特許第6836334号(P6836334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 伊勢化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6836334-無機ヨウ素化合物粉末の製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836334
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】無機ヨウ素化合物粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/04 20060101AFI20210215BHJP
   C01D 3/12 20060101ALI20210215BHJP
   C01B 9/06 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C01D15/04
   C01D3/12
   C01B9/06
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-91499(P2016-91499)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-197421(P2017-197421A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】片岡 彩星
(72)【発明者】
【氏名】襟立 信二
(72)【発明者】
【氏名】大坪 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−214472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D
C01B
F26B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ヨウ素化合物の水溶液と粉砕ボールとを減圧条件下において容器内で楕円振動させて、前記水溶液を濃縮し、析出した無機ヨウ素化合物を粉砕及び乾燥させる工程を備え、
前記無機ヨウ素化合物は、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化コバルト、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化セリウム、ヨウ化鉄、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化マンガン、又はヨウ化リチウムである、無機ヨウ素化合物粉末の製造方法。
【請求項2】
前記無機ヨウ素化合物粉末のL系色度座標におけるL値が95以上、a値が1.5以下、及びb値が1.5以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記無機ヨウ素化合物が、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化リチウムである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記無機ヨウ素化合物がヨウ化リチウムであり、品温が200〜240℃である範囲で前記楕円振動を行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
500μm以下の粒子径を有する無機ヨウ素化合物粉末が、70質量%以上の回収率で得られる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記無機ヨウ素化合物粉末が、99.0質量%以上の無機ヨウ素化合物を含み、無機ヨウ素化合物粉末の水分量が0.1質量%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機ヨウ素化合物粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から無機ヨウ素化合物は、化学原料、医薬品の製造原料等として様々な分野で用いられて来た。例えば、ヨウ化ナトリウムは医農薬の製造工程で使われる汎用的に使用される無機ヨウ素化合物である。また、ヨウ化リチウムは全固体リチウム電池、色素増感太陽電池等に用いられ、近年注目されている無機ヨウ素化合物(以後、無機ヨウ化物とも呼ぶ)である。
【0003】
ここで、無機ヨウ素化合物は、吸湿性が高く、潮解性を有している。また、結晶内に結晶水を有するものも多く存在する。しかし、非水系の用途では、十分に水分を取り除いた無機ヨウ素化合物が望まれている。
【0004】
無機ヨウ素化合物を乾燥させて水分を取り除く方法としては、従来多く知られており、固体の無機ヨウ素化合物を加熱する方法が行われてきた(非特許文献1〜3)。それ以外にも、例えば、有機溶媒を用いて、無機ヨウ素化合物に含まれる結晶水を抽出又は共沸させることにより水分を除去する方法が提案されている(特許文献1及び2)。また、ヨウ化リチウムの粉末を焼成又は乾燥させることにより、水分を除去する方法も提案されている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−196560号公報
【特許文献2】特開2013−256416号公報
【特許文献3】特開2013−103851号公報
【特許文献4】特開2015−214472号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ヨウ素綜説、霞ケ関出版、松岡敬一郎、昭和49年2月発行
【非特許文献2】新実験化学講座、第8巻、日本化学会編、1997年、p462−463
【非特許文献3】実験化学講座、第5版、23巻、無機化合物、p322、日本化学会編、2005.3.10発行
【非特許文献4】医薬品の乾燥減量試験及び水分含量測定への熱重量分析法の応用、左志輝、北島文他、Bull. Natl. Inst. Health Sci.,115,144−146(1997)
【非特許文献5】振動原理を用いた粉体処理装置の開発、名古屋工業大学学術機関レポジトリ、水谷榮一、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では、無機ヨウ素化合物に含まれる水分量を充分に低減させることができない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、十分に水分量を低減させた無機ヨウ素化合物粉末を得ることができる、無機ヨウ素化合物粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の無機ヨウ素化合物粉末の製造方法は、無機ヨウ素化合物の水溶液と粉砕ボールとを減圧条件下において容器内で楕円振動させて、前記水溶液を濃縮し、析出した無機ヨウ素化合物を粉砕及び乾燥させる工程を備える。
【0010】
上記無機ヨウ素化合物は、結晶水を含む多形が存在するものであると好ましい。
【0011】
上記無機ヨウ素化合物粉末の色彩色差計によるL系色度座標におけるL値が95以上、a値が1.5以下、及びb値が1.5以下であると好ましい。
【0012】
上記無機ヨウ素化合物が、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化リチウムであると好ましい。
【0013】
上記無機ヨウ素化合物がヨウ化リチウムであり、品温が200〜240℃である範囲で上記楕円振動を行うことが好ましい。
【0014】
上記製造方法によれば、500μm以下の粒子径を有する無機ヨウ素化合物粉末を、70質量%以上の回収率で得ることができる。
【0015】
上記無機ヨウ素化合物粉末が、99.0質量%以上の無機ヨウ素化合物を含み、上記無機ヨウ素化合物粉末の水分量が、0.1質量%以下であると好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分に水分量を低減させた無機ヨウ素化合物粉末を得ることができる、無機ヨウ素化合物粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態において、容器の内容物が楕円振動する様子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態の無機ヨウ素化合物粉末の製造方法は、無機ヨウ素化合物の水溶液と粉砕ボールとを減圧条件下において容器内で楕円振動させて、水溶液を濃縮し、析出した無機ヨウ素化合物を粉砕及び乾燥させる工程を備える。本実施形態の製造方法では、無機ヨウ素化合物の水溶液と粉砕ボールとを楕円振動させるため、粉砕ボールにより、析出した無機ヨウ素化合物を効率的に粉砕させることができるため、水分量が低下した無機ヨウ素化合物粉末を容易に得ることができる。ここで、水分量は、得られた無機ヨウ素化合物粉末の総質量に対して、当該粉末に含まれる水の質量の比(質量%)とする。
【0019】
本実施形態における無機ヨウ素化合物としては、特に制限はないが、金属ヨウ化物塩であることが好ましい。金属ヨウ化物塩に含まれる金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等が挙げられる。
上記無機ヨウ素化合物の中には、結晶水を有する多形が存在するものがある。結晶水を含む多形が存在する無機ヨウ素化合物としては、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化コバルト、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化セリウム、ヨウ化鉄、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化マンガン、及びヨウ化リチウムの11種が挙げられる。本実施形態の無機ヨウ素化合物としては、産業上特に使用頻度の高いアルカリ金属ヨウ化物塩が好ましく、ヨウ化リチウム又はヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0020】
結晶水を有する無機ヨウ素化合物の場合、乾燥によって無水物を得ようとすると、分子内の結晶水によって化合物自体が再溶解する現象が起き、無水物、さらには粉末製品まで製造することは容易ではない。また、水分が低下すると共に強粘性の樹脂状と化した無機ヨウ素化合物が乾燥容器や撹拌羽根に固着することにより、伝熱が悪くなって乾燥が進み難くなる。
また、水溶液から無水粉末を得ようとすると、濃縮による沸点上昇で水分が揮発し難くなるだけでなく、生じた無機ヨウ素化合物固体に含まれる結晶水が加熱により自由水化することで、当該固体が再び溶解してしまう現象が起こる。それにより粘性の高い水溶液になり、さらに水分が減ると全体が大きな樹脂状の塊になり易い傾向がある。従って、分子内に結晶水を持つタイプの化合物を無水物まで到達させるのは容易ではない。
本実施形態の製造方法では、析出した無機ヨウ素化合物を粉砕ボールで粉砕しながら乾燥させるため、上記のような容器等への固着及び樹脂状の塊の形成を防ぐことができる。そのため、本実施形態の製造方法は、結晶水を有する無機ヨウ素化合物を使用した際に特に好ましく適用できる。
【0021】
上記無機ヨウ素化合物としては、市販のものを使用してもよいが、公知の方法により合成したものを使用してもよい。無機ヨウ素化合物の合成方法としては、対応する水酸化物又は炭酸塩等とヨウ化水素酸との中和反応により無機ヨウ素化合物を得る方法が良く知られている。これらの反応は、水溶液中で行われると、好ましい。
【0022】
無機ヨウ素化合物としてアルカリ金属ヨウ化物塩を使用する場合、アルカリ金属ヨウ化物塩の製造方法としては、例えば、ヨウ素とアルカリ金属水酸化物塩の水溶液に有機還元剤であるギ酸を使用して反応させる方法(方法1)と、アルカリ金属炭酸塩とヨウ化水素酸の中和反応により得られる方法(方法2)の二つを採用できる。
【0023】
ヨウ化リチウムを例にとると、方法1のギ酸法の場合、水酸化リチウムの水溶液を撹拌しつつ、ヨウ素とギ酸を加えて反応させる。反応式は次式で表される。
+2LiOH+HCOOH→2LiI+CO+2H
反応器内の温度は、60〜110℃の範囲内であることが好ましく、製造の容易さから、80〜100℃の範囲内であることが特に好ましい。温度が60℃以上であるとヨウ素とギ酸の反応速度が十分大きく、110℃以下であると、ヨウ素の昇華によるロスが少なくなる。
【0024】
また、上記反応において、得られたヨウ化リチウム水溶液のpHを調整することが好ましい。調整後のpHは、好ましくは5〜9、より好ましく6〜8の範囲内に調整される。なお、pH調整剤としては、反応工程における水酸化リチウム又はヨウ化水素酸を用いることができる。
【0025】
反応後のヨウ化リチウム水溶液は、遊離したヨウ素によってわずかに着色しているので、多孔質吸着材で遊離ヨウ素を吸着する方法を採用ことが好ましい。多孔質吸着材としてゼオライト等の既知の材料が使用可能であるが、あらかじめ酸洗浄等の前処理を行い、さらに水で洗浄した活性炭を使うのが好ましい。これによって遊離ヨウ素を吸着し、得られる溶液中の遊離ヨウ素は0.2質量%以下であるほとんど無色の溶液として得ることができる。また、反応溶液に例えば次亜リン酸等のリン系化合物、亜硫酸等の硫黄系化合物、ヒドラジン系化合物の還元剤を安定剤として添加することも可能であるが、不純物が増加するため、添加しないことが好ましい。
【0026】
また、方法2の反応はリチウム源として非特許文献1に記載のある、炭酸リチウムを使用し、ヨウ化水素酸との中和反応を行うものである。原料であるヨウ化水素酸としては、57質量%の溶液が市販品として使用することができる。ヨウ化水素酸は低い濃度でも使用可能であるが、得られるヨウ化リチウムの濃度が低くなり過ぎないように、20〜58質量%の範囲内のものが好ましい。また、炭酸リチウム水溶液の濃度は20〜60w/v%の範囲とすることが好ましく、55〜60w/v%の濃度がより好ましい。また、遊離ヨウ素の発生を抑制するために、窒素ガス又はアルゴンガスのような不活性ガス条件下で行なうことが好ましい。この反応の反応式は以下のとおりである。
LiCO+2HI→2LiI+CO+H
酸とアルカリの中和であるから発熱し、炭酸ガスも発生するので、撹拌しつつ、30〜50℃の温度範囲を保ち注意しながら、ヨウ化水素酸を滴下し反応する。
【0027】
次に30℃に保ちながら反応容器内のpHを確認し、酸やアルカリ溶液でpH調整を行うが、使用する水溶液の濃度は適宜選択すれば良く、アルカリ性であれば、例えば57質量%ヨウ化水素酸を添加し、酸性であれば水酸化リチウムの粉末又は水溶液を添加してpHを6.0〜9.0に調整することが好ましい。これにより、無色のヨウ化リチウム溶液を得ることができる。
【0028】
無機ヨウ素化合物の水溶液としては、無機ヨウ素化合物を水に溶解することにより調製することができる。また、上記の方法1、2等により得られた無機ヨウ素化合物の水溶液をそのまま用いてもよい。ここで、水溶液は反応原料として用いられるギ酸や反応溶媒として用いられる有機溶媒、その他、酸化防止剤としての有機物を含んでいても良い。しかし、有機物の含有量が10質量%以下であることが好ましく、実質的に有機物や有機溶媒を含まないことがより好ましい。
【0029】
本実施形態における粉砕ボールとしては、通常の粉砕用、又は分散用のアルミナボール、アルミナライニングボールも使用可能であるが、製造サイズ、化学成分、ビッカス硬度、摩耗率等を考慮して決定されるのが望ましい。コンタミ防止のため、JIS R1610のビッカス硬度(HV10)が1,000以上の高衝撃粉砕用のアルミナ系ボール又はジルコニア系のボールを用いることが好ましい。このような粉砕ボールを使用することにより、撹拌羽根を使用した場合と比較してコンタミを抑制することができる。粉砕ボールの粒子径によって乾燥粉砕後のヨウ化リチウムの粒子径や残留する付着粉の量、乾燥時間に影響し、目的に応じて選択すれば良く、粒径5〜25mmφの粉砕ボールが使用可能であり、5〜20mmφであるとより好ましく、5〜15mmφであるとさらに好ましい。
【0030】
本実施形態の製造方法において、非特許文献5に記載されるように、楕円振動は、無機ヨウ素化合物の水溶液と粉砕ボールとを収容し、中心軸線がほぼ水平となるように配置された円筒状の容器に上記中心軸線に垂直な方向を含む振動を与えることにより生じさせることができる。上記振動を与える手段としては、例えば、振動モータが挙げられる。振動モータは、容器下部に設置されていてよい。上記振動としては、直線振動、円振動、楕円振動等が挙げられる。このような振動を起こすことができる振動モータとしては、上記振動モータの回転軸に、当該回転軸に対し重心をずらすようにして形成された偏心ウェイトを有するものが挙げられる。このような振動モータでは、上記回転軸が偏心ウェイトと共に回転することによって上記振動を生じさせることができる。図1は、本実施形態において、水溶液を濃縮したことにより、無機ヨウ素化合物の水溶液、析出したヨウ素化合物固体及び粉砕ボールを含む容器の内容物が楕円振動する様子を説明するための模式図である。図1には、円筒状の容器1と、容器1内に収容されており、無機ヨウ素化合物の水溶液、析出したヨウ素化合物固体及び粉砕ボールを含む内容物2が示されている。この容器1が、容器1の円周方向に上向きに動かされると、内容物2は、容器1の内壁に沿って上向きに盛り上がる。そして、内容物2に働く重力及び容器の壁からの抗力により、内容物2の盛り上がった部分が下向きに流動する。これにより、内容物2に、図1の矢印に示される楕円状の振動が発生する。容器に加える振動数は8〜30Hzが好ましく、20〜30Hzがより好ましい。容器に加える振幅(楕円状の振動の場合は長軸方向の変位の大きさ)は0.5〜10mmであることが好ましい。
【0031】
上記楕円振動を生じさせることのできる装置としては、例えば、横型振動乾燥機及び縦型振動乾燥機が挙げられる。横型振動乾燥機及び縦型振動乾燥機における容器の材質としては、標準仕様のSUS材が好ましい。ここで、竪型の振動乾燥機では排出口が下についているので出口付近の伝熱が悪くなり、充分に乾燥されていない粉末が固着してしまい、排出が困難になる傾向がある。また、容器内で無機ヨウ素化合物の水溶液が濃縮されるにつれ、無機ヨウ素化合物の水溶液の水位が下がり、無機ヨウ素化合物の水溶液の水面よりも高い位置にある壁面にヨウ素化合物が固着してしまう。このように付着したヨウ素化合物は回収が難しく、凝集体であることから乾燥も不十分である傾向にある。そのため、回収される無機ヨウ素化合物の量が減少し、水分量も充分には低減し難い傾向にある。一方、横型振動乾燥機では、壁面に無機ヨウ素化合物が固着した場合であっても、粉砕ボールによって固着したヨウ素化合物を削り落とし、粉砕することができるため、回収される無機ヨウ素化合物の量が多く、水分量もより低いものとなるため好ましい。そのため、横型振動乾燥機を使用することが好ましい。
【0032】
上記竪型又は横型の振動乾燥機の材質は、標準仕様であり、SUS材であると好ましい。
横型振動乾燥機としては、排出口の位置から、下方排出と横排出の2つのタイプがある。本実施形態では共に使用が可能であるが、下方排出ではたとえ横型振動乾燥機であっても竪型振動乾燥機と同様に排出口付近に付着し、乾燥された粉末が排出困難になる場合がある。また、排出可能な場合でも残留割合が比較的多くなる傾向がある。そのため、下方排出のものより、横排出タイプがより好ましい。
【0033】
(無機ヨウ素化合物粉末の製造方法)
無機ヨウ素化合物の水溶液を調整し、粉砕ボールと共に上述の楕円振動を起こさせることができる装置に投入する。当該水溶液における無機ヨウ素化合物の濃度としては、特に制限はないが、投入する無機ヨウ素化合物の水溶液の流動性を保つことができ、生産効率から高濃度であることが望ましいので30w/v%以上が好ましく、50w/v%以上がより好ましい。濃度の上限についても特に制限はなく、飽和水溶液であってもよいが、70w/v%以下であることが好ましい。また、粉体ボールの投入量は粉体量により異なるが、粉体量の25〜40%であることが好ましい。
【0034】
無機ヨウ素化合物の水溶液と粉砕ボールとを減圧条件下で楕円振動させて、上記水溶液を濃縮し、析出した無機ヨウ素化合物を粉砕及び乾燥させる。この際に、無機ヨウ素化合物が水分を含む状態では熱や酸素によってヨウ素を遊離するリスクが高まる。本実施形態の製造方法では、減圧条件下で行うため、低温で濃縮及び乾燥を行うことができ、ヨウ素の遊離を抑制することができる。減圧条件としては、無機ヨウ素化合物の水溶液と粉砕ボールとが収容される容器内の圧力が0.5〜14kPaであることが好ましい。物質で異なるが容器の加熱温度としては、一般的に品温の最高温度が110〜260℃である条件に設定することが好ましい。
【0035】
また、無機ヨウ素化合物が加熱により加水分解又は熱分解してヨウ素が遊離するのを防止する目的で、一旦窒素又はアルゴンの不活性ガスで装置内をガス置換してから減圧加熱を行うことが好ましい。
また、振動乾燥機での濃縮、乾燥工程において伝熱の良い粉砕ボールを併用することで熱効率が上がり、それと共に析出した無機ヨウ素化合物の粉砕が行われる。
【0036】
本発明者が鋭意検討したところ、無機ヨウ素化合物がヨウ化リチウムである場合、ヨウ化リチウムの熱重量分析から常圧で無水物を得るには、固体のヨウ化リチウムに対して240℃〜250℃の加熱が必要であることが分かった。
また、投入するヨウ化リチウム水溶液の濃度は30w/v%以上が好ましく、ヨウ化リチウムの三水塩に相当するヨウ化リチウム濃度は約71.3質量%であるからこれを超えない70w/v%以下の濃度が望ましい。
スクリーニングの結果から、品温を低く保つことが重要である。品温は240℃以下であることが好ましく、200〜240℃であることがより好ましく、200〜235℃であることがさらに好ましい。ここで、品温とは、楕円振動させている際の容器の内容物の温度を指す。品温が200℃以上であると、約1.3kPa(≒10torr)の減圧条件下でも充分に水分を減じることができ、目的の低水分の無水粉末を得やすい。逆に品温が240℃以下であると、ヨウ素化合物からヨウ素が遊離するリスクを抑制できる傾向にある。水溶液を投入し、溶液を濃縮することから、発生する水蒸気により当初は真空度が上がらないが、最終の真空度は1.3kPa(≒10torr)に達する。
ヨウ化リチウム水溶液を用いた場合、濃縮及び乾燥を行った際に生成する低水和物と乾燥容器との付着力が極めて高い。本実施形態の製造方法では、伝熱性の高い粉砕ボールを用いて楕円振動をさせているため、回転翼等の摺動部が無いので、最終的に得られた無水ヨウ化リチウムとの直接的摩擦は低減される。そのため、撹拌羽根を使用した場合と比較して摩擦に起因する製品の汚染を低減できる。また、熱効率が改善されるので長時間高温に晒されることが減り、熱分解のリスクが低減される。得られる無水粉末は白色度がL値95以上で赤色度a値が1.5以下で黄色度b値も1.5以下であると好ましい。このような粉末は、目視による色の着色も少ない白色粉末である。
本実施形態の方法で得られる無機ヨウ素化合物の粉末は、無機ヨウ素化合物の含量が99.0質量%以上であり、水分量が0.1質量%以下(実質0.06質量%以下)の無水粉末であると好ましい。また、無機ヨウ素化合物の粉末の粒子径が500μm以下であると好ましい。なお、水分量の下限は特に限定されないが、10ppmとすることができる。粒子径が500μm以下である粒子の回収率は投入量に対してほとんどの場合70質量%以上の割合で工業的に製造することが可能である。
本実施形態に係る無機ヨウ化物の無水粉末の製造方法は、工業的に実施可能な効率的な製造方法であり、取扱いに優れた粉末状の無水ヨウ化ナトリウム又は無水ヨウ化リチウムを提供することができる。
【0037】
無機ヨウ素化合物がヨウ化ナトリウムの場合、本実施形態の製造方法は、最終の1.3kPa(≒10torr)の減圧条件下、品温が110〜160℃の範囲で行うことができ、110〜140℃の範囲であることが好ましい。乾燥時間は7〜18時間が好ましく、これらの濃縮、乾燥により、99.0重量%以上の含量を持つ、水分0.1重量%以下のヨウ化ナトリウムの粉末が500μm以下の粒子として得ることができる。
【0038】
無機ヨウ素化合物の内、遷移金属のヨウ化物は例えば緑色のヨウ化鉄、バラ赤色のヨウ化マグネシウムあるいは黒色のヨウ化ニッケルの結晶が知られ、有色のものが多い。
一方、アルカリ金属のヨウ化物であるヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、アルカリ土類金属のヨウ化物であるヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウムが例示されるが、いずれも白色の無機ヨウ化物である。
【0039】
以下、アルカリ金属ヨウ化物塩及びアルカリ土類金属ヨウ化物塩の白色粉末における外観色品質管理方法について説明する。これらの白色ヨウ化物に何らかの着色が認められた場合は、他の分析をする前に外観だけで品質劣化が疑われる。従って、白色結晶の外観の色管理は重要項目の一つである。
しかし、白色結晶が充分白い、あるいは少し着色があるという感覚的な表現では外観色の品質管理は不充分であり、色彩色差計で色度を測定した数値で管理することが重要である。例えばパルプ又は紙関係の業界ではISO白色度90%以上を高白色と呼び、それと共に色管理によって品質のバラツキを最小化している。
本実施形態の方法では、コニカミノルタ製の色彩色差計CR−5を使ってヨウ化リチウムの無水粉末のLを数点測定し、色評価を行った。白色度にはパルプ又は紙業界ISO白色度の他にハンター白色度という基準がある。ヨウ化リチウムを初めとする白色の無機ヨウ素化合物では次式のハンター白色度(WH)を用いて白色度を判断することができる。
WH=100−[(100−L)^2+(a^2+b^2)]^0.5
ここで用いられる値はL系色度座標でLは明度を表し、L値100が完全な白、L値0で完全な黒である。a値は赤色度であり、マイナス値で緑味を表わし、b値は黄色度であり、マイナス値で青味を表わす。
【0040】
高品質のアルカリ金属ヨウ化物塩は白色をしているが、乾燥工程において過剰に加熱した場合には試料の水分を低下させるだけでなく、熱分解により遊離ヨウ素が発生し、無機ヨウ素化合物の色を黄色又は赤色に着色させてしまうことがある。ヨウ素が遊離してしまうと赤色度を示すa値が高くなると共にL値及びハンター白色度WHが下がる。
黄色度bが上昇する場合もある。乾燥時に品温が高温になるほどヨウ化リチウムの熱分解のリスクが増え、減圧条件でも240℃を超えた試料は肉眼で分かるほど白さが失われ、着色が観察されることがある。
【0041】
得られた無機ヨウ化物の無水粉末はほとんど白色なのでL値が95以上であり、着色の指標であるa値及びb値が低い。そのため、ハンター白色度WHとL値の関係は近似的にWH=Lとなり、計算で求めるハンター白色度WHの代わりにL値を採用することができる。
例えば、L値95.54、a値1.17、b値0.61を示す試料は、ハンター白色度はWH=95.3であり、L値と近似的に一致する。この試料は赤色度a値が少し高めであるが、目標値a値1.5以下であり、黄色度b値も1.5以下で外観は白色であり、着色は許容範囲である。
また、n=7で実測されたL値(明度)とa (赤色度)は二次近似で相関係数R^2=0.98と高い相関を示す。つまり、L値が大きいほど、白色度の評価指標であるハンター白色度が高くなり、a値は低くなる傾向を示した。一方、赤色度a値と黄色度b値との相関、明度L値と黄色度b値との相関は低く、直接的な相関は認められない。高品質のヨウ化物の白色の無水粉末はL値が95以上であることが好ましい。また、赤色度のa値が1.5以下が好ましく、1.0以下であることがより好ましく、黄色度のb値は1.5以下が好ましく、1.0以下であることがより好ましい。
【0042】
無機ヨウ素化合物の含量、金属不純物、結晶中の水分含量及び製品の色度を以下の方法により測定することができる。
〔含量分析〕
無機ヨウ素化合物中のヨウ素含量はヨウ素酸カリ標準液で電位の変化を捉えて自動滴定装置によってヨウ素イオン濃度を定量し、無機ヨウ素化合物の濃度に換算して含量を求めることができる。
なお、この分析法は同一方法ではないが、ヨウ化カリウム(試薬)のJIS K8913に準じた方法である。
金属不純物については高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法)を使った分析により求めることができる。
〔水分測定法〕
ヨウ化リチウムの場合には平沼産業株式会社のカールフィッシャー水分測定装置に気化装置の組み合わせた気化法(280℃)、ヨウ化ナトリウムの場合は直接法によって電量滴定法で測定して求めることができる。
非特許文献5の医薬品水分分析法からも分かるようにヨウ化ナトリウムを過去に実施していた気化法(130℃)で行うと正確に求められない。
水分量は、得られた無機ヨウ素化合物粉末の総質量に対して0.1質量%以下であると好ましい。
【0043】
〔無水粉末の色度測定〕
コニカミノルタ製色彩色差計CR−5を使って、本発明のヨウ化リチウムの無水粉末のLを数点測定し、その平均値を算出することにより得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を示し、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明は詳細の変更は実施例に示した内容に限定されないことはいうまでもない。請求項に示した範囲で変更が可能で開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても技術的範囲に含まれる。
【0045】
[ヨウ化リチウムの反応方法]
[製造例1]ギ酸法
ギ酸法によりヨウ化リチウムを製造した。まず、撹拌装置及び温度計を備える容量2Lの反応容器に56w/v%ヨウ化リチウム水溶液140mlを反応容器内に投入した。撹拌羽根で撹拌しながら、反応容器の固体投入口よりヨウ素600g(2.36モル)を投入した。ヨウ素投入後、反応容器内の水溶液を60℃に加温し、次いで当該水溶液に10w/v%の水酸化リチウム水溶液1130g(4.72モル)をゆっくりと注いだ。続いて滴下ロートから、76質量%のギ酸水溶液143.8g(2.38モル)の半量を添加した。反応容器内の温度を維持し、炭酸ガスの発生が収まったら、温度を徐々に上げながら残りのギ酸を滴下して加えた。反応容器の内温が85℃に達したら、炭酸ガスの発生が収まるのを待って105℃まで加温した。
【0046】
次に反応容器の内温を約105℃に保ちながら反応容器内の溶液のpHを確認し、アルカリ性であればヨウ化水素酸を加え、酸性であれば、水酸化リチウムの粉末又は水溶液を加えて、溶液のpHを6.8〜7.2に調整した。pH調整後、温度を維持しながら、60分撹拌し、熟成させた。次に未反応のヨウ素の吸着を目的に粒状活性炭を投入した。上記溶液を30分間撹拌した後、当該溶液を1ミクロンのフィルターでろ過し、無色透明のヨウ化リチウム水溶液を得た。得られたヨウ化リチウムの溶液の濃度は37.9質量%で溶液の密度は1.375g/mlであった。
【0047】
[製造例2]炭酸LiとHIの反応
反応にはヨウ化水素酸として57質量%の溶液を使用し、炭酸リチウム水溶液として約60質量%の水溶液を使用した。遊離ヨウ素の発生を抑制するため、反応は窒素ガス雰囲気下で行なった。
この反応では、酸とアルカリの中和であるから発熱し、炭酸ガスも発生するので、撹拌しつつ、30〜50℃の温度範囲を保ち注意しながら、ヨウ化水素酸を滴下し反応した。
【0048】
次に30℃に保ちながら反応容器内のpHを確認し、アルカリ性であれば57質量%のヨウ化水素酸を加え、酸性であれば粉末の水酸化リチウムを加えて、pHを6.0〜9.0に調整した。温度を維持しながら、60分間撹拌して熟成を図った。
得られたヨウ化リチウム水溶液はほとんど無色溶液であり、約60w/v%の濃度で仕上がった。この時、水溶液の密度は約1.70g/mlであった。この溶液を次の振動乾燥機の試験に使用した。
【0049】
[実施例1]
中央化工機株式会社製、VH−25型の横型振動乾燥機内に[製造例2]で得られたヨウ化リチウム水溶液と、金属コンタミリスクの低減を考慮してビッカス硬度HV10が1,100kgf/mm=10.8GPa以上、摺り摩耗率0.5ppm/h以下、密度6.1g/cmであるジルコニア系の粉砕ボールとを投入した。これによって水溶液の濃縮が進み、析出したヨウ化リチウム水和物固体を無水物まで乾燥を進めると共に粉砕を同時に行った。使用したVH−25型横型振動乾燥機は胴径が250mm、胴長が500mm、伝熱面積は0.39mで全容量23Lに対し、実容量は容積の60vol%の13.8Lの装置である。
【0050】
振動乾燥機には筒状の容器本体を被覆するようにジャケットが設けられ、加熱された熱媒がジャケット内を通過することにより、容器本体を間接加熱する構造になっている。振動乾燥機の内部には凹凸がないので撹拌羽根等の摺動部がない。容器本体は、本体下部に取付けられた振動発生用の振動モータによって、濃縮により発生したヨウ素析出固体粉末の被乾燥物は円周の上下である縦方向の動きをする。当該振動モータは、重心をずらすようにして形成される偏心ウェイトを有しており、該回転軸が偏心ウェイトと共に回転することによって振動を発生して円周方向への振動を発生させる。
これにより被乾燥物は振動されつつ、加熱途中に発生するヨウ化リチウムの塊は振動乾燥機の運動作用と粉末ボールの作用によって粉砕される。溶液の濃縮により発生した水蒸気は排気口から排気されコンデンサーによって冷却され、ドレンとして回収される構造になっている。
【0051】
ジルコニア系粉砕ボールとしては5mmφのものを選択し、液投入の開始前に5.31kgを計量して投入した。次に原料として上記ヨウ化リチウム溶液(液濃度56.9w/v%)を純分換算で18.06kgを投入した。但し、予定の溶液全量を一度には投入せず、約2/3を投入後、濃縮が進んだ時点で容器内負圧を利用して残り液を追加投入した。
横型振動乾燥機の振幅数は3mm固定になっており、振動数は最大の25Hz(=1,500rpm)に設定した。
振動乾燥機の振動を作動するタイミングは、溶液の濃縮が進んだ後でも有意差が認めなられなかったため、液投入後すぐに振動の作動を開始した。
振動乾燥機の熱媒温度は220℃に設定した。真空度の初期値は12.3kPa(≒99.8torr)で濃縮が進んだ時点で真空度1.31kPa(≒9.8torr)まで達した。乾燥機の内部観察により、液濃縮に伴い、スラリーからシャーベット状に変化し、続いて結晶化(発熱)により固化し、さらに水分が低下することで流動性のある粉体へと変化した。
結晶化による固化形態から粉体への変化過程で融解による吸熱ピークが観察される等、濃縮、乾燥工程で形状が著しく変化した。濃縮、乾燥操作での乾燥機内の品温の最大値は約207℃であり、この運転時間に要した時間は約7.0時間だった。乾燥終了後冷却し、横型振動乾燥機は傾斜しているので、排出バルブを開いて振動を掛けることでヨウ化リチウムの無水粉末を排出した。排出できた無水粉末は大粒子を排除するために篩に掛け500μm以下の粒度を持つ粉末を得た。500μm以下の粒度を持つ無水粉末の回収量及び原料であるヨウ化リチウム水溶液に含まれるヨウ化リチウム量に対する回収量の割合(回収率)を表1に示す。
【0052】
排出された無水ヨウ化リチウムの全量は14.59kgであり、排出率は80.8重量%であり、乾燥機内に残留し排出できなかった割合は19.2重量%であった。篩に掛けて得られた500μm以下の無水ヨウ化リチウムの粉末量は14.41kgで回収率は79.8重量%の割合であり、得られた粒子はほぼ300μm以下の粒子で構成され、粒度分布のトップピークは125μmにあった。得られた粉末は必要に応じ、さらに微粉末のみを製品化することも可能である。自動滴定装置によるヨウ化物イオンの測定値から計算されたこの無水粉末の純度は99.8重量%であり、カールフィッシャー法の気化法(280℃)で求めた水分含量は0.052重量%だった。粉砕ボールや乾燥容器SUS材由来の不純物Zr、Fe、Ni、Alは不検出であり、その他は原料由来のものだけでNa161ppm、Ca17ppmだった。なお、リチウム含量についてもICP発光分光分析法にて測定し、ヨウ素基準で求めた値と同等であることを確認している。
得られた粉末を色彩色差計CR−5にて色度評価を行ったところ、L97.07、a0.51、b0.41であった。白色度の評価指標であるハンター白色度WHは97.6であり、粉末の色の基準はL値が95以上、a値が1.5以下であり、且つb値が1.5以下であるから、充分に目標を満たす白色粉末が得られた。
【0053】
[実施例2及び3]
中央化工機株式会社製、VH−25型の傾斜型の横型振動乾燥機内に[製造例2]で得られたヨウ化リチウム水溶液を用いて実施例3のジルコニア系の粉砕ボール5mmφに替えて10mmφ又は25mmφを使用した。共に試験結果を表1に示す。
【0054】
25mmφの粉砕ボールを用いた[実施例3]では、得られた無水ヨウ化リチウムの純度は99.8重量%であり、カールフィッシャー法の気化法(280℃)で求めた水分含量は0.052重量%だった。装置及び粉末ボール由来の不純物は、含まれていなかった。
色彩色差計CR−5での色度評価はL96.95、a0.54、b0.41であった。L値は95以上、a値、b値は共に1.5以下であり、白色度の評価指標であるハンター白色度は96.9となり、目視でも着色が認められず、色度目標値を満足する白色粉末を得た。得られた無水粉末の排出率は75.4重量%であり、500μm以下の粒子の回収率は69.2重量%だった。
これらの結果から、振動乾燥機に投入する粉砕ボールとして大きな粒径のものよりも小さな粒径のものを使用する方が、排出率や500μm以下の粒子の回収率も増加する傾向があることが分かった。
【0055】
[実施例4]
VH−25型の傾斜型の横型振動乾燥機内にヨウ化リチウム溶液を純分として19.79kgを投入した。粉砕ボールとしては、5mmφのものを用いた。品温は243.5℃であった。排出量は17.48kgで排出率は88.33重量%であった。
500μm以下の無水粉末は15.32kgで回収率77.4重量%であった。水分は0.05重量%まで低減できた。
色彩色差計CR−5での色度評価はL90.89、a5.15、b1.44であり、白色度の評価指標であるハンター白色度HWは89.4であった。
乾燥温度を高く設定したことで品温が240℃を超えたため、ヨウ化リチウムの熱分解から発生した遊離ヨウ素が原因で、実施例1〜3と比較して赤色度のa値及び黄色度bを引き上げられたと推測される。しかし、色度評価の結果が実施例1〜3に劣るものの、水分量を充分に低減させることができた。
【0056】
[実施例5]
[実施例1]と同様にVH−25型の傾斜型の横型振動乾燥機内にヨウ化リチウム水溶液を純分換算で13.62kgを投入した。粉砕ボールは5mmφを用いた。品温を181℃までに制限したところ、真空度も3.31kPaまでしか上がらなかった。乾燥時間は約11時間に及んだ。得られたヨウ化リチウム粉末の水分量は0.12質量%であった。
【0057】
[比較例1]
[製造例2]で得られた55質量%のヨウ化リチウム水溶液を振動乾燥機に投入した。但し、粉砕ボールを使用しない以外は実施例1と同様に行った。乾燥し難く、時間は9.28時間を要した。出口を解放し、粉末は得られたが、伝熱面への付着が多く、粉末は赤味が掛かり、L=91.5と白色度が低くa=3.10、b=2.61とL値が目標値の95を大きく下回り、赤色度a値、黄色度b値も1.5を上回り、L測定値はいずれも目標値を満たさず、水分量も0.33%と基準を満たさなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
無水ヨウ化ナトリウムの場合には、ヨウ化リチウムの無水粉末の製造方法と同様に、横型振動乾燥機を使って粉砕ボールを併用し、ギ酸法で作製したヨウ化ナトリウム水溶液を1.3kPa(≒10torr)の真空度で品温110〜160℃の条件下で濃縮、乾燥する操作によって製造が可能である。一例を示すと、ギ酸法で作成した54質量%のヨウ化ナトリウム水溶液を用いて試験を実施した。到達減圧度が1.3kPaの条件下で品温を140℃で12時間乾燥を実施した結果、得られたヨウ化ナトリウム粉末の分析例を示すと含量は99.6質量%であり、カールフィッシャー法の直接法で測定した水分量は0.07質量%だった。
また、ヨウ化リチウムと同様に白色の無機粉末であるから、外観色管理法にはL系色度座標のLとa及びbの値で管理する方法が採用される。なお、得られたヨウ化ナトリウムの色度測定値の一例を上げるとL=98.9、a=−0.08、b=0.85でハンター白色度WHは98.6であった。外観品質管理値のL=95以上、a及びb=1.5以下の目標値を満足し、外観が充分に白い良質な品物が得られた。
【符号の説明】
【0060】
1…容器、2…内容物。
図1