉛、あるいはSnを1.3質量%以下含むPb―Sn合金を用いたことを特徴とする密閉型鉛蓄電池」(請求項1)について、「負極格子中のCa量を0.020〜0.065質量%としたものでは、過充電試験後においても負極ストラップ(耳部との溶接部近傍)での腐食はほとんど認められなかった。」(0044)旨が記載されている。
【0006】
特許文献2には、「鉛−スズ−カルシウム系合金からなる極板格子の耳部相互を、鉛−スズ−セレン系合金からなる棚部により接続したことを特徴とする鉛蓄電池」(請求項1)について、「負極格子には、鉛−0.5重量%スズ−0.08重量%カルシウム合金からなる鉛合金シートにエキスパンド加工を施したエキスパンド格子を‥用いた」(0012)ことが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、「負極活物質の密度が3.5〜4.0g/cmであり、負極活物質と正極活物質の質量比を(負/正)が0.5〜0.8であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池」(請求項1)について、「負極活物質と正極活物質の質量比(負/正)を0.5〜0.8に小さく規定したので、スタンバイ使用における浮動充電電流が減少して正極格子の腐食が防止され、長寿命である。また負極活物質の密度を3.5〜4.0g/cmと小さく規定したので負極活物質の利用率が高くなり、従って正極活物質量に対する負極活物質量を減らしても、低温高率放電特性は従来品と同等に維持される。」(0007)と記載されている。
負極活物質と正極活物質の質量比(負/正)0.5〜0.8を、負極活物質の質量に対する正極活物質の質量の比(正/負)に換算すると、1.25〜2.0である。
【0008】
特許文献4には、「化成された状態の前記正極板に保持されている総活物質量(P)と、化成された状態の前記負極板に保持されている総活物質量(N)の質量比N/Pが、1.0<N/P≦1.2の関係を有し、化成された状態における前記正極板の活物質の多孔度が45〜50%の範囲であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。」(請求項1)について、「質量比N/Pの関係が、1.0<N/P≦1.2の範囲にあるときは、満充電未満の状態で長期間使用したときに負極板に難還元性硫酸鉛が蓄積しても、負極板には正極板との充放電反応に関与するために必要十分な活物質量が確保されているので、鉛蓄電池を長寿命化させることができる。そして、正極板に保持されている活物質の多孔度が45〜50%にあるので、活物質強度が向上し放電深度の深い充放電サイクルに伴う活物質の劣化や泥状化を抑制することができて、長寿命の鉛蓄電池を実現することが可能となる。」(0007)と記載されている。
このN/Pを負極活物質の質量に対する正極活物質の質量の比(P/N)に換算すると、0.83〜1.0である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−175798号公報
【特許文献2】特開平8−339794号公報
【特許文献3】特開2006−49025号公報
【特許文献4】特開2014−207198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の制御弁式鉛蓄電池においては、負極集電体の耳の耐食性を向上させる目的で、様々な負極集電体の合金組成が検討され、一定の成果を上げてきた。しかしながら、耐食性の高い合金組成を選択しても、高温環境下で使用された一部の電池において、フロート寿命が短く目標値に達しないという問題があった。
また、制御弁式鉛蓄電池において、正極活物質と負極活物質の質量比を規定することも、正極板の劣化防止(特許文献3(0007)参照)や、硫酸鉛の蓄積による負極容量の低下対策(特許文献4(0007)参照)等を目的として、従来から行われている。しかし、上記の質量比と負極集電体の耳の耐食性との関係について言及した先行技術は、発見できなかった。
【0011】
本発明は、負極集電体の耳の腐食が抑制され、寿命の長い制御弁式鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の手段を採用する。
(1)合金の全質量に対してCa0.07質量%以上0.12質量%以下、Sn0.75質量%以下を含有するPb−Ca−Sn系合金、又は合金の全質量に対してCa0.07質量%以上0.12質量%以下を含有し、Snが0%であるPb−Ca系合金からなる負極耳を備え、且つ、負極電極材料の質量に対する正極電極材料の質量の比が、1.27以上1.35以下、又は1.47以上であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、負極集電体の耳の腐食を抑え、長寿命の制御弁式鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】負極ストラップ部の電位と負極集電体の耳の腐食速度の関係を示すグラフ
図2】正極/負極電極材料質量比と負極ストラップ部の電位の関係を示すグラフ
図3】負極集電体の合金組成とフロート寿命年数及び負極腐食量の関係(正極/負極電極材料質量比=1.27)を示すグラフ
図4】負極集電体の合金組成とフロート寿命年数及び負極腐食量の関係(正極/負極電極材料質量比=1.39)を示すグラフ
図5】負極集電体の合金組成とフロート寿命年数及び負極腐食量の関係(正極/負極電極材料質量比=1.51)を示すグラフ
図6】正極/負極電極材料質量比とフロート寿命年数及び負極腐食量の関係を示すグラフ
図7】正極/負極電極材料質量比とフロート寿命年数及び負極腐食量の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、耐食性を向上させる合金の組成に関して種々検討したところ、合金の全質量に対してCaが0.07質量%以上0.12質量%以下、Snが0.75質量%以下のPb−Ca−Sn系合金、又は合金の全質量に対してCaが0.07質量%以上0.12質量%以下のPb−Ca系合金が、微細な結晶粒を形成し、耐食性に効果があることを見出した。
結晶性の組織を有する金属の腐食は、まず、結晶粒の粒界に沿って起こる。したがって、微細な結晶粒を形成する前記の合金においては、個々の結晶粒による粒界腐食の深さが小さいから、粒界に沿って起こる腐食が進行しがたいと推測し、これを負極集電体の耳に用いた。
【0016】
ここで、鉛蓄電池の集電体は、格子状や放射状に桟を設けてなるいわゆるグリッド(格子)と呼ばれる部分を有しているから、一般的に「格子」と呼ばれることがある。集電体の耳の合金組成は、格子と同じであることが通常である。しかし、本発明は、負極集電体の耳の腐食の抑制を目的とするものであるから、耳が前記の合金組成であることが重要である。もちろん、耳を含む負極集電体が前記の合金組成である場合も、本発明に含まれる。
本明細書では、一般的な呼び名に倣って、耳を含む負極集電体を「負極格子」といい、負極集電体の耳を「負極耳」ということがある。
また、前記の合金組成は、主材がPb、Ca及びSnであるか、又はPb及びCaである(Snが0%)ことを表わすものであり、Al等の他の不可避元素の含有を否定するものではない。合金中の「%」の表記は、合金の全質量に対する割合を示す。
【0017】
ところで、前記の合金からなる負極格子を有する鉛蓄電池であっても、高温環境下で使用された一部の機種では、目標の寿命年数に達しない場合があった。
その原因を調査した結果、負極耳とストラップとの溶接部付近(以下、「負極ストラップ部」という。)で腐食が進行しやすい電位になっていることが判明した。
【0018】
さらに、鋭意調査を行ったところ、負極ストラップ部の電位は、負極電極材料の質量に対する正極電極材料の質量の比に影響されるという新たな知見を得た。
なお、本明細書において、極板から集電体を除き、電池反応に寄与する物質(反応物質)と電池反応に寄与しない添加剤や補強材等の物質を合わせたものを電極材料と呼ぶ。本明細書では、「電極材料」を「活物質」という場合があり、「負極電極材料の質量に対する正極電極材料の質量の比」を、以下、「正極/負極電極材料質量比」という。
【0019】
図1は、電位と腐食速度の関係を示すグラフである。
電位と腐食速度の関係は、以下の試験セルを用いて、75℃、0〜+70mV (vs Pb/PbSO)の定電位条件で腐食試験を行い、
腐食速度=(初期厚み−試験後の腐食層を除いた厚み)/2/試験日数
として求めた。
試験セル構成
試験極および対極:純鉛の平板
参照極:Pb/PbSO電極
電解液:比重1.28硫酸
図1から、+30〜+50mV(vs Pb/PbSO)の電位範囲で、腐食速度が大きく、負極腐食が進行しやすいことがわかる。
【0020】
図2は、正極/負極電極材料質量比と負極ストラップ部の電位との関係を示すグラフである。
負極ストラップ部の電位は、正極/負極電極材料質量比を1.19〜1.56に変化させた制御弁式鉛蓄電池を作製し、40℃2.23Vフロート充電を行い、Pb/PbSO参照極の先端を負極ストラップに接触させて測定した。
正極/負極電極材料質量比が1.35より大きく1.47未満の場合は、負極ストラップ部の電位が腐食の進行しやすい+30〜+50mV(vs Pb/PbSO)の電位になっている。これに対して、正極/負極電極材料質量比が1.35以下、又は1.47以上では、負極ストラップ部の電位が腐食の進行しやすい電位よりも貴になっている。そのため、負極腐食が抑制されると考えられる。
【0021】
正極/負極電極材料質量比が、負極ストラップ部の電位に影響を与える作用・機序は、以下のように推察される。
正極/負極電極材料質量比が1.35以下では、正極活物質量が相対的に少ないので、正極活物質利用率が高くなり、正極電位が貴になって、酸素ガスの発生量が増加する。そのため、発生した酸素ガスを負極板で吸収しきれず、リテーナーマットから露出した負極ストラップや耳で還元が起きる。したがって、負極ストラップ部の電位が貴にシフトする。
正極/負極電極材料質量比が1.47以上では、負極活物質量が相対的に少ないので、正極で発生した酸素ガスを負極板で吸収しきれない。そのため、リテーナーマットから露出した負極ストラップや耳で還元が起き、負極ストラップ部の電位が貴にシフトする。
すなわち、正極/負極電極材料質量比が1.35以下の場合と1.47以上の場合とでは、作用・機序は異なるものの、負極ストラップ部の電位が貴にシフトするという同様の現象が生じるものと推察される。
【0022】
なお、正極/負極電極材料質量比が1.27未満では、正極活物質利用率が高いため、正極劣化が負極腐食に先立って進行し、短寿命化の原因となる。したがって、正極/負極電極材料質量比1.27以上が必要である。
正極/負極電極材料質量比が1.62より大きい場合、寿命性能に特段の影響はない。しかし、エネルギー密度確保のため、上記質量比は1.62以下が好ましく、1.56以下がより好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【0024】
(正極板の作製)
Ca0.06質量%、Sn1.5質量%、Al0.02質量%以下、及び不可避不純物を含有するPb−Ca−Sn系合金から、厚さ3.8mmの正極格子を鋳造して正極集電体とした。なお、正極格子の合金組成、寸法、デザイン、および鋳造、エキスパンド、圧延シート打抜き等の製造方法は任意である。
ボールミル法による鉛粉99.9質量%と、合成樹脂繊維0.1質量%を、25℃で比重が1.16の硫酸を加えて正極ペーストとし、これを正極格子に充填して、熟成と乾燥を行い、正極格子と正極活物質からなる正極板を作製した。ペースト充填量は、化成後の正極/負極電極材料質量比が1.19〜1.56となるように調整した。正極活物質の密度等は任意である。
【0025】
(負極板の作製)
Ca0.06〜0.13質量%、Sn0〜0.9質量%、Al0.02質量%以下、及び不可避不純物を含有するPb−Ca−Sn系合金、又はPb-Ca系合金からなる厚さ1.9mmの負極格子を鋳造し、表1及び表2に示すNo.1〜90の電池に用いる負極集電体とした。なお、負極格子の寸法、デザイン等は任意である。
ボールミル法の鉛粉98.3質量%と、合成樹脂繊維0.1質量%、カーボンブラック0.1質量%、BaSO1.4質量%、及びリグニン0.1質量%を、25℃で比重が1.14の硫酸を加えて負極ペーストとし、これを負極格子に充填して、熟成と乾燥を行い、負極格子と負極活物質からなる負極板を作製した。ペースト充填量は、化成後の正極/負極電極材料質量比が1.19〜1.56となるように調整した。負極活物質の密度等は任意である。
【0026】
(電池の組立)
正極板8枚と負極板9枚を、微細ガラスマットセパレータを介して積層して極板群とし、極板群の長さが電槽内寸法になるまで圧迫を加えて電槽内に収納した。足し鉛に純鉛を用いて、同極板間を接続する正極ストラップ、及び負極ストラップをそれぞれ形成した。なお、ストラップには、純鉛に限らず、Pb−Sn系合金を使用することができる。
電槽に蓋体を接着した後、蓋体の注液部から電解液として硫酸を加え、電槽化成を施して、正極/負極電極材料質量比が1.19〜1.56、定格容量200Ah、2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。
【0027】
(加速試験)
作製したNo.1〜90の鉛蓄電池について、以下の加速試験を行った。
試験条件
(1)容量確認試験:25℃、0.2CA、終止電圧1.75V/セル
(2)回復充電:25℃、2.23V/セル定電圧充電(最大電流0.2CA)、48時間
(3)フロート充電:50℃、2.23V/セル×14日間
(4)放電深度5%放電:50℃、0.005CA×10時間
(5)フロート充電:50℃、2.23V/セル×14日間
上記(1)〜(5)の工程を繰り返し行い、(1)の工程で放電時間が4時間未満になる時点で終了する。
【0028】
(寿命判定)
上記(1)〜(5)の2サイクルを25℃での寿命1年と換算して、加速試験終了までの期間からフロート寿命を判定した。目標とするフロート寿命は25℃換算で13年とした。
【0029】
(負極腐食量)
加速試験終了後の電池を解体して取り出した負極ストラップと耳の溶接部の断面を金属顕微鏡で観察し、腐食層を除いた耳厚みを確認して、負極腐食量を下式を用いて算出した。
負極腐食量(%)=(耳初期厚み−試験後の腐食層を除いた耳厚み)/耳初期厚み×100
寿命年数及び負極腐食量の結果を表1、表2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表1のNo.1〜18、No.19〜36、No.37〜54の電池は、種々の負極格子合金を用い、正極/負極電極材料質量比をそれぞれ1.27、1.39、及び1.51としたものであり、それぞれ図3〜5に対応する。
【0033】
正極/負極電極材料質量比が1.39である電池(No.19〜36、図4)は、負極格子の合金組成に関わらず、負極耳腐食量が大きく、フロート寿命は目標値である25℃換算13年に遙かに及ばない。
【0034】
正極/負極電極材料質量比が1.27である電池(No.1〜18、図3)、及び1.51である電池(No.37〜54、図5)において、負極格子の合金組成中、Caが0.06質量%又は0.13質量%である電池(No.1〜3、No.16〜18、No.37〜39、No.52〜54)、及びSnが0.9質量%である電池(No.7、11、15、43、47、51)は、負極耳腐食量が大きく、目標のフロート寿命を達成していない。
これに対して、正極/負極電極材料質量比が1.27及び1.51であり、負極格子の合金組成が、Ca:0.07〜0.12質量%、Sn:0〜0.75質量%を満たす電池(No.4〜6、8〜10、12〜14、40〜42、44〜46、48〜50)は、負極耳腐食量が小さく、25℃換算13年を上回る寿命性能を有している。
【0035】
表2は、負極格子の合金組成について、それぞれCaが0.07〜0.12質量%、Snが0〜0.75質量%であることを満たす5種類の電池(No.55〜60、No.61〜66、No.67〜72、No.73〜78、及びNo.79〜84)と、負極格子の合金組成中、Caが0.06質量%でSnが0.75質量%である電池(No.85〜90)において、それぞれ正極/負極電極材料質量比を1.19〜1.56の範囲で異ならせた結果(No.4、22、40、6、24、42、9、27、45、13、31、49、14、32、50、3、21、39を含む。)であり、図6、7は、その結果をグラフ化したものである。
【0036】
Caが0.06質量%でSnが0.75質量%である電池(No.85〜90、図6)は、いずれの正極/負極電極材料質量比であっても、負極耳腐食量が大きく、寿命年数が短いから、負極格子の合金組成が適正でないことが分かる。
前者の5種類の電池において、正極/負極電極材料質量比が1.43の場合(No.58、64、70、76、82)は、1.39の場合(No.22、24、27、31、32)と同じく、負極耳腐食量が大きく、寿命年数が短いから、正極/負極電極材料質量比が適正でないことがわかる。
正極/負極電極材料質量比が1.19の場合(No.55、61、67、73、79)は、いずれも負極耳腐食量は小さいが、25℃換算の寿命年数が13年を切っている。これは、正極活物質利用率が高いことにより、正極劣化が進んだことによるものである。
これに対して、前者の5種類の電池において、正極/負極電極材料質量比が1.32、1.35、1.47又は1.56の場合(No.56、57、59、60、62、63、65、66、68、69、71、72、74、75、77、78、80、81、83、84)は、正極/負極電極材料質量比が1.27又は1.51の場合(No.4、40、6、42、9、45、13、49、14、50)と同様に、負極耳腐食量が小さく、かつ、25℃換算の寿命年数13年以上を達成している。
【0037】
以上の結果から、負極格子又は負極耳の合金組成が、Caを0.07質量%以上0.12質量%以下、Snを0.75質量%以下含むPb−Ca−Sn系合金又はPb−Ca系合金であり、正極/負極電極材料質量比が1.27以上1.35以下、又は1.47以上である場合に、長寿命の制御弁式鉛蓄電池が得られることがわかる。
【0038】
なお、正極/負極電極材料質量比は、前述のように、正極格子に充填する正極ペーストと負極格子に充填する負極ペーストとの量比によって調整することができる。
市販の電池について、化成後の正極/負極電極材料質量比を確認するためには、電池に100%以上の充電をしてから解体して、正極板及び負極板を取り出し、正極電極材料、負極電極材料の質量を測定し、質量比を算出すればよい。また、できるだけ新品又は新品に近い電池で確認することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、長寿命の制御弁式鉛蓄電池が得られるから、据え置き用や車載用の電池として有用である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7