特許第6836341号(P6836341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6836341-シリンダ制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836341
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】シリンダ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 9/08 20060101AFI20210215BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   F15B9/08 E
   G01M7/02 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-122670(P2016-122670)
(22)【出願日】2016年6月21日
(65)【公開番号】特開2017-227247(P2017-227247A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】304039065
【氏名又は名称】カヤバ システム マシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠太
【審査官】 岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−090761(JP,A)
【文献】 特開平01−295005(JP,A)
【文献】 特開2008−233075(JP,A)
【文献】 特開平11−295183(JP,A)
【文献】 特開昭49−115568(JP,A)
【文献】 国際公開第97/011344(WO,A1)
【文献】 特開昭53−116859(JP,A)
【文献】 特開昭53−052887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 9/08
G01M 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボ弁を有する直動型の流体圧シリンダにおける伸側室と圧側室との差圧を検知する差圧検知部と、
前記流体圧シリンダのストローク加速度を検知する加速度検知部と、
前記差圧と前記ストローク加速度とに基づいて前記サーボ弁を制御する制御部とを備え
前記制御部は、前記差圧をΔP、前記流体圧シリンダの目標変位とストローク変位との偏差から求める入力をU、差圧フィードバックゲインをKdp、外乱フィードバックゲインをK、前記流体圧シリンダのストローク加速度をα、前記流体圧シリンダのピストンの受圧面積をA、前記流体圧シリンダの可動部と前記流体圧シリンダの加振対象の試験体の全質量をM、前記サーボ弁へ与える制御指令をIとすると、I=U−Kdp・ΔP−K・(α−A・ΔP/M)を演算して前記制御指令を求める
ことを特徴とするシリンダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械、機械部品や構造物といった試験体の疲労耐久性をテストするには振動試験機が用いられており、多くの振動試験機には、試験体を加振する直動型の油圧シリンダが用いられる。
【0003】
このような振動試験機では、試験体に対して直動型の油圧シリンダで正弦波振動を与える等して振動試験が行われる。油圧シリンダは、内部にピストンで区画される伸側室と圧側室とを有するシリンダと、ピストンに連結されてシリンダ内に挿入されてシリンダに対して軸方向に移動可能なロッドと、伸側室と圧側室を油圧源とタンクとに連通可能なサーボ弁とを備えている。そして、油圧シリンダを制御するシリンダ制御装置は、サーボ弁によって伸側室と圧側室の差圧を制御して油圧シリンダのストロークと推力を制御する(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
油圧シリンダは、シリンダ内に充填される作動油を作動媒体として利用しているので、シリンダとシリンダに出入りするロッドとの間には必ずオイルシールが設けられていて、シリンダ内からの作動油の漏洩を防止している。そのため、油圧シリンダがストロークする際に、オイルシールとロッドとの間に生じる摩擦力等に起因してビビり振動がストローク波形に重畳される場合がある。
【0005】
このような波形乱れを防止するために、従来のシリンダ制御装置では、油圧シリンダのストローク変位だけでなく、ストローク加速度をも検知し、目標ストローク変位と実際のストローク変位との偏差および目標ストローク加速度と実際のストローク加速度の偏差を求めて制御指令を生成する(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
よって、従来のシリンダ制御装置では、油圧シリンダのストローク波形に乱れが生じさせずに、試験体に振動を与えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−101708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来のシリンダ制御装置では、油圧シリンダのストローク変位に加えてストローク加速度もフィードバックして制御しているので、前述のように油圧シリンダのストローク中のビビりを解消できる。具体的には、従来のシリンダ制御装置では、ストローク変位に基づく制御指令に対してストローク加速度に基づく制御指令をビビりを打ち消すように加算している。
【0009】
このように、従来のシリンダ制御装置では、ストローク加速度に基づく制御指令がストローク変位に基づく制御指令を減じるようにフィードバックがかかっているため、制御応答性が悪くなってしまう問題があった。
【0010】
そこで、本発明は上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、制御応答性の悪化を招かず流体圧シリンダのビビりを防止できるシリンダ制御装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明のシリンダ制御装置は、サーボ弁を有する流体圧シリンダにおける伸側室と圧側室との差圧を検知する差圧検知部と、流体圧シリンダのストローク加速度を検知する加速度検知部と、差圧とストローク加速度に基づいてサーボ弁を制御する制御部とを備えて構成される。このように構成されたシリンダ装置によれば、差圧とストローク加速度とに基づいてサーボ弁を制御するので、高ゲインを設定可能な差圧を利用した制御とビビりを抑制するストローク加速度を利用した制御を併用できる。
【0015】
また、本発明のシリンダ制御装置は、差圧をΔP、流体圧シリンダの目標変位とストローク変位との偏差から求める入力をU、差圧フィードバックゲインをKdp、外乱フィードバックゲインをK、流体圧シリンダのストローク加速度をα、流体圧シリンダのピストンの受圧面積をA、流体圧シリンダの可動部と流体圧シリンダの加振対象の試験体の全質量をM、サーボ弁へ与える制御指令をIとすると、I=U−Kdp・ΔP−K・(α−A・ΔP/M)を演算して前記制御指令を求める。このように構成されたシリンダ制御装置では、外乱を考慮して、この外乱を打ち消す制御指令を得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシリンダ制御装置によれば、制御応答性の悪化を招かず流体圧シリンダのビビりを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施の形態におけるシリンダ制御装置のシステム構成図である。
図2】一実施の形態におけるシリンダ制御装置における制御部の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1および図2に示すように、一実施の形態におけるシリンダ制御装置1は、本例では、流体圧シリンダAにおける伸側室R1と圧側室R2との差圧ΔPを検知する差圧検知部2と、流体圧シリンダAのストローク加速度αを検知する加速度検知部3と、流体圧シリンダAのストローク変位xを検知する変位検知部4と、ストローク変位x、差圧ΔPおよびストローク加速度αに基づいてサーボ弁16を制御する制御部5とを備えて構成されている。
【0019】
他方、シリンダ制御装置1によって制御される流体圧シリンダAは、図1に示すように、シリンダ11と、シリンダ11内に移動自在に挿入されるとともにシリンダ11内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン12と、シリンダ11内に移動自在に挿入されるとともにピストン12に連結されるピストンロッド13と、ポンプ14と、タンク15と、伸側室R1と圧側室R2をポンプ14とタンク15に連通して伸側室R1と圧側室R2の差圧を制御するサーボ弁16とを備えて直動型のシリンダ装置として構成されている。伸側室R1と圧側室R2およびタンク15には、本例では、作動流体として作動油が充填されている。流体圧シリンダAは、本例では、振動試験機に適用されており、ピストンロッド13に連結される図示しない試験体を加振するようになっているが、流体圧シリンダAは、振動試験機以外に利用されてもよい。
【0020】
サーボ弁16は、伸側室R1をポンプ14へ連通するとともに圧側室R2をタンク15へ連通する伸側供給ポジションと、伸側室R1をタンク15へ連通するとともに圧側室R2をポンプ14へ連通する圧側供給ポジションと、伸側室R1と圧側室R2をポンプ14とタンク15の双方へ連通する中立ポジションとを備えソレノイドで切換駆動する電磁弁とされている。そして、サーボ弁16は、シリンダ制御装置1から供給される電流量に応じて前述の各ポジションに切換わる。
【0021】
ポンプ14は、本例では、制御部5によって、一定回転数で駆動されており、サーボ弁16による伸側室R1と圧側室R2のポンプ14とタンク15への連通状態がシリンダ制御装置1によって制御され、伸側室R1と圧側室R2の差圧が制御される。このようにシリンダ制御装置1は、サーボ弁16に供給する電流量を調節して伸側室R1と圧側室R2の差圧を制御し、流体圧シリンダAが発揮する推力の大きさと向きを制御する。
【0022】
図1に戻って、差圧検知部2は、伸側室R1と圧側室R2の圧力をそれぞれ検知する圧力センサ2a,2bと、加算器2cとを備えており、加算器2cが圧力センサ2a,2bが検知した伸側室R1と圧側室R2の圧力の差である差圧ΔPを求めて、制御部5に入力する。なお、本例では、加算器2cを制御部5とは別に設けているが、制御部5に統合されてもよい。
【0023】
加速度検知部3は、本例では、ピストンロッド13に作用する軸方向の加速度を検知する加速度センサとされており、加速度センサで検知した流体圧シリンダAのストローク加速度αを制御部5に入力する。加速度検知部3は、ピストンロッド13に作用する軸方向の加速度を検知する加速度センサの他、たとえば、ピストンロッド13に作用する軸方向の荷重を検知する荷重センサとして、流体圧シリンダAのピストンロッド13およびピストン12を含む可動部と加振対象の試験体の全質量で除して加速度を検知するようにしてもよい。
【0024】
本例では、シリンダ制御装置1は、振動試験機に適用されて、図外の試験体に予め決められた振幅で加振するために、流体圧シリンダAのストローク変位xをフィードバックして流体圧シリンダAの伸縮を制御する。そのため、本例のシリンダ制御装置1は、流体圧シリンダAのストローク変位xを検知する変位検知部4を備えている。変位検知部4は、ストロークセンサとされており、流体圧シリンダAに内蔵されている。なお、変位検知部4には、磁歪式等、種々のストロークセンサを利用できる。変位検知部4は、検知した流体圧シリンダAのストローク変位xを制御部5へ入力する。
【0025】
制御部5は、図示しない上位の制御装置から入力される目標変位x、ストローク変位x、差圧ΔPおよびストローク加速度αに基づいて、サーボ弁16へ与えるべき電流量を指示する制御指令を生成し、サーボ弁16へ電流を供給する。
【0026】
具体的には、制御部5は、図2に示すように、目標変位xとストローク変位xとの偏差eを求める加算部51と、加算部51が求めた偏差eをPID補償して入力Uを求める補償部52と、差圧補償値Hを求めるゲイン乗算部53と、加速度補償値Hαを求めるゲイン乗算部54と、目標差圧Pと加速度補償値Hαと差圧補償値Hとを加算してサーボ弁16へ与える電流量を指示する制御指令Iを求める加算部55と、制御指令I通りにサーボ弁16へ電流を供給するドライバ56とを備えて構成されている。なお、制御部5は、ポンプ14を一定回転数で駆動するために、別途図示しないポンプ14を駆動する駆動部を備えている。
【0027】
加算部51は、目標変位xとストローク変位xとの偏差eを求めて補償部52へ入力する。補償部52は、本例では偏差eを比例積分微分補償する、つまり、PID補償するPID補償器とされているが、PI補償器とされてもよい。
【0028】
ゲイン乗算部53は、差圧検知部2から入力される差圧ΔPにフィードバックゲインKを乗じて差圧補償値Hを求める。ゲイン乗算部54は、加速度検知部3から入力されるストローク加速度αに対して外乱フィードバックゲインKを乗じて加速度補償値Hαを得る。フィードバックゲインKは、具体的には、流体圧シリンダAのピストンロッド13およびピストン12を含む可動部と加振対象の試験体の全質量をMとし、ピストン12の受圧面積をAとすると、K=Kdp−A・K/Mに設定される。Kdpは、差圧ΔPに乗じる差圧フィードバックゲインである。このようにゲイン乗算部53によってフィードバックゲインKが乗じられて求められた差圧補償値Hと、ゲイン乗算部54によって外乱フィードバックゲインKが乗じられて求められた加速度補償値Hαは、加算部55に入力Uとともに入力されて制御指令Iが求められる。具体的には、加算部55は、制御指令IをI=U−K・ΔP−K・αの演算式(1)を演算して求める。
【0029】
ここで、フィードバックゲインKは、K=Kdp−A・K/Mに設定されるので、これを前記の演算式(1)に代入すると、I=U−(Kdp−A・K/M)・ΔP−K・αとなり、さらに、整理すると、I=U−Kdp・ΔP−K・(α−A・ΔP/M)(演算式(2))となる。
【0030】
この演算式(2)の右辺第二項は、差圧ΔPに差圧フィードバックゲインKdpを乗じた値であり、差圧ΔPをフィードバックする目的を持った値である。演算式(2)の右辺第三項は、実際のストローク加速度αから実際の差圧ΔPから求めたストローク加速度相当の値A・ΔP/Mを差し引きして外乱フィードバックゲインKを乗じた値である。値A・ΔP/Mは、サーボ弁16によって制御される差圧ΔPに起因して流体圧シリンダAが発生するストローク加速度相当の値である。仮に、流体圧シリンダAに外乱が全く入力されない場合、流体圧シリンダAのストローク加速度は、サーボ弁16が指示する差圧ΔPにA/Mを乗じた値、つまり、A・ΔP/Mに一致する筈である。対して、ストローク加速度αは、加速度検知部3が検知した流体圧シリンダAの実際のストローク加速度である。よって、加速度検知部3が検知する実際のストローク加速度αから値A・ΔP/Mを差し引きした値は、流体圧シリンダAの入力される外乱そのものである。外乱は、たとえば、ピストンロッド13の周囲をシールする図示しないシール部材の摩擦力や外部から作用する振動等が該当し、流体圧シリンダAのストロークに影響を与えるものである。
【0031】
制御部5が前述のようにして制御指令Iを求めると、外乱を考慮して、この外乱を打ち消す制御指令Iが得られる。また、差圧ΔPに対して乗じる差圧フィードバックを用いると、システム全体のゲインの上限が上がる。
【0032】
そして、求められた制御指令Iは、ドライバ56に入力されて、ドライバ56は、制御指令I通りにサーボ弁16に電流を供給する。ドライバ56は、たとえば、スイッチング素子を備えて、スイッチング素子のオンオフによって電源からサーボ弁16のソレノイドに供給する電流量を調節可能な回路とされる。
【0033】
以上のように構成されたシリンダ制御装置1は、サーボ弁16を有する流体圧シリンダAにおける伸側室R1と圧側室R2との差圧ΔPを検知する差圧検知部2と、流体圧シリンダAのストローク加速度αを検知する加速度検知部3と、差圧ΔPとストローク加速度αに基づいてサーボ弁16を制御する制御部5とを備えて構成される。このように構成されたシリンダ制御装置1によれば、差圧ΔPとストローク加速度αとに基づいてサーボ弁16を制御するので、高ゲインを設定可能な差圧ΔPを利用した制御とビビりを抑制するストローク加速度αを利用した制御を併用できるので、制御応答性の悪化を招かず、かつ、流体圧シリンダAのビビりを防止できる。
【0034】
また、本例のシリンダ制御装置1は、さらに、差圧ΔPとストローク加速度αをフィードバックして制御指令Iを求めるので、目標値である目標変位xに対して追従性よく流体圧シリンダAを制御できる。なお、本例では、目標値を目標変位xとして制御部5に入力し流体圧シリンダAを変位制御するようになっているが、目標値をストローク速度とする速度制御や目標値を荷重とする荷重制御を行ってもよい。なお、本例では、制御部5に図示しない上位の制御装置から目標変位x、目標速度或いは目標荷重が入力される態様を例にシリンダ制御装置1を説明したが、目標変位x、目標速度或いは目標荷重を制御部5が自身で生成或いは記憶していてもよい。
【0035】
さらに、本例のシリンダ制御装置1は、差圧ΔPとストローク加速度αに基づいて外乱の打ち消すように制御指令Iを求めるので、流体圧シリンダAのシール部材の摩擦力や外部から作用する振動等に影響されずに、流体圧シリンダAのストロークに重畳される振動成分を打ち消して狙い通りに制御できる。
【0036】
そして、本例のシリンダ制御装置1は、差圧ΔPとストローク加速度αに基づいて外乱の打ち消すとともに、高ゲインに設定可能な差圧フィードバックを利用
して制御指令Iを求めるので、流体圧シリンダAのストロークに重畳される振動成分の打ち消しと良好な制御応答性を実現できる。
【0037】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【符号の説明】
【0038】
1・・・シリンダ制御装置、2・・・差圧検知部、3・・・加速度検知部、5・・・制御部、16・・・サーボ弁、A・・・流体圧シリンダ、R1・・・伸側室、R2・・・圧側室
図1
図2